• 陶曲

【陶曲】RIGHT STUFF #3

マスター:のどか

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/02/23 19:00
完成日
2019/03/19 01:18

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「わたしとCAM」


 フマーレの同盟軍倉庫で、ジーナ・サルトリオ(kz0103)は機体の装備換装が行われる様子を目を輝かせて見守っていた。
 CAMナイフはより取り回しやすいマテリアルソードへ。
 アサルトライフルはマテリアルライフルへ。
 狙いが甘いならもう狙うなと、数発ばかりではあるがマテリアルビーム機構搭載型だ。
 そして先日アドバイスを受けたとジーナから要望があったプラズマグレネードは、シールドに搭載する形で叶えられた。
 全身余すところなくマテリアル兵装に身を包んだNEWデュミナスは、見た目こそ大きな違いはなくともジーナのために用意された機体と言える。
「念願叶ったな」
「うん! この時をどれだけ待ちに待ったか……」
 ヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)の言葉に、ジーナは大きく頷く。
 ヴィオの機体も追加装甲の装着が完了し、「無頼」として本来のスペックを取り戻している。
 すべては今回の作戦のために。
「装備で一喜一憂するなんて……やっぱり私はパイロットの感覚には馴染めないわね」
 ディアナ・C・フェリックス(kz0105)は、はしゃぐジーナの姿に呆れたように言う。
「そう言うな。古いライフルと、より遠くまで届く新しいライフルがあった場合、お前だって後者を選ぶだろう?」
「並の兵士なら新型の射程を最大限に活かせやしないから、競う分には使い慣れた古いライフルで十分よ」
「ああ……例えが悪かったな。すまない」
 さらりと答えたディアナに、ヴィオはバツが悪そうに眉間を掻いた。
「どうでもいいけどお二人さん、そろそろブリーフィングよ。なにも子猫ちゃんのお使いのためにフマーレまで来たわけじゃないのだから」
「こね――その呼び方やめてくださいよー!」
「ちゃんと成長したら雌猫って呼んであげるわ」
「わーい! ……ってあれ、なんか違くない?」
 はぐらかされて、だけどもよく分からなくなったジーナは、首をかしげながらブリーフィングルームへと向かった。


「――ってなわけで、ウチの優秀な諜報班が見つけてくれました」
 前回から引き続きハンター達も呼ばれたブリーフィング。
 無駄な前置きはせず、ダニエル・コレッティ(kz0102)は数枚の写真を机の上に広げた。
 そこに映っていたのは先の「サーチアイ」に似た、だがそれよりもはるかに巨大な機械の花の姿だった。
「こいつが発見されたのがフマーレのゴミ集積所。数年前のフマーレ大火の不燃ごみが山積みになっている場所だ」
 識別呼称は「デリオン」。
 各地で散見された金属製品の歪虚化事件。
 その発生個所の統計から導き出されたのが、フマーレのゴミ集積所だった。
 そこで先行した歩兵部隊がゴミ山の中から発見したのがこのデリオンだ。
「めでたく見つかったということで、やることは簡単。これを倒しに行くぞ。以上」
「ち、ちょーっとまって!?」
 ジーナは思わず声を荒げた。
「以上って、作戦は!?」
 ダニエルは小指で耳をほじりながら答える。
「手の内の分からん奴に作戦も何もないでしょう。あと俺、どちらかと言えば現場を尊重する主義なの」
「そうは言っても、何かさぁ!」
「子猫ちゃん」
 すがるジーナを、ディアナが窘める。
「中佐は現場に『任せる』って言ってるの。期待されてるのよ」
「おー、ディアナ良いこと言うね。そういうこと、そういうこと」
 ディアナの言葉に、ダニエルは拍子を打つ。
「それにさ、たぶんこういう時は俺の作戦なんかいらないよ。今のお前たちならさ。ささ、すぐ出発だぞ」
 なんかいい感じに〆られて、部屋を追い出されるように出撃準備をせかされた。


 仕方なく滑り込んだデュミナスのコックピットで、ジーナはなんか釈然としない気持ちで眉をひそめた。
 だけど疑問を持っても仕方がない。
 今はそれより事件事件――と、機体に灯を入れようとしたところで別の事件は起こった。
「……あれ?」
 何の気もなしに手を伸ばしたベストのポケットに、CAMの機動キーがない。
 弾かれたように、足元を見る。
 ない。
 シートのお尻のあたりをまさぐる。
 ない。
 あっ、ズボンのポケットに入れたんだっけ。
 ない。
 あれれー、おかしいなー、上着のポケットだったかなー。
「……ないよ!?」
『どーした、ジーナ』
 いつまでも機動しないジーナ機を不審に思ったのだろう、ダニエルの声がレシーバーから響く。
「えっ、いや、その……」
『なんだ?』
「……機動キーがありません」
 ジーナはどう取り繕おうか迷った末に、正直に答えた。
『ないってお前さ……えっ、ホントにないの?』
 想定外の事態に、ダニエルの声も思わず上ずる。
『どうかしましたか?』
『あー、いや、とりあえずそっちはトレーラーに機体を積んでおくように』
『了解です』
 心配して声をかけて来たヴィオに、ダニエルは話半分に返す。
 それからうーんと唸るようにして、ジーナ機を見上げた。
「ジーナ、とりあえず1回降りてきなさい。それと誰でも良いんだけど、探すの手伝ってやってくんない……?」
 困惑するハンター達に、ダニエルは祈るように手を合わせる。
「もう承認下りちゃったからさ、大人の事情で出撃を取りやめることはもうできないのよ。それにCAMは同盟軍の最重要機密のひとつだからさ……カギなくして出撃できないなんて、シャレにならんわけよ。クビ飛ぶよこれ、間違いなく」
「えー!?」
 降りて来たジーナの素っ頓狂な声が響く。
「クビって、特機隊クビですか!? そんな!?」
「いや、それで済んだらいいよ。俺が言ってるのは軍のこと」
「う、うそぉ……」
 ジーナはよろよろと腰が抜けたようにへたり込む。
「そ、そんなことになったら、私もう誰も助けられない……それに、エルモがいなきゃ……」
 絶望に打ちひしがれる彼女に、ダニエルはため息をつきながら、ポンと肩を叩いた。
「とりあえず機体の調整が遅れてることにしとくから、何とかしなさい。俺にできるのはそれで精いっぱい」
「……はい」
 すっかり意気消沈したジーナは、力なく頷く。
 前途多難だが……作戦は開始された。


【解説】
▼目的
・エルモの起動キーの捜索
・歪虚「デリオン」の撃破

捜索と撃破は同時に進行します。
よってジーナの首を繋ぐためには、撃破が完了する彼女を現場に合流させる必要があります。
とは言え撃破が長引けば新たな廃棄物が発生し、クリア難易度は上がっていきます。


▼戦場
中央の大山と、いくつかの小山でできたフマーレのゴミ集積地。
フマーレ大火のゴミが片付けられた場所の1つであり、「デリオン」は大山の中で発見された。
ゴミ山のせいで地上の視界はやや悪い。

リプレイ本文


 廃棄物集積場から少し離れた街道に数台の魔導トラックが止まる。
 後部のキャリアーに積まれた機体が順次起動すると、次々と横たえた巨体を起こしていった。
「……ジーナはどうした?」
「そっちが知らねぇのに俺が知ってるわけねぇだろ」
 通信機ごしにこぼれるヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)の落ち着いた、だがどこか諫めるような声。
 アニス・テスタロッサ(ka0141)がコックピットでタバコをふかしながら答えると、トラックを運転するダニエル・コレッティ(kz0102)はいかんともしがたい様子で頭を掻いた。
「ちょっと別件でね。まー、なんとかなるでしょう」
「何とかってなによ」
「何とかは、何とか」
 ディアナ・C・フェリックス(kz0105)の棘のある言葉も彼はのらりくらりと躱すと、ハンター達の方へ視線を向けて拝むように手を合わせた。
「アーッハッハッハ! ったく、あたしを笑い殺す気かよ!」
 同じくコックピットでゲラゲラと笑い転げるリコ・ブジャルド(ka6450)は、ヒィヒィ呼吸をしながら目元に滲んだ涙をぬぐった。
「ほんと、なにやってんのよあの子は……まあ、こうなったら仕方ないわ。ちゃんと出迎えられるよう、舞台は整えといてあげないとね」
 CAMが多い中で、相棒のグリフォンにまたがるのは沢城 葵(ka3114)だ。
 CAMよりも高い位置を旋回しながら、その視線はこの先にある廃棄場へと向く。
 うずたかく積まれたゴミの山。
 薄暗い中ではあるが、それらを構成するのは沢山の木材やレンガ、鉄骨なんかの鋼材。
 それも形をととのえられた資材ではない。
 もとは建物を構成していたのだろう梁のようなもの。
 煉瓦が積み重なった、壁か何かだったもの。
 鉄でできた看板のようなもの。
 そのすべてが残がい――かつてのフマーレ大火の燃え残りや、消化のために壊された建物たちだ。
「あまり……気持ちのいい場所ではない、ですね」
 この辺りに漂う鬱屈とした空気に浅黄 小夜(ka3062)は思わず肩を抱く。
 負のマテリアルの密度が市街地に比べれば濃いせいなのだろうか。
 それとも、残骸に巣食う無念や怨念のようなものなのだろうか。
 少なくとも足元から這いよるような悪寒が気のせいでないことだけは、覚醒者として、はっきりと理解していた。
 
 特機隊の2機に4人のハンターを加えた6人は、隊を大きく2つに分けて集積場へと近づいていく。
「動きが少し鈍るけど……我慢してください、ね?」
 杖に施したマジックフライトで宙を舞う小夜のエクスシア「CoM」。
 同機から放たれたマテリアルがリコの機体を包み、追って吸い寄せられるようにして周囲の土砂がまとわりつく。
「あー……確かに操作がちょっと重いか。ま、そこまで気になるものでもないぜ」
 リコはフットペダルや操縦桿にいつもと違うわずかな重みを感じながらも、じきに慣れるだろうとたかをくくる。
「できることは何だってしておかないとね。小夜ちゃん、あなたの機体もよ」
 同じくストーンアーマーを掛けて回る葵が、最後に小夜のエクスシアへと手を回す。
 浅葱色の機体が土砂に塗れたころ、廃棄物の山の向こうにうごめく影が見えた。
「前方に敵影――人型廃棄物ね」
 葵がグリフォンの高度を低くして、先の様子を報告する。
 鋼鉄のワイヤーが絡まったような姿の人型廃棄物は、先に造船所でみたそれよりもひと回り大きい姿。
 頭の代わりに咲いた鉄の花はどこか灯台に巣食った「サーチアイ」のそれに似ていて、マテリアルレーザーの発射口らしきものは見当たらないものの、おそらくはあれと同列の存在なのだろうと想起させた。
「デリオンが“親”でサーチアイが“子”なら、この間の人型廃棄物は“孫”か……? ここいらのが人型が全部“子”なんだとしたら、多少は厄介だな」
 アニスの分析はおそらく的を射ている。
 それに加えて“親”であるデリオン――集積物の山が視界を遮って、今ここからその姿をうかがうことはできない。
 リコのエクスシア「トラバントII」がイニシャライズフィールドを拡大展開した。
 そのマテリアルを感知したのか、廃棄物の意識がこちらに惹きつけられるのを感じる。
「先陣は切らせてもらうわよ」
 頭上から、葵の放ったマテリアルが雷撃となって廃棄物を貫く。
 確かな手ごたえ。
 だが、その鋼鉄の身体は痛みなど感じていないのだろう。
 廃棄物はひるむことなく、ハンター達の方へ向けてのしりのしりと歩み始めていた。
 対抗するようにヴィオのデュミナス「無頼」が増設されたスラスターを吹かして突貫する。
 中距離からショットガンを放つと、高速接近の状態でも着実に散弾を敵へと集中させていく。
 廃棄物もまた、花弁の中心から弾丸のようなものを高速で射出し応戦する。
 左右の動きには弱い無頼は真正面からそれを受け止めることとなるが、石の鎧と鎧のような装甲で衝撃の大半は防いでいるよう。
「この弾丸……これが“種”か」
 ヴィオはサブカメラで、肩部に突き刺さった、潰れたラクビーボールのような鉄の塊を見る。
「侵食する様子はなし……読みが当たった、ということでええんよね」
 刺さったまま、何のアクションも起こさない“種”に小夜はほっと胸をなでおろす。
 彼女と葵がCAMにかけて回ったストーンアーマーは防御力を高めることだけが目的ではない。
 これまでの戦いで目にした“種”らしき物質。
 金属に対して侵食すると思われる性質を持つそれは、非金属であれば接触しても芽を出さないこともまた状況として確認できていた。
 砂地、床板、石畳。
 であれば、機体を金属以外の物質で覆ったら――結果は確かなもののようだ。
「気にしなきゃいけないことが減るっていうのは良いことだ。そしたら、目の前のコトからきっちり片付けられるぜ!」
 トラバントが無頼に続きながら、ガトリングの銃弾を撃ち込む。
 反撃が来る前に近場の山を遮蔽物にするように滑り込むと、反対側から顔を出して再びトリガーを引く。
「葵、敵影は?」
「近場にはそいつだけよ。北から数体向かっているけれど、合流にはもう少し時間が掛かるわ」
 戦場の目を担う葵の情報は、見通しの悪い戦場においてはとても貴重なものだ。
(だけど親玉はどこかしら……偵察の報告じゃ、相当大きなハズだけれど)
 集積場一帯を見渡しても、それらしい巨体は見受けられない。
 どこかの山に身を潜めているのか……警戒は強めるに越したことはないだろう。
 不意に、トラバントの傍のゴミ山の一部が弾け飛ぶ。
 そこワイヤーのような物質が飛び出し、機体の腕をからめとった。
「おおっと!?」
 リコはやや驚いた様子ながら、冷静に機体を反転させ、ワイヤーの絡んだ腕を力強く引く。
 ガラガラとゴミ山が崩れ、中から人型廃棄物が引きずり出された。
「これだけ“身体”になりそうなモンがいっぱいありゃ、そういうこともあるよな」
 廃棄物はトラバントを絡めとった腕とは別の鞭腕を振う。
 リコは攻撃を盾で受け止めると、そのままもう一度、絡めとられた腕をぐいと引いた。
 そうして引き寄せられた廃棄物の身体に錬機剣の柄を押しつける。
 飛び出したマテリアルの刃がワイヤーの身体を貫通すると、そのまま焼き切るように刃を引き抜く。
 同時に砲撃音にも似た轟音。
 敵の頭部の花が砕け散ったのは、それと時を同じくしてのことだった。
「ひゅぅ、ナイスショット」
 口笛交じりに称賛するリコ。
 後方から、立った状態で構えたディアナ機のライフルから硝煙がなびく。
「すっかり腕の錆は落ちたみてぇだな」
「もともと錆びついてなんかいないわよ」
 それはアニスの誉め言葉だったわけだが、ディアナはツンとした返し言葉。
 だがそれでむしろ良い、とアニスもダインスレイブ「アガレス・グランス」のガトリングを構える。
「今日は狙撃屋の仕事は任せる。錆びついてねぇってんなら、結果で見せてみな」
 返事の代わりは一発の銃声。
 ヴィオに対峙していた先の廃棄物が、残響の中で霧散する。
「すっかり完全復活ね。あとはジーナなんだけれど……あの子、まだなのかしら」
 いまだその姿の見えない友軍に、葵の気持ちはどこか逸る。
 それで魔法の射線がずれるなんていうことはないが、心配なものは心配だ。
 小夜が効果が切れた前衛の無頼に再びストーンアーマーを掛けなおす。
 有効であることが分かった以上、とりわけ攻撃にさらされるポジションにある機体にその効果を切らすことはできない。
 その分攻撃の手は減ってしまうが、今のところはそれで困るような状況でもない。
「やっぱり……なんだか嫌やわ……ここ」
 小夜は眉をひそめながらつぶやいた。
 ぞわりぞわりと、足元から這いよる悪寒が増しているような気がする。
 まるで本能が告げる警鐘。
 だが、今度のそれは気配ばかりではなく、確かな形ある悪意となってその身に振りかかった。
 突然、小さなゴミ山の頂が勢いよく吹き飛んだ。
 同時に先の尖った巨大な柱が山の中から突き出し、CoMを足元から襲う。
 小夜が咄嗟にペダルを踏むと、急旋回した機体の足先を柱が掠めていく。
 そのまま天に向かって伸びた柱はある程度の距離でぴたりと動きを止めると、ずるずると、ゴミ山の中へと引っ込んでいく。
「今の……」
 小夜は機体のカメラのすべてを周辺の山へと巡らせる。
 いや、そんな必要もなく、一帯の中ほどにあったひときわ大きなゴミ山がガラガラと音を立てて崩れていく姿がその目に映る。
 中から突き出て来たのはビルのように大きな金属の塔――いや、それが植物の“つぼみ”であることに気づいたころには、それは大輪の花となって戦場に大きく、大きく、花弁を広げた。
「現れやがったな……“親”がよ」
 その大きさに、アニスは思わず息を呑む。
 巨大な花――デリオンの周囲の小山が吹き飛び、先ほど小夜のCoMを襲った柱が再び現れた。
 いいや、それも柱ではない――太いワイヤーが束になったような、デリオンの蔓。
 次々と小山を吹き飛ばして現れる沢山の蔓が、ゆらゆらと揺らめきながら空へと伸びる。
「あれだけ大きけりゃ、どこ狙ったって当たりそうだな?」
 健在のゴミ山の陰に入りながら、デリオンの様子をうかがうリコ。
 本体の前兆は30mを越えるだろうか。
 ゴミ山の主に似つかわしく、鉄板を継ぎ接ぎしたような花弁はどこか換気扇の羽のようにも見える。
 そんな花弁の中心から、空へ向かっていくつかの塊が射出された。
 空高く舞い上がった塊――種は、やがて放物線を描いてゴミ山へと突き刺さると、ずるずるとワイヤー状の根を伸ばして新たな人型廃棄物へと姿を変えていく。
「時間を掛けるだけどんどんこっちに不利ってわけね……」
 葵は苦い顔をしながらも、デリオンの周囲を囲む蔓の位置を仲間たちへと伝える。
 その間にもゴミ山からは、新たな廃棄物がガラリズルリと姿を現した。
「お姉はん……急いで」
 地上に見下ろす地獄のような光景を前に、小夜の脳裏には姿を見せぬ少女の面影が浮かぶ。
 

 時は遡り、仲間たちがフマーレの駐留所を出立したころ。
 大きなため息をついたキヅカ・リク(ka0038)と天王寺茜(ka4080)の目の前で、ジーナ・サルトリオ(kz0103)は顔面を蒼白にしながらわたわたと制服のポケットというポケットの中身をひっくり返していた。
「ここも、ここもない……ない、ない、ない!?」
 地面にへたり込んだまま、何度も何度も同じポケットを探すその姿は見るに忍びない。
「ジーナさ、『ジーナ』立って! 同じところを何度探したって出てくるわけがないわ!」
「で、でもぉ……」
 茜の言葉に、ジーナは泣きそうな顔で彼女を見上げた。
「しょげてる場合じゃないわ! 身に着けてないならどこかに置き忘れたってことでしょ? だったら立って、歩かないと!」
「う、ううん……それは、確かに」
「そうだね。落ち着いて、まずは最後に鍵を見た時の記憶から、今までの行動をおさらいしよう」
 発破をかける茜とは対照的に、優しくあやすように声をかけるリク。
 それが良い感じにアメとムチになったのか、ジーナは少しづつだが、やらなければならないことを理解してきたよう。
「それから茜、もう一度だけ隅々までジーナのボディチェックを手伝ってあげて貰えなかな? 自分だと気づかないところに――なんてこともあるだろうから」
「ええ、それはもちろん」
 頷いた茜の傍らで、ジーナも首をブンブン上下に振る。
「お願い! ほら、見て! 探して!」
「うわあああああああ!?」
 ジーナがボタンを引きちぎる勢いで上着の前の合わせを開くと、リクが手を振り乱しながら大声を上げる。
「急ぎたいのは分かるけど、更衣室! 更衣室でやってきて!」
「うえっ、あ、ああ、ごめん……」
 慌てて合わせを元にもどして縮こまるジーナ。
 幸いなのは彼女の身体がそれほど魅力的なポテンシャルを秘めていなかったことか……いや、それは関係ないか。
 むしろ洗濯板の将来性のなさには涙せざるをえない……いや、それも関係ないか。
「焦るんじゃない。僕は鍵を探したいだけなんだ」
 自らを戒めるようにリクは小さく深呼吸。
 ボディチェックが終わるのを待つ。
 
 戻ってきた2人の結果は白。
 その間にリクはコックピットの中を探してみたが、こちらもそれらしいものは見当たらなかった。
 であれば順繰り、これまでの行動を洗うほかない。
「それ、ロボットクリーナー?」
 尋ねた茜に、リクは小さく頷く。
「落としたんであれば、これで吸えないかなって」
 行く先々でリクが放つ板状の機械は、段差の少ないご家庭の床を自動で綺麗にしてくれるAIクリーナーだ。
 これで床の捜索に関してはその大半を担ってくれることだろう。
「えっとご飯の後は格納庫に戻って……」
「えっ、なんでまた?」
 キョトンとする茜に、ジーナは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「次の日が決戦だって思ったらいてもたってもいられなくって、エルモの装甲を磨いてたんだ」
「ああ、道理でジーナの機体だけピカピカだと思ったよ」
 宿舎から食堂を経て再び格納庫へと戻ってきた3人は、トレーラーに横たわるピカピカのデュミナスを見上げる。
 曇りひとつない装甲は、ここまでの移動で多少は足回りが汚れたリクのデュミナスと比べれば一目瞭然だ。
 ちなみに広い倉庫は頼みのロボットクリーナーでは流石に時間が掛かって仕方がないため、茜のオートソルジャーが代わりに手となり足となり巡回して回っている。
「本当にCAMが好きなのね」
「うん! だってエルモが居なきゃ私、何にもできないから……」
 そう言って、ジーナは寂しそうに笑ってみせた。
「そんなことないわよ。ヴィオ大尉から生身の戦闘訓練も受けてるんでしょう?」
「それはそうだけど……私のそれは“非常事態”だからさ」
 緊急時――彼女の言うそれは『非覚醒者も歪虚相手に戦わなければならなくなったとき』を指す。
 もともと警察組織としての側面も持つ同盟軍には、非覚醒者であっても人間相手に仕事はいくらでもある。
 覚醒者は歪虚を、非覚醒者は人や害獣を。
 適材適所――そうやって成り立っている組織だ。
 だがその役割が交差するとき……非常事態には適さぬ相手であろうと立ち向かわなければならない。
 それが組織。それが軍。
「この間、誰かを助けるために軍に入ったって言ってたよね」
 リクがふと思い出して口にした。
「ジーナの『助ける』は戦うことなのかな?」
「……うん」
 やや間があったが、ジーナははっきりと頷いた。
「こう言うとなんかヤバイ人みたいに聞こえちゃうかもだけど、リゼリオ沖の戦いで感じた胸の高鳴りは今でも思い出すんだ。それが私の原点だから……私のやりたいことは戦うこと、なんだと思う……たぶん」
「そこまで想ってるのに、唯一の手段を動かす鍵を失くしちゃうんだものね」
「うう、いじめないでよぉ」
 苦笑した茜に、ジーナは塩を振ったナメクジみたいに小さくなってしまった。
「あっ、そう言えば……」
 ふとジーナは何かを思い出して立ち上がる。
 首をかしげる2人を前に、彼女は記憶をこねくり回すようにぐりぐりとこめかみを指でなぞった。
「掃除した後、洗浄液でエンジン汚してないか空ぶかししたかも……」
「……それは機体を起動したってこと?」
「……うん」
 神妙な顔つきのリクに、彼女も同じくらい神妙に返す。
「その時は鍵があったのよね? そ、その後は?」
 一気に答えに近づいてきたような気がして、茜が声を上ずらせながら迫る。
 ジーナはその勢いにどぎまぎしながらもうんうん頭を悩ませると、ポンと手を叩いた。
「おふろ。汗かいたからおふろ行った!」
「お、おふろ……?」
 なんとも容量を得ない解答に、思わず首をかしげる茜。
 だけど今度はリクがポンと手を叩く。
「おふろ……そうか、着替えか!」
「着替え……あっ!」
 その言葉に、茜もリクの言わんとしていることを理解する。
 同時に、3人は一斉に格納庫を飛び出した。
 向かうのはランドリールーム。
 そこでは今まさに、当番の軍人が洗濯板片手に衣類の山と格闘しているところだった。
「ご、ごめんなさい! それ、漁らせてください!」
 いうや否や、洗濯物の山に飛び込む茜。
 2人も後に続いて山をかき分けるように目的の物を探すと――あった。
 ジーナの名前が刻まれた、軍支給の作業用ツナギ。
「あ……あったぁぁぁぁぁああああ!!!」
 そのポケットから手のひらサイズの電子キーを掴みだして、ジーナが声高らかに叫んだ。
 彼女はまるで神への供物のように両手で大事に握りしめて、天高く掲げる。
「良かった――って安心してる場合じゃないわ! 急いで合流しましょう!」
「そ、そうだ!」
 茜にせかされて、3人はドタバタとランドリールームを後にする。
 すでに作戦は始まっている。
 この時間なら戦闘も――
 茜のオートソルジャーがトレーラーに乗ったのを確認して、3人を乗せたトラックはフルスロットルで発進した。


 天高く幾重にも突き出た三角錐の柱――デリオンの蔓がしなる。
 まるでそれぞれが別の生き物であるかのように動くそれらは、上から、横から、時に真正面から、ハンターたちの体力をじわじわと削っていた。
 特にストーンアーマーを着込んだ機動兵器たちは、紙一重のタイミングでの回避操作の僅かな違いに悩まされることとなる。
 ハンターも含め、機体の操縦に関しては場慣れした者が多い。
 直撃にこそ値しないものの、装甲の端を掠め取られたり、腕や脚が退き遅れたり、そんな些細なダメージは着実に蓄積されている。
 それに加えて増え続ける人型廃棄物だ。
 広大な土地に広がるゴミの山をあっという間に片付けてしまう手段がこの場にない以上、敵の増殖は無尽蔵と言っても過言ではない。
 芽は若いうちに積む――リコのトラバントは“芽吹いた種”が形になる前に、率先して駆逐をして回っている。
 種そのものには防衛本能のようなものは無いらしく、駆除自体はそれほど難しいものではない。
 それでも運悪く数体同時に芽吹いてしまうと、とても一人でカバーしきることはできない。
 ゴミ山に咲いた芽を、ゴミごとガトリングで吹き飛ばす。
 すると集まった別の廃棄物たちが、トラバントめがけて一斉に種子弾を放った。
 リコはレバーを引いて機体を翻すと、飛んできたそれらを盾を使って真正面から受け止める。
 着弾の衝撃がコックピットを揺らした。
「種である以上は、避けりゃそこから敵が増えるわけだもんな……やりづらい相手だぜ、全く!」
 ブースターを吹かすと、シールドを構えたまま一気に距離を詰めて廃棄物の一体を押し倒す。
 そのまま一気に群れの中から離脱して、ゴミ山の谷間を右へ左へすり抜けるように、次の落下点を目指していった。
「葵さんは廃棄物を……ストーンアーマーは私がなんとか、回し切ります」
「ごめんなさい、そうさせて貰うわ……!」
 小夜の後押しを受けて、葵はグリフォンを前線めがけて駆る。
 ストーンアーマーは機導兵器の侵食を防ぐ戦況推移の要だ。
 とはいえ、小夜とリコの機体が放つイニシャライズフィールドもある。
 ヴィオの無頼など、そもそも避けることを考えていない機体など、ある程度優先順位を決めることで不確定要素はあるが回すことはできるはず。
 それに戦場に敵が増えて来た今、範囲をまとめて相手にできる葵にはできるだけ敵の対処を願いたいというところがある。
「2時方向、廃棄物の進行を足止めできるか!?」
「OK、任せて!」
 アニスの要請にグリフォンが急旋回を見せる。
 風の抵抗とGをその身いっぱいに受けながら、葵はスタッフを振う。
 放たれた重力球が廃棄物たちの姿を包み込むと、その足が止まるのと同時にアニスのアガレス・グランスがずっしりと足場を固める。
 背負った大型バレルが音を立てながら展開すると、モニターに現れた照準針で狙いをつける。
「狙わなくたって当たるんだろうが……それじゃあ最適解には至らねぇ」
 針をしっかりと巨大花デリオンの中心に据えると、アガレスは砲撃姿勢を取る。
 危機感を察したのか、デリオンの蔓がアガレスの頭上から振り下ろされる。
 しかしディアナの銃弾がそれを撃ち払うと――機は熟した。
「――狙い撃つぜッ!」
 轟音と共に放たれた榴弾が放物線を描いて敵影に迫る。
 寸分たがわず、敵の中心に着弾した弾頭が炸裂。
 グランドスラム――視界いっぱいを包み込むほどの激しい爆炎が吹き荒れた。
 衝撃波がゴミ山の谷を駆け抜け、竜巻のような噴煙を散らす。
 爆炎が晴れた後に、赤熱しどろどろと溶鉄のように表皮を焼け焦がしたデリオン。
 そして霧散していくデリオン周囲の廃棄物の姿があった。
「ひゅぅ、気前のいい花火は嫌いじゃないぜ!」
「取りつくなら今の内だ! デカブツはまだ死んじゃいねぇぞ!」
 ケタケタと笑みをこぼすリコに、アニスはいまだどっしりと根を生やした様子のデリオンを見る。
 あれを耐えきるのは見た目通りのタフネスか。
「安心しな。残りも全部くれてやる」
 ゴトリと音を立てて砲身に次の榴弾が装填される。
 突貫した前衛のハンター達を迎え撃つ蔓の森。
 ディアナ機のミサイルランチャーが応対すると、彼らは爆音の下を一気に駆け抜ける。
「とにかく真っすぐ……最短距離で」
 先頭を駆る小夜のCoMがブラストハイロウで後続機の姿を遮り、デリオンから放たれた種子弾の乱れ撃ちを防ぐ。
 しかし矢面に立ったCoMだけは鋼鉄の種子に晒される。
「うっ、くぅ……」
 マテリアルのバリアを突っ切って届いた激しい衝撃。
 コックピット内も大きく揺れ、小夜の小さな体がシートの上で跳ねる。
 同時にコンソールが赤いアラート表示を示した。
「腕部に異常熱量……もしかして侵食――」
 肩に突き刺さった種子弾は、徹甲弾のようにストーンアーマーを貫いて中の装甲部まで達していた。
 そこから伸びたワイヤーのような根が、機体の内部へ侵食しようと接続を試みているのだ。
 イニシャライズフィールドの光が機体の表面を膜のように覆い、根の進行を食い止める。
 その隙に反対の腕で種を払いのけると、それ以上の侵食は事なきを得た。
「あまり無理はするな……!」
「大丈夫……です。このくらいなら、まだ」
 ヴィオからの通信にしっかりとした声で応える小夜。
 自身が怪我をしたわけでもないのに、こんなところで音をあげるわけにはいかない。
 十分まで先頭でひきつけて――各機ブースト1歩の距離まで来たところで、ハイロウをかき消す。
「よく耐えた――この先は任せろ」
 無頼がブーストひとつで一気に加速する。
 アニス機の榴弾とディアナ機のミサイルが、後方から先手を打ってデリオンの巨体に花を咲かせる。
 種子弾の射角の内に入ったのだろう。
 敵は再び空へと種を放ち、ゴミ山から眷属を補充しようとする。
「させますかっての……!」
 種子弾が射出された直後、葵のスタッフが翻る。
 デリオンのすぐ頭上に生み出されたファイアボールが種らを丸ごと飲み込んで、成れの果ての溶鉄がぼとぼとと空からこぼれ落ちた。
 すべての憂いが立たれて、無頼がスラスターの出力まかせに飛び上がる。
 落下の速度に機体の重さを乗せた上段唐竹割り。
 花弁の中心を狙った一撃は、深々と敵の巨体へと突き刺さっていた。
「……何っ!?」
 しかし、通信から漏れたのはヴィオの戸惑いの声。
 ハンラーらが見ると、花弁から伸びた無数のワイヤーのような触腕が、無頼に絡みついている。
「なんだありゃ! 食虫植物かよ!?」
 驚きながらも、すぐさまガトリングで救出を試みるリコ。
 だが、集弾の悪い武器では無頼に当たってしまう可能性もある。
 代わりに錬機剣を抜き放って、デリオンへと距離を詰める。
「これなら!」
 葵の雷撃が無頼の周囲にうごめく触腕だけ器用に打ち抜いた。
 脚部を覆ったワイヤーのいくつかがちぎれ飛び、無頼の刀が残りの部分をざっくばらんに切り刻む。
 しかし今度はその腕をワイヤーが執拗に絡めとる。
 キリがない――ヴィオがコックピットで奥歯を噛みしめた時、一筋のマテリアルの輝きがデリオンの花弁を貫く。


「みんなお待たせ……ッ!」
 戦場の端からマテリアルライフルを構えたデュミナス。
 通信機から響いたジーナの声に、面々は思わずふっと笑みをこぼす。
「遅ぇ! さっさと前行って遅れた分仕事してこい。」
「は、はいぃ!」
 アニスの叱咤を受けて、デュミナスが戦場の中央へと突貫する。
「状況は?」
「見てのとおりよ。親玉登場でフェリーニが捕らわれってとこ」
「なら、まだまだやれることはありそうだね」
 ジーナ機の後に続いたリクのインスレーターが、斬艦刀で蔓の森を打ち払う。
 迫ってくる人型廃棄物へは茜のオートソルジャー「青藍」が立ちはだかると、振りぬかれた鉄骨の一撃を小脇に抱えるように受け止める。
「ジーナ、周りの歪虚は引き受けるわ!」
「茜、助かるよ!」
 容赦なく襲い掛かる蔓の森を、ジーナのデュミナスはひょいひょいとアスレチックを潜るようにすり抜ける。
 その軌道から掠めそうなものだけをリクと茜が選び取って、代わりに弾くのだ。
「邪魔よ……凍りつきなさい!」
 茜の大型ガントレットから放たれた冷気が氷の柱となって蔓を磔にする。
「ジーナ、とりあえず無頼を何とかする。そのまま突っ込めるか?」
「遅れた分、元気だけはあり余ってるから!」
「おーけぃ、その意気!」
 リコはジーナとは反対の対極へと機体を滑らせると、そのまま自らも大きな花弁の上へと飛び乗った。
 すぐさまワイヤーが機体めがけて襲い掛かるが、間髪入れずにまとわりついた土砂の鎧がかろうじてそれを防ぐ。
「時間は稼ぎます……お姉はんも、今のうちに」
「せいやああああああああ!!!」
 スラスターで飛びあがったデュミナスが、無頼の傍に着地するなり腕に絡みついたワイヤーをマテリアルソードで切り刻む。
 すぐさまトラバントが足元のワイヤーを断ち切ると、3機は全速力でデリオンの上から離脱する。
「到着早々に助かった」
「いえいえ、こちらこそお騒がせを……」
「……ん?」
「……え?」
 ヴィオの疑問符に、ジーナはキョトンとして首をかしげる。
「あー……フェリーニたちは事情知らないわよ」
「えー!? ウッソぉ!?」
 素っ頓狂な声が割れ割れの通信から響いて、葵は調子を外されたように苦笑する。
「よく分からないけれど……とりあえず、また何かしでかしたのだけは伝わったわ」
「そういうことよディアナ。ジーナ、迷惑かけた分ちゃんと働きなさいな」
「うー……合点承知の助です」
 合流した3人は、先行のメンバーから敵の情報を受け取るとすぐに砲撃戦の隊列に加わる。
「種だけでなく、直接接触での侵食か……だけど、このまま遠巻きに撃ち続けてもらちがあかないな」
 砲撃は手ごろなダメージこそ与えているものの、金属生命体という特性からか、破損個所を他の箇所の金属質で補うというダメージコントロールに近い自己修復能力を発揮している。
 アニスの榴弾がその修復を上回る速度でダメージを重ねているが、こちらは弾数に限りがある。
 逆に言えば、彼女の榴弾が尽きればあとはジリ貧だ。
 そんな時、ヴィオがふと口を挟んだ。
「花弁に飛び込んだ時に、中央の切り口から結晶体のようなものが見えた」
「結晶体……もしかして、核みたいなものですか?」
 茜の問いにヴィオは歯切れが悪いながらも頷く。
 少なくとも、先のサーチアイの持つマテリアルレーザー射出口としての機構ではないのは確かだ。
 そんなものがあればとっくに使っているはず。
「となれば、やはり飛び込むしかないな。アッハッハッ、誰が行く? あたしでも良いか?」
 愉しげなリコであったが、今回に限っては半分冗談じみたもの。
 ここまでの継戦でトラバントはそれなりのダメージを負っている。
「わかった、私が行く」
 そこで名乗りを挙げたのはジーナだった。
「一応聞くけど、別に遅れた責任を取ってって、わけじゃないわよね?」
「うん」
 やや諭すような口調の葵に、ジーナは力強く答える。
「損傷状況からしたら妥当な判断でしょう?」
「お姉はん……」
「だーいじょうぶ小夜ちゃん。おねーちゃんに任せときなさいって」
 そう言って彼女は子供っぽい笑みを浮かべて見せた。
「わかった。同じく損傷の少ない僕と茜で直衛に回ろう。他のみんなは中~遠距離からのサポートを。アニスは僕らが飛び込む前に、花弁の中心めがけてありったけ弾を叩きこんで」
 リクの一声で9人は一斉に散開。
 作戦が開始される。
「これが最後の1本だ。しっかり味わえ」
 榴弾のカートリッジを付け替えたアニスは、さっそく次々と榴弾を放り込む。
 立て続けの絨毯爆撃に、鋼鉄の花弁が、軋むような耳障りな音を立てた。
「まるで断末魔ね……金属音って、耳に残るのよねぇ」
 しかめっ面で耳を塞ぐ葵は、苦い表情のまま片方の手を離すと地上めがけて重力球を放った。
 それが歩み寄る人型廃棄物の脚を止めさせると、彼らは種子弾で応戦する。
 葵が盾でそれを受け止めると、入れ違いにデルタレイの輝きが廃棄物たちを貫く。
「先方は拓いた! 2人とも、青藍、今よ!」
 見開ける大きさの廃棄物に対峙したまま茜が叫ぶ。
 逆サイドでは無頼が単騎で廃棄物3機を押さえ、同様に花道を維持する。
 拓けた道を、2機のCAMとオートソルジャーが一気に駆け抜けていった。

 懐に飛び込むジーナのデュミナスに小夜からストーンアーマーが施される。
「どうか、無事で……」
「うんっ、ありがとう!」
 短く挨拶を交わすと、デュミナスはさらに加速する。
 デリオンの根本まで入り込んでくると廃棄物の姿は減り始めた。
 代わりに、防衛本能を掻き立てられたデリオンの蔓による攻撃が激しさを増す。
 直衛についたリクと青藍が左右に分かれてそれを払うが、流石にすべてとはいかない。
 だからこそ、ある程度近づけたところでリクが一歩先に出た。
「リク!?」
「大丈夫。この先の道は俺が“視”る――」
 リクは己のマテリアルを解放し、機体にその意識のすべてをゆだねる。
 文字通り、機体のすべてを自らの手足のように、肌のように。
 風を感じ、光を感じ、時の流れを感じる。
「――そこだッ!」
 斬艦刀が一閃の輝きを放つ。
 その太刀筋は彼にとっては未来の出来事。
 ほんの一息の間を置いて、眼前の蔓の森がバラバラと音を立てて崩れ落ちる。
「飛び込め、ジーナ!」
「おっけい!」
 蔓の森を抜けたジーナ機。
 背後から執拗に追いかける蔓へは、マテリアルソードを構えた青藍が立ちふさがる。
「青藍、最大出力! 絶対に通しちゃダメよ。ここが貴方の腕の見せ所だから」
 理解を示すように瞳を輝かせた青藍が飛来する蔓を切り伏せる。
 リクのように切り倒す必要はない。
 ジーナに向けさせない――そうすれば、自分たちの勝利なのだ。
 デュミナスが突破したのを見て、アニスが残りの榴弾をありったけ撃ちこんでいく。
 広範囲を焼き尽くす爆炎に、中央の結晶体があらわになる。
「当ったれぇぇええええ!!」
 スラスターで飛び込んだデュミナスが、マテリアルソードを結晶体へと突き立てた。
 ピシリと音を立てて表面に罅が入る――が、浅い。
 すぐさま花弁から侵食腕が伸び、デュミナスをとり囲む。
「うわわっ!?」
「ったー、もう! 結局、飛び込むことになるんだからな!」
 錬機剣を抜いて飛び出したトラバント。
 だがジーナの通信がそれを遮る。
「リコ、プラズマグレネードは!?」
「へっ、あるけど」
「投げてっ!」
 そんなことをすれば――だが、考えている時間が惜しい。
 きっと何か策があるんだろうと、リコは言われた通りにグレネードのピンを抜く。
 ジーナもまた、シールドに備えられたグレネードを自らの直下へと向けて放った。
「どうなっても知らねーからな!」
「大丈夫! 無頼だってできたんだから!」
「……は?」
 彼女のその言葉を聞いたのは時すでに遅し。
 放り込まれたグレネードが、デュミナスの眼前で爆散する。
「ちょっと、なにやってんのジーナ!?」
 慌てて駆け出した茜は青藍の肩に飛び乗ってデリオンの花弁を駆けあがる。
 同時に小夜のCoMも急降下で降り立った。
 目の前には濛々と噴煙が巻き上がる。
「返事しなさいって! ジーナ!」
「お姉はん!」
 煙を手で払う2人。
 やがて穏やかな風が吹いて、さーっと、視界が開けていく。
 
 2人の視線の先には、結晶体めがけてマテリアルブレードを深く突き刺したボロボロのデュミナスの姿があった。
 

「――ったく、二重の意味で反省なさい。海よりも深く、山よりも高い心を込めて」
「ううう……ごめんなさい」
 フマーレのハンガーに戻ってきて、ジーナは茜にそれはもうこっぴどく怒られていた。
「あーらら、これじゃ上官の立つ瀬がないねぇ。まあ、お灸になってくれればなんでもいいんだけど」
 いつもの昼行燈な調子で頬を掻くダニエルは、小さくあくびをしながらうんと背を伸ばす。
 それからクレーンで釣られるデュミナス――もといエルモの、もはや残骸と言うべき姿を見上げて大きなため息をついた。
「これ……最低でもオーバーホールだよね?」
「まあ、少なくとも溶接修理ってレベルじゃあねぇのは確かだな」
 同じく冷や汗ものの様子のリクに、アニスは仕事上がりの一服を吹かしながらサラリと答える。
 自分の機体でないにしても、これ、修理にどのくらい時間が掛かるんだろう……それを思えば、なんだか他人事の心地がしないものだ。
「でもまっ、ヒーローみたいでカッコよかったぜ?」
「こらっ、そうやって増長させないの。あなただって結局突っ込んでるんだから」
 ついでに葵に怒られて、それでもリコはヘラヘラとしたままぺろりと舌を出して、話半分に頭を下げる。
「その間……お姉はんの機体はどうするんでしょう……?」
 そう小夜が心配しているのはジーナ自身のこと。
 CAMのパイロットであることに拘っている彼女。
 それが、しばらく乗れない期間ができてしまったら――
「あー、それなんだけどね」
 ダニエルはふと思い出したように口を開いた。
「実は連合軍のお下がりで回されることになってた機体が1機あるんだわ。新しいメンバー増やそっかなって思ってたけど……当面はジーナに乗ってもらうか」
「えっ!? も、もしかして新型機……とか?」
「うんにゃ、普通に現行機。実は今回の装備も本来はそれ用だったんだけど」
「……?」
 のらりくらりと躱されるような答えに、ジーナは腑に落ちないまま首をかしげる。
「まー、人も兵器も適材適所。収まるところに収まるってね。そいじゃ、ごくろーさん」
 そう言ってもうひとつ大きくあくびをすると、ダニエルは奥へと引っ込んでしまった。
「新しい機体かぁ。やったじゃん」
「えっ、あっ、う、うん……」
 ぽんと背中を叩いたリコ。
 ジーナはどこか歯切れの悪い様子で返すと、ボロボロのデュミナスをどこか愛おしむように見上げた。
「……まっ、何にしてもみんな無事でよかったわ。ひとまず一連の事件も解決、なんでしょうし」
「うん……そうだね」
 さっぱりとした笑顔で振った葵に、リクは煮え切らない様子で頷く。
 アニスがちょっと引っかかった様子で、ちらりと彼を見た。
「何か気になることがあるのか?」
「うん……でもまあ、杞憂であることを願うよ」
 リクが少し疲れた顔で笑うと、不意にぐーっとお腹の虫が鳴る。
 釣られるように、他のみんなも一斉に空腹の大合唱を響かせた。
 見かねた茜がパンと拍子を打つ。
「よーし! 作戦成功を祝って、食堂借りてパーティしましょ! 料理は任せといて!」
「あっ……それ、ええなぁ。隊長さんも呼んできて、みんなで……」
「じゃあ、許可貰ってこないとね。ジーナ、お願いできるかしら?」
 小夜や葵の機体の眼差しがジーナに向く。
 ジーナはちょっとむず痒い様子でもじもじとしていたが、やがて大きく頷いた。
「よーし、ぱーっと食べるぞー!」
「おー!」
 特機隊の格納庫には、今日も笑い声がこだまする。

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    アニス・テスタロッサka0141
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜ka3062

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ファイナルフォーム
    インスレーター・FF(ka0038unit001
    ユニット|CAM
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    アガレス・グランス(ka0141unit010
    ユニット|CAM
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    CoM(ka3062unit005
    ユニット|CAM
  • 面倒見のいいお兄さん
    沢城 葵(ka3114
    人間(蒼)|28才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アケソラ
    朱空(ka3114unit003
    ユニット|幻獣
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    セイラン
    青藍(ka4080unit002
    ユニット|自動兵器
  • 《キルアイス》
    リコ・ブジャルド(ka6450
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    トラバント・ツヴァイ
    トラバントII(ka6450unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/02/23 12:35:34
アイコン 質問卓
天王寺茜(ka4080
人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/02/21 18:43:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/19 20:55:59