1本足のピアニスト

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/26 19:00
完成日
2019/06/06 10:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●酒場にて
 なにはともあれ楽器だ。と、ブレンネ・シュネートライベン(kz0145)は思った。
 酒場にステージを併設する計画の滑り出しは良かった。だがやはり、楽器がないことにははじまらない。
 ブレンネは、上流階級相手に楽器を商う店に行ってみたが、値段が高くて買えたものではない。
「あーもー、どこかに落ちてないかしらね、楽器!」
 酒場の机に突っ伏して、ブレンネは愚痴る。
「もう、貴族の屋敷にでも忍び込んで盗んでこようかしら」
 そんな冗談を横で聞いていたクラバックが、ふとあることを思い出した。
「そういえば、あれは楽器だったと思うよ」
 それは、クラバックが懇意にしている古物屋の話だった。
「音の出る机みたいなものだったかな……。確かあそこの息子さんが修理なんかをしていて……」
「どこ? その古物屋さんはどこにあるの!?」
 ブレンネは身を乗り出して訊く。古物屋なら、安く楽器を手に入れられるかもしれない。
 古物屋への道順を説明されたブレンネは早速出かけることにした。

●古物屋にて
「すみませーん」
 店舗には誰もいなかった。ブレンネが声をかけるが、返事はない。
 出かけているのかしら、と思ったが、それにしては店に鍵もかけないのは不用心だ。どうしようと考えていると、ぽろん、という甘い弦の音がした。
「ピアノの音……?」
 音は、店の裏側にある倉庫の方からして来ていた。
 倉庫の扉は半開きになっていた。
 中を覗くと、1人の男が、ピアノを弾いていた。ブレンネも聞いたことのある、リアルブルーの音楽家が書いた曲だった。
 男の演奏は上手かった。でも、とびきり上手いわけではない。技術だけならもっと上がいるはずだ。だが、男の音色には、どこか枯れた、酔っ払って迎える朝焼けのような悲しみと光があった。
 ブレンネは曲が終わって、ようやく動くことができた。
「あなた、ピアノが弾けるの!?」
 その声に、驚いて男が振り向く。だが、その驚愕の表情はブレンネを見とめると、不快なものに差し代わる。
「……アイドルさんが、しがない古物屋に何の用です?」
 嫌味な言い方だった。しゃがれた声にだらしなく伸びた髪、出っ張った腹。太い眉の下にある瞳がブレンネを睨む。
「ねえ、そのピアノは売り物?」
 しかし、ブレンネはそんなことも気にしなかった。
「まあ、売らないこともありませんがね」
「本当? あたし、楽器とその演奏者を探しているの。できればあなたに……」
 譜面台の楽譜をまとめて、ピアノにカヴァーをかけて、立てかけてあった杖をついて立ち上がる男には、あるものは欠けていた。
「……右足、どうしたの?」
 男には右足がなかった。代わりに棒義足がつけられている。右膝の下からは1本の棒なのだ。
「俺はね、昔は軍人だったのさ」
 だから戦場で負傷したのだ、と男は暗に言っていた。
「そう……勇敢だったのね」
「そうでもねぇよ」
 男は小脇に楽譜を抱える。
「王国歴1015年、11月。あの日の戦場は本当に酷かった。味方は倒れ、生き残った奴は救護テントに担ぎ込まれた。血液と硝煙と死の匂いの立ち込める、嫌な場所だった」
 その戦場にはブレンネも思い当たるところがあった。ナサニエル・カロッサ(kz0028)の歌を歌い、自軍に大量の死傷者を出したあの戦場。グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)との仲違いの原因にもなった戦場だった。
「戦っているのは俺たち兵士で、お前たちアイドルはお立ち台の上で呑気に歌っているばかりだった。バカだよなぁ、俺も。あんな歌に乗せられて、突撃しちまうなんてよ。おかげで足はこのザマさ。これじゃピアノのペダルが上手く踏めやしねぇ」
 こつこつという左右で違う足音を立ててブレンネに近づく男の目には後悔と憎悪が滲んでいる。
「いっそあの時死んでいればよかった。覚醒者でない俺は高性能の義肢を扱えないし、特別頭がいいわけでもない。傷痍軍人の俺に居場所はない。すぐに除隊になったさ。手に入ったのは、粗末な棒義足となけなしの恩給だけだ」
「……あたしたちのせいだって言いたいの?」
「言わねぇよ。もともと、ピアニストになる夢を諦めて、自分で軍に志願したんだ。これはあり得た結末のひとつに過ぎない。でも、歌で死ぬ目に遭うなんて思っても見なかった。こんな小娘の歌に唆されるなんて本当に──」
 ──笑っちまうぜ。
 その嘲笑は誰に向けられたものだったのだろうか。
「帰れ。お前さんに売るものなんてない」
「だったら、あたしのプランに乗ってよ。ピアニストの夢、叶うわよ?」
 しかし、ブレンネも負けない態度で言い放つ。
「……もうひとりの、赤髪のお嬢ちゃん、グリューエリンだっけか。あの子は俺のところにすら謝りに来てくれたぜ。お前はどうなんだ?」
「ハッ、だからなんだっての? 確かにあの日の戦場をなかったことにするつもりはない。でもね、あたしは正しいと思って歌っていた。あたしはあたしが信じた歌のためには絶対に謝らないわ」
 鋭く、ブレンネは男を見つめ返した。
「それに、謝って何か解決するの?」
 視線を逸らしたのは男の方だった。
「……強いよね、お前もあのお嬢ちゃんもさ」
「ねえ、あなたの名前を教えてよ。演奏すごくよかったから」
「お前さんに名乗りたくなんかないね」
 男はブレンネを倉庫から追い出して、ガチャリと鍵を閉めた。

●再び酒場にて
「息子さんに会えたんだね。名前はヴィレムくんというんだよ」
「ヴィレム・マルティンね……なるほど」
 酒場に帰って来たブレンネはクラバックに、古物屋でのことを話した。
「あの机みたいなの、ピアノって言うんだね」
「そうよ。それにヴィレムさんったら、演奏上手いのよ。なんか、味があってさ」
「で、ブレンネちゃんは彼と、そのピアノが欲しいわけだ」
「うん。あそこなら値も張らないだろうし……それに……」
「それに?」
「よく……わからないけど、……なんだか彼を無視したらいけない気がするの」
 もし、ブレンネたちがあの戦場で歌を歌わなければ彼はずっと軍人だったのだろうか。足を失ったことでピアニストになる機会を得ている、なんて考えは恩着せがましいことぐらい、ブレンネも知っている。
 彼に謝れば、丸く収まる話なのかもしれない。
 でも、謝ったところで何か変わるのか?
 ストリートチルドレンを憐れむ人はたくさんいたが、手を差し伸べてくれた人は少ししかいなかった。
 ブレンネはヴィレムを救えるなんて、思っていない。
 でも、何かをしなければならないとは強烈に思っていた。きっと、それこそが、ブレンネにとっての、あの戦場へのアンサーになるだろうから。
「こうなったらハンターに相談ね……。あたしの考えもまとまるだろうし」

リプレイ本文


 Uisca Amhran(ka0754)とフューリト・クローバー(ka7146)はお茶会をしながら、ヴィレム・マルティン説得の話をブレンネ・シュネートライベン(kz0145)
としていた。
「ここはアタックあるのみだよ!」
 Uiscaが身を乗り出して言う。
「諦めない気持ちって大事だと思うの。レンが諦めちゃったら、きっと何も変わらないから……。リアルブルーには『サンコノレイ』? っていって大事な頼み事は3回はお願いしないとダメって言葉もあるんだから!」
「確かにそうよね……」
 サンコノレイこと、三顧の礼はUiscaの言う意味とは少々違うのだが、それを訂正できる人間はここにはいなかった。
「でも、気持ちを伝えるのは大事だけど、でも安易に謝るのはよくないと思うの」
「グリューさんも言っていたけど」
 と、言うのはフューリトだった。
「謝って許される問題じゃないって。僕も『悪いと思うから謝る、その後は謝られた方が決めること』って言っちゃったし。メリットの有無で謝罪決めちゃダメだよ」
 それはブレンネもわかっている。だからこそ、この話は上部の解決では済まないのだ。


 キヅカ・リク(ka0038)とアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は連れ立って、古物屋を訪れていた。
 倉庫の扉は開いている。正面にはピアノを弾くヴィレムの背中が見える。情熱的というには凪いだ姿勢。けれど放埓と呼ぶには真摯な音色であった。
 それはリアルブルーでは有名な曲だった。作曲者の肖像画が学校の音楽室にかかっているくらいだ。
 音が余韻を残して空気に溶け込んだ。曲が終わったのだ。
 ヴィレムがこの時、倉庫の入り口に立っているキヅカとアウレールに気がついた。
「……何か用ですか? 話なら店で伺いますよ」
「あ、いや。僕たちは……ピアノの件で話があるんです」
 キヅカの説明に、ヴィレムが眉根を寄せる。
「アイドルの嬢ちゃんの頼みですか」
「ブレンネとは知り合いですからそれもあるんですが……個人的な理由もあります。……僕も、隣のアウレールも、あの戦場にいたから」
 過去の戦場の記憶で、3人は繋がっていた。


「最後はヴィレムさんが決めることだけど、ブレンネさんは彼のためにできることをしなくてはいけないと思う」
「それはそうだけど」
「足とか腕がなくなったら、ブレンネさんはどう思う? 以前と同じにはなんないし今までの当たり前がなくなったらヨユーなくなるよね? 生活も、お金の面でも不便になるよね。だって、手足は失ったら髪の毛みたいに生えてはこないもの」
「それは……わかってるわよ」
「必要なものってなんだろう? お金もそうだけど、色々あるよね?」
「知ってるわよ。ストリートにはそういう人たちもいたからさ。……困窮するよね」
「そうだね。これは昔からあったことだと思う。けれど、ブレンネさんが何かをやるって意志を見せるのなら、ここに取り組むしかないんじゃないかな」
「……誰かがやらなくてはいけないのよね。理屈はわかるわ」
「酒場の収入の一部を貯めたりして、非覚醒者の義手や義足の開発とかお医者さん目指す人をお金の面でサポートする組織とかを民間で作る一助になるとかやれることあるよ。両方凄い難しいけど……大事なのは、カンタンじゃない行動に全力で取り組む意志を見せること」
「カンタンじゃないから、誰もやってこなかった。わかるわよ。手足の失った人の生活が厳しいことは……わかるなんて軽々しく言えないくらい厳しいことくらいわかるわよ。でもさ、怒られるのを承知で言うけどさ、どうして『それ』をあたしがやらなければいけないの? 傷痍軍人なんて、今にはじまった話じゃないじゃない!」
 ブレンネは拳で机を叩いた。
「昔からあったでしょ、そんな話。事故だって事件だって、体を欠損する可能性なんていくらでも、誰にだってあるじゃない! 『それ』をやるのはあたしじゃなくたっていい。あたしである必要はない。あたしは、ピアノが弾けるヴィレムさんだからこそ声をかけられたの。あの戦場にいた全員を救うなんて無理よ。まして、その他の人にまで手を差し伸べることは、できないよ……」
 将来的には整備されるべき事柄ではあるが、あまりに対象の多すぎる話であった。
「でも、やらなきゃって思ってるんでしょ? 無視できないって思ちゃったんでしょ?」
「自分で言うのもなんだけど、錬魔院の力で成り上がって今は完全な落ち目のあたしに、そんなデカいことをやらせようなんて、あんたも図太い精神してるわね……」
 そう呟きながらも、ブレンネの気持ちは徐々に落ち着いてきていた。
「あたしじゃなくてよかったなら、あの戦場で怪我をした人も死んだ人も、どうして自分がこんな目にって思ってるよね。もしかしたら、錬魔院でアイドルになるのはあたしじゃなくてもよかったのかもしれない。軍人なんだから戦いたいんだと思っていた。でも、ヴィレムさんみたいに軍人になりたかったわけじゃない人もいたんだ。でも、……でも! 選んだのか選ばれてしまったのか、ステージに上がってしまえばその役割を必死で演じるしかないのかな。演じるしか、ないのかもね」


「この状況だからこそ貴方の想いを聞きたい。さっき弾いていた曲はリアルブルーのものでしょう?」
「そうだよ。お前さん、向こうの出身か?」
「そうなんだ。今はもうあの世界には戻れないから……それでも、そこがあった事を伝えてくれる人がいる。それはきっと、曲を伝えた人にとっても、僕にとっても嬉しいことだから」
「妙なところでつながるもんだね……人の縁ってのは」
 ヴィレムが落ち着いているのを見て取って、キヅカは話を続けた。
「実は、あの作戦の後……ブレンネもエリンちゃん──グリューエリンも荒れちゃってね」
 グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)はしばらく活動を休止し、ブレンネの再開した時には殴り合いの喧嘩になった。
「彼女たちも苦しんだから、過去のことは許せとは言わない。でも、2人にもそれぞれの挫折と軌跡があったことは知っていて欲しいんだ」
「……それぞれ、いろいろあったんだろうさ」
「ヴィレムさん、ひとつだけ教えてほしい。貴方は夢をまだ諦めてないんじゃないのか?」
 ヴィレムは押し黙った。
 その反応をよく観察してから。キヅカは言葉を続ける。
「そうでなければ、扉は開けっぱなしにしてないし──そもそもピアノに触らないはずだ」
 倉庫から漏れてくる旋律は『聞いてくれ』という懇願にも似ている。
「……でも、俺は諦めてしまった」
「ヴィレムよ、今一度問う。ピアノを弾くことは貴方にとって幸せなことか?」
 アウレールが問いかけた。
「貴方は、ピアニストを真剣に志していたか?」
「もちろんだ。それは嘘じゃない」
「よろしい。先ほど、このリクも言ったが、私もあの戦場にいた。戦域は違えど数度の撤退作戦に参加し、兵の3割を失った事もあった」
「……ロクでもねぇ話だな」
「そうだ、目の眩むような光で人を地獄へ誘い出す。英雄だのアイドルだのなんてものはただのクソ野郎だ」
 ヴィレムはアウレールの精神を逆なでするつもりで言ったのだが、しかしアウレールはその言葉をあっさり肯定した。
「謝って済むような所業とは最初から思わない。貴方ならまだしも、死んだ兵達にどう許してもらえるものか」
 死者と話すことはできない。弁解も懺悔もできはしないのだ。
「だから、私はまだ戦場にいる。少しでも貴方のような者を減らす為に。死んでいった者の価値を保証する為に。代わりに誰よりも多く血を流す者として、今も戦っている──それが私に課せられた義務だと思うから」
「身なりを見ればわかる。俺も元軍人だからその紋章も知っている。あんたは、ブラオラント侯爵家の人間か」
「恐れ多くも陛下より爵位を賜りし出自である。我々のことは好きなだけ恨んでくれて良い、当然だ」
「俺は……あれから全てが憎かった。自分を責めるのも、他人を恨むのもお門違いだと知っていても、感情は溢れて止まらなかった。そんなこと言ったら……結構根深く恨むぜ?」
「構わない。好きなだけ、思う存分恨むが良い。だがその分、貴方は幸せを手にするべきだ。大勢が命を擲ってまで臨んだあの戦いの意味は、──貴方のような人達が、普通の生活の幸福を享受する事にあった筈だから」
 アウレールの言葉は真っ直ぐで、真っ直ぐすぎて、だから届いた。
「十分に戦った貴方は、もう軍や戦争の事なんかに煩わされるべきじゃない。業腹かも知れないが、音楽家という身分があれば物的支援もしやすくなる。それに……せっかく生き延びた人までそんな風に腐っていては、私にも戦い甲斐が無いというものだ、どうしたらいいか分からん。だから望むままに生きて幸せになってくれ。これは私からの個人的な頼みでもあるんだ」
「ああ──そうか」
 ヴィレムはなんだか様々な感情がない交ぜになり、自分の表情を隠すため、片手で顔を覆い深く俯いた。そして、アウレールに尋ねた。
「除隊してさ、1本足になった俺は──可哀想、か?」
「そんなことがあるはずない」
 今まで以上に凛とした声が響く。アウレールはそれを即座に否定した。
「国家に貢献した軍人が、可哀想であるものか。丁重に扱われるべき人物であり、帝国政府より十分な報恩無きは、偏に己の不徳の致すところであろう」
 可哀想なんかじゃない。その眼差しが、これ以上なく温かいのだった。


「レンの気持ちが大事だと思うの」
 Uiscaは気持ちを伝える重要性を説明する。
「ヴィレムさんにはピアノを演奏して欲しいって想いをどんどんぶつけていったらいいと思う」
 現在、Uiscaとフューリトはブレンネと共に、古物屋を目指している。ヴィレムに会うためだ。
「ねえ、フューリト」
「何、ブレンネさん」
「歌で気持ちを伝えたらって言ってくれたけど、あたしはそれをしたくない。……歌の歌詞ってさ、どこかしら嘘だから言えちゃう部分もあると思うから」
「あなたがそう決めたのなら、僕は何も言わないよ」
 倉庫からはピアノの音色が聞こえてくる。やはり、それを弾いているのはヴィレムだった。ただし、なぜ弾いているのかといえば、話し合いがひと段落したので、キヅカがリクエストしたからだ。あの悲劇を知ってそれでも生きている、外でもないヴィレムにしか出来ない音色を聴かせてくれ、と。
 曲が終わって、ヴィレムが入り口のブレンネたちへと振り向いた。

 ヴィレムは今度こそ、ブレンネへの視線を外さずにいようと思った。

「ヴィレムさん。あたしは、やっぱりあなたにピアノを弾いてほしい。あの日の辻褄合わせをしているつもりはない……と思う。出来るかどうかだってわからないから。まだ自分でもわからない部分はあるけれど、でもあたしはそのピアノとあなたの音色で歌いたい。その音色が好きなの。あたしはストリートチルドレンで、あの頃、あたしを見てくれる人なんて誰もいなかった。昼間は道の端っこを歩いてゴミを漁って、夜は同じような境遇の子供達と拾った毛布に包まって肩を寄せ合って下水道で眠ってた。でも、莉子に出会って日常に光が差した。綺麗になって歌って踊れば皆が見てくれた。酷いことを言う人もいたけれど、無視はされなかった。投げられた石の数の何万倍もの拍手を浴びてやるって決めていた。だから……もし、もう一度と思うのなら、一緒に来て。あなたの望んだ役割がそこにあるはずだから」
 ヴィレムとブレンネの視線がぶつかっている。静まり返ってしまったところへUiscaが言葉を投げ込んだ。
「私もあの戦場に癒し手としていました……。だからこそあの戦場で傷ついた人たちの手助けがしたいと考えています」
「そうか……大変だったな」
「ピアノってきちんと手入れし続けないと、ちゃんと奏でる事ができないって聞きます。ピアノのお手入れされているんですよね? ピアノへの想いは途切れていないって事じゃないんです? そのピアノは貴方自身だから……ピアノも貴方が一緒に新たな一歩を踏み出すことを望んでいると思います!」
「あたしは……傷痍軍人や体が欠損してしまった人たちへの救済機構を立ち上げる、覚悟がある。それで、あなたがピアノを弾いてくれるなら、やるわよ」
 ブレンネが言う。
 だからフューリトからは一言だけ。
「僕はね、2人が誰かを助ける星を皆に奏でたらいいなって思うよ」
「わかった。ブレンネ・シュネートライベン、俺は酒場でピアノを弾くよ。でも、それはお前さんに救われたいからじゃない。俺が、困っているお前さんを助けてやるのさ」
 ヴィレムは片唇を釣り上げてシニカルに笑った。彼なりの冗談である。
「ハッ、上等。それでこそ張り合いがあるってものよ」
 ブレンネもいつも以上の強気な笑みでこたえた。
「救済機構については、保留にしとこう。あった方がいいんだろうけど、そこは決め手じゃない。お前さんだけが背負うものでもない。俺はこんなザマだけど、帝都に実家があって一応生活できる。そういう意味じゃ恵まれてるよ。それに……他人が助かるより自分が助かる方が大事だと思ってしまう人間なんだ、俺は。てめぇのことだけで精一杯さ」
 ヴィレムは改めて、ハンターたちを見回した。
「ありがとう。あなたたちのお陰だ」
「貴方の決断は貴方のものだ」
 と、アウレール。
「私たちの言葉が響いたのなら、貴方自身にそれだけの共鳴体があったとこと。どうぞ、貴方が幸福だと思う方へ向かって欲しい」
 ヴィレムとブレンネは、ピアノを酒場に運び入れる計画のために後日再び会う約束をした。
 ハンターたちは、依頼を達成し帰路につく。その道での会話だ。
 キヅカはブレンネの隣を歩いていた。
「あんたさ、守護者なんでしょ?」
 ブレンネが話を振った。
「そうだけど。それを言ったら、アウレールとイスカさんも守護者だよ」
「それってさ、大変?」
「そりゃあ、何かを背負うのは重くて辛くて、僕も未だに押し潰されそうになる。それを無くすことが救いだという奴もいる。……けれど、想うんだ。この想いは罪じゃない。この痛みは罰じゃない。生きているってそういうことなんだって」
「自分で背負ったり背負わされたりして、でもその役割を脱げずに必死で演じるしかないのかもね」
「なにそれ?」
「今日、あたしが考えた言葉。ごめん、続けて」
「だから、そのままブレンネはまっすぐ走りなよ。やばくなったらまた来るからさ」
「やれるようにやるわよ。守護者サマのお手を煩わせたくないし?」
「いや、思ってるほど上等なものじゃないよ? 契約時は大精霊に胸倉つかまれたりするし」
「えっ、なんか悪いことしたの?」
「してないよ! ……してないよな?」
「ま、本当にやばくなったら、また何か頼むかも。じゃあね」
「バイバイ」
 やはり西に傾く太陽の光の中、別の道を進んだ。

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  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531

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参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 寝る子は育つ!
    フューリト・クローバー(ka7146
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/21 23:50:20
アイコン 【相談卓】あの音色を再び
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/05/25 22:24:24