ゲスト
(ka0000)
【血断】脚本家としての宿命
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/17 09:00
- 完成日
- 2019/05/24 01:38
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
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オープニング
●
……我が君よ。
何故……。
その男は、自分がどこにいるのかさえ、分からなかった。
(ノーフェース……またね)
シュレディンガーよ。
……何故だ。
私は、我が君のため、できる限りのことをした。
否、最初から、私は必要のない存在だったのか?
誰も、この私を必要とする者はいなかった。
……シュレディンガーよ。
お前は、違うのか?
私も、お前の『力』が必要だった。
お前も、この私の『力』が必要だったのだろう?
……何故、何も言わずに消えた……シュレディンガーよ。
我が君に捨てられたことよりも、シュレディンガーがいない世界が、これほどまでに虚しいとは。
●
『……ん? あれは……白い仮面の男か?』
黒いマスティマに搭乗したクドウ・マコトは、カッツォ・ヴォイ(kz0224)が傷だらけになって倒れている姿を発見した。
ここは、グラウンド・ゼロ。
カッツォが、この場所にいるのは疑問に感じたが、かつて黙示騎士シュレディンガーと共にいたことがあったことを、クドウは思い出した。
コックピットから降りたクドウは、銃を構え、警戒しながらカッツォに接近していく。
だが、クドウはすぐに銃を下ろした。
カッツォは気絶しており、なによりも、以前のような殺気がまるでなかったからだ。
クドウには、カッツォが抜け殻になっているように見えた。
沈黙が続く中、ようやくカッツォが意識を取り戻した。
我が君ラルヴァによって落された場所は、グラウンド・ゼロ……だが、カッツォには、まさに奈落でしかなかった。
「……クドウか……この私を殺しに来たのか?」
地面に倒れたまま、カッツォは無防備であった。
溜息をつくクドウ。
「何があったのかは知らないが、今の俺には、あんたを殺す動機はない」
「……さすがの貴様も、今の私では不服ということか?」
「不服? 意味が分からないな」
そう告げた後、クドウはカッツォの様子を確認していた。
「怪我はたいしたことはないようだな。……だが……」
再び、カッツォは意識を失った。
●
「おい、こいつ、どっかで見たことねぇか?」
「気のせいだろう。シェオル・ノドの人型じゃねぇのか?」
「かなり弱ってるように見えるが、俺たちだけでも倒せそうだな」
「やっちまおうぜ」
偵察隊のハンターたちが、地面に倒れている男に攻撃をしかけた。
男は抵抗しなかった。
ハンターたちが一斉に武器を振るい、男を叩きつけていく。
そうか……私も消えるのか?
自分が消えることなど、考えたこともなかった。
「なんだ、こいつ?」
いくら攻撃しても、その男が消え去る様子がなかった。
私は、この世界から消えることさえ、できないのか?
ならば……。
ゆらりと立ち上がる男は、白い仮面を整え、愛用の杖を掲げた。
「我が名は、カッツォ・ヴォイ。この私に刃向うとは、良い度胸だ」
我が君もいない。シュレディンガーもいない。
私は……自分の意思で、この世界を無に帰してやろうではないか。
カッツォが指を鳴らすと、杖に引き寄せられるようにオート・パラディンが五体、現れた。
シュレディンガーによって強化された杖があれば、このようなことも造作ない。
「我が配下たちよ、目の前にいる人間たちを消し去るのだ」
世界が、私を必要としないならば、この私が世界を利用してやろうではないか。
「フフフ、今の私は何者にも縛られない……これからは、私の意思で、この世界を舞台にした最高の悲劇を作り上げてやろうではないか」
オート・パラディン五体が、一斉にハンターたちに襲い掛かった。
ハンターたちが、敵のマテリアルレーザーによって撃ち抜かれ、次々と倒れていく。
「まずは、貴様たちを『餌』にしてやる」
カッツォは、三人のハンターたちをステッキで貫き、一人だけ生き延びさせた。
「三人は死んだ。生きているのは、おまえだけだ。さて、どうするかね?」
低い冷めた声で問いかけるカッツォ。
「……待ってくれ。少しだけ、時間をくれ」
ハンターが、恐る恐る応えた。
「時間か……。良いだろう」
カッツォがそう告げると、ハンターは逃げ出した。
魔導スマートフォンを取り出し、近くにいた別のハンターと連絡を取った。
「予期せぬことが起こった。カッツォ・ヴォイと名乗る男が、現れた。俺一人ではどうすることもできない。至急、援軍を頼む」
応答したのは、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)だった。
『おまえは、その場から全力で逃げろ。一人で闘える相手ではない。俺たちが到着するまで、無茶なことだけはするな』
連絡を受けたハンターたちは、マクシミリアンと共に現場へと急いだ。
……我が君よ。
何故……。
その男は、自分がどこにいるのかさえ、分からなかった。
(ノーフェース……またね)
シュレディンガーよ。
……何故だ。
私は、我が君のため、できる限りのことをした。
否、最初から、私は必要のない存在だったのか?
誰も、この私を必要とする者はいなかった。
……シュレディンガーよ。
お前は、違うのか?
私も、お前の『力』が必要だった。
お前も、この私の『力』が必要だったのだろう?
……何故、何も言わずに消えた……シュレディンガーよ。
我が君に捨てられたことよりも、シュレディンガーがいない世界が、これほどまでに虚しいとは。
●
『……ん? あれは……白い仮面の男か?』
黒いマスティマに搭乗したクドウ・マコトは、カッツォ・ヴォイ(kz0224)が傷だらけになって倒れている姿を発見した。
ここは、グラウンド・ゼロ。
カッツォが、この場所にいるのは疑問に感じたが、かつて黙示騎士シュレディンガーと共にいたことがあったことを、クドウは思い出した。
コックピットから降りたクドウは、銃を構え、警戒しながらカッツォに接近していく。
だが、クドウはすぐに銃を下ろした。
カッツォは気絶しており、なによりも、以前のような殺気がまるでなかったからだ。
クドウには、カッツォが抜け殻になっているように見えた。
沈黙が続く中、ようやくカッツォが意識を取り戻した。
我が君ラルヴァによって落された場所は、グラウンド・ゼロ……だが、カッツォには、まさに奈落でしかなかった。
「……クドウか……この私を殺しに来たのか?」
地面に倒れたまま、カッツォは無防備であった。
溜息をつくクドウ。
「何があったのかは知らないが、今の俺には、あんたを殺す動機はない」
「……さすがの貴様も、今の私では不服ということか?」
「不服? 意味が分からないな」
そう告げた後、クドウはカッツォの様子を確認していた。
「怪我はたいしたことはないようだな。……だが……」
再び、カッツォは意識を失った。
●
「おい、こいつ、どっかで見たことねぇか?」
「気のせいだろう。シェオル・ノドの人型じゃねぇのか?」
「かなり弱ってるように見えるが、俺たちだけでも倒せそうだな」
「やっちまおうぜ」
偵察隊のハンターたちが、地面に倒れている男に攻撃をしかけた。
男は抵抗しなかった。
ハンターたちが一斉に武器を振るい、男を叩きつけていく。
そうか……私も消えるのか?
自分が消えることなど、考えたこともなかった。
「なんだ、こいつ?」
いくら攻撃しても、その男が消え去る様子がなかった。
私は、この世界から消えることさえ、できないのか?
ならば……。
ゆらりと立ち上がる男は、白い仮面を整え、愛用の杖を掲げた。
「我が名は、カッツォ・ヴォイ。この私に刃向うとは、良い度胸だ」
我が君もいない。シュレディンガーもいない。
私は……自分の意思で、この世界を無に帰してやろうではないか。
カッツォが指を鳴らすと、杖に引き寄せられるようにオート・パラディンが五体、現れた。
シュレディンガーによって強化された杖があれば、このようなことも造作ない。
「我が配下たちよ、目の前にいる人間たちを消し去るのだ」
世界が、私を必要としないならば、この私が世界を利用してやろうではないか。
「フフフ、今の私は何者にも縛られない……これからは、私の意思で、この世界を舞台にした最高の悲劇を作り上げてやろうではないか」
オート・パラディン五体が、一斉にハンターたちに襲い掛かった。
ハンターたちが、敵のマテリアルレーザーによって撃ち抜かれ、次々と倒れていく。
「まずは、貴様たちを『餌』にしてやる」
カッツォは、三人のハンターたちをステッキで貫き、一人だけ生き延びさせた。
「三人は死んだ。生きているのは、おまえだけだ。さて、どうするかね?」
低い冷めた声で問いかけるカッツォ。
「……待ってくれ。少しだけ、時間をくれ」
ハンターが、恐る恐る応えた。
「時間か……。良いだろう」
カッツォがそう告げると、ハンターは逃げ出した。
魔導スマートフォンを取り出し、近くにいた別のハンターと連絡を取った。
「予期せぬことが起こった。カッツォ・ヴォイと名乗る男が、現れた。俺一人ではどうすることもできない。至急、援軍を頼む」
応答したのは、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)だった。
『おまえは、その場から全力で逃げろ。一人で闘える相手ではない。俺たちが到着するまで、無茶なことだけはするな』
連絡を受けたハンターたちは、マクシミリアンと共に現場へと急いだ。
リプレイ本文
緊急連絡を受けたハンターたちは、直ちに現場へと急行した。
カーミン・S・フィールズ(ka1559)が『千日紅』の残像で加速していく。
「忙しないわね。ナム、助かったわ」
カーミンに同行していたポロウのナム・フォウが先手を打つホーをしかけ、ハンターたちは先手を取ることができた。
「背中と情報は任せて、いってらっしゃい♪」
カーミンが前方へ移動し、ポロウのナム・フォウが『惑わすホー』の結界を展開させた。
ジャック・エルギン(ka1522)はイェジドのフォーコに騎乗して、敵陣に向かって駆け抜けていく。
「カーミン、相変わらず仕掛けるのが速いな。助かるぜ」
ジャックは、オート・パラディンに接近する前に、身捧の腕輪による『ソウルエッジ』を愛用のバスタードソード「アニマ・リベラ」に纏わせる。
「自動兵器の中央にいるのは、カッツォだな。ありゃー、本物だとは思うが……以前とは雰囲気が違う感じがするぜェ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)の指示により、刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心が、オート・パラディンたち目指して前進していく。シガレットは鉄心の後を追うように魔導ママチャリ「銀嶺」に乗り、ペダルを漕いで移動していた。
「何があったのでしょうか。……?!」
フィロ(ka6966)は気が付いてしまった。カッツォの後方に、三人の死体が無残にも倒れているのを。
「人を守るのが、私の務め……やるべきことをやるだけです」
地上を駆けるペガサスに騎乗したフィロは、カッツォを倒すことを優先していた。
戦わなければ……倒さなければ……フィロの脳裏に焼き付くのは、カッツォの今までの行い。
アリア(ka2394)は『アクセルオーバー』の残像を纏い、カッツォ目掛けてかけていく。
「リスティ、援護、頼むよ。カッツォには迂闊に接近しないようにね」
ユグディラのリスティは、弱者の本能で敵の動向を警戒しながら、アリアの後を追いかけていく。
リーベ・ヴァチン(ka7144)が騎乗するのは、飛翔の翼で飛行するペガサスのシェーンだ。
「カッツォ・ヴォイ……脚本家か。また会うことになろうとはな」
蘇える記憶……クドウ・マコトと再会した時、その手を遮ったのは、カッツォであった。
リーベは思わず、唇を噛みしめた。
カッツォが杖を掲げると、オート・パラディンたちは刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心に狙いを定めて、マテリアルレーザーを放った。敵の攻撃は全て命中し、鉄心は多大なダメージを受けていたが、シガレットにとっては想定内だった。
「鉄心、おまえは良いヤツだぜェ」
シガレットは『ファーストエイド』による『フルリカバリー』を発動させ、鉄心のダメージを回復させていく。
「フォーコ、まずはパラディン狙いだ!」
ジャックはフォーコに騎乗し、ソウルエッジのオーラを纏ったバスタードソード「アニマ・リベラ」によって『チャージング』を転化し、『薙ぎ払い』を駆使してパラディン2体に攻撃をしかけた。攻撃は命中し、かなりのダメージを与えていたが、パラディンたちはジャックの攻撃に耐えていた。
「あたしが援護するよ」
アリアは『マーキス・ソング』を詠唱し、リスティが演奏する『森の宴の狂詩曲』を上乗せした『アサルトディスタンス』で敵陣を駆け抜け、すれ違いざまに試作光斬刀「MURASAMEブレイド」で斬り付けると、ダメージを喰らったパラディン2体が爆発して消え去っていった。
「いたたっ、まあ、これくらいなら平気かな」
爆発に巻き込まれたが、アリアはすぐに体勢を取り直した。
「そう言えば、パラディンは消滅する時、爆発するんだったわね。この距離なら……」
カーミンは間合いを取り、蒼機銃「マトリカリア」を構え『胡蝶蘭』による弾丸を放った。ナム・フォウの惑わすホーによる効果が続いていたこともあり、パラディン一体に弾丸が命中してダメージを与えることができた。一気に残弾を消費するが、カーミンは素早く駆け抜け、ナムと隣接した。
フィロの騎乗するペガサスが飛翔の翼で飛行し、パラディンを飛び越えると、フィロはカッツォに接近して星神器「角力」で攻撃を繰り出した。
フィロの攻撃はカッツォに命中するが、フィロにとって予期せぬことが起こった。
カッツォのカウンターは、フィロの騎乗するペガサスに命中……多大なダメージを喰らったペガサスは体勢を崩し、フィロも地面へと落下してしまう。
フィロは着地に成功したが、ペガサスは地面に叩きつけられ、転がり落ちた。
「ククク、ペガサスを楯にするとはな」
カッツォが皮肉を込めて告げた。
「カッツォ様、相変わらず卑怯ですね」
フィロは自らを挺してカッツォのカウンターを受け止めるつもりでいたが、カッツォからの視点ではペガサスがフィロを守っているように見えたのか、先にペガサスを撃ち落とした方が得策と考えたのだろう。
「シェーン、仲間の回復を頼む」
後方で飛行していたペガサスのシェーンは、騎乗しているリーベの指示で『エナジーレイン』の癒しを施した。傷つき倒れたペガサスの傷を回復させ、フィロには守護の力を与える。
「まずは邪魔なパラディンを蹴散らすぜェ」
シガレットは『ストーンサークル』を展開し、『宝術:ククルカン』を解き放った。火属性の翼を持つ蛇の精霊が召喚され、パラディン2体を貫いていく。多大なダメージを与えていたが、パラディンの強化はGSではなかったのか、解除する効果は発生してなかった。
続いて、刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心は、R.Oモード「マテリアルバースト」を発動させ、進行経路上にいたパラディン2体をマテリアル障壁で弾き飛ばしていく。さらに鉄心は大壁盾「庇護者の光翼」を構え、Cモード「wall」を発動させ、防壁を作り上げた。
「おっし、弾き飛ばされたパラディンは任せとけ」
フォーコが狼牙「イフティヤージュ」の『ウォークライ』でパラディンを威嚇し、ジャックはバスタードソード「アニマ・リベラ」による『チャージング』による『薙ぎ払い』を駆使して、確実にパラディンを仕留めていく。
多大なダメージを喰らったパラディンは爆発し消滅していくが、ジャックが騎乗するフォーコは『スティールステップ』で回避し、爆発から逃れることができた。
「やるな、フォーコ。間一髪だったな」
ジャックが首元を撫でると、フォーコは得意げな表情をしていた。
ナム・フォウが、カーミンの前に移動し、羽衣「パノプリア」を発動体とした『惑わすホー』を展開させた。ポロウに騎乗しなければ、それぞれ単独の行動ができるため、効率的だ。もし、カーミンがポロウに騎乗していれば、同じタイミングのスキルはどちらかしか使えないのだ。
カーミンは『千日紅』を発動させ、蒼機槍「ダチュラ」を構えて『胡蝶蘭』を駆使して投げ飛ばし、パラディンの回避と受けを低下させ(使用弾数は全て消費)、すかさず『オレアンダー』を纏った蒼機槍「ダチュラ」をリロードすると『サザンカ』の広角投射によってパラディンは多大なダメージを喰らい、爆発して消え去っていった。
蒼機槍「ダチュラ」を投擲武器として利用した見事な連続攻撃であった。
「毒が効く前に爆発したわね。ま、いいわ」
「カッツォ様、今日は脚本家でなく、主演男優のおつもりですか」
フィロは星神器「角力」の『鹿島の剣腕』を発動させ、カッツォに狙いを定めて『九想乱麻』からの『白虎神拳』と『鎧徹し』の連撃を繰り出す。攻撃は全てカッツォに命中し、多大なダメージを与えていたが、カッツォのカウンターが発動し、フィロの胴部を貫く。だが、シェーンが付与した衝撃緩和によって、フィロが受けたダメージは軽減され、『金剛不壊』によって体内を巡る気功へと転化していく。
「貴様は、私の一撃を喰らっても耐えるヤツだったな。覚えているぞ……フィロ」
カッツォは再び戦いの場に出ることができて、高揚としていた。
「まずいな。オート・パラディンの狙いは、フィロかもしれない」
後方で敵の動向を窺っていたリーベは、飛行するシェーンに騎乗したまま、刀「和泉兼重」を構えて『衝撃波』を放った。残りのパラディンに命中し、ダメージを与えることができたが、敵が消え去ることはなかった。だが、リーベが攻撃をしかけたことで、アリアは『アクセルオーバー』の残像を纏い、カッツォに話しかけることができた。
「主人であるはずの嫉妬王との戦いでは出てこなかったって聞いたけど、今まで何してたの?! あたしたちの知らないところで、誰かに倒されたのかと思ってたけど、生きてたんだね!」
「それを知ったところで、お前は何をする気だ? お前はいつも私を観察するばかりで、何がしたいのか、よく分からんな」
カッツォは、フィロと互いに睨み合ったまま、アリアの問いに応えた。
「それは……」
アリアは、カッツォを追い求めていた。
世界を守るため? 大切な仲間を守るため?
次第に、アリアの奥底で静かな闘争心が芽生え始めていた。
「そうやって人の弱みに付け込む……カッツォは油断ならないからなァ」
シガレットがフィロの行動を見越して、ストーンサークルを解除し、魔導ママチャリ「銀嶺」に乗って、フィロの近くまで移動すると、いつでも回復できるように体勢を整えていた。
オート・パラディンがシガレットを狙ってマテリアルブレードを繰り出すが、幻盾「ライトブロッカー」を構えて受け流していく。
ナム・フォウが『吹き消すホー』の幻影魔法をオート・パラディンに展開するが、効果はなかった。おそらく、オート・パラディンの強化はGSではないのだろう。
「残り一体のパラディンなら、これね」
カーミンは蒼機銃「マトリカリア」の弾丸をリロードすると『カランコエ』による制圧射撃を放ち、ダメージを与える代わりにパラディンが行動不能となった。
リーベが超々重鞘「リミット・オーバー」を発動体とした『刺突一閃』を発動させ、刀「和泉兼重」によって、行動不能になったオート・パラディンを貫いていく。多大なダメージを受けたパラディンは爆発して消滅していく。
「これで自動兵器は全て消えたな」
「カッツォ、後はお前だけだ!」
フォーコが狼牙「イフティヤージュ」による『ウォークライ』の咆哮で威嚇し、ジャックはソウルエッジの効果が続いたバスタードソード「アニマ・リベラ」を構えて『チャージング』による『薙ぎ払い』を放ち、さらに『リバースエッジ』を解き放った。重い一撃がカッツォの胴部に叩き込まれ、多大なダメージを与えることができたが、カッツォのカウンターが発動……フォーコは奇跡的に急所を免れ『スティールステップ』で回避し間合いを取ると、紙一重でジャックの『鎧受け』が発動し、攻撃を受ける直前に、カッツォのカウンターを受け流すことができた。
ほんのわずかな差であった。
「ほほう、ジャック・エルギン、久方振りだが、技に磨きがかかったようだな」
カッツォの口元が歪んだように見えた。
ジャックが、言い放つ。
「お前に言われることでもねーな。よく聞け、カッツォ! ラルヴァもクラーレも、ハンターたちに倒されたぜ。お前が強いことは認める。だがな、俺らハンターも強くなってんだ。お前に初めて会った頃の俺らじゃねえ。それとも、こんな状況になっても、まだ、お前には手立てが残ってんのかよ」
警戒するジャック……以前のカッツォならば、ここで怒りを顕にすることが多かったが、今のカッツオはやけに落ち着き払っていた。
それが、かえって不気味に感じられた。
「……貴様らがここに来た……ということは、まだ舞台はあるということだろう?」
カッツォの声は、どこか喜びに満ちていた。
フィロが、問いかける。まだ戦いは終わっていない。
「嫉妬の歪虚王の戦いに加わらず、次の歪虚王の座をお望みですか……以前、シュレディンガーと名乗る者と共に行動していたようですが……」
「王の座など興味はない……シュレディンガー……貴様ら覚醒者が殺した相手だったな」
ゆらりと……カッツォの殺気が揺らめく。
フィロは反射的に攻撃をしかけていた。鹿島の剣腕による『九想乱麻』からの『白虎神拳』と『鎧徹し』をカッツォに繰り出す。多大なダメージを与えることと引き換えに、カッツォのカウンターがフィロの胴部を貫くが、『金剛不壊』が発動したフィロは気迫で耐えていた。
「まだ倒れる訳にはいきません」
「フィロさん、思う存分、暴れてくれなァ」
シガレットが『ファーストエイド』のタイミングで、フィロに『フルリカバリー』を施し、生命力を回復させていく。
リーベの騎乗するペガサスのシェーンが『トリートメント』を発動させ、範囲内にいる仲間たちに治療促進を付与する。
「カッツォ、おまえの言う舞台とはなんだ? 悲劇の舞台でも作りたいのか?」
リーベにとっては、素朴な疑問でしかなかった。
カッツォはフィロの動向を警戒しつつ、愛用の杖を構えていた。
「シュレディンガーを亡き者にした、貴様らに相応しい舞台を作りたいだけなのだよ。そのためならば、私は自ら舞台に上がることも望む」
ジャックはバスタードソード「アニマ・リベラ」を構え、カッツォの動きに注意を払いながら叫んだ。
「まさかとは思うが、シュレディンガーのために、この世界を舞台に見立てて、何かするつもりか?!」
「ククク、できれば、今すぐ、貴様を殺したいところだが、それでは最高の舞台にはならない。これから、貴様らが自滅していく姿を見物するというのも面白いではないか。精々、足掻くがいい」
カッツォの言葉に、フィロは躊躇うこともなく、攻撃をしかけた。『九想乱麻』の構えからの『白虎神拳』を繰り出し、カッツォの胴部に命中……ダメージは与えたものの、カッツォは抵抗に打ち勝ち、カウンターを発動させ、フィロの腹部にステッキを貫く。だが、フィロは『金剛不壊』を発動させ、ダメージに耐えていた。
「カッツォ様……シュレディンガー様がいなくなって、お辛いのですか?」
「……貴様らがシュレディンガーを殺したことで、私は理解した。欲しいものは、自らの手で奪い取ること……ラルヴァ様が倒された時、私の心は震撼した……これが奪われるということを……つまり、貴様らがやっていることは、私の望みを叶えてくれるということを……感謝しているぞ。覚醒者たちよ……ククク」
カッツォが、右手で杖を掲げ、左指を鳴らした。
その時、カーミンは気が付いた。上空に、黒いマスティマがいるではないか。
「全く気配がなかったわ。いつのまに……?」
黒いマスティマに搭乗している人物のことを、カーミンは知っていた。
クドウ・マコトだ。
リーベにも、そのことは分かっていた。だからこそ、伝えたい想いがあった。
魔導拡声機「ナーハリヒト」を手に持ち、リーベはクドウに呼びかけた。
「マコト、飯は食ってるか? 寝てるか? 不規則な生活するな。弁当作ってきてなくて悪いな」
以前と変わらず、クドウと接するリーベ。
「お前に伝言がある。『クドウさんは強化人間だと聞いたが、きっと大切なモノを守るために、その道を選んだのだと、俺は思っているよ』……解釈は、好きにしていい」
黒いマスティマは、飛行したまま、様子を窺っているだけであった。
それでも、リーベはクドウと再会したら、自分の想いを伝えたかった。
「お前が誰かを救いたいと思っているなら、自分がしたいと思うことをしてくれ。私が嫉妬する位したいと思ったことを素直にしてくれるなら、私達と戦うことになろうと、私の救いになる」
叶うならば、今度こそ、クドウの手を離したくなかった。
だが、現実は、そうさせてくれなかった。それでも。
「マコト、死ぬのはお前が気にするからできないが、どんな道でも信じよう。お前の大切な家族と同じように、いつでも家族のように想ってるよ」
『……リーベ……もう、俺の家族はいないんだ』
黒いマスティマの簡易スピーカーから、クドウの声が響いた。
ジャックは、黒いマスティマが現れたことで、カッツォの思惑に気付き始めた。
「カッツォ! クドウも巻き込む気か?!」
「違うな。巻き込むつもりはない。クドウから誘いがあったのだよ」
「カッツォ様、あなたの望みがなんであれ、人を利用することだけは止めてください」
フィロにとって、カッツォは『守るべき人』の敵……『九想乱麻』からの『白虎神拳』を繰り出し、一撃必殺の拳がカッツォの胴部に深く叩き込まれた。抵抗に打ち勝ったカッツォは、受けたダメージをそのままカウンターとして発動し、フィロの胴部に杖が喰いこむように突き刺さった。『金剛不壊』によって辛うじてフィロの生命力は残っていたが、あまりのダメージを喰らい、戦闘不能になり、倒れ込んだ。
「貴様らが強くなればなるほど、私も強くなるのだよ」
そう告げた瞬間、カッツォは何者かの瞬間移動によって、その場から消え去っていた。
「なんてこった。クドウが関わってるなら、ヤバいことになりそうだぜェ」
シガレットは、地面に倒れているフィロに『ファーストエイド』の術式による『リザレクション』を施した。戦闘不能になっていたフィロが、目を覚ました。
●
黒いマスティマもまた、瞬間移動して、その場から姿を消した。
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が魔導スマートフォンで、近くにいたハンターと連絡を取り合っていた。
「報告してるの?」
カーミンの問いに、マクシミリアンを通信を切った後、こう告げた。
「……フィロが、三人の亡骸を気にしていたからな。本部まで、亡骸を運ぶことにする」
しばらくすると、魔導トラックが走ってくるのが見えた。
「スコット、呼び出してすまないな」
魔導トラックが停車すると、マクシミリアンが運転席にいるハンターに声をかけた。
「なんだかんだと、マクシミリアンには、いつも世話になってるからな。トラックの荷台にスペースがあるから……」
魔導トラックから、スコットが降りてきた。
これで、何度目だろうか。ハンターの遺体を運ぶのは。
スコットは、どこか哀しげだった。
シェーンの回復によって、フィロのペガサスはようやく立ち上がれるようになり、フィロの想いに応えるように、仲間たちに対して『エナジーレイン』を施していた。
「フィロさん、気持ちは分かるが、無茶はするなァ。俺が代わりにやるぜェ」
シガレットは、フィロの気持ちを汲んで、ハンターの亡骸を魔導トラックの荷台へと運んでいく。
マクシミリアンが二人目の亡骸を抱えると、ジャックがいてもたってもいられず、三人目の亡骸を丁寧に抱きかかえた。
「……マクシミリアン、すまねぇ」
「気にするな、ジャック」
依頼当初の連絡では、カッツォ・ヴォイが出現したことが主旨になっていた。
カッツォに殺されたハンターがいたことを知るには、現場まで来るまで分からないことだ。
それに逸早く気が付いたのは、フィロであったが、殺されたハンターたちを守るためにも、オート・パラディンを優先して倒すことは理にかなっていた。
いや、理屈ではない。ジャックが、心を痛めるのも無理はなかった。
オート・パラディンを全て倒したとしても、殺されたハンターが生き返ることはないからだ。
三人の亡骸を荷台に運び終えると、スコットが運転する魔導トラックが走り去っていった。
●
「さてと……これから、どうなるのかねェ」
シガレットが呟く。
「脚本家は……マコトと手を組んだのか?」
リーベは自問自答していた。
自分自身が選ぶ道には、クドウはいるのだろうか?
今は全てが無駄であったとしても、その全てが無駄ではないという裏腹な想い。
この現実は、意味と無意味の表裏一体なのかもしれない。
それでも、進むべき道は、自らの意思で決めたい……。
カーミンは、黒いマスティマを見た時、何故か躊躇っていた。
「マクシミリアン、黒のマスティマに乗っていたのは、クドウ・マコトよね?」
「ああ、間違いない。つい、この間も黒のマスティマと遭遇したからな」
どこか思いつめた様子のマクシミリアン……きっと、彼なりに思うところがあるのだろう。
時間は、進んでいく。
止まっている世界もある。
静止の狭間で、覚醒者たちは、何を想うのか?
いずれ、選択の時が来る。邪神を討伐するか、封印するか。それとも恭順するか。
その時、どの道を選ぶのか? 残酷な選択が、迫られていた。
カーミン・S・フィールズ(ka1559)が『千日紅』の残像で加速していく。
「忙しないわね。ナム、助かったわ」
カーミンに同行していたポロウのナム・フォウが先手を打つホーをしかけ、ハンターたちは先手を取ることができた。
「背中と情報は任せて、いってらっしゃい♪」
カーミンが前方へ移動し、ポロウのナム・フォウが『惑わすホー』の結界を展開させた。
ジャック・エルギン(ka1522)はイェジドのフォーコに騎乗して、敵陣に向かって駆け抜けていく。
「カーミン、相変わらず仕掛けるのが速いな。助かるぜ」
ジャックは、オート・パラディンに接近する前に、身捧の腕輪による『ソウルエッジ』を愛用のバスタードソード「アニマ・リベラ」に纏わせる。
「自動兵器の中央にいるのは、カッツォだな。ありゃー、本物だとは思うが……以前とは雰囲気が違う感じがするぜェ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)の指示により、刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心が、オート・パラディンたち目指して前進していく。シガレットは鉄心の後を追うように魔導ママチャリ「銀嶺」に乗り、ペダルを漕いで移動していた。
「何があったのでしょうか。……?!」
フィロ(ka6966)は気が付いてしまった。カッツォの後方に、三人の死体が無残にも倒れているのを。
「人を守るのが、私の務め……やるべきことをやるだけです」
地上を駆けるペガサスに騎乗したフィロは、カッツォを倒すことを優先していた。
戦わなければ……倒さなければ……フィロの脳裏に焼き付くのは、カッツォの今までの行い。
アリア(ka2394)は『アクセルオーバー』の残像を纏い、カッツォ目掛けてかけていく。
「リスティ、援護、頼むよ。カッツォには迂闊に接近しないようにね」
ユグディラのリスティは、弱者の本能で敵の動向を警戒しながら、アリアの後を追いかけていく。
リーベ・ヴァチン(ka7144)が騎乗するのは、飛翔の翼で飛行するペガサスのシェーンだ。
「カッツォ・ヴォイ……脚本家か。また会うことになろうとはな」
蘇える記憶……クドウ・マコトと再会した時、その手を遮ったのは、カッツォであった。
リーベは思わず、唇を噛みしめた。
カッツォが杖を掲げると、オート・パラディンたちは刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心に狙いを定めて、マテリアルレーザーを放った。敵の攻撃は全て命中し、鉄心は多大なダメージを受けていたが、シガレットにとっては想定内だった。
「鉄心、おまえは良いヤツだぜェ」
シガレットは『ファーストエイド』による『フルリカバリー』を発動させ、鉄心のダメージを回復させていく。
「フォーコ、まずはパラディン狙いだ!」
ジャックはフォーコに騎乗し、ソウルエッジのオーラを纏ったバスタードソード「アニマ・リベラ」によって『チャージング』を転化し、『薙ぎ払い』を駆使してパラディン2体に攻撃をしかけた。攻撃は命中し、かなりのダメージを与えていたが、パラディンたちはジャックの攻撃に耐えていた。
「あたしが援護するよ」
アリアは『マーキス・ソング』を詠唱し、リスティが演奏する『森の宴の狂詩曲』を上乗せした『アサルトディスタンス』で敵陣を駆け抜け、すれ違いざまに試作光斬刀「MURASAMEブレイド」で斬り付けると、ダメージを喰らったパラディン2体が爆発して消え去っていった。
「いたたっ、まあ、これくらいなら平気かな」
爆発に巻き込まれたが、アリアはすぐに体勢を取り直した。
「そう言えば、パラディンは消滅する時、爆発するんだったわね。この距離なら……」
カーミンは間合いを取り、蒼機銃「マトリカリア」を構え『胡蝶蘭』による弾丸を放った。ナム・フォウの惑わすホーによる効果が続いていたこともあり、パラディン一体に弾丸が命中してダメージを与えることができた。一気に残弾を消費するが、カーミンは素早く駆け抜け、ナムと隣接した。
フィロの騎乗するペガサスが飛翔の翼で飛行し、パラディンを飛び越えると、フィロはカッツォに接近して星神器「角力」で攻撃を繰り出した。
フィロの攻撃はカッツォに命中するが、フィロにとって予期せぬことが起こった。
カッツォのカウンターは、フィロの騎乗するペガサスに命中……多大なダメージを喰らったペガサスは体勢を崩し、フィロも地面へと落下してしまう。
フィロは着地に成功したが、ペガサスは地面に叩きつけられ、転がり落ちた。
「ククク、ペガサスを楯にするとはな」
カッツォが皮肉を込めて告げた。
「カッツォ様、相変わらず卑怯ですね」
フィロは自らを挺してカッツォのカウンターを受け止めるつもりでいたが、カッツォからの視点ではペガサスがフィロを守っているように見えたのか、先にペガサスを撃ち落とした方が得策と考えたのだろう。
「シェーン、仲間の回復を頼む」
後方で飛行していたペガサスのシェーンは、騎乗しているリーベの指示で『エナジーレイン』の癒しを施した。傷つき倒れたペガサスの傷を回復させ、フィロには守護の力を与える。
「まずは邪魔なパラディンを蹴散らすぜェ」
シガレットは『ストーンサークル』を展開し、『宝術:ククルカン』を解き放った。火属性の翼を持つ蛇の精霊が召喚され、パラディン2体を貫いていく。多大なダメージを与えていたが、パラディンの強化はGSではなかったのか、解除する効果は発生してなかった。
続いて、刻令ゴーレム「Gnome」の鉄心は、R.Oモード「マテリアルバースト」を発動させ、進行経路上にいたパラディン2体をマテリアル障壁で弾き飛ばしていく。さらに鉄心は大壁盾「庇護者の光翼」を構え、Cモード「wall」を発動させ、防壁を作り上げた。
「おっし、弾き飛ばされたパラディンは任せとけ」
フォーコが狼牙「イフティヤージュ」の『ウォークライ』でパラディンを威嚇し、ジャックはバスタードソード「アニマ・リベラ」による『チャージング』による『薙ぎ払い』を駆使して、確実にパラディンを仕留めていく。
多大なダメージを喰らったパラディンは爆発し消滅していくが、ジャックが騎乗するフォーコは『スティールステップ』で回避し、爆発から逃れることができた。
「やるな、フォーコ。間一髪だったな」
ジャックが首元を撫でると、フォーコは得意げな表情をしていた。
ナム・フォウが、カーミンの前に移動し、羽衣「パノプリア」を発動体とした『惑わすホー』を展開させた。ポロウに騎乗しなければ、それぞれ単独の行動ができるため、効率的だ。もし、カーミンがポロウに騎乗していれば、同じタイミングのスキルはどちらかしか使えないのだ。
カーミンは『千日紅』を発動させ、蒼機槍「ダチュラ」を構えて『胡蝶蘭』を駆使して投げ飛ばし、パラディンの回避と受けを低下させ(使用弾数は全て消費)、すかさず『オレアンダー』を纏った蒼機槍「ダチュラ」をリロードすると『サザンカ』の広角投射によってパラディンは多大なダメージを喰らい、爆発して消え去っていった。
蒼機槍「ダチュラ」を投擲武器として利用した見事な連続攻撃であった。
「毒が効く前に爆発したわね。ま、いいわ」
「カッツォ様、今日は脚本家でなく、主演男優のおつもりですか」
フィロは星神器「角力」の『鹿島の剣腕』を発動させ、カッツォに狙いを定めて『九想乱麻』からの『白虎神拳』と『鎧徹し』の連撃を繰り出す。攻撃は全てカッツォに命中し、多大なダメージを与えていたが、カッツォのカウンターが発動し、フィロの胴部を貫く。だが、シェーンが付与した衝撃緩和によって、フィロが受けたダメージは軽減され、『金剛不壊』によって体内を巡る気功へと転化していく。
「貴様は、私の一撃を喰らっても耐えるヤツだったな。覚えているぞ……フィロ」
カッツォは再び戦いの場に出ることができて、高揚としていた。
「まずいな。オート・パラディンの狙いは、フィロかもしれない」
後方で敵の動向を窺っていたリーベは、飛行するシェーンに騎乗したまま、刀「和泉兼重」を構えて『衝撃波』を放った。残りのパラディンに命中し、ダメージを与えることができたが、敵が消え去ることはなかった。だが、リーベが攻撃をしかけたことで、アリアは『アクセルオーバー』の残像を纏い、カッツォに話しかけることができた。
「主人であるはずの嫉妬王との戦いでは出てこなかったって聞いたけど、今まで何してたの?! あたしたちの知らないところで、誰かに倒されたのかと思ってたけど、生きてたんだね!」
「それを知ったところで、お前は何をする気だ? お前はいつも私を観察するばかりで、何がしたいのか、よく分からんな」
カッツォは、フィロと互いに睨み合ったまま、アリアの問いに応えた。
「それは……」
アリアは、カッツォを追い求めていた。
世界を守るため? 大切な仲間を守るため?
次第に、アリアの奥底で静かな闘争心が芽生え始めていた。
「そうやって人の弱みに付け込む……カッツォは油断ならないからなァ」
シガレットがフィロの行動を見越して、ストーンサークルを解除し、魔導ママチャリ「銀嶺」に乗って、フィロの近くまで移動すると、いつでも回復できるように体勢を整えていた。
オート・パラディンがシガレットを狙ってマテリアルブレードを繰り出すが、幻盾「ライトブロッカー」を構えて受け流していく。
ナム・フォウが『吹き消すホー』の幻影魔法をオート・パラディンに展開するが、効果はなかった。おそらく、オート・パラディンの強化はGSではないのだろう。
「残り一体のパラディンなら、これね」
カーミンは蒼機銃「マトリカリア」の弾丸をリロードすると『カランコエ』による制圧射撃を放ち、ダメージを与える代わりにパラディンが行動不能となった。
リーベが超々重鞘「リミット・オーバー」を発動体とした『刺突一閃』を発動させ、刀「和泉兼重」によって、行動不能になったオート・パラディンを貫いていく。多大なダメージを受けたパラディンは爆発して消滅していく。
「これで自動兵器は全て消えたな」
「カッツォ、後はお前だけだ!」
フォーコが狼牙「イフティヤージュ」による『ウォークライ』の咆哮で威嚇し、ジャックはソウルエッジの効果が続いたバスタードソード「アニマ・リベラ」を構えて『チャージング』による『薙ぎ払い』を放ち、さらに『リバースエッジ』を解き放った。重い一撃がカッツォの胴部に叩き込まれ、多大なダメージを与えることができたが、カッツォのカウンターが発動……フォーコは奇跡的に急所を免れ『スティールステップ』で回避し間合いを取ると、紙一重でジャックの『鎧受け』が発動し、攻撃を受ける直前に、カッツォのカウンターを受け流すことができた。
ほんのわずかな差であった。
「ほほう、ジャック・エルギン、久方振りだが、技に磨きがかかったようだな」
カッツォの口元が歪んだように見えた。
ジャックが、言い放つ。
「お前に言われることでもねーな。よく聞け、カッツォ! ラルヴァもクラーレも、ハンターたちに倒されたぜ。お前が強いことは認める。だがな、俺らハンターも強くなってんだ。お前に初めて会った頃の俺らじゃねえ。それとも、こんな状況になっても、まだ、お前には手立てが残ってんのかよ」
警戒するジャック……以前のカッツォならば、ここで怒りを顕にすることが多かったが、今のカッツオはやけに落ち着き払っていた。
それが、かえって不気味に感じられた。
「……貴様らがここに来た……ということは、まだ舞台はあるということだろう?」
カッツォの声は、どこか喜びに満ちていた。
フィロが、問いかける。まだ戦いは終わっていない。
「嫉妬の歪虚王の戦いに加わらず、次の歪虚王の座をお望みですか……以前、シュレディンガーと名乗る者と共に行動していたようですが……」
「王の座など興味はない……シュレディンガー……貴様ら覚醒者が殺した相手だったな」
ゆらりと……カッツォの殺気が揺らめく。
フィロは反射的に攻撃をしかけていた。鹿島の剣腕による『九想乱麻』からの『白虎神拳』と『鎧徹し』をカッツォに繰り出す。多大なダメージを与えることと引き換えに、カッツォのカウンターがフィロの胴部を貫くが、『金剛不壊』が発動したフィロは気迫で耐えていた。
「まだ倒れる訳にはいきません」
「フィロさん、思う存分、暴れてくれなァ」
シガレットが『ファーストエイド』のタイミングで、フィロに『フルリカバリー』を施し、生命力を回復させていく。
リーベの騎乗するペガサスのシェーンが『トリートメント』を発動させ、範囲内にいる仲間たちに治療促進を付与する。
「カッツォ、おまえの言う舞台とはなんだ? 悲劇の舞台でも作りたいのか?」
リーベにとっては、素朴な疑問でしかなかった。
カッツォはフィロの動向を警戒しつつ、愛用の杖を構えていた。
「シュレディンガーを亡き者にした、貴様らに相応しい舞台を作りたいだけなのだよ。そのためならば、私は自ら舞台に上がることも望む」
ジャックはバスタードソード「アニマ・リベラ」を構え、カッツォの動きに注意を払いながら叫んだ。
「まさかとは思うが、シュレディンガーのために、この世界を舞台に見立てて、何かするつもりか?!」
「ククク、できれば、今すぐ、貴様を殺したいところだが、それでは最高の舞台にはならない。これから、貴様らが自滅していく姿を見物するというのも面白いではないか。精々、足掻くがいい」
カッツォの言葉に、フィロは躊躇うこともなく、攻撃をしかけた。『九想乱麻』の構えからの『白虎神拳』を繰り出し、カッツォの胴部に命中……ダメージは与えたものの、カッツォは抵抗に打ち勝ち、カウンターを発動させ、フィロの腹部にステッキを貫く。だが、フィロは『金剛不壊』を発動させ、ダメージに耐えていた。
「カッツォ様……シュレディンガー様がいなくなって、お辛いのですか?」
「……貴様らがシュレディンガーを殺したことで、私は理解した。欲しいものは、自らの手で奪い取ること……ラルヴァ様が倒された時、私の心は震撼した……これが奪われるということを……つまり、貴様らがやっていることは、私の望みを叶えてくれるということを……感謝しているぞ。覚醒者たちよ……ククク」
カッツォが、右手で杖を掲げ、左指を鳴らした。
その時、カーミンは気が付いた。上空に、黒いマスティマがいるではないか。
「全く気配がなかったわ。いつのまに……?」
黒いマスティマに搭乗している人物のことを、カーミンは知っていた。
クドウ・マコトだ。
リーベにも、そのことは分かっていた。だからこそ、伝えたい想いがあった。
魔導拡声機「ナーハリヒト」を手に持ち、リーベはクドウに呼びかけた。
「マコト、飯は食ってるか? 寝てるか? 不規則な生活するな。弁当作ってきてなくて悪いな」
以前と変わらず、クドウと接するリーベ。
「お前に伝言がある。『クドウさんは強化人間だと聞いたが、きっと大切なモノを守るために、その道を選んだのだと、俺は思っているよ』……解釈は、好きにしていい」
黒いマスティマは、飛行したまま、様子を窺っているだけであった。
それでも、リーベはクドウと再会したら、自分の想いを伝えたかった。
「お前が誰かを救いたいと思っているなら、自分がしたいと思うことをしてくれ。私が嫉妬する位したいと思ったことを素直にしてくれるなら、私達と戦うことになろうと、私の救いになる」
叶うならば、今度こそ、クドウの手を離したくなかった。
だが、現実は、そうさせてくれなかった。それでも。
「マコト、死ぬのはお前が気にするからできないが、どんな道でも信じよう。お前の大切な家族と同じように、いつでも家族のように想ってるよ」
『……リーベ……もう、俺の家族はいないんだ』
黒いマスティマの簡易スピーカーから、クドウの声が響いた。
ジャックは、黒いマスティマが現れたことで、カッツォの思惑に気付き始めた。
「カッツォ! クドウも巻き込む気か?!」
「違うな。巻き込むつもりはない。クドウから誘いがあったのだよ」
「カッツォ様、あなたの望みがなんであれ、人を利用することだけは止めてください」
フィロにとって、カッツォは『守るべき人』の敵……『九想乱麻』からの『白虎神拳』を繰り出し、一撃必殺の拳がカッツォの胴部に深く叩き込まれた。抵抗に打ち勝ったカッツォは、受けたダメージをそのままカウンターとして発動し、フィロの胴部に杖が喰いこむように突き刺さった。『金剛不壊』によって辛うじてフィロの生命力は残っていたが、あまりのダメージを喰らい、戦闘不能になり、倒れ込んだ。
「貴様らが強くなればなるほど、私も強くなるのだよ」
そう告げた瞬間、カッツォは何者かの瞬間移動によって、その場から消え去っていた。
「なんてこった。クドウが関わってるなら、ヤバいことになりそうだぜェ」
シガレットは、地面に倒れているフィロに『ファーストエイド』の術式による『リザレクション』を施した。戦闘不能になっていたフィロが、目を覚ました。
●
黒いマスティマもまた、瞬間移動して、その場から姿を消した。
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が魔導スマートフォンで、近くにいたハンターと連絡を取り合っていた。
「報告してるの?」
カーミンの問いに、マクシミリアンを通信を切った後、こう告げた。
「……フィロが、三人の亡骸を気にしていたからな。本部まで、亡骸を運ぶことにする」
しばらくすると、魔導トラックが走ってくるのが見えた。
「スコット、呼び出してすまないな」
魔導トラックが停車すると、マクシミリアンが運転席にいるハンターに声をかけた。
「なんだかんだと、マクシミリアンには、いつも世話になってるからな。トラックの荷台にスペースがあるから……」
魔導トラックから、スコットが降りてきた。
これで、何度目だろうか。ハンターの遺体を運ぶのは。
スコットは、どこか哀しげだった。
シェーンの回復によって、フィロのペガサスはようやく立ち上がれるようになり、フィロの想いに応えるように、仲間たちに対して『エナジーレイン』を施していた。
「フィロさん、気持ちは分かるが、無茶はするなァ。俺が代わりにやるぜェ」
シガレットは、フィロの気持ちを汲んで、ハンターの亡骸を魔導トラックの荷台へと運んでいく。
マクシミリアンが二人目の亡骸を抱えると、ジャックがいてもたってもいられず、三人目の亡骸を丁寧に抱きかかえた。
「……マクシミリアン、すまねぇ」
「気にするな、ジャック」
依頼当初の連絡では、カッツォ・ヴォイが出現したことが主旨になっていた。
カッツォに殺されたハンターがいたことを知るには、現場まで来るまで分からないことだ。
それに逸早く気が付いたのは、フィロであったが、殺されたハンターたちを守るためにも、オート・パラディンを優先して倒すことは理にかなっていた。
いや、理屈ではない。ジャックが、心を痛めるのも無理はなかった。
オート・パラディンを全て倒したとしても、殺されたハンターが生き返ることはないからだ。
三人の亡骸を荷台に運び終えると、スコットが運転する魔導トラックが走り去っていった。
●
「さてと……これから、どうなるのかねェ」
シガレットが呟く。
「脚本家は……マコトと手を組んだのか?」
リーベは自問自答していた。
自分自身が選ぶ道には、クドウはいるのだろうか?
今は全てが無駄であったとしても、その全てが無駄ではないという裏腹な想い。
この現実は、意味と無意味の表裏一体なのかもしれない。
それでも、進むべき道は、自らの意思で決めたい……。
カーミンは、黒いマスティマを見た時、何故か躊躇っていた。
「マクシミリアン、黒のマスティマに乗っていたのは、クドウ・マコトよね?」
「ああ、間違いない。つい、この間も黒のマスティマと遭遇したからな」
どこか思いつめた様子のマクシミリアン……きっと、彼なりに思うところがあるのだろう。
時間は、進んでいく。
止まっている世界もある。
静止の狭間で、覚醒者たちは、何を想うのか?
いずれ、選択の時が来る。邪神を討伐するか、封印するか。それとも恭順するか。
その時、どの道を選ぶのか? 残酷な選択が、迫られていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/15 12:16:14 |
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相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/05/17 08:52:22 |