イスルダ島と海な歪虚 遺跡

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/12/03 19:00
完成日
2018/12/11 18:11

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王国西部リベルタース地方の沖合。かつて歪虚の黒大公ベリアルの根拠地であり、今は解放されたイスルダ島── ここには未だ歪虚の残滓が色濃く残る地域も多い。
 島に駐留する王国軍は日々、雑魔を掃討し、聖堂教会の使い手たちが土地の浄化を進めている。が、その復興の足を引っ張っているものがある。浄化を済ませたはずの土地へ海から散発的に上陸して来る、『海産物』な雑魔の群れだ。
「こいつらのせいで我が部隊は雑魔の掃討に戦力を集中できない」
 駐留部隊上層部は、島に赴任したばかりの青年士官、Volcanius隊部隊長ジョアン・R・パラディールを呼び出し、告げた。
「なんとかしたまえ」
 専任と言う名の丸投げを受け、ジョアンは退室後に大きく息を吐き出した。そして、任地につくや否や、夕日の沈む海辺の崖から罵声と悪態をも吐き出した。
「ず、随分と溜め込みましたね……」
 砲兵ゴーレム隊小隊長として隷下にある新任士官、トム・リーガンが、一筋の汗と共に苦笑しながらジョアンに言った。トム、そして、彼と同じくジョアンの部下の小隊長として配属されたナイジェル・グランディは、つい先日までジョアンが出向し、講師をしていた王立学校の機動砲兵科の教え子たちだった。Volcanius部隊の指揮・運用を担うべく教育された最初の士官たちであり、今年の九月に卒業したばかりの新人士官で、同級の者たちも同じように、新たに立ち上げられたVolcaniusu隊に配属されていた。
「さて、鬱憤晴らしも済んだ所で現実的な話をしよう」
 上官で恩師で王立学校の先輩でもあるジョアンはトムとナイジェルに士官の顔でそう言うと、逗留する村へと帰ってすぐに作戦会議を行った。
 集められたのは部下の士官たちと、ユニット使いのハンターたち──それで全てだった。……この任務に充てられたのは、島に来たばかりのジョアンの砲兵隊と、遊撃隊として待機していたハンターたち、そして幾ばくかの歩兵部隊だけだった。島の駐留部隊に余剰戦力は他に無かった。なるほど、海に向かって叫びたくもなる。
「あれだけ大量の雑魔が現れるということは、奴らには策源地があるはずだ」
 ジョアンの言葉に一同はざわついた。特に実戦経験のない新任の士官たちが大きくざわめいた。
「つまり、上級歪虚……ですか?」
「……いや。この『海から来る敵』が『何か』に統率されていることはあり得ない。奴らには戦術も何も無い。僕ならもう少し上手くやる」
 奴らは行き当たりばったりで上陸しては襲って来るだけ──つまりは獣の群れと変わらない。
「言い直そう。奴らには発生源があるはずだ。海の生物を雑魔化させる程の濃密な負のマテリアルの吹き溜まり── そして、それは『海の中には無い』」
 断言するジョアンに、多くの者が「どういうことだ?」と首を傾げた。ジョアンは順を追って彼らに説明した。
「濃密な負のマテリアルと言っても、一朝一夕に生物を雑魔化できるわけじゃない。それこそ黒大公クラスの上級歪虚なら分からないけどね。……そして、かつてイスルダ島を覆っていた歪虚の結界は、海岸線沿いに張られていた。あれだけの規模の雑魔を生み出す『濃密な負のマテリアルの吹き溜まり』が外に自然発生するとは考えにくい。であれば、それが形成されたのはイスルダ島が黒大公に占拠されていた間── つまり、島内に限定されると思われる」
 勿論、これは僕の推論──仮説に過ぎない、とジョアンは自身でそう告げた。しかし、現実問題として人的資源が限られている以上、範囲を絞ってやるしかない。
「島内、そして、海の生き物── この二点から、海岸沿いの入り江や海蝕洞窟を重点的に捜索する」

 翌朝からさっそく捜索作業が始まった。
 探索場所は海岸部。砂浜を渡り、磯場を歩き、海に小舟を浮かべて崖の下を調べて回る。もっとも、雑魔が出る危険な海に非覚醒者を送り出すわけにもいかず、小舟に乗る作業は主にハンターたちによって遂行された。
 ハードワークである。ジョアンはハンターたちの疲労を考慮してスケジュールや担当区域を設定してくれてはいたが、舟の上と言う不安定な足場といつ敵が現れるか分からない海の上という状況で、肉体的にはともかく精神的な疲労までは完全に払拭できなかった。
 そして、作業開始から一週間── 苦労の甲斐あって、彼らはようやく怪しげな洞窟を見つけた。
 それは崖の下にぽっかりと大きな口を開けていた。入り口の外にいても、中から漂って来る負のマテリアルの気配を感じられる程だった。
「間違いない…… ここだ。こんなに濃い瘴気のわだかまり、二個も三個もあってたまるか」
 断言するハンターたちの、意見をジョアンも受け入れた。すぐに聖堂教会の使い手が呼ばれ、浄化を進めながら小舟で海蝕洞の奥へと進む。
 洞窟は曲がりくねりながら奥へ奥へと続いていた。広さはギリギリCAMが通れる程。地面は全て水没していて足場は無く、その水深はCAMの腰辺りくらいだろうか。
 やがて、洞窟は広まった空間へと出た。ランタンの明かりが届かぬ位には広く、闇の中、その灯火だけを頼りに慎重に舟を進めていく……
 それは冥府をゆくさながらに。より強くなっていく瘴気に不安そうに顔をしかめつつ……やがて、水は浅くなっていき、舟は陸地へと辿り着いた。
 上陸し、明かりを分けて数人組で周囲へ散る。それはこの空間の全貌を調べる為に。そして、心が不安に押しつぶされそうになる程に深いこの闇を光で塗りつぶし、駆逐する為に──
 ……そして、彼らは見た。
 洞窟の奥まった空間に蟠る、巨大な生モノを──
 数年ぶりに現れた『意志ある侵入者』の存在に気付き、鳴動と共に身じろぎするその存在── 男たちは悲鳴を上げて、小舟へ戻り、逃げ帰った。そんな彼らの頭上の空間を、無数の赤色光線が貫いた。

「決まりだ。海の生き物を雑魔化させている負のマテリアルの濃密な蟠りはここだ」
 ジョアンはそうハンターたちに告げた。これを何とかしてしまえば、少なくとも新たな海の雑魔がこの島で生まれることはなくなるはずだ。
「そう、すぐにでも浄化してしまいたいが、問題が一つある。それが洞窟の奥に『鎮座』している大型雑魔の存在だ」
 それは全身に『フジツボ』が張り付いた『アメフラシ』の様な外観をしていたという。海へと続く洞窟よりも巨大な存在で、これを何とかしないと浄化の使い手たちを送り込めない。
「幸い、洞窟はCAMでも何とか通れるくらいには広いらしい。ユニットを以ってこれを殲滅する。……ただし、通路は狭く、CAMでも半分は水に浸かってしまう。前進する間は恐らく敵に狙い撃ちされ放題だ。しかも、それを抜けた先の空間もユニットが自在に動ける程には広くはないらしい。……それでも、僕らはやるしかない」

リプレイ本文

 浄化の使い手たちが巨大な『アメフラシ』と遭遇して逃げ帰ってから数刻後── 洞窟の中にはシレークス(ka0752)と、相棒たるポロウのカリブンクルスが侵入していた。攻撃隊突入に先んじて敵情を探る為だった。
「……んでは、行きやがりますかね」
 主の言葉にコクコク頷き、ジャブジャブと海蝕洞窟の中を進み始めるカリブンクルス。泳いで洞窟を行くこと暫し…… 愛鳥の背に乗り進んで来たシレークスは、自分たちが『アメフラシ』から200m程の距離に達したことを知り、前進を止めさせた。
「さて、ここからは聖職者らしく慎ましくいきやがりますかね…… カリブンクルス、おめーの真価を発揮する時がきやがりましたですよ」
「ホ~っ(お任せなのだわ)」
 シレークスはカリブンクルスに『隠れるホー』を使用させると、ショベルをオール代わりに、静かに、ゆっくりと漕ぎ出した。
 ……円匙が水面を描き分けるチャプチャプという音だけが静かに響く闇の中── やがて彼女たちは通路を抜けて、広まった空間へと辿り着く。
(この辺りで良さそうですね…… カリブンクルス、おめーの力を示すです)
 シレークスは無言のまま、あらかじめ決めていた合図を出した。カリブンクルスが『見つけるホー』で広間の探査を始める。
 結果── カリブンクルスは驚いた。闇の帳の向こう側に、圧倒的に巨大な反応が感じ取れたというのもあったが、それよりも周囲全周、闇の中、一定距離を離れたラインに、夥しい数の『何か』がびっしり、ひしめく様に群生していて……!
 その索敵と同時に、闇の奥で巨大な何かが身じろいだ。
 先の侵入によって、既に『寝た子は起こされ』ていた。『見つけるホー』のマテリアル波を感知した『アメフラシ』が、侵入者を排除すべくその全身の『フジツボ』たちを紅く発光させて……!
「ッ! 牽制射! 後は全力で逃げやがれ!」
 ゾッとするような悪寒を感じ、沈黙を解いて、シレークス。カリブンクルスは幻獣用キャノンを闇の中に向け発砲すると脇目も振らずに逃げ出して…… その背を、闇を切り裂き放たれた幾条もの赤色光線が圧倒的な光量で追い撃った。

「一斉射撃の間隔は約10秒。通路を飽和するほどの量が飛んで来やがります…… あと、広間の壁に沿って悍ましい数の反応がありやがりました。要注意でやがります」
 海蝕洞近くの仮設指揮所── 偵察から戻って来たシレークスは、居並ぶ攻撃隊のハンターたちに入手した情報の全てを伝えた。その姿は全力で逃げるポロウが立てた水飛沫で全身濡れ鼠──濡れた白い聖衣の下に着ていた水着が透けて見える。
「……あまり無茶はしないでくださいね。シレークスさんは頑丈なのでしょうけど、カリブンクルスはそうでもないんですから……」
 そんなシレークスを呆れたように見やりながら、サクラ・エルフリード(ka2598)が尾羽を焦がしたポロウを撫でつつ、友にそう告げる。
「……また厄介な場所に陣取ってくれたものです。意図して配置されたものだとしたら、メフィスト並みに陰湿です。アメフラシに張り付いているというフジツボたちが分離して飛びながらビームを撃って来ても驚きませんとも。ええ」
 偶然と呼ぶには余りにあんまりな戦場の状況に、見えざる運命の差配人に苦笑混じりに悪態を吐くヴァルナ=エリゴス(ka2651)。一方で、そんなヴァルナとは真逆の感性の者もいる。死地に勝利を希求する不動 シオン(ka5395)と、バトルジャンキーのゾファル・G・初火(ka4407)の両名だ。
「フン、そう来なきゃな。これだけ徹底した戦場でなければ、出し抜く甲斐がない」
「んふーふー、今回も死にそうな感じがBINBINするじゃーん。こんな楽しい戦場があるんなら、もっと早くから唾つけとけばよかった」
 その言動に互いに通じるものを感じ、それぞれの表情で視線を交わすシオンとゾファル。
 ゾファルにとっては固定砲台なぞ本来は『相手に取って不足も甚だしい』のだが、判明した限定状況の数々に今では嬉々として瞳を輝かせている。
 一方、シオンの方も正々堂々と戦って勝てるような相手は望んでいない。事前に用意周到に策を練って戦場を設定し、対するこちらの策略をも容易に寄せ付けぬ相手こそ、彼女が斬るに値する。そこに敬意も理解も必要ない。ただ全身全霊を傾け、知恵を振り絞って力を出し切り、粉も残らぬ程に純度を高めた命のやり取りだけがあればいい。
「……そうだな。厄介な状況、というのには同意だ。敵の射線を遮りながら接近し、撃破する──これを作戦の基本方針とするしかないだろう」
 シレークスが撮って来たアナライズデバイスの画像を見ながら、ロニ・カルディス(ka0551)はテーブル上のMAPに指を落とした。
「防御耐久に優れた機体を前面に押し出し、隊列を組んで順番にアメフラシのいる広間へ進む。壁役の機体は可能な限り交代して損耗を分散し、広間に出たら左右へ展開。火力を集中して撃破する」
「なるほど。幸い、4機のCAMは全てR7── 先頭を交代しながら『ブラストハイロゥ』を使って進めば、そんなに撃たれ捲る状況は防げそうな気がします」
 ロニの案を聞いて、穂積 智里(ka6819)が賛意を示した。
「ただ、シレークスさんとこのカリブンクルスちゃんが見つけたという『何か』の群生地が気に掛かります。突入時に四方八方から撃たれてしまうかもしれません」
 その智里の言葉に浮かんだ表情に気付いて、また顔を見合わせるゾファルとシオン。苦笑するロニの横で、だが、智里は気づかない。眼鏡キャラらしく(?)グラスに光を反射させつつ自分の思考に没入している。
「では、「エントランス』に着くまではCAM隊の皆様にお任せいたしますわ。そこから先のホールのダンスははやてたちにお任せですの! CAMより小さい分、狭い空間なでも小回りも効きますし、有利なこともありましょう」
 そう胸を叩いて請け負う八劒 颯(ka1804)。彼女の魔導アーマーは颯が最初期から乗り続けている愛機だ。損傷の度に修理と改修を繰り返し、最近ではウイングフレームによる空戦を想定した改造が行われた(個人的には『Gustav』──G型という分類となる)。その全ては巨大ドリルの運用の為。一撃必殺・一撃離脱を身上に(ドリル以外を)ギリギリまで軽量化を施したお約束の高機動カスタム機であり、その運動性には多少なりとも自負がある。
「よし、ではこの作戦でいこう」
 作戦を決し、ロニが会議の纏めに入った。
「今までここの海産物たちには色々と悩まされてきたが、ようやく原因が特定できた。後は後顧の憂いが無くなるよう叩くだけだ」


 ハンターたちは海蝕洞に侵入した。
 先頭は智里のR7。その後をロニの白き清廉号、サクラ機と続き、最後にヴァルナの白騎士『シュバリエ』が、それぞれ腰まで水に浸かりながら水面を掻き分けるように進む。
 その後ろに、颯と魔導アーマー『Gustav』、シオンとイェジド『神威』を乗せた小舟。最後尾にゾファルが『ダルちゃん』と呼ぶ魔導アーマー『ヘイムダル』──

 一行は『広間』へ通じる最後の直線──アメフラシから200mの位置に達した。途端、奥から響いて来る獣の咆哮の様な鳴動── 「これは……もう見つかってしまっていますね」と先頭の智里が呟き、前後方に『ブラストハイロゥ』を展開する。
 すぐに迎撃の砲火が来た。通路を埋め尽くすように放たれた赤い怪光線の一斉砲撃── 被弾の衝撃に智里は「きゃあ!」と悲鳴を上げた。マテリアルカーテンを展開しながら、通路の横に張り出した石柱の陰に機体を寄せる。が、CAMの巨体を完全に隠せるものではない。
「狙って撃ってるわけじゃない。そうそう当たるものではないぞ!」
「はいっ!」
 ロニの言葉に、智里は前進を再開した。一斉射撃は10秒に1回──その情報を基に、一気に水を描き分け進み、タイミングを計って石柱や石筍の陰に隠れてなるべく被弾を抑えながら、一方的な砲撃に耐えつつ距離を詰めていく。
 やがて、事前に設定していたダメージ量に達し、智里は前面に弾避けの『アースウォール』を展開して、機体を横に向けて背を壁に張り付けさせた。同様に機体を横に向けたロニ機が装甲を擦らせながらギリギリ前に出る。
「これは……ただすれ違うだけでも一苦労ですね……」
「この無防備な間に攻撃を喰らったら……」
 サクラ機とヴァルナ機も同様に前へと進み、智里機がCAM隊の最後に回る。
 砲撃が飛んできて、土の壁が崩れ去った。先頭に立ったロニ機が光の翼を展開し、盾を翳して前へと進む。
 ……幾度もの砲撃に、瞬く間に損傷していく機体。その度にロニはダメージコントロールを行い、損傷個所の機能を回復させていく。
「ロニさん、大丈夫ですか……? 交代しますか?」
「いや、広間はもう遠くない。このまま押し切る……!」
 サクラの気遣いを謝絶して、ロニは一気に機体を走らせた。砲撃の豪雨の中を、盾を翳し、強引に水を描き分け進む。
 やがて水深が浅くなっていき……広間入口へと達したロニ機はよろめくように片膝をついて後方の味方の出口を空けた。それを庇うように盾を構えたサクラ機が前に出て。後続してきたヴァルナがサクラ機とは反対側へ跳ぶ。
「ふぁいあいんざほー」
 味方に警告を発しながら、サクラは暗視モードのモニタにボンヤリ浮かんだ巨大アメフラシにプラズマボムを投擲した。ロニ機もまた水中に片膝をついた姿勢のままビームキャノンを構え、高威力の『マテリアルライフル』を撃ち放つ。宙を貫く紫色光線。敵の足下に跳ねって炸裂するプラズマ炎── 閃光が広間を灼く様に照らし、地面に長い影を伸ばす。
 ハンターたちの初撃に焼かれたアメフラシが悲鳴の様に空気を鳴動させ── その光と轟音が消え行くタイミングで、魔剣「バルムンク」を構えたヴァルナ機が巨大アメフラシへと肉薄した。
「まずはその『鎧』兼『砲』を削ります……!」
 魔剣に心に宿した力を込めて、まずは真横へ薙ぎ払うヴァルナ機。半円を描く様な剣の軌跡に舞ったマテリアル粒子が直後、大輪の花を咲かせるように炸裂し、アメフラシ前面のフジツボたちを薙ぎ払う。だが……
「殻は硬くて土台は軟体…… 何とも厄介な組み合わせですね……」
 削られた殻の破片を宙に舞わせながらボヨンと波打つアメフラシの身体を見て、なんとなくシレークスを思い起こしつつ、サクラ。
「衝撃安全ボディというわけですか。ならば……!」
 ヴァルナ機は地面に魔剣を突き立たせると、背部にマウントしていたマテリアルハルバードを前面へと回して構えた。形成されるマテリアル光の刃。その周囲に蟠る風の流れ── ヴァルナが真横に振り抜かせたその光の刃はフジツボの殻を切り裂き、風の刃がその中身を抉って砲の一門を沈黙させる。
「なるほど。魔法攻撃が一番効きますか」
「……射線開通! 一旦、目標周辺から退避するじゃん!」
 そこへ仲間の声が耳を叩き、ヴァルナは一旦、機を退かせた。直後、通路の奥から放たれた魔力砲弾が広間に飛び込んで来て、アメフラシに直撃した後、炸裂して周囲へ炎を撒き散らす。
 それは戦場後方、通路の水の上に(あひるの浮袋で)浮いたゾファルのダルちゃんが砲から放ったスペルランチャー「天華」だった。本来は敵の上空に打ち上げて使うものだが、狭い洞窟内故に直接照準で叩き込んだものだ。
 照準を修正し、再び引き金を引くゾファル。もふろうの力を借りてパワーを上げたQSエンジンが唸りを上げ、威力を向上させた魔力砲弾が再び長い通路を抜けて広間奥のアメフラシを直撃し、敵本体と砲とを炙り焼く。
「はい、終わりました。これで水の上を駆けられますよ!」
「感謝いたしますの!」
 そのゾファル機の後ろで智里に『ウォーターウォーク』を掛けてもらった楓は、露天操縦席のアクセルを踏み込み、ツインテールを風になびかせながら一気に装輪走行で水上をダッシュした。続けてシオンも同様に── 戦闘開始の時を迎えて、飢えた狼の如き笑みを浮かべて告げる。
「さあ、行くぞ、神威。『遊戯』の時間だ」
 その『遊戯』が文字通りの命懸けであることを十分に承知しているイェジドが歓喜の吼え声を上げ。主の指示に躊躇うことなく舟から水面へと飛び降りると前方へ向かって走り出す。
「はやて参上ですの!」
 広間に出て一直線にアメフラシへ向かいながら、周囲の味方へ『多重性強化』。更に颯は味方の為にアメフラシへ探照灯を照射した。闇の中に敵を照らしてその位置を示すと同時に、相手の注意を少しでも自分に惹き付ける為だ。
 その隙に広間側方へと回り込み、闇の中に身を潜めて進むシオン。──利用できる状況はその全てを勝つ為に舐り尽くす。それが彼女の信条だ。……フェアプレイに徹して敗北するなど、少なくとも自分は御免だ。マリーシアなんて言葉ですら生温い。
 照らし出されたアメフラシにゾファルの三度目の砲撃が命中し…… 直後、アメフラシは背から白い煙を吐き出した。それは煙幕の様に周囲へ広がり、アメフラシの身体を覆い尽くし、射線と視線を切ると同時に、Volcaniusの煙幕弾の様な効果も発揮した。それにより砲撃の結果を確認できなくなったゾファルは、んー……と頭を掻くと、砲撃を中止して斬艦刀を引き出しながら、後ろから来た智里機と共に広間へ向かい。ロニもまた「射撃攻撃を封じたのか……?」と呟き、砲を上げると、マテリアルハルバードに装備を変更して機体を前進させようとする。
 その動きを封じたのは、全周一面、広間の壁に一斉に灯った赤い光だった。それは壁一面に張り付いたフジツボたちが発する光で、直後に放たれたビームは全周からハンターたちを串刺しにする──はずだった。
 だが、その攻撃は不意打ちにはならなかった。事前にシレークスの偵察によって警戒していたからだ。
 射撃と同時にマテリアルカーテンを展開しながら、左右に光の翼を広げて敵の射線を切るヴァルナ。颯もアメフラシに突撃させていた機体を急停止させ、装輪を滑らせるようにしながら回避運動へと転じる。
 一方、闇の中を進むシオンはフジツボたちのビームに照らし出されて姿が露見し、舌を打ちつつも笑みを浮かべて反撃の自動拳銃を撃ち放った。そんな主を乗せた神威は『スティールステップ』で五月雨に降るビーム回避しつつ、むしろ加速するようにアメフラシのいる前へと進む。
「ふふ……いいじゃないか。敵も! 味方も! 負けていられんな、神威。『抑え込め』」
 主シオンの命に応じて、『ウォークライ』──威圧による行動阻害の咆哮を上げる神威。ヴァルナのマテリアルカーテンによって前後に切られた敵火力が一時的に更に半減する。
「シレークスさんの偵察が役に立ちましたね……反撃します」
 ロニ機と背中合わせに盾を構えて亀となっていたサクラはそれを見て取ると、盾の陰から壁に向かってハンドグレネードを投擲した。広間入口に達した智里も(壁や天井が崩れないといいなあ)などと思いながら機にハンドガン「トリニティ」を構えさせ、展開した銃身から壁のフジツボたちに向かって『プラズマグレネード』を発射。立て続けに炸裂したプラズマ爆発が壁ツボ(?)を薙ぎ払っていく。
 更に敵の手数が減って、盾の陰から飛び出すサクラ機。両手に突撃槍とドリルを引き抜きながらそのまま突撃し、壁のフジツボに槍をつける。
「やはり、硬い…… が、『砲口』をピンポイントで突ければ脆いですね。このままチマチマと削っていくというのも嫌いな作業ではありませんが……!」
 サクラはマテリアルドリルを回転させると、それを壁に押し当ててガリガリとフジツボたちを削りだした。砕けた殻と火花が飛び散り、動けぬ敵を帯状にゴリゴリ削っていく……
「煙…… 晴れませんね……」
 いつまでも薄まらぬ白煙に、意を決して中へと飛び込むヴァルナ。このまま外から光の刃を振るい続けても良かったが、敵の姿が見えぬとあっては効果の程も確認できない。
 同じ得物を構えたロニ機もそれを見て支援に入り。回避運動から解き放たれた颯機もまた、2機の巨人に蹴飛ばされることも恐れず、真正面から煙の中へと突入した。
「見えましたの!」
 白く煙る帳の向こうにアメフラシの巨体を見つけ、ドリルを展開する颯。回転し出したドリルの轟音を直接感じ取りながら、操縦桿を前へと押し出して得物を眼前の敵へと突き入れる。
 高速回転したドリルの先端がフジツボたちの間に突き立ち、激しい火花が周囲へ舞い散った。左右では、斧槍を振るう2体の巨人──ヴァルナ機とロニ機の足遣い。この風、この肌触りこそ、とか思っちゃたりした颯の目の前で、フジツボの殻を砕いたドリルがアメフラシの身体を抉り。飛び散ったアメフラシの体液が颯へ飛び散り、少女は汚れたゴーグルを上げて視界を確保する。
 3人に痛打を被ったアメフラシは、雄叫び、背中から放つ煙を白から紫へと変化させた。それはこれまでのものとは違って視界を遮る様なものではなく、その意図を訝しんで小首を傾げたヴァルナは、だが、次の瞬間、目を丸くした。
「これは…… 腐食毒……!」
 ヴァルナ機の頭部カメラにノイズが走り、装甲板にぷつぷつと穴が空いたのを最後に映して、プツリと映像が途絶えた。ヴァルナはすぐにカメラをサブに切り替えつつ、ロニと颯に警告を発しつつ後ろへ下がり。ロニも露天の颯機の上に盾を翳して舞い降る腐食毒から守りながら、共に一旦、距離を取る。
「『紫』は……『白』と違って長くは滞留しないようですね」
 その特性を離れた場所から観察しながら、ヴァルナ。同時に、先程、自分たちがつけたアメフラシの傷が、徐々に塞がりゆくのも確認する。
「ただでさえ打たれ強いのに、その上、自己回復能力まであるのか……」
 ロニが呻く様に呟いた。

 以降、アメフラシとの戦いは一進一退が続いた。状況が変化したのは、壁に群生していたフジツボたちが全滅し、全ての火力をアメフラシに集中できるようになってからだった。
「さあ、どんどんいきますよ! 『デルタレイ』!」
 広間へと侵入した智里機が電子魔導書エミシオンに記された術式を展開し、空中に描き出された魔法陣から三条のマテリアル光線を撃ち放ち。放たれた光の槍はそれぞれ、1つのフジツボと本体2か所を撃ち貫き、穴を開ける。
 その後も智里の魔力が切れるまで次々と撃ち放たれる『デルタレイ』。まだ生き残っていたフジツボや本体に次々と穴が空き。アメフラシの自己回復能力は、しかし、ハンターたちの攻勢に追いつけない。
 右手脇に斧槍を挟んで片手で大きく回転斬りを仕掛けたヴァルナ機が、その途中で空いた左手で地面に突き立った魔剣を引き抜き、フジツボたちを続け様の連撃で薙ぎ払う。更に斧槍を地面へ突き立てて魔剣を右手に投げ渡し。左の『盾』を銃へと変形させて、立て続けに連射する。
「……アメフラシの『鎧』は剥ぎました。一気呵成に仕留めましょう……!」
 ヴァルナの呼び掛けに応じて、サクラ機が突撃槍を構えてブーストを最大噴射。炎と陽炎を背負って一気に突撃を仕掛けた。ヴァルナ機が下がったスペースへ突入し、その勢いもそのままに槍をズブリと突き入れるサクラ機。雄叫びを上げて悶絶した敵が身体を大きく横へと回し、槍ごとサクラ機をぶん回して横の壁へと叩きつける。
 そうして背を向けたアメフラシは、今度は背面側のフジツボで反撃の砲火を放ってきた。
「しゃらくさい、です!」
 智里は味方に警告を発すると、その背面のフジツボたちに向かって残っていた『プラズマグレネード』を撃ち放った。その爆発に焼かれたフジツボたちを、サクラ機に代わって再び前に出たヴァルナ機が剣戟と銃撃によって削り取っていく。
「蝶の様に舞い……」
 放たれる赤色光線の豪雨── それを前後左右のGに耐えつつ、跳躍と急制動の連打で躱し……
「……蝶の様に刺しますの!」
 最後の回避の跳躍を突進の勢いに換え、颯が機の右に突き出したドリルを再び突き入れた。
 回復し切れぬ連撃に晒され、再び腐食毒を吐こうとするアメフラシ。だが、二度目の兆候を察したロニが『レクイエム』でその行動を妨害する。辛うじて動けたフジツボたちがそれを止めるべくロニ機に砲撃を集中させるが、ロニは自分と機体の感覚を同調させてその全てを回避していく。
 その流れ弾を同様に『人機一体』で潜り抜けながら、突進、肉薄するゾファル機。そのまま突撃を継続しながら大剣を大上段に振り上げ、機体と剣の全質量と遠心力とを叩きつける。
「海産物の分際で…… 俺様ちゃんの太刀からは逃れられないじゃーん!」
 一打撃砕、『星砕き』── ずんばらりと大きくアメフラシの本体を断ち割り、心底楽しそうに笑いながら。フジツボたちが反撃を放つ直前、ゾファルは機体を一歩、CAMでは入れぬアメフラシ横の隙間へと入り込ませた。
 アメフラシの右側(今は背を向けたから左側か)のフジツボたちは、先のゾファルの砲撃によって悉くが焼き払われていた。全てはこの時の為── 計画通りじゃーん! とゾファルがしてやったりの笑みを浮かべる。
 一方、前面ではフジツボの殻が砕けて颯機のドリルの火花が停まり、切っ先がズブリとアメフラシ本体に突き立った。颯はグイッとそれを突き入れ──後、なぜかドリルの回転を止めた。
「武装マテリアル強制解放。錬成開始。機導、制御……」
 颯の手順に従って眩い光を放ち始めるドリル── 最後に大きく息を吸って。颯が操縦桿のスイッチを押し込んだ。
「びりびり電撃どりる!」
 瞬間、アメフラシの体内でドリルの先端からマテリアルの電撃が放たれた。それはドリルの様に螺旋状に渦を巻き、アメフラシの身体を突き抜けて麻痺を引き起こす。
 敵の動きが停まった機を逃さず、シオンは神威に突進の指示を出した。CAM2機と魔導アーマー1台が並べば狭いアメフラシ正面の空間はすぐに埋まってしまう。シオンは敢えてゾファルとは反対側の空間に飛び込んで半包囲を完成させつつ、至近距離からの銃撃でコアを潰してフジツボたちの数を減らすと、その銃を投げ捨てて妖刀を鞘走らせた。
「子分共では刀の錆にもならんな…… 貴様の地力を拝見させてもらおう。……私如きの攻撃で、簡単にくたばってくれるなよ?」
 シオンは妖刀に己のマテリアルを注ぎ込んで刃に纏うと、薙ぎ払いからの刺突一閃で文字通り敵の巨体を縦横に斬り裂き、貫いた。その痛みに恥も外聞もなく赤色光線を乱射し、幅寄せを仕掛けてくるアメフラシ。今にも押し潰されそうなプレッシャーの中、嬉々として斬撃を繰り返した。
「そうだ! さあもっと抵抗しろ! もっと私の肌に傷を作ってみろ! お前のパワーその程度か? その図体はただの飾りか?!」
 その間、ゾファル側の空間はその分、広くなり。そのスペースを使って彼女は再び星砕きを叩き込んだ。起き上がって槍を構え直したサクラ機もまた、再突撃を駆けて槍を深く突き入れる。
 アメフラシはいよいよ追い詰められた。そして、紫汁腺から『紅い煙』を吐き出した。
「……ッ!」
 嫌な予感がして、ハンターたちは距離を取った。肉薄していた颯、ゾファル、シオンの3人だけが間に合わなかった。
 直後、紫汁腺から火花が飛び散り、連鎖的に赤い煙が爆発した。
 気化爆発── のような爆炎が湧き起り、その爆圧によって洞窟が崩落し始めた。
「ああっ、やっぱり!」
 予想通りの展開に悲鳴を上げつつ、ちょっぴり笑みを浮かべて、智里。サクラは広域回復魔法を使用しつつ、ヴァルナと共に颯やゾファル、シオンたちを通路へと引っ張り下げていった。
「このまま結果知れずになるのは……!」
 最後に、ロニは広間の天井が崩落する中、通路からマテリアルビームとレーザーをアメフラシに撃ち放った。
 二つの大穴が明けられたアメフラシは空気が漏れたタイヤの様に急速に萎んでいき……崩れ落ちて来た岩に潰され……ぐちゃりと潰れて、土に埋もれた。


 こうしてアメフラシは討伐された。かの空間の浄化こそ出来なくなったが、代わりに新たな海産物が入り込み、雑魔化する場所も無くなった。
 ジョアンら砲兵隊は海蝕洞の入り口を岩で封鎖し、爆破処理して完全に塞いだ。最初からこうしていれば良かったのでは、とのツッコミには、「脇道が無いとも限らなかったから」とジョアンが言い訳をした。

「フジツボのお味噌汁…… 食べられなかったです……」
 封鎖された洞窟を見やって、しょんぼりと呟く智里。
「これで少しは島の浄化が進むようになると良いのですけれど……」
 それに苦笑しながら、ヴァルナがポツリと呟いた。

依頼結果

依頼成功度成功
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参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    セイレンゴウ
    清廉号(ka0551unit003
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カリブンクルス
    カリブンクルス(ka0752unit004
    ユニット|幻獣
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    グスタフ
    Gustav(ka1804unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka2598unit003
    ユニット|CAM
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シュバリエ
    シュバリエ(ka2651unit003
    ユニット|CAM
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「ヘイムダル」
    ダルちゃん(ka4407unit005
    ユニット|魔導アーマー
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カムイ
    神威(ka5395unit001
    ユニット|幻獣
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka6819unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/02 20:47:02
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/12/03 10:25:19