ゲスト
(ka0000)
【東幕】御登箭領調査依頼
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/11/28 09:00
- 完成日
- 2018/12/10 01:04
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●天ノ都
憤怒の脅威が続いている。それはエトファリカ連邦国の首都であっても感じられるものであった。
着の身着のまま逃げて来た者、緊張した様相で武具を手入れする者、軍需品を慌ただしく運ぶ者。天ノ都の大通りは多くの人が行き来している。
「……何か知っているかと思いましてね」
大通りに面した茶屋で、一人の素浪人が熱いお茶がたっぷりと入った湯呑を揺らしながら静かに呟く。
素浪人と背を合わすように座っているのは美少年だった。
「昨年の春頃ですか……それにしてもザルな警備ですね」
「幕府軍は長江に出陣していましたからね」
「理由があるという事なら……その情報は高いですよ」
美少年が口元を緩めながら、片手を後ろに回し、素浪人の背を叩く。
3――4――5――6――7――その数が容赦なく上がっていく。
「…………高すぎませんか」
素浪人は思わず湯呑を落としそうになった。
たった一つの情報で法外な値段。
「へえ、払えないと仰いますか?」
「いえ、それだけの価値があるという事でしょうからね」
ようやく冷めたお茶をゆっくりと口に運びながら素浪人は答えた。
素浪人はこの美少年を信用している。この業界でやっていくには“信用”が第一だ。
法外な値段を提示してきたのは、情報が“信用”できるものだという意思表示ともいえるだろう。
「商談成立って事で。欲しい情報はこれでしょ」
丸めた紙切れをサッと素浪人に渡した。
そこに書かれた内容を確認し、素浪人は大事に紙切れを仕舞う。
「それでは、支払いはいつもの通りで」
「毎度ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
そう告げて、素浪人はスッと立ち上がった。
そして立ち去り際に独り言のように告げた。
「そうそう、スーさんの事。よろしくお願いしますね」
人混みの中に紛れるように消え去った素浪人の気配を追い掛けながら美少年も呟いた。
「……もう少し、身辺に気を配る必要があるかな」
●登箭城
東方各地で幕府軍の敗戦が目立つ中、襲撃してきた憤怒を迎撃し“大将格を打倒した”と騒ぐ御登箭家の登箭城には、多くの人々が集まっていた。
それほど、大きな勝利だった。当主の仇討ちも成ったとあれば、盛り上がらない訳がない。
近隣の中小武家領から避難してくる者も多く、御登箭領内はかつてない程、賑わっていた。
「……これが狙いでしたか」
天ノ都から戻って来たタチバナが深々と被った外套を除けた。
脅威がなくなったからか、あるいは浮かれているのか、城門の警備は警備として成り立っていなかったのだ。
これでは好き勝手に人々が出入りできる。今はいいかもしれないが、後ほど、治安が悪くなるだろう。
タチバナは予め用意していた古い屋敷にサッと入った。
数人の見張りはいずれも立花院家の手の者で、かつ、覚醒者である。油断なく周囲を警戒している。
「皆さん、お待たせしました」
広間に入ったタチバナは集まっているハンター達に頭を下げる。
待たせた……というか、時間通りではある。薄暗い広間の中、マテリアルの灯が淡く光っていた。
「まずは秘密裏に集合の事、お手数お掛けしました。“依頼主”からの希望であるとご認識いただければと思います」
控えていた忍びが忍びらしい速さでハンター達に資料を配る。
そこには、秘宝『エトファリカ・ボード』に関する事が記載されていた。
「秘宝の件について、現状判明している事は記してある通りです。そして、ある情報によると、昨年の春頃、龍尾城に忍び込んだ者がいると分かりました」
どよめく広間。ハンター達の中には龍尾城の警備がどれ程厳しいか知っている者もいるのだろう。
タチバナの話は続く。
「忍び込んだ者の特徴を辿るうちに、黄土色の布地に至りました」
「黄土色?」
幾人かのハンターが首を傾げる。
「また、別の調査によって、黄土色の羽織を着た侍が、天ノ都にある御登箭家の屋敷に出入りしている事も判明しています。そして、忍びがあった日、宝物庫の警備を行っていたのは御登箭家です」
「つまり、御登箭家が忍びを手引きしたと?」
タチバナは頷いた。
もし、その推測が正しければ、御登箭家が秘宝紛失に大きな関わりがある事になる。
必ず、『忍びを手引きした理由』があるはずだ。
「ちょっと待ってくれ。この資料によると“秘宝”は嘉義城の地下施設で見つかって、今は龍尾城に保管されているのじゃないのか?」
資料を振りながら、あるハンターが訊ねる。
事の真偽を確認する為であれば、わざわざハンター達に依頼させる必要もないだろう。
当主は戦死して既にこの世にはいないが、御登箭家の者を問いただせばそれでいいはずだ。
「“秘宝”が『何故、嘉義城にあった』のか……この事実が不明のままなのです」
「つまり、嘉義城で見つかった“秘宝”が本物かどうか、それを確認する必要があるという事ですか」
「飲み込みが早くて助かります。『忍びを手引きした理由』と『嘉義城に保管した理由』が分かれば、見つかった“秘宝”が本物かどうか、確信を得られると思っています」
だからこそ、ハンター達に依頼して情報を集めるという事なのだろう。
天ノ都に呼び出すならまだしも、幕府が表立って御登箭家領内で調べる事も、体面的な問題がある。
「逆に言うと今ある“秘宝”が偽物だっていう可能性もあるって事か」
あるハンターが険しい表情で呟いた。
もし、偽物だったら、本物はどこにあるのか、恐らく、それも“依頼主”は欲しているはずだ。
「調査は難航するかもしれませんが、よろしくお願いします」
タチバナは今一度、頭を下げるのであった。
憤怒の脅威が続いている。それはエトファリカ連邦国の首都であっても感じられるものであった。
着の身着のまま逃げて来た者、緊張した様相で武具を手入れする者、軍需品を慌ただしく運ぶ者。天ノ都の大通りは多くの人が行き来している。
「……何か知っているかと思いましてね」
大通りに面した茶屋で、一人の素浪人が熱いお茶がたっぷりと入った湯呑を揺らしながら静かに呟く。
素浪人と背を合わすように座っているのは美少年だった。
「昨年の春頃ですか……それにしてもザルな警備ですね」
「幕府軍は長江に出陣していましたからね」
「理由があるという事なら……その情報は高いですよ」
美少年が口元を緩めながら、片手を後ろに回し、素浪人の背を叩く。
3――4――5――6――7――その数が容赦なく上がっていく。
「…………高すぎませんか」
素浪人は思わず湯呑を落としそうになった。
たった一つの情報で法外な値段。
「へえ、払えないと仰いますか?」
「いえ、それだけの価値があるという事でしょうからね」
ようやく冷めたお茶をゆっくりと口に運びながら素浪人は答えた。
素浪人はこの美少年を信用している。この業界でやっていくには“信用”が第一だ。
法外な値段を提示してきたのは、情報が“信用”できるものだという意思表示ともいえるだろう。
「商談成立って事で。欲しい情報はこれでしょ」
丸めた紙切れをサッと素浪人に渡した。
そこに書かれた内容を確認し、素浪人は大事に紙切れを仕舞う。
「それでは、支払いはいつもの通りで」
「毎度ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
そう告げて、素浪人はスッと立ち上がった。
そして立ち去り際に独り言のように告げた。
「そうそう、スーさんの事。よろしくお願いしますね」
人混みの中に紛れるように消え去った素浪人の気配を追い掛けながら美少年も呟いた。
「……もう少し、身辺に気を配る必要があるかな」
●登箭城
東方各地で幕府軍の敗戦が目立つ中、襲撃してきた憤怒を迎撃し“大将格を打倒した”と騒ぐ御登箭家の登箭城には、多くの人々が集まっていた。
それほど、大きな勝利だった。当主の仇討ちも成ったとあれば、盛り上がらない訳がない。
近隣の中小武家領から避難してくる者も多く、御登箭領内はかつてない程、賑わっていた。
「……これが狙いでしたか」
天ノ都から戻って来たタチバナが深々と被った外套を除けた。
脅威がなくなったからか、あるいは浮かれているのか、城門の警備は警備として成り立っていなかったのだ。
これでは好き勝手に人々が出入りできる。今はいいかもしれないが、後ほど、治安が悪くなるだろう。
タチバナは予め用意していた古い屋敷にサッと入った。
数人の見張りはいずれも立花院家の手の者で、かつ、覚醒者である。油断なく周囲を警戒している。
「皆さん、お待たせしました」
広間に入ったタチバナは集まっているハンター達に頭を下げる。
待たせた……というか、時間通りではある。薄暗い広間の中、マテリアルの灯が淡く光っていた。
「まずは秘密裏に集合の事、お手数お掛けしました。“依頼主”からの希望であるとご認識いただければと思います」
控えていた忍びが忍びらしい速さでハンター達に資料を配る。
そこには、秘宝『エトファリカ・ボード』に関する事が記載されていた。
「秘宝の件について、現状判明している事は記してある通りです。そして、ある情報によると、昨年の春頃、龍尾城に忍び込んだ者がいると分かりました」
どよめく広間。ハンター達の中には龍尾城の警備がどれ程厳しいか知っている者もいるのだろう。
タチバナの話は続く。
「忍び込んだ者の特徴を辿るうちに、黄土色の布地に至りました」
「黄土色?」
幾人かのハンターが首を傾げる。
「また、別の調査によって、黄土色の羽織を着た侍が、天ノ都にある御登箭家の屋敷に出入りしている事も判明しています。そして、忍びがあった日、宝物庫の警備を行っていたのは御登箭家です」
「つまり、御登箭家が忍びを手引きしたと?」
タチバナは頷いた。
もし、その推測が正しければ、御登箭家が秘宝紛失に大きな関わりがある事になる。
必ず、『忍びを手引きした理由』があるはずだ。
「ちょっと待ってくれ。この資料によると“秘宝”は嘉義城の地下施設で見つかって、今は龍尾城に保管されているのじゃないのか?」
資料を振りながら、あるハンターが訊ねる。
事の真偽を確認する為であれば、わざわざハンター達に依頼させる必要もないだろう。
当主は戦死して既にこの世にはいないが、御登箭家の者を問いただせばそれでいいはずだ。
「“秘宝”が『何故、嘉義城にあった』のか……この事実が不明のままなのです」
「つまり、嘉義城で見つかった“秘宝”が本物かどうか、それを確認する必要があるという事ですか」
「飲み込みが早くて助かります。『忍びを手引きした理由』と『嘉義城に保管した理由』が分かれば、見つかった“秘宝”が本物かどうか、確信を得られると思っています」
だからこそ、ハンター達に依頼して情報を集めるという事なのだろう。
天ノ都に呼び出すならまだしも、幕府が表立って御登箭家領内で調べる事も、体面的な問題がある。
「逆に言うと今ある“秘宝”が偽物だっていう可能性もあるって事か」
あるハンターが険しい表情で呟いた。
もし、偽物だったら、本物はどこにあるのか、恐らく、それも“依頼主”は欲しているはずだ。
「調査は難航するかもしれませんが、よろしくお願いします」
タチバナは今一度、頭を下げるのであった。
リプレイ本文
●ハンス・ラインフェルト(ka6750)&穂積 智里(ka6819)
職人街をハンスと智里が仲良くくっつきながら歩いていた。
行き交う人々は多いし、職人の区画であるだけに、買い付けに来た人や行商人なども見かける。
「これだけ人の流入が増えたのです。質流れした面白いものが出回っていそうじゃありませんか」
周囲を見回しながらハンスは言った。
刀や鍔、鞘などの武具類は勿論、普段の着物にも視線を向ける。
その様子は買物客と言われても違和感ないだろう。
「シノビが居たということは、私達も観察される可能性がある……と言うことでしょうか」
「どこの武家にもそうした役目の人はいるでしょうからね」
智里の台詞にハンスがそう返した。
御登箭家はエトファリカ連邦国の中で上位武家なのだ。忍びがいないと考える方が不自然だろう。
ただ、今は戦勝祝いの最中で賑わっているので、容易には忍びに見つかる事は無いはずだ。
「それでも依頼主からの注意もありますし。忍びに見つからずに情報を探るのは大変そうです」
「早々見破られるとは思いませんよ……ん……これは、マウジーに似合いそうです。是非次のデートで使って下さいね」
ハンスが手に取ったのは可憐な花模様が美しい簪だった。
真面目な話をしている中で彼の唐突な行動に驚く智里。
「可愛いですね、これは」
手渡された簪を興味深そうに見ながら智里は応える。
デートを装っているような二人だが、どう見てもデート以外には見えそうにない。。
「思わず、散財してしまいそうです」
「良からぬ者を呼び寄せてしまいそうですね」
最も、その場合は返り討ちするだけの事ではあるのだが。
それにハンスの雰囲気からは侍の匂いがしそうで、そういう意味でも、金目当てに襲ってくる者はいないだろう。
「……あれは、黄土色の……法被ですか」
「本当ですね……聞いてみましょうか」
幾つか職人の店を回った時、二人は特徴的な黄土色の法被を壁に掛けている店を見つけた。
例のシノビが身に着けていた色と同じかどうか分からないが、二人が尋ねた所、その法被は、かつて御登箭家に嫁いでいったとある武家と関わりがある事を示すものだという。
●歩夢(ka5975)&レイア・アローネ(ka4082)&伊勢・明日奈(ka4060)
「それでは俺が一つ、占ってみるか」
奇書と呪符を広げながら歩夢が軽い口調で言った。
酒が入って若干酔っているとはいえ、本格的な手の動きに、同じ卓についた職人が歓声を上げる。
「そんな軽々しく……“うちの兄”がすみません」
苦笑を浮かべながら明日奈が職人に告げる。
ここは、歓楽街のある酒場だ。景気良く飲んでいたら、相席となったが、偶然かあるいは店選びが良かったのか、相席になった人は3人が探している職人だった。
「いやいや、最近流行っているみてーだから、ぜひ、兄ちゃんに占って貰いたいぜ」
「“主”の占いはよく当たるって話だからな」
職人の台詞にレイアが応える。
歩夢と明日奈とレイアの三人は、商人兄妹とその護衛という事で調査しに来ている。
「ほぉ。するってーと、絶対当たるという占い師さんは、兄ちゃんの事かい?」
「いくらなんでも、“兄”の占いはだって、いつも当たりませんよ」
驚きの表情を浮かべる明日奈。
占いと言うものは、当たるも八卦当たらぬも八卦だ。符術の使い手である歩夢であっても外れる事はあるだろう。
「いつも当たるなら苦労も少ないだろうしな」
レイアが不敵な笑みで言った。
乾いた笑いで答えながら歩夢はふと疑問が浮かぶ。
「絶対当たる占い師では俺はないが、そんな占い師がいるのか?」
「ごく最近、噂になってるんだ。この街の付近にそんな占い師が来ているってな」
「それは一度、逢ってみたいものだな」
感心しながら、歩夢は符を捲り出した。
かなりの術の使い手なのかもしれないからだ。
真剣に占いだした歩夢を横目に明日奈が訊ねる。
「この街には初めて訪れたのですが、どんな街なのですか?」
「御登箭家の本拠地だからな。この辺りじゃ大きい街だよ。色々な職人は多いと思うよ」
ここぞとばかりにレイアも訊く。
「鍛冶職人だけじゃなく、鎧なんかもみられる職人もいるのか?」
「あぁ、甲冑職人もいりゃ、武具だけじゃなく日用品を作る職人も多いぜ」
「ふむ……何か理由があるのか? 職人が多い理由が」
「そりゃ、御登箭家が熱心だからだよ」
御登箭家は職人に対する優遇が盛んだったという。
それがあり、多くの職人が集まり、あるいは育成されていたと……この職人は続けた。
優れた職人がいれば、質の良い品を求めて多くの商人が訪れる。
街に来る人が多くなれば、宿や酒場も増え、さらに必要な人・物・金が集まってくる。
御登箭家はそうして、大きくなっていったのだろう。上位武家といっても、その在り方は武家それぞれで特徴があるようだ。
そうこうしているうちに歩夢の占い結果が出たようだ。
「……これは、良い暗示が出ているな。商売が上手くいくようだ。俺も一口乗りたい所だ」
「そうかそうか。そりゃいいぜ。御登箭家はこれから増々、栄えるとか噂がある位だしな、当たるぜ、兄ちゃんの占いよ!」
職人がバシバシと歩夢の背を叩きながら上機嫌に言った。
何気ない会話だったが、重要な情報の多くをきっと、得られたはずだ。
●星野 ハナ(ka5852)
大市場には多くの人々が行き交っていた。特に多いのはこの街の住民だろうか。
日々の食材は勿論、日用雑貨品も揃っており、聞き耳を立てやすいように適した場所を占ったハナも納得の賑わい具合だった。
「今回はピーピング頑張れでしょうかぁ」
大事なのは情報を得る事。
時には人々の会話の中に、真実が隠れている事もある。
「これだけ人が集まったんだから掘り出し物もあるかと思いましてぇ。お勧めは何ですぅ?」
装飾品を扱う店でハナは如何にも買い物にきたお姉さん……というか、バーゲンセールでよく見かけそうな血走った目を醸し出しながら品物を探す。
と見せかけながら、周囲の会話に耳を傾けた。
聞こえてきたのは武家の関係者らしい身なりの年配の女性達の会話だった。
「……これは、盲点でしたぁ……」
会話を盗み聞いていたハナだったが、残念な事に周囲の騒音も激しく、会話は途切れ途切れだった。
推測する事も可能だが、大事な所も抜けている気がするし、更に詳しく聞こうにも妙に警戒心を抱かれ兼ねない。
「とりあえず……“どこかの警備の輪番”みたいですけどぉ」
登箭城や城下町の警備の話ではない――となると、どこの警備の話なのだろうか。
そう感じながら、ハナの情報収集は続いたのであった。
●カイ(ka3770)
市場を巡っていたのはカイも同様だった。
「地元の話は地元に聞けって言うしな」
人の良さそうな露店を見つけて出来立ての饅頭を注文した。
ふっくらした食感を楽しみながら、笑顔で店員に呼び掛けた。勿論、それは警戒心を持たれないようにという情報屋としての行動でもあるが。
「この辺りに引っ越そうと思っているんだが、実際、住みやすいのか?」
「天ノ都ほどじゃないが、まぁ、東方の中じゃ、住みやすい所だよ」
城下町の雰囲気は戦勝祝いという事もあって賑やかな様子なのは明らかだ。
生活水準も低くはなさそうではあるし、治安も今の所は悪くはない雰囲気である。
「さっき、奥様方の井戸端会議を耳にしたんだが、前に移住があったんだって?」
それはカイが調べた情報の中にあったものだった。
情報の真偽を確認する必要があると思ったのだ。
「移住というか……御登箭家と親しい武家が一つになったんですね。その時に、その武家が治めていた街から引っ越したんですよ」
「それは広く知られている事なのか?」
「そんな事はないかと思いますよ。私の祖父母が子供の頃に移って来た時の話らしいですから」
秘宝とは一見関係ない話かもしれないが、その話をカイは頭の中に深く刻み込んだのであった。
●アルマ・A・エインズワース(ka4901)
大通りの一角で人々が歓声を上げていた。
戦勝祝いの為だけではない。広場で芸を披露している者が居たからだ。
一通りの大道芸が終わり、手品で作り出した花を観客に手渡していくアルマ。
「僕、西の方から来た、青いエルフの大道芸人です! どうぞ皆様、お気軽に、アルとお呼びください!」
「遠い所から、わざわざこの街に?」
観客の一人がアルマの自己紹介の台詞に声を掛けてきた。
「芸やらせて貰いながら、ちょっとその国や街の珍しいものを見て旅しているんですよー」
「こんな所に珍しいものなんてねー」
「皆さん何か面白いものや珍しいもの、知りません? ヒトとかでもいいんで……あ、それだと僕になっちゃいますね?」
「そうよ、ねー」
おばさま達が顔を見合わせて笑う。
何か物凄い観光名所は――ない様子だ。ついでいうと城下町の作り自体、何か違和感は無かった。
「そうそう、よく当たる占い師っていう噂は?」
「城外に居るって話の?」
「でも、最近は城下町にもいたって聞いたような」
「その占い師、狐っぽい女性だったという話よね~」
アルマを差し置いて勝手に話し出すおばさま達。
ただ、その会話の中にアルマは酷く反応するワードを感じた。
単なる勘違いかもしれない。だけど、きっと、用心した事に越した事はないはずだ。
●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
祝勝景気に儲けようとしてきた辻占い師、ミスティックルンルンは占いに追われていた。
思った以上のお客様。それも可笑しな事に、来る人のうち何人かが、ルンルンの事を“よく当たる占い師”と勘違いしているようだった。
(忍法とカードの力で、エトファリカボードの謎に迫っちゃうつもりが、大変な事に……)
ズラーと並ぶ占い希望者の列。
占って行くのは大変かもしれないが……ここは逆にチャンスかもしれない。
(秘宝の正体、とっても気になるもの。情報集めはニンジャにお任せなんだからっ!!)
と、心の中で張り切るルンルン。
占い交じりに町の人の噂を聞いたり、黄土色の羽織を着た侍の話を、さり気なく挟んで聞き取りしていく。
左右の指の数を掛けたよりも多くの人々の話を聞いた所で、ルンルンはある事に気が付いた。
(何人かは別の占い師の所でも“同じ事”を訊かれたって、もしかして、私の他にも誰か占いで調査を!?)
ハンターの中には符術が得意な者もいるので不思議はない。
だが、仲間達との行動を開始したタイミングを考慮すれば、明らかに、ハンター達よりも前だろう。
(それじゃ、訊いていたのって、誰だろう?)
そんな疑問を頭の中で浮かべつつ、ミスティックルンルンは占い希望者の対応に追われるのであった。
●ヘルヴェル(ka4784)
ちょっとした懐かしさを感じながら、ヘルヴェルは場末の店を主に回っていた。
この街で得られた情報は何に繋がるか分からないものだ。
だから、小さい事でも丁寧に、ただ、表向きはそう感じさせないように情報を収集している。
「景気はどう?」
飲み屋の席で一緒になった遊女に、チップを渡しつつ尋ねる。
「お祝いのお陰で、上々ですよ」
「急に羽振りが良くなったり、賭け事に走る人とか増えているの?」
「憤怒の脅威が無くなりましたから」
上品そうに遊女は笑った。
遊女の話によると、2年程前まで景気は良かったという。
「……あんまり大きな声で言えないけど、ほら見て、これ」
掲げたのは天ノ都でも名の知れた老舗の巾着だった。
「これね、実は偽物なの」
「よく出来ているんですね」
「2年位前まで、凄腕の贋作職人達の羽振りが良かったのよ。最近じゃ、めっきり、顔を見なくなったけど」
金を使い果たしたのか、あるいは領内から追い出されたのか。
その辺りまでは調べられなかったが、きっと、これも重要な情報なのだろうとヘルヴェルは感じた。
●銀 真白(ka4128)&七葵(ka4740)&ユリアン(ka1664)
秘宝『エトファリカ・ボード』が偽物という可能性。
東方と秘宝を巡る様々な出来事を追い駆けて来たハンターの中にも、そう考える者がいた。
「仮に偽の秘宝が用意されていたのだとすれば、それを作った職人などがいたやも知れぬ」
路地の一角で真白が仲間に告げた。
そもそも、何故、偽物が必要だったのかという大前提はあるのだが、それを推測する為の材料はない。
「それらしき職人がいなければ、今ある秘宝が本物である可能性があるか」
口元を布で多い、一見、武芸者のような姿をした七葵が言う。
その場合、今だけではなく過去に遡って確認する必要があるだろう。
どうやら、各々が何を調べるべきか確認できたようで、薬箱を背負い、ユリアンが立ち上がりつつ、言葉を紡ぐ。
「秘宝は“東方の地図を描いたような絵の宝物”だった。となると、俺は模写が得意な職人を探してみるよ」
効率良く探す為の理由を、ユリアンは既に頭の中に描いていた。
今ある秘宝が偽物と決めつけるには早いが、そう見当をつけて探す必要性はあるはずだ。
「それなら、私は材料や道具などの線から調べるとしよう」
「俺は急に景気が良くなった者が居なかったか、歓楽街に行ってくる」
真白と七葵がユリアンの宣言に応え、三人は互いに顔を見合わせ、軽く頷くと、それぞれ路地から出て行った。
ただの旅人を装いながら真白は城門付近へと足を運ぶ。
多くの人々が行き交っている。特に多いのは商人達だろうか。荷物を降ろす者、載せる者、商談する者と様々だ。
「珍しいモノの収集を趣味としているのだが、何か変わった物の仕入れや、それを欲しがる人などいなかったか?」
用意していた台詞で真白は商人に話し掛けた。
幾人から反応はあったが、それはいずれも真白が探しているような情報ではなかったが、十人目の時にある商人から面白い話が聞けた。
「前に、質の良い画材の仕入れ話があったな。今は憤怒勢力域となった地方でしか取れなくなった顔料とか」
「憤怒勢力域の……いつ位の話だろか?」
真白の問いに商人は思い出すかのように唸る。
「多分、数年前じゃないかな。だから、その珍しい顔料を探すのは大変かもしれないよ」
両肩を竦めて商人は立ち去っていった。
その背を見届けながら、真白はふと思い至る。
(……もし偽物を作るなら、同じ顔料が良いはず……)
やはり、今ある秘宝は偽物なのかと思う真白であった。
七葵は歓楽街へと入って来た。
昼間と言うのに、ここも大勢の人々で賑わっていた。酔っ払いや芸妓の姿も多いし、遊女も声を掛けてくる。
それらを流れるように避けながら、七葵は宿や料亭などを中心に回っていた。
数軒目の料亭に入った所で、気前の良い亭主に武芸を求められて、七葵はそれに応え、素早い刀捌きを披露した。
亭主は歓声と共に拍手をいつまでも続ける。
「いや、素晴らしい。それに、実に見事な刀。優所正しき名刀の如き一振りだ」
「ありがとうございます。ただ、最近は物騒な時なので、賊対策に模造品が欲しく、職人を探しています」
目上の亭主に礼儀正しく頭を下げながら、七葵はさり気なく聞いた。
「一昔前までは贋作作りが流行って、羽振りの良い職人も多かったけどな」
ひょんな所から探していた情報が出てくるものだ。
「その職人達は?」
「2年位前かな。急に取り締まりが厳しくなってね。気がついたら居なくなっていったよ」
亭主の言葉を記憶に刻む七葵だった。
幾人か絵師を訊ね歩いていたユリアンは、ある者に辿り着いていた。
「東方の薬草を調べていて、東方専用の薬草百科を纏められたらと思って、探していたら、貴方を紹介された」
「これは西方の異人さんかの」
老人画家は細い目を開き、ユリアンを見つめる。
「写実的で、模写が得意な方が良いんだ。画像よりも美しく描ける人をね」
そういってユリアンは魔導スマートフォンの画面を見せる。
画面に視線を向け、老人画家は首を横に振った。
「流石に、それよりも上手く描ける者など……」
「いないですか?」
ユリアンの言葉に唸りながら老人は背を向ける。
そして、独り言のように呟いた。
「1、2年前までは居たんじゃがな。誰もが騙される程の凄腕の贋物職人がの」
それだけ言い残し、老人は家の奥へと立ち去って行った。
●ミィリア(ka2689)
「お、お尋ねしますーでーござるー!」
恐る恐る、古ぼけた戸を開くミィリア。
戦勝祝いに乗じて訪れたドジっ子メイドに扮して情報収集した結果、とある職人を紹介されたのだ。
住宅街の中でも奥深く、案内人が居なければ行きも帰りも分からない、そんな場所だった。
「なんか用か?」
出てきたのは髭がもじゃもじゃのおっさんだった。
鋭い眼光はまるで、凄腕の戦士を彷彿とさせるが、全身から発せられるのは強者のオーラではなく、酒臭さだった。
「主人の傘をうっかり壊してしまって……お気に入りの物だったから、そっくり同じ柄が欲しいのでござる!」
破けた傘を掲げながらミィリアは説明した。
おっさん職人は大きなため息をついた。
「贋作屋は畳んだんだがな……彼奴の紹介だから、特別だ」
「感謝でござる!」
どうやら、紹介してくれた人と出会えたのは幸運だったようだ。
「職人さんは贋作屋さんだったんですか?」
「昔の話だ。望んでやっていた事じゃねぇ」
ミィリアから受け取った傘の柄を観察しながら、職人は別に傘に柄を描き始めたのであった。
●ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)
泊まった宿の部屋に運び込まれたのは十数本の反物。
いずれも山吹や黄土の色をした物であった。
薄い色から濃い色まで揃っており、並べると鮮やかなグラデーションとなっていた。
「お目当ての物はおありでしょうか?」
宿の女将がそう訊いた。ニャンゴは秘宝の手掛かりの一つである“黄土色の羽織”を追っていた。
その為、女将に着物の買付にやって来たという事を説明し、似たような色の布地を探して貰ったのだ。
「……思ったより沢山あるのですね」
「えぇ。以前、この近くを治めていたある武家の家紋色ですから」
女将の言葉に反物に手を伸ばそうとしたニャンゴの動きが止まる。
「その武家は、今は?」
「御登箭家に入ったと聞いています。今でもその武家と関わりのある者は、黄土色の羽織や着物を好むそうですよ」
それなりに需要があるからこそ、女将がこれだけの量の反物をすぐに用意できたのだろう。
(つまり……黄土色の羽織は、御登箭家の手の者――の中でも、別の武家の者だという事のようですね)
ニャンゴはそう感じながら反物の一つを手に取るのであった。
●夢路 まよい(ka1328)
比較的大きい庭園に、まよいは来ていた。他のハンターが来ないであろう緑地に足を運んでいたからだ。
だが、秘宝について有益な情報を得られる事は無かった。
池の傍で体育座りしながら揺らいでいる水面を眺めて考える――こうなったら、積極的に聞き取りにいこうかと。
「あれ?」
胸を突くような違和感に、まよいは顔を挙げて周囲を見渡す。
辺りには誰もいない……というか、鳥の姿も見えないし、この池に魚の姿もない。
その状況は、穏やかな午後というよりかは、不気味に感じられた。
「……負のマテリアル?」
スッと立ち上がる。愛用している杖は置いてきたから少し心許ないが、戦えない訳ではない。
怪しそうな茂みを見つけると、慎重に近寄る。
万が一、歪虚が奇襲を仕掛けてきても、すぐに対処できるようにと頭の中で使うべき魔法を思い浮かべた。
「何もいない……けど、負のマテリアルは感じる。どこかに移動したのかな?」
感じた気配は負のマテリアルによって汚染された場所だったようだ。
覚醒者に感じられるほど汚染を残す程だ。もしかして、高位の歪虚の可能性もある。
「まさか、城下町の中に侵入されているというの」
まよいは首を傾げたのであった。
●八島 陽(ka1442)
竪琴が奏でるメロディーが宴会の席に流れた。
曲を弾いているのは、八島だった。楽器演奏も占いも出来るという事で、宴を盛り上げる役をお願いされている。
「演者は占いも出来ると聞いた。少し占って貰ってもいいかい?」
ちょっとした合間を縫って、初老の侍が声を掛けてきた。
身なりから、それなりの地位の者ではないかと八島は思った。
「はい。何を占いましょうか」
竪琴を脇に置くと、台にカードと本を置く。
こういう機会が来るのを待っていたのだ。準備は万全だ。
「次期当主がどんな人かを占って貰いたいのだ」
「分かりました」
八島はカードを並べ始める。24枚組の様々な星座が描かれたカードを手順に沿って配置する。
一呼吸置いてから、八島はカードを開いた。
「……喧騒を暗示していますね。でも、大丈夫ですよ。安定に繋がる兆しもあります」
さりげなくフォローしたが、初老の侍は険しい表情を浮かべていた。
「やはり、そうか……次期当主は決まっておりが、これは揉めるか、の……」
どうやら、お家騒動的なものが、御登箭家にはある……ようだ。
●天竜寺 詩(ka0396)&天竜寺 舞(ka0377)
芸者に扮した二人の姉妹も八島と同じ宴に参加していた。
三味線を担当する詩と踊りを担当する舞が実家で鍛えた特技を披露していたのだ。
城の者は二人がハンターとは思いもしないだろう。美人姉妹の芸者だと思い込んでいるようだ。
「やっぱりお城の人達はお召し物も違いますなぁ。羨ましゅうて」
演奏を追えて、詩が上座でお酌していた。
こういう席だからこそ、拾える情報があるかもしれないからだ。
「この見事な黄土色。こうした色だけに目立ちますな~。えらい人やの?」
黄土色の羽織を掛けている侍に、詩はお酒を注ぐ。
酒を飲んでかなり酔っているようだ。
「えらいかえらくないかと言うと、御登箭家の中では影響力があるほうだな」
「まぁ、すごいやす~」
大袈裟な身振りをする詩。
やはり、黄土色の羽織は御登箭家と深い繋がりがあるようだ。
「ワシよりも、ほら、あっちの爺の方が、もっと偉いぞ」
言われて視線を向けた先には、一人の老人。
当主が戦死してから、実質的に取り纏めをしているその老人は、先代当主らしい。
詩はすぐに目で舞に合図を送る。舞は他の客に酌をしながら、その合図を受け取ると、視界の中に留め続けた。
「恥ずかしわぁ。厠に行きたくなってしもうた」
舞は顔を赤らめて頬を押さえながら、そう言うと、宴の間から外に出た先代当主を追い掛ける。
スキルも使う事は出来るが、流石に警備は厳しいようで見張りが幾人か立っている。
(それでも……)
猫のような俊敏な動きで廊下を素早く駆け抜けた。
その時だった。自身の動きとは全く関係ない方向で用心棒が注意の声を上げる。
「曲者が忍び込んでいるかもしれませんな」
咄嗟に、舞はよろめくようにわざと、廊下に倒れ込んだ。
はだけそうで……はだけない辺り、流石というべきか。用心棒の注意を上手く引き付ける事が出来た。
「アイタタタ。転んでしもうたわ」
「……なんだ、芸者か。どうした」
「いや、厠へ行こうと思ったら、迷子に……」
用心棒は苦笑を浮かべながら手を差し伸ばしてきた。
その手を取りながら、舞の視界には、高速で移動するハンターの姿が見えたのであった。
●ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)
実演料理人として宴に招かれたヴォーイは忙しく調理を続けていた。
組み立て式のグリルで豪快にフランベすると、歓声が上がる。上手く入り込む方向性としてはヴォーイのやり方は間違っていなかった。
……忙しくなければ。
肉を切り分けていると、腹回りが大きい侍がジッと見つめて待っている。
「何か?」
「いや、亡くなった御大将が見たら、なんと言うかと思って」
丁寧に皿に盛りつけながら、ヴォーイは尋ねた。
「どのような御方で?」
「頼りになる所もあれば、頼りない所もある人でしたよ……最近は、塞ぎ込む事もあって」
「人の上に立つ人なら悩みの一つや二つはあるか」
ヴォーイの言葉に侍は頷いた。
上位武家であるという責任感もあったのだろう。家を存続させる事は当然、拡大していく事も期待されていたかもしれない。
「『取り返しのつかない事をした』と呟いていました。今となっては、それは何のことだったのか」
「……今更、ぶり返す事もないかと」
慰めるように言いつつ、侍に出来立ての料理が盛られた皿を手渡しするヴォーイであった。
死人に口なしとは、よく言ったものだ。戦死していなければ、今、この状況も無かったはずだし、情報も得やすかっただろう。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
息を止め、物事一つ立てずに周囲の様子を伺う。
場内に忍び込んだアルトはとんとん拍子で侵入を続けていたが、流石は上位武家。優れた覚醒者が居たようだった。
僅かなアルトの気配に感じてか、鋭い視線を周囲に飛ばしている――と、誰かが廊下で倒れて、その覚醒者の意識が逸れる。
どうやら転んだのは同じ依頼を受けたハンターのようだった。そのハンターが機転を利かせたおかげで、見つからずに済んだようだ。
(油断できないね)
発見されればそこで即終了だ。
疾影士としての能力を最大限に発揮しながら、アルトは内城の奥深くへと進む。
宴で盛り上がっている大広間近くの部屋の天井裏に移動した時だった。会話が聞こえて来た。
どのような身分か分からないが、話の内容からして御登箭家の者のようだ。
「安武城の警備は抜かりはないな」
「今の所は万全です。ただ……警備に就く者の中には不信感を抱く者も多いです」
「分かっておる。本来、廃城を無駄に守る必要はないからな。だが、泰樹より言われている事だろう」
どうやら、戦死した御登箭家の当主からの言いつけがあるようだ。
侍の会話を聞いていれば、もっと情報が得られるかもしれない。
そう思った矢先だった。場内に不審者がいるという報告をする別の侍の声が聞こえ、アルトは大事をとって引き上げる事にしたのであった。
●ヴァイス(ka0364)
賭博場で見事なまでの爆死をしたヴァイスだったが、これも仕事の内だと思い込む事にした。
そう、賭けで“わざと”負けたのだ。よって、これは負けではない――という事で、談話の中から必要な情報を得ようとしていた。
「そうか。警備の仕事は登箭城だけではないのか」
「そうなんだよ! この城からちょっと行った所にある廃城の警備もあるんだ」
賭けに負けて一緒に意気投合した侍が力強く言った。
多少、酒が入っている事もあるようで、本来であれば機密の事もうっかり口が滑ってしまっている。
「警備だけなら、それほどキツくは無いんじゃないか」
「それがよ、そう思うだろ。でも、違うんだよ。訓練も厳しいし、巡回も多いんだ」
「それだけ重要な防衛対象って事なのか?」
ヴァイスの問い掛けに侍は、首を激しく横に振った。
そして、グワっと迫る勢いで言う。
「それさ、末端には何も伝わってないんだよ! 兎に角、守らなきゃいけないらしい」
「なんだそりゃ」
苦笑を浮かべながらヴァイスは侍に酒を注ぐ。
きっと、その廃城には大事なものがあるのだろう。
●龍崎・カズマ(ka0178)
武家屋敷でも戦勝祝いは続いていた。
その一角、兵達の輪の中にカズマの姿があった。上手く入り込んで、兵士達に酒を注ぐ。
「仕官したのは、勝ち組じゃねえか。これで安泰か?」
カズマの質問に兵達は群がるように応えた。
「まぁ、でも、上はいっつも何考えているか分からないけどな」
「そうそう。おかげで俺ら下っ端がいつも苦労するよ」
兵達には不満はあるようだ。
もっとも、士気が低いかといえばそうではない様子なので、そういう意味ではホッとする所である。
自分達の手で、この領地を守っているという誇りはあるようだ。そして、それはとても大事な事である。
「いつだったか、突然の厳戒令が出た時は大変だったさ」
「厳戒令? 襲撃か何かあったのか?」
尋ねるカズマに兵達は手を振って否定した。
「違う違う。なんだか知らないが、外出禁止命令さ。駆り出される方は、そりゃ、大騒ぎだよ」
話を聞けば、昨年の春頃の話らしい。突然、街道が封鎖されて通行止めになったと。
(もし秘宝を輸送するなら、可能な限り、人目につかないようにするか……)
カズマは頭の中でそう推測しながら、兵達の話を聞き続けるのであった。
素性を隠して、調査を続けたハンター達によって、様々な情報を得る事が出来た。それは秘宝の事だけではなく、御登箭家の事や黄土色の羽織の事、職人の事など、色々と判明したのだ。
一人ひとりが集めた情報は断片的だが、纏めれば、ある推測に必要な分は十分に揃っただろうとタチバナは判断するのであった。
おしまい
●???
それは、飛ぶような速さで大地を駆けていた。
必要な情報は得られた。後は競争相手よりも先に“それ”を手にすれば、いや、壊してしまえばいい。
それでいいのだ。偽物が本物とすり替われば――。
「全く、どこに隠したと思えば、面倒な事を」
駆けている者は、そう呟いた。
“それ”を探す為に、無駄に時間を掛けてしまっている。兎も角、“それ”が広く知られてしまうと、用意周到に張り巡らせた策の一つが台無しになる恐れがあった。
今は“それ”を幕府側に渡す訳にはいかないのだ。
御登箭泰樹が最後まで“それ”の在処を吐かなかったのは今でもイラつく事で、思い出すだけでも怒りが込み上がってくる。
「私をこれだけ怒らせたのだから、全員、相応の苦しみを持って死んでもらおうかしら!」
ため込んだ怒りを噴き出しながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた口から伸びる鋭い犬歯が不気味に光った。
職人街をハンスと智里が仲良くくっつきながら歩いていた。
行き交う人々は多いし、職人の区画であるだけに、買い付けに来た人や行商人なども見かける。
「これだけ人の流入が増えたのです。質流れした面白いものが出回っていそうじゃありませんか」
周囲を見回しながらハンスは言った。
刀や鍔、鞘などの武具類は勿論、普段の着物にも視線を向ける。
その様子は買物客と言われても違和感ないだろう。
「シノビが居たということは、私達も観察される可能性がある……と言うことでしょうか」
「どこの武家にもそうした役目の人はいるでしょうからね」
智里の台詞にハンスがそう返した。
御登箭家はエトファリカ連邦国の中で上位武家なのだ。忍びがいないと考える方が不自然だろう。
ただ、今は戦勝祝いの最中で賑わっているので、容易には忍びに見つかる事は無いはずだ。
「それでも依頼主からの注意もありますし。忍びに見つからずに情報を探るのは大変そうです」
「早々見破られるとは思いませんよ……ん……これは、マウジーに似合いそうです。是非次のデートで使って下さいね」
ハンスが手に取ったのは可憐な花模様が美しい簪だった。
真面目な話をしている中で彼の唐突な行動に驚く智里。
「可愛いですね、これは」
手渡された簪を興味深そうに見ながら智里は応える。
デートを装っているような二人だが、どう見てもデート以外には見えそうにない。。
「思わず、散財してしまいそうです」
「良からぬ者を呼び寄せてしまいそうですね」
最も、その場合は返り討ちするだけの事ではあるのだが。
それにハンスの雰囲気からは侍の匂いがしそうで、そういう意味でも、金目当てに襲ってくる者はいないだろう。
「……あれは、黄土色の……法被ですか」
「本当ですね……聞いてみましょうか」
幾つか職人の店を回った時、二人は特徴的な黄土色の法被を壁に掛けている店を見つけた。
例のシノビが身に着けていた色と同じかどうか分からないが、二人が尋ねた所、その法被は、かつて御登箭家に嫁いでいったとある武家と関わりがある事を示すものだという。
●歩夢(ka5975)&レイア・アローネ(ka4082)&伊勢・明日奈(ka4060)
「それでは俺が一つ、占ってみるか」
奇書と呪符を広げながら歩夢が軽い口調で言った。
酒が入って若干酔っているとはいえ、本格的な手の動きに、同じ卓についた職人が歓声を上げる。
「そんな軽々しく……“うちの兄”がすみません」
苦笑を浮かべながら明日奈が職人に告げる。
ここは、歓楽街のある酒場だ。景気良く飲んでいたら、相席となったが、偶然かあるいは店選びが良かったのか、相席になった人は3人が探している職人だった。
「いやいや、最近流行っているみてーだから、ぜひ、兄ちゃんに占って貰いたいぜ」
「“主”の占いはよく当たるって話だからな」
職人の台詞にレイアが応える。
歩夢と明日奈とレイアの三人は、商人兄妹とその護衛という事で調査しに来ている。
「ほぉ。するってーと、絶対当たるという占い師さんは、兄ちゃんの事かい?」
「いくらなんでも、“兄”の占いはだって、いつも当たりませんよ」
驚きの表情を浮かべる明日奈。
占いと言うものは、当たるも八卦当たらぬも八卦だ。符術の使い手である歩夢であっても外れる事はあるだろう。
「いつも当たるなら苦労も少ないだろうしな」
レイアが不敵な笑みで言った。
乾いた笑いで答えながら歩夢はふと疑問が浮かぶ。
「絶対当たる占い師では俺はないが、そんな占い師がいるのか?」
「ごく最近、噂になってるんだ。この街の付近にそんな占い師が来ているってな」
「それは一度、逢ってみたいものだな」
感心しながら、歩夢は符を捲り出した。
かなりの術の使い手なのかもしれないからだ。
真剣に占いだした歩夢を横目に明日奈が訊ねる。
「この街には初めて訪れたのですが、どんな街なのですか?」
「御登箭家の本拠地だからな。この辺りじゃ大きい街だよ。色々な職人は多いと思うよ」
ここぞとばかりにレイアも訊く。
「鍛冶職人だけじゃなく、鎧なんかもみられる職人もいるのか?」
「あぁ、甲冑職人もいりゃ、武具だけじゃなく日用品を作る職人も多いぜ」
「ふむ……何か理由があるのか? 職人が多い理由が」
「そりゃ、御登箭家が熱心だからだよ」
御登箭家は職人に対する優遇が盛んだったという。
それがあり、多くの職人が集まり、あるいは育成されていたと……この職人は続けた。
優れた職人がいれば、質の良い品を求めて多くの商人が訪れる。
街に来る人が多くなれば、宿や酒場も増え、さらに必要な人・物・金が集まってくる。
御登箭家はそうして、大きくなっていったのだろう。上位武家といっても、その在り方は武家それぞれで特徴があるようだ。
そうこうしているうちに歩夢の占い結果が出たようだ。
「……これは、良い暗示が出ているな。商売が上手くいくようだ。俺も一口乗りたい所だ」
「そうかそうか。そりゃいいぜ。御登箭家はこれから増々、栄えるとか噂がある位だしな、当たるぜ、兄ちゃんの占いよ!」
職人がバシバシと歩夢の背を叩きながら上機嫌に言った。
何気ない会話だったが、重要な情報の多くをきっと、得られたはずだ。
●星野 ハナ(ka5852)
大市場には多くの人々が行き交っていた。特に多いのはこの街の住民だろうか。
日々の食材は勿論、日用雑貨品も揃っており、聞き耳を立てやすいように適した場所を占ったハナも納得の賑わい具合だった。
「今回はピーピング頑張れでしょうかぁ」
大事なのは情報を得る事。
時には人々の会話の中に、真実が隠れている事もある。
「これだけ人が集まったんだから掘り出し物もあるかと思いましてぇ。お勧めは何ですぅ?」
装飾品を扱う店でハナは如何にも買い物にきたお姉さん……というか、バーゲンセールでよく見かけそうな血走った目を醸し出しながら品物を探す。
と見せかけながら、周囲の会話に耳を傾けた。
聞こえてきたのは武家の関係者らしい身なりの年配の女性達の会話だった。
「……これは、盲点でしたぁ……」
会話を盗み聞いていたハナだったが、残念な事に周囲の騒音も激しく、会話は途切れ途切れだった。
推測する事も可能だが、大事な所も抜けている気がするし、更に詳しく聞こうにも妙に警戒心を抱かれ兼ねない。
「とりあえず……“どこかの警備の輪番”みたいですけどぉ」
登箭城や城下町の警備の話ではない――となると、どこの警備の話なのだろうか。
そう感じながら、ハナの情報収集は続いたのであった。
●カイ(ka3770)
市場を巡っていたのはカイも同様だった。
「地元の話は地元に聞けって言うしな」
人の良さそうな露店を見つけて出来立ての饅頭を注文した。
ふっくらした食感を楽しみながら、笑顔で店員に呼び掛けた。勿論、それは警戒心を持たれないようにという情報屋としての行動でもあるが。
「この辺りに引っ越そうと思っているんだが、実際、住みやすいのか?」
「天ノ都ほどじゃないが、まぁ、東方の中じゃ、住みやすい所だよ」
城下町の雰囲気は戦勝祝いという事もあって賑やかな様子なのは明らかだ。
生活水準も低くはなさそうではあるし、治安も今の所は悪くはない雰囲気である。
「さっき、奥様方の井戸端会議を耳にしたんだが、前に移住があったんだって?」
それはカイが調べた情報の中にあったものだった。
情報の真偽を確認する必要があると思ったのだ。
「移住というか……御登箭家と親しい武家が一つになったんですね。その時に、その武家が治めていた街から引っ越したんですよ」
「それは広く知られている事なのか?」
「そんな事はないかと思いますよ。私の祖父母が子供の頃に移って来た時の話らしいですから」
秘宝とは一見関係ない話かもしれないが、その話をカイは頭の中に深く刻み込んだのであった。
●アルマ・A・エインズワース(ka4901)
大通りの一角で人々が歓声を上げていた。
戦勝祝いの為だけではない。広場で芸を披露している者が居たからだ。
一通りの大道芸が終わり、手品で作り出した花を観客に手渡していくアルマ。
「僕、西の方から来た、青いエルフの大道芸人です! どうぞ皆様、お気軽に、アルとお呼びください!」
「遠い所から、わざわざこの街に?」
観客の一人がアルマの自己紹介の台詞に声を掛けてきた。
「芸やらせて貰いながら、ちょっとその国や街の珍しいものを見て旅しているんですよー」
「こんな所に珍しいものなんてねー」
「皆さん何か面白いものや珍しいもの、知りません? ヒトとかでもいいんで……あ、それだと僕になっちゃいますね?」
「そうよ、ねー」
おばさま達が顔を見合わせて笑う。
何か物凄い観光名所は――ない様子だ。ついでいうと城下町の作り自体、何か違和感は無かった。
「そうそう、よく当たる占い師っていう噂は?」
「城外に居るって話の?」
「でも、最近は城下町にもいたって聞いたような」
「その占い師、狐っぽい女性だったという話よね~」
アルマを差し置いて勝手に話し出すおばさま達。
ただ、その会話の中にアルマは酷く反応するワードを感じた。
単なる勘違いかもしれない。だけど、きっと、用心した事に越した事はないはずだ。
●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
祝勝景気に儲けようとしてきた辻占い師、ミスティックルンルンは占いに追われていた。
思った以上のお客様。それも可笑しな事に、来る人のうち何人かが、ルンルンの事を“よく当たる占い師”と勘違いしているようだった。
(忍法とカードの力で、エトファリカボードの謎に迫っちゃうつもりが、大変な事に……)
ズラーと並ぶ占い希望者の列。
占って行くのは大変かもしれないが……ここは逆にチャンスかもしれない。
(秘宝の正体、とっても気になるもの。情報集めはニンジャにお任せなんだからっ!!)
と、心の中で張り切るルンルン。
占い交じりに町の人の噂を聞いたり、黄土色の羽織を着た侍の話を、さり気なく挟んで聞き取りしていく。
左右の指の数を掛けたよりも多くの人々の話を聞いた所で、ルンルンはある事に気が付いた。
(何人かは別の占い師の所でも“同じ事”を訊かれたって、もしかして、私の他にも誰か占いで調査を!?)
ハンターの中には符術が得意な者もいるので不思議はない。
だが、仲間達との行動を開始したタイミングを考慮すれば、明らかに、ハンター達よりも前だろう。
(それじゃ、訊いていたのって、誰だろう?)
そんな疑問を頭の中で浮かべつつ、ミスティックルンルンは占い希望者の対応に追われるのであった。
●ヘルヴェル(ka4784)
ちょっとした懐かしさを感じながら、ヘルヴェルは場末の店を主に回っていた。
この街で得られた情報は何に繋がるか分からないものだ。
だから、小さい事でも丁寧に、ただ、表向きはそう感じさせないように情報を収集している。
「景気はどう?」
飲み屋の席で一緒になった遊女に、チップを渡しつつ尋ねる。
「お祝いのお陰で、上々ですよ」
「急に羽振りが良くなったり、賭け事に走る人とか増えているの?」
「憤怒の脅威が無くなりましたから」
上品そうに遊女は笑った。
遊女の話によると、2年程前まで景気は良かったという。
「……あんまり大きな声で言えないけど、ほら見て、これ」
掲げたのは天ノ都でも名の知れた老舗の巾着だった。
「これね、実は偽物なの」
「よく出来ているんですね」
「2年位前まで、凄腕の贋作職人達の羽振りが良かったのよ。最近じゃ、めっきり、顔を見なくなったけど」
金を使い果たしたのか、あるいは領内から追い出されたのか。
その辺りまでは調べられなかったが、きっと、これも重要な情報なのだろうとヘルヴェルは感じた。
●銀 真白(ka4128)&七葵(ka4740)&ユリアン(ka1664)
秘宝『エトファリカ・ボード』が偽物という可能性。
東方と秘宝を巡る様々な出来事を追い駆けて来たハンターの中にも、そう考える者がいた。
「仮に偽の秘宝が用意されていたのだとすれば、それを作った職人などがいたやも知れぬ」
路地の一角で真白が仲間に告げた。
そもそも、何故、偽物が必要だったのかという大前提はあるのだが、それを推測する為の材料はない。
「それらしき職人がいなければ、今ある秘宝が本物である可能性があるか」
口元を布で多い、一見、武芸者のような姿をした七葵が言う。
その場合、今だけではなく過去に遡って確認する必要があるだろう。
どうやら、各々が何を調べるべきか確認できたようで、薬箱を背負い、ユリアンが立ち上がりつつ、言葉を紡ぐ。
「秘宝は“東方の地図を描いたような絵の宝物”だった。となると、俺は模写が得意な職人を探してみるよ」
効率良く探す為の理由を、ユリアンは既に頭の中に描いていた。
今ある秘宝が偽物と決めつけるには早いが、そう見当をつけて探す必要性はあるはずだ。
「それなら、私は材料や道具などの線から調べるとしよう」
「俺は急に景気が良くなった者が居なかったか、歓楽街に行ってくる」
真白と七葵がユリアンの宣言に応え、三人は互いに顔を見合わせ、軽く頷くと、それぞれ路地から出て行った。
ただの旅人を装いながら真白は城門付近へと足を運ぶ。
多くの人々が行き交っている。特に多いのは商人達だろうか。荷物を降ろす者、載せる者、商談する者と様々だ。
「珍しいモノの収集を趣味としているのだが、何か変わった物の仕入れや、それを欲しがる人などいなかったか?」
用意していた台詞で真白は商人に話し掛けた。
幾人から反応はあったが、それはいずれも真白が探しているような情報ではなかったが、十人目の時にある商人から面白い話が聞けた。
「前に、質の良い画材の仕入れ話があったな。今は憤怒勢力域となった地方でしか取れなくなった顔料とか」
「憤怒勢力域の……いつ位の話だろか?」
真白の問いに商人は思い出すかのように唸る。
「多分、数年前じゃないかな。だから、その珍しい顔料を探すのは大変かもしれないよ」
両肩を竦めて商人は立ち去っていった。
その背を見届けながら、真白はふと思い至る。
(……もし偽物を作るなら、同じ顔料が良いはず……)
やはり、今ある秘宝は偽物なのかと思う真白であった。
七葵は歓楽街へと入って来た。
昼間と言うのに、ここも大勢の人々で賑わっていた。酔っ払いや芸妓の姿も多いし、遊女も声を掛けてくる。
それらを流れるように避けながら、七葵は宿や料亭などを中心に回っていた。
数軒目の料亭に入った所で、気前の良い亭主に武芸を求められて、七葵はそれに応え、素早い刀捌きを披露した。
亭主は歓声と共に拍手をいつまでも続ける。
「いや、素晴らしい。それに、実に見事な刀。優所正しき名刀の如き一振りだ」
「ありがとうございます。ただ、最近は物騒な時なので、賊対策に模造品が欲しく、職人を探しています」
目上の亭主に礼儀正しく頭を下げながら、七葵はさり気なく聞いた。
「一昔前までは贋作作りが流行って、羽振りの良い職人も多かったけどな」
ひょんな所から探していた情報が出てくるものだ。
「その職人達は?」
「2年位前かな。急に取り締まりが厳しくなってね。気がついたら居なくなっていったよ」
亭主の言葉を記憶に刻む七葵だった。
幾人か絵師を訊ね歩いていたユリアンは、ある者に辿り着いていた。
「東方の薬草を調べていて、東方専用の薬草百科を纏められたらと思って、探していたら、貴方を紹介された」
「これは西方の異人さんかの」
老人画家は細い目を開き、ユリアンを見つめる。
「写実的で、模写が得意な方が良いんだ。画像よりも美しく描ける人をね」
そういってユリアンは魔導スマートフォンの画面を見せる。
画面に視線を向け、老人画家は首を横に振った。
「流石に、それよりも上手く描ける者など……」
「いないですか?」
ユリアンの言葉に唸りながら老人は背を向ける。
そして、独り言のように呟いた。
「1、2年前までは居たんじゃがな。誰もが騙される程の凄腕の贋物職人がの」
それだけ言い残し、老人は家の奥へと立ち去って行った。
●ミィリア(ka2689)
「お、お尋ねしますーでーござるー!」
恐る恐る、古ぼけた戸を開くミィリア。
戦勝祝いに乗じて訪れたドジっ子メイドに扮して情報収集した結果、とある職人を紹介されたのだ。
住宅街の中でも奥深く、案内人が居なければ行きも帰りも分からない、そんな場所だった。
「なんか用か?」
出てきたのは髭がもじゃもじゃのおっさんだった。
鋭い眼光はまるで、凄腕の戦士を彷彿とさせるが、全身から発せられるのは強者のオーラではなく、酒臭さだった。
「主人の傘をうっかり壊してしまって……お気に入りの物だったから、そっくり同じ柄が欲しいのでござる!」
破けた傘を掲げながらミィリアは説明した。
おっさん職人は大きなため息をついた。
「贋作屋は畳んだんだがな……彼奴の紹介だから、特別だ」
「感謝でござる!」
どうやら、紹介してくれた人と出会えたのは幸運だったようだ。
「職人さんは贋作屋さんだったんですか?」
「昔の話だ。望んでやっていた事じゃねぇ」
ミィリアから受け取った傘の柄を観察しながら、職人は別に傘に柄を描き始めたのであった。
●ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)
泊まった宿の部屋に運び込まれたのは十数本の反物。
いずれも山吹や黄土の色をした物であった。
薄い色から濃い色まで揃っており、並べると鮮やかなグラデーションとなっていた。
「お目当ての物はおありでしょうか?」
宿の女将がそう訊いた。ニャンゴは秘宝の手掛かりの一つである“黄土色の羽織”を追っていた。
その為、女将に着物の買付にやって来たという事を説明し、似たような色の布地を探して貰ったのだ。
「……思ったより沢山あるのですね」
「えぇ。以前、この近くを治めていたある武家の家紋色ですから」
女将の言葉に反物に手を伸ばそうとしたニャンゴの動きが止まる。
「その武家は、今は?」
「御登箭家に入ったと聞いています。今でもその武家と関わりのある者は、黄土色の羽織や着物を好むそうですよ」
それなりに需要があるからこそ、女将がこれだけの量の反物をすぐに用意できたのだろう。
(つまり……黄土色の羽織は、御登箭家の手の者――の中でも、別の武家の者だという事のようですね)
ニャンゴはそう感じながら反物の一つを手に取るのであった。
●夢路 まよい(ka1328)
比較的大きい庭園に、まよいは来ていた。他のハンターが来ないであろう緑地に足を運んでいたからだ。
だが、秘宝について有益な情報を得られる事は無かった。
池の傍で体育座りしながら揺らいでいる水面を眺めて考える――こうなったら、積極的に聞き取りにいこうかと。
「あれ?」
胸を突くような違和感に、まよいは顔を挙げて周囲を見渡す。
辺りには誰もいない……というか、鳥の姿も見えないし、この池に魚の姿もない。
その状況は、穏やかな午後というよりかは、不気味に感じられた。
「……負のマテリアル?」
スッと立ち上がる。愛用している杖は置いてきたから少し心許ないが、戦えない訳ではない。
怪しそうな茂みを見つけると、慎重に近寄る。
万が一、歪虚が奇襲を仕掛けてきても、すぐに対処できるようにと頭の中で使うべき魔法を思い浮かべた。
「何もいない……けど、負のマテリアルは感じる。どこかに移動したのかな?」
感じた気配は負のマテリアルによって汚染された場所だったようだ。
覚醒者に感じられるほど汚染を残す程だ。もしかして、高位の歪虚の可能性もある。
「まさか、城下町の中に侵入されているというの」
まよいは首を傾げたのであった。
●八島 陽(ka1442)
竪琴が奏でるメロディーが宴会の席に流れた。
曲を弾いているのは、八島だった。楽器演奏も占いも出来るという事で、宴を盛り上げる役をお願いされている。
「演者は占いも出来ると聞いた。少し占って貰ってもいいかい?」
ちょっとした合間を縫って、初老の侍が声を掛けてきた。
身なりから、それなりの地位の者ではないかと八島は思った。
「はい。何を占いましょうか」
竪琴を脇に置くと、台にカードと本を置く。
こういう機会が来るのを待っていたのだ。準備は万全だ。
「次期当主がどんな人かを占って貰いたいのだ」
「分かりました」
八島はカードを並べ始める。24枚組の様々な星座が描かれたカードを手順に沿って配置する。
一呼吸置いてから、八島はカードを開いた。
「……喧騒を暗示していますね。でも、大丈夫ですよ。安定に繋がる兆しもあります」
さりげなくフォローしたが、初老の侍は険しい表情を浮かべていた。
「やはり、そうか……次期当主は決まっておりが、これは揉めるか、の……」
どうやら、お家騒動的なものが、御登箭家にはある……ようだ。
●天竜寺 詩(ka0396)&天竜寺 舞(ka0377)
芸者に扮した二人の姉妹も八島と同じ宴に参加していた。
三味線を担当する詩と踊りを担当する舞が実家で鍛えた特技を披露していたのだ。
城の者は二人がハンターとは思いもしないだろう。美人姉妹の芸者だと思い込んでいるようだ。
「やっぱりお城の人達はお召し物も違いますなぁ。羨ましゅうて」
演奏を追えて、詩が上座でお酌していた。
こういう席だからこそ、拾える情報があるかもしれないからだ。
「この見事な黄土色。こうした色だけに目立ちますな~。えらい人やの?」
黄土色の羽織を掛けている侍に、詩はお酒を注ぐ。
酒を飲んでかなり酔っているようだ。
「えらいかえらくないかと言うと、御登箭家の中では影響力があるほうだな」
「まぁ、すごいやす~」
大袈裟な身振りをする詩。
やはり、黄土色の羽織は御登箭家と深い繋がりがあるようだ。
「ワシよりも、ほら、あっちの爺の方が、もっと偉いぞ」
言われて視線を向けた先には、一人の老人。
当主が戦死してから、実質的に取り纏めをしているその老人は、先代当主らしい。
詩はすぐに目で舞に合図を送る。舞は他の客に酌をしながら、その合図を受け取ると、視界の中に留め続けた。
「恥ずかしわぁ。厠に行きたくなってしもうた」
舞は顔を赤らめて頬を押さえながら、そう言うと、宴の間から外に出た先代当主を追い掛ける。
スキルも使う事は出来るが、流石に警備は厳しいようで見張りが幾人か立っている。
(それでも……)
猫のような俊敏な動きで廊下を素早く駆け抜けた。
その時だった。自身の動きとは全く関係ない方向で用心棒が注意の声を上げる。
「曲者が忍び込んでいるかもしれませんな」
咄嗟に、舞はよろめくようにわざと、廊下に倒れ込んだ。
はだけそうで……はだけない辺り、流石というべきか。用心棒の注意を上手く引き付ける事が出来た。
「アイタタタ。転んでしもうたわ」
「……なんだ、芸者か。どうした」
「いや、厠へ行こうと思ったら、迷子に……」
用心棒は苦笑を浮かべながら手を差し伸ばしてきた。
その手を取りながら、舞の視界には、高速で移動するハンターの姿が見えたのであった。
●ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)
実演料理人として宴に招かれたヴォーイは忙しく調理を続けていた。
組み立て式のグリルで豪快にフランベすると、歓声が上がる。上手く入り込む方向性としてはヴォーイのやり方は間違っていなかった。
……忙しくなければ。
肉を切り分けていると、腹回りが大きい侍がジッと見つめて待っている。
「何か?」
「いや、亡くなった御大将が見たら、なんと言うかと思って」
丁寧に皿に盛りつけながら、ヴォーイは尋ねた。
「どのような御方で?」
「頼りになる所もあれば、頼りない所もある人でしたよ……最近は、塞ぎ込む事もあって」
「人の上に立つ人なら悩みの一つや二つはあるか」
ヴォーイの言葉に侍は頷いた。
上位武家であるという責任感もあったのだろう。家を存続させる事は当然、拡大していく事も期待されていたかもしれない。
「『取り返しのつかない事をした』と呟いていました。今となっては、それは何のことだったのか」
「……今更、ぶり返す事もないかと」
慰めるように言いつつ、侍に出来立ての料理が盛られた皿を手渡しするヴォーイであった。
死人に口なしとは、よく言ったものだ。戦死していなければ、今、この状況も無かったはずだし、情報も得やすかっただろう。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
息を止め、物事一つ立てずに周囲の様子を伺う。
場内に忍び込んだアルトはとんとん拍子で侵入を続けていたが、流石は上位武家。優れた覚醒者が居たようだった。
僅かなアルトの気配に感じてか、鋭い視線を周囲に飛ばしている――と、誰かが廊下で倒れて、その覚醒者の意識が逸れる。
どうやら転んだのは同じ依頼を受けたハンターのようだった。そのハンターが機転を利かせたおかげで、見つからずに済んだようだ。
(油断できないね)
発見されればそこで即終了だ。
疾影士としての能力を最大限に発揮しながら、アルトは内城の奥深くへと進む。
宴で盛り上がっている大広間近くの部屋の天井裏に移動した時だった。会話が聞こえて来た。
どのような身分か分からないが、話の内容からして御登箭家の者のようだ。
「安武城の警備は抜かりはないな」
「今の所は万全です。ただ……警備に就く者の中には不信感を抱く者も多いです」
「分かっておる。本来、廃城を無駄に守る必要はないからな。だが、泰樹より言われている事だろう」
どうやら、戦死した御登箭家の当主からの言いつけがあるようだ。
侍の会話を聞いていれば、もっと情報が得られるかもしれない。
そう思った矢先だった。場内に不審者がいるという報告をする別の侍の声が聞こえ、アルトは大事をとって引き上げる事にしたのであった。
●ヴァイス(ka0364)
賭博場で見事なまでの爆死をしたヴァイスだったが、これも仕事の内だと思い込む事にした。
そう、賭けで“わざと”負けたのだ。よって、これは負けではない――という事で、談話の中から必要な情報を得ようとしていた。
「そうか。警備の仕事は登箭城だけではないのか」
「そうなんだよ! この城からちょっと行った所にある廃城の警備もあるんだ」
賭けに負けて一緒に意気投合した侍が力強く言った。
多少、酒が入っている事もあるようで、本来であれば機密の事もうっかり口が滑ってしまっている。
「警備だけなら、それほどキツくは無いんじゃないか」
「それがよ、そう思うだろ。でも、違うんだよ。訓練も厳しいし、巡回も多いんだ」
「それだけ重要な防衛対象って事なのか?」
ヴァイスの問い掛けに侍は、首を激しく横に振った。
そして、グワっと迫る勢いで言う。
「それさ、末端には何も伝わってないんだよ! 兎に角、守らなきゃいけないらしい」
「なんだそりゃ」
苦笑を浮かべながらヴァイスは侍に酒を注ぐ。
きっと、その廃城には大事なものがあるのだろう。
●龍崎・カズマ(ka0178)
武家屋敷でも戦勝祝いは続いていた。
その一角、兵達の輪の中にカズマの姿があった。上手く入り込んで、兵士達に酒を注ぐ。
「仕官したのは、勝ち組じゃねえか。これで安泰か?」
カズマの質問に兵達は群がるように応えた。
「まぁ、でも、上はいっつも何考えているか分からないけどな」
「そうそう。おかげで俺ら下っ端がいつも苦労するよ」
兵達には不満はあるようだ。
もっとも、士気が低いかといえばそうではない様子なので、そういう意味ではホッとする所である。
自分達の手で、この領地を守っているという誇りはあるようだ。そして、それはとても大事な事である。
「いつだったか、突然の厳戒令が出た時は大変だったさ」
「厳戒令? 襲撃か何かあったのか?」
尋ねるカズマに兵達は手を振って否定した。
「違う違う。なんだか知らないが、外出禁止命令さ。駆り出される方は、そりゃ、大騒ぎだよ」
話を聞けば、昨年の春頃の話らしい。突然、街道が封鎖されて通行止めになったと。
(もし秘宝を輸送するなら、可能な限り、人目につかないようにするか……)
カズマは頭の中でそう推測しながら、兵達の話を聞き続けるのであった。
素性を隠して、調査を続けたハンター達によって、様々な情報を得る事が出来た。それは秘宝の事だけではなく、御登箭家の事や黄土色の羽織の事、職人の事など、色々と判明したのだ。
一人ひとりが集めた情報は断片的だが、纏めれば、ある推測に必要な分は十分に揃っただろうとタチバナは判断するのであった。
おしまい
●???
それは、飛ぶような速さで大地を駆けていた。
必要な情報は得られた。後は競争相手よりも先に“それ”を手にすれば、いや、壊してしまえばいい。
それでいいのだ。偽物が本物とすり替われば――。
「全く、どこに隠したと思えば、面倒な事を」
駆けている者は、そう呟いた。
“それ”を探す為に、無駄に時間を掛けてしまっている。兎も角、“それ”が広く知られてしまうと、用意周到に張り巡らせた策の一つが台無しになる恐れがあった。
今は“それ”を幕府側に渡す訳にはいかないのだ。
御登箭泰樹が最後まで“それ”の在処を吐かなかったのは今でもイラつく事で、思い出すだけでも怒りが込み上がってくる。
「私をこれだけ怒らせたのだから、全員、相応の苦しみを持って死んでもらおうかしら!」
ため込んだ怒りを噴き出しながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた口から伸びる鋭い犬歯が不気味に光った。
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相談用スレッド ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/11/27 22:07:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/27 20:10:23 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/11/27 21:07:33 |