ゲスト
(ka0000)
トワイライト・ノーブル
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/11 22:00
- 完成日
- 2015/01/18 23:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●或る貴族の独白 ~王国暦1014年晩秋~
私の夫ヘスディンは貴族としての高貴さに欠けていた。
庶民ならば、自分の務めを果たして得た金や、余暇を自分が楽しむのに使うのはいい。自分に危険が迫っていたら、逃げ出すのもいいだろう。
しかし領地を治め領民を守る領主であるなら話は別だ。
だというのに領主たるあの男は先の歪虚の発生の際、王都へといの一番に逃げて行って、今だに戻って来ていない。
おおかた、未来に絶望して酒に溺れる生活でも送っているのだろう。
あの男は昔からそういう傾向があった。
とはいえ、気持ちがわからないでもない。王国の未来は、正直言って不安だ。
王国は無数の人の集まりであり、人の数だけ意思がある。その意思を纏め、一つにして行くのが王の役目である。
しかし、この国には王はいない。
王女殿下は指導者としてあまりに若すぎる。ゆえに女王ではなく王女のままなのだ。セドリック大司教が補佐についてはいるが、彼は大司教であって王ではない。
そして、歪虚の活動が活発になっている。
夏には自由都市同盟領にあるラッツィオ島で大規模な歪虚の発生があったし――
つい先日、イスルダ島からの軍勢が王都に直接攻撃を仕掛けた。
ベリアルという首魁に率いられた軍勢だ。群れではない。彼らには明確な統治者がいる。
ベリアルは撃退されたが、いまだ存命と言われている。
もしかしたら、千年王国と言われたグラズヘイム王国も、そう長くはもたないのかもしれない。
きっとあの男以外にも、自棄になっている貴族もいるのだろう……。
だからといって政務をないがしろにする理由にはならない。
私は貴族として生を受けた。ならばノブレス・オブリージュの名の下に、貴族として生を全うしよう。
まずは、歪虚から人々を守る力が必要だ。
ただの人間では限界がある。覚醒者――マテリアルを行使し、歪虚と戦う力を持った存在を、早急に探さなくてはならない。
●候補生三名
去年の晩秋のことだった。リベルタース地方の一地方を治めるマハ・スフォルツァ子爵夫人の命により、彼女の領地全土でマテリアル保有量調査が行われた。
領地防衛の任に当たる、覚醒者の素質を持つ者を見出すのが目的だった。
その中で素質を見出され、覚醒者として歪虚と戦う戦士となることに立候補したものは、最終的に三名だった。
エクラ教司祭の娘、ピエ・ドゥメール。
粉挽き小屋の五男坊、ギョーム・ペリエ。
そしてスフォルツァの末娘、ジョセファ・スフォルツァ。
彼らはハルトフォートのハンターオフィス支部にて儀式を完遂し、覚醒者となった。
子爵夫人は覚醒者となった三人を屋敷に呼び、顔を合わせた。
並び立った三人に対し子爵夫人は言った。
「わたくしがマハ・スフォルツァです。
あなたがたは覚醒者となりました。これからは故郷を守るために、私のもとでその力を振るってください」
その言葉にうなづいたのは、二人。
「わかりました! 歪虚どもなんぞぶっ飛ばしてやります!」
胸を張って応えたのはギョーム。
「光の導きのままに、悪と戦うことを誓います!」
丁寧な口調ながら、ピエも元気よく応える。
そして、うなづかなかったのは1人。
「お母様! なぜ私が戦わなければならないんですの!?」
ジョセファであった。
娘のジョセファは自ら望んで覚醒者となったのではない。子爵夫人が半ば強制的に立候補させた。貴族の立場と彼女自身の素質を考えれば当然の選択だと、子爵夫人は考えていたのだ。
しかしこの娘は父に似て怠惰で、自分に甘く、おまけに高飛車だ――。
「あなたに選択権はありません、ジョセファ」
マハは自分の娘に対して冷徹に言い放った。
「そんなっ! いくらお母様とはいえ、横暴すぎますわ!」
「貴女は貴族で、戦う力を持っている。ならば民のため立ち上がらねばなりません」
「私の意思はどうなりますの!?」
「貴女の意思など、民と故郷を守るという崇高な目的の前には無意味なのです」
それきり、ジョセファは反論を許されることはなかった。
子爵夫人と別れ、部屋から出る三人。そこで、うなだれたジョセファに話しかけるものがあった。
「あの、元気出してください!」
ピエだった。
「難しいだろうし、慣れないこともあるかもしれないけど。みんなで助け合って行きましょう?」
力なく首を向けたジョセファにピエは快活に述べる。
「あなた達は自ら望んだから善いですわよね……私は戦いなんてしたくありませんのに」
「攻めてくるから戦う。簡単な事じゃないか!」
やや力んだ声で言ったのはギョームだった。
「悩むことなんかないぜ!」
真っ直ぐな視線を向けるギョームだが、ジョセファはうつむいてため息をついた。ギョームは自らとは性質を異にした反応に慌てる。
「私は帰ります。ごきげんよう……」
ジョセファはまだ何か言いたげな二人に向け、とぼとぼと歩いて行った。
ジョセファの意志とは裏腹に、三人は子爵夫人の率いる戦士団の中核を担う存在として、訓練の日々を送ることとなった。
そして、現在。
子爵夫人はこう考えていた。ある程度の訓練を受けた三人に、そろそろ実戦の経験を与えてみたいと。
奇しくも領地内にて、ゴブリンの動きが活発という報告があった。
三人だけでは手に負えないだろう。
となれば……ハンターの出番か。
ハンターに依頼し、ゴブリンの駆除を依頼する。同時に、三人に実地で戦い方を教えるよう頼む。
名案であるように思えた。
ジョセファのことが心配ではあったが(危険という意味ではなく、やる気になってくれるかどうかという意味で)、それでもやる価値はある。
実戦でジョセファを含めた三人がどう振る舞い、どんな戦士に成長していくのか。
それはハンターの腕次第だった。
私の夫ヘスディンは貴族としての高貴さに欠けていた。
庶民ならば、自分の務めを果たして得た金や、余暇を自分が楽しむのに使うのはいい。自分に危険が迫っていたら、逃げ出すのもいいだろう。
しかし領地を治め領民を守る領主であるなら話は別だ。
だというのに領主たるあの男は先の歪虚の発生の際、王都へといの一番に逃げて行って、今だに戻って来ていない。
おおかた、未来に絶望して酒に溺れる生活でも送っているのだろう。
あの男は昔からそういう傾向があった。
とはいえ、気持ちがわからないでもない。王国の未来は、正直言って不安だ。
王国は無数の人の集まりであり、人の数だけ意思がある。その意思を纏め、一つにして行くのが王の役目である。
しかし、この国には王はいない。
王女殿下は指導者としてあまりに若すぎる。ゆえに女王ではなく王女のままなのだ。セドリック大司教が補佐についてはいるが、彼は大司教であって王ではない。
そして、歪虚の活動が活発になっている。
夏には自由都市同盟領にあるラッツィオ島で大規模な歪虚の発生があったし――
つい先日、イスルダ島からの軍勢が王都に直接攻撃を仕掛けた。
ベリアルという首魁に率いられた軍勢だ。群れではない。彼らには明確な統治者がいる。
ベリアルは撃退されたが、いまだ存命と言われている。
もしかしたら、千年王国と言われたグラズヘイム王国も、そう長くはもたないのかもしれない。
きっとあの男以外にも、自棄になっている貴族もいるのだろう……。
だからといって政務をないがしろにする理由にはならない。
私は貴族として生を受けた。ならばノブレス・オブリージュの名の下に、貴族として生を全うしよう。
まずは、歪虚から人々を守る力が必要だ。
ただの人間では限界がある。覚醒者――マテリアルを行使し、歪虚と戦う力を持った存在を、早急に探さなくてはならない。
●候補生三名
去年の晩秋のことだった。リベルタース地方の一地方を治めるマハ・スフォルツァ子爵夫人の命により、彼女の領地全土でマテリアル保有量調査が行われた。
領地防衛の任に当たる、覚醒者の素質を持つ者を見出すのが目的だった。
その中で素質を見出され、覚醒者として歪虚と戦う戦士となることに立候補したものは、最終的に三名だった。
エクラ教司祭の娘、ピエ・ドゥメール。
粉挽き小屋の五男坊、ギョーム・ペリエ。
そしてスフォルツァの末娘、ジョセファ・スフォルツァ。
彼らはハルトフォートのハンターオフィス支部にて儀式を完遂し、覚醒者となった。
子爵夫人は覚醒者となった三人を屋敷に呼び、顔を合わせた。
並び立った三人に対し子爵夫人は言った。
「わたくしがマハ・スフォルツァです。
あなたがたは覚醒者となりました。これからは故郷を守るために、私のもとでその力を振るってください」
その言葉にうなづいたのは、二人。
「わかりました! 歪虚どもなんぞぶっ飛ばしてやります!」
胸を張って応えたのはギョーム。
「光の導きのままに、悪と戦うことを誓います!」
丁寧な口調ながら、ピエも元気よく応える。
そして、うなづかなかったのは1人。
「お母様! なぜ私が戦わなければならないんですの!?」
ジョセファであった。
娘のジョセファは自ら望んで覚醒者となったのではない。子爵夫人が半ば強制的に立候補させた。貴族の立場と彼女自身の素質を考えれば当然の選択だと、子爵夫人は考えていたのだ。
しかしこの娘は父に似て怠惰で、自分に甘く、おまけに高飛車だ――。
「あなたに選択権はありません、ジョセファ」
マハは自分の娘に対して冷徹に言い放った。
「そんなっ! いくらお母様とはいえ、横暴すぎますわ!」
「貴女は貴族で、戦う力を持っている。ならば民のため立ち上がらねばなりません」
「私の意思はどうなりますの!?」
「貴女の意思など、民と故郷を守るという崇高な目的の前には無意味なのです」
それきり、ジョセファは反論を許されることはなかった。
子爵夫人と別れ、部屋から出る三人。そこで、うなだれたジョセファに話しかけるものがあった。
「あの、元気出してください!」
ピエだった。
「難しいだろうし、慣れないこともあるかもしれないけど。みんなで助け合って行きましょう?」
力なく首を向けたジョセファにピエは快活に述べる。
「あなた達は自ら望んだから善いですわよね……私は戦いなんてしたくありませんのに」
「攻めてくるから戦う。簡単な事じゃないか!」
やや力んだ声で言ったのはギョームだった。
「悩むことなんかないぜ!」
真っ直ぐな視線を向けるギョームだが、ジョセファはうつむいてため息をついた。ギョームは自らとは性質を異にした反応に慌てる。
「私は帰ります。ごきげんよう……」
ジョセファはまだ何か言いたげな二人に向け、とぼとぼと歩いて行った。
ジョセファの意志とは裏腹に、三人は子爵夫人の率いる戦士団の中核を担う存在として、訓練の日々を送ることとなった。
そして、現在。
子爵夫人はこう考えていた。ある程度の訓練を受けた三人に、そろそろ実戦の経験を与えてみたいと。
奇しくも領地内にて、ゴブリンの動きが活発という報告があった。
三人だけでは手に負えないだろう。
となれば……ハンターの出番か。
ハンターに依頼し、ゴブリンの駆除を依頼する。同時に、三人に実地で戦い方を教えるよう頼む。
名案であるように思えた。
ジョセファのことが心配ではあったが(危険という意味ではなく、やる気になってくれるかどうかという意味で)、それでもやる価値はある。
実戦でジョセファを含めた三人がどう振る舞い、どんな戦士に成長していくのか。
それはハンターの腕次第だった。
リプレイ本文
●新兵の自己紹介
ハンター達が屋敷に来たのはその日の夕方のことだった。
まず夫人から挨拶と依頼内容の説明を聞き、その後には食堂で三人の新米覚醒者との面談を行う流れとなった。
前向きだが戦いに不安を抱く聖導師、ピエ・ドゥメール。
英雄を目指すと言う闘狩人、ギョーム・ペリエ。
消極的な猟撃士、ジョセファ・スフォルツァ。
それぞれ自己紹介し、後は自然に候補生ごとに個別に質疑応答が始まった。
「一般に、聖導師の役割は……」
「なるほど、勉強になります」
ロニ・カルディス(ka0551)は自らも聖導師であることもあり、ピエとよく話した。質問され返答すると、ピエは熱心に聞いたのだった。
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)も一緒に話を聞き、アドバイスした。
「味方を後方から支援する場合は……」
「わかりました!」
(素直じゃのう……もう少し、反発してくれたほうが面白いのう)
クラリッサがそう思うほどにピエは素直だった。
「英雄とはどういうものと考えている?」
グライブ・エルケイル(ka1080)が、ギョームに質問した。
「敵と戦う。そして勝つ!」
「実に単純明快でいいね」
キレのいい返答にHolmes(ka3813)(ホームズ)は頷く。
「もっと具体的に頼めるか?」
クライブが聞く。返答はすぐ返った。
「絶対、負けない」
「他には?」
「カッコいい」
「それだけか?」
「そんだけっす!」
「君とはうまくやっていけそうだ!」
ホームズが笑い転げる中、グライブは押し黙った。
パッツィ・フォックス(ka3851)は面倒臭かったが、煙草を加えつつジョセファに話しかけてみた。同じ猟撃士であるということもあったが、親の期待を一方的に押し付けられた過去が自分と重なってもいた。
「武器は何使ってんの?」
「はい、弓矢を」
「……何だ、そんなもん使ってんのか。ほれこっち使え、こっち。爽快感が段違いだ」
無造作に自分の拳銃をホルスターから抜き、銃把を向けて差し出す。
「貸すだけだぞ」
ジョセファは受け取り、拳銃を珍しそうに見つめた。
「でも使い方が……」
「簡単だよ、この後教えてやる」
面倒臭がりのパッツィだったが、銃に関してはうるさかった。
「あんたもすぐトリガーハッピーってやつがわかるようになるよ」
「はあ……」
面倒臭いが、逆らうことすら面倒。それがジョセファの心境だった。
三人が帰ってから、ハンター達は三人の育成計画を話し合った。
「1人に対して2人が指導。後2人が全体のフォローかしらね?」
筋肉質で髭面の男が、嫋やかな女言葉で語った。彼は喜屋武・D・トーマス(ka3424)。
「そうねん? 今夜のやり取りで相性のいい人もわかったみたいだしぃ?」
秀麗な美貌の持ち主が顔を傾けて言う。名をナナート=アドラー(ka1668)と言った。
一見真逆な二人だが、女言葉で話す点と、それと似つかわしくない性別は共通していた。
「でも、ジョセファちゃんは?」
トーマスが髭を撫でながら首を傾げる。ジョセファはパッツィと話していたが、ツーマンセルならもう一人あたる必要がある。
そのパッツィは今、訓練場で銃の扱い方をジョセファに指導している。
「あ、じゃあ俺がやるっすよ!」
挙手したのは神楽(ka2032)だった。
「偉い人に取りいるのは得意っすから!」
「それ、自慢にならないわよん?」
ナナートは艶かしく微笑んだ。
話は纏まり、次の朝が来た。
朝食が終わった子爵夫人に、執事が一般公募していた戦士団の名前が決まったと伝えてきた。
「あら、決まったのですか?」
少女のように快活になって夫人は次の言葉を促す。
「はい。『光貴なる盾』でございます」
「『光貴なる盾』……善いですね。長さも丁度よく、語感も良い。かれらに相応しい名です」
「ハンターの神楽様の応募でございました」
「そう、では本人にも伝えてあげて。
時間が来たら私は皆様を見送りに行きます」
明朝、ハンター達は子爵夫人に見送られ、新人の訓練も兼ねたゴブリン退治へと出発したのだった。
●新兵実戦訓練
平原では冷たい風が吹き抜けていた。北に山、南に農地を眺めながらハンター達は進む。
農地が小さく見えるほど進んだ頃、狩猟の知識を持つトーマスが足跡を見つけた。
一行は慎重に進んだ。
やがて黒い点が目に入り出した。近づくにつれ、形が明らかになりだした。
向こうも気づいたのか、動き出した。間もなく遭遇するだろう。
「みんな、準備はいいかしら?」
「うっす! 腕が鳴ります!」
トーマスが聞くと、ギョームが力強く応えた。
「ピエ、準備はいいか?」
「大丈夫……です」
ロニに答えるピエだが、その表情は硬い。
「こういう時は深呼吸じゃ」
クラリッサが深呼吸をさせると、少し落ち着いた。
ジョセファも緊張していた。それを察してか、神楽が話しかけた。
「お嬢、気楽にやるっすよ?」
「わかりましたわ、気楽に、気楽に……無理、帰っていいかしら」
「ダメっす!」
「何にも考えず撃ちまくりゃいいんだよ」
煙草をふかしてパッツィが言う。
その間にも敵は近づき、ゴブリンとわかるようになった。
歩いているのが8体、横一列にならんでいる。その中央と両横に、小型の恐竜に騎乗したゴブリンナイトが、全部で3体いる。
「どれ、先手必勝といこうか」
クラリッサが詠唱を紡ぐと、青白い煙が発生してゴブリン達を包み込んだ。密集していたゴブリンは、中央のゴブリンナイトも含み、両横の2体だけを残して全員が倒れ伏した。
「よっしゃ今だ!」
ギョームが抜剣し駆け出した。
「待て、先走るな!」
「すぐ追おう」
急ぎ、グライブとホームズが追う。
「私はどうしたら?」
「不用意に動くな、すぐギョームをサポートできるようにしておくんだ」
指示を仰ぐピエにロニは応えた。
「銃兵は迎撃が肝要だが止むを得ねえ、撃てる所まで行くぞ!」
「お嬢、サポートは頼むっすよ!」
パッツィが促し、神楽は前へ出る。ジョセファはおっかなびっくりパッツィに続いた。
寝なかった2体のゴブリンナイトは手近なゴブリンを2体同時に蹴り起こしていた。ギョームが敵に辿り着く時にはすでに4体が目覚めていた。
ギョームは構わず剣を振るう。
狙うはまだ眠っていた、中央のゴブリンナイト。
ゴブリンナイトは胴体に剣を受けるが致命傷にはならず、その衝撃で起きた。
ここでグライブとホームズが追いつき、ギョームの両横に並ぶ。
「うん、まずい状況だね」
「えっ何で?!」
「話は後だ。すぐに退け」
2人の言葉にギョームは怪訝な顔をする。
一方神楽は起きたゴブリンに向かった。脚元にトンファーの一撃を加える。
「今っすお嬢!」
絶好の射撃の機会を与えたつもりだったが――ジョセファは撃って来ない。
「お、お嬢~?!」
「はぁ……グダグダねぇん」
騎馬で全体を見渡していたナナートがため息をついた。
「ギョームちゃんは突出してるし、ジョセファちゃんは何していいかわかってないみたいねぇ……。
ピエちゃんはまだ臨機応変に対応するのは無理だろうし」
「ま、初々しくて良いじゃない?」
言いつつトーマスはデリンジャーを構える。
「そうね……初めてはこんなものよね」
二人は右側のゴブリンナイトに射撃をしかける。
ゴブリンナイトは攻撃を受けつつも寝ている味方を起こすことに専念した。
そして起きたゴブリンは集団でギョームを襲う。
「うおっ、こいつら!」
狼狽えるギョームをグライブが盾を構え守る。しかし騎乗し直したゴブリンナイトの頭上からの槍の一撃は阻めず、ギョームは一撃を負う。
「ぐあっ! うう……」
「退くんだ!」
ホームズとグライブはギョームを戦線から離脱させようとする。
そこに左右からゴブリンナイトが迫った。
だが、進路を阻む者があった。
「はあい♪ アナタ達の相手はわ・た・し☆」
ナナートだ。拳銃を両手に構え、ウインクをしてみせる。
「ナナート、すまん」
「ああ、ここは任せろ」
男の声になっていた。耳を疑うグライブ。
「悪いけれど、ここは通行止めよぉん?」
次の瞬間には、元通りだった。
ピエはギョームの傷を認め、急いでヒールをかける。淡い光が認められると、ちゃんと役目を果たせたと安堵した。
「武器を構えろ、ピエ。俺達も前に出る」
「あっ、はい!」
ロニに言われメイスを構える。安堵するには早い。
その時ピエを守るように緑に輝く風が取り巻いた。クラリッサの魔術だ。
「聖導師の業にも戦闘を補助するものがある。汝も使いこなせるようになるがよいぞ」
「わかりました!」
回復、戦闘、補助……聖導師の仕事は多い。
「皆、前衛が減った今こそ気合を入れるのよ!」
遊撃に当たっていたトーマスが、前線の穴を埋めるべく前に出た。
「行くわよ!」
雄雄しく、かつ凛々しく敵に向かう。
迫り来る敵に対しナイフを振るうと――至近距離で風の刃が発され、敵を斬り刻んだ。
「ああいう戦い方もあるんですね……」
ピエが感想を漏らす。
「やや特殊だがな」
と、ロニ。
「えっ、戦い方の事ですよ?」
「トーマスの人格の事は言ってない」
「ヘルプっす! お嬢!」
一方、神楽はゴブリンから反撃を受けていた。
「ああ、あれが一般人なら大事だな……」
パッツィはジョセファの隣で煽る。
「うっ……わかりましたわ!」
ジョセファは拳銃を敵に向けた。
銃声が響き渡り――ゴブリンが血を吹き出してのけぞった。
「あたった……?」
「助かったっす! お嬢!」
初めて感じる、自分の撃った拳銃の威力。
ジョセファは体の奥から何かが湧き上がるのを感じていた。
「くそっ……こんな……もう一回やらせてくれ!」
後方へ退いたギョームは、冷静さを完全に無くしていた。
そんなギョームに対し、グライブは肩を掴み、詰め寄るのだった。
「よく聞け、ギョーム」
「な……何すか!」
「理想を追うことは決して悪ではない……だが、まずは自身の手の広さを知る事だ。
未熟な腕では、理想を追うことすらままならない」
グライブがこれほど喋るのを、ギョームは始めて目にした。
「俺は……あんな奴ら楽勝で」
言い返そうとして、首を振った。
「いや……俺は……全然ダメだった」
「それを知ることが強くなることに繋がるのさ」
ホームズの、穏かな声。
「頭が冷えたら戻ろうか。授業を始めるよ」
「うっす!」
二人のやり取りの中、グライブは顔の傷と盲いた右目を、そっと撫でた。
過去が、呼びかけていた。
ギョームはホームズとグライブに伴われ、戦線へと復帰。
ホームズは語る。
「君の単純さは好きだが、単純に物事を解決するにはいくつか覚えておかなければならないことがある」
「はい!」
三人は足並みを揃え、敵陣の一角へと突撃した。
「レッスン1、無闇に突撃しない」
一人で突撃した時と違い、三人並んで戦っている今は、囲まれることはない。
「レッスン2、身体を狙え」
繰り出されたホームズの大鋏が、ゴブリンの脛を捕らえた。
ゴブリンは体勢を崩し、ギョームにも戦い易い相手に思えた。
攻撃を続けると、ゴブリンは地面に膝をついた。
ギョームは止めを刺そうとするが、ホームズに引っ張られる。ギョームの目の前を何かがかすめた。
「レッスン3、気を抜くな」
膝をついたゴブリンが、石を投げたのだ。
そして、攻撃が途切れた間に、左右から別のゴブリンが迫っていた。
「ラストレッスン」
グライブとホームズが、敵の攻撃を受け止めた。
「――仲間を頼れ」
挟撃も二人いれば防げる。さらに一人いれば――
理解したギョームは、すぐさま攻撃に移り、敵の1体を仕留めた。
前衛が復帰し、ハンター達は優勢となった。
「いい感じっす、お嬢!」
「当然よ!」
「お嬢凄いっす!」
「何も考えずに撃ちまくるのって爽快ですわぁ!」
「素敵っす! お嬢! 結婚して!」
「調子に乗るのではなくてよ」
歓喜の表情で銃を撃ち続けるジョセファに、ピエとロニが戦慄。
「なんかジョセファさん人が変わってるんですけど……」
「神楽の話術の効果なのか……?」
やがて残りは2体となった。うち1体はゴブリンナイトだ。
「最後はあなた達だけで戦うのよ」
「はい!」
トーマスが促し、三人を残し全員が下がった。
「ここで迎え撃ちます!」
ピエが支持を下す。
「了解、蜂の巣にして差し上げますわ!」
ジョセファが敵に銃撃を始める。ピエはホーリーセイバーをギョームの剣にかけ、ギョームは前に立って待ち構える。
ジョセファの銃撃で1体が倒れた。ゴブリンナイトが来る。繰り出される槍を、ギョームは落ち着いて避け、反撃の一刀を浴びせた。
ジョセファが騎乗生物の目を撃ち抜いた。暴れて、ゴブリンを振り落とす。
「うおりゃあああああああっ!」
気合とともに振り下ろされたギョームの剣が、ゴブリンの頸動脈を斬り裂いた。
ゴブリンは血を撒き散らして仰向けに倒れ、そのまま絶命した。
戦いは終わってしばらくは、三人とも動かないでいた。
三人とも、誰かと本格的に争って命を奪うのは始めてだったのだ。
やがてピエが目を閉じて両手を合わせた。ギョームは大きく息を吐き、汗を拭う。
「この気持ちにもやがて慣れていくのかしら……」
ジョセファは、独り呟いた。
●戦士誕生
任務は完了だ。
屋敷に戻り、三人はそれぞれハンター達に礼を述べた。
「皆さんからの教え、とても役に立ちました。光の導きのままに、これからも頑張ります!」
ピエが眩しいばかりの強い眼差しで言った。
「素直で可愛いわあ。抱きしめたくなっちゃいそう」
トーマスが上腕二等筋を控えめに誇示する。
「いえ、それは……」
「なんてね、ホントにはしないわよ」
「え、ええと……」(どういう人なんだろ……)
返答に困るピエだった。
「俺は今日華々しい勝利を収めると思ってた。それは叶わなかったけど……自分の弱さを知れたのは勝利以上に大きな収穫だった。ありがとう」
ギョームが照れながら言うと、ホームズが口を開いた。
「君はまだ若い。未熟さは恥ではないよ」
「いや、あんたの方が若いだろ」
「こう見えてもボクは86歳だ。未だに大人びてない自覚はあるがね」
どう見ても10台前半のホームズが言った。
「は?! ……都会の人ってそんなんなの?!」
田舎者だった。
「私……戦うことが唯一の存在意義になるかもしれません」
ジョセファは静かに語った。静かだが、言葉は刃のようであった。
「まあ、楽しく撃ちまくって誰かが守れんなら一石二鳥だ。悪いことじゃねぇだろ」
パッツィはそう言ったが、今の彼女を見れば、彼女が戦いの中にしか自分の価値を見出せなくなると、危惧する者も居るかもしれない。
しかし、ジョセファが戦う意思を持ったことは僥倖と言えるだろう。この黄昏の時代の中では。
今日ではあらゆる場所で戦士が必要とされる。
ハンター達は、新たなる戦士の誕生を祝福するのだった。
ハンター達が屋敷に来たのはその日の夕方のことだった。
まず夫人から挨拶と依頼内容の説明を聞き、その後には食堂で三人の新米覚醒者との面談を行う流れとなった。
前向きだが戦いに不安を抱く聖導師、ピエ・ドゥメール。
英雄を目指すと言う闘狩人、ギョーム・ペリエ。
消極的な猟撃士、ジョセファ・スフォルツァ。
それぞれ自己紹介し、後は自然に候補生ごとに個別に質疑応答が始まった。
「一般に、聖導師の役割は……」
「なるほど、勉強になります」
ロニ・カルディス(ka0551)は自らも聖導師であることもあり、ピエとよく話した。質問され返答すると、ピエは熱心に聞いたのだった。
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)も一緒に話を聞き、アドバイスした。
「味方を後方から支援する場合は……」
「わかりました!」
(素直じゃのう……もう少し、反発してくれたほうが面白いのう)
クラリッサがそう思うほどにピエは素直だった。
「英雄とはどういうものと考えている?」
グライブ・エルケイル(ka1080)が、ギョームに質問した。
「敵と戦う。そして勝つ!」
「実に単純明快でいいね」
キレのいい返答にHolmes(ka3813)(ホームズ)は頷く。
「もっと具体的に頼めるか?」
クライブが聞く。返答はすぐ返った。
「絶対、負けない」
「他には?」
「カッコいい」
「それだけか?」
「そんだけっす!」
「君とはうまくやっていけそうだ!」
ホームズが笑い転げる中、グライブは押し黙った。
パッツィ・フォックス(ka3851)は面倒臭かったが、煙草を加えつつジョセファに話しかけてみた。同じ猟撃士であるということもあったが、親の期待を一方的に押し付けられた過去が自分と重なってもいた。
「武器は何使ってんの?」
「はい、弓矢を」
「……何だ、そんなもん使ってんのか。ほれこっち使え、こっち。爽快感が段違いだ」
無造作に自分の拳銃をホルスターから抜き、銃把を向けて差し出す。
「貸すだけだぞ」
ジョセファは受け取り、拳銃を珍しそうに見つめた。
「でも使い方が……」
「簡単だよ、この後教えてやる」
面倒臭がりのパッツィだったが、銃に関してはうるさかった。
「あんたもすぐトリガーハッピーってやつがわかるようになるよ」
「はあ……」
面倒臭いが、逆らうことすら面倒。それがジョセファの心境だった。
三人が帰ってから、ハンター達は三人の育成計画を話し合った。
「1人に対して2人が指導。後2人が全体のフォローかしらね?」
筋肉質で髭面の男が、嫋やかな女言葉で語った。彼は喜屋武・D・トーマス(ka3424)。
「そうねん? 今夜のやり取りで相性のいい人もわかったみたいだしぃ?」
秀麗な美貌の持ち主が顔を傾けて言う。名をナナート=アドラー(ka1668)と言った。
一見真逆な二人だが、女言葉で話す点と、それと似つかわしくない性別は共通していた。
「でも、ジョセファちゃんは?」
トーマスが髭を撫でながら首を傾げる。ジョセファはパッツィと話していたが、ツーマンセルならもう一人あたる必要がある。
そのパッツィは今、訓練場で銃の扱い方をジョセファに指導している。
「あ、じゃあ俺がやるっすよ!」
挙手したのは神楽(ka2032)だった。
「偉い人に取りいるのは得意っすから!」
「それ、自慢にならないわよん?」
ナナートは艶かしく微笑んだ。
話は纏まり、次の朝が来た。
朝食が終わった子爵夫人に、執事が一般公募していた戦士団の名前が決まったと伝えてきた。
「あら、決まったのですか?」
少女のように快活になって夫人は次の言葉を促す。
「はい。『光貴なる盾』でございます」
「『光貴なる盾』……善いですね。長さも丁度よく、語感も良い。かれらに相応しい名です」
「ハンターの神楽様の応募でございました」
「そう、では本人にも伝えてあげて。
時間が来たら私は皆様を見送りに行きます」
明朝、ハンター達は子爵夫人に見送られ、新人の訓練も兼ねたゴブリン退治へと出発したのだった。
●新兵実戦訓練
平原では冷たい風が吹き抜けていた。北に山、南に農地を眺めながらハンター達は進む。
農地が小さく見えるほど進んだ頃、狩猟の知識を持つトーマスが足跡を見つけた。
一行は慎重に進んだ。
やがて黒い点が目に入り出した。近づくにつれ、形が明らかになりだした。
向こうも気づいたのか、動き出した。間もなく遭遇するだろう。
「みんな、準備はいいかしら?」
「うっす! 腕が鳴ります!」
トーマスが聞くと、ギョームが力強く応えた。
「ピエ、準備はいいか?」
「大丈夫……です」
ロニに答えるピエだが、その表情は硬い。
「こういう時は深呼吸じゃ」
クラリッサが深呼吸をさせると、少し落ち着いた。
ジョセファも緊張していた。それを察してか、神楽が話しかけた。
「お嬢、気楽にやるっすよ?」
「わかりましたわ、気楽に、気楽に……無理、帰っていいかしら」
「ダメっす!」
「何にも考えず撃ちまくりゃいいんだよ」
煙草をふかしてパッツィが言う。
その間にも敵は近づき、ゴブリンとわかるようになった。
歩いているのが8体、横一列にならんでいる。その中央と両横に、小型の恐竜に騎乗したゴブリンナイトが、全部で3体いる。
「どれ、先手必勝といこうか」
クラリッサが詠唱を紡ぐと、青白い煙が発生してゴブリン達を包み込んだ。密集していたゴブリンは、中央のゴブリンナイトも含み、両横の2体だけを残して全員が倒れ伏した。
「よっしゃ今だ!」
ギョームが抜剣し駆け出した。
「待て、先走るな!」
「すぐ追おう」
急ぎ、グライブとホームズが追う。
「私はどうしたら?」
「不用意に動くな、すぐギョームをサポートできるようにしておくんだ」
指示を仰ぐピエにロニは応えた。
「銃兵は迎撃が肝要だが止むを得ねえ、撃てる所まで行くぞ!」
「お嬢、サポートは頼むっすよ!」
パッツィが促し、神楽は前へ出る。ジョセファはおっかなびっくりパッツィに続いた。
寝なかった2体のゴブリンナイトは手近なゴブリンを2体同時に蹴り起こしていた。ギョームが敵に辿り着く時にはすでに4体が目覚めていた。
ギョームは構わず剣を振るう。
狙うはまだ眠っていた、中央のゴブリンナイト。
ゴブリンナイトは胴体に剣を受けるが致命傷にはならず、その衝撃で起きた。
ここでグライブとホームズが追いつき、ギョームの両横に並ぶ。
「うん、まずい状況だね」
「えっ何で?!」
「話は後だ。すぐに退け」
2人の言葉にギョームは怪訝な顔をする。
一方神楽は起きたゴブリンに向かった。脚元にトンファーの一撃を加える。
「今っすお嬢!」
絶好の射撃の機会を与えたつもりだったが――ジョセファは撃って来ない。
「お、お嬢~?!」
「はぁ……グダグダねぇん」
騎馬で全体を見渡していたナナートがため息をついた。
「ギョームちゃんは突出してるし、ジョセファちゃんは何していいかわかってないみたいねぇ……。
ピエちゃんはまだ臨機応変に対応するのは無理だろうし」
「ま、初々しくて良いじゃない?」
言いつつトーマスはデリンジャーを構える。
「そうね……初めてはこんなものよね」
二人は右側のゴブリンナイトに射撃をしかける。
ゴブリンナイトは攻撃を受けつつも寝ている味方を起こすことに専念した。
そして起きたゴブリンは集団でギョームを襲う。
「うおっ、こいつら!」
狼狽えるギョームをグライブが盾を構え守る。しかし騎乗し直したゴブリンナイトの頭上からの槍の一撃は阻めず、ギョームは一撃を負う。
「ぐあっ! うう……」
「退くんだ!」
ホームズとグライブはギョームを戦線から離脱させようとする。
そこに左右からゴブリンナイトが迫った。
だが、進路を阻む者があった。
「はあい♪ アナタ達の相手はわ・た・し☆」
ナナートだ。拳銃を両手に構え、ウインクをしてみせる。
「ナナート、すまん」
「ああ、ここは任せろ」
男の声になっていた。耳を疑うグライブ。
「悪いけれど、ここは通行止めよぉん?」
次の瞬間には、元通りだった。
ピエはギョームの傷を認め、急いでヒールをかける。淡い光が認められると、ちゃんと役目を果たせたと安堵した。
「武器を構えろ、ピエ。俺達も前に出る」
「あっ、はい!」
ロニに言われメイスを構える。安堵するには早い。
その時ピエを守るように緑に輝く風が取り巻いた。クラリッサの魔術だ。
「聖導師の業にも戦闘を補助するものがある。汝も使いこなせるようになるがよいぞ」
「わかりました!」
回復、戦闘、補助……聖導師の仕事は多い。
「皆、前衛が減った今こそ気合を入れるのよ!」
遊撃に当たっていたトーマスが、前線の穴を埋めるべく前に出た。
「行くわよ!」
雄雄しく、かつ凛々しく敵に向かう。
迫り来る敵に対しナイフを振るうと――至近距離で風の刃が発され、敵を斬り刻んだ。
「ああいう戦い方もあるんですね……」
ピエが感想を漏らす。
「やや特殊だがな」
と、ロニ。
「えっ、戦い方の事ですよ?」
「トーマスの人格の事は言ってない」
「ヘルプっす! お嬢!」
一方、神楽はゴブリンから反撃を受けていた。
「ああ、あれが一般人なら大事だな……」
パッツィはジョセファの隣で煽る。
「うっ……わかりましたわ!」
ジョセファは拳銃を敵に向けた。
銃声が響き渡り――ゴブリンが血を吹き出してのけぞった。
「あたった……?」
「助かったっす! お嬢!」
初めて感じる、自分の撃った拳銃の威力。
ジョセファは体の奥から何かが湧き上がるのを感じていた。
「くそっ……こんな……もう一回やらせてくれ!」
後方へ退いたギョームは、冷静さを完全に無くしていた。
そんなギョームに対し、グライブは肩を掴み、詰め寄るのだった。
「よく聞け、ギョーム」
「な……何すか!」
「理想を追うことは決して悪ではない……だが、まずは自身の手の広さを知る事だ。
未熟な腕では、理想を追うことすらままならない」
グライブがこれほど喋るのを、ギョームは始めて目にした。
「俺は……あんな奴ら楽勝で」
言い返そうとして、首を振った。
「いや……俺は……全然ダメだった」
「それを知ることが強くなることに繋がるのさ」
ホームズの、穏かな声。
「頭が冷えたら戻ろうか。授業を始めるよ」
「うっす!」
二人のやり取りの中、グライブは顔の傷と盲いた右目を、そっと撫でた。
過去が、呼びかけていた。
ギョームはホームズとグライブに伴われ、戦線へと復帰。
ホームズは語る。
「君の単純さは好きだが、単純に物事を解決するにはいくつか覚えておかなければならないことがある」
「はい!」
三人は足並みを揃え、敵陣の一角へと突撃した。
「レッスン1、無闇に突撃しない」
一人で突撃した時と違い、三人並んで戦っている今は、囲まれることはない。
「レッスン2、身体を狙え」
繰り出されたホームズの大鋏が、ゴブリンの脛を捕らえた。
ゴブリンは体勢を崩し、ギョームにも戦い易い相手に思えた。
攻撃を続けると、ゴブリンは地面に膝をついた。
ギョームは止めを刺そうとするが、ホームズに引っ張られる。ギョームの目の前を何かがかすめた。
「レッスン3、気を抜くな」
膝をついたゴブリンが、石を投げたのだ。
そして、攻撃が途切れた間に、左右から別のゴブリンが迫っていた。
「ラストレッスン」
グライブとホームズが、敵の攻撃を受け止めた。
「――仲間を頼れ」
挟撃も二人いれば防げる。さらに一人いれば――
理解したギョームは、すぐさま攻撃に移り、敵の1体を仕留めた。
前衛が復帰し、ハンター達は優勢となった。
「いい感じっす、お嬢!」
「当然よ!」
「お嬢凄いっす!」
「何も考えずに撃ちまくるのって爽快ですわぁ!」
「素敵っす! お嬢! 結婚して!」
「調子に乗るのではなくてよ」
歓喜の表情で銃を撃ち続けるジョセファに、ピエとロニが戦慄。
「なんかジョセファさん人が変わってるんですけど……」
「神楽の話術の効果なのか……?」
やがて残りは2体となった。うち1体はゴブリンナイトだ。
「最後はあなた達だけで戦うのよ」
「はい!」
トーマスが促し、三人を残し全員が下がった。
「ここで迎え撃ちます!」
ピエが支持を下す。
「了解、蜂の巣にして差し上げますわ!」
ジョセファが敵に銃撃を始める。ピエはホーリーセイバーをギョームの剣にかけ、ギョームは前に立って待ち構える。
ジョセファの銃撃で1体が倒れた。ゴブリンナイトが来る。繰り出される槍を、ギョームは落ち着いて避け、反撃の一刀を浴びせた。
ジョセファが騎乗生物の目を撃ち抜いた。暴れて、ゴブリンを振り落とす。
「うおりゃあああああああっ!」
気合とともに振り下ろされたギョームの剣が、ゴブリンの頸動脈を斬り裂いた。
ゴブリンは血を撒き散らして仰向けに倒れ、そのまま絶命した。
戦いは終わってしばらくは、三人とも動かないでいた。
三人とも、誰かと本格的に争って命を奪うのは始めてだったのだ。
やがてピエが目を閉じて両手を合わせた。ギョームは大きく息を吐き、汗を拭う。
「この気持ちにもやがて慣れていくのかしら……」
ジョセファは、独り呟いた。
●戦士誕生
任務は完了だ。
屋敷に戻り、三人はそれぞれハンター達に礼を述べた。
「皆さんからの教え、とても役に立ちました。光の導きのままに、これからも頑張ります!」
ピエが眩しいばかりの強い眼差しで言った。
「素直で可愛いわあ。抱きしめたくなっちゃいそう」
トーマスが上腕二等筋を控えめに誇示する。
「いえ、それは……」
「なんてね、ホントにはしないわよ」
「え、ええと……」(どういう人なんだろ……)
返答に困るピエだった。
「俺は今日華々しい勝利を収めると思ってた。それは叶わなかったけど……自分の弱さを知れたのは勝利以上に大きな収穫だった。ありがとう」
ギョームが照れながら言うと、ホームズが口を開いた。
「君はまだ若い。未熟さは恥ではないよ」
「いや、あんたの方が若いだろ」
「こう見えてもボクは86歳だ。未だに大人びてない自覚はあるがね」
どう見ても10台前半のホームズが言った。
「は?! ……都会の人ってそんなんなの?!」
田舎者だった。
「私……戦うことが唯一の存在意義になるかもしれません」
ジョセファは静かに語った。静かだが、言葉は刃のようであった。
「まあ、楽しく撃ちまくって誰かが守れんなら一石二鳥だ。悪いことじゃねぇだろ」
パッツィはそう言ったが、今の彼女を見れば、彼女が戦いの中にしか自分の価値を見出せなくなると、危惧する者も居るかもしれない。
しかし、ジョセファが戦う意思を持ったことは僥倖と言えるだろう。この黄昏の時代の中では。
今日ではあらゆる場所で戦士が必要とされる。
ハンター達は、新たなる戦士の誕生を祝福するのだった。
依頼結果
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新人覚醒者戦闘訓練相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/01/10 19:44:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/06 22:33:06 |