ゲスト
(ka0000)
芯星と金星の取り換えっこ
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/13 07:30
- 完成日
- 2019/04/19 22:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
先日、歪虚アクベンスが大群の歪虚と盗賊団タットルを引き連れてきた。
それぞれの大将であるアクベンスや盗賊団次点のアケルナルは最終的には逃亡、ハンター達の協力もあって、歪虚や盗賊団は要塞都市内に入る事はなく、要塞都市内の市民は安心を得る。
盗賊団は自決したりする者もいたが、捕縛して監視下に置かれた。
まずは上の方だろうと思える盗賊に詰問したところ、だんまりされてしまい、一部は舌を噛んで流血沙汰へ。
とりあえずは下の方にも話をしようとしたら、あまり大した事は知らない。
ただ、思った以上によく喋る。
「上の奴らを拷問にもかけますかにゃ?」
何気なく案を上げるテトはやることに問題はない模様だった。
「そういうことをナチュラルに言うものではないわ」
額に指先で抑えつつ、フォニケが返す。
「もう少し情報を引き出したいな……」
苦い顔をするファリフに全員が同意している。
「下の連中に話してくるわ」
カペラが身を翻し、「じゃーねー」と明るい調子でカペラは行ってしまった。
結果、カペラと取り調べをしたが、下っ端盗賊の情報は薄い。
とりあえず、カペラは世間話を始めた。
「ところで、アケルナルって人、強いわよね……依頼に対応したハンター達は強い人達ばかりなのに、よく撤退ってできたわよね」
これは本心だ。
アケルナルは強いとカペラは思った。
「だろ! あの人は本当に強い!」
「顔もいいからなぁ。酒場に行けば女に大モテだぜ?」
うんうんと頷く下っ端盗賊にカペラは話を続ける。
「首領となれば、強いものがなるものよね? 彼より強いの?」
そこで下っ端盗賊はきょとんと、目を点にしてその表情で顔を見合わせた。
「いや?」
「だよなぁ」
ふたりの様子にカペラは割って入る。
「まって? そんなに、強くない?」
「ああ、今は五十過ぎた爺さんだけど、強いか?」
「覚醒者だけど、そんなに……アケルナルさんが従っているからなぁ」
頷く二人の言葉にカペラはじっと見ていた。
「基本的に一番強いのはアケルナルで、首領はそんなに強くないの?」
そうだと彼らは肯定する。
「なんで首領に就かなかったのかしら? 普通、一番になりたいでしょう?」
カペラが真顔で疑問を口にすると、盗賊達は「そうなんだよ」と返す。
「あ、でも、あの人は首領に拾ってもらったって聞いたことあるぜ」
思い出したように下っ端盗賊が言えば、カペラは食らいつく。
「恩義感じて首領にさせたってこと?」
「じゃないかなぁ」
「盗賊なのに自決した団員いたわよね? ある程度、上の連中は捕まったら死ぬように言われてるの?」
それはないと二人は言い切った。
「強い連中はそれなりに戦闘訓練を受けたことがあるって聞いた。大体は傭兵で雇い主とかに裏切られたりしてアケルナルさんにスカウトされたって」
「ふぅん、下から好かれてるのね」
「強いから部下がついてくるんだよ」
そういうものかとカペラは納得する。
「アケルナルも昔は傭兵とかしていたのかしら?」
「どうだろうな。ガキの頃に拾われたって話だし、各地を潜り込んでは金目の物を奪ったりしてたから、やって時もあるんだろうな」
「拾われたってことは? 孤児?」
「どうだろう、ただ、アケルナルさんの故郷は成人になる時、同じ年の連中と一緒に熊を探し出して倒す試練があるって言ってたぜ」
思い出したように呟く盗賊にカペラは目を細め、程なくして場を切り上げた。
その後、カペラは聞いた話をアルフェッカ達に伝える。
「成人の儀式は部族によって違うからね。ファリフちゃん、テトちゃん、聞いた事あるかい?」
アルフェッカが尋ねると、ファリフもテトも分からないといった様子。
「にゃぁ、部族も様々ですにゃが……」
「そういうの知ってそうな人に聞いた方が早そうかも」
もしかしたら、滅ぼされた部族かもしれないとファリフは言葉をつづけた。
ファリフは古い部族の情報に詳しい人物へ問い合わせたところ、二十年くらい前に滅ぼされた部族の試練と似ているという話が出てきた。
戦闘能力に秀でた者が多かったとその人物は懐かしそうに笑っていたという。
その部族は元々一つの部族が二つに分かれ、片方が守り、片方は守られる部族だったという。
互いに最低限の戦闘はできるが、守る方の部族、ウルサマヨル族は皆強いと言われていた。
しかし、歪虚に襲われ、ウルサマヨル族は滅ぼされ、近くにあったウルサミノル族はその数年後、盗賊に滅ぼされたという。
「盗賊……なぁ……」
ぽつりと呟くアルフェッカにその場にいた全員が微妙そうな顔をしていた。
「今、部族なき部族のメンバーが見に行ってますにゃ」
テトが言えば、アルフェッカは「手がかりあるのかよ」と肩を落とす。
数日後、部族なき部族が報告を上げてきた。
「ウルサミノル族に生き残りが……!?」
驚くカペラにテトは頷く。
「にゃけど、かなり警戒が高くなっているようで、すぐ逃げられてしまったそうですにゃ。周辺には歪虚もいるようで」
「人数は?」
「二人ですにゃ。老人と十歳くらいの女の子」
滅ぼされた後に棲みついた者だろうか、移動して生活する部族ではなさそうだと皆は思った。
「歪虚を倒すところと、食料でも渡せば話してくれるかな……保護したっていいし」
うーんと考え込むアルフェッカにフォニケが口を開く。
「私、話してみたい」
「はぁ!?」
「危険ですにゃ! まだアケルナルの居所は不明ですにゃ!」
アルフェッカにとテトが抑止しようとしてもフォニケの意志は固い。
「そりゃ、アケルナルの前では使えないけど、私ばかり守られてばかりは嫌よ」
意見は分かれているが、だんまりするファリフにカペラが視線を向けた。
蒼天の青の瞳がじっとフォニケを観ている。
「ボクはフォニケさんの意見を尊重する」
口にしたファリフ当人は皆からの抗議を受けたが、何とか説得し、フォニケが出かける事になった。
変装をし、テトと部族なき部族のメンバー、ハンターと共にいく事になった。
それぞれの大将であるアクベンスや盗賊団次点のアケルナルは最終的には逃亡、ハンター達の協力もあって、歪虚や盗賊団は要塞都市内に入る事はなく、要塞都市内の市民は安心を得る。
盗賊団は自決したりする者もいたが、捕縛して監視下に置かれた。
まずは上の方だろうと思える盗賊に詰問したところ、だんまりされてしまい、一部は舌を噛んで流血沙汰へ。
とりあえずは下の方にも話をしようとしたら、あまり大した事は知らない。
ただ、思った以上によく喋る。
「上の奴らを拷問にもかけますかにゃ?」
何気なく案を上げるテトはやることに問題はない模様だった。
「そういうことをナチュラルに言うものではないわ」
額に指先で抑えつつ、フォニケが返す。
「もう少し情報を引き出したいな……」
苦い顔をするファリフに全員が同意している。
「下の連中に話してくるわ」
カペラが身を翻し、「じゃーねー」と明るい調子でカペラは行ってしまった。
結果、カペラと取り調べをしたが、下っ端盗賊の情報は薄い。
とりあえず、カペラは世間話を始めた。
「ところで、アケルナルって人、強いわよね……依頼に対応したハンター達は強い人達ばかりなのに、よく撤退ってできたわよね」
これは本心だ。
アケルナルは強いとカペラは思った。
「だろ! あの人は本当に強い!」
「顔もいいからなぁ。酒場に行けば女に大モテだぜ?」
うんうんと頷く下っ端盗賊にカペラは話を続ける。
「首領となれば、強いものがなるものよね? 彼より強いの?」
そこで下っ端盗賊はきょとんと、目を点にしてその表情で顔を見合わせた。
「いや?」
「だよなぁ」
ふたりの様子にカペラは割って入る。
「まって? そんなに、強くない?」
「ああ、今は五十過ぎた爺さんだけど、強いか?」
「覚醒者だけど、そんなに……アケルナルさんが従っているからなぁ」
頷く二人の言葉にカペラはじっと見ていた。
「基本的に一番強いのはアケルナルで、首領はそんなに強くないの?」
そうだと彼らは肯定する。
「なんで首領に就かなかったのかしら? 普通、一番になりたいでしょう?」
カペラが真顔で疑問を口にすると、盗賊達は「そうなんだよ」と返す。
「あ、でも、あの人は首領に拾ってもらったって聞いたことあるぜ」
思い出したように下っ端盗賊が言えば、カペラは食らいつく。
「恩義感じて首領にさせたってこと?」
「じゃないかなぁ」
「盗賊なのに自決した団員いたわよね? ある程度、上の連中は捕まったら死ぬように言われてるの?」
それはないと二人は言い切った。
「強い連中はそれなりに戦闘訓練を受けたことがあるって聞いた。大体は傭兵で雇い主とかに裏切られたりしてアケルナルさんにスカウトされたって」
「ふぅん、下から好かれてるのね」
「強いから部下がついてくるんだよ」
そういうものかとカペラは納得する。
「アケルナルも昔は傭兵とかしていたのかしら?」
「どうだろうな。ガキの頃に拾われたって話だし、各地を潜り込んでは金目の物を奪ったりしてたから、やって時もあるんだろうな」
「拾われたってことは? 孤児?」
「どうだろう、ただ、アケルナルさんの故郷は成人になる時、同じ年の連中と一緒に熊を探し出して倒す試練があるって言ってたぜ」
思い出したように呟く盗賊にカペラは目を細め、程なくして場を切り上げた。
その後、カペラは聞いた話をアルフェッカ達に伝える。
「成人の儀式は部族によって違うからね。ファリフちゃん、テトちゃん、聞いた事あるかい?」
アルフェッカが尋ねると、ファリフもテトも分からないといった様子。
「にゃぁ、部族も様々ですにゃが……」
「そういうの知ってそうな人に聞いた方が早そうかも」
もしかしたら、滅ぼされた部族かもしれないとファリフは言葉をつづけた。
ファリフは古い部族の情報に詳しい人物へ問い合わせたところ、二十年くらい前に滅ぼされた部族の試練と似ているという話が出てきた。
戦闘能力に秀でた者が多かったとその人物は懐かしそうに笑っていたという。
その部族は元々一つの部族が二つに分かれ、片方が守り、片方は守られる部族だったという。
互いに最低限の戦闘はできるが、守る方の部族、ウルサマヨル族は皆強いと言われていた。
しかし、歪虚に襲われ、ウルサマヨル族は滅ぼされ、近くにあったウルサミノル族はその数年後、盗賊に滅ぼされたという。
「盗賊……なぁ……」
ぽつりと呟くアルフェッカにその場にいた全員が微妙そうな顔をしていた。
「今、部族なき部族のメンバーが見に行ってますにゃ」
テトが言えば、アルフェッカは「手がかりあるのかよ」と肩を落とす。
数日後、部族なき部族が報告を上げてきた。
「ウルサミノル族に生き残りが……!?」
驚くカペラにテトは頷く。
「にゃけど、かなり警戒が高くなっているようで、すぐ逃げられてしまったそうですにゃ。周辺には歪虚もいるようで」
「人数は?」
「二人ですにゃ。老人と十歳くらいの女の子」
滅ぼされた後に棲みついた者だろうか、移動して生活する部族ではなさそうだと皆は思った。
「歪虚を倒すところと、食料でも渡せば話してくれるかな……保護したっていいし」
うーんと考え込むアルフェッカにフォニケが口を開く。
「私、話してみたい」
「はぁ!?」
「危険ですにゃ! まだアケルナルの居所は不明ですにゃ!」
アルフェッカにとテトが抑止しようとしてもフォニケの意志は固い。
「そりゃ、アケルナルの前では使えないけど、私ばかり守られてばかりは嫌よ」
意見は分かれているが、だんまりするファリフにカペラが視線を向けた。
蒼天の青の瞳がじっとフォニケを観ている。
「ボクはフォニケさんの意見を尊重する」
口にしたファリフ当人は皆からの抗議を受けたが、何とか説得し、フォニケが出かける事になった。
変装をし、テトと部族なき部族のメンバー、ハンターと共にいく事になった。
リプレイ本文
ハンターがドワーフ工房に到着し、同行する依頼人側のメンバーを見た時、誰もが『対照的』という感想を持った。
男物の服を着ているフォニケと、女性物の服を着ているルックスがいた。
ルックスは何で女物を……とどんよりしている。
しかし、普段は明るい少年であるルックスだが、大人しくしていると、その容貌は中性的だ。体躯も細い。
髪に櫛を入れ、眉を整え、アイラインを流し、紅を差せば女性にも思える……というか、現時点できちんと女装をしており、肩を張らず、歩き方にも気を付ければ騙せると星野 ハナ(ka5852)は踏んでいる。
変声期を終えた声を出さなければ……であるが。
「……大丈夫ですか?」
あまりのやつれ具合に木綿花(ka6927)がルックスに声をかける。
「うん……だいじょぶ……」
「ああ、ルックスは胸に詰め物されて心が折れてるだけですにゃ。お気になさらずにですにゃ」
それは心が折れても仕方ないのでは……と木綿花は思いつつ、黙っていた。
「ルックスさん、美人さんですよ。フォニケさんはカッコいいのです」
可愛らしく微笑む美少女エステル・ソル(ka3983)に誉められてルックスは色々と諦めた。
その一方、フォニケの肌が妙にツヤツヤしているのはルックスの服を身立てたり、頭や顔を弄ったりしたからだろう。
落ち込んでいない様子に安堵するのはディーナ・フェルミ(ka5843)。
「何故、女装を?」
「ルックスに女装をさせたのは、以前の任務でタットルのメンバーに顔を割れてしまっているからですにゃ」
サクラ・エルフリード(ka2598)の疑問にテトが補足説明をした。
ルックスの被害は同情したくはなるが、フォニケが落ち込んでいなくてよかったとユリアン(ka1664)も思う。
行く前に買い物をすることになり、要塞都市内の市場で買い物となった。
向かう先には女の子がいるという情報を聞き、木綿花は可愛い雑貨を贈ろうと考えている。
「色味鮮やかなものや、手触りがいい物がおすすめ」
思案する木綿花にフォニケが助言をする。
「子供は色味の濃いものを好むからね」
自分の兄弟を思い出しながらユリアンが頷く。
まずは視覚、触覚から興味を引いてもらうという方針は決まったようだ。
サクラは甘味を選ぼうとしており、パウンドケーキを選ぼうとしていたところ、日持ちがするものをテトから勧められた。
「飴玉とかですか」
視界に入った飴玉が入った瓶をサクラが手に取る。
「あ、綺麗」
飴玉の中に花びらのようなものが入っている。
「この花は食べられる花の花弁だね。砂糖漬けにして加工したものを使っているんだと思うよ」
ユリアンが教えると、エステルも同意する。
「この地は花が咲く地域はごく限られた場所です。きっと喜ばれると思うのです」
「そうします。本当は手作りのお菓子を……と思ったのですが、仲間に全力で止められたのです」
しょんぼりするサクラの言葉にその場にいたメンバーはなんとなく察した。
「リボン付けてもらいましょう。二色のリボンで可愛らしく結んで」
あまり触れない方がいいと察した木綿花はサクラに会計を勧めた。
周囲を窺うユリアンが探すのはフォニケ、ディーナ、ハナ。
ハンター二人が一緒ならば問題ないと判断したが、ルックスが指さしたのは屋台の加工肉屋。
「見てください! 大きくて美味しそうなベーコンです!」
「美味しそう!」
キラキラと目を輝かせるディーナにフォニケも頷く。
彼女達の目の前には吊るされたベーコン。
「ハナちゃん、あれでステーキ!」
「スープもいいですー」
買うのはフォニケ達だが、作るのはハナだ。勿論、皆で手伝うが。
「こちらでもぉ、米の流通はありましたよねぇ。ベーコンの脂を吸わせてぇ炊き込みご飯もしましょうかぁ?」
これから向かう部族で持て成す料理は温かい食べ物が好まれると考えていたが、稲作をしているとは思えないので、米料理もいいだろうとハナは考えた。
「お鍋もね! 行きましょ、ディーナちゃん、ハナちゃん!」
「はい!」
お肉に振り回されつつ三人は米を探しに行く。
食料を買い込みが完了し、一行はウルサミノル族の方向へと向かう。
歩いている間にハンター達から疑問が浮かぶ。
「お三方の部族の祖霊はなんですか?」
エステルの言葉に最初に応えたのはテトだ。
「テトの部族は猫の祖霊ですにゃ。祖霊に対するトランスが激しいので、このような口調なのですにゃ」
話は胡散臭いが、実際にテトが覚醒する際、マテリアルに反応して猫の紋様が浮かび上がる。
「にゃけど、テトは生まれて間もない頃に先代リーダーに拾われてますにゃ」
「部族なき部族のメンバーは皆さん、祖霊が違うのですか?」
ディーナの問いにテトは頷く。
「そうですにゃ。皆、部族に滅ぼされた生き残りですにゃ。メンバーには必ず生まれた部族の祖霊の名をコードネームにしてますにゃ」
いつもテトと呼ばれているため、コードネームで呼ばれることは少ない模様。
「ルックス様は鳥なのですか?」
殿を預かるユリアンと共に歩いていたルックスへ木綿花が振り返る。
「うん、そう。赤翡翠。部族で子供が生まれると、必ず赤い羽の首飾りが贈られるんだ。同じ部族であるということで。最初、テトが間違えて朱鷺って言ってたんだよ」
じとりと、先頭を歩くテトをルックスが睨みつける。
「人には間違いはあるものですにゃぁ」
アハハハとテトが乾いた笑い声をあげてごまかそうとする。
「フォニケさんのさんの所は何になりますかぁ?」
「生まれた部族は分からないけど、保護してくれたカシオペア族は流れ者が集まって出来た部族で千鳥が祖霊なのよ」
「渡り鳥ですよねぇ」
ハナが言えば、フォニケは「そう」と頷く。
話をしながら、目的の地へ到着した。
周囲は岩場になっており、一見すると、人の気配はないように思える。
「ちょっと、探ってくるよ」
ユリアンは隠の徒を発動させ、気配を消して奥へと向かった。テトは別の方向へ動いていく。
奥へと入っていくと、とても静かだ。
人の動きがなく、春特有の強い風の音が響いている。
話では老人と女の子がいたという。
岩場の下の方から影が動いたような気がした。
辺境部族の民族衣装だろう服を着た十歳くらいの少女が姿を見せ、入口の辺りで何かを確認するようであり、その後、遠くを見つめていた。
共に暮らす老人を待っているのだろうか。
老人がいない状態で訪問するよりは一緒の時にと思い、ユリアンが踵を返すと、少女が見ていた方向から悲鳴が聞こえた。
声からして老人の声だろう。
残っていた仲間も聞きつけて駆けてくる。
乾いた風に乗って水の匂いに気づく。道を下っていくと、川べりで影が見えた。
最初に動いたのはユリアンだ。
為すべきことを為せと、新緑光の風が彼の背を押したような感覚になる。
軽やかに身を運ぶ様は風に流れ舞う羽根のように道を下っていく。
老人一人を相手に歪虚が群がっている様子を見つけて精霊刀「真星」を翳し、間に割って入る。
刀の切っ先を受けた狼型は間合いを取る為、後ろへ飛ぶ。
歪虚が固まるところを狙ったかのように結界が張られ、光が歪虚を焼く。
光に眩んでよろめきながらも前に出ようとする狼をサクラのプルガトリオの刃で突き刺す。
「小鳥さん、お願いします」
銀の指輪を嵌めた手を中空に伸ばしたエステルは煌めく鳥を歪虚へと飛ばし、動こうとするゴブリンへ激突させて吹き飛ばした。
ジェットブーツで加速し、歪虚の中に飛び込んだ木綿花へ狼が噛みつこうとした。寸でで身を躱し、更に中へ入って狼の首を刎ねる。
「こっちへ!」
フォニケとルックスが老人を後ろへ運んでいく。
「ディーナさん、この人怪我してる!」
ルックスが叫ぶと、ディーナがフルリカバリーを発動する。
瞬く間に歪虚を倒されて行き、老人はハンターの強さに目を白黒させていた。
老人が落ち着いてから一行は身分を明かす。
「あなた方の部族について話を聞きに来たんです。少なくとも、奪いに来たんじゃない」
ユリアンが告げると、老人は眉を顰める。
「ここは内輪で潰し合った末に滅びかけた部族……何も残っとらん」
老人の名はキュノス。ウルサミノル族の生き残りで、細々と暮らしていたという。
共に暮らしている少女の名はクラー。元は他の部族の出身で、歪虚に部族を滅ぼされてしまい、母がウルサミノル族であり、滅ぼされたとは知らずに共に戻ってきた。
母親はクラーが一歳になる前に死亡したという。
当のクラーはエステル達からの贈り物に驚き、興味を示している。
変装中のルックスとフォニケはフードを被ったままで、顔を隠している。
今、彼らが話しているのはキュノス達の棲み処だ。
洞穴の外でハナが捕ってきた猪を捌き、スープにしている。詳しい話は食べながらがいいと思うからだ。
空腹では考えが纏まらないし、悪い方向へといくから。
「ハナさん、炊き込みご飯のお鍋がパチパチしてます」
鍋番のディーナが報告すると、ハナは「決して蓋を取らないように」と指示を出す。
とてつもなくベーコンと香味野菜のいい匂いがする。
食事が出来上がると、皆で食べる。
クラーは人見知りをしない子のようで、キュノス以外の人と食べるのに興味があるようだった。
「おいしい……!」
目をまるまると見開いたクラーは初めて食べる美味なスープに驚いている。
「まだありますからねー」
ハナが言えばクラーは一生懸命掻き込んでいく。
「こっちの炊き込みご飯も美味しいですよ」
ディーナが勧めるベーコンの旨味たっぷりの炊き込みご飯も好評だ。
子供の可愛らしい様子に和みながらも、ユリアンは本題に入る。
「ここに残るのは何かあるのです?」
エステルが尋ねると、キュノスは「行くあてがないが……心残りがあってな」と答えた。
「どのようなことですか?」
炊き込みご飯のトッピングであるベーコンのソテーを食べ終えたディーナが尋ねる。
「識者様の孫を待っておるのじゃ……」
「識者……?」
オウム返しにサクラが呟くと、キュノスが頷く。
「三十年前に亡くなった方じゃが、五十年前に来た頃には三十近かったが、見慣れない服を着てて、聞きなれない言葉を言っていた。シカゴ……とかアリゾナとか……?」
今でも理解できてないのか、老人は首を傾げていた。しかし、ハンター達はすぐに推察を立てることが出来た。
「リアルブルーのある地域の都市の名前ですにゃんね……転移者はごくわずかにゃけど、昔からいたそうですにゃ」
テトの言葉にキュノスは眉をひそめてしまうが、エステル達が転移者について軽く説明をしてくれた。
「ジェシカ様は美しく、知識のある方でな。他の世界から来たのであれば、納得じゃ……その方の孫が生きておれば……と思ってな」
肩を落とすキュノスの言葉に引っかかりを感じるのはエステルだ。
「生きていると思うのは何故です……?」
「ウルサミノル族が賊に襲われた際、連れ去られたんじゃよ……ウルサマヨル族の生き残りに」
話を聞いているハンター達の胸がつっかえるような、散りつくような感覚になる。
それをスッキリさせるため、口を開いたのはユリアン。
「アケルナルの名に覚えは?」
キュノスは記憶を探るように少し黙り込んでから頷く。
「ワシが知っている奴と同じであれば、ウルサマヨル族の生き残りじゃ……そして、ウルサミノル族を襲った主犯じゃ」
今までのアケルナルの行動を鑑みて、ショックを受けるハンターはいなかった。
しかし理由が気になった。
理由なくして人は動かないと思うからだ。
「何故……? 言いたくなかったら言わなくてもいいです」
静かに問う木綿花にキュノスは押し黙る。その様子はまるで、どう言い繕えばいいのか悩んでいる風にハナは見えた。
「今この場にいるのはぁ、二人きりですしぃ、過去は過去なので、言っても誰も得も損もしないと思いますよぉ」
にっこりと笑むハナにキュノスはぎゅっと拳を握りしめる。
「お願い! 奴の情報が欲しいの!」
ずっとフードを被っていたフォニケがフードを上げ、キュノスに詰め寄る。
彼女は力んでいたが、震えているようにも思えたディーナがフォニケに「大丈夫ですよ」というように、腕をぽふぽふと叩く。
一方、キュノスはフォニケの顔を見て固まる。
「キュノスさん……?」
サクラが呼びかけても彼はフォニケを見たまま動かない。
「識者様……?」
呆然と呟くキュノス。
「識者様によく似ておる……!」
「私は、ウルサミノル族の事はよくわからないけど、アケルナルの事、教えてほしいの」
戸惑うフォニケに観念したように老人は背を丸めたが、クラーを心配そうに見ると、エステルがクラーと一緒に席を外し、手毬で遊び始めた。
安堵したキュノスは口を開く。
「ウルサマヨル族が歪虚に襲われた年は作物が碌に採れんかった……それにつられる様に狩る為の獣もいなくなってな……助け合おうとしても、わが身をとったんじゃ……」
辺境における食糧事情は大事なことだ。場合によっては、一度の飢饉が部族を滅ぼすこともある。
誰も口にはしなかったが、ウルサミノル族はウルサマヨル族を切り捨てた。
「アケルナルが瀕死で助けを求めたが、誰も手を差し出すことはなかった。識者様の娘、フェルカド様を除いて」
識者の娘、フェルカドは妊娠しており、いつ死ぬかわからない者に食糧を分け与え、手厚い看護をしていたという。
傷が癒えた頃、アケルナルは姿を消した。フェルカドも何も聞いてないという。
フェルカドが女の子を出産したが、体調を崩して翌年に死亡した。娘が四歳になった頃、アケルナルは賊を率いてウルサミノル族を襲い、娘を奪い残りは殺していった。
「その娘さんに名前は?」
サクラの問いにキュノスは首を振る。
「この部族は七歳になった時に名を与えられるのじゃ」
「そう言えば、フォニケさんのお名前はどなたから……?」
ふと、思ったディーナが問う。
「カシオペア族の長からよ。アケルナルから逃げた時、つけてもらったの」
フォニケの言葉にキュノスは目を見開く。
「まさか……フェルカド様の娘か……」
驚くキュノスにフォニケは目を伏せる。
「彼女は幼いころの記憶がほぼない状態です。アケルナルに連れ去られ、監禁されていたと……」
ユリアンが補足説明をすると、キュノスは今にも泣きそうな顔をする。
「先ほどの部族なき部族に合流するという話ですけどぉ、フォニケさんはぁ、彼等とよく行動してますしぃ、合流した方がいいと思いますよぉ」
すかさず話を戻したハナにキュノスは「そうじゃの……」と頷いた。
ここにいる必要がなくなってしまったから。
翌日、キュノスとクラーを連れ、一行は要塞都市へと戻った。
男物の服を着ているフォニケと、女性物の服を着ているルックスがいた。
ルックスは何で女物を……とどんよりしている。
しかし、普段は明るい少年であるルックスだが、大人しくしていると、その容貌は中性的だ。体躯も細い。
髪に櫛を入れ、眉を整え、アイラインを流し、紅を差せば女性にも思える……というか、現時点できちんと女装をしており、肩を張らず、歩き方にも気を付ければ騙せると星野 ハナ(ka5852)は踏んでいる。
変声期を終えた声を出さなければ……であるが。
「……大丈夫ですか?」
あまりのやつれ具合に木綿花(ka6927)がルックスに声をかける。
「うん……だいじょぶ……」
「ああ、ルックスは胸に詰め物されて心が折れてるだけですにゃ。お気になさらずにですにゃ」
それは心が折れても仕方ないのでは……と木綿花は思いつつ、黙っていた。
「ルックスさん、美人さんですよ。フォニケさんはカッコいいのです」
可愛らしく微笑む美少女エステル・ソル(ka3983)に誉められてルックスは色々と諦めた。
その一方、フォニケの肌が妙にツヤツヤしているのはルックスの服を身立てたり、頭や顔を弄ったりしたからだろう。
落ち込んでいない様子に安堵するのはディーナ・フェルミ(ka5843)。
「何故、女装を?」
「ルックスに女装をさせたのは、以前の任務でタットルのメンバーに顔を割れてしまっているからですにゃ」
サクラ・エルフリード(ka2598)の疑問にテトが補足説明をした。
ルックスの被害は同情したくはなるが、フォニケが落ち込んでいなくてよかったとユリアン(ka1664)も思う。
行く前に買い物をすることになり、要塞都市内の市場で買い物となった。
向かう先には女の子がいるという情報を聞き、木綿花は可愛い雑貨を贈ろうと考えている。
「色味鮮やかなものや、手触りがいい物がおすすめ」
思案する木綿花にフォニケが助言をする。
「子供は色味の濃いものを好むからね」
自分の兄弟を思い出しながらユリアンが頷く。
まずは視覚、触覚から興味を引いてもらうという方針は決まったようだ。
サクラは甘味を選ぼうとしており、パウンドケーキを選ぼうとしていたところ、日持ちがするものをテトから勧められた。
「飴玉とかですか」
視界に入った飴玉が入った瓶をサクラが手に取る。
「あ、綺麗」
飴玉の中に花びらのようなものが入っている。
「この花は食べられる花の花弁だね。砂糖漬けにして加工したものを使っているんだと思うよ」
ユリアンが教えると、エステルも同意する。
「この地は花が咲く地域はごく限られた場所です。きっと喜ばれると思うのです」
「そうします。本当は手作りのお菓子を……と思ったのですが、仲間に全力で止められたのです」
しょんぼりするサクラの言葉にその場にいたメンバーはなんとなく察した。
「リボン付けてもらいましょう。二色のリボンで可愛らしく結んで」
あまり触れない方がいいと察した木綿花はサクラに会計を勧めた。
周囲を窺うユリアンが探すのはフォニケ、ディーナ、ハナ。
ハンター二人が一緒ならば問題ないと判断したが、ルックスが指さしたのは屋台の加工肉屋。
「見てください! 大きくて美味しそうなベーコンです!」
「美味しそう!」
キラキラと目を輝かせるディーナにフォニケも頷く。
彼女達の目の前には吊るされたベーコン。
「ハナちゃん、あれでステーキ!」
「スープもいいですー」
買うのはフォニケ達だが、作るのはハナだ。勿論、皆で手伝うが。
「こちらでもぉ、米の流通はありましたよねぇ。ベーコンの脂を吸わせてぇ炊き込みご飯もしましょうかぁ?」
これから向かう部族で持て成す料理は温かい食べ物が好まれると考えていたが、稲作をしているとは思えないので、米料理もいいだろうとハナは考えた。
「お鍋もね! 行きましょ、ディーナちゃん、ハナちゃん!」
「はい!」
お肉に振り回されつつ三人は米を探しに行く。
食料を買い込みが完了し、一行はウルサミノル族の方向へと向かう。
歩いている間にハンター達から疑問が浮かぶ。
「お三方の部族の祖霊はなんですか?」
エステルの言葉に最初に応えたのはテトだ。
「テトの部族は猫の祖霊ですにゃ。祖霊に対するトランスが激しいので、このような口調なのですにゃ」
話は胡散臭いが、実際にテトが覚醒する際、マテリアルに反応して猫の紋様が浮かび上がる。
「にゃけど、テトは生まれて間もない頃に先代リーダーに拾われてますにゃ」
「部族なき部族のメンバーは皆さん、祖霊が違うのですか?」
ディーナの問いにテトは頷く。
「そうですにゃ。皆、部族に滅ぼされた生き残りですにゃ。メンバーには必ず生まれた部族の祖霊の名をコードネームにしてますにゃ」
いつもテトと呼ばれているため、コードネームで呼ばれることは少ない模様。
「ルックス様は鳥なのですか?」
殿を預かるユリアンと共に歩いていたルックスへ木綿花が振り返る。
「うん、そう。赤翡翠。部族で子供が生まれると、必ず赤い羽の首飾りが贈られるんだ。同じ部族であるということで。最初、テトが間違えて朱鷺って言ってたんだよ」
じとりと、先頭を歩くテトをルックスが睨みつける。
「人には間違いはあるものですにゃぁ」
アハハハとテトが乾いた笑い声をあげてごまかそうとする。
「フォニケさんのさんの所は何になりますかぁ?」
「生まれた部族は分からないけど、保護してくれたカシオペア族は流れ者が集まって出来た部族で千鳥が祖霊なのよ」
「渡り鳥ですよねぇ」
ハナが言えば、フォニケは「そう」と頷く。
話をしながら、目的の地へ到着した。
周囲は岩場になっており、一見すると、人の気配はないように思える。
「ちょっと、探ってくるよ」
ユリアンは隠の徒を発動させ、気配を消して奥へと向かった。テトは別の方向へ動いていく。
奥へと入っていくと、とても静かだ。
人の動きがなく、春特有の強い風の音が響いている。
話では老人と女の子がいたという。
岩場の下の方から影が動いたような気がした。
辺境部族の民族衣装だろう服を着た十歳くらいの少女が姿を見せ、入口の辺りで何かを確認するようであり、その後、遠くを見つめていた。
共に暮らす老人を待っているのだろうか。
老人がいない状態で訪問するよりは一緒の時にと思い、ユリアンが踵を返すと、少女が見ていた方向から悲鳴が聞こえた。
声からして老人の声だろう。
残っていた仲間も聞きつけて駆けてくる。
乾いた風に乗って水の匂いに気づく。道を下っていくと、川べりで影が見えた。
最初に動いたのはユリアンだ。
為すべきことを為せと、新緑光の風が彼の背を押したような感覚になる。
軽やかに身を運ぶ様は風に流れ舞う羽根のように道を下っていく。
老人一人を相手に歪虚が群がっている様子を見つけて精霊刀「真星」を翳し、間に割って入る。
刀の切っ先を受けた狼型は間合いを取る為、後ろへ飛ぶ。
歪虚が固まるところを狙ったかのように結界が張られ、光が歪虚を焼く。
光に眩んでよろめきながらも前に出ようとする狼をサクラのプルガトリオの刃で突き刺す。
「小鳥さん、お願いします」
銀の指輪を嵌めた手を中空に伸ばしたエステルは煌めく鳥を歪虚へと飛ばし、動こうとするゴブリンへ激突させて吹き飛ばした。
ジェットブーツで加速し、歪虚の中に飛び込んだ木綿花へ狼が噛みつこうとした。寸でで身を躱し、更に中へ入って狼の首を刎ねる。
「こっちへ!」
フォニケとルックスが老人を後ろへ運んでいく。
「ディーナさん、この人怪我してる!」
ルックスが叫ぶと、ディーナがフルリカバリーを発動する。
瞬く間に歪虚を倒されて行き、老人はハンターの強さに目を白黒させていた。
老人が落ち着いてから一行は身分を明かす。
「あなた方の部族について話を聞きに来たんです。少なくとも、奪いに来たんじゃない」
ユリアンが告げると、老人は眉を顰める。
「ここは内輪で潰し合った末に滅びかけた部族……何も残っとらん」
老人の名はキュノス。ウルサミノル族の生き残りで、細々と暮らしていたという。
共に暮らしている少女の名はクラー。元は他の部族の出身で、歪虚に部族を滅ぼされてしまい、母がウルサミノル族であり、滅ぼされたとは知らずに共に戻ってきた。
母親はクラーが一歳になる前に死亡したという。
当のクラーはエステル達からの贈り物に驚き、興味を示している。
変装中のルックスとフォニケはフードを被ったままで、顔を隠している。
今、彼らが話しているのはキュノス達の棲み処だ。
洞穴の外でハナが捕ってきた猪を捌き、スープにしている。詳しい話は食べながらがいいと思うからだ。
空腹では考えが纏まらないし、悪い方向へといくから。
「ハナさん、炊き込みご飯のお鍋がパチパチしてます」
鍋番のディーナが報告すると、ハナは「決して蓋を取らないように」と指示を出す。
とてつもなくベーコンと香味野菜のいい匂いがする。
食事が出来上がると、皆で食べる。
クラーは人見知りをしない子のようで、キュノス以外の人と食べるのに興味があるようだった。
「おいしい……!」
目をまるまると見開いたクラーは初めて食べる美味なスープに驚いている。
「まだありますからねー」
ハナが言えばクラーは一生懸命掻き込んでいく。
「こっちの炊き込みご飯も美味しいですよ」
ディーナが勧めるベーコンの旨味たっぷりの炊き込みご飯も好評だ。
子供の可愛らしい様子に和みながらも、ユリアンは本題に入る。
「ここに残るのは何かあるのです?」
エステルが尋ねると、キュノスは「行くあてがないが……心残りがあってな」と答えた。
「どのようなことですか?」
炊き込みご飯のトッピングであるベーコンのソテーを食べ終えたディーナが尋ねる。
「識者様の孫を待っておるのじゃ……」
「識者……?」
オウム返しにサクラが呟くと、キュノスが頷く。
「三十年前に亡くなった方じゃが、五十年前に来た頃には三十近かったが、見慣れない服を着てて、聞きなれない言葉を言っていた。シカゴ……とかアリゾナとか……?」
今でも理解できてないのか、老人は首を傾げていた。しかし、ハンター達はすぐに推察を立てることが出来た。
「リアルブルーのある地域の都市の名前ですにゃんね……転移者はごくわずかにゃけど、昔からいたそうですにゃ」
テトの言葉にキュノスは眉をひそめてしまうが、エステル達が転移者について軽く説明をしてくれた。
「ジェシカ様は美しく、知識のある方でな。他の世界から来たのであれば、納得じゃ……その方の孫が生きておれば……と思ってな」
肩を落とすキュノスの言葉に引っかかりを感じるのはエステルだ。
「生きていると思うのは何故です……?」
「ウルサミノル族が賊に襲われた際、連れ去られたんじゃよ……ウルサマヨル族の生き残りに」
話を聞いているハンター達の胸がつっかえるような、散りつくような感覚になる。
それをスッキリさせるため、口を開いたのはユリアン。
「アケルナルの名に覚えは?」
キュノスは記憶を探るように少し黙り込んでから頷く。
「ワシが知っている奴と同じであれば、ウルサマヨル族の生き残りじゃ……そして、ウルサミノル族を襲った主犯じゃ」
今までのアケルナルの行動を鑑みて、ショックを受けるハンターはいなかった。
しかし理由が気になった。
理由なくして人は動かないと思うからだ。
「何故……? 言いたくなかったら言わなくてもいいです」
静かに問う木綿花にキュノスは押し黙る。その様子はまるで、どう言い繕えばいいのか悩んでいる風にハナは見えた。
「今この場にいるのはぁ、二人きりですしぃ、過去は過去なので、言っても誰も得も損もしないと思いますよぉ」
にっこりと笑むハナにキュノスはぎゅっと拳を握りしめる。
「お願い! 奴の情報が欲しいの!」
ずっとフードを被っていたフォニケがフードを上げ、キュノスに詰め寄る。
彼女は力んでいたが、震えているようにも思えたディーナがフォニケに「大丈夫ですよ」というように、腕をぽふぽふと叩く。
一方、キュノスはフォニケの顔を見て固まる。
「キュノスさん……?」
サクラが呼びかけても彼はフォニケを見たまま動かない。
「識者様……?」
呆然と呟くキュノス。
「識者様によく似ておる……!」
「私は、ウルサミノル族の事はよくわからないけど、アケルナルの事、教えてほしいの」
戸惑うフォニケに観念したように老人は背を丸めたが、クラーを心配そうに見ると、エステルがクラーと一緒に席を外し、手毬で遊び始めた。
安堵したキュノスは口を開く。
「ウルサマヨル族が歪虚に襲われた年は作物が碌に採れんかった……それにつられる様に狩る為の獣もいなくなってな……助け合おうとしても、わが身をとったんじゃ……」
辺境における食糧事情は大事なことだ。場合によっては、一度の飢饉が部族を滅ぼすこともある。
誰も口にはしなかったが、ウルサミノル族はウルサマヨル族を切り捨てた。
「アケルナルが瀕死で助けを求めたが、誰も手を差し出すことはなかった。識者様の娘、フェルカド様を除いて」
識者の娘、フェルカドは妊娠しており、いつ死ぬかわからない者に食糧を分け与え、手厚い看護をしていたという。
傷が癒えた頃、アケルナルは姿を消した。フェルカドも何も聞いてないという。
フェルカドが女の子を出産したが、体調を崩して翌年に死亡した。娘が四歳になった頃、アケルナルは賊を率いてウルサミノル族を襲い、娘を奪い残りは殺していった。
「その娘さんに名前は?」
サクラの問いにキュノスは首を振る。
「この部族は七歳になった時に名を与えられるのじゃ」
「そう言えば、フォニケさんのお名前はどなたから……?」
ふと、思ったディーナが問う。
「カシオペア族の長からよ。アケルナルから逃げた時、つけてもらったの」
フォニケの言葉にキュノスは目を見開く。
「まさか……フェルカド様の娘か……」
驚くキュノスにフォニケは目を伏せる。
「彼女は幼いころの記憶がほぼない状態です。アケルナルに連れ去られ、監禁されていたと……」
ユリアンが補足説明をすると、キュノスは今にも泣きそうな顔をする。
「先ほどの部族なき部族に合流するという話ですけどぉ、フォニケさんはぁ、彼等とよく行動してますしぃ、合流した方がいいと思いますよぉ」
すかさず話を戻したハナにキュノスは「そうじゃの……」と頷いた。
ここにいる必要がなくなってしまったから。
翌日、キュノスとクラーを連れ、一行は要塞都市へと戻った。
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【相談】差し入れ・討伐・お話を エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/04/13 07:32:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/11 08:06:04 |