• 血断

【血断】明日は明日また夢を知る

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/28 15:00
完成日
2019/06/03 00:04

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 伊佐美 透の話を聞き終えて、チィ=ズヴォーの抱えていたモヤモヤは概ねスッキリしていた。
「透殿の話は分かりやした。これで……封印になっても手前どもも納得できまさあ。そんで……その場合、手前どもはやっぱり、この世界に残って手前どものやるべきことをやるのがいいんでしょうなあ」
 ……透がこの世界のことを忘れない、語り継いでいくと言うのならば。傍に居て彼の世話をかけるより、この世界で強く生きていく、その意志を姿を最後まで焼き付ける方が、彼の中の強い風で居られるだろう。チィが言外にそう言うと、透はしっかり頷いた。お前も、俺にとっての『天命の風』だったよと。
 納得は出来る。けど。
「……でもやっぱり、その話を聞いちまったら……手前どもだって透殿を観に行きてえでさあ」
 満足は、出来ない。
 幾人かのハンターの言葉を思い出す。思いのまますべてをぶつけ合ってほしい、と。我儘でもちゃんと言わなきゃ駄目だと。
「リアルブルーに透殿の、きちんとした舞台観に行けたのたった数回でさあ……やっぱまだ足りねえですし、今の話を聞いたあとの透殿を観てえでさあよ」
 チィの言葉に、顔を見合わせる。困った顔で笑っているのは……互いにだった。
「……恐ろしいこと言ってるのは分かるんでさあ……。そのために、どんだけ犠牲にするのか分かってんのかって。……でも、でもやっぱり確信もしちまってるんでさあ。そうなっても透殿は演じ続けるじゃねえですか、って」
 世界が傷付ききっても。それでも、いや、むしろそんな世界を勇気づけるために、透は役者としての自分を奮い立たせるだろう。そういう人だと、思うと、諦めきれない。
「……何か聞きたそうでさぁね」
「お前にしちゃ歯切れ悪いなって」
 苦笑するチィに、苦笑しながら透が聞いた。
「……戦って、勝ち取れるなら手前どもはそれを目指してえ。犠牲は……減らす。死に物狂いで。戦って、戦い抜くから、って……」
 透の言葉に促されるようにチィはそこまで言って……勢いを無くす。
「……怠惰王との戦いで透殿があんなことにならなきゃ、もっと堂々と言えたかもですねい」
「……。言っておくけどニガヨモギで死にかけたのはお前もだからな? お前が先だからな?」
 言い合って、互いに、だよなあ、と言いたげに同時に溜め息をついた。
 単純に怖じ気づいた、と言えるだろうか。むしろ自分達の身に降りかかるまで、戦いで出ている犠牲と言うものに鈍感過ぎたんじゃないだろうか。
 犠牲は出ているのだ。数多く。邪神どころか、歪虚王、邪神翼との戦いで。
 封印では未来に責任を、とは言うが。では、今すぐ自分達の手で倒す、自分達がしなければならない、自分達にしか出来ないんだ──そう言って、膨大になる数の、選択の余地もない人たちの犠牲を今すぐ決断することが本当に責任なのか。
 今までの戦い、その結果をきちんと見つめた上で、倒せる、犠牲は減らせると。そんなことを、口にしてしまって良いのか……いや。
 良く知るハンターたちの顔が幾つか過っていく。彼らは、彼らなら、それを言っても良いのかもしれない。
「……手前どもらは、星石に選ばれてねえじゃねえですか」
「……そうだな」
 覚醒者にはなれる者となれない者が居る。そして、覚醒者の中にも、そこから更に二種類に分かれる──イクシード・プライムが出現する者としない者。
 透とチィは二人とも後者だ。……無論、それでもここまで戦ってきてみせた事が示す通り、だからと言って戦闘力が低い、と言うわけではないが。それでもそれはただ星に選ばれた名誉の証というだけでなく……ひとつわかりやすいところを言えば、サブクラスが習得出来ない、という歴然とした差を生む。
 それでも、夢の為には自分の手でと、あるいは己のあるがままに、と別に卑屈になることはせず、戦ってきたが。
「夢は……叶えてえし叶えてほしい。けど、死んだら、何の意味もねえでさあ……」
「……」
 その言葉を、透は否定しなかった。透も自覚はあった。結局なんだかんだと理屈をつけてあちらを選んだことに、その事を意識していなかったとは到底言えない。
 ──邪神殲滅戦、となったら、自分達は死ぬ可能性の方が高いだろう。
 深く傷付いたことでこれまでの戦いを振り返り、二人とも確信に近い思いでそう考えていた。
「……けど!」
 膝を抱えて、震えながらチィはそこから続ける。
「……透殿。手前どもらは、選ばれなかったじゃねえですか」
「……そうだな」
「……。だから、手前どもにとってはより一層、透殿と共に戦えるってのは意味がありやした」
「……うん。それは……俺もだよ」
 選ばれたものたちとの差を意識してから、より一層、動きが分かる者と共に行けることを意識した。役割をはっきり分けて補いあうことで……厳しい戦場を、渡り合ってきた。
「だからやっぱり……どうしても思うんでさあ。もっと本気で。もっと沢山の人と力を合わせられたら。やっぱり、もっとすげえ事が出来るんじゃねえかって……そんな風に、諦め、きれ、なくて……」
 ゆっくり、チィは俯いた。
「……すまねえでさあ。手前どもはまだ、結論が出てねえでさあ」
「……。そっか」
 吐き出すチィに、透の声は穏やかだった。
「別に。ゆっくり、お前が納得するように決めれば良いさ。……答えが一緒にならなくたって、俺はそれでいい。ただ……」
「……透殿?」
「どのみち。俺たちの一票で決まるわけでもないんだ。だけど……何に決まっても。お前さえよければ、最後まで、一緒に戦ってくれるか」
 祈るように、透は聞いた。
「──……当たり前じゃねえですか。相棒でさぁ」
 そこまで会話して、お互いに自然に腕を上げると、パチンと掌を打ち合わせた。拗れた糸のほどけた瞬間。話してみれば何のことは無かったのだろうか。いや、終わってみれば、全て必要な時間、必要な悩みだったと、思う。



 ……そうして、今彼らは、辺境に現れたという特殊なシェオル型と対峙していた。
 歪虚である負のマテリアルを立ち昇らせ、霞む姿はしかしどこか気高さを感じた。甲冑姿、すっと立つ一人と、それを護るように三体。
 一体が何かをわめくと三体が呼応する、最後まで歪虚王と戦った姫と姫に絶対の忠誠を誓い如何なる命令もこなしたという騎士たち、という情報が極端にデフォルメされて歪虚となったものだとは、すぐには分かりようがないし分かったところでどうできるものでも無いが。
 ……何度か対峙して。その能力を暴きつつ、対処を練りながらも、強敵だと肌で理解し焦燥が生まれる。それでも。
 チィは周囲を見回した。同行する頼もしいハンターたち。そして。
「……俺も行きます」
 そう言って、躊躇いながら一歩踏み出すために来てくれた──想。
 願ってしまう。悔やまれる結果があっても、それでも次こそはと。明日は、また……──。

リプレイ本文

 戦いの前。想の姿を見て、ルナ・レンフィールド(ka1565)とユリアン(ka1664)が笑顔で近付いていく。
「またご一緒出来て嬉しいです。私も精一杯頑張りますので、よろしくお願いしますね」
「想、宜しく。今回は前衛が多いから後方からの援護射撃 頼りにしてる」
「私は、直接的に戦う力は自信はないですけど……歌で、お手伝いします。想さんも一緒に奏でましょう。未来を掴む為に」
 二人の言葉に、想は一度深呼吸して、決意するようにしっかりと頷いた。
「はい。頑張ります。……一緒に」
 ユリアンはその言葉に満足して、透とチィにも向き直る。
 二人にも挨拶するためにとユリアンとルナが想から離れたところで、彼の目に止まる姿があった。
「……想様?」
 フィロ(ka6966)は、何故想がここにいるのかと、心底不思議そうな様子で彼を見ていた。
「想様、どうしてこちらに? あの……マスターから離れてしまってよろしかったのですか?」
「……はい、その、俺も辺境の守りにと……」
「……? 想様にはマスターがいらっしゃるではないですか。自分が離れた時にマスターに何かあったら、悔やんでも悔やみきれないでしょう?」
「……ですから、そのマスターとは相談して……」
「……? 私達は望んでも得られなかったがゆえに人の総体に仕えています。想様は望み、マスターを得ました。全てにおいてマスターを優先することに、何の問題があるのでしょう」
「……」
 不思議そうに畳み掛けてくるフィロに、想はまた自信を消されるように、時間をかけて答える。
 ただ、
「戦うだけなら、私達でもできます。でもマスターを守るのは、マスターを得た想様にしかできないことです……御身大切に」
 その言葉には。
「すみません……流石にそれは……俺でも違うかな、と思います……」
 流石に想は、少しフィロに対し不信を覚えたように言った。
 ハンターたちはこれから強敵とどんどん対峙する。その際の各地域の守り手は幾らあっても足りない。だからこそヴェルナーは想のこの動きを歓迎し、送り出した……筈だ。
「まあまあ、フィロさんも。そう一気に言われたら混乱するよ」
 そこでユリアンが、少しおかしな空気を感じて割り込んでくる。
「想も、慌てないでゆっくり考えたらいいよ。自分自身のことはさ」
「は、はあ……」
 想の戸惑いは消えなかったが、進むうち敵の姿を確認すると、どの道の話は一旦さておくしかなかった。……フィロの姿に、想はどこか胸騒ぎを覚えずにいられなかったが。

 現れたシェオルたち、昏いオーラからもどこか感じる勇壮な雰囲気に対抗するようにルナは高らかに歌い上げる。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利。希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん──奏で謳いましょう。狂詩曲『赤の謳歌』!」
 旋律は赤い輝きとなって周囲に満ちていった。
 同時にアーサー・ホーガン(ka0471)の手にする槍からマテリアルが放出され、歪虚たちの意識を引く。戦姫はアーサーの方を向き声を上げると、騎士の一人が恭しい様子で何かを発した。
「また、シェオル、か」
 その姿を目の当たりにして、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が呟く。同時に、強く踏み込みの音がした。反動で一気に加速し、疾駆。
「邪神の中で繰り返し続けるお前らに、終わりをくれてやる」
 二体の騎士たちをすり抜ける、その残像を辛うじて目にしたその後で、騎士たちが切り裂かれたそこから負のマテリアルが吹き上がり霧散していく。
「慈悲とも救いとも言わない──ただ、眠れ。私がお前らに与えてやれるのはそれだけだ」
 ユリアンもそれに続いて動く。機械指輪が音を立てるとともに風が舞い上がり羽を象る。アルトと同じように駆け抜けて騎士へ移動しつつの攻撃を放った。刃が放つ漆蒼色の光を残像に残す。
 ユリアンの攻撃の裏で、ルナが援護射撃の銃口を一体に向けていた。その一体には命中したが、もう一体には避けられる。それでもユリアンは、命中した一体にさらに追加の連撃を叩き込む。
 そして、フィロもまた攻め入る。一気に距離を詰めた、電光の如き真っ直ぐな一撃は……やはり、避けられる。どうやら『騎士』自体もかなりの身体能力はあるようだ。
 だがそこで、星神器の力を借りた華麗な二撃目が命中。貫通する一撃が鎧越しにその存在を削り取っていく。
 戦姫にはアーサーと鞍馬 真(ka5819)が向かっていた。真の魔導剣が彼のマテリアルを纏い蒼い炎を吹き上げる。牽制しながらの、二刀での攻撃。一撃目は外れ、しかし避けたそこにもう片手にある響劇剣の一撃が……
『……!』
 戦姫が何事かを叫ぶ。次の瞬間、騎士の顔面が真の目の前にあった。
「うええっ!?」
 驚いてどうにかなるようなものでもない。そのまま真の剣は騎士の兜をブッ叩いた。衝撃に回転しながら、騎士の頭は元の位置に──そう、直前まで全く別の位置でユリアンと闘っていたはずだ──戻っていった。
「何なの……」
「何が何でも姫さんは守るってことなんだろ」
 思わずという風に呟いた真に、何が起きても割り切るしかねえだろとばかりにアーサーが零す。
「──姫騎士とお供ってところか?」
 ただ、その理屈を超えた何かを歪虚として発現させたその底に有る物を感じ取って、アーサーは一人ごちる。
 彼らにも滅びに抗う壮大な物語があったのかもしれない──が、どんな過去があろうと優先すべきは敵よりも味方の事情……今この世界で生きている俺達の物語だ。
(可哀想な連中に配慮して、自分達まで可哀想になる必要なんてねぇよ)
 アーサーが思うまでも無く、実情として配慮する余裕などそうありそうに無かった。
 戦姫が大剣を振りかざす。瞬く間の斬撃がアーサーに二撃、真に一撃襲い掛かる。ただでさえ鋭いその一撃に、騎士が牽制を重ねてきていた。包囲を警戒していたアーサーは避けられないまでも強烈な一撃を巧みに武器で捌いて見せる。
 敵の攻撃を凌ぐと、今度は真がマテリアルを放ち、敵の目を引く。戦姫と騎士の視線は今度は真へと向けられた。
 ──一通りの攻防を終え、ユリアンは思う。
 自分と、それから……彼らの言う、星石に選ばれなかった人たち。今ここで活躍する人たちとは、火力とか、そういう点で劣ってはいるのだろう。
 ユリアンも星神器は持っていないし、選ばれる選ばれないと言うシチュエーションは無限で、自分では選べないものだ。
(けど……足掻く足掻かない、その方法位は 選べるんじゃないかな)
 届かない分はルナの歌が補ってくれる。想も射撃を少しずつ自分に合わせてくれている気がした。
 ──その意識があったからこそ、ユリアンは段々気付き始めた。
 ……『向こう』も『それ』を知っている。意識している……と。
 彼らもまた互いに位置を取り、隙を補い、動きを連動させてくる──なぜなら彼らも己より強大な存在に抗い続けた者たちなのだから。
 彼らは戦姫と騎士、状況を見て対応を決める遊撃と、それぞれに対応を分けてはいた。だが、単純な能力だけじゃない、互いに連携し隙を埋めてくる敵には……思っていた以上に攻めあぐねた。
 騎士もまた攻撃を避けてくるのを見て、ルナが味方の影から氷の矢を放ち、その動きを阻害にかかる。そこにフィロの白虎神拳が入ったところで戦況が動いた。三体いた騎士はついに全て消滅する。
 だが丁度そこで戦姫が声を上げる。新たに騎士がまた二体、出現した。
「召喚能力か」
 アルトの声には厄介だ、という思いが滲んでいる。
 戦いが長時間に及べば使える能力にも限界が出てくる。少しでも早く片付けたいところだが……。
 ふりだしに戻った……訳ではない。今は二体。うち一体は透とチィが挟撃し、時に透が移動を阻むことで分離して互いを生かしつつ敵の連携を阻んで封じている──だから彼らは彼らの能力でも騎士を一体担当し撃破することが出来ていたわけだが。
 アルトはしばし考え、再び足を踏み鳴らした。軌道上全てを薙ぎ払う攻撃を、今度は戦姫を巻き込む形で実行する。ユリアンが同じようにそれに続くのを認めると、彼の攻撃も利用して隙を狙う。アルトの一撃は姫をも捉え──そして騎士にまた理不尽に防がれた。
 そんな攻防を再び重ね、ハンターたちの攻撃に、再び、騎士がすべて消滅する。再び騎士を召喚する様子は……まだ見えない。
「でけえのいくぞ! 合わせろ!」
 アーサーが、戦姫の能力に対応すべく皆に同時、あるいは波状攻撃を呼びかける。そうして彼は、星神器「アンティオキア」を強く握りしめた。その理を引き出すべく、抱く想いは……この先への選択。その為に必要な意志。
(恭順は論外だな)
 彼の感覚からすれば、歪虚になった時点で『終わっちまってる』。終わりの先に未来などないと。
 そしてこの時点での彼の考えでは、封印という中途半端な手段で終わらせるべきでないとも。人は忘れる生き物だ。先送りにしたって、事態が好転するとは思えない。
(失う物のない道なんてねぇんだ──だったら、自分が最善と信じる道を選ぶまでだぜ)
 秘める想いがここで『必滅』の力となり彼の星神器から解放される。貫く一条の光は避けることも能わず戦姫を穿ちその存在を啜るとアーサーの力へと変える。
 同時にアルトが翔んでいた。動きが見切られようとかまわないと敵の動きを見切り、掻い潜るような一撃はやはり戦姫に回避も防御も許さずその身を貫く。
 真の剣には今、初めに込めた蒼いマテリアルの輝きと共に濃緑のオーラが纏わりついていた。二刀の一撃を戦姫が受け……そして戦姫の剣に異変が生じる。それは刃を鈍らせる呪い……そこから更に剣を押し込んでその身に直接斬りつけると、纏わせた毒も女王へと打ち込んだ。
 ……まだこれだけでは倒れてくれない。焔のオーラを纏わせながら加速したアルトが離脱すると同時に戦姫が衝撃波を放ち周囲を薙ぎ払う。

 全体としては。戦姫を引き付けその能力の及ぶ範囲を最低限に抑えながら、騎士を始末し、防がれないその隙に大ダメージを与える。この作戦はきっちりと思惑通りに機能していた。
 中心となる戦姫の気を引く者、アーサーと真は十分以上の働きをしていただろう。アーサーは戦姫の行動に割り込みをかけるタイミングで攻撃し誘引役の被害を抑えていたし、早々に星神器の力を見せたのも牽制に上手く利用している。真はやはりここでソードブレイカーを持ってきたのは大きい。単体に対しては最も脅威となる三連撃がこれで封じられたのだから。
 苦しければ透にも引き付け役を頼もうと思っていた二人だがまだその必要は無さそうだ……そのために、透とチィの騎士対応が崩れなかったのも、今の局面においては大きい。
 このまま押し切って勝ちたいところだが……再び騎士が召喚される。また二体。敵の連携に対し、押し通すだけの力はこの場に居る者たちにはある……だがそれでは、先にリミットを迎えるのはこちらかもしれない、そんな予感もある。
「……フィロさん!」
 ルナが、案じるようにフィロに向けて声を上げた。
 ……この戦いで彼女だけがずっと、どこか歯車がかみ合わない──戦いに徹しながらも、心はどこか別の所に囚われていると、そんな気がして。
(私達はヒトを愛しヒトに親愛の情を感じている)
 ルナの言葉はそうして、フィロの中を擦り抜けていった。
(ヒトは私達を替えの効く使い勝手の良い道具だと思っている──その通りだが、替える方法はもう喪われているのだ)
 一連の戦いで彼女を支配するのは諦観。人と機械の差に心奪われ、結果としてその溝をますます深めてしまっている。
(だからせめて私は、ヒトも仲間も守ろうと思う)
 想いは、しかし。今、彼女の動きを単調化させていた。
 今目の前にいる敵は、これから先の戦いは、余計なことに思考を囚われすぎて、ただ真っ直ぐ思いのままに拳を振るうだけでは……届かないのだ。
「……アルトさん、すみません」
「……そうだな。そちらを援護しよう」
 ルナの呼び掛けに、アルトも騎士対応を続ける方がいいと判断する。
 戦姫は鈍らせた刃を掲げながら騎士と共にそれでも猛烈に攻め上げてきた。猛攻に諦めずに抵抗し、互いに協力して耐え凌ごうとする。ハンターたちも刃を、矢を受けて傷付きながら、またどうにか二体の騎士を消滅させる。
 再びの一斉攻撃……だが今回も戦姫は倒しきれない。
 再度の召喚。今度は一体だが……そろそろ、こちらにも体力や能力の不安が出てくる。
(……っく)
 全体を見回しながら、真に湧き上がる想いがあった。延びる戦いの中で、そろそろチィが危ないように思えた。透とユリアンもそれなり以上には傷を受けている。惜しまなくていい場面の筈だとどこか言い聞かせながら真は彼の星神器を手にした。『断絶』の理を秘めた大魔術が味方を包む。
 騎士対応に回る四名が一体だけのそれを撃破すると、立て直した一行がまた一斉に戦姫に向かう。衝撃波が再び、襲い掛かる全員を打ちのめす──おそらくこれが分け目となるだろう攻防。
 ……長引かせた手数の間には、真が与えていた毒が無視できない意味を発揮してもいた。決死の猛攻の前についに戦姫はその輪郭を崩壊させ、やがては辺境の荒野へと溶けていったのだった。

「ポーション、すいません……」
「その為に渡したんだから良いんだよ。援護射撃有難う」
 戦いが終わったのを確認して、ユリアンと想がそんな会話をしている。
 真は改めて、透とチィの方を見ていた……近づくのではなく、どこか目を盗むように。
 戦いの中、幾度か、傷ついて死にかけた姿を嫌でも思い出してしまっていた。
(彼らは戦友だ。庇護対象じゃない。戦力として頼りにしている)
 ──……そのはず、なのに。
(守りたいと思ってしまうのは、傲慢、なのかな……)
 思いながらも、しかし視線の先。透に肩を借りるチィは、ギリギリの状態に思えた。どうにか回復魔法はまだ受け付ける状態だろう。だけど、本当にあと一歩……。

 そうして、透とチィもその時、互いの生還にほっとしつつも、その胸中は安堵に満ちているとは言い難かった。
 シェオル型を相手に、自分たちでも、どうにか生き残りはした。だが、これだけの強者が集まって、星神器の力もあって──それでようやく、辛うじて、なのだ。
 やはり自分たちはこの先の戦い、ついて行けるのか。その不安は、拭い去れない。

 ……今回、ハンターたちのとった作戦は正しかった。だがこれからの戦い、ただそれだけでは足りないのではないか。そこから更に、いかに敵の力を削ぎ、こちらの力を最大に発揮するか。少しでも更にまだ工夫出来ることは無いのか──
 最も厳しい戦いに挑むなら、研ぎ澄ませるだけ研ぎ澄ませなければ……代償を安く済ませることは、出来ないのではないか。
 そんな予感を、勝利の中に一行は感じ取ってもいた。

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471

  • 鞍馬 真ka5819

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/05/28 08:44:15
アイコン 質問卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/05/27 14:37:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/26 10:03:18