ゲスト
(ka0000)
【虚動】結果の確保
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/10 12:00
- 完成日
- 2015/01/15 08:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ナデルハイム
エルフハイムの中でも帝都に近いその区画。シャイネが訪れたのは、役人をしているユレイテルの元だった。
「最近は、どうなっているんだい?」
「一筋縄ではいきません、内装や設備などの方面から進めてはいますが」
挨拶がわりの問いかけにも真面目に答えるユレイテル。概要を聞いてから切り出した。
「本題の前にね。……伝言を預かってきているよ」
それは彼へ伝えてほしいと願ったハンターの言葉。同じ考えを持つハンターはそれ以外に居ることも含めて伝える。
あくまでも『ハンターからの言葉である』という形式をシャイネは維持していた。
「それじゃあ、本題に入ろうか」
「歪虚が操るリアルブルーの兵器CAMが、エルフハイムに接近しているよ」
長老会に伝えた時のように、いつも通りの口調。
「!? それは、どういう事か詳しく教えていただけますか」
歪虚CAMの言葉に腰を浮かせかけたが、すぐに落ち着いた表情になるユレイテル。
(流石人を率いることを決めた子は違うね、僕とは大違い……勿論、事情も性質も違って当たり前、目指すものも理由もきっと、違うんだろうけど)
自分より年若い彼はどんな相手にも敬意を払う。自分にだってそうだ。いくら協力者という立場とはいえ、役人が一介のハンターにする態度ではない。
今考えるべきことではないと思いなおし、説明を始めた。
「君が維新派の戦力を連れて迎撃に行くことは、止めない方針になったみたいだよ」
人間の尻拭いは嫌だが、何もしないで蹂躙される危険は回避したい。そのどちらも満たす都合のいい駒として利用されるという事実はどちらも理解していた。
「ありがとうございます。シャイネ殿にもご助力は願えますでしょうか」
「僕だってエルフハイムの一人だよ? 勿論手伝うに決まっているじゃないか」
エルフハイム出身のハンターとしてだけれど。
「感謝します。取り急ぎハンターズソサエティにも依頼を出しますので、彼らの案内をどうか、よろしくお願いします」
コンコン。
深々と感謝の礼をとった後、丁度ノックの音が響いた。
「ユレイテル様」
慌てて入って来るパウラに変事を感じ取るユレイテル。その後ろに現れたエルフ達と、それを率いる女を強い眼差しで見つめた。
「どうして長老である貴女がこのナデルハイムにいらっしゃるのか、お聞きしても?」
「目上に対して随分な物言いですね。ですが突然押しかけたこちらに非があるのも事実、ここは私が目を瞑りましょう」
ジエルデだって、協力的な態度でなければ、目的は達成されないのだと理解しているつもりだ。
「私は貴方と一時的に手を結ぶため、ここに居ます」
「僕がここに来るのを知っていて、君を紹介してくれって言われたんだ」
顔は知ってるから紹介はいらないだろう。そう続けるシャイネの声はもう誰も聞いていない。
「どういった内容か、お伺いさせていただきましょう。わざわざご足労頂いたのですから」
緊張感あふれる二人のやり取り。聞いている者達は既に空気のような扱いだ。
シャイネは一人面白そうな視線で眺め、秘書のパウラはただひたすら長老の存在に気圧され身を縮こませていた。
ジエルデの連れたエルフ達の大半は上司に静かに付き従うよう口を閉ざしていが、ひとりだけ、ヴェールを幾重にも纏うひとりだけが、緊張も怯えもなく、ただ立っていた。
「浄化結界の巫女と、それを補佐する術者達です。今回の襲撃で起こりえる負のマテリアル汚染への対策として、協力する手立てがあります」
「恭順派が浄化術を提供すると言うのですか?」
「急を要すると判断がおりました」
古くから伝えられる恭順派の浄化術はエルフハイム内でも特に持ち出し禁止とされている技術だ。使用できる者は限られ、またその方法も上層部だけに秘匿されている。
対して維新派の浄化術はまだ歴史が浅い。ユレイテルがまだ二十代だった頃に、あるエルフが完成させた技術を基盤にしている。汎用性と使用者を選ばないことが利点だが、必要な条件を理由にやはりエルフハイムの外部に持ち出すことは良いことだと思われていない。
「件の歪虚を、一定の範囲で足止めすることが可能です」
恭順派と維新派、それぞれの技術に大きく差が存在している現実はユレイテルにとって良くも悪くも鍵となっているのは事実だ。
(今ここで、か)
ジエルデの協力するという言葉をどこまで信じていいものか。しかしこの事態に動かないという選択肢がユレイテルにあるわけがない。
「わかりました」
これは好機だと信じた。
●紅き果実
シャリ、シャリ……
「むぐむぐ。後のことも我は考えていると伝えておいたであろうに。あれは本当に回りくどい事ばかり好むようであるな。我のように素材そのものを活かす美学がどうしてわからないのであろう」
シャリッ
言いながらまた一つ、リンゴの芯をぽいと放る。
「あれの命とはいえ、この黒き我に外出を強いるとは……」
剣妃に言えるならとっくに言っている。代わりに手元のリンゴをなぶる様に食べることでその腹いせにしていた。今ある他の素材は全て研究材料だ、常に手元に置いてあり何に使っても問題ないものとなるとこれ位しかなかった。
「……出来は悪くないが、少し味が変わったか?」
自分は使うだけだから、関係はないのだが。
「さて、我も行かねばなるまい」
フードを目深にかぶり、男は研究所の扉を開いた。
機械仕掛けの鞍に乗り込み、リンドブルムを駆る。
「我が自ら機械人形を確認しなければばらぬとは……まあ、我の技術をもってすれば問題ではないがな」
視界にCAMを捉える。地上が何やら騒がしくしているようだが、それは下僕達に任せればいいと放っておく。
「……あれは」
その視界の隅に、マテリアルの動きを捉えた。
「浄化結界か。器まで使う割に最大威力ではないとはまた面白い」
細かく観察せずともすぐにわかる。研究者なのだから当たり前だ。
「破滅に抗わずとも負のマテリアルに身を委ねてしまえばよいのだ、真理が分からぬ凡人どもめ」
手綱代わりのコードを操れば、リンドブルムの速度が上がっていく。
「我が自ら教えてやろうではないか」
場所に迷う事もなく、巫女の一人へと強襲をかけた。
「……っ!?」
突然の襲撃に対応が遅れる護衛達。既に巫女はこと切れている。
「剣機がなぜ!?」
「同列に呼ばせるなど許しがたいことだ」
剣機ではないと言い張る。ゾンビ型ドラゴンに機械仕掛けのパーツ。一見は確かにリンドブルム型に似ている。しかし先ほどの飛行速度と行動の迷いのなさ。何かしらの強化が施されているのだろう。
「これは我の議論が正しいという証明のための崇高な儀式である」
誰にともなく男が笑う。
さあ、次の巫女を消してしまおう。
「モノが壊れようと誰も傷まぬだろう? 親切な我が壊してやればいい」
媒介が欠ければ不完全となる、不完全な形の負荷が器に全て降りかかれば――
エルフハイムの中でも帝都に近いその区画。シャイネが訪れたのは、役人をしているユレイテルの元だった。
「最近は、どうなっているんだい?」
「一筋縄ではいきません、内装や設備などの方面から進めてはいますが」
挨拶がわりの問いかけにも真面目に答えるユレイテル。概要を聞いてから切り出した。
「本題の前にね。……伝言を預かってきているよ」
それは彼へ伝えてほしいと願ったハンターの言葉。同じ考えを持つハンターはそれ以外に居ることも含めて伝える。
あくまでも『ハンターからの言葉である』という形式をシャイネは維持していた。
「それじゃあ、本題に入ろうか」
「歪虚が操るリアルブルーの兵器CAMが、エルフハイムに接近しているよ」
長老会に伝えた時のように、いつも通りの口調。
「!? それは、どういう事か詳しく教えていただけますか」
歪虚CAMの言葉に腰を浮かせかけたが、すぐに落ち着いた表情になるユレイテル。
(流石人を率いることを決めた子は違うね、僕とは大違い……勿論、事情も性質も違って当たり前、目指すものも理由もきっと、違うんだろうけど)
自分より年若い彼はどんな相手にも敬意を払う。自分にだってそうだ。いくら協力者という立場とはいえ、役人が一介のハンターにする態度ではない。
今考えるべきことではないと思いなおし、説明を始めた。
「君が維新派の戦力を連れて迎撃に行くことは、止めない方針になったみたいだよ」
人間の尻拭いは嫌だが、何もしないで蹂躙される危険は回避したい。そのどちらも満たす都合のいい駒として利用されるという事実はどちらも理解していた。
「ありがとうございます。シャイネ殿にもご助力は願えますでしょうか」
「僕だってエルフハイムの一人だよ? 勿論手伝うに決まっているじゃないか」
エルフハイム出身のハンターとしてだけれど。
「感謝します。取り急ぎハンターズソサエティにも依頼を出しますので、彼らの案内をどうか、よろしくお願いします」
コンコン。
深々と感謝の礼をとった後、丁度ノックの音が響いた。
「ユレイテル様」
慌てて入って来るパウラに変事を感じ取るユレイテル。その後ろに現れたエルフ達と、それを率いる女を強い眼差しで見つめた。
「どうして長老である貴女がこのナデルハイムにいらっしゃるのか、お聞きしても?」
「目上に対して随分な物言いですね。ですが突然押しかけたこちらに非があるのも事実、ここは私が目を瞑りましょう」
ジエルデだって、協力的な態度でなければ、目的は達成されないのだと理解しているつもりだ。
「私は貴方と一時的に手を結ぶため、ここに居ます」
「僕がここに来るのを知っていて、君を紹介してくれって言われたんだ」
顔は知ってるから紹介はいらないだろう。そう続けるシャイネの声はもう誰も聞いていない。
「どういった内容か、お伺いさせていただきましょう。わざわざご足労頂いたのですから」
緊張感あふれる二人のやり取り。聞いている者達は既に空気のような扱いだ。
シャイネは一人面白そうな視線で眺め、秘書のパウラはただひたすら長老の存在に気圧され身を縮こませていた。
ジエルデの連れたエルフ達の大半は上司に静かに付き従うよう口を閉ざしていが、ひとりだけ、ヴェールを幾重にも纏うひとりだけが、緊張も怯えもなく、ただ立っていた。
「浄化結界の巫女と、それを補佐する術者達です。今回の襲撃で起こりえる負のマテリアル汚染への対策として、協力する手立てがあります」
「恭順派が浄化術を提供すると言うのですか?」
「急を要すると判断がおりました」
古くから伝えられる恭順派の浄化術はエルフハイム内でも特に持ち出し禁止とされている技術だ。使用できる者は限られ、またその方法も上層部だけに秘匿されている。
対して維新派の浄化術はまだ歴史が浅い。ユレイテルがまだ二十代だった頃に、あるエルフが完成させた技術を基盤にしている。汎用性と使用者を選ばないことが利点だが、必要な条件を理由にやはりエルフハイムの外部に持ち出すことは良いことだと思われていない。
「件の歪虚を、一定の範囲で足止めすることが可能です」
恭順派と維新派、それぞれの技術に大きく差が存在している現実はユレイテルにとって良くも悪くも鍵となっているのは事実だ。
(今ここで、か)
ジエルデの協力するという言葉をどこまで信じていいものか。しかしこの事態に動かないという選択肢がユレイテルにあるわけがない。
「わかりました」
これは好機だと信じた。
●紅き果実
シャリ、シャリ……
「むぐむぐ。後のことも我は考えていると伝えておいたであろうに。あれは本当に回りくどい事ばかり好むようであるな。我のように素材そのものを活かす美学がどうしてわからないのであろう」
シャリッ
言いながらまた一つ、リンゴの芯をぽいと放る。
「あれの命とはいえ、この黒き我に外出を強いるとは……」
剣妃に言えるならとっくに言っている。代わりに手元のリンゴをなぶる様に食べることでその腹いせにしていた。今ある他の素材は全て研究材料だ、常に手元に置いてあり何に使っても問題ないものとなるとこれ位しかなかった。
「……出来は悪くないが、少し味が変わったか?」
自分は使うだけだから、関係はないのだが。
「さて、我も行かねばなるまい」
フードを目深にかぶり、男は研究所の扉を開いた。
機械仕掛けの鞍に乗り込み、リンドブルムを駆る。
「我が自ら機械人形を確認しなければばらぬとは……まあ、我の技術をもってすれば問題ではないがな」
視界にCAMを捉える。地上が何やら騒がしくしているようだが、それは下僕達に任せればいいと放っておく。
「……あれは」
その視界の隅に、マテリアルの動きを捉えた。
「浄化結界か。器まで使う割に最大威力ではないとはまた面白い」
細かく観察せずともすぐにわかる。研究者なのだから当たり前だ。
「破滅に抗わずとも負のマテリアルに身を委ねてしまえばよいのだ、真理が分からぬ凡人どもめ」
手綱代わりのコードを操れば、リンドブルムの速度が上がっていく。
「我が自ら教えてやろうではないか」
場所に迷う事もなく、巫女の一人へと強襲をかけた。
「……っ!?」
突然の襲撃に対応が遅れる護衛達。既に巫女はこと切れている。
「剣機がなぜ!?」
「同列に呼ばせるなど許しがたいことだ」
剣機ではないと言い張る。ゾンビ型ドラゴンに機械仕掛けのパーツ。一見は確かにリンドブルム型に似ている。しかし先ほどの飛行速度と行動の迷いのなさ。何かしらの強化が施されているのだろう。
「これは我の議論が正しいという証明のための崇高な儀式である」
誰にともなく男が笑う。
さあ、次の巫女を消してしまおう。
「モノが壊れようと誰も傷まぬだろう? 親切な我が壊してやればいい」
媒介が欠ければ不完全となる、不完全な形の負荷が器に全て降りかかれば――
リプレイ本文
●
「長いからフリーデって呼んでちょうだい。今回はよろしくね」
シャイネに名乗ったヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)は、ぷくっと頬を膨らませていた。
「狙われたらあたしの背に隠れてちょうだい……なによその目」
「いい子だと思ってね♪」
すわ子供扱いかと睨みつけたが、視線は彼女の胸……ではなく得物に注がれていた。
「武器も、愛しあえれば答えてくれる。その子はきっとそういう子だよ」
手入れを褒められたようだ。このエルフなら護ってやってもいいかなと思った。
(既に犠牲者が出てしまってますの……ううん、ここは何としても敵を阻止しないと)
浄化結界の術士が既に殺されている、その事実がチョココ(ka2449)の駆ける足に更なる力を込めさせた。
早く辿り着ければ、それだけ敵への準備がよりよく整えられるから、まず次の標的を護るあの場所へ。
(更なる被害を防ぐ為にも、諦めるわけにはいきませんわー)
既に二人と考えて悩むだけなら簡単だ。それより今は、まだ二人と考えなくては。次もまた術士が狙われている様子なのは明白なのだから。
(隊長達は……大丈夫、強い人達だから)
同じ結界の中、別の場所で戦う小隊の仲間達の事を思い浮かべるユリアン(ka1664)。離れていても仲間が近い事は心の支えになる。
「今は此処で食い止める事に全力を!」
できることをする為に、護衛達との連携が今は必要だ。声をかけるユリアンに答えたのはいつかの女性兵士。互いに戦い方を知っている相手だからこそ話も通しやすい。
シャイネ達とゆっくり話ができればとフィドルフ(ka2525)は思ったけれど、それどころではない。
「そっち側の狙撃、期待してるよ。よろしくね」
作戦のすり合わせの合間に声をかけるだけに留める。
(あの子に負担押し付けるのは、格好がつかないだろう?)
器が居るはずの場所に視線を向けた。
「もうB級映画だな」
自身が発した言葉の響きにミカ・コバライネン(ka0340)は苦笑する。口にすると陳腐さが増した。
(ま、上手くやりますか)
術士に名乗った上で尋ねれば、少しの間とフュネとの一言が返された。
「よろしく、フュネさん」
一方的にだろうと戦友と思えればやりやすい。
(実に観察し甲斐がありますね)
手帳を開く余裕があれば、いくらでも書き留められるのに。術士を囲む位置についた音桐 奏(ka2951)は振り返りたい思いを振り切り敵勢を見据えた。
(浄化結界、器、改良型のリンドヴルムに操る存在……命を賭けて戦うには充分です)
それだけ知識欲を満たしてくれるほどの価値が、この場に揃っている。
術士を護る様に傍に立つマリエル(ka0116)も空を見上げた。
(恐い……でも……!)
ここで怯んでは失われるかもしれない人がいる。私と違ってちゃんと誰かと共有できる思い出を持った人が。失われれば悲しむ人が。
「絶対に、守ります!」
「ふふん、この偉大なる私にやられにきたのね♪」
まだ遠いリンドヴルムに向けてアイヴィー アディンセル(ka2668)は人差し指を突きつける。その背に見える人影に見えていようがいまいが構わない。宣言するその事実が重要なのだ。
「良いわ! いくらでもぎったんぎったんのぼっこぼこにしてあげる!!」
首を洗って待ってなさいよ、指揮官!
●
「接敵する前に!」
フレデリクの祈りを乗せた弾丸がユリアンの手元から放たれる。共に剣機型を見たいと願った分、小さなデリンジャーからの一撃が大きなものになる。
未だ固まって動いている下僕達はあくまでも移動に徹している。一斉攻撃で数を減らす作戦が功を奏した。
(あと少しでも崩せれば、斬りこんで行けるかな)
今すぐでは囲まれるだけだから、タイミングが大事になる。
「ヴィンフリーデさん、頼んだ!」
ユリアンの合図に合わせヴィンフリーデが槍を高く掲げれば、黒い柄に瞬く星と、豊かな金髪が旗のように戦場に煌めいた。
「私が最前線よ、ついてきなさい!」
彼女が前衛の真ん中に居るのは意味がある。
「ここから先は一歩も通さないわ!」
敵に自身を大きく見せて立ちはだかる事。味方の士気を高めること。憧れの陛下に近づくための大事な一歩なのだ。
槍先が天を衝くのを皮切りに、後衛からの攻撃が始まる。
マリエルの放つ聖なる光の弾が着実に下僕を狙う。弱点だからこそ効果は大きく、鎧に隠れていない部位が焼き尽くされる様に削られていく。手負いを見極めるのにもいい目印になる。
その傷を抉るように石つぶてが飛んでいく。
「美貌が分からないような歪虚はさっさと消えてしまいなさいよ!」
それとも偉大な私自らの手で塵にして欲しいのかしら? アイヴィーの声が響く。
抉られた傷を広げるように、風の刃が死した体を刻む。
「これ以上のおいたは許せませんのー」
いつもならきゅー、と合いの手を入れてくれるパルパルは居ない。頭上にいつもの重みが無いせいか違和感が拭えないけれど、安全な場所で待ってくれているはずの相棒と無事を喜ぶためにも負けられない。チョココもアイヴィーに倣い、同じ下僕を標的に定めていた。
「威勢のいいお嬢さん達だねー」
煙草の煙の代わりにミカの拳銃が硝煙を燻らせる。敵が狙う先に待ち受けるのは、可憐な少女達……標的のフュネも女だから差異が際立つ。護衛も含めれば男の方が多いのに、彼女達の影にどこか霞む気さえする。
「暴食の連中は素敵な趣味をお持ちの様で」
くつくつと笑う。正にB級映画のエキストラにされてしまった。
「亡霊やら吸血鬼も居た筈だけど?」
敵の損傷具合を見極めていたフィドルフが、睨みつける視線を外さないまま告げる。
「今撃った一体が削れそうかな」
どっちにしろ斃すだけとの響きが含まれている。歪虚の持つ負のマテリアルが不快なのか表情はずっとしかめたままだ。
(四肢の機能停止まではいかないか)
腕の付け根に当てた弾痕を見据える。死体だからか機械的な強化を施されているからか、切り落とさない限りその腕は動くのだろう。
もうすぐ接敵する、ならば上空の警戒をより強めなければならない。
(首を回すのも一苦労ですが)
視野はなるべく広く。把握に努めていた奏の視線の先では6体にまで減った下僕の群。これまで旋回するだけだったリンドヴルムの首もこちらに向けられている。
「カメラのレンズに見えますが」
頭の半分を覆うように取り付けられた部品、中でも目立つのはそのレンズだった。
●
歪虚達と接敵直前、マリエルが光を分け与える先は護衛で居た者達だ。特に敵に近い位置の者を優先していく。自分の序列は最後だ。
(少しでも、耐えられるように……)
マテリアルに願いが乗せられればいいと思う。
下僕達は術士を中心にした半円を描くように陣形を整えようとしていた。それは個々に隙間ができるのと同義で、敵からの攻撃は分散しやすくなり、敵への集中攻撃がかけやすい流れを生んでいた。
好機でもあり危機でもある状況にハンター達は出来る限りを尽くすしかない。
「あたしが倒れる訳にはいかないのよ!」
接敵数の多いヴィンフリーデの声が槍の代わりに高らかに響く。戦う間も鼓舞の意図は忘れていない。仲間達に届くようにと張り上げる間も視線は敵の損傷具合を測り、傷の少ないものから攻撃を仕掛けていく。より多くの下僕を自分へと引き付けるために、そしてより早く殲滅できるように。
星の輝きは光属性の証。彼女が振るう度下僕達は削れ、彼女こそが要だと向かっていく。
生まれた隙間をくぐる様に背後に回り込む。ユリアンの振るうサーベルが一体の腹部、ガトリングの銃身を捉えた。
仕掛けたものの、予想以上の硬さにはじかれる。しかし小さな傷をつけることはできていた。その傷を狙ったアイヴィーのバレットが銃身を拉げることに成功する。それが一体だけでも、範囲攻撃を防いだ意味はあるはずだ。
ミカの盾はこの場に居る者達の中でも特に大きい。師団兵もバックラーは身に着けているが、それはマリエルの盾よりも一回りは小さいものだからだ。
中衛でこの盾の存在は大きかった。前衛だけでは防ぎきれない歪虚達の進行を物理的に止められる。上空からの視線はそれも把握しているようで、盾の無い場所から回り込もうと段階的な攻撃を仕掛けてくるのだが。縦長の形を生かし、少しでも多くの剣戟を止めなければと盾を持つ手ばかりがやたら忙しくなった。
前衛の穴は突破口に見えただろう。
下僕に押し込ませ隙が生まれたと見せかける。リンドヴルムが術士を狙い、自分達の射程に入るように誘い込む案は合流後に手早く打ち合わせたもの。
ユリアンが前に出た後、ミカが自然に後衛の方へと下がるのもそのためだ。
(誘導されなよ)
顔と銃口は下僕に向けながら、フィドルフが視線をちらりと上空へ向ける。前衛の穴を射線の確保に使い、更に数を減らそうと仕掛けていく。
「次はあの個体、ね」
「わかりましたの」
近くのチョココにも、同じ標的を狙うように声をかけた。
彼らの立つ間を、奏の放った弾丸や、その後ろに控える警備隊からの矢がすり抜けていく。
●
五つの銃身が回転を始め、歪な重音を響かせる。
術士の傍に居た二人の動きが特に早かった。
ガトリングの音が聞こえる中、敵に近い後衛だったからなのかもしれない。
「術者を守る事が私の仕事ですので。こう見えて真面目なんです、私は」
言い訳を呟いて、奏が術者の前になるよう移動する。リンドヴルムの加速が始まった事に気付いたからだ。そのまま銃口を上空に向ける。
「足止めをさせてもらいます。もっとも、足止めで済ます気はありませんが……貴方の命、狙わせてもらいます」
顔も見えぬ指揮官に届かないことは知っていて宣言する。仲間に警告をするためだ。
マリエルも音が近い場所に向けて盾を構えた。視界を遮らないように顔を隠し、恐怖に負けず、目を瞑らないように。音と影を頼りに下僕のガトリングの位置を確かめる。自分の体は術士の盾にするのだ。
「盾を並べて! 防ぎます!」
耳は他の唸り音も捉えている、一斉掃射が来るのだろう。
(酷いことを言ってるのはわかる、けど、私には全部を護る力なんてないから)
護る手助けは出来ても決定打にはならない。できることは少ないかもしれない。でも、可能な限り諦めない!
「フュネさん!」
ミカのデバイスからマテリアルが放出される。流入した後、文字のような模様を纏った光が術士の体を覆った。
一斉掃射。
ハンター達の策に乗せられた形だったからだろう、下僕達の展開は不完全のまま。それでも、回避すれば別の者に当たるほどの射撃角度の違いが存在している。
術士の居場所に向かう弾丸はあえて受けるしかない。全員がすべてを避けることは不可能だ。
下僕達のガトリング砲は、話に聞く量産型リンドヴルムのものほど重厚ではなかったことは幸いだろう。
回復をする暇もなく、リンドヴルムが迫ってきている。
(高速で移動するなら、その最中の射撃や精度は難しくなるはず!)
この光は強いものではない。けれど今のリンドヴルムにならば目眩ましになるかもしれないとマリエルが希望を託す。
頭から滑空してくる敵は格好の標的で、絶好の機会を逃すわけにいかない。
フィドルフやシャイネもリンドヴルムを標的に定め、回避能力を奪おうと狙った。
肉を絶とうとする音が二回。ハンター達の頭上すれすれを飛ぶ間に襲撃は行われた。
大きな体が離れる前に、弾丸や矢、剣戟がその腹へと撃ち込まれ、刻まれる。
術士は? 辛うじて立っている!
「すぐに回復を!」
「小賢しい邪魔が増えたか」
心底面倒そうな男の声が降る。声が届くほどの高さでリンドヴルムが旋回を始めたのだ。もう一撃来るのだろうかと警戒しながら、声をかけられる者は指揮官へと言葉を投げた。下僕達は攻撃の手を休めていないのだ。
「なるほど悪くない」
言いながらも一撃与えようとミカの銃口が唸る。
「……が、ちょっとつまらないな」
「まさか術士しか倒せない凡人じゃないんだよね? 違うか、術士も倒せないんだっけ」
フィドルフの便乗。術士ではなく自分達に意識を向けることができると信じて。
再びガトリングが唸り始める。
「あいつも来るわよ!」
上空からも似た音がすることにアイヴィーが気付く。
盾を構える者、回復や援護で攻撃に備える者が体勢を整えきる前に。
再びの掃射。
間髪入れずのそれは大きな痛手だ。回復手段を持たない兵士が二人、ハンター達よりも先に術士の前に立った。
術士の回復に努めていたマリエルも共にその影に押し込まれる。
倒れる音が、妙に大きく聞こえた。
●
「それは人形の付随物だろうに、なぜ守る?」
心底不思議そうな声に、抑えていた怒りを声に含ませないよう強く意識する。
「うちの子を勝手にモノ扱いしないでくれる? 玩具で遊ぶなら、その機械だけにしろよ」
巫女達をまともに人扱いしない上層部に嫌気がさして出てきた。それでも故郷の窮地に駆けつけずにはいられなくて、助かる命は助けたくて。男はフィドルフの逆鱗に触れた。
「マテリアルを浄化するのは人の想い。それを受け持つ巫女が物だなんて事あるはずがないわ」
「そう在るべきと教育された人形に、想い等あるわけが無い」
ヴィンフリーデの反論は一蹴される。
「頑固頭達がそう意図したのだ、我が責められる謂れはないな」
「……貴方は何者で、何を望むのか。ゆっくりと話を聞きたい所ですね」
静かな声で尋ねる奏。男がエルフハイムの内情に詳しそうだから余計にだ。
「知恵の果実こそ美味なもの、代価は何とする?」
今はまだ戦場の最中、死を悼む暇もなく、男の声が無情に響く。
「二体合体の趣味も性能も悪いゾンビを作ったのはあんたか」
怒りを下僕にぶつけながら、低い声のユリアン。
「発案は我ではない、手を貸しただけだ」
「でもこいつ等は貴方が作ったのでしょう? あぁ……成る程ね。確かに剣機とは違うわね」
ふふんと鼻を鳴らすアイヴィー。
「平凡で、ジメジメしてて、遠くからキャンキャン吼える性格が滲み出ているわ」
「クックック……その我に今吼えているのは誰だ?」
動じることのない声。
リンドヴルムは仕掛けられる攻撃をことごとくかわしていた。男はそれが可能だと自信を持っているからこそ会話に興じている。
術士に襲撃してくる瞬間ならば攻撃も当てられるだろう。しかし今度も術士を守りきれる保証はなかった。
器に視線を向けた男が一人頷く。
「あれも来たのか」
リンドヴルムが反転する。
「観察の合間、飽く時間の埋め合わせにはなった。代価として、この我がお前達の名を覚えておいてやろう」
言い残し飛び去っていく。
「……ール……さん」
それまで沈黙していたシャイネが呟く。近くにいたチョココが辛うじて、断片を聞き取れたくらいだった。
「長いからフリーデって呼んでちょうだい。今回はよろしくね」
シャイネに名乗ったヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)は、ぷくっと頬を膨らませていた。
「狙われたらあたしの背に隠れてちょうだい……なによその目」
「いい子だと思ってね♪」
すわ子供扱いかと睨みつけたが、視線は彼女の胸……ではなく得物に注がれていた。
「武器も、愛しあえれば答えてくれる。その子はきっとそういう子だよ」
手入れを褒められたようだ。このエルフなら護ってやってもいいかなと思った。
(既に犠牲者が出てしまってますの……ううん、ここは何としても敵を阻止しないと)
浄化結界の術士が既に殺されている、その事実がチョココ(ka2449)の駆ける足に更なる力を込めさせた。
早く辿り着ければ、それだけ敵への準備がよりよく整えられるから、まず次の標的を護るあの場所へ。
(更なる被害を防ぐ為にも、諦めるわけにはいきませんわー)
既に二人と考えて悩むだけなら簡単だ。それより今は、まだ二人と考えなくては。次もまた術士が狙われている様子なのは明白なのだから。
(隊長達は……大丈夫、強い人達だから)
同じ結界の中、別の場所で戦う小隊の仲間達の事を思い浮かべるユリアン(ka1664)。離れていても仲間が近い事は心の支えになる。
「今は此処で食い止める事に全力を!」
できることをする為に、護衛達との連携が今は必要だ。声をかけるユリアンに答えたのはいつかの女性兵士。互いに戦い方を知っている相手だからこそ話も通しやすい。
シャイネ達とゆっくり話ができればとフィドルフ(ka2525)は思ったけれど、それどころではない。
「そっち側の狙撃、期待してるよ。よろしくね」
作戦のすり合わせの合間に声をかけるだけに留める。
(あの子に負担押し付けるのは、格好がつかないだろう?)
器が居るはずの場所に視線を向けた。
「もうB級映画だな」
自身が発した言葉の響きにミカ・コバライネン(ka0340)は苦笑する。口にすると陳腐さが増した。
(ま、上手くやりますか)
術士に名乗った上で尋ねれば、少しの間とフュネとの一言が返された。
「よろしく、フュネさん」
一方的にだろうと戦友と思えればやりやすい。
(実に観察し甲斐がありますね)
手帳を開く余裕があれば、いくらでも書き留められるのに。術士を囲む位置についた音桐 奏(ka2951)は振り返りたい思いを振り切り敵勢を見据えた。
(浄化結界、器、改良型のリンドヴルムに操る存在……命を賭けて戦うには充分です)
それだけ知識欲を満たしてくれるほどの価値が、この場に揃っている。
術士を護る様に傍に立つマリエル(ka0116)も空を見上げた。
(恐い……でも……!)
ここで怯んでは失われるかもしれない人がいる。私と違ってちゃんと誰かと共有できる思い出を持った人が。失われれば悲しむ人が。
「絶対に、守ります!」
「ふふん、この偉大なる私にやられにきたのね♪」
まだ遠いリンドヴルムに向けてアイヴィー アディンセル(ka2668)は人差し指を突きつける。その背に見える人影に見えていようがいまいが構わない。宣言するその事実が重要なのだ。
「良いわ! いくらでもぎったんぎったんのぼっこぼこにしてあげる!!」
首を洗って待ってなさいよ、指揮官!
●
「接敵する前に!」
フレデリクの祈りを乗せた弾丸がユリアンの手元から放たれる。共に剣機型を見たいと願った分、小さなデリンジャーからの一撃が大きなものになる。
未だ固まって動いている下僕達はあくまでも移動に徹している。一斉攻撃で数を減らす作戦が功を奏した。
(あと少しでも崩せれば、斬りこんで行けるかな)
今すぐでは囲まれるだけだから、タイミングが大事になる。
「ヴィンフリーデさん、頼んだ!」
ユリアンの合図に合わせヴィンフリーデが槍を高く掲げれば、黒い柄に瞬く星と、豊かな金髪が旗のように戦場に煌めいた。
「私が最前線よ、ついてきなさい!」
彼女が前衛の真ん中に居るのは意味がある。
「ここから先は一歩も通さないわ!」
敵に自身を大きく見せて立ちはだかる事。味方の士気を高めること。憧れの陛下に近づくための大事な一歩なのだ。
槍先が天を衝くのを皮切りに、後衛からの攻撃が始まる。
マリエルの放つ聖なる光の弾が着実に下僕を狙う。弱点だからこそ効果は大きく、鎧に隠れていない部位が焼き尽くされる様に削られていく。手負いを見極めるのにもいい目印になる。
その傷を抉るように石つぶてが飛んでいく。
「美貌が分からないような歪虚はさっさと消えてしまいなさいよ!」
それとも偉大な私自らの手で塵にして欲しいのかしら? アイヴィーの声が響く。
抉られた傷を広げるように、風の刃が死した体を刻む。
「これ以上のおいたは許せませんのー」
いつもならきゅー、と合いの手を入れてくれるパルパルは居ない。頭上にいつもの重みが無いせいか違和感が拭えないけれど、安全な場所で待ってくれているはずの相棒と無事を喜ぶためにも負けられない。チョココもアイヴィーに倣い、同じ下僕を標的に定めていた。
「威勢のいいお嬢さん達だねー」
煙草の煙の代わりにミカの拳銃が硝煙を燻らせる。敵が狙う先に待ち受けるのは、可憐な少女達……標的のフュネも女だから差異が際立つ。護衛も含めれば男の方が多いのに、彼女達の影にどこか霞む気さえする。
「暴食の連中は素敵な趣味をお持ちの様で」
くつくつと笑う。正にB級映画のエキストラにされてしまった。
「亡霊やら吸血鬼も居た筈だけど?」
敵の損傷具合を見極めていたフィドルフが、睨みつける視線を外さないまま告げる。
「今撃った一体が削れそうかな」
どっちにしろ斃すだけとの響きが含まれている。歪虚の持つ負のマテリアルが不快なのか表情はずっとしかめたままだ。
(四肢の機能停止まではいかないか)
腕の付け根に当てた弾痕を見据える。死体だからか機械的な強化を施されているからか、切り落とさない限りその腕は動くのだろう。
もうすぐ接敵する、ならば上空の警戒をより強めなければならない。
(首を回すのも一苦労ですが)
視野はなるべく広く。把握に努めていた奏の視線の先では6体にまで減った下僕の群。これまで旋回するだけだったリンドヴルムの首もこちらに向けられている。
「カメラのレンズに見えますが」
頭の半分を覆うように取り付けられた部品、中でも目立つのはそのレンズだった。
●
歪虚達と接敵直前、マリエルが光を分け与える先は護衛で居た者達だ。特に敵に近い位置の者を優先していく。自分の序列は最後だ。
(少しでも、耐えられるように……)
マテリアルに願いが乗せられればいいと思う。
下僕達は術士を中心にした半円を描くように陣形を整えようとしていた。それは個々に隙間ができるのと同義で、敵からの攻撃は分散しやすくなり、敵への集中攻撃がかけやすい流れを生んでいた。
好機でもあり危機でもある状況にハンター達は出来る限りを尽くすしかない。
「あたしが倒れる訳にはいかないのよ!」
接敵数の多いヴィンフリーデの声が槍の代わりに高らかに響く。戦う間も鼓舞の意図は忘れていない。仲間達に届くようにと張り上げる間も視線は敵の損傷具合を測り、傷の少ないものから攻撃を仕掛けていく。より多くの下僕を自分へと引き付けるために、そしてより早く殲滅できるように。
星の輝きは光属性の証。彼女が振るう度下僕達は削れ、彼女こそが要だと向かっていく。
生まれた隙間をくぐる様に背後に回り込む。ユリアンの振るうサーベルが一体の腹部、ガトリングの銃身を捉えた。
仕掛けたものの、予想以上の硬さにはじかれる。しかし小さな傷をつけることはできていた。その傷を狙ったアイヴィーのバレットが銃身を拉げることに成功する。それが一体だけでも、範囲攻撃を防いだ意味はあるはずだ。
ミカの盾はこの場に居る者達の中でも特に大きい。師団兵もバックラーは身に着けているが、それはマリエルの盾よりも一回りは小さいものだからだ。
中衛でこの盾の存在は大きかった。前衛だけでは防ぎきれない歪虚達の進行を物理的に止められる。上空からの視線はそれも把握しているようで、盾の無い場所から回り込もうと段階的な攻撃を仕掛けてくるのだが。縦長の形を生かし、少しでも多くの剣戟を止めなければと盾を持つ手ばかりがやたら忙しくなった。
前衛の穴は突破口に見えただろう。
下僕に押し込ませ隙が生まれたと見せかける。リンドヴルムが術士を狙い、自分達の射程に入るように誘い込む案は合流後に手早く打ち合わせたもの。
ユリアンが前に出た後、ミカが自然に後衛の方へと下がるのもそのためだ。
(誘導されなよ)
顔と銃口は下僕に向けながら、フィドルフが視線をちらりと上空へ向ける。前衛の穴を射線の確保に使い、更に数を減らそうと仕掛けていく。
「次はあの個体、ね」
「わかりましたの」
近くのチョココにも、同じ標的を狙うように声をかけた。
彼らの立つ間を、奏の放った弾丸や、その後ろに控える警備隊からの矢がすり抜けていく。
●
五つの銃身が回転を始め、歪な重音を響かせる。
術士の傍に居た二人の動きが特に早かった。
ガトリングの音が聞こえる中、敵に近い後衛だったからなのかもしれない。
「術者を守る事が私の仕事ですので。こう見えて真面目なんです、私は」
言い訳を呟いて、奏が術者の前になるよう移動する。リンドヴルムの加速が始まった事に気付いたからだ。そのまま銃口を上空に向ける。
「足止めをさせてもらいます。もっとも、足止めで済ます気はありませんが……貴方の命、狙わせてもらいます」
顔も見えぬ指揮官に届かないことは知っていて宣言する。仲間に警告をするためだ。
マリエルも音が近い場所に向けて盾を構えた。視界を遮らないように顔を隠し、恐怖に負けず、目を瞑らないように。音と影を頼りに下僕のガトリングの位置を確かめる。自分の体は術士の盾にするのだ。
「盾を並べて! 防ぎます!」
耳は他の唸り音も捉えている、一斉掃射が来るのだろう。
(酷いことを言ってるのはわかる、けど、私には全部を護る力なんてないから)
護る手助けは出来ても決定打にはならない。できることは少ないかもしれない。でも、可能な限り諦めない!
「フュネさん!」
ミカのデバイスからマテリアルが放出される。流入した後、文字のような模様を纏った光が術士の体を覆った。
一斉掃射。
ハンター達の策に乗せられた形だったからだろう、下僕達の展開は不完全のまま。それでも、回避すれば別の者に当たるほどの射撃角度の違いが存在している。
術士の居場所に向かう弾丸はあえて受けるしかない。全員がすべてを避けることは不可能だ。
下僕達のガトリング砲は、話に聞く量産型リンドヴルムのものほど重厚ではなかったことは幸いだろう。
回復をする暇もなく、リンドヴルムが迫ってきている。
(高速で移動するなら、その最中の射撃や精度は難しくなるはず!)
この光は強いものではない。けれど今のリンドヴルムにならば目眩ましになるかもしれないとマリエルが希望を託す。
頭から滑空してくる敵は格好の標的で、絶好の機会を逃すわけにいかない。
フィドルフやシャイネもリンドヴルムを標的に定め、回避能力を奪おうと狙った。
肉を絶とうとする音が二回。ハンター達の頭上すれすれを飛ぶ間に襲撃は行われた。
大きな体が離れる前に、弾丸や矢、剣戟がその腹へと撃ち込まれ、刻まれる。
術士は? 辛うじて立っている!
「すぐに回復を!」
「小賢しい邪魔が増えたか」
心底面倒そうな男の声が降る。声が届くほどの高さでリンドヴルムが旋回を始めたのだ。もう一撃来るのだろうかと警戒しながら、声をかけられる者は指揮官へと言葉を投げた。下僕達は攻撃の手を休めていないのだ。
「なるほど悪くない」
言いながらも一撃与えようとミカの銃口が唸る。
「……が、ちょっとつまらないな」
「まさか術士しか倒せない凡人じゃないんだよね? 違うか、術士も倒せないんだっけ」
フィドルフの便乗。術士ではなく自分達に意識を向けることができると信じて。
再びガトリングが唸り始める。
「あいつも来るわよ!」
上空からも似た音がすることにアイヴィーが気付く。
盾を構える者、回復や援護で攻撃に備える者が体勢を整えきる前に。
再びの掃射。
間髪入れずのそれは大きな痛手だ。回復手段を持たない兵士が二人、ハンター達よりも先に術士の前に立った。
術士の回復に努めていたマリエルも共にその影に押し込まれる。
倒れる音が、妙に大きく聞こえた。
●
「それは人形の付随物だろうに、なぜ守る?」
心底不思議そうな声に、抑えていた怒りを声に含ませないよう強く意識する。
「うちの子を勝手にモノ扱いしないでくれる? 玩具で遊ぶなら、その機械だけにしろよ」
巫女達をまともに人扱いしない上層部に嫌気がさして出てきた。それでも故郷の窮地に駆けつけずにはいられなくて、助かる命は助けたくて。男はフィドルフの逆鱗に触れた。
「マテリアルを浄化するのは人の想い。それを受け持つ巫女が物だなんて事あるはずがないわ」
「そう在るべきと教育された人形に、想い等あるわけが無い」
ヴィンフリーデの反論は一蹴される。
「頑固頭達がそう意図したのだ、我が責められる謂れはないな」
「……貴方は何者で、何を望むのか。ゆっくりと話を聞きたい所ですね」
静かな声で尋ねる奏。男がエルフハイムの内情に詳しそうだから余計にだ。
「知恵の果実こそ美味なもの、代価は何とする?」
今はまだ戦場の最中、死を悼む暇もなく、男の声が無情に響く。
「二体合体の趣味も性能も悪いゾンビを作ったのはあんたか」
怒りを下僕にぶつけながら、低い声のユリアン。
「発案は我ではない、手を貸しただけだ」
「でもこいつ等は貴方が作ったのでしょう? あぁ……成る程ね。確かに剣機とは違うわね」
ふふんと鼻を鳴らすアイヴィー。
「平凡で、ジメジメしてて、遠くからキャンキャン吼える性格が滲み出ているわ」
「クックック……その我に今吼えているのは誰だ?」
動じることのない声。
リンドヴルムは仕掛けられる攻撃をことごとくかわしていた。男はそれが可能だと自信を持っているからこそ会話に興じている。
術士に襲撃してくる瞬間ならば攻撃も当てられるだろう。しかし今度も術士を守りきれる保証はなかった。
器に視線を向けた男が一人頷く。
「あれも来たのか」
リンドヴルムが反転する。
「観察の合間、飽く時間の埋め合わせにはなった。代価として、この我がお前達の名を覚えておいてやろう」
言い残し飛び去っていく。
「……ール……さん」
それまで沈黙していたシャイネが呟く。近くにいたチョココが辛うじて、断片を聞き取れたくらいだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談所 音桐 奏(ka2951) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/10 03:24:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/06 07:26:24 |
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質問卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/09 10:22:03 |