切って落とされた火蓋 ~騎士アーリア~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/04/15 12:00
完成日
2019/04/30 04:44

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
 黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
 差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。


 領主アーリアは、ハンター一行による内陸の街ドスガの報告を強く受けとめた。
 傲慢のアイテルカイト『ナアマ』がドスガ上空に現れたとの噂は、すでに伯爵地の隅々まで駆け巡っている。ただ多くの領民は疑心暗鬼に留まっていた。ドスガに住んでいても逃げることなく、また商品の売買のために出入りする者は今もかなりの人数にのぼる。
 ある日、地下牢を訪ねたアーリアは、格子越しにやつれた男の顔を見下ろした。
「詳しく話せ。そうすれば刑の減免を考えるのも、やぶさかではない」
 アーリアが話しかけたのは、数日前に自ら出頭してきた歪虚崇拝者の一人だ。アスタロトを崇拝していた派の生き残りで、アーリアとの面会を強く要望していた。
「ナアマは戦力を増強中なのです。そのために、これまで対立してきたアスタロト派を抱き込もうと……。首を縦に振らなかった者達は殺されていきました。寝返った者達が集められた先は、想像がつくはずです」
「ドスガか?」
 アーリアの返答に歪虚崇拝者がやつれた表情で「そうです」と呟く。
 一通りの話を聞いた上で、アーリアは地下牢から立ち去った。似たような情報は他の方面からも伝わってきている。
(わざと流された、欺瞞情報の可能性が高い。しかし、ドスガがナアマを中心とした歪虚の根城なのは紛うことなき事実だ……)
 決断したアーリアは、騎士団と一般兵を合わせた派兵を決める。その中には急いで招き集めたハンター達の姿もあった。
 自ら指揮を執っての行軍の末、ドスガへと辿り着く。そのとき、上空に一つの人影が浮かびあがった。
「あれがそうか」
 アーリアはハンター達からの報告を思いだす。艶めかし姿のその女性が、ナアマだと確信した。
「皆の者、妾はナアマ。この声を耳にして魂を震わせるとよい。ここに宣言する。伯爵地【ニュー・ウォルター】は今日でお終いじゃ。わざわざ大軍を率いておいでになったアーリア伯も、これを認めるところであろうぞ」
 街中に響く声でナアマが民衆を惑わす。
(どうしたことだ?)
 馬上のアーリアは、大通りを見渡した。それまで普通だったドスガの民の様子がおかしく感じられる。ナアマの誘惑に引っ張られていくような、そんな印象を持つ。
 ナアマが消えた次の瞬間、空には別の何かが点々と浮かびあがる。
 それは光を纏う大量の矢だ。今まさにアーリア軍へとに降り注ごうとしていた。

リプレイ本文


 突如として上空に現れた光纏う無数の矢。いち早く異変に気づいた騎士や兵が魔法を展開したものの、すべては防ぎきれない。
 アーリアが率いる兵団は、弓撃による不意打ちによってドスガ攻略の出鼻をくじかれた。

「怪我した人達は、私の回りに集まって欲しいの! 立てない人には肩を貸してあげて――」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は傷ついた味方の中心に立ち、ヒーリングスフィアで癒やしていく。巻きこまれた一般人の治療も含めて、当の術は限界まで使い切る。
「兵団の主力は東門周辺に留まって、退路の確保に専念することにした。どうかドスガにたくさん残っているであろう善良な領民達を郊外へと導いて欲しい」
 ハンター一同の元へと駆け寄ったアーリアが、そう告げる。南護 炎(ka6651)、そしてディーナといくらか話し合いをしてから、彼は兵団の指揮へと戻っていった。

 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、『天駆けるもの』で建物よりも高く飛翔する。
(逃げ足だけは速ぇーな)
 さっきまで浮かんでいたナアマと名乗った女は、どの方角を眺めても見かけられない。そこで眼下に拡声器を向けて、大声を張りあげた。
「いいか、まずさっきの色ボケ女は歪虚だ。そして、俺等はお前等を助けに来た人間だ。聞きたいことがあンなら避難した後にいくらでも聞いてやる! だから今はさっさとこっから逃げろォ! 東門から郊外にでろォ!」
 ボルディアの告知を聞いて動きだす領民はそれなりにいた。しかし、必ずしも東門へ向かったわけではなかった。一般的には働いてる時間帯であり、家族がばらばらであるのが普通である。多くの者が大切な相手を探そうとしていると思われた。

「ったく、領主サマも無茶いうわね。戦闘がすでに始まっていて、まだ敵や中立の動きが判らないのは、大きく出遅れているといえるわ?」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)は、あきれ気味な表情を浮かべてため息をつく。裏道を一緒に併走する南護炎の耳へと届くように。
「フィールズさん、どんなことがあっても領民達は殺さないでくれ。気絶させる分には構わない。運ぶ算段はアーリアとつけてきた」
 次の通りへでたところで、カーミンは南護炎と別行動となる。
「ホムラのいいたいことはわかるけど。キレイごとを綺麗に見せるには、深い闇も必要よ」
 走り去っていく南護炎の背中を眺めながら、カーミンは腰に手を当てながら呟いた。
 彼女は近場で一番高い時計台へと登って、双眼鏡で自警団詰所を見つけだす。さらにM.ashとグラジオラスを駆使して忍びこんだ。天井裏で耳をそばだてると、自警団達の会話が届く。
「城塞門はすべて閉鎖したんだよな。乗っ取られた東門以外は」
「そうだ。逃げようとしている不届き者はとっ捕まえて、教会や広場といった場所に集めている。ああいう場所には何も知らない奴らが勝手に集まってくれるから、便利なことこの上ない」
「だな。あの素晴らしき妙薬を飲み続ければ、カミネテ様やナアマ様に逆らおうなんてバカな真似はしなくなるだろうさ」
「まったくだ」
 自警団等の会話から得られた事実や噂を下敷きにして、カーミンは新たな噂を創作する。「ねぇ、知ってる? ドスガの西側に廃墟のお屋敷があるのを。教会や広場だけでなくて、そこにも街から逃げだそうとしている人が集まっているって」
「それは初耳だな」
 カーミンは自警団に扮して、洗脳が深くて「説得できない者」達へと話しかけていく。他にも一般市民で洗脳が進みすぎていている相手には、自警団詰所での募集を教えた。非常時において素人は、まず間違いなく足手まといになるからだ。
 さらに「歪虚が街にいる」「路地裏で死体が出た」といった噂を流して、自警団が混乱を来すように誘導していった。

(ドスガでのいろいろ……うまくいっていたはずなのに。まさか、こんな形でひっくり返されるとは思ってもみませんでした。でも、負けませんから!)
 ミオレスカ(ka3496)が走りながら見あげた先には、丘陵の頂に建てられたカミネテの屋敷がある。遠いが高所なので、街のどこからでも眺められた。逆をいえば、屋敷からドスガの街を一望できるはずである。
 途中、荒くれ者に戻っていた自警団の連中と鉢合わせした。即座に魔導拳銃で狙い撃ち、威嚇射撃、もしくは制圧射撃で戦闘力を奪う。拾った棍棒で気絶させると、絡まれていた領民達から感謝される。
「みなさん、ご無事で何よりです。兵団が守っているので、東門から脱出できます」
「お姉さん、ありがとう~♪」
 ミオレスカに感謝しながら、大勢の領民が東門を目指して歩いていく。
「もしかして……」
「り、料理長!」
「やっぱり君か! 強いんだな。前に教えてくれたこと、本当だったんだな」
「はい。ところで他のみなさんは?」
 カミネテの屋敷でよくしてくれた料理長と、ミオレスカは偶然にも再会した。カミネテに対して忠誠心を持っていた彼だが、歪虚絡みとなれば話は別のようだ。
 屋敷の調理場で働いていた多くの人達は、街から逃げだしたようである。ミオレスカは料理長にも東門までの安全な道順を教えて再び走りだした。

 ドスガから逃げだそうする領民達の人波を縫うようにして、レイア・アローネ(ka4082)は逆走する。
「どうした? この街にいたら命にかかわるぞ。さっき降り注いだ矢の雨は見なかったのか?」
「いや、そうなんだけどさ。家を建てたばかりだし。仕事もうまくいってたし――」
 喫緊の非常時であっても判断の鈍い人は、それなりにいる。レイアはそうした者達の背中を次々と押していく。
「わしは死んでも構わん。半年前に移り住んだばかりだが、ここが故郷だと思うとる」
 厄介なのが頑固者で、特に老人の多くは自負があるらしく、いうことを聞いてくれない。仕方なく半ば無理矢理に背負って、街中を馬車等で巡回していた兵達に託す。
 洗脳に囚われた自警団等と遭遇したときには、レイアは自らの身体を盾として、民衆を守ろうとした。
「その剣を直ちに収めろ。そうすれば――」
 説得を試みても返事はない。血走った両眼が拒絶を意味していた。仕方なく二剣を振るい、倒した自警団六人に泥の味を覚えさせる。一人を蹴りで気絶させた直後、厩舎の戸板が吹き飛んだ。刹那、毛むくじゃらの巨体が姿を現す。
「雑魔、やはり潜んでいたのか。自警団の奴らが光の矢を撃てるはずがないからな」
「コロス……コロス……」
 二足で歩き、全身が剛毛で覆われていた。簡単な人語を解するところからしても、自警団のお目付役のようである。
 レイアは即興で『毛獣雑魔』と名づけた。振りおろされた斧を鼻先数センチの距離でかわし、掬いあげた刃で、相手の左腕を切り落とす。間髪を入れずに首を刎ねて塵に還すと、凄まじい瘴気が辺りに漂う。
 地面に転がせた自警団の何人かは、わずかながら正気を取り戻す。但し、カミネテへの忠誠で揺れていて、真っ当になったとは言い難かった。

 ソウルトーチで身を包んだ鳳凰院ひりょ(ka3744)は、街の広場を目指す。後方から迫る集団と化した者達は、カミネテやナアマを称える言葉を叫び散らしていた。
 速すぎず、遅すぎず。一定の距離を保ち続ける。
(自警団や歪虚崇拝者ではなさそうな、洗脳が進んでいる者がいるな。配給に混ぜられていた薬のせいだろうか。それとも――)
 投石などで不意に攻撃されても、鳳凰院は反撃しない。
 武器で弾いたり、壊したりする程度に留め、極めて穏便に。街中を引きずり回すことだけを目的にした。疲れて身動きできなくなれば、それでもよし。仲間が行っている領民の避難誘導を邪魔させないのが、最優先事項である。
「おっと、危ない」
 持っていた竹刀で、二階から落ちてきた植木鉢を破壊した。次に壁を蹴って屋根へとのぼり、路上の様子を確かめる。引きつけている人数は、今のところ五十人前後といったところだ。少し距離を置いたところで、奮闘している南護炎の姿も覗える。これは前もって決めた作戦であった。

「安心しろ峰打ちだ……。かなり痛いけどな……すまん」
 南護炎は鳳凰院を追いかける自警団を、さらに追走していた。隙を見つけては数人ずつ峰打ちにしていく。倒した相手は、アーリアに頼んだ巡回の兵士達による荷馬車に回収してもらう。治療を施した上で、郊外へ連れていってくれる手筈になっていた。
「アーリアは絶対に皆を見捨てたりはしない! 皆も解っているはずだ。伯爵領の発展のためにどれだけ努力したか……身を削ってきたかを!! 俺だってその姿を見てきたんだ!!」
 敵意を持ちながらも、戸惑いが感じられる相手には説得を試みる。それで武器を放棄してくる者は、ほぼいない。涙を流して改心してくれた者は一人だけいた。

 狭い通りに立ち塞がるは、両眼に狂気を宿した六人の荒くれ者達。
「逃げたい方々の邪魔は、やめて頂けませんか?」
 多由羅(ka6167)が何度話しかけても、薄ら笑いを浮かべていた。自警団ではなくごく普通の領民のようだが、薬の洗脳が効いている様子である。
「お兄ちゃん! しばらく何処かに雲隠れしてたと思ったら、どうしちゃったの?」
 背後の集団から一歩前へでた一人の娘が叫んだ。どうやら薄ら笑いを浮かべているうちの一人が身内の者らしい。
「これでは埒があきません。仕方ありませんね」
 この路地が通れないと、東門までかなりの遠回りになってしまう。斬魔刀を振った多由羅だが、殺さない程度に留めて荒くれ者六人を倒す。
 暗がりにわざと背中を向けたのは、雑魔が隠れていることに気づいていたから。隙を見せた瞬間に、毛獣雑魔が牙を剥いてきた。振り向きざまに脳天をかち割って、その場で仕留めきる。
「どうすれば洗脳が解けるのかはわかりませんが、縛って連れていく分には構わないでしょう。見ず知らずの私を言葉を信じることは、難しいと思いますが」
「そんなことありません! 機会を与えてもらって、ありがとうございます」
 娘は多由羅に感謝して、兄と呼んだ荒くれ者一人を荷馬車へと乗せる。他の五人も何らかの形で、一緒に連れていくようだった。

 丘陵外縁からカミネテの屋敷へと至る道は何本かある。ミオレスカは地下通路の出入口付近が眺められる近場の建物の屋上で待機していた。
(あの雑魔は倒したほうがよいでしょう)
 双眼鏡で状況を見守り続けて、毛獣雑魔六体が地下通路の扉から出てきたのを視認する。即座に立ちあがり、大火弓による高加速射撃で、すべての個体を順に狙い撃った。
 重傷を負わせたのが二体。残りは怪我を負いながらも反撃してくる。背負っていた弓を構えて放たれた矢は、光を纏っていた。アーリアの兵団に奇襲をかけたのと同じ攻撃方法だ。
(痛っ!)
 一矢が腕に当たったものの、ミオレスカは唇を噛みしめながら建物内を移動。マテリアルヒーリングで癒やしてから、毛獣雑魔等への攻撃を再開する。
 飛び交う双方の矢は風斬り音だけが鳴っていて、とても静かな攻防といえた。しかし一瞬の気の迷いが死に直結する緊迫した攻防である。
 最終的に制したのはミオレスカだ。六体すべてに重傷を負わせたところで、止めを刺して瘴気へと還す。
「カミネテさんが現れれば、一番よいのですが……」
 双眼鏡での監視に戻り、その間に精神と体力を整える。そうすることで、さらに毛獣雑魔二十体を葬り去ったのだった。


 ディーナはアーリアから借りた兵士三人と共に、人目を避けながら行動していた。身を屈め、建物と塀の隙間をすり抜けていく。
 忍びこもうとしている教会は、大勢の自警団によって取り囲まれている。時間をかけて辿り着き、信者の中に紛れた。
(教会に入るだけならこんなことをしなくても、簡単だったはずですの。でも顔ばれしているし、念のためですの)
 仲間からの連絡によれば、教会に入るはよし。だが出るのは禁止という形で、自警団は信者達を閉じこめていた。
「お姉ちゃん、恐いよう……。もうやだよう……」
「私達が来たからには、大丈夫ですの」
 以前の奉仕活動で仲良くなった孤児の女の子に抱きつかれて、頭を撫でてあげる。歳の離れた姉妹を演じながら教会内を歩き回り、ディーナは状況を把握していく。
(想像していたよりも、かなり多めの人が避難しているようですの)
 教会に閉じこめられている信者は、ゆうに百人を越えていた。思案したディーナはトランシーバーとスマホを駆使して、仲間達に協力を求める。
 見張っている自警団等に気づかれないよう、脱出の準備を整えていった。荷馬車が三両あったので、連れてきた兵士達に御者を務めてもらう。足腰が弱い年寄りや、幼い子供を優先して乗せることにする。
 作戦決行の直前、ディーナは顔を晒して聖歌を唄った。そしてフォーティアンを掲げながら、ピュリフィケーションで辺りを浄化する。
「ニュー・ウォルターは滅びないの。ドスガだってそうなの。でも、歪虚軍が攻めてきたから、このままここに居るのは危ないの。一緒に郊外まで避難してほしいの。私が誘導するの」
 ディーナの説得に気づいた自警団の一人が「そこの、やめろ! こっちに来い!」と凄んだ刹那、騒ぎが遠方から届いた。それは立て続けに、別の方角から三度繰り返される。
 さらに上空から一つの影が、ディーナの傍へと着地した。
「ちょうどいい頃合いじゃねぇか。喧嘩の相手なら俺がしてやるぜ。任せろォ!」
 ボルディアは自警団に駆け寄って、信者達の壁となる。振るわれた剣を斧で次々と弾き、ディーナへとふり向いてニヤリと笑う。
 ディーナはゴッドブレスにより、洗脳による正邪の狭間で悩む信者達を落ち着かせた。
教会の庭内にいた十数人の自警団を殺さないままで制圧する。
「俺以外の奴らも何人か、ここらに集まっているンだろ?」
「そうですの。さっき聞こえてきた轟音が、それを示しているはずですの」
 ボルディアとディーナは、信者達を引き連れて教会の正門を目指した。大人数をまとめて移動させるには、それしか術は残っていない。ここ一番の強行突破を試みるのだった。

(暴れるだけですむのであれば、これほど簡単なことはありません。ただ、相手によっては手加減しなくてはならないのが、難しいのですが)
 多由羅は教会の裏門に奇襲をかけていた。自警団相手の場合は眼で判断。正気が残っているようであれば、魔刀「祢々切丸」で武器を弾きとばし、拳で気絶させていく。
 ひとまず二十人ほどを一掃したところで、建物内に隠れていた領民達が集まってくる。これまでに多由羅が助けた人々であり、協力を申し出てくれていた。多由羅の周囲に転がっている者達を縄で縛りあげて、そして荷馬車へと載せていく。
「この者達は責任を持って野外へと連れていきます。どうかご無事で」
「助かります。安全をお祈りします」
 荷馬車が走り去り、多由羅が乱れた髪を手櫛で直す。まもなく敵である自警団の応援がやってきた。十五人とは別に、毛獣雑魔が二体含まれている。
「投降するなら今のうちです。…………やっぱりダメですか? そうですよね。では」
 先に狙うは毛獣雑魔二体。多由羅は終之太刀で敵の懐へ入り、斬って離脱を図る。
 手負いとなった毛獣雑魔二体は、敵味方の区別なく暴れだす。風を操る術に巻きこまれた自警団の肌が、次々と切り裂かれる。辺りに霧のような血飛沫が舞った。
「とても痛々しいですが、どの傷も浅くて命には別状なさそうです。気をしっかりしなさい――」
 多由羅は毛獣雑魔二体を倒したあとで、血だらけの自警団の一人に話しかけた。反省の意思があるのなら、今すぐ街から逃げだすことを勧める。このまま残るのであれば、今のように、歪虚側からいいように扱き使われるだけだとも言い添えた。
 正門のある方角から、多由羅の耳へと騒ぎが届く。陽動の務めはこれで切りあげて、仲間達と合流すべく彼女は駆けだした。

 レイアは教会東側の通りに現れた。中央に立つと、ソウルトーチによる炎のようなオーラを纏う。
「気づけ、この街にいればいずれ死ぬ! いや、それどころか、待ち受けているのは歪虚に利用される末路だぞ!」
 レイアはわずかな動きで銃弾や矢をかわしながら、説得を試みる。戦っている相手は、自警団と歪虚崇拝者が合わさった十八人だ。
 守りの構えなどを駆使して持ちこたえていたが、いつまでもとはいかない。毛獣雑魔二体が合流したところで作戦を切り替える。
 人間相手には軽傷か気絶させる程度に懲らしめて、雑魔とは本気で戦う。ソウルエッジと二つの刃で切り伏せていった。
 そして倒れている洗脳された者達に、今一度問いかけた。「正しく生きたくはないのか?」と。そしてうなづいた者だけ、巡回していた兵団の荷馬車に預ける。
 敵の増援が途切れたところで、レイアは無線で仲間と連絡をとろうとした。
「今、そちらはどうなっている?」
 脱出を促すための陽動が効かなくなった今、やるべきことは合流である。歩きながらの通話が終わったレイアは、走りだすのだった。

「退け! そして街の外に逃げろ! そうすれば、いつかわかる。きみたちは騙されているんだ!」
 教会西側で戦い始めた南護 炎(ka6651)は、正門へと少しずつ進んでいた。
 誰であろうと人を相手にしたときは、殺さない。雑魔と対したときだけ、本気で刃を突き立てた。
 毛獣雑魔が厄介なのは近接よりも、弓矢による遠隔攻撃だ。
 たくましい筋力のおかげなのか、または弓の性能か、凄まじい威力の一矢を放ってくる。強靱なハンターでさえも、かなりの怪我を負ってしまうほどの一矢を。
 南護炎は接近戦に持ちこんで、毛獣雑魔の腹を切り裂いた。吹きだした瘴気は非常に濃くて、突然に夜が訪れたと勘違いするほどの暗さに襲われてしまう。複数の毛獣雑魔と戦い際には、気をつけなければ不意打ちを食らいそうである。
 南護炎が教会正門に到着してまもなく、レイア、多由羅が姿を現した。正門の内側ではすでにディーナとボルディアが戦っている。
 やがて正門が開いて、三台の荷馬車が先頭を切って飛びだしてきた。その後ろを教会内の信者達が追いかけて、長い行列が形成されていく。
「うまく、いったようだな……」
「だ、大丈夫ですの?」
 ふらりと現れた鳳凰院は、これまでの囮行動によってかなり疲弊している。それでもディーナがかけたフルリカバリーによって全快した。
「この教会から城塞壁の東門までの掃除は、大方終わっている。最初は南護で、次にミオとカーミンが手伝ってくれたからな。ただ、大して持たないのも確かだ」
 鳳凰院は仲間に状況を伝えて、それから互いの情報を擦り合わせた。
 徒歩で東門に向かうとすれば、二十分はゆうにかかる。それまで行列を守りきらなければならなかった。また行列は少しずつ人が増えているようだ。逃げ遅れて迷っていた領民が意を決して、合流しているらしい。列が形成し始めてから五分も経たないうちに、ざっと倍にまで膨らんでいた。

「あ、また追いかけられているみたいね。あれだけ騙せば、さすがに気づかれても仕方ないかも」
 カーミンは飛燕草で建物よりも高い空を走っていた。地表から届く小さな叫び声は「二つ尾」や「桃色髪」といった言葉だ。おそらくカーミンを指しているに違いない。
 少し前までは南護炎のところへ誘導していたが、今の仕留め役はミオレスカである。射撃、または弓矢で、自警団の面々を身動きできないようにしてくれた。
「さすがね。私も負けていられないし」
 カーミンも見つけだした雑魔を狙い射つ。やがてカーミンとミオレスカの視界にも、東門へと向かう長い脱出の列が入るようになった。
「兵団が弓矢でやられたときのような、二の舞だけは避けないとね」
「私もそれを考えていました――」
 二人が伝話でやり取りしていたとき、不気味な影が空に浮かんだ。それが『ナアマ』だと気づくのに、二人とも一秒すらかからなかった。
「残念ながらカミネテさんとは会えませんでしたが……」
 ミオレスカが放った矢はナアマの翼を貫いた。それに気づいたナアマは、美女からかけ離れた般若の形相を浮かべる。
 カーミンによる弓撃は、ナアマの翼が巻き起こした暴風のせいで大きくそれていく。
「面白そうじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ!」
 『天駆けるもの』で飛翔したボルディアが、星神器をナアマへと叩きつける。
「妾の邪魔をする輩、許さんぞよ!」
「許さないと、どうなるんだい?」
 悪態をついたばかりのボルディアが、屋根に足をつけて大いに笑う。
「御託を並べる暇があると思ったら、大間違い!」
 そのときカーミンが放った矢が、ナアマの背中に突き刺さった。
(あのナアマという歪虚。強いのかも知れませんが、精神的な脆さがありそうですね)
 ミオレスカが放った次矢は、再びの翼による暴風によって当たらない。
「忌々しい蚊とんぼ共め。カミネテよ、後は任せたぞよ!」
 ナアマは太陽に向かうが如く、高空へとのぼっていく。ミオレスカとボルディアによる矢は届かなくなり、やがて雲の中へと姿を消した。
 カミネテの屋敷から真っ赤な狼煙が上がった。
 それに呼応するが如く、街中に隠れていた歪虚崇拝者や自警団、さらに毛獣雑魔が姿をさらけだす。直後、脱出の列へと襲いかかった。

「想定していたさ。それぐらい」
 行列の殿を務めていた鳳凰院は、ソウルトーチで敵側の目を引きつけた。今度は引きずり回すことなく、仲間と力を合わせて敵勢力の無力化を図る。
「狙うのなら俺にしろ! 領民には手を出すな!」
 南護炎は魔法攻撃を仕掛けようとしていた歪虚崇拝者を、活人剣で黙らせた。
 鳳凰院と南護炎。両者ともに毛獣雑魔には容赦せず、できる限り行列から離れたところで倒していった。

「この場は私に仕切らせてもらおうか」
 レイアは行列の先頭である荷馬車から飛びおりた。彼女もソウルトーチを駆使して、敵側の注意を自らに引きつける。そして二刀流の刃で毛獣雑魔を屠っていく。
 まもなく先頭から城塞壁の東門まで百mを切った。騎士や兵士達が加勢してくれるようになり、歪虚崇拝者や自警団の阻止を任せられるようになる。
「私も雑魔を中心にやらせて頂きましょう」
 多由羅はすれ違い様に、 斬魔刀で毛獣雑魔を真っ二つに切り裂いた。弓撃は厄介なので、隠れているところを探しだしては倒していく。
 それまで歩いていた領民達が走りだす。東門へと次々に駆けこんでいった。

「そちらにいきましたので、お任せします」
「了解よ。任せてね」
 それぞれ別の高所に待機したミオレスカとカーミンは、伝話で連絡を取り合う。協力し合う遠隔攻撃で、脱出の行列を支援する。
 雑魔を最優先に倒し、死角に入られた場合には相手方に任せた。歪虚崇拝者や自警団の場合は、足に当てていく。
 兵士と騎士の支援のおかげで、東門周辺は格段に楽になる。わずかに取りこぼされた敵を、強力な一矢で倒していくのだった。

「もう大丈夫なの。安心して」
 ディーナは長い行列にそって、走り回っていた。怪我人が出る度に治療を施していたのである。軽傷の場合は、普通の医療品で応急手当。命に関わりそうな大怪我は、フルリカバリーで治した。
 途中から、治癒魔法をこなす騎士が応援に駆けつけてくれる。ようやく安堵したディーナだが、郊外に全員が脱出するまで安心は禁物だ。
「誰かいたら、返事して欲しいの!」
 通り沿いの建物に入り、彼女は大声を張りあげた。時にピュリフィケーションやゴッドブレスを使いながら、まだ迷っている領民にドスガからの脱出を呼びかけるディーナであった。

「そろそろか」
 城塞壁の東門付近で雑魔と戦っていたボルディアだったが、すでに行列の最後が見えてくる。主戦場は城塞壁の外側へと移行しようとしていた。
「あれなんか、よさそうだな」
 東門をそのままにしておくと、街の中に潜んでいる敵側が大勢追いかけてくるのは必至である。そこで近場にあった見張り用の尖塔を壊すことにした。
 戦闘の途中で知り合った騎士によれば、煉瓦積みの建物には木目のようなものがあるらしい。ある一点を壊すことで全体のバランスが崩れるようだ。指示された個所を魔斧で壊すと、尖塔の自壊が始まる。
 数分前に脱出の行列は通過済みだ。
「まさか本当とは。しかし見張りの塔、破壊か。……アーリアには後であやまっとこ」
 ボルディアはそう呟きながら、騎士と一緒に大急ぎで東門を通り抜けた。
 凄まじい轟音に続いて、辺り一帯に煙が広がっていく。それが晴れると、東門が完全に塞がっているのがわかった。


 郊外まで追いかけてきた敵側は、それほどの頭数ではなかった。ほどなくドスガの街へと撤退していく。
 アーリアの兵団は脱出してきた領民達を連れて、野を移動する。安全が確保されたところで、治療や食糧配給が行われた。
「望まない領民を除いて、全員マールに連れていくつもりだ。薬の効果に苦しんでいる者には、特別な治療も必要だろう」
 アーリアから領民達の扱いを聞いて、ハンター達は安堵する。重大な犯罪をおかしていない限りは、寛大な処置ですませるつもりとのことだ。
 アーリアの兵団と共に、マールへ移動した領民は三百二十二名。自らの力でドスガから離れていった領民もいたはずなので、おそらくは四百人強が脱出したと思われる。
 これから先、ドスガがどのような変貌を遂げてしまうのか。アーリアだけでなく、ハンター達も気がかりだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 秘剣──瞬──
    多由羅(ka6167
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
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2019/04/14 08:46:07
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カーミン・S・フィールズ(ka1559
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
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2019/04/15 01:15:52