• 王戦

【王戦】決戦 渡河別動隊、迎撃戦

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
8~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/18 22:00
完成日
2019/04/26 18:01

みんなの思い出? もっと見る

オープニング

 それは今から約二週間程前── 王都の全市民に対して避難命令が発せられ、皆が慌ただしく準備に追われていた頃の事。
 ホロウレイド戦士団の『女軍師』、セルマ・B・マクネアーは、カロルという女性と入れ替わる形で、第七街区ドゥブレー地区のジョアニス教会を後にしようとしてた。
「……戻られるのですね。戦場へ」
「はい。大変お世話になりました。シスターマリアンヌ。皆にもよろしくお伝えください」
 セルマは深々と頭を下げ、別れの挨拶を済ませて歩き出した。一度だけ、九か月ほど時を過ごした教会を振り返り……未練を断ち斬る様に踵を返した。
 去年の夏の盛り──王女と大公の決着がついたあの日。その『会談』の場を歪虚ラスヴェートが襲撃した第六城壁戦── マーロウ大公の部下であったセルマは『本来の任務』を捨てて戦火に逃げ惑う街の人々の避難を優先し、彼らを連れてジョアニス教会へと逃げ込んだ。
 彼女のしたことは人々を守り、代わりに主を見捨てた形となった。
 主である大公の命を救ったのは、戦士団ではなくハンターだった。しかも、セルマはその場にいることも出来なかった。
 セルマは騎士として戦う理由を失った。共にホロウレイドの戦いで家族を亡くした同志であり、数多の戦場を共に駆けた戦友である戦士団の仲間たちに顔向けできなかった。特に、幼馴染でもあるロビンとハロルド── 彼らが第六城壁戦で生き残った事は聞いていたが、とても合わせる顔が無かった。
 セルマは教会に留まった。そして、最後まで避難民たちの面倒を見た。そうしてシスターたちを手伝い、孤児たちと共に過ごす内に、やがて、それまで忘れていた安らぎの感情を得た。
 傲慢王イヴが王国に宣戦を布告した時、セルマの中には再び戦う理由が出来ていた。
 彼女は教会を後にすると再び剣を取り、鎧を纏って古巣へ戻った。
「来たか、セルマ」
「久しぶりだね」
 ハロルドとロビンの二人は以前と変わらぬ態度で彼女を迎えた。セルマは額が地面に着かんばかりに腰を曲げて2人に謝罪した。
「気にするな。どうせあの日以降、活動はして来なかったんだ。訓練だけは続けていたがな」
「今回、我らマーロウ大公軍は王国軍の一翼を担って傲慢軍と戦う。指揮官はバンクス伯爵が引き受けてくださった。蟄居謹慎中の大公閣下の名代として」
 バイロン・F・バンクス伯爵──大公閣下の古くからの友人であり、盟友。ホロウレイドの戦いで家族も領地、全てを失い、客将として大公家に身を寄せていた人物で、イスルダ島解放策戦時の働きを見る限り、将としての能力に疑問はない。
 セルマがそう告げると、二人が顔を見合わせ、茶化した。
「『軍師』の顔に戻ったな」
 ロビンとハロルドが笑い…‥セルマは気恥ずかしさに顔を背けた。

 押し寄せた歪虚の大軍を相手に、ハルトフォート砦は遂に所定の時間を稼ぎ切った。
 その間に戦力の集中を終えた王国軍主力は、ダンテ率いる傲慢軍を迎撃すべく王都を発った。北門を出てすぐに西へ、大河ティベリスの北岸を西進する。
 一方、マーロウ大公軍を中核と成す別動隊は、大河ティベリスの南岸を西進していた。敵軍が北岸を東進せず、早めに渡河した場合に備え、王都を西から直撃される事態を避ける為だ。もし敵が渡河しなかった場合はそのまま西進し、逆にこちらが敵の後背へ上陸して敵主力を東西から挟撃する──そのような意図もある。
「まあ、流石にそれは虫が良すぎる展開ですけどね」
 そう独り言つセルマは、指揮官たるバイロンに幕量の一人として招かれ、大公軍の全てに目を配る立場になっていた。ロビンとハロルドも「小部隊に縛り付けておくのは人材の無駄」とばかりに、新たに編成された大公騎士団の副将に任じられた。
 やがて、王都を進発して2日後── 王国主力より伝令が飛来した。
「航空偵察の結果、敵主力より部隊の一部が分離し、南進を開始したことが判明した、か……」
「十中八九、渡河を企図しての事と思われます」
 バイロンはすぐに対応を指示した。王国軍別動隊は、敵から最も近い渡河点に先行し、敵別動隊の半分をわざと渡らせ、各個に撃破するつもりだった。残りの半分が渡河を中止するならそれで良し。彼我の主力部隊の戦いが決着するまで拘束し続ければよいだけのこと。もし、渡河を強行するのであれば、地の利を活かして迎え撃つ。
 セルマら幕僚たちの計算では、十分に間に合うはずだった。だが、その予測は傲慢軍の意外な行動によって覆された。
 異界の兵と古代兵器を主力とする敵別動隊は、橋とか渡河点とかそんな人間の常識を無視して、大河を真正面から渡り切ってしまったのだ。
「そんな出鱈目な……!?」
 王国軍別動隊は慌てて敵の渡河地点へ急行した。
 敵別動隊の2/3以上が既に渡河を終えて川を背に布陣を済ませ、続々と渡って来る後続の兵を迎え入れていた。
「川を背に…… 敵は退く気も、負けるつもりもないってことか……」
 今後の作戦を決定する為、バイロンの陣幕に集まっていたロビンが言った。
「おもしろい」
 ハロルドが笑った。
「舐めおって……目にもの見せてやろう」
 ハロルドの言葉に、陣幕内の将校たちの意気が上がった。
 セルマは思考する。……王国軍別動隊を構成する大公軍以外の味方は、まずオードラン伯爵軍。尚武の家系として知られ、その兵卒たちはハルトフォートで対歪虚戦を重ねた歴戦の兵たちだ。伯自身、勇と武、知と理のバランスに優れた良将として武名を轟かせている。
 元貴族派の雄、ダフィールド侯爵家は、新領の治安維持の為に軍を派遣することができず、複数の傭兵団を雇って参加させていた。兵の練度はかなりのものだが、やはり、劣勢時にも士気が維持できるかどうかがカギとなるか。
 それ以外では、ダルデンヌ子爵や他の中小貴族の軍もあるが……上記の軍と比べてしまうと、練度も士気も一段劣る。が、そもそも彼らの軍勢がいないと、敵に数の上で対抗できない。
 ハルトフォート砦から脱出して来た部隊を中心に、それなりの数のGnomeとVolcaniusが同行しているのがせめてもの救いか。彼らは王都の工廠で生産した砲弾をたっぷりと持ってきている。有限ではあるが上手く使えば敵に大きな損害を与えられるだろう。
 そして、別動隊の『諸兵科連合』の肝となるハンターたち──
 セルマは敵陣へと視線を移した。どうやら敵の別動隊は3人の歪虚の傲慢の将が率いているらしかった。非覚醒者に彼らを討つのは荷が重い。とは言え、覚醒者たちもあの大軍を抜けて、将だけを狙えるわけでもない。
「……」
 セルマは思考した。そして……
「ハンターたちを呼びましょう」
 と皆に提案した。
「我々も彼らと密接に連携して戦う必要があります」

リプレイ本文

 大河ティベリス、傲慢軍別動隊渡河地点──
 ワイバーン『ロジャック』を駆る岩井崎 旭(ka0234)が、渡河中の傲慢軍別動隊を偵察する為、その上空へ単騎で侵入した。
 対空砲火も届かぬ高みから、仲間に借りた双眼鏡で地上の敵情を確認する。
 敵は古代兵器も利用して強引に大河を押し渡っているようだった。多脚戦車に目玉の楽団、攻城兵器と思しき亀型自走砲にバイク戦車── 強引な渡河故、流される兵も一人や二人ではなかった。それでも、その兵力規模は王国軍別動隊を軽く上回る。だが……
「凄いな、ロジャック。大軍だ。倒すべき敵も選び放題、掴み放題だ」
 旭はまるで動じることなく明るい表情で告げると、相棒の翼を翻して味方の方へ針路を戻した。……どうやら敵には航空戦力は無いらしい。もっとも、王国軍別動隊も似たり寄ったりではあるが。

 王国軍別動隊は敵の渡河地点から少し離れた場所で最後の大休止を取っていた。その間、本陣に集まった将らとハンターたちは休む間もなく、旭が航空偵察で入手して来た情報の検討に入った。
「……まさか大河を正面から渡河しようとは」
「つくづく人間の常識から外れた連中ですな」
 予想外の展開に呻く諸将。歪虚との戦闘経験が豊富なバンクス、オードランの両伯爵は泰然としたものだが、そんな両雄のガワだけ真似たダルデンヌ子爵の額には隠し切れぬ大粒の汗が浮かんでいた。
「いやはや……知らぬ間にどこからこれ程湧いて出たのですかねえ……」
 マッシュ・アクラシス(ka0771)は呆れた様に呟きながら、情報を精査する。
 敵兵の主力は異界の歩兵にブリキの銃兵──いずれもハルトフォート砦の攻防戦で見た兵だ。これらの相手は非覚醒者でもなんとかなる。数と能力と射程の不利ばかりはどうにもならないが。
 問題は古代兵器群だ。これらにはCAMを当てるしかない。数を活かして『急所』を攻めれば兵でも破壊出来ようが、代償として膨大な犠牲を伴うことになる。
「この『目玉の楽団』って前にオードラン伯爵領に出たってやつだよね? 聞いた、聞いた。バステ持ちでしょ? イヤだなぁ。亀砲も長射程過ぎていやらしいけど、目玉のも戦線が良いように崩壊させられちゃうからね。最初にぶっ潰しておきたいね」
 宵待 サクラ(ka5561)の指摘にマッシュは頷き、それらを踏まえた提案を別動隊首脳部へ奏上した。
 ──敵別動隊の内、渡河を果たした敵は、中央に目玉と亀、左翼(こちらから見ると右翼側)に多脚戦車、右翼にバイク戦車を配していた。そこで、こちらの中央には最大戦力である大公軍を置いて戦線を維持。その間に両翼にて敵戦力、特に機械戦力の減衰を図り、最終的に敵の撃滅を目指す。
「つまり、主翼に関しては、『球体』を排除するまではにらみ合いを継続する、ということでいいのですね?」
 鹿東 悠(ka0725)が訊ねると、マッシュは「ええ」と頷いた。
「そうです。中央は敵の特殊戦力である楽団の撃破か減衰、及び両翼の優勢を確認するまで、攻勢に出ることは避けます」
 その為に、Gnome隊による陣地構築を行い、守勢に徹する。
 右翼は多脚戦車と銃兵の減衰を行いつつ前進、もしくは遅滞行動。敵が優勢の場合は後退も許可。後退した後は大公軍との連携で反転攻勢を狙う。
 逆に左翼は積極的に攻勢に出る。上陸中で歩兵戦力が整わぬ内に敵機動兵器の殲滅を企図し、最低でも中央への流入阻止を目標とする。
 いずれも、状況次第で両翼に中央から援軍が出せるようにする。
「Volcanius隊には味方への砲撃支援、煙幕弾による対砲撃防御をお願いしたい」
「射程に問題が無ければ、2~3回に1度程度の割合で亀への牽制砲撃もしてもらいてえんだが……」
 マッシュとアニス・テスタロッサ(ka0141)の要請に、Vockanius隊(以下、V隊)長、ジョアン・R・パラディールは難しい顔をした。
「……敵が『亀』であるならば、敵砲の方が射程が長い。そして、砲撃を行えば、こちらの位置は敵に露見する。……砲兵の最優先目標は敵の砲兵です。下手をしたら一方的に殴られ続けることになる」
 ──砲兵同士の戦いは、防具も無しに抜き身の刀で斬り合いをするのに似ている。故に、砲撃支援は敵砲の射程外から行うか、でなければ、タイミングを慎重に見極めたい。
 ジョアンの返答に、マッシュとアニスは顔を見合わせた。ただでさえ大きい兵力差。V隊の支援も無しにそれを埋められるとは思えなかった。
「必要ならば対砲撃陣地を最優先で構築させます。なんとかお願いできませんか?」
「部隊を二つに分けるという手もあるぜ? リアルブルーの対砲迫戦のやり方だが……」


 会議と大休止を終えて、王国軍別動隊が西進を再開した。
「会戦だ、決戦だ! 燃えてくるな、ロジャック!」
 休憩を終えて再び機上ならぬ竜上の人となった旭が再び滑走から空へ舞い、先行して味方の進撃路上の安全を確認しつつ、再度、敵情の偵察を行った。
 傲慢軍別動隊は、既に王国軍別動隊以上の兵力の渡河を終えていた。
 王国軍別動隊は、その敵の『頭を抑える』ように正面に布陣した。
 直接敵軍を視認したセルマは、敵が3人の将に率いられているのを見て取った。王国軍もまた中央にマーロウ大公軍、左翼にオードラン伯爵軍、右翼にダルデンヌ子爵を初めとする諸侯軍と傭兵団を展開させた。
 渡河中に接近を受けたにも拘わらず、敵軍はまるで慌てる様子を見せなかった。『傲慢』の歪虚らしい『美しく』整列した陣形で、こちらを迎え撃つ構えを見せた。
「川を背に布陣とはね。確かに退く気は更々無いらしい」
 左翼のオードラン伯爵軍と共に行軍しながら、近衛 惣助(ka0510)はダインスレイブ『長光』の操縦席で呟いた。精密照準器やレドームの追加による索敵・通信機能の強化や、砲の大型化等を施し、砲戦機としての機能を更に特化した重装機だ。
「だが、好都合だ。奴さんたち別動隊には、ここで時を使い果たしてもらおう」
 惣助のその言葉とタイミングを同じくして、王国軍別動隊は接敵をする間に前進を停止した。
 それを確認した敵将アイラが怪訝に目を細めた。王国軍が足を止めた理由──それは程なくして判明した。
「Gnome隊を前面に展開。主翼前列に防御壁を作成してください」
「対射撃陣地を構築します。土を掘り、土砂を盛ることで、壕と堀を同時に作成してください」
 刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」に乗り込んだ悠とマッシュが、前面に展開したGnome隊に野戦築城の指示を飛ばす。
 同時に、陣の最後列では2隊に分かれたV隊が、中央と右翼、中央と左翼の中間地点にそれぞれ布陣した。その姿は陣の前面に築かれた土塁と壁によって隠されていた。航空戦力を持たない敵軍の視線はそこまで通らない。
「……どうやら人間どもは時間稼ぎに徹するようだ」
 王国軍の動きを見てそう判断したアイラは、左右両翼の将、マシューとウォルテッカに前進の指示を出した。王国軍が持久を選ぶというなら渡河の完了を待つことも出来たはずだが、それをしなかったのはまさに『傲慢』だからとしか言いようがない。
 傲慢軍は左右両翼を前進させ、中央は一段下がった位置に着いた。
 敵軍中央は分厚い守りの構えを敷き、本陣はその最後衛に位置していた。その後ろ、最後尾にこちらと同じく亀の砲兵が砲列を敷く。位置関係は左右両翼を砲撃支援できる距離だ。
 それを見た宵町は、R7『九十二郎』(『ここのそじろう』と読む。……もっとも、名付けた本人も読み難いのか、宵町自身も略して『ココジロウ』と呼ぶが)の操縦席で「むぅ……」とどこぞの世紀末覇者みたいに唸った。本来なら真っ先に目玉の楽団を潰しに行きたいところだったが、ああも奥に引っ込まれては…… あの分厚い敵陣を突破するのは、CAMと言えども流石に無謀だ。
 セルマや幕僚たちも敵の陣形を見てザワついた。敵の中央を攻撃しようとすれば、こちらの中央が敵中に突出する形となる。かといってこのまま正面から押し込まれても、元々傲慢軍の方が兵力も機械兵器の数も多い。そうなった場合、士気と練度が一段劣る右翼の諸侯軍から崩れることになるだろう……
(ここはハンターたちの働きに期待するしかない……!)
 セルマはそう腹を括った。
 宵町もまた、wallの防壁に機体を隠しながらジッと機会を待つことにした。
(……世間では悪者扱いされてるみたいだけど、マーロウ大公にはとってもお世話になったんだから。たとえ大公様が居なくても、大公様の名が付く軍が負けるなんて見過ごせない! ……大公様には勝っていただく。その上で欲しいものがあるんだから……!)
 彼我の両翼が、遂に接敵を果たした。
 互いを射程に収めたCAMと古代兵器たちが、それぞれの敵に向かって一斉に砲火を浴びせ始めた。

●右翼の戦い
 王国軍右翼部隊の正面に位置する傲慢軍左翼部隊は、その前進に際して多脚戦車を前面に押し出し、後続する歩兵を守る形で迫って来た。
 王国軍は知る由もないことだが、敵左翼の将はマシュー。傲慢の歪虚にしては珍しく堅実な戦い方をする将だ。
 一方、こちらの右翼部隊は諸侯の私兵の寄せ集めであり、まるで城壁が如く押し寄せる多脚戦車隊の威容に動揺を隠せずにいた。唯一、動じてないのはダフィールド侯爵家が雇った傭兵団。だが、彼らには王国の為に最後まで戦って心中する義理も無い……
 そんな諸侯軍の前面に向かって、歩いて行く人影があった。戦いに参加したハンターの一人で、名をシレークス(ka0752)といった。
 彼女は直立する愛機ルクシュヴァリエ『エクスハラティオ』の肩へと登ると、その上に仁王立ちして拡声器で呼び掛けた。
「聞いてください。この場に集いし戦士たちよ」
 唐突なその行動に、諸侯や兵たちがザワついた。今にも敵が来ようというこの時に、この人は何をしようというのか、と……
「……ハルトフォートは見事、百万の敵を縫い留めて見せました。圧倒的な数の暴力を阻み続け、その役目を全うしたのです」
 兵たちは顔を見合わせ、不安そうな顔をした。自分たちの目の前にいるのが正にそのハルトフォートを抜いた敵だった。
 だが、シレークスは動じない。怯える兵らを叱咤するように、傍らのCAMの装甲をバァン! と叩き、兵らがビクッと身を震わせた。
「見やがれ! 数に勝っただけで勝利を確信する傲り高ぶった敵の軍勢を! だが、ハルトフォートに押し寄せた敵の数はこんなものじゃなかった! 目の前にいるのは所詮、別動隊。しかも、渡河を終えた分しかいない! ……こんなもん、無尽蔵とも言える敵と戦い続けたハルトフォートに比べりゃ屁でもねえ!」
 その口調に兵らはどよめいた。お上品であるはずの修道女が野卑な下町言葉になったからだ。
「見よ、王国と女王陛下の子らよ! この刻騎ゴーレム『ルクシュヴァリエ』の勇姿を! おめーたちには王国が生み出したこの最新兵器と、私とディーナ、二人の『守護者』がついてやがります! ハルトフォート陥ちるとも、その魂は堕ちず! 数で劣るなら敢闘精神で押し返せ! 傲慢な連中に気持ちで負けるんじゃねぇっ! 光は我らと共にある。精霊の子らよ、今こそ『王国の守護者』となれ!」
 シレークスが拡声器をガンッと投げ捨てた。瞬間、兵らが拳を突き上げ、怒号の様な喊声を上げた。
 シレークスはそれに応えて拳を上げると「前進!」と号令をかけた。応じて進軍を始める兵ら。ちなみに彼女に部隊の指揮権は無い。
「すごいの! シレークスさん、みんなをやる気にさせちゃったの!」
 シレークスがCAM隊の所へ戻ると、ルクシュヴァリエの操縦席で一部始終を見ていたディーナ・フェルミ(ka5843)が、パチパチと拍手でそれを出迎えた。
「あんな大勢の人の前で……私にはとても無理なの! 恥ずかしくて! 私に出来るのは、歪虚をメイスでパキャッと殴ることだけなの。パキャッと♪」
 にこにこと笑っていたディーナが真剣な表情になって(それでもどこかほんわかとしているのだが)、呟いた。
「これでなんとか戦える形が見えてきたの……責任重大なのね、私たち」
 ……ディーナの言う通り、実際には楽観できる状況ではなかった。機動力のある左翼の敵バイク戦車に備える為、CAM隊は左翼と中央に厚く配されていた。ここ右翼にはシレークスとディーナの他には、『三人娘』隊など合わせてせいぜい一個中隊分。対する敵多脚戦車は3倍以上の数がいる……

 王国軍の喊声を見て、敵将マシューは『誤認』した。
「我が陣容を前にして、あの喊声……敵は精鋭か?」
 マシューは傲慢の将にしては珍しく堅実な将だった。いかに自身の策に敵を嵌めるかに最大の価値を見出すアイラや、最前線での戦いに拘るウォルテッカなどとは違い、『無様に敗北する』可能性を念入りに潰していくタイプの将だった。
 マシューは暫し沈思すると、異界の兵とブリキの銃兵たちに停止を命じ、多脚戦車だけを前進させる決定を下した。
「敵戦力の中核はあの機械人形どもだ。まずはアレを潰して敵を絶望の底に突き落とす」

「歩兵は『wall』の内側に待機! あの多脚戦車どもは私たちで倒しやがります!」
 歩兵を置いて前進して来る多脚戦車たちに対して、シレークスとディーナもCAM隊だけで前に出た。
 まるで決闘に臨む騎士の様に進み出る鋼の巨人たち。対する多脚戦車隊は一斉に足を止め、横列を広げつつ一斉射撃を浴びせてきた。
「応射!」
 『三人娘』隊リーナの号令と共に放たれる反撃の砲火──その支援の下、シレークス機とディーナ機が他の近接戦機らと共に敵中へと突っ込んでいく。
「難しいことはよく分からないけど、倒さなきゃならない敵のことは分かるの。タコ足戦車、お前なの!」
 ブースターに点火したフライトシールドで一気に敵の砲火を飛び越えたディーナ機が、その爆発を背景に滑空しながら敵戦車の砲塔を思いっきり蹴り飛ばした。
 たたらを踏んで体勢を立て直す多脚戦車。その砲塔の上に凧の様にフワリとディーナ機が着地する。旋回する主砲を盾で押し返しつつ、右手を敵の上部装甲に当てて『セイクリッドフラッシュ』を放つディーナ機。車体全体を光の波動に殴られた多脚戦車がガクリと地面に腹を着く。
 直後、左右の戦車が砲塔を回してディーナに発砲。その直前にディーナ機は再び盾で空へと上がり…… 左右の味方の誤射によって装甲に孔を穿たれた敵戦車が爆発する。上空へ吹き飛んで来た砲塔を躱して再び地面へ降りたディーナ機が、クルクルと機敏な動きで新たな敵側方へと回り込み、魔力で威力を高めた十字型の戦鎚で以って「たあー!」とガシガシ殴りつけ、後、多脚の1本を両腕で抱え込んで、蟹の脚の様に圧し折った。
「この敵、トリッキーな動きに弱いみたいなの?」
 呟くディーナ機からガシャガシャ離れ、距離を取って砲撃を浴びせてくる多脚戦車。
 そうして出来た陣形の間隙に、今度はシレークス機が飛び込んだ。
「邪悪よ、退け!」
 機体にマテリアルの力場を纏いながら肩から突進して行くエクスハラティオ。巻き込まれた敵の脚の何本かが吹き飛ばされて宙を舞う。
「いけるぞ……!」
 後方で観戦していた兵たちが、その戦いぶりに歓声を上げた。
 ……当のパイロットたちには誰一人、表情に余裕なんて欠片もありなしなかったが。

●中央戦線
 左右両翼で戦闘が始まった時、中央ではまだ戦いの火蓋は切られていなかった。先に言及した通り、敵中央が両翼に比べて一段下がった位置にいたからだ。
 正面には異界の兵らの分厚い梯団──最後衛の敵本陣や亀砲を叩くには、その無数の敵中を突破するか、両翼のどちらかを崩して側面から衝くしかない。
「とりあえず……まずは枝葉の剪定から始めますか。敵前衛をすり潰ます」
 悠はヘッドセットのマイクを摘むと、後方のV隊に正面の敵に対する砲撃支援を要請した。
 アニスもまた、整然と隊列を組んでゆっくり近づいて来る異界の兵らに対する射撃の準備に入った。黒を基調に赤を配したダインスレイブ『アガレス・グランス』、その滑腔砲の砲身が肩部支持架に固定され、バックパック脇の補助腕が徹甲榴弾を装填する。
「Volcanius隊、P班、砲撃準備。面制圧射撃、目標、正面の敵歩兵!」
 悠の要請を受けたジョアンから砲兵隊へ指示が飛び、敵第1梯団の先頭部に対して最大射程から炸裂弾による効力射が浴びせられた。
 敵集団の先頭部に次々と湧き起る爆発の華── 歩行から突撃へと移行した敵に対して、アニスもまた他の砲撃機と共に射撃を開始した。二門の滑腔砲から徹甲榴弾を交互に放ち、敵先頭集団を次々と狙い撃っていく。
 敵の頭上に達した瞬間、時限信管により空中で炸裂する徹甲榴弾── その威力は凄まじく、敵の先頭集団は櫛の歯が欠ける様にその数を減らしていった。
 振り撒かれる破片の豪雨に敵は無謀な突撃を止め、地面にへばり付く様に身を伏せた。それを確認したアニスは砲撃の効率を最大にすべく、V隊に対して目標の変更を報せた。
「目標を敵第二梯団へ変更する。Volcanius隊は敵最前列とその後方を分断するよう砲撃を……」
 アニスの通信に、空中で情報支援に当たっていた旭の緊迫した声が割り込んだ。
「敵砲、発砲!」
 一拍遅れて、前線にも敵の砲声が届いた。数秒後……砲弾がジョアン達がいる砲兵陣地に集中的に降り注ぎ、Volcaniusのそれよりも遥かに大きい爆発が立て続けに立ち昇った。
「ジョアン、おい、ジョアン、ちゃんと無事じゃろうな、おい?!」
 左翼、ミグ・ロマイヤー(ka0665)の呼びかけに返事はなく、ただ雑音だけが返った。
 エルバッハ・リオン(ka2434)はキッと亀の方を睨み据えると、機体を敵前に晒すのも構わずR7『ウィザード』を土塁の上へと上げて、狭い射線を確保した。
「旭さん、敵砲の位置を」
「了解、えっと……」
 上空の旭からもたらされた位置情報を基に、エルは見えざる敵陣最奥の亀砲に向かって長射程のマテリアルキャノン「タスラム」を撃ち放った。初弾は外れたが、旭から送られて来る修正指示を基に砲撃を続け、遂に3射目で亀への直撃弾を出すことに成功。続く4射目で亀の1台を破壊した。
 直後、CAM各機の操縦席にロックオン警報が鳴り響いた。V隊P班に対する効力射を終えた敵砲が目標をCAM隊へと変えたのだ。
 亀たちの甲羅の模様の1つが蓋の様に開き、その中のVLS(垂直発射管)から大型誘導弾が発射された。1弾は複数の誘導弾に分離して上空の旭を追い落としに掛かった。残る誘導弾は左翼・中央・右翼に飛ぶ3集団に分かれて陣地の上空を通過した。
「あれ? 外れ?」
 と通過していく誘導弾を見上げて小首を傾げる宵町。だが、敵弾は通過する前にそのカバーを外し、無数の小型爆弾をばら撒いていた。
 マッシュは「マズい……!」と呟くと、ルクシュヴァリエをアニス機の元へと走らせた。そして、『幻糸の柱』を展開し、空間結界法術で自機と砲戦機を包み込んだ。
 慣性で斜めに降り落ちてきた子爆弾の群れがCAM隊を包み込む様に着弾する。膝をついて防御態勢を取る悠の『破軍』の横で、『マテリアルカーテン』を展開するエル機。直後、無数の爆発が左翼・中央・右翼に展開するCAM隊を押し包んだ。
 その爆発の一つ一つはVolcaniusのそれよりも大きかった。ハンターたちはその砲撃に、それぞれ防御態勢を取ることを余儀なくされた。
 そして、彼らが『頭を抑えられて』いる間に、中央の敵歩兵が突撃を再開した。それを知ったV隊M班のリズ・マレシャルは「砲撃支援を引き継ぎます」と突撃破砕射撃を実施。直後、亀砲の対砲迫射撃を受けて、暫し沈黙した。
 後方に立ち上る爆発を心配そうに振り仰ぐ悠。「来るぞ」というマッシュの声に改めて前へと向き直る。
 悠は機に斬艦刀「霊山」を引き抜かせると、黒い刀身に白銀の刃を煌かせたそれを両手に構え、近接防御の為に砂塵の帳を抜けて前へと進み出た。
 エルもまた電磁加速砲「ドンナー」へ武装を換装しつつ機を立ち上がらせた。そして、黒地に金のR7に神楽を舞う巫女の様な所作で魔法陣を展開させると、迫る異界の兵ら鼻面に向けて『ファイアーボール』を叩き込んだ。
 弾け飛ぶ爆裂火球。吹き飛ぶ敵兵── 悠機とマッシュ機、そして宵町機が敵を迎え撃つため前進し、文字通り敵を蹴散らしながら敵中へと踊り込む。
 それぞれに手にした得物を振るうと、薙ぎ払われた異界の兵らがバラバラになって宙を舞った。だが、敵は恐れを知らぬ者の様に次々と肉薄して来ては、負のマテリアルを込めた投げ槍を一斉にCAM隊へ投擲して来た。それらは射程も短く、CAMの装甲を貫けるだけの威力もなかったが、一部は関節等の『弱点』を直撃してその機構にダメージを与え得た。
 風の刃を振るいつつ眼下へ重機関銃を撃ち下ろしていたエル機が、その右手を前へとかざして再び爆裂火球を叩き込む。
 陣に籠っていた大公軍の弓兵たちが一斉に矢を放ってハンターたちを支援した。反撃は当然、そちらへも及び……兵力の削り合いが始まった。

●左翼
「機動兵器が射撃に弱いのは常道。ならばミグは左翼にて敵の騎兵部隊の撃滅を行い、遊撃戦力による戦線の攪乱を防止するべきであろう」
 そう語るミグのダインスレイブ『ヤクト・バウ』は、この日も要塞の如きその威容を如何なく左翼陣地に鎮座させていた。
 その傍らにはミグご自慢のグランドスラム製造装置。それまで1基しかなかったミグ回路(ミグ回路である)を4基並列運用させることで徹甲榴弾の増産をも可能とした。その数、実にインジェクション76回分──いったい何が彼女をそこまで突き動かしたのであろうか。見事な弾薬工場っぷりである(←ホメ言葉)
「先の撤退戦での雪辱を晴らしてくれようぞ。皆の者、お・も・て・な・しぃ、の心を忘れんようにな」
 微妙に古くなった(いや、むしろタイムリーなのか?)言い回しで、コクピットの中から無線で左翼の味方を督戦(督戦?)するミグ。
 それを聞いた時音 ざくろ(ka1250)とサクラ・エルフリード(ka2598)は顔を見合わせ、苦笑した。彼らが機体を隠し、背中を預けたwallの向こう側では、敵の隊列の先頭に立ったバイク戦車の群れがその爆音を響かせ、今にも突撃を始めようとしている。
「ざくろたちの相手はバイク戦車に異界の騎兵か…… 流石に動きが素早そうだね。惑わされないようにしなくちゃ」
 そっとwallの陰から敵の様子を窺い、呟くざくろ。エルフリードは無言で頷き……ふと気づいたといった様子で傍らのざくろに訊ねた。
「リアルブルーにもあのような集団が存在すると聞きました。やはり戦闘車両の類なのでしょうか……?」
「えっと……」
 ざくろが言い淀んでいると、惣助が堪らず噴き出した。エルフリードは小首を傾げたが、答えを得ることは出来なかった。敵バイク戦車隊が突撃を開始したからだ。
 ハンターたちは瞬時に精神を切り替え、対応に移った。
 後衛に重砲撃機を並べたミグと惣助は即座に機の砲を上げ、すっかり準備を終えていた『グランドスラム』の砲撃を開始した。
 タイミングは他の味方砲撃機(NPC)らと同一の一斉射撃── 圧倒的な面制圧力で敵の出鼻を挫き、同時に敵進路上の地面を『耕し』、その機動力を削ぎにかかる。
 そして、弾着── 隊形も何もなく、無秩序に突撃して来た敵バイク隊の只中に、無数の爆発と2つの巨大な爆炎が湧き起こった。その『爆心地』付近では多くのバイク戦車が倒れ、転倒を免れたものらもバランスの回復に速度を落とした。
「まだまだじゃあ!」
 この時の為とばかりに増産しておいたグランドスラムを砲口に装着し、再び敵へと放つミグ。惣助は続けて徹甲榴弾を装填すると、他の味方機と共に倒れた敵へ砲撃を集中。1台ずつ確実に潰していった。
 だが、敵もさるもの。先の砦の撤退戦でグランドスラムの脅威を目の当たりにしていたこともあり、すぐに対策を打って来た。
 まだ無事だったバイクらが大きく花開く様に散開した。元々、陣形などなかったバイク隊だったが、更に広範囲に亘ってバラけて高速で走り始めたのだ。
「なんじゃ? 多少散開したくらいでは『グランドスラム』から逃れられは……ぬ?」
 敵は散開しただけでなく、全速で爆音を響かせてこちらに向かって突進して来た。グランドスラム対策に敵が取った対策が、この『散開しつつ距離を詰める』事だった。バイク戦車はそれを有効とするだけの機動力を有していた。
 そして、そのタイミングで敵亀が放った小型爆弾が左翼のCAM隊にも降り注いだ。歪虚版『ミニグランドスラム』とでも言うべきその攻撃に、ハンターたちの籠るwallの陣は一瞬で破壊され、CAMらも防御態勢を強いられた。
 ……突進して来たバイクがその間に、こちらの砲撃の最小射程の内側へと潜り込む。法則性もなく左右に動き回りながら砲塔をこちらへ向け、機関砲の最大射程から連続射撃を浴びせて来た。
「味方の砲撃で陣形が乱れた時こそ突撃の好機……と思っていましたが、逆にこちらが敵の接近を許してしまいましたね」
 使い捨てのマテリアルライフル『ウッドペッカー』を構えて放ちながら、エルフリード。立て続けに放たれた光条が三度、走り回る敵を貫き、直撃を受けたバイクの内、数台が火を噴き、爆発する。
 だが、先の撤退戦で殆ど被害のなかったバイク戦車隊の戦力は、まだまだ掴み取りが出来そうな程に多かった。敵にとっては突撃の好機──のはずだったが、本来、指揮官先頭の猛将たる左翼の敵将ウォルテッカは、今回、総大将を務める敵将アイラの薫陶(?)が行き届いているのか、距離を開けての射撃戦に徹していた。
 故に、敵の砲撃支援も味方を巻き込む憂慮もなく、思う存分CAM隊の頭上に降り注いだ。更に、バイク戦車たちがこちらの砲撃機たちに向けてマイクロミサイルの一斉射撃を浴びせ、敵の砲撃に態勢を崩していた砲撃機の何機かが誘導弾の乱打に喰われた。
 破壊された機体から脱出するパイロットを確認してホッと息を吐くミグと惣助。ミグはその脱出者たちを機に捕まらせると、砲撃距離を取る為に他の砲撃機らと共に後退を開始した。
 それを追いつつ、しかし、距離は一定に保ちながら、追撃の機関砲を乱射するバイクたち。惣助は後退する味方の殿軍に立って、追い縋る敵に向かって重ガトリング砲を連射した。胴部装甲に機関砲弾を跳弾させつつ、火線の鞭を振るっての制圧射撃で敵の追撃の足を止め。しかし、直後に亀主砲の至近弾を受け、膝をついた機体に土砂を被る。
「行こう、サクラ。王国の人々の為にも、これ以上好きに暴れさせるわけにはいかない……!」
「了解です…… 敵の中に紛れた方が、砲撃に曝されることもなくなるかもしれませんしね……希望的観測ですが」
 ざくろとエルフリードは周囲の近接戦機にも声を掛けると、彼我の動線とは逆の流れで、味方砲撃機を追うバイク隊の側面から突っ込んだ。
「行くぞ、グランソード! 歪虚の企みはざくろとグランソードが倒す!」
 ざくろは機に機剣「イフテラーム」を引き抜かせると、「グランソードビーム!」と機外スピーカーで叫びつつ、3条光線『デルタレイ』を放って3台へ同時に狙い撃った。そして、白刃を翳して先頭のバイクに突進すると体当たりをかまして転倒させると『超重錬成』で巨大化させた機剣を大きく振り被り……
 それを振り下ろす直前に体当たりを仕掛けてきた敵に気付いて、ざくろは咄嗟に機体に装着していた浮遊盾をリリースした。半身を下げて回避運動を取りつつ右手人差し指と中指を立てて盾を操り、突進して来る敵へ横からぶつけて『攻勢防壁』で吹き飛ばす。
「超重剣・縦一文字斬り!」
 そうして流れるような動きで再び『超重剣』を振り上げると、身を起こし掛けていた最初のバイクへ振り下ろして真一文字に斬り裂いた。そして、続けて攻勢防壁で弾いた敵へ──立て続けに剣を振り下ろす。
 一方、エルフリードは刻令術を通して斬艦刀に魔法紋を付与すると、ルクシュヴァリエに『人機一体』を用いて完全に自分と機体とを同調させた。そして大太刀を両手で腰溜めに真横へ構えると、敵陣を一直線に走り抜けて斬り裂いた。
 反撃の銃火を紙一重で掻い潜り、そのまま敵陣を突っ込んでいって反対側へと突き抜ける。孤立した格好となったエルフリード機を取り囲む様にバイクが機関砲弾を浴びせ。だが、エルフリードはふぅーっ、と息を吐くと再び機の腰を落として脇構えに太刀を構え…… 直後、機体にマテリアルの力場を纏って吶喊。バイクたちを弾き飛ばしつつ、再び敵陣を切り裂いた。
 ……奮戦である。ざくろとエルフリードら切り込み隊は敵をさんざんに引っ掻き回した。
 だが、前述の通り、敵バイク戦車は元々の数が多い。おまけに亀砲の砲撃も変わらず降り続いている……
(このままでは兵力差で押し切られるか……)
 左翼の将、オードラン伯爵は口に出さずに敗北を予測した。そして、やたらと大人しい敵将ウォルテッカの方を見た。
「猛将、か……」
 伯爵はポツリと呟くと、麾下の騎兵に出陣の下知をした。そして彼らを率いてハンターたちの戦場を迂回し、敵将へ向かって突撃していった。
「騎射、放て」
 伯爵の命に従い、ウォルテッカに向かって矢が放たれた。攻撃はただの一度。一撃離脱で逃げにかかる。
 勿論と言うべきか、ウォルテッカに傷をつけた矢はなかった。だが、その児戯とも言える攻撃に、ウォルテッカは怒髪天を衝いた。
「おのれ、人間が!」
 ウォルテッカが直掩のバイク隊を率いて伯爵と騎兵を追い始めた。伯爵は馬を駆けさせながら無線機を手に取り、「敵将を釣り上げた。よろしくやってくれ」と涼し気に伝えてひたすら逃げにかかった。
「動いた……!」
 その光景を見て、ミグが叫んだ。戦況を逆転させる好機であった。故に、後退する足を止めて照準を敵将へと向け直した。
「戦の趨勢を決める為にも、ここで優勢を取る!」
 惣助もまた反転する。ざくろとエルフリードら切り込み隊の突入により、砲撃機隊に対する敵の追撃は既に千々に乱れていた。
「左翼の敵将が動きましたか?! ルートは? 中央へ突撃する構えは見せていますか?!」
 マッシュが珍しく慌てながら上空の旭に訊ねてきた。
 旭は目を皿の様にして眼下の地上へ視線を落とした。敵将が動いたのは良いが、大回りされて抜かれましたじゃ話にならない。
「いや……いや……! 中央に向かう気配はねぇ! あいつ、伯爵を追っかけ回してる!」
 答えながら、旭は敵将が直属のバイク戦車隊と共に、異界の騎兵らを置き去りにして突出していることに気付いた。バイクと騎兵の速度差の為だ。隊列が長く、細くなっていることが、上空からは一目瞭然だった。
「……あれ? もしかして、アレって……敵将を『一本釣り』にできないか……?」
 全く同じタイミングで、ミグが仲間たちに叫んだ。
「奴の首を取れ! 早期に敵の指揮官を討ち取ることができれば、敵中央に圧力を掛けることが出来るようになる!」
 ……旭は唇をペロリと唇を舐めると「やるか……!」と呟いた。そして、愛竜に指示を出すと敵将へ向かって逆落としに突っ込んでいった。


 戦いが長引くにつれ、右翼のCAM隊は押し込まれていった。敵戦車隊の猛砲撃に1台、また1台とCAMが倒れていき、その度に戦力比が増大していったからだ。
 ディーナは「たあー!」と気合の雄叫びを上げながら多脚戦車の脇から突っ込むと、こちらに向けられた主砲を十字鎚で殴りつけた。二度、三度、右袈裟、左袈裟に鎚を振るって殴り飛ばし、脆くなったところを魔力紋を込めた一撃で以って折り飛ばす。
 戦力差が広がるに伴い、ディーナは多脚戦車の足ではなく砲を壊す方針に転換していた。砲さえ潰せば多脚戦車の攻撃力は(まだ機銃は残るが)大きく削がれるからだ。
 だが、戦力差は埋まらない。むしろ開くばかりだった。
 小隊縦列を組んだ多脚戦車が、奮戦する右翼CAM隊の両側面を前進し、砲塔を旋回させて両側方から砲撃を撃ち掛けてきた。正面の横列からも戦車砲の鶴瓶撃ち──三方からの十字砲火に、これまで持ちこたえてきたCAMたちも堪らず数機が立て続けに大破した。
 『三人娘』隊のヴィルマ機も撃破された。回復すべく飛行盾を用いて空を飛び駆けつけたディーナだったが、ヴィルマは復活を謝絶した。
「私はいい。どうせ復活しても長くはもたない。最後の『リザレクション』はシレークスに取って置け」
 そのシレークスは機体に剛力と魔法紋を付与しつつ、更に魔法剣をも込めることで機体の限界攻撃力を引き出した。そして、マテリアルのオーラにより延伸された刃を振り被って突撃し、正面の横列へ向かって薙ぎ払い、その正面装甲を切り裂いた。
 砲撃が集中する。構わずシレークスは攻撃に集中した。戦場を飛び渡って駆けつけて来たディーナが『フルリカバリー』でシレークス機の機能を回復させた。
 回復させた傍から、集中砲火が2機の装甲を削った。
 いつの間にか、右翼のCAM隊はシレークスとディーナだけになっていた。
(ここまでかな……?)
 ディーナは最後の回復をシレークス機に使った。そして、諸侯軍はもう逃げ出したかな? と心配して背後を振り返った。

 諸侯軍は逃げてはいなかった。それどころか、陣を出て正面の敵に突撃する構えを見せていた。
 彼らが逃げなかった理由。それは、戦いの前にシレークスが飛ばした檄と── 何より、王国軍がこの戦に勝つからだった。

 振り下ろされた光刃が、横列を組んだ正面の多脚戦車たちを一刀両断にした。砲塔と車体の半ばまでを断ち割られた敵が爆発し、砕けた砲塔を宙へと投げ出した。
 何が起こったのか分からぬシレークスとディーナの目の前に、左方から踏み込んで来たマッシュ機がその身体ごとぶつける勢いで生き残った多脚戦車へ機甲槍を突き入れた。
 装甲を貫通した内部で放たれるマテリアルブレード。車体の反対側まで抜けたマテリアルの刃が穴を穿ち……槍を引き抜かれた直後、戦車が孔という穴から火を噴き、擱座する。
「古代兵器は私たちCAM隊が引き受けます。ロビンさんは敵歩兵を蹂躙してください」
 マッシュの指示に従い、突撃を仕掛ける大公軍騎士団が一。それに呼応した諸侯軍も敵歩兵に襲い掛かっていく。
「いったい、何が……」
「中央の勝負がついたの?」
 シレークスとディーナの二人はわけもわからぬまま互いに顔を見合わせた。


 その少し前の事。左翼で突出した敵将ウォルテッカに対する攻撃が始められた。
 まず最初に放たれたのはミグの『グランドスラム』。それも一発ではなく複数弾だ。周囲へ立て続けに降り注いだ大威力の砲弾が、敵将周りのバイク戦車らを広範囲に薙ぎ払い、ダメージを与える。単騎でそれを為し得たのは『弾薬工場』の面目躍如だ。
 続けて、追撃隊を無視して土塁の上から、十連装ミサイルランチャーを敵将目掛けて発射した。背部のランチャーから垂直に打ち上げられたマイクロミサイルの群れが、白煙を曳きながら豪雨の如く敵将の周囲へ降り注ぐ。
 更に、惣助機上った土塁を滑り降りて地面──『敵将と同じ高さ』に降り立つと、ウォルテッカに滑腔砲を向け、貫通徹甲弾を水平発射した。貫徹力を高めたその砲弾は、傲慢の将によって素手で掴まれた。だが、ミグのグランドスラムによってダメージを与えられていたその射線上のバイクたちは、装甲を貫かれて砕け散っていた。
 構わず、二発、三発と装填して放つ貫通徹甲弾──そうして開かれた『地上の道』へ、ざくろ機とエルフリード機が並んで突っ込んだ。共に得物へ付与される魔力の紋。エルフリードは再びの人機一体で己と機体の感覚のズレをゼロに近づけ。ざくろは自身の気合と全力を機体に込めると、膨大なマテリアルで形成した光の剣を勇者パースで構えて叫んだ。
「ざくろとこのグランソードが居る限り、お前の思う様にはさせない……! 集まれ希望の光! 一刀両断、『スーパーリヒトカイザー』ァァァァ!」
 迸る奔流と共に振り下ろされた光の刃が、彼我の間に立ちはだかる全てのバイクと大地を断ち割った。「散!」という叫びと共に爆発するバイクたち。雄叫びと共に光の刃を受けたウォルテッカは、それを受け止めながらも『懲罰』でそのダメージをグランソードへ転写した。
 自分自身の攻撃のダメージを喰らって「グッ……!?」と膝をつくざくろの勇者機。だが、エルフリードは足を止めずに敵将の元へと達し、大太刀で以って斬りつけた。
「ルクシュヴァリエと一つに……人機一体となりて敵を討ちます……!」
 目にも止まらぬ速さで敵将へと斬りつけるエルフリード機。ウォルテッカはそれを拳で払い受けたが、エルフリードの『機械的に行われた意図せぬ追撃』は受け切ることができなかった。
「ぬぅ……『動きを止めよ』!」
 『強制』によって回避を禁じられたところへ負のマテリアルを込めた拳の一撃を叩き込まれた。その衝撃を自身の身体でモロに受け止めつつ、サクラはインジェクションで無理矢理己の身体に魔力を注入。『人機一体』を再使用して横へ横へと回り込みつつ、纏わりつく様に切り続けた。そこへ立ち上がったざくろ機が駆けつけ、連携して二人掛かりで歪虚と剣戟を繰り広げる。
 故に、敵将は直上から来たその攻撃に気付くことができなかった。だが、襲撃者はわざわざ名乗りを上げて、自らを討つ者の名を敵将へ知らしめた。
「ガーディアン。鳥人間、岩井崎 旭。空から押し通るぜ!」
「ムゥっ!?」
 自分と飛竜の質量全てと降下によって得た運動エネルギーの全てを魔槍に込めて突き出す旭。その穂先に肩口を貫かれつつ、旭へ反撃の裏拳を放つウォルテッカ。ロジャックがその拳をクルリと空中で身体を回して躱す中。自ら空中へと飛び出した旭が『縛鎖の籠手』──マテリアルの鎖で自身と敵将とを繋いでその移動を封じ込めた。
「小僧……!」
「さあ、最後までやり合おうぜ!」
 旭は叫んだ。王国軍は同じく明日を目指す仲間だ。一緒にこの戦場を突き抜けて、斬って斬って未来を拓く!
 主の叫びと同時に至近距離から飛竜の狼炎が放たれた。呼応し、魔槍を繰り出す旭。更にざくろとエルフリードがここぞとばかりに攻め立てる……!

 独断専行した上司に異界の騎兵らがようやく追いついた時。彼らの将ウォルテッカはハンターたちの猛攻を前にその存在を散らしていた。
 間髪入れずその只中へ降り注ぐミグの『グランドスラム』。ミグは仲間たちを「よくやった」と労いながら、騎兵集団へ砲撃を浴びせ続けた。その砲弾が無くなる気配は未だ無い。
「このまま敵左翼(あちらからすれば右翼)の遊撃部隊を撃滅する。そして渡河中の歩兵部隊の『上陸』を阻止し、敵中央軍と敵右翼(あちらからすれば以下略)を河岸に孤立させる」
「このまま敵機動戦力に対し砲撃を継続する。オードラン伯爵軍には、我らが満遍なく耕した後に前進し、敵を殲滅されたし。以上!」
 ミグと惣助は通信を終えるや、伯爵軍の先頭に立って、敵騎兵集団へ向け榴弾の射撃を開始した。その傍らを敬礼と共に伯爵軍の騎兵と歩兵が駆け抜けて行き、生き残った敵へ向かって弓を射かけて討ち取っていく。
 旭もまたエルフリードの『ヒーリングスフィア』の回復を受けると、再び飛竜に飛び乗って敵騎兵上空へと達した。そうして頭上から眼下の敵中の只中へと飛び降りると拳を地面に打ちつけて──波打つ地面に敵が動けなくなったところを、『巨大化』しての『轟然たる大竜巻』──マテリアル大回転で吹き飛ばした。
「剣に今勇気を込め……一閃炸裂・横一文字斬り!」
「斬艦刀、一刀両断……! この剣に切られたいものからかかって来なさい……!」
 ざくろ機とエルフリード機がマテリアルを纏って突入して敵の隊列を千々に乱す。この時点で既に左翼(略)の敵は組織的な抵抗が不可能となっていた。


「左の敵が崩れた……!」
 土塁の上からその光景を確認したエルの声に、中央のハンターたちと大公軍の士気は一気に上がった。それは即ち、正面から押し寄せて来る敵の側面を突けるようになったと同時に、亀や目玉、即ち中央の敵本陣をも迂回・直撃できるようになったことを意味していたからだ。
「突撃です……! 先鋒、切り込み役は私が務めます。私の機体が盾になりますので、ついてきてください」
 悠は自身の機体を前面に押し出すと、大公軍の新設騎士団ハロルド隊と共に敵梯団へ反転攻勢に転じた。
 すかさずアニスもV隊に無線を入れ、砲撃支援の要請を行った。
「突撃する味方の進路上へ、砲撃で敵陣に楔を打ち込む。前進する味方が邪魔な敵に拘う回数を減らして、敵本陣までに掛かる時間を低減するんだ」
「P班、了解」
「M班、同じく」
 ……V隊は亀の砲撃にやられてはいなかった。
 V隊は隊を二つに分け、別々の場所に布陣した。そして、効力射が終わる度に陣地転換を行った。空になった陣地に敵が砲撃を仕掛ける間、別班が効力射を実施して陣地転換。今度はそちらに砲撃が落ちてる間に、陣地転換を終えた元の班が効力射を実施する──これを繰り返しすことで、敵の対砲迫射撃を躱していたのだ。
「あ、砲撃には炸裂弾だけでなく、煙幕弾も交ぜておいてください。敵の視界を塞ぐことで、こちらの突撃に対応するまでの時間を稼ぎます」
 悠の要請を了解し、V隊P班が前面の敵第三梯団に対する砲撃を開始した。炸裂弾が次々と敵兵を吹き飛ばし、また、敵陣の中に滞留した魔法の煙幕が敵の視線をそこかしこで遮断する。
「煙幕の展張を確認。これより突撃します」
 悠の『破軍』を先頭に敵第三梯団への突撃を敢行する大公軍騎士団ハロルド隊。その機動力と突撃衝力は歴戦のオードラン伯爵軍も一目を置く。
 先頭の悠はスキルトレースを用いて侍型の機体に『ソウルトーチ』のオーラを纏うと、マテリアルの力場を噴出させて敵歩兵らを弾き飛ばしつつ、大太刀を振るって前面の敵を薙ぎ払い、騎士団の進撃路を拓き続けた。反撃の投げ槍が放たれて何本かが急所を穿つも、その前進は止まらない。
 その頭上を越えて、敵砲がV隊P班に向けて放った砲弾が飛翔していった。だが、悠は振り返らない。その頃には既にP班は射点を移動していることを知っている。
 その間、突撃支援射撃はM班が引き継いだ。降り注いだ砲弾が、悠と騎士団の前面の敵を次々と吹き飛ばしていった。
「どうです、ハルトフォート砦で猛威を振るったVolcanius隊の力は。とても兵の数だけで防げるものではありませんよ」
 呟く悠の言葉通り、その後も彼とハロルド隊は敵第三梯団を順調に突破。敵の分断に成功した。続けてマッシュのルクシュヴァリエを先頭に大公騎士団ロビン隊も突撃を開始。同様に敵陣を切り裂いていき、第三梯団を急速に解体していく。
 アニスもまた味方の砲戦機らと共に機体を陣の外に出し、前進する味方に併せて徹甲榴弾による支援射撃を行った。どうにか態勢を立て直して味方の横腹を突こうとする敵部隊の鼻先に榴弾を叩き込み。彼我の距離が近づいた後は、貫通徹甲弾の一斉射撃で大きく敵兵を薙ぎ払った。
 敵第三梯団は崩壊した。
 異界の兵らは動揺しなかった。感情と言うものが無いからだ。
 中央の将アイラは不快気に眉をひそめた。不用意に猪突し、討たれたウォルテッカの浅慮と失態を呪って「あの粗忽者が……!」と吐き捨てる。
 悠はそのまま第四梯団への突撃を継続した。マッシュはそこで進路を右に変え、劣勢の右翼CAM隊を援護するべくロビン隊と共に敵左翼(略)の側面を突いた。
 亀砲による支援砲撃は既に行われてはいなかった。敵右翼(略)に開いたスペースを使って、宵町とエルの2人が味方CAM隊と共に側方から本陣と亀隊に攻撃を仕掛けたからだ。

「マーロウ様には恩がある。それに聖導士学校の存続とか……のこととか、お願いしたいことだってある。マーロウ様の名代の軍が、こんなところで潰れてもらっちゃ困るんだ!」
 本陣の直衛についていたブリキの銃兵たちの一斉射撃をフライトパックの一斉噴射で跳び越えて── 宵町の九十二郎が単騎で先行。敵本陣へと殴り込んだ。
 目の前には目玉の楽団──宵町の狩るべき獲物である。敵将アイラを守るようにずらりと隊列を組むマーチングバンド。──関係ない。私が狙うのは敵将ではなく、お前たちなんだから!
 宵町が機体を突進させる。前方から放たれる金管楽器の音響兵器を盾をかざしてやり過ごし。後方から放たれる銃兵の一斉射撃を、惜しまず展張した『マテリアルカーテン』の光のマントで払い除ける。
 剣の届く範囲まで最短距離で肉薄する。目の前の目玉に向かってノーモーションで黒い刀身のサーベルを振るって敵を薙ぎ払い。止めを刺すまで連撃を加えて目玉を落として沈黙させる。
 金切り音等の精神攻撃に対しては、BSを軽減する結界を張って抵抗した。そうして目についた目玉たちから次々と切り裂いていった。
 やがて味方のCAM隊がブリキの銃兵たちを突破して来て、宵町の周囲の目玉に向かって援護射撃を浴びせて来た。
 掃討は順調に進んでいた。……だが、果たして彼女らは気づいていただろうか。
 敵の本陣を攻撃するということは。当然のことながら、そこにいる敵将アイラも同時に相手取ることになるということに。

 エルのウィザードは一個小隊のCAMのみを道連れに、宵町機より更に奥へと進んで亀の砲撃陣地へと到達した。
 ここに来るまでに、直接視認できるようになった個体をタスラムとドンナーによる長距離攻撃で狙い撃ちにして来たが、ここまで近づいてしまえばもう直接殴った方が早い。
 エルは近接武装の重機関銃で、味方と共に亀らに銃撃を浴びせ掛けた。砲兵の御多分に漏れず、亀砲も装甲はひどく薄いものでしかなかった。
 レーザー機銃を掻い潜って全ての亀砲を沈黙させると、エルは続けて目玉を討つ為、味方機(損害無し)と共に本陣を後方から襲撃した。そこで、目玉とアイラと戦闘状態に入った宵町隊と合流した。
 だが、彼らの内でまだ稼働状態にあったのは宵町機だけだった。生き残った目玉たちが鳴らすドラムロール── アイラが「また人間か……」と不快気に眉をひそめた。
「散開……!」
 エルは仲間に指示を出すと、機体を横に跳ばせながら、敵将と目玉の集団に向かって爆裂火球を連打した。
 魔力の闇色光条を放ち、CAM隊を迎撃するアイラ。エル機は味方機の中心にあり、『強制』や目玉の精神攻撃から仲間を守り続けた。
 だが、それもやがて残るはエル機だけとなり、エルと宵町はいったん下がって、ダメコンとマテヒによる機体の回復を図った。
「これが鋼の巨人の力か? 他愛のない……」
 アイラの余裕の表情は変わらない。だが、その時には既にアイラの命運は尽きていた。
 第五梯団を突破して来た悠機が、騎士団に歩兵の掃討を任せて本陣に突入して来たのだ。新たなCAM隊の到着に、頭上にミラーボールの様な魔力の塊を打ち上げ、全周に怪光線を放つも、それも本陣を射程に捉えたアニスがプラズマキャノンで狙撃し、破壊。続けて周囲の目玉たちをも次々と狙い撃ちにしていった。
 気が付けば、アイラの周囲に彼女の味方は一人もいなくなっていた。それでも彼女は『傲慢』の歪虚故に退かなかった。
「敵将を狙う余裕はない……はずだったんだが、な!」
 悠が大太刀で以ってアイラを殴り、アイラはその打撃を『懲罰』で悠機に返した。怯まず斬りつけ続ける悠機。回復を終えた宵町機がその剣戟に加わり、エル機はアニス機と共にドンナーによる支援射撃に徹する。
 やがて、孤立無援のアイラはハンターたちによって討ち取られた。彼女が粗忽者と言ったウォルテッカと同じ最期だった。

 敵軍中央は瓦解した。
 王国軍と傲慢軍、別動隊同士の戦いはここに決着がついたと言っていい。


 渡河を終えていなかった異界の兵たちに向かって、惣助機、ミグ機、V隊の一斉砲撃が浴びせられた。
 ここでもミグの『グランドスラム』が猛威を振るった(いったい尽きる事はあるのだろうか?)。破片が敵の身体を切り裂き、衝撃波によって手足が千切れ飛び。上空には旭のロジャックが宙を舞い、眼下の水面へ向かって火炎の息や光の爆撃を浴びせ掛けた。
 一方的な攻撃に、だが、感情の無い異界の兵らは退却することもなく。中にはその激しい砲撃を掻い潜って上陸を果たすものまでいた。
「このまま優勢を維持できれば、敵左翼部隊(略)を川に押し込むことも可能だっただろうが……」
 『長光』のハッチを開けて直接、大河ティベリスの水面を眺めながら、惣助はそう独り言ちた。

 最後の傲慢の将、マシューは生き残った。彼が特別優秀だったというわけではなく、ただ単純に2人の敵将を倒したところでハンターたちが攻勢限界点に達したというだけのことだった。
 マシューは生き残った多脚戦車を率いて、大河の中へと去っていった。ブリキの銃兵の残兵の一部もそれに従った。
 異界の兵らはそういうわけにもいかず、王国軍によって掃討された。

 軍勢としての傲慢軍別動隊は壊滅した。

 異界の兵らの血を呑み込んだ大河は常と変わらぬ流れでそこにあった。

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参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    アガレス・グランス(ka0141unit010
    ユニット|CAM
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ロジャック
    ロジャック(ka0234unit002
    ユニット|幻獣
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ナガミツ
    長光(ka0510unit004
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ハグン
    破軍(ka0725unit004
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    エクスハラティオ
    エクスハラティオ(ka0752unit006
    ユニット|CAM
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka0771unit003
    ユニット|CAM
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウボウケンオウグランソード
    魔動冒険王『グランソード』(ka1250unit008
    ユニット|CAM
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka2598unit008
    ユニット|CAM
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ココノソジロウ
    九十二郎(ka5561unit003
    ユニット|CAM
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka5843unit007
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サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
マッシュ・アクラシス(ka0771
人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/04/18 13:48:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/17 02:26:58