ゲスト
(ka0000)
【幻想】芯星の世界を夢と嗤い虧く流星
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/23 12:00
- 完成日
- 2019/03/30 07:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●呼び覚まされた真実
盗賊団『タットル』の次席と言われるアケルナルという男の目的を確認する為、要塞都市管理補佐官の一人であるアルフェッカ・ユヴェーレンはドワーフ工房の技師、フォニケを囮とし、ハンターに護衛依頼をした。
アケルナルはフォニケの奪還を目的たが、段取りとして狙っていたのは彼女と長い時間を過ごしてきた幼馴染のシェダルを歪虚アクベンスに殺害させること。
フォニケを取り戻す為、彼女が大事にしている存在を消そうとしている。
ハンターと共に要塞都市へ戻ったフォニケは改めて知った自分の立場に言葉を失って立ち尽くしていた。
「二十年ぶりに会ってもあんな状態だったものね……下手な情報を与えないのは賢明ね」
ため息をついたフォニケは途方に暮れたような顔をする。
「これは義務で尋ねる。真剣に答えてくれ」
真っすぐアルフェッカがフォニケを見つめる。
「君は、タットルの与しているのか」
この部屋の中にはアルフェッカをはじめ、カペラやドワーフ工房各部署の長、ハンターがいる。
信用されていないことにフォニケは衝撃を受けるが、彼女はゆっくりとリストバンドを外していく。
タットルの捕虜の証である刺青がなかった。
彼女の手首から肘の半ばにかけて爛れた皮膚が固まり、引き攣ったような傷跡が露になる。左右の手首がその状態で、醜さに誰もが言葉を失う。
他の部分に刺青がないこと証言したのはカペラ。彼女は一緒に温泉に入ったことがあった。
「あまり記憶がないけど、幼い頃……部族が襲われた。アケルナル達に。私だけが捕まり、後は殺されていた記憶があった」
リストバンドを床に落としたフォニケは口を開いていく。
「捕まった頃はあまり記憶がないの。いつも怯えていた感覚しかなかったわ。ほんの一瞬、隙を見て逃げた。崖から転げ落ちていくように走った。その辺の枯れ枝に腕を差し込んで肌を掻き切ったわ。あんな奴らとはもう関係ないって」
はっきりと言ったフォニケは思い出したくないおぞましい感覚と戦っているように表情を凍らせていた。
大の大人でも子供の頃に突き刺さった心の傷はそのまま残ることがある。
二十年という沢山の楽しい思い出があろうとも、いとも簡単に恐怖で身体が竦む。
それを情けないと責める事は出来ない。
「安心して、あなたを信じてるわ」
声を上げたのはカペラだ。
「美人で世話好きで、お肉が大好きな私達の仲間よ。タットルには渡さない。これはドワーフ工房ド・ウェルクの総意よ」
凛とした声で告げたカペラに「それ、俺の台詞……」とアルフェッカが弱々しく呟く。
「余計な懸念を抱かせたのは誰のせいよ」
留めの一撃でアルフェッカは口を閉ざすしかなかった。
「あいつは私のこと調べたのよね? カシオペアの皆、大丈夫かしら……」
フォニケの心配は自分を匿って育ててくれたシェダルの部族のことへ向かう。
「その件は大丈夫だろう。怠惰王の侵攻と共に避難しているからな」
カシオペア族出身の白龍に仕える巫女、ラスアルが部屋に入ってくる。
「ラス姉、シェダルは……」
術で傷口は治っているし、落ち着いて寝てるとラスアルは返した。
彼女の言葉に全員が安堵のため息を吐く。
●近見の見物
ファリフ・スコールは部族会議に参加する者として、ベスタハへ向かっていた。
そんな折に伝令より伝えられた内容にファリフはこみ上げる怒りを抑える。
歪虚が要塞都市へ向かっているとの事、その中に歪虚アクベンスの姿を確認。
共に人間の集団が混じっており、盗賊団『タットル』の次点であるアケルナルに似た者もいる目撃情報があった。
ファリフだけが引き返し、要塞都市へと向かう。
要塞都市に入ってきたファリフとトリシュヴァーナを迎えたのはカペラだ。
「アクベンスがいるから……こっちへ来たの?」
そう問うカペラは静かにファリフを見やる。
要塞都市には帝国軍も駐在している。
ある程度の敵は対処できるが、アクベンス程の歪虚を倒すのは酷だろう。
「帝国軍を信用してないように聞こえたら謝るよ。アクベンスは盗賊団と共に行動している。歪虚同様、賊を要塞都市へ侵入を許すわけにいかない。奴らにこの地で好きにはさせない」
盗賊団『タットル』は辺境の地で数十年にわたり、部族を強襲、財産を強奪してきた。他の地域にも手を伸ばしているといえば、放っては置けない。
歪虚と手を組んでいることも踏まえ、彼等を止めなくてはならないとファリフは判断したのだ。
「勿論、アクベンスを倒したい気持ちは隠さないよ」
素直に本心を述べるファリフにカペラは目を細める。
「あとね、ドワーフ工房の人達を見て、思う事があったんだ」
ぽつりと呟くファリフにカペラが首を傾げて言葉の続きを待つ。
「シバさんが死んだあと、フェンリルと一緒にここへ来た時……ボクはこの地を守ることがどういうことなのか、心が揺らいで見えてなかったんだと思う」
ファリフは幼い頃から有力部族スコール族の長として教育を受けていた。
人の命を守ることについて分からなかったのだろうかとカペラは目を眇める。
「あの頃のボクは帝国に敵意を持っていた。でも、力を持たない人が帝国にもいるという事を目の当たりにして、ボクは目の前の戦えない人を守る事しかできなかった」
そんなことわかっていたのに……とファリフは力なく呟く。
「ドワーフ工房の皆は帝国も辺境も関係ない。まぁ、ドワーフは帝国に下ってたけどね。帝国を嫌ってたボクにも優しくしてくれて、自由だなぁって思ったし、帝国とか辺境とかどうこう言ってられなくなるって思ったんだ」
「アルフェッカさんね」
カペラが言えばファリフは頷く。
「今の形に収まってよかったって思うよ。だから、ボクなりにここを守ろうと思う」
にこっと笑うファリフにつられてカペラも微笑む。
敵は目前だ。
※※※
大群の歪虚が向かうのは要塞都市ノアーラ・クンタウ。
殆どの歪虚がベスタハへ向かっているはずが、一部の歪虚が要塞都市へと向かってきている。
「さぁさぁさぁ! 本来向かうは要塞都市ノアーラ・クンタウ! ベスタハへ向かった同胞の分まで思いっきり参りましょう!」
狼型歪虚に乗っているアクベンスが声を張り上げた。
その影にいるのは盗賊団『タットル』の団員達だ。コマと呼ばれる小隊であり、従えるのはアケルナル。
「約束通り、迎えに行くぜ。お前の世界を壊してな」
にやりと笑うアケルナルは部下を率いて要塞都市へ向かった。
アクベンスは彼を見て微かに嗤う。
「閣下の執心も見物ですが……見てきたこちらが魅力的ですよ」
ファリフに会いたかったが、欲望を優先し、彼はアケルナルに要塞都市への強襲を持ちかけた。
実行に伴う目的などはない。
ただ、逃げ延びて幸せに暮らしていた者が再び捕まる恐怖を目の前で観れる……ということはアクベンスにとって、この上もなく魅力的な見世物だ。
盗賊団『タットル』の次席と言われるアケルナルという男の目的を確認する為、要塞都市管理補佐官の一人であるアルフェッカ・ユヴェーレンはドワーフ工房の技師、フォニケを囮とし、ハンターに護衛依頼をした。
アケルナルはフォニケの奪還を目的たが、段取りとして狙っていたのは彼女と長い時間を過ごしてきた幼馴染のシェダルを歪虚アクベンスに殺害させること。
フォニケを取り戻す為、彼女が大事にしている存在を消そうとしている。
ハンターと共に要塞都市へ戻ったフォニケは改めて知った自分の立場に言葉を失って立ち尽くしていた。
「二十年ぶりに会ってもあんな状態だったものね……下手な情報を与えないのは賢明ね」
ため息をついたフォニケは途方に暮れたような顔をする。
「これは義務で尋ねる。真剣に答えてくれ」
真っすぐアルフェッカがフォニケを見つめる。
「君は、タットルの与しているのか」
この部屋の中にはアルフェッカをはじめ、カペラやドワーフ工房各部署の長、ハンターがいる。
信用されていないことにフォニケは衝撃を受けるが、彼女はゆっくりとリストバンドを外していく。
タットルの捕虜の証である刺青がなかった。
彼女の手首から肘の半ばにかけて爛れた皮膚が固まり、引き攣ったような傷跡が露になる。左右の手首がその状態で、醜さに誰もが言葉を失う。
他の部分に刺青がないこと証言したのはカペラ。彼女は一緒に温泉に入ったことがあった。
「あまり記憶がないけど、幼い頃……部族が襲われた。アケルナル達に。私だけが捕まり、後は殺されていた記憶があった」
リストバンドを床に落としたフォニケは口を開いていく。
「捕まった頃はあまり記憶がないの。いつも怯えていた感覚しかなかったわ。ほんの一瞬、隙を見て逃げた。崖から転げ落ちていくように走った。その辺の枯れ枝に腕を差し込んで肌を掻き切ったわ。あんな奴らとはもう関係ないって」
はっきりと言ったフォニケは思い出したくないおぞましい感覚と戦っているように表情を凍らせていた。
大の大人でも子供の頃に突き刺さった心の傷はそのまま残ることがある。
二十年という沢山の楽しい思い出があろうとも、いとも簡単に恐怖で身体が竦む。
それを情けないと責める事は出来ない。
「安心して、あなたを信じてるわ」
声を上げたのはカペラだ。
「美人で世話好きで、お肉が大好きな私達の仲間よ。タットルには渡さない。これはドワーフ工房ド・ウェルクの総意よ」
凛とした声で告げたカペラに「それ、俺の台詞……」とアルフェッカが弱々しく呟く。
「余計な懸念を抱かせたのは誰のせいよ」
留めの一撃でアルフェッカは口を閉ざすしかなかった。
「あいつは私のこと調べたのよね? カシオペアの皆、大丈夫かしら……」
フォニケの心配は自分を匿って育ててくれたシェダルの部族のことへ向かう。
「その件は大丈夫だろう。怠惰王の侵攻と共に避難しているからな」
カシオペア族出身の白龍に仕える巫女、ラスアルが部屋に入ってくる。
「ラス姉、シェダルは……」
術で傷口は治っているし、落ち着いて寝てるとラスアルは返した。
彼女の言葉に全員が安堵のため息を吐く。
●近見の見物
ファリフ・スコールは部族会議に参加する者として、ベスタハへ向かっていた。
そんな折に伝令より伝えられた内容にファリフはこみ上げる怒りを抑える。
歪虚が要塞都市へ向かっているとの事、その中に歪虚アクベンスの姿を確認。
共に人間の集団が混じっており、盗賊団『タットル』の次点であるアケルナルに似た者もいる目撃情報があった。
ファリフだけが引き返し、要塞都市へと向かう。
要塞都市に入ってきたファリフとトリシュヴァーナを迎えたのはカペラだ。
「アクベンスがいるから……こっちへ来たの?」
そう問うカペラは静かにファリフを見やる。
要塞都市には帝国軍も駐在している。
ある程度の敵は対処できるが、アクベンス程の歪虚を倒すのは酷だろう。
「帝国軍を信用してないように聞こえたら謝るよ。アクベンスは盗賊団と共に行動している。歪虚同様、賊を要塞都市へ侵入を許すわけにいかない。奴らにこの地で好きにはさせない」
盗賊団『タットル』は辺境の地で数十年にわたり、部族を強襲、財産を強奪してきた。他の地域にも手を伸ばしているといえば、放っては置けない。
歪虚と手を組んでいることも踏まえ、彼等を止めなくてはならないとファリフは判断したのだ。
「勿論、アクベンスを倒したい気持ちは隠さないよ」
素直に本心を述べるファリフにカペラは目を細める。
「あとね、ドワーフ工房の人達を見て、思う事があったんだ」
ぽつりと呟くファリフにカペラが首を傾げて言葉の続きを待つ。
「シバさんが死んだあと、フェンリルと一緒にここへ来た時……ボクはこの地を守ることがどういうことなのか、心が揺らいで見えてなかったんだと思う」
ファリフは幼い頃から有力部族スコール族の長として教育を受けていた。
人の命を守ることについて分からなかったのだろうかとカペラは目を眇める。
「あの頃のボクは帝国に敵意を持っていた。でも、力を持たない人が帝国にもいるという事を目の当たりにして、ボクは目の前の戦えない人を守る事しかできなかった」
そんなことわかっていたのに……とファリフは力なく呟く。
「ドワーフ工房の皆は帝国も辺境も関係ない。まぁ、ドワーフは帝国に下ってたけどね。帝国を嫌ってたボクにも優しくしてくれて、自由だなぁって思ったし、帝国とか辺境とかどうこう言ってられなくなるって思ったんだ」
「アルフェッカさんね」
カペラが言えばファリフは頷く。
「今の形に収まってよかったって思うよ。だから、ボクなりにここを守ろうと思う」
にこっと笑うファリフにつられてカペラも微笑む。
敵は目前だ。
※※※
大群の歪虚が向かうのは要塞都市ノアーラ・クンタウ。
殆どの歪虚がベスタハへ向かっているはずが、一部の歪虚が要塞都市へと向かってきている。
「さぁさぁさぁ! 本来向かうは要塞都市ノアーラ・クンタウ! ベスタハへ向かった同胞の分まで思いっきり参りましょう!」
狼型歪虚に乗っているアクベンスが声を張り上げた。
その影にいるのは盗賊団『タットル』の団員達だ。コマと呼ばれる小隊であり、従えるのはアケルナル。
「約束通り、迎えに行くぜ。お前の世界を壊してな」
にやりと笑うアケルナルは部下を率いて要塞都市へ向かった。
アクベンスは彼を見て微かに嗤う。
「閣下の執心も見物ですが……見てきたこちらが魅力的ですよ」
ファリフに会いたかったが、欲望を優先し、彼はアケルナルに要塞都市への強襲を持ちかけた。
実行に伴う目的などはない。
ただ、逃げ延びて幸せに暮らしていた者が再び捕まる恐怖を目の前で観れる……ということはアクベンスにとって、この上もなく魅力的な見世物だ。
リプレイ本文
切り立った崖の上にそびえ立つ大きな城壁に護られている都市。要塞都市【ノアーラ・クンタウ】。
そこへ集まるように……という依頼が発生した。
「遺跡の方じゃねぇのかよ」
青い瞳を瞬くのは岩井崎 旭(ka0234)。
現在、怠惰軍に関わる依頼はベスタハ遺跡周辺のものが多いが、ファリフだけは要塞都市防衛の依頼だ。
ファリフは大首長を支える立場である故、要塞都市防衛依頼は意外とも思えてしまうのは仕方ない。
「怠惰軍が向かっていた当初の方向には辺境都市もあったようです」
依頼書を読みながらサクラ・エルフリード(ka2598)が言葉を返す。
「今回要塞都市へ向かっているネームドはアクベンス。この歪虚、人間の盗賊団に関与しているようですし、盗賊団の目的と怠惰の目的を鑑みれば一石二鳥といわんばかりの行動ですわね」
ため息混じりに告げるのはエルバッハ・リオン(ka2434)。
彼女もこの依頼を受けるようだ。
「少しでも憂いを払わないとね」
ユリアン(ka1664)が手にした依頼書に視線を落として呟く。
「怠惰軍の侵攻というよりは戦場の影で行われる略奪……火事場泥棒みたいだな」
顔を顰めるレイア・アローネ(ka4082)は受付へと向かう。
このような蹂躙を許しておくわけにはいかない。
依頼を受けたハンター達を迎えたのはファリフとカペラ。
これから仇敵を対峙するファリフは落ち着いた様子を見せていた。
年単位のハンター活動をしているキヅカ・リク(ka0038)はファリフの成長ぶりにそっと感嘆の息をつく。
彼がファリフを知った頃は帝国に対し、警戒し、保守的……辺境の伝統を重んじる考えを持つ有力部族の幼き長だった。
ハンターとの交流を経て、部族を纏める大首長選には敗れたが、己の宿命と向き合い、赤き大地の戦士として成長していったのはハンターが知る所。
今は帝国が仕切る要塞都市を自身の意思で守ろうとしている。
辺境部族を守ればそれでいいという状況ではない。
赤き大地の世界が危機に晒されている。ファリフはそれを理解してる。
「ファリフちゃんも大きくなって……」
ほろり……と感慨に耽るリク。
「お前は親父かよ」
あきれた口調のボルディア・コンフラムス(ka0796)のツッコミにカペラがふふっと笑う。
「しっかし、また来るのかよ。あのキモ野郎」
「ホント、しつこいよね。まー、ファリフ君が可愛いのは分かるけど、アイツの考えは分かりたくない」
舌打ち混じりにボヤくボルディアにアイラ(ka3941)が同意する。
「にゃぁ、アクベンスは相変わらずの様子ですにゃぁ、もうこちらからも奴らの影が見えてきますにゃ」
飄々とした様子で顔を出したテトが持ち場へと促した。
●
要塞都市を守る壁の端側へ大きく反れる集団がいた事は部族なき部族と帝国軍の確認は済んでいる。
この端側の要塞都市側は治安の悪い区域であり、今回歪虚と行動を共にしているタットルの次点であるアケルナルもそこに潜伏していた時期があったとテトがハンター達に補足説明をしていた。
リクがゴーレムを使って脆くなった壁を構築していた。
こっそりリクの隣に近寄ったカペラが指を示す方向は見たところ補修が必要とは思えないが、そこにテトがいて、リクの方を向いて指を壁へ向けている。
何となく察したリクは容赦なく構築していく。壁の向こうで騒いでいるが、リクは聞かなかった振りをし、「おまわりさーん」のノリでアルフェッカに通報。
アルフェッカが壁の向こうの帝国軍に連絡し、壁の向こうにいた『一般市民』らしき者達を取り押さえた模様。
「中からでも動けるように手を打っていたのですね」
呆れたといわんばかりにエルバッハが呟く。
「要塞都市も善人ばかりじゃないし、ごろつきもいるから、こういった抜け道から逃げだろうとするのよね」
肩を竦めるカペラにレイアは横目で呆れた様子を見せる。
タットルが今回最大の目的とするフォニケは戦えるドワーフ工房のメンバーと共に後衛にいる。
中で大人しく隠れていても、万が一他の住民の耳に入ったら不安の種になる。トラブルは戦場内で終わらせ、住民への被害を最小限にしたいとフォニケが言い出したのだ。
一悶着あったが、ハンターの一人……ユリアンが直接護衛を申し出てくれたので、フォニケとシェダルが出ることになった。
「悪いな、護衛なんて面倒だろうに」
そうユリアンに謝るシェダル。その傍らでフォニケが頬を膨らませて抗議している。
「大丈夫。皆本当に強い人達だから」
ユリアンが気遣うのはフォニケだ。
実際に大怪我をしたのはシェダルだが、彼以上に気にしているのはフォニケだとユリアンは考える。
今まで幸せに暮らしていたのに、過去の亡霊が今となって彼女の世界を脅かす。
フォニケだけではない、彼女が関わる全てに過去が凶刃となって向けられようとしているのだ。
自分の身を差し出してもそれだけで済む話ではないだろう。
シェダルもまた、同じ考えで治りたての身をもってここに立っているのだろうと思えるのだ。
「そうです。守りますよ」
サクラがユリアンの気持ちに同意し、頷く。
「腕、診てもいいかい?」
宥めるようにユリアンがフォニケ問うと、困ったような様子を見せる。
「薬草師の助手を務めていてね。その頑丈な革だと蒸れないかい?」
彼が取り出すのは軟膏。少しでも彼女の傷を癒そうと思い、尋ねた。
「お願いするわ。夏になると、痒くて」
フォニケが革のリストバンドを外すと、醜く歪な傷が露となる。
軟膏を手に取ったユリアンは両手で挟むように軟膏を温めて優しく塗りこむ。
「温かい手ね……なんだかいい匂い」
リラックスしたようなフォニケにユリアンは思い出したように問う。
「高いところは平気?」
「ええ、バカとなんとかは高いところが好きっていうじゃない?」
こくりと頷くフォニケに対し、その場にいた全員が「例えるのが逆」と声を揃えた。
●
正面側の方へ回ったハンター達はこちらの方へと向かってくる敵の多さに目を引かれてしまう。
ファリフと言葉を交わしていたボルディアはアクベンスに近づける為の工夫を考えていた。
「だったらさ……」
ひそひそとファリフの耳打ちを聞くボルディアは楽しそうに頷くと、アイラ達にもファリフの話を伝える。
「構わねぇぜ」
「トリシュヴァーナはいいの?」
旭も楽しそうに笑い、アイラはファリフの相棒を気にした。
「大丈夫……たぶん」
そう呟くファリフだが、言い出しっぺなので、何とかする模様。
「じゃぁ、行くか」
空を見上げるボルディアの身体には犬耳と尻尾が生え、身体より溢れんばかりの紅蓮のオーラが沸き立ち、鎧のように身に纏わせている。
「シャル!」
ボルディアの声に反応した鮮やかな緋色の鱗を持つワイバーンが短く啼いて応えた。ワイバーンに乗り、上空へ向かう。
「こっちも行くか、ロジャック!」
旭も背中に大きなミミズクの翼の幻影を纏い、ワイバーンのロジャックを呼ぶ。
ロジャックはぐるりと旋回し、目的の位置へと移動した。
正面組二人がワイバーンに乗って飛ぶ姿を見たアイラも持ち場に向かう。
横目で友人であり、戦友のファリフを見やると、落ち着いた様子で敵軍を見つめていたが、武器を持つ手があまりに力が入っていた。
「ファリフ君」
「どうかした?」
アイラの方を向くのが少し遅れた反応を見せるファリフの方へと向かう。
「逸る気持ちはわかるから……ね」
「ここで戦うのは二回目だね。また守るよ」
引き締めた表情のファリフにアイラは頷く。
今この場にいるファリフは、あの時のファリフではない。
自分もまた、あの時と同じではない。
「案ずるな、我もいる」
ファリフの傍らにいるトリシュヴァーナが言えば、確かに違うとアイラは確信する。
「うん、守ろう」
二人が顔を見合わせてすぐ持ち場へと戻った。
先行して様子を窺っていた兎型歪虚の報告を受けたアクベンスはこの場にファリフを始め、彼が気に入った者達がいる事を知る。
「何という……幸運……」
うっとりと目を細める美少年は恍惚となり、艶やかなため息を吐く。
怠惰王に執着する彼の姿を見ていたいと思ったアクベンスだが、昔馴染みの欲望に手伝った甲斐があると思えた。
「あぁ、楽しみですね……」
その笑みをかたどる口は三日月のようだ。
●
レイアはボロウと感覚を共有、見つけるホーで向かってくる盗賊達の位置を確認していたが、脇の林から生体反応を感じた。
一人だけではない。複数。
その一人の生命反応をロックオンしたレイアは隠れるホーを発動させ、気づかれないように尾行させる。
向かっていく方向が定まると、それが先ほどリクが壁を構築し、中に潜伏していたタットルの協力者がいた方向。
予想通り、以前にアケルナルが要塞都市内にいた時、手引きしてくれる者に頼んでいたのだろう。内側から陣を壊し、隙を与えようとしていた可能性がある。
レイアが状況を伝えると、エルバッハがその方向へと向かった。
隠れるようにし、気づかれないように近づく。
ある程度近づいたエルバッハは盗賊達の人数を確認する。
魔導スマートフォンでレイアに確認すると、彼女がボロウを通じて視覚した人数と一致。エルバッハは捕縛した際、移動させるための人員を求めた。
捕縛するべくそっとスリープクラウドを発動させる。
盗賊達は一瞬浮かび上がる青白いガスに戸惑ったが、それは一瞬だった。眠気に抵抗できず、一人、また一人と倒れていく。
抵抗に成功した盗賊は首にかけていた笛を咥え、仲間に伝えようとした瞬間、光の杭が身体に撃ち込まれたような感覚に陥ってしまう。
術者……サクラの確固たる信念が盗賊を断罪する。
ジャッジメントの効果で動けなくなった盗賊へエルバッハは容赦なく攻撃し、昏倒させた。
すぐに盗賊達を持ち去るべく、部族なき部族のメンバーが現れ、盗賊達を縄で縛り、素早く後ろへと持っていく。
そろそろ交戦となろうとしているのに味方からの反応がない事に気づいたアケルナルは味方ではないだろう人影を見る。
「ちっ、向こうも本腰を入れてきたってワケか」
舌打ち混じりにアケルナルが呟く。
ハンター達の目的は歪虚を、盗賊を、要塞都市に害を為すものを近づけさせない事。
守るべきフォニケの傍らにいるユリアンはその対する敵の陣形に目を細める。
端側に向かうのは盗賊だけではない。人類を蹂躙せんとする歪虚もいた。
今回アクベンスが引き連れたのは素早い動きを得意とする狼型や鹿型等の獣型歪虚がほとんどであり、強力とも言えるオーガくらいしか見当たらなかった。
鈍いサイクロプスがいないのは盗賊団の隠れ蓑にできないからだ。
レイアは前に出で、自身の周囲にマテリアルを漲らせる。感覚を空間に拡張させた。
彼女の周囲には獣型歪虚と盗賊が複数向かってくる。レイアは魔導剣を抜く。もう一振り、冷たく濡れたように美しい刃を鞘から抜いた。
先に飛びかかってきたのは狼型歪虚だ。
大きく吠えてレイアへ前足を上げ、動きを見ていたレイアは合わせて剣を振り上げる。
前足を斬り落とし、体当たりを躱すレイアへ後ろから突き出される剣に気付く。
「……くっ」
身を捩っても間に合わず、刃がレイアの脇腹を滑る。
反射的に間を取るように半歩下がり、星神器「天羽羽斬」を鈍器のように刃を立てずに活人剣で膝を砕く。
次の攻撃に備えようと、レイアが構えると先ほど声を上げた女ともう一人の盗賊が息を合わせて攻撃を仕掛ける。
守りの構えをとったレイアは二人が繰り出すダガーの軌道を見極め、二刀流で刃を防いでなぎ倒す。
「無益な殺生は好まない。命が惜しければ今のうちに降伏する事だ」
静かな声音でレイアが警告するが、歪虚は獣の闘争本能で吠えると、レイアの横から光が伸びた。
ジェットブーツで懐に飛び込んだカペラは剣で歪虚を斬り倒す。
「宜しくね」
まるでカフェの相席を願うようにレイアへにっこり微笑むカペラ。
思い出せば、フォニケは快活な印象を受けた。きっと、ドワーフ工房の面子の気質なのかと思いながらレイアは向かってくる敵に剣を構えた。
●
正面の方では戦いは始まり、帝国軍や部族戦士の弓矢は太鼓を使用した号令で最前線の歪虚を潰していた。
それに合わせ、旭が乗っているロジャックが溜め込んでいたマテリアルのチャージが完了する。
気合を入れるかのように口を開いたロジャックがレイン・オブ・ライトを発動させた。
その名の通り、無数の光線が放出され、地を走る歪虚が爆撃される。その衝撃で周辺の歪虚が巻き込まれてしまう。
一斉射出が終えると、兵士と戦士が前に出ていく。
最前線を走るのはトリシュヴァーナの背に乗り、辺境民族の戦衣装の革と毛皮のコートを翻すのはファリフ・スコール、共に移動するのはペガサスに乗っているアイラ。
アイラはペガサスにエナジーレインを発動させていた。
味方に降り注ぐ光の雨に気づいたファリフは後ろを振り向く。
「我らに守護の雨が降った! 征くぞ! 今こそ我らの敵を屠る時!」
よく通るファリフの声が後ろから続く部族戦士を鼓舞し、士気を高めていく。
「そうね、行きましょ!」
アイラとファリフが顔を見合わせて頷いた。
「白ちゃん、お願いね」
視線を落としたアイラは膝元に待機している白猫に声をかけると、一声「にゃぁ」と鳴くと、アイラがコンバートソウルを発動させる。
更にシンクロナイズで味方の力を高めていく。
油断はできない。
これから戦うのはアクベンスなのだから。
戦況は人類側が押しているような状態だった。
今回、要塞都市側に侵攻してきた群れにが強力な歪虚は少ない。
オーガ以外の歪虚は機動力もあり、それらと比べて小柄なアクベンスがどこに隠れているのか。
現状、奴の姿は見えていない。
考え込むファリフに飛びかかる狒々型歪虚の投石に気づいたアイラがペガサスを走らせ、ファリフを守るように肌に紋様が走っている腕を掲げた。
マテリアルを紋様へ流し込むと、障壁が展開。石を跳ね返す。
「ファリフ! 隙をみせるな!」
トリシュヴァーナの叱責に当のファリフは「ごめんよ」と短く謝り、アイラの方を向くと、ファリフは一瞬身を硬直させた。
「いた……!」
小さく叫ぶファリフの視線を追ってアイラが見やれば彼女も見つけ、魔導スマートフォンで伝える。
「アクベンスがいたよ……!」
報告を聞いたボルディアと旭は前に出て、一斉にワイバーン達にファイアブレスを吐かせ、爆炎で歪虚達の視界を遮った。
●
端側の前衛をしている者はいたが、敵の数が多く、前衛を突破して中へと入りこんでいってしまう。
狙いは後衛にいるフォニケというのは賊も歪虚も共通見解のようだ。
ただ、フォニケだけが目的ではない。
彼女の心のよりどころであるドワーフ工房の壊滅を狙っている。
下手に隠れることをしなかった工房のメンツはフォニケを守るように後衛に陣取っていた。
敵の様子を見ていたサクラはユグディラのヤエと共に中衛近くまであがる。
サクラの姿が見えているとは思えないように敵は奥へと突き進もうとしていた。横目でそれを眺めていたサクラは首を傾げると銀の横髪が彼女の白い頬にかかる。
「私を無視して行くなんて許さないですよ……?」
その言葉が合図のように八重が複合楽器「バンドリオン」で旅人たちの練習曲の演奏を開始した。
旅人の歩みのような緩やかな旋律を繰り返す曲だが、飽きを感じさせない音が広がっていく。
サクラは筋肉に力を入れると同時に体内のマテリアルを光に変えて放出し、神聖剣「エクラ・ソード」を掲げる。
「筋肉の魅力に取りつかれなさい……マッスルトーチ……!」
放出された光に盗賊と一部の歪虚が反応する。
知能に関するスキルの為、低知能の歪虚は反応しなかったが、盗賊は反応した。
「理性の欠片もない者達かと思いましたが、意外です」
淡々と告げるサクラへ歪虚と盗賊達が襲い掛かる。
「ハンターとはいえ、子供一人だ!」
「見た目も悪くねぇ! 売っぱらえ!」
罵声を浴びせるかのようにサクラへ敵意が向けられていく。
「子供……?」
ぴくりとサクラが動きを止める。
盗賊にとっては子供を物のように扱う事に彼女は怒りを覚える。
「幼き者まで毒牙にかけるなんて許せません」
その言葉と同時に賊の胸に光の杭が打たれた。
ぎょっとなる盗賊達に容赦なくスリープクラウドの雲が視界を遮る。抵抗に成功した賊の首に当てられるのは杖。
「それ以上抵抗しますと、次は首を飛ばします」
エルバッハの警告に賊は彼女の顔を目がけて殴りかかる。腕に隠し持っていたダガーの切っ先に気づいたエルバッハは顔は避けたが、賊は彼女の腹に膝を入れる。
「かは……っ」
痛みに顔を顰めるエルバッハは杖を回し、首を横から打ち付け、賊の気を失わせた。
部族なき部族のメンバーも加勢し、盗賊達を捕縛していく。
●
アクベンスは狼型歪虚に乗り、背に張り付くように身を屈めて接近を試みていた。
自身が気に入る気高き者達へ驚きを返そうと。
しかし、ファリフはアクベンスを見つけ、互いの視線が交わされたとアクベンスは確信した。
瞬間、人類側のワイバーンが炎を吐き出し、アクベンスの同胞を焼き、視界を遮る。
アクベンスにとって、ファリフは生きても死んでも愉快の種だ。
同胞はその引き立て役にしか過ぎない。
炎の中、アクベンスは狼を走らせる。
ワイバーンの炎を抜けた先に見たのは金色の炎のように美しい毛並みを持つ大幻獣。そして、その背に乗るファリフ。
アクベンスは過去に喰らったマテリアルを思い出し、嗤う。
「お会いできましたね! 私の姫!」
跳躍したアクベンスは縄ひょうをファリフ達へと向ける。
「誰がお前の姫だ」
どこか不機嫌な女の声がトリシュヴァーナの頭上から聞こえた。
ワイバーンから飛び降りたボルディアが星神器「ペルナクス」を振りかぶってアクベンスに向かって降りてくる。
彼女が狙うのはアクベンスのもう一本の腕。
アクベンスは身を翻し、攻撃を避けることに成功した。
しかし、視界に入ったのは彼のお気に入りの兎耳つきシルクハットが頭を離れ、敗れてしまった。
「おやおや、情熱的ですねぇ」
片腕でも受け身をとったアクベンスは土も払わずにボルディアへ笑みを浮かべる。
星神器を振り上げ、ボルディアがアクベンスへ間合いを詰めていく。
アクベンスは縄ひょうの先をダガーのように持ち、ボルディアの攻撃をいなしていった。星神器を横に薙ぐと、アクベンスは跳躍し、彼女の背後を取ろうとする。
「させるか!」
トリシュヴァーナがアクベンスの背から飛びかかり、その背に爪を立てようとした。タイミングよくアクベンスが回避しようとするが、爪が脹脛を裂く。
「うっ!」
呻くボルディアの首にはアクベンスの縄ひょうの縄部分が巻かれており、一気に締められる。
「やめ……やがれ……っ!」
気合を吐こうにも縄が首に食い込んでいくが、ボルディアは息を止めるように力を入れ、アクベンスの腹に肘鉄を入れる。
「……ぐっ」
首の縄が緩んだ瞬間、ボルディアは縄を掴みアクベンスを引き寄せて自分ごとジャンプし、背負い投げた。
地に思いっきり背を打ったアクベンスはボルディアを蹴り上げ、後退するが、視界に入ってきたのは旭だ。
「うぉらぁあああ!」
気合と共に旭がアクベンスへ槍を一突き入れると、軽々と躱されたが、旭はすぐさま霊呪を活性化させた。
鎖を帯びた戦籠手の幻影がアクベンスへ向かい、拘束する。
隻腕の状態では易々と捕まえられたが、アクベンスは余裕そうであり、踵で地を三回タップしていた。
右側から狼と鹿の歪虚が走り出してきた。
予測していた旭はアイラの名を呼ぶ。
旭の呼びかけにアイラが応じた。彼女の背に白龍にも似た虹色の翼が広がる。
彼女はその方向へ光線を向けると同士討ちを始めた。
更にアクベンスの後ろからオーガが現れ、戦籠手の幻影を打ち払う。
「これ以上の進軍をさせるか!」
ファリフが飛び出し、オーガと交戦を始めた。
「振り出しですね」
「逃げなくてもいいぜ。持成しも出来てねぇからな」
自身の両拳を打ち付け、笑う旭の腕に付けられた赤い腕輪が光りを弾く。
旭が素早く拳をアクベンスに打ち付ける。歪虚は足でいなしては反動を使って縄ひょうの刃を旭の拳ごと突き刺す。
骨を砕かれる衝撃に旭は何とか堪え、刃を掴んでアクベンスの脇腹に膝蹴りを入れる。
アクベンスが刃を引き抜こうとすると、後ろからの背後に気づく。
星神器を手にし、アクベンスの背骨を狙い、振り下ろした。
「くっ!」
衝撃に顔を歪めるアクベンスから独特の甘い香りを発する。
意識の隙を掻い潜るようで甘い香りで意識が揺らぐような……。
旭とボルディアは本能的に全てのマテリアルを身体能力強化にのみ注ぎ込んだ。
「遊びの線引きを忘れるとダメですね。あの部族の生き残りの絶望を見たかったのですけど……」
苦悶の表情を浮かべるアクベンスはオーガ達をハンター達に任せ、自身は後退していった。
「待ちなさい!」
アイラが叫ぶと、オーガが棍棒を振り上げて襲ってきたが、トリシュヴァーナが守り、ハンター達は目の前のオーガを倒していく。
●
盗賊の殆どは捕縛することに成功したが、まだ次点アケルナルの捕縛がまだだ。
彼の側近だろう賊も強く、部族なき部族のメンバー達が交戦中。何人かが負傷している。
奥に来ているのは歪虚が多く、リクは機導砲やデルタレイで容赦なく打ち込んでいった。
周囲を確認し、インカムで近づく敵の位置を教え、ドワーフ工房のメンバー達が討伐していく。
「アケルナルがそっちに行った!」
リクが叫ぶとその方向へジェットブーツで走り出す。
「フォニケ、お前だけが来て無事に済むと思うな」
ニヤリと笑うアケルナルの声にユリアンのグリフォンであるラファルの背に隠れたフォニケは身体を竦ませるが、気丈にしていた。
ユリアンはラファルと離れたところにおり、ナイトカーテンで身を隠している。
進むアケルナルは横から近づくリクに気づき、剣を抜いて交戦を始めた。
アケルナルの剣撃は重く、リクは攻性防壁で敵を弾き飛ばす。
「やるな!」
楽しそうに笑うアケルナルの剣を聖機剣で受け止め、ジェットブーツの噴射で後ろに跳躍する。
「あ!」
アケルナルもジェットブーツでリクを追い、横に剣を薙ぐ。
「くっそ!」
リクはこの場から離れるべく、ジェットブーツで勢いをつけ、そのままマテリアルを噴射し続けて中空へと飛ぶ。
尚もアケルナルはリクを追おうと、移動をしようとする。
だが、彼は立ち止まり、本能的に振り向く。
先ほどはいなかった男……ユリアンが間合いまで近く飛び込んできた。
咄嗟に庇おうとするも、その速さに間に合わないが、アケルナルは笑う。
ユリアンの一撃を受け止めたのはアケルナルの身体ではなく、彼が仕込んでいた防御障壁だった。
「残念だったな」
「そうかい?」
青の瞳がアケルナルを射るように見やる。
「はぁ!」
その横からリクが一太刀浴びせようとしていた。
剣を合わせた二人だが、アケルナルがジェットブーツを使って間合いを取る。その先には狼型歪虚が待っている。
アケルナルは何も言わず、狼に乗って行ってしまった。
乱戦の中での結果で分かったのは、司令塔であるアクベンスとアケルナルが逃亡、盗賊の殆どが捕縛、一部が自決。
歪虚の半数が討伐されたということだった。
そこへ集まるように……という依頼が発生した。
「遺跡の方じゃねぇのかよ」
青い瞳を瞬くのは岩井崎 旭(ka0234)。
現在、怠惰軍に関わる依頼はベスタハ遺跡周辺のものが多いが、ファリフだけは要塞都市防衛の依頼だ。
ファリフは大首長を支える立場である故、要塞都市防衛依頼は意外とも思えてしまうのは仕方ない。
「怠惰軍が向かっていた当初の方向には辺境都市もあったようです」
依頼書を読みながらサクラ・エルフリード(ka2598)が言葉を返す。
「今回要塞都市へ向かっているネームドはアクベンス。この歪虚、人間の盗賊団に関与しているようですし、盗賊団の目的と怠惰の目的を鑑みれば一石二鳥といわんばかりの行動ですわね」
ため息混じりに告げるのはエルバッハ・リオン(ka2434)。
彼女もこの依頼を受けるようだ。
「少しでも憂いを払わないとね」
ユリアン(ka1664)が手にした依頼書に視線を落として呟く。
「怠惰軍の侵攻というよりは戦場の影で行われる略奪……火事場泥棒みたいだな」
顔を顰めるレイア・アローネ(ka4082)は受付へと向かう。
このような蹂躙を許しておくわけにはいかない。
依頼を受けたハンター達を迎えたのはファリフとカペラ。
これから仇敵を対峙するファリフは落ち着いた様子を見せていた。
年単位のハンター活動をしているキヅカ・リク(ka0038)はファリフの成長ぶりにそっと感嘆の息をつく。
彼がファリフを知った頃は帝国に対し、警戒し、保守的……辺境の伝統を重んじる考えを持つ有力部族の幼き長だった。
ハンターとの交流を経て、部族を纏める大首長選には敗れたが、己の宿命と向き合い、赤き大地の戦士として成長していったのはハンターが知る所。
今は帝国が仕切る要塞都市を自身の意思で守ろうとしている。
辺境部族を守ればそれでいいという状況ではない。
赤き大地の世界が危機に晒されている。ファリフはそれを理解してる。
「ファリフちゃんも大きくなって……」
ほろり……と感慨に耽るリク。
「お前は親父かよ」
あきれた口調のボルディア・コンフラムス(ka0796)のツッコミにカペラがふふっと笑う。
「しっかし、また来るのかよ。あのキモ野郎」
「ホント、しつこいよね。まー、ファリフ君が可愛いのは分かるけど、アイツの考えは分かりたくない」
舌打ち混じりにボヤくボルディアにアイラ(ka3941)が同意する。
「にゃぁ、アクベンスは相変わらずの様子ですにゃぁ、もうこちらからも奴らの影が見えてきますにゃ」
飄々とした様子で顔を出したテトが持ち場へと促した。
●
要塞都市を守る壁の端側へ大きく反れる集団がいた事は部族なき部族と帝国軍の確認は済んでいる。
この端側の要塞都市側は治安の悪い区域であり、今回歪虚と行動を共にしているタットルの次点であるアケルナルもそこに潜伏していた時期があったとテトがハンター達に補足説明をしていた。
リクがゴーレムを使って脆くなった壁を構築していた。
こっそりリクの隣に近寄ったカペラが指を示す方向は見たところ補修が必要とは思えないが、そこにテトがいて、リクの方を向いて指を壁へ向けている。
何となく察したリクは容赦なく構築していく。壁の向こうで騒いでいるが、リクは聞かなかった振りをし、「おまわりさーん」のノリでアルフェッカに通報。
アルフェッカが壁の向こうの帝国軍に連絡し、壁の向こうにいた『一般市民』らしき者達を取り押さえた模様。
「中からでも動けるように手を打っていたのですね」
呆れたといわんばかりにエルバッハが呟く。
「要塞都市も善人ばかりじゃないし、ごろつきもいるから、こういった抜け道から逃げだろうとするのよね」
肩を竦めるカペラにレイアは横目で呆れた様子を見せる。
タットルが今回最大の目的とするフォニケは戦えるドワーフ工房のメンバーと共に後衛にいる。
中で大人しく隠れていても、万が一他の住民の耳に入ったら不安の種になる。トラブルは戦場内で終わらせ、住民への被害を最小限にしたいとフォニケが言い出したのだ。
一悶着あったが、ハンターの一人……ユリアンが直接護衛を申し出てくれたので、フォニケとシェダルが出ることになった。
「悪いな、護衛なんて面倒だろうに」
そうユリアンに謝るシェダル。その傍らでフォニケが頬を膨らませて抗議している。
「大丈夫。皆本当に強い人達だから」
ユリアンが気遣うのはフォニケだ。
実際に大怪我をしたのはシェダルだが、彼以上に気にしているのはフォニケだとユリアンは考える。
今まで幸せに暮らしていたのに、過去の亡霊が今となって彼女の世界を脅かす。
フォニケだけではない、彼女が関わる全てに過去が凶刃となって向けられようとしているのだ。
自分の身を差し出してもそれだけで済む話ではないだろう。
シェダルもまた、同じ考えで治りたての身をもってここに立っているのだろうと思えるのだ。
「そうです。守りますよ」
サクラがユリアンの気持ちに同意し、頷く。
「腕、診てもいいかい?」
宥めるようにユリアンがフォニケ問うと、困ったような様子を見せる。
「薬草師の助手を務めていてね。その頑丈な革だと蒸れないかい?」
彼が取り出すのは軟膏。少しでも彼女の傷を癒そうと思い、尋ねた。
「お願いするわ。夏になると、痒くて」
フォニケが革のリストバンドを外すと、醜く歪な傷が露となる。
軟膏を手に取ったユリアンは両手で挟むように軟膏を温めて優しく塗りこむ。
「温かい手ね……なんだかいい匂い」
リラックスしたようなフォニケにユリアンは思い出したように問う。
「高いところは平気?」
「ええ、バカとなんとかは高いところが好きっていうじゃない?」
こくりと頷くフォニケに対し、その場にいた全員が「例えるのが逆」と声を揃えた。
●
正面側の方へ回ったハンター達はこちらの方へと向かってくる敵の多さに目を引かれてしまう。
ファリフと言葉を交わしていたボルディアはアクベンスに近づける為の工夫を考えていた。
「だったらさ……」
ひそひそとファリフの耳打ちを聞くボルディアは楽しそうに頷くと、アイラ達にもファリフの話を伝える。
「構わねぇぜ」
「トリシュヴァーナはいいの?」
旭も楽しそうに笑い、アイラはファリフの相棒を気にした。
「大丈夫……たぶん」
そう呟くファリフだが、言い出しっぺなので、何とかする模様。
「じゃぁ、行くか」
空を見上げるボルディアの身体には犬耳と尻尾が生え、身体より溢れんばかりの紅蓮のオーラが沸き立ち、鎧のように身に纏わせている。
「シャル!」
ボルディアの声に反応した鮮やかな緋色の鱗を持つワイバーンが短く啼いて応えた。ワイバーンに乗り、上空へ向かう。
「こっちも行くか、ロジャック!」
旭も背中に大きなミミズクの翼の幻影を纏い、ワイバーンのロジャックを呼ぶ。
ロジャックはぐるりと旋回し、目的の位置へと移動した。
正面組二人がワイバーンに乗って飛ぶ姿を見たアイラも持ち場に向かう。
横目で友人であり、戦友のファリフを見やると、落ち着いた様子で敵軍を見つめていたが、武器を持つ手があまりに力が入っていた。
「ファリフ君」
「どうかした?」
アイラの方を向くのが少し遅れた反応を見せるファリフの方へと向かう。
「逸る気持ちはわかるから……ね」
「ここで戦うのは二回目だね。また守るよ」
引き締めた表情のファリフにアイラは頷く。
今この場にいるファリフは、あの時のファリフではない。
自分もまた、あの時と同じではない。
「案ずるな、我もいる」
ファリフの傍らにいるトリシュヴァーナが言えば、確かに違うとアイラは確信する。
「うん、守ろう」
二人が顔を見合わせてすぐ持ち場へと戻った。
先行して様子を窺っていた兎型歪虚の報告を受けたアクベンスはこの場にファリフを始め、彼が気に入った者達がいる事を知る。
「何という……幸運……」
うっとりと目を細める美少年は恍惚となり、艶やかなため息を吐く。
怠惰王に執着する彼の姿を見ていたいと思ったアクベンスだが、昔馴染みの欲望に手伝った甲斐があると思えた。
「あぁ、楽しみですね……」
その笑みをかたどる口は三日月のようだ。
●
レイアはボロウと感覚を共有、見つけるホーで向かってくる盗賊達の位置を確認していたが、脇の林から生体反応を感じた。
一人だけではない。複数。
その一人の生命反応をロックオンしたレイアは隠れるホーを発動させ、気づかれないように尾行させる。
向かっていく方向が定まると、それが先ほどリクが壁を構築し、中に潜伏していたタットルの協力者がいた方向。
予想通り、以前にアケルナルが要塞都市内にいた時、手引きしてくれる者に頼んでいたのだろう。内側から陣を壊し、隙を与えようとしていた可能性がある。
レイアが状況を伝えると、エルバッハがその方向へと向かった。
隠れるようにし、気づかれないように近づく。
ある程度近づいたエルバッハは盗賊達の人数を確認する。
魔導スマートフォンでレイアに確認すると、彼女がボロウを通じて視覚した人数と一致。エルバッハは捕縛した際、移動させるための人員を求めた。
捕縛するべくそっとスリープクラウドを発動させる。
盗賊達は一瞬浮かび上がる青白いガスに戸惑ったが、それは一瞬だった。眠気に抵抗できず、一人、また一人と倒れていく。
抵抗に成功した盗賊は首にかけていた笛を咥え、仲間に伝えようとした瞬間、光の杭が身体に撃ち込まれたような感覚に陥ってしまう。
術者……サクラの確固たる信念が盗賊を断罪する。
ジャッジメントの効果で動けなくなった盗賊へエルバッハは容赦なく攻撃し、昏倒させた。
すぐに盗賊達を持ち去るべく、部族なき部族のメンバーが現れ、盗賊達を縄で縛り、素早く後ろへと持っていく。
そろそろ交戦となろうとしているのに味方からの反応がない事に気づいたアケルナルは味方ではないだろう人影を見る。
「ちっ、向こうも本腰を入れてきたってワケか」
舌打ち混じりにアケルナルが呟く。
ハンター達の目的は歪虚を、盗賊を、要塞都市に害を為すものを近づけさせない事。
守るべきフォニケの傍らにいるユリアンはその対する敵の陣形に目を細める。
端側に向かうのは盗賊だけではない。人類を蹂躙せんとする歪虚もいた。
今回アクベンスが引き連れたのは素早い動きを得意とする狼型や鹿型等の獣型歪虚がほとんどであり、強力とも言えるオーガくらいしか見当たらなかった。
鈍いサイクロプスがいないのは盗賊団の隠れ蓑にできないからだ。
レイアは前に出で、自身の周囲にマテリアルを漲らせる。感覚を空間に拡張させた。
彼女の周囲には獣型歪虚と盗賊が複数向かってくる。レイアは魔導剣を抜く。もう一振り、冷たく濡れたように美しい刃を鞘から抜いた。
先に飛びかかってきたのは狼型歪虚だ。
大きく吠えてレイアへ前足を上げ、動きを見ていたレイアは合わせて剣を振り上げる。
前足を斬り落とし、体当たりを躱すレイアへ後ろから突き出される剣に気付く。
「……くっ」
身を捩っても間に合わず、刃がレイアの脇腹を滑る。
反射的に間を取るように半歩下がり、星神器「天羽羽斬」を鈍器のように刃を立てずに活人剣で膝を砕く。
次の攻撃に備えようと、レイアが構えると先ほど声を上げた女ともう一人の盗賊が息を合わせて攻撃を仕掛ける。
守りの構えをとったレイアは二人が繰り出すダガーの軌道を見極め、二刀流で刃を防いでなぎ倒す。
「無益な殺生は好まない。命が惜しければ今のうちに降伏する事だ」
静かな声音でレイアが警告するが、歪虚は獣の闘争本能で吠えると、レイアの横から光が伸びた。
ジェットブーツで懐に飛び込んだカペラは剣で歪虚を斬り倒す。
「宜しくね」
まるでカフェの相席を願うようにレイアへにっこり微笑むカペラ。
思い出せば、フォニケは快活な印象を受けた。きっと、ドワーフ工房の面子の気質なのかと思いながらレイアは向かってくる敵に剣を構えた。
●
正面の方では戦いは始まり、帝国軍や部族戦士の弓矢は太鼓を使用した号令で最前線の歪虚を潰していた。
それに合わせ、旭が乗っているロジャックが溜め込んでいたマテリアルのチャージが完了する。
気合を入れるかのように口を開いたロジャックがレイン・オブ・ライトを発動させた。
その名の通り、無数の光線が放出され、地を走る歪虚が爆撃される。その衝撃で周辺の歪虚が巻き込まれてしまう。
一斉射出が終えると、兵士と戦士が前に出ていく。
最前線を走るのはトリシュヴァーナの背に乗り、辺境民族の戦衣装の革と毛皮のコートを翻すのはファリフ・スコール、共に移動するのはペガサスに乗っているアイラ。
アイラはペガサスにエナジーレインを発動させていた。
味方に降り注ぐ光の雨に気づいたファリフは後ろを振り向く。
「我らに守護の雨が降った! 征くぞ! 今こそ我らの敵を屠る時!」
よく通るファリフの声が後ろから続く部族戦士を鼓舞し、士気を高めていく。
「そうね、行きましょ!」
アイラとファリフが顔を見合わせて頷いた。
「白ちゃん、お願いね」
視線を落としたアイラは膝元に待機している白猫に声をかけると、一声「にゃぁ」と鳴くと、アイラがコンバートソウルを発動させる。
更にシンクロナイズで味方の力を高めていく。
油断はできない。
これから戦うのはアクベンスなのだから。
戦況は人類側が押しているような状態だった。
今回、要塞都市側に侵攻してきた群れにが強力な歪虚は少ない。
オーガ以外の歪虚は機動力もあり、それらと比べて小柄なアクベンスがどこに隠れているのか。
現状、奴の姿は見えていない。
考え込むファリフに飛びかかる狒々型歪虚の投石に気づいたアイラがペガサスを走らせ、ファリフを守るように肌に紋様が走っている腕を掲げた。
マテリアルを紋様へ流し込むと、障壁が展開。石を跳ね返す。
「ファリフ! 隙をみせるな!」
トリシュヴァーナの叱責に当のファリフは「ごめんよ」と短く謝り、アイラの方を向くと、ファリフは一瞬身を硬直させた。
「いた……!」
小さく叫ぶファリフの視線を追ってアイラが見やれば彼女も見つけ、魔導スマートフォンで伝える。
「アクベンスがいたよ……!」
報告を聞いたボルディアと旭は前に出て、一斉にワイバーン達にファイアブレスを吐かせ、爆炎で歪虚達の視界を遮った。
●
端側の前衛をしている者はいたが、敵の数が多く、前衛を突破して中へと入りこんでいってしまう。
狙いは後衛にいるフォニケというのは賊も歪虚も共通見解のようだ。
ただ、フォニケだけが目的ではない。
彼女の心のよりどころであるドワーフ工房の壊滅を狙っている。
下手に隠れることをしなかった工房のメンツはフォニケを守るように後衛に陣取っていた。
敵の様子を見ていたサクラはユグディラのヤエと共に中衛近くまであがる。
サクラの姿が見えているとは思えないように敵は奥へと突き進もうとしていた。横目でそれを眺めていたサクラは首を傾げると銀の横髪が彼女の白い頬にかかる。
「私を無視して行くなんて許さないですよ……?」
その言葉が合図のように八重が複合楽器「バンドリオン」で旅人たちの練習曲の演奏を開始した。
旅人の歩みのような緩やかな旋律を繰り返す曲だが、飽きを感じさせない音が広がっていく。
サクラは筋肉に力を入れると同時に体内のマテリアルを光に変えて放出し、神聖剣「エクラ・ソード」を掲げる。
「筋肉の魅力に取りつかれなさい……マッスルトーチ……!」
放出された光に盗賊と一部の歪虚が反応する。
知能に関するスキルの為、低知能の歪虚は反応しなかったが、盗賊は反応した。
「理性の欠片もない者達かと思いましたが、意外です」
淡々と告げるサクラへ歪虚と盗賊達が襲い掛かる。
「ハンターとはいえ、子供一人だ!」
「見た目も悪くねぇ! 売っぱらえ!」
罵声を浴びせるかのようにサクラへ敵意が向けられていく。
「子供……?」
ぴくりとサクラが動きを止める。
盗賊にとっては子供を物のように扱う事に彼女は怒りを覚える。
「幼き者まで毒牙にかけるなんて許せません」
その言葉と同時に賊の胸に光の杭が打たれた。
ぎょっとなる盗賊達に容赦なくスリープクラウドの雲が視界を遮る。抵抗に成功した賊の首に当てられるのは杖。
「それ以上抵抗しますと、次は首を飛ばします」
エルバッハの警告に賊は彼女の顔を目がけて殴りかかる。腕に隠し持っていたダガーの切っ先に気づいたエルバッハは顔は避けたが、賊は彼女の腹に膝を入れる。
「かは……っ」
痛みに顔を顰めるエルバッハは杖を回し、首を横から打ち付け、賊の気を失わせた。
部族なき部族のメンバーも加勢し、盗賊達を捕縛していく。
●
アクベンスは狼型歪虚に乗り、背に張り付くように身を屈めて接近を試みていた。
自身が気に入る気高き者達へ驚きを返そうと。
しかし、ファリフはアクベンスを見つけ、互いの視線が交わされたとアクベンスは確信した。
瞬間、人類側のワイバーンが炎を吐き出し、アクベンスの同胞を焼き、視界を遮る。
アクベンスにとって、ファリフは生きても死んでも愉快の種だ。
同胞はその引き立て役にしか過ぎない。
炎の中、アクベンスは狼を走らせる。
ワイバーンの炎を抜けた先に見たのは金色の炎のように美しい毛並みを持つ大幻獣。そして、その背に乗るファリフ。
アクベンスは過去に喰らったマテリアルを思い出し、嗤う。
「お会いできましたね! 私の姫!」
跳躍したアクベンスは縄ひょうをファリフ達へと向ける。
「誰がお前の姫だ」
どこか不機嫌な女の声がトリシュヴァーナの頭上から聞こえた。
ワイバーンから飛び降りたボルディアが星神器「ペルナクス」を振りかぶってアクベンスに向かって降りてくる。
彼女が狙うのはアクベンスのもう一本の腕。
アクベンスは身を翻し、攻撃を避けることに成功した。
しかし、視界に入ったのは彼のお気に入りの兎耳つきシルクハットが頭を離れ、敗れてしまった。
「おやおや、情熱的ですねぇ」
片腕でも受け身をとったアクベンスは土も払わずにボルディアへ笑みを浮かべる。
星神器を振り上げ、ボルディアがアクベンスへ間合いを詰めていく。
アクベンスは縄ひょうの先をダガーのように持ち、ボルディアの攻撃をいなしていった。星神器を横に薙ぐと、アクベンスは跳躍し、彼女の背後を取ろうとする。
「させるか!」
トリシュヴァーナがアクベンスの背から飛びかかり、その背に爪を立てようとした。タイミングよくアクベンスが回避しようとするが、爪が脹脛を裂く。
「うっ!」
呻くボルディアの首にはアクベンスの縄ひょうの縄部分が巻かれており、一気に締められる。
「やめ……やがれ……っ!」
気合を吐こうにも縄が首に食い込んでいくが、ボルディアは息を止めるように力を入れ、アクベンスの腹に肘鉄を入れる。
「……ぐっ」
首の縄が緩んだ瞬間、ボルディアは縄を掴みアクベンスを引き寄せて自分ごとジャンプし、背負い投げた。
地に思いっきり背を打ったアクベンスはボルディアを蹴り上げ、後退するが、視界に入ってきたのは旭だ。
「うぉらぁあああ!」
気合と共に旭がアクベンスへ槍を一突き入れると、軽々と躱されたが、旭はすぐさま霊呪を活性化させた。
鎖を帯びた戦籠手の幻影がアクベンスへ向かい、拘束する。
隻腕の状態では易々と捕まえられたが、アクベンスは余裕そうであり、踵で地を三回タップしていた。
右側から狼と鹿の歪虚が走り出してきた。
予測していた旭はアイラの名を呼ぶ。
旭の呼びかけにアイラが応じた。彼女の背に白龍にも似た虹色の翼が広がる。
彼女はその方向へ光線を向けると同士討ちを始めた。
更にアクベンスの後ろからオーガが現れ、戦籠手の幻影を打ち払う。
「これ以上の進軍をさせるか!」
ファリフが飛び出し、オーガと交戦を始めた。
「振り出しですね」
「逃げなくてもいいぜ。持成しも出来てねぇからな」
自身の両拳を打ち付け、笑う旭の腕に付けられた赤い腕輪が光りを弾く。
旭が素早く拳をアクベンスに打ち付ける。歪虚は足でいなしては反動を使って縄ひょうの刃を旭の拳ごと突き刺す。
骨を砕かれる衝撃に旭は何とか堪え、刃を掴んでアクベンスの脇腹に膝蹴りを入れる。
アクベンスが刃を引き抜こうとすると、後ろからの背後に気づく。
星神器を手にし、アクベンスの背骨を狙い、振り下ろした。
「くっ!」
衝撃に顔を歪めるアクベンスから独特の甘い香りを発する。
意識の隙を掻い潜るようで甘い香りで意識が揺らぐような……。
旭とボルディアは本能的に全てのマテリアルを身体能力強化にのみ注ぎ込んだ。
「遊びの線引きを忘れるとダメですね。あの部族の生き残りの絶望を見たかったのですけど……」
苦悶の表情を浮かべるアクベンスはオーガ達をハンター達に任せ、自身は後退していった。
「待ちなさい!」
アイラが叫ぶと、オーガが棍棒を振り上げて襲ってきたが、トリシュヴァーナが守り、ハンター達は目の前のオーガを倒していく。
●
盗賊の殆どは捕縛することに成功したが、まだ次点アケルナルの捕縛がまだだ。
彼の側近だろう賊も強く、部族なき部族のメンバー達が交戦中。何人かが負傷している。
奥に来ているのは歪虚が多く、リクは機導砲やデルタレイで容赦なく打ち込んでいった。
周囲を確認し、インカムで近づく敵の位置を教え、ドワーフ工房のメンバー達が討伐していく。
「アケルナルがそっちに行った!」
リクが叫ぶとその方向へジェットブーツで走り出す。
「フォニケ、お前だけが来て無事に済むと思うな」
ニヤリと笑うアケルナルの声にユリアンのグリフォンであるラファルの背に隠れたフォニケは身体を竦ませるが、気丈にしていた。
ユリアンはラファルと離れたところにおり、ナイトカーテンで身を隠している。
進むアケルナルは横から近づくリクに気づき、剣を抜いて交戦を始めた。
アケルナルの剣撃は重く、リクは攻性防壁で敵を弾き飛ばす。
「やるな!」
楽しそうに笑うアケルナルの剣を聖機剣で受け止め、ジェットブーツの噴射で後ろに跳躍する。
「あ!」
アケルナルもジェットブーツでリクを追い、横に剣を薙ぐ。
「くっそ!」
リクはこの場から離れるべく、ジェットブーツで勢いをつけ、そのままマテリアルを噴射し続けて中空へと飛ぶ。
尚もアケルナルはリクを追おうと、移動をしようとする。
だが、彼は立ち止まり、本能的に振り向く。
先ほどはいなかった男……ユリアンが間合いまで近く飛び込んできた。
咄嗟に庇おうとするも、その速さに間に合わないが、アケルナルは笑う。
ユリアンの一撃を受け止めたのはアケルナルの身体ではなく、彼が仕込んでいた防御障壁だった。
「残念だったな」
「そうかい?」
青の瞳がアケルナルを射るように見やる。
「はぁ!」
その横からリクが一太刀浴びせようとしていた。
剣を合わせた二人だが、アケルナルがジェットブーツを使って間合いを取る。その先には狼型歪虚が待っている。
アケルナルは何も言わず、狼に乗って行ってしまった。
乱戦の中での結果で分かったのは、司令塔であるアクベンスとアケルナルが逃亡、盗賊の殆どが捕縛、一部が自決。
歪虚の半数が討伐されたということだった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/03/23 09:28:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/20 10:12:53 |