ゲスト
(ka0000)
【研キ】組成
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2018/12/16 09:00
- 完成日
- 2018/12/29 04:43
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●組み上げる
デバイスからは、これまでに集めたデータが、導き出した結果が延々と垂れ流されている。
それを見ている筈の瞳は、フードの奥に隠され窺い知ることが出来ない。
「……やっと、である」
声が零れたことで、籠められた感情が色を持ち始める。ただそれを耳にするものは彼が言うところの下僕達だけであり、つまり他者はいない、ということなのだが。
マテリアルを潤沢に含むからこそ実験の意味がある。マテリアルに親和性の高いエルフの検体は、やはり同じ場所で生み出されたモノでなければならない。
はじめは植物で、小動物で……次第に実験対象は大きくなっていく。
『なぜエルフばかりがここまで深刻に歪虚病に怯えるのか』
マテリアルに親和性があるという言葉はただ表面を取り繕っているだけだ。実際は純粋だろうと不純だろうとどちらにもひどく影響されるというのに。
普段から利用しているのが純粋なマテリアルだけだから「親和性が高い」と呼んでいるだけだ。不純なマテリアルにだけどうして「侵される」と弾くのか。
「意味が分からないのである」
どちらも受け入れて然るべきだろうに。それこそ在るがまま、恭順の頑固頭共はなにを……いや、その事実を直視したくないからこそ森に引き籠るのか。だからこそ言葉を選び浄化術を成したのか。その上で恭順派と名乗るとは。
「馬鹿馬鹿しいのである」
歪虚親和と呼ばれながら、否定する時間も惜しくなり言葉を連ねるのは早々に止めた。
純粋だろうと不純だろうと、マテリアルはマテリアルである。どちらを望もうと、在るがままに過ごせるのが一番だと分からないなら、分らせればいいだけだ。
はじめに用いた草は、それだけでは何の運動性も示さなかった。
仕方なく、次にと用意していた小動物を使った。
蒼の技術の浸透に伴い、機械という外殻の可能性を知った。
そのものを損なわずに居られるならと繋げば確かに能力は高まった。
身体と認識する部位は増えたが、本来の姿に近いならばと続けていれば、身体の方が負け始めた。
契約は必然だった。限りなく同じとは言わないが、生来の身体の記憶をそのまま使える点は悪くない。
腐臭は次第に慣れた。実験を繰り返していれば腑分けも血飛沫も当たり前で、機械油やら廃気体にも慣れていた。
倒れては意味がないと定期的に洗浄はしていたが、ヒトに必要な生理的な行動は面倒になっていった。
量産を始めるころになって、チームに呼ばれた。
独りでの研究に慣れた身には煩わしいだけだが、素材集めの労力が減る件と相殺した。
己の求める形を、成果を、実際に外に出すようになってからは、見え始めた答えが近づいてくる手応えに震えた。
新しい発見の度に道が見出されていく。
切って繋いで注いで試して、
見聞き集めて突いて試して、
殺して尋ねて撃って試して、
話して傾げて戻して試して、
調べて創って落して試して、
隠して集めて撃って試して、
支えて繋いで煽って試して……
リンドヴルムのデータを入手したあの日から、リンドヴルムばかりつくる日々だったが……
結果だけ見れば、それもまた必要な時間だったのだろう。
思えばはじめから、独りで研究することが好きだった。
集中することで精度を高めることが出来た。
ただ素材と、技術と、向き合っていればおのずと必要な結果へ近づくことが出来た。
視線が減って、使える素材が溢れた。
もともとリンドヴルムを改造して重用していたから、基礎データを得てからは応用がさらに容易になった。
欠けたデータは過去のそれらを再現するほどの情報はなかったが、新しいパーツを生み出す糧になった。
既を知り、新を求め、
標を見据え、繰り返し、
階を登り、繰り返し、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、雑音は壊し、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、前だけ見つめ、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、答えしか見えず、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し……
狂ったように、繰り返し続けて。
仕上がった。辿り着いた。
試そう、答えを出すために。
壊そう、在るがままとなるために。
進もう、はじめた場所からはじめよう。
機は満ちたのだから、実を結ぶだけだから。
連れている下僕達で四方も、上方も、護りを固めて。
大峡谷から森を臨む。
数が多いからこそ、人目に触れにくい場所を使うしかなかった。けれど、その意味はあったはずだ。
森を見据える。
「勝手知ったる我が故郷というやつであるが」
壊さなければ。
「今は手薄だという話であるし、都合がいいのである」
壊したい。
「完成したいまは、ただの実験場であるし」
壊した結果を見届けたい。
「おまえたち、止まらないことが一番である」
唯一、意思のないそれに乗り込む。
「我がすべてを満たすまで、実を結ぶまで、たたかうのである」
そのためにここまでつくりあげたのだから。
「すべてのマテリアルでみちる様はきっと、壮観であるからな」
●暗雲のように、成す
「大峡谷から、強い負のマテリアルを感知した」
その報はエルフハイムからのもの。
ブラットハイムか、ツヴァイクハイムか。最終的には最奥地まで目指されているのかもしれないけれど。
出来ることなら、少しでも土地勘のある者達に手を貸してほしい……そうしてハンター達は呼び出された。
ヴォールの可能性が高かった。先日のアラクネ達もその方角から現れていたから。
何か大きく動くことを示すような言葉を考えれば、警戒は重要だ。
偵察に動いていた警備隊がもたらした敵影、その数を聞いて、長老ユレイテルはすぐさま伝話を繋いだ。
足りる訳が無かった。軽く見積もって、百。
取引に現れたアラクネ型は六だった。八名で足りる訳が無かった。
幸いなのは、相手が隠れる様子がなかったこと。集合体としての足はそう早くなかった事だろうか。
緊急依頼としてハンター達を集めれば、間に合うだろう。
ラズビルナムの件で手は足りない中で、森都内の闘える者達もかき集めて。
そうして全員が揃ったのが、今。
負のマテリアルが具現化でもしたかのように、黒が多い敵の群。
地平線に添って線状というわけではなかった。
球になろうとして、けれど歪で。
密になろうとして、不規則な。
遠目には塊のようにも見えるそれが、大峡谷からやってくる。
森を背にし待ち受けるハンター達は、早く駆け出したいのを堪えながら、その時を待っている。
所謂核にあたる、群れを率いているヴォールを叩くには、外殻……護るために存在するらしい歪虚達が邪魔で。
その数を全て相手にしてからヴォールに辿り着けるなんて、そんな豪語は出来なくて。
消耗を避けるために、最後の砦となるために。
彼らは逸る気持ちを抑え込みながら、その刃を研いでいる。
デバイスからは、これまでに集めたデータが、導き出した結果が延々と垂れ流されている。
それを見ている筈の瞳は、フードの奥に隠され窺い知ることが出来ない。
「……やっと、である」
声が零れたことで、籠められた感情が色を持ち始める。ただそれを耳にするものは彼が言うところの下僕達だけであり、つまり他者はいない、ということなのだが。
マテリアルを潤沢に含むからこそ実験の意味がある。マテリアルに親和性の高いエルフの検体は、やはり同じ場所で生み出されたモノでなければならない。
はじめは植物で、小動物で……次第に実験対象は大きくなっていく。
『なぜエルフばかりがここまで深刻に歪虚病に怯えるのか』
マテリアルに親和性があるという言葉はただ表面を取り繕っているだけだ。実際は純粋だろうと不純だろうとどちらにもひどく影響されるというのに。
普段から利用しているのが純粋なマテリアルだけだから「親和性が高い」と呼んでいるだけだ。不純なマテリアルにだけどうして「侵される」と弾くのか。
「意味が分からないのである」
どちらも受け入れて然るべきだろうに。それこそ在るがまま、恭順の頑固頭共はなにを……いや、その事実を直視したくないからこそ森に引き籠るのか。だからこそ言葉を選び浄化術を成したのか。その上で恭順派と名乗るとは。
「馬鹿馬鹿しいのである」
歪虚親和と呼ばれながら、否定する時間も惜しくなり言葉を連ねるのは早々に止めた。
純粋だろうと不純だろうと、マテリアルはマテリアルである。どちらを望もうと、在るがままに過ごせるのが一番だと分からないなら、分らせればいいだけだ。
はじめに用いた草は、それだけでは何の運動性も示さなかった。
仕方なく、次にと用意していた小動物を使った。
蒼の技術の浸透に伴い、機械という外殻の可能性を知った。
そのものを損なわずに居られるならと繋げば確かに能力は高まった。
身体と認識する部位は増えたが、本来の姿に近いならばと続けていれば、身体の方が負け始めた。
契約は必然だった。限りなく同じとは言わないが、生来の身体の記憶をそのまま使える点は悪くない。
腐臭は次第に慣れた。実験を繰り返していれば腑分けも血飛沫も当たり前で、機械油やら廃気体にも慣れていた。
倒れては意味がないと定期的に洗浄はしていたが、ヒトに必要な生理的な行動は面倒になっていった。
量産を始めるころになって、チームに呼ばれた。
独りでの研究に慣れた身には煩わしいだけだが、素材集めの労力が減る件と相殺した。
己の求める形を、成果を、実際に外に出すようになってからは、見え始めた答えが近づいてくる手応えに震えた。
新しい発見の度に道が見出されていく。
切って繋いで注いで試して、
見聞き集めて突いて試して、
殺して尋ねて撃って試して、
話して傾げて戻して試して、
調べて創って落して試して、
隠して集めて撃って試して、
支えて繋いで煽って試して……
リンドヴルムのデータを入手したあの日から、リンドヴルムばかりつくる日々だったが……
結果だけ見れば、それもまた必要な時間だったのだろう。
思えばはじめから、独りで研究することが好きだった。
集中することで精度を高めることが出来た。
ただ素材と、技術と、向き合っていればおのずと必要な結果へ近づくことが出来た。
視線が減って、使える素材が溢れた。
もともとリンドヴルムを改造して重用していたから、基礎データを得てからは応用がさらに容易になった。
欠けたデータは過去のそれらを再現するほどの情報はなかったが、新しいパーツを生み出す糧になった。
既を知り、新を求め、
標を見据え、繰り返し、
階を登り、繰り返し、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、雑音は壊し、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、前だけ見つめ、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、答えしか見えず、
登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し、登り、繰り返し……
狂ったように、繰り返し続けて。
仕上がった。辿り着いた。
試そう、答えを出すために。
壊そう、在るがままとなるために。
進もう、はじめた場所からはじめよう。
機は満ちたのだから、実を結ぶだけだから。
連れている下僕達で四方も、上方も、護りを固めて。
大峡谷から森を臨む。
数が多いからこそ、人目に触れにくい場所を使うしかなかった。けれど、その意味はあったはずだ。
森を見据える。
「勝手知ったる我が故郷というやつであるが」
壊さなければ。
「今は手薄だという話であるし、都合がいいのである」
壊したい。
「完成したいまは、ただの実験場であるし」
壊した結果を見届けたい。
「おまえたち、止まらないことが一番である」
唯一、意思のないそれに乗り込む。
「我がすべてを満たすまで、実を結ぶまで、たたかうのである」
そのためにここまでつくりあげたのだから。
「すべてのマテリアルでみちる様はきっと、壮観であるからな」
●暗雲のように、成す
「大峡谷から、強い負のマテリアルを感知した」
その報はエルフハイムからのもの。
ブラットハイムか、ツヴァイクハイムか。最終的には最奥地まで目指されているのかもしれないけれど。
出来ることなら、少しでも土地勘のある者達に手を貸してほしい……そうしてハンター達は呼び出された。
ヴォールの可能性が高かった。先日のアラクネ達もその方角から現れていたから。
何か大きく動くことを示すような言葉を考えれば、警戒は重要だ。
偵察に動いていた警備隊がもたらした敵影、その数を聞いて、長老ユレイテルはすぐさま伝話を繋いだ。
足りる訳が無かった。軽く見積もって、百。
取引に現れたアラクネ型は六だった。八名で足りる訳が無かった。
幸いなのは、相手が隠れる様子がなかったこと。集合体としての足はそう早くなかった事だろうか。
緊急依頼としてハンター達を集めれば、間に合うだろう。
ラズビルナムの件で手は足りない中で、森都内の闘える者達もかき集めて。
そうして全員が揃ったのが、今。
負のマテリアルが具現化でもしたかのように、黒が多い敵の群。
地平線に添って線状というわけではなかった。
球になろうとして、けれど歪で。
密になろうとして、不規則な。
遠目には塊のようにも見えるそれが、大峡谷からやってくる。
森を背にし待ち受けるハンター達は、早く駆け出したいのを堪えながら、その時を待っている。
所謂核にあたる、群れを率いているヴォールを叩くには、外殻……護るために存在するらしい歪虚達が邪魔で。
その数を全て相手にしてからヴォールに辿り着けるなんて、そんな豪語は出来なくて。
消耗を避けるために、最後の砦となるために。
彼らは逸る気持ちを抑え込みながら、その刃を研いでいる。
リプレイ本文
●
(時が無駄になったである)
一度繋げばどうにでもなる筈だった。だが全て断ち切られた。
吸い上げたデータはほんのわずか。これは二の次だ、構わない。
組み上げそのものは終わった。下僕達も僅かだが残っている。
森がまだ先なのがもどかしい。改めて駆る。
ガツンという音が二回響くと同時にアーマーが揺れた。
「……少し、遅かったんじゃないかな」
刃と共に立ち塞がるのはユリアン(ka1664)。
『何がであるか、喚起せし疾走の青(スピーディフリュゲル)』
間が空いた。
「エルフハイムもこの世界も変わり始めている」
問うた分くらいは聞こう。
自然の摂理くらい知っている。
犠牲? 浄化の器は? オルクスは?
可能性に僅かでも頷くならそこに居なければいい。
「どっちが正しいなんてない。譲れないから戦うだけだ」
『我に言わせれば』
ガトリングを向ける。
『遅かったのは時代である』
避けろ、そして道を開けろ。
攻撃を捨てて駆っても追い抜かれ、時折待ち受けたその場所で刃を喰らう。
森でなければ意味がない。耐えられるうちは駆ける。
下僕は全て引き剥がされた。
回収目的にコードを伸ばそうと振り返れば、純粋なマテリアルで消滅が促進されている。
(定まらぬ異相の調(ダブルノート)まで居るのである)
詩ではないから気付くのが遅れた。忌々しい事だ。
改めて見据える森はまだ先だ……
●
足止め用の弾丸が地に着いた瞬間、刃のような閃きと共に掻き消えた。
「ヴォ―ルゥゥ……ッ!! しぃぃねぇぇぇーーーっ!!」
してやったりと言い出しそうな顔のクレール・ディンセルフ(ka0586)が三色の光を纏っている。振るわれた刃は真っ赤な炎に溢れ、広がり向かってくる。
カメラが集まる頭部に傷が増えた。視界が閉ざされることはないが、面倒が増えた。
「随分とボロボロになってるようで! ……あれ?」
『挨拶にしては乱暴であるな、眩しき高き鋼の声(トライアルトラベラー)』
見せびらかすように持っているカートリッジは前にも見た、小娘の楔か。
『我は最高傑作に護られているのである』
アーマー型の胴部には傷が増えているが、破損には至っていない。己が乗る場所の強度は過去最高に強化するに決まっている。
まだ進める。
(この調子では、まだ邪魔ものが居るのであろうな)
止まるつもりはないが。
チラリと視界に閃く銀色。微かな揺れと同時にアーマーの動きが鈍る。
「ここから先は通行禁止、だ……!」
隙を突かれ立ち塞がるのは上背のあるオウカ・レンヴォルト(ka0301)。身の丈より長い刃の切っ先をやはり突きつけてくる。
少し前から詩が聞こえていたので、居るだろうとは思ったが。
『彩る朱金の詞(サイレントリリック)……話せるのであるな』
吟遊詩人共のような、何につけても歌い踊る奴だと思っていた。今も舞っているようだが。
「鎮めるのに必要だと思えば、声を掛けもする」
呟きにまで答えるとは律儀なことだ。
「飛べるほどではないですが、回避能力を補っているあの羽根は、先に落としましょう」
シルヴェイラ(ka0726)の叫び声に視線を向ける。確かに体勢を制御する役目も持たせている。だがそれだけでもある。
(目敏い辺の銀雷(エレキチェイン)か……興乗りし趣の金火(アプフェルシュート)も来るのであろう)
それは少し楽しみでもある。録音機と予想した思考の源はどこだろうと思っていた。
検体共は森の方から来ている。進めば早く見えるらしい。
「通行禁止と……言ったはずだ」
朱金の炎に焼かれる。多少の熱さは感じるが、この程度かすり傷とそう変わらない。
構わず先を急ぐ。大回りだろうと構わない、森に少しでも近く。
弾丸も、刃も。己の身に届かぬうちはどうだっていい。
●
弾幕を認識すると同時に待ちかねた気配に気づく。ガトリングを唸らせる。
「エア!」
慌てた声に返す、落ち着いたエルティア・ホープナー(ka0727)の声音。
「決めたことを思い出して、シーラ」
駆け寄ろうとしたのを止めたのか。
構わず弾丸を撃ち出し、尋ねる。
『汝の源はどこであるのか』
「私からも……始まりを聞いてよいのなら」
新たに矢をつがえながらの言葉に笑いが抑えられない。
『ック……返答次第なのであるな』
「……物語を好んでいるわ、愛していると言ってもいい。本に限れないの……歩んだ軌跡も物語だから」
脚を貫いたらしい揺れ。同じ一本に衝撃が続く。この脚はもうもたないだろう。
この場所でなければ。敵でなければ時を費やしても良いとさえ思うのに。
『果てがないのである』
すり抜けて近付けるのか。別に辿り着かなくても構わない。脚先も向ける。
『効率化にも終わりがないのであるが、土壌が無ければ意味がなかった。掘り返すべきだと考えるのである』
「エアと同列で語るな、ヴォール!」
身体を割り込ませてまで遮るのは無粋ではないか。
それだけ大事と。わからない感情だ。そもそも研究以外に動かす必要があるのか?
「お前には失望だ……!」
拘っている? これ以上最適な実験場が他にあるなら教えろ。
歴史? 結果がすべてだろう。
頑固頭共と同じ? 恭順だろうが維新だろうが根底は同じ。分ける事は無意味、分けた馬鹿が悪い。
『理解なぞとうに不要である。本脳に刻むだけである』
●
「本当に、実験場としか見えておらんとはのぅ……」
凝縮された炎がぶつかる直前に聞こえたヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)の声。
足を失った脚は邪魔な荷物になり下がった。盾にでも使うとするか。
「犠牲者が出る前にヴォール、そなたはここで我らが止める」
検体が増えればそれだけデータが集まり研究が捗ると言うのに。
『代わりの馬があれば喜んで検体にしたのであるが。相変わらず喧しき霧裂く風(ケルピーライダー)であるな』
箒はあるようだが。
「ッ……そなたが! リッターの敵も取らせてもらうのじゃ!」
『あれしき耐えられぬ矮小な供物を伴ったのは汝である』
データにはなったが。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利……♪」
広がるマテリアルが機体に強引に染みこんできている。純粋なそれこそが不快に感じる。
そのせいかルナ・レンフィールド(ka1565)の歌声そのものも耳障りに感じる。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん……」
同時に練り上がるマテリアルに眉根が寄る。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
炎を纏った刃は先ほどから二回ずつ向けられるのはユリアンのもの。
一撃目には脚を差し出しあえて断ち切らせ、別の脚で掴み二撃目を受ける。
立ち位置は先ほどのシーラを彷彿とさせた。
『汝も風乗り月薫る音(アロマブルー)が大事であるらしい』
コクピットが斬り開かれる。一撃目が重いと感じた時には遅かった。二撃目で完全に己の身体が露出させられている。
「おしゃべりしすぎたんじゃないのか?」
東條 奏多(ka6425)から突きつけられる刃の閃きに焦らざるを得ない。
「苛立つ疾黒の影(タレントエッジ)……汝が!」
アラクネの時でも十分に強化したはずだった。それを容易く斬り開いた検体。……否、あの時点で十分に脅威と感じていた。
ここまで見た顔が揃っているのだ、居てもおかしくなかった。
「随分大勢で来たみたいだが、もうお前だけみたいだぞ」
確かに下僕達の気配は完全に消失していた。
「どちらにせよ、俺達は敵を、お前を止めるだけだ」
止める?
『我を?』
そうだろうか。
純粋なマテリアルが豊富に籠められた刃、炎、矢、雷、弾丸……それぞれが迫ってくる。
直接叩きこまれる痛みは確かにある。しかし純粋なマテリアル焼けに困ったのは昔からだ。
既に慣れていると言ってもいい。
『止めるなど、笑止千万であるな!』
求める結果のために、実験方法は、アプローチは。
複数用意するのは当たり前だ。
『クックック……我は! 宵闇の研機である!』
下僕達の楔は既に失われている。
小型楔も全て使い切っている。
『万が一、億が一……可能性がある限り、無駄な仕込みはないのである!』
素材は足りない。
だが手段は残っている。
『我の契約は、先達……不変の剣妃オルクスとのものであり、我自身もまた闇に染まったとはいえ、エルフの身である!』
つまり、我は。
我だけで、楔たりえる。
●
アラクネアーマー型から搭乗者であるヴォールが露出した後、ハンター達の攻撃は勿論ヴォールへと殺到した。
一斉攻撃に等しいそれは、並の歪虚であれば即死でもおかしくないものだ。けれどヴォールの声は止まらなかった。
「どうして、負のマテリアルが弱まらないんですの……?」
巫女フュネの声に、ハンター達は手を緩めた。警戒を解くわけではなく、それぞれがしっかりと敵の様子を観察するためだ。
攻撃を受ける度、アーマー型は攻撃を避けなくなった。むしろ自らの部位を攻撃に対して盾のように差し出している。
アラヴルム達がそうだったように、これまでの戦いにおけるアーマー型がそうだったように。本来なら破損にあい、本隊から離れたパーツは消滅すると思われた。
けれどパーツは全て、ヴォールの元へと向かっている。
「コードとか、ないですよね……?」
ルナの呟きに添うように、どんなに目を凝らしても紐のようなものは見えない。
「鴉型の声も聞こえない!」
クレールが感じとれる機械の声は全て初めてのもの。ただ、どのパーツからも声が聞こえてくるということは。
「……信じがたいが。ただの部品ひとつひとつが、歪虚になっている……そう言っても良さそうだ」
機械の本質を見通そうとしたシーラが小さく首を振るが、結果は覆らない。
「パーツそのものの戦闘力は高くない、と思うのだがね」
「だったら全部ぶっ壊せばいいんだろうが」
シャイターンを閃かせ駆けだそうとする奏多だが、何か閃いたようで足をとめる。構えはそのままだ。
「斬った傍から敵が増えるとか洒落にならないしな」
「そうじゃの……なにをしておるのやら。碌なことではなさそうじゃ」
フュネの青い顔を見たヴィルマが呟く。
「全て焼き払ってしまいたいところじゃが」
「一通り、試したが……多分、同じだと思う」
オウカの言う通り、皆スキルも武器も手は尽くしていた。
「……変化しているように、見えないか?」
本来無防備な筈の今が一番無敵。そういわれても仕方ない姿。
「……初めて覚醒した時に似てる」
ほんの思い付きで零れたユリアンの一言に、皆が顔を見合わせる。
「結局、貴方は……ヒトの身体を捨てたのね?」
エアの言葉が、その答えだ。
●
金属でできたパーツは、アーマー型だった時とそう変わらない大きさの、小さな建造物をつくりあげていた。
傷付き流れていたはずのヴォールの血は、完成と同時に吸い上げられた。
時折見える歯車には、不純なマテリアルが巡り。
機械的に練り上げられたマテリアルが、城を中心とした数メートルまでを汚染結界たらしめていた。
「もう、いいだろ。……ぶっ壊せばいいんだよな?」
奏多の声に巫女が頷く。形状も安定した今なら攻撃も通るだろうと。
「むしろここで倒さないと。汚染が広がるんじゃないかな」
「恐らくは。だからこの場所で終わりを与えてもらえるだろうか。本来の依頼は止めるまでだったが……よろしく、お願いしたい」
ユリアンの確認に答えた長老が、改めてハンター達へと頭を下げる。
「勿論じゃよ。しっかり敵をとるのじゃ」
「最初からそのつもりですよ!」
ヴィルマとクレールの殺意は高いまま。
「……今もずっと動かない。だから、全て当たるんじゃないだろうか」
「試しにそのまま殴ってみるか?」
オウカの予想に奏多がニヤリと笑う。
「よいかも、知れない。……限りのある手段は、温存すべきだろう」
逃げられることがないから言えることだけれども。
「それ、我も一度殴ってみていいじゃろうか?」
あの硬さにダメージが通るとは思えないし、自己満足じゃがとヴィルマが言えば、手を叩いてクレールが便乗する。
「いいですね! バスターダインがありますから、支援しますよ!」
むしろ私も殴ります!
「いや……温存……?」
妙な空気にオウカがオロオロしだす。奏多がぽんと手を置いた。
「すまん、あれは多分止められないんじゃないか」
聞いていたら俺さえも少し、気が抜けたくらいだし。
「ユリアンさんも行ったらどうですか?」
「え!?」
飛び火して驚くユリアンに、ルナが笑顔で頷く。
「……そうだね。託してくれた彼女の分も一緒に」
支えてくれる家族の分も。
(俺の執着が、少しでも軽くなるなら……?)
「そうですよ! 私も支援しますから!」
「シーラ、貴方も行ってくる?」
答えが分かっている問を向けてくる幼馴染に、シーラは小さな溜息を零して。
「そういうエアはどうするんだい」
「……シーラが止めるだろうから、行かないわ」
「それは何よりだ」
●
「想うは月夜の光、願うは静謐……♪」
既に攻撃を受けるだけの敵に意味はないかもしれない。だが仲間達が普段通りの力を発揮できるよう、ルナは愚直にステップを踏み続ける。
(月と呼ぶ貴方に。私からの葬送……かもしれません)
個人的な恨みはある。風のような彼の気を脅かす存在として。しかし今日、それも終止符が打てるだろう。
「捧げましょう、奏でましょう……♪」
アーマー型であったころよりも強固な装甲を崩すには時間がかかる。
しかし攻撃さえもしなくなった、道具と同じ状態の敵を倒す為に必要なのは時間だけだ。
ダメージを受けるごとに小さく、弱弱しく。パーツが外れるごとに消えていく。
拳で一撃入れた事もあり、すっきりと満足気な顔で魔法を練り上げるヴィルマは、かつての愛馬に想いを馳せる。
(やっとじゃ、そなたの無念は晴らせたぞ、リッター……)
(ねぇ、貴方は死ぬのかしら? そしたら森に還れるのかしら?)
結界の外から矢を撃ちながら、エアは心の中で問い続けている。
(貴方の研究情報はどこかしら?)
それすら知識としたくはあるが、堕ちたいとは思わない。汚染の術具とも呼べるあの姿に近寄ったら、心が引きずられるような気がして。
ちらりと、隣の幼馴染を盗み見た。
「歯車の見える場所を狙っていこう! 流れを止めれば弱るはずだ!」
どんな時でも引き上げてくれる、それが当たり前に傍に居るシーラ。
(……私、悲しい物語で終わりたくないわ)
とても興味深いけれど、それだけ。
●
「終わったな……なあ、落ち着いたらでいいんだが」
浄化の必要な個所が残っていないかどうか、奔走する巫女達を眺めながら。長老に声をかけるのは奏多。
「ブラットハイムと、大峡谷。どっちも調査が必要なんじゃないか」
その理由も添える。
「……ああ、私も懸念を覚えていたところだ。進言があれば人手も回しやすい。整えておこう……助かる」
(時が無駄になったである)
一度繋げばどうにでもなる筈だった。だが全て断ち切られた。
吸い上げたデータはほんのわずか。これは二の次だ、構わない。
組み上げそのものは終わった。下僕達も僅かだが残っている。
森がまだ先なのがもどかしい。改めて駆る。
ガツンという音が二回響くと同時にアーマーが揺れた。
「……少し、遅かったんじゃないかな」
刃と共に立ち塞がるのはユリアン(ka1664)。
『何がであるか、喚起せし疾走の青(スピーディフリュゲル)』
間が空いた。
「エルフハイムもこの世界も変わり始めている」
問うた分くらいは聞こう。
自然の摂理くらい知っている。
犠牲? 浄化の器は? オルクスは?
可能性に僅かでも頷くならそこに居なければいい。
「どっちが正しいなんてない。譲れないから戦うだけだ」
『我に言わせれば』
ガトリングを向ける。
『遅かったのは時代である』
避けろ、そして道を開けろ。
攻撃を捨てて駆っても追い抜かれ、時折待ち受けたその場所で刃を喰らう。
森でなければ意味がない。耐えられるうちは駆ける。
下僕は全て引き剥がされた。
回収目的にコードを伸ばそうと振り返れば、純粋なマテリアルで消滅が促進されている。
(定まらぬ異相の調(ダブルノート)まで居るのである)
詩ではないから気付くのが遅れた。忌々しい事だ。
改めて見据える森はまだ先だ……
●
足止め用の弾丸が地に着いた瞬間、刃のような閃きと共に掻き消えた。
「ヴォ―ルゥゥ……ッ!! しぃぃねぇぇぇーーーっ!!」
してやったりと言い出しそうな顔のクレール・ディンセルフ(ka0586)が三色の光を纏っている。振るわれた刃は真っ赤な炎に溢れ、広がり向かってくる。
カメラが集まる頭部に傷が増えた。視界が閉ざされることはないが、面倒が増えた。
「随分とボロボロになってるようで! ……あれ?」
『挨拶にしては乱暴であるな、眩しき高き鋼の声(トライアルトラベラー)』
見せびらかすように持っているカートリッジは前にも見た、小娘の楔か。
『我は最高傑作に護られているのである』
アーマー型の胴部には傷が増えているが、破損には至っていない。己が乗る場所の強度は過去最高に強化するに決まっている。
まだ進める。
(この調子では、まだ邪魔ものが居るのであろうな)
止まるつもりはないが。
チラリと視界に閃く銀色。微かな揺れと同時にアーマーの動きが鈍る。
「ここから先は通行禁止、だ……!」
隙を突かれ立ち塞がるのは上背のあるオウカ・レンヴォルト(ka0301)。身の丈より長い刃の切っ先をやはり突きつけてくる。
少し前から詩が聞こえていたので、居るだろうとは思ったが。
『彩る朱金の詞(サイレントリリック)……話せるのであるな』
吟遊詩人共のような、何につけても歌い踊る奴だと思っていた。今も舞っているようだが。
「鎮めるのに必要だと思えば、声を掛けもする」
呟きにまで答えるとは律儀なことだ。
「飛べるほどではないですが、回避能力を補っているあの羽根は、先に落としましょう」
シルヴェイラ(ka0726)の叫び声に視線を向ける。確かに体勢を制御する役目も持たせている。だがそれだけでもある。
(目敏い辺の銀雷(エレキチェイン)か……興乗りし趣の金火(アプフェルシュート)も来るのであろう)
それは少し楽しみでもある。録音機と予想した思考の源はどこだろうと思っていた。
検体共は森の方から来ている。進めば早く見えるらしい。
「通行禁止と……言ったはずだ」
朱金の炎に焼かれる。多少の熱さは感じるが、この程度かすり傷とそう変わらない。
構わず先を急ぐ。大回りだろうと構わない、森に少しでも近く。
弾丸も、刃も。己の身に届かぬうちはどうだっていい。
●
弾幕を認識すると同時に待ちかねた気配に気づく。ガトリングを唸らせる。
「エア!」
慌てた声に返す、落ち着いたエルティア・ホープナー(ka0727)の声音。
「決めたことを思い出して、シーラ」
駆け寄ろうとしたのを止めたのか。
構わず弾丸を撃ち出し、尋ねる。
『汝の源はどこであるのか』
「私からも……始まりを聞いてよいのなら」
新たに矢をつがえながらの言葉に笑いが抑えられない。
『ック……返答次第なのであるな』
「……物語を好んでいるわ、愛していると言ってもいい。本に限れないの……歩んだ軌跡も物語だから」
脚を貫いたらしい揺れ。同じ一本に衝撃が続く。この脚はもうもたないだろう。
この場所でなければ。敵でなければ時を費やしても良いとさえ思うのに。
『果てがないのである』
すり抜けて近付けるのか。別に辿り着かなくても構わない。脚先も向ける。
『効率化にも終わりがないのであるが、土壌が無ければ意味がなかった。掘り返すべきだと考えるのである』
「エアと同列で語るな、ヴォール!」
身体を割り込ませてまで遮るのは無粋ではないか。
それだけ大事と。わからない感情だ。そもそも研究以外に動かす必要があるのか?
「お前には失望だ……!」
拘っている? これ以上最適な実験場が他にあるなら教えろ。
歴史? 結果がすべてだろう。
頑固頭共と同じ? 恭順だろうが維新だろうが根底は同じ。分ける事は無意味、分けた馬鹿が悪い。
『理解なぞとうに不要である。本脳に刻むだけである』
●
「本当に、実験場としか見えておらんとはのぅ……」
凝縮された炎がぶつかる直前に聞こえたヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)の声。
足を失った脚は邪魔な荷物になり下がった。盾にでも使うとするか。
「犠牲者が出る前にヴォール、そなたはここで我らが止める」
検体が増えればそれだけデータが集まり研究が捗ると言うのに。
『代わりの馬があれば喜んで検体にしたのであるが。相変わらず喧しき霧裂く風(ケルピーライダー)であるな』
箒はあるようだが。
「ッ……そなたが! リッターの敵も取らせてもらうのじゃ!」
『あれしき耐えられぬ矮小な供物を伴ったのは汝である』
データにはなったが。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利……♪」
広がるマテリアルが機体に強引に染みこんできている。純粋なそれこそが不快に感じる。
そのせいかルナ・レンフィールド(ka1565)の歌声そのものも耳障りに感じる。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん……」
同時に練り上がるマテリアルに眉根が寄る。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
炎を纏った刃は先ほどから二回ずつ向けられるのはユリアンのもの。
一撃目には脚を差し出しあえて断ち切らせ、別の脚で掴み二撃目を受ける。
立ち位置は先ほどのシーラを彷彿とさせた。
『汝も風乗り月薫る音(アロマブルー)が大事であるらしい』
コクピットが斬り開かれる。一撃目が重いと感じた時には遅かった。二撃目で完全に己の身体が露出させられている。
「おしゃべりしすぎたんじゃないのか?」
東條 奏多(ka6425)から突きつけられる刃の閃きに焦らざるを得ない。
「苛立つ疾黒の影(タレントエッジ)……汝が!」
アラクネの時でも十分に強化したはずだった。それを容易く斬り開いた検体。……否、あの時点で十分に脅威と感じていた。
ここまで見た顔が揃っているのだ、居てもおかしくなかった。
「随分大勢で来たみたいだが、もうお前だけみたいだぞ」
確かに下僕達の気配は完全に消失していた。
「どちらにせよ、俺達は敵を、お前を止めるだけだ」
止める?
『我を?』
そうだろうか。
純粋なマテリアルが豊富に籠められた刃、炎、矢、雷、弾丸……それぞれが迫ってくる。
直接叩きこまれる痛みは確かにある。しかし純粋なマテリアル焼けに困ったのは昔からだ。
既に慣れていると言ってもいい。
『止めるなど、笑止千万であるな!』
求める結果のために、実験方法は、アプローチは。
複数用意するのは当たり前だ。
『クックック……我は! 宵闇の研機である!』
下僕達の楔は既に失われている。
小型楔も全て使い切っている。
『万が一、億が一……可能性がある限り、無駄な仕込みはないのである!』
素材は足りない。
だが手段は残っている。
『我の契約は、先達……不変の剣妃オルクスとのものであり、我自身もまた闇に染まったとはいえ、エルフの身である!』
つまり、我は。
我だけで、楔たりえる。
●
アラクネアーマー型から搭乗者であるヴォールが露出した後、ハンター達の攻撃は勿論ヴォールへと殺到した。
一斉攻撃に等しいそれは、並の歪虚であれば即死でもおかしくないものだ。けれどヴォールの声は止まらなかった。
「どうして、負のマテリアルが弱まらないんですの……?」
巫女フュネの声に、ハンター達は手を緩めた。警戒を解くわけではなく、それぞれがしっかりと敵の様子を観察するためだ。
攻撃を受ける度、アーマー型は攻撃を避けなくなった。むしろ自らの部位を攻撃に対して盾のように差し出している。
アラヴルム達がそうだったように、これまでの戦いにおけるアーマー型がそうだったように。本来なら破損にあい、本隊から離れたパーツは消滅すると思われた。
けれどパーツは全て、ヴォールの元へと向かっている。
「コードとか、ないですよね……?」
ルナの呟きに添うように、どんなに目を凝らしても紐のようなものは見えない。
「鴉型の声も聞こえない!」
クレールが感じとれる機械の声は全て初めてのもの。ただ、どのパーツからも声が聞こえてくるということは。
「……信じがたいが。ただの部品ひとつひとつが、歪虚になっている……そう言っても良さそうだ」
機械の本質を見通そうとしたシーラが小さく首を振るが、結果は覆らない。
「パーツそのものの戦闘力は高くない、と思うのだがね」
「だったら全部ぶっ壊せばいいんだろうが」
シャイターンを閃かせ駆けだそうとする奏多だが、何か閃いたようで足をとめる。構えはそのままだ。
「斬った傍から敵が増えるとか洒落にならないしな」
「そうじゃの……なにをしておるのやら。碌なことではなさそうじゃ」
フュネの青い顔を見たヴィルマが呟く。
「全て焼き払ってしまいたいところじゃが」
「一通り、試したが……多分、同じだと思う」
オウカの言う通り、皆スキルも武器も手は尽くしていた。
「……変化しているように、見えないか?」
本来無防備な筈の今が一番無敵。そういわれても仕方ない姿。
「……初めて覚醒した時に似てる」
ほんの思い付きで零れたユリアンの一言に、皆が顔を見合わせる。
「結局、貴方は……ヒトの身体を捨てたのね?」
エアの言葉が、その答えだ。
●
金属でできたパーツは、アーマー型だった時とそう変わらない大きさの、小さな建造物をつくりあげていた。
傷付き流れていたはずのヴォールの血は、完成と同時に吸い上げられた。
時折見える歯車には、不純なマテリアルが巡り。
機械的に練り上げられたマテリアルが、城を中心とした数メートルまでを汚染結界たらしめていた。
「もう、いいだろ。……ぶっ壊せばいいんだよな?」
奏多の声に巫女が頷く。形状も安定した今なら攻撃も通るだろうと。
「むしろここで倒さないと。汚染が広がるんじゃないかな」
「恐らくは。だからこの場所で終わりを与えてもらえるだろうか。本来の依頼は止めるまでだったが……よろしく、お願いしたい」
ユリアンの確認に答えた長老が、改めてハンター達へと頭を下げる。
「勿論じゃよ。しっかり敵をとるのじゃ」
「最初からそのつもりですよ!」
ヴィルマとクレールの殺意は高いまま。
「……今もずっと動かない。だから、全て当たるんじゃないだろうか」
「試しにそのまま殴ってみるか?」
オウカの予想に奏多がニヤリと笑う。
「よいかも、知れない。……限りのある手段は、温存すべきだろう」
逃げられることがないから言えることだけれども。
「それ、我も一度殴ってみていいじゃろうか?」
あの硬さにダメージが通るとは思えないし、自己満足じゃがとヴィルマが言えば、手を叩いてクレールが便乗する。
「いいですね! バスターダインがありますから、支援しますよ!」
むしろ私も殴ります!
「いや……温存……?」
妙な空気にオウカがオロオロしだす。奏多がぽんと手を置いた。
「すまん、あれは多分止められないんじゃないか」
聞いていたら俺さえも少し、気が抜けたくらいだし。
「ユリアンさんも行ったらどうですか?」
「え!?」
飛び火して驚くユリアンに、ルナが笑顔で頷く。
「……そうだね。託してくれた彼女の分も一緒に」
支えてくれる家族の分も。
(俺の執着が、少しでも軽くなるなら……?)
「そうですよ! 私も支援しますから!」
「シーラ、貴方も行ってくる?」
答えが分かっている問を向けてくる幼馴染に、シーラは小さな溜息を零して。
「そういうエアはどうするんだい」
「……シーラが止めるだろうから、行かないわ」
「それは何よりだ」
●
「想うは月夜の光、願うは静謐……♪」
既に攻撃を受けるだけの敵に意味はないかもしれない。だが仲間達が普段通りの力を発揮できるよう、ルナは愚直にステップを踏み続ける。
(月と呼ぶ貴方に。私からの葬送……かもしれません)
個人的な恨みはある。風のような彼の気を脅かす存在として。しかし今日、それも終止符が打てるだろう。
「捧げましょう、奏でましょう……♪」
アーマー型であったころよりも強固な装甲を崩すには時間がかかる。
しかし攻撃さえもしなくなった、道具と同じ状態の敵を倒す為に必要なのは時間だけだ。
ダメージを受けるごとに小さく、弱弱しく。パーツが外れるごとに消えていく。
拳で一撃入れた事もあり、すっきりと満足気な顔で魔法を練り上げるヴィルマは、かつての愛馬に想いを馳せる。
(やっとじゃ、そなたの無念は晴らせたぞ、リッター……)
(ねぇ、貴方は死ぬのかしら? そしたら森に還れるのかしら?)
結界の外から矢を撃ちながら、エアは心の中で問い続けている。
(貴方の研究情報はどこかしら?)
それすら知識としたくはあるが、堕ちたいとは思わない。汚染の術具とも呼べるあの姿に近寄ったら、心が引きずられるような気がして。
ちらりと、隣の幼馴染を盗み見た。
「歯車の見える場所を狙っていこう! 流れを止めれば弱るはずだ!」
どんな時でも引き上げてくれる、それが当たり前に傍に居るシーラ。
(……私、悲しい物語で終わりたくないわ)
とても興味深いけれど、それだけ。
●
「終わったな……なあ、落ち着いたらでいいんだが」
浄化の必要な個所が残っていないかどうか、奔走する巫女達を眺めながら。長老に声をかけるのは奏多。
「ブラットハイムと、大峡谷。どっちも調査が必要なんじゃないか」
その理由も添える。
「……ああ、私も懸念を覚えていたところだ。進言があれば人手も回しやすい。整えておこう……助かる」
依頼結果
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作戦相談! クレール・ディンセルフ(ka0586) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/12/15 22:04:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/15 23:48:16 |
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質問卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/12/13 23:09:19 |