ゲスト
(ka0000)
かまくらを作ろう
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/21 12:00
- 完成日
- 2015/01/29 10:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●雪積りて道染まり
ゾンネンシュトラール帝国、第三師団シュラーフドルン。彼らの拠点であるエルヴィンバルト要塞は今、少々面倒な問題に直面していた。
第三師団の任務は主に二つ、エルフハイムの監視とピースホライズンの監視だ。
だから要塞のある師団都市マーフェルスはピースホライズンの東北、街道沿いの場所に位置している。
これは勿論エルフハイムも東に臨める立地でもある。
何が言いたいかと言うと、マーフェルスは帝国の中でも比較的南方であるということだ。
雪に対する体制はゼロではないが、北方の都市に比べると若干物足りない。
しかもエルヴィンバルト要塞は倉庫を比較的多く抱えている部類で、屋根の雪とひとくくりにすると相当な量になるのだ。
「積もってしまいましたね、ゲーベル師団長」
窓の外の真白い景色にため息をついたのはテオバルト・デッセル。その副長の声が、執務室に静かに響いた。
「雪かきの人員を増やさなくてはなりません」
この人手不足なときに。歪虚CAMの撃破やらエルフハイムとの折衝やらで忙しかったというのに。
「そうだな。……ああテオ、明日のメニューはやっぱり汁物がいいか?」
対するカミラ・ゲーベル(kz0053)は既に別の事を考えているようで声がどこか上の空だ。それもそのはず、明日は師団長デーだからだ。
第三師団の恒例行事、カミラが師団所属の者に料理を振る舞う日。第三師団が結束を強める日。
今回は皆の疲れをねぎらう意味もあって張り切っている……ようにも見えるが。腕をふるえることが嬉しいだけにも見える。作る量が多いほど張り切る性質なのは皆が知っている。
(自分の仕事は終えているから、性質が良いのか悪いのか)
別にサボっているわけではないのでテオバルトも強くはいわない。自分も急ぎの仕事は終えているので、少しくらいは雑談に興じてもいいだろうと思った。
「この通りの気温ですから、悪くないんじゃないですか」
明日はクネーデルズッペだろうかと推測し答える。
「雪かきも終えてからなら、特にいいと思いますよ」
「そうだな……」
会話が途切れる。上司は今レシピを練っているのだろう。自分も屋根からおろした雪をどこに運ばせるか考えておかなければと書類に視線を戻した。
(雪かきの雪も何か使えないだろうか)
カミラはさきほどからずっと、そんなことを考えていた。
別に食べるとか、調理に使うとかそういう事ではない。ただ邪魔にならないところに積むだけではなく、面白い使い方があればいいなと思ったのだ。
(どこかで聞いたことがあるような、ないような)
冷たい雪なのに暖かい、と言うどこか矛盾した言葉をどこかで聞いたような気がする。
(あと少しで思い出せそうなんだが……)
喉元まで出かかっている気がするのに、切っ掛けが足りない。
ベショッ!
「……ハウプトマン副長、貴方はまたそんなところで!」
窓に当たった雪玉の音と、窓の外に怒声を投げる部下の声。
外からはもう一人の副長、モーリッツ・ハウプトマンの「これも訓練の一環だ!」という声が聞こえてくる。
「遊んでいるようにしか見えませんよ!」
やれ「防壁を作る練習」だの「射撃の練習」等と言い訳の声の中に「拠点作り」という言葉が聞こえ、カミラは窓の傍に寄った。
(……あれか?)
積み上げた雪山がいくつもある中、そのうちの何ヵ所かは中の雪がくりぬかれていた。
「おいモーリ、それはなんだ!?」
自分も声を張り上げる。ほどなくして「かまくらって言うんだってよ!」と返ってきた。
●大きな拠点?
「大きいかまくらを作ろうじゃないか」
既に完成している一つの中に入ってみたカミラは、その保温性に魅了されたようだった。
「雪はあるんだ。大きい物を作ればそれだけ溶けるのも遅くなるだろう。訓練中の休憩所にも使えるんじゃないか?」
中で暖かい物を食べれば更にいい。
「いいねぇ、酒もあれば完璧だなぁ」
賛同するモーリッツだが、テオバルトの眉はしかめられている。
「勤務中の酒は厳禁です。……普通の雪かきより時間もかかりますが?」
部下達を余計に疲れさせてどうするのか、本末転倒ではないかと嗜める。
「つまり、あまり疲れさせず、しかも早く終わればいいんだな?」
「そうですね」
だから規模を小さくするべきだ、そう続けようとしたテオバルトの台詞は遮られた。
「言質はとったぞ」
にやりと笑うカミラ。
「人手はハンターたちで賄うぞ。モーリはついでに娘もつれてこい、賑やかな方がいいだろう」
「カミラの嬢ちゃんのお手製おやつ付きってんなら喜んで来るだろうさ」
「ゲーベル師団長!?」
何人集める気なのかと叫びたい気分のテオバルトだが、既に負けは確定していた。
「『奇跡の電卓』にできない計算はないだろう?」
嵌められた!?
(……仕方ないのかもしれないな)
賑やかにする理由はちゃんとある。人が居なくなった分、その穴を皆で埋めなければならない。戦闘職種だからそんな危険は常に付きまとうし、自分も含めて皆が皆覚悟の上で勤めている。今回が初めての事ではないのだから、割り切ることは重要だ。
そもそもトップは感傷を表に出してはいられない。このシュラーフドルンの所属者がカミラの料理の腕によって胃袋を掌握された者ばかりで、トップの多少の無茶ぶりには余裕で対応できる集団だとしても。
カミラが実際に腹の底で何を考えているのかわからない、読みにくい存在だとしても。
「わかりました」
ただ、自分は自分の仕事を全うするだけだ。
ゾンネンシュトラール帝国、第三師団シュラーフドルン。彼らの拠点であるエルヴィンバルト要塞は今、少々面倒な問題に直面していた。
第三師団の任務は主に二つ、エルフハイムの監視とピースホライズンの監視だ。
だから要塞のある師団都市マーフェルスはピースホライズンの東北、街道沿いの場所に位置している。
これは勿論エルフハイムも東に臨める立地でもある。
何が言いたいかと言うと、マーフェルスは帝国の中でも比較的南方であるということだ。
雪に対する体制はゼロではないが、北方の都市に比べると若干物足りない。
しかもエルヴィンバルト要塞は倉庫を比較的多く抱えている部類で、屋根の雪とひとくくりにすると相当な量になるのだ。
「積もってしまいましたね、ゲーベル師団長」
窓の外の真白い景色にため息をついたのはテオバルト・デッセル。その副長の声が、執務室に静かに響いた。
「雪かきの人員を増やさなくてはなりません」
この人手不足なときに。歪虚CAMの撃破やらエルフハイムとの折衝やらで忙しかったというのに。
「そうだな。……ああテオ、明日のメニューはやっぱり汁物がいいか?」
対するカミラ・ゲーベル(kz0053)は既に別の事を考えているようで声がどこか上の空だ。それもそのはず、明日は師団長デーだからだ。
第三師団の恒例行事、カミラが師団所属の者に料理を振る舞う日。第三師団が結束を強める日。
今回は皆の疲れをねぎらう意味もあって張り切っている……ようにも見えるが。腕をふるえることが嬉しいだけにも見える。作る量が多いほど張り切る性質なのは皆が知っている。
(自分の仕事は終えているから、性質が良いのか悪いのか)
別にサボっているわけではないのでテオバルトも強くはいわない。自分も急ぎの仕事は終えているので、少しくらいは雑談に興じてもいいだろうと思った。
「この通りの気温ですから、悪くないんじゃないですか」
明日はクネーデルズッペだろうかと推測し答える。
「雪かきも終えてからなら、特にいいと思いますよ」
「そうだな……」
会話が途切れる。上司は今レシピを練っているのだろう。自分も屋根からおろした雪をどこに運ばせるか考えておかなければと書類に視線を戻した。
(雪かきの雪も何か使えないだろうか)
カミラはさきほどからずっと、そんなことを考えていた。
別に食べるとか、調理に使うとかそういう事ではない。ただ邪魔にならないところに積むだけではなく、面白い使い方があればいいなと思ったのだ。
(どこかで聞いたことがあるような、ないような)
冷たい雪なのに暖かい、と言うどこか矛盾した言葉をどこかで聞いたような気がする。
(あと少しで思い出せそうなんだが……)
喉元まで出かかっている気がするのに、切っ掛けが足りない。
ベショッ!
「……ハウプトマン副長、貴方はまたそんなところで!」
窓に当たった雪玉の音と、窓の外に怒声を投げる部下の声。
外からはもう一人の副長、モーリッツ・ハウプトマンの「これも訓練の一環だ!」という声が聞こえてくる。
「遊んでいるようにしか見えませんよ!」
やれ「防壁を作る練習」だの「射撃の練習」等と言い訳の声の中に「拠点作り」という言葉が聞こえ、カミラは窓の傍に寄った。
(……あれか?)
積み上げた雪山がいくつもある中、そのうちの何ヵ所かは中の雪がくりぬかれていた。
「おいモーリ、それはなんだ!?」
自分も声を張り上げる。ほどなくして「かまくらって言うんだってよ!」と返ってきた。
●大きな拠点?
「大きいかまくらを作ろうじゃないか」
既に完成している一つの中に入ってみたカミラは、その保温性に魅了されたようだった。
「雪はあるんだ。大きい物を作ればそれだけ溶けるのも遅くなるだろう。訓練中の休憩所にも使えるんじゃないか?」
中で暖かい物を食べれば更にいい。
「いいねぇ、酒もあれば完璧だなぁ」
賛同するモーリッツだが、テオバルトの眉はしかめられている。
「勤務中の酒は厳禁です。……普通の雪かきより時間もかかりますが?」
部下達を余計に疲れさせてどうするのか、本末転倒ではないかと嗜める。
「つまり、あまり疲れさせず、しかも早く終わればいいんだな?」
「そうですね」
だから規模を小さくするべきだ、そう続けようとしたテオバルトの台詞は遮られた。
「言質はとったぞ」
にやりと笑うカミラ。
「人手はハンターたちで賄うぞ。モーリはついでに娘もつれてこい、賑やかな方がいいだろう」
「カミラの嬢ちゃんのお手製おやつ付きってんなら喜んで来るだろうさ」
「ゲーベル師団長!?」
何人集める気なのかと叫びたい気分のテオバルトだが、既に負けは確定していた。
「『奇跡の電卓』にできない計算はないだろう?」
嵌められた!?
(……仕方ないのかもしれないな)
賑やかにする理由はちゃんとある。人が居なくなった分、その穴を皆で埋めなければならない。戦闘職種だからそんな危険は常に付きまとうし、自分も含めて皆が皆覚悟の上で勤めている。今回が初めての事ではないのだから、割り切ることは重要だ。
そもそもトップは感傷を表に出してはいられない。このシュラーフドルンの所属者がカミラの料理の腕によって胃袋を掌握された者ばかりで、トップの多少の無茶ぶりには余裕で対応できる集団だとしても。
カミラが実際に腹の底で何を考えているのかわからない、読みにくい存在だとしても。
「わかりました」
ただ、自分は自分の仕事を全うするだけだ。
リプレイ本文
●
石を組み上げた竃と、雪避けのテント。この日の為に設営された調理場の一角で シャーリーン・クリオール(ka0184)はコンソメスープを煮込んでいた。スープ自体は師団のストックがあったので、薄切りにした玉葱とじゃが芋を具にして煮込むだけで完成する。
「ふむ、かまくらとは懐かしいな」
子供の頃に作った記憶と、冬の訓練で作った記憶。転移前の暮らしを思い出していた。流れ弾避けにと立てた衝立の向こうから賑やかな声が聞こえてくる。
「かまくら作りとスイーツ作り、カミラさんはどっちです?」
ザレム・アズール(ka0878)は何方にしても手伝うつもりだ。
「ニョッキの数が増やせるな、助かる」
是非力仕事をと歓迎される。ザレム自身が考えていた芋餅の事もある。どれだけのじゃが芋を潰すことになるだろう。
「先日はお世話になりました」
「奏も来てくれたのか。力仕事だぞ?」
面白いものは見れないぞと言われ音桐 奏(ka2951)は首を振る。
「以前は私の料理を食べていただいたので、本日はあなたの手料理を食べたいと思いまして」
「なら、是非食べていってくれ!」
イェルバート(ka1772)は瓶に砂糖を入れた羊乳やジュースを入れ、きっちりと蓋を締めた。
「あとは確実に冷える場所だけど……ここがいいかな?」
調理場の近く、かきおえた雪の山に瓶を埋める。
「うまく凍りますように、っと」
茹でて潰した芋に小麦粉と少量の砂糖、卵も少し混ぜて丸めて焼けば完成だ。じゃが芋でも甘薯でも使えるレシピだとザレムが言うと、カミラは早速甘薯も持ってきた。
(後で皆がゆっくり温まれるようにだ)
スープの仕込みが終わったところで、蒸した芋を潰し、丸めて串に刺していく。炙ってから食べるので、とにかくたくさん。
「ニョッキとはまた違うんですね」
師団兵とは別の男がシャーリーンに尋ねる。
「ふふ、香ばしくて美味しいぞ」
味見してみるかと一本差し出せば、確かにひと手間かけた分食べやすくていいですねと笑顔。今度取り入れてみますと言っていたから、食堂に努めるコックなのだろう。
「いつも料理はするのか?」
皿に積上げながら、形が崩れてしまったものを試食と称してつまみ食いするのは調理者の特権。雑談する余裕も生まれた。
「これくらいの規模は月に数回だ」
私はこの師団の、そしてこの都市を治める顔なのでなとの返事。本心では毎日やりたいのかもしれないとザレムは思った。
●
誰の足跡もついていない、真っ白な新雪。仰向けに倒れ込んでから、シェリル・マイヤーズ(ka0509)は手足の跡を何ヵ所にも広げていった。出来た跡を崩さないよう起き上がってから振り向けば、そこには二対の翼を持った天使の形。
「おねーちゃんのそれ、可愛い!」
「面白ーい」
子供達が真似をはじめて、気付けばたくさんの天使が雪の空に舞った。
「一面の銀世界だー! 冬の醍醐味、とっても綺麗!」
遠くまで届く気がする。声の響き方がいつもと違うとクレール(ka0586)は感じていた。
「おおー、雪だ、雪だね!」
アシェ・ブルゲス(ka3144)の集落では珍しいものではなかったけれど、これだけの量があるとつい声に出てしまう。
(あの頃は基本的に雪かきだけで疲れたしねー)
そこから先に手を出せる今の環境は悪くない。
「すごい雪だね! しーちゃん! 鬼百合くん!」
もこもこな帽子のうさみみがと同時に和泉 鏡花(ka3671)の声も跳ねる。振り返れば、同じくもこもこに着込んだ鬼百合(ka3667)が視線をそらせていた。
「雪なんて全然珍しくねぇし」
仕事だけれど遊んでもいいと聞いて。初めての雪遊びにわくわくしているなんて知られたくないと思ったのだ。
「雪遊びたぁ懐かしいねぃ」
持参のタオルを火の近くに置いていた春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)が鬼百合の頭にぽんと手を置いた。
「雪、いっぱい貰ってかまくら作るんでさ」
思わずと言ったように鬼百合の言葉が零れる。あっと手を口に当てたがもう遅かった。紫苑の視線が緩む。
「しおんねーさん、策士ですねぃ」
「褒め言葉で受け取ってやりやすよ」
「もー二人ともっ、まずは雪かきだよ?」
めっと叱られて、二人の鬼はそれぞれスコップを握った。
雪を積み上げながら改めて周囲を見渡す。雪かきを手伝えと雪中に放り投げられた記憶が呼び起されて、寒いのはあまり得意じゃないイェルバートは苦笑いを浮かべた。
(爺ちゃん容赦ないからなあ)
動けば暖かくなるからと手足を動かす。
(でも、何人ぐらい入れるのが理想なんだろ?)
大きなひとつを作るのか、小さめのものを何個も連ねるのか。後者の方が簡単そうだ。
「水をかけて凍らせれば、補強になるよね」
指示の声を聞きながら、改めて雪山へと向き直った。
指示を飛ばしている男が副長だろう。目星を付けた奏は、休憩を利用して声をかけていた。
「初めまして、音桐 奏と申します。依頼で度々こちらの師団長にお世話になっているのでご挨拶に伺いました」
名を聞いて把握したテオバルトも名乗り返す。丁寧だが隙のない相手だと感じ取るのは鍛えてきた観察眼の賜物だろう。
「誰かを支えるという事の重要さと難しさ、全てとは言いませんが私も理解しています。これからも自らに課した役目、頑張ってください。私も応援しています」
今、何か話を聞こうと思ったわけではない、ただ挨拶をしておきたかったのだと添えた。
(そろそろいいですかねぇ)
ちらりと紫苑に視線を向けた鬼百合は心の中で数を数えていた。
1でスコップを雪に刺して、2で雪を握って振りかぶり、3で投げる!
べしゃっ!
まだ柔らかい雪が紫苑に当たり、コートを濡らす。
「へっへ、今日こそねーさんを倒す日がき」
最後までいう事が出来なかった。
バシュッ!
「いってえ!」
紫苑が力を込めて作った特製雪玉は殆ど氷に近い硬さだ。
「知ってやすか鬼百合、大人げねぇってなぁ大人だから言えることなんですぜぇえええ!」
父親役として常に全力で立ちはだかる紫苑。
「キョーカねーさん助けてくだせぇ!」
鏡花の後ろに隠れる鬼百合を狙った雪玉が鏡花の背中に命中!
(止めるつもりだったけど、こうなっちゃったら、ね?)
紫苑に気づかれないように雪玉を作る。鬼百合が気をひいている今が好機。
「くっ鏡花を人質にとるたぁ中々こすいことすんじゃねぇです」
ぐしゃっ!
「ぶっ!?」
振り向き投げた雪玉がクリーンヒット。最後まで言えなかった上に顔面が雪まみれ。二人の笑顔が憎らしい。
「鏡花も遠慮はいらないってことですかぃ」
紫苑が反撃。やはり雪玉は堅い。
「もー! やったなー!」
笑顔なのは楽しむことに本気だからだ。
まずは、小さな雪の動物作りから。
「……こうやってウサギさんを作るの」
真っ白い雪だけを集めて丸く整えた小山に、拾った葉で耳を、石で目をつける。ファリス(ka2853)の見本が可愛い仕上がりだったから、小さな子達も張り切った。雪の小山も形を変えてみたりして、猫や犬、馬が増えた。
アシェ自身の目線の高さまで丸く積み上げて、一度全体を確認。
(うん、きっとこんな感じ!)
その時見えた全体像に近づけようと削っていく。
ざく、ざくざくざくっ、ざく!
迷いがない動きで白い塊が少しずつ崩されていく。
雪玉を投げ合う雪合戦は、大人達とは離れた場所で。
小さな子達が混ざるのは難しい。簡単にほぐれる雪玉で、じゃれ合うように投げ合う。
(楽しむのが、大事。ファリス、ここではお姉さん、だもの)
気付けば鬼百合達も合流して、ちょっとした人数になっていた。
すぐに溶けちゃう雪だるまだからこそ、ずっと心に残るようなものにしたい。皆でそれぞれ、好きなモチーフを入れていけば完成だ。
雪だるま用の雪玉を転がそうと体勢を整えた金刀比良 十六那(ka1841)は見事に顔面からすっ転んだ。
「転がすくらいなら何とかなると思って……べ、別に涙目になんてなってないんだからねっ」
誰にともなく言い訳をする。
「いざやちゃん大丈夫ですかっ?」
エリーの手を借りて起き上がる。
「だ、大丈夫……だからっ」
きつねと友情でぬくぬくのはずなのに心の中が寒いのは恥ずかしいから、そういう事にしておく。
「クレール印のハンマーだよ!」
彼女お手製の大きなハンマーは普段使いの愛用品に似せてある。武器としても使えたらいいなとこっそり、願いも込めた。
小柄な雪だるまの正体、ミィリア(ka2689)のモチーフはやはり猫耳だ。今は着ぐるみで隠れているけれど、常に身に着けている猫耳カチューシャはメイドのヘッドドレスと組み合わさった趣味と誇りの合体技なのである。
柏木 千春(ka3061)が選んだモチーフはリボン。雪だるまの胸元に大きな蝶結びのリボンをおしゃれとして施す。
「ふふー、これで可愛さ倍増なのです!」
雪兎のための雪玉を作りながら、メイ=ロザリンド(ka3394)は笑顔を浮かべていた。
(今日は待ちに待った日なの、ですっ! 楽しむの、ですよー)
気合も十分に入れてきたのは、雪で遊ぶのが初めてだったから。真っ白な見た目だけではただ綺麗としか感じなかったのに、触ると冷たい。直接触れていた手に手袋をはめなおして、改めて、友人たちと協力して作った雪だるまに視線を戻した。
『どこがいいでしょう?』
スケッチブックに書きながら、雪兎を盛り付ける場所に意見を求める。
「頭上……は届かないわね」
「肩の上とかどうかな?」
『手乗りならぬ、肩乗りうさぎですね』
笑顔でうなずいて、最後の仕上げにかかった。
彼女達の友情の証は春が来たら溶けて消えてしまうけど、完成したその姿は皆の心の一ページ、思い出として残るのだ。
「完成ー! それじゃ、雪合戦に参戦でござる!」
ファリスや子供達との合流後は紫苑の雪玉も柔らかいものに。紫苑も狙う場所を子供達の手や、投げてくる雪玉に限定して、なおかつ利き手ではない方で投げている。
(ある意味これも訓練?)
両手が使える方がいろいろと便利だろうと思う。
「鏡花」
小さく紫苑に手招きされ揃って輪から離れた。鬼百合はこちらに背を向けていた。
「年のころが近い者同士の時間も必要だろ?」
「タオル持って待ってようか」
そのまま二人で休憩としゃれ込むことにした。
「かまくら一番乗りしたい人、いるー?」
イェルバートの声に子供達が我先にと駆けてくる。転ばないようにねと改めて声をかけてから、調理場の方へと足を向けた。
(塩味のポタージュで温まって……)
最初に埋めた瓶はどうなっただろう。うまく出来ていたら、それも皆で分けて一緒に食べよう。
寄り添うような格好の天使を見つけ、シェリルは兄姉と慕う者達を想う。
共に行こうと誘えばよかったけれど、怖いから一人で来てしまった。
(本当に大事になる事が……)
居なくならないと約束した小指に視線を落とす。それでもあと一歩が踏み込めなかった。
喪うのが怖いから作らないつもりで、恐怖に向き合えないままで約束をして。
乗り越えて強くなりたいけれど、そのスタートにも立てなくて。
後悔ばかり、逃げてばかりだ。
この気持ちも一緒に、全部この雪の白さに染まって、一緒に溶けてしまえばいいのに。
(そんなの無理ってわかってるけど……)
戻ったら、初めて触れた、冷たくて不思議な雪の話をしよう。今はまだ、それだけ。
「出来た!」
でっぷり太った羊の上半身がど真ん中でにんまり笑顔、魚の骨だか茨のような刺がところどころに生えて、人魚が雪の海を泳ぐ。小さな丸い尻尾の動物が雪玉に突っ込んで下半身だけ見えているのは……兎だろうか?
細々とした多くの雪像が、全て一つの雪玉に埋まっているように見える仕上がり。一つでたくさん、たくさんが一つになって……どちらが先だったか。
「これが前衛的芸術なんだよ!」
笑顔で高らかに宣言するアシェ。何人かが生暖かい視線を向けたような? アシェ自身は満足しているから問題ない。芸術家はえてして理解されないものなのだ。
「さて、あとは雪合戦の見物にでもいこーっと!」
●
「雪遊び! と言えば、雪合戦! なんダヨー!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の提案に誘われた人数は多い。更に彼が率いる白組はハンター達のうさぎ率が高かった。
「うちにも何着かあるぞ」
白組になったカミラが部下達にもまるごとうさぎを着せた。流石に全員分はなかったけれど。
「またアルヴィンは妙な事を」
言葉はただのポーズ、エアルドフリス(ka1856)の口角が上がっている。
「まずは壁と陣形の確認だ。役割も決めておけば効率もいいだろう」
率先して作戦を主動し始めた。
先の作戦で関わった者達への挨拶も済ませ、ユリアン(ka1664)は意識を切り替える。
「ジュードさん、せっかくだからこの勝負、帰りがけのアップルパイを賭けない?」
罰ゲームよりはご褒美の方が張り合いが出る。ジュード・エアハート(ka0410)も頷いて。
「それなら負けられない! エアさん、頑張ろうねっ♪」
(雪合戦ッテ初めてダケレド、合戦と言うナラ雪で戦えば良いのダヨネ?)
本で得た知識だけだから当然なのだが、提案者アルヴィンも初心者だ。
(まるごとうさぎさんが迷彩にナッタリするカナ?)
見回せばうさぎがいっぱい。顔部分を隠せばどれが誰だかわからなくなりそうだ。
「決ーメタ♪」
ふふふと笑って仲間達に作戦案を話し始めた。
ボクが楽しいのは当たりマエ。皆が楽しめたら更に完璧♪
「うちのツートップはかなり強敵……だが負ける訳にはっ。隊長、エアルドさんは頼んだ」
言いながら藁縄をブーツに巻くユリアンは疾影士としての矜持もかけている。
「雪の帝王とくれば俺様だろ!」
て言ってる俺様ジャック・J・グリーヴ(ka1305)ですが、緊急事態です。
思わず丁寧口調になってしまうほどの非常事態です。
「ジャック様! 今日はよろしくお願いしますね!」
仲良くなる機会を逃すまいと、エリー・ローウェル(ka2576)が笑顔を向ける。
一緒に参加して力を合わせて歩み寄りたい打算も混じっている。せっかく踏み出した一歩なので、多少強引でも突き進もうと手を握った。
(えっ)
いや待て落ち着け何だコレ意味分かんねぇ。どうすんだコレ顔マトモに見れねぇよやべぇよ恥ずか死ぬてか死んだ!
思い出した、俺がすべきは雪合戦だそれだぜいける。
「よっしゃ雪の帝王ジャック様の本気を魅せてやんぜ!」
手をとられたときも、反対側の腕がぷるぷると震えていたけれど気合で隠した。
(……あー、俺様テンパってんなぁ)
「いいか? 雪合戦なんざ要は雪玉を相手にぶつけるだけの遊戯だ。勝ち負けはねぇ、あるとすりゃあ……心が先に折れた方の負けって事よ」
さりげなく手を離しポーズを決めるジャック。大丈夫、俺様いけてる。だからそんな上目遣いとかやめろ頬染めるな俺様泣くぞ。
雪合戦が始まる前に、必要そうな言葉は同じ頁にいくつか書き溜めておく。これならその都度指をさして示せば会話ができる。
(作戦通り、頑張り、ましょうー)
共に雪玉作りを行う仲間達ともうまく呼吸を合わせよう。
(お友達と敵対もしちゃいますが、手加減はしません!)
エリーと千春が視線を交わし呼吸を合わせる。
「「ウェスト最強ユキガッシャーが決まる!!」」
二人で人差し指を高く掲げ決めポーズ。遊び心もテンションも最大値だ。
「それじゃエリーちゃん、早速準備するね!」
「勝負事となったら負けるわけにはいかないでござる!」
目指すサムライは最強の存在だからこそ、負けたら悔しさだって倍増してしまう。
ミィリアが固めた雪玉はカッチリと堅い。恐るべしドワーフの膂力である。
(思いっきり!)
可能な限り大きな動きで振りかぶる。最大限の力をこめて投げるには予備動作も大きくとらなければ。あまり時間をとると敵の的になってしまうから、使う時間はなるべく短くする様に気を付ける。幸い小柄なおかげで、他の者達よりも狙われにくい利点はあるけれど。
「とおりゃー! くらえ、おサムライさんぱわー!」
丁度正面に相対していた的指揮官エアルドフリスに向けて、投げた!
(将を討とうとすればとりあえず誰かにはあたる! はず!)
(面白そうや思て寄してもろたけど)
レン・ダイノ(ka3787)は改めて周囲を見渡す。ハンター達はやや女性の方が多い。しかし師団兵も合わさるとなんだか物々しい雰囲気が増す。
(師団長さんは、えらい美人やのになあ。他もあんな感じの師団やったらええのになあ♪)
女性兵もチェックしている。モノクルをつけた人とか、髪も短く小柄だけれど女性的な人とか。レンの予想より女性の割合は高い。
(可愛い女の子もようさんおるし、ええとこ見せなあかんわなあ)
そこまで考えてから雪を見下ろす。眉尻が下がっていた。
「さっそく挫けるわあ……」
雪玉を作る時点で、レンの気力が削がれていた。ちらりとミィリアを見れば、彼女の持つ雪玉はものすごく痛そうだ。敵じゃなくてよかったと思うと同時に、敵にも同様の誰かが居る可能性に背筋が少し冷えた。
「白組の名のごとく純白のまるごとうさぎ! これぞ保護色うさぎ大作戦!」
うさぎ隊長アルヴィンの立案に続いていたうさぎ隊員クレール、彼女の案は雪うさぎへの擬態だった。
そして今まさに作戦実行の時が迫っている。クレールはその場に屈んで丸くなった。顔も隠せば完璧、と体勢を整える。
(これでどこからどう見ても雪うさぎです!)
悪いうさぎではないと敵チームにアピールすることが狙い……だけれど。
ひゅんひゅんっ!
容赦なくふってくる雪玉に、止まっては居られないと慌てて体を起こす。
「わぁ、バレたー! 何でっ、友情ぱわー!?」
うさぎを着用している時点で敵認定されるのだ。立ち止まればそれだけ狙いやすくなる。
「ひゃぁぁ! 冷たい! ごめんなさいぃぃ!!」
クレール、避けきれず撃沈。
大き目に作った防御壁から、人形劇の主人公のように顔を出す雪うさぎアルヴィン。
「フフーフ、当てられるカナ♪」
大将役の彼が時々敵チームに向けて声をかけることで、仲間への注意をそらす。これは想定以上に効果覿面だった。なにせ敵の大将はエアルドフリスだ。
雪原を駆け回りながら標的の隙を伺うユリアン。
(流石、狙ってても当たらない……っ)
優先的に狙うジュードは基本的に止まっていて格好の的だ。動き回り狙う角度を変えながら雪玉を投げるけれど、その都度撃ち落とされてしまう。
雪玉を補充しながら細切れに投げるだけではあちらの対応力に追い付かないらしい。走りながら、投げるタイミングを読みづらくしているのに。
「ユリアン君後ろ!」
「よっ! ……っと」
後方から迫ってきた雪玉を避ける。倒れ込んだが、勢いを利用して転がった後に立てばいい。
(少し様子を見て、最後に仕掛けようかな)
何より二人の連携が脅威なのだ。アルヴィンの警告に感謝しながら、改めてユリアン機を伺う決意を固めた。
ジュードも胸中でユリアンを褒めていた。
(流石速いなぁ)
雪玉を撃ち落とすばかりで攻撃に余裕を回せない。自分とエアルドフリス、二人に向かってくる雪玉に対処しているからだ。
ミィリアの硬い雪玉には特に狙いを研ぎ澄ます。撃ち落としきれなくても、軌道をそらす事はできる。
「こういうの、大勢でやったこと無いから楽しいねっ」
あんまり得意じゃない気がして、はじめこそ大丈夫かなと思っていた。けれど役割分担をして、それぞれが作戦に乗っ取って動き出して。ルナ・レンフィールド(ka1565)は何かに似ているような気がしていた。
(合奏もこんな感じかな)
そう思ったら楽しい気持ちが増した。
千春やメイは防御壁で守られ、なおかつ前衛の者達の影になる場所でひたすらに雪玉を作っていく。
「裏方も重要ですからね!」
やぎさん千春の居場所はエリーの後ろだ、始めは早く作ることを重視して、慣れてきたら適度に硬く丸くと雪玉の質を上げていく。ある程度作り溜めることが出来たら、大雪玉にも取り掛かった。あまり数はなくてもいいけれど、特別なときに使えるように。両手で抱えなければ持てない大きさのそれは固めるのも少し手間だけれど、効果を考えてなるべく丁寧に仕上げていった。
(たまには可愛い雪玉が、あってもいいです、よね?)
小さめに作った雪玉を乗せて、雪だるま型にしたものをこっそり混ぜるメイ。ちょっとしたサプライズだけれど、楽しい気分を盛り上げる役になったようである。
出来ればアルヴィンを落としたいと思いながらエアルドフリスは視線を巡らせる。
まるごと動物シリーズ、特にうさぎが多く一見で誰かが分からない。
「敵である以上容赦はしないがね」
うさぎはすべて白チーム。確実に減らしていけばアルヴィンに当たるはずだ。
「この場で手加減は無粋というもんだ」
いつもであればアルヴィンに向けているハリセンの鋭さを全ての雪玉にこめる。本気の目だった。
(ふふ、エアさん子どもみたい)
隊長の提案も作戦も勝負好きの彼に効果覿面だ。どこまでも前に出るエアルドフリスの背中を護る。振り向かないのは信頼の証だから、楽しそうな背中を見るだけで口元が笑みの形になる。
大きめの雪玉を投げたルナ。雪玉は視線で追えるほど綺麗すぎる弧を描いて。
「「うわっ!?」」
エアルドフリスの後頭部に直撃した。味方から投げつけられると思っていなかったようで、密な連携をとっているジュードと一緒に驚きの声をあげていた。
「あわわっ! ごめんなさいっ」
ルナだって想定していなかった。
「気にしないでくれ、間違いは誰にでも……ぐはっ」
無事に許してもらえたので、改めて雪玉を握る。今度は投げやすいように普通のサイズ、慎重に振りかぶる。
ずるっ、びたん!
「きゃっ!?」
動きが大きすぎたのか踏込みに失敗し膝をつく。
(あれ?)
首を傾げたのは、持っていた雪玉がなくなっていたからだ。
「冷たっ」
再びエアルドフリスの声が聞こえる。
「……あ、あは?」
赦してはくれそうだけれど、次の言い訳はどうすればいいだろう、こんなに運動が苦手なつもりはなかったのだけれど……
(一玉一玉に、ざくろの雪玉魂を込めちゃうもん!)
しっかり固めた雪玉を手に時音 ざくろ(ka1250)が先手必勝で勝負に挑む。
「勝負だよエリー! 一球入魂、ゆきだまパワー。これがざくろの雪玉魂だっ!」
全力で全壊を目論むその先に、ざくろが幻視しているのは敵チームに存在するラブバリアだ。これも友人の応援なのだと理由をつける。だって恋愛って邪魔が入る方が燃えるという話だし。
(別に今、寂しいのが理由じゃないんだからなっ)
そう、これは祝福と応援の雪玉なんだからっ! ……パリンと割れたら面白いかもなんて思ってなんかいない。
べしゃ!
前線に居るはずのざくろの背中に雪玉が当たる。十六那が投げたものだ。
「……おかしいわ……わざとじゃないのよ……?」
投げている本人もしきりに不思議そうだ。球技等の道具を投げる行為が苦手なのだろう、自覚はないようだが。彼女が猟撃士ではないのが幸いだ。先ほどから横に飛ばしたり、振りかぶった状態で後ろに落としたりと1人舞台が行われているくらいだった。
「これが雪の帝王たる俺様の美学だぜ! ハッハッハッハ!」
戦場を悠々と歩くジャック。狙われ放題だが動じず雪玉を投げ返していく。あまりにも堂々としているので、ジャックがずっと戦場を練り歩いても誰も指摘しなかった。そもそも誰も正式なルールを知らず判断する者が居ないのだ。
いいところを見せたいのが乙女心。エリーはジャックの援護に徹していた。彼が向かう場所を予測して、彼が通る前に雪玉を投げて敵を威嚇するのだ。
「ちーちゃんお願い!」
ジャック自身も攻撃をしているときは必殺技のチャンスだ。千春の特製大雪玉を力の限りぶん投げる! もちろんジャックに当たらないように!
「きゃー! エリーちゃん素敵っ! 流石の女子力(物理)!!」
投げる時には応援も忘れない。少しでも、友人の恋の応援にもなったらいいなと思った。
人の頭くらいの雪玉を投げる乙女。恋の力が巻き起こす馬鹿力という奴だろうか。
(おんなしチームの人に悪いし頑張るけどやあ……)
提案通りの作戦を実行している隊長は、身長が芋7個分の空気を分かってくれそうな気もするが。レンは見学中のモノクル兵士に手を振りつつ、雪玉を避けることに専念していた。
(そやけどかっこええのは他の人に任せるわあ)
避ける様が十分に格好いい事には気付いていない。
全力で飛ばし過ぎたざくろは早くスタミナが切れてきていた。ほんの少しふらついただけなのに、見逃さなかった赤チームから多数の雪玉が降り注ぐ。
「はわわわ、こんな雪位平気、平気だ……はみゅっ」
できる限り避けようと、うっすら目元に涙を浮かべながら雪玉を見据えた。女子顔負けの小悪魔顔である。本人に自覚はないけれど。
雪玉が途切れた瞬間が好機だ。ジュードも隙を見て攻撃に回る。
(きっと右に避けるから、今なら!)
避けられてしまっても、向かう先にはエアルドフリスの投げた雪玉が迫る。身を屈める可能性を考慮して低く、飛んで避けるには高い位置だ。
全体的な作戦勝ちと呼べばいいだろうか。はじめこそ白が勢いをつけていたが、赤のじわじわとうさぎを追い詰めるような粘り強さ。白は押し切られ赤が勝っていた。
「……疲れた、一歩も動きたくない」
雪合戦だけではない。ここしばらく様々な歪虚作戦に身を投じていた影響が残っていたようだ。積み重なった精神的な疲れですり減ったものを、思いっきり体を動かすことで取り戻せた気がする。
「……お疲れ様」
張り切りすぎたツケでぐったりと凭れかかってくるエアルドフリスを支えるジュード。背中をぽんぽんとさするのは甘えられたときの癖になった。
(アルヴィンに感謝せにゃならんなあ)
視線を向ける。
「どーいたしマシテ?」
視線に感謝の気配を感じて、笑顔で答えた。
「はは、参ったぁ」
倒れ込んで雪に埋まるユリアン。笑顔なのは思いっきり楽しんだ証だ。
「負けちゃったのは残念だケド、楽しかったネー♪」
アルヴィンが持っていた皿の片方を差し出した。
「おやつも食べて一息入れて、回復したら、帰ろうか」
賭けのご褒美のアップルパイ、一緒に食べよう?
●
「風邪を引かないようにちゃんと拭かないとね」
「ありがとーございまさぁ」
わしゃわしゃと髪を拭かれる。他の子供達も大人達に拭かれたりしているけれど少しだけ距離を取っていた。左側では紫苑が自分の髪を拭いている。
(二人とも、ですねぃ)
照れくさいから、全て言わずに胸の内にしまっておこう。
「おーい、飯だぞー」
ザレムの声に集まった者達に、シャーリーンも笑顔で勧める。
「きっと、皆、腹ペコだろ、さあ、召し上がれさね」
かまくらの一つが子供達専用でぎゅうぎゅうになったところで、ファリスは調理場でトレイを借りていた。
「……みんなの分、持っていくの」
一緒に遊んだ連帯感そのままに、おやつも皆で一緒に食べることになったのだ。秘密基地みたいで、ただ皆集まっているだけでも笑顔が零れる。
おやつは子供達の特権だからと、ほんのちょっぴり優先的に取り分けてもらって。
甘いものも、少し塩気があるものも。温かいものも冷たいものも、大勢で食べると心から温まる。
「カミラさーん、おやつくだせぇ!」
ここは自分がと、鬼百合が三人分をまとめて運ぶとかって出た。ポタージュを運んで三人で一つにかまくらに入る。子供達と一緒に居るかも迷ったけれど、まだ慣れきっていない気持ちが勝った。
「かまくらの中ってあったかいんだよー」
鏡花の言葉に半信半疑だったけれど、実際にはいればそれは明らかで。
「雪でできてんのに、こんなにあったけぇのはなんでなんでしょうねぃ」
ずず、とすすりながら心底不思議そうな声。そりゃあれだ、と紫苑が答える。
「人の情と同じだからでさ」
断熱効果がどうとか、そういう堅苦しい知識も知っているけれど。
遊び倒したおかげで十六那は濡れ狐になっていた。つまり通常時より数倍転びやすい。かまくらに入る前に乾かそうと足を速めたところで、お決まりのように足を滑らせた。
「あっ……」
十六那の前を歩いていたのはエリーで、その前を歩いていたのがジャック。
「きゃっ!?」
転びかけたエリーがジャックの上着を掴む。
「っと」
エリーと十六那ごと受け身を取るジャック。咄嗟の判断で動けるのはそう教えられて育っているからだが。
(……えっ?)
尻もちをついた際両手それぞれに女性を支える結果となり硬直。
「ジャック様ありがとうございます! ……ジャック様?」
今日付き合ってくれた感謝も込めたお詫びをとエリーがポタージュを持ってくるまで、ジャックの混乱は収まらなかったようである。
「よう兄ちゃん、いい嫁になるぞ?」
給仕も様になっているザレムにからかいの声が飛ぶ。
「バカヤロウ! 俺は男だよ!」
手際を褒められたはずなのに、素直に喜べないのは仕方ないだろう。
ポタージュに、スープに。ほかほかと湯気を立てる料理は体の中から温めてくれる。
「美味しいな」
火の近くで濡れた服も乾かしながら、ざくろは今日の疲れを癒すのだった。
「ご馳走様です。とても美味しかったですよ。第三師団の方々が羨ましいですね、このような料理を頂く事が出来て」
「……カミラ姉様が作るおやつ、美味しいの!」
「口にあったなら良かった」
皆が楽しそうなのが一番だけれど。感想がもらえるのは嬉しいものだなと、奏とファリスに向けて笑った。
石を組み上げた竃と、雪避けのテント。この日の為に設営された調理場の一角で シャーリーン・クリオール(ka0184)はコンソメスープを煮込んでいた。スープ自体は師団のストックがあったので、薄切りにした玉葱とじゃが芋を具にして煮込むだけで完成する。
「ふむ、かまくらとは懐かしいな」
子供の頃に作った記憶と、冬の訓練で作った記憶。転移前の暮らしを思い出していた。流れ弾避けにと立てた衝立の向こうから賑やかな声が聞こえてくる。
「かまくら作りとスイーツ作り、カミラさんはどっちです?」
ザレム・アズール(ka0878)は何方にしても手伝うつもりだ。
「ニョッキの数が増やせるな、助かる」
是非力仕事をと歓迎される。ザレム自身が考えていた芋餅の事もある。どれだけのじゃが芋を潰すことになるだろう。
「先日はお世話になりました」
「奏も来てくれたのか。力仕事だぞ?」
面白いものは見れないぞと言われ音桐 奏(ka2951)は首を振る。
「以前は私の料理を食べていただいたので、本日はあなたの手料理を食べたいと思いまして」
「なら、是非食べていってくれ!」
イェルバート(ka1772)は瓶に砂糖を入れた羊乳やジュースを入れ、きっちりと蓋を締めた。
「あとは確実に冷える場所だけど……ここがいいかな?」
調理場の近く、かきおえた雪の山に瓶を埋める。
「うまく凍りますように、っと」
茹でて潰した芋に小麦粉と少量の砂糖、卵も少し混ぜて丸めて焼けば完成だ。じゃが芋でも甘薯でも使えるレシピだとザレムが言うと、カミラは早速甘薯も持ってきた。
(後で皆がゆっくり温まれるようにだ)
スープの仕込みが終わったところで、蒸した芋を潰し、丸めて串に刺していく。炙ってから食べるので、とにかくたくさん。
「ニョッキとはまた違うんですね」
師団兵とは別の男がシャーリーンに尋ねる。
「ふふ、香ばしくて美味しいぞ」
味見してみるかと一本差し出せば、確かにひと手間かけた分食べやすくていいですねと笑顔。今度取り入れてみますと言っていたから、食堂に努めるコックなのだろう。
「いつも料理はするのか?」
皿に積上げながら、形が崩れてしまったものを試食と称してつまみ食いするのは調理者の特権。雑談する余裕も生まれた。
「これくらいの規模は月に数回だ」
私はこの師団の、そしてこの都市を治める顔なのでなとの返事。本心では毎日やりたいのかもしれないとザレムは思った。
●
誰の足跡もついていない、真っ白な新雪。仰向けに倒れ込んでから、シェリル・マイヤーズ(ka0509)は手足の跡を何ヵ所にも広げていった。出来た跡を崩さないよう起き上がってから振り向けば、そこには二対の翼を持った天使の形。
「おねーちゃんのそれ、可愛い!」
「面白ーい」
子供達が真似をはじめて、気付けばたくさんの天使が雪の空に舞った。
「一面の銀世界だー! 冬の醍醐味、とっても綺麗!」
遠くまで届く気がする。声の響き方がいつもと違うとクレール(ka0586)は感じていた。
「おおー、雪だ、雪だね!」
アシェ・ブルゲス(ka3144)の集落では珍しいものではなかったけれど、これだけの量があるとつい声に出てしまう。
(あの頃は基本的に雪かきだけで疲れたしねー)
そこから先に手を出せる今の環境は悪くない。
「すごい雪だね! しーちゃん! 鬼百合くん!」
もこもこな帽子のうさみみがと同時に和泉 鏡花(ka3671)の声も跳ねる。振り返れば、同じくもこもこに着込んだ鬼百合(ka3667)が視線をそらせていた。
「雪なんて全然珍しくねぇし」
仕事だけれど遊んでもいいと聞いて。初めての雪遊びにわくわくしているなんて知られたくないと思ったのだ。
「雪遊びたぁ懐かしいねぃ」
持参のタオルを火の近くに置いていた春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)が鬼百合の頭にぽんと手を置いた。
「雪、いっぱい貰ってかまくら作るんでさ」
思わずと言ったように鬼百合の言葉が零れる。あっと手を口に当てたがもう遅かった。紫苑の視線が緩む。
「しおんねーさん、策士ですねぃ」
「褒め言葉で受け取ってやりやすよ」
「もー二人ともっ、まずは雪かきだよ?」
めっと叱られて、二人の鬼はそれぞれスコップを握った。
雪を積み上げながら改めて周囲を見渡す。雪かきを手伝えと雪中に放り投げられた記憶が呼び起されて、寒いのはあまり得意じゃないイェルバートは苦笑いを浮かべた。
(爺ちゃん容赦ないからなあ)
動けば暖かくなるからと手足を動かす。
(でも、何人ぐらい入れるのが理想なんだろ?)
大きなひとつを作るのか、小さめのものを何個も連ねるのか。後者の方が簡単そうだ。
「水をかけて凍らせれば、補強になるよね」
指示の声を聞きながら、改めて雪山へと向き直った。
指示を飛ばしている男が副長だろう。目星を付けた奏は、休憩を利用して声をかけていた。
「初めまして、音桐 奏と申します。依頼で度々こちらの師団長にお世話になっているのでご挨拶に伺いました」
名を聞いて把握したテオバルトも名乗り返す。丁寧だが隙のない相手だと感じ取るのは鍛えてきた観察眼の賜物だろう。
「誰かを支えるという事の重要さと難しさ、全てとは言いませんが私も理解しています。これからも自らに課した役目、頑張ってください。私も応援しています」
今、何か話を聞こうと思ったわけではない、ただ挨拶をしておきたかったのだと添えた。
(そろそろいいですかねぇ)
ちらりと紫苑に視線を向けた鬼百合は心の中で数を数えていた。
1でスコップを雪に刺して、2で雪を握って振りかぶり、3で投げる!
べしゃっ!
まだ柔らかい雪が紫苑に当たり、コートを濡らす。
「へっへ、今日こそねーさんを倒す日がき」
最後までいう事が出来なかった。
バシュッ!
「いってえ!」
紫苑が力を込めて作った特製雪玉は殆ど氷に近い硬さだ。
「知ってやすか鬼百合、大人げねぇってなぁ大人だから言えることなんですぜぇえええ!」
父親役として常に全力で立ちはだかる紫苑。
「キョーカねーさん助けてくだせぇ!」
鏡花の後ろに隠れる鬼百合を狙った雪玉が鏡花の背中に命中!
(止めるつもりだったけど、こうなっちゃったら、ね?)
紫苑に気づかれないように雪玉を作る。鬼百合が気をひいている今が好機。
「くっ鏡花を人質にとるたぁ中々こすいことすんじゃねぇです」
ぐしゃっ!
「ぶっ!?」
振り向き投げた雪玉がクリーンヒット。最後まで言えなかった上に顔面が雪まみれ。二人の笑顔が憎らしい。
「鏡花も遠慮はいらないってことですかぃ」
紫苑が反撃。やはり雪玉は堅い。
「もー! やったなー!」
笑顔なのは楽しむことに本気だからだ。
まずは、小さな雪の動物作りから。
「……こうやってウサギさんを作るの」
真っ白い雪だけを集めて丸く整えた小山に、拾った葉で耳を、石で目をつける。ファリス(ka2853)の見本が可愛い仕上がりだったから、小さな子達も張り切った。雪の小山も形を変えてみたりして、猫や犬、馬が増えた。
アシェ自身の目線の高さまで丸く積み上げて、一度全体を確認。
(うん、きっとこんな感じ!)
その時見えた全体像に近づけようと削っていく。
ざく、ざくざくざくっ、ざく!
迷いがない動きで白い塊が少しずつ崩されていく。
雪玉を投げ合う雪合戦は、大人達とは離れた場所で。
小さな子達が混ざるのは難しい。簡単にほぐれる雪玉で、じゃれ合うように投げ合う。
(楽しむのが、大事。ファリス、ここではお姉さん、だもの)
気付けば鬼百合達も合流して、ちょっとした人数になっていた。
すぐに溶けちゃう雪だるまだからこそ、ずっと心に残るようなものにしたい。皆でそれぞれ、好きなモチーフを入れていけば完成だ。
雪だるま用の雪玉を転がそうと体勢を整えた金刀比良 十六那(ka1841)は見事に顔面からすっ転んだ。
「転がすくらいなら何とかなると思って……べ、別に涙目になんてなってないんだからねっ」
誰にともなく言い訳をする。
「いざやちゃん大丈夫ですかっ?」
エリーの手を借りて起き上がる。
「だ、大丈夫……だからっ」
きつねと友情でぬくぬくのはずなのに心の中が寒いのは恥ずかしいから、そういう事にしておく。
「クレール印のハンマーだよ!」
彼女お手製の大きなハンマーは普段使いの愛用品に似せてある。武器としても使えたらいいなとこっそり、願いも込めた。
小柄な雪だるまの正体、ミィリア(ka2689)のモチーフはやはり猫耳だ。今は着ぐるみで隠れているけれど、常に身に着けている猫耳カチューシャはメイドのヘッドドレスと組み合わさった趣味と誇りの合体技なのである。
柏木 千春(ka3061)が選んだモチーフはリボン。雪だるまの胸元に大きな蝶結びのリボンをおしゃれとして施す。
「ふふー、これで可愛さ倍増なのです!」
雪兎のための雪玉を作りながら、メイ=ロザリンド(ka3394)は笑顔を浮かべていた。
(今日は待ちに待った日なの、ですっ! 楽しむの、ですよー)
気合も十分に入れてきたのは、雪で遊ぶのが初めてだったから。真っ白な見た目だけではただ綺麗としか感じなかったのに、触ると冷たい。直接触れていた手に手袋をはめなおして、改めて、友人たちと協力して作った雪だるまに視線を戻した。
『どこがいいでしょう?』
スケッチブックに書きながら、雪兎を盛り付ける場所に意見を求める。
「頭上……は届かないわね」
「肩の上とかどうかな?」
『手乗りならぬ、肩乗りうさぎですね』
笑顔でうなずいて、最後の仕上げにかかった。
彼女達の友情の証は春が来たら溶けて消えてしまうけど、完成したその姿は皆の心の一ページ、思い出として残るのだ。
「完成ー! それじゃ、雪合戦に参戦でござる!」
ファリスや子供達との合流後は紫苑の雪玉も柔らかいものに。紫苑も狙う場所を子供達の手や、投げてくる雪玉に限定して、なおかつ利き手ではない方で投げている。
(ある意味これも訓練?)
両手が使える方がいろいろと便利だろうと思う。
「鏡花」
小さく紫苑に手招きされ揃って輪から離れた。鬼百合はこちらに背を向けていた。
「年のころが近い者同士の時間も必要だろ?」
「タオル持って待ってようか」
そのまま二人で休憩としゃれ込むことにした。
「かまくら一番乗りしたい人、いるー?」
イェルバートの声に子供達が我先にと駆けてくる。転ばないようにねと改めて声をかけてから、調理場の方へと足を向けた。
(塩味のポタージュで温まって……)
最初に埋めた瓶はどうなっただろう。うまく出来ていたら、それも皆で分けて一緒に食べよう。
寄り添うような格好の天使を見つけ、シェリルは兄姉と慕う者達を想う。
共に行こうと誘えばよかったけれど、怖いから一人で来てしまった。
(本当に大事になる事が……)
居なくならないと約束した小指に視線を落とす。それでもあと一歩が踏み込めなかった。
喪うのが怖いから作らないつもりで、恐怖に向き合えないままで約束をして。
乗り越えて強くなりたいけれど、そのスタートにも立てなくて。
後悔ばかり、逃げてばかりだ。
この気持ちも一緒に、全部この雪の白さに染まって、一緒に溶けてしまえばいいのに。
(そんなの無理ってわかってるけど……)
戻ったら、初めて触れた、冷たくて不思議な雪の話をしよう。今はまだ、それだけ。
「出来た!」
でっぷり太った羊の上半身がど真ん中でにんまり笑顔、魚の骨だか茨のような刺がところどころに生えて、人魚が雪の海を泳ぐ。小さな丸い尻尾の動物が雪玉に突っ込んで下半身だけ見えているのは……兎だろうか?
細々とした多くの雪像が、全て一つの雪玉に埋まっているように見える仕上がり。一つでたくさん、たくさんが一つになって……どちらが先だったか。
「これが前衛的芸術なんだよ!」
笑顔で高らかに宣言するアシェ。何人かが生暖かい視線を向けたような? アシェ自身は満足しているから問題ない。芸術家はえてして理解されないものなのだ。
「さて、あとは雪合戦の見物にでもいこーっと!」
●
「雪遊び! と言えば、雪合戦! なんダヨー!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の提案に誘われた人数は多い。更に彼が率いる白組はハンター達のうさぎ率が高かった。
「うちにも何着かあるぞ」
白組になったカミラが部下達にもまるごとうさぎを着せた。流石に全員分はなかったけれど。
「またアルヴィンは妙な事を」
言葉はただのポーズ、エアルドフリス(ka1856)の口角が上がっている。
「まずは壁と陣形の確認だ。役割も決めておけば効率もいいだろう」
率先して作戦を主動し始めた。
先の作戦で関わった者達への挨拶も済ませ、ユリアン(ka1664)は意識を切り替える。
「ジュードさん、せっかくだからこの勝負、帰りがけのアップルパイを賭けない?」
罰ゲームよりはご褒美の方が張り合いが出る。ジュード・エアハート(ka0410)も頷いて。
「それなら負けられない! エアさん、頑張ろうねっ♪」
(雪合戦ッテ初めてダケレド、合戦と言うナラ雪で戦えば良いのダヨネ?)
本で得た知識だけだから当然なのだが、提案者アルヴィンも初心者だ。
(まるごとうさぎさんが迷彩にナッタリするカナ?)
見回せばうさぎがいっぱい。顔部分を隠せばどれが誰だかわからなくなりそうだ。
「決ーメタ♪」
ふふふと笑って仲間達に作戦案を話し始めた。
ボクが楽しいのは当たりマエ。皆が楽しめたら更に完璧♪
「うちのツートップはかなり強敵……だが負ける訳にはっ。隊長、エアルドさんは頼んだ」
言いながら藁縄をブーツに巻くユリアンは疾影士としての矜持もかけている。
「雪の帝王とくれば俺様だろ!」
て言ってる俺様ジャック・J・グリーヴ(ka1305)ですが、緊急事態です。
思わず丁寧口調になってしまうほどの非常事態です。
「ジャック様! 今日はよろしくお願いしますね!」
仲良くなる機会を逃すまいと、エリー・ローウェル(ka2576)が笑顔を向ける。
一緒に参加して力を合わせて歩み寄りたい打算も混じっている。せっかく踏み出した一歩なので、多少強引でも突き進もうと手を握った。
(えっ)
いや待て落ち着け何だコレ意味分かんねぇ。どうすんだコレ顔マトモに見れねぇよやべぇよ恥ずか死ぬてか死んだ!
思い出した、俺がすべきは雪合戦だそれだぜいける。
「よっしゃ雪の帝王ジャック様の本気を魅せてやんぜ!」
手をとられたときも、反対側の腕がぷるぷると震えていたけれど気合で隠した。
(……あー、俺様テンパってんなぁ)
「いいか? 雪合戦なんざ要は雪玉を相手にぶつけるだけの遊戯だ。勝ち負けはねぇ、あるとすりゃあ……心が先に折れた方の負けって事よ」
さりげなく手を離しポーズを決めるジャック。大丈夫、俺様いけてる。だからそんな上目遣いとかやめろ頬染めるな俺様泣くぞ。
雪合戦が始まる前に、必要そうな言葉は同じ頁にいくつか書き溜めておく。これならその都度指をさして示せば会話ができる。
(作戦通り、頑張り、ましょうー)
共に雪玉作りを行う仲間達ともうまく呼吸を合わせよう。
(お友達と敵対もしちゃいますが、手加減はしません!)
エリーと千春が視線を交わし呼吸を合わせる。
「「ウェスト最強ユキガッシャーが決まる!!」」
二人で人差し指を高く掲げ決めポーズ。遊び心もテンションも最大値だ。
「それじゃエリーちゃん、早速準備するね!」
「勝負事となったら負けるわけにはいかないでござる!」
目指すサムライは最強の存在だからこそ、負けたら悔しさだって倍増してしまう。
ミィリアが固めた雪玉はカッチリと堅い。恐るべしドワーフの膂力である。
(思いっきり!)
可能な限り大きな動きで振りかぶる。最大限の力をこめて投げるには予備動作も大きくとらなければ。あまり時間をとると敵の的になってしまうから、使う時間はなるべく短くする様に気を付ける。幸い小柄なおかげで、他の者達よりも狙われにくい利点はあるけれど。
「とおりゃー! くらえ、おサムライさんぱわー!」
丁度正面に相対していた的指揮官エアルドフリスに向けて、投げた!
(将を討とうとすればとりあえず誰かにはあたる! はず!)
(面白そうや思て寄してもろたけど)
レン・ダイノ(ka3787)は改めて周囲を見渡す。ハンター達はやや女性の方が多い。しかし師団兵も合わさるとなんだか物々しい雰囲気が増す。
(師団長さんは、えらい美人やのになあ。他もあんな感じの師団やったらええのになあ♪)
女性兵もチェックしている。モノクルをつけた人とか、髪も短く小柄だけれど女性的な人とか。レンの予想より女性の割合は高い。
(可愛い女の子もようさんおるし、ええとこ見せなあかんわなあ)
そこまで考えてから雪を見下ろす。眉尻が下がっていた。
「さっそく挫けるわあ……」
雪玉を作る時点で、レンの気力が削がれていた。ちらりとミィリアを見れば、彼女の持つ雪玉はものすごく痛そうだ。敵じゃなくてよかったと思うと同時に、敵にも同様の誰かが居る可能性に背筋が少し冷えた。
「白組の名のごとく純白のまるごとうさぎ! これぞ保護色うさぎ大作戦!」
うさぎ隊長アルヴィンの立案に続いていたうさぎ隊員クレール、彼女の案は雪うさぎへの擬態だった。
そして今まさに作戦実行の時が迫っている。クレールはその場に屈んで丸くなった。顔も隠せば完璧、と体勢を整える。
(これでどこからどう見ても雪うさぎです!)
悪いうさぎではないと敵チームにアピールすることが狙い……だけれど。
ひゅんひゅんっ!
容赦なくふってくる雪玉に、止まっては居られないと慌てて体を起こす。
「わぁ、バレたー! 何でっ、友情ぱわー!?」
うさぎを着用している時点で敵認定されるのだ。立ち止まればそれだけ狙いやすくなる。
「ひゃぁぁ! 冷たい! ごめんなさいぃぃ!!」
クレール、避けきれず撃沈。
大き目に作った防御壁から、人形劇の主人公のように顔を出す雪うさぎアルヴィン。
「フフーフ、当てられるカナ♪」
大将役の彼が時々敵チームに向けて声をかけることで、仲間への注意をそらす。これは想定以上に効果覿面だった。なにせ敵の大将はエアルドフリスだ。
雪原を駆け回りながら標的の隙を伺うユリアン。
(流石、狙ってても当たらない……っ)
優先的に狙うジュードは基本的に止まっていて格好の的だ。動き回り狙う角度を変えながら雪玉を投げるけれど、その都度撃ち落とされてしまう。
雪玉を補充しながら細切れに投げるだけではあちらの対応力に追い付かないらしい。走りながら、投げるタイミングを読みづらくしているのに。
「ユリアン君後ろ!」
「よっ! ……っと」
後方から迫ってきた雪玉を避ける。倒れ込んだが、勢いを利用して転がった後に立てばいい。
(少し様子を見て、最後に仕掛けようかな)
何より二人の連携が脅威なのだ。アルヴィンの警告に感謝しながら、改めてユリアン機を伺う決意を固めた。
ジュードも胸中でユリアンを褒めていた。
(流石速いなぁ)
雪玉を撃ち落とすばかりで攻撃に余裕を回せない。自分とエアルドフリス、二人に向かってくる雪玉に対処しているからだ。
ミィリアの硬い雪玉には特に狙いを研ぎ澄ます。撃ち落としきれなくても、軌道をそらす事はできる。
「こういうの、大勢でやったこと無いから楽しいねっ」
あんまり得意じゃない気がして、はじめこそ大丈夫かなと思っていた。けれど役割分担をして、それぞれが作戦に乗っ取って動き出して。ルナ・レンフィールド(ka1565)は何かに似ているような気がしていた。
(合奏もこんな感じかな)
そう思ったら楽しい気持ちが増した。
千春やメイは防御壁で守られ、なおかつ前衛の者達の影になる場所でひたすらに雪玉を作っていく。
「裏方も重要ですからね!」
やぎさん千春の居場所はエリーの後ろだ、始めは早く作ることを重視して、慣れてきたら適度に硬く丸くと雪玉の質を上げていく。ある程度作り溜めることが出来たら、大雪玉にも取り掛かった。あまり数はなくてもいいけれど、特別なときに使えるように。両手で抱えなければ持てない大きさのそれは固めるのも少し手間だけれど、効果を考えてなるべく丁寧に仕上げていった。
(たまには可愛い雪玉が、あってもいいです、よね?)
小さめに作った雪玉を乗せて、雪だるま型にしたものをこっそり混ぜるメイ。ちょっとしたサプライズだけれど、楽しい気分を盛り上げる役になったようである。
出来ればアルヴィンを落としたいと思いながらエアルドフリスは視線を巡らせる。
まるごと動物シリーズ、特にうさぎが多く一見で誰かが分からない。
「敵である以上容赦はしないがね」
うさぎはすべて白チーム。確実に減らしていけばアルヴィンに当たるはずだ。
「この場で手加減は無粋というもんだ」
いつもであればアルヴィンに向けているハリセンの鋭さを全ての雪玉にこめる。本気の目だった。
(ふふ、エアさん子どもみたい)
隊長の提案も作戦も勝負好きの彼に効果覿面だ。どこまでも前に出るエアルドフリスの背中を護る。振り向かないのは信頼の証だから、楽しそうな背中を見るだけで口元が笑みの形になる。
大きめの雪玉を投げたルナ。雪玉は視線で追えるほど綺麗すぎる弧を描いて。
「「うわっ!?」」
エアルドフリスの後頭部に直撃した。味方から投げつけられると思っていなかったようで、密な連携をとっているジュードと一緒に驚きの声をあげていた。
「あわわっ! ごめんなさいっ」
ルナだって想定していなかった。
「気にしないでくれ、間違いは誰にでも……ぐはっ」
無事に許してもらえたので、改めて雪玉を握る。今度は投げやすいように普通のサイズ、慎重に振りかぶる。
ずるっ、びたん!
「きゃっ!?」
動きが大きすぎたのか踏込みに失敗し膝をつく。
(あれ?)
首を傾げたのは、持っていた雪玉がなくなっていたからだ。
「冷たっ」
再びエアルドフリスの声が聞こえる。
「……あ、あは?」
赦してはくれそうだけれど、次の言い訳はどうすればいいだろう、こんなに運動が苦手なつもりはなかったのだけれど……
(一玉一玉に、ざくろの雪玉魂を込めちゃうもん!)
しっかり固めた雪玉を手に時音 ざくろ(ka1250)が先手必勝で勝負に挑む。
「勝負だよエリー! 一球入魂、ゆきだまパワー。これがざくろの雪玉魂だっ!」
全力で全壊を目論むその先に、ざくろが幻視しているのは敵チームに存在するラブバリアだ。これも友人の応援なのだと理由をつける。だって恋愛って邪魔が入る方が燃えるという話だし。
(別に今、寂しいのが理由じゃないんだからなっ)
そう、これは祝福と応援の雪玉なんだからっ! ……パリンと割れたら面白いかもなんて思ってなんかいない。
べしゃ!
前線に居るはずのざくろの背中に雪玉が当たる。十六那が投げたものだ。
「……おかしいわ……わざとじゃないのよ……?」
投げている本人もしきりに不思議そうだ。球技等の道具を投げる行為が苦手なのだろう、自覚はないようだが。彼女が猟撃士ではないのが幸いだ。先ほどから横に飛ばしたり、振りかぶった状態で後ろに落としたりと1人舞台が行われているくらいだった。
「これが雪の帝王たる俺様の美学だぜ! ハッハッハッハ!」
戦場を悠々と歩くジャック。狙われ放題だが動じず雪玉を投げ返していく。あまりにも堂々としているので、ジャックがずっと戦場を練り歩いても誰も指摘しなかった。そもそも誰も正式なルールを知らず判断する者が居ないのだ。
いいところを見せたいのが乙女心。エリーはジャックの援護に徹していた。彼が向かう場所を予測して、彼が通る前に雪玉を投げて敵を威嚇するのだ。
「ちーちゃんお願い!」
ジャック自身も攻撃をしているときは必殺技のチャンスだ。千春の特製大雪玉を力の限りぶん投げる! もちろんジャックに当たらないように!
「きゃー! エリーちゃん素敵っ! 流石の女子力(物理)!!」
投げる時には応援も忘れない。少しでも、友人の恋の応援にもなったらいいなと思った。
人の頭くらいの雪玉を投げる乙女。恋の力が巻き起こす馬鹿力という奴だろうか。
(おんなしチームの人に悪いし頑張るけどやあ……)
提案通りの作戦を実行している隊長は、身長が芋7個分の空気を分かってくれそうな気もするが。レンは見学中のモノクル兵士に手を振りつつ、雪玉を避けることに専念していた。
(そやけどかっこええのは他の人に任せるわあ)
避ける様が十分に格好いい事には気付いていない。
全力で飛ばし過ぎたざくろは早くスタミナが切れてきていた。ほんの少しふらついただけなのに、見逃さなかった赤チームから多数の雪玉が降り注ぐ。
「はわわわ、こんな雪位平気、平気だ……はみゅっ」
できる限り避けようと、うっすら目元に涙を浮かべながら雪玉を見据えた。女子顔負けの小悪魔顔である。本人に自覚はないけれど。
雪玉が途切れた瞬間が好機だ。ジュードも隙を見て攻撃に回る。
(きっと右に避けるから、今なら!)
避けられてしまっても、向かう先にはエアルドフリスの投げた雪玉が迫る。身を屈める可能性を考慮して低く、飛んで避けるには高い位置だ。
全体的な作戦勝ちと呼べばいいだろうか。はじめこそ白が勢いをつけていたが、赤のじわじわとうさぎを追い詰めるような粘り強さ。白は押し切られ赤が勝っていた。
「……疲れた、一歩も動きたくない」
雪合戦だけではない。ここしばらく様々な歪虚作戦に身を投じていた影響が残っていたようだ。積み重なった精神的な疲れですり減ったものを、思いっきり体を動かすことで取り戻せた気がする。
「……お疲れ様」
張り切りすぎたツケでぐったりと凭れかかってくるエアルドフリスを支えるジュード。背中をぽんぽんとさするのは甘えられたときの癖になった。
(アルヴィンに感謝せにゃならんなあ)
視線を向ける。
「どーいたしマシテ?」
視線に感謝の気配を感じて、笑顔で答えた。
「はは、参ったぁ」
倒れ込んで雪に埋まるユリアン。笑顔なのは思いっきり楽しんだ証だ。
「負けちゃったのは残念だケド、楽しかったネー♪」
アルヴィンが持っていた皿の片方を差し出した。
「おやつも食べて一息入れて、回復したら、帰ろうか」
賭けのご褒美のアップルパイ、一緒に食べよう?
●
「風邪を引かないようにちゃんと拭かないとね」
「ありがとーございまさぁ」
わしゃわしゃと髪を拭かれる。他の子供達も大人達に拭かれたりしているけれど少しだけ距離を取っていた。左側では紫苑が自分の髪を拭いている。
(二人とも、ですねぃ)
照れくさいから、全て言わずに胸の内にしまっておこう。
「おーい、飯だぞー」
ザレムの声に集まった者達に、シャーリーンも笑顔で勧める。
「きっと、皆、腹ペコだろ、さあ、召し上がれさね」
かまくらの一つが子供達専用でぎゅうぎゅうになったところで、ファリスは調理場でトレイを借りていた。
「……みんなの分、持っていくの」
一緒に遊んだ連帯感そのままに、おやつも皆で一緒に食べることになったのだ。秘密基地みたいで、ただ皆集まっているだけでも笑顔が零れる。
おやつは子供達の特権だからと、ほんのちょっぴり優先的に取り分けてもらって。
甘いものも、少し塩気があるものも。温かいものも冷たいものも、大勢で食べると心から温まる。
「カミラさーん、おやつくだせぇ!」
ここは自分がと、鬼百合が三人分をまとめて運ぶとかって出た。ポタージュを運んで三人で一つにかまくらに入る。子供達と一緒に居るかも迷ったけれど、まだ慣れきっていない気持ちが勝った。
「かまくらの中ってあったかいんだよー」
鏡花の言葉に半信半疑だったけれど、実際にはいればそれは明らかで。
「雪でできてんのに、こんなにあったけぇのはなんでなんでしょうねぃ」
ずず、とすすりながら心底不思議そうな声。そりゃあれだ、と紫苑が答える。
「人の情と同じだからでさ」
断熱効果がどうとか、そういう堅苦しい知識も知っているけれど。
遊び倒したおかげで十六那は濡れ狐になっていた。つまり通常時より数倍転びやすい。かまくらに入る前に乾かそうと足を速めたところで、お決まりのように足を滑らせた。
「あっ……」
十六那の前を歩いていたのはエリーで、その前を歩いていたのがジャック。
「きゃっ!?」
転びかけたエリーがジャックの上着を掴む。
「っと」
エリーと十六那ごと受け身を取るジャック。咄嗟の判断で動けるのはそう教えられて育っているからだが。
(……えっ?)
尻もちをついた際両手それぞれに女性を支える結果となり硬直。
「ジャック様ありがとうございます! ……ジャック様?」
今日付き合ってくれた感謝も込めたお詫びをとエリーがポタージュを持ってくるまで、ジャックの混乱は収まらなかったようである。
「よう兄ちゃん、いい嫁になるぞ?」
給仕も様になっているザレムにからかいの声が飛ぶ。
「バカヤロウ! 俺は男だよ!」
手際を褒められたはずなのに、素直に喜べないのは仕方ないだろう。
ポタージュに、スープに。ほかほかと湯気を立てる料理は体の中から温めてくれる。
「美味しいな」
火の近くで濡れた服も乾かしながら、ざくろは今日の疲れを癒すのだった。
「ご馳走様です。とても美味しかったですよ。第三師団の方々が羨ましいですね、このような料理を頂く事が出来て」
「……カミラ姉様が作るおやつ、美味しいの!」
「口にあったなら良かった」
皆が楽しそうなのが一番だけれど。感想がもらえるのは嬉しいものだなと、奏とファリスに向けて笑った。
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相談?雑談?卓 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/04/13 00:38:49 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/21 08:02:35 |