ゲスト
(ka0000)
祭りの裏側で ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/11 15:00
- 完成日
- 2018/11/24 12:12
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
時折の肌寒さが、冬の到来を感じさせる城塞都市マール。ハンター一行は城へと出向いて、領主アーリアの妹であるミリア・エルブンと面会した。
「みなさん、依頼を受けて頂いてありがとうございますの」
ミリアに案内されて、塔の螺旋階段をのぼっていく。塔頂の一室では痩せ気味の女性が幽閉されていた。
「どうして? どうして歪虚を憎まなくてはいけないの?」
話し相手の女性兵士が困った表情を浮かべている。痩せ気味の女性が語る内容は、一般論としては正しい。しかし、これまで歪虚が悪行を尽くしてきたことが考慮されていない。非常に薄っぺらな主張だった。
「あの女性の恋人が歪虚崇拝者でしたの。当初は思想に感化だけだと思われていたのですが、実はこちら。常用していた飲み薬を調べたところ、違うことが判明したのです」
ミリアが手にする瓶の飲み薬には、暗示にかかりやすくなる効能が含まれているという。わずかながら負のマテリアルも検出されていた。
「余程意思が弱くない限り、一度や二度飲まされたところで暗示にはかかりませんの。でもそれが繰り返されて悪用されたとすれば、話は変わってきますの。いつの間にか歪虚崇拝者になってしまうというのが、お医者様の見解でしたの」
痩せ気味の女性の恋人は、尋問の途中で自決してしまった。生前に看守が耳にした寝言によれば、飲み薬は葡萄酒に混ぜると効力が三倍から四倍に増幅されるらしい。
「女性の言葉から推測するに、もうすぐ謝肉祭が行われる領地西方の村が狙われているようですの。特に純朴な領民が住んでいますので、振る舞われる葡萄酒に飲み薬が混ぜられたとすれば、大変なことに」
年に一度の村祭りなので、不確かな情報で中止にするのは忍びない。ミリアは祭りの前に、歪虚崇拝者の悪巧みの排除をハンター達に願うのだった。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
時折の肌寒さが、冬の到来を感じさせる城塞都市マール。ハンター一行は城へと出向いて、領主アーリアの妹であるミリア・エルブンと面会した。
「みなさん、依頼を受けて頂いてありがとうございますの」
ミリアに案内されて、塔の螺旋階段をのぼっていく。塔頂の一室では痩せ気味の女性が幽閉されていた。
「どうして? どうして歪虚を憎まなくてはいけないの?」
話し相手の女性兵士が困った表情を浮かべている。痩せ気味の女性が語る内容は、一般論としては正しい。しかし、これまで歪虚が悪行を尽くしてきたことが考慮されていない。非常に薄っぺらな主張だった。
「あの女性の恋人が歪虚崇拝者でしたの。当初は思想に感化だけだと思われていたのですが、実はこちら。常用していた飲み薬を調べたところ、違うことが判明したのです」
ミリアが手にする瓶の飲み薬には、暗示にかかりやすくなる効能が含まれているという。わずかながら負のマテリアルも検出されていた。
「余程意思が弱くない限り、一度や二度飲まされたところで暗示にはかかりませんの。でもそれが繰り返されて悪用されたとすれば、話は変わってきますの。いつの間にか歪虚崇拝者になってしまうというのが、お医者様の見解でしたの」
痩せ気味の女性の恋人は、尋問の途中で自決してしまった。生前に看守が耳にした寝言によれば、飲み薬は葡萄酒に混ぜると効力が三倍から四倍に増幅されるらしい。
「女性の言葉から推測するに、もうすぐ謝肉祭が行われる領地西方の村が狙われているようですの。特に純朴な領民が住んでいますので、振る舞われる葡萄酒に飲み薬が混ぜられたとすれば、大変なことに」
年に一度の村祭りなので、不確かな情報で中止にするのは忍びない。ミリアは祭りの前に、歪虚崇拝者の悪巧みの排除をハンター達に願うのだった。
リプレイ本文
●
子供達の笑い声に混じって、金槌を叩く音が響き渡る。ハンター一行は午後になったばかりの時刻に、伯爵地西方の村へと到着した。
村は明後日に開催される謝肉祭の準備で活気づいている。村の広場では櫓が組まれてる最中だ。卓や椅子が運ばれていて、すぐにでも開催できそうな雰囲気に包まれていた。
振る舞われる料理の下拵えも始まっている。湯気立つ大鍋では村伝統のスープ作りが行われているらしい。ハンター達の元にも美味しそうなにおいが漂う。
「葡萄酒の樽ひとつひとつから、味見するっていうのも大変だしなあ。そもそも私はお酒は飲めないし」
小首を傾げた夢路 まよい(ka1328)は、家屋の軒下に置かれていた大樽を眺める。
「マール出発前にミリアから訊いたのだが――」
鳳凰院ひりょ(ka3744)は、依頼書では理解しずらかった飲み薬の詳細な特徴を仲間達に伝えた。
「葡萄酒に混ぜる毒、ということでしたら、警戒しないといけません。少なくとも各樽の最初の一杯は、異常がないか確認しなければ」
ミオレスカ(ka3496)の提案に、多くの仲間が頷く。
「ミオレスカの言うとおりだな。村に納品済みの樽については、片っ端から調べるしかなさそうだ。香りで当たりをつけて、わずかに飲めばわかるだろう。少量ならとくに効果はないようだからな。私達の意思が弱いはずがないし」
レイア・アローネ(ka4082)は葡萄酒の毒味役を引き受けた。
アーリアとミリアの名をだし、利き酒担当として振る舞えば、疑われることはないだろう。調査済みの意味も含めて、樽にお墨付きプレートを貼れば、村人も納得するはずである。
「俺も毒味役をやろう。同時に葡萄酒の仕入れ先も調べておかないと。アーリアとミリアの来訪は事実だし、大っぴらにやっても問題はないだろう」
ロニ・カルディス(ka0551)も、毒味役になることを決めた。合わせて歪虚崇拝者の暗躍がないかどうか、目を光らせるつもりのようである。
それまできょときょとと仲間達の顔を見回していたディーナ・フェルミ(ka5843)が、ポンと手を打つ。
「やっと分かったの、持ち込まれる前から葡萄酒を見張って、村に着いてから浄化すればいいのデモンストレーションなの」
ディーナが望む状況にするためには、すでに村へと持ちこまれている葡萄酒樽を調べる必要がある。さらに卸元がわからないと始まらない。早速一同は手分けして調査を開始するのだった。
「この芳醇な香り。そしてうまさ! 十年に一度の出来のようだ」
「そのようにいって頂けるとは」
レイアは葡萄酒の試飲後、樽にお墨付きのプレートを貼りつける。さらに栓に封印を施した。所有者の村人には「当日までは開けないように。ミリア様のお達しだからな」と念を押して、別の家と向かう。
「今年は当たり年だったようですね」
「はい。よい葡萄が採れたようで――」
ミオレスカも村内を回って、葡萄酒を試飲していく。今のところ飲み薬が入っている樽は見つかっていないが、気を引き締めて次へ。玄関の扉をノックした。
「なるほど……」
「どうかなさいましたか?」
ロニは村長宅の酒蔵を訪ねていた。口に含んだ葡萄酒から、飲み薬と思しきかすかな風味が感じられる。陽光に当てると、わずかながら色にも特徴がでていた。
「こちらの葡萄酒は、どれも素晴らしい。是非とも領主様に味わってもらわなければ。それまで厳重な管理と保存を頼めるだろうか?」
ここで事実を告げると、歪虚崇拝者側に勘づかれてしまう危険性がある。ロニは嘘をついて、樽のすべてに封印を施した。そして村長から仕入れ先を教えてもらうのだった。
「今年は領主さまが人を派遣させるらしいから、警備重大なの」
ディーナは謝肉祭への領主一行来訪を村中に触れ回った。マール出立の際に約束を交わしたので、アーリアとミリアは守ってくれるはずである。
「酒樽から離れたくないから、テント生活なの」
村長の酒蔵は除いて、その他の葡萄酒樽は広場に集めるよう指示をだす。ディーナは近くに大きめのテントを張って、見張りの準備を整えた。
歪虚崇拝者がどのような行動にでるのか、想像が追いつかない。そこで酒樽の監視を自分達の仕事と位置づける。「変な人がきたら吠えるのお願いするの」長いリードをつけて、愛犬を番犬に。仲間達にも協力を求めるディーナであった。
「この葡萄酒って、どこで造られたものなのかな? この村へ着くまでに葡萄畑は見かけなかったのだけど」
「マールからの道だとそうかもな。ちょうど反対側の方角に集落があるんだ。そこが葡萄酒造りで有名なのさ」
夢路の疑問に、村人が朗らかな笑顔を浮かべながら答えてくれる。謝肉祭が行われる毎年のこの時期、その集落から葡萄酒を仕入れるのだという。
「ここ最近各地で物騒な事件が起こったりしている。祭りに乗じて危険物の持ち込みをする者がいないとも限らない、と領主からのお達しでな」
鳳凰院は村の出入口である門で、荷物点検を行う。液体はすべて調べて、葡萄酒があれば香りをかいで確かめる。
ほぼすべての葡萄酒は近隣の集落から運ばれていたが、だからといってすべてが同じではなかった。畑の違いによってかなり違う。葡萄の品種、絞り方や寝かせ方で、個性がでるようだ。
宵の口に村の門が閉じられるまで、点検は行われる。飲み薬が混じった葡萄酒の持ちこみは、見つけられなかった。
宵の口、ハンター一行は広場のテント側で焚き火を囲みながら、日中に集めた情報をつき合わせる。怪しいのは、村から二kmほど離れた位置にある集落だ。誰一人、異存はない。
翌朝になり、村人に見張りを引き継いでもらう。そしてハンター一行は集落へと向かうのであった。
●
集落を取り囲む柵が見えてきたところで、ハンター一行は立ち止まる。
「畑ばかりだ」
「低木がいっぱいだね」
辺りを見回したレイアや夢路の呟きに、他のハンター達が頷く。道の両側だけに留まらず、葡萄畑ばかり。広大な葡萄畑の風景に、集落がぽつりと存在していた。
「村長から聞いたのだが、ここの集落は五家族の共同で成り立っているらしい」
ロニによれば、五家族がそれぞれの葡萄畑を管理しているようだ。秋口だけは共用の道具類を使い、協力し合って葡萄酒造りをするのだという。
「五家族なら、かなり絞れそうだ。そのうちの一家族、もしくは二家族……。いや、もしかして――」
鳳凰院の発言を切っ掛けにして、各自の犯人像で盛りあがる。
残念なことに、酒樽は再利用が前提のために共用だ。村での調査の際にも、酒樽の形状による蔵元の判別は難しかった。白墨で記されているだけなので、歪虚崇拝者がその気になれば、すり替えは容易といえる。
「儲けに関わってくるので、出荷前は各家族の酒蔵で管理しているはずです」
「手分けして調べれば、すぐですの」
ミオレスカとディーナの意見に誰もが賛成した。
「酒蔵っぽい大きな建物が六カ所あるよ。一カ所は醸造の施設かな?」
「私達の頭数からいって、ちょうどよさそうだな」
夢路が建物の特徴を告げて、それをレイアがメモに書き留める。仲間で酒蔵五カ所と醸造施設一カ所の担当を振り分けるのだった。
(足音を立てずに、こっそりですの)
ディーナは枯れ草に隠れつつ、赤屋根の酒蔵へと近づく。村のときとは違って、領主の威光はばれたときの保険にしておく。
大地に刺した農具のフォークを足場にし、高窓から酒蔵へと忍びこんだ。いくつかの酒樽から葡萄酒を抜きだして、香りを確かめる。混入はされていないようだ。
仲間からの連絡があるまで、酒蔵から集落を見張ることにするディーナであった。
(よし、今だ)
井戸の影に隠れていたレイアは、青屋根の酒蔵から出荷される瞬間を見計らう。
「私は領主アーリア様の遣いの者。葡萄酒にお墨付きを与える担当官だ」
そう二人の集落民に声をかけて説得。荷台の三樽を確認したものの、どれも普通の葡萄酒だ。
「つかぬ事をお聞きするのだが――」
仲間達の調べが終わるまでは、引き留めておいたほうがよい。レイアは他の四家族について訊ね、時間稼ぎをするのだった。
ミオレスカは庭木にのぼって、紅葉の中に身を隠す。
「ベルさん、お願いしますね」
ミオレスカに手を振った妖精が、緑屋根の酒蔵へと飛びこんでいく。しばらくして、葉っぱで作った器で葡萄酒を少しだけ持ってきてくれる。
「この香り……、とても怪しいです。味はどうでしょうか?」
舐めてみると、ほんのわずかだが飲み薬の風味がした。
(力を合わせて葡萄を絞り、酒樽に収める。そして各家族の酒蔵へ運びこんで発酵。よくできた助け合いのシステムだな)
鳳凰院が忍びこんだのは、集落唯一の醸造施設であった。何かしらの痕跡がないか探していると、青年二人が入ってくる。
「あれの追加、そろそろじゃないか?」
「明日の謝肉祭でたっぷり飲ませれば、そろそろ効果がでてくる頃だろう」
ひそひそ話を耳にした鳳凰院は、酒蔵からでていった青年二人の後を追跡。外へでてまもなく、夢路とロニが近づいてきた。
「茶屋根の酒蔵は薬なしだったけど、あの二人の片方が忍びこもうとしていたよ。それとミオレスカからの無線があって、薬入りの樽を見つけたみたい」
「白屋根の酒蔵にあった樽からも、飲み薬の混入が認められた」
夢路とロニから重要な情報を得た鳳凰院は、無線連絡で仲間達に合流を促す。無線は貸し出し済みである。
無線を聞いた仲間が一人一人と集まりだす。青年二人は集落近郊の森へと入っていった。気づかれないよう追いかけると、やがて小屋の中へと姿を消してしまう。
「炭焼きの小屋のようだが、どうも妙だ。薪の数が少なすぎるな」
「窯には土埃が積もっているし。しばらく使われた形跡がないよ」
レイアと夢路が首を捻る。
幹をのぼったミオレスカが、双眼鏡で小屋の窓から内部を覗く。慌てて降りてきた彼女は「木が動いていました」と仲間達に報告した。
「こうなったら押して押して、押しまくるのが一番ですの」
「俺もそれに賛成だ」
ディーナと鳳凰院は力づくでの解決を提案する。
「どうであれ、あの二人からは話を聞かないとならないな」
ロニも同意。投降を呼びかける案もあったが、飲み薬の証拠湮滅を危惧して突入を敢行。レイアと鳳凰院が戸板を蹴破って、小屋へと飛びこむ。
「動くな!」
「おとなしくすれば命はとらない!」
剣を構えるレイアと鳳凰院が目撃したのは、青年二人と男女二人組。そして蒲萄樹に似た植物形態の雑魔であった。
雑魔よる蔓攻撃を避けた隙に、歪虚崇拝者と思しき四人が小屋から逃げていく。レイアと鳳凰院は雑魔との対峙に集中。それぞれの刃が撓る蔓を叩き切った。
「果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
「そこまでだ」
小屋の外では、夢路のドリームメイズとロニのプルガトリオによって、四人の足止めに成功していた。
それからすぐに、根を足のように動かす葡萄樹雑魔が小屋の窓から現れる。追いかけるようにレイアと鳳凰院も野外へ。
「蔓の攻撃は厄介ですが、これならどうです?」
ミオレスカは魔導拳銃で葡萄樹雑魔を撃つ。枝の根元を狙って、敵の攻撃力を削いでいく。
「まとめてお仕置きですの!」
ディーナは力の続く限り、セイクリッドフラッシュを連発した。鳳凰院が話しかけてみたものの、雑魔は喋れそうにない。ミオレスカの銃弾が止めの一撃となり、雑魔は枯れ果ててしまう。
四人は「歪虚とは関係がない」「ましてや歪虚崇拝者ではない」ととぼけていたが、レイアと夢路が小屋で探しだした飲み薬の瓶を見せると意気消沈する。
「さて、詳しく聞かせてもらおうか」
鳳凰院が飲み薬についてを自白させた。使いだしたのは半年前からだが、そのときは少量だったらしい。薬の調合には葡萄樹雑魔の粘液が不可欠で、その量が限られていたからのようだ。
「俺達が世話して大きくなり、たくさんの粘液がとれるようになった矢先だというのに……」
どうやら青年二人が歪虚崇拝者になったのは、世を儚んだ末のこと。伝道者の男女につけ込まれて、兇行に走ったようである。
「俺達が捕まったからといって、終わりじゃないぞ。あの飲み薬は他でも造られているはずだ。ざあまあみろ!」
四人の口ぶりからすると、葡萄樹雑魔は他にもいるようだった。
●
謝肉祭の当日。ハンター達の告知通り、アーリアとミリアが村を訪れる。
飲み薬が混ぜられた葡萄酒については、ディーナとロニのピュリフィケーションによって浄化が行われた。
暗示の疑いがある村人にはロニが教会に招いて、サルヴェイションを施す。
「それは気になる情報だ」
「秘密裏に調査しておきますの」
アーリアとミリアに顛末を報告して、ハンター一行は依頼から開放される。歪虚崇拝者の四人については官憲へと預けられた。
「それではニュー・ウォルターの栄光。そして、この村の未来を祝して!」
アーリアが乾杯の音頭をとって謝肉祭は始まった。
(あの香りや風味は感じられない。普通のうまい葡萄酒だ)
ロニは浄化済みの葡萄酒をもう一度味わってから、祭りを楽しんだ。ジビエ肉の料理に、じっくりと煮込まれたスープは絶品である。
途中、村長からお土産としてハンター全員に葡萄酒が贈られた。
「よかった。普通の味だ」
鳳凰院も葡萄酒の浄化を気にしていた一人だ。料理を味わう手を止めて、ふと秋空を眺めて呟く。「今頃どうしてるかな、あの子は」と。
「人の言うことをコロッと信じやすくなっちゃうって、大変だよね」
卓についた夢路の元に、陽気な村人達が料理や葡萄酒を運んできてくれる。
「未然に防げてよかったです。あ、このスープ、とても美味しいです!」
ミオレスカは夢路とお喋りを楽しみながら、料理を味わう。スープには漁村から取り寄せた特別な魚醤が使われているらしい。
「ミリア、ここはいい村だな。誰もが素直で。だからこそ、ああいう奴らが狙ったのだろうが」
「解決してくれて助かりましたの。さあ、飲んでくださいな」
レイアはミリアの酌で葡萄酒をあおいだ。一気に呑み干して、仕事終わりを実感した。
「宴もたけなわですの!」
ディーナは櫓の上に立ち、聖歌を歌いだす。一人二人と一緒に歌う村人がでてきて、途中からは大合唱となった。
楽しい宴を眺めてアーリアは呟く。「せっかく戻ってきた平和だ。もう二度と荒らさせはしない」と。
子供達の笑い声に混じって、金槌を叩く音が響き渡る。ハンター一行は午後になったばかりの時刻に、伯爵地西方の村へと到着した。
村は明後日に開催される謝肉祭の準備で活気づいている。村の広場では櫓が組まれてる最中だ。卓や椅子が運ばれていて、すぐにでも開催できそうな雰囲気に包まれていた。
振る舞われる料理の下拵えも始まっている。湯気立つ大鍋では村伝統のスープ作りが行われているらしい。ハンター達の元にも美味しそうなにおいが漂う。
「葡萄酒の樽ひとつひとつから、味見するっていうのも大変だしなあ。そもそも私はお酒は飲めないし」
小首を傾げた夢路 まよい(ka1328)は、家屋の軒下に置かれていた大樽を眺める。
「マール出発前にミリアから訊いたのだが――」
鳳凰院ひりょ(ka3744)は、依頼書では理解しずらかった飲み薬の詳細な特徴を仲間達に伝えた。
「葡萄酒に混ぜる毒、ということでしたら、警戒しないといけません。少なくとも各樽の最初の一杯は、異常がないか確認しなければ」
ミオレスカ(ka3496)の提案に、多くの仲間が頷く。
「ミオレスカの言うとおりだな。村に納品済みの樽については、片っ端から調べるしかなさそうだ。香りで当たりをつけて、わずかに飲めばわかるだろう。少量ならとくに効果はないようだからな。私達の意思が弱いはずがないし」
レイア・アローネ(ka4082)は葡萄酒の毒味役を引き受けた。
アーリアとミリアの名をだし、利き酒担当として振る舞えば、疑われることはないだろう。調査済みの意味も含めて、樽にお墨付きプレートを貼れば、村人も納得するはずである。
「俺も毒味役をやろう。同時に葡萄酒の仕入れ先も調べておかないと。アーリアとミリアの来訪は事実だし、大っぴらにやっても問題はないだろう」
ロニ・カルディス(ka0551)も、毒味役になることを決めた。合わせて歪虚崇拝者の暗躍がないかどうか、目を光らせるつもりのようである。
それまできょときょとと仲間達の顔を見回していたディーナ・フェルミ(ka5843)が、ポンと手を打つ。
「やっと分かったの、持ち込まれる前から葡萄酒を見張って、村に着いてから浄化すればいいのデモンストレーションなの」
ディーナが望む状況にするためには、すでに村へと持ちこまれている葡萄酒樽を調べる必要がある。さらに卸元がわからないと始まらない。早速一同は手分けして調査を開始するのだった。
「この芳醇な香り。そしてうまさ! 十年に一度の出来のようだ」
「そのようにいって頂けるとは」
レイアは葡萄酒の試飲後、樽にお墨付きのプレートを貼りつける。さらに栓に封印を施した。所有者の村人には「当日までは開けないように。ミリア様のお達しだからな」と念を押して、別の家と向かう。
「今年は当たり年だったようですね」
「はい。よい葡萄が採れたようで――」
ミオレスカも村内を回って、葡萄酒を試飲していく。今のところ飲み薬が入っている樽は見つかっていないが、気を引き締めて次へ。玄関の扉をノックした。
「なるほど……」
「どうかなさいましたか?」
ロニは村長宅の酒蔵を訪ねていた。口に含んだ葡萄酒から、飲み薬と思しきかすかな風味が感じられる。陽光に当てると、わずかながら色にも特徴がでていた。
「こちらの葡萄酒は、どれも素晴らしい。是非とも領主様に味わってもらわなければ。それまで厳重な管理と保存を頼めるだろうか?」
ここで事実を告げると、歪虚崇拝者側に勘づかれてしまう危険性がある。ロニは嘘をついて、樽のすべてに封印を施した。そして村長から仕入れ先を教えてもらうのだった。
「今年は領主さまが人を派遣させるらしいから、警備重大なの」
ディーナは謝肉祭への領主一行来訪を村中に触れ回った。マール出立の際に約束を交わしたので、アーリアとミリアは守ってくれるはずである。
「酒樽から離れたくないから、テント生活なの」
村長の酒蔵は除いて、その他の葡萄酒樽は広場に集めるよう指示をだす。ディーナは近くに大きめのテントを張って、見張りの準備を整えた。
歪虚崇拝者がどのような行動にでるのか、想像が追いつかない。そこで酒樽の監視を自分達の仕事と位置づける。「変な人がきたら吠えるのお願いするの」長いリードをつけて、愛犬を番犬に。仲間達にも協力を求めるディーナであった。
「この葡萄酒って、どこで造られたものなのかな? この村へ着くまでに葡萄畑は見かけなかったのだけど」
「マールからの道だとそうかもな。ちょうど反対側の方角に集落があるんだ。そこが葡萄酒造りで有名なのさ」
夢路の疑問に、村人が朗らかな笑顔を浮かべながら答えてくれる。謝肉祭が行われる毎年のこの時期、その集落から葡萄酒を仕入れるのだという。
「ここ最近各地で物騒な事件が起こったりしている。祭りに乗じて危険物の持ち込みをする者がいないとも限らない、と領主からのお達しでな」
鳳凰院は村の出入口である門で、荷物点検を行う。液体はすべて調べて、葡萄酒があれば香りをかいで確かめる。
ほぼすべての葡萄酒は近隣の集落から運ばれていたが、だからといってすべてが同じではなかった。畑の違いによってかなり違う。葡萄の品種、絞り方や寝かせ方で、個性がでるようだ。
宵の口に村の門が閉じられるまで、点検は行われる。飲み薬が混じった葡萄酒の持ちこみは、見つけられなかった。
宵の口、ハンター一行は広場のテント側で焚き火を囲みながら、日中に集めた情報をつき合わせる。怪しいのは、村から二kmほど離れた位置にある集落だ。誰一人、異存はない。
翌朝になり、村人に見張りを引き継いでもらう。そしてハンター一行は集落へと向かうのであった。
●
集落を取り囲む柵が見えてきたところで、ハンター一行は立ち止まる。
「畑ばかりだ」
「低木がいっぱいだね」
辺りを見回したレイアや夢路の呟きに、他のハンター達が頷く。道の両側だけに留まらず、葡萄畑ばかり。広大な葡萄畑の風景に、集落がぽつりと存在していた。
「村長から聞いたのだが、ここの集落は五家族の共同で成り立っているらしい」
ロニによれば、五家族がそれぞれの葡萄畑を管理しているようだ。秋口だけは共用の道具類を使い、協力し合って葡萄酒造りをするのだという。
「五家族なら、かなり絞れそうだ。そのうちの一家族、もしくは二家族……。いや、もしかして――」
鳳凰院の発言を切っ掛けにして、各自の犯人像で盛りあがる。
残念なことに、酒樽は再利用が前提のために共用だ。村での調査の際にも、酒樽の形状による蔵元の判別は難しかった。白墨で記されているだけなので、歪虚崇拝者がその気になれば、すり替えは容易といえる。
「儲けに関わってくるので、出荷前は各家族の酒蔵で管理しているはずです」
「手分けして調べれば、すぐですの」
ミオレスカとディーナの意見に誰もが賛成した。
「酒蔵っぽい大きな建物が六カ所あるよ。一カ所は醸造の施設かな?」
「私達の頭数からいって、ちょうどよさそうだな」
夢路が建物の特徴を告げて、それをレイアがメモに書き留める。仲間で酒蔵五カ所と醸造施設一カ所の担当を振り分けるのだった。
(足音を立てずに、こっそりですの)
ディーナは枯れ草に隠れつつ、赤屋根の酒蔵へと近づく。村のときとは違って、領主の威光はばれたときの保険にしておく。
大地に刺した農具のフォークを足場にし、高窓から酒蔵へと忍びこんだ。いくつかの酒樽から葡萄酒を抜きだして、香りを確かめる。混入はされていないようだ。
仲間からの連絡があるまで、酒蔵から集落を見張ることにするディーナであった。
(よし、今だ)
井戸の影に隠れていたレイアは、青屋根の酒蔵から出荷される瞬間を見計らう。
「私は領主アーリア様の遣いの者。葡萄酒にお墨付きを与える担当官だ」
そう二人の集落民に声をかけて説得。荷台の三樽を確認したものの、どれも普通の葡萄酒だ。
「つかぬ事をお聞きするのだが――」
仲間達の調べが終わるまでは、引き留めておいたほうがよい。レイアは他の四家族について訊ね、時間稼ぎをするのだった。
ミオレスカは庭木にのぼって、紅葉の中に身を隠す。
「ベルさん、お願いしますね」
ミオレスカに手を振った妖精が、緑屋根の酒蔵へと飛びこんでいく。しばらくして、葉っぱで作った器で葡萄酒を少しだけ持ってきてくれる。
「この香り……、とても怪しいです。味はどうでしょうか?」
舐めてみると、ほんのわずかだが飲み薬の風味がした。
(力を合わせて葡萄を絞り、酒樽に収める。そして各家族の酒蔵へ運びこんで発酵。よくできた助け合いのシステムだな)
鳳凰院が忍びこんだのは、集落唯一の醸造施設であった。何かしらの痕跡がないか探していると、青年二人が入ってくる。
「あれの追加、そろそろじゃないか?」
「明日の謝肉祭でたっぷり飲ませれば、そろそろ効果がでてくる頃だろう」
ひそひそ話を耳にした鳳凰院は、酒蔵からでていった青年二人の後を追跡。外へでてまもなく、夢路とロニが近づいてきた。
「茶屋根の酒蔵は薬なしだったけど、あの二人の片方が忍びこもうとしていたよ。それとミオレスカからの無線があって、薬入りの樽を見つけたみたい」
「白屋根の酒蔵にあった樽からも、飲み薬の混入が認められた」
夢路とロニから重要な情報を得た鳳凰院は、無線連絡で仲間達に合流を促す。無線は貸し出し済みである。
無線を聞いた仲間が一人一人と集まりだす。青年二人は集落近郊の森へと入っていった。気づかれないよう追いかけると、やがて小屋の中へと姿を消してしまう。
「炭焼きの小屋のようだが、どうも妙だ。薪の数が少なすぎるな」
「窯には土埃が積もっているし。しばらく使われた形跡がないよ」
レイアと夢路が首を捻る。
幹をのぼったミオレスカが、双眼鏡で小屋の窓から内部を覗く。慌てて降りてきた彼女は「木が動いていました」と仲間達に報告した。
「こうなったら押して押して、押しまくるのが一番ですの」
「俺もそれに賛成だ」
ディーナと鳳凰院は力づくでの解決を提案する。
「どうであれ、あの二人からは話を聞かないとならないな」
ロニも同意。投降を呼びかける案もあったが、飲み薬の証拠湮滅を危惧して突入を敢行。レイアと鳳凰院が戸板を蹴破って、小屋へと飛びこむ。
「動くな!」
「おとなしくすれば命はとらない!」
剣を構えるレイアと鳳凰院が目撃したのは、青年二人と男女二人組。そして蒲萄樹に似た植物形態の雑魔であった。
雑魔よる蔓攻撃を避けた隙に、歪虚崇拝者と思しき四人が小屋から逃げていく。レイアと鳳凰院は雑魔との対峙に集中。それぞれの刃が撓る蔓を叩き切った。
「果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
「そこまでだ」
小屋の外では、夢路のドリームメイズとロニのプルガトリオによって、四人の足止めに成功していた。
それからすぐに、根を足のように動かす葡萄樹雑魔が小屋の窓から現れる。追いかけるようにレイアと鳳凰院も野外へ。
「蔓の攻撃は厄介ですが、これならどうです?」
ミオレスカは魔導拳銃で葡萄樹雑魔を撃つ。枝の根元を狙って、敵の攻撃力を削いでいく。
「まとめてお仕置きですの!」
ディーナは力の続く限り、セイクリッドフラッシュを連発した。鳳凰院が話しかけてみたものの、雑魔は喋れそうにない。ミオレスカの銃弾が止めの一撃となり、雑魔は枯れ果ててしまう。
四人は「歪虚とは関係がない」「ましてや歪虚崇拝者ではない」ととぼけていたが、レイアと夢路が小屋で探しだした飲み薬の瓶を見せると意気消沈する。
「さて、詳しく聞かせてもらおうか」
鳳凰院が飲み薬についてを自白させた。使いだしたのは半年前からだが、そのときは少量だったらしい。薬の調合には葡萄樹雑魔の粘液が不可欠で、その量が限られていたからのようだ。
「俺達が世話して大きくなり、たくさんの粘液がとれるようになった矢先だというのに……」
どうやら青年二人が歪虚崇拝者になったのは、世を儚んだ末のこと。伝道者の男女につけ込まれて、兇行に走ったようである。
「俺達が捕まったからといって、終わりじゃないぞ。あの飲み薬は他でも造られているはずだ。ざあまあみろ!」
四人の口ぶりからすると、葡萄樹雑魔は他にもいるようだった。
●
謝肉祭の当日。ハンター達の告知通り、アーリアとミリアが村を訪れる。
飲み薬が混ぜられた葡萄酒については、ディーナとロニのピュリフィケーションによって浄化が行われた。
暗示の疑いがある村人にはロニが教会に招いて、サルヴェイションを施す。
「それは気になる情報だ」
「秘密裏に調査しておきますの」
アーリアとミリアに顛末を報告して、ハンター一行は依頼から開放される。歪虚崇拝者の四人については官憲へと預けられた。
「それではニュー・ウォルターの栄光。そして、この村の未来を祝して!」
アーリアが乾杯の音頭をとって謝肉祭は始まった。
(あの香りや風味は感じられない。普通のうまい葡萄酒だ)
ロニは浄化済みの葡萄酒をもう一度味わってから、祭りを楽しんだ。ジビエ肉の料理に、じっくりと煮込まれたスープは絶品である。
途中、村長からお土産としてハンター全員に葡萄酒が贈られた。
「よかった。普通の味だ」
鳳凰院も葡萄酒の浄化を気にしていた一人だ。料理を味わう手を止めて、ふと秋空を眺めて呟く。「今頃どうしてるかな、あの子は」と。
「人の言うことをコロッと信じやすくなっちゃうって、大変だよね」
卓についた夢路の元に、陽気な村人達が料理や葡萄酒を運んできてくれる。
「未然に防げてよかったです。あ、このスープ、とても美味しいです!」
ミオレスカは夢路とお喋りを楽しみながら、料理を味わう。スープには漁村から取り寄せた特別な魚醤が使われているらしい。
「ミリア、ここはいい村だな。誰もが素直で。だからこそ、ああいう奴らが狙ったのだろうが」
「解決してくれて助かりましたの。さあ、飲んでくださいな」
レイアはミリアの酌で葡萄酒をあおいだ。一気に呑み干して、仕事終わりを実感した。
「宴もたけなわですの!」
ディーナは櫓の上に立ち、聖歌を歌いだす。一人二人と一緒に歌う村人がでてきて、途中からは大合唱となった。
楽しい宴を眺めてアーリアは呟く。「せっかく戻ってきた平和だ。もう二度と荒らさせはしない」と。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/11/11 14:49:46 |
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質問卓 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/11/11 12:02:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/09 21:18:58 |