ゲスト
(ka0000)
おいでませ★ヴルツァライヒ見学ツアー
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/01 19:00
- 完成日
- 2018/11/07 19:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「困ったなあ」
帝都バルトアンデルスにちなんで名付けられたバルトアンデルス通信は、その名の通り帝都近郊で活動する新聞社である。
機導機械の発展著しい帝国では印刷機械もある程度進歩しており、白黒印刷であれば中小の企業でも手が届くビジネスモデルである。
しかし、帝国の新聞はリアルブルーのそれとは異なり、パパラッチとしての側面が強い。
皇帝による独裁国家である以上、真面目に政治論など書いても皆興味がないし、それよりも各地の事件などを派手にトバした方が部数は伸びるのだが……。
「ヴルツァライヒの頭領が取材に来て下さいって手紙送ってくるなんてすげえよな」
いちおう、かれらははんざいしゃしゅうだんである。
そりゃあ、先代皇帝ヒルデブラント・ウランゲルがヴルツァライヒを率いているという話題は国中に広まっているし、注目度も高い。取材すれば間違いなく売り上げを伸ばせるだろうから、取材したいっちゃしたい。
「でもあぶねぇよなあ。あいつらフツーに人とか殺しまくるじゃん」
「ヴルツァライヒが起こした事件エグすぎて紙面に乗せるとクレームくるレベルだったからな」
記者たちは頭を悩ませた。特ダネは絶対ほしい。でも、ガチで命がけの取材すぎて行きたくない。
「でも編集長。これ俺たちが行かなかったらヨソが行きますよね?」
「そうだろうなあ……。ええい、もうこうなったら予算に糸目はつけん! ハンター雇え、ハンター!!」
ハンターはお高いのでできれば使いたくないが、ヴルツァライヒの懐に飛び込んで無事に帰ってこれるのは彼らしかいない。
「ていうかこれ、お国に怒られませんかねぇ?」
「ヴィルヘルミナ様はけっこう何言っても怒らないから大丈夫だ」
前に皇帝を批判する記事を書いたこともあるが、全くお咎めナシだったし。
「逆にあの人何したら怒るんだろうな」
「とはいえ一応お国に貢献してるってツラはしたほうがいいから、報告書は後でお上に投げとこうぜ」
「――紫電の刀鬼殿!」
野原に立った木の下で、紫電の刀鬼はのんびり寝転がっていた。そこへ突如、凛とした声が響く。
「ゲゲェーッ!? アイちゃん!? なんでこんなところにいるデース!?」
アイちゃんこと、十三魔アイゼンハンダーは怒っていた。仁王立ちし、やや迫力に欠ける愛らしい顔をそれなりにしかめている。
「それを訊きたいのはこちらの方です。オルクス兵長に続き、ナイトハルト兵長まで倒れた今、傭兵であっても戦力を遊ばせておく余裕などありません…………というか刀鬼殿、頭はどうしたのですか?」
怒っていた顔がだんだん不思議そうな様子に変わっていく。そう、紫電の刀鬼には頭がなかったのだ。
彼はデュラハンなので、正しくは頭に該当する部分にセットされていたヘルメットがないのだが。
「ハンターに盗られちゃったのデース。ミーのお気に入りだったデスのに……Shocking……」
起き上がり、肩を竦める刀鬼。そのままポンポンと自分の隣の地面を叩き、アイゼンハンダーに座るように促す。
「ミー的にはアイちゃんの方こそ何やってるデース? ユーの言う通りボスたちももういないデスけど」
「まだ我が軍が革命軍に屈したわけではありません。ハヴァマール司令ある限り、我らは不滅です。……そう、不滅と言えば。私は革命軍の新兵器、クリピクロウズについて……」
「おん? 革命軍がどうしたって?」
二人が同時に声の方に視線を向けると、そこにはバスケットにパンやら果物やらを詰め込んだヒルデブラント・ウランゲルの姿があった。
「よう刀鬼。新しいヘルメットだが、もうちょいで完成するから待っててくれよな」
「センキューデース! もう普通の兜だと満足できない身体になってしまったのデース……」
「人間!? 刀鬼殿、何故人間と……人間……いや、そうではなく、これは……? この男は……!?」
アイゼンハンダーが鋼鉄の拳を握りしめる。
アイゼンハンダー……いや、ツィカーデという少女は、革命戦争の時代に命を落とした元軍人が歪虚に転じたものだ。
暴食の系統の中ではゾンビに属し、比較的生前の自我を保ってはいるが、ゾンビ型の例にもれず記憶や自我の混乱が見られる。
その最たるものが、彼女は未だ自分たちが「革命戦争を続けている」と認識していることだ。
故に――彼女にとって目の前の男は最大級の「敵」であるはずだが――。
「……だれ……だ……?」
同時に彼女はアイゼンハンダー。つまり、剣機博士らに改造を施された強化ゾンビである。
人間を「革命軍」と誤認し、暴食の眷属を仲間の帝国軍として扱う彼女の中で、この状況は明確な矛盾を生んでいた。
「俺は革命軍を率いる男。人呼んで革命王ヒルデブラントだ!!」
余計に意味不明である。
アイゼンハンダーにとって、「今の帝国」が革命軍で……。
となると目の前にいる自称革命軍は、「正規軍」……いや、しかし、でも自分で革命軍と言っているし、革命王ヒルデブラントとも言ってるし。だから、つまり……ドウイウコト?
「あ……あぁぁ……あ、あ……ああああああああッ!?」
『ツィカーデ!?』
鋼鉄の腕に憑依した亡霊が思わず声をかける。少女のゾンビは頭を抱え、目をぐるぐるさせながらふらつくと、そのまま体中から蒸気を吹き出し、バッタリと倒れ込んでしまった。
「きゅう~……」
「おん!? お嬢ちゃん大丈夫か!?」
『ええい! 貴様のようなややこしい者が急に出てくるからだ! 貴様そのものが矛盾の塊なのに、元々矛盾しているツィカーデと遭遇すればこうもなる!』
「え? 俺のせい? 弱ったなあ。まさか――村に連れていくわけにもいかねぇしな」
男は振り返る。そこには少し離れた場所に、小さな集落があった。
精霊も、亜人も、元貴族も、そして村人たちも協力して革命軍のキャンプを拡大しようと働いている。
「まあ、少し休んでいくといい。歓迎するぜ、俺たちヴルツァライヒはよ」
ヴルツァライヒのキャンプに、帝都を出た馬車が近づいている。
その中には招待状を受け取ったバルトアンデルス通信の記者と、その護衛として雇われたハンターが乗り込んでいた。
帝都バルトアンデルスにちなんで名付けられたバルトアンデルス通信は、その名の通り帝都近郊で活動する新聞社である。
機導機械の発展著しい帝国では印刷機械もある程度進歩しており、白黒印刷であれば中小の企業でも手が届くビジネスモデルである。
しかし、帝国の新聞はリアルブルーのそれとは異なり、パパラッチとしての側面が強い。
皇帝による独裁国家である以上、真面目に政治論など書いても皆興味がないし、それよりも各地の事件などを派手にトバした方が部数は伸びるのだが……。
「ヴルツァライヒの頭領が取材に来て下さいって手紙送ってくるなんてすげえよな」
いちおう、かれらははんざいしゃしゅうだんである。
そりゃあ、先代皇帝ヒルデブラント・ウランゲルがヴルツァライヒを率いているという話題は国中に広まっているし、注目度も高い。取材すれば間違いなく売り上げを伸ばせるだろうから、取材したいっちゃしたい。
「でもあぶねぇよなあ。あいつらフツーに人とか殺しまくるじゃん」
「ヴルツァライヒが起こした事件エグすぎて紙面に乗せるとクレームくるレベルだったからな」
記者たちは頭を悩ませた。特ダネは絶対ほしい。でも、ガチで命がけの取材すぎて行きたくない。
「でも編集長。これ俺たちが行かなかったらヨソが行きますよね?」
「そうだろうなあ……。ええい、もうこうなったら予算に糸目はつけん! ハンター雇え、ハンター!!」
ハンターはお高いのでできれば使いたくないが、ヴルツァライヒの懐に飛び込んで無事に帰ってこれるのは彼らしかいない。
「ていうかこれ、お国に怒られませんかねぇ?」
「ヴィルヘルミナ様はけっこう何言っても怒らないから大丈夫だ」
前に皇帝を批判する記事を書いたこともあるが、全くお咎めナシだったし。
「逆にあの人何したら怒るんだろうな」
「とはいえ一応お国に貢献してるってツラはしたほうがいいから、報告書は後でお上に投げとこうぜ」
「――紫電の刀鬼殿!」
野原に立った木の下で、紫電の刀鬼はのんびり寝転がっていた。そこへ突如、凛とした声が響く。
「ゲゲェーッ!? アイちゃん!? なんでこんなところにいるデース!?」
アイちゃんこと、十三魔アイゼンハンダーは怒っていた。仁王立ちし、やや迫力に欠ける愛らしい顔をそれなりにしかめている。
「それを訊きたいのはこちらの方です。オルクス兵長に続き、ナイトハルト兵長まで倒れた今、傭兵であっても戦力を遊ばせておく余裕などありません…………というか刀鬼殿、頭はどうしたのですか?」
怒っていた顔がだんだん不思議そうな様子に変わっていく。そう、紫電の刀鬼には頭がなかったのだ。
彼はデュラハンなので、正しくは頭に該当する部分にセットされていたヘルメットがないのだが。
「ハンターに盗られちゃったのデース。ミーのお気に入りだったデスのに……Shocking……」
起き上がり、肩を竦める刀鬼。そのままポンポンと自分の隣の地面を叩き、アイゼンハンダーに座るように促す。
「ミー的にはアイちゃんの方こそ何やってるデース? ユーの言う通りボスたちももういないデスけど」
「まだ我が軍が革命軍に屈したわけではありません。ハヴァマール司令ある限り、我らは不滅です。……そう、不滅と言えば。私は革命軍の新兵器、クリピクロウズについて……」
「おん? 革命軍がどうしたって?」
二人が同時に声の方に視線を向けると、そこにはバスケットにパンやら果物やらを詰め込んだヒルデブラント・ウランゲルの姿があった。
「よう刀鬼。新しいヘルメットだが、もうちょいで完成するから待っててくれよな」
「センキューデース! もう普通の兜だと満足できない身体になってしまったのデース……」
「人間!? 刀鬼殿、何故人間と……人間……いや、そうではなく、これは……? この男は……!?」
アイゼンハンダーが鋼鉄の拳を握りしめる。
アイゼンハンダー……いや、ツィカーデという少女は、革命戦争の時代に命を落とした元軍人が歪虚に転じたものだ。
暴食の系統の中ではゾンビに属し、比較的生前の自我を保ってはいるが、ゾンビ型の例にもれず記憶や自我の混乱が見られる。
その最たるものが、彼女は未だ自分たちが「革命戦争を続けている」と認識していることだ。
故に――彼女にとって目の前の男は最大級の「敵」であるはずだが――。
「……だれ……だ……?」
同時に彼女はアイゼンハンダー。つまり、剣機博士らに改造を施された強化ゾンビである。
人間を「革命軍」と誤認し、暴食の眷属を仲間の帝国軍として扱う彼女の中で、この状況は明確な矛盾を生んでいた。
「俺は革命軍を率いる男。人呼んで革命王ヒルデブラントだ!!」
余計に意味不明である。
アイゼンハンダーにとって、「今の帝国」が革命軍で……。
となると目の前にいる自称革命軍は、「正規軍」……いや、しかし、でも自分で革命軍と言っているし、革命王ヒルデブラントとも言ってるし。だから、つまり……ドウイウコト?
「あ……あぁぁ……あ、あ……ああああああああッ!?」
『ツィカーデ!?』
鋼鉄の腕に憑依した亡霊が思わず声をかける。少女のゾンビは頭を抱え、目をぐるぐるさせながらふらつくと、そのまま体中から蒸気を吹き出し、バッタリと倒れ込んでしまった。
「きゅう~……」
「おん!? お嬢ちゃん大丈夫か!?」
『ええい! 貴様のようなややこしい者が急に出てくるからだ! 貴様そのものが矛盾の塊なのに、元々矛盾しているツィカーデと遭遇すればこうもなる!』
「え? 俺のせい? 弱ったなあ。まさか――村に連れていくわけにもいかねぇしな」
男は振り返る。そこには少し離れた場所に、小さな集落があった。
精霊も、亜人も、元貴族も、そして村人たちも協力して革命軍のキャンプを拡大しようと働いている。
「まあ、少し休んでいくといい。歓迎するぜ、俺たちヴルツァライヒはよ」
ヴルツァライヒのキャンプに、帝都を出た馬車が近づいている。
その中には招待状を受け取ったバルトアンデルス通信の記者と、その護衛として雇われたハンターが乗り込んでいた。
リプレイ本文
「辺境の田舎者なので不調法があった際はご寛容いただければと」
ヴルツァライヒが借り受けている宿の一室で取材が始まると、セシア・クローバー(ka7248)がそう口火を切った。
「田舎者はオレも同じ。まあ、楽にしてくれや」
ハンターを伴って訪れた記者にもヒルデブラントは寛容だった。
「キャンプの方々が語る通り、ヒルデブラント殿は器が大きいようだな」
セシアはここに至るまで、キャンプとなっている村で聞き込みを行っていた。
そもそもごちゃついた内情だけに警戒心は薄かったが、セシアの丁寧な対応も一役買い、滞りなく話を聞き出せた。
「治安は良好。村人はヴルツァライヒを長期滞在する客人としてもてなしている。対価は十分に支払われており、間接的な協力関係にあった」
「まあな。村人はありゃ脅されてんだ」
「それならばそう言い含んでおくべきでは? 彼らはそうは思っていないようだ」
セシアが僅かに微笑むと、ヒルデブラントも低く笑う。
(先皇帝は何を話したく打診したのか……)
今のところ、能動的に何かを話してくる様子はない。
マリナ アルフェウス(ka6934)は男の横顔を眺めながら小首を傾げる。
(敵である側から取材依頼……訴えを広めろ、と言うことか?)
いや。そもそもこの男、自分が敵であるという自覚があるのだろうか?
(どうやら単なる賊でも軍人でもないらしい。複雑だな……人間というのは)
少なくとも、オートマトンのマリナにインプットされた常識では測れないタイプの人物像だ。
「ところでお前ら、オレと話す以外にもやりたいことがあるんだろ? 遠慮しないでそれをやったらどうだ?」
意外な言葉に顔を見合わせるハンターたち。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)だけは一人、得心したように頷く。
「流石、お見通しですか。というか最初からそのつもりで?」
「そうですね、私としては刀鬼と手合せできて、あとはヴァルツライヒ党首に2~3話を聞ければ充分です」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は片目を瞑り、顎を撫でながら正直に答える。
「……貴方に対しては、隠し事はしない方がよさそうですからね」
「ボクは家族の代わりに『とーさま』が率いるキャンプを拝見しに来たんだけどねぇ」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)が肩を竦めると、ヒルデブラントは椅子から立ち上がり。
「あのおチビちゃんにはオレの言葉は必要あるめぇ。それよりお前が見た物を伝えるといい。とはいえ護衛に着くって名目上、記者には誰か着いた方がいいだろう」
「……なんであっちが仕切ってるの? ハンターの仲間みたいになってるけど」
「諦めろリク。こういう御仁だ。まずこっちのペースで動くとは思わない方がいい」
遠い眼差しでアウレールがキヅカ・リク(ka0038)の肩を叩いた。
「まあ、そういうことならここには僕と……」
「私が残ろう」
キヅカに続いてセシアが手を挙げる。それを確認し、ヒルデブラントは残りのハンターを部屋から追い出した。
「……いや、その前に交渉したいことがあるのだが」
「ん? 好きにすりゃいいだろ?」
「まだ何も説明もしていないぞ」
「じゃあ気のすむ様に説明でもなんでもしてくれや。とりあえず二人とも座んな」
若干困惑しながら席に着き、キヅカは眉を顰める。
(このマイペースさ、ルミナちゃん以上だなぁ……)
「おや、十三魔の刀鬼ともあろうものが随分としおれていらっしゃる。そんなに辛気臭くては子供の憧れるヒーローになれないと思いますが」
このキャンプで聞き込みをしている途中、二体の十三魔が滞在していると聞いた時から、彼らの目的はこちらにシフトしていた。
村を遠巻きに眺める小高い丘の上、木陰に座る二体はハンターが近づいても迎撃態勢を取る気配はない。
「What!? なぜハンターがここに……というか白々しいデース! ユーたちがミーのヘルメットを奪うからデース!」
「また会ったね、刀鬼。それにツィカーデもいたのか。見ての通り今回戦う気はない。護衛という名目だけど取材の手伝いもしている感じでねぇ」
ハンスもヒースもそんな事を言っているが、ついこの間闘ったばかりである。
「何だ貴様らは……馴れ馴れしいぞ。無関係な部外者は立ち去った方がいい」
「無関係? 部外者? つれない事を言うな、十三魔。三年ぶり……見忘れたとは言わせないぞ」
しゃがみ込んだアイゼンハンダーの腕を取り、アウレールは強引に立ち上がらせる。
「立て。久しぶりの再会を祝おうじゃないか」
「乱暴は止せ、アウレール。今はお互いの役目も立場も忘れて話をするべきだ」
「ふん……安心しろ。私も酔狂には違いない。そうでなければ、とっくに斬りつけているさ。言われなくとも、ただの戯れだ」
「貴様ら……何を……」
「急にすまない。貴官がアイゼンハンダー……いや、ツィカーデと呼べばいいか。会えて光栄である」
訳も分からずとりあえず立ち上がったアイゼンハンダーに、マリナはドッグタグを差し出す。
「当方はマリナ。元エバーグリーンの兵士、現ハンターである」
「えばあ……ぐりぃん?」
アウレールとヒースが顔を見合わせ、同時にマリナの肩を叩く。
「おい。そいつは長らく記憶が停滞している」
「エバーグリーンとオートマトンの事情は知らないだろうねぇ」
マリナは無表情なりにおろおろと焦り。
「当方と貴官は似た境遇にある。理解は出来なくとも共感は出来るだろう」
「はあ」
「……すまない。何から話せばよいのか……」
「ふむ。ここは単刀直入に用件だけ伝えてはどうでしょう?」
見かねたハンスがマリナに立ち代わり、腰に差した剣を軽く持ち上げる。
「我々は十三魔のお二人に手合わせを申し込みたいのです」
「そりゃあ別に構わないぜ。ただ、二人が乗るかは別だけどな」
セシアはヒルデブラントに許可を取るために経緯を説明していた。
先にハンスが仄めかしていた通りでもあり、ヒルデブラントは特に驚くでもなく応じる。
「民衆も関心が高く記事の題材としても好評故、より記事になるかと思うのだが」
「確かに記事の作りとしちゃ最適だな。真面目な事書くより売れるだろうぜ。だが、そりゃあオレと戦った場合だろう」
十三魔、即ち歪虚との戦闘報告などあり触れている。
戦闘について記事にするのなら、ヒルデブラントに挑むべきだろう。
「だがお前らオレとケンカするつもりはないんだろ?」
「いやぁ、僕は見ての通り怪我人なんで……」
キヅカ・リク。超覚醒の結果重体中。セシアも直接対決するつもりは毛頭ない。
「……失礼した。考えが至らなかったようだ」
「他の連中がやろうとしている事の筋を通そうと頑張ったんだろ? 謝るようなことじゃねぇさ」
大男はニンマリと笑い、セシアの頭をがしりと掴んで撫でまわす。当然髪型は崩れまくったので、さっさと直した。
「色々お見通しってわけだね。じゃあこっちも取材を続けよう。あ、写真いいかな?」
キヅカはカメラと共に手土産のワインと肉を取り出す。
ヒルデブラントは撮影を快諾しつつ、ワインの上部を手刀で切断し、ラッパ飲みしている。
(あ、今挑んだら死ぬなこれ)
「では、私から。ヒルデブラント殿は現皇帝をどう評価されているのかお聞きしたい」
「よくやってると思うぜ。民主化ってやつはいいと思う」
「え? いいと思ってるの? だったら何のためにヴルツァライヒのリーダーになったのさ?」
意外な回答にキヅカが食いつく。
だってそうだろう。民主化がダメだと思うから、反対を主張しているはずだ。そうでないとおかしい。
「選択肢だ。民主化がいいと思うのはあくまでオレ。国民がどう思うかはわからん」
ひとつしか選べない一本道に、人の意思などあり得ない。
いくつかの選択肢が存在するということそのものが、すべての人に考えを問うことに繋がるのだと男は言った。
「民主化もいい。革命による貴族主義への回帰もいい」
「それが、一度革命を成功させた結果の考えなの?」
「そうだ。革命はオレが選んだ答えだった。でも、オレ以外が選んだ答えではなかった」
セシアは聞き役に徹していたが、それでも困惑は隠せない。
言っていることが非論理的なのだ。“どっちでもいい”と言わんばかりの言葉は実にふわふわしている。
だが、なぜか奇妙なまでに一本筋の通った想いも感じてしまう。
「十三魔の存在を許容しているのも、選択肢の一環と解釈するべきだろうか?」
「いんや? あれはオレの趣味」
「趣味……?」
「そう。可哀そうだからな、歪虚って奴は。どうせ消し去るしかないんだが、オレは敵なら問答無用ですべて消していいとは思わない。できるだけ、お互いに“納得”したいのさ」
破綻した話とは思わなかった。
だから実際、意味もなく十三魔に会いに行く仲間を見送ったばかりだ。
「納得したい、か」
記帳するセシアのペンが止まる。
村を見て感じた奇妙な平穏。その正体は“納得”なのかもしれない。
身分の違い。所属の違い。正義の違い。それを納得した上で――選択した上でなら、人はああもお互いを認め合えるのか。
「つまり結局、あんたは革命を成功させる気はないんだろ?」
キヅカの言葉にヒルデブラントは広角を持ち上げる。
「あんたは革命の象徴である自分を打破させ、新しい時代を作り上げるつもりなんだ」
「半分は正解だ。言ったろ? 選択肢だって」
「そもそも乗り越えられなきゃ、自分で一からやり直すんだね?」
男は今度こそ大口を開けて笑った。セシアは息を呑む。
「正しくどちらに転んでもよいと? それをヴルツァライヒの面々は承知しているのか?」
「ああ。だからあいつらは真っすぐで、全力だ。後悔しないように選んで頑張って、それで失敗するなら“納得”だろ?」
「なら僕は僕の道を行けばいい。ヒルデブラント、僕はこれから何が起こっても、この事件を超えてみせる」
取材ではなかった。既に話しは聞いた。故に、今度は伝える。
「ヴィルヘルミナ・ウランゲルの意思を継ぐものとして、僕は、あんたを超える」
「断る。私は軍人だ。無意味な暴力を振るうつもりはない」
「ミーも同感デースね。別にbattle maniaでもありセンし」
「血を見る殺し合いは子供に泣かれるでしょうが、ただの斬り合いなら子供達も貴方を見て喜ぶのではありませんか?」
「childの前で首のない男が剣を抜く時点で可哀そうデース。第一、身体に悪いデース」
「…………。そう言われると、返す言葉もありませんね」
ハンスも無理強いをするつもりはない。勿論、刀鬼をノせるのが目的の発言ではあったが、高位歪虚が子供の前に行くことがどういう影響をもたらすのか、きちんと理解している。
東方で一度は英雄と呼ばれた男の剣技に、興味は尽きないが……。
「剣術の話がしたいなら付き合ってもいいデスが、アイちゃんはそっとしてあげて欲しいデス」
「そうはいかない。私が一体何年待ったと思っている? 私は……私はなぁ……」
アウレールは歯を食いしばる。
言いたいことが山ほどある。なんだかもう一周回って奇妙な愛着すら覚えるほどだ。
状況はあまりにも変わった。目の前の小娘がオロオロしている間に、剣妃も剣豪も倒れて――ああ。まるで、捨てられた子犬のようじゃないか。
「なんて様だ。アイゼンハンダー、いやツィカーデ。私は、アウレール・フォン・ブラオラントはお前の敵だぞ。お前は私の敵で、私はお前の敵だぞ。戦うにはそれで十分じゃあないか」
「私は……」
「色々抱え込んで頭の中がぐるぐるしていると推測する。そういう時は思うがままに口に出してみるのも手だよ。お前が良ければボクが聞いてやる。これで中々聞き上手だよ、ボクはぁ」
ヒースが声をかけるが、少女は鋼鉄の腕で言葉を遮る。
「何を話せばいい? 私には話すべきことすらない。何も……覚えていないのだから」
「……貴官の戦う目的を訊ねたい。軍人であれば、何かしらの志はあるだろう?」
マリナは張り切って抜いていた銃をホルスターに戻し、声をかける。
「記憶がない苦しみは、当方も理解できる。だが、大切なのは志ではないだろうか。訊かせてくれないか、貴官の想いを」
「……守りたいものが、あったんだ」
だが、全ては忘却の彼方に消えた。時は残酷に世界を上書きする。
「もう、守れない。私は……独りだ」
何か声をかけたいと思っても、マリナの中にその言葉はなかった。
同じだ。自分も同じだった。でもだからこそ、自分は闘うことを、その役割を信じた。
機械仕掛けの心でもわかる。目の前の歪虚は、その“役割”が揺らいでいる。何かを与えるなら、踏み込んだ想いが必要だ。
「革命軍とか正規軍とか、ハンターと十三魔とか、ヒトと歪虚とか、そんなものはどうでもいいんだ」
アウレールは空を仰ぎ見る。
「どうでもいいから、胸を張れ。私は私の敵を倒したい。しょぼくれて半べそかいた小娘の首をはねるのは御免だ」
「革命戦争は終わっている。だけど、戦争の終わりとお前の戦いの終わりはイコールじゃないんだろ。なら、お前なりの終わらせ方を考えると良い」
ヒースはきっぱりと告げる。革命戦争は終わったと。
ツィカーデという少女はその言葉にきつく目を瞑る。
「すまない……ありがとう」
そう言って少女は強く地を蹴り、空へ舞い上がる。一息でその姿が遠ざかり、ヒースは小さく息を吐いた。
「歯痒いな……。似た立場にある者として、もっと寄り添えると思ったのだが」
「どうせまた会う日が来る。その時までに考えておけばいいさぁ」
マリナは懐から銃を取り出し、それをじっと見つめる。
渡すのを躊躇ったのは、彼女が戦いそのものに苦しみを覚えている気がしたから。
「それにしても、貴方は私が考えるよりも理性的な歪虚なのでしょうか」
共にアイゼンハンダーを見送りながら、ハンスは刀鬼に声をかける。
「ミーはそもそも、HEROが嫌いデス」
「だから、あのヒルデブラントという党首についているのですか?」
十三魔を従えるということは、巨大な負のマテリアルをこの世界に野放しにするということだ。
だが、刀鬼はそもそも子供たちの前に行く気がない。自分がそういう存在だと理解し、一線を引いているのだ。
「……今回は失礼な事を言ってしまいましたね」
「no problem。歪虚に謝罪は無意味デース」
「確かに」
手合わせの為に場所を変えようと歩き出す刀鬼の背中を見つめ、ハンスは苦笑する。
「ですが……少しだけ、貴方を斬りにくくなりそうです」
それぞれ村に戻るかと歩き出す中、アウレールは一人ぼんやりとごちる。
「何が孤独だ、阿呆めが。“敵”がいると言っておろうが」
戦士には敵が必要だ。
命を捨てるには理由が必要だ。
何かを選ぶには納得が必要だ。
誰かを救うには――想いが必要だ。
取材は終わった。
その役割を終え、ハンターは帰路についた。
ヴルツァライヒが借り受けている宿の一室で取材が始まると、セシア・クローバー(ka7248)がそう口火を切った。
「田舎者はオレも同じ。まあ、楽にしてくれや」
ハンターを伴って訪れた記者にもヒルデブラントは寛容だった。
「キャンプの方々が語る通り、ヒルデブラント殿は器が大きいようだな」
セシアはここに至るまで、キャンプとなっている村で聞き込みを行っていた。
そもそもごちゃついた内情だけに警戒心は薄かったが、セシアの丁寧な対応も一役買い、滞りなく話を聞き出せた。
「治安は良好。村人はヴルツァライヒを長期滞在する客人としてもてなしている。対価は十分に支払われており、間接的な協力関係にあった」
「まあな。村人はありゃ脅されてんだ」
「それならばそう言い含んでおくべきでは? 彼らはそうは思っていないようだ」
セシアが僅かに微笑むと、ヒルデブラントも低く笑う。
(先皇帝は何を話したく打診したのか……)
今のところ、能動的に何かを話してくる様子はない。
マリナ アルフェウス(ka6934)は男の横顔を眺めながら小首を傾げる。
(敵である側から取材依頼……訴えを広めろ、と言うことか?)
いや。そもそもこの男、自分が敵であるという自覚があるのだろうか?
(どうやら単なる賊でも軍人でもないらしい。複雑だな……人間というのは)
少なくとも、オートマトンのマリナにインプットされた常識では測れないタイプの人物像だ。
「ところでお前ら、オレと話す以外にもやりたいことがあるんだろ? 遠慮しないでそれをやったらどうだ?」
意外な言葉に顔を見合わせるハンターたち。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)だけは一人、得心したように頷く。
「流石、お見通しですか。というか最初からそのつもりで?」
「そうですね、私としては刀鬼と手合せできて、あとはヴァルツライヒ党首に2~3話を聞ければ充分です」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は片目を瞑り、顎を撫でながら正直に答える。
「……貴方に対しては、隠し事はしない方がよさそうですからね」
「ボクは家族の代わりに『とーさま』が率いるキャンプを拝見しに来たんだけどねぇ」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)が肩を竦めると、ヒルデブラントは椅子から立ち上がり。
「あのおチビちゃんにはオレの言葉は必要あるめぇ。それよりお前が見た物を伝えるといい。とはいえ護衛に着くって名目上、記者には誰か着いた方がいいだろう」
「……なんであっちが仕切ってるの? ハンターの仲間みたいになってるけど」
「諦めろリク。こういう御仁だ。まずこっちのペースで動くとは思わない方がいい」
遠い眼差しでアウレールがキヅカ・リク(ka0038)の肩を叩いた。
「まあ、そういうことならここには僕と……」
「私が残ろう」
キヅカに続いてセシアが手を挙げる。それを確認し、ヒルデブラントは残りのハンターを部屋から追い出した。
「……いや、その前に交渉したいことがあるのだが」
「ん? 好きにすりゃいいだろ?」
「まだ何も説明もしていないぞ」
「じゃあ気のすむ様に説明でもなんでもしてくれや。とりあえず二人とも座んな」
若干困惑しながら席に着き、キヅカは眉を顰める。
(このマイペースさ、ルミナちゃん以上だなぁ……)
「おや、十三魔の刀鬼ともあろうものが随分としおれていらっしゃる。そんなに辛気臭くては子供の憧れるヒーローになれないと思いますが」
このキャンプで聞き込みをしている途中、二体の十三魔が滞在していると聞いた時から、彼らの目的はこちらにシフトしていた。
村を遠巻きに眺める小高い丘の上、木陰に座る二体はハンターが近づいても迎撃態勢を取る気配はない。
「What!? なぜハンターがここに……というか白々しいデース! ユーたちがミーのヘルメットを奪うからデース!」
「また会ったね、刀鬼。それにツィカーデもいたのか。見ての通り今回戦う気はない。護衛という名目だけど取材の手伝いもしている感じでねぇ」
ハンスもヒースもそんな事を言っているが、ついこの間闘ったばかりである。
「何だ貴様らは……馴れ馴れしいぞ。無関係な部外者は立ち去った方がいい」
「無関係? 部外者? つれない事を言うな、十三魔。三年ぶり……見忘れたとは言わせないぞ」
しゃがみ込んだアイゼンハンダーの腕を取り、アウレールは強引に立ち上がらせる。
「立て。久しぶりの再会を祝おうじゃないか」
「乱暴は止せ、アウレール。今はお互いの役目も立場も忘れて話をするべきだ」
「ふん……安心しろ。私も酔狂には違いない。そうでなければ、とっくに斬りつけているさ。言われなくとも、ただの戯れだ」
「貴様ら……何を……」
「急にすまない。貴官がアイゼンハンダー……いや、ツィカーデと呼べばいいか。会えて光栄である」
訳も分からずとりあえず立ち上がったアイゼンハンダーに、マリナはドッグタグを差し出す。
「当方はマリナ。元エバーグリーンの兵士、現ハンターである」
「えばあ……ぐりぃん?」
アウレールとヒースが顔を見合わせ、同時にマリナの肩を叩く。
「おい。そいつは長らく記憶が停滞している」
「エバーグリーンとオートマトンの事情は知らないだろうねぇ」
マリナは無表情なりにおろおろと焦り。
「当方と貴官は似た境遇にある。理解は出来なくとも共感は出来るだろう」
「はあ」
「……すまない。何から話せばよいのか……」
「ふむ。ここは単刀直入に用件だけ伝えてはどうでしょう?」
見かねたハンスがマリナに立ち代わり、腰に差した剣を軽く持ち上げる。
「我々は十三魔のお二人に手合わせを申し込みたいのです」
「そりゃあ別に構わないぜ。ただ、二人が乗るかは別だけどな」
セシアはヒルデブラントに許可を取るために経緯を説明していた。
先にハンスが仄めかしていた通りでもあり、ヒルデブラントは特に驚くでもなく応じる。
「民衆も関心が高く記事の題材としても好評故、より記事になるかと思うのだが」
「確かに記事の作りとしちゃ最適だな。真面目な事書くより売れるだろうぜ。だが、そりゃあオレと戦った場合だろう」
十三魔、即ち歪虚との戦闘報告などあり触れている。
戦闘について記事にするのなら、ヒルデブラントに挑むべきだろう。
「だがお前らオレとケンカするつもりはないんだろ?」
「いやぁ、僕は見ての通り怪我人なんで……」
キヅカ・リク。超覚醒の結果重体中。セシアも直接対決するつもりは毛頭ない。
「……失礼した。考えが至らなかったようだ」
「他の連中がやろうとしている事の筋を通そうと頑張ったんだろ? 謝るようなことじゃねぇさ」
大男はニンマリと笑い、セシアの頭をがしりと掴んで撫でまわす。当然髪型は崩れまくったので、さっさと直した。
「色々お見通しってわけだね。じゃあこっちも取材を続けよう。あ、写真いいかな?」
キヅカはカメラと共に手土産のワインと肉を取り出す。
ヒルデブラントは撮影を快諾しつつ、ワインの上部を手刀で切断し、ラッパ飲みしている。
(あ、今挑んだら死ぬなこれ)
「では、私から。ヒルデブラント殿は現皇帝をどう評価されているのかお聞きしたい」
「よくやってると思うぜ。民主化ってやつはいいと思う」
「え? いいと思ってるの? だったら何のためにヴルツァライヒのリーダーになったのさ?」
意外な回答にキヅカが食いつく。
だってそうだろう。民主化がダメだと思うから、反対を主張しているはずだ。そうでないとおかしい。
「選択肢だ。民主化がいいと思うのはあくまでオレ。国民がどう思うかはわからん」
ひとつしか選べない一本道に、人の意思などあり得ない。
いくつかの選択肢が存在するということそのものが、すべての人に考えを問うことに繋がるのだと男は言った。
「民主化もいい。革命による貴族主義への回帰もいい」
「それが、一度革命を成功させた結果の考えなの?」
「そうだ。革命はオレが選んだ答えだった。でも、オレ以外が選んだ答えではなかった」
セシアは聞き役に徹していたが、それでも困惑は隠せない。
言っていることが非論理的なのだ。“どっちでもいい”と言わんばかりの言葉は実にふわふわしている。
だが、なぜか奇妙なまでに一本筋の通った想いも感じてしまう。
「十三魔の存在を許容しているのも、選択肢の一環と解釈するべきだろうか?」
「いんや? あれはオレの趣味」
「趣味……?」
「そう。可哀そうだからな、歪虚って奴は。どうせ消し去るしかないんだが、オレは敵なら問答無用ですべて消していいとは思わない。できるだけ、お互いに“納得”したいのさ」
破綻した話とは思わなかった。
だから実際、意味もなく十三魔に会いに行く仲間を見送ったばかりだ。
「納得したい、か」
記帳するセシアのペンが止まる。
村を見て感じた奇妙な平穏。その正体は“納得”なのかもしれない。
身分の違い。所属の違い。正義の違い。それを納得した上で――選択した上でなら、人はああもお互いを認め合えるのか。
「つまり結局、あんたは革命を成功させる気はないんだろ?」
キヅカの言葉にヒルデブラントは広角を持ち上げる。
「あんたは革命の象徴である自分を打破させ、新しい時代を作り上げるつもりなんだ」
「半分は正解だ。言ったろ? 選択肢だって」
「そもそも乗り越えられなきゃ、自分で一からやり直すんだね?」
男は今度こそ大口を開けて笑った。セシアは息を呑む。
「正しくどちらに転んでもよいと? それをヴルツァライヒの面々は承知しているのか?」
「ああ。だからあいつらは真っすぐで、全力だ。後悔しないように選んで頑張って、それで失敗するなら“納得”だろ?」
「なら僕は僕の道を行けばいい。ヒルデブラント、僕はこれから何が起こっても、この事件を超えてみせる」
取材ではなかった。既に話しは聞いた。故に、今度は伝える。
「ヴィルヘルミナ・ウランゲルの意思を継ぐものとして、僕は、あんたを超える」
「断る。私は軍人だ。無意味な暴力を振るうつもりはない」
「ミーも同感デースね。別にbattle maniaでもありセンし」
「血を見る殺し合いは子供に泣かれるでしょうが、ただの斬り合いなら子供達も貴方を見て喜ぶのではありませんか?」
「childの前で首のない男が剣を抜く時点で可哀そうデース。第一、身体に悪いデース」
「…………。そう言われると、返す言葉もありませんね」
ハンスも無理強いをするつもりはない。勿論、刀鬼をノせるのが目的の発言ではあったが、高位歪虚が子供の前に行くことがどういう影響をもたらすのか、きちんと理解している。
東方で一度は英雄と呼ばれた男の剣技に、興味は尽きないが……。
「剣術の話がしたいなら付き合ってもいいデスが、アイちゃんはそっとしてあげて欲しいデス」
「そうはいかない。私が一体何年待ったと思っている? 私は……私はなぁ……」
アウレールは歯を食いしばる。
言いたいことが山ほどある。なんだかもう一周回って奇妙な愛着すら覚えるほどだ。
状況はあまりにも変わった。目の前の小娘がオロオロしている間に、剣妃も剣豪も倒れて――ああ。まるで、捨てられた子犬のようじゃないか。
「なんて様だ。アイゼンハンダー、いやツィカーデ。私は、アウレール・フォン・ブラオラントはお前の敵だぞ。お前は私の敵で、私はお前の敵だぞ。戦うにはそれで十分じゃあないか」
「私は……」
「色々抱え込んで頭の中がぐるぐるしていると推測する。そういう時は思うがままに口に出してみるのも手だよ。お前が良ければボクが聞いてやる。これで中々聞き上手だよ、ボクはぁ」
ヒースが声をかけるが、少女は鋼鉄の腕で言葉を遮る。
「何を話せばいい? 私には話すべきことすらない。何も……覚えていないのだから」
「……貴官の戦う目的を訊ねたい。軍人であれば、何かしらの志はあるだろう?」
マリナは張り切って抜いていた銃をホルスターに戻し、声をかける。
「記憶がない苦しみは、当方も理解できる。だが、大切なのは志ではないだろうか。訊かせてくれないか、貴官の想いを」
「……守りたいものが、あったんだ」
だが、全ては忘却の彼方に消えた。時は残酷に世界を上書きする。
「もう、守れない。私は……独りだ」
何か声をかけたいと思っても、マリナの中にその言葉はなかった。
同じだ。自分も同じだった。でもだからこそ、自分は闘うことを、その役割を信じた。
機械仕掛けの心でもわかる。目の前の歪虚は、その“役割”が揺らいでいる。何かを与えるなら、踏み込んだ想いが必要だ。
「革命軍とか正規軍とか、ハンターと十三魔とか、ヒトと歪虚とか、そんなものはどうでもいいんだ」
アウレールは空を仰ぎ見る。
「どうでもいいから、胸を張れ。私は私の敵を倒したい。しょぼくれて半べそかいた小娘の首をはねるのは御免だ」
「革命戦争は終わっている。だけど、戦争の終わりとお前の戦いの終わりはイコールじゃないんだろ。なら、お前なりの終わらせ方を考えると良い」
ヒースはきっぱりと告げる。革命戦争は終わったと。
ツィカーデという少女はその言葉にきつく目を瞑る。
「すまない……ありがとう」
そう言って少女は強く地を蹴り、空へ舞い上がる。一息でその姿が遠ざかり、ヒースは小さく息を吐いた。
「歯痒いな……。似た立場にある者として、もっと寄り添えると思ったのだが」
「どうせまた会う日が来る。その時までに考えておけばいいさぁ」
マリナは懐から銃を取り出し、それをじっと見つめる。
渡すのを躊躇ったのは、彼女が戦いそのものに苦しみを覚えている気がしたから。
「それにしても、貴方は私が考えるよりも理性的な歪虚なのでしょうか」
共にアイゼンハンダーを見送りながら、ハンスは刀鬼に声をかける。
「ミーはそもそも、HEROが嫌いデス」
「だから、あのヒルデブラントという党首についているのですか?」
十三魔を従えるということは、巨大な負のマテリアルをこの世界に野放しにするということだ。
だが、刀鬼はそもそも子供たちの前に行く気がない。自分がそういう存在だと理解し、一線を引いているのだ。
「……今回は失礼な事を言ってしまいましたね」
「no problem。歪虚に謝罪は無意味デース」
「確かに」
手合わせの為に場所を変えようと歩き出す刀鬼の背中を見つめ、ハンスは苦笑する。
「ですが……少しだけ、貴方を斬りにくくなりそうです」
それぞれ村に戻るかと歩き出す中、アウレールは一人ぼんやりとごちる。
「何が孤独だ、阿呆めが。“敵”がいると言っておろうが」
戦士には敵が必要だ。
命を捨てるには理由が必要だ。
何かを選ぶには納得が必要だ。
誰かを救うには――想いが必要だ。
取材は終わった。
その役割を終え、ハンターは帰路についた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/29 18:42:15 |
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依頼相談所 ヒース・R・ウォーカー(ka0145) 人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/10/31 23:12:26 |