【奇石】石のチカラ

マスター:奈華里

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
6日
締切
2019/04/11 15:00
完成日
2019/04/24 23:41

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●研究日誌
 〇月×日
 今日も庭の樹の傍にパルムの姿を見た。如何やら、あの樹を気に入ったらしい。栗鼠の様に樹の傍を駆け回り、疲れれば根元で昼寝をしている。そう言えば、あの樹からは不思議な力を感じる。神霊樹程ではないが、何かしらの加護があるのかもしれない。

 〇月◇日
 今日もパルムが遊びに来ていた。やはり何かあるように感じて、少し地面を掘ってみる事にした。するとどういう訳か、複数個の光る石を発見。触れようとすると、更に光り出した。どういう仕組みだろうか?

 □月□日
 あれから石の事を研究していくうちに凄い事が分かった。この石はあの樹の樹液から出来たものと考えられる。つまりは琥珀? いやしかし、ただの琥珀とは思えない。私が触れると光り出す特性があるからだ。もしかすると、あの樹が神霊樹と関わりがあるのかもしれないが、私の専門外……植物学者に知り合いなどいただろうか?

 ☆月▽日
 植物に詳しい人の見解はこうだ。あの樹は神霊樹ではない。当たり前だ。こんな場所にぽっと育っている筈がない。ただ確かにマテリアルを有しているらしく、何らかの偶然が重なり微量ながら神霊樹とも繋がりがある植物が育ったのではという事だ。だからパルムが好んで来ていたのか。神霊樹は母なる樹なのだから。

 ☆月◎日
 この石は危険かもしれない。魔術師協会にサンプルを提出しようとしたが、途中歪虚に襲われた。光が奴らを呼び寄せるのだろうか? 否、石自体には何の価値もない筈だが…まさか、この石に力を保存できるのだとしたらどうだ? 一時的にそんな事が出来れば周囲の目を誤魔化せる。強者が弱者を装える。

 ×月◆日
 どういう訳か樹の近くにいれば襲ってこないようだ。ならばここに研究所を作るしかない。ちゃんとした事が判るまでこの石の事は秘密にしよう。一般人に運ばせれば問題なさそうだが、万が一の事もある。慎重に動かなくては。

 ×月□日
 欠片を奪われ、奴らはそれを呑み込んだ。やはりこの石は力を保存できるらしい。奴らはそれを取り込んで強くなったように思えた。奪われた相手がゴブリンでよかった。私の力でも退治できたのだから。けれど、これではっきりした。この石は良くも悪くも持ち主を強くする危険な石だ。

●全てはここから
 鉱石の一部と研究資料の回収――
 戦闘の際に多少荒らされはしたものの、それらしきものを回収して彼らは再び大広間へと戻る。
 ざっと資料に目を通した彼らは改めて目の前の鉱石と向き合う事となる。
「さて、どうしたものかね」
 今ならばこの鉱石が世に出た所で驚く者はいないだろうが、当時は一体どうだったか。
 日誌の言葉からはアドナのご先祖様の迷いが読み取れる。だが、今その事に捕らわれている場合ではない。
 問題なのはあの歪虚達。地中に潜ったという事はまた出てくる可能性を秘めている。
 従って、このまま放置する訳にはいかないのだが、そうなると一番の障害となるのはこの屋敷だ。
「…という事なんだが、最悪壊してしまっても構わないだろうか?」
 魔導スマフォを利用してハンターの一人がオフィスに許可をとる。
 屋敷に住み着いている訳ではないが、力の源としてこの鉱石を狙っている以上、持ち出したとしてもまだあると踏んでやってこないとも限らない。地下研究所への大穴は塞いだが、急場凌ぎに過ぎず、敵は土を掘るのはお手のものだ。
『アドナです。判りました…やりやすいやり方で…お願い、します』
 歯切れの悪い言い方で家主であるアドナがそう言葉する。
 襲撃から今まであっという間の出来事だった。慌てて逃げ出した為、全ては屋敷の中だろう。
 家族の思い出も、彼の研究成果も…そして、先祖の残した屋敷自体も全てはそこにある。
「……すまない。出来るだけ善処する」
 ハンターはそう言い通話をOFFにする。
 敵は油断ならないモグラ男と配下のミミズ達。屋敷を壊さないようにして戦う事が出来るだろうか。
 外に出ればいいとはいえ、出たら出たで新手の出現も考えられる。
 だが、ハンターの出現を察知してか初めの頃に比べ断然減っているのは確かだ。
 下級の雑魔は石よりも命をとったと見える。
「さて、最後の大仕事だ。気合入れていこうぜ」
 ハンターの一人がにやりと笑う。仲間もそれにつられて…いざ、最終局面へ。

リプレイ本文

●釣り餌
「ばりばりばり…」
 耳障りな咀嚼音を立てながらモグラ男は乱暴に昆虫を噛み砕く。
 ギィーと小さな悲鳴が上がろうとも、そんな事はお構いなしだ。
(クソ…アノハンター共ガ、邪魔サエシナケレバ…)
 苛立ちを抑えるように再び昆虫をわし掴み、口の中へと頬り込む。
 この体は彼にとってとても煩わしいものであった。目が見えないし、行動も限られる。唯一のメリットと言えば、敵の不意を突く事に長けているという所だろうか。しかし、不意をつけるとは言え、そう何度もつけるという訳ではない。一度知られてしまえば、不利になるものばかりだ。
 だから、子分が必要だった。捕食の関係を利用して手懐けてはみたが、それにも限りがある。
(力ノ石…ナントシテモ、手ニ入レナケレバ)
 モグラ男はそれを欲していた。それはもう喉から手が出る程に…。
 しかし、ハンターらはそこまでの事情を知る由もない。

「研究資料諸々は見つけたけど、付け狙う元凶をどうにかしないと落ち着かないわよね」
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が地下から運び出してきた資料を前に言う。
 鉱石については大発見とまではいかなかったが、それでもアドナ達の先祖の成果に違いない。であるから、出来る限り運び出したい。例えそれが昔のもので今はあまり価値がなくとも彼らのルーツを知る貴重な材料であるし、不思議な石と言う所に変わりはないからだ。加えて出来る事ならこの屋敷を壊さずに済ませたいと皆考えている。
「とは言え、だいぶ追い詰められちまったな」
 屋敷に残った面子を確認しながらレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が言う。
 残った人数は僅か四人――レイア・アローネ(ka4082)の助っ人で来ていた二人は、残念ながら別の仕事で滞在は叶わなかったようだ。つまりはあの時点でも厳しい戦いを強いられていたのに、今度は四人で立ち向かう事となり、激戦必至が予想される。
「まあ、頭数は減ったけどあの時とは違うわよ」
 沈む気分を持ち上げようと夢路 まよい(ka1328)が発言する。
 あの時との違いというのは、やはり相手の弱点が少なからず見えた事だ。
 音と匂いを重視する特性を活かせれば、敵が多くとも少しは有利に進める策を講じる事ができる。
「と言うと、具体的にはどうするんだ?」
 レイアが彼女に直球を投げる。
「そうね、例えばこのお酒なんてどうかしら?」
 そこでまよいが取り出したのは香りが強いで有名なお酒『ベルモット』だった。
 ベースは白ワインなのだが、ニガヨモギ等のハーブを一緒につけ込んでいる為とても薫りがよく好きな人も多い。が、嗅覚が際立っている相手に使えばどうなるか? 想像するのは割と容易い。
「成程、これはいいな」
「これならあのモグラ男には辛いかも」
 レイアとレオーネが直接匂いを嗅いで、そう判断する。
 だが、香りはあくまで敵と対峙してからの話だ。まずは敵を誘き出さなくては話にならない。
「これが使えればいいが、解放する手段が判らないからなぁ」
 まだ僅かな光を放っている例の石を取り出し、レオーネが言う。
「日誌に解放の方法は載ってなかったものな」
 レイアも思い出し言葉する。
 しかし、実際の所を言えば彼女達が気付いていないだけ。
 ヒントはちゃんと載っていたのだが、この時気付かなかったのだから仕方がない。
「でしたら、こちらを使って音で誘き出せはしないでしょうか?」
 そこでユーリが別案を提案した。彼女はマテリアル花火を連絡時に手配していたらしい。
 これは術者のマテリアルによって色が変わる代物で、火薬を使わないから火災の心配もないそうな。外で使う前提であるが、最悪中で着火しても問題はないのだという。
「私は試作型蓄音石を用意しておいたわよ」
 まよいがポケットから小さな石を取り出す。ただ、この石には難点があった。それはまず録音時間は一分程度だということ。そして、二m範囲のあらゆる音を拾ってしまうということ。それに加えて、再生時石の紋章に触れる必要があり、設置しての使用は難しい。だが、気を散らす意味で使うならば充分に役目を果たしてくれる事だろう。
「あー…オレはトランシーバーとかスマフォとかしか思いつかなかったぜ」
 恥ずかしそうにレオーネが言う。
「まあ、全てやってみるに越した事はないだろう。最悪の場合は私のソウルトーチで何とかしてみせよう」
 ふんっと胸を張ったレイアがそう言い切る。
 が、スキルとて万能ではない。地中深くに潜っている相手を引き付けられるだけの力までは持ち合わせてはいない。そうなると、勝負の鍵となるのはモグラ男にはない『知恵』だ。
「とりあえずは被害を抑える為にも外に仕掛けてみましょう。ここを荒らされるのは本意ではないですし」
 ユーリがロビーの方へ移動する。そっと扉を開けてみたが、今のところ外に敵の姿は見当たらない。
 見えたのは切り落とされたままの橋の残骸…支柱から伸びたロープの切れ端が風に揺れている。
 時間は今昼前といった所か。暫く見ていなかった太陽の光が眩しく感じる。
 けれど、生物の気配はまるでなく、やはりここが今異質な状態になっている事を痛感する。
(はやく終わらせなくては)
 彼女はそう思い、音を極力殺して進み屋敷の外にマテリアル花火を設置し始める。
 幸いな事に彼女が設置する間も襲撃はなく、待っていた三人は一安心。
 程なくして、大広間の大時計が正午を告げる頃には花火の設置は完了し、ユーリが皆に打ち上げの合図を送る。
(さて、うまくいけばよいのですが…)
 彼女がマテリアルを手元に集中させる。すると徐々に形を成してゆき、小振りの西瓜程の球体に仕上がると、それを設置した筒へと落とし込む。ことん…マテリアル球が筒底で音を立てた気がした。その後はもうあっという間だ。導火線となる場所に接すると同時に勢いよくそれは打ち上がる。

 ひゅるるるるる…ドッカーーーン

 華が開いた。それをハンターらは眺める事なく、視線は常に地面を這わせて、敵の出現を警戒する。
 だが、いくら待っても地面が隆起する様子はない。
「よもや、聞こえてないのか?」
 レイアがぼそりと呟く。
 念の為、もう一つも打ち上げてみたユーリであるが、その後の状況は一向に変わらない。
「この程度では釣られない、という事でしょうか?」
 ユーリが残念気に屋敷の方へ戻ってくる。
「どうしても中で戦う気かよ…面倒な奴だぜ」
 レオーネが嫌そうにそう呟くが、実際の所聞こえていなかった訳ではない。

「クソ、外ガ騒ガシイナ。新手カ?」
 傍にある生きたままの虫を喉へと流し込みながらモグラ男が舌打ちする。
 その舌打ちに周りにいたミミズはびくりと反応し、ずずずと後退。モグラ男の苛立ちを察したらしい。
(アレヲ先ニ奪ワレテハマズイ事ニナル…シカシ、今ハ補給ガ大事ダ)
 煩わしい体であるが、こればかりは仕方がない。
 穴掘りには予想以上にパワーが必要で…がりっと奥歯で虫を噛み砕く。
「オイ、様子ヲ見テコイ…イイナ」
 モグラ男はそう傍にいたミミズに命令した。

●目的
 花火作戦が不発に終わったかに見えたが、暫くの後動きが見える。
「ん、あれは」
 それは花火の筒のある近くだった。土が僅かに盛り上がり、打ち上げ用の筒がぐらりと傾く。
「来たわね」
 まよいの呟き。今回もフォースリングを装備して抜かりはない。
 ユーリも蒼刃共鳴で蒼姫刀を強化して敵の出現に備えている。
 ぼこりと浮いた土の表面をしっかりと観察しつつ、音を立てないようにも注意する。
 しかし、そこから現れたのは彼女達が待っていたそれではない。
「キシャーーー」
 ミミズとは言い難い不気味な声。しかし、それは紛れもなくミミズの雑魔だ。突然差し込んだ太陽の眩しい光が不快だったらしい。顔と思われる部分を出したのは僅かな時間で、またあっさりと踵を返し土に潜り込んでいく。
「逃がしません!」
 そこでユーリが駆け寄って、ぶすりとターンを決めていた胴に刀を差し、戻っていくのを妨害する。
「こいつを捕まえた所で何になるんだ?」
 レオーネがそれを見て問う。
「そうですね…少なくとも偵察にやったものが戻ってこなければ何かあったと考えてくれるのではないでしょうか?」
 いわばこれは人質のようなもの。相手はそれ程ミミズを大事に思っていないだろうが、それでも何らかの反応は見せてくれる事を期待したい。
「まあ、最悪出てこなかったらここを通ってあっちに行ってみるのもありよね」
 最終手段であるが、まよいがいともあっさりとそんな事を提案する。
「あぁ、けどそれだけは避けたいぜ」
 この細い道を下って敵の塒へ。
 それ程広くないからそれはもう敵から見れば恰好の飛んで火にいる夏の虫だ。
「さあ、ミミズ様。せいぜい、うまく働いて下さいませね」
 にこーと冷たい笑顔でユーリが言う。だが、彼女らの思惑通りには進まない。

 モグラ男とて馬鹿ではなかった。子供の様に音につられて簡単に出ていくなど三下のやる事。それでもミミズを向かわせたのは、別の意図があったから。モグラ男が再び姿を現したのは花火の後。数十分が経過した後の事だ。
 ごとりと音を立て、静まり返った部屋に顔を足す。そこは少しまで戦場だった場所…そうあの地下の研究室だ。
「モウアノ石ハナイ…カ」
 目には見えなくとも力の有無は判る。
 この場にあの石がない事を再度確認して、モグラ男は歩を上に向ける――とその前に少し細工が必要か。
「オイ、ココニモウ用ハナイガ、準備ハオコタルナヨ」
 既存に加えて、新たな部下を付き従え、モグラ男は通路を進む。

 キィィ

 時計の扉の木が軋む音がした。大広間にもハンターはいないようだ。にやりとモグラ男が口元をつり上げる。
 この先に人の気配がする。数は四つだ。どうやら数を減らしたハンターらは怖じ気づいたと見える。
(ドウセナラ奴ラモ俺ガ食ラッテヤロウ)
 一体どんな味がするだろうか。ぞくぞくする。人を食うのは久し振りだ。
 それがハンターならばさぞうまい事だろう。
(サア、イケ…下僕共ヨ)
 応接間の扉にスライムらが体当たりし、抉じ開けるとハンターらの視線がこちらに集まる。
 だが、その時にはモグラ男は既にある場所に身を潜めていた。

「くっ、こっちからか!」
 突如開いた扉に四人が一斉に振り返る。外のミミズは残念ながら見放されたらしい。
 まさか背後から来るとは思っていなかった彼女らは前回同様、動きがワンテンポ遅れている。
 だが、ざっと見た限り数は少なかった。
 スライムだけが相手ならばロビー程の広さがあれば十分だろう。
「私が引付ける! ユーリは新手を警戒してくれ」
 レイアは力強い声と共に身体から炎のオーラを立ち昇らせる。
 それと同時に、その力に捕らわれたスライムらは一斉に身体を伸ばし、彼女の方に跳び掛かる。
「ふんっ、何のこれしきっ」
 彼女はそれに二刀流の構え。人員が少ないならば一人で二人分の活躍をすればいいだけのこと。助っ人はいなくなったが、自分の実力を信じて、今は立ち回る。
「くっ、しかし相変わらず手応えがないなっ!」
 魔導剣を翻して、彼女が呟く。同時に跳んでくる二体をクロスにした剣の腹で受けて押し返すが、やはりゼリー状とあってあっさりとバウンドしダメージがあまり入った様子がない。
「だったら、これはどうかしら?」
 そこで加勢に入ったのはまよいだった。
 レイアの僅か後方で合わせた手の間に紫の球体が形成される。それをスライムの足元を狙って放てば、着弾と同時にぐにゃりと空間が歪み、スライムを巻き込んで集束する。
「全て無に帰せ…ブラックホールカノン!」
 スライムはそれを受けて一溜りもなかった。動きを封じられた中でぐしゃりと圧壊し、塵一つ残さず消えてゆく。
 レオーネもレイアを守る形で前方から向かってくるスライムらを攻性防壁の壁で弾き飛ばし、敵同士を巻き込み接近を防いでいる。
「しかし、本命はどこなの?」
「雑魚ばかりにここを任せて一体…」
『!?』
 ハンター達の頭にハッと閃きが降りた。
 敵の狙いはあくまであの石なのだ。という事は、これは恐らく…。
「そこですかっ!?」
 ユーリが運び出してきた資料の元へと走る。
 すると案の定、その影でごとりと音がして…反射的にユーリが刀を振り下ろす。
 出来る事なら雷切・咆穿を放ちたい所だが、それでは資料入りの木箱までも壊してしまうと力をセーブ。
 がそれが逆に仇となる。
「食ラウカ、バカガッ」
「クッ」
 木箱の下から一瞬見えたのは紛れもなくモグラ男の小さな瞳。見えていない筈の瞳がきらりと光る。
 そして、光ったと同時に捕まれたのはユーリの右足。木箱で見えにくくなっていたが、木箱の下に穴を掘っているらしい。そこから手を伸ばすと、モグラ男はそのまま中へと引きずり込もうとする。
「くっ、放しなさいっ!」
 がくんと体勢を崩した彼女はそれでも手にしていた刀を床に突き立て耐える。
「なんて事っ」
 そこでまよいがターゲットを変えて放ったのはマジックアロー。
 マギサークレットのおかげで集中力が研ぎ澄まされる。そこで狙いを僅かな隙間に絞って放った集中魔は渾身の矢となる。光の矢が宙をかけた。ぐんぐんと距離を詰め、そして着弾。木箱の一部が大破するも、これはもう仕方がない。
「有難う、助かったわ」
 姿勢を立て直して、ユーリが言う。但し、まだ敵を仕留め切れてはいない。
「当たってない?」
「はい、寸でのところで手を放したようなので恐らくは」
 土煙の先から視線を外さずに言葉を交わす。その爆発によって、スライムらも一旦距離をとっている。
「ったく、すばしっこい奴だぜ」
 レオーネがうんざりとした様子で言う。
「ともあれ、役者は揃った。あとはやるしかない」
 もう一度木箱の方を見る。
 運んできたはずの資料があちこちに散乱し、石も一部転がり出てしまっては今までの苦労が水の泡だ。
「ですね。ここで決めてしまわないとね」
 既に屋敷の完全保存は無理となってしまったが、長引けば長引く程被害は増えてしまうだろう。
 それだけはなんとしても避けたい。
「クソ…コレッポッチカヨ…オ前ラ、アレヲドコニ隠シタ?」
 木箱の中にマテリアルの入ったものが残っていたようだ。
 けれど、それは微々たるものでありモグラ男を満足させるには至らない。
「はぁ? 馬鹿いえ、そんなもの…」
「知りたいか?」
 そこでレイアの言葉を遮って、レオーネが含み笑みを浮かべ前へ。
 今ここでないと言えば奴はまた別のところに行ってしまうだろう事を懸念し、レオーネが会話を展開する。
「もし、私達が持っているとしたらどうしようっていうのかしら?」
 まよいもそれに加わって、
(これはチャンスよ…うまくいけば、あれをあいつに)
 まよいがポケットの小瓶を確かめる。
 しっかりと栓を締めておいたからモグラ男の嗅覚でもまだ気付いていない筈だ。
「本当ニオ前ガ持ッテイルノカ? 『力』ヲ感ジナイガ…」
 モグラ男が探るような表情で言う。彼自身は石の特性についてよくは知らないようだ。
「ええ、今は封印しているもの。けど、持っているのは事実よ…」
 まよいが慎重に言葉を続ける。
「なあ、石が欲しいなら、オレも持ってるぜ」
 前回のそれを取り出してレオーネがモグラ男に見せびらかす。これが決定打となった。
 漏れ出る力は微々たるものだが、彼は現物を見せられて、これ以上疑う意味もないと判断したのだ。
「オ前ラ…ソレヲ寄越セ」
 モグラ男が血走った眼で穴から跳び出す。
(かかったっ!)
 皆がそう思うも、果たしてかかったのは敵か己か。
 モグラ男の言葉と同時に床下を破って間欠泉の如く勢いでミミズ達も飛び出してくる。
(ッ!?)
 ハンターとモグラ男達との攻防は続く。

●騒音
 イソギンチャクの間を抜けるクマノミのようだというには少々無理があったが、状況はそれによく似ている。
 ただ、違う所と言えばクマノミは自らをイソギンチャクの元に委ねるが、ハンターらの場合は襲撃によりその場に身を置かざる負えないというところか。ユーリとレイアがまよいとレオーネの盾となるべく前に立って、伸びてくるミミズ達を薙ぎ払う。
「クッ、キリが無いな」
 一体何匹従えているのかは知らないが、ここにきて数が異常に多い。敵は消耗戦に持ち込むつもりなのだろうか。そうなってはこちらが不利だ。そこでこの状況を打破すべく、レオーネが事を起こす。
「レイア、肩借りるぜッ」
 レオーネはそう言って、レイアを踏み台に高く跳ぶ。
 そして、空中でスペルスラスターSPLを発動すると着地と同時に部屋の陰に何かを仕掛けに走る。
「逃ガスモノカ」
 それを追って、モグラ男も姿を現し彼に迫る。モグラ男の爪がレオーネの鼻先を薙いだ。鋭い爪の一閃に皮膚が裂け、血液が飛び散る。一瞬血が目に入りそうになったが、それを辛うじて回避する。
「や―、危ない危ない」
 状況を確認すれば、間一髪のところでまよいのマジックアローがモグラ男の攻撃を逸らしてくれていたようだ。
「気ぃ抜いてるんじゃないわよ!」
 まよいからの叱咤が飛ぶ。が、そんな彼女に返事を返す暇がない。モグラ男はまだ彼を諦めていなかった。姿勢を低くし、飛び掛かるような態勢で彼の足元を狙ってくる。
(たっく、しつこい奴だぜ)
 彼が足元にヒートウェーブ・スラッシュを放った。男に当たらなくとも、雑魚が減ればそれでいい。
 案の定、モグラ男は飛び上がる事でそれをかわしてみせる。
「口の割に大した事はないな」
 レイアが挑発する。
「そうよ。逃げてんじゃないわよ」
 まよいもそう言い、追い打ちをかける。
「馬鹿ニシヤガッテ」
 もともと短気なのかもしれない。がこの時既にモグラ男のイライラはピークに達している。
(タッタ四人ニ、コウモコケニサレルトハ)
 ミミズ達の動きが悪い。実はミミズとは本来驚異的な再生能力をもっており、たとえ真っ二つにされても完全に死ななければ別れた胴が別々の個体として生きるという性質を持っている。だから、完全に消滅していなかったものを集めて再編成したのであるが、それでも休息の時間が短く完全回復には至っていなかったらしい。
 こうなると頼れるのは自分のみ。
 幸い、ハンターを倒せばあの石が手に入る筈。あの石があれば回復は容易いと彼は信じている。
 モグラ男が再びレオーネに迫る。さっき作った穴を利用して、地下から彼の背後をとるつもりのようだ。
(フッ、所詮ハ人間…ココナラ俺ノ方ガ有利)
 土の中から耳を澄ましてモグラ男がハンターらの位置を把握する。
 だが次の瞬間、その作戦に穴があった事を思い知らされる。

 ひゅるるるるるる どっかーーーん
 ひゅるるるるるる どっかーーーん

 それは少し前に聞いた音によく似ている。
 これは玄関? いや、もっと近いかもしれない。新手が来たかと土の中でモグラ男は焦り始める。
(マサカ…ソンナ筈ハ)
 よもや中で火薬でも使っているのか。音が近い。
 しかもそれは大音量で何度も何度も繰り返されて…耳がいい彼にとっては不快極まりない。
(ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ)
 頭に響くそれに耐え切れなくなって、モグラ男は已む無く上を目指す。
 その傍に転がってきた石を見取り、彼はハッとした。
「あーら、ごめんなさいね。手が滑っちゃったのよ」
 穴を覗き込む形で見下ろしてまよいが言う。石を投げ込んだのは彼女に間違いない。
 そして、モグラ男の近くで光るとそこから再びさっきの爆発音が流れ出す。
「グッ!?」
 モグラ男が耳を塞ぐ。
「あなたは知らないでしょうけど、今はこんな便利なものがあるのよねっ。これもおまけよ。受け取りなさい!」
 まよいはそんな彼に少女のような笑顔で手にしていた小瓶を投げつけた。
 すると穴の中で小瓶が割れ、強烈な匂いを発し彼の鼻を攻撃する。
「グ、ガァァァ!!?」
 香草の匂いは彼にはあまりにもきつ過ぎた。慌ててモグラ男は穴からとび出す。しかし、その頃には部下だった筈のミミズとスライムはすべて息絶えてしまっていて、もう彼を守る者は存在しない。
「後はお前だけだな」
 レイアが鋭い目つきで言う。身体中に結構な数の傷を作ってはいるが、重傷に至るものはない。
「ご覚悟を」
 そう言うのはユーリだ。初めの借りを返そうと、男に刃を向ける。
「そらっ、アイシクルコンフィン!」
 少し先ではレオーネがスキルを発動させ、出来てしまった穴と言う穴を氷の柱で塞ぎにかかっているようだ。
「グ、グググ…」
 モグラ男が奥歯を噛む。こんな筈ではなかった。力を求めて何が悪い。
「……殺ス。貴様ラ全員、殺ス」
 憎悪のオーラを立ち昇らせて、モグラ男が向けられた刃を押しのけて、ロビーをかける。
 そして、何を思ったか、男は階段の下の方へと進路をとる。
「アレは…まさか」
 ユーリが男の狙いに気付いて、彼を追いかけようと一歩踏み出す。その時だった。

 ピルルルルルルルル ピルルルルルルルル

 突如ロビーに鳴り響いたのは大音量の着信音。さっきの仕込みはこれだったようだ。
 再びの騒音攻撃にモグラ男の動きが止まる。
「今だ、やっちまえっ!」
 レオーネの声にユーリが再び動いた。駆け込みざまに手にしていた武器を構えて、雷切・咆穿の体勢。
 正面のモグラ男を見事に貫く。串刺しになってももがく彼に向けては、まよいがアブソリョートゼロで追い打ち攻撃。そうなると、そこから抜け出すのは難しい。半ばパニック状態でせり上がってくる血に似たものをゴホゴホと吐き出す。
「ジグ、ショ…ジグショーーー!!」
 それが男の最期の言葉。
 暫くもがくかと思ったが、そう言う事もなくモグラ男は徐々に塵へと姿を変え、消えてゆく。
 後に残ったのは、汚れたロビーと散乱した資料の類いだ。
 大半は穴の奥に落ちてしまったようだが、それでもまだ数点この場に残っている。
「流石に無傷とはいかなかったな…」
 これでもましな方だとは思うが、これを修復するには時間がかかるだろう。
「どの道、どんな場所に穴があるか判らないので調べになければ地盤沈下の恐れも…ん?」
 ユーリが言いかけて、ふと足元に耳を澄ませる。

 ゴゴ、ゴゴゴッ

 それは床下が軋む音。あれだけミミズが暴れた後だ。ここまでもったことが奇跡に近い。
「これは、やばくないか?」
 額に汗の道を作りつつ、レイアが言う。
「とりあえず逃げましょう」
 まよいの言葉と床の崩壊――それは、ほぼ同時の出来事あった。

●記録は記憶に
 離れ小島と化した館に本来の主らが訪れる事になったのはそれから一か月後の事である。
 モグラ男達が掘りまくったせいで地盤は緩みロビーは崩壊。玄関を開けると大穴がぽっかり空いた状態となる。
 だが、アドナの書斎兼研究室を始め、その他の部屋は無事であったから荷物を回収に至っては問題ない。
「わたしのお服も、うーたんのお服も、ぜんふぜんぶもどってきたよー」
 屋敷から運び出された持ち物を前にエルが笑顔で言葉する。
 だが、アドナの先祖の研究に関しては残念ながら八割方が土に埋まってしまったそうだ。
「全てを保存出来ず、申し訳ありませんでした」
 ハンターらはそれを聞き、そう謝罪する。けれど、アドナの方はそこまで落ち込んでいない。
「元々は知らなかったものですし、気にしないで下さい。それにこちらこそ色々お騒がせしてしまいすみませんでした」
 先祖の遺産が呼んだこの事件――結局、歪虚が求めていた『力の源』とやらは発見されなかった。
 ただ、あの後回収できた石を元に魔術師協会他鉱石に詳しい者達が出した答えはこうだ。
「あの石にマテリアルを保存する力は確かにあった。しかし、樹の寿命と共に樹から出来たあの石の力も失われていったと考えられます。現に、今ここにある石は全て光らせる事は出来ますが、すぐにまた消えてしまいますからね」
 レオーネが手にした石も、アドナの御守りも。確かにマテリアルに反応し、光る事はあるのだが、時間が経つにつれて灯りは弱くなり、次第に消えてゆく。
「つまり、これはいわばもうバッテリー的価値しかないと?」
 リアルブルーの技術に興味があるレオーネ。この鉱石を電池に例えるとはなかなかだ。
「まあそういう事になりますね。樹が枯れた件については植物学者に見て貰った結果、寿命がきたという事で間違いないようです。とすると、歪虚がやってきた理由として考えられるのは一つだけ。あの樹が枯れたから石の力が露になってしまい、襲撃を受けたのではないかと」
 オフィスに来ていた専門家の一人がそう皆に説明する。
「だが、何故枯れて発覚する? 石自体はずっとそこにあったのだろう?」
 レオーネが腑に落ちない様子でそう尋ねる。
「あー…そうですね、何と言えばいいかな。あの石はあの樹の子供のようなものだから、あの樹が石の存在を守っていたというのはどうですか?」
 出来るだけわかりやすく言葉を選んで専門家が言う。
「守っていただと? 生き物でもないのにか?」
 がやはりそんな例えでは納得しがたいらしい。
「では言い換えましょう。隠していたというのはどうですか。神霊樹に歪虚が安易に近付けないように、あの樹にも近付かせない力があった。しかし、あの樹は枯れた。つまりあの樹が枯れてしまったが故に、隠された石を守るものはいなくなった」
「木は森に隠せ…というやつですね」
 アドナが彼の言葉を結果的に補足する。
「樹の方が目立っていて判らなかったと考えてもいい。とにかくそれがなくなり、保存されていた力が目立ち始め、それに目を付けた歪虚が押し寄せてきた…そういう事でしょう」
 あくまで推測であるが、それが一番しっくりくる理由という訳だ。
「という事は歪虚達もこの石に随分踊らされていたという事になりますね。フフッ、滑稽です」
 その事を知って、ユーリがくすりと笑う。
 力を求めてはるばるやって来たのに、肝心の力の石は樹を追うように力を失い始めた。そして、最後に残ったのはただの石のみ。そう考えると、必死に追い求めて襲ってきたモグラ男の悲劇っぷりと言ったら…。
「道理で後半は襲撃が少なかった訳だな」
 あれだけ始めは大群だったのに対して、屋敷に入った後はそれ程でもなくなってきていた事を思い出し、レオーネが納得。雑魔や下級歪虚の類いは本能で動いているようなものだから、仕方がないのかもしれない。
「あぁ、しかし一言でも何か残してくれていたらこんな大事にはならなかったのになぁ」
 アドナが先祖に愚痴を零し、大きな溜息をつく。
 けれど、先祖は先祖でそこまで考える余裕はなかったのであろう。
 だが、歪虚から石を守る為、色々策を講じていた事は間違いではなかったと思う。
「ま、敵の手に落ちなくてよかったわよ。下手すれば本当に危なそうだし」
 もしこの石の能力が健在で、大戦の最中に七眷属級の敵がこれを回復道具として使ってきたら、ハンターらはたまったものではない。便利であるが故に、どちらが手にするかによって良くも悪くもなるものは案外とても多い。
「とりあえずは珍しい石として、残りの石は博物館や資料館が回収。樹石と言う名で保管される事になりました」
 アドナがハンターらにこの後の事を教えてくれる。
「そうですか。でも、それが一番だと思います」
 あどけない笑顔で遊んでいる兄妹を見つめて、別での保管を提案していたユーリが安堵する。
 かくしてとても時間がかかったが、この事件もこれで終幕。あの屋敷はこの後、取り壊す事になるそうだ。
「あ、そうそう。この石の力の解放方法は判ったのかしら?」
 まよいが思い出したように専門家に尋ねる。すると、専門家はあっさりとこう回答。
「研究日誌にありましたよね。敵は石を呑み込んだと…つまりは砕くあるいは壊す事で解放されると思われます」
「あっ……あー、そう、なのね。って、それ結局使い辛くない?」
 樹から離れれば石に保存した力を敵に勘付かれるし、その問題を仮に解決したとしても、ピンチの時咄嗟に石を砕く事が出来なければ石の力を得られない。となると、ガラス程脆くない限りハッキリ言って不便でしかない。
(アドナさんのご先祖様には悪いけど、結局使えない感じよね…)
 もしかしたら別の方法がまだ隠されているのかもしれないが、どの道研究する者がいなければここまでだ。
 だからこれはもう思い出に――先祖の遺産がどんなものだったかが明らかになっただけでも、アドナ達家族にとっては大きなこと。屋敷に住めなくなった事は残念かもしれないが、全てはきっと記憶刻まれている事だろう。
「エルちゃん、あそぼ―」
 とそこへエルを探して、エルと年の近い少女が彼女を誘いに来る。
 もう怯える逃げる事はない。一か月の月日が彼女ら家族を受け入れ、この地に根を張らせたようだ。
 今度はここで、アドナ達家族の新たな思い出が築かれてゆく事であろう。
 その道に幸あれと――誰もがそう願うのであった。

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参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/04/11 13:07:44
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/07 02:49:08