• 王戦

【王戦】王都第六城壁南門攻防戦

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
8~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/12 19:00
完成日
2019/05/19 20:51

みんなの思い出

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オープニング

 ダンテ率いる傲慢軍を王国軍とハンターたちが打ち破った── その報せがもたらされた時、王都の守りについていた兵たちは諸手を上げてその喜びを爆発させた。
「なんでぇ。歪虚も存外だらしの無ぇ。王都に来たらおいらのこの銃剣で串刺しにしてやろうと思ってたのに」
「グラズヘイム王国、万歳! システィーナ女王陛下、万歳! 王国の……俺たちの勝利だ! ざまあみろ、傲慢王め!」
 どよめきを通り越し、怒涛となって王都の大地を震わせる兵らの歓声── その熱情は勝利の歓喜であると同時に、戦わずに済んだ安堵も多分に含まれていた。
 なぜなら、王都の守りについた部隊の多くは、ダンテ軍討伐に出陣していった戦力などと比べて、練度や実戦経験の面で一段劣っていたからだ。
 王都防衛を担う王国近衛兵は、都市国家イルダーナの時代から連綿と続く由緒正しき部隊であったが、一般的には歴史と伝統と文化に彩られた、式典と観光(大聖堂の鐘の音と共に行われる各城門の衛兵交代式は旅行客にも人気だ)用の部隊と見做されていた。
 広大な王都を守る為に、王都の守兵には数多くの志願兵──一般臣民も含まれていた。GnomeやVolcanius等のゴーレム隊にも王立学校砲兵科の生徒たちが動員されている。
 だが、そんな彼らの眼前に──王都の空に傲慢王イヴの浮遊大陸がその姿を現した。兵らは潮が引く様に沈黙し、絶望に肩を落とした。
「あんなのに勝てるのか……?」
 南東から押し寄せてきた『王都を丸ごと半包囲できる規模』の敵──黒い絨毯の様に大地に広がる敵勢を城壁の上から見やって、兵たちが顔を蒼白にして呟いた。
「勝てる!」
 王城にいたはずの将の一人が最前線である第六城壁まで出張って来て、自信に満ち溢れた態度で将兵らにそう断言した。
「忘れたのか? 王国軍はたった今、既に一度、その傲慢の大軍を破ったばかりではないか。そのダンテの軍を破った王国騎士団と貴族連合軍、そしてハンターたちがすぐに救援に駆けつけて来る。我々はそれまで持ち堪えるだけでいい。彼らが戻って来るまで、この難攻不落の王都の城壁に拠って戦え! ハルトフォートを忘れるな! 今こそ王国と女王陛下に対する献身と義務を果たすのだ!」
 城壁の将の演説に、兵らは槍と拳と銃剣を突き上げて怒号の様な喊声を上げた。
 半ば以上は自棄であった。実際、今更、逃げる場所などどこにも無かった。

 兵たちは良く戦った。
 敵は異形の兵らと古代兵器『ブリキの兵隊』──身体能力も武装も上回るこれらの敵を相手に、王都守備隊は城壁から一歩も引かずに戦い続けた。
 城壁の内側に整列した弓兵たちとVolcanius隊が、城壁越しに敵へ矢と砲弾の雨を降らせ──その合間を縫うように城壁上の守兵たちが狭間胸壁から顔を出し、雲霞の如く押し寄せる敵勢にライフルによる一斉射撃を浴びせ掛けた。
 ……王都の守備隊は、主力部隊と比べてしまえば練度に劣るが、決して弱兵の群れではなかった。
 王国近衛兵は長らく式典用の部隊と見做されてきたが、黒大公ベリアルとメフィスト、二大歪虚の王都侵攻を機として、戦力の拡充が行われていた。かつての槍と金属鎧は最新式のライフル銃と胸甲に刷新され、槍剣だけでなく銃砲も扱えるように訓練された。
 ゴーレム隊は定期的にハルトフォートへ出向し、実戦経験を重ねながらその扱いに習熟していった。ちなみに、王立学園の砲兵科と言えば、この王国で最もゴーレムの扱いに慣れた者たちだ。学生だからと言って侮ってよいものではなかった。
 そして、志願兵たち──彼らは一般臣民ではあったが、その多くは従軍経験者であった。そして、従軍経験はない者たちも、実際に戦うことはなくとも、補給物資の仕分けや運搬、事務仕事、連絡係など、幾らでも出来ることがある。
 数に任せて押し寄せて来る敵勢が、矢の雨と砲弾の連華と銃撃の壁にバタバタ倒れていった。兵たちは考える間もなく目の前の敵を倒し続け……気が付けば、初日だけで七度、敵の突撃を破砕していた。
 夕日に染まる城壁の周囲で勝ち鬨を上げる兵士たち。
 ただ一人、城壁の将だけが無言で、まるで減った様子を見せない敵勢をジッと見つめていた。

 王都の攻防戦が始まって一日が経った。
 兵たちは良く戦った。が、倒しても、倒しても、押し寄せる敵勢が減ることは無かった。
 やがて異界の兵たちの死体で堀が埋まった。心無き敵勢は怯む事無くその死体を踏み越え、昼夜の別なく攻め立てて来た。
 城壁の下に展開したブリキの銃兵たちが城壁上へ間断なく射撃を浴びせる間に、城壁に取りついた異形の兵たちが直接、石壁を登り始め…… 城壁上の守兵たちは弾丸の雨に身を晒しながら、よじ登って来る敵兵に石や煮えたぎった油を落とし続ける。
 後方、第六・第五街区の野戦病院には後送された負傷者が溢れ、戦死者の死体袋が絶えず埋葬され続けていた。それでも、兵たちは高い士気を維持して戦い続けていた。千年の歴史を持つ王都と女王陛下を守るという使命感が彼らを強兵たらしめていた。
 だが、それもいずれ限界が訪れる。疲労が。彼我の戦力差が。或いは、抗う術もない兵器の登場によって。
「あれは……」
 城壁の上からかろうじて見える敵陣の後方に、巨大な古代兵器を見つけて、将が呻いた。
 それはハルトフォートで、別動隊との戦いで猛威を振るったという亀型の古代兵器──敵の砲兵隊だった。足が遅く、機動性は文字通りのどん亀ではあるが、その火力は単体でVolcanius一個小隊を上回る。
 その亀がVLS(垂直発射管)からクラスターミサイルを発射し、小型爆弾をばら撒いてVolcanius隊に陣地転換を強いた。そして、その間に主砲を城門へ向け……轟音と共に放たれた砲弾が城門を直撃した。
 ただの一発で、内部に鉄を仕込んだ門扉と鉄格子が吹き飛ばされた。亀の砲撃は続き、胸壁が、側防塔が、張り出し櫓が次々と打ち壊されていった。
 ……効力射が止んだ時、兵らはもうもうと舞い上がった粉塵の中に、戦友たちの呻き声と大破した城壁を見出した。そして、押し寄せて来る異形の兵の群れと──
「も、もうダメだ……!」
 拠るべき城壁を失って、兵たちは初めて怯んだ。
 士気の圧し折れた兵たちが壊走へと移る直前── その原因となった亀型砲台が次々と爆発し始めた。
「あれは……!」
 撃ち漏らされた塔の上で、将が敵陣後方を指差した。
 ──攻め寄せる敵の最後衛が味方に襲撃されていた。王国軍別動隊から急派された、ハンターたちのユニット部隊による攻撃だった。
「突撃! このまま城門まで楔を打ち込む!」
 『三人娘』隊、リーナ・アンベールの指示が飛び、亀砲隊を潰したCAM隊が敵陣へと分け入った。
 歓声を上げる兵たちに、将の命令が飛んだ。
「Gnomeを準備! 味方が来たら防壁の再構築に入る!」

リプレイ本文

 時を少し遡り、場面を王都の西、大河ティベリス河畔へ移す。
 ダンテ率いる傲慢軍を討ち破って歓喜に沸いた王国軍は、だが、すぐにイヴの浮遊大陸出現というまさに驚天動地の報せを受けて、喜びも束の間、慌ててその踵を返した。
 ハンターたちのCAM隊は救援の為に取り急ぎ先行し……何事もないまま、無事に王都へと辿り着いた。
 懸念していた街道の封鎖も、敵との遭遇も無かった。こちらを確実に捉えているはずの浮遊大陸も何ら動きを見せることなく、ただ泰然と王都を睥睨し続けるだけだった。
「何のリアクションもなし、か。……気に食わないな」
「これも『傲慢』であるが故かな? まあ、それならそれで、こちらもそれを最大限利用させてもらおう」
 R7エクスシア『清廉号』のコクピットで、まるで神話か冗談みたいな浮遊大陸を見上げて呟くロニ・カルディス(ka0551)に、地上を走るペガサスの背でフワ ハヤテ(ka0004)が答えた。
 ハンターたちは建設中の第七城壁を遮蔽物にして、第六城壁南門を攻めるイヴ軍の後方へと回り込み。第七城壁南門(これだけは既に完成していた)、或いは作りかけの城壁の陰から状況を確認する。
 王都を攻めるイヴ軍は、南門を中心に周囲を十重二重に囲んでいた。その数は数えるのも馬鹿らしい程だ。
「いやはや、嫌みなくらい贅沢な戦力だな。羨ましいよ、まったく……」
 微苦笑を浮かべてボヤいて見せる近衛 惣助(ka0510)。操縦主の動きに合わせて、彼の重装砲撃機『長光』(ダインスレイブ)も頭を振った。
「ああ、これは斬る相手に困らなそうです。良い戦場じゃあありませんか」
「好き勝手暴れられる戦場、ってか! よっしゃあ、目に映るモン片っ端からブッ飛ばしてやらあ!」
 気負いもなく、むしろ愉悦の笑みすら浮かべて、本気の本気で言ってのけるハンス・ラインフェルト(ka6750)とボルディア・コンフラムス(ka0796)。その自信に満ちた2人の様子に、大軍に心を呑まれかけていたパイロットたちの何人かが士気を上げる。
「……あの程度の敵勢、ミグ式グランドスラム製造機が量産された暁には物の数でもないのじゃが」
 こちらも至極真面目な声音と表情で呟くミグ・ロマイヤー(ka0665)。彼女が乗る『要塞機』、ダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』──その『弾薬工場』は更に生産数を増し、今や実に80回分。徹甲弾装填に10、精密射撃に20を割り振っても、グランドスラム50発分のおつりが来る上、更に、もみの木状の巨大誘導弾2発をその背にそそり立たせていたりする。
「これだけの敵を相手に、よくここまで…… 彼らの献身、無駄にするわけにはいけませんね」
 クリスティア・オルトワール(ka0131)の言葉に、パイロットたちはそれぞれ頷いた。そう。あれだけの大軍が相手にも拘らず、南門はまだ落ちていなかった。王女を、故国を守る為──ここで自分たちが稼ぐ砂時計の一粒一粒が、王国の明日に繋がると信じて必死に戦い続けている……
 だが、それでも逃れられぬ危機はある。ドォン……! と戦場に鳴り響く重い砲声、立ち昇る真っ黒な砲煙──それは敵陣最後方に到着した亀型古代兵器が巨砲を発射した徴だった。
「城門が……!」
 南門の門扉が粉々に砕け散る様を見て、ディーナ・フェルミ(ka5843)は思わずルクシュヴァリエの中で腰を浮かせかけた。崩れ落ちていく城門の石組みを見て拳を握る。いったい何人の守兵があそこに詰めていたことか……!
 ハンターたちは即座の介入を決意した。あの亀型がいる限り、王国軍に勝利はない。
 シガレット=ウナギパイ(ka2884)が『三人娘』隊に声を掛けた。その『凶悪』な見た目からは程遠い、珍しくも殊勝な態度で。
「……貴様たちは最初の突撃から全力で行け。全ての弾薬と技を使い切る勢いで」
「そんなことをすれば、その後、まともに戦えなくなっちゃうけど……?」
「構わねェ。その分、他の連中の疲労と消耗が減れば、以降の戦いで帳尻は合う。……その代わり、城壁に着いたら兵たちの救命活動に専念してくれ」
 そう言うと、シガレットは自身が持つ回復役を「役立ててくれ」と手渡した。
 彼は大切な人との約束を守る為、悲劇を繰り返させない為に聖導士になった。……だが、ここ(戦場)では余りにも容易く人が死ぬ。

 ハンターたちのユニット隊が第七城壁の隙間から王都へ侵入した。攻囲中のイヴ軍、その後背を目指し、第七城壁から第六城壁へ向け、南門へと続く大街道を一直線に駆け始める。
 前方に展開した敵軍は王都攻撃に前のめり──背後から近づくハンターたちには気づく様子はない。

 敵の最後衛に位置していた異界の兵が、ふと気づいて空を見上げた。
 第六城壁南門へ向けて、大空を舞い、駆けていくハヤテのペガサスと天馬隊── その余りにも堂々とした飛びっぷりに、それが敵であると言うことに遅れて気付いたその兵が警報を発した直後。背後からミグが放った貫通徹甲弾が砲撃体勢を取った亀型の背部を直撃し、その装甲をぶち抜いて内部で誘爆。瞬く間に巨大な火柱を噴き上げて、砲塔を天高く舞い上げた。
「砲撃機隊、斉射三連!」
 惣助の号令の下、砲列を展開して一時停止した砲撃機たちが、敵砲兵隊に向かって一斉射撃を浴びせ掛けた。背後からの不意打ちに、旋回中に次々と被弾、爆散していく亀型たち。飛び散った破片が周囲の兵らを薙ぎ払い、折れて跳ね飛んだ亀砲の砲身が宙を回転しながらその頭上へ降り落ちる。
 亀型は全て破壊され、ハンターたちは城壁の脅威となる存在の排除を完了した。だが、彼らのの突撃は終わらない。
「南門へ! 味方が壁の破損個所の応急修理を終えるまで、周囲から敵を駆逐しやがるです!」
「守備隊のみんな…… 今、ざくろと『グランソード』が行く……!
 亀型の残骸を踏み越えて、砲撃機隊の前に出るシレークス(ka0752)の『エクスハラティオ』、時音 ざくろ(ka1250)の『魔動冒険王グランソード』らルクシュヴァリエ隊。黒いそれに搭乗したサクラ・エルフリード(ka2598)が横列に展開するよう指示を出す。
 その中央に位置したざくろ機が振り被った『勇者の剣』──そこから溢れ出した光が奔流となって刃を形成する。
「……一刀両断、スーパーリヒトカイザー! この輝きよ、光の道になれえぇぇ!」
 バンクシーンを一部省略して振り下ろされた巨大な光刃が、大地ごと異界の兵らを真一文字に斬り裂いた。
 直後、ボルディアの「吶喊!」という号令と共に、彼女率いる歩兵隊が敵陣へと飛び込んでいった。振りかざした巨大な魔斧を豪快に振り回し、敵兵を纏めて斬り飛ばしながら前進していくボルディアたち。それを前景に、腰溜めに発進体勢を取ったルクシュヴァリエ隊が、得物に魔法紋を浮かべながらその身にオーラの如きマテリアル障壁を纏いつつ……直後、一斉に大地を蹴って、弾丸の様に前へと飛び出して行った。
「敵陣を切り開くならば私達の得意とする所ですね…… 勢いそのままに戦場を切り裂きましょう……」
 まるで短距離走者の様に大街道を駆け抜けながら、展開したマテリアル障壁によって異界の兵らを文字通り『蹴散らして』いくサクラらルクシュヴァリエ隊。まるでモップでも掛けるように敵兵らを『スイープ』していく様を見やり、惣助は呆れた様に笑った。
「なんだありゃ。突撃支援射撃なんていらないじゃないか」
「まぁ、弾の節約になって良い」
 ミグと惣助は自身を含む砲撃機隊に前進の指示を出した。攻撃はせず、全力で──ルクシュヴァリエ隊が切り開いた『道』をドシン、ドシンと一心不乱に駆け始める。
「交戦はなるべく避けろ。全力で走れ。城門への到達が最優先だ!」
 自ら機を先頭に立たせ、ルクシュヴァリエ隊を追って全力で走り始める惣助機。砲撃機隊の護衛についたハンスは、乗機であるR7をその惣助機の前に出し、敵陣を切り裂いていくルクシュヴァリエ隊の背をカメラで捉え、呟いた。
「全力で走ってもアレには置いていかれますか……おっと」
 その視界の端。前方進路上に進入して来た『ブリキの銃兵』たちに気付いて、ハンスは迎撃の為に機速を上げた。同じく砲撃機隊前衛の守りについていたロニ機と共に、前進しつつ得物を構える。
 迫る二体の巨人に対して機械的に淡々と銃撃を浴びせて来るブリキの横列。盾で急所を守りながらその只中へ突っ込んでいったロニ機とハンス機が、手にした得物を振るってそれらを瞬く間に斬り払い、砲撃機隊の進路を確保する。
 そうして再び機速を落として砲撃機隊の直掩に戻るハンス。一方、何かに気付いた様子のロニ機は落とし掛けた速度を再び上げて、「敵襲!」との叫びと共に左へ大きく進路を変えた。
 ルクシュヴァリエ隊の突撃によって一度は駆逐された異界の兵たちが、後続して来る砲撃機隊に気付き、その前進を阻むべく再び大街道上へ戻り始めていた。ロニはその動きに即応し、自隊と共にそれを押し留めるべく戦闘に入ったのだ。
「流石にそう簡単に通してはくれませんか」
 護衛の一騎として鷲獅子『ガスティ』の背に乗り、地上を随行していたクリスティアが、相棒の耳にそっと口を寄せて空へと上がるよう指示を出した。
 駈足をそのまま滑走として空へと舞い上がる鷲獅子。その背から眼下を見下ろし、クリスティアは「なるほど」と呟いた。……空から敵勢の動きを見れば良く分かる。敵は感情があるとは言えない相手。人間の兵らと比べれば、やはり立ち直りはずっと早い。
 その見下ろす視界の中、針路上に敵が侵入する。既に気付いていたハンス隊が先行し、排除するべく交戦に入った。
 いなくなったロニとハンスに代わって、横からディーナ隊が砲撃機隊の前に出た。そして、気づいた。前方、ハンス機が通過した後の街道脇の建物の屋根の上に、よじ登って来た異界兵たちの姿に。
「させないの!」
 乗機であるルクシュヴァリエを全力で前に出すディーナ。異界の兵らが投擲して来た投げ槍を装甲に当たるに任せつつ、敵兵が乗った建物の前に立ちはだかって『セイクリッドフラッシュ』の光を発し、敵兵のみを吹き飛ばす。更にカメラの視界の端、道を挟んだ反対側の屋根の上にも、ブリキの銃兵の姿を認め、ディーナは機を振り向かせながら手にした十字の鎚を真横に振り抜き、屋根上の敵を掃い落とす。
 護衛機たちの活躍により、砲撃機隊の前進速度は落ちなかった。だが、敵の数は否が応でも増し、側背からも圧し迫る。
 灰色の飛竜『グラウ』を駆るシガレットは空から敵の動線を確認すると、敵が街道上に入り込む前にその頭上へ突進し、『ブリガトリオ』の闇刃を放って拘束し、対処した。
 砲撃機隊の後ろの守りについていたクリスティアもその全体を観察しながら、背後から追い縋って来る敵に向けて空から重力塊を降り落とし、地面へと押し付けた。
 シガレットもクリスティアもわざわざトドメを刺す事はしなかった。……敵は地上に星を撒いた程にいる。今は一体でも多く邪魔する敵の足を止め、砲撃機隊の移動が妨害されないようにするだけでいい。


 その頃、敵の銃火の届かぬ高みを一直線に駆け抜けたハヤテの天馬隊は、既に南門の近くにまで到達していた。
 上空から眼下を見下ろすと、南門付近の城壁は敵の亀の砲撃によりよって見るも無残な状態になっていた。被弾した箇所は既に原形を留めず、瓦礫の山と化しており、それを挟んで王国兵と敵歩兵らが激しい戦いを繰り広げている。
「まずはあれをなんとかしないと……」
 ハヤテは天馬の背の上で魔導書を手に取ると、呪文の詠唱と共に自身のマテリアルを練り上げた。囁き、念じ、詠唱し、また繰り返し……通常よりも時間を掛けて練り上げたマテリアルを更に収束。臨界点を越えた魔力を燃え盛る三つの火球として自身の頭上に顕現させる。
 『メテオスウォーム』──より高い魔力と集中力を必要とする高難度の攻撃呪文。その高密度の魔力の塊が流星と化して第六城壁南門(だったもの)の周囲へ高速で降り注いだ。三つの爆発が立て続けに地上で巻き起こり、噴き上げられた土砂と敵兵が千切れて大きく空へと舞った。
 城壁の守兵たちの間を風が駆け抜けていった後……目を開けた守兵らが見たものは、先程まで敵兵らが押し寄せていた地面に空いた大きな三つのクレーターだけだった。ハヤテはその戦果を確認して「一先ずこんなものかな?」と呟くと、地上の王国軍へ向けて、無線をオープンチャンネルで呼び掛けた。
「こちらはハンターズソサエティのユニット隊だよ。救援に駆けつけて来たよ。すぐに王国軍も戻って来る。それまで頑張って」
 そう呼びかけて、暫し……地上で爆発した兵らの歓声が、天馬隊がいる所にまで響いてきた。
「よく来てくれた……!」
 通信兵から受話器を受け取った南門の将も感謝の言葉を口にした。
 地上のルクシュヴァリエ隊も到着した。『不退の駆』の連続使用で敵陣を切り裂きながら、城門前へと走り込む。
「そこ退けそこ退け、守護者が通るっ! 我らが道、阻むべからずでやがります!!」
 敵を蹴散らして突っ込んで来たシレークス機が、足底を滑らせながら城門前で急停止した。そして、そのままざくろ機と背中合わせの形からそれぞれ東西へと向きを変えると、同じタイミング、同じ動作で、魔法紋を浮かべた得物を真横に振るい、南門の左右の敵兵たちを広い範囲で纏めて薙ぎ払った。
「ここは、てめぇらの家じゃねえ。帰れっ!!」
 機外スピーカーでイヴ軍に啖呵を切るシレークス。爆発を背景に見栄を切るざくろ機と併せ、その勇姿に守兵たちが一際大きな声を上げる。
「皆さんの士気を上げることは重要です。でも、まだ終わっていませんよ……」
 その2人に後続し、地道に、地味に敵を駆逐して来たサクラが2人に呼び掛けた。
「確かに……! 城壁周りの敵を素早く片付ければ、それだけ早く皆も城壁の再建に取り掛かれるもんね!」
 流石はサクラ、と感心しながら、ざくろは機を走らせた。そして、再び光の刃を振るって、敵陣を縦横無尽に切り刻み始めた。
 対して、シレークスは一つ息を吐くと、その場で周囲を見渡した。
 カメラ越しに映る光景は、黒煙立ち昇る戦場の景色── そこに彼女が見慣れた第七街区、ドゥブレー地区の面影は既に無い。
(ああ……)
 シレークスは嘆息した。同じく地区に縁のあるサクラが友人の想いを感じて呟いた。
「また燃えてしまいましたね……」
「そうでやがりますね。でも……あの連中はきっと、また立て直しますよ。何度でも……」
 その為にも、歪虚どもに王都をくれてやるわけにはいかない── シレークスの言葉にサクラは頷き、その肩をポンと叩いた。……CAMだと大きさが色々と同じで良いです。背伸びをしなくても良いですし……
 戦場に戻るサクラ機を追いながら、シレークスは心に誓った。
(シスターマリアンヌ、ドニ、シスターたちに、一家の野郎共…… 貴方たちの帰るべき場所、帰らなければならない場所は、必ず護ってみせやがります……!)

 追い縋る敵を蹴散らしながら、砲撃機隊が無事に南門へと到達する。それを確認したハヤテは天馬隊に対して散開の指示を出した。
「皆は全軍の目となり、空から敵の動向を確認して。情報はすぐに共有すること。気付いたことがあったらまず報告を」
 指示しつつ、ハヤテ自身は地上へ──王都南門の内側へと下り立った。そして、下馬して愛馬の首をポンポン叩くと、南門の将の所に行って、防衛線の現状を訊ねた。
「敵の砲撃により南門が破壊された。死傷者多数」
 現状はひどいものだった。南門へと辿り着いたロニが一息吐きながら城壁の惨状を確認し、だが、それでも力強く言う。
「城壁はやられたが、幸い、中までは押し入られていない。まだ十分に、態勢は立て直せる」
 城壁の中の将もハヤテに言った。兵らに聞こえるように高らかと。
「だが、亀の砲兵たちは君たちが潰してくれた。城壁付近の敵も君らが駆逐しつつある。これよりGnome隊を繰り出し、城壁の崩れた部分に壁を築く。再び敵に攻め来られても、そこに拠って戦えるように」
 ロニと南門の将、互いの会話は聞こえない。だが、その意気が通じたようにロニも言う。
「であれば、修復作業を早期に開始できるよう、城壁近くの敵から優先的に排除し、安全圏を確保する」
「了解した。では皆で合わせつつ、戦線を押し上げよう」
 ハンスがロニの言葉に応え、共に逆撃へと転じる。
 サクラは城壁に沿う様に進出して行き、城壁を攻める異界の兵、城壁に取りついた異形の兵らを『セイクリッドフラッシュ』の光で駆逐していった。特に破損個所から侵入しようとする敵は機鎌で丁寧に薙いでいった。その様は自主菜園の手入れをする様にも似ていた。
「確かにこれも害虫駆除みたいなものでしょうが…… あ、そこ。聖なる光に灼かれなさい」
 そのサクラ機の後に後続しながら、シレークスは機のナックル「ディガーラント」──モグラの爪状の武器を使って、ドブ浚い──もとい、堀を埋め尽くした敵の死骸を浚って外へと放り投げた。「ったく、ゴミをこんなに残しやがって……!」と悪態を吐きつつ作業をする様は、どこか三角布が似合いそうな──即ち、所帯じみても見える(何
 その間も、シガレットは回復役としてユニット隊の全員に連絡を取り、機体や幻獣が受けた傷の度合いを忙しく確認した。
 その結果、各人『急所』等に細かく被弾した者はあったものの、『フルリカバリー』を使う程の損傷を負った者は皆無だった。幸先が良い、とシガレットは呟いた。この長丁場、継戦能力はとても大事だ。回復はそれを劇的に伸ばしてくれる。

 城壁の外に出て来たGnomeが修復作業を開始した。
 崩れた箇所の前面に土の壁を築いて応急の処置と為し、崩れた瓦礫を回収する。
「慌てないでください! まだ生きている人がいるかもしれません。息さえあれば、私が治してみせますから……! 慎重、かつ大胆に、ですよ!」
 ディーナの隊は修復作業に入ったゴーレム隊の護衛に付き、半数を守り手、残り半数を瓦礫の撤去作業の手伝いに充てた。ディーナ自身は三人娘隊と共に、CAMを重機代わりに救出作業に従事した。
 瓦礫には、城壁の崩落時に多数の将兵が巻き込まれていた。瓦礫の下に最初の犠牲者を見つけた時には心がズシリと重くなった。だが、戦場には感傷に囚われている暇は無く、ディーナは迅速かつ丁寧に遺体を瓦礫の下へと下ろした。
 被害者は、生きている者の方がずっと少なかった。生存者を見つけた時には素直な笑顔を輝かせ、エクラの祈りと回復の光で確実にその命を取り留めた。
「病院へ……!」
 ディーナ機が下ろした負傷者を、志願兵と思しき若者たちが担架で運んでいった。
 撤去作業を終えた箇所から、Gnome隊が応急防壁の築城作業に入った。ディーナは休む間もなく、他の破損箇所へと向かって機を走らせた。

 城壁の修理に当たるGnomeには、他より作業効率の良い機体もあった。第七城壁の建築現場で作業に従事していた機体だ。第七街区に貸与されていたもので、刻令術が城壁建築に最適化されている。
 工兵たちの中にも、第七街区で城壁建築に携わっていた者が多くいた。彼らは第二の故郷となった王都を守る為、自分たちに出来ることをする為に志願していた。
 シレークスは『掃除』の済んだ堀にGnomeの一隊を呼び寄せると、損傷個所の前に空堀を掘らせ、更にその土を使って防御用の土塁を築かせ始めた。

「さあ、第六城壁の修理完了まで時間を稼ぐぞ! 勝敗を決するのは火力だという事を教えてやろうじゃないか!」
 惣助は砲撃機隊に声を掛けて南の戦線へと押し出していった。
 ミグは僚機に特殊砲弾の使用を控えさせ、通常弾頭による砲撃を命じた。自身もここは『グランドスラム』の使用を5発までに制限した。いや、5発と言えども普通だったら大した数ではあるのだけども。
 上空の援護には、クリスティアの鷲獅子隊が付いた。編隊を組んで頭上を通過していったクリスティアたちが、砲兵(グランドスラムの破壊力を見た敵からすれば、こちらにとっての亀砲と同じく、最優先撃破対象だ)に気付いて突撃して来た敵に対し、空中から攻撃を仕掛けて追い散らす。
 地上の護衛機にはサクラが付いた。それを見た惣助は「大丈夫か……?」と問い掛けた。……いや、戦力的に不安だったとかいう訳ではない。全力の突破戦から今の今まで、サクラが休みを取ることもなく走り回り、戦い続けていたことを知っており、その疲労を心配したからだ。
「大丈夫です。まだいけます…… 不退の駆、使い切ったわけではありませんから…… 城壁の補修が終わるまでは、一体たりとも奥へは向かわせませんよ……」
 サクラは機体にカンフル剤(何の?)の如く自身のマテリアルを注入すると、再びマテリアルの障壁を纏って、砲兵機隊の前、鷲獅子隊の下の戦場に向かって突撃して行った。
「マジかよ、全機、あの無茶娘を援護しろ!」
 足を止めた砲撃機隊が、惣助の指示に従ってサクラ機の行く手に支援の砲火を浴びせかけた。


 彼我の最前線に近い位置まで前進して来たクリスティアが、『ファイアーボール』の最大射程に高度を合わせて敵の上空へと侵入し、直下の敵集団に対して爆裂火球を降り落とした。
 密集した敵の只中で1発、2発と爆発の華が咲く。敵が投擲した反撃の投げ槍は、だが、彼女の元まで届かない。最初に投下した火球は最大射程を延伸した特別製だ。
 ブリキの銃兵らの対空射撃を掻い潜りながら、クリスティアはガスティに旋回させつつ高度を下げさせると、最も威力の高い爆裂火球を1発、銃兵たちの只中へと落とした。そうして敵を撃ち減らした後、最も通常型に近い火球を1つ、トドメに落とし、更に高度を下げつつ空からリボルバーで1体1体狙い撃っていった。
 最後は火球と銃弾を温存し、地表近くを飛び抜けながらガスティの鳥爪で切り裂いた。
 敵の一隊を片付け終えて、鷲獅子隊の仲間たちに無線で集合を呼びかけ、空へと戻る。
 集まった味方を見て、一騎の損失を確認して肩を落とすクリスティア。
 余程のことでは動じないそのクリスティアの表情が、眼下の『地平線』を見て一瞬、強張った。
 ……南門の周辺から大きく押し返された敵集団に、その後方から続々と、別の敵集団──恐らくはここの東西の城壁を攻めている部隊だろう──から派遣された増援が合流し始めていた。

「合流した敵増援は重装甲の突進型魔獣『角竜』および高い近接戦闘能力を誇る『肉食竜』(レックス)、共に多数──いずれも戦略機動性の高い先遣隊で、主力である異界兵や銃兵もいずれ後続して来るものと思われる」
「CAM大の人型古代兵器も複数隊、確認した。武装は見える限りでは巨大な剣。他は不明。恐らくはCAMに匹敵する戦闘力を持っているものと思われる」
 戦場上空の各地に散ったハヤテの天馬隊が、次々と情報を送って来た。
 同様の情報は、クリスティアの鷲獅子隊とシガレットの飛竜隊とからも上がって来ていた。
 彼らは判断せざるを得なかった。──いよいよ、敵が態勢を整え始め、反転攻勢に移ろうとしている、と……
 そして、地上のハンターたちは更なる激戦を覚悟した。
 防壁の再構築は、ようやく6割に達しようかといったところだった。

「小隊各機、派手にやろうぜ。砲兵が戦場の女神と呼ばれる所以、教えてやろう」
 王都第七街区における上水道整備の為、南北に掘られた巨大な運河── 惣助を初めとする砲撃機隊は、それを塹壕代わりにして機を籠らせていた。
 惣助機が籠る西側と反対側の東側の運河に機をハルダウンさせたミグ隊も、肩から上だけを『塹壕』の外に出し、二門の長大な滑腔砲を外側へと向けていた。

 ……やがて、運河脇の公園へ、街の瓦礫を乗り越えて異界の兵らが侵入して来た。ブリキの銃兵らはその後ろ。味方を盾にする形だ。
 それらの情報は、上空の情報支援隊──単眼鏡で地上を見下ろすシガレットとハヤテたちが報せて来た。惣助やミグは砲撃機隊らとそれらの情報の共有を徹底した。

 ……敵が射程に入るまで、ジリジリとした時間が過ぎる。
 ある者は顎へと滴った汗を袖で拭い、またある者は乾き切った唇を渇いた舌で舐めた。
 ……敵が事前に設定していたラインを越えた。その事実をハヤテとシガレットからそれぞれ報告を受けた惣助とミグは、まるで溜め込んだマグマを吐き出すように、砲撃機隊の仲間たちに発砲の指示を出した。
「全機、兵器使用自由! 砲撃開始! とっておきをくれてやれ!」
「出し惜しみはなしじゃ。吹っ飛ばせ!」
 運河の塹壕に籠った砲撃機の砲列が、迫る異界の兵らへ向けて、これまで温存して来た徹甲榴弾を一斉に釣瓶撃ちにした。
 砲撃機隊の激しい攻撃に、敵の前衛が瞬く間にその数を減らしていった。上空からの情報を基に、敵後衛の銃兵たちにも砲弾の雨を降り注がせた。ミグは『グランドスラム』を撃ち放ちながら、合間にもみの木型大型ミサイルを撃ち放ち、巨大なクリスマスツリー型の爆煙を立ち昇らせて、守兵らを大いに沸かせた。
「ボルディア、行ったぞ!」
 上空のシガレットが、敵の動きを確認して地上の味方に伝えた。
 ボルディアは他の歩兵隊と共に、第七街区の商店街──その目抜き通りにバリゲードを築き、防衛線を構築していた。 
 ボルディアはシガレットに警報の礼を言うと、自ら最前線に立って通りの先を見渡した。
 やがて、街区の道から溢れんばかりに多数の異界の兵らが前方から押し寄せて来た。ボルディアは地面に衝き下ろした魔斧を持ち上げることもなくその突進を待ち構え……
「やれ」
 その一言の直後、ボルディアたちが街中に仕掛けておいたVolcaniusの炸裂弾(※注:本来の使い方ではありません)が一斉に起爆した。
 砲弾と建物の破片が道の左右両脇から敵兵らを薙ぎ払い、同時にその上に崩れ落ちて敵の進撃路を封鎖する。
 その瓦礫を乗り越えて来る敵に対して、ようやく魔斧を肩へと持ち上げたボルディアが逆にこちらから突っ込んで行き、大暴れ。そのまま暫し瓦礫の上で敵を追い払い続け……ブリキの銃兵の一斉射撃を機に、瓦礫をぴょんと飛び降り、後退。そのまま敵を引き連れつつ一ブロック路地を退き……キルゾーンに引きずり込んだところで建物の二階に伏せておいた歩兵隊の銃手らに合図を出し、その狙撃と十字砲火で多くの敵兵を薙ぎ払わせた。

 戦闘は続く。苛烈な砲火の中、甚大な被害を出しながら、だが、怒涛と化して押し寄せる敵歩兵の攻勢の波は留まるところをしらなかった。
(まさかこちらの弾が尽きるまで続けるつもりではなかろうな……?)
 徹甲榴弾の予備弾倉をサブアームで準備しつつ、もう一門の砲に貫通徹甲弾を装填し、惣助は真正面の敵へ向かって直接照準で発砲した。直撃を受けた異界兵らが消し飛び、その後ろに続く兵らも諸共に敵陣を一直線に吹き飛した。
「Kysyaaaa……!」
 戦場に、聞いたことの無いような奇声が鳴り響いた。同時に、これまでただひたすらに突っ込んで来ただけの歩兵らの陣の中に、広い『道』が開かれた。
 その『道』を通って、恐竜型の魔獣『角竜』が地響きと共に吶喊して来た。遂に敵の『大型兵器』が戦場に到達したのだ。
「ここからが本番ですね……いきますよ、ガスティ」
 眼下の魔獣たち──角竜、そして、後続する肉食竜らを見下ろしながら、クリスティアは機先を制するべく上空より敵の頭上へ侵入した。そして、ありったけの範囲攻撃──爆裂火球と竜巻を、全てここで使き切る勢いで直下に投射した。
「砲身が焼け付くまで撃ち捲れ!」
 惣助隊も徹甲榴弾、貫通徹甲弾を惜しみなく敵の鼻面に叩きつけた。分厚い表皮に幾つもの穴を穿たれ、しかし、それでも突進を止めない角竜たち。惣助はガトリング砲による制圧射撃の弾幕でその全身を無理矢理に押し留めると、味方の火砲を集中させて一体一体屠らせた。至近にまで迫って力尽きた角竜が倒れ、突進の勢いもそのままに惣助機の眼前まで地面の上を滑って来る……
「近衛さん!」
 上空、クリスティアの警告が惣助の耳朶を打った。次の瞬間、倒れた角竜の陰に隠れるように近づいて来た肉食竜が、角竜の死骸を踏み越えて惣助機に飛び掛かって来た。
「しまっ……!」
 最小射程の内側に入り込まれた。鋼鉄をも噛み千切る肉食竜の鋭い刃と口腔がモニタいっぱいに広がり……直後、横合いから何かに体当たりをかまされ、モニタ正面から横へと吹き飛んだ。
 横倒しに倒れた肉食竜へ踏み込み、追撃を掛けるR7。それは砲撃機隊の護衛についていたハンスの機体だった。鋭く踏み込んで袈裟斬りに振り下ろされた斬艦刀を起き上がりに重ねられ、三度四度と斬撃を受けて、肉食竜が力無く倒れる。
「すまん、助かった!」
 惣助は礼を言いながら、そのハンスの支援に入った。一体を倒したハンス機の背後に素早く迫る別の肉食竜──その不意打ちの牙を振り返って大太刀で受け逸らすハンス機。そのまま円を描く様に反撃に出たところへ惣助機が敵の横腹にガトリング砲弾の連打を浴びせ、体勢が崩れたところをハンスの白刃が肉食竜の首を跳ねた。

 だが、他の個所では、惣助とハンスたちほど上手く立ち回れない者もいた。
 同様の攻撃で、魔獣たちが砲撃機隊の防衛線の一部を喰い破った。
 CAMに体当たりをかましながら、ただひたすらに走り抜ける角竜たち。倒れた砲撃機に肉食竜と歩兵たちが群がり、『急所』から次々と『解体』されていく……
 閃光が走り、この日二度目の流星が戦場の空を切り裂いた。防衛線に空いた穴へ群がろうとしていた後続の兵たちが、地上に咲いた爆発の華に纏めて吹き飛ばされた。天馬隊の警報を受け、駆けつけて来たハヤテが冷静にマテリアルを練り上げて落とした爆撃だった。
 そこへ低空進入してきた鷲獅子隊が、砲撃機に群がる敵に向かって近接航空支援を開始した。気付いて頭を上げた肉食竜の頭部に、クリスティアの指示を受けたガスティが幻獣砲を発射。直撃を受けた肉食竜が悲鳴の叫びと共に地面へと倒れ伏せ。他の敵兵たちも鷲獅子隊の銃撃によって駆逐された。
「ハヤテより天馬隊の全騎。防衛線に空いた穴の手当てをするよ。僕の所に……うん、そう、メテオの落ちた所に集まって」
 ハヤテはそう連絡を入れると、近くにいた天馬と共に低空進入。防衛線の上で旋回しながら、地上に『サンクチュアリ』──光の結界を張り、その場からの敵の進入を阻んだ。
 その間に、大破した砲撃機から操縦手が脱出を果たし、クリスティアによって救助された。失われた砲撃機に代わってハンス隊がその場の守りに入り、破られかけた防衛線の再構築が果たされた。
 突破した角竜たちは袋のネズミとなったが、まるで構わずただひたすらに南門へと向かって走った。
 それを迎え撃ったのは、修復現場の直掩についていたロニ隊、そしてディーナ隊だった。
「俺たちが最終防衛線だ。修復作業が邪魔されないよう、彼らの安全を確保する!」
「踏ん張るの! Gnome隊の作業が終わるまでは、私たちで何とかするの!」
 地響きと土煙を上げて突っ込んで来る角竜たちに、ロニが砲撃開始の指示を出した。清廉号が腰溜めに構えた「プリマーヤ」から放たれるビームキャノン。ロニのR7隊もまた温存していたマテリアル兵器を一斉に撃ち放ち、壁の中のVolcanius隊も迫る角竜隊に向かって突撃破砕射撃を開始した。
 だが、角竜は止まらない。敵陣の突破──まるでそれだけに特化したとでもいうように、分厚い表皮にフリルの防盾、そして、ただ一点のみを貫く硬い角を振りかざし、撃たれても撃たれても、仲間が力尽き倒れても、ただひたすらに走り続ける。
 その様を目の当たりにしたロニは隊に抜刀を命じた。自身もハルバードを構え、早めに敵の足を止めるべく逆突撃の指示を出した。
 マテリアルライフルの一斉射── 後、壁から距離を取った地点で両者が正面から激突する。
 突進の速度と自重が仇となって、頭蓋を貫かれて倒れる角竜。突進を阻むべく真正面から角竜を受け止め、盾ごと左腕の関節部をおしゃかにされる『三人娘』隊、パウリーネのMk.V(!)── 直後、ディーナは回復の光を飛ばして、損傷機のマテリアル関係の機関を再起動。その最低限の機能を回復させた。そして、自身に突っ込んで来た角竜の突進はまともに受けず、その頸を横から腕でガッと掴みながら、聖なる光を放射しながら横へとうっちゃり、倒れたところでその腹をマテリアルを込めた星神器でガシガシ殴りつけた。
 敵の7割の足が止まった。残る3割はハンターたちの必死の守りを突破した。
 直後、横合いから振り下ろされた2本の『光の刃』が、突破した敵の群れを両断するように切り裂いた。
 それは、敵の突破を知って前線から駆け戻って来たざくろとサクラが放った『光あれ』の閃光だった。
「少しでも多くの人たちの命を守る…… 城壁を抜かせるわけには絶対、いかない!」
 ありったけの光の刃がみじん切りの如く乱打され、角竜たちの隊列を文字通り切り刻んだ。堀の復旧作業を続けていたシレークスもそこへ加わり、槍から発したマテリアルの横薙ぎで以って角竜たちの横っ面を纏めて張り倒し、エクラの聖句が宙を舞った。
 ロニとディーナもルクシュヴァリエ隊に呼応し、挟撃、そして包囲するように態勢を移行した。
 ……足の止まった角竜の突破力は大きく減じた。ハンターたちは比較的防御の薄い側面や背面から角竜たちを打ち崩していき……やがて、防衛線の内側に入り込んだ角竜たちを打ち破った。


 激戦は続く。
 再び膠着状態に陥った戦況は、『巨人型』──人型古代兵器の到着によって、再び均衡を崩された。

 まるで巨○兵の如く横列に並び、その口から一斉に高威力の怪光線を放ってくる巨人型。その一斉射撃に、地上の砲撃機たちは『塹壕』の底に身を隠した。
 這うように下から前へと伸び上がった光線が、大地にミミズが這った後の様に赤熱した跡を残した。全身を水路の陰に隠すのが間に合わず、滑腔砲の砲身を焼き切られた機体もあった。
「突入だ。怪光線の狙いを地上から引き剥がせ」
 シガレットを初めとする飛行幻獣隊が支援の為に航空攻撃を敢行した。急降下しながら機械仕掛けの巨人に火炎の息を浴びせ掛けていく飛竜隊。シガレットはそのまま敵の頭上をフライパスさせながら、眼下に向けて闇の刃を放ってその進撃を遅らせようとした。
 反撃の怪光線が、空を舞う各隊にも放たれた。宙を貫き、切り裂く刃に、避け切れなかった飛行幻獣たちが次々と高度を落としていった。
 クロスティアは回避したが、僚騎が被弾し、負傷した。
 ハヤテは戦場を飛び回って負傷者たちを回復していった。そして、無線で城壁の修復状況について訊ねた。
「現状で9割といったところだ。防御設備としての質を上げようとするなら、更にもう少し時間が掛かるが……」
 その報告に、ハンターたちはそれぞれ口調は違えど「やったろうじゃないか」と呟いた。
「後退する。戦線を縮小し、その分、火力と防衛線力を密にする」
 ミグの指示に従い、ハンターたちは徐々に戦線を北へと下げていった。敵が嵩になって攻めかかって来ぬよう、各所で局所的な反撃を交えながら、全体としては遅滞戦闘──時間稼ぎに徹することにした。

 まるで操縦者と一体になったような動きで迎撃の銃火を躱し、敵へと肉薄していったサクラ機が、敵の足下へクルリと回して差し入れた魔鎌で巨人型の足を払った。
 倒れ伏したその敵へ向け、瞬間的に魔剣を巨大化させたざくろ機が、「超・重・機・剣……断空唐竹割り!」と得物を振るって、その頭部をカチ割り、叩き潰す。
「……もう少し、もう少しだけ耐えてくれ、グランソード。お前の一撃一撃が、僅かずつだけど皆の希望を作るんだ」
 汗を袖で拭いつつ、ざくろが愛機へ──その実、自分へと激励の声を掛ける。
 サクラとシレークスらと共に、ざくろは戦場を駆けて巨人型から優先的に狩って回った。こいつを放置しておけば、例え城壁を修復したとしても苦戦は免れ得ないからだ。

 ユニット隊の仲間たちの多くが戦闘不能に陥った。損耗率は3割を超え、一部は5割に近いものもあった。通常の軍隊だったら全滅とか壊滅とかの判定を下されるほどのダメージだ。
 味方がやられる度に戦線を縮小させ続けたハンターたちは、最終的には南門近くに固まって最後の防衛線を形成していた。
 城門近くまで達した巨人型がに対しては、ディーナ機が『幻糸の柱』を用いて立ち塞がり、視線と射線と移動を妨害する空間結界法術で門を隠して守った。
 該当の機体はすぐにVolcanius隊が砲撃を集中し、ハンターたちと連携して撃破した。

 天魔の背の上で周囲の空間へ浮かべたマテリアル結晶を回転させて、宝術の立体魔法陣を展開したハヤテが、『宝術:ネプチューン』を眼前に迫った敵勢へ目掛けて発動した。
 顕現した人魚の精霊が、螺旋状に渦巻く水流でもって擱座した味方機の周囲を巡り、そこへ近づいていた敵を纏めて戦線の向こうへ押し流す。擱座機が最後の力を振り絞ってその流された敵へ銃火を浴びせ……それを最後に沈黙した機体から操縦手が脱出する。
「ペガサス3よりペガサス1。東より接近中の敵の地上部隊を認む。南門攻略中の敵に対する増援部隊と思われる。その規模は極めて大」
 天馬隊の僚騎からの報告に、ハヤテは最後の飛翔の翼を使って空へと上がった。
 同様の報告は、西の空を飛ぶ鷲獅子隊からも上がっていた。ガスティの背で銃と幻獣砲に装填しながら、クリスティアは思わず「ハ……」と笑った。上空から見渡す限りの敵勢──それはまるで森が押し寄せて来るように見えた。
「敵増援は歩兵のみ。魔獣と古代兵器の類は無し。……但し、分厚い敵陣の後方に、亀型砲台の姿を確認した」
 偵察騎の続報に、操縦手の多くが絶望的な顔をした。
 R7の操縦席で、ハンスだけは愉悦の笑みを浮かべていた。
(……ああ、やっと出てきましたか。残機があるなら、ここで粘っていれば繰り出して来ると思っていたのですよ……実に、実に喜ばしい……ッ!)
 ハヤテは南門へ戻ると、将に壁の修復状況を訊ねた。
 既に最低限の修復は完了した、と将は答えた。できればもう少し弄りたかったが、と付け加えるのも忘れずに。
「さて、敵の大規模な増援部隊が迫っている……離脱するには、もうギリギリのタイミングだと思うけど」
 ハヤテの言葉に、シレークスとサクラは二人で話し合って、このまま残って防衛隊に加わることを決め、それを皆に伝えた。
「色々と思い入れのある場所ですしね…… 私たちは防衛に回りましょう」
「ミグも残ろう。足の速い連中の離脱に随行しようとしても、ダインスレイヴは足手纏いになるだけじゃ。残って離脱を援護するとしよう」
 サクラが残ると聞いて、ざくろは心配そうに彼女を見た。だが、彼が共に残らぬのには理由があった。
(新手の亀型への対応には、遊撃戦力は必要でしょうから……)
(砲撃機が複数存在し、敵の後背を衝くことが出来るフリーハンドの砲撃機──その価値はかなり大きい)
 クリスティアと惣助は自隊を引き連れてこの場を離れることにした。惣助や他の砲撃機隊には、グランドスラム製造装置を持つミグとは違って、もうすぐ弾薬が底をつくという事情もあった。
「今は退くのも作戦の内。まだ諦めた訳ではありませんし、諦めるつもりもありません」
 クリスティアの言葉に、ハンターたちは頷き合った。そして、彼女は機体を失った操縦手たちを引き受けると、離脱組が集合した大街道へと歩を進めた。鷲獅子隊も、飛竜も天馬も、既に飛ぶことが出来ず、全騎が地上に下りていた。ボルディアら歩兵隊もそれに続いた。これからは長距離走で第七城壁まで走り抜けることになる。
 その中で、ハンスはロニにそっと話し掛けた。内容は「増援として現れた『亀』に対応しなくて良いのか?」というものだった。
「せっかく直した城壁です。アレを倒せばまだ十分保つでしょうから……行き掛けの駄賃、ということでどうですか?」
「逆に言えば、亀が残っていれば十分保たないということになるな。……よし、可能であれば離脱のついでに撃破を試みよう」
 ロニはそう決断すると、生残した自隊の皆にその事を伝えた。そして、付いて来るかは各自の判断に任せる、と──

「Volcanius隊には退路となる大街道の周囲に煙幕の展張をお願いするよ。進路上だけに煙幕を張ると狙い撃ちにされるかもしれないから、こちらの位置がバレないよう広く、深く……できれば、囮のルート上にも展開してくれると助かるかな」
 ハヤテの指示を了承し、Volcanius隊が一斉に砲撃支援を開始した。まずは大街道の周辺、南側の敵に対する炸裂弾の効力射。後、煙幕弾を張り渡して退路を敵の目から隠した。
「急げ急げ! 俺たちは貴重な砲戦力だ! こんな所で撃破されたら、友軍からどやされるぞ!」
 サクラたち残存機の支援を受けながら、敵陣突破の為に先頭に立った味方に続いて遮二無二走り出す惣助ら砲撃機隊。先頭に立ったディーナは、機に魔法紋を展開させるとそれを右手の十字鎚に付与。「わああぁぁ……!」と可愛い雄叫びを上げながら、それまでずっと温存して来た『光あれ』の光刃を大街道上の敵に向かって振り下ろし、斬撃の楔を打ち込んだ。
 そのまま肉食竜らを格闘戦に持ち込み、肉食竜らを道の脇に押し退ける。代わりに先頭に立ったざくろ機は満身創痍でなお敵を蹴散らし、後続する味方の退路を開拓し続ける。
「……! 退路が……!」
 そのざくろの行く手、前方の大街道が、左右から押し寄せて来た敵増援に今にも塞がれようとした。
 ハヤテは単騎、天馬を駆けさせてそのざくろ機の前に出ると、魔導書型の星神器「キタブ・アル・アジフ」を掲げて開き、その力を解放した。
 瞬間、魔導書の闇を封じる『死者の掟』の理が奔流と化して魔導書の外へと溢れ出し、前方の一点を中心に封印術が展開された。その効果範囲にいた異界の兵らは行動の自由と力を奪われ、まるで時が止められたかの様に、動くことも出来ずにその場に立ち尽くすこととなった。
 その間を、ざくろが先頭に立って突破した。動けなくなった敵はボルディアら歩兵隊が次いでに追撃防止に倒していった。砲撃機隊が土煙と共に駆け抜け……最後に、肉食竜と絡み合う様に雪崩れ込んで来たディーナ機が、止めを刺すと同時にフライトシステムに点火し、追い縋る敵を地上に残してそのまま空へと離脱した。

 ……その間、ロニとハンスは土煙と建物の陰に紛れてひっそりと隊列を離脱し、運河の『塹壕』の中に隠れた。……敵の追撃隊は離脱組を追うことに意識を奪われ、隠れた彼らには気付かなかった。
 ロニ隊とハンス隊の面々は、機体の損傷が激しかった一部を除いて全員がついて来た。そして、なぜかその中にシガレットと飛竜隊も含まれていた。
「俺も行こう…… 地上の地形は上空から見て覚えた」
 そう言うとシガレットは運河の塹壕の底に身を潜めながら北上を始めた。


 離脱組が無事、第七城壁を越えるのを城壁の上から確認して、兵らに歓喜の声が湧いた。同時に、行ってしまったという寂しさにも似た気持ちも押し寄せて来た。
 王都第六城壁南門を孤立無援で守り続けて来て、味方の来援がこれほど頼もしかったことは無かった。だが、それも今は再び王都の外へと去ってしまった。……そして、城壁の外には変わらず、いや、先程以上の敵の大群がひしめいている。
「……さあ、第六城壁の修復は成りました。後はこれを守り切るだけです。……エクラの修道女たる私が『ドブ浚い』までしやがったのです。これで負けるなんて許しませんヨ?(にっこり」
 シレークスの冗談口(冗談?)に、守兵たちが笑った。南門崩壊のピンチを一転、乗り越えて、兵らの士気は低くはない。
「……おや?」
 味方機と共に城壁の中へと戻り、防壁を封鎖するよう告げようとして。サクラはその時、南門の外に残った機体を見つけて、信じられぬという風に目を見開いた。
 ミグのダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』──それは離脱組と共に走ることも、サクラ機とシレークス機に続いて城壁内に入ることもせず、ただ1機、南門の先の戦場に残っていた。
「人生、三尺玉よ」
 敵陣の奥に鎮座する『亀』の方を見やりながら、壮絶な笑みを浮かべたミグが呟いた。
「時代を作るのは老人ではない。盛大な花火を打ち上げ、手向けとしようぞ」
 南門を射程に捉えるべく前進して来る亀砲を、南門の前方に留まったままのミグ機の主砲が射程に捉えた。
 瞬間、轟く砲声と共に放たれる『グランドスラム』── 初弾が敵砲列最奥の亀を捉え、傍らのもう一台諸共にその爆発に巻き込んだ。
 敵が目標を南門からミグ機に変える間にもう1発。敵が発砲する間に更に1発。撃ち放った砲弾は敵東側の亀砲全てを巻き込み、その全てを破壊した。
 同時にミグ機へ降り注ぐ敵東側最後の一斉砲撃──立て続けに振り落ちて来た砲弾がミグ機を直撃した。右腕が肩から粉々に砕け、ツインタワーの1本もその只中で折れ飛んだ。
 それでもミグ機は機を西へと向け直し、健在な砲で亀を撃とうとした。だが、その前に降り落ちて来た西亀の砲弾の爆発がミグ機を包み込んだ。

 運河の『塹壕』を這い進んで来たロニ、ハンス、シガレットの3隊も、亀砲が砲撃を開始した時点で突撃を開始していた。
 ハンス機を先頭に、市街地の建物と瓦礫を遮蔽物にして敵へと突き進む一行。状況は完全に奇襲であった。敵もまさかこんな所にハンターが潜んでいたとは思ってもみない。
 最後の遮蔽物の陰からハンス隊とロニ隊が飛び出した。同時に、ロニ機が『ブラストハイロゥ』を縦に展開。敵の射線と視線を阻む。
 シガレットは最後に取っておいたグラウの飛翔の翼を使って低空を舞い上がった。残した力の全てを使って加速し、亀砲の頭上を飛び抜けながら火炎の息を連打した。
 続けて突撃していったロニ隊とハンス隊が銃撃を浴びせつつ亀砲に肉薄。格闘武器の一撃によって全てを撃破し、排除した。
 敵兵らはすぐに行動を開始した。亀砲を撃破して離脱に移った攻撃隊を取り囲みに掛かったのだ。
 生き残りの肉食竜たちが攻撃隊の退路へ先回りし、その進路を斜めに交差させるように襲い掛かり。その間に押し寄せた異界の兵らが雲霞の如く襲い掛かる。3人はマテリアルの防壁でダメージを軽減しつつ、自身と互いを回復しながら、足を止めることなく南へ走る。
 銃兵の一斉射撃に『急所』の関節部を破壊されたCAMの1機が、転倒し、擱座した。慌ててそちらに戻って擱座機の傍に膝をつくロニ機。その前面に飛び込んで来たハンス機が円舞を舞う様に敵陣へと飛び込み、縦横無尽に白刃を振るって、擱座機に纏わり付こうとしていた異界兵らを斬り払った。上空を旋回しつつ火炎の息を撒くシガレット。ロニは脱出して来たパイロットを手の上に乗せると、『インジェクション』で復活させた『リロードキャスト』でマテリアルを叩き込み、加熱した銃身を酷使するように『マテリアルライフル』を放って敵兵を薙ぎ払う。
「止まるな、走れ!」
 地上の各機に広域回復の光を振り撒きながら、シガレットが叫ぶ。
 ……激しくも短い逃避行の最中、仲間たちは1機、また1機と破壊され、擱座していった。助けることが出来た者もいれば、助けられなかった者もいた。
 かくして、最後はロニ機とハンス機だけが残った。シガレットは最後の『フルリカバリー』を使い切ると、先に高度を上げて銃兵の射程外へと退避していた。
「ここまでだな……」
 ロニとハンスはそう呟くと、同時にフライトシステムを使用し、地を蹴って空へと舞い上がった。そして、一気に第七城壁を越えると、使い果たしたフライトシステムをパージして地面へ降り立った。
 そこに惣助機とざくろ機が待っていた。彼らは攻撃隊に追い縋る敵へ銃砲を撃ちまくって牽制すると、攻撃隊の面々と共に、先行していった離脱班へ追い付くべくその場を後にした。
 最後に、ざくろは背を振り返って王都の方を見た。
「……何かあったら、必ず駆けつけるから……!」
 そう誓って、再び走り出した。

 ………………
 …………
 ……

 第六城壁南門、正面──
 西側の亀砲らが放った効力射により舞い上がった砂塵が薄れていき……その帳の向こうに、浮かび上がる、影。それはミグの『要塞機』ヤクト・バウ・PCだった。
 既にその名の由来となった二つの滑空砲は折れ、頭部も腕部も砕かれた。……が、その機体はまだ生きていた。沈黙は、していない。
「……なんてことだ」
 火花と砲身冷却用の水が舞い散る操縦席で、ミグがポツリと呟いた。
「機体が余りに頑丈過ぎて、生き残ってしまったじゃないか」

 南門から飛び出して来たシレークス機とサクラ機が、ミグ機を両脇から抱え、敵が殺到して来る前に城壁の内側へと帰還した。

 城壁の修復は成った。脅威となる敵も全て排除した。
 王国兵は戦い続ける。この城壁に拠り、彼らの女王と王国を守り切るその日まで。

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MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイka2884
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルトka6750

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ペガサス
    ペガサス(ka0004unit004
    ユニット|幻獣
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ガスティ
    ガスティ(ka0131unit002
    ユニット|幻獣
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ナガミツ
    長光(ka0510unit004
    ユニット|CAM
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    セイレンゴウ
    清廉号(ka0551unit003
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    エクスハラティオ
    エクスハラティオ(ka0752unit006
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウボウケンオウグランソード
    魔動冒険王『グランソード』(ka1250unit008
    ユニット|CAM
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka2598unit008
    ユニット|CAM
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    グラウ(ka2884unit004
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka5843unit007
    ユニット|CAM
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka6750unit005
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
フワ ハヤテ(ka0004
エルフ|26才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/05/12 18:57:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/09 08:22:02