ゲスト
(ka0000)
王国最強ロボ――精霊契約交渉編
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/19 07:30
- 完成日
- 2018/11/24 13:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●暴走
「エネルギー充填120パーセント」
試作機を監視中のセンサーが、あり得ない数字を報告した。
「ひゃく……にじゅう?」
理論上の限界が100になるよう設定している。
常識的考えれば誤作動のはずだ。
「センサーに異常ありません」
「停止信号に反応無し、エンジンが暴走しています!」
既存CAMとは異質な印象の機体が神々しく輝く。
信心深いリアルブルー人やクリムゾンウェスト人が、何かに気付いて愕然とした。
「使徒……様?」
「確かに、蒼大精霊の使徒と似た印象が……」
信心深い者達がその場で跪く。
そして、信仰心3割危機感7割で全身全霊で祈り出す。
「精霊様ステイ、ステイですっ。エンジン爆発しちゃうのーっ」
「あっ、あっ、計測機器変質しちゃうの。それ試作機本体より高いの。やめて……やめてよぅ」
大混乱である。
現場を指揮するアダム・マンスフィールドは、淡々と刻霊術を使い機体の機能を低下させる。
抗議のポーズをとる試作機が、聖堂戦士団と王国騎士隊により制圧された。
●会談
「おぬしら禁忌というものがないのか」
精霊プラトニスが大きく息を吐く。
噴き出す風は少量でも存在感は嵐の如くだ。
大精霊クリムゾンウェストの一側面であるのだから当然かもしれない。
「王国と聖堂教会には十分配慮しているつもりですよ」
所長である老博士はにこやかに挨拶する。
「ようこそおいでくださいました。私、この研究所の責任者であるリチャード・クラフトマンと申します」
普段の邪悪さは感じられない。
リアルブルーのスーツを上品に着こなし、王侯に対する態度でプラトニスを歓迎する。
無骨ではあっても陽気なプラトニスの顔に、胃の痛みに耐えているかのような表情が浮かんだ。
それに気付いた上で気付かないふりをして、所長はさらに言葉を続ける。
「アダム氏から話は聞いています。精霊と結んだ契約を我々も忠実に守っていくつもりです」
胃袋的存在が猛烈に痛みだし、プラトニスの顔を微かに痙攣させる。
助けを求めるようにアダムを見ると、困った顔で首を左右に振られてしまった。
リチャードを見下ろす。
ハンター達と比べると弱々しいマテリアルしか持っていない。
質も邪悪であり、しかし非常に純粋。
率直に表現して扱いに困るタイプの人間だ。
「それについては後で話そう」
目を試作機に向ける。
小精霊というには強すぎる精霊が試作機から抜け出す。
人間に当てはめると澄まし顔にあたる態度で元の役割に戻るが、跪き待機する試作機が気になって仕方が無いようだ。
無理もない。
邪神を倒すという目標を大真面目に掲げ、実際に強力な刃を作り上げる者など滅多に存在しない。
現時点では王級の歪虚にも及ばない力でしかなくても、手を貸してしまいたくなる精霊は大勢いるはずだ。
だからこそこのままにはしておけない。
大精霊ならともかく、中小精霊は力を貸せば貸すほど磨り減っていく。
邪神と決着がつく前に、あるいは王級の歪虚と戦う前に、精霊が消耗し過ぎてしまえば戦う前に負けが決まりかねない。
「あれは危険だ」
捨てろとは言うつもりはない
ただ、精神的に未熟な精霊が入り込まないようにするための工夫を強く要求した。
●現状報告
「従うのか?」
精霊プラトニスとの会談が終わってしばらくして、アダムは本心から驚き目を丸くした。
この所長なら、有力な精霊でも騙して利用すると思い込んでいたのだ。
なお、副所長以下全員も同じように思い込んでいる。
普段の言動が酷過ぎるので自業自得であった。
「人間に置き換えれば、正マテリアルという重要インフラ企業の役員だろう? 開発の邪魔にならない範囲でなら従うとも」
所長は罪悪感も気負いも無く言い切った。
「またそういうことを言う」
「言わずに問題を大きくするよりマシだろう」
いつも通りに、両者の世界観が違い過ぎた。
「始めるぞ」
会議室のカーテンが閉められ薄暗くなる。
プロジェクターが光を灯し、1枚の設計図を白壁に映し出す。
「お集まりの皆さん」
元々いた研究者、連合宙軍やリアルブルー企業から流れて来た技術者、野良パルムを始めとする精霊の視線が所長と設計図に集中する。
「開発は順調です」
グラズヘイム王国の国産CAM開発計画として立ち上がり、現所長が乗っ取り、ハンターが新素材を調教し各国技術をぶち込んだ結果がこの設計図だ。
「アダム氏の技術によりブレイクスルーが発生しました」
意識を機体に移す技術だ。
操縦者を使い捨てにする外道な技術を目指すならともかく、真っ当に実現しようとすれば実現に何十年かかる分からない超技術である。
「新しい機体の潜在能力を引き出したのです!」
画像が切り替わる。
映し出された試作機は、CAMなのに高位覚醒者の生身じみた動きをしている。
「基本能力は全体的に高く、スキルトレースは現時点でも現行機を少しですが上回っています。調整を進めればもっと上も狙えるでしょう」
拍手は起きない。
そのくらいは当然という雰囲気だ。
「エンジンを含む効率化がもたらす副産物もあります」
プロジェクターの光が消える。
カーテンが引かれ、後光を放つ試作機が現れる。
光は短時間で消えるが、力の質も量もかなりのものだ。
「余剰のエネルギーは攻撃にも防御にも転用可能と推測できます。残念ながら攻防一体とはいかないようですが」
ハンターに協力を仰いで具体的な使い方を探るつもりだと、穏やかな猫を被って説明する。
「課題もあります。スポンサーから霊的な防御の弱さを指摘されました。もっともな指摘ですので、防御にまわすリソースを増やす予定です」
再度カーテンが引かれてプロジェクターが起動。
先程とは異なる、装甲をまとった騎士風の姿で映し出される。
「装甲の調整はハンターに直接依頼します。これは基本的に避ける機体です。装甲が邪魔になれば戦闘力が激減するでしょうから、実際に使う者の手が必要です」
用意したパーツと装甲についても説明する。
開発期間を少しでも短縮するため、一体型や外付け型、平面から流線型、薄いのから厚いのまであるらしい。
「以上で説明を終わり、続いて質疑応答に入ります。全体的な方針に異論は? ……ないようですね」
所長の口が三日月状に吊り上がる。
目は野心と好奇心で輝き、歪虚よりも悪魔らしい雰囲気だ。
「いつも通りに楽しく仕事をしましょう。では解散」
徐々に、完成へ近づいていた。
「エネルギー充填120パーセント」
試作機を監視中のセンサーが、あり得ない数字を報告した。
「ひゃく……にじゅう?」
理論上の限界が100になるよう設定している。
常識的考えれば誤作動のはずだ。
「センサーに異常ありません」
「停止信号に反応無し、エンジンが暴走しています!」
既存CAMとは異質な印象の機体が神々しく輝く。
信心深いリアルブルー人やクリムゾンウェスト人が、何かに気付いて愕然とした。
「使徒……様?」
「確かに、蒼大精霊の使徒と似た印象が……」
信心深い者達がその場で跪く。
そして、信仰心3割危機感7割で全身全霊で祈り出す。
「精霊様ステイ、ステイですっ。エンジン爆発しちゃうのーっ」
「あっ、あっ、計測機器変質しちゃうの。それ試作機本体より高いの。やめて……やめてよぅ」
大混乱である。
現場を指揮するアダム・マンスフィールドは、淡々と刻霊術を使い機体の機能を低下させる。
抗議のポーズをとる試作機が、聖堂戦士団と王国騎士隊により制圧された。
●会談
「おぬしら禁忌というものがないのか」
精霊プラトニスが大きく息を吐く。
噴き出す風は少量でも存在感は嵐の如くだ。
大精霊クリムゾンウェストの一側面であるのだから当然かもしれない。
「王国と聖堂教会には十分配慮しているつもりですよ」
所長である老博士はにこやかに挨拶する。
「ようこそおいでくださいました。私、この研究所の責任者であるリチャード・クラフトマンと申します」
普段の邪悪さは感じられない。
リアルブルーのスーツを上品に着こなし、王侯に対する態度でプラトニスを歓迎する。
無骨ではあっても陽気なプラトニスの顔に、胃の痛みに耐えているかのような表情が浮かんだ。
それに気付いた上で気付かないふりをして、所長はさらに言葉を続ける。
「アダム氏から話は聞いています。精霊と結んだ契約を我々も忠実に守っていくつもりです」
胃袋的存在が猛烈に痛みだし、プラトニスの顔を微かに痙攣させる。
助けを求めるようにアダムを見ると、困った顔で首を左右に振られてしまった。
リチャードを見下ろす。
ハンター達と比べると弱々しいマテリアルしか持っていない。
質も邪悪であり、しかし非常に純粋。
率直に表現して扱いに困るタイプの人間だ。
「それについては後で話そう」
目を試作機に向ける。
小精霊というには強すぎる精霊が試作機から抜け出す。
人間に当てはめると澄まし顔にあたる態度で元の役割に戻るが、跪き待機する試作機が気になって仕方が無いようだ。
無理もない。
邪神を倒すという目標を大真面目に掲げ、実際に強力な刃を作り上げる者など滅多に存在しない。
現時点では王級の歪虚にも及ばない力でしかなくても、手を貸してしまいたくなる精霊は大勢いるはずだ。
だからこそこのままにはしておけない。
大精霊ならともかく、中小精霊は力を貸せば貸すほど磨り減っていく。
邪神と決着がつく前に、あるいは王級の歪虚と戦う前に、精霊が消耗し過ぎてしまえば戦う前に負けが決まりかねない。
「あれは危険だ」
捨てろとは言うつもりはない
ただ、精神的に未熟な精霊が入り込まないようにするための工夫を強く要求した。
●現状報告
「従うのか?」
精霊プラトニスとの会談が終わってしばらくして、アダムは本心から驚き目を丸くした。
この所長なら、有力な精霊でも騙して利用すると思い込んでいたのだ。
なお、副所長以下全員も同じように思い込んでいる。
普段の言動が酷過ぎるので自業自得であった。
「人間に置き換えれば、正マテリアルという重要インフラ企業の役員だろう? 開発の邪魔にならない範囲でなら従うとも」
所長は罪悪感も気負いも無く言い切った。
「またそういうことを言う」
「言わずに問題を大きくするよりマシだろう」
いつも通りに、両者の世界観が違い過ぎた。
「始めるぞ」
会議室のカーテンが閉められ薄暗くなる。
プロジェクターが光を灯し、1枚の設計図を白壁に映し出す。
「お集まりの皆さん」
元々いた研究者、連合宙軍やリアルブルー企業から流れて来た技術者、野良パルムを始めとする精霊の視線が所長と設計図に集中する。
「開発は順調です」
グラズヘイム王国の国産CAM開発計画として立ち上がり、現所長が乗っ取り、ハンターが新素材を調教し各国技術をぶち込んだ結果がこの設計図だ。
「アダム氏の技術によりブレイクスルーが発生しました」
意識を機体に移す技術だ。
操縦者を使い捨てにする外道な技術を目指すならともかく、真っ当に実現しようとすれば実現に何十年かかる分からない超技術である。
「新しい機体の潜在能力を引き出したのです!」
画像が切り替わる。
映し出された試作機は、CAMなのに高位覚醒者の生身じみた動きをしている。
「基本能力は全体的に高く、スキルトレースは現時点でも現行機を少しですが上回っています。調整を進めればもっと上も狙えるでしょう」
拍手は起きない。
そのくらいは当然という雰囲気だ。
「エンジンを含む効率化がもたらす副産物もあります」
プロジェクターの光が消える。
カーテンが引かれ、後光を放つ試作機が現れる。
光は短時間で消えるが、力の質も量もかなりのものだ。
「余剰のエネルギーは攻撃にも防御にも転用可能と推測できます。残念ながら攻防一体とはいかないようですが」
ハンターに協力を仰いで具体的な使い方を探るつもりだと、穏やかな猫を被って説明する。
「課題もあります。スポンサーから霊的な防御の弱さを指摘されました。もっともな指摘ですので、防御にまわすリソースを増やす予定です」
再度カーテンが引かれてプロジェクターが起動。
先程とは異なる、装甲をまとった騎士風の姿で映し出される。
「装甲の調整はハンターに直接依頼します。これは基本的に避ける機体です。装甲が邪魔になれば戦闘力が激減するでしょうから、実際に使う者の手が必要です」
用意したパーツと装甲についても説明する。
開発期間を少しでも短縮するため、一体型や外付け型、平面から流線型、薄いのから厚いのまであるらしい。
「以上で説明を終わり、続いて質疑応答に入ります。全体的な方針に異論は? ……ないようですね」
所長の口が三日月状に吊り上がる。
目は野心と好奇心で輝き、歪虚よりも悪魔らしい雰囲気だ。
「いつも通りに楽しく仕事をしましょう。では解散」
徐々に、完成へ近づいていた。
リプレイ本文
●CAMと精霊
重機関銃の発射炎が連続し、銃弾が大気を裂く音が連続して聞こえた。
試作機との距離は20メートル。
現代火器にとっては至近距離であり、VOID襲来以前であれは確実に当たる距離であり、VOID襲来後でもだいたい当たる距離だ。
なのに、4連射40発の銃弾全てが試作機を捉えられずに特大盛り土へめり込んだ。
「いつの間にか、クリムゾンウェストの技術で人型機動兵器を作ってハンターの底上げをする話から精霊を利用した人型決戦兵器の話になっている気がしますが、気のせいでしょうか」
クオン・サガラ(ka0018)は試作機から強い精霊の気配を感じてなんとも表現し辛い顔になる。
「利用されているのはどちらかな」
リチャード・クラフトマン博士が楽しげに口元を歪めた。
近くのディスプレイに表示された数字が120から徐々に上昇する。
驚くほど繊細に制御されていた四肢が徐々に余裕を失い、70発目の銃弾が脇腹に当たった。
着弾の瞬間、着弾の装甲が銃弾を受け流す形に変わるが現代兵器の威力に完全には耐えられない。
装甲の一部が引き千切られ、パーツの一部と装甲片と一緒に背後の盛り土に叩き付けられた。
「試験終了」
騒然とする空間を、アダム・マンスフィールドの淡々とした命令が引き締める。
「試験終了します」
「回線を介しパイロットの健康状態チェック……問題なし」
「機体に爆発および暴走の兆候無し」
「使用した全弾を確認しました」
「試験場に異常無し」
アダムは小さくうなずき被弾箇所の入れ替えを命じる。
「了解、軽くばらして装甲も張り替えます」
「工房に連絡! 胸部……と背部装甲をデータ採った後に送る」
「ウーナさん、休憩に入って下さい!」
かつて無駄飯ぐらいという評され実際そうだった研究員たちが、リアルブルーの一線級人材に迫る動きを見せていた。
「いよいよ大詰めって感じだね」
試作機が完全に停止して数秒後、小柄なウーナ(ka1439)がするりと抜け出してくる。
「データ入力用のPDAちょーだい」
汗も拭かずに詳細な報告書を書こうとするウーナの首に、細いのにとんでもない力が籠もった腕がまわされた。
「ウーナちゃん、体調管理。ね?」
「いや、でも、急いだ方がいいよね?」
リチャード(72)並に気合いの入っていたウーナの声が平常に戻っていく。
「へろへろがりがりになったウーナちゃんは見たくないのっ。はいこれ」
Lサイズのシェークを平然と手渡す。
クリムゾンウェストに避難した地球企業からの差し入れ品だ。
パイロットに相応しい計算速度でカロリーをはじき出す。ちょっと口に出せない数字だ。
しかし家族の真心を拒絶するという選択肢はない。
覚悟を決めて太いストローで吸い込み、そしてようやく体に熱が不足していることに気付く。
搭乗中は意識が機体に移るとはいえ、加速に耐えるのも大変だし、膨大な情報処理を脳で行うことになる。
当然のようにカロリー消費も凄まじかった。
「次は博士に……あっ」
ディーナ・フェルミ(ka5843)の声が一オクターブ高くなる。
「プラトニス様~! こんな所でお会いできるなんて嬉しさのあまりタイやヒラメが舞い踊るの!」
高度な身体制御で無駄に高難度の踊りを披露しながら、ディーナが凄い勢いで巨大筋肉に走り寄る。
「是非サイン下さいなの!」
身の丈より大きな星神器とそれよりは小さいとはいえ十分大型なメイスを差し出すときも、よろけすらしない。
「こういう扱いが懐かしい。……上書きはまずいな」
星神器に力を注ぎかけて慌てて止める。
己が一側面を務めるクリムゾンウェストとの契約に口を挟むとややこしいことになるので、水性ペンを借り力を込めずに古の言葉で記入する。
「見に来て下さってうれしいの! 大精霊さまたちにはマスティマがあるの、プラトニス様たちも自分用の精霊騎を望んで下さったんでしょう?」
リチャード博士から禍々しいマテリアルが迸った気がした。
「それはナディアを通じて聞いてくれ。だが……そうだな」
発光が止まった試作機を見据え、うーむと考え込む。
「プラトニス様の権能は節制、つまりプラトニス様ならこの回路に手を加えることができると思うの。座すだけでなく見に来て下さったのは、RB戦に思う所があったからでしょう?」
「見に来たのは……だな」
リチャード(72)をちらりと見て珍しくため息。
「節制と最も遠いものを見守るためだ。それに、精霊が直接手を出しても多くの場合よいことにはならない」
直接手を出してどうにかなるなら、歪虚の駆逐はとっくの昔に終わっている。
だから、ディーナのような高位覚醒者に頼るし悪魔じみた老博士も許容するのだ。
「まだそのような意識でおるのか」
頑丈な床に硬質な音が響く。
巨大な精霊と比べると赤子並に小さなミグ・ロマイヤー(ka0665)が、超高位の精霊と真正面から向かい合う。
「禁忌を侵さずして勝てるならそうしよう。じゃが、リアルブルー凍結を受けてミグらには後がないのも事実」
2対の視線がぶつかり合う。
その激突に気付いていない研究員たちが、気付けないまま怯えて動きが鈍くなる。
「もちろん、対歪虚戦争に処理した結果精霊が死滅した世界しか残らん等戦いに勝って勝負に負けたも同義故、ミグらも可能な限り避けたい。だが状況が温い手段を許さないのはそなたも解っておろう」
「その論調は負マテリアルに手を出した者共と同じであると、分かっているだろう」
空気がさらに重くなり息をするのも苦しくなる。
試作機で遊んでいた精霊はいつの間にか逃げ去っている。
「無論」
「ええい分かりきったことをぐだぐだと。代われ」
割り込んできたルベーノ・バルバライン(ka6752)に、ミグは面白そうににやりと笑って場所を譲る。
「ここは自分が何ができるか何をしたいかを明言しそれに向かって邁進する場だ。出来ないことからどんどんその可能性が削れていく。俺は自分の目的を叶えるために努力しているぞ。お前はそれを形にするために、何かしたのか? 反対するだけでは意見と言わん。それは、時間の無駄と言うのだ」
役割が違うという精霊をルベーノは鼻で笑う。
「節制の。お前は最初から、俺達の研究が勝手に周囲の精霊を巻き込んで被害を与えていると思っていたわけではあるまい」
コクピットに供えられたLサイズシェーキが、質量が変わらないまま存在感を薄めている。
精霊は力を貸すだけでなく感謝も受け取り自身も楽しんでいた。
「大精霊自身が此度の戦場で奮戦した。次、もしくは次の次が邪神ファナティックブラッドとの決戦になる。だから精霊たちも集まった。それが分かっていたから、四大精霊のうちのお前がここに来たのだろう」
赤い瞳が燃えるような存在感を放つ。
「他の四大の権能では、この精霊機は完成せん。機体を制するために、お前の節制の権能が要る。これは数打ちのCAMではない。限られた、対邪神用の最終兵器だ」
星神機と比べると大量生産品かもしれないが、邪神と戦える者くらいしか扱えないという意味では妥当な表現だ。
「節制の。お前の力を貸してくれんか。俺達にとってもお前たちにとっても、邪神戦は最終決戦。大精霊自身が示したように……俺達と共に戦ってはくれないか」
傲岸不遜と評されるほどに誇り高い彼が、これ以上無いほどに頭を下げた。
「すまぬ。見逃すのが精一杯だ」
絞り出すような返事が届き、ルベーノはゆっくりと上体を起こしてから破顔した。
「リチャード! どうやら貴様は大精霊の御業の近いことを成し遂げたようだぞ!」
大精霊が手助けする必要がないほどの完成度だと解釈した。
「それはアダムの功績だろう」
老博士は目も向けずにケーブルとケーブルを繋ぐ機械を調整している。
「そんなことよりお前が連れて来たオートソルジャーの機嫌をとれ。マテリアル制御のストレスで完全にへそを曲げているぞ」
プラトニス相手の交渉をそんなこと呼ばわりする老博士に、信仰心厚い研究員は見てみないふりをする。
「意識の移行は?」
「AIか精霊か分からんものを迂闊に触れるか。お前が言うように喪われる精霊が居ては拙いだろう。試作機とデータのやりとりは出来たから伝達精度を3パーセントほど……」
博士は、術を使えないのに刻令術の領域にも踏み込んでいる。
「自力でそこまで辿り着いたか」
プラトニスの奥深くから、人間とはかけ離れた知性が老博士を見つめていた。
「具体的な話を詰めようではないか」
予測の範囲内での決着に満足し、ミグは実務的な話を進める。
「まず憑依に対する疲弊に耐えうるマテリアル量を保持している精霊の精霊側での選抜、機体との専属契約」
「いきなり強烈な内容だな。ドア・イン・ザ・フェイス(精霊翻訳済)のつもりか」
「言葉遊びをする時間的余裕はない。嫌がっているから取り下げはするが、精霊側が自発的にするのを止めはせんからな」
「中小精霊に勧めることもしないぞ?」
「それでいい。次の提案は疲弊精霊の強制リジェクション機能の搭載じゃ。実は既に搭載しとるんじゃが、精霊が機体の取り合いしとるので個々の精霊がほとんど疲弊せず試運用にならんのよな」
プラトニスは、無言で腹の上に手を当てた。
「おぬし等はそういう所が……」
胃袋はないのに胃痛を感じる。
ハンターも博士もアダムも能力は素晴らしい。
人格に癖のある者もいるが、能力の高さの割にはまともといえる。
だが、今回に限らず成し遂げたものが正負を問わず大きすぎる。
「ようプラトニス」
治療用のコルセットを装備したボルディア・コンフラムス(ka0796)が声をかける。
ああ、と予想以上に親しげな響きの返事に、ボルディアだけなく返事をしたプラトニスも驚く。
「契約書の文面や解釈で時間をとるのも馬鹿らしいだろ。プラトニスが信用できる上位精霊を実験に立ち会わせればいいんじゃねーか?」
信仰心が厚めな王国なら、精霊が危険と判断したとき研究員が呼応して実験を止めたりすることもできる。
派遣された精霊に監督者や実験アドバイザー的役目も担ってもらえば研究所側にも利益がある。
バランスのとれた現実的な提案であるはずなのに、プラトニスの反応は何故だか鈍い。
付き合いのあるアダムに意見を求めても、アダムも違和感は感じても原因にたどり着けない。
「プラトニス様、初めてお目にかかります。私、鹿東 悠と申します。この度はお時間を頂きありがとうございます」
水分補給に向かったボルディアたちと入れ替わり、鹿東 悠(ka0725)が挨拶する。
過剰な敬意も親しみもない態度に、プラトニスが安堵に近い感情を抱く。
悠は微笑んだまま冷静に反応を伺い話題を選ぶ。
「具体的にどのような懸念があるのでしょうか」
プラトニスが口籠もる話題からは離れ、揉める内容がない分野でまだ言葉になっていないことについて尋ねていく。
「たくさんあるとも」
見えないのに中精霊と一緒になって騒いでいる博士を見る。
「たとえば……」
ほぼ雑談であり、会話内容には新しい情報はない。
しかしプラトニスの話題や単語の選択から多くの情報をくみ取れる。
「やはり、精霊が直接開発に参加するのは難しいのですか」
「以前ならともかく、今では禁忌とまでは言わないが……」
悠は、今は飲食店経営志望だが元は地球連合軍に所属していた。
今のプラトニスは上司と部下の間で板挟みになった中間管理職によく似ている。
理はあっても強硬過ぎる方針の上司の直属の反応にそっくりだ。
「この世界を守るにはあなた方の力も必要なのです。どうか力を貸しては頂けないでしょうか?」
「……ハンター個人と精霊との契約については口を出さない」
「ありがとうございます」
悠は最敬礼をしながら1つの仮説に辿り着く。
プラトニスの本体である大精霊クリムゾンウェストは、人類に対し好意とは程遠い感情も抱いてる。
悪意でも殺意でもなく、しかし同程度に厄介な感情だ。
最悪の場合でも邪神の件が片付くまでは表に現れないことを、悠は祈るのだった。
●新たな鎧
「ありがとう。別の形でいずれまた」
ジーナ(ka1643)の言葉が儀式の〆だった。
前の代の試作機が素早く分解され、正マテリアルを付与された金属や特殊な合金が取り外され分別されそれぞれコンテナに積み込まれていく。
フレームに使われていたものは王国内の施設に運ばれ、次の機体のための合金として再生産される予定だ。
「あの工房で本当にいいのか?」
「よくはないが仕方が無かろう。リアルブルーから来た月が陥落したら整備もできぬでは話にならん」
話し込むボルディアとミグの近くで、猛烈な勢いで装甲が加工されていく。
鍛えているのは人間が4にドワーフが6。
後者のほとんどは王国外出身だ。
「これを参考にさせようにも技術がおっつかねぇか」
折角運び込んだ、法術刻印装備とアダマス鋼の全身鎧を見る。
「アークエルスに話を通す方が早い」
「間に合うかねぇ。オートマトンのエバーグリーン系技術も……ありゃあトマーゾ関係で所長が拒否するか?」
「後ろでプラトニスが凄い顔をしとるから、説得するならそっちを先にせい」
「ようやく思い出したぜ。プラトニスから時々感じるのはクリムゾンウェストの気配だ。何か関係あるのかねぇ」
「自分で答えを言うとるじゃ」
ボルディアはクリムゾンウェストの守護者の1人であり、クリムゾンウェストから直接支援されて邪神を殴った1人だ。
だから良い意味でも悪い意味でも警戒される。
「軽装の鎧はこれで仕上げか。歪虚及び弱小精霊による乗っ取りへ対抗は中枢にあれをまわすので良いとして……防御は回避と余剰出力頼みになるのう」
近接特化か飛行特化か。
いずれにせよ覚醒者であるエースパイロットにしか使えない代物になりそうだ。
「どうにも、厚くなりますね」
悠のコメントにドワーフが奮起する。
避弾経始を考慮した曲面重視で様々な工夫で軽量化も図ったものを頼んだ結果……装甲入れ替えだけは可能な装甲厚めのものが仕上がりつつある。
「悪いな。先に使わせてもらうぞ」
休憩中のウーナに一言断りを入れ、ジーナがコクピットの乗り込んだ。
数時間おきに改装を繰り返しているので相変わらず見慣れない。
念入りに体を固定して意識を機体に預けると、初期とは比較にならないほど滑らかに感覚が切り替わった。
「機体センサを五感として使えるのは……初めて乗る者が慣れるのに時間がかかるかもしれないな」
自分が作らせた鎖帷子状装甲の部品1つ1つまで感じ取れる。
「悪いが長丁場になるぞ」
うなずく気配と交代する気配が高位の次元から届く。
当然のようにエンジン出力が急変化する。
機体外の研究員が操作する前にジーナが意識で調整する。
「外部センサーの動作確認を完了しました」
「よし。祓いしものを使う」
ハンターに搭乗権のある既存機ではスキルトレース不可能なスキルを問題なく行使する。
リジェネレーションを交えながら2度、3度と繰り返し、都合6度繰り返したところで研究所全体から安堵の息が聞こえた。
「次は? 時間に空きがあるなら使わせて貰うぞ」
筋力充填を使って体の……機体の調子を確かめる。
「いけるな。――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ」
天駆けるもの。
空高く飛ぶための技で、敢えて低空で飛ぶ。
事故や失敗に備えるためだ。
降下時間が過ぎた筈なのに効果は落ちずむしろ動きの切れが増していた。
「後は」
一度降下し精密なデータをとらせてから、今度は余剰出力の制御に専念する。
マテリアルビームのつもりで盛り土に撃ち込むと、かなり大きく深い穴が開く。
「邪神の巨体や無数の雑兵を相手取るなら可能な限り広い攻撃範囲が欲しいが……」
魔法攻撃力はあるが、現時点では広範囲攻撃は形になっていない。
「現状でこの程度ですか」
クオンが真剣な顔で考え込む。
「十分な威力と思いますが?」
地球企業からの出向者が控えめに反論する。
「いえ、対邪神を考えるとこの程度は欲しいので」
クオンがキーボードで打ち込むと、出向者が悪趣味な冗談を言われたような顔になった。
「持続的な出力増でない以上、武装に回すしかないでしょう。従来のCAMでは人間にも負けるレベルの火力なんで最低でもこの程度は」
いわゆる攻撃力4桁である。
前衛系高位ハンターなら振るえる威力ではある。
「ジェネレーターや機導術で制御してもそこまでは届かんじゃろう。ルペーノ殿提案の自爆装置の発想を転換した輻射波動装置はどうじゃ」
ミグが、すっかり慣れた設計ソフトで新規兵装を提案する。
エネルギーを蓄積し一気に放出することで範囲攻撃をも可能とする計画だ。
「いいですね。実際の感触はどうでしょうか」
クオンが機体に向き直ると、ジーナから引き継いだウーナが軽く手を振った。
「それを目指すと精霊消費型になると思う」
エンジンと精霊が普通に頑張るだけでは届かないと、直感が強く囁いていた。
ウーナは、稼働時間を最大化するためのシフト表に従い試験をこなす。
スキルトレースシステムの調整は順調だ。
射撃試験についても、静止時はもちろん回避行動中も素晴らしい命中率が出て所内全体が盛り上がる。
「あっちゃー。これでほぼ上限ってことは、この子白兵寄りね」
ウーナの技術があっても素晴らしい止まりだ。
戦術次第ではあるが、邪神を射貫くには工夫とパイロットの能力が必要かもしれない。
「ウーナちゃーん」
「ん」
阿吽の呼吸で新種の実験を飛び入りで実行する。
回避や防御の最中に、余剰のエネルギーとマテリアルを防御にまわす。
最高でブラストハイロゥ、最悪でもマテリアルカーテン的なものになるかと思っていたのに、実際に発動したのはそのどれとも違った。
「ディヴァインウィル!? ううんそれより少し強いよウーナちゃん」
司教レベルを通り越し守護者級の法術使いの鑑定である。
「使い方に工夫が必要そう」
だね、と言い終えるより早く試作機から精神が追い出された。
強制リジェクション機能を精霊ではなくウーナに使われたのだ。
「エネルギー切れかー」
Lサイズ2つめを空にし分厚いハンバーガーを平らげても、空腹はおさまらなかった。
●量産? 開始
クリムゾンウェスト連合軍から、王国を通して正式な通知が行われた。
「正式採用だ。生産ラインの稼働は来月。ベリアル金属の調整から刻令術付与まで手作業によるところが多い為、大量生産とはいかんだろう。――が、採用は採用だ」
老若男女、精霊人間を問わず歓声があがる。
「いくらなんでも急すぎない?」
「初期不良は増えるかもしれんな」
ウーナとミグはお互い見もせずに羊皮紙と格闘している。
王国側が格式にうるさいため、命名提案書を1行書くだけでも非常に面倒だ。
「複数機や部隊での運用試験とかまだなんだけど」
「エンジン強化も間に合いませんでしたね」
再現可能な機体スキルを纏めながら悠が息を吐く。
「最終調整は試験を続けながらになりそうですね。少しお借りします」
自分の分の提案書を書き上げたクオンが試作機に乗り込む。
思った通りに強力な機体が動かすのは非常に楽しい。
が、思ったほどの威力がないのも実感してしまう。
「もう少しいけると思うのですが」
白兵戦時のデータ取りの続きを進める。
一度最後まで済ませてからもう一度。
すると、パイロット以外は全く同じ条件なのに大きな誤差が見つかる。
「ジーナさんの白兵戦の数値だけが2割増し?」
数値に気付いた研究員たちが顔を真っ青にしてデータの再検証を始める。
「白兵戦全体での誤差ではありませんね。エンジン出力が増えているとき限定、ただし誤差は1パーセント未満から数十パーセントまで様々」
何か、大きな戦力が眠っている気がした。
重機関銃の発射炎が連続し、銃弾が大気を裂く音が連続して聞こえた。
試作機との距離は20メートル。
現代火器にとっては至近距離であり、VOID襲来以前であれは確実に当たる距離であり、VOID襲来後でもだいたい当たる距離だ。
なのに、4連射40発の銃弾全てが試作機を捉えられずに特大盛り土へめり込んだ。
「いつの間にか、クリムゾンウェストの技術で人型機動兵器を作ってハンターの底上げをする話から精霊を利用した人型決戦兵器の話になっている気がしますが、気のせいでしょうか」
クオン・サガラ(ka0018)は試作機から強い精霊の気配を感じてなんとも表現し辛い顔になる。
「利用されているのはどちらかな」
リチャード・クラフトマン博士が楽しげに口元を歪めた。
近くのディスプレイに表示された数字が120から徐々に上昇する。
驚くほど繊細に制御されていた四肢が徐々に余裕を失い、70発目の銃弾が脇腹に当たった。
着弾の瞬間、着弾の装甲が銃弾を受け流す形に変わるが現代兵器の威力に完全には耐えられない。
装甲の一部が引き千切られ、パーツの一部と装甲片と一緒に背後の盛り土に叩き付けられた。
「試験終了」
騒然とする空間を、アダム・マンスフィールドの淡々とした命令が引き締める。
「試験終了します」
「回線を介しパイロットの健康状態チェック……問題なし」
「機体に爆発および暴走の兆候無し」
「使用した全弾を確認しました」
「試験場に異常無し」
アダムは小さくうなずき被弾箇所の入れ替えを命じる。
「了解、軽くばらして装甲も張り替えます」
「工房に連絡! 胸部……と背部装甲をデータ採った後に送る」
「ウーナさん、休憩に入って下さい!」
かつて無駄飯ぐらいという評され実際そうだった研究員たちが、リアルブルーの一線級人材に迫る動きを見せていた。
「いよいよ大詰めって感じだね」
試作機が完全に停止して数秒後、小柄なウーナ(ka1439)がするりと抜け出してくる。
「データ入力用のPDAちょーだい」
汗も拭かずに詳細な報告書を書こうとするウーナの首に、細いのにとんでもない力が籠もった腕がまわされた。
「ウーナちゃん、体調管理。ね?」
「いや、でも、急いだ方がいいよね?」
リチャード(72)並に気合いの入っていたウーナの声が平常に戻っていく。
「へろへろがりがりになったウーナちゃんは見たくないのっ。はいこれ」
Lサイズのシェークを平然と手渡す。
クリムゾンウェストに避難した地球企業からの差し入れ品だ。
パイロットに相応しい計算速度でカロリーをはじき出す。ちょっと口に出せない数字だ。
しかし家族の真心を拒絶するという選択肢はない。
覚悟を決めて太いストローで吸い込み、そしてようやく体に熱が不足していることに気付く。
搭乗中は意識が機体に移るとはいえ、加速に耐えるのも大変だし、膨大な情報処理を脳で行うことになる。
当然のようにカロリー消費も凄まじかった。
「次は博士に……あっ」
ディーナ・フェルミ(ka5843)の声が一オクターブ高くなる。
「プラトニス様~! こんな所でお会いできるなんて嬉しさのあまりタイやヒラメが舞い踊るの!」
高度な身体制御で無駄に高難度の踊りを披露しながら、ディーナが凄い勢いで巨大筋肉に走り寄る。
「是非サイン下さいなの!」
身の丈より大きな星神器とそれよりは小さいとはいえ十分大型なメイスを差し出すときも、よろけすらしない。
「こういう扱いが懐かしい。……上書きはまずいな」
星神器に力を注ぎかけて慌てて止める。
己が一側面を務めるクリムゾンウェストとの契約に口を挟むとややこしいことになるので、水性ペンを借り力を込めずに古の言葉で記入する。
「見に来て下さってうれしいの! 大精霊さまたちにはマスティマがあるの、プラトニス様たちも自分用の精霊騎を望んで下さったんでしょう?」
リチャード博士から禍々しいマテリアルが迸った気がした。
「それはナディアを通じて聞いてくれ。だが……そうだな」
発光が止まった試作機を見据え、うーむと考え込む。
「プラトニス様の権能は節制、つまりプラトニス様ならこの回路に手を加えることができると思うの。座すだけでなく見に来て下さったのは、RB戦に思う所があったからでしょう?」
「見に来たのは……だな」
リチャード(72)をちらりと見て珍しくため息。
「節制と最も遠いものを見守るためだ。それに、精霊が直接手を出しても多くの場合よいことにはならない」
直接手を出してどうにかなるなら、歪虚の駆逐はとっくの昔に終わっている。
だから、ディーナのような高位覚醒者に頼るし悪魔じみた老博士も許容するのだ。
「まだそのような意識でおるのか」
頑丈な床に硬質な音が響く。
巨大な精霊と比べると赤子並に小さなミグ・ロマイヤー(ka0665)が、超高位の精霊と真正面から向かい合う。
「禁忌を侵さずして勝てるならそうしよう。じゃが、リアルブルー凍結を受けてミグらには後がないのも事実」
2対の視線がぶつかり合う。
その激突に気付いていない研究員たちが、気付けないまま怯えて動きが鈍くなる。
「もちろん、対歪虚戦争に処理した結果精霊が死滅した世界しか残らん等戦いに勝って勝負に負けたも同義故、ミグらも可能な限り避けたい。だが状況が温い手段を許さないのはそなたも解っておろう」
「その論調は負マテリアルに手を出した者共と同じであると、分かっているだろう」
空気がさらに重くなり息をするのも苦しくなる。
試作機で遊んでいた精霊はいつの間にか逃げ去っている。
「無論」
「ええい分かりきったことをぐだぐだと。代われ」
割り込んできたルベーノ・バルバライン(ka6752)に、ミグは面白そうににやりと笑って場所を譲る。
「ここは自分が何ができるか何をしたいかを明言しそれに向かって邁進する場だ。出来ないことからどんどんその可能性が削れていく。俺は自分の目的を叶えるために努力しているぞ。お前はそれを形にするために、何かしたのか? 反対するだけでは意見と言わん。それは、時間の無駄と言うのだ」
役割が違うという精霊をルベーノは鼻で笑う。
「節制の。お前は最初から、俺達の研究が勝手に周囲の精霊を巻き込んで被害を与えていると思っていたわけではあるまい」
コクピットに供えられたLサイズシェーキが、質量が変わらないまま存在感を薄めている。
精霊は力を貸すだけでなく感謝も受け取り自身も楽しんでいた。
「大精霊自身が此度の戦場で奮戦した。次、もしくは次の次が邪神ファナティックブラッドとの決戦になる。だから精霊たちも集まった。それが分かっていたから、四大精霊のうちのお前がここに来たのだろう」
赤い瞳が燃えるような存在感を放つ。
「他の四大の権能では、この精霊機は完成せん。機体を制するために、お前の節制の権能が要る。これは数打ちのCAMではない。限られた、対邪神用の最終兵器だ」
星神機と比べると大量生産品かもしれないが、邪神と戦える者くらいしか扱えないという意味では妥当な表現だ。
「節制の。お前の力を貸してくれんか。俺達にとってもお前たちにとっても、邪神戦は最終決戦。大精霊自身が示したように……俺達と共に戦ってはくれないか」
傲岸不遜と評されるほどに誇り高い彼が、これ以上無いほどに頭を下げた。
「すまぬ。見逃すのが精一杯だ」
絞り出すような返事が届き、ルベーノはゆっくりと上体を起こしてから破顔した。
「リチャード! どうやら貴様は大精霊の御業の近いことを成し遂げたようだぞ!」
大精霊が手助けする必要がないほどの完成度だと解釈した。
「それはアダムの功績だろう」
老博士は目も向けずにケーブルとケーブルを繋ぐ機械を調整している。
「そんなことよりお前が連れて来たオートソルジャーの機嫌をとれ。マテリアル制御のストレスで完全にへそを曲げているぞ」
プラトニス相手の交渉をそんなこと呼ばわりする老博士に、信仰心厚い研究員は見てみないふりをする。
「意識の移行は?」
「AIか精霊か分からんものを迂闊に触れるか。お前が言うように喪われる精霊が居ては拙いだろう。試作機とデータのやりとりは出来たから伝達精度を3パーセントほど……」
博士は、術を使えないのに刻令術の領域にも踏み込んでいる。
「自力でそこまで辿り着いたか」
プラトニスの奥深くから、人間とはかけ離れた知性が老博士を見つめていた。
「具体的な話を詰めようではないか」
予測の範囲内での決着に満足し、ミグは実務的な話を進める。
「まず憑依に対する疲弊に耐えうるマテリアル量を保持している精霊の精霊側での選抜、機体との専属契約」
「いきなり強烈な内容だな。ドア・イン・ザ・フェイス(精霊翻訳済)のつもりか」
「言葉遊びをする時間的余裕はない。嫌がっているから取り下げはするが、精霊側が自発的にするのを止めはせんからな」
「中小精霊に勧めることもしないぞ?」
「それでいい。次の提案は疲弊精霊の強制リジェクション機能の搭載じゃ。実は既に搭載しとるんじゃが、精霊が機体の取り合いしとるので個々の精霊がほとんど疲弊せず試運用にならんのよな」
プラトニスは、無言で腹の上に手を当てた。
「おぬし等はそういう所が……」
胃袋はないのに胃痛を感じる。
ハンターも博士もアダムも能力は素晴らしい。
人格に癖のある者もいるが、能力の高さの割にはまともといえる。
だが、今回に限らず成し遂げたものが正負を問わず大きすぎる。
「ようプラトニス」
治療用のコルセットを装備したボルディア・コンフラムス(ka0796)が声をかける。
ああ、と予想以上に親しげな響きの返事に、ボルディアだけなく返事をしたプラトニスも驚く。
「契約書の文面や解釈で時間をとるのも馬鹿らしいだろ。プラトニスが信用できる上位精霊を実験に立ち会わせればいいんじゃねーか?」
信仰心が厚めな王国なら、精霊が危険と判断したとき研究員が呼応して実験を止めたりすることもできる。
派遣された精霊に監督者や実験アドバイザー的役目も担ってもらえば研究所側にも利益がある。
バランスのとれた現実的な提案であるはずなのに、プラトニスの反応は何故だか鈍い。
付き合いのあるアダムに意見を求めても、アダムも違和感は感じても原因にたどり着けない。
「プラトニス様、初めてお目にかかります。私、鹿東 悠と申します。この度はお時間を頂きありがとうございます」
水分補給に向かったボルディアたちと入れ替わり、鹿東 悠(ka0725)が挨拶する。
過剰な敬意も親しみもない態度に、プラトニスが安堵に近い感情を抱く。
悠は微笑んだまま冷静に反応を伺い話題を選ぶ。
「具体的にどのような懸念があるのでしょうか」
プラトニスが口籠もる話題からは離れ、揉める内容がない分野でまだ言葉になっていないことについて尋ねていく。
「たくさんあるとも」
見えないのに中精霊と一緒になって騒いでいる博士を見る。
「たとえば……」
ほぼ雑談であり、会話内容には新しい情報はない。
しかしプラトニスの話題や単語の選択から多くの情報をくみ取れる。
「やはり、精霊が直接開発に参加するのは難しいのですか」
「以前ならともかく、今では禁忌とまでは言わないが……」
悠は、今は飲食店経営志望だが元は地球連合軍に所属していた。
今のプラトニスは上司と部下の間で板挟みになった中間管理職によく似ている。
理はあっても強硬過ぎる方針の上司の直属の反応にそっくりだ。
「この世界を守るにはあなた方の力も必要なのです。どうか力を貸しては頂けないでしょうか?」
「……ハンター個人と精霊との契約については口を出さない」
「ありがとうございます」
悠は最敬礼をしながら1つの仮説に辿り着く。
プラトニスの本体である大精霊クリムゾンウェストは、人類に対し好意とは程遠い感情も抱いてる。
悪意でも殺意でもなく、しかし同程度に厄介な感情だ。
最悪の場合でも邪神の件が片付くまでは表に現れないことを、悠は祈るのだった。
●新たな鎧
「ありがとう。別の形でいずれまた」
ジーナ(ka1643)の言葉が儀式の〆だった。
前の代の試作機が素早く分解され、正マテリアルを付与された金属や特殊な合金が取り外され分別されそれぞれコンテナに積み込まれていく。
フレームに使われていたものは王国内の施設に運ばれ、次の機体のための合金として再生産される予定だ。
「あの工房で本当にいいのか?」
「よくはないが仕方が無かろう。リアルブルーから来た月が陥落したら整備もできぬでは話にならん」
話し込むボルディアとミグの近くで、猛烈な勢いで装甲が加工されていく。
鍛えているのは人間が4にドワーフが6。
後者のほとんどは王国外出身だ。
「これを参考にさせようにも技術がおっつかねぇか」
折角運び込んだ、法術刻印装備とアダマス鋼の全身鎧を見る。
「アークエルスに話を通す方が早い」
「間に合うかねぇ。オートマトンのエバーグリーン系技術も……ありゃあトマーゾ関係で所長が拒否するか?」
「後ろでプラトニスが凄い顔をしとるから、説得するならそっちを先にせい」
「ようやく思い出したぜ。プラトニスから時々感じるのはクリムゾンウェストの気配だ。何か関係あるのかねぇ」
「自分で答えを言うとるじゃ」
ボルディアはクリムゾンウェストの守護者の1人であり、クリムゾンウェストから直接支援されて邪神を殴った1人だ。
だから良い意味でも悪い意味でも警戒される。
「軽装の鎧はこれで仕上げか。歪虚及び弱小精霊による乗っ取りへ対抗は中枢にあれをまわすので良いとして……防御は回避と余剰出力頼みになるのう」
近接特化か飛行特化か。
いずれにせよ覚醒者であるエースパイロットにしか使えない代物になりそうだ。
「どうにも、厚くなりますね」
悠のコメントにドワーフが奮起する。
避弾経始を考慮した曲面重視で様々な工夫で軽量化も図ったものを頼んだ結果……装甲入れ替えだけは可能な装甲厚めのものが仕上がりつつある。
「悪いな。先に使わせてもらうぞ」
休憩中のウーナに一言断りを入れ、ジーナがコクピットの乗り込んだ。
数時間おきに改装を繰り返しているので相変わらず見慣れない。
念入りに体を固定して意識を機体に預けると、初期とは比較にならないほど滑らかに感覚が切り替わった。
「機体センサを五感として使えるのは……初めて乗る者が慣れるのに時間がかかるかもしれないな」
自分が作らせた鎖帷子状装甲の部品1つ1つまで感じ取れる。
「悪いが長丁場になるぞ」
うなずく気配と交代する気配が高位の次元から届く。
当然のようにエンジン出力が急変化する。
機体外の研究員が操作する前にジーナが意識で調整する。
「外部センサーの動作確認を完了しました」
「よし。祓いしものを使う」
ハンターに搭乗権のある既存機ではスキルトレース不可能なスキルを問題なく行使する。
リジェネレーションを交えながら2度、3度と繰り返し、都合6度繰り返したところで研究所全体から安堵の息が聞こえた。
「次は? 時間に空きがあるなら使わせて貰うぞ」
筋力充填を使って体の……機体の調子を確かめる。
「いけるな。――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ」
天駆けるもの。
空高く飛ぶための技で、敢えて低空で飛ぶ。
事故や失敗に備えるためだ。
降下時間が過ぎた筈なのに効果は落ちずむしろ動きの切れが増していた。
「後は」
一度降下し精密なデータをとらせてから、今度は余剰出力の制御に専念する。
マテリアルビームのつもりで盛り土に撃ち込むと、かなり大きく深い穴が開く。
「邪神の巨体や無数の雑兵を相手取るなら可能な限り広い攻撃範囲が欲しいが……」
魔法攻撃力はあるが、現時点では広範囲攻撃は形になっていない。
「現状でこの程度ですか」
クオンが真剣な顔で考え込む。
「十分な威力と思いますが?」
地球企業からの出向者が控えめに反論する。
「いえ、対邪神を考えるとこの程度は欲しいので」
クオンがキーボードで打ち込むと、出向者が悪趣味な冗談を言われたような顔になった。
「持続的な出力増でない以上、武装に回すしかないでしょう。従来のCAMでは人間にも負けるレベルの火力なんで最低でもこの程度は」
いわゆる攻撃力4桁である。
前衛系高位ハンターなら振るえる威力ではある。
「ジェネレーターや機導術で制御してもそこまでは届かんじゃろう。ルペーノ殿提案の自爆装置の発想を転換した輻射波動装置はどうじゃ」
ミグが、すっかり慣れた設計ソフトで新規兵装を提案する。
エネルギーを蓄積し一気に放出することで範囲攻撃をも可能とする計画だ。
「いいですね。実際の感触はどうでしょうか」
クオンが機体に向き直ると、ジーナから引き継いだウーナが軽く手を振った。
「それを目指すと精霊消費型になると思う」
エンジンと精霊が普通に頑張るだけでは届かないと、直感が強く囁いていた。
ウーナは、稼働時間を最大化するためのシフト表に従い試験をこなす。
スキルトレースシステムの調整は順調だ。
射撃試験についても、静止時はもちろん回避行動中も素晴らしい命中率が出て所内全体が盛り上がる。
「あっちゃー。これでほぼ上限ってことは、この子白兵寄りね」
ウーナの技術があっても素晴らしい止まりだ。
戦術次第ではあるが、邪神を射貫くには工夫とパイロットの能力が必要かもしれない。
「ウーナちゃーん」
「ん」
阿吽の呼吸で新種の実験を飛び入りで実行する。
回避や防御の最中に、余剰のエネルギーとマテリアルを防御にまわす。
最高でブラストハイロゥ、最悪でもマテリアルカーテン的なものになるかと思っていたのに、実際に発動したのはそのどれとも違った。
「ディヴァインウィル!? ううんそれより少し強いよウーナちゃん」
司教レベルを通り越し守護者級の法術使いの鑑定である。
「使い方に工夫が必要そう」
だね、と言い終えるより早く試作機から精神が追い出された。
強制リジェクション機能を精霊ではなくウーナに使われたのだ。
「エネルギー切れかー」
Lサイズ2つめを空にし分厚いハンバーガーを平らげても、空腹はおさまらなかった。
●量産? 開始
クリムゾンウェスト連合軍から、王国を通して正式な通知が行われた。
「正式採用だ。生産ラインの稼働は来月。ベリアル金属の調整から刻令術付与まで手作業によるところが多い為、大量生産とはいかんだろう。――が、採用は採用だ」
老若男女、精霊人間を問わず歓声があがる。
「いくらなんでも急すぎない?」
「初期不良は増えるかもしれんな」
ウーナとミグはお互い見もせずに羊皮紙と格闘している。
王国側が格式にうるさいため、命名提案書を1行書くだけでも非常に面倒だ。
「複数機や部隊での運用試験とかまだなんだけど」
「エンジン強化も間に合いませんでしたね」
再現可能な機体スキルを纏めながら悠が息を吐く。
「最終調整は試験を続けながらになりそうですね。少しお借りします」
自分の分の提案書を書き上げたクオンが試作機に乗り込む。
思った通りに強力な機体が動かすのは非常に楽しい。
が、思ったほどの威力がないのも実感してしまう。
「もう少しいけると思うのですが」
白兵戦時のデータ取りの続きを進める。
一度最後まで済ませてからもう一度。
すると、パイロット以外は全く同じ条件なのに大きな誤差が見つかる。
「ジーナさんの白兵戦の数値だけが2割増し?」
数値に気付いた研究員たちが顔を真っ青にしてデータの再検証を始める。
「白兵戦全体での誤差ではありませんね。エンジン出力が増えているとき限定、ただし誤差は1パーセント未満から数十パーセントまで様々」
何か、大きな戦力が眠っている気がした。
依頼結果
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![]() |
タコ部屋(相談卓) ミグ・ロマイヤー(ka0665) ドワーフ|13才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/11/18 23:04:27 |
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![]() |
メーガンに質問 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/11/16 23:15:24 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/14 21:29:29 |