裏があってのオモテナシ

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/03 12:00
完成日
2019/05/12 22:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●歪む夢

 私はハンガリーの小さな農家に生まれた。
 父は酒を呑んでばかり。母はあたしが5つの誕生日に余所の男と出て行ってそれっきり。……最低の家。
 だから学校にはあまりいい思い出がない。
 皆が上等な新品の制服を着ている中で、あたしだけ近所のお姉さんのお下がりで。
 貧乏人とからかわれ、友達もいなかった。
 だから虫や動物と遊んだ。あの子たちはあたしを馬鹿にしないし、どんな風にしても死ねばオシマイ。
 だから彼らは……家に帰れば野良仕事と勉強しかないあたしの唯一の遊び相手だった。
 だけどね、いい事もあったんだよ。
 学校の帰り道に突然目の前がぐるりと回転したかと思うと……知らない世界に跳ばされていて。
 あたしは特別な力をもつ戦士なんだって教えられて。
 まるで本屋で立ち読みしたファンタジーコミックのような展開にドキドキしたんだ。
 だってこの世界には貴族や皇族がいる。
 あたしがもし活躍して、皆に頼りにされるようになったら誰かに見初められて、
 惨めじゃない……
 それこそ、子供の頃に憧れたあの自由奔放に生きたお姫様や貴族のように生きられるかもしれない。
 でも……現実は違った。
 私が歪虚を倒そうと必死になって考えた案は「危険すぎる」と却下され、
 何かしようとすれば「お前は周りが見えないのか!?」と止められた。
 歪虚を倒すのが仕事なのに。そのためにどんな犠牲がでても戦うのがハンターでしょう?
 私はそう思ってた。だってハンターなんて戦場で何人も死んでいる。
 その中に一般人が混ざっていても別におかしいことなんてないじゃない。
 ……だけど私の考えは理解されなくて。だんだん私の居場所はなくなっていった……。


●吸血姫は鞭を振るう

 ビュッ!!!
 吸血鬼型歪虚エリザベート(kz0123)は以前より重みを増した鞭で
 帰還したばかりの部下オウレルの身体を激しく打った。
 鞭の先端には有刺鉄線の如く針が仕込まれ、彼の背をズタズタに斬り裂く。
「……申し訳ありません、エリザベート、さま……」
「本当にあんたはクズね! スペックだけ高いだけで何もできてないじゃんッ!!
 オルちゃんが生きてたら絶対処刑対象にしてたわよ。全く!」
 エリザベートの望みはこの従順になった下僕にあらゆる虐殺を体験させた後、
 敢えて正気に戻すことで精神が完全に崩壊にする瞬間を見届けること。
 本来は優しく職務に忠実な軍人だったのだ、
 きっと後悔に胸が張り裂け無残に自殺を遂げてくれるとエリザベートは心をときめかせたが……
 今のところ大きな戦果は挙げておらず傷ついた身体で帰ってくるばかりだ。
 このままでは精神崩壊させる術がないとエリザベートは苛立ち、
 もう一度オウレルを鞭で思いっきり打つ。
「がぁっ! ……はぁ……はぁ……お赦しを……」
 なぁに、身体は歪虚だ。
 負のマテリアルが満ちるこの場所で休めばどれほど傷つこうとも回復だけはする。
「ほらほらァ、もう痛い目に遭いたくないなら今度は上手くやりなよッ! このクズッ!!」
「……か、畏まりました……お嬢様……」
 オウレルは鎖で繋がれた腕をようやく解放され、煉瓦造りの床に倒れ込む。
 ああ、ほんの少しだけど楽しかったァ――そう言って鞭を放り投げるエリザベート。
 その背にオウレルが鋭い視線を送った。
 今の彼は最早歪虚の下僕ではない。自我を持つ、ひとりの存在だ。
(今は敢えてこの苦痛に甘んじよう。だが今までの罪から逃れられると思うなよ……イロナ)


●気まぐれの悪意

 エリザベートがいつものようにメイドや執事たちが
 どこかから調達してきたスイーツに舌鼓を打っていた時、
 執事服に袖を通したオウレルが彼女の脚元に跪いた。
「お嬢様、先日の失態をお赦しくださりありがとうございました」
「……今んとこあんたぐらいしか使えるのがいないからねェ。
 小綺麗な死体を集めたり生きてんのを攫うのも一苦労。
 爺やや婆やは戦闘技術があっても見た目から歪虚ってバレるから、
 そうそう外に出せないし……全くつまんない世の中ァ」
 そう言ってマカロンを齧るエリザベート。
 最近は砂糖の塊のような甘味を血のように赤い紅茶で溶かすのが好みらしい。
 そんな退屈そのものといった様子の彼女にオウレルは目を伏せたまま、静かに提案した。
「……それならばハンターをこちらへ招待し茶会でも開催するのはいかがでしょう。
 私を撃退まで追い込んだハンターはもちろん、
 見知らぬハンターとも会うことは退屈しのぎに丁度いいのではないかと」
「ハァ? 何言ってんの? ここは一番気に入ってる拠点なの。
 本拠地に敵を呼ぶとか馬鹿のすることじゃないさ」
「いいえ、だからこそです。
 私が連れ帰れないほどのハンターでもお嬢様なら討ち取られるでしょう。
 これを機に逢った強者を後々お嬢様と私が連携して倒し、後に下僕とするのです。
 その中にはオルクス様を討った輩もいるかもしれませんし……
 それにこちらの戦力を示すことでハンターが畏怖し、
 自らお嬢様に屈服する者も現れるかもしれません」
 その言葉にエリザベートが「ふ……ん」と興味を示したようで、長い脚を組み直した。
(確かにこの城にはバルーンや仕立て屋が配備されているし、
 爺やと婆や……そして執事やメイドも揃っている。
 その気になればアンデッドを呼ぶこともできるし、大人数でも招かなければどうにでもなるか)
 エリザベートはまだ見目の良い少年執事を呼び出すと、いくつかの貨幣を渡した。
「オウレル、それ面白いじゃない。いいよ、適当にハンターオフィスへ招待状を送っといて。
 ……そーだなぁ、8人ぐらいまで呼んどいて」
「かしこまりました」
 オウレルは慇懃に頭を垂れ、自室で手紙を書く。
 彼はこの城の戦力と絡繰り程度でハンターの心が到底折れるとは思っていない。
 ただ、エリザベートを討つ前に無策で飛び込ませるよりも
 こちらから情報を開示し、よりハンターを有利にしようという魂胆が彼の中にあった。
 ――大切な者をこれ以上、失いたくないから。
 既に情報戦は始まっている。
 久方ぶりに書いた手紙、無事に届くように……
 彼はそう思いながら、茶菓子を買いに行く少年執事にそれを託した。


●オフィスに届いた手紙

 只埜 良人(ka0235)はオフィスに届いた書類の中を整理しているうちに
 一通だけ負のマテリアルが漂う封筒を見つけた。
 送り主の名はエリザベート。筆跡は明らかにオウレル・エルマンのものだが。
(なになに……南の古城で茶会を開催する?
 飲食物は市販品なので安心してご来場ください……定員は8名まで、と)
 これは罠なのか、それともエキセントリックなエリザベートならではの酔狂なのか。
 いまひとつ判断がつかない。
 それでも何かのきっかけになれば……と
 良人は「十分に気をつけるように」と注意書きの上、依頼書を発行した。

リプレイ本文

●麗しき古城と死者達

 エリザベート(kz0123)の居城は築200年以上経過したにも関わらず壮麗な姿だった。
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)が事前調査の資料を手に解説する。
「あの城は対亜人用の砦が元で、後の領主の趣味であの形になったんですって」
「わふ、どんな趣味ですー? 見た感じ綺麗なお城です」
 首を傾げるアルマ・A・エインズワース(ka4901)に眉を顰めるカーミン。
「それが派手かつ嗜虐趣味の誰かさん似。無数の罠と拷問具で亜人を苦しめたそうよ。歪虚が棲むのも当然ね」
 エルフのアルマはその光景を想像し、耳をへたりと垂れさせた。
 だが次の瞬間、小気味よい音が響く。星野 ハナ(ka5852)が己の頬を張り喝を入れたのだ。
「普段なら歪虚は即ブッコロなのにぃ……
 今日は新しいお友達の家にお呼ばれ、お呼ばれ……よしっ! 今日も一日頑張るですぅ!」
 そんな彼女は深い緋色の着物を清楚に着こなしている。しかし袖には万が一に備え、多数の符を隠していた。

 やがて城門が開き、執事が10名、メイド9名が列を成す。
 そこで手前の執事がオウレルだと気づいたシェリル・マイヤーズ(ka0509)が一歩進んだ瞬間、
 十色 エニア(ka0370)が手を掴み囁いた。
「今は、まだ」
「わかった……今日はたぶん……お兄さんがくれた……機会……。最大限に活かさなくちゃ……」
 続いて品格ある執事とメイドが現れる。彼等が執事長とメイド長だと馴染みのあるエニアらは気づいた。
「ようこそ」
「お忙しい中」
「御足労くださり」
「感謝いたします」
 執事長を皮切りに、他の執事が次々と口を開く。メイド達は深いカーテシーで歓迎の意を表した。
(ふむ、歪虚といえど教育は施されているか)
 貴族のアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が彼等を冷静に観察する。
 彼と逆に緊張しているのは濡羽 香墨(ka6760)。彼女はドレスを纏い、
 唇には親友の澪(ka6002)と揃いの紅をさしている。
 しかし本人はローブか重厚な鎧ばかり着ているため落ち着きがない。
「大丈夫、香墨は綺麗。自信をもって」
 薔薇のドレス姿の澪が香墨に優しい香りの香水を吹きかける。香墨はほっと息を吐き静かに微笑んだ。
 そこにエリザベートが現れるや、ハンター達を一瞥し不敵に笑う。
「へぇ、懐かしい顔もあれば、この前会ったばかりのもいるじゃん。初めて見るのもね」
 相変わらずの不遜な態度。しかしアウレールは作法通り一礼した。
「本日はお招き頂き有難う御座います。私はブラオラント侯家次期当主、アウレールと申します」
 その穏やかな顔の裏で揺れる冷たい炎。相手が高位歪虚でもただで頭を垂れるほど彼の気位は低くない。
(歪虚相手に慇懃に礼を言うのも業腹だが、
 服装・拠点・手紙の寄こし方等々から貴族趣味は明らか。擽っておいて損はないだろう)
 もっとも丁寧な口上は悲しきかな、『本物』の習性でもあるが。
「へぇ、あたし、ガチの貴族に興味あんのよね。後で話聞かせてよ」
「ええ、私でよろしければ」
 その流れでハンター一行が挨拶する傍ら、アルマは目を輝かせて従者達を見回した。
「執事さんいっぱいです、メイドさんも! ……でもこの子だけ、なんだか変わり種感ですっ」
 不思議そうな顔を取り繕いオウレルに近づくアルマ。エリザベートが訝しげに彼を見た。
「ああ、そいつは騎士だから。っつーか、あんたこいつと会ってんじゃん」
 しまった、とアルマは焦った。そうだ。過去にでオウレルを迎えに来たエリザベートと顔を合わせていたのだ。
「あんたこの前の山でこいつと対峙してたよね。何馴れ馴れしくしてるワケ!?」
「わ、わふ! それは気づきませんでした。鎧の印象が強くて……。
 エリザベートさん、騎士さん、失礼しましたです。でもお茶会ができるなら、遊んでくれるですよね?
 改めまして、僕アルマって言いますっ。よろしくですっ」
 ふたりに子犬のような顔で素直に謝罪するアルマ。そこにカーミンが軽やかに割り込んだ。
「エリザベートとお茶会と聞いて!」
「あ、変なの。その恰好……」
「私はカーミン! それと今回はフォーマルにドレスを着てみたの。どう、似合う?」
「じゃ、カーミン。そのドレス、板金ついてるじゃん。ただの甲冑じゃねーの?」
「し、仕方ないじゃないっ、私ハンターって以外はただの王国民なんだから!
 普通のドレスなんて持っていないわよ。それよりもこれは王国産のプリンと紅茶、お土産よ!」
 カーミンが差し出した紙袋。
 それをエリザベートは「へえ、王国の? うまそー! やるじゃん」と笑顔で受け取る。
 そこにエニアが続いた。
「あ、これはわたしお手製のマカロンと口直し向けのトマトゼリー。お口にあえば良いのだけれど」
「へぇ、なよいのも気が利くじゃん。それじゃ婆や、後で綺麗に盛って出して」
 エニアは「なよいの」という言葉に傷つきながらも愛らしく微笑んだ。
「そういえば貴女、2年前と雰囲気変わったよね。やはり流行とかチェックしてるの?」
「あぁ、そりゃね。流行おさえないと女としてヤバいっしょ。
 でもあんたもゴスの上に白レースの外套とか気合入ってるよね。メイクも可愛いじゃん」
「あぁ、わたしは踊り子としても働いているから。服装には気をつけないとね」
 繰り広げられる他愛のない会話。だが突然エリザベートが歪んだ笑みを浮かべると、エニアの手を掴んだ。
「ああ、そういやさ。お礼言うの忘れてたわ。この前は拠点を実質潰してくれてありがと。……澪やアルマも」
「「「っ!」」」
 しかしエリザベートは笑ったままだ。
「気にしないで。この国、あちこち隙があるから。間抜けな人間ばかりだし」
 その表情に反し、深紅の爪がエニアの白肌を抉る。だが彼は痛みを堪え、笑って返した。
「今日はお茶会、でしょ? わたしを許せないなら外にいるから、他の仲間は受け入れてくれない?
 わたしもこの空気壊したい訳じゃないしね~」
「ふぅん……結構根性あるじゃん。いいよ、お茶請けに免じて許したげる」
「……ありがとう」
 血が滴る手。香墨が急いでアンチボディで治療するとエニアは儚げに微笑んだ。


●死が渦巻く城にて

「こういう時、ごきげんよう……って、言うのかな?」
 ほのかな灯に照らされたエントランスホール。そこでシェリルが会釈するとエリザベートが笑った。
「あぁ、上流階級ではそんな挨拶だよね。そういやあんたもいい服着てんね」
「ん。真っ赤なドレスと迷ったけど……白に赤を入れた方が……赤が引き立つかなって
 ……染め上げる前……みたいな、ね? エニアに化粧もしてもらった……どうかな?」
 元々端正な顔のシェリル。赤いアイラインに白いパールを散らし、
 唇にローズピンクをさしただけだが、十分に愛らしい。
「うん、イイ感じ。あんたはそういうの着ないと損よ」
「……ありがと。あと私は一般人だから……お城みたいなお屋敷……憧れ。見て回ってもいい?」
「そうなの? んー、どうしよっかな。爺や、案内できる?」
「いえ、私は応接間の確認がございます」
「そっかー。だよねぇ」
 唇に指を押し当てて考え込むエリザベート。そこで唐突にハナが紙箱を差し出した。
「本日は素敵なお城へのお招きありがとうございますぅ。
 お茶会って伺ったのでぇ、甘酸っぱいラズベリームースのケーキを持ってきましたぁ。
 気に入っていただけると嬉しいですぅ」
 ハナは元来の凝り性で料理の腕はなかなかのもの。箱にも深紅のリボンを薔薇のように仕立ててある。
「あ、ありがと」
「うふふ、だってぇこんな素敵なお城にご招待いただいたのにぃ、
 何も持って来ないのも失礼じゃないですかぁ。ここにある美術品だけでも感動しましたぁ。
 ロマンチックな古城って感じでときめいちゃいますぅ。女の子の憧れいっぱいって感じでぇ。
 他にも素敵なお部屋や調度品いっぱいありそうでぇ、とっても素敵ですぅ」
 シェリルがその隣で頷く。
「ん、その中で……探検ツアーみたいな……。私も……色んなところでお嬢様みたいな……写真撮りたい。エリザベートみたいに」
 勿論エリザベートを持ち上げるのは計算づくだ。この歪虚が容易く他者に時間を割くなどあり得ない。
(案内役……爺やさんや婆やさんでもいいけど。お兄さん……がいい)
 するとエリザベートが「オウレル!」と叫ぶ。
「はっ、お嬢様」
「こいつら連れて鍵なしの区域だけ案内して。……あとこいつ、帯刀しているから。変な真似はしないでよ」
 その声にオウレルが僅かに緊張する。要は禁忌に近づくハンターがいたら斬り捨てるよう彼に命じたのだ。
 アルマは頷きながら(エリザベートさん、やっぱり嫌いです。でも……今日は、まだ)と感情を押し殺した。
 こうして私室に向かうエリザベート。肩の力が抜けたハナが深く息を吐いた。
(あの子はただのはすっぱ貴族なのですぅ。そう思えー、思うのですぅ、私ぃい!)
 その頃、キッチンに向かうメイド長にカーミンが長細い紙袋を手渡した。
「婆やさん。これ、王国産の赤ワイン。お酒って好みがあるでしょ? 突然渡すのもどうなのって思って」
 するとメイド長が僅かに俯く。
「誠に申し訳ありませんが」
「お嬢様はお酒が苦手でして」
 その反応にカーミンは違和感を覚えた。あらゆる愉悦を貪る暴食が快楽の源たる酒を拒むとは。
「そうなんだ。でもお酒は料理のコクを加えるのにも使えるから。よかったら、ね」
「左様ですね、失礼しました」
「感謝いたします」
 慇懃に頭を下げるメイド達。そこでカーミンがもうひとつ、とボトルを差し出す。
「あとこれもお土産に。驚くことに『あの』帝国で流行の調味料よ。
 ベースは果物だけどどんな料理にも合うの。ぜひ試してみて」
「それはそれは」
「ありがたく頂戴します」
 続けて香墨もメイド長に土産を手渡した。
「旅先で見つけた。ジャムとチーズ。ジャムは唐辛子入りでチーズに合うけど。エリザベートは。辛いの平気?」
「そうですね」
「辛い物はきっとお喜びになるかと」
「感謝いたします」
 そうしてキッチンへ向かうメイド達。香墨は歪虚相手の対話で疲れたのか、壁に手をつき息を吐く。
「大丈夫? 香墨」
「慣れないことをしただけ。だから。それよりも。今は。この城を。調査しなきゃ」
 ここは誰もがまず足を運ぶ空間。きっと様々な罠があるに違いない。
 シェリルはオウレル以外の歪虚が去ったのを確認するやそっと囁いた。
「話ぐらい……できる?」
「大声でなければ。従者は職務に忠実だから応接間やキッチンから急に離れはしないはずだ」
「……良かった」
 安堵したシェリルは悪戯っぽい笑みを浮かべ、伊達眼鏡をオウレルに掛けさせた。
「執事服……にあう、ね? でもこれでもっとできる執事になった……」
「ああ、僕は裏方仕事嫌いじゃなかったし、執事の道もあったかもね。それならきっと人として生きていたな」
 自嘲するオウレルだが、感傷を挟む暇はない。エニアが問う。
「早速だけどオウレルさん、この城の罠を教えてくれる?」
「ああ、今はほぼ装置を停止しているけど。
 例えばそこの微妙に色が濃い床は重みが加わると床が抜け、槍の山に落ちるようになっている。
 あと絵画の横の小さな穴は毒が仕込まれていて……」
 聞くほど陰鬱な気になる多彩な罠。それを澪が手帳に細かく記録する。
 そして自分も気になる箇所を細かく観察した。
(見るべきところはここと窓、それと他の出入口。主な通路も確認しないと)
 その視線の先に分厚い鉄が鈍く輝く。戦ではこれで敵の侵入を防いだり圧し潰したのだろう。
 一方、ハナは通路で濃厚な負の匂いにげんなりとしていた。
(これだけの匂い……きっとあの子は「今まで何人殺った?」と聞いたら
 絶対「お前は今まで喰った飯の数を覚えているか?」と即答するタイプですぅ……)
 そう考えながら歩いていると。
(ん、足元にまっすぐ凹んでいる痕跡。上から壁が降る仕掛けでもあるんでしょうかぁ)
 周囲を見て歩くハナ。その時、迂闊にも浮いた煉瓦を爪先で蹴ってしまった。
 ――ぶんっ!!
「っ!?」
 突然煉瓦の間から偃月型の刃が飛び出す。だが彼女は百戦錬磨の実力者。反射的に後方へ跳び、刃を躱す。
 それに気づいたオウレルは急いで壁の操作盤に触れ、頭を下げた。
「すまない、ハナさん。こちらの罠は止め損ねていたようだ」
「いいえぇ、それにしても凄い刃ぁ……」
 その様子をアウレールが興味深そうに見つめていた。
(ある程度は想像していたが、揺れる偃月の刃とは。
 うちで真似しようと思わないが、ロマンがあるのは認めざるを得ないな)
 他にも落下前提で吊られた照明や槍衾になる通用口など、無数の罠が並んでいる。
 もっともオウレルが操作盤の位置を示したため、
 こちらが先手を取れれば被害を抑えつつエリザベートと対峙することもできようが。
 いずれにせよ確認できる箇所だけでも無数の罠がある。
「鍵付き」の部屋にはどうなのだろうと、魔導スマホで資料写真を撮るエニアは戦慄した。


●血色の茶会

 オウレルのもとにメイドが楚々とやってきた。茶会の準備が整ったらしい。
「すまない、僕が案内できるのはここまでだ」
「いいえ、色々見られてよかったですー!」
 そう言って無邪気に両手を広げるアルマ。彼は罠を確認してはそれに触れ、十二分に記憶したのだ。
(わふふ、後で皆の覚書や写真と併せて報告するです。そうすれば次回役立つはずです!)
 彼はオウレルの後ろにつきながら再度罠や装置の位置を確認する。
 その手際の良さは普段のあどけなさを裏切るものだった。

 応接室は19人の従者と8人の客、そして得物を引き摺る主人が入っても十分なほど広い。
 中央の艶やかな赤い円卓に案内された8人はまず豪奢な照明に目を奪われる。
(まさか、落ちてこないよね?)
 メイドが紅茶を注ぐ中でエニアの不安げな顔に気づいたのか、エリザベートが嗤った。
「安心しなよ。今日は茶会するだけだから」
「う、うん。……それにしてもお城に住んでるってすごいな~。わたしには広すぎて逆に不便そう」
「そう? まぁ、従者がいないと面倒かもね」
 そんな会話の合間にシェリルがワンダーフラッシュを詠唱し、白い手を宙に翳した。
「ご招待に感謝して……スターライト! さぁ……楽しいお茶会に……しよう?」
 部屋に星々の煌きのような光が舞い散る。エリザベートはそれを無邪気に喜んだ。
 そこでサーコートを脱いだアウレールが高級酒の瓶をエリザベートに差し出す。
「こちらはシャンパンです。ささやかな品ですが、どうぞご賞味ください」
 潔癖な彼にしては穏やかな物腰。しかしエリザベートの顔色がたちまち変わった。
「あたし、酒嫌いなんですけどォ? それにその勲章、あんた剣機・剣豪・剣魔と戦ったんだ。
 ねぇ、オルちゃんはどうしたの? ねえ!!」
 アウレールのスーツには四霊剣の決戦への参戦を示す勲章が三掛飾られている。
 その唐突な怒りに虚をつかれたアウレールはすぐさま冷静になり、静かに答えた。
「剣妃殿の最期は報告書で確認したのみで詳しくは存じ上げません。それ以上語ることもないでしょう」
 もっとも彼自身は過去に剣妃と剣を交わしているのだが。
 エリザベートは訝しむように彼を睨んだ。
(これが唯一決戦に参加し損ねた剣妃の取り巻きとは、運が良いのか悪いのか。
 もっともこの程度、大した器でもあるまいが。……退屈させてくれるなよ)
 対話しつつ思考を巡らせるアウレール。感情のまま動くエリザベートと理性的な彼はどうも相性が悪いようだ。
「婆や、グラスを。マジモンの酒だったら処刑よ、いくらイケメンでもね」
 その鬼気迫った顔にカーミンがテーブルクロスの下で手を強く握った。
(アウレールってば……酒は駄目って婆やさんが言ってたでしょ! こうなったら私が囮になって……)
 彼女の覚悟の前で注がれるシャンパン。
 芳醇な香りが漂うも、エリザベートが苦々しい顔でそれを口に含む。すると。
「ん……美味しい。これ、ノンアルコール?」
「左様。高級白ブドウ使用のシャンパン風味炭酸水です」
「な、なによ。最初からジュースって言えば良かったのに! これだからイケメンは……もう!!」
 そうして嬉々としてグラスを傾けるエリザベート。アウレールはその胸の内で昏い笑みを湛えた。
(ふん、歪虚などに良い酒なぞくれてやる気もないがな)
 そこで安堵したカーミンは菓子やチーズを味わいつつ、エリザベートの機嫌を更によくさせる作戦に出た。
 まずは棚の飾り皿に手を伸ばす。
「ねえ、エリザベート。これ今でも有名な王国のブランドものよ。
 このモチーフの作品はここ50年造られていない伝説の逸品」
「あー、でもそれ正直使わないのよねー。眷属が寄こしたんだけど、絵が地味」
「そっか、高い物がお気に入りとは限らないわよねー。
 逆に私のフラワーサークレットは昔から使っているけど、結構お気に入りなのよ?」
「へえ、手入れとかしてんの? 花飾りって傷みやすいのに」
「ふふ、それはね。お気に入りですから」
 巧みに掌返しを駆使し、気難しい相手の機嫌をとるカーミン。
 そこにアルマも便乗し、ベストの胸に挿した薔薇をエリザベートに見せた。
「エリザベートさんは赤がお好きと聞いたので! 僕は青が好きですが、今日は薔薇もつけてみました。どうですか?」
「あぁ、挿し色に赤……いいね。ところであんた、それだけの力があるなら昔から相当活躍したんじゃないの?
 それこそオルちゃんとの戦に関わっても……ねえ?」
 そう言うエリザベートに摘まれ、床に落ちる薔薇。アルマは汗が手に滲むのを感じた。
「わぅ、オルクスさんの事はお名前だけです。
 僕はその頃ハンターになったので多分、関わっていないと思うです……お役に立てないです……」
「ふぅん、それなら今戦う必要ないか……っつーか、あんたも結構イケメンね。背ェ高いし」
 傍に置くならイケメンよね、と呟くエリザベート。そこで剣呑な流れを切り替えるべくエニアが話しかけた。
「あの、リアルブルーの諸説では吸血鬼は日光や流水や銀に弱いと聞いたけど実際はどうなの?
 昔、執事さんやメイドさんを川で洗ったと聞いたけど」
「別にぃ? 昼夜関係ないし、流水も服が濡れると気持ち悪いだけ。銀で瞬殺とか弱るというのもないね」
「へぇ、そうなんだ……。エリザベートってリアルブルーの吸血鬼より強いんだね」
「そりゃね。オルちゃんと契約したのに弱かったら面汚しになるじゃん?」
「そうなんだ……」
 エニアはこれ以上の深入りは危険だと、カーミン提供の紅茶に口をつけた。
 そんなぎこちない会話の中、ハナは包みから化粧品を出すとエリザベートに差し出した。
「赤がお好きって聞いたのでぇ、最近リゼリオで流行ってる新色のマニュキアや口紅を持ってきたんですぅ。
 勿論差し上げますのでぇ、試してみませんかぁ」
「え!? マジでいいの? ありがと、ハナってセンスいいっ。
 リゼリオは流行の最先端だもんね! 王国の高級志向もいいけどっ」
 エリザベートが爪と唇に嬉々として鮮やかな紅を塗り込め、周囲に見せる。
 その間、慎重に周囲を見回す澪。彼女はこの部屋にも仕掛けがあるか確認したいのだ。
 そこで香墨は時を稼ぐべくエリザベートに問う。
「このドレス、どう思う? エリザベートは着こなし上手だし。教えてほしい」
 香墨のドレスは竜の血で染められたという伝承のある品。美しい赤だが独特の渋みがありどこか禍々しい。
「悪くはないけど、ちっと威圧感ある。渋みのせいかな。つか、自分に合う色を探すのが一番じゃね?
 あたしは赤が好きだけど、あんたは違う色に縁があんのかも。結局自分が着て嬉しい色が一番なんだよね」
 そう言ってハナお手製のケーキを美味しそうに食すエリザベート。香墨が緊張をほぐすようにエニアのゼリーを掬う。
「自分の、好きな色?」
「そ。あたしは赤が至高。でも誰にだって好きな色、似合う色がある事も知ってる。
 だから赤を勧めはしても、強要はしない。だからあんたも自由にお洒落や色を楽しみなよ」
「う、うん」
 エリザベートの思わぬ言葉に香墨の心が揺れる。何なんだろう、この歪虚は。
(エリザベートは歪虚で。大勢の人を玩具にして殺した。……憎い敵。
 でも、話すと普通の女の子と変わらない。倒さなくちゃいけないのに……どうすれば……)
 言葉に詰まる香墨。その時、執事長が澪の素振りに気づき「どうされましたかな」と声をかける。
「あの、私。絵を描くのが好きで。豪華な部屋を見ていたらスケッチしたくなって」
 するとエリザベートが笑った。
「なんだ、そんな事? いいよ、ここには変なものないし。好きなように見てって」
「ありがと。その、間取りとかもメモしていっていい?」
 その言葉にエリザベートは「いいよ」と応じ、ケーキの最後の一口を物惜しげに頬張った。
 ……そろそろ菓子も尽きてきた。しかしまだ見るべき物がある。
 そこでアルマはエリザベートのアイアンメイデンのもとで跪いた。
「あの、エリザベートさん。これお気に入りの装備です?」
「うん。これはあたしの手作りで、オルちゃんに強化してもらったやつ。あたしの最高の武器」
「そうですか。お気に入りは『好き』ってことなので素敵です! 僕もこの籠手がお気に入りです!」
「でもそれ機械仕込みじゃん。普段から着けてんの?」
「それはもう、尊敬する人の手作りですから宝物です!
 だから誰かの『好き』を見ると、嬉しくなるですー」
「ふーん……好きなヒトからの贈り物を無碍に扱えないのは同じかもね」
 ふと感傷的な顔を見せるエリザベート。
 このままでは茶会が終わる、そう勘付いたエニアは思い切って話を切り出した。
「そういえばエリザベートは新しい兵器を造ったんでしょ?
 ぜひ見せてもらいたいな。きっと以前より豪華で強力なんでしょうね」
「は? 突然何を言うかと思えば。敵に見せるワケないじゃない」
 するとアウレールとアルマが立ち上がった。
「それではエリザベート殿、無理は申し上げません。
 環境や持ち物との取り合わせを拝見してよろしいでしょうか、私も屋敷を持つ身ゆえ関心があるのです」
「僕も見たいです! エリザベートさんの『好き』を見せてもらいたいですっ」
 両者ともエリザベート好みの美青年だ。笑顔で迫られては快楽に溺れる暴食の心が大きく揺れる。
「わ、わかったわよ。それじゃ少しだけ。オウレル、あんたもついてきて」
 こうしてエリザベート同伴の吸血城探索が始まった。


●恐るべき兵器

 まずエリザベートが一行を案内したのは武器庫だった。とはいえ武器の殆どが拷問具同然の凶悪な物。
 その中で一際目を惹いたのが巨大な歪虚だった。
 それはハンター達の気配を察すると、鼻息荒く6本脚を揺らす。
 エニアとシェリルがそのシルエットに顔を強張らせた。
「はいはい、バルーン改。今回は見学だから暴れないの」
 主に叱られるなり大人しく座る歪虚。その様は異形の犬のようだ。
「こいつはバルーン改。以前使ったのを記憶を頼りに再構成した自信作。
 多機能なのはそのまま、耐久性を上げて省エネ化したの。まぁ、定期的な充電も大切なんだけどさ」
 物憂げにため息をつくエリザベート。
 だが彼女は気を取り直すと「さ、次行くわよ」とさっさと扉を開いた。

 次の部屋はエリザベートのウォーキングクローゼット。
 そこでは巨大なデッサン人形が器用に裁縫をしている。
『オジョウサマ、オキャクサマデスカ?』
「そ。……で、こいつは仕立屋。あたしのドレスや従者の服を作るのが役目」
 そこで思わずエニアが「あの時の!」と声を放つ。
 途端にデッサン人形が悲鳴をあげた。彼との交戦の記憶が蘇ったらしい。
『オジョウサマ、ドレスハヨテイドオリシアゲマス。イマハドウカワタシヒトリニ!』
「……だってさ。本当は社交界的な面からドレスに意見を貰えたらと思っていたんだけど仕方ないか」
 錯乱する仕立屋を残し退出するエリザベート。アウレールは気にせず語り始めた。
「そうですか、それでは次のお部屋まで私なりの服飾に関する見解をお話ししましょう」
 するとエリザベートが瞳を輝かせ、彼を見た。どうやら彼の一筋縄ではいかない気質が気に入ったらしい。
「私の知るかぎり今も優雅な丈の長いドレスが主流ですね。
 ドレスの間で時折覗く繊細な足首に男は庇護欲を刺激されるものです」
「庇護欲……ねぇ」
「また赤と黒の組み合わせがお好みのようですが、どちらも強い色。装飾品で淡色を加えればより可憐になりましょう」
「小物か、なるほどね。それも用意しないと」
 呟きだけ聞けば年頃の少女のようだが、実際は数多の人間を殺めている女。澪はドレスの背に軽く触れた。
(一応小太刀は持ってきてる。でも、できれば抜かないでいられるように……)
 先ほどのバルーン改にしても、仕立屋にしても、深い業を纏っているように見えた。それがただ恐ろしい。
 香墨が澪の手を握ると「大丈夫。私が守るから」と囁く。
 澪も「ありがと。私も……香墨だけだから」と微笑んだ。

 やがて最後の部屋にたどり着いた。そこは地下に繋がる小部屋のひとつ。
「ここが最後のあたしのお気に入りがいる部屋。ただ、ここの鍵の具合が悪くて」
 鍵を開けるのに苦戦するエリザベート。
 そこでカーミンが「私に任せて」とプリムラを発動し、鍵を解除する。その先にいるのは――赤黒い何か。
「うわっ! 何これ、スライム?」
「それは掃除屋。壊れた従者や潰した死体を片付けるあたしの可愛いペット」
「……そうなんだ。大人しいの?」
「大抵はね。でもそいつは死体が餌だから、あらゆる毒や病原菌を喰ってる。人間が触れたらすぐ身体が腐るよ。覚醒してるなら別だけど」
 その壮絶さに一行は息を呑んだ。こんなものを帝都の水源に流せば帝国は壊滅しかねない。
 本来ならこの場で焼き尽くすべき存在だが……彼女が知恵者でなくて良かった、とアウレールは思った。
 そしてここは身を退くべきと、カーミンが苦笑し一歩下がる。
「……エリザベートのペットは好き嫌いがないのね。感心したわ」
 こうしてエリザベートの最終兵器は再び闇に閉じ込められた。


●穏やかな時の中で

 それからというもの、一行はエリザベートに怪しまれないよう城を探索した。
 澪はエリザベートの肖像画を描きつつアイアンメイデンの特徴も細かく写し取る。
 エニアは仕立屋やバルーンと交戦した時の記憶を振り返った。
 あの頃と変わった点はないかと。具体的な装備まで確認できなかったのが悔やまれる。
 ハナは次こそエリザベートとあのスライムだけは抹消せねばと考える。
 もしあれが外に出れば災害規模の被害が発生するだろう。
(この世界を守るのもぉ、私が大精霊から与えられた依頼ですからねぇ)
 一方、アウレールはエリザベートに「一城の主としてのお姿を画像に収めたいのです。写真撮影をお許しいただきたい」と声をかけた。
 これはオフィスへ資料として提出するためである。
 しかし無垢な彼女は快く応じ、大広間で優雅にポーズをとった。
(大広間か。戦をするならここだろう。遮蔽物が少なく、通用口も近い。援軍の突入にも丁度いい)
 思考を巡らせ写真を撮るアウレール。
 アルマはその隣で無邪気に笑いながら「ここに追い込みたいですね」と耳元で囁いた。
 ――考えは同じか。アウレールは静かに笑った。

 その頃、シェリルはオウレルと城のバルコニーに出た。シェリルが思い切って彼に問う。
「スザナさん……。帰れないのは……それも、ある?」
「そうだね、軍人である姉には酷く苦労させたと思う」
「……」
「その償いは僕が姉に殺される他にない。軍で身内の罪を贖うには戦働きしかないからね。でもその前にイロナと邪神を倒さなければ」
「生きるのは、そんなに難しいの……?」
「僕は暴食。いつかイロナのように欲に溺れる筈だ。誰かを襲う前に死なないといけない」
 それはオウレルの堅い意思。シェリルはただただ首を横に振り、彼の胸に手をあてる。
「お兄さんの会いたい人に……会えるといい。伝えたいことが伝えられるといい……。私は、諦めが……悪い……」
 鼓動なき冷たい胸。しかし彼の掌がシェリルの髪を優しく撫でた。
「お兄さん……まずは……目の前。必ず成そう」
「……本当にありがとう。僕も頑張るよ」


●そして帰還

 茶会は無事に終了した。再び執事やメイド達の礼を受けながらハンター達が外に出る。
 その時エリザベートが笑った。
「澪さ、あんたの絵イケてるじゃん。一枚もらっていい?」
「私ので良ければ」
 そう言って肖像画の頁のみ見せる澪。
 エリザベートはその中から一枚選ぶと「ありがと、記念にする」と嬉しそう。
 アウレールも写真の中でエリザベートをメインに写したものを数枚渡した。
 シェリルは城主との別れに静かに微笑む。
「お招き……ありがとう。素敵なお屋敷だった……。また、ね?」
 またね、の裏は「次が最後」という意味。
 エリザベートはそれを感じ取ったのか「いつでもどうぞ」と勝気に応じた。

 その頃エニアは執事長のもとに向かった。
「そういえば執事長さんとメイド長さんって特別な感じがするの。エリザベートの道具とまた違うような……」
 すると執事長が彼の呟きに囁きで応じる。
「お嬢様は高位歪虚でありながら」
「大変孤独な方でございます」
「しかし私は『あの方』に命じられた以上」
「お嬢様を身を捨ててでもお守りする所存」
「もっともこの身は」
「お嬢様が用意してくださったものですが」
 ああ、なるほど――エニアは得心した。ならば次こそ勝機も掴めようと。
 ハンター一行は不快感に耐えつつ有用な情報を多数掴み、オフィスへと帰還した。

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  • 約束を重ねて
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  • 命無き者塵に還るべし
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参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/01 00:10:04
アイコン 悪意と楽しいティーパーティ?
カーミン・S・フィールズ(ka1559
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/05/02 20:26:50