• 王戦

【王戦】街区総力戦

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
8~12人
サポート
0~12人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/30 09:00
完成日
2019/06/06 19:47

みんなの思い出

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オープニング

 一斉射撃の為に王国軍の銃兵たちが胸壁の上に身を乗り出した瞬間──眼下に並んだ『ブリキの銃兵』たちから一斉に銃火が放たれた。
 弾丸が空気を切り裂いて飛ぶ音に、城壁に当たって喰い込む音。そして、肉を穿ち、骨を砕く音── 噴き出した血は煙や飛沫となって城壁や隣りの兵らの頬を叩く。
 瞬間的に意識と命を刈り取られた者は胸壁に崩れかかるか、城壁から後ろに落ちて地面に激突した。意識と命を残した者は、悲鳴か断末魔を上げながら城壁上を転がり回った。
 被弾しなかったか、しても怪我の軽微な者は、その銃撃に怯む事無く、その銃口を眼下の敵へと向けた。
「撃てーッ!」
 前線指揮官の号令と共に銃弾が、城壁の下で膝射姿勢で銃列を組んだブリキ兵らに一斉に撃ち掛けられ、被弾の金属音と共に、『急所』の動力炉を撃ち貫かれた個体が爆発、或いは身体に空いた小さな穴から炎を噴き出し、糸の切れた人形の如く地面へと倒れ伏した。
 櫛の歯が欠ける様に戦列に空いた穴を、後列から進み出た新たなブリキ兵が埋める。一方、城壁上の欠員は王国銃兵によって埋められることは無かった。
 長く激しい戦いに、王国守兵の予備戦力は既に払底していた。だから……城壁上の欠員は、すぐに工兵たちや作業員として志願した一般市民たちが自ら進み出て埋めた。
「皆、耐えろ! あと少し……あと少しだ! 何としても王都に敵を入れるな!」
 南門の守将が声を枯らして兵らを鼓舞し続けた。後方から放たれたVolcanius隊の砲撃が、敵銃兵の後ろから押し寄せる異界の槍兵たちを薙ぎ払った。

 グラズヘイム王国王都イルダーナ。第六城壁南門── 防壁を守る王国軍近衛隊と、尽きることを知らぬイヴ軍との戦いは、文字通り果てることなく続いていた。
 兵たちは堪えた。何度も何度も押し寄せて来るイヴ軍の猛攻に、耐えて、耐えて、耐え忍び続けた。

 ──そして、『その時』はやって来た。
 最初、『それ』は蛍の様に、ふわふわと宙を舞い始めた。地面から立ち上り続けるその淡い燐光は徐々に数を増していき…… やがて、柔らかな白き光の原と化して、王都とその周辺を包み込んだ。
 その光景を、兵らはかつて、歪虚メフィストが王都を襲撃して来た際に見た。だから、『それ』が自分たちが敵の猛攻を耐えに耐えて待ち望んでいたものだと理解した。
 国土法術陣──正式名称『巡礼陣』。それは負のマテリアルを持つ存在に対して強力な弱体化効果を発揮する王国1000年の秘奥だった。
 ──いずれ来るであろう傲慢王イヴに対抗する為、温存されて来た王国の切り札。極論してしまえば、この王都の防衛戦は、巡礼陣発動の際に負のマテリアルという『異物』が『混入』して効果が損なわれぬよう、王都に歪虚が侵入することを防ぐことが目的だったのだ。
 その為に、王国兵は一歩も退かずに第六城壁に拠って戦い続けた。城壁や城門が破壊される度に、Gnomeや工兵で修復して耐え忍んだ。亀型砲兵や巨人型古代兵器など城壁を破壊し得る敵種が出現すれば、城壁外で遊撃に当たっていたハンターたちのユニット部隊を呼び寄せて排除した。奇襲と擾乱攻撃を繰り返す遊撃隊の存在は、敵に対処の戦力を割かせ、城壁を攻める敵の数を減らすことにも繋がった。
 その甲斐もあって、今、巡礼陣はほぼ完全な状態で起動した。この目の前の大海の如き歪虚の大軍も、やがて負のマテリアルの力を発揮できなくなり、弱体化していくことだろう。
「……兵たちよ。よくぞこの厳しい戦況に耐え抜き、第六城壁の防衛という困難な試練を成し遂げた! 今こそ巡礼陣の発動は成った! 敵は弱体化していくばかり……後はそれまで耐えるだけだ!」
 南門の将のねぎらいに、兵らが歓声を上げて応えた。「結局また耐えるのかよ」とツッコむ兵らの表情は、だが、明るい。
「よし、Volcanius隊、一斉射撃! 出し惜しみはなしだ。全て使い切るつもりで敵勢を吹き飛ばしてしま……」
 将が言い終わるより早く。敵勢の中から放たれた多数の噴進弾が、陣地転換を忘れていたVolcanius隊へ轟音と共に降り注いだ。立て続けに湧き起る爆発、その爆風を受けて仰臥するVolcanius。背負っていた炸裂弾が誘爆して周囲へ破片を撒き散らし…… その様を城壁の塔の上から目の当たりにした将が、その身を硬直させて目を瞠る。
 その塔のすぐ下の城壁に、砲弾がガンッ! と穴を穿ち。一瞬の後に爆発する。城壁が崩落し、塔と諸共に落ちて行った。
「閣下ァー!」
 慌てて救助に駆け寄る工兵たち。混乱する王国軍をよそに、件の攻撃を敢行した敵の一隊が、第六城壁の南──第七街区に展開した敵勢の中にその姿を現した。
 それは第七街区を南北に走る運河の中から現れた。先のティベリス河畔の戦いで壊滅した傲慢軍別動隊に配備されていた──多脚戦車の一隊だった。
「……どうやら最後の戦いには間に合ったようだ」
 その内の一両の砲塔上のハッチが開き、中から姿を現したのは、傲慢の将、マシューだった。同じ傲慢の将であるアイラとウォルテッカと共に傲慢軍別動隊を率いて王国軍別動隊と戦い、敗れ。多脚戦車隊の一部と共に大河ティベリスに逃れ、そのまま水中を東進して、今、王都へと辿り着いたところだった。
「攻撃だ。まずはあの邪魔な壁を崩す」
 マシューは多脚戦車隊に城壁への砲撃を命じた。亀型の主砲が『重』であるなら、多脚戦車の砲は『速』であった。複数の戦車によって立て続けに釣瓶撃ちにされて、それまでイヴ軍の猛攻に耐え続けて来た城壁が急速に『解体』されていった。
 城壁の上にいた王国兵は、壁が崩れる前に急いで地上へ駆け逃げた。
 Gnomeによって奇跡的に救出された南門の将は、大怪我を押して兵らに指示を出した。
「撤退だ……遺憾ながら、第六城壁を放棄する……すぐに第五城壁南門へ後退し、守りを固めよ……既に巡礼陣は発動したのだ。時間は我々に味方……」
 最後まで言い切れずに気絶した南門の将を担架に乗せて、将校たちはすぐに兵らに撤退の指示を出した。
 歪虚軍による即座の追撃は行われなかった。傲慢の将マシューが部隊の指揮権の掌握を優先させたからだ。
「この場にいる最上位の傲慢の歪虚として、ここに展開している全ての部隊を我が指揮下に置く。イヴ様の承認は事後に頂戴する。異論は認めない。時間は我々に味方しない」
 現場の指揮官たちに『強制』しつつ、マシューは自分の掌を見た。そこに細かく震えが走っていた。王国軍が巡礼陣と呼ぶ大規模儀式の影響だろう。何かがジワジワと染み入る様な感覚に、マシューは不快気に眉をひそめた。
「敵の巡礼陣とやらの効果を発揮し切る前に、奴らの王城へと突入してケリをつける。擱座した古代兵器から使える物を集められるだけ集めて来い」

リプレイ本文

 不意の砲撃により南門の将が城壁の崩落に巻き込まれた時── 真っ先に救助にあたったのはアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)だった。
 Gnome隊と共に迅速に、だが、慎重にその所在を確認し、CAMの腕で瓦礫が崩れぬように保持して救出。回復魔法で応急処置を施しつつ、マントで即席の担架を作ってとりあえず安全そうな場所へ──後方へと運んでいく……
 同じ頃、第六城壁の守りに就いていた近衛 惣助(ka0510)とミグ・ロマイヤー(ka0665)は、運河の中から続々と現れる多脚戦車と、傲慢の将を目の当たりにして、思わず呻き声を上げていた。
「あの時、討ち漏らした将がここで来るのか……!」
「いずれ再び相見えることもあろうとは思っておったが……勘が当たったの」
 マッシュ・アクラシス(ka0771)も淡々と敵将を見やった。……大河ティベリスの河畔で行われた王国軍と傲慢軍の会戦──何事にも『派手』がちな傲慢の歪虚にあって、珍しく堅実な戦い方をする将がいるな、と思っていた。プライドが邪魔をして滅んだ他の二将と異なり、冷静に戦局を見極めて退いていったその姿勢には、多少の共感すら覚えなくはなかったが……
「巡礼陣は既になった。後はそれが完全になるまで耐えるのみ──ですが、そう簡単にはいかなそうですね……」
「時間はこちらに味方する。が、敵もそれは承知の上、か。文字通り必死で攻めて来る死兵を相手に、今しばらく時間を稼がねばならん」
 サクラ・エルフリード(ka2598)の意見に同意を示すロニ・カルディス(ka0551)。ですが、とサクラが言葉を続ける。
「ここを耐えれば我々の勝利です。皆、最後の力を振り絞りましょう」
「いいね! 燃えるぜ! ここが正念場ってわけだ! いつだってそうだけどな!」
 サクラの言葉に、岩井崎 旭(ka0234)が魂を燃え滾らせた様な熱い反応で答えた。一方、ウルミラ(ka6896)はそんな旭とは対照的に淡々と応じる。
「巡礼陣の効果が最大限に高まるまで持ちこたえろ、か―― 焦ることはない。やるべきことをやるまでだ」
 同じ飛竜乗りでありながらその反応はまるで真逆──その火と水の様な取り合わせが兵たちの微笑を誘った。
「……指揮官殿より撤収命令が出ました。再集結地点は第五城壁南門」
 第六城壁後方、広場── 意識を取り戻した南門の将の命令を、治療に当たっていたアデリシアが皆へ伝達する。その場に巻き起こる風と砂塵──重傷者ありの連絡を受けて駆けつけて来た『輸送し隊』、狐中・小鳥(ka5484)とレベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)、2人の魔導ヘリが降下を始める。
「輸送し隊、またまた参上だよ♪」
「輸送し隊の面目躍如、いっくよぉっ! ゴーゴーゴーッ!」
 着陸したヘリへ向かって、アデリシアたちが担架を持ち上げ、走る。重傷者たちが機内に運び込まれるや、小鳥とレベッカは来た時同様、風切るローター音を響かせながら慌ただしく上昇していき、一路、安全に治療が行える後方目指して飛んでいった。
「さあ、皆、聞きやがりましたね?! 女王陛下が己の使命を全うされた! ならば私たちも為すべきことを為すのみです!」
 すっかり『従軍聖職者』っぷりが板についてきたシレークス(ka0752)が檄を飛ばし、兵たちが喊声を上げて応えた。
「殿軍は任せろ。皆は急ぎ第五城壁へ!」
「僕が皆の盾になる! 敵は近づけさせないよ!」
 惣助と時音 ざくろ(ka1250)の言葉に従い、撤収準備に入る兵たち。彼らが退くまでこの場の守りを担うのはCAM隊だ。惣助、シレークス、ざくろ、エルバッハ・リオン(ka2434)、サクラらが殿軍としてこの第六城壁に残り、ペガサス騎乗の星野 ハナ(ka5852)がその情報支援を担当する。旭、ロニ、ミグ、マッシュ、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、ウルミラは味方の撤収を補助すべく、護衛として兵らに同行する。
「最終確認をするぞ! 我々は地形等を利用し、可能な限り敵の進軍を遅らせながら撤収を行う!」
 第六城壁南門、本営── 参謀たちが慌ただしく撤収準備を進める大天幕の中で、ロニが撤収支援組の面々に向かって呼びかけた。
 ウルミラと旭はロニの言葉に頷くと、改めて地図を広げて確認する。地の利は詳しい地形を知る我らにある……が、敵はそんなことお構いなしに、全てを薙ぎ倒しながら進んで来るだろう。味方は部隊ごとに複数のルートで行軍するが、急なルート変更に備え、それ以外にも使えそうなルートを把握しておく必要がある。
 ……その撤収補助組の傍らを通り抜けて天幕の奥へと向かったシレークスは、そこで待機していたヴィーズリーベ・メーベルナッハ(ka0115)とフローレンス・レインフォード(ka0443)にそっと小声で囁いた。
「……第五街区の倉庫群。そこには長期戦に備えた軍の物資が備蓄されています。……勿論、武器や弾薬も」
 ヴィーズリーベとフローレンスが無言で頷き。シレークスは話を続けた。
「探せば油もあるはずです。ヴィーズリーベはそれらを『満遍なく』、倉庫群の広い範囲に『仕掛けて』ください。フローレンスはいつでもレーヌ川の堤を切れるよう準備を。今頃は必要な水量が並々と湛えられているはずです」
「……わかりました。作業の為に兵士の皆様の手を借りたく思います。部隊を一つつけてください」
「少しでも出来ることをしないと、ね。運河の水門、土手の決壊──どこをどうすれば効率よく敵の行動を阻害できるか、私の方でも考えてみる」
 その会話を、マッシュが聞いていた。二人が大天幕出て行くのを見届けた後…… 一人残ったシレークスにマッシュがポツリと呟いた。
「……最終的に勝てば宜しかろうとは言え、いささか目には余りますなあ……」
 本来、マッシュは仕事に関して、「最終的に目標が達成されれば問題はない」という理屈を是とする人間である。ただし、その結果において「全体としての被害は極力最小に」、「自陣の勝利により得られる成果と割に合う程度の損害」に収まることを望ましく思う人間でもある。
「私はこの戦いを『未来(あす)を賭けた戦い』と認識してやがります」
 シレークスがマッシュを振り返り、決然として言った。
「女王陛下は街の被害には目を瞑ると仰った。それは陛下の覚悟でありましょう…… 歪虚に敗れれば未来もクソもねぇ。私はどんな手段を使っても……この千年の歴史を持つ『今の王都』を灰燼に帰すとしても、『未来の王都』を護ってみせる……! ……そう誓ったのでやがります」


「それじゃあ、シレークスさんもお気をつけて。僕は先に負傷兵たちを後方に運搬しとくので」
 魔導トラックの運転席の窓からそう手を振って、金目(ka6190)率いる輸送体が第六城壁陣地を進発した。トラックの行く道の端には、徒歩で第五城壁へと後退していく兵たちの長い縦列。そして、その護衛についたロニの白きR7『清廉号』とマッシュのルクシュヴァリエ、そして、小山の様な『要塞機』と化したミグのダインスレイブが続く。
「すまぬが先に行かしてもらうぞ、ロニ、マッシュ。わしの機体はドン亀なのでの」
 前回、亀型自走砲を撃破する為、大破したミグのダインスレイブ『ヤクトバウ・PC』は、同じく王都防衛戦で撃破された同型機から無事な部品を寄せ集め、何とか戦闘が可能な状態にまで修復が施されて。その名を『ヤクトバウ・PC・リペアード』。奇跡的に無事だったミグ式グランドスラム製造機を牽引しつつ、更に砲弾の強化機能をも新規に盛り込んだ野心的な応急処置機である。

 ……やがて、部隊の掌握を終えた敵将マシューが追撃を命じた。
 城壁の陰に隠れていた遅滞戦闘組のCAM隊各機は、塔の中に潜んで敵勢を窺っていたハナの報告により、その事実を知らされた。
「敵軍が行動を再開しましたぁ!」
 無線でそう報告しつつ、塔の階段を駆け下りていき……階下で草を食み食み待っていた愛馬のペガサス『スーちゃん』に飛び乗り、空へと舞い上がるハナ。上空から敵軍の配置を確認するべく高度を上げて……ふと、敵の多脚戦車の装備外観が変わっていることに気付く。
「あれ……? 敵の蜘蛛型戦車さんが何か前よりゴテゴテ盛って……ッ!?」
 直後、その多脚戦車から小型誘導弾が立て続けに発射され。白煙を曳いて飛んでくるミサイル群を、ハナは「キャーキャー!」叫びながら、サーカスの如く回避した。そのまま城壁の陰まで飛び戻ったハナたちに代わってCAM隊が城壁から顔を出し、迫る敵歩兵群へ向かって一斉に射撃を開始した。
「時間稼ぎは得意でね。やり切って見せるさ!」
 半壊した城壁から多重砲身と半身を出し、射撃を開始する惣助の重装型ドミニオン『真改』。立て続けに放たれた機関砲弾が扇状にばら撒かれ、直撃を受けた敵兵たちが原形も留めずに砕け散っていく。
 一方、エルの乗るR7『ウィザード』は、小さく開いた城壁の穴の奥でロングレンジライフルを膝射姿勢で構え、その照準を多脚戦車の上部ハッチから半身を出した敵将マシューへ向けていた。
「……あのまま尻尾を巻いて逃げていれば良かったのに。のこのこ出てきた以上は、ここで引導を渡してあげます」
 ウィザードの操縦席で小さく呟き、エルが引き金を引き──刹那、こちらの方を向いたマシューと視線が交差する。
 砲声と同時に放たれた砲弾は、だが、マシューの傍らを飛び抜けて、背後の多脚戦車に当たってその正面装甲を凹ませた。マシューの指示で車体をずらした多脚戦車が避けたのだ。
 瞬間、エルは機にライフルを抱え込ませると、転がる様にその場をその場を離れた。直後、多脚戦車隊から放たれた応射の貫通弾が、城壁を紙の様に貫き……瞬く間に穴だらけになった城壁は積み木の様に崩れ去った。
 多脚戦車隊の砲撃はその後も舐めるように城壁に浴びせ掛けられ、第六城壁を瞬く間に『解体』していった。その崩れた城壁部分を乗り越え、迫る敵歩兵たちを、城壁の陰から飛び出したシレークスの『エクスハラティオ』、ざくろの魔動冒険王『グランソード』やサクラのルクシュヴァリエら、近接格闘戦機が迎え撃つ。
 そこへ多脚戦車隊が砲撃を集中した。既に依るべき城壁は見る影もなく……近接組のCAMたちの多くがその直撃を受け、撃破された。その中の1機にサクラの機もあった。連戦により損傷していた機体は、その集中砲火に耐えられなかったのだ。
「サクラっ!?」
 叫ぶざくろ。横倒しになった機体から脱出して来たサクラをシレークスが素早くその手に拾い上げる。
「ここまでだな……退避だ! 全機、バラバラになって逃げろ! 第五城壁で会おう!」
 最後にそう指示を出して、惣助は殿軍に立って制圧射撃をばら撒いた。その傍らでは、エル機が重機関銃を撃ち捲りながら、迫る敵歩兵たちに向けて擲弾を投擲する様に爆裂火球を投射する。
「わたくしを無視して進めると、思うなぁっ!!」
 サクラを腕に抱えながら『ソウルトーチ』の光を焚いて黄金色のオーラを纏ったシレークス機が、マテリアルの刃を伸ばした聖機槍を振るって敵勢の多くを薙ぎ払った。その腕の中でサクラは「これ、私も狙われるんじゃ……」などと呟きつつ、側面から押し寄せる敵へ『セイクリッドフラッシュ』の光を放って追い散らす。
 その間に後退していた惣助機とエル機が、後方で止まって射撃を再開した。その支援の下、シレークス機と、最後、サクラ機の仇とばかりに光の刃を振るったざくろ機が、敵戦車の砲撃に追い立てられるようにしながら第六城壁を後にする。
 最後にハナたち飛行幻獣隊が敵歩兵隊の上空を城壁に沿ってフライパスしながら、一撃離脱を仕掛けていった。
 それが王国軍の最後の反撃となった。
 敵の一大攻勢を阻み続けて来た第六城壁が、遂に陥落した瞬間だった。

 その前線より北に数キロ。後方、第六学区内に設営された野戦病院──
 撤収護衛の為にこの地へ赴いていたハンスは、第六城壁の陥落をR7の操縦席で聞いた。
「これは参りましたね……もうじきここが最前線ですか」
 ポツリと呟くハンスの口元──その端は、しかし、微かに愉悦の笑みが浮かんでいる……
「最終便、すぐに離陸するよ! 慌てず、急いで!」
「重傷者は全員、乗れるから、慌てず騒がず乗るんだよー」
 これまで重傷者たちをピストン輸送で搬送し続けてきた『輸送し隊』のレベッカと小鳥のヘリが飛ぶ。それを見上げて「まるでサイゴン陥落ですね」と苦笑したハンスの視界に、上空を舞う飛竜のロジャックと、それを駆る旭の姿が入った。
「予定の後退路に問題なし! そのままの道を進んで行って大丈夫だぜ!」
 その旭は地上を後退していく軽傷者たちの隊列を上空から誘導していた。
 今、旭が誘導している負傷兵たちが最後の班だった。『輸送し隊』の支援のお陰で、野戦病院の避難は時間的にも速度的にもずいぶんと早く進んだ。
「どうやら何事もなくここの避難は終わりそうだ……おい、ハンス。俺たちも最後の隊列について撤収を……ッ!?」
 呼び掛けた旭の声が詰まった。南へと転じた彼の視界が、第六城壁を越えて押し寄せて来る敵勢を捉えたのだ。追い掛けて来るのは肉食獣型──ラプトル? いや、もっとデカい。レックス型だ。CAMの装甲をも食い破る、機動力の高い魔獣どもだ。
「知っていますか? 恐竜というものは意外と鼻が良かったそうですよ。そして、1番血の匂いが漂っているのは、ここ、野戦病院……1番入れ食いが楽しめそうじゃありませんか、ふふっ」
 言ってる場合か……! と返しながら、旭はすぐに近くにいるはずの砲兵隊を呼び出した。だが、この地区の撤退支援を担当するはずの砲兵隊は、なぜか応答しなかった。
「まさか、あっちも追い付かれたのか? ハンス、すぐに敵が来るぞ!」
 地上のハンス機は既に斬艦刀を地に突き立てていた。そして、手にした弓に矢を番えて引き絞り……敵が射程に入った瞬間、指を放し、その頭部を射抜いて倒した。
「敵が負傷者たちを追い掛けられないよう、建物を崩して道を塞ぐ! ハンスも早く後退を……」
「あ、お構いなく。こちらはこちらで何とかしますので」
「ええっ!?」
 弓で数体の肉食竜を打ち倒した後、斬艦刀を引き抜くハンス機。そのまま肉薄して来た敵と殺し合いを始めたハンスに旭はええいと舌を打ち。まずは敵が逃げる味方を追えぬよう建物を破壊して道を塞ぐと、その後、戦場へ取って返し、ハンス支援に降下するよう相棒たる飛竜に告げた。
「敵の先鋒を叩いて後退する隙を作る! まずは火炎の息の爆撃で敵の出端を挫くぞ。気合入れろよ、ロジャック!」

 同刻。王国軍の退路の一つを担う、とある大通り──
 第六城壁を撤退した兵たちは、部隊ごとに違うルートで第五城壁南門を目指して後退していた。中でも最後に第六城壁を離れた部隊には最も多くの追撃が来ることが予測され……その部隊にはロニ、ミグ、マッシュ、3機のCAMが撤退支援に付いていた。
「Volcanius隊、偶数番機に命令! この場に残り、撤退する味方の壁となって時間を稼げ!」
 砲兵隊の隊長が発した命令に従い、Volcaniusの半数が、追い掛けて来るレックスたちの進路上に留まった。
 涙を堪えて操作手たちが最後に発した指示に従い、壁となって立ちはだかるゴーレム隊。先へ行かせぬよう敵へと組みつき、次々と反撃を受けて噛み壊されていく中、ゴーレムたちは最後に炸裂弾を起爆し、諸共に自爆していった(注:本来の使い方ではありません)
 他の進路から進撃して来た追撃隊を追い払い、駆けつけて来たロニとマッシュが、その光景を見てそれぞれ舌を打った。
「すまない、もう少し早く片付けて来れば……」
「どうせこいつらの足では逃げ切れん。人死にが出ないだけ大分マシだ」
 残る半分のVolcaniusを見上げ、砲兵隊長は「気にしないでくれ」と手を振った。
「……もう少し時間に余裕があれば、この撤退経路にもバリゲードやトラップを仕掛けてもらったのだがなぁ」
 ロニがそう臍を噛むと、Volcanius隊と行動を共にしている(移動速度が一緒なのだ)「ふむ」と頷いたミグが機の腕をリヤカーへと突っ込み、取り出したグランドスラムを一発、ロニ機に手渡した。どうやら使えということらしい。
「『プラーナ』より地上班へ。敵肉食竜の一群が北上中。まっすぐそちらへ向かっています」
 上空、飛竜『プラーナ』を駆って哨戒飛行を続けるウルミラが、新たな敵を発見して連絡を入れて来た。
 ロニはふむ、と頷くと、ミグからもらったグランドスラムを道の脇の陰に隠した。
 追って来た肉食竜らが件の地点を通り過ぎ……数秒後、巨大な爆発が巻き起こって肉食竜たちを薙ぎ払った。ロニが仕掛けたグランドスラムをミグが起爆させたのだ(注:本来の以下略)。ロニが振り返ると、300m離れて先行していたミグ機がグッと親指(?)を上げた。
 ……撤退行は続く。敵の追撃隊は各所で味方に襲い掛かり、護衛の各機と戦闘を繰り広げていた。最も敵から近い位置にいるこの部隊は、特に敵に狙われた。
「『プラーナ』から地上班。側面からレックスの一群が接近中。そちらの針路遮断を企図しているものと推察される」
「地上班より『プラーナ』。こちらは南から来る恐竜たちの相手で手一杯だ。何とかそちらで対応を願う」
 そう返答を受けたウルミラはチラと南に視線をやった。確かにそちらは追い縋る多数の敵勢と斬り合いの真っ最中で、ロニもマッシュも対応する余裕はなさそうだった。
「仕方ない…… 行くぞ、プラーナ! 龍戦士の戦いを恐竜どもに見せつけてやろう」
 告げて、ウルミラは龍槍を引き抜くと、それを構えて側方から迫る敵勢へと空中から突っ込んで行った。本来なら家屋を潰して敵の針路を塞ぎたいところだったが、それをするだけの時間がなかった。
 敢えて家屋を戦火に晒せるように、低空を飛ぶウルミラ。それに噛みつかんと飛び掛かって来る恐竜たちの鼻先へ槍を突き入れ、落とした敵の巨体で以って建物を道を塞ぐ瓦礫へ変えていく。
 その地点をクルクル回りながら、敵を誘引し続ける。だが、敵は数を増し……やがて、そのウルミラを無視して進む連中が現れた。
(マズい……)
 気づいたウルミラは追い掛けて行って地上へ炎を浴びせ掛けた。すると今度は元の所にいた敵が味方部隊へ突撃していき……
 その敵の正面に、南の敵を追い散らして来たマッシュが機体を『守りの構え』で立ちはだからせた。それを見て牙を剥き出しにして襲い掛かって来た肉食竜らの頭を、二つ三つ纏めてマッシュ機が槍の柄で受け止め、逆に押し返し。倒れたところを『万象の器』で形成したマテリアルの刃で纏めて薙ぎ払い、血飛沫の雨と共に両断する。
 その死に怯まずなお突っ込んで来る敵の群れは、一つ向こうの路地を回って来たロニ機が、側面からマテリアルビームの一斉射で纏めて撃ち貫いた。
 側面からこちらの退路を塞ごうとした敵は撃破された。
 撤退行は続く。彼らに休む暇はない。


 最後の撤収部隊がようやく第五城壁南門へと到達した。
 追い縋って来た肉食竜たちは、壁からの銃砲撃で全滅させた。元々、肉食竜たちに城壁を『破壊』する力は無い。壁を跳び越えて来た個体は脅威であったが、飛び込んだ側から近接戦機がその頸を撥ねて行った。
「少し余裕が出来やがりましたね。ロニたちは今の内に休んどいてください。食事の準備は済ませてあります」
 先に到着していたシレークスが、サンドイッチをパクつきながら無線機を手に取った。行儀が悪い、とジト目で見て来るサクラを無視し、作業の進捗を確認すべくヴィーズリーベとフローレンスをコールする。
「ありがたい。私はプラーナと共に休ませてもらおう。ロニとマッシュは?」
 ウルミラが訊ねると、二人は、第五城壁の防衛線を確認してから、と言葉を揃えた。
「性分だ。仕方ない」
「……これも報酬の内、ですよ」
 互いに挨拶を交わして本営を去る三人。シレークスはヴィーズリーベから進捗順調との答えを得たものの、フローレンスとは何故か繋がらず、小首を傾げながら別の隊を呼び出しに掛かる……
 ロニとマッシュが向かった第五城壁では、先に到着したハンターたちが既に防衛線の構築に取り掛かっていた。
 惣助機とミグ機は城壁の内側に土塁を築き、それを足場に壁から上半身と砲を出していた。ハヤテやざくろら近接戦を主とする『抜刀隊』は城壁の前面に掘られた塹壕の中で待機する。
 近接主体のマッシュは機を塹壕に入れる為、城門を潜って前に出た。
 ロニは城壁裏の土塁に機を上らせた。その隣ではエルの機体が狙撃砲を構え、ゼロイン──照準補正を行っていた。
 乾いた重い砲声が一発ずつ鳴り響く。それはまるで田園に鳴る鐘の音の様でもあり…… 第五城壁は束の間の平穏の中にあった。

 堤防を切る作業中のメンバーと連絡がつかない── シレークスは嫌な予感と共に、上空を哨戒飛行中のハナを呼び出した。
「ええっ!? もうすぐ休憩時間なんですけど……」
 ぶーぶーと文句を言いながら、それでも拒絶することはなく。ハナは天馬にお願いをして川へと馬首を巡らせる。
 シレークスは再度フローレンスを呼び出した。今度は応答があった。が、何か慌ただしいやり取りや物がぶつかり合う音が聞こえるばかりで返事はない。
(戦闘中──!)
 気づいた瞬間、ハナから連絡が入った。
「カエルですぅ! レーヌ川からカエル雑魔が大量に侵入してきてますぅ! ……うわっ、カエルの癖に火を噴いてる! 二足歩行で歩いてるぅ!」
 警報が発せられた。敵は蛙人型の雑魔を投入し、第五城壁の背後を取りに来た。
「マジかよ……!」
 休憩中の旭とウルミラが相棒に飛び乗り、レーヌ川へ向かって飛ぶ。CAM隊からもロニ機とざくろ機、射撃機と格闘機から1機ずつ戦力が割かれ、後方の擾乱攻撃に対応するべく移動を開始した。
 上空のハナは眼科を見下ろし、逐一状況を報告した。地上では既に戦闘が始まっていた。レーヌ川の堤を切る準備作業をしていたGnome隊と兵たちだ。だが、その多くは労役の志願兵で、戦える者は多くない。
 ハナは全てのカードホルダーを確認して符の総数を確認した。
「……。たった60枚程度じゃ10分で打ち止めじゃないですかぁ……」
 短い逡巡と葛藤の後……ハナはスーちゃんに戦場へ低空進入するよう告げた。
「決して足は止めないように。……ガマガエルのクセに挟撃しようとか、ムカつくにも程がありますぅ。全ブッコロですよぅ!」
 ハナは天馬の背の上で両手指に符を引き抜くと、交戦中の敵の頭上をフライパスしながら眼下に『五色光符陣』を投射していった。戦場に光の柱が立て続けに立ち上り、蛙人型たちの身体を、視界を灼いていった。
 それから少しして、旭とウルミラも到着した。
 更にロニとざくろ、2人が駆るCAMも戦闘に加わる。
「これ以上、混乱を広げるわけにはいかん。早期に敵を殲滅するぞ!」
「敵もやるね。やっぱり冒険はこうでなくちゃ……でも、最終的に笑うのは主人公たる僕たちだけどね……!」
 大通りに陣取り、進軍して来る蛙人に向けてマテリアルライフルとビームキャノンを放つロニ機。ざくろは逆に機を敵中へと突っ込ませると、『万象の器』によるマテリアルの刃で蛙人たちを纏めて一薙ぎにして斬り払う。
 味方の来援にハナはホッと息を吐くと、戦場から程近い教会の屋根の上に天馬を下ろさせた。そして、尖塔の中へ上がると、そこから蒼機銃で地上の蛙人たちを狙い撃ちにしていった。
「長期戦だもんねぇ~。翼も符も温存しないと♪ ……こう見えて、私、けーかくせーのある女子なのよぉ?」
 一方、ウルミラは蛙人が上陸して来る河川敷へ川に沿って進入すると、プラーナに命じて眼下の敵へファイアブレスを浴びせ掛けた。
 火炎の息を浴びた蛙人たちは、なぜかあっという間に炎に包まれた。蛙人たちの肌はなぜかギトギトとした質感で、その『油』に燃え移ったようだった。
(水を弾いて水中速度を上げる為のグリスか何かか? しかし、マテリアルの炎は延焼しないはずなのに……)
 疑問に思いながら眼下を見ると、炎に包まれた蛙がパタパタと地面へ倒れ出した。そして、プクッと餅の様に膨れると、そのまま破裂して周囲へ火炎を撒き散らした。
 ウルミラは炎が有効な攻撃と判断し、周囲に延焼するものが無いことを確認した後、河川敷の蛙たちを次々と燃やしていった。その後、プラーナに騎乗したまま地上に下りると、龍槍をしごいて蛙を突き殺していった。背中から迫る敵への対処は騎乗する相棒に一任した。プラーナの咆哮と共に『レイン・オブ・ライト』の光が周囲へと降り注ぎ、自分たちを取り囲もうとする蛙人たちを纏めて撃ち貫いた。
 ……同じ頃、上空の旭は「マズい、マズいぞ……!」と呟いていた。火を吐く蛙によって、地上では火災が起きていた。それも複数個所から同時に火の手が上がり、もうもうと黒煙を立ち昇らせつつ、下町の木造家屋を焼いて燃え広がりつつあった。
 安全なはずの後方で大火ともなれば兵たちも動揺する。第四城壁への退路も失われかねないし、何より敵が後方に入り込んだ事実の明確な証左となる。その上、ヴィーズリーベらが作業を進める倉庫群まで火が達するようなことになれば……目も当てられない。
「とてもじゃないが手が足りない……! ロジャック! 俺を地上に下ろしてくれ! 兵たちを呼び集めて破壊消防を試みる!」
 言い終わる前に地上へ飛び降り、行動へと移る旭。
 やがて、「呼ばれた気がした!」と駆けつけて来たざくろ機が機剣を振るい、蛙ごと建物を薙ぎ払い、破壊消防に協力し始めた。

 フロッグマンへの対応に戦力が割かれたタイミングで、敵は城壁に対する攻撃を開始した。その主力を担うは『角竜』──フリルと三本角が特徴的な恐竜型魔獣の群れだ。
 砲撃機たちが迎撃の射撃を開始する。エル機の狙撃から始まり、ミグ機が轟音と共に放つ貫通徹甲弾に、惣助機が張るガトリング砲の弾幕── 塹壕のハンス機もまた弓で矢を射かけ始める。
 正面からの砲撃に、だが、角竜たちは怯まなかった。何体かは地に倒れ伏したものの、多くはその分厚い正面装甲(表皮)を活かしてものともせずに突進する。
 肉薄して来た敵に対して、近接戦機が塹壕の中で得物を構えた。マッシュ機は守りの構えを取って敵を待ち構え、ハンスもまた弓を斬艦刀に持ち替え、構える。
 角竜たちの突進を前衛機たちが迎撃し……次の瞬間、その前衛機たちを巻き込んで角竜たちが爆発した。
「自爆!?」
 マッシュは守りの構えで敵を押し留めるつもりだったが瞬間的に対応を変え、『不退の駆』で機にマテリアル障壁を纏わせると逆にこちらから突進。敵を左右へ弾き飛ばしてその進路を脇へと逸らした。
「こいつら……自分ごと壁を吹き飛ばすつもりか!」
 惣助は敵の前面に制圧射撃を浴びせ掛けて接近する敵の前進を阻んだ。その間に、機を前へと進ませたハンスが角竜の側方に回り、敵をつぶさに観察する。
「……腹部に腹帯? が巻かれている。どうやらそこに爆発物が仕込まれている……のかな?」
 ハンスはそれを確かめる為、無造作に腹帯を斬りつけてみた。瞬間、角竜が閃光と共に爆発。ハンス機も巻き込まれた。
「……やはり、腹帯に爆発物が仕掛けられているらしい。爆発の条件は一定以上の衝撃か、それとも時限信管か……」
 ハンスはその全てを検証してみた。その度に爆発に巻き込まれ、マテリアルカーテンの防護壁を展開しつつ──
「どうやら一定以上の衝撃で起爆するらしい。雑感では角というより首に加わった強い衝撃がトリガーな気がしますね」
 機体をボロボロにして戻って来たハンスに、回復役のサクラが「趣味の悪い……」と呟いた。自爆攻撃という手段を取った敵に対して、そして、身の危険を顧みないハンスに対しても。
 情報を得たエルは、角竜が接近する前に爆薬を狙撃できないか試してみたが……
「フリルが邪魔です。正面からでは狙撃は不可能ですね」
 エルの報告を聞いて、マッシュはふむ、と呟いた。そして、『万象の器』で増大したマテリアルの刃を振るい、角竜たちを纏めて斬り払った。
 横薙ぎからのマテリアルブレードの一閃──直後、『胴』を打たれた角竜たちが一斉に爆発した。
「なるほど。範囲攻撃なら直接爆薬を狙えるわけじゃな」
 ミグはそう呟くと、貫通徹甲弾の照準を角竜の中央ではなく、フリルの背後の爆薬を狙えるように撃ち放った。惣助もまた多重砲身を空に向け、『フォールシュート』の弾の豪雨で上から角竜の背を狙い撃った。

 ……第五城壁南門へ迫る角竜たちは、その多くが門に迫る前に自爆を強いられた。だが、敵の攻撃は門だけを狙ったものに限らなかった。

 どこか遠くで爆音が鳴り響き……ハンターたちは顔を見合わせた。音源は左右から──何が起こったのかはこの時点では分からない。
 報告はすぐに来た。それは第五城壁南門から遠く離れた箇所で、城壁に角竜が突っ込み、自爆した音だった。
 敵は城門ではなく、城壁自体を崩しに掛かった。壁に穴が開いてしまえば、もう城門を守る意味もない。

 同刻。蛙人が上陸したレーヌ川付近の戦場──
 城壁のすぐ近くで蛙人に対応していたロニは、突然、横の城壁が爆発して崩落するのを目の当たりにして、「なんだぁっ!?」と目を白黒させた。
 眼前、舞い上がった粉塵の中──壁向こうからノソリと顔を出す角竜。それを見た瞬間、ロニは城壁の破損個所から列を成して突進して来る角竜たちを『マテリアルライフル』で撃ち貫いた。
 同じ頃、城壁のあちこちで同様の爆発が巻き起こり、角竜と敵歩兵たちが一斉に雪崩れ込んで来た。側面を突かれる形となったざくろは、突進して来る角竜らを『攻勢防壁』で弾き飛ばすと、転倒して露になった横腹に『デルタレイ』を撃ち込み、周囲の敵歩兵ごと吹き飛ばした。
「本当に、やってくれる……!」
 ざくろは城壁の破損個所の一つに光の刃を振り下ろして敵の隊列の一つを切り飛ばすと、周囲の味方に撤収を促した。
「第四城壁まで後退! もうここを守っていても意味はない!」

 シレークスは機をレーヌ川の戦場に走らせると、『光あれ』で堤の一部を切り裂いた。フローレンスの再計算によって割り出された『最も効率の良い場所』を──
「レーヌの川よ。光の名の下に、我らに汝の加護と恩寵を!」
 その一撃を切っ掛けに、せき止められていた水が一気に第五街区へ流入し始めた。その流れは味方の撤収が済んだ第五城壁沿いの運河へ押し寄せ、溢れ出して周囲を水浸しにし始めた。

 その水攻めにより、敵の歩兵隊の足が止まった。が、角竜たちは強引にその流れを『渡河』し、後退する味方部隊に迫った。
 殿軍を務めるハンターたちはそれらを罠の仕掛けた倉庫街へと誘導を図った。王国軍に借り受けた馬を駆り、同様に借り受けた小銃を角竜たちに撃ち放って必死に道を走るサクラ。追い付かれかけた度に惣助機が支援の制圧射撃を放ち、交互に敵を引き付け、退き……
 敵が倉庫群に十分に入り込んだのを見計らい、ミグはそこへ直接グランドスラムの砲弾を叩き込んだ。
 仕掛けられていた弾薬類が次々と誘爆して角竜たちを薙ぎ払い……倉庫群を包み込んだ炎が壁となって敵軍の進撃を阻んだ。


 第五城壁を突破した敵軍は第五街区へ雪崩れ込み、電撃的に侵攻を開始した。
 第五城壁南門から第四城壁南門へと続く大街道のルートは、ハンターたちの遅滞戦闘によりその侵攻の足を鈍らせた。が、既に状況は門だけ守れば良いというものではなくなっていた。
「……堅実な戦い方をする将だと思っていましたが……こんな戦い方もできるのですね……」
 操縦席の外に出た機体とパイロット、双方を『ヒーリングスフィア』で回復しながら、サクラがどこか感心したように呟いた。
 無論、感心しているばかりではいられなかった。第四城壁もまた第五城壁と同様に各所で破られ、敵は既に第四街区へも雪崩れ込んでいた。最早、城壁には頼れない。市街戦──正念場だ。なんとしてもここで敵を食い止めなければ──!

「道具や工房が大事だっていうのは僕にも大変に共感するところではあるけれども……でも、ここで死んでしまったら技術が絶える。破壊されたこの王都を直すのは職人の仕事だ。ここは避難してくれませんかね……?」
 第四街区、職人街── 避難せずに残っていた職人たちを説得し、魔導トラックへと乗せる金目たち。それを前景にして機動するざくろ機が、侵入して来た巨人型古代兵器と切り結びながら叫んだ。
「強くなって帰って来た敵か……まさに物語の王道に相応しい! でも、王都を、人々を護る為、これ以上好きにはさせやしない!」
 魔導トラックが走り去ったのを確認し、目の前の巨人型を斬り捨てて、後、一路、碁盤の目状の街を後方へと機を走り始めるざくろ。他の巨人型が追い掛けて来るのを見て、路地一つ分下がった所で足を止め、敵の剣撃を受け止めて。直後、アクティブスラスターを焚いて側面へ回り込んで来たロニ機がビームキャノンを放ち、十字砲火でその巨人型を撃破する。
「こういう戦い方は、傲慢の歪虚の教科書にはありやがりますかねぇ!」
 叫び、シレークスは迫る敵の眼前で、道の左右の建物を崩落させ、正面の道を封鎖した。その瓦礫の山を乗り越えて来ようとする敵へ、先に高所を占めたシレークス機が聖機槍を突き下ろす。左右に回り込もうとする他の敵は、建物の陰に隠れていたサクラがその足元に『ブルガトリオ』を放って足を止める。
「新手の巨人型と多脚戦車を確認しましたぁ! けどぉ、なんか巨人型の動きが妙に良いですよぅ? それとぉ、多脚戦車には何かちぐはぐな武装と追加装甲がたくさんデコられてますぅ。動きを犠牲に攻撃力と防御力をアゲた感じですぅ!」
 上空のハナが地上の味方に新たな情報を下ろした。敵の新手は全て古代兵器群。歩兵たちの姿はない。巨人型は巨大な盾(破壊された他の古代兵器の装甲板の残骸だ)を構え、横列に展開。それを前衛に戦車型が後衛から砲撃態勢に入る。
「歩兵と戦車の役割逆じゃねえ? いや、あの巨人型なら戦車の壁役も出来そうだけども!」
「どの敵も前回の戦闘を踏まえて工夫を凝らしている様子。同じおもてなしでは相手に失礼でしょうね」
 惣助とハンスは新手に対応するべくそれぞれに行動を開始した。射撃位置についたミグ機もそのツインタワーによる砲撃を開始する。
「『グランドスラム』解禁じゃ! 唸れ、『アルケミックパワー』!」
 ミグは前衛、盾を構える巨人型の背後へグランドスラムを撃ち込んだ。強烈な爆発が周囲広範囲を巻き込み、背後から爆風に煽られた巨人型の隊列が乱れた。
 その間隙に乗じる形で、ハンスとエルが背後の多脚戦車に狙いを定めた。『貫通の矢』を弓に番えて放つハンス機。エルもまた温存していたマテリアルキャノン「タスラム」を解禁し、エンハンサーで威力を底上げした砲撃を浴びせ掛ける。
 直撃を受けた多脚戦車の正面装甲が吹き飛んだ。だが、弾け飛んだのは増加装甲部分のみで、その『中身』たる本体には殆ど傷がついていなかった。
「ほぅ! 随分雑な見た目と思ってましたが、疑似的に特殊弾頭(スキル)をキャンセルしましたか!」
「ならば、直接殴るのみ!」
 ハンスの射撃の結果を受けて、惣助機が真正面から敵へと突っ込んで行った。体勢を崩しながらも口から怪光線を放つ巨人型。多脚戦車も砲やマイクロミサイルを速射乱射して迎え撃つ。
 それを一歩先行したロニ機が展開した『エンジェルハイロゥ』が阻んだ。直後、『アクティブスラスター』を噴かして巨人の間を抜けた惣助機が、多脚戦車隊の中へと飛び込み、近接格闘戦を敢行する。
 隊列の只中に飛び込んだ『袋のネズミ』を背後から襲おうと巨人型たちが転回する。が、そこへ上方から逆落としに急降下してきた旭とウルミラが『鎖籠手』と『ファントムハンド』を放ち、地面へ引き倒し、或いは押し付ける形で惣助機の背後の巨人型の動きを止めた。
 瞬間、巨人機の横列の間隙に機を踏み込ませ、突出した惣助機とロニ機の背中を守るように巨人型に対するマッシュ機。それは敵巨人型と多脚戦車の間に楔を打ち込み、分断する形となった。
「今じゃ! 各個に吹き飛ばしてやれ!」
 突出した3機に対応する為、こちらに背を向けた巨人型に対して、ミグ機とエル機が砲撃を浴びせ掛ける。立て続けに破孔を穿たれた巨人型が炎を噴き出し、地に膝をついて擱座した。
 ウルミラもまた攻勢に転じた。旭が拘束した敵へ盾ごとぶつかり、開いた身体へ機甲槍を突き入れるマッシュ機。その背後へ回り込もうとした巨人型の更にその背後から回り込み、魔力を込めた魔槍の一撃で以ってその頭部ユニットを破壊する。
 一方、多脚戦車隊に対した惣助機は『プラズマデフレクター』を展開しつつ、大壁盾を翳して突進。敵主砲の釣瓶撃ちをものともせずに雄叫びと共にドリルランスを突き入れ、撃破する。ハンス機もまたロニ機の光の壁の陰から飛び出し、向けられた主砲を左腕で弾きつつ、斬艦刀を砲塔基部へと捻じ込み、そのまま刃を右に引いて半ばからそれを断ち斬った。
「新手の敵多脚戦車ぁ!」
 その突出組の上空で星降る如く回復の光を、札束を撒くが如く『五色光符陣』を投射して支援に当たっていたハナが、こちらへ突っ込んで来る更なる新手に気付いて警告を発した。
 出現と同時に、その多脚戦車は機体外部に括りつけていた大型誘導弾をリリースした。亀型砲兵が使用していたものだった。
 放たれたミサイルは後方で射点を取っていたミグ機とエル機に小型爆弾の雨を降らせた。エル機はタスラムを抱え込むと地面へ身を投げ出して降り注ぐ爆弾と爆発から機体と得物を守り……そのまま伏射姿勢へ移行すると新手戦車へ照準。外部兵装を狙撃した。
 追加のパワーユニットを撃ち貫かれ、新手多脚戦車の後部が丸ごと炎に包まれた。それでも敵は止まらず、多脚戦車隊と戦闘中の惣助機にぶち当たり……直後、上部ハッチから飛び出して来た人影がそのまま惣助機の肩に駆け上がり、その頭部を魔力を纏った拳でぶん殴りつつ、更に上空へと跳躍する。
「ムッ!?」
 それは完全な不意打ちとなった。味方を支援する為、多脚戦車隊に背を向ける形となっていたウルミラが魔力の塊(カ○ハメ波的なアレ)の光に呑まれて地面へ墜落し……その人影、マシューは更にマッシュ機に『着地』すると、地面を踏む様な蹴りでもってマッシュ機の装甲を踏み抜いた。
「まさかの格闘スタイルだとぉ!?」
 突然の敵将登場にハンターたちは混乱し、その隊列が一瞬、乱れた。
「私を護れ──」
 マシューが選んだ次手は攻撃ではなく、広範囲型の【強制】だった。敵将を討たんとする者と、知らず敵将を護らんとする者らが周囲で機体を激突させ……
 だが、その混乱は、5秒後には収まっていた。【強制】は抵抗され、そして、回復が施された。
 結果から言えば、マシューは攻撃を継続してハンターたちの混乱を長引かせるべきだった。ハンターたちは【強制】を予測して事前に十分な対策を取っていた。
「このままここで敵将を討ちます! 邪魔されぬよう分断を!」
 ハンターたちはすぐに状況に対応した。ロニ、マッシュ、ハンスは、まだ周囲に残存していた古代兵器に対応するべく外周で壁となり。惣助、旭、ハナが敵将マシューを取り囲む。後衛の砲撃・狙撃機も、ミグが敵将を、エルがその他に対応することを無言の内に決定した。
「前回は逃がしましたが、ここで決着を……」
 気絶したプラーナの元に駆け寄り、ウルミラを回復しながらサクラが戦場を見る。
「僕たちを……人類を、舐めるな!」
 別の場所へ誘導した敵の一群を撃滅して来たざくろ機とシレークス機が、マシュー討伐の輪に加わった。
 惣助が檄を飛ばし、突進を開始する。
「ここで仕留める! 自分たちの仕事は自分たちでケリをつけないとな!」
「出し惜しみはなしじゃ! スキルも特殊砲弾も全部乗せで何もかも吹き飛ばす!」
 人間大の敵将に対して、ミグは容赦なく大砲の照準を合わせて引き金を引いた。……ハルトフォート撤退時はマシューら三将に追い掛け回された。河畔での戦いでは逆にまんまと逃げおおせられた。それが何の巡り合わせか、最後の戦場でこうして出会った。それが因縁であるというなら、もう逃がすわけにはいかない。
 砲弾が直撃し、敵将が大きく仰け反った。その最初の一撃をマシューは【懲罰】で転写した。瞬間、ミグ機の砲の1門が裂けて喇叭の様に花開き、尾栓に込められていた砲弾が爆発。マシューが受けたダメージと同等の被害をミグ機にもたらした。
 ハンターたちの脳裏に【懲罰】が刷り込まれた。これでハンターたちは無意識に全力での攻撃を躊躇する──はずだった。
「そう簡単に思い通りに操られはしない! グランソード、連続斬りだ!」
 まるで躊躇することなく飛び込んでいったざくろが、構わず全力攻撃を敢行する。まるで機体自身が操縦手と連携するかの如く、ざくろの攻撃に応じてオートで追撃を放つグランソード。一瞬、心が通い合ったかのような交感は、しかし、マシューが放った二度目の【懲罰】によって断ち斬られた。ざくろ機の正面装甲に斬撃の跡が刻まれた。
 だが、そのざくろの行動は仲間たちの闘志に再度、火を点けた。ハンターたちは【懲罰】を恐れず、全力でマシューに殴り掛かっていった。
(どうだ! 確実な一手を好む将なら、事前の想定通りに戦いが進まないのは堪えるだろう! 焦れ、焦れろ! それが俺たちの勝機を引き寄せる、ってな!)
 上空から周囲の味方へ『望みの白雨』──希望の力を降り注がせて、戦う力を回復させつつ、旭が心に叫ぶ。
「……。やはり【狂化】せざるを得ぬ、か……」
 それは美を至高とする傲慢の歪虚にとって最大の屈辱である。だが、『敗北しないこと』に価値を置くマシューにとって、事ここに至っては是非も無い。
 マシューが【狂化】を開始した。その身は醜く膨れ上がり、CAMに匹敵するまでに巨大化した。そして、全身の無駄な体毛の一切が抜け落ちて、分厚い筋肉の鎧がその全身を覆い尽くした。
「それがお前の本当の姿か? それともベリアルのように矮小な姿を隠しているのか?」
 ハンターの誰かが呟いた。
「キショッ!」
 これは誰が言ったか分かった。ハナだ。


 無限とも思える数の徹甲弾を後衛から撃ち続けて来るミグ機をどうにかする為、前衛の包囲の輪を抜けたマシュー(狂化)があり得ないスピードでそちらへ向かって突進した。
 比べるのも馬鹿らしいその速度の差に、それでも後退しながら砲撃を続けるミグ機。あっという間に最小射程の内側へと潜り込まれて、万事休すと思えた瞬間── 横からスライドするように両者の間に割り込んで来たエル機が迎撃を開始した。
 スラスターを噴かせて後方へと跳び流れながら、炎の精霊と共に舞い踊る様な動きでミグ機が放つ『ファイアーボール』。更に左腕に纏わりつくように飛び踊る風の精霊を『ウィンドカッター』として投射する。
 その攻撃に、マシューが二度目の【懲罰】を発動させた。瞬く間に距離を詰めて来たマシューの眼前でエル機の左膝から下が砕け……直前、エルはフライトシステムを全力噴射して地を蹴り、空へと逃れ出る。
 思わず見上げたマシューの目に飛び込む太陽光──その陽光とエル機をスクリーンにするように陰から飛び出して来た旭が、地上のマシューへ突撃を敢行し、降下の速度と自身の質量を丸ごと乗せて魔槍を敵へと突き入れた。
 血液の代わりに噴き出す負のマテリアル。その痛撃に対して、マシューが三度目の【懲罰】を発動させる。
 転写の呪いを受けたのは、旭ではなく飛竜だった。意識の飛んだ相棒共々大地へと激突し、地面を転がり跳びながらも身を起こし、「ロジャック……!」と相棒の身を案じる旭。その身と周囲に落ちた影に旭はハッと顔を上げた。……地面に影を落としたのは、止めを刺しに迫るマシューの巨体──その蹴りが振り抜かれる寸前、スラスターを噴かせて飛び込んで来た惣助機がその一撃を受け止めて。その間に駆けつけて来たサクラが旭を回復させつつ、離脱した。
「まだ戦えますか?」
「勿論だ! ロジャックの仇を取る!」
 死んでないけど、と内心ツッコミを入れながら気を失う飛竜。そちらから目を逸らす為に『五色光符陣』をばら撒いたハナに向けて四度目の【懲罰】が発動され、大きく火傷に喘ぐ天馬の姿にハナは慌てて手綱を引いた。
「くっそ……! スーちゃんの回復の為に一旦、下がりますぅ……!」
 そう告げて戦場上空から一旦、退くハナと天馬。この時点ではハナ本人も誰も気付かぬ殊勲だったが、敵将の【懲罰】はそれで打ち止めになっていた。
「これが最後だ。巡礼陣最大化まで……凌ぎ切るぞ」
 ただ一機、マシューの正面に立って切り結ぶ惣助機。強烈な狂化歪虚の攻撃を数多喰らって削られながら、その堅牢な機体と大壁盾はその猛攻に耐え続けた。
 そこへ、拘束系カウンターから逃れ出てきたシレークス機とざくろ機が到着し、再び後衛への進路を閉ざした。後退を止めたミグ機とエル機が砲撃と狙撃を再開する。
 エルが敵将へ攻撃する──その事実はもう一つの事実をハンターたちに示唆していた。即ち、周囲の巨人型と多脚戦車型が全滅したという事実を。
「残る敵はあの将だけだ。戦力を集中し、撃破する!」
「まだ終わっていませんでしたか。実に素晴らしいッ!」
 マッシュ機の支援の下、敵へと突撃していくロニとハンス。ロニは機体に己のマテリアルを注ぎ込むと、それを経由し武装にエネルギーを補給し、ビームキャノンを発射した。ハンスは敵将の周りを円を描く様に機体を回り込ませつつ、機を見て突撃。縦横無尽に白刃を振るって狂将の肉鎧を削りまくった。
「貴様らに事後なんてないのじゃ。この場にて腐れ落ちて逝くがよい」
「いい加減、くたばれ。将らしく潔くな」
 左の砲一門で徹甲弾を浴びせ続けるミグ機の砲撃の合間を縫い、敵将へ肉薄した惣助機が、掌で攻撃を受け止めた相手にドリルランスを押し込み、肉を削る。それをガッシと掴んでドリルの回転を止めたマシューに惣助が目を見開き……そのまま握り潰された槍を捨てて、一旦、距離を取る。
 その瞬間、シレークス機の陰から飛び出して来たサクラが闇の刃を放って敵の注意を惹き──その間に、反対側のざくろ機の陰から飛び出して来た旭とウルミラが、それぞれマシューの左右の膝裏に思いっきり魔槍を突き入れた。
 思わぬ伏兵の攻撃に反撃を放とうとした敵将は、だが、ざくろの結界によってその攻撃のベクトルを捻じ曲げられ……そうして放たれる一撃を、ざくろが『攻勢防壁』の罠に掛けた。
「吸い込め、電磁の竜巻……超電磁バリアー!」
 バチンッ、という音共にマシューの裏拳が弾かれ、その体勢が大きく崩れた。
「今度は逃がさねぇです。光の威光、刮目してみやがれ!」
 その一瞬の隙を見逃さず、シレークスは『万象の器』を全使用。守りを棄てた攻めの構えで聖機槍の穂先に魔力を集中し、レーザー砲の如き光の刺突を突き入れた。
 マシューの筋肉鎧ごと、光の柱が穿ってその身体に大穴を開けた。だが、マシューは倒れない。
「一刀両断、スーパー超重斬!」
 新規に制作されたバンクシーンで巨大化した機剣を振り被り、光の刃を振り下ろすざくろ機。鎖骨から胸部の半ばまで敵将の身体が断ち割られ──だが、それでもマシューは倒れない……!


 マシューに最終的にトドメを刺したのは、やはり巡礼陣であった。
 狂化した歪虚を相手に、ハンターたちはその攻勢を寡兵で遂に防ぎ切った。サクラやハナたち、各機が持つ全ての回復スキルを消耗し尽くした果ての勝利であった。
「何とか堪え切れたか……」
 大地から舞い上がり、空間自体そのものを浄化するかの如く辺りを満たす巡礼陣の白光── ボロボロになりながら、身体の端から空中に溶けるように崩れていくマシューの死骸──
 ハンターたちは立ち上がる気力もなく、その勝利の光景をただ黙って見送った。

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重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ロジャック
    ロジャック(ka0234unit002
    ユニット|幻獣
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    セイレンゴウ
    清廉号(ka0551unit003
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    エクスハラティオ
    エクスハラティオ(ka0752unit006
    ユニット|CAM
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka0771unit003
    ユニット|CAM
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウボウケンオウグランソード
    魔動冒険王『グランソード』(ka1250unit008
    ユニット|CAM
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    スーチャン
    スーちゃん(ka5852unit007
    ユニット|幻獣
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka6750unit005
    ユニット|CAM
  • 焔は絶えず
    ウルミラ(ka6896
    ドラグーン|22才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    プラーナ
    プラーナ(ka6896unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

  • ヴィーズリーベ・メーベルナッハ(ka0115)
  • フローレンス・レインフォード(ka0443)
  • レベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)
  • アデリシア・R・時音(ka0746)
  • 狐中・小鳥(ka5484)
  • 金目(ka6190)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/30 04:40:03
アイコン 相談です…
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/05/30 06:50:46