ゲスト
(ka0000)
【金糸篇】祈りの時間に欠けるもの
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/22 12:00
- 完成日
- 2019/07/02 01:14
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「そうなの……すごく素敵な司祭様だって聞いてね、私、一度お話してみたいんだけど恥ずかしくて」
と、茶髪の少女ははにかんで黄色いワンピースの裾を握った。隣に座っている少年は少し緊張しているようだ。通りかかる大人たちは、気のある女の子から恋愛の相談を受けている、ように見えて微笑ましかったかもしれない。
「そうなんだ。アルトゥーロ司祭さんはとっても優しいよ」
少年は言った。
「体の大きな人だけどね」
「くまさんみたいな人?」
「くまはあんなにのんびりしてないと思うなぁ」
すこしぎこちない笑みを浮かべる。
「いつだったらお忙しくないのかしら?」
「うーん、どうだろう。聞いてきてあげようか?」
「うん! お願いするわ。あ、でも、私のことは内緒にしてね?」
「どうして?」
「は、恥ずかしいわ……」
もじもじと裾をいじり回す彼女は、素敵な司祭様に一目お会いしたい少女の姿そのもの。
その指が、固く冷たい陶器の様な質感であることを、彼は指摘しなかった。
●
嫉妬歪虚アウグスタは次の狙いを再度、司祭アルトゥーロに定めていた。どうも、あの人は私のことを知っているらしい。もしかして、からくり屋敷で落とされたのも、あの人の入れ知恵なんじゃないの。
だとしたら、もう二度とおしゃべりできないようにしないといけない。
ということで、彼女は「アルトゥーロ司祭に憧れる隣町の少女」を装って情報収集を始めた。以前アルトゥーロを襲撃した時に人に見られた可能性はあるが、全員ではないだろうし、目撃者は蜘蛛に気を取られているだろうから、少女歪虚の姿までは覚えていないに違いない。人間なんて簡単に騙されるんだから。そう思って、彼女は真面目そうな少年を見付けてアルトゥーロを殺せそうな時間や状況を調べた。
ちなみに、この「隣町」というのは、別件で滅多刺しにした司祭がいる町である。
(ちょっとヘンリーに似てるからちょろそう)
以前たぶらかそうとした背の高い少年に似ていた。とはいえ、最終的にそのヘンリーにすら裏切られたのだが都合の悪いことは忘れている。
ヘンリー二号から聞き出した情報を総合して、アウグスタは襲撃の日を定めた。町が寝静まった真夜中。司祭がお祈りをすると言う時間帯。聖堂にこっそりと忍び込む。前は、おじいさまと慕う嫉妬王から情報提供を受けた風変わりな歪虚で殺そうと目論んだのだが、もうまだるっこいことは無しだ。鞭で絞め殺す。
外に大蜘蛛と複数の小蜘蛛を待機させ、自分は三匹の小蜘蛛を連れて聖堂にそっと入り込む。
祭壇の前には、背の高い、法衣を来た人物が、頭巾を被って祈りを捧げている。
「この世のお別れよ、司祭様」
アウグスタは顎を引く。
「お祈りの時間ならあげるわ」
その人は振り返った。
●
「そうですか。ありがとうグイド。もう少し手伝って下さい」
アルトゥーロが手を握って眉を寄せると、ヘンリー二号……アウグスタが情報を引き出す相手として選んだ少年、グイドは、真っ青になりながら頷いた。
「君を危険な目に遭わせているのは重々承知ですが、僕を殺せると確信すれば、もう君にちょっかいはかけないはずです」
「そ、それは良いんですけど……」
グイドは司祭の手を握り返した。
「アルトゥーロ司祭さんは、もう殺されたりしませんよね? この前みたいに死にかけたりしませんよね?」
「ええ、大丈夫でしょう。今回はいつ来るか予想は付きます。彼女を追い掛けているハンターさんたちと待ち伏せしますよ」
「絶対生きて帰って来て下さいね?」
「はい。約束します」
グイドはアウグスタのことにすぐ気付いた。陶器の肌をした、黄色いワンピースの少女。そう聞いていたから、機転を利かせてすぐにアウグスタの話を切り上げた。それから司祭に相談した、と言うわけだ。
「グイド、頼まれてくれませんか?」
アルトゥーロは一か八かの賭けに出た。また自分の周りに現れたと言うことは、自分を殺しに来るはずだ。だったら、時間と場所をこちらで誘導してしまえば良い。
そして、グイドにその情報を流させたというわけだ。
「どうするんですか? 迎え撃つんですか?」
と、尋ねるのは友人のヴィルジーリオ(kz0278)だ。
「うん……迎え撃とう。今、アウグスタを追い掛けてるハンターさんたちがいるよね。彼らにも助力を頼む」
「私も手伝いましょう。どうも、私の町から来たと言っているようですし。ふてぶてしいですね」
「良いのかい?」
「ええ、もちろん」
そして彼らは、現在アウグスタ関連事件を追っているハンターたちにこの話をした。そして言った。助けて欲しい、と。
「この時間、聖堂に僕が一人でいると思っています。待ち伏せすればやってくる筈」
その情報を得て、ハンターたちは聖堂で待ち伏せすることになったのであった。
「そうなの……すごく素敵な司祭様だって聞いてね、私、一度お話してみたいんだけど恥ずかしくて」
と、茶髪の少女ははにかんで黄色いワンピースの裾を握った。隣に座っている少年は少し緊張しているようだ。通りかかる大人たちは、気のある女の子から恋愛の相談を受けている、ように見えて微笑ましかったかもしれない。
「そうなんだ。アルトゥーロ司祭さんはとっても優しいよ」
少年は言った。
「体の大きな人だけどね」
「くまさんみたいな人?」
「くまはあんなにのんびりしてないと思うなぁ」
すこしぎこちない笑みを浮かべる。
「いつだったらお忙しくないのかしら?」
「うーん、どうだろう。聞いてきてあげようか?」
「うん! お願いするわ。あ、でも、私のことは内緒にしてね?」
「どうして?」
「は、恥ずかしいわ……」
もじもじと裾をいじり回す彼女は、素敵な司祭様に一目お会いしたい少女の姿そのもの。
その指が、固く冷たい陶器の様な質感であることを、彼は指摘しなかった。
●
嫉妬歪虚アウグスタは次の狙いを再度、司祭アルトゥーロに定めていた。どうも、あの人は私のことを知っているらしい。もしかして、からくり屋敷で落とされたのも、あの人の入れ知恵なんじゃないの。
だとしたら、もう二度とおしゃべりできないようにしないといけない。
ということで、彼女は「アルトゥーロ司祭に憧れる隣町の少女」を装って情報収集を始めた。以前アルトゥーロを襲撃した時に人に見られた可能性はあるが、全員ではないだろうし、目撃者は蜘蛛に気を取られているだろうから、少女歪虚の姿までは覚えていないに違いない。人間なんて簡単に騙されるんだから。そう思って、彼女は真面目そうな少年を見付けてアルトゥーロを殺せそうな時間や状況を調べた。
ちなみに、この「隣町」というのは、別件で滅多刺しにした司祭がいる町である。
(ちょっとヘンリーに似てるからちょろそう)
以前たぶらかそうとした背の高い少年に似ていた。とはいえ、最終的にそのヘンリーにすら裏切られたのだが都合の悪いことは忘れている。
ヘンリー二号から聞き出した情報を総合して、アウグスタは襲撃の日を定めた。町が寝静まった真夜中。司祭がお祈りをすると言う時間帯。聖堂にこっそりと忍び込む。前は、おじいさまと慕う嫉妬王から情報提供を受けた風変わりな歪虚で殺そうと目論んだのだが、もうまだるっこいことは無しだ。鞭で絞め殺す。
外に大蜘蛛と複数の小蜘蛛を待機させ、自分は三匹の小蜘蛛を連れて聖堂にそっと入り込む。
祭壇の前には、背の高い、法衣を来た人物が、頭巾を被って祈りを捧げている。
「この世のお別れよ、司祭様」
アウグスタは顎を引く。
「お祈りの時間ならあげるわ」
その人は振り返った。
●
「そうですか。ありがとうグイド。もう少し手伝って下さい」
アルトゥーロが手を握って眉を寄せると、ヘンリー二号……アウグスタが情報を引き出す相手として選んだ少年、グイドは、真っ青になりながら頷いた。
「君を危険な目に遭わせているのは重々承知ですが、僕を殺せると確信すれば、もう君にちょっかいはかけないはずです」
「そ、それは良いんですけど……」
グイドは司祭の手を握り返した。
「アルトゥーロ司祭さんは、もう殺されたりしませんよね? この前みたいに死にかけたりしませんよね?」
「ええ、大丈夫でしょう。今回はいつ来るか予想は付きます。彼女を追い掛けているハンターさんたちと待ち伏せしますよ」
「絶対生きて帰って来て下さいね?」
「はい。約束します」
グイドはアウグスタのことにすぐ気付いた。陶器の肌をした、黄色いワンピースの少女。そう聞いていたから、機転を利かせてすぐにアウグスタの話を切り上げた。それから司祭に相談した、と言うわけだ。
「グイド、頼まれてくれませんか?」
アルトゥーロは一か八かの賭けに出た。また自分の周りに現れたと言うことは、自分を殺しに来るはずだ。だったら、時間と場所をこちらで誘導してしまえば良い。
そして、グイドにその情報を流させたというわけだ。
「どうするんですか? 迎え撃つんですか?」
と、尋ねるのは友人のヴィルジーリオ(kz0278)だ。
「うん……迎え撃とう。今、アウグスタを追い掛けてるハンターさんたちがいるよね。彼らにも助力を頼む」
「私も手伝いましょう。どうも、私の町から来たと言っているようですし。ふてぶてしいですね」
「良いのかい?」
「ええ、もちろん」
そして彼らは、現在アウグスタ関連事件を追っているハンターたちにこの話をした。そして言った。助けて欲しい、と。
「この時間、聖堂に僕が一人でいると思っています。待ち伏せすればやってくる筈」
その情報を得て、ハンターたちは聖堂で待ち伏せすることになったのであった。
リプレイ本文
●司祭の身代わり
フワ ハヤテ(ka0004)はアルトゥーロの身代わりを引き受け、装備の上からローブを着て入り口に背中を向けている。その近くにはイリアス(ka0789)とレイア・アローネ(ka4082)、そしてアルトゥーロ本人が隠れている。
聖堂のドアが開いた。「うんしょ」と小さな声も聞こえてくる。アウグスタだ。ハヤテは集中した。マテリアルの流れを把握する。足音が近づいて来る。見なくてもわかる。お供に蜘蛛も数匹連れているようだ。
「この世のお別れよ、司祭様」
自分の勝ちを確信した声だ。
「お祈りの時間ならあげるわ」
笑い出しそうになるのを堪える。いつもそうやって余裕を見せて追い込まれているじゃないか。ハヤテは振り返った。優しげと一言で表しても、顔立ちは全く違う。アウグスタの表情が変わった。意地悪な笑みから、それこそ鳩が豆鉄砲でも食らったような顔だ。
「誰とお間違えかな?」
キタブ・アル・アジフは開かない。発動媒体は持っているアクセサリーだ。
(式を組み、マテリアルを練り上げ、そして撃つ。基本さえ押さえていれば、魔法は何時でも使えるものさ)
息を呑み、何か言うために口を開こうとしたアウグスタは、後ろから水を被って前に転んだ。次に土。しかしこちらは横に転がって回避する。起き上がると、もう表情は変わっていた。ハヤテが意識したかどうかはともかく、わかりやすい武器ではなく、アクセサリーからの不意打ちは、ハンクがアウグスタから逃げるときに使ったのと同じ手だった。少なくともアウグスタはそう思ったので、二度も同じ手を食ったことに対して怒り心頭だ。
「また騙したわね!」
「そういえば騙すのは二度目かな。いやーすまない、あまり善人じゃないんだ、ボクは!」
「どうもそうみたいね! あなただけよ、こんなにズルするの!」
アウグスタは体勢を立て直す。そこに、レイアがガウスジェイルを纏って飛び出した。守りの構えでハヤテとアウグスタの間に割り込む。
「フワ、下がれ!」
「そっちに行ったら駄目よ!」
イリアスも、長椅子の上を渡って弾幕を張る。アウグスタは伏せて頭をかばった。それが止んでも、彼女の金色の瞳は依然ハヤテを見据えていた。怒りに燃えている。からくり屋敷の時よりは、悔しさが勝っているように見えた。立ち上がると、鞭にマテリアルを纏わせてハヤテを追う。
「行かせないぞ」
そこにレイアが立ちはだかった。
「邪魔よ」
アウグスタは鞭を振るった。ハヤテが全力で距離を取っている間、通すわけには行かない。レイアの足が強かに打ち付けられた。
「うっ……!」
マテリアルの乗った痛打に顔をしかめると、アルトゥーロのフルリカバリーが掛かる。
「君、出てきて良いのかい?」
ハヤテはその後ろに隠れながら呑気に尋ねた。アルトゥーロは振り返って、
「いや、今一番狙われるのあなたですからね!?」
アルトゥーロは事務的に殺す相手。ハヤテは私怨で殺したい相手。アウグスタのような激情家がどちらを優先するかと言えば……当然後者だ。
「ところで」
アウグスタは鞭を鳴らしながら目を細めた。自分が何かしようとすると必ず現れる二人がいない。鞍馬 真(ka5819)とレオン(ka5108)だ。
「真くんと青い髪のお兄さんは? あなたたちがいて、あの二人がいないわけないと思うんだけど?」
「鞍馬とレオンかい? どこにいると思う?」
ハヤテはにこやかに尋ねた。
その時、外から爆音が聞こえた。
●アテナの盾
「また騙したわね!」
聖堂の中からアウグスタの怒声が聞こえてくる。正面から怒鳴られているであろうハヤテは、きっと表情一つ変えず──要するに笑顔で──応対しているのだろう。
「上手く引っ掛かったようだ。……こういう所は、子供らしいんだけどなあ」
聖堂の影から、灯火の水晶球を伴って出てきた真は、肩を竦めながら、剣に青いマテリアルを纏わせた。大蜘蛛は、体を地面に付けていたが、アウグスタの怒声を聞くや、重たい金属音を響かせて立ち上がった。
レオンも、同じように水晶球を連れて、自分の剣をソウルエッジで強化し、立ちはだかる。百はいるだろう小型蜘蛛に相対するためだ。
「援護します」
屋根の上からヴィルジーリオが声を掛けた。
「行こう」
レオンが、道を空けるように小型蜘蛛を薙ぎ払った。真は駆け出した。蜘蛛は彼を見つけた。姿勢を低くして警戒している。以前戦ったものと同一個体なのだろうか?
「行くぞ!」
蜘蛛が威嚇するように顎を開き、鳴らす。旋風の唄が、対抗するように響いた。オペレッタが唄っている。
二刀流から、動きを利用した第三撃。受け止めた脚が大きくひしゃげる。旋風の唄が体の強度を下げているからだ。
「小蜘蛛集団、後方爆破します」
上から声がして、ファイアーボールが飛んだ。小蜘蛛が吹き飛んでいく。
大蜘蛛は勢いよく排気音を立てると、真に向かって糸を吐きかける。自分に絡もうとする糸を、彼はカオスセラミックの刀身で切断した。本当は糸で絡め取ったところを轢殺しようとしたのだろうが、その目論見は外れる。蜘蛛は真に向かって突進したが、彼は難なく回避した。
小蜘蛛が群がって来た。レオンはイージスを構えてそれらの前に立ち塞がる。
「蜘蛛の子一匹通す気はないよ」
●祈りの時間に欠けるもの
レイアは足に痛みを覚えながらも、二刀流でアウグスタに迫った。ここまでの戦いですでにダメージを負っていたアウグスタの右腕、肘から先が、アスラトゥーリのオーラを受けて粉砕される。
「──何てことするの!」
鞭を左手に持ち替える。
ハヤテが狙い澄ましたマジックアローを放つ。これで三匹連れている二匹を撃破した。残り一匹と一人。アルトゥーロのレクイエムはアウグスタの動きを止めるには至らなかったらしい。
イリアスが攪乱を狙って走り回りながら弾幕を張る。アウグスタはそれを辛うじて避けながら、再びハヤテに狙いを定めた。
「行って!」
マテリアルを纏った蜘蛛が、ハヤテに向かって突進する。
「おおっと、危ない危ない! ひ弱なんだから手加減してくれよ」
「お腹に卵産み付けられて食べられちゃえば良いのに!」
「ボクに食べるところはないと思うんだけど、どうかな?」
もはや軽口を返す余裕もない。アウグスタは自分の前に立ち塞がるレイアを睨んだ。彼女は再び剣を握り直すと、それをまっすぐ突きつける。
神霊樹ライブラリで見た、アウグスタの最期。その姿に思いを強くして、挑む。
「アウグスタ……あの時、私には君を救う事は出来なかった。けど、せめて眠らせてやりたいと思う」
「余計なお世話!」
外で大きな金属音が響いた。向こうも決着が近いらしい。
弾幕を張る、弾丸を撃ち放つ、リロード、また弾幕。その繰り返しをしながら、イリアスはマテリアルを纏う鞭を見て、考える。
(歪虚でも、私たちに似た攻撃ができるのねえ……本当は、そういう素質があったのかしら)
もしアウグスタが生き延びていたら、覚醒者の素質があったのかもしれない。
今、隣で戦っていたかもしれない。
(私が援護して……彼女は前線だったのかしら。それとも、覚醒者なら後衛だったのかしら)
大人になったアウグスタはどのような性格になっていただろうか。
純白の銃身、ピースメイカーの銃口が軽快な破裂音を立てて弾丸を吐き出した。アウグスタの胴体に着弾する。
「……いよいよあなたも、私の敵ってわけね」
「ええ、そうなるわね」
イリアスは撃鉄を上げた。
●塵に沈む
ヴィルジーリオの援護とレオンの範囲攻撃で、小型蜘蛛は大分その数を減らしていた。レオンが大蜘蛛から直撃を受けたが、防御を固めていたおかげで大事にはいたらない。何しろ、盾は秘められたマテリアルの力を解放したものだし、鎧だって、頭からつま先まで覆うようなものだ。絶対に倒れないという強い意思の表れ。
真からの猛攻を受けて、大蜘蛛は満身創痍の有様だった。数本、足が連結部や根元から採れてしまっている。
レオンが前に出る。アルマス・ノヴァの刀身には、マテリアルに反応して星空が広がっている。祈りを捧げる、傍らの夜空。
大蜘蛛の目がレオンを見据えた。その目をレオンはまっすぐに見返して、言った。
「ずっとアウグスタを守っていたんだね……」
弱りながらも方向転換をしようとして、足の関節部分が軋んだ。返事をするかのようにも、アウグスタの危機を悟って泣いているようにも聞こえた。
「でもごめん。倒すよ」
レオンは地面を蹴った。
刺突一閃。鉄板の大蜘蛛は星空に貫かれる。残っていた脚が、全て関節から崩壊した。その塵の中に溺れるように、本体もまた自壊して行く。レオンと真はそれを見送った。ひときわ大きな、軋む音が止むと、小型蜘蛛の歩く音も木々のざわめきの様に思える。
「……残った小蜘蛛、爆破します」
屋根の上から火球が飛んだ。まだ終わりではない。
●合流
右腕と左脚、こめかみの一部が欠損した状態で、アウグスタは長椅子に掴まって立っている。イリアスがリロードして、再び狙いを付ける。
「無事かい」
聖堂のドアが開いた。真、レオン、ヴィルジーリオが外を片付けて合流したのだ。三人は、もはやヒトの形を捨てつつあるアウグスタに一瞬戸惑った様だが、すぐ戦闘態勢に入る。
アウグスタは顔をしかめると、即座に指笛を吹いた。高く乾いた音が、聖堂の天井まで響く。威嚇にも、涕泣にも聞こえた。
「レイア、下がって」
盾を持ったレオンが、傷だらけのレイアを後ろに下げる。そしてアウグスタと視線を合わせて、言った。
「やあ。お待たせ」
「来なくても良かったのよ」
「なんだい、彼らの居所を気にしていたじゃないか」
ハヤテがからかう様に言うのとほぼ同時に、アウグスタは片足で跳びだした。すぐ目の前にいるレオンに向かって鞭を振るう。
盾で受け止めながら、レオンは前と今とでの心境の変化を思った。変わり果てたアウグスタをしっかりと見る。その殺意も、過去も、在り方も受け止めて、その上で、
(ボクに彼女は救えない)
倒さなくてはならない。
(でも、せめて……これ以上は苦しむ事のない様にしてあげたい。)
●変身
アウグスタの攻撃をレオンがしっかりと受け止めたのを見て、真は踏み出した。二刀流から、アスラトゥーリ。増援が来る前に叩いておかないといけない。
ここで壊せるなら、躊躇わない。
オーラの一撃によって、アウグスタの残っていた左腕が、肩から鞭ごと吹き飛んだ。バランスを保てなくなり、アウグスタは転倒する。もう右脚と頭しか残っていないのだ。
「アウグスタ! 君のパパとママは……もうここには……いない……! だから……もう……眠るんだ……! 両親の元へ……!」
レイアが叫んだ。言い切ってから、彼女の中に疑念が生じる。
(……いけるだろうか……。歪虚として人を殺してきた彼女が……両親の元へ……)
罪を重ねたアウグスタの行き先はどこだろう。アルトゥーロが祈れば、あるいは……。
「うふふ」
そこまで考えて、レイアの思考はアウグスタの笑い声に遮られた。笑っている。嫉妬の娘が笑っている。
「何がおかしい」
真が険しい顔で問いただした。
「……私の手足が合わせて四本だけだと思ったら大間違いよ……」
「なんですって?」
イリアスが目を瞬かせたその時だった。外から悲鳴がする。たくさんの人間の悲鳴だ。何か恐ろしいものを見たような。
「外か!」
ヴィルジーリオが出ようとして、異変に気付いた。地響きのような音。いや違う、これは……。
「お出ましだね」
ハヤテが祭壇の上によじ登った。それは正しい行いだった。
聖堂の扉を吹き飛ばして、大量の小型蜘蛛が流れ込んできたから。
「うわっ!?」
ヴィルジーリオがひっくり返った。彼を下敷きにして、小型蜘蛛たちは爆走していく。
「援軍か!?」
「ヴィルジーリオさん!?」
真とイリアスが慌てて彼を起こした。特に目立った傷はない。その三人の傍も、レイアも、レオンも、アルトゥーロも、祭壇に座って足をぶらぶらさせているハヤテのことも無視して、蜘蛛たちはアウグスタに群がっていく。
「食べている……?」
真の眉間に皺が寄った。餌に群がる虫のような動きに見えるからだ。
「見て、蜘蛛が溶けてる」
イリアスの指摘した通りだった。蜘蛛はアウグスタの失った体を補填するように、溶け合ってアウグスタに融合していく。
「アラクネー……」
アルトゥーロが呻いた。
「古代リアルブルーの……蜘蛛の乙女」
主に下半身を埋めているらしい。腰から下が巨大な球体になりつつある。そして、その球体から、一本、また一本、蜘蛛の脚が飛び出した。腕を失った肩からも、尖った蜘蛛の脚が形作られる。
もはや知性も理性も感じさせない、怪物の如き雄叫びを上げて、アウグスタは天井を仰いだ。歯を剥き出しにし、その目にはもはや人格が見えない。
アウグスタはハンターたちをぎょろりと見下ろすと、方向転換をして飛び上がり、窓をぶち破って外へ飛び出した。外で重い音が響き、聖堂が少し揺れた。
「追わないと!」
真を先頭にして、レオン、レイア、イリアス、ハヤテ、司祭たちと続く。正面玄関を出て、回り込んだ頃には、かなり距離が離されていた。
アウグスタは特に建造物を意図的に破壊したりはしなかった。ただただ、甲高い雄叫びを上げながら、道を爆走して行く。恐れを成した住人たちは、屋内に閉じこもっているらしく人の姿は外に見えない。
「……何てことだ」
青くなったアルトゥーロが呟いた。
やがて、静かになった。三々五々、住人たちが出てくる。勇気あるものは教会までやって来た。
「司祭様……ご無事ですか?」
「ええ、なんとか」
「オフィスに戻りましょう」
イリアスが困った様に眉を寄せた。
「また問題ができちゃったわ」
フワ ハヤテ(ka0004)はアルトゥーロの身代わりを引き受け、装備の上からローブを着て入り口に背中を向けている。その近くにはイリアス(ka0789)とレイア・アローネ(ka4082)、そしてアルトゥーロ本人が隠れている。
聖堂のドアが開いた。「うんしょ」と小さな声も聞こえてくる。アウグスタだ。ハヤテは集中した。マテリアルの流れを把握する。足音が近づいて来る。見なくてもわかる。お供に蜘蛛も数匹連れているようだ。
「この世のお別れよ、司祭様」
自分の勝ちを確信した声だ。
「お祈りの時間ならあげるわ」
笑い出しそうになるのを堪える。いつもそうやって余裕を見せて追い込まれているじゃないか。ハヤテは振り返った。優しげと一言で表しても、顔立ちは全く違う。アウグスタの表情が変わった。意地悪な笑みから、それこそ鳩が豆鉄砲でも食らったような顔だ。
「誰とお間違えかな?」
キタブ・アル・アジフは開かない。発動媒体は持っているアクセサリーだ。
(式を組み、マテリアルを練り上げ、そして撃つ。基本さえ押さえていれば、魔法は何時でも使えるものさ)
息を呑み、何か言うために口を開こうとしたアウグスタは、後ろから水を被って前に転んだ。次に土。しかしこちらは横に転がって回避する。起き上がると、もう表情は変わっていた。ハヤテが意識したかどうかはともかく、わかりやすい武器ではなく、アクセサリーからの不意打ちは、ハンクがアウグスタから逃げるときに使ったのと同じ手だった。少なくともアウグスタはそう思ったので、二度も同じ手を食ったことに対して怒り心頭だ。
「また騙したわね!」
「そういえば騙すのは二度目かな。いやーすまない、あまり善人じゃないんだ、ボクは!」
「どうもそうみたいね! あなただけよ、こんなにズルするの!」
アウグスタは体勢を立て直す。そこに、レイアがガウスジェイルを纏って飛び出した。守りの構えでハヤテとアウグスタの間に割り込む。
「フワ、下がれ!」
「そっちに行ったら駄目よ!」
イリアスも、長椅子の上を渡って弾幕を張る。アウグスタは伏せて頭をかばった。それが止んでも、彼女の金色の瞳は依然ハヤテを見据えていた。怒りに燃えている。からくり屋敷の時よりは、悔しさが勝っているように見えた。立ち上がると、鞭にマテリアルを纏わせてハヤテを追う。
「行かせないぞ」
そこにレイアが立ちはだかった。
「邪魔よ」
アウグスタは鞭を振るった。ハヤテが全力で距離を取っている間、通すわけには行かない。レイアの足が強かに打ち付けられた。
「うっ……!」
マテリアルの乗った痛打に顔をしかめると、アルトゥーロのフルリカバリーが掛かる。
「君、出てきて良いのかい?」
ハヤテはその後ろに隠れながら呑気に尋ねた。アルトゥーロは振り返って、
「いや、今一番狙われるのあなたですからね!?」
アルトゥーロは事務的に殺す相手。ハヤテは私怨で殺したい相手。アウグスタのような激情家がどちらを優先するかと言えば……当然後者だ。
「ところで」
アウグスタは鞭を鳴らしながら目を細めた。自分が何かしようとすると必ず現れる二人がいない。鞍馬 真(ka5819)とレオン(ka5108)だ。
「真くんと青い髪のお兄さんは? あなたたちがいて、あの二人がいないわけないと思うんだけど?」
「鞍馬とレオンかい? どこにいると思う?」
ハヤテはにこやかに尋ねた。
その時、外から爆音が聞こえた。
●アテナの盾
「また騙したわね!」
聖堂の中からアウグスタの怒声が聞こえてくる。正面から怒鳴られているであろうハヤテは、きっと表情一つ変えず──要するに笑顔で──応対しているのだろう。
「上手く引っ掛かったようだ。……こういう所は、子供らしいんだけどなあ」
聖堂の影から、灯火の水晶球を伴って出てきた真は、肩を竦めながら、剣に青いマテリアルを纏わせた。大蜘蛛は、体を地面に付けていたが、アウグスタの怒声を聞くや、重たい金属音を響かせて立ち上がった。
レオンも、同じように水晶球を連れて、自分の剣をソウルエッジで強化し、立ちはだかる。百はいるだろう小型蜘蛛に相対するためだ。
「援護します」
屋根の上からヴィルジーリオが声を掛けた。
「行こう」
レオンが、道を空けるように小型蜘蛛を薙ぎ払った。真は駆け出した。蜘蛛は彼を見つけた。姿勢を低くして警戒している。以前戦ったものと同一個体なのだろうか?
「行くぞ!」
蜘蛛が威嚇するように顎を開き、鳴らす。旋風の唄が、対抗するように響いた。オペレッタが唄っている。
二刀流から、動きを利用した第三撃。受け止めた脚が大きくひしゃげる。旋風の唄が体の強度を下げているからだ。
「小蜘蛛集団、後方爆破します」
上から声がして、ファイアーボールが飛んだ。小蜘蛛が吹き飛んでいく。
大蜘蛛は勢いよく排気音を立てると、真に向かって糸を吐きかける。自分に絡もうとする糸を、彼はカオスセラミックの刀身で切断した。本当は糸で絡め取ったところを轢殺しようとしたのだろうが、その目論見は外れる。蜘蛛は真に向かって突進したが、彼は難なく回避した。
小蜘蛛が群がって来た。レオンはイージスを構えてそれらの前に立ち塞がる。
「蜘蛛の子一匹通す気はないよ」
●祈りの時間に欠けるもの
レイアは足に痛みを覚えながらも、二刀流でアウグスタに迫った。ここまでの戦いですでにダメージを負っていたアウグスタの右腕、肘から先が、アスラトゥーリのオーラを受けて粉砕される。
「──何てことするの!」
鞭を左手に持ち替える。
ハヤテが狙い澄ましたマジックアローを放つ。これで三匹連れている二匹を撃破した。残り一匹と一人。アルトゥーロのレクイエムはアウグスタの動きを止めるには至らなかったらしい。
イリアスが攪乱を狙って走り回りながら弾幕を張る。アウグスタはそれを辛うじて避けながら、再びハヤテに狙いを定めた。
「行って!」
マテリアルを纏った蜘蛛が、ハヤテに向かって突進する。
「おおっと、危ない危ない! ひ弱なんだから手加減してくれよ」
「お腹に卵産み付けられて食べられちゃえば良いのに!」
「ボクに食べるところはないと思うんだけど、どうかな?」
もはや軽口を返す余裕もない。アウグスタは自分の前に立ち塞がるレイアを睨んだ。彼女は再び剣を握り直すと、それをまっすぐ突きつける。
神霊樹ライブラリで見た、アウグスタの最期。その姿に思いを強くして、挑む。
「アウグスタ……あの時、私には君を救う事は出来なかった。けど、せめて眠らせてやりたいと思う」
「余計なお世話!」
外で大きな金属音が響いた。向こうも決着が近いらしい。
弾幕を張る、弾丸を撃ち放つ、リロード、また弾幕。その繰り返しをしながら、イリアスはマテリアルを纏う鞭を見て、考える。
(歪虚でも、私たちに似た攻撃ができるのねえ……本当は、そういう素質があったのかしら)
もしアウグスタが生き延びていたら、覚醒者の素質があったのかもしれない。
今、隣で戦っていたかもしれない。
(私が援護して……彼女は前線だったのかしら。それとも、覚醒者なら後衛だったのかしら)
大人になったアウグスタはどのような性格になっていただろうか。
純白の銃身、ピースメイカーの銃口が軽快な破裂音を立てて弾丸を吐き出した。アウグスタの胴体に着弾する。
「……いよいよあなたも、私の敵ってわけね」
「ええ、そうなるわね」
イリアスは撃鉄を上げた。
●塵に沈む
ヴィルジーリオの援護とレオンの範囲攻撃で、小型蜘蛛は大分その数を減らしていた。レオンが大蜘蛛から直撃を受けたが、防御を固めていたおかげで大事にはいたらない。何しろ、盾は秘められたマテリアルの力を解放したものだし、鎧だって、頭からつま先まで覆うようなものだ。絶対に倒れないという強い意思の表れ。
真からの猛攻を受けて、大蜘蛛は満身創痍の有様だった。数本、足が連結部や根元から採れてしまっている。
レオンが前に出る。アルマス・ノヴァの刀身には、マテリアルに反応して星空が広がっている。祈りを捧げる、傍らの夜空。
大蜘蛛の目がレオンを見据えた。その目をレオンはまっすぐに見返して、言った。
「ずっとアウグスタを守っていたんだね……」
弱りながらも方向転換をしようとして、足の関節部分が軋んだ。返事をするかのようにも、アウグスタの危機を悟って泣いているようにも聞こえた。
「でもごめん。倒すよ」
レオンは地面を蹴った。
刺突一閃。鉄板の大蜘蛛は星空に貫かれる。残っていた脚が、全て関節から崩壊した。その塵の中に溺れるように、本体もまた自壊して行く。レオンと真はそれを見送った。ひときわ大きな、軋む音が止むと、小型蜘蛛の歩く音も木々のざわめきの様に思える。
「……残った小蜘蛛、爆破します」
屋根の上から火球が飛んだ。まだ終わりではない。
●合流
右腕と左脚、こめかみの一部が欠損した状態で、アウグスタは長椅子に掴まって立っている。イリアスがリロードして、再び狙いを付ける。
「無事かい」
聖堂のドアが開いた。真、レオン、ヴィルジーリオが外を片付けて合流したのだ。三人は、もはやヒトの形を捨てつつあるアウグスタに一瞬戸惑った様だが、すぐ戦闘態勢に入る。
アウグスタは顔をしかめると、即座に指笛を吹いた。高く乾いた音が、聖堂の天井まで響く。威嚇にも、涕泣にも聞こえた。
「レイア、下がって」
盾を持ったレオンが、傷だらけのレイアを後ろに下げる。そしてアウグスタと視線を合わせて、言った。
「やあ。お待たせ」
「来なくても良かったのよ」
「なんだい、彼らの居所を気にしていたじゃないか」
ハヤテがからかう様に言うのとほぼ同時に、アウグスタは片足で跳びだした。すぐ目の前にいるレオンに向かって鞭を振るう。
盾で受け止めながら、レオンは前と今とでの心境の変化を思った。変わり果てたアウグスタをしっかりと見る。その殺意も、過去も、在り方も受け止めて、その上で、
(ボクに彼女は救えない)
倒さなくてはならない。
(でも、せめて……これ以上は苦しむ事のない様にしてあげたい。)
●変身
アウグスタの攻撃をレオンがしっかりと受け止めたのを見て、真は踏み出した。二刀流から、アスラトゥーリ。増援が来る前に叩いておかないといけない。
ここで壊せるなら、躊躇わない。
オーラの一撃によって、アウグスタの残っていた左腕が、肩から鞭ごと吹き飛んだ。バランスを保てなくなり、アウグスタは転倒する。もう右脚と頭しか残っていないのだ。
「アウグスタ! 君のパパとママは……もうここには……いない……! だから……もう……眠るんだ……! 両親の元へ……!」
レイアが叫んだ。言い切ってから、彼女の中に疑念が生じる。
(……いけるだろうか……。歪虚として人を殺してきた彼女が……両親の元へ……)
罪を重ねたアウグスタの行き先はどこだろう。アルトゥーロが祈れば、あるいは……。
「うふふ」
そこまで考えて、レイアの思考はアウグスタの笑い声に遮られた。笑っている。嫉妬の娘が笑っている。
「何がおかしい」
真が険しい顔で問いただした。
「……私の手足が合わせて四本だけだと思ったら大間違いよ……」
「なんですって?」
イリアスが目を瞬かせたその時だった。外から悲鳴がする。たくさんの人間の悲鳴だ。何か恐ろしいものを見たような。
「外か!」
ヴィルジーリオが出ようとして、異変に気付いた。地響きのような音。いや違う、これは……。
「お出ましだね」
ハヤテが祭壇の上によじ登った。それは正しい行いだった。
聖堂の扉を吹き飛ばして、大量の小型蜘蛛が流れ込んできたから。
「うわっ!?」
ヴィルジーリオがひっくり返った。彼を下敷きにして、小型蜘蛛たちは爆走していく。
「援軍か!?」
「ヴィルジーリオさん!?」
真とイリアスが慌てて彼を起こした。特に目立った傷はない。その三人の傍も、レイアも、レオンも、アルトゥーロも、祭壇に座って足をぶらぶらさせているハヤテのことも無視して、蜘蛛たちはアウグスタに群がっていく。
「食べている……?」
真の眉間に皺が寄った。餌に群がる虫のような動きに見えるからだ。
「見て、蜘蛛が溶けてる」
イリアスの指摘した通りだった。蜘蛛はアウグスタの失った体を補填するように、溶け合ってアウグスタに融合していく。
「アラクネー……」
アルトゥーロが呻いた。
「古代リアルブルーの……蜘蛛の乙女」
主に下半身を埋めているらしい。腰から下が巨大な球体になりつつある。そして、その球体から、一本、また一本、蜘蛛の脚が飛び出した。腕を失った肩からも、尖った蜘蛛の脚が形作られる。
もはや知性も理性も感じさせない、怪物の如き雄叫びを上げて、アウグスタは天井を仰いだ。歯を剥き出しにし、その目にはもはや人格が見えない。
アウグスタはハンターたちをぎょろりと見下ろすと、方向転換をして飛び上がり、窓をぶち破って外へ飛び出した。外で重い音が響き、聖堂が少し揺れた。
「追わないと!」
真を先頭にして、レオン、レイア、イリアス、ハヤテ、司祭たちと続く。正面玄関を出て、回り込んだ頃には、かなり距離が離されていた。
アウグスタは特に建造物を意図的に破壊したりはしなかった。ただただ、甲高い雄叫びを上げながら、道を爆走して行く。恐れを成した住人たちは、屋内に閉じこもっているらしく人の姿は外に見えない。
「……何てことだ」
青くなったアルトゥーロが呟いた。
やがて、静かになった。三々五々、住人たちが出てくる。勇気あるものは教会までやって来た。
「司祭様……ご無事ですか?」
「ええ、なんとか」
「オフィスに戻りましょう」
イリアスが困った様に眉を寄せた。
「また問題ができちゃったわ」
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 10人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/06/21 19:55:41 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/18 03:36:25 |