ゲスト
(ka0000)
【幻想】青黒の残滓
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/16 07:30
- 完成日
- 2019/05/23 06:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今、辺境の大地はとても騒がしく思える。
しかし、騒がしいときがあれば静かなときもあった。
この騒がしさを越えたとき、何があるのだろうか……とファリフは思う。
先日、一つの騒ぎが終わった。
そこには安堵と不安がファリフの胸の中に残る。
先日、盗賊団『タットル』の捕縛と歪虚アクベンスの討伐に向かったファリフは休む間もなく、要塞都市管理官ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の招集を受けた。
「大丈夫かい? ファリフちゃん」
要塞都市管理補佐官のアルフェッカがファリフに尋ねる。
「ボクも人間だからね、疲れているよ。でも、アルフェッカさんもでしょ?」
アルフェッカは指揮官としてファリフと共に赴き、かなり疲弊していたが、ヴェルナーの不在の中、本来の仕事をしなくてはならない。
「でも、シェダルさんのお茶を飲んでから行くよ」
そう言ったファリフにアルフェッカは「戦いの前に火傷しないように」と笑う。
「ボクはもう、無理しないよ」
ぴたりと足を止めてファリフが告げる。
「漸く人類が纏まっているんだ。誰一人として欠けてはいけない」
「そうだね。まぁ、今は欠けているよね」
現在意識不明の某族長の顔を二人は心の中で思い出す。
「アルフェッカさんはあの時より前からずっとタットルをお姉さんを追ってたんだよね」
「そうだね」
ぽつり、とファリフが呟く。
「要塞都市に来た時、どうしたらいいのかわからなかった。要塞都市の中には辺境も帝国もあって……でも、人が殺されるんだって、頭が真っ白だった」
「彼の辺境戦士、シバの死は誰にでも影響はあっただろう。けど、辺境の死の概念って、肉体に拘らず、死しても魂は共に在るから悲しまない……じゃないっけ?」
首を傾げるアルフェッカの知識も曖昧なので、ファリフは「そんな感じ」で片づける。
「カペラさんもフォニケさんも大事な人が死んだら、泣いたっていいじゃないって、言ってたんだ。いいんだって思ったら気が楽になって……行く時にアルフェッカさんが情報教えてくれたでしょ? 何で教えてくれたんだろう、帝国の、ヴェルナーの側近なのにって」
「答えは見つかった?」
くすっと笑うアルフェッカは何だか意地が悪そうに見えるが、秀麗な美貌と相まって似合っていた。
「アルフェッカさん個人はタットルと歪虚が手を組んでいるのではないかって目測を付けていたんじゃない? あまりにも表に出てないから。もし、そんなことがあれば帝国だ辺境だって言ってる場合じゃなくなる。人類が一丸とならないと人間側の崩壊がおきて歪虚にやられる」
「気付いたのは、テトちゃんとビスの話の件から」
ファリフに言われて恥ずかしくなったのか、顔を背けるアルフェッカ。
「でもさ、前にも言ったかもしれないけど、人間もドワーフも帝国も辺境もなく、一つどころに居れる場所っていいなって思うよ」
「だろ? 作るものもいい物作ってるんだよ」
「知ってる」
二人は笑い合う。
「無理しないようにね」
「テトとは違うところを見せないとね」
現在、部族なき部族のテトはタットルの次点アケルナルに胸を突かれて重傷。
メンバーからは「言われなければ分からないのかあの猫は!」と怒られていた。
「まぁ、あれは仕方ないかな」
「アルフェッカさん、女の人に甘いからどうにかした方がいいよ」
ズバリと言うファリフに言われたくないとアルフェッカは心の中で叫んだ。
●
マギア砦に向かったファリフは錚々たる様子に気を引き締められる。
ファリフに告げられたのは、遊軍と仮定した多数の黒狼がマギア砦から離れたところで確認されたので、それらの討伐。
「青髭の分体ってことだね……ちょっと偵察に行ってくるね」
部族戦士の制止の声を聞かずにファリフはトリシュヴァーナと共に出て行った。
「ファリフ……何か心ここにあらずという感じだな」
荒野を駆けるトリシュヴァーナがファリフに声をかけた。
「嘘はつきたくないから、当たりだよ。でも、変だよねぇ」
「何がだ」
「ボクは成長したのかなぁって」
ファリフは初夏になりかける青い空を見上げる。
「まぁ、年はとったな」
しれっと告げるトリシュヴァーナにファリフは頬を膨らませる。
「ファリフよ。知らぬことは恐ろしい、故に覚悟が出来ない」
静かに告げるトリシュヴァーナの言葉をファリフはじっと耳を傾けて聞く。
「確証がないことも怖いよね」
「そうだ。だが、それはお前が決める話ではない」
項垂れるファリフは「うん」とだけ返す。
砦のはずれに出ると、黒い影が見えてきた。
「あれが分体かな……」
このまま進んで行けば、岩場での戦闘になるだろう。
平面の足場が少なく、積み重なった岩が山のようになってまばらな階段のようにも見える。
問題は持久力。遊軍とはいえ、数があまりにも多いのだ。
だが、歪虚は倒すべき存在。
ファリフはトリシュヴァーナに乗ってマギア砦に戻って行った。
しかし、騒がしいときがあれば静かなときもあった。
この騒がしさを越えたとき、何があるのだろうか……とファリフは思う。
先日、一つの騒ぎが終わった。
そこには安堵と不安がファリフの胸の中に残る。
先日、盗賊団『タットル』の捕縛と歪虚アクベンスの討伐に向かったファリフは休む間もなく、要塞都市管理官ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の招集を受けた。
「大丈夫かい? ファリフちゃん」
要塞都市管理補佐官のアルフェッカがファリフに尋ねる。
「ボクも人間だからね、疲れているよ。でも、アルフェッカさんもでしょ?」
アルフェッカは指揮官としてファリフと共に赴き、かなり疲弊していたが、ヴェルナーの不在の中、本来の仕事をしなくてはならない。
「でも、シェダルさんのお茶を飲んでから行くよ」
そう言ったファリフにアルフェッカは「戦いの前に火傷しないように」と笑う。
「ボクはもう、無理しないよ」
ぴたりと足を止めてファリフが告げる。
「漸く人類が纏まっているんだ。誰一人として欠けてはいけない」
「そうだね。まぁ、今は欠けているよね」
現在意識不明の某族長の顔を二人は心の中で思い出す。
「アルフェッカさんはあの時より前からずっとタットルをお姉さんを追ってたんだよね」
「そうだね」
ぽつり、とファリフが呟く。
「要塞都市に来た時、どうしたらいいのかわからなかった。要塞都市の中には辺境も帝国もあって……でも、人が殺されるんだって、頭が真っ白だった」
「彼の辺境戦士、シバの死は誰にでも影響はあっただろう。けど、辺境の死の概念って、肉体に拘らず、死しても魂は共に在るから悲しまない……じゃないっけ?」
首を傾げるアルフェッカの知識も曖昧なので、ファリフは「そんな感じ」で片づける。
「カペラさんもフォニケさんも大事な人が死んだら、泣いたっていいじゃないって、言ってたんだ。いいんだって思ったら気が楽になって……行く時にアルフェッカさんが情報教えてくれたでしょ? 何で教えてくれたんだろう、帝国の、ヴェルナーの側近なのにって」
「答えは見つかった?」
くすっと笑うアルフェッカは何だか意地が悪そうに見えるが、秀麗な美貌と相まって似合っていた。
「アルフェッカさん個人はタットルと歪虚が手を組んでいるのではないかって目測を付けていたんじゃない? あまりにも表に出てないから。もし、そんなことがあれば帝国だ辺境だって言ってる場合じゃなくなる。人類が一丸とならないと人間側の崩壊がおきて歪虚にやられる」
「気付いたのは、テトちゃんとビスの話の件から」
ファリフに言われて恥ずかしくなったのか、顔を背けるアルフェッカ。
「でもさ、前にも言ったかもしれないけど、人間もドワーフも帝国も辺境もなく、一つどころに居れる場所っていいなって思うよ」
「だろ? 作るものもいい物作ってるんだよ」
「知ってる」
二人は笑い合う。
「無理しないようにね」
「テトとは違うところを見せないとね」
現在、部族なき部族のテトはタットルの次点アケルナルに胸を突かれて重傷。
メンバーからは「言われなければ分からないのかあの猫は!」と怒られていた。
「まぁ、あれは仕方ないかな」
「アルフェッカさん、女の人に甘いからどうにかした方がいいよ」
ズバリと言うファリフに言われたくないとアルフェッカは心の中で叫んだ。
●
マギア砦に向かったファリフは錚々たる様子に気を引き締められる。
ファリフに告げられたのは、遊軍と仮定した多数の黒狼がマギア砦から離れたところで確認されたので、それらの討伐。
「青髭の分体ってことだね……ちょっと偵察に行ってくるね」
部族戦士の制止の声を聞かずにファリフはトリシュヴァーナと共に出て行った。
「ファリフ……何か心ここにあらずという感じだな」
荒野を駆けるトリシュヴァーナがファリフに声をかけた。
「嘘はつきたくないから、当たりだよ。でも、変だよねぇ」
「何がだ」
「ボクは成長したのかなぁって」
ファリフは初夏になりかける青い空を見上げる。
「まぁ、年はとったな」
しれっと告げるトリシュヴァーナにファリフは頬を膨らませる。
「ファリフよ。知らぬことは恐ろしい、故に覚悟が出来ない」
静かに告げるトリシュヴァーナの言葉をファリフはじっと耳を傾けて聞く。
「確証がないことも怖いよね」
「そうだ。だが、それはお前が決める話ではない」
項垂れるファリフは「うん」とだけ返す。
砦のはずれに出ると、黒い影が見えてきた。
「あれが分体かな……」
このまま進んで行けば、岩場での戦闘になるだろう。
平面の足場が少なく、積み重なった岩が山のようになってまばらな階段のようにも見える。
問題は持久力。遊軍とはいえ、数があまりにも多いのだ。
だが、歪虚は倒すべき存在。
ファリフはトリシュヴァーナに乗ってマギア砦に戻って行った。
リプレイ本文
夏になる前のまだ乾いた風に緩いウェーブの髪を遊ばれているのはルナ・レンフィールド(ka1565)。
その横を歩くユリアン(ka1664)の視線はこれから向かってくるだろう敵が進む方向にある。
今から向かう場所は赤き大地を覆い喰らわんとする黒い狼の群れ。
その黒狼の起源は一人の人間の想いの果て……とハンター達は知っていた。
「まるで、死の概念みたいですね」
透明なユメリア(ka7010)の声は荒野の風に押されず、乗せるかのように柔らかく響くとルナは感じる。
「肉体は滅びても、魂は不滅で、共にいるから恐れることはない」
だが、彼の男はこの大地に何をしてきたのか……知らぬ者はいない。
運命を捻じ曲げた『もの』は理解も出来ずに求め、この地に憎悪を吐き捨て、のた打ち回っているようにも見える。
今や青髭と呼称された存在が求めるものは。
「……まだ、オーロラさんを探しているのですね」
憐憫ともつかぬ感情を抱くのはエステル・ソル(ka3983)だ。
終わらせなくてはならない。
それはこの地を守る皆の想いと感じているユリアンは目を細める。
黒狼と激突する場所すらもこれで終わりではないという事を示唆しているようで、感覚を揺さぶられてしまうような錯覚に陥りそうだ。
先を急ぎたい、安心したいと思うのは人の性。
今は一つ、一つを乗り越え、生きて乗り越えなくてはならない。
ディーナ・フェルミ(ka5843)が見つめるのはファリフだ。
そういえば、前にアフンルパルの外で歪虚と戦う前も神妙な顔をしていたような気がする。
けど、今はそれとは違うような様子。
「ファリフちゃん、あげるの」
渡したのは手持ちおやつのキャンディ。
「この間もお外で待っていた時、元気がなさそうな顔をしてたの」
心配そうにディーナにファリフは無自覚のようだった。
「甘い物は脳に別腹なの、黒狼退治が終わったら相談しましょうなの」
笑いかけるディーナはファリフの手の中にあるおやつのキャンディを一つ頬張る。
つられてファリフもキャンディを頬張ると、甘さで頭の中の意識が変わる気がした。
「ありがとう」
気遣いにファリフはキャンディを転がしながら礼を言う。
「そうですよぉ。ところでぇ、今回小型飛行翼アーマー着てるんですよぉ。でぇ、相談なんですけどぉ」
いつもより三割増しの笑顔の星野 ハナ(ka5852)がファリフに話を持ちかける。
「えぇ!? 空から!? 大丈夫なの!?」
ハナの提案にファリフはまず心配したのはハナの身体。
「ええ、か弱そうに見えましてもぉ、ハンターですしぃ、ファリフちゃんが通ろうとしているルートから離れたところで黒狼にバンバン五色光符陣打てばぁ、多少はファリフちゃん達が安全に上がれるんじゃないかと思いますぅ」
正直な話、ファリフとしては悪くないと思っている。
今回退治する歪虚は白巫女を率先と狙うと言われている。
「わたくしがマジックフライトで黒狼を誘引します」
「エステルさん……」
心配そうな顔をするファリフに彼女は可愛らしい顔を引き締めて顔を上げた。
「わたくしとしてはなるべく多くの黒狼を倒したいです。青髭を倒すのに少しでも力を削いでおきたいのです」
エステルの華奢な身体から発せられるのは確固たる意志。
それは彼女だけの意志ではないことを察することは容易かった。
「勿論、無理はしません。ファリフさんもですよ」
「約束だね」
「はい」
頷くエステルにファリフは即座に行動に移すことを決める。
先に走り出したのはディーナだ。
「じゃぁぐるっと回るねー」
「気を付けてくださいねぇ」
手を振って岩場を這うようにディーナが進む。
見送るハナも手を振ると、一度呼吸を整え、覚醒する。
覚醒したハナは自身のマテリアルによって着用している鎧に搭載された魔導機械式エンジンを発動させた。
鎧の背から伸びる四本のアームは翼のようであり、動き出したエンジンがアームよりフィールドを発生させた。透き通るフィールドは羽のようだ。
マジックフライトで身体を浮かせたエステルはハナと視線を交わして黒狼の方へと向かっていく。
先頭の黒狼は岩山に到達しており半ばまで登り始めていた。
ファリフの目測どおり、黒狼の群れが高所を取ってハンターと戦う形となるだろう。
エステルは黒狼の方へと向かい、誘引できるギリギリの高度を保つ。黒狼がエステルの白巫女に気づき、マテリアルの残滓を追うように黒狼の群れが移動方向を変えた。
かかったと察したエステルは飛行する方向を変え、ファリフ達が登る方向から外れた方へと進んでいく。
「黒狼が離れて行ってるのかな……」
ファリフと共に歩くルナが呟く。現在、岩山に登っている為、黒狼がどのような動きを見せているのか分からない。空を飛ぶエステルとハナの姿が見えるだけだ。
「まずは高所を取らないとね」
差し出されるユリアンの手を取り、ルナが頷く。
ある程度先頭集団を引き離すことに成功したエステルは背に白龍の翼に似た幻影を顕現させた。
白龍の息吹を黒狼に向けて発動させる。
黒狼同士が向かい合い、敵と認識したといいたいかのように同胞へ唸り声を上げて身体をぶつけ始めた。
体当たりをし、片方が転ばせることに成功すると、同胞を喰らい合っていった。
山頂に到着したハナはファリフ達がいる場所に近い黒狼のエリアへ狙いを澄ます。
陰陽符「天光」が太陽の如く光り輝くと、彼女が狙った先で結界が張り廻られた中で眩い光が発せられ、黒狼を焼く。
発光に視界を奪われた黒狼はふらつきながらも本能的に岩場を登ろうとしている。
「しつこいですよぉ」
口元を緩めたハナは再び呪符を手にしていた。
倒れ、弱りゆく同胞を踏みつけ、黒狼が近づいていくのは空から白巫女の残滓より、地に漂う白巫女……ディーナの気配だ。
エステルの動きを見つつも黒狼が狙うのは手っ取り早いと感じたディーナを狙う。
地に在るなら狙いやすいとでも思ったのだろうか、黒狼は我先にと駆けていく。ハナが五色光符陣でダメージを負わせ、視界が焼かれようとも白巫女を狙うという本能に委ねている。
「敵が勝手に寄ってくるからセイクリッドフラッシュの的に困らないの」
にこりと笑うディーナは宣言通りに、自身から光の波動を発した。
周囲にいた黒狼はセイクリッドフラッシュの衝撃を受けていく。
しかし、術を発動する間にも黒狼は距離を縮めていっていることにディーナは気づいていた。
術師ハンター達の猛攻もあるが、黒狼はその隙間を縫うように向かってきている。
黒狼の姿を見たルナは呪歌を奏でた。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利」
彼女の右手に淡い燐光が纏っており、謳い出しは静かな光量。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん」
きびきびとした歌声は朗々と響く。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
呪歌が完成されると共にルナの右手の燐光が煌めきを増していき、その軌跡に光の音符が乗る。
その姿はまるで指揮者のようにも見えてしまう。
奏でられた曲に押されたのか、黒狼の動きが鈍っているようだ。
黒狼の動きを目にくれず、すぐさまルナは次の曲を奏でる。
高らかにアンコールを謳い相乗効果を上げていく。
ファリフが山頂に顔を向けると、ディーナがセイクリッドフラッシュの発動させようとしている時に黒狼達が回り込んで距離を詰めてきていることに気づいた。
「ユリアンさん!」
振り向いたファリフがユリアンの名を叫ぶ。
「了解!」
ユリアンは羽流風を発動させてディーナを狙う黒狼目がけて移動をする。脚にマテリアルを込め、登る足場を目で追いながら登っていく。
山頂のディーナは黒狼の体当たりを受けたが、足を踏ん張ってセイクリッドフラッシュを発動させた。
術を発動させた瞬間、ディーナがふらついてしまう。格好の餌と本能で感じた黒狼の後ろ足をユリアンの剣が斬りつける。
一気に山を登り切るユリアンは更に襲ってくる黒狼の体当たりをいなし、首を刎ねた。
「ありがとなの。このメンバーで勝てる気がしないの」
にこりと笑うディーナにユリアンもつられる。
だが、念には念を押さなければならない。
戦いには何が起こるか分からないから。
ディーナはそのまま山頂より少し敵側に下った安定した足場に降りて再びセイクリッドフラッシュを発動させようとするが、黒狼が黒炎をディーナに向けた。
真っ向から黒炎を受けたディーナはガクガクと身体を震わせる。動きが止まったディーナに向かって黒狼が体当たりをしてくる。
「あ……」
抵抗を試みても黒い炎が彼女の意思を押さえつけようする。
「想うは月夜の光、願うは静謐……」
青い光が旋律を乗せてディーナを包み込む。
「奏でましょう。ノックターン『ブルームーンライト』」
優しく静かな月の光がディーナの意識を支えるような気がした。
自我を奪おうとする黒い炎を打ち消していくイメージ。
意識を戻したディーナは自分ではないセイクリッドフラッシュを視界で確認する。
発動させていたのはユメリアだ。
しかし、黒狼が狙うのは聖導士であるユメリアよりも白巫女を狙っている。
「彼の女性がシスターで、求めるなら聖導士も範疇に入りそうだけど、土地柄や仕える相手も関係あるのかな」
「白龍の土地ってことかな」
ユリアンの言葉にファリフも確かにと頷く。
高所で戦う二人はハナの五色光符陣で黒狼の視界を遮り、エステルが白竜の息吹を近くの黒狼の群れに吹きかけては、同士討ちを狙う。
同胞の影に隠れた黒狼も反撃の機会を狙っていた。
白巫女、エステルへ飛びかかろうとする黒狼に彼女は細い指を敵へ向ける。
「小鳥さん、お願いします」
五体の星鳥が黒狼達へと突き刺さっていく。
「ハナさん、行きますね」
「はぁい、周囲はお任せあれですよぉ」
エステルの声を拾ったハナが承る。エステルが身に着けている星神器「レメゲトン」の状態は彼女のマテリアルオーラを帯びている。
秘められた力を解き放つ為、エステルはレメゲトンを発動させる。
レメゲトンは「流転」の理を秘め、その解放により強力な魔法を発動し、再生を体現。
その時間は一瞬。
敵に裁きの光となり、傷ついた味方には癒しの光となる。
広範囲の一撃ともあり、これで約八割が倒れた。
「無理、しないでくださいねぇ」
気遣いの声をかけるハナにエステルは頷く。
「わかってます。でも、一体でも黒狼を倒したいのです」
そう言って彼女は黒狼後陣へと飛んでいき、黒狼が残っていないか探す。
くるりと、大きく旋回して確認していき、一度、陣地へ戻ろうとする。
今、危険なことをするわけにはいかないのだ。
未だ眠る彼の人の目覚めを出来る事ならば傍らで待ちたい。
だからこそ、今、怪我をするわけにはいかない……とまで思案したエステルがまだ動く黒狼と目が合う。
息を呑み、悲鳴を上げることも出来ず、思考が身体の反射が停止する。
ふいに、停止していた意識がエステルに戻ると、ハナが五色光符陣をエステルに黒炎を放った群れへ目がけ、発動させた。
「こちらへ」
透き通った中に芯の強さを感じる声にエステルはよろけながらも身体を進める。
その先にユメリアがいた。
「大丈夫ですか?」
「はい……」
差し出された細く白い手をとったエステルはユメリアと共に陣地へ戻る。黒炎を浄化したのはユメリアのピュリフィケーションなのだろうとエステルは察する。
二人の移動を守るようにハナが黒狼の動きを阻害していく。
エステルが自陣……ルナの展開する夜想曲『蒼月光』の中に入ると一度休憩をする。
先ほどのレメゲトンの発動の後もハンター達は黒狼の掃討を続けていた。
「動いている黒狼の数も減っているが、気を抜くな!」
トリシュヴァーナの声にハンター達は安堵と共に気を引き締める。
動けなくなった黒狼の中に黒狼が隠れている可能性があるのだから。
大きな怪我をしているわけではないが、体力が減っているのは各自が自覚している。
「もう一度行きます」
エステルが飛翔し、上空より星鳥を放っていく。
前衛では黒狼の体当たりを受けたユリアンに気づいたルナはデリンジャー「イクスパルシオン」で狙いをすまし、黒狼の頭を撃ち抜いた。
それでも動こうと悶える黒狼を見据えたユリアンが体勢を整え、剣を振り下ろして止めをさす。
「もう一回いくのー!」
まだまだ元気なディーナは白巫女なので黒狼に囲まれているが、その数がは序盤と比べて確実に少なくなっていた。
黒狼の遊撃部隊を掃討することに成功したハンター達はその場で少し休む。
視界は黒狼の方を向け、警戒を怠らないファリフは顔を顰める。
「ファリフちゃん、何か元気ないですぅ」
いつもの明るい笑顔というより、気遣うような微笑みを浮かべたハナにファリフは眉間に拳を当ててぐりぐりと解す。
「バタルトゥさんが大怪我したからですぅ? それとも……邪神戦争の方針ですぅ?」
「うーん、バタルトゥさんは大丈夫と思ってる。あの人は強い。掛け値なしに、絶対に部族を守るために戻ってくる」
ファリフの強い言葉にエステルはぎゅっと拳を握りしめる。
彼が何に為に帝国に下ったのか。今の状態なら理解できる。
「チューダさまやリーリー達に会えなくなっちゃう未来は嫌」
しゅんとなるディーナは言葉を続ける。
「死を繰返す世界もグラウンドゼロで見て嫌だなって思ったの。だから他の道を探したいの。ファリフちゃんもそうかなって思ったの」
「それは私も反対ですぅ。誰かに結果だけ押し付けるのは嫌ですからぁ。殲滅というかぁ、殲滅アレンジがいいなぁって思っててぇ」
「わかる」
ハナの言葉にディーナが頷く。
「ボクも、理不尽な別れはもう嫌だよ」
ぽつりと呟くファリフの頭にトリシュヴァーナの尻尾が触れる。
「私達も百年すればいずれ消える運命。でも志はつなげる限り、消えはしない」
謳うように声を上げるのはユメリアだ。
「未来の子供達が苦しむようなことはしたくないな」
ため息をつくようにユリアンが呟き、ルナが同意するように頷く。
「あー……やっぱり、ボクだめだめだー」
ばったりと地に大の字になってファリフが仰向けになる。
「クヨクヨしてても仕方ないよね。テトも皆前に進もうとしてるし」
再び起き上がったファリフはいつもの元気な様子だ。
「とりあえず、バタルトゥさんの目覚めを待とうと思う。この地の頭は大首長だもん」
ファリフの言葉にハンター達は確かにと頷く。
去り際にもう一度確認し、ハンター達は戻る。
振り返ったユメリアは黒狼の残骸があった場を肩越しに見つめた。
いずれ、彼のマテリアルは消失する。
だが、オーロラを想ったその心だけは歌語りの中で、人々の想いの中で、生き続けられますように……と願わずにいられなかった。
その横を歩くユリアン(ka1664)の視線はこれから向かってくるだろう敵が進む方向にある。
今から向かう場所は赤き大地を覆い喰らわんとする黒い狼の群れ。
その黒狼の起源は一人の人間の想いの果て……とハンター達は知っていた。
「まるで、死の概念みたいですね」
透明なユメリア(ka7010)の声は荒野の風に押されず、乗せるかのように柔らかく響くとルナは感じる。
「肉体は滅びても、魂は不滅で、共にいるから恐れることはない」
だが、彼の男はこの大地に何をしてきたのか……知らぬ者はいない。
運命を捻じ曲げた『もの』は理解も出来ずに求め、この地に憎悪を吐き捨て、のた打ち回っているようにも見える。
今や青髭と呼称された存在が求めるものは。
「……まだ、オーロラさんを探しているのですね」
憐憫ともつかぬ感情を抱くのはエステル・ソル(ka3983)だ。
終わらせなくてはならない。
それはこの地を守る皆の想いと感じているユリアンは目を細める。
黒狼と激突する場所すらもこれで終わりではないという事を示唆しているようで、感覚を揺さぶられてしまうような錯覚に陥りそうだ。
先を急ぎたい、安心したいと思うのは人の性。
今は一つ、一つを乗り越え、生きて乗り越えなくてはならない。
ディーナ・フェルミ(ka5843)が見つめるのはファリフだ。
そういえば、前にアフンルパルの外で歪虚と戦う前も神妙な顔をしていたような気がする。
けど、今はそれとは違うような様子。
「ファリフちゃん、あげるの」
渡したのは手持ちおやつのキャンディ。
「この間もお外で待っていた時、元気がなさそうな顔をしてたの」
心配そうにディーナにファリフは無自覚のようだった。
「甘い物は脳に別腹なの、黒狼退治が終わったら相談しましょうなの」
笑いかけるディーナはファリフの手の中にあるおやつのキャンディを一つ頬張る。
つられてファリフもキャンディを頬張ると、甘さで頭の中の意識が変わる気がした。
「ありがとう」
気遣いにファリフはキャンディを転がしながら礼を言う。
「そうですよぉ。ところでぇ、今回小型飛行翼アーマー着てるんですよぉ。でぇ、相談なんですけどぉ」
いつもより三割増しの笑顔の星野 ハナ(ka5852)がファリフに話を持ちかける。
「えぇ!? 空から!? 大丈夫なの!?」
ハナの提案にファリフはまず心配したのはハナの身体。
「ええ、か弱そうに見えましてもぉ、ハンターですしぃ、ファリフちゃんが通ろうとしているルートから離れたところで黒狼にバンバン五色光符陣打てばぁ、多少はファリフちゃん達が安全に上がれるんじゃないかと思いますぅ」
正直な話、ファリフとしては悪くないと思っている。
今回退治する歪虚は白巫女を率先と狙うと言われている。
「わたくしがマジックフライトで黒狼を誘引します」
「エステルさん……」
心配そうな顔をするファリフに彼女は可愛らしい顔を引き締めて顔を上げた。
「わたくしとしてはなるべく多くの黒狼を倒したいです。青髭を倒すのに少しでも力を削いでおきたいのです」
エステルの華奢な身体から発せられるのは確固たる意志。
それは彼女だけの意志ではないことを察することは容易かった。
「勿論、無理はしません。ファリフさんもですよ」
「約束だね」
「はい」
頷くエステルにファリフは即座に行動に移すことを決める。
先に走り出したのはディーナだ。
「じゃぁぐるっと回るねー」
「気を付けてくださいねぇ」
手を振って岩場を這うようにディーナが進む。
見送るハナも手を振ると、一度呼吸を整え、覚醒する。
覚醒したハナは自身のマテリアルによって着用している鎧に搭載された魔導機械式エンジンを発動させた。
鎧の背から伸びる四本のアームは翼のようであり、動き出したエンジンがアームよりフィールドを発生させた。透き通るフィールドは羽のようだ。
マジックフライトで身体を浮かせたエステルはハナと視線を交わして黒狼の方へと向かっていく。
先頭の黒狼は岩山に到達しており半ばまで登り始めていた。
ファリフの目測どおり、黒狼の群れが高所を取ってハンターと戦う形となるだろう。
エステルは黒狼の方へと向かい、誘引できるギリギリの高度を保つ。黒狼がエステルの白巫女に気づき、マテリアルの残滓を追うように黒狼の群れが移動方向を変えた。
かかったと察したエステルは飛行する方向を変え、ファリフ達が登る方向から外れた方へと進んでいく。
「黒狼が離れて行ってるのかな……」
ファリフと共に歩くルナが呟く。現在、岩山に登っている為、黒狼がどのような動きを見せているのか分からない。空を飛ぶエステルとハナの姿が見えるだけだ。
「まずは高所を取らないとね」
差し出されるユリアンの手を取り、ルナが頷く。
ある程度先頭集団を引き離すことに成功したエステルは背に白龍の翼に似た幻影を顕現させた。
白龍の息吹を黒狼に向けて発動させる。
黒狼同士が向かい合い、敵と認識したといいたいかのように同胞へ唸り声を上げて身体をぶつけ始めた。
体当たりをし、片方が転ばせることに成功すると、同胞を喰らい合っていった。
山頂に到着したハナはファリフ達がいる場所に近い黒狼のエリアへ狙いを澄ます。
陰陽符「天光」が太陽の如く光り輝くと、彼女が狙った先で結界が張り廻られた中で眩い光が発せられ、黒狼を焼く。
発光に視界を奪われた黒狼はふらつきながらも本能的に岩場を登ろうとしている。
「しつこいですよぉ」
口元を緩めたハナは再び呪符を手にしていた。
倒れ、弱りゆく同胞を踏みつけ、黒狼が近づいていくのは空から白巫女の残滓より、地に漂う白巫女……ディーナの気配だ。
エステルの動きを見つつも黒狼が狙うのは手っ取り早いと感じたディーナを狙う。
地に在るなら狙いやすいとでも思ったのだろうか、黒狼は我先にと駆けていく。ハナが五色光符陣でダメージを負わせ、視界が焼かれようとも白巫女を狙うという本能に委ねている。
「敵が勝手に寄ってくるからセイクリッドフラッシュの的に困らないの」
にこりと笑うディーナは宣言通りに、自身から光の波動を発した。
周囲にいた黒狼はセイクリッドフラッシュの衝撃を受けていく。
しかし、術を発動する間にも黒狼は距離を縮めていっていることにディーナは気づいていた。
術師ハンター達の猛攻もあるが、黒狼はその隙間を縫うように向かってきている。
黒狼の姿を見たルナは呪歌を奏でた。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利」
彼女の右手に淡い燐光が纏っており、謳い出しは静かな光量。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん」
きびきびとした歌声は朗々と響く。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
呪歌が完成されると共にルナの右手の燐光が煌めきを増していき、その軌跡に光の音符が乗る。
その姿はまるで指揮者のようにも見えてしまう。
奏でられた曲に押されたのか、黒狼の動きが鈍っているようだ。
黒狼の動きを目にくれず、すぐさまルナは次の曲を奏でる。
高らかにアンコールを謳い相乗効果を上げていく。
ファリフが山頂に顔を向けると、ディーナがセイクリッドフラッシュの発動させようとしている時に黒狼達が回り込んで距離を詰めてきていることに気づいた。
「ユリアンさん!」
振り向いたファリフがユリアンの名を叫ぶ。
「了解!」
ユリアンは羽流風を発動させてディーナを狙う黒狼目がけて移動をする。脚にマテリアルを込め、登る足場を目で追いながら登っていく。
山頂のディーナは黒狼の体当たりを受けたが、足を踏ん張ってセイクリッドフラッシュを発動させた。
術を発動させた瞬間、ディーナがふらついてしまう。格好の餌と本能で感じた黒狼の後ろ足をユリアンの剣が斬りつける。
一気に山を登り切るユリアンは更に襲ってくる黒狼の体当たりをいなし、首を刎ねた。
「ありがとなの。このメンバーで勝てる気がしないの」
にこりと笑うディーナにユリアンもつられる。
だが、念には念を押さなければならない。
戦いには何が起こるか分からないから。
ディーナはそのまま山頂より少し敵側に下った安定した足場に降りて再びセイクリッドフラッシュを発動させようとするが、黒狼が黒炎をディーナに向けた。
真っ向から黒炎を受けたディーナはガクガクと身体を震わせる。動きが止まったディーナに向かって黒狼が体当たりをしてくる。
「あ……」
抵抗を試みても黒い炎が彼女の意思を押さえつけようする。
「想うは月夜の光、願うは静謐……」
青い光が旋律を乗せてディーナを包み込む。
「奏でましょう。ノックターン『ブルームーンライト』」
優しく静かな月の光がディーナの意識を支えるような気がした。
自我を奪おうとする黒い炎を打ち消していくイメージ。
意識を戻したディーナは自分ではないセイクリッドフラッシュを視界で確認する。
発動させていたのはユメリアだ。
しかし、黒狼が狙うのは聖導士であるユメリアよりも白巫女を狙っている。
「彼の女性がシスターで、求めるなら聖導士も範疇に入りそうだけど、土地柄や仕える相手も関係あるのかな」
「白龍の土地ってことかな」
ユリアンの言葉にファリフも確かにと頷く。
高所で戦う二人はハナの五色光符陣で黒狼の視界を遮り、エステルが白竜の息吹を近くの黒狼の群れに吹きかけては、同士討ちを狙う。
同胞の影に隠れた黒狼も反撃の機会を狙っていた。
白巫女、エステルへ飛びかかろうとする黒狼に彼女は細い指を敵へ向ける。
「小鳥さん、お願いします」
五体の星鳥が黒狼達へと突き刺さっていく。
「ハナさん、行きますね」
「はぁい、周囲はお任せあれですよぉ」
エステルの声を拾ったハナが承る。エステルが身に着けている星神器「レメゲトン」の状態は彼女のマテリアルオーラを帯びている。
秘められた力を解き放つ為、エステルはレメゲトンを発動させる。
レメゲトンは「流転」の理を秘め、その解放により強力な魔法を発動し、再生を体現。
その時間は一瞬。
敵に裁きの光となり、傷ついた味方には癒しの光となる。
広範囲の一撃ともあり、これで約八割が倒れた。
「無理、しないでくださいねぇ」
気遣いの声をかけるハナにエステルは頷く。
「わかってます。でも、一体でも黒狼を倒したいのです」
そう言って彼女は黒狼後陣へと飛んでいき、黒狼が残っていないか探す。
くるりと、大きく旋回して確認していき、一度、陣地へ戻ろうとする。
今、危険なことをするわけにはいかないのだ。
未だ眠る彼の人の目覚めを出来る事ならば傍らで待ちたい。
だからこそ、今、怪我をするわけにはいかない……とまで思案したエステルがまだ動く黒狼と目が合う。
息を呑み、悲鳴を上げることも出来ず、思考が身体の反射が停止する。
ふいに、停止していた意識がエステルに戻ると、ハナが五色光符陣をエステルに黒炎を放った群れへ目がけ、発動させた。
「こちらへ」
透き通った中に芯の強さを感じる声にエステルはよろけながらも身体を進める。
その先にユメリアがいた。
「大丈夫ですか?」
「はい……」
差し出された細く白い手をとったエステルはユメリアと共に陣地へ戻る。黒炎を浄化したのはユメリアのピュリフィケーションなのだろうとエステルは察する。
二人の移動を守るようにハナが黒狼の動きを阻害していく。
エステルが自陣……ルナの展開する夜想曲『蒼月光』の中に入ると一度休憩をする。
先ほどのレメゲトンの発動の後もハンター達は黒狼の掃討を続けていた。
「動いている黒狼の数も減っているが、気を抜くな!」
トリシュヴァーナの声にハンター達は安堵と共に気を引き締める。
動けなくなった黒狼の中に黒狼が隠れている可能性があるのだから。
大きな怪我をしているわけではないが、体力が減っているのは各自が自覚している。
「もう一度行きます」
エステルが飛翔し、上空より星鳥を放っていく。
前衛では黒狼の体当たりを受けたユリアンに気づいたルナはデリンジャー「イクスパルシオン」で狙いをすまし、黒狼の頭を撃ち抜いた。
それでも動こうと悶える黒狼を見据えたユリアンが体勢を整え、剣を振り下ろして止めをさす。
「もう一回いくのー!」
まだまだ元気なディーナは白巫女なので黒狼に囲まれているが、その数がは序盤と比べて確実に少なくなっていた。
黒狼の遊撃部隊を掃討することに成功したハンター達はその場で少し休む。
視界は黒狼の方を向け、警戒を怠らないファリフは顔を顰める。
「ファリフちゃん、何か元気ないですぅ」
いつもの明るい笑顔というより、気遣うような微笑みを浮かべたハナにファリフは眉間に拳を当ててぐりぐりと解す。
「バタルトゥさんが大怪我したからですぅ? それとも……邪神戦争の方針ですぅ?」
「うーん、バタルトゥさんは大丈夫と思ってる。あの人は強い。掛け値なしに、絶対に部族を守るために戻ってくる」
ファリフの強い言葉にエステルはぎゅっと拳を握りしめる。
彼が何に為に帝国に下ったのか。今の状態なら理解できる。
「チューダさまやリーリー達に会えなくなっちゃう未来は嫌」
しゅんとなるディーナは言葉を続ける。
「死を繰返す世界もグラウンドゼロで見て嫌だなって思ったの。だから他の道を探したいの。ファリフちゃんもそうかなって思ったの」
「それは私も反対ですぅ。誰かに結果だけ押し付けるのは嫌ですからぁ。殲滅というかぁ、殲滅アレンジがいいなぁって思っててぇ」
「わかる」
ハナの言葉にディーナが頷く。
「ボクも、理不尽な別れはもう嫌だよ」
ぽつりと呟くファリフの頭にトリシュヴァーナの尻尾が触れる。
「私達も百年すればいずれ消える運命。でも志はつなげる限り、消えはしない」
謳うように声を上げるのはユメリアだ。
「未来の子供達が苦しむようなことはしたくないな」
ため息をつくようにユリアンが呟き、ルナが同意するように頷く。
「あー……やっぱり、ボクだめだめだー」
ばったりと地に大の字になってファリフが仰向けになる。
「クヨクヨしてても仕方ないよね。テトも皆前に進もうとしてるし」
再び起き上がったファリフはいつもの元気な様子だ。
「とりあえず、バタルトゥさんの目覚めを待とうと思う。この地の頭は大首長だもん」
ファリフの言葉にハンター達は確かにと頷く。
去り際にもう一度確認し、ハンター達は戻る。
振り返ったユメリアは黒狼の残骸があった場を肩越しに見つめた。
いずれ、彼のマテリアルは消失する。
だが、オーロラを想ったその心だけは歌語りの中で、人々の想いの中で、生き続けられますように……と願わずにいられなかった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/11 18:51:55 |
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黒狼討伐 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2019/05/15 20:18:30 |