ゲスト
(ka0000)
【陶曲】RIGHT STUFF #2
マスター:のどか

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/25 07:30
- 完成日
- 2019/02/09 01:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「戦場に黒羽は舞う」
●
「――つまるところ、身体には全く異常がありませんな」
同盟陸軍本部の一角にある医務室。
そこで主治医の診断を受けたディアナ・C・フェリックス(kz0105)は、イラついた様子で杖の先を床に打ち付けた。
「だとしたら……何が原因だっていうの?」
主治医は殺気だった眼差しで彼女に見つめられながらも、落ち着いた様子で答える。
「杖をやめたらいかがですか? 『杖を突かなければならない』という先入観が、自己暗示のように身体を蝕むこともあるでしょう」
「そうしたら治るのかしら?」
「私は外科ですから……これ以上は」
具体的な発言は濁して、医師はあくまで「提案」であることを主張する。
「……話にならないッ!」
ディアナはピシャリと言い切って、丸椅子から立ち上がる。
そして肩をいきらせながら診察室を出ていくその背中を、医師も何も言わずに見送ることしかできなかった。
長い廊下で杖を1歩突くたび、彼女の意思とは関係なしに添えられた手がカタカタと震えた。
「精神的なものなんて……あり得ない」
かつて“戦場の鴉”と恐れられたスナイパーが精神の病?
ばかばかしい。
それでも震える指先に舌打ちをして、彼女は隊舎を目指した。
●
「え~、揃ってるな。それでは任務を説明する」
ダニエル・コレッティ(kz0102)の緊張感のない声がミーティングルームに響いて、ジーナ・サルトリオ(kz0103)はじめ特機隊の3人、それに釣られるように協力者として召喚されたハンター達も姿勢を正した。
「今回は久々に特機隊ご指名の任務だ。内容はポルトワールにある造船所の解放」
数日前、ポルトワールのとある岬にある造船所が歪虚の襲撃を受けた。
襲撃――というのは少々語弊がある。
いつ、どこから侵入したか分からない、突如として現れた大型の金属人形群による破壊活動。
従業員が避難したのち、敵は破壊行動をやめ、敷地内を徘徊しているという。
「今回、大きな障害となるターゲットがこれ」
言いながら、ダニエルは魔導カメラで撮影された写真をテーブルに放る。
「うえっ、なにこれ気持ちわるぅ」
見た瞬間、ジーナがおえっと嫌悪感をあらわにした。
そこに映っていたのは、岬にある灯台の頂上――ちょうど灯台の「灯」の役割を持つ物見台を浸食する、1輪の『金属の花』だった。
大輪の花弁を持ったそれは茎の代わりに伸びた蔦で塔に絡みつき、花の中央にある結晶状の『瞳』で周囲を見下ろしていた。
「識別呼称『サーチアイ』。この瞳から放たれるマテリアルレーザーは、初期対応にあたろうとした陸軍の魔導トラックを一撃で蒸発させた」
「推定射程は?」
「少なく見積もっても500m。トラックがやられたのがその距離だ」
尋ねたヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)に、ダニエルは困ったような顔で肩をすくめてみせた。
「ごひゃ……そんなの、近づく前にやられちゃうじゃないですか!?」
ジーナが目を白黒させてながら声を荒げる。
「まあ、話は最後まで聞け。この歪虚、見た目通りの習性を持つというか、陽が沈むと花弁を閉じて休眠状態に入るそうだ。その間ならレーザーは飛んでこない」
「じゃあ、夜のうちに近づいて――」
「だから、最後まで聞きなさい」
「う……ごめんなさい」
窘めるように怒られて、ジーナは肩を小さくする。
「休眠中でも一定距離――だいたい50mくらいだそうだ――に入ると目を覚ます。そしたらまたレーザーの雨あられだ。それに休眠の間、サーチアイの周囲はバリアフィールドで覆われている。トラックに積まれた大型砲も通さないひどく頑丈なものだ」
それでようやく話は終わり、とでも言いたげにコキリコキリと首をひねるダニエル。
ジーナはようやく喋っていいのを察すると、わなわなと肩を震わせながら叫んだ。
「……ってそれ、どうしようもないじゃん!?」
「うん、お手上げ。普通なら」
そう言って、ダニエルがディアナを見る。
「そんでここからが作戦。今回お鉢が回ってきたのもそれのせい――ってか、ディアナがいるからなんだわ」
ディアナがいぶかしんで眉を潜めると、ダニエルはニカッと怪しげに笑う。
「それでは、作戦を説明する――」
決行は夜明け前。
ディアナ以外のメンバーは休眠中の「サーチアイ」の索敵範囲ぎりぎりに陣取り、金属人形をおびき寄せて戦闘。
すべて引き寄せられるとは限らないが、これで可能な限り数を減らす。
その間、ディアナはポイントで狙撃の準備を行う。
夜が明け、「サーチアイ」の休眠が解けた瞬間、攻撃態勢に入る前にディアナが狙撃で『瞳』を破壊する。
その後に全員で突撃。
サーチアイ含め残存歪虚を殲滅する。
「あの、サーチアイが寝てるうちにじっくり金属人形だけでも倒しちゃうのはだめなんですか?」
「はい、良い質問」
ビシリとジーナを指差し、ダニエルは半端に伸びて来たあご髭をさする。
「さっきも言った通り、今回の敵の襲撃はあまりにも不可解だ。『襲ってきた』というよりは『発生した』というべき状況に近い」
「郊外とは言え生活圏の中――まだ正のマテリアルが濃い場所です。そんなところで同時多発的に歪虚が生まれるなんてことは考えられません」
ヴィオの指摘に、ダニエルも同意するように頷く。
「そっ。だからこそなんらかの『条件』がある不可解な『発生』だと睨んでる。その『条件』が分からん以上、トータルの作戦時間をあんまり長引かせたくないわけよ」
「不可解な『発生』が再び行われる前に、現存戦力を叩く――というわけですか」
「そういうこと」
ダニエルは他に質問がなさそうなのを確認して、緊張を解くように大きく息を吐いた。
「決行は明日未明。それと『無頼』はまだ追加装甲の装着が終わってないけど……ヴィオ、どうする?」
「使えるものを腐らせておくつもりはありません。素体のままでも出撃します」
「そっ。まあ、できるだけ作業は急がせとこう」
ふりふりと手を振って、ダニエルが退室する。
扉が開くのと一緒に張り詰めた緊張が適度に緩んだ。
「ディアナさん、大役ですね! 良いとこ見せちゃってください!」
ジーナが目を輝かせながらディアナを見上げる。
それは彼女の本心からの激励。
しかしディアナは舌打ちを1つして、それに答えることなく部屋を出ていってしまった。
「あ、あれ……私、なんか悪いこと言った?」
緊張と焦りで思わず泣きそうなジーナ。
ヴィオがその肩をポンと叩いて、大丈夫だと元気づけた。
なぐさめられ、それでも気落ちして視線を落とすジーナ。
ふと、机の上に置かれた敵歪虚の写真が目に付いた。
「この歪虚……なんか『無頼』の背中に引っ付いてたのに似てるな」
ミーティングルームの外、ディアナは震える手を痛いほどに握りしめる。
「……外さないわ。外すわけがない」
そう自分に言い聞かせて、自らのCAMへと向かっていった。
●
「――つまるところ、身体には全く異常がありませんな」
同盟陸軍本部の一角にある医務室。
そこで主治医の診断を受けたディアナ・C・フェリックス(kz0105)は、イラついた様子で杖の先を床に打ち付けた。
「だとしたら……何が原因だっていうの?」
主治医は殺気だった眼差しで彼女に見つめられながらも、落ち着いた様子で答える。
「杖をやめたらいかがですか? 『杖を突かなければならない』という先入観が、自己暗示のように身体を蝕むこともあるでしょう」
「そうしたら治るのかしら?」
「私は外科ですから……これ以上は」
具体的な発言は濁して、医師はあくまで「提案」であることを主張する。
「……話にならないッ!」
ディアナはピシャリと言い切って、丸椅子から立ち上がる。
そして肩をいきらせながら診察室を出ていくその背中を、医師も何も言わずに見送ることしかできなかった。
長い廊下で杖を1歩突くたび、彼女の意思とは関係なしに添えられた手がカタカタと震えた。
「精神的なものなんて……あり得ない」
かつて“戦場の鴉”と恐れられたスナイパーが精神の病?
ばかばかしい。
それでも震える指先に舌打ちをして、彼女は隊舎を目指した。
●
「え~、揃ってるな。それでは任務を説明する」
ダニエル・コレッティ(kz0102)の緊張感のない声がミーティングルームに響いて、ジーナ・サルトリオ(kz0103)はじめ特機隊の3人、それに釣られるように協力者として召喚されたハンター達も姿勢を正した。
「今回は久々に特機隊ご指名の任務だ。内容はポルトワールにある造船所の解放」
数日前、ポルトワールのとある岬にある造船所が歪虚の襲撃を受けた。
襲撃――というのは少々語弊がある。
いつ、どこから侵入したか分からない、突如として現れた大型の金属人形群による破壊活動。
従業員が避難したのち、敵は破壊行動をやめ、敷地内を徘徊しているという。
「今回、大きな障害となるターゲットがこれ」
言いながら、ダニエルは魔導カメラで撮影された写真をテーブルに放る。
「うえっ、なにこれ気持ちわるぅ」
見た瞬間、ジーナがおえっと嫌悪感をあらわにした。
そこに映っていたのは、岬にある灯台の頂上――ちょうど灯台の「灯」の役割を持つ物見台を浸食する、1輪の『金属の花』だった。
大輪の花弁を持ったそれは茎の代わりに伸びた蔦で塔に絡みつき、花の中央にある結晶状の『瞳』で周囲を見下ろしていた。
「識別呼称『サーチアイ』。この瞳から放たれるマテリアルレーザーは、初期対応にあたろうとした陸軍の魔導トラックを一撃で蒸発させた」
「推定射程は?」
「少なく見積もっても500m。トラックがやられたのがその距離だ」
尋ねたヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)に、ダニエルは困ったような顔で肩をすくめてみせた。
「ごひゃ……そんなの、近づく前にやられちゃうじゃないですか!?」
ジーナが目を白黒させてながら声を荒げる。
「まあ、話は最後まで聞け。この歪虚、見た目通りの習性を持つというか、陽が沈むと花弁を閉じて休眠状態に入るそうだ。その間ならレーザーは飛んでこない」
「じゃあ、夜のうちに近づいて――」
「だから、最後まで聞きなさい」
「う……ごめんなさい」
窘めるように怒られて、ジーナは肩を小さくする。
「休眠中でも一定距離――だいたい50mくらいだそうだ――に入ると目を覚ます。そしたらまたレーザーの雨あられだ。それに休眠の間、サーチアイの周囲はバリアフィールドで覆われている。トラックに積まれた大型砲も通さないひどく頑丈なものだ」
それでようやく話は終わり、とでも言いたげにコキリコキリと首をひねるダニエル。
ジーナはようやく喋っていいのを察すると、わなわなと肩を震わせながら叫んだ。
「……ってそれ、どうしようもないじゃん!?」
「うん、お手上げ。普通なら」
そう言って、ダニエルがディアナを見る。
「そんでここからが作戦。今回お鉢が回ってきたのもそれのせい――ってか、ディアナがいるからなんだわ」
ディアナがいぶかしんで眉を潜めると、ダニエルはニカッと怪しげに笑う。
「それでは、作戦を説明する――」
決行は夜明け前。
ディアナ以外のメンバーは休眠中の「サーチアイ」の索敵範囲ぎりぎりに陣取り、金属人形をおびき寄せて戦闘。
すべて引き寄せられるとは限らないが、これで可能な限り数を減らす。
その間、ディアナはポイントで狙撃の準備を行う。
夜が明け、「サーチアイ」の休眠が解けた瞬間、攻撃態勢に入る前にディアナが狙撃で『瞳』を破壊する。
その後に全員で突撃。
サーチアイ含め残存歪虚を殲滅する。
「あの、サーチアイが寝てるうちにじっくり金属人形だけでも倒しちゃうのはだめなんですか?」
「はい、良い質問」
ビシリとジーナを指差し、ダニエルは半端に伸びて来たあご髭をさする。
「さっきも言った通り、今回の敵の襲撃はあまりにも不可解だ。『襲ってきた』というよりは『発生した』というべき状況に近い」
「郊外とは言え生活圏の中――まだ正のマテリアルが濃い場所です。そんなところで同時多発的に歪虚が生まれるなんてことは考えられません」
ヴィオの指摘に、ダニエルも同意するように頷く。
「そっ。だからこそなんらかの『条件』がある不可解な『発生』だと睨んでる。その『条件』が分からん以上、トータルの作戦時間をあんまり長引かせたくないわけよ」
「不可解な『発生』が再び行われる前に、現存戦力を叩く――というわけですか」
「そういうこと」
ダニエルは他に質問がなさそうなのを確認して、緊張を解くように大きく息を吐いた。
「決行は明日未明。それと『無頼』はまだ追加装甲の装着が終わってないけど……ヴィオ、どうする?」
「使えるものを腐らせておくつもりはありません。素体のままでも出撃します」
「そっ。まあ、できるだけ作業は急がせとこう」
ふりふりと手を振って、ダニエルが退室する。
扉が開くのと一緒に張り詰めた緊張が適度に緩んだ。
「ディアナさん、大役ですね! 良いとこ見せちゃってください!」
ジーナが目を輝かせながらディアナを見上げる。
それは彼女の本心からの激励。
しかしディアナは舌打ちを1つして、それに答えることなく部屋を出ていってしまった。
「あ、あれ……私、なんか悪いこと言った?」
緊張と焦りで思わず泣きそうなジーナ。
ヴィオがその肩をポンと叩いて、大丈夫だと元気づけた。
なぐさめられ、それでも気落ちして視線を落とすジーナ。
ふと、机の上に置かれた敵歪虚の写真が目に付いた。
「この歪虚……なんか『無頼』の背中に引っ付いてたのに似てるな」
ミーティングルームの外、ディアナは震える手を痛いほどに握りしめる。
「……外さないわ。外すわけがない」
そう自分に言い聞かせて、自らのCAMへと向かっていった。
リプレイ本文
●
「頭数は揃ってるんだ。念には念をってやつさ」
現場へ移動するトラックの中で、アニス・テスタロッサ(ka0141)がハンター達による作戦の修正案を語っていた。
大きく変わるのは1点。
要である狙撃手の札を2枚に増やすということ。
「それは、私の腕が信用できないということかしら?」
冷めた目で問うディアナ・C・フェリックス(kz0105)に、アニスはあくまで素面で答える。
「信用云々の話じゃねぇよ。アンタはアンタの仕事をする。俺は俺の仕事をする。失敗できねぇからこその保険だ」
ディアナを中心に場が冷めていくのを感じて、浅黄 小夜(ka3062)は心配そうに口を挟んだ。
「私は狙撃手のことは分からないけど……どれだけ万全でも、一瞬の風向きひとつで成否が分かれてしまうのだと聞いてます。『人事を尽くして天命を待つ』って……持てるもので、できるだけのことをして、最後にその一瞬の運も味方につけられるよう頑張る」
「小夜ちゃん、難しい言葉知ってるね!」
「こら、ジーナ。茶化さないの」
「あいたっ、ごめんなさい!」
割って入ったジーナ・サルトリオ(kz0103)の頭を沢城 葵(ka3114)がコツンと小突く。
「人事を尽くすのが私たちの役目だから。ディアナ大尉たちのために、頑張ります。信頼してるからこそ……」
そこまで言って、ちょっと言い過ぎたかなと小夜は恐る恐るディアナを伺う。
ディアナは少し考えていた様子だったが、やがてコツンと、杖の先で床を突いた。
「邪魔をしないのならなんだっていいわ。私は私の仕事をする」
意趣返しのようにアニスを横目で見る。
アニスはシガーケースを指先でノックしながら頷いた。
「それでいい。頼むぜ」
「花道は用意してあげるんだから、外したら罰ゲームね。あらやだ楽しみ」
挑戦的に口にした葵に、アニスは小さく息を吐く。
「外さねぇからこそ狙撃手を名乗れんだ」
やがてトラックが停まり、現場の造船所から少し離れた場所でハンター達は降りる。
後続のトラックに引かれた機動兵器に乗り込んで、魔導エンジンに火を入れた。
「そーいやさ。ジーナやディアナは何のために軍人になったんだ?」
通信回線の相互チェックのさ中、リコ・ブジャルド(ka6450)が思い出したように問いかける。
「あたしがハンターになったのは金のため。こっちの世界で生きるのに必要だったからだケド」
「私は、昔助けてくれた軍人さんに憧れて……かなぁ。覚醒者の素質がなかったからさ。この手で誰かを助けたいって思ったら軍人になるしかなかったんだ」
懐かしむように、明るい口調でジーナが答える。
「4年ちょっと前。リゼリオ沖の狂気との戦い、リコは覚えてる?」
「あんときはまだハンターになってなかったからなー。でもロッソの避難居住区で慌ただしい様子は見てたぜ」
「僕は覚えてるよ」
インスレーターの計器チェックを終えたキヅカ・リク(ka0038)が回線をつなぐ。
「僕らが連れてきてしまった戦いだ。忘れようにも忘れられないよ」
「そんな、後になってはお互い様だから気にしないで!」
ジーナが慌てて話を濁す。
「私もあの時、沿岸警備に出てて……訓練上がりだから物資輸送くらいしかしてないんだけど、そこから戦いを――CAMのことを見てたんだ」
彼女の呼吸が、どことなく弾んだ。
「ひと目見て『これだ』って思った。CAMなら、私もみんなと一緒に戦えるって」
「それで特機隊に入ったってわけか」
「そう! だから中佐から話を貰えた時は嬉しくって――」
「――ムダ話はそこまで。夜明けは一瞬なのよ」
ノッてきたジーナの話をディアナがピシャリと遮る。
「そう言うなってー。移動中だって口を動かすことくらいはできるぜ」
「なら、個人回線引いてやってちょうだい」
取りつく瀬もなく、リコは肩をすくめた。
造船所の構内に入ると、目標は遠巻きながらもすぐ見えた。
岬の灯台に巣食った花型歪虚サーチアイ。
花型と呼称するのは、その体がとても植物には見えない、金属でできているからに他ならない。
「情報どおり、花弁を閉じたまま動きはなし。このまま近づくことは可能みたいですね」
天王寺茜(ka4080)は、ヘイムダルのコックピットからサーチアイを覗き見る。
前回のオートソルジャーに続いて、今回選んだのは魔導アーマー。
作戦によってユニットを切り替えることができるのは、スペシャリストとして配属や任務自体を振り分けられる軍人にはない、ハンターの柔軟性そのものだ。
「それにしても、どうやってあの高いところに引っ付いたんだ……?」
リクの率直な疑問。
現場を前にした今は深く考えるべきことではないのかもしれないが、それでもじんわりと胸の中に積もっていく。
『こちらディアナ。配置についたわ』
『こっちも準備完了だ』
狙撃手2人からの通信を受けて、前線の7人はタイミングを示し合わせる。
「ジーナとフェリーニは一緒に誘導係ね。勢い余って索敵範囲に引っかからないでよ~? 特にジーナ」
葵の言葉に、ジーナはドキリと肩を震わせる。
「うえっ!? そ、そんなことしないよ……たぶん」
「なかなか……信用ならない言葉だな」
落ち着いたヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)の言葉を最後に、7人は岬へ続く、造船所の広い作業エリアへと足を踏み入れた。
●
『どこからでも! かかってきなさあーい!!』
キーンとハウリングを響かせて、ヘイムダルに備えられた拡声器から茜の声が響く。
しばらくしてから、もぞりと何か動くものが視界に見えてきた。
薄暗がりの中、CAMのライトに照らされて現れたのは金属のワイヤーでできたような人型の廃棄物。
「出てきたわ! とにかくまず、射線を開きましょう!」
ヘイムダルの構えた火縄銃型のマテリアル兵器「アマテラス」から、高出力のマテリアルビームが放たれる。
戦場を照らした一筋の光は、前方からやってくる数体の廃棄物をまとめて飲み込んだ。
「うわー! いいなー! かっこいーなー!」
「ジーナ! 感心してると火傷するぜ!」
ジーナ機エルモの傍でリコ機トラバントIIのガトリングが轟音をあげ、ビームに焼かれた廃棄物へ銃弾の雨を叩きこむ。
釣られるようにジーナ機もアサルトライフルを構え、引き金を引いた。
命中はお察しだが、少なくとも気を引くくらいには役立つだろう。
「半分はこっちが引き離すから、そっちはとにかく目の前のを引きつけて!」
「はい……!」
ワイバーン「竜胆」を駆って、小夜が空に飛びたつ。
リクのインスレーターはそこから離れるように移動を開始すると、トレースシステムを用いてソウルトーチの火をともす。
その輝きに惹かれた廃棄物たちがぞろぞろと移動を開始し、ちょうど半分とは言わないものの分離を促した。
ヴィオ機の無頼、そしてグリフォンを駆る葵がそれに続いて、戦場も分断される。
残された方の戦場では、小夜のブリザードが鉄骨を持つ廃棄物A型を多く含む群れを飲み込む。
これ以上進めないということは、裏を返せばこのラインの向こうには敵しかいない。
広範囲魔法を放つには絶好の戦場である。
「おねえはん、動きが鈍くなった相手なら……」
「ありがとう小夜ちゃん!」
ジーナの銃弾は、凍結で動きが鈍くなったA型を今度こそ貫く。
動体はまだでも静止物への射撃ならジーナだって少しはうまくなってきた。
「この人型の方って、元はたぶん造船所にあった資材ですよね?」
飛んできた大きな錨を掠めるようによけて、茜はあたりでうごめく歪虚をちらりと見渡す。
「んー? あー、確かに言われてみりゃな」
「つまり侵入したんじゃなく、その場にあったモノが歪虚化した……?」
リコの同意に、茜は作戦会議でダニエル・コレッティ(kz0102)が言っていたことを思い出す。
――なんらかの条件がある不可解な発生。
「あっ、ジーナさん、前に出すぎっ!」
「うわわっ! ごめん!」
接近戦の距離になって喜び勇んで駆け出したジーナを、茜が慌てて呼び止める。
足を止めたエルモの目と鼻の先に、ヘイムダルから放たれたスペルランチャーが降り注いだ。
間髪置かずに、上空から竜胆のレイン・オブ・ライトの輝きも振ってきて、激しい閃光に戦場がまばゆく照らされる。
「おねえはん。あとちょっとやからおさえて、ね?」
「うう……どっちがお姉さんか分からなくなってきた」
ジーナはしょんぼりして、エルモに握らせたナイフをライフルに持ち替えた。
「こっちは撃つまで動けねぇ。手間だろうが射線確保は頼むぞ」
アニスは拡大カメラで前線の様子を眺めながら、静かに引き金を引く時を待っていた。
スクリーンに表示されるのはメインカメラの捉えるサーチアイと、サブカメラの戦場。
トリガーを握るのとは別の手でコンソールを操作すると、別のサブカメラの映像を画面に大きく表示する。
映っているのは射撃姿勢のまま待機するディアナ機のデュミナス。
身じろぎもせず狙い続ける――のは機械だから当然なのだが、同じく狙撃を生業とするアニスもその姿にゾクリとする。
狩人のそれというよりは、直接的な『死』そのものを想起させる空気。
「“鴉”……ねぇ」
その呟きはアニス自身の耳にだけ届いていた。
インスレーターが巨大な斬艦刀をA型の懐に突き立てると、抉るように刃を引き抜く。
そこへ別のA型が飛び掛かったが、無頼の放ったガトリングがそれを叩き落とした。
「大尉さんは流石に頼もしいな……!」
転がった敵に、斬艦刀を振り下ろす。
前回はあんな状況だったこともあり、こうして直接的にヴィオに背中を預けるのは初めてのこと。
他の2人に比べれば操縦者として遠近攻守ともに精錬された彼のテクニックは、地球連合軍のエース級パイロットのそれにも匹敵する。
無頼はB型の錨をシールドで受け止め、そのままスラスターで間合いを詰めて斬機刀を振るう。
鎖を操る右腕が両断されると、サイドステップで空への射線を開けた。
「ナイスタイミングよ!」
敵の視点で見れば、無頼の巨体の背後から突然現れた空のグリフォン。
葵が練り上げた氷の矢が放たれ、B型の胸部を貫く。
「夜明けまであと少しってところかしら」
うっすら白んで来た東の空を目に、葵は戦況を見渡す。
灯台の傍にまだ数匹釣れていない廃棄物は見える。
だが、それ以外は前線に引っ張り出せているとみていいはずだ。
「ソウルトーチもぎりぎり持つはず。もうひと踏ん張りだね」
B型に射程に入られる前に、インスレーターの掲げる黒色のキャノンが火を噴いた。
無頼による追撃の斬機刀が敵を両断して、デュミナスのカメラアイは次の標的へ即座に移る。
「足りなければこちらにもある。1枚残してあれば、それでな」
残す1枚が何のためなのかは、すでに作戦会議の中で触れられている。
万が一狙撃が失敗した際の保険だ。
そうならないことを、リクも葵も、ただ祈ることしかできない。
次第に東の空が色づき始めて、アニスはバイザーディスプレイを額の上に押し上げた。
同時にレラージュの前頭部を覆っていたバイザーが閉じる。
コックピットの上から降りて来たライフル型デバイスを手に、スコープを覗きこむと、メインカメラと連動した小型ディスプレイに光が灯った。
「……仕事の時間だ」
●
夜明けの瞬間を感じ、離れていたリクら3人も戦場を残りのメンバーの方へと戻し始める。
万が一の備えに合流できる距離を保つためだ。
(外さない……たとえこの身を何が蝕んでいるのだとしても)
操縦桿を握るディアナの手が小さく震える。
まただ――しきりにプライドを邪魔する震えは、怪我のせいではないと医者は言う。
なら、精神?
プレッシャーに負けているということ?
あり得ない……!
海の向こう。水平線が煌めいて、日輪が姿を現す。
「花道は用意するって約束だしね……!」
葵が放ったグラビティホールが、狙撃射線の直近の廃棄物たちを足止めする。
闇を払うように戦場に差し込んだ光が灯台の歪虚も包み込んで、その大きな花弁が、ゆっくりと開いていった。
「――今ッ!」
放たれた銃弾。
CAMのサイズで言えば砲弾。
風を切った弾丸は、開いた花の中央――結晶状の瞳を掠って、花弁を貫いた。
「外した……!?」
「ううん、2射目がある……!」
思わず叫んだ小夜に、茜が首を振る。
「伊達や酔狂でこんなカスタムしてるわけじゃねぇんでな……狙い撃つぜ!」
一瞬を冷静に待ち続けた。
心も目も、この一撃のために研ぎ澄まされた。
トリガーを引くアニス。
反動が機体を伝わってコックピットを揺らし、マテリアルで加速させた銃弾が一瞬の間にサーチアイに突き刺さった。
反動で大きく揺れた花弁が空を向く。
息をのんで見守る中、ゆっくりと元の位置に戻ったサーチアイ。
花弁の中からのぞいた瞳は、半分ほどを大きく破損した状態だった。
「ちぃ……ディアナの弾の衝撃でセンターからズレたか!」
反撃のマテリアルレーザーが飛んでくる。
アニスはデバイスを放り上げ、急いで狙撃モードを解除すると、横っ飛びで射線から回避する。
「ディアナ、何してんだ!」
咄嗟にサブカメラを見ると、ディアナ機は放心したように動かない。
「外した……私は……」
コックピットの中で、ディアナは恨めしいものを前にしたかのように震える手を睨みつける。
サーチアイの瞳が再び輝きだした。
第二射。
その角度は硬直したディアナ機を狙っている。
レラージュが全速力で駆け寄る。
「ソウルトーチでひきつける!」
「タンマだ、大尉殿!」
前に出ようとした無頼を、飛び立ったトラバントの黒いボディが遮った。
「狙いをつけちまった後なら無駄だぜ! 護るには――」
――射線を遮るしかない。
射線上に躍り出て、ブラストハイロウシステムを真下に向けて放出する。
解き放たれたサーチアイのマテリアルが、戦艦の主砲の一門にも似た勢いで放たれた。
シールドを構えるトラバント。
狙いは彼女の機体ではないから直撃はしない。
それでも、余波でも十分すぎる破壊力が機体の下半身を飲み込んだ。
「リコッ!?」
バックアップに回ったインスレーターが、トラバントを支えるように後ろから手を添える。
「大丈夫……そこまでヤワじゃねーぜ」
衝撃で内装にぶつけたのか、額から血を流したリコがニヤリと歯を見せて笑う。
射線を遮られたことでディアナ機は危機を免れた。
傍に寄ったレラージュがデュミナスの肩を掴むと、接触回線でアニスが叫ぶ。
「なにやってんだ! 引き金引いたら成否にかかわらず退避が鉄則だろうがッ!」
対するディアナから返事はない。
アニスは構わず、耳元で叱咤するように言った。
「気負い過ぎなんだよ。二つ名とか、ンなモン、タダの飾りじゃねぇか……お前をお前たらしめてんのは何だ!? 名前か、テメェの腕か、どっちだよ!」
「私は……」
通信からディアナのかすかな声が零れる。
「次、来るわよ!」
葵のファイアーボールが、地上の廃棄物を爆炎で一掃する。
その上空を、ダメージを負ったトラバントとインスレーターが飛翔した。
瞳を輝かせるサーチアイが、次の標的を探して首を振る。
「リコ、流石にもう一発は――」
「だいじょーぶだって!」
――受けるだけなら。
心配するリクに、リコはその言葉を飲み込んだ。
狙撃が狙撃屋の仕事なら、自分の仕事は「仲間を安全に前線に送り込む」コト。
自分がたどりつくことじゃねぇ、仲間を活かすコトだ。
これが自分のプロ意識。
かー、プロって辛いね。
軽口が脳裏に浮かぶ程度には、膨らみ始めたサーチアイの輝きに恐怖はなかった。
「リコ、そのまま高度を保て!」
ヴィオの声が通信に響く。
無頼はブラストハイロウの後ろで、トレースシステムを介してソウルトーチを起動した。
吸い寄せられるように無頼を向いた瞳。
放たれたマテリアルレーザーは、ハイロウの輝きに阻まれて同機に掠ることすらなかった。
「――アニス、どきなさい」
ディアナの言葉に、アニスははっとして彼女の機体を見た。
退避を忘れて硬直した機体は狙撃姿勢のまま。
銃口もサーチアイの方を向いたままだ。
「狙撃手の2射目は恥だぞ?」
「敗北に勝る恥はあるのかしら?」
「はっ、ほざけ」
レラージュはデュミナスから離れると、ロングレンジライフルで前線の廃棄物を狙い撃つ。
研ぎ澄まされたディアナの瞳が、レーザーを放った直後のサーチアイを捉えた。
無言の引き金。
代わりに響くライフルの銃声。
銃弾は戦場の壁となったトラバントのこめかみすぐ横をすり抜け、結晶の瞳を粉々に撃ち砕いた。
「ディアナさん、やった!」
「ジーナさん、喜ぶのはまだ早いわ!」
茜のヘイムダルがハイロウの裏に並んだ隊列から前へ飛び出す。
灯台の下で立ちはだかったB型の鎖を斬艦刀で受け止めて、がら空きになった敵の体にテールスタビライザーで精度を増した波動銃を叩きこむ。
「竜胆……お願いね」
飛行を竜胆の自由意思に任せた小夜は、集中力を高め錬金杖に己のマテリアルを集め始める。
膨れ上がった正のエネルギーに危機感を感じたのか、サーチアイは花弁の中央、瞳の周囲から金属のつぶてのようなものを撃ち出した。
乱れ飛ぶつぶてをかいくぐる竜胆。
直後、小夜のマテリアルが解放された。
燃え盛る三つの火球が、灯台の先へと降り注ぐ。
弾けた火球は、その爆炎で塔ごとサーチアイを飲み込んだ。
朝日にも負けない一瞬の輝き。
それが晴れたところに、斬艦刀を振り上げたインスレーターが飛び込んだ。
灼熱で金属の身体が溶けたかのように、どろどろと弱ったサーチアイ。
その身よりも大きな刃が質量に任せて振り下ろされると、真っ二つに叩き切られた敵は力なく崩れていった。
●
残る廃棄物を処理し終えると、ハンターと特機隊は警戒の意味も込めてしばらく周辺を散策する。
もしもあの歪虚群が『発生』したものなのだとしたら、新たな敵が生まれる可能性も捨てきれないからだった。
「上空に不審な影はなし……か」
すっかり陽の昇った空を装備したサーチライトで照らして、リクはふぅと息をつく。
今回の歪虚がいったいどこからやってきたのか。
流石に歩いてきたならば、もっと前に気づかれているはずだ。
そうでないなら地面か空か。
何かが掘り返された跡がない以上は、選択肢は上だけだ。
「敵の姿を見るに、ここにあった資材が歪虚化したと思うんです」
「歪虚化って……どうしてそうなったんでしょう?」
「それは……例えば、この間の無頼みたいに、寄生とか」
首をかしげた小夜に、茜は苦しいながらも答える。
だが、それに賛同する者がいた。
葵だった。
「もう消滅しちゃったんだけど見つけたわ。この間と同じ金属の板」
「マジかよ! ってことは、この間のとおんなじヤツだったってことか?」
驚いたリコに、葵はYESともNOともつかない微妙な態度で首をふる。
「見つけたのはどれも『金属片』だけだった。どれも確かに負のマテリアルなのだけど、とても無頼やサーチアイみたいに襲ってくるような様子はなかったわ」
「ちゃんとした歪虚の姿になるのには条件があるってわけか」
アニスがふと、思案する。
「その見つけた金属片ってのは地面や、石畳や、建物の床板なんかに転がってなかったか?」
「あら、よくご存じで。そっちも見つけたの?」
「いや、ただ――」
――金属、か。
まだ答えの域まで達していない気づきが、アニスの胸の内で渦巻いた。
「――っていうことなんだけど、このくらい軍も把握してるんでしょ?」
さらりと尋ねた葵の言葉に、エンドブリーフィング中のダニエルは苦い顔で眉を寄せた。
「もー、これだから勘の鋭い人らと仕事するのは嫌なんだ」
ダニエルはもんもんとした様子でデスクの中から紙束を取り出すと、それを中央の机の上に放り投げた。
それは最初のブリーフィングと同じ、魔導カメラの写真。
映っているのはサーチアイでも廃棄物でもない、見たこともない歪虚。
ただし、1つや2つの話じゃない。
「今回の件が舞い込んでから、相次いで発生の報告がある金属歪虚の写真だ。どれも個体差があって、おそらくはサーチアイと同じ『寄生した元』になっているものの特徴を引き継いでいるものだと思われる」
「やっぱり、発生だったんだ」
写真を見比べながら茜はぽつりとこぼす。
「サーチアイほど厄介じゃないものは他の部隊の手で駆除されているが……なかなかこれが、きりがない。そこで特機隊に新しい任務が舞い込んだわけだ。ついさっき」
ダニエルはぐるりと面々の顔を見渡してから、さらりと、口を開いた。
「これだけのことだ、おそらくどこかに『親』がいるだろうというのが上の判断。その『親』を叩く。これが俺たちの仕事」
「お、親ったってどこにいるんですか?」
あまりに漠然とした任務内容にジーナが思わず尋ねる。
「まー、そこは俺たちの仕事じゃないんで、ちゃんとした専門部隊の調査結果を待とうよ。俺たちは軍人なんだから、適材適所ってことで。それまで各自休息ね」
「ええ……」
ふりふり手を振って、解散を告げるダニエル。
どこかぼんやりとした不安と不満だけがブリーフィングルームを包み込んでいた。
「頭数は揃ってるんだ。念には念をってやつさ」
現場へ移動するトラックの中で、アニス・テスタロッサ(ka0141)がハンター達による作戦の修正案を語っていた。
大きく変わるのは1点。
要である狙撃手の札を2枚に増やすということ。
「それは、私の腕が信用できないということかしら?」
冷めた目で問うディアナ・C・フェリックス(kz0105)に、アニスはあくまで素面で答える。
「信用云々の話じゃねぇよ。アンタはアンタの仕事をする。俺は俺の仕事をする。失敗できねぇからこその保険だ」
ディアナを中心に場が冷めていくのを感じて、浅黄 小夜(ka3062)は心配そうに口を挟んだ。
「私は狙撃手のことは分からないけど……どれだけ万全でも、一瞬の風向きひとつで成否が分かれてしまうのだと聞いてます。『人事を尽くして天命を待つ』って……持てるもので、できるだけのことをして、最後にその一瞬の運も味方につけられるよう頑張る」
「小夜ちゃん、難しい言葉知ってるね!」
「こら、ジーナ。茶化さないの」
「あいたっ、ごめんなさい!」
割って入ったジーナ・サルトリオ(kz0103)の頭を沢城 葵(ka3114)がコツンと小突く。
「人事を尽くすのが私たちの役目だから。ディアナ大尉たちのために、頑張ります。信頼してるからこそ……」
そこまで言って、ちょっと言い過ぎたかなと小夜は恐る恐るディアナを伺う。
ディアナは少し考えていた様子だったが、やがてコツンと、杖の先で床を突いた。
「邪魔をしないのならなんだっていいわ。私は私の仕事をする」
意趣返しのようにアニスを横目で見る。
アニスはシガーケースを指先でノックしながら頷いた。
「それでいい。頼むぜ」
「花道は用意してあげるんだから、外したら罰ゲームね。あらやだ楽しみ」
挑戦的に口にした葵に、アニスは小さく息を吐く。
「外さねぇからこそ狙撃手を名乗れんだ」
やがてトラックが停まり、現場の造船所から少し離れた場所でハンター達は降りる。
後続のトラックに引かれた機動兵器に乗り込んで、魔導エンジンに火を入れた。
「そーいやさ。ジーナやディアナは何のために軍人になったんだ?」
通信回線の相互チェックのさ中、リコ・ブジャルド(ka6450)が思い出したように問いかける。
「あたしがハンターになったのは金のため。こっちの世界で生きるのに必要だったからだケド」
「私は、昔助けてくれた軍人さんに憧れて……かなぁ。覚醒者の素質がなかったからさ。この手で誰かを助けたいって思ったら軍人になるしかなかったんだ」
懐かしむように、明るい口調でジーナが答える。
「4年ちょっと前。リゼリオ沖の狂気との戦い、リコは覚えてる?」
「あんときはまだハンターになってなかったからなー。でもロッソの避難居住区で慌ただしい様子は見てたぜ」
「僕は覚えてるよ」
インスレーターの計器チェックを終えたキヅカ・リク(ka0038)が回線をつなぐ。
「僕らが連れてきてしまった戦いだ。忘れようにも忘れられないよ」
「そんな、後になってはお互い様だから気にしないで!」
ジーナが慌てて話を濁す。
「私もあの時、沿岸警備に出てて……訓練上がりだから物資輸送くらいしかしてないんだけど、そこから戦いを――CAMのことを見てたんだ」
彼女の呼吸が、どことなく弾んだ。
「ひと目見て『これだ』って思った。CAMなら、私もみんなと一緒に戦えるって」
「それで特機隊に入ったってわけか」
「そう! だから中佐から話を貰えた時は嬉しくって――」
「――ムダ話はそこまで。夜明けは一瞬なのよ」
ノッてきたジーナの話をディアナがピシャリと遮る。
「そう言うなってー。移動中だって口を動かすことくらいはできるぜ」
「なら、個人回線引いてやってちょうだい」
取りつく瀬もなく、リコは肩をすくめた。
造船所の構内に入ると、目標は遠巻きながらもすぐ見えた。
岬の灯台に巣食った花型歪虚サーチアイ。
花型と呼称するのは、その体がとても植物には見えない、金属でできているからに他ならない。
「情報どおり、花弁を閉じたまま動きはなし。このまま近づくことは可能みたいですね」
天王寺茜(ka4080)は、ヘイムダルのコックピットからサーチアイを覗き見る。
前回のオートソルジャーに続いて、今回選んだのは魔導アーマー。
作戦によってユニットを切り替えることができるのは、スペシャリストとして配属や任務自体を振り分けられる軍人にはない、ハンターの柔軟性そのものだ。
「それにしても、どうやってあの高いところに引っ付いたんだ……?」
リクの率直な疑問。
現場を前にした今は深く考えるべきことではないのかもしれないが、それでもじんわりと胸の中に積もっていく。
『こちらディアナ。配置についたわ』
『こっちも準備完了だ』
狙撃手2人からの通信を受けて、前線の7人はタイミングを示し合わせる。
「ジーナとフェリーニは一緒に誘導係ね。勢い余って索敵範囲に引っかからないでよ~? 特にジーナ」
葵の言葉に、ジーナはドキリと肩を震わせる。
「うえっ!? そ、そんなことしないよ……たぶん」
「なかなか……信用ならない言葉だな」
落ち着いたヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)の言葉を最後に、7人は岬へ続く、造船所の広い作業エリアへと足を踏み入れた。
●
『どこからでも! かかってきなさあーい!!』
キーンとハウリングを響かせて、ヘイムダルに備えられた拡声器から茜の声が響く。
しばらくしてから、もぞりと何か動くものが視界に見えてきた。
薄暗がりの中、CAMのライトに照らされて現れたのは金属のワイヤーでできたような人型の廃棄物。
「出てきたわ! とにかくまず、射線を開きましょう!」
ヘイムダルの構えた火縄銃型のマテリアル兵器「アマテラス」から、高出力のマテリアルビームが放たれる。
戦場を照らした一筋の光は、前方からやってくる数体の廃棄物をまとめて飲み込んだ。
「うわー! いいなー! かっこいーなー!」
「ジーナ! 感心してると火傷するぜ!」
ジーナ機エルモの傍でリコ機トラバントIIのガトリングが轟音をあげ、ビームに焼かれた廃棄物へ銃弾の雨を叩きこむ。
釣られるようにジーナ機もアサルトライフルを構え、引き金を引いた。
命中はお察しだが、少なくとも気を引くくらいには役立つだろう。
「半分はこっちが引き離すから、そっちはとにかく目の前のを引きつけて!」
「はい……!」
ワイバーン「竜胆」を駆って、小夜が空に飛びたつ。
リクのインスレーターはそこから離れるように移動を開始すると、トレースシステムを用いてソウルトーチの火をともす。
その輝きに惹かれた廃棄物たちがぞろぞろと移動を開始し、ちょうど半分とは言わないものの分離を促した。
ヴィオ機の無頼、そしてグリフォンを駆る葵がそれに続いて、戦場も分断される。
残された方の戦場では、小夜のブリザードが鉄骨を持つ廃棄物A型を多く含む群れを飲み込む。
これ以上進めないということは、裏を返せばこのラインの向こうには敵しかいない。
広範囲魔法を放つには絶好の戦場である。
「おねえはん、動きが鈍くなった相手なら……」
「ありがとう小夜ちゃん!」
ジーナの銃弾は、凍結で動きが鈍くなったA型を今度こそ貫く。
動体はまだでも静止物への射撃ならジーナだって少しはうまくなってきた。
「この人型の方って、元はたぶん造船所にあった資材ですよね?」
飛んできた大きな錨を掠めるようによけて、茜はあたりでうごめく歪虚をちらりと見渡す。
「んー? あー、確かに言われてみりゃな」
「つまり侵入したんじゃなく、その場にあったモノが歪虚化した……?」
リコの同意に、茜は作戦会議でダニエル・コレッティ(kz0102)が言っていたことを思い出す。
――なんらかの条件がある不可解な発生。
「あっ、ジーナさん、前に出すぎっ!」
「うわわっ! ごめん!」
接近戦の距離になって喜び勇んで駆け出したジーナを、茜が慌てて呼び止める。
足を止めたエルモの目と鼻の先に、ヘイムダルから放たれたスペルランチャーが降り注いだ。
間髪置かずに、上空から竜胆のレイン・オブ・ライトの輝きも振ってきて、激しい閃光に戦場がまばゆく照らされる。
「おねえはん。あとちょっとやからおさえて、ね?」
「うう……どっちがお姉さんか分からなくなってきた」
ジーナはしょんぼりして、エルモに握らせたナイフをライフルに持ち替えた。
「こっちは撃つまで動けねぇ。手間だろうが射線確保は頼むぞ」
アニスは拡大カメラで前線の様子を眺めながら、静かに引き金を引く時を待っていた。
スクリーンに表示されるのはメインカメラの捉えるサーチアイと、サブカメラの戦場。
トリガーを握るのとは別の手でコンソールを操作すると、別のサブカメラの映像を画面に大きく表示する。
映っているのは射撃姿勢のまま待機するディアナ機のデュミナス。
身じろぎもせず狙い続ける――のは機械だから当然なのだが、同じく狙撃を生業とするアニスもその姿にゾクリとする。
狩人のそれというよりは、直接的な『死』そのものを想起させる空気。
「“鴉”……ねぇ」
その呟きはアニス自身の耳にだけ届いていた。
インスレーターが巨大な斬艦刀をA型の懐に突き立てると、抉るように刃を引き抜く。
そこへ別のA型が飛び掛かったが、無頼の放ったガトリングがそれを叩き落とした。
「大尉さんは流石に頼もしいな……!」
転がった敵に、斬艦刀を振り下ろす。
前回はあんな状況だったこともあり、こうして直接的にヴィオに背中を預けるのは初めてのこと。
他の2人に比べれば操縦者として遠近攻守ともに精錬された彼のテクニックは、地球連合軍のエース級パイロットのそれにも匹敵する。
無頼はB型の錨をシールドで受け止め、そのままスラスターで間合いを詰めて斬機刀を振るう。
鎖を操る右腕が両断されると、サイドステップで空への射線を開けた。
「ナイスタイミングよ!」
敵の視点で見れば、無頼の巨体の背後から突然現れた空のグリフォン。
葵が練り上げた氷の矢が放たれ、B型の胸部を貫く。
「夜明けまであと少しってところかしら」
うっすら白んで来た東の空を目に、葵は戦況を見渡す。
灯台の傍にまだ数匹釣れていない廃棄物は見える。
だが、それ以外は前線に引っ張り出せているとみていいはずだ。
「ソウルトーチもぎりぎり持つはず。もうひと踏ん張りだね」
B型に射程に入られる前に、インスレーターの掲げる黒色のキャノンが火を噴いた。
無頼による追撃の斬機刀が敵を両断して、デュミナスのカメラアイは次の標的へ即座に移る。
「足りなければこちらにもある。1枚残してあれば、それでな」
残す1枚が何のためなのかは、すでに作戦会議の中で触れられている。
万が一狙撃が失敗した際の保険だ。
そうならないことを、リクも葵も、ただ祈ることしかできない。
次第に東の空が色づき始めて、アニスはバイザーディスプレイを額の上に押し上げた。
同時にレラージュの前頭部を覆っていたバイザーが閉じる。
コックピットの上から降りて来たライフル型デバイスを手に、スコープを覗きこむと、メインカメラと連動した小型ディスプレイに光が灯った。
「……仕事の時間だ」
●
夜明けの瞬間を感じ、離れていたリクら3人も戦場を残りのメンバーの方へと戻し始める。
万が一の備えに合流できる距離を保つためだ。
(外さない……たとえこの身を何が蝕んでいるのだとしても)
操縦桿を握るディアナの手が小さく震える。
まただ――しきりにプライドを邪魔する震えは、怪我のせいではないと医者は言う。
なら、精神?
プレッシャーに負けているということ?
あり得ない……!
海の向こう。水平線が煌めいて、日輪が姿を現す。
「花道は用意するって約束だしね……!」
葵が放ったグラビティホールが、狙撃射線の直近の廃棄物たちを足止めする。
闇を払うように戦場に差し込んだ光が灯台の歪虚も包み込んで、その大きな花弁が、ゆっくりと開いていった。
「――今ッ!」
放たれた銃弾。
CAMのサイズで言えば砲弾。
風を切った弾丸は、開いた花の中央――結晶状の瞳を掠って、花弁を貫いた。
「外した……!?」
「ううん、2射目がある……!」
思わず叫んだ小夜に、茜が首を振る。
「伊達や酔狂でこんなカスタムしてるわけじゃねぇんでな……狙い撃つぜ!」
一瞬を冷静に待ち続けた。
心も目も、この一撃のために研ぎ澄まされた。
トリガーを引くアニス。
反動が機体を伝わってコックピットを揺らし、マテリアルで加速させた銃弾が一瞬の間にサーチアイに突き刺さった。
反動で大きく揺れた花弁が空を向く。
息をのんで見守る中、ゆっくりと元の位置に戻ったサーチアイ。
花弁の中からのぞいた瞳は、半分ほどを大きく破損した状態だった。
「ちぃ……ディアナの弾の衝撃でセンターからズレたか!」
反撃のマテリアルレーザーが飛んでくる。
アニスはデバイスを放り上げ、急いで狙撃モードを解除すると、横っ飛びで射線から回避する。
「ディアナ、何してんだ!」
咄嗟にサブカメラを見ると、ディアナ機は放心したように動かない。
「外した……私は……」
コックピットの中で、ディアナは恨めしいものを前にしたかのように震える手を睨みつける。
サーチアイの瞳が再び輝きだした。
第二射。
その角度は硬直したディアナ機を狙っている。
レラージュが全速力で駆け寄る。
「ソウルトーチでひきつける!」
「タンマだ、大尉殿!」
前に出ようとした無頼を、飛び立ったトラバントの黒いボディが遮った。
「狙いをつけちまった後なら無駄だぜ! 護るには――」
――射線を遮るしかない。
射線上に躍り出て、ブラストハイロウシステムを真下に向けて放出する。
解き放たれたサーチアイのマテリアルが、戦艦の主砲の一門にも似た勢いで放たれた。
シールドを構えるトラバント。
狙いは彼女の機体ではないから直撃はしない。
それでも、余波でも十分すぎる破壊力が機体の下半身を飲み込んだ。
「リコッ!?」
バックアップに回ったインスレーターが、トラバントを支えるように後ろから手を添える。
「大丈夫……そこまでヤワじゃねーぜ」
衝撃で内装にぶつけたのか、額から血を流したリコがニヤリと歯を見せて笑う。
射線を遮られたことでディアナ機は危機を免れた。
傍に寄ったレラージュがデュミナスの肩を掴むと、接触回線でアニスが叫ぶ。
「なにやってんだ! 引き金引いたら成否にかかわらず退避が鉄則だろうがッ!」
対するディアナから返事はない。
アニスは構わず、耳元で叱咤するように言った。
「気負い過ぎなんだよ。二つ名とか、ンなモン、タダの飾りじゃねぇか……お前をお前たらしめてんのは何だ!? 名前か、テメェの腕か、どっちだよ!」
「私は……」
通信からディアナのかすかな声が零れる。
「次、来るわよ!」
葵のファイアーボールが、地上の廃棄物を爆炎で一掃する。
その上空を、ダメージを負ったトラバントとインスレーターが飛翔した。
瞳を輝かせるサーチアイが、次の標的を探して首を振る。
「リコ、流石にもう一発は――」
「だいじょーぶだって!」
――受けるだけなら。
心配するリクに、リコはその言葉を飲み込んだ。
狙撃が狙撃屋の仕事なら、自分の仕事は「仲間を安全に前線に送り込む」コト。
自分がたどりつくことじゃねぇ、仲間を活かすコトだ。
これが自分のプロ意識。
かー、プロって辛いね。
軽口が脳裏に浮かぶ程度には、膨らみ始めたサーチアイの輝きに恐怖はなかった。
「リコ、そのまま高度を保て!」
ヴィオの声が通信に響く。
無頼はブラストハイロウの後ろで、トレースシステムを介してソウルトーチを起動した。
吸い寄せられるように無頼を向いた瞳。
放たれたマテリアルレーザーは、ハイロウの輝きに阻まれて同機に掠ることすらなかった。
「――アニス、どきなさい」
ディアナの言葉に、アニスははっとして彼女の機体を見た。
退避を忘れて硬直した機体は狙撃姿勢のまま。
銃口もサーチアイの方を向いたままだ。
「狙撃手の2射目は恥だぞ?」
「敗北に勝る恥はあるのかしら?」
「はっ、ほざけ」
レラージュはデュミナスから離れると、ロングレンジライフルで前線の廃棄物を狙い撃つ。
研ぎ澄まされたディアナの瞳が、レーザーを放った直後のサーチアイを捉えた。
無言の引き金。
代わりに響くライフルの銃声。
銃弾は戦場の壁となったトラバントのこめかみすぐ横をすり抜け、結晶の瞳を粉々に撃ち砕いた。
「ディアナさん、やった!」
「ジーナさん、喜ぶのはまだ早いわ!」
茜のヘイムダルがハイロウの裏に並んだ隊列から前へ飛び出す。
灯台の下で立ちはだかったB型の鎖を斬艦刀で受け止めて、がら空きになった敵の体にテールスタビライザーで精度を増した波動銃を叩きこむ。
「竜胆……お願いね」
飛行を竜胆の自由意思に任せた小夜は、集中力を高め錬金杖に己のマテリアルを集め始める。
膨れ上がった正のエネルギーに危機感を感じたのか、サーチアイは花弁の中央、瞳の周囲から金属のつぶてのようなものを撃ち出した。
乱れ飛ぶつぶてをかいくぐる竜胆。
直後、小夜のマテリアルが解放された。
燃え盛る三つの火球が、灯台の先へと降り注ぐ。
弾けた火球は、その爆炎で塔ごとサーチアイを飲み込んだ。
朝日にも負けない一瞬の輝き。
それが晴れたところに、斬艦刀を振り上げたインスレーターが飛び込んだ。
灼熱で金属の身体が溶けたかのように、どろどろと弱ったサーチアイ。
その身よりも大きな刃が質量に任せて振り下ろされると、真っ二つに叩き切られた敵は力なく崩れていった。
●
残る廃棄物を処理し終えると、ハンターと特機隊は警戒の意味も込めてしばらく周辺を散策する。
もしもあの歪虚群が『発生』したものなのだとしたら、新たな敵が生まれる可能性も捨てきれないからだった。
「上空に不審な影はなし……か」
すっかり陽の昇った空を装備したサーチライトで照らして、リクはふぅと息をつく。
今回の歪虚がいったいどこからやってきたのか。
流石に歩いてきたならば、もっと前に気づかれているはずだ。
そうでないなら地面か空か。
何かが掘り返された跡がない以上は、選択肢は上だけだ。
「敵の姿を見るに、ここにあった資材が歪虚化したと思うんです」
「歪虚化って……どうしてそうなったんでしょう?」
「それは……例えば、この間の無頼みたいに、寄生とか」
首をかしげた小夜に、茜は苦しいながらも答える。
だが、それに賛同する者がいた。
葵だった。
「もう消滅しちゃったんだけど見つけたわ。この間と同じ金属の板」
「マジかよ! ってことは、この間のとおんなじヤツだったってことか?」
驚いたリコに、葵はYESともNOともつかない微妙な態度で首をふる。
「見つけたのはどれも『金属片』だけだった。どれも確かに負のマテリアルなのだけど、とても無頼やサーチアイみたいに襲ってくるような様子はなかったわ」
「ちゃんとした歪虚の姿になるのには条件があるってわけか」
アニスがふと、思案する。
「その見つけた金属片ってのは地面や、石畳や、建物の床板なんかに転がってなかったか?」
「あら、よくご存じで。そっちも見つけたの?」
「いや、ただ――」
――金属、か。
まだ答えの域まで達していない気づきが、アニスの胸の内で渦巻いた。
「――っていうことなんだけど、このくらい軍も把握してるんでしょ?」
さらりと尋ねた葵の言葉に、エンドブリーフィング中のダニエルは苦い顔で眉を寄せた。
「もー、これだから勘の鋭い人らと仕事するのは嫌なんだ」
ダニエルはもんもんとした様子でデスクの中から紙束を取り出すと、それを中央の机の上に放り投げた。
それは最初のブリーフィングと同じ、魔導カメラの写真。
映っているのはサーチアイでも廃棄物でもない、見たこともない歪虚。
ただし、1つや2つの話じゃない。
「今回の件が舞い込んでから、相次いで発生の報告がある金属歪虚の写真だ。どれも個体差があって、おそらくはサーチアイと同じ『寄生した元』になっているものの特徴を引き継いでいるものだと思われる」
「やっぱり、発生だったんだ」
写真を見比べながら茜はぽつりとこぼす。
「サーチアイほど厄介じゃないものは他の部隊の手で駆除されているが……なかなかこれが、きりがない。そこで特機隊に新しい任務が舞い込んだわけだ。ついさっき」
ダニエルはぐるりと面々の顔を見渡してから、さらりと、口を開いた。
「これだけのことだ、おそらくどこかに『親』がいるだろうというのが上の判断。その『親』を叩く。これが俺たちの仕事」
「お、親ったってどこにいるんですか?」
あまりに漠然とした任務内容にジーナが思わず尋ねる。
「まー、そこは俺たちの仕事じゃないんで、ちゃんとした専門部隊の調査結果を待とうよ。俺たちは軍人なんだから、適材適所ってことで。それまで各自休息ね」
「ええ……」
ふりふり手を振って、解散を告げるダニエル。
どこかぼんやりとした不安と不満だけがブリーフィングルームを包み込んでいた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/01/24 23:39:30 |
|
![]() |
質問卓 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/01/21 20:59:32 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/20 19:14:36 |