ゲスト
(ka0000)
海上での腹の探り合い ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/18 12:00
- 完成日
- 2019/05/31 09:46
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
内陸の街ドスガは、傲慢のアイテルカイト『ナアマ』の手に堕ちた。
多くの領民を助けられたことが不幸中の幸いである。ハンター達の説得と誘導の賜物といえた。
事実は噂となって、瞬く間に伯爵地内を越えて領外へも広がっていった。それにより何かしらの敗北で行き場を失った歪虚崇拝者等が、ドスガへと集結しつつあるという。
但し、伯爵地内の歪虚崇拝者で、そうする輩はわずかであるらしい。その理由はマール城へと届けられたアスタロト派・歪虚崇拝残党からの手紙にも認められていた。
「ふう……」
マール城の一室。領主の妹であるミリアは、不信感を拭えないまま、最後まで手紙に目を通す。
ナアマはアスタロトの仇討ちを掲げて、アスタロト派歪虚崇拝者の懐柔を図っているらしい。しかしアスタロト派の多くは、彼が元領主の一族であったことを重視しているようだ。正統な領主であるアスタロトが領地を取り戻すことこそが正義であったという理屈らしい。
(ナアマと組みするぐらいなら、まだアーリア兄様のほうがマシという考え方。どう考えても受けいれがたいのだけれども……)
ミリアは『暗示効果のある飲み薬』についての記述にため息をつく。
洗脳を解く効果が認められる治療はすでに確立しており、かなりの成果をあげている。しかし長い月日がかかる上に、不意に揺り戻ってしまう症例が残っている。手紙には即効性で、かつ完全に洗脳を消し去る特効薬についてが触れられていた。
アスタロト派は特効薬への見返りを求めてはいなかった。望んでいたのは、ナアマを倒した上での伯爵地の恒久的な維持である。唯一の要望として、特効薬製造方法の提供に際し、ミリアの同席が求められていた。
「罠、と考えるのが普通ですの。でも……」
手紙に書かれているのは嘘だらけで、ミリアを誘きだすための罠と考えるのが妥当といえた。しかし本当に特効薬があるのなら光明といえる。
悩んだ末にミリアは、アスタロト派の罠に飛びこんでみることにした。待ち合わせの場所は海上である。船一隻のみで指定された日時に、岩礁で待ち合わせる手筈だ。
怪しまれないために商用の輸送帆船を手配したが、それだけでは心許ない。戦力としてハンターに護衛を頼むミリアであった。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
内陸の街ドスガは、傲慢のアイテルカイト『ナアマ』の手に堕ちた。
多くの領民を助けられたことが不幸中の幸いである。ハンター達の説得と誘導の賜物といえた。
事実は噂となって、瞬く間に伯爵地内を越えて領外へも広がっていった。それにより何かしらの敗北で行き場を失った歪虚崇拝者等が、ドスガへと集結しつつあるという。
但し、伯爵地内の歪虚崇拝者で、そうする輩はわずかであるらしい。その理由はマール城へと届けられたアスタロト派・歪虚崇拝残党からの手紙にも認められていた。
「ふう……」
マール城の一室。領主の妹であるミリアは、不信感を拭えないまま、最後まで手紙に目を通す。
ナアマはアスタロトの仇討ちを掲げて、アスタロト派歪虚崇拝者の懐柔を図っているらしい。しかしアスタロト派の多くは、彼が元領主の一族であったことを重視しているようだ。正統な領主であるアスタロトが領地を取り戻すことこそが正義であったという理屈らしい。
(ナアマと組みするぐらいなら、まだアーリア兄様のほうがマシという考え方。どう考えても受けいれがたいのだけれども……)
ミリアは『暗示効果のある飲み薬』についての記述にため息をつく。
洗脳を解く効果が認められる治療はすでに確立しており、かなりの成果をあげている。しかし長い月日がかかる上に、不意に揺り戻ってしまう症例が残っている。手紙には即効性で、かつ完全に洗脳を消し去る特効薬についてが触れられていた。
アスタロト派は特効薬への見返りを求めてはいなかった。望んでいたのは、ナアマを倒した上での伯爵地の恒久的な維持である。唯一の要望として、特効薬製造方法の提供に際し、ミリアの同席が求められていた。
「罠、と考えるのが普通ですの。でも……」
手紙に書かれているのは嘘だらけで、ミリアを誘きだすための罠と考えるのが妥当といえた。しかし本当に特効薬があるのなら光明といえる。
悩んだ末にミリアは、アスタロト派の罠に飛びこんでみることにした。待ち合わせの場所は海上である。船一隻のみで指定された日時に、岩礁で待ち合わせる手筈だ。
怪しまれないために商用の輸送帆船を手配したが、それだけでは心許ない。戦力としてハンターに護衛を頼むミリアであった。
リプレイ本文
●
真夜中のマール港。出航した偽装の輸送帆船は、星明かりに照らされながら運河を辿って海原へと躍りでる。朝日が昇る頃、ミリアとハンターの一同は甲板に集まった。
「利害の一致があるとはいえ、どこまで信じてよいものか……。虎穴に入らずんば虎児を得ず。得る物に対して、リスクは必要か」
ロニ・カルディス(ka0551)が朝焼けを眺めながら呟いた言葉は、多くの者が抱いていた疑問である。
「特効薬、怪しくはあっても無視できないのが辛いところだな。本物かどうか、仮に本物でも素直に渡すかの保証もない」
レイア・アローネ(ka4082)は胸元で腕を組む。
「ふむ。私は事の顛末を全ては知りませんが……、洗脳された方々が助かるのなら喜ばしいことです。人体に害はないのでしょうね?」
多由羅(ka6167)は双眸の奥を光らせた。
「大丈夫だとは思うが――」
ロニはこれまでに知り得た情報を語る。すると、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が船縁へと寄りかかりながら、掌をヒラヒラと泳がせた。
「ロニがいってた虎穴云々は賛成だ。罠なら罠でかみ砕くだけだ。うさん臭ぇ奴等だしな。おそらく腹の探り合いにはなるだろうが――」
ボルディアの喋りに、ゾファル・G・初火(ka4407)が首を傾げる。隣のミリアに問い質してから、彼女は大きなため息をついた。
「腹の探り合いって、お互い腹パンしあって我慢比べするんじゃないの? あんだつまんねーのじゃん」
ゾファルはがっくりと項垂れてから、甲板へと座りこんだ。
(特効薬か。無論向こうが作り出した薬の治療薬になるわけだから、ないとは言い切れないが……)
鳳凰院ひりょ(ka3744)はボルディアと一緒にミリアへと頼んで、重犯罪をおかした患者一人を同行させていた。その患者は船底で眠らせてある。
「アスタロト派として集団で動いているということは、リーダーがいるのでしょうか。彼らにしてみれば、こちらが敵ですし……。それはそれとして、ミリアさんの身は、かならず守ります」
ミオレスカ(ka3496)はミリアとアイコンタクトを取りながら、握っていた弓をわずかに持ちあげてみせた。
「俺が重視するのも、ミリアの護衛だ。絶対に守り通す。安心してくれ」
南護 炎(ka6651)は胸元まであげた右の拳を、強く握ってみせる。
「特効薬の真偽は今のところ五分五分と考えていますの。その見定めと安全については、慎重におこなわなくてはなりません。みなさん、よろしくお願いします」
ミリアはその場の全員に、あらためて作戦の成功を願った。
●
ハンター一行は交代でマストの見張り台から双眼鏡を覗きこみ、広大な海原を監視し続ける。平穏な航海は続いて、待ち合わせの一時間前には、目印となる岩礁が眺められる海域へと辿り着いた。
(すべてが事務的に、何事もなければいいですの……)
ミリアには今日の潮風が、やけにべたつくように感じられる。そのせいか抱いていたかすかな不安が、徐々に膨らんでいた。
「ですが……」
そんなミリアの心中において、ハンターの存在は心強い。圧倒的な戦力。さらにウォーターウォークをこなす者が三人もいれば、たとえ輸送帆船が沈められても、岩礁へ移るのは容易だ。いくらか持ちこたえられれば、打開策はある。
「んっ? あちらに妙な影が。見間違いじゃないな。アスタロト派の船かも知れないな」
「えっと、目をこらすと二隻に見えます。事前の約束事だと、お互いに一隻ずつだったはずですよね?」
見張り台にいたロニとミオレスカが、遠方の海原に漂う船を発見した。しかし二隻だとすれば、約束を違えたことになる。
「船が二隻、ですの?」
見張りの二人から連絡を受けたミリアは、どうするべきか判断に迷う。その情報は他のハンター達にも伝えられた。
「初っぱなから約束破りか。アスタロト派、やってくれるねー。どうしてやろーか」
「もう少し状況を見守ってから、決断したほうがよいのでは? カミネテやナアマの手の者による妨害も十分あり得る」
ゾファルと鳳凰院も船縁に近づいて、遠方に浮かぶ二隻を望んだ。鳳凰院は魔導カメラで写して、紙写真からも情報を読み取ろうとする。
「先頭の一隻は逃げてるよな? あれ。後方の一隻は弓矢に攻撃されているようだが……。目の錯覚か?」
「ちょっと待ってくれ。…………それが正解だ。今、何かしらの魔法も撃たれて、先頭の帆が破れたぞ」
ボルディアとレイアの報告により、ミリアも接近している二隻が戦闘中だと認識した。先頭の帆船で棚引く黄色い旗に気づいて、ミリアがため息をつく。
「ミリア、どうする? 加勢に向かうか?」
「どうであれ、私はミリアさんを守ります」
南護炎と多由羅に囲まれながら、ミリアは即断する。
「……先頭の帆船に掲げられた黄色い旗は、手紙に認められていたアスタロト派の旗印。アスタロト派の歪虚崇拝者が乗った船で間違いないですの。助けるのは不本意なのですが、仕方ありません。ハンターのみなさん、助けてあげてくださいの。それと自作自演の騙しに備えて、もう一戦分の余力を残しておいてもらえるでしょうか?」
ミリアの指示に輸送帆船内が慌ただしくなった。
「ナアマの手下らしき奴らに、ちょいと、ご挨拶してくるか」
「ナアマ側の襲撃、期待していた甲斐があったじゃん!」
ボルディアとゾファルは仲間にウォーターウォークをかけてもらって、波間を駆けていった。残りのハンターは、ミリアの護衛を最優先として全員輸送帆船に残る。その上で、鳳凰院とミオレスカは遠隔武器で援護射撃を開始した。
「妙な感じがします」
ミオレスカが海中から現れる雑魔に狙いを定めて、矢を放つ。次々と倒していくものの、敵に黄色旗の帆船を沈めようとする気概が感じられなかった。
「鳳凰院さんは、雑魔の動きをどう思われます?」
ミオレスカは、近場で自分と同じく弓撃していた鳳凰院へと疑問をぶつける。
「確かに沈めようとする意思は感じられませんね。……歪虚側同士の自作自演でないのなら、思いつくのは雑魔の苗を奪い返そうとしているくらいだろうか……。襲っている雑魔はナアマの刺客なのでは?」
ミオレスカは鳳凰院の推理に合点がいく。二人のやり取りは海中を見張っていたロニの耳にも届いていた。
「確かにその通りだ。俺も襲っている後方の帆船はナアマの手の者だと断定してよいと思う」
ロニは二人に了解を得てから、ミリアへと駆け寄る。そして私見も添えて二人の考えを伝えた。
「他のみなさんからも似た意見を頂いています。この時点をもって、後方の帆船をナアマ側だと仮定しますの。黄色旗を掲げるアスタロト側への加勢続行をお願いしますの!」
ミリアの決定は無線や伝話を通じて、即座に味方へと伝えられた。
「近寄る者は全員敵っ! どうしても海の藻屑になりてぇってなら受けて立つぜ!」
飛び散る瘴気。黄色旗の帆船に乗船したボルディアは、魔斧を振るっていた。アスタロト派の者はなるべく避けたが、戦いの邪魔になるのなら蹴飛ばすぐらいは厭わない。
槍の穂先を避けては、相手の懐へと踏みこんだ。
海中から現れた半魚人似の雑魔は、長槍を手にしている。その柄を叩き折って、さらに胴体を真っ二つに。漂う海風が瘴気を散らしていく。甲板で、まるで躍るように、ボルディアは思う存分に斧刃を輝かせた。
「ほいっと!」
黄色旗を掲げる船内に飛びこんだゾファルは、狭い通路や階段を駆けながら、半魚人雑魔を探しだす。見つけだしては迷いなく、拳を叩きこむ。星砕きが決まると、まるで風船のように雑魔が割れて、瘴気が散らばった。
さらにガウスジェイルを駆使して、敵を引き寄せては叩きのめす。
「ひでぇ。まるで泥棒じゃん」
半魚人雑魔の行動から察するに、雑魔の苗を奪い取ろうとしているようだ。鉢を抱えようとしていた個体も、目の当たりにしている。
「俺様は味方じゃねぇからな。そこんとこは勘違いすんなよ。ったく……。これも依頼主の、小賢しい交渉の一環かねぇ……」
ゾファルは念のため、感謝を口にする腰抜かしの歪虚崇拝者に釘を刺しておいた。
輸送帆船がアスタロト派の救助のために、黄色旗の帆船へと接近する。まもなく海面の半魚人雑魔等が、矛先を変えて襲ってきた。
「船首方向、右!」
「左舷後方!」
見張り台の鳳凰院とミオレスカが、海中から顔をだした半魚人雑魔を弓矢で狙い打つ。攻撃と同時に、それは敵の位置を指し示す意味もあった。即座に仲間が止めを刺していく。
「私の背後から離れませんよう、ご注意を」
多由羅はミリアに注意を促した上で、海面の雑魔へと次元斬を放つ。バラバラになった雑魔の部位が波間に漂い、すぐに瘴気へと還元していった。
「ミリア、油断するなよ」
南護炎は海から這い上がってきた半魚人雑魔を、聖罰刃で切り刻んだ。海面の敵個体から放たれた矢を叩き落とし、ときには自らの身体を盾にして、ミリアを守る。
「妙な状況になってしまったが」
「本当ですの、歪虚崇拝者を守らなくてはならないなんて……。後で兄様に、どう話せばよいのか、わかりませんの」
ロニがプルガトリオによる闇の刃で、ミリアに近づこうとする半魚人雑魔三体を倒しきった。ミリアへのホーリーヴェールの加護は忘れていない。
壁に貼りついていたレイアは、槍を握る半魚人雑魔の右腕を切り落とす。
「襲ってきたばかりなのに、もう逃げるのか? それはないだろう」
レイアはガウスジェイルを駆使してミリアを守りつつ、何体もの半魚人雑魔を屠ったいた。つい先程から耳に届いている敵船からの笛の音は、撤退の合図のようだ。それまで攻めていた半魚人雑魔が、一斉に踵を返そうとしていた。
黄色旗の帆船と敵帆船は海流に流されて、岩礁に接近していた。ボルディアとゾファルは岩礁を八艘跳びで移動しながら、逃げ腰の半魚人雑魔を叩きのめしている。
半魚人雑魔を乗せた敵帆船は、まさに負け犬のように喚き声をあげながら、岩礁から離れていった。
「今はマアナ派を倒すよりも、大事なことがありますの」
ミリアの指示で、追撃は取りやめられる。それよりもアスタロト派の歪虚崇拝者との取引を優先するのであった。
●
黄色旗の帆船は、かなりの被害を受けていた。
しばらく時間を置いてから、ようやく双方の代表者が相対する。場所は岩礁で一番大きな岩の上で行われた。
「先程の助力。助かりました。私と多くを語るのは、お辛い立場でしょう。こちらをお納めになってもらえますか」
アスタロト派の代表者は、三十路過ぎの女性である。信者達が運んできたのは、奇妙な植物が植えられた鉢。特効薬用の葡萄樹雑魔の鉢だった。
(前に見たのよりも、少し明るい色をしているな)
ロニは記憶に残る葡萄樹雑魔の苗と、目の前のを比較する。
「ハーブの鉢とどこが違う……、あ、蔓が勝手に動きやがる」
興味津々のゾファルは五鉢の葡萄樹雑魔へと近づいて、観察しだした。
「株分けした植物系の雑魔なので、扱いには注意が必要です」
「こういう機会でなければ、即座に消滅させたい代物なのは間違いないな」
ミオレスカと鳳凰院が、葡萄樹雑魔について知りうることを話してくれる。これで作られた洗脳の薬は、比較的近い味の葡萄酒に混ぜられて使われることが多い。暗示にかかりやすくなる効果があって、それが長期に渡ることで洗脳されてしまう。
「中身、確かめさせてもらうぞ」
ミリアの代わりにレイアが特効薬の製造法の冊子を受け取る。製造法が理路整然と書かれていたが、これが正しいかどうかはわからなかった。
そのとき、一人のアスタロト派側の者がミリアに接近しようと駆けだした。真っ先に気づいたボルディアが転ばせて抑えこむ。
「おいおい、これはどういうことだ? 俺等とお前等は味方じゃあねえ。が、利用できる敵同士だろ?」
「すみません。お許しを!」
アスタロト派の代表者は真摯に謝罪した。アスタロト派の中には、今回の譲渡をよく思わない信者がいるという。
「緊張が走りましたが、どうやら大丈夫のようですね」
「そうだな。特効薬が本当なら多くの人が助かる。できることなら、穏便に済ませたいからな」
自らの身体で盾になっていた多由羅と南護炎が、ミリアからわずかに距離を置く。
「こちらが完成している十の特効薬です。どれか選んで頂ければ、それを飲んで毒ではないことを証明致しましょう」
代表者の提案をミリアは受けいれる。ミリアが指さした特効薬を代表者が飲む。一時間が経過しても、体調に変化は見られない。自ら希望したボルディアも服薬してみた。
その上で船内にいる、洗脳が進んだ重度の患者に飲ませる。演技で誤魔化されてないように、患者には事情を伝えていなかった。特効薬を飲んで三十分後、患者が号泣しだす。断言するのはまだ早いが、質問をしてみると正気に戻ったようだ。
「本物と理解しましたの。確かに受け取りました」
「では、私どもはこれで。ニュー・ウォルターの明るい未来を祈っております」
ミリアはアスタロト派の代表者に罵声を浴びせかけたくて、溜まらなかった。しかしすべてを呑みこみ、ぐっと堪える。
この場はすぐにお開きとなった。
「あの人達と、また会うことがあるのでしょうか?」
「そうなったときは敵だな。どのような理屈を捏ねても、相容れるはずがないからな」
甲板に戻ったミオレスカとレイアが眺めていると、黄色旗の帆船が動きだす。新たに張られた帆が風を受けて、ゆっくりと。
「てめぇ。やるのか? 俺様と」
ゾファルは運びこまれた五鉢の前に座りこみ、動く葡萄樹雑魔の蔓や枝を指先で弾いて、からかっていた。
輸送帆船も帰路に就く。マール港へ帰港したのは真夜中だ。厳重な体勢で特効薬の葡萄樹雑魔五鉢は、マール城へと運ばれる。
「ハンターのみなさん、よくやってくれた。ミリア、頑張ってくれたな」
深夜だというのに、アーリアが出迎えてくれる。鉢の運び出し等の作業は騎士達に任せて、ハンター達は用意された部屋でゆっくりと休む。
そして詳しい報告は翌日に行われた。
特効薬の効き目は素晴らしかった。最初は重度の患者を優先に。生産が間に合うようになってからは、軽度の患者にも使われるようになる。おかげで歪虚崇拝者の甘言に惑わされる領民は激減した。
しばらくしてアーリアとミリアの元に、まとめの報告書が届けられる。それによれば、内陸の街ドスガへ移住しようとする領民は皆無になったという。
真夜中のマール港。出航した偽装の輸送帆船は、星明かりに照らされながら運河を辿って海原へと躍りでる。朝日が昇る頃、ミリアとハンターの一同は甲板に集まった。
「利害の一致があるとはいえ、どこまで信じてよいものか……。虎穴に入らずんば虎児を得ず。得る物に対して、リスクは必要か」
ロニ・カルディス(ka0551)が朝焼けを眺めながら呟いた言葉は、多くの者が抱いていた疑問である。
「特効薬、怪しくはあっても無視できないのが辛いところだな。本物かどうか、仮に本物でも素直に渡すかの保証もない」
レイア・アローネ(ka4082)は胸元で腕を組む。
「ふむ。私は事の顛末を全ては知りませんが……、洗脳された方々が助かるのなら喜ばしいことです。人体に害はないのでしょうね?」
多由羅(ka6167)は双眸の奥を光らせた。
「大丈夫だとは思うが――」
ロニはこれまでに知り得た情報を語る。すると、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が船縁へと寄りかかりながら、掌をヒラヒラと泳がせた。
「ロニがいってた虎穴云々は賛成だ。罠なら罠でかみ砕くだけだ。うさん臭ぇ奴等だしな。おそらく腹の探り合いにはなるだろうが――」
ボルディアの喋りに、ゾファル・G・初火(ka4407)が首を傾げる。隣のミリアに問い質してから、彼女は大きなため息をついた。
「腹の探り合いって、お互い腹パンしあって我慢比べするんじゃないの? あんだつまんねーのじゃん」
ゾファルはがっくりと項垂れてから、甲板へと座りこんだ。
(特効薬か。無論向こうが作り出した薬の治療薬になるわけだから、ないとは言い切れないが……)
鳳凰院ひりょ(ka3744)はボルディアと一緒にミリアへと頼んで、重犯罪をおかした患者一人を同行させていた。その患者は船底で眠らせてある。
「アスタロト派として集団で動いているということは、リーダーがいるのでしょうか。彼らにしてみれば、こちらが敵ですし……。それはそれとして、ミリアさんの身は、かならず守ります」
ミオレスカ(ka3496)はミリアとアイコンタクトを取りながら、握っていた弓をわずかに持ちあげてみせた。
「俺が重視するのも、ミリアの護衛だ。絶対に守り通す。安心してくれ」
南護 炎(ka6651)は胸元まであげた右の拳を、強く握ってみせる。
「特効薬の真偽は今のところ五分五分と考えていますの。その見定めと安全については、慎重におこなわなくてはなりません。みなさん、よろしくお願いします」
ミリアはその場の全員に、あらためて作戦の成功を願った。
●
ハンター一行は交代でマストの見張り台から双眼鏡を覗きこみ、広大な海原を監視し続ける。平穏な航海は続いて、待ち合わせの一時間前には、目印となる岩礁が眺められる海域へと辿り着いた。
(すべてが事務的に、何事もなければいいですの……)
ミリアには今日の潮風が、やけにべたつくように感じられる。そのせいか抱いていたかすかな不安が、徐々に膨らんでいた。
「ですが……」
そんなミリアの心中において、ハンターの存在は心強い。圧倒的な戦力。さらにウォーターウォークをこなす者が三人もいれば、たとえ輸送帆船が沈められても、岩礁へ移るのは容易だ。いくらか持ちこたえられれば、打開策はある。
「んっ? あちらに妙な影が。見間違いじゃないな。アスタロト派の船かも知れないな」
「えっと、目をこらすと二隻に見えます。事前の約束事だと、お互いに一隻ずつだったはずですよね?」
見張り台にいたロニとミオレスカが、遠方の海原に漂う船を発見した。しかし二隻だとすれば、約束を違えたことになる。
「船が二隻、ですの?」
見張りの二人から連絡を受けたミリアは、どうするべきか判断に迷う。その情報は他のハンター達にも伝えられた。
「初っぱなから約束破りか。アスタロト派、やってくれるねー。どうしてやろーか」
「もう少し状況を見守ってから、決断したほうがよいのでは? カミネテやナアマの手の者による妨害も十分あり得る」
ゾファルと鳳凰院も船縁に近づいて、遠方に浮かぶ二隻を望んだ。鳳凰院は魔導カメラで写して、紙写真からも情報を読み取ろうとする。
「先頭の一隻は逃げてるよな? あれ。後方の一隻は弓矢に攻撃されているようだが……。目の錯覚か?」
「ちょっと待ってくれ。…………それが正解だ。今、何かしらの魔法も撃たれて、先頭の帆が破れたぞ」
ボルディアとレイアの報告により、ミリアも接近している二隻が戦闘中だと認識した。先頭の帆船で棚引く黄色い旗に気づいて、ミリアがため息をつく。
「ミリア、どうする? 加勢に向かうか?」
「どうであれ、私はミリアさんを守ります」
南護炎と多由羅に囲まれながら、ミリアは即断する。
「……先頭の帆船に掲げられた黄色い旗は、手紙に認められていたアスタロト派の旗印。アスタロト派の歪虚崇拝者が乗った船で間違いないですの。助けるのは不本意なのですが、仕方ありません。ハンターのみなさん、助けてあげてくださいの。それと自作自演の騙しに備えて、もう一戦分の余力を残しておいてもらえるでしょうか?」
ミリアの指示に輸送帆船内が慌ただしくなった。
「ナアマの手下らしき奴らに、ちょいと、ご挨拶してくるか」
「ナアマ側の襲撃、期待していた甲斐があったじゃん!」
ボルディアとゾファルは仲間にウォーターウォークをかけてもらって、波間を駆けていった。残りのハンターは、ミリアの護衛を最優先として全員輸送帆船に残る。その上で、鳳凰院とミオレスカは遠隔武器で援護射撃を開始した。
「妙な感じがします」
ミオレスカが海中から現れる雑魔に狙いを定めて、矢を放つ。次々と倒していくものの、敵に黄色旗の帆船を沈めようとする気概が感じられなかった。
「鳳凰院さんは、雑魔の動きをどう思われます?」
ミオレスカは、近場で自分と同じく弓撃していた鳳凰院へと疑問をぶつける。
「確かに沈めようとする意思は感じられませんね。……歪虚側同士の自作自演でないのなら、思いつくのは雑魔の苗を奪い返そうとしているくらいだろうか……。襲っている雑魔はナアマの刺客なのでは?」
ミオレスカは鳳凰院の推理に合点がいく。二人のやり取りは海中を見張っていたロニの耳にも届いていた。
「確かにその通りだ。俺も襲っている後方の帆船はナアマの手の者だと断定してよいと思う」
ロニは二人に了解を得てから、ミリアへと駆け寄る。そして私見も添えて二人の考えを伝えた。
「他のみなさんからも似た意見を頂いています。この時点をもって、後方の帆船をナアマ側だと仮定しますの。黄色旗を掲げるアスタロト側への加勢続行をお願いしますの!」
ミリアの決定は無線や伝話を通じて、即座に味方へと伝えられた。
「近寄る者は全員敵っ! どうしても海の藻屑になりてぇってなら受けて立つぜ!」
飛び散る瘴気。黄色旗の帆船に乗船したボルディアは、魔斧を振るっていた。アスタロト派の者はなるべく避けたが、戦いの邪魔になるのなら蹴飛ばすぐらいは厭わない。
槍の穂先を避けては、相手の懐へと踏みこんだ。
海中から現れた半魚人似の雑魔は、長槍を手にしている。その柄を叩き折って、さらに胴体を真っ二つに。漂う海風が瘴気を散らしていく。甲板で、まるで躍るように、ボルディアは思う存分に斧刃を輝かせた。
「ほいっと!」
黄色旗を掲げる船内に飛びこんだゾファルは、狭い通路や階段を駆けながら、半魚人雑魔を探しだす。見つけだしては迷いなく、拳を叩きこむ。星砕きが決まると、まるで風船のように雑魔が割れて、瘴気が散らばった。
さらにガウスジェイルを駆使して、敵を引き寄せては叩きのめす。
「ひでぇ。まるで泥棒じゃん」
半魚人雑魔の行動から察するに、雑魔の苗を奪い取ろうとしているようだ。鉢を抱えようとしていた個体も、目の当たりにしている。
「俺様は味方じゃねぇからな。そこんとこは勘違いすんなよ。ったく……。これも依頼主の、小賢しい交渉の一環かねぇ……」
ゾファルは念のため、感謝を口にする腰抜かしの歪虚崇拝者に釘を刺しておいた。
輸送帆船がアスタロト派の救助のために、黄色旗の帆船へと接近する。まもなく海面の半魚人雑魔等が、矛先を変えて襲ってきた。
「船首方向、右!」
「左舷後方!」
見張り台の鳳凰院とミオレスカが、海中から顔をだした半魚人雑魔を弓矢で狙い打つ。攻撃と同時に、それは敵の位置を指し示す意味もあった。即座に仲間が止めを刺していく。
「私の背後から離れませんよう、ご注意を」
多由羅はミリアに注意を促した上で、海面の雑魔へと次元斬を放つ。バラバラになった雑魔の部位が波間に漂い、すぐに瘴気へと還元していった。
「ミリア、油断するなよ」
南護炎は海から這い上がってきた半魚人雑魔を、聖罰刃で切り刻んだ。海面の敵個体から放たれた矢を叩き落とし、ときには自らの身体を盾にして、ミリアを守る。
「妙な状況になってしまったが」
「本当ですの、歪虚崇拝者を守らなくてはならないなんて……。後で兄様に、どう話せばよいのか、わかりませんの」
ロニがプルガトリオによる闇の刃で、ミリアに近づこうとする半魚人雑魔三体を倒しきった。ミリアへのホーリーヴェールの加護は忘れていない。
壁に貼りついていたレイアは、槍を握る半魚人雑魔の右腕を切り落とす。
「襲ってきたばかりなのに、もう逃げるのか? それはないだろう」
レイアはガウスジェイルを駆使してミリアを守りつつ、何体もの半魚人雑魔を屠ったいた。つい先程から耳に届いている敵船からの笛の音は、撤退の合図のようだ。それまで攻めていた半魚人雑魔が、一斉に踵を返そうとしていた。
黄色旗の帆船と敵帆船は海流に流されて、岩礁に接近していた。ボルディアとゾファルは岩礁を八艘跳びで移動しながら、逃げ腰の半魚人雑魔を叩きのめしている。
半魚人雑魔を乗せた敵帆船は、まさに負け犬のように喚き声をあげながら、岩礁から離れていった。
「今はマアナ派を倒すよりも、大事なことがありますの」
ミリアの指示で、追撃は取りやめられる。それよりもアスタロト派の歪虚崇拝者との取引を優先するのであった。
●
黄色旗の帆船は、かなりの被害を受けていた。
しばらく時間を置いてから、ようやく双方の代表者が相対する。場所は岩礁で一番大きな岩の上で行われた。
「先程の助力。助かりました。私と多くを語るのは、お辛い立場でしょう。こちらをお納めになってもらえますか」
アスタロト派の代表者は、三十路過ぎの女性である。信者達が運んできたのは、奇妙な植物が植えられた鉢。特効薬用の葡萄樹雑魔の鉢だった。
(前に見たのよりも、少し明るい色をしているな)
ロニは記憶に残る葡萄樹雑魔の苗と、目の前のを比較する。
「ハーブの鉢とどこが違う……、あ、蔓が勝手に動きやがる」
興味津々のゾファルは五鉢の葡萄樹雑魔へと近づいて、観察しだした。
「株分けした植物系の雑魔なので、扱いには注意が必要です」
「こういう機会でなければ、即座に消滅させたい代物なのは間違いないな」
ミオレスカと鳳凰院が、葡萄樹雑魔について知りうることを話してくれる。これで作られた洗脳の薬は、比較的近い味の葡萄酒に混ぜられて使われることが多い。暗示にかかりやすくなる効果があって、それが長期に渡ることで洗脳されてしまう。
「中身、確かめさせてもらうぞ」
ミリアの代わりにレイアが特効薬の製造法の冊子を受け取る。製造法が理路整然と書かれていたが、これが正しいかどうかはわからなかった。
そのとき、一人のアスタロト派側の者がミリアに接近しようと駆けだした。真っ先に気づいたボルディアが転ばせて抑えこむ。
「おいおい、これはどういうことだ? 俺等とお前等は味方じゃあねえ。が、利用できる敵同士だろ?」
「すみません。お許しを!」
アスタロト派の代表者は真摯に謝罪した。アスタロト派の中には、今回の譲渡をよく思わない信者がいるという。
「緊張が走りましたが、どうやら大丈夫のようですね」
「そうだな。特効薬が本当なら多くの人が助かる。できることなら、穏便に済ませたいからな」
自らの身体で盾になっていた多由羅と南護炎が、ミリアからわずかに距離を置く。
「こちらが完成している十の特効薬です。どれか選んで頂ければ、それを飲んで毒ではないことを証明致しましょう」
代表者の提案をミリアは受けいれる。ミリアが指さした特効薬を代表者が飲む。一時間が経過しても、体調に変化は見られない。自ら希望したボルディアも服薬してみた。
その上で船内にいる、洗脳が進んだ重度の患者に飲ませる。演技で誤魔化されてないように、患者には事情を伝えていなかった。特効薬を飲んで三十分後、患者が号泣しだす。断言するのはまだ早いが、質問をしてみると正気に戻ったようだ。
「本物と理解しましたの。確かに受け取りました」
「では、私どもはこれで。ニュー・ウォルターの明るい未来を祈っております」
ミリアはアスタロト派の代表者に罵声を浴びせかけたくて、溜まらなかった。しかしすべてを呑みこみ、ぐっと堪える。
この場はすぐにお開きとなった。
「あの人達と、また会うことがあるのでしょうか?」
「そうなったときは敵だな。どのような理屈を捏ねても、相容れるはずがないからな」
甲板に戻ったミオレスカとレイアが眺めていると、黄色旗の帆船が動きだす。新たに張られた帆が風を受けて、ゆっくりと。
「てめぇ。やるのか? 俺様と」
ゾファルは運びこまれた五鉢の前に座りこみ、動く葡萄樹雑魔の蔓や枝を指先で弾いて、からかっていた。
輸送帆船も帰路に就く。マール港へ帰港したのは真夜中だ。厳重な体勢で特効薬の葡萄樹雑魔五鉢は、マール城へと運ばれる。
「ハンターのみなさん、よくやってくれた。ミリア、頑張ってくれたな」
深夜だというのに、アーリアが出迎えてくれる。鉢の運び出し等の作業は騎士達に任せて、ハンター達は用意された部屋でゆっくりと休む。
そして詳しい報告は翌日に行われた。
特効薬の効き目は素晴らしかった。最初は重度の患者を優先に。生産が間に合うようになってからは、軽度の患者にも使われるようになる。おかげで歪虚崇拝者の甘言に惑わされる領民は激減した。
しばらくしてアーリアとミリアの元に、まとめの報告書が届けられる。それによれば、内陸の街ドスガへ移住しようとする領民は皆無になったという。
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ミリア護衛任務 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/05/18 07:15:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/17 18:42:40 |