ゲスト
(ka0000)
【不動】死に至る病壁
マスター:サトー

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/27 19:00
- 完成日
- 2015/02/02 18:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●名も無き荒野
荒野を行く通り風。
「うぅ……さみぃ……」
馬上の男は襟を寄り合わせ、隙間から入り込もうとする寒風から身を守る。
「もう少しの辛抱だ、バフィ」
励ますのは、精悍な顔つきをした男。
「帰ったら、あったかいもんが待ってるさ」
「そうだぜ、バフィ。お前の嫁さんは料理上手だしな。なあロンド」
「ったく、羨ましい限りだぜ。クアナのとことは大違いだ」
「ザーク、それを言わないでくれ……いやマジで……」
「はは、いやそんな」
それぞれ愛馬に騎乗した8人の男達は軽く談笑し、周囲に目を向ける。
荒野には、小規模の林や大岩、切り立った崖のような丘陵が点在している。
彼らは、辺境部族の若い衆で構成されたマギア砦北部の警備隊。周囲に異常が無いか、定期の見回りの最中にある。
ここ、ベスタハ地方南部は、かつて怠惰に蹂躙された土地であり、現在は人類の対歪虚最前線区域。警戒は厳にせねばならない。砦からは視認できない箇所を重点的に見回るのが、彼らの主な仕事だ。
日光を遮る曇天には文句を言いたいところだが、こればかりは致し方ない。直に定期連絡の頃合い。仕事も折り返しの地点を迎えた。
「あの丘の向こうを確認したら折り返しだ!」
「おう!」
一行は馬首を巡らせ、荒野を駆ける。
●丘の向こう
「ひ、ひぃっ!」
風を切る音とともに、馬ごと人間が吹き飛ぶ。鈍い音が馬の身体を大きく歪ませ、馬上の男も血をまき散らせて倒れ伏す。たったの一撃で、馬と人間、双方の命が失われた。
「カ、カイン!」
「ハ、ハトを!」
慌てて鳩を放とうとした男が、巨大な棍棒に打ちのめされ地面に叩きつけられる。
ズシンズシンと地鳴りのような音が鳴る度に、馬は慄き、足並みを乱す。
「うわああああああ」
立ち上がった馬と、それに驚き飛び跳ねた馬が馬上の男達を振り落す。何とか手綱を制御できたのは、リーダーのカインのみ。
「落ち着け。走るんだ!」
馬から落ちた男達は懸命に走り出す。背後から迫るのは、身の丈4mはあろう巨人たち。
全身に骸骨を象った甲冑を纏い、手にした頑丈な棍棒は2mにも及ぶ。両の腕は丸太ほどに太く、盛り上がった筋肉が棍棒を振るう度にぎちぎちと軋む。鬼のような兜を被ったものや一つ目の巨人もいる。追いかける足は大地を揺るがせ、低く重厚な唸り声は腹の底から震えを呼びこむ。
数は優に20を超えている。足を止めれば命を失うのは自明の理。誰もが死にもの狂いで足を動かす。
一人馬上にいたカインも、投げつけられた棍棒で馬がやられ、地面に放り出された。
「くそっ! 走れ! 荷物は全部捨てろ! とにかく走るんだ!」
なぜこんなことに――。
カインは心中で毒づき、南へ駆ける。
迫る巨人たちとて、人間を逃す気など更々ない。情報を持ち帰られては困るのだ。
巨体が揺るがす地響きと威圧感とに責め立てられながら、警備隊は荒野を逃げ惑う。その巨人たちの遥か後方、高台の向こうからは砂煙を巻き上げて進軍する巨人の壁があった。
●マギア砦にて
「今から北に向かって欲しい」
マギア砦に集められたハンター達に向かって、砦指揮官の男は言った。マギア砦北部の警備隊からの定期連絡が途絶えたらしい。
彼は『何が起きているのか調査をしてくれ』と言った。それが、今回の依頼内容である。
捜索するべき範囲は随分と広く、遠い。障害物も多々あるため、少し手間がかかるかもしれない。
「馬が無い者は、こちらで用意しよう」
ハンター達は早々に準備を済ませ、警備隊が見回っていたであろう地域へ向けて、砦を発った。
●ベスタハ地方南部の荒野
「はあっ……はあっ……」
カインは木の陰に身を潜め、息を殺す。巨人たちの足音が耳を打つ度、震えが走るのを止められない。
何とか呼吸を整えて、辺りの様子を窺う。自分達を見失った巨人たちは、周囲に散らばり捜索を続けている。仲間とは逸れてしまった。5人やられたのまでは把握できたが、後の2人はどうなったか……。自分のように、どこかに身を隠すことができていれば良いが。
仲間の無事を祈るカインであったが、彼とて安寧としていられる状況ではない。
最も大事なのは、自分達が得た情報を砦に伝えること。それは、仲間の命よりも優先される。無論、自分の命よりも……。
ここで狼煙を上げれば、敵に居場所がバレてしまう。伝達手段であった鳩も、逃走の間に失ってしまった。砦への連絡手段は無い。生きて戻る以外には。
カインは注意深く辺りを観察する。先ほどよりも敵の数が増えてきているように感じた。こちらから様子を窺うことはできないが、丘の向こうから後続の部隊が近づいてきているのかもしれない。このまま時間をかければ、逃走はより困難になると思われた。多少は無茶をしなければならないか。
カインは巨人の目を盗みつつ身を低くし、木々の合間を縫って小走りに駆ける。
脳裏にあるのは、丘の向こうで目にした、高台に並ぶ怠惰と見られる大規模な巨人の行軍。斥候らしき先頭集団と遭遇したのは、良かったのか悪かったのか。
早く、早くこのことを伝えなければ。マギア砦は、人類は――。
――怠惰軍の来襲。人類はまだ、知るべくも無い。
荒野を行く通り風。
「うぅ……さみぃ……」
馬上の男は襟を寄り合わせ、隙間から入り込もうとする寒風から身を守る。
「もう少しの辛抱だ、バフィ」
励ますのは、精悍な顔つきをした男。
「帰ったら、あったかいもんが待ってるさ」
「そうだぜ、バフィ。お前の嫁さんは料理上手だしな。なあロンド」
「ったく、羨ましい限りだぜ。クアナのとことは大違いだ」
「ザーク、それを言わないでくれ……いやマジで……」
「はは、いやそんな」
それぞれ愛馬に騎乗した8人の男達は軽く談笑し、周囲に目を向ける。
荒野には、小規模の林や大岩、切り立った崖のような丘陵が点在している。
彼らは、辺境部族の若い衆で構成されたマギア砦北部の警備隊。周囲に異常が無いか、定期の見回りの最中にある。
ここ、ベスタハ地方南部は、かつて怠惰に蹂躙された土地であり、現在は人類の対歪虚最前線区域。警戒は厳にせねばならない。砦からは視認できない箇所を重点的に見回るのが、彼らの主な仕事だ。
日光を遮る曇天には文句を言いたいところだが、こればかりは致し方ない。直に定期連絡の頃合い。仕事も折り返しの地点を迎えた。
「あの丘の向こうを確認したら折り返しだ!」
「おう!」
一行は馬首を巡らせ、荒野を駆ける。
●丘の向こう
「ひ、ひぃっ!」
風を切る音とともに、馬ごと人間が吹き飛ぶ。鈍い音が馬の身体を大きく歪ませ、馬上の男も血をまき散らせて倒れ伏す。たったの一撃で、馬と人間、双方の命が失われた。
「カ、カイン!」
「ハ、ハトを!」
慌てて鳩を放とうとした男が、巨大な棍棒に打ちのめされ地面に叩きつけられる。
ズシンズシンと地鳴りのような音が鳴る度に、馬は慄き、足並みを乱す。
「うわああああああ」
立ち上がった馬と、それに驚き飛び跳ねた馬が馬上の男達を振り落す。何とか手綱を制御できたのは、リーダーのカインのみ。
「落ち着け。走るんだ!」
馬から落ちた男達は懸命に走り出す。背後から迫るのは、身の丈4mはあろう巨人たち。
全身に骸骨を象った甲冑を纏い、手にした頑丈な棍棒は2mにも及ぶ。両の腕は丸太ほどに太く、盛り上がった筋肉が棍棒を振るう度にぎちぎちと軋む。鬼のような兜を被ったものや一つ目の巨人もいる。追いかける足は大地を揺るがせ、低く重厚な唸り声は腹の底から震えを呼びこむ。
数は優に20を超えている。足を止めれば命を失うのは自明の理。誰もが死にもの狂いで足を動かす。
一人馬上にいたカインも、投げつけられた棍棒で馬がやられ、地面に放り出された。
「くそっ! 走れ! 荷物は全部捨てろ! とにかく走るんだ!」
なぜこんなことに――。
カインは心中で毒づき、南へ駆ける。
迫る巨人たちとて、人間を逃す気など更々ない。情報を持ち帰られては困るのだ。
巨体が揺るがす地響きと威圧感とに責め立てられながら、警備隊は荒野を逃げ惑う。その巨人たちの遥か後方、高台の向こうからは砂煙を巻き上げて進軍する巨人の壁があった。
●マギア砦にて
「今から北に向かって欲しい」
マギア砦に集められたハンター達に向かって、砦指揮官の男は言った。マギア砦北部の警備隊からの定期連絡が途絶えたらしい。
彼は『何が起きているのか調査をしてくれ』と言った。それが、今回の依頼内容である。
捜索するべき範囲は随分と広く、遠い。障害物も多々あるため、少し手間がかかるかもしれない。
「馬が無い者は、こちらで用意しよう」
ハンター達は早々に準備を済ませ、警備隊が見回っていたであろう地域へ向けて、砦を発った。
●ベスタハ地方南部の荒野
「はあっ……はあっ……」
カインは木の陰に身を潜め、息を殺す。巨人たちの足音が耳を打つ度、震えが走るのを止められない。
何とか呼吸を整えて、辺りの様子を窺う。自分達を見失った巨人たちは、周囲に散らばり捜索を続けている。仲間とは逸れてしまった。5人やられたのまでは把握できたが、後の2人はどうなったか……。自分のように、どこかに身を隠すことができていれば良いが。
仲間の無事を祈るカインであったが、彼とて安寧としていられる状況ではない。
最も大事なのは、自分達が得た情報を砦に伝えること。それは、仲間の命よりも優先される。無論、自分の命よりも……。
ここで狼煙を上げれば、敵に居場所がバレてしまう。伝達手段であった鳩も、逃走の間に失ってしまった。砦への連絡手段は無い。生きて戻る以外には。
カインは注意深く辺りを観察する。先ほどよりも敵の数が増えてきているように感じた。こちらから様子を窺うことはできないが、丘の向こうから後続の部隊が近づいてきているのかもしれない。このまま時間をかければ、逃走はより困難になると思われた。多少は無茶をしなければならないか。
カインは巨人の目を盗みつつ身を低くし、木々の合間を縫って小走りに駆ける。
脳裏にあるのは、丘の向こうで目にした、高台に並ぶ怠惰と見られる大規模な巨人の行軍。斥候らしき先頭集団と遭遇したのは、良かったのか悪かったのか。
早く、早くこのことを伝えなければ。マギア砦は、人類は――。
――怠惰軍の来襲。人類はまだ、知るべくも無い。
リプレイ本文
ハンター達は荒野を軽快に走破する。
出立する際に、より捜索可能範囲を広げ、迅速に状況を把握するために、2×3班体制の6つと細かく班を分けた。
北東を1・2班、真北を3・4班、北西を5・6班とした彼らは、馬を操り冬の荒野を砂埃をあげて快走する。
●北東
その内、最も東に位置する2班。
「カイン! ロンドー!」
ジュード・エアハート(ka0410)は悪路に脚を取られないよう注意しつつ、消息不明の警備隊の名前を呼びあげる。持てる力を全て注いで周囲に目を散らすジュードの隣を、ペットの柴犬が並走している。
大岩の陰を捜索していた壬生 義明(ka3397)の魔導短伝話が鳴る。
「了解だねぇ」
この辺りにはいなそうだ、とのジュードからの連絡に、義明は手綱を引いて再び馬を走らせた。
伝話で同方向を捜索する1班とも連携を取るジュード。
連絡手段を持たない者もいる。班内でバラバラにならないような距離を保たねばならない。
「早く見つけてあげよう……嫌な風が吹いてる」
その背を微かな悪寒が走った。
2班と共に北東を捜索する1班。
バン、と空砲が木霊する。
皐月=A=カヤマ(ka3534)は、手綱片手にライフルを空から降ろした。警備隊へ自分達の存在を知らせる為なのだが、空砲に反応するものは何も無い。
警備隊に何が起きたのか。
「ひとつ終わればまた次の騒ぎ、忙しいこって」
皐月は敵襲を始めとした各種想定をしつつ、トランシーバーを取り出す。
空砲に耳をぴくんとさせた愛馬に、ユリアン(ka1664)は鬣を撫でて落ち着かせる。
「アルエット、今回お互いの脚が頼りだな。頼むよ」
アルエットは首を振り、それに応じる。
事前に用意した方位磁石で方角を確認しながら北東へと進路をとり、時折木々や岩に目印代わりにリボンを巻きつけていく。
「了解だ」
異常なしとの皐月からの連絡を受けたエアルドフリス(ka1856)。一つの異変も見逃さぬよう、厳しく遠くを見据えているその目に宿るのは、一抹の不安。
嘗て何の前触れも無く滅んだ自身の部族の影がちらつく。
「何事も無ければいいが……」
エアルドフリスは、同班のユリアンと水雲 エルザ(ka1831)にも連絡を回した。
●北中央
「キララ姉さま!」
下馬して岩場の捜索をしていた3班Uisca Amhran(ka0754)の声に、同じく下馬して足場の悪い茂みを捜索していた星輝 Amhran(ka0724)が小首を傾げる。
「ん? どうしたのじゃ?」
「あれを」
Uiscaが指さしたのは、岩場に隠れて見通せない遠く北の空に、旋回する一点の影。
「さて、黒の戦巫女といえど、巫女は巫女。ワシなりの方法で皆の衆を助けようかのぅ」
そう言って星輝が放ったペットは、犬鷲のケンシュウ。
何か見つけたら撮影して戻って来るように、駄賃代わりの豆を与えてお願いしたパルムの小笠を背に乗せて空を舞ったケンシュウが、遠く彼方の空を旋回している。
星輝はワイヤーウィップを器用に操り、慎重に崖を登った。
小高い崖上に着いた星輝は遠く北に目を凝らし、伝話を通じて同班の者に告げる。
「隊員、では無いが、妙なものがおるのぅ」
「巨人?」
物陰を探っていた君島 防人(ka0181)は、星輝の報告に眉を顰めた。
消息不明の警備隊に、巨人の影。これが果たして偶然だろうか。
遠方を見通すように北を見つめる防人。他班との情報共有の為に、すぐさま伝話を繋ぐ。
同刻、4班でも何がしかの影を遠くに発見したとの報告が上がっていた。
バルバロス(ka2119)のペットの犬鷲が、星輝のと同様に大空で円を描く。連絡係のヒヨス・アマミヤ(ka1403)は、伝話で防人からの報告を受けていた。
「はいっ! 丁度今、ヒヨ達も見つけましたよっ!」
素早く情報を共有した4班は一路北へ急ぐ。
「しっかり掴まってなよ、真水。荒っぽい行程になるだろうからさぁ」
「はぁ、なかなか休む暇もないね」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、一人で馬に乗れないという南篠 真水(ka2377)を後ろに乗せて手綱を扱く。
「ぅーぁー酔いそう……」
真水の呟きは、ヒースの背に溶けて消えた。
●北西
「巨人ですか……」
防人からの通信を受けた5班マッシュ・アクラシス(ka0771)は、下馬して捜索していた足を一旦止め、事前に書いてもらった簡素な地図に目撃情報を書き込む。
巨人の数や装備などはまだ判明していないが、警備隊の消息にそれらが関係している可能性は十分にあり得る。
マッシュはトランシーバーと伝話により5・6班のメンバーに巨人の情報を伝えると、再び騎乗し、空きや人の隠れられそうな場所を記した地図上の地点に鼻先を向けた。
同班アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は同行させたイヌイット・ハスキーを連れて、警備隊の名前を呼びながら駆ける。
騒がしい場所での言葉や小さな声でも不思議と自分に関する話は耳に届くという、カクテルパーティー効果を狙ったものだ。
事前に探し人の臭いを覚えさせておいた犬に、反応は見られない。探し人といっても8人もいる。その内の該当する一人に行き当たるには、かなりの幸運が必要だろう。
呼びかけに応える声も無いが、少しでも早く警備隊員を発見するために、アルトは声を惜しまない。
「何やら不穏な状況ですね。これは戦闘も起こる前提で動いた方がいいでしょうか」
エルバッハ・リオン(ka2434)がぼそりと呟く。連絡手段の無い彼女の隣には、トランシーバーを手にした鳴神 真吾(ka2626)が控える。
「くそっ、ようやくCAM騒ぎも落ち着いたってのに、嫌な予感がしやがる」
真吾は見通しの悪い木々の陰に向かって叫ぶ。
「助けに来たぞ! 誰かいないか!」
余計なものに見つかるリスクも覚悟の上で、真吾は捜索を急いだ。
伝話によりマッシュから連絡を受けた6班のJyu=Bee(ka1681)は、多少目立っても声を上げ、銃を鳴らすことを優先する。巨人の影が見えたとあっては、ゆっくりもしていられない。
「うーん、いないわね~。そっちはどんな感じ~?」
『こっちもさっぱりだ』
伝話から返って来るのは、ボルディア・コンフラムス(ka0796)の男勝りな声。
全員が連絡手段を持っている6班は、仲間が確認できる程度の距離を保ちつつ、広範囲をカバーしている。
「ええ、そうですわ。お気を付けくださいまし」
トランシーバーで班員に巨人の情報を流す刻崎 藤乃(ka3829)。
海とは勝手の違う、慣れぬ乗馬に戸惑いつつも、藤乃は遅れぬように手綱を押す。
障害物の多い地帯に絞り捜索を行っていたウィンス・デイランダール(ka0039)の下に、ペットのドーベルマンが戻って来る。
予備のトランシーバーを紐で首に括られたドーベルマンの背に乗るパルムは、こてんと小首を傾げる。徒歩の者を見つけたら無線で連絡するよう言っておいたのだが、見つからなかったのだろうか。
「……行け」
ウィンスは再びドーベルマンを送り出し、自分も捜索に戻る。
同じくドーベルマンとイヌイット・ハスキーを使って捜索を行っていた柊 恭也(ka0711)は、ざわつく胸に気が気では無い。
「連絡がとれない、か。先のCAMの一件があるから嫌な予感しかしねぇ」
一連のCAM奪還ゲームの記憶が甦る。それに加えて、先ほど届いた敵の影……
「案外あれは囮で、密かに侵攻準備を進めてたりとかな?」
自分で言ってて薄ら寒くなってきたのか、恭也のこめかみを一筋の汗が伝う。
「……ちょっとマジで見つけないとヤバい気がしてきたぞ、おい」
恭也は湿り気を帯びてきた手を、ぐっと握りしめた。
巨人の報を受け、各班は一段と速度を上げて北上する。
しかし、必ずしも全員が、同じ考えにて行動していたとは限らなかった。
また、騎乗スキルの有無、連絡手段の有無、ペットの活用の有無、捜索方針の違い。
それは僅かな違いであったが、その微小な綻びが、細かな連携を微妙に狂わせることとなる。
●巨人との遭遇
「エアルドフリスだ。敵を発見した」
岩陰に隠れ、エアルドフリスは班員と2班に連絡を入れる。
巨人の格好と土地柄から考え、敵は間違いなく怠惰であることが知れた。辺境部族の村で育った彼にとって、怠惰は最も耳に覚えのある歪虚かもしれない。
敵付近に警備兵もいると見たエアルドフリスは、返って来る応えを聞きつつ、点在する岩陰を探して回る。
木にリボンを結び、偶に木を叩いて周囲の反応を見るユリアンの傍ら、皐月は敵に見つからぬよう静かに付近を捜索した。
「…………」
エルザは岩場に背をぴたりとつけて息を殺す。
その反対側を、ずしりずしりと一体の巨人が歩いていく。
巨人が通り過ぎるのをじっと待ち、エルザは細く息を吐いた。
「さてさて、如何致しましょうか」
班員の姿が視界に無い。騎乗の慣れた者達から若干遅れてしまっていた現状、余り離れすぎるのは好ましくない。
「水雲エルザです。今どちらでしょうか?」
トランシーバーに応じたのは、皐月とエアルドフリス。
『今、林の中だけど。無線が通じるってことは、そう離れて無いんじゃねーかな?』
『近くにリボンは見えないかね? ユリアンが目印に、通り道につけているはずだ』
エルザは首を巡らす。
「リボンは……はい、ありました。これを辿っていけば良いのですね?」
『ああ、敵には気を付けてな』
程なく、エルザは追いつくことが出来た。
固まって捜索する2班。
イブリス・アリア(ka3359)は率先して敵を探す。その近くに警備隊がいる可能性が高いと推察したゆえだ。
何かを探すようにうろついている巨人たちの目的は、恐らく警備隊だろう。彼らが消息を絶ったことに加え、その地域内で怠惰の巨人が何体も闊歩していることの関連性を疑わない方が不自然だ。
『行きましたか……?』
失った声の代わりに、義明にそう書かれたスケッチブックを見せるのは、メイ=ロザリンド(ka3394)。
こちらに気付かないまま通り過ぎて行ったのを確認し、義明が頷く。
「急ごう」
敵の様子を観察していたジュードが言う。もうこれで3体目だ。
どれだけの数がいるのか分からない以上、安穏としていられない。
犬もまだ血の臭いを嗅ぎつけていない。近場にいないのか、負傷していないのか。
「そうだねぇ、警備隊が心配だ。迅速に移動した方がいいかもしれないねぇ」
『はい、行きましょう』
敵に鋭い視線を送っていたイブリスをジュードが促す。連絡手段が無い以上、逸れるのは危険だ。
「あいよ」
次の敵を求めて、イブリスも後に続いた。
「異常無し」
敵に姿を見られぬよう捜索していた防人からの連絡に、同班3班のUiscaと星輝も同様の返事をする。
「怠惰……独活の大木がこんなにぞろぞろと珍しい」
敵影を窺っていたマリーシュカ(ka2336)も、他の面々と同じくその挙動に違和感を抱く。
怠惰でありながら、何かを探すように周囲を歩いて回る巨人達の働きっぷりが気がかりだ。
「警備隊を捜索中というところかしら……。あたし達と同じね」
そう結論付けたマリーシュカは、くすくすと蠱惑的な笑みを零す。
ここは荒野。隠れられる場所は限られる。だから捜索は他の人に任せて、自分は怠惰と――。
ゴシックドレスを翻し、駆け出そうとしたマリーシュカをすんでの所で止めたのは、一番近くにいた防人。敵に気付かれぬよう、だが力強く、押し殺したような声を発する。
「マリーシュカ! 待て!」
防人が手に持つのは、伝話。それは4班からの要救助者の発見報告だった。
一方、5班の真吾は、敵に発見され追われていた。
元々リスクを承知で大きな声で呼びかけを行っていたこともあり、これは想定内だ。
「こっちだ!」
真吾を追う敵が、2体3体と数を増す。馬の脚についてこられる様子は無いが、地面に落ちている人の頭ほどの大きさもある岩を投げつけられた時には、肝を冷やした。
陽動と回避に徹していることと、それほど命中精度が高く無かったお陰で被弾は免れたが、このまま数が増えれば厳しいだろう。
「そんなにがっつかれては、いけませんよ」
エルバッハのスリープクラウドが先頭の敵を眠りへと誘う。
事前に真吾からトランシーバーで連絡を受けていたアルトとマッシュは、その隙に付近の障害物の陰を探して回る。
残念ながら、警備隊の影は見当たらない。
マッシュは逃走経路としてあり得そうなこの位置に予備のトランシーバーを置き、真吾へ連絡する。
「鳴神さん、次へ移動します」
『おう!』
後続が眠った敵に躓いたことで眠りから覚めてしまっていたが、もう十分な距離を稼いでいた。
「エルバッハ! 十分だ!」
「了解です!」
真吾とエルバッハはすかさず離脱する。
馬上から定時の連絡を行おうとしたマッシュ、そこへ伝話から緊迫した藤乃の声が届いた。
『こちら6班。警備隊員の方を発見しました。至急援護をお願いしますわ!』
●3・4班
3班と5班に発見の報が入る直前のこと。
4班が第一に警備兵を発見したのは、偶然によるところが大きい。なぜなら、向こうの方からやって来たのだから。
「ベスタハに怠惰か……ふむ」
バルバロスの胸中に浮かび上がるのは、辺境の者なら一度は耳にしたことのある「ベスタハの悲劇」という言葉。
辺境部族出身のバルバロスも、思うところがあるのだろう。が、今は仕事だ。
狂戦士の性を抑え、警備隊の捜索に専念するバルバロスの下へ、放っていた犬鷲が滑空して戻って来る。
「むっ」
狩猟に用いられることもある犬鷲はバルバロスの肩に止まると、再び空へと飛び上がる。まるで何かを訴えるように。脇に控える犬も何かが聞こえたのか、耳を立てて緊張した風を見せる。
「様子が変ですね」
ヒヨスも愛馬のそらの上から疑問符を浮かべる。同班の真水から無線の連絡が入ったのは、丁度その時だった。
「あれは、怠惰だね」
遠く荒野の向こうから少しずつ大きくなる影が6つ。怠惰が警備隊を探しているのだとしたら、警備隊はその近くにいるはずだ。
「ボクと真水が敵を惹きつける。捜索と保護は任せたよぉ」
真水から借りたトランシーバーで、ヒースはヒヨスとバルバロスに告げる。
了解の声が無線から届くのと同時に、ヒースと真水は気が付いた。
怠惰の巨人の前を、一人の人間が走っていることに。
真水は瞬時に真上に6発発砲。
真水の意図した通り、逃走者はその音に気が付き、進路をこちらに変えた。
「落ちないようにねぇ」
ヒースが手綱を引くと、馬が立ち上がりかける。真水はずり落ちそうになった眼鏡を慌てて抑えた。
遠目から二人の行動を目にしていたヒヨスはすぐに3班へと報告。バルバロスと共にすぐ後を追う。
二人乗りのヒースと真水に、騎乗の不慣れなバルバロスとヒヨス。最速とは言い難い。
警備兵と思われる男の脚も、疲れからか、味方を見つけた心の緩みからか、徐々に速度が落ちていく。
もう少し、あと10秒。彼我の距離は確実に縮まっている。
「気を抜くでない!」
バルバロスの大喝が荒野に轟き、男の脚を叱咤する。僅かに持ち直したかに見えたが、体力の限界が近いのは疑いないことだ。
不意に男に影が差す。
男は走りながらも、頭上を振り仰ぐ。掲げられたのは、自身よりも大きな棍棒。死の塊に、男の口は知らず開かれ――、
「っ!」
鋭い風切り音を携えて、棍棒が宙を舞った。
「危ないなぁ、もう」
エア・スティーラーを構えた真水の眼鏡がきらりと光る。手綱を操るヒースは口笛を一つ。
「ナイスだよ、真水」
「ヒヨも!」
次いで、ヒヨスの光の矢が巨人の顎を打ち、たたらを踏ませた。
先頭の巨人が怯んだ内に、警備兵の男は最後の力を振り絞る。
男の両脇をヒースとバルバロスの馬がすれ違い、ヒヨスは膝をつく男の前で下馬。そのヒヨスの腕を、男はがしっと鷲掴む。
「わっ、なに!?」
男はヒヨスを睨み、全身でただ呼吸を繰り返すばかり。
ヒヨスは腕に若干の痛みを感じながらも、その目から男の意図をくみ取った。
「もう大丈夫だからっ! すぐに砦に送るよ。あんまり乗り心地良くないと思うけど、我慢してね」
体力の尽きた男を馬上に乗せ、縄で固定し、馬のそらに乗り込む。が、その時にはもう遅い。
行く手を遮る巨人達、総計6体。遠くからも迫り来る巨人の姿。ヒヨス達4班は囲まれていた。
じりじりと包囲を狭める巨人。
「臆するなよ、お前の力が必要なんだからねぇ」
「調子に乗りおって……」
馬を鼓舞するヒースに、バルバロスの獰猛な野獣のような低い唸り声。
これでは、3班との合流は難しい。一か八か囲みを突破するべきか。
ヒース達の手が動き出す、その瞬間――飛来した一本の矢が一つ目の巨人の目に突き刺さった。
4班から報告を受けた3班が現場に辿り着いたのは、思いの外早かった。
星輝の放った犬鷲のケンシュウが上空から早々に捕捉し位置を知らせてくれたお陰で、Uiscaの先導の下、3班4人は寄り道することなく真っ直ぐ急行できたからだ。
先行していた防人とUiscaの目に入ったのは、巨人6体に囲まれた4班の面々。
だが、まだアサルトライフルの射程には遠い。防人はぐっと堪え、馬を急がせる。轟音が耳を打ったのは、そのタイミングだった。
追走していたマリーシュカ。構えるのは、自身よりも遥かに大きな長射程の吼天。弦を強く引き絞る。馬上から狙いを定め――矢は天に吼えるが如き大きな音を立てながら、囲いの一角を打ち崩す。
「まあまあね」
マリーシュカはにんまりと。
できた間隙を縫うように、4班は次々と駆け抜け、3班と合流を果たす。
「そうか。任務遂行、ご苦労だった」
追いすがる巨人に、ヒヨスの背後についた防人はアサルトライフルで威嚇射撃を行う。
馬で駆けだした彼らに、巨人が追いつく術はない。
十分に引き離したところで、警備兵の男は一旦馬を停めさせた。
「俺はカイン。警備隊のリーダーだ。君らの助けに感謝する。だが後2人、バフィとクアナがいるはずなんだ」
1班と5班から新たな連絡が入ったのは、その時だった。
●5・6班
4班に僅かに遅れて警備兵を発見した6班であったが、4班とは大分状況が異なっていた。
班員全員が連絡手段を持っていたお陰で広範囲に散らばることが可能になり、かつ他の班よりも一人多かったのは、捜索する上でかなり有利に働いた。
だが一方で、犬を放ち、銃声をあげるなどして広範囲で目立っていた彼らに、怠惰が気付かぬ訳が無かった。
「でかい? 上等だ」
ウィンスのエア・スティーラーが風を纏う。
瞬後、高速の弾丸が敵の胸を打つ。弾は甲冑を凹ませ鈍い衝撃を与えるが、タフさが売りの怠惰の巨人は、ちっとも動きが鈍っていない。
「ちっ」
一発で駄目なら何度でも叩きこむまで。
ウィンスは距離を取りつつ遠方から射撃を加えていく。
他方、Jyu=Beeは2体の敵を馬で引き連れていた。
「はいはい、あなたはお呼びでないの」
今は捜索が優先と、攻撃を捨てて回避に専念するJyu=Beeに攻撃は全く当たらない。
二人が敵を惹きつけている間に、ボルディア、恭也、藤乃の3人は警備隊を探す。
だが、事態は突如思わぬ方向へ転換した。
戦闘音を聞きつけた警備兵が、隠れていた場所を捨てて6班の前に姿を見せたのだ。それも、戦場となっていた場所へ。
「た、助けてくれ!」
死の恐怖からか、明らかに錯乱していると見られる男は、救いの手が見えたばかりに冷静な判断を完全に手放してしまった。
「あ」と誰かが声をあげる間もなく、男は新たに現れた巨人の棍棒に吹き飛ばされた。
地面に倒れ伏す男は、ぴくりとも動かない。
追い打ちをかけようとする巨人の腕を、メルヴィルM38が穿つ。恭也だ。
「おい! 大丈夫か!?」
恭也の叫びに、男は反応できない。
なおも襲いかかろうとする巨人の前に、マルチステップを使用した藤乃が割り込んだ。
上体を沈ませギリギリのところで棍棒を躱し、すかさず膝関節を狙ってミラージュグレイブを突き込む。
甲冑を纏っているとはいえ、関節部分の防御までは如何ともしがたいはず。そして、膝をついたところを、目を狙って――。
藤乃の一撃が、狙い通り膝裏に突き刺さる。
「グゥゥ」
巨人は小さく呻くが、微動だにしない。
出血を強いることには成功したが、やはり一撃で跪かせるまでにはいかなかった。
藤乃と恭也が戦線に加わり敵の注意を惹いている間、ボルディアは警備兵の下に駆けつけた。
うつ伏せに倒れていた警備兵をそっと仰向けに。男は口から血を流し、瞼は下りている。
「しっかりしろ!」
ボルディアの呼びかけにも、男の意識は戻らない。
辛うじて呼吸と脈は確認できた。応急処置ではどうにもならない怪我だが、まだ望みはある。
「今、5班に救援を頼みましたわ!」
藤乃の叫びにボルディアは頷き、舌打ちするのを堪え、事前に想定していた通り男を馬に乗せ、その場を離れる。しかし、男の容態がこうである以上、どうしても馬の歩みは遅くなる。それは格好の的だった。
2m近くある巨大な棍棒が宙を飛ぶ。ボルディアはそれに気づきながらも、警備兵の身体を思えば、瞬時の回避ができない。
受け止めるしかない――とボルディアが戦斧アムタトイを構えようとした時、視界を金の髪が躍った。
カエトラを構えたJyu=Beeだ。
空中という踏ん張りの利かない状態であったがために、身体は大きく弾き飛ばされる。が、棍棒の軌道はボルディアから逸れた。
立ち上がったJyu=Beeは、南の方を指さす。
「侍ソウルの導くままに!」
「お、おう!」
ゆっくりと、だが可能な限り急いで離脱するボルディア。
巨人の前にはJyu=Beeが立ちはだかる。
「ヘイヘイ、そこの怠惰の斥候ちゃん。まさか、このジュウベエちゃんにビビッテるーー?」
Jyu=Beeの挑発に、巨人は右手を振り上げた。
ボルディアが安全圏に離脱するまで相応の足止めを求められることになった6班の下に、程なくして5班が到着した。
巨人2体を相手に超接近戦を挑んでいたウィンスの脇を、アルトが閃光の如く駆け抜ける。
アルトの一振りに揺らいだ巨人の膝関節目がけて、ウィンスは上段から振り下ろす。
「見事だね」
「……あんたもな」
二人の軌跡が描くのは、オートMURAMASAの清銀なる煌めき。
「くっ!」
回避に追われていた藤乃に不可避の一撃が迫る。直撃すれば重傷は免れない。
薙刀を盾に掲げた瞬間、全身を緑に輝く風が取り巻く。
不可避と思われた一撃は、艶やかな長髪を数本攫うだけにとどまった。藤乃は素早く後方に跳躍する。
「大丈夫ですか」
藤乃の背後に立つのは、杖を握ったエルバッハ。
「感謝しますわ。お陰で命拾いしました」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
ペンダグラムを抜き放った真吾の弾丸が、雷を宿して巨人を焼く。
「ここから先は行かせねえぜ!」
ヒーローのような姿の幻影を纏った真吾は、そのまま戦場を遊弋して、巨人をかき乱す。
「気を抜かずにいきましょう」
「ええ」
藤乃とエルバッハは敵から目を逸らさず、武器を構えた。
メルヴィルM38で後方より支援していた恭也は、一向に減らない敵の数に焦りを覚えていた。
ボルディアの離脱速度は並足よりも遅い。それ以上早くすれば、警備兵の命は持たないだろう。かと言って、このままのペースでは逃げ切ることは非常に困難だ。ヒールの使える聖導士が5・6班にいなかったのが悔やまれた。
中距離よりレッドコメットで牽制していたマッシュは、その焦りを見透かしたのか、表情を崩さず事務的に伝える。
「安心してください。ここに来る前に、状況は3・4班にも伝えてあります」
聖導士の手配も、と。
●1班
2体の巨人の眠りが破られる。効果は薄い。
「行け、ユリアン! 振り返るな!」
目を細めたエアルドフリスの怒声が轟く。
「皆、頼んだ!」
ユリアンは指笛でアルエットを呼び、並走する。
その背には、土気色の顔をした男。男の左腕は、肘から先が無かった。
岩陰に項垂れる様に座り込んでいた男を発見したのは、1分ほど前のこと。
自分でやったのか、肘に巻かれた布は既に黒々とした血でべったりと張り付いていた。
エルザが砦から借り受けた簡単な救急セットを用い、一先ず止血はできたようだが、今すぐヒールによる治療が必要なのは明白だった。
が、聖導士がいるのは2班。ここで救援を待っていても、最終的な離脱が遅れるだけ。
ユリアンは義明に伝話で、状況と逃走方角、目印を伝えて離脱する道を選んだ。
「大事なのは情報だけじゃないんだ……死なないでくれ」
ユリアンは両脚にマテリアルを集中させ、可能な限り全力で駆けた。
その場に留まった1班の前には、8体の巨人。
「直に2班が来る。3・4班にも連絡済だ。」
「足止めですね」
馬上のエアルドフリス。狐のような耳と尾を生やしたエルザは、下馬して敵を見つめる。
「それでいいんじゃねーの?」
皐月は飄々と。馬上からメルヴィルM38に手をかけた。
「部族を護れなかった巫女の成れの果てにも、矜持はあるんでね」
エアルドフリスは巨人にネレイスワンドを向ける。
●3・4班
「俺は怠惰の制圧に回る。残る人員でカインを砦まで帰せ。速度を出しすぎて脚を取られぬようにな」
「ワシも残るぞ。奴らには借りがあるのでな」
防人の言葉に、バルバロスは獰猛な笑みを浮かべる。
「南條さんも、助力するよ」
ウォーカーさんが良ければ、と真水はヒースを見やる。
「待ってくれ」
その会話にカインが割り込む。
「救援要請は複数から出ているんだろう? 俺は大丈夫だ。そっちに行ってくれ」
追手は無く、ここより南に怠惰の影は無かった。カインも落ち着きを取り戻している。護衛が無くとも大丈夫か。
「ヒヨに任せて! 必ずカインさんを砦に送り届けるから!」
かくして、聖導士のいる3班は西へ、4班は東へと散開した。
●救助と離脱
「助かったよ」
ユリアンは安堵の息を吐く。背には自身のレザーベストを羽織った警備兵の男。その顔には血の気が戻った。
「良かったです」
覚醒し限界までヒールを行ったメイも、美しいソプラノの声に気の緩みを感じさせた。
シスターとしても巫女としても、少しでも人の力になりたいという想いの強さ故に、状況を知ってからの緊張感は強かったのかもしれない。
その傍らで、メイに同行した義明は伝話で1班に報告した。メイだけではユリアンと細かな連絡が取れなかったためだ。
「この様子じゃ、彼から情報を収集するのは無理そうだねぇ」
「はい……」
義明の言葉に俯くメイ。義明は眉をあげて、頭を掻く。
「おっさんはこのまま砦までユリアンを護送していくよ」
「私もご一緒します。容体も気になりますので」
「これでとりあえずは安心です」
男の呼吸が穏やかなものへと変わっていく。未だ意識は無いが、先ほどまでの苦し気な表情は消えた。
「心配させやがって」
はぁとボルディアは胸を撫で下ろす。
警備兵は愛馬のエポナで駆けつけたUiscaのヒールで一命を取りとめた。これで少しは脚を速められるだろう。
「先に砦へ向かいましょう。皆もすぐに追いつくでしょうから」
「だな」
時折ヒールをかけながら、二人は連れ立って砦を目指す。
地に着くほどに長い髪を泳がせ、マテリアルを漲らせた小さな身体で敵を翻弄する星輝。
巨人の数は15を超えた。
劣勢の中、合流した3班の力を借りて、一同は離脱へと舵を切る。警備兵を乗せたボルディアの馬は、すでに荒野の彼方だ。
「急ぐぞ!」
防人はアサルトライフルで巨人の脚を縫い付ける。
これ以上の長居は無用と、下馬して戦闘していた者達は離れに待機させていた各々の馬に乗り込む。
マリーシュカは引き撃ちしつつ馬を走らせ、殿をJyu=Beeから引き継いだ防人と恭也が馬上から牽制し撤退した。
巨人の懐に潜り込み、的を絞らせないよう細やかな動きを見せるイブリス。
上半身の装甲の薄い箇所を狙い八握剣を滑り込ませる。
鈍い悲鳴を上げる巨人。その脇から、もう一体が躍り出て踏みつける様に地を揺らす。
イブリスは横っ飛び一番に姿勢を低くして耐えると、強弾が巨人の脇腹を穿つ。ジュードの援護だ。更にエアルドフリスの風の刃が襲った。
不知火で棍棒を受け止めたエルザに、横合いから巨人が棍棒を投げつけようと振りかぶる。刹那、その指を皐月が打ち抜き防ぐ。
彼らが足止めするは、10体の巨人。数は増える一方だ。状況は芳しくない。
と、棍棒を取り落した巨人の腕を、ボロフグイが貫いた。それは、バルバロスら4班の到着を意味していた。
引き際だ。ユリアンが安全圏に離脱できたのを確認し、ジュードが叫ぶ。
「更なる増援が来る前に退くよ!」
「欲張る奴は儲けが少ないらしいからな」
イブリスは離した馬の下へ駆ける。皐月の牽制射撃がそれを補佐し、ジュードの威嚇射撃に巨人は二の足を踏む。
長射程の武器で足止めしつつ、一同は撤退へと移行した。
当初の想定からは逸脱しながらも、ハンター達は臨機応変に行動した。
警備隊は半壊したが、重傷を負いながらも生存していた3名全員マギア砦へと届けることに成功。
唯一話せる状態であったカインから齎された情報は、マギア砦や辺境だけでなく、他国の者たちにも衝撃を与えた。
迫りくる怠惰の軍勢、その規模と動向及び指揮官の存在。砦到達までの猶予は、1日程度……。
絶望的な状況の中、休まる暇も無く。
舞台はマギア砦へと移っていく――。
出立する際に、より捜索可能範囲を広げ、迅速に状況を把握するために、2×3班体制の6つと細かく班を分けた。
北東を1・2班、真北を3・4班、北西を5・6班とした彼らは、馬を操り冬の荒野を砂埃をあげて快走する。
●北東
その内、最も東に位置する2班。
「カイン! ロンドー!」
ジュード・エアハート(ka0410)は悪路に脚を取られないよう注意しつつ、消息不明の警備隊の名前を呼びあげる。持てる力を全て注いで周囲に目を散らすジュードの隣を、ペットの柴犬が並走している。
大岩の陰を捜索していた壬生 義明(ka3397)の魔導短伝話が鳴る。
「了解だねぇ」
この辺りにはいなそうだ、とのジュードからの連絡に、義明は手綱を引いて再び馬を走らせた。
伝話で同方向を捜索する1班とも連携を取るジュード。
連絡手段を持たない者もいる。班内でバラバラにならないような距離を保たねばならない。
「早く見つけてあげよう……嫌な風が吹いてる」
その背を微かな悪寒が走った。
2班と共に北東を捜索する1班。
バン、と空砲が木霊する。
皐月=A=カヤマ(ka3534)は、手綱片手にライフルを空から降ろした。警備隊へ自分達の存在を知らせる為なのだが、空砲に反応するものは何も無い。
警備隊に何が起きたのか。
「ひとつ終わればまた次の騒ぎ、忙しいこって」
皐月は敵襲を始めとした各種想定をしつつ、トランシーバーを取り出す。
空砲に耳をぴくんとさせた愛馬に、ユリアン(ka1664)は鬣を撫でて落ち着かせる。
「アルエット、今回お互いの脚が頼りだな。頼むよ」
アルエットは首を振り、それに応じる。
事前に用意した方位磁石で方角を確認しながら北東へと進路をとり、時折木々や岩に目印代わりにリボンを巻きつけていく。
「了解だ」
異常なしとの皐月からの連絡を受けたエアルドフリス(ka1856)。一つの異変も見逃さぬよう、厳しく遠くを見据えているその目に宿るのは、一抹の不安。
嘗て何の前触れも無く滅んだ自身の部族の影がちらつく。
「何事も無ければいいが……」
エアルドフリスは、同班のユリアンと水雲 エルザ(ka1831)にも連絡を回した。
●北中央
「キララ姉さま!」
下馬して岩場の捜索をしていた3班Uisca Amhran(ka0754)の声に、同じく下馬して足場の悪い茂みを捜索していた星輝 Amhran(ka0724)が小首を傾げる。
「ん? どうしたのじゃ?」
「あれを」
Uiscaが指さしたのは、岩場に隠れて見通せない遠く北の空に、旋回する一点の影。
「さて、黒の戦巫女といえど、巫女は巫女。ワシなりの方法で皆の衆を助けようかのぅ」
そう言って星輝が放ったペットは、犬鷲のケンシュウ。
何か見つけたら撮影して戻って来るように、駄賃代わりの豆を与えてお願いしたパルムの小笠を背に乗せて空を舞ったケンシュウが、遠く彼方の空を旋回している。
星輝はワイヤーウィップを器用に操り、慎重に崖を登った。
小高い崖上に着いた星輝は遠く北に目を凝らし、伝話を通じて同班の者に告げる。
「隊員、では無いが、妙なものがおるのぅ」
「巨人?」
物陰を探っていた君島 防人(ka0181)は、星輝の報告に眉を顰めた。
消息不明の警備隊に、巨人の影。これが果たして偶然だろうか。
遠方を見通すように北を見つめる防人。他班との情報共有の為に、すぐさま伝話を繋ぐ。
同刻、4班でも何がしかの影を遠くに発見したとの報告が上がっていた。
バルバロス(ka2119)のペットの犬鷲が、星輝のと同様に大空で円を描く。連絡係のヒヨス・アマミヤ(ka1403)は、伝話で防人からの報告を受けていた。
「はいっ! 丁度今、ヒヨ達も見つけましたよっ!」
素早く情報を共有した4班は一路北へ急ぐ。
「しっかり掴まってなよ、真水。荒っぽい行程になるだろうからさぁ」
「はぁ、なかなか休む暇もないね」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、一人で馬に乗れないという南篠 真水(ka2377)を後ろに乗せて手綱を扱く。
「ぅーぁー酔いそう……」
真水の呟きは、ヒースの背に溶けて消えた。
●北西
「巨人ですか……」
防人からの通信を受けた5班マッシュ・アクラシス(ka0771)は、下馬して捜索していた足を一旦止め、事前に書いてもらった簡素な地図に目撃情報を書き込む。
巨人の数や装備などはまだ判明していないが、警備隊の消息にそれらが関係している可能性は十分にあり得る。
マッシュはトランシーバーと伝話により5・6班のメンバーに巨人の情報を伝えると、再び騎乗し、空きや人の隠れられそうな場所を記した地図上の地点に鼻先を向けた。
同班アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は同行させたイヌイット・ハスキーを連れて、警備隊の名前を呼びながら駆ける。
騒がしい場所での言葉や小さな声でも不思議と自分に関する話は耳に届くという、カクテルパーティー効果を狙ったものだ。
事前に探し人の臭いを覚えさせておいた犬に、反応は見られない。探し人といっても8人もいる。その内の該当する一人に行き当たるには、かなりの幸運が必要だろう。
呼びかけに応える声も無いが、少しでも早く警備隊員を発見するために、アルトは声を惜しまない。
「何やら不穏な状況ですね。これは戦闘も起こる前提で動いた方がいいでしょうか」
エルバッハ・リオン(ka2434)がぼそりと呟く。連絡手段の無い彼女の隣には、トランシーバーを手にした鳴神 真吾(ka2626)が控える。
「くそっ、ようやくCAM騒ぎも落ち着いたってのに、嫌な予感がしやがる」
真吾は見通しの悪い木々の陰に向かって叫ぶ。
「助けに来たぞ! 誰かいないか!」
余計なものに見つかるリスクも覚悟の上で、真吾は捜索を急いだ。
伝話によりマッシュから連絡を受けた6班のJyu=Bee(ka1681)は、多少目立っても声を上げ、銃を鳴らすことを優先する。巨人の影が見えたとあっては、ゆっくりもしていられない。
「うーん、いないわね~。そっちはどんな感じ~?」
『こっちもさっぱりだ』
伝話から返って来るのは、ボルディア・コンフラムス(ka0796)の男勝りな声。
全員が連絡手段を持っている6班は、仲間が確認できる程度の距離を保ちつつ、広範囲をカバーしている。
「ええ、そうですわ。お気を付けくださいまし」
トランシーバーで班員に巨人の情報を流す刻崎 藤乃(ka3829)。
海とは勝手の違う、慣れぬ乗馬に戸惑いつつも、藤乃は遅れぬように手綱を押す。
障害物の多い地帯に絞り捜索を行っていたウィンス・デイランダール(ka0039)の下に、ペットのドーベルマンが戻って来る。
予備のトランシーバーを紐で首に括られたドーベルマンの背に乗るパルムは、こてんと小首を傾げる。徒歩の者を見つけたら無線で連絡するよう言っておいたのだが、見つからなかったのだろうか。
「……行け」
ウィンスは再びドーベルマンを送り出し、自分も捜索に戻る。
同じくドーベルマンとイヌイット・ハスキーを使って捜索を行っていた柊 恭也(ka0711)は、ざわつく胸に気が気では無い。
「連絡がとれない、か。先のCAMの一件があるから嫌な予感しかしねぇ」
一連のCAM奪還ゲームの記憶が甦る。それに加えて、先ほど届いた敵の影……
「案外あれは囮で、密かに侵攻準備を進めてたりとかな?」
自分で言ってて薄ら寒くなってきたのか、恭也のこめかみを一筋の汗が伝う。
「……ちょっとマジで見つけないとヤバい気がしてきたぞ、おい」
恭也は湿り気を帯びてきた手を、ぐっと握りしめた。
巨人の報を受け、各班は一段と速度を上げて北上する。
しかし、必ずしも全員が、同じ考えにて行動していたとは限らなかった。
また、騎乗スキルの有無、連絡手段の有無、ペットの活用の有無、捜索方針の違い。
それは僅かな違いであったが、その微小な綻びが、細かな連携を微妙に狂わせることとなる。
●巨人との遭遇
「エアルドフリスだ。敵を発見した」
岩陰に隠れ、エアルドフリスは班員と2班に連絡を入れる。
巨人の格好と土地柄から考え、敵は間違いなく怠惰であることが知れた。辺境部族の村で育った彼にとって、怠惰は最も耳に覚えのある歪虚かもしれない。
敵付近に警備兵もいると見たエアルドフリスは、返って来る応えを聞きつつ、点在する岩陰を探して回る。
木にリボンを結び、偶に木を叩いて周囲の反応を見るユリアンの傍ら、皐月は敵に見つからぬよう静かに付近を捜索した。
「…………」
エルザは岩場に背をぴたりとつけて息を殺す。
その反対側を、ずしりずしりと一体の巨人が歩いていく。
巨人が通り過ぎるのをじっと待ち、エルザは細く息を吐いた。
「さてさて、如何致しましょうか」
班員の姿が視界に無い。騎乗の慣れた者達から若干遅れてしまっていた現状、余り離れすぎるのは好ましくない。
「水雲エルザです。今どちらでしょうか?」
トランシーバーに応じたのは、皐月とエアルドフリス。
『今、林の中だけど。無線が通じるってことは、そう離れて無いんじゃねーかな?』
『近くにリボンは見えないかね? ユリアンが目印に、通り道につけているはずだ』
エルザは首を巡らす。
「リボンは……はい、ありました。これを辿っていけば良いのですね?」
『ああ、敵には気を付けてな』
程なく、エルザは追いつくことが出来た。
固まって捜索する2班。
イブリス・アリア(ka3359)は率先して敵を探す。その近くに警備隊がいる可能性が高いと推察したゆえだ。
何かを探すようにうろついている巨人たちの目的は、恐らく警備隊だろう。彼らが消息を絶ったことに加え、その地域内で怠惰の巨人が何体も闊歩していることの関連性を疑わない方が不自然だ。
『行きましたか……?』
失った声の代わりに、義明にそう書かれたスケッチブックを見せるのは、メイ=ロザリンド(ka3394)。
こちらに気付かないまま通り過ぎて行ったのを確認し、義明が頷く。
「急ごう」
敵の様子を観察していたジュードが言う。もうこれで3体目だ。
どれだけの数がいるのか分からない以上、安穏としていられない。
犬もまだ血の臭いを嗅ぎつけていない。近場にいないのか、負傷していないのか。
「そうだねぇ、警備隊が心配だ。迅速に移動した方がいいかもしれないねぇ」
『はい、行きましょう』
敵に鋭い視線を送っていたイブリスをジュードが促す。連絡手段が無い以上、逸れるのは危険だ。
「あいよ」
次の敵を求めて、イブリスも後に続いた。
「異常無し」
敵に姿を見られぬよう捜索していた防人からの連絡に、同班3班のUiscaと星輝も同様の返事をする。
「怠惰……独活の大木がこんなにぞろぞろと珍しい」
敵影を窺っていたマリーシュカ(ka2336)も、他の面々と同じくその挙動に違和感を抱く。
怠惰でありながら、何かを探すように周囲を歩いて回る巨人達の働きっぷりが気がかりだ。
「警備隊を捜索中というところかしら……。あたし達と同じね」
そう結論付けたマリーシュカは、くすくすと蠱惑的な笑みを零す。
ここは荒野。隠れられる場所は限られる。だから捜索は他の人に任せて、自分は怠惰と――。
ゴシックドレスを翻し、駆け出そうとしたマリーシュカをすんでの所で止めたのは、一番近くにいた防人。敵に気付かれぬよう、だが力強く、押し殺したような声を発する。
「マリーシュカ! 待て!」
防人が手に持つのは、伝話。それは4班からの要救助者の発見報告だった。
一方、5班の真吾は、敵に発見され追われていた。
元々リスクを承知で大きな声で呼びかけを行っていたこともあり、これは想定内だ。
「こっちだ!」
真吾を追う敵が、2体3体と数を増す。馬の脚についてこられる様子は無いが、地面に落ちている人の頭ほどの大きさもある岩を投げつけられた時には、肝を冷やした。
陽動と回避に徹していることと、それほど命中精度が高く無かったお陰で被弾は免れたが、このまま数が増えれば厳しいだろう。
「そんなにがっつかれては、いけませんよ」
エルバッハのスリープクラウドが先頭の敵を眠りへと誘う。
事前に真吾からトランシーバーで連絡を受けていたアルトとマッシュは、その隙に付近の障害物の陰を探して回る。
残念ながら、警備隊の影は見当たらない。
マッシュは逃走経路としてあり得そうなこの位置に予備のトランシーバーを置き、真吾へ連絡する。
「鳴神さん、次へ移動します」
『おう!』
後続が眠った敵に躓いたことで眠りから覚めてしまっていたが、もう十分な距離を稼いでいた。
「エルバッハ! 十分だ!」
「了解です!」
真吾とエルバッハはすかさず離脱する。
馬上から定時の連絡を行おうとしたマッシュ、そこへ伝話から緊迫した藤乃の声が届いた。
『こちら6班。警備隊員の方を発見しました。至急援護をお願いしますわ!』
●3・4班
3班と5班に発見の報が入る直前のこと。
4班が第一に警備兵を発見したのは、偶然によるところが大きい。なぜなら、向こうの方からやって来たのだから。
「ベスタハに怠惰か……ふむ」
バルバロスの胸中に浮かび上がるのは、辺境の者なら一度は耳にしたことのある「ベスタハの悲劇」という言葉。
辺境部族出身のバルバロスも、思うところがあるのだろう。が、今は仕事だ。
狂戦士の性を抑え、警備隊の捜索に専念するバルバロスの下へ、放っていた犬鷲が滑空して戻って来る。
「むっ」
狩猟に用いられることもある犬鷲はバルバロスの肩に止まると、再び空へと飛び上がる。まるで何かを訴えるように。脇に控える犬も何かが聞こえたのか、耳を立てて緊張した風を見せる。
「様子が変ですね」
ヒヨスも愛馬のそらの上から疑問符を浮かべる。同班の真水から無線の連絡が入ったのは、丁度その時だった。
「あれは、怠惰だね」
遠く荒野の向こうから少しずつ大きくなる影が6つ。怠惰が警備隊を探しているのだとしたら、警備隊はその近くにいるはずだ。
「ボクと真水が敵を惹きつける。捜索と保護は任せたよぉ」
真水から借りたトランシーバーで、ヒースはヒヨスとバルバロスに告げる。
了解の声が無線から届くのと同時に、ヒースと真水は気が付いた。
怠惰の巨人の前を、一人の人間が走っていることに。
真水は瞬時に真上に6発発砲。
真水の意図した通り、逃走者はその音に気が付き、進路をこちらに変えた。
「落ちないようにねぇ」
ヒースが手綱を引くと、馬が立ち上がりかける。真水はずり落ちそうになった眼鏡を慌てて抑えた。
遠目から二人の行動を目にしていたヒヨスはすぐに3班へと報告。バルバロスと共にすぐ後を追う。
二人乗りのヒースと真水に、騎乗の不慣れなバルバロスとヒヨス。最速とは言い難い。
警備兵と思われる男の脚も、疲れからか、味方を見つけた心の緩みからか、徐々に速度が落ちていく。
もう少し、あと10秒。彼我の距離は確実に縮まっている。
「気を抜くでない!」
バルバロスの大喝が荒野に轟き、男の脚を叱咤する。僅かに持ち直したかに見えたが、体力の限界が近いのは疑いないことだ。
不意に男に影が差す。
男は走りながらも、頭上を振り仰ぐ。掲げられたのは、自身よりも大きな棍棒。死の塊に、男の口は知らず開かれ――、
「っ!」
鋭い風切り音を携えて、棍棒が宙を舞った。
「危ないなぁ、もう」
エア・スティーラーを構えた真水の眼鏡がきらりと光る。手綱を操るヒースは口笛を一つ。
「ナイスだよ、真水」
「ヒヨも!」
次いで、ヒヨスの光の矢が巨人の顎を打ち、たたらを踏ませた。
先頭の巨人が怯んだ内に、警備兵の男は最後の力を振り絞る。
男の両脇をヒースとバルバロスの馬がすれ違い、ヒヨスは膝をつく男の前で下馬。そのヒヨスの腕を、男はがしっと鷲掴む。
「わっ、なに!?」
男はヒヨスを睨み、全身でただ呼吸を繰り返すばかり。
ヒヨスは腕に若干の痛みを感じながらも、その目から男の意図をくみ取った。
「もう大丈夫だからっ! すぐに砦に送るよ。あんまり乗り心地良くないと思うけど、我慢してね」
体力の尽きた男を馬上に乗せ、縄で固定し、馬のそらに乗り込む。が、その時にはもう遅い。
行く手を遮る巨人達、総計6体。遠くからも迫り来る巨人の姿。ヒヨス達4班は囲まれていた。
じりじりと包囲を狭める巨人。
「臆するなよ、お前の力が必要なんだからねぇ」
「調子に乗りおって……」
馬を鼓舞するヒースに、バルバロスの獰猛な野獣のような低い唸り声。
これでは、3班との合流は難しい。一か八か囲みを突破するべきか。
ヒース達の手が動き出す、その瞬間――飛来した一本の矢が一つ目の巨人の目に突き刺さった。
4班から報告を受けた3班が現場に辿り着いたのは、思いの外早かった。
星輝の放った犬鷲のケンシュウが上空から早々に捕捉し位置を知らせてくれたお陰で、Uiscaの先導の下、3班4人は寄り道することなく真っ直ぐ急行できたからだ。
先行していた防人とUiscaの目に入ったのは、巨人6体に囲まれた4班の面々。
だが、まだアサルトライフルの射程には遠い。防人はぐっと堪え、馬を急がせる。轟音が耳を打ったのは、そのタイミングだった。
追走していたマリーシュカ。構えるのは、自身よりも遥かに大きな長射程の吼天。弦を強く引き絞る。馬上から狙いを定め――矢は天に吼えるが如き大きな音を立てながら、囲いの一角を打ち崩す。
「まあまあね」
マリーシュカはにんまりと。
できた間隙を縫うように、4班は次々と駆け抜け、3班と合流を果たす。
「そうか。任務遂行、ご苦労だった」
追いすがる巨人に、ヒヨスの背後についた防人はアサルトライフルで威嚇射撃を行う。
馬で駆けだした彼らに、巨人が追いつく術はない。
十分に引き離したところで、警備兵の男は一旦馬を停めさせた。
「俺はカイン。警備隊のリーダーだ。君らの助けに感謝する。だが後2人、バフィとクアナがいるはずなんだ」
1班と5班から新たな連絡が入ったのは、その時だった。
●5・6班
4班に僅かに遅れて警備兵を発見した6班であったが、4班とは大分状況が異なっていた。
班員全員が連絡手段を持っていたお陰で広範囲に散らばることが可能になり、かつ他の班よりも一人多かったのは、捜索する上でかなり有利に働いた。
だが一方で、犬を放ち、銃声をあげるなどして広範囲で目立っていた彼らに、怠惰が気付かぬ訳が無かった。
「でかい? 上等だ」
ウィンスのエア・スティーラーが風を纏う。
瞬後、高速の弾丸が敵の胸を打つ。弾は甲冑を凹ませ鈍い衝撃を与えるが、タフさが売りの怠惰の巨人は、ちっとも動きが鈍っていない。
「ちっ」
一発で駄目なら何度でも叩きこむまで。
ウィンスは距離を取りつつ遠方から射撃を加えていく。
他方、Jyu=Beeは2体の敵を馬で引き連れていた。
「はいはい、あなたはお呼びでないの」
今は捜索が優先と、攻撃を捨てて回避に専念するJyu=Beeに攻撃は全く当たらない。
二人が敵を惹きつけている間に、ボルディア、恭也、藤乃の3人は警備隊を探す。
だが、事態は突如思わぬ方向へ転換した。
戦闘音を聞きつけた警備兵が、隠れていた場所を捨てて6班の前に姿を見せたのだ。それも、戦場となっていた場所へ。
「た、助けてくれ!」
死の恐怖からか、明らかに錯乱していると見られる男は、救いの手が見えたばかりに冷静な判断を完全に手放してしまった。
「あ」と誰かが声をあげる間もなく、男は新たに現れた巨人の棍棒に吹き飛ばされた。
地面に倒れ伏す男は、ぴくりとも動かない。
追い打ちをかけようとする巨人の腕を、メルヴィルM38が穿つ。恭也だ。
「おい! 大丈夫か!?」
恭也の叫びに、男は反応できない。
なおも襲いかかろうとする巨人の前に、マルチステップを使用した藤乃が割り込んだ。
上体を沈ませギリギリのところで棍棒を躱し、すかさず膝関節を狙ってミラージュグレイブを突き込む。
甲冑を纏っているとはいえ、関節部分の防御までは如何ともしがたいはず。そして、膝をついたところを、目を狙って――。
藤乃の一撃が、狙い通り膝裏に突き刺さる。
「グゥゥ」
巨人は小さく呻くが、微動だにしない。
出血を強いることには成功したが、やはり一撃で跪かせるまでにはいかなかった。
藤乃と恭也が戦線に加わり敵の注意を惹いている間、ボルディアは警備兵の下に駆けつけた。
うつ伏せに倒れていた警備兵をそっと仰向けに。男は口から血を流し、瞼は下りている。
「しっかりしろ!」
ボルディアの呼びかけにも、男の意識は戻らない。
辛うじて呼吸と脈は確認できた。応急処置ではどうにもならない怪我だが、まだ望みはある。
「今、5班に救援を頼みましたわ!」
藤乃の叫びにボルディアは頷き、舌打ちするのを堪え、事前に想定していた通り男を馬に乗せ、その場を離れる。しかし、男の容態がこうである以上、どうしても馬の歩みは遅くなる。それは格好の的だった。
2m近くある巨大な棍棒が宙を飛ぶ。ボルディアはそれに気づきながらも、警備兵の身体を思えば、瞬時の回避ができない。
受け止めるしかない――とボルディアが戦斧アムタトイを構えようとした時、視界を金の髪が躍った。
カエトラを構えたJyu=Beeだ。
空中という踏ん張りの利かない状態であったがために、身体は大きく弾き飛ばされる。が、棍棒の軌道はボルディアから逸れた。
立ち上がったJyu=Beeは、南の方を指さす。
「侍ソウルの導くままに!」
「お、おう!」
ゆっくりと、だが可能な限り急いで離脱するボルディア。
巨人の前にはJyu=Beeが立ちはだかる。
「ヘイヘイ、そこの怠惰の斥候ちゃん。まさか、このジュウベエちゃんにビビッテるーー?」
Jyu=Beeの挑発に、巨人は右手を振り上げた。
ボルディアが安全圏に離脱するまで相応の足止めを求められることになった6班の下に、程なくして5班が到着した。
巨人2体を相手に超接近戦を挑んでいたウィンスの脇を、アルトが閃光の如く駆け抜ける。
アルトの一振りに揺らいだ巨人の膝関節目がけて、ウィンスは上段から振り下ろす。
「見事だね」
「……あんたもな」
二人の軌跡が描くのは、オートMURAMASAの清銀なる煌めき。
「くっ!」
回避に追われていた藤乃に不可避の一撃が迫る。直撃すれば重傷は免れない。
薙刀を盾に掲げた瞬間、全身を緑に輝く風が取り巻く。
不可避と思われた一撃は、艶やかな長髪を数本攫うだけにとどまった。藤乃は素早く後方に跳躍する。
「大丈夫ですか」
藤乃の背後に立つのは、杖を握ったエルバッハ。
「感謝しますわ。お陰で命拾いしました」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
ペンダグラムを抜き放った真吾の弾丸が、雷を宿して巨人を焼く。
「ここから先は行かせねえぜ!」
ヒーローのような姿の幻影を纏った真吾は、そのまま戦場を遊弋して、巨人をかき乱す。
「気を抜かずにいきましょう」
「ええ」
藤乃とエルバッハは敵から目を逸らさず、武器を構えた。
メルヴィルM38で後方より支援していた恭也は、一向に減らない敵の数に焦りを覚えていた。
ボルディアの離脱速度は並足よりも遅い。それ以上早くすれば、警備兵の命は持たないだろう。かと言って、このままのペースでは逃げ切ることは非常に困難だ。ヒールの使える聖導士が5・6班にいなかったのが悔やまれた。
中距離よりレッドコメットで牽制していたマッシュは、その焦りを見透かしたのか、表情を崩さず事務的に伝える。
「安心してください。ここに来る前に、状況は3・4班にも伝えてあります」
聖導士の手配も、と。
●1班
2体の巨人の眠りが破られる。効果は薄い。
「行け、ユリアン! 振り返るな!」
目を細めたエアルドフリスの怒声が轟く。
「皆、頼んだ!」
ユリアンは指笛でアルエットを呼び、並走する。
その背には、土気色の顔をした男。男の左腕は、肘から先が無かった。
岩陰に項垂れる様に座り込んでいた男を発見したのは、1分ほど前のこと。
自分でやったのか、肘に巻かれた布は既に黒々とした血でべったりと張り付いていた。
エルザが砦から借り受けた簡単な救急セットを用い、一先ず止血はできたようだが、今すぐヒールによる治療が必要なのは明白だった。
が、聖導士がいるのは2班。ここで救援を待っていても、最終的な離脱が遅れるだけ。
ユリアンは義明に伝話で、状況と逃走方角、目印を伝えて離脱する道を選んだ。
「大事なのは情報だけじゃないんだ……死なないでくれ」
ユリアンは両脚にマテリアルを集中させ、可能な限り全力で駆けた。
その場に留まった1班の前には、8体の巨人。
「直に2班が来る。3・4班にも連絡済だ。」
「足止めですね」
馬上のエアルドフリス。狐のような耳と尾を生やしたエルザは、下馬して敵を見つめる。
「それでいいんじゃねーの?」
皐月は飄々と。馬上からメルヴィルM38に手をかけた。
「部族を護れなかった巫女の成れの果てにも、矜持はあるんでね」
エアルドフリスは巨人にネレイスワンドを向ける。
●3・4班
「俺は怠惰の制圧に回る。残る人員でカインを砦まで帰せ。速度を出しすぎて脚を取られぬようにな」
「ワシも残るぞ。奴らには借りがあるのでな」
防人の言葉に、バルバロスは獰猛な笑みを浮かべる。
「南條さんも、助力するよ」
ウォーカーさんが良ければ、と真水はヒースを見やる。
「待ってくれ」
その会話にカインが割り込む。
「救援要請は複数から出ているんだろう? 俺は大丈夫だ。そっちに行ってくれ」
追手は無く、ここより南に怠惰の影は無かった。カインも落ち着きを取り戻している。護衛が無くとも大丈夫か。
「ヒヨに任せて! 必ずカインさんを砦に送り届けるから!」
かくして、聖導士のいる3班は西へ、4班は東へと散開した。
●救助と離脱
「助かったよ」
ユリアンは安堵の息を吐く。背には自身のレザーベストを羽織った警備兵の男。その顔には血の気が戻った。
「良かったです」
覚醒し限界までヒールを行ったメイも、美しいソプラノの声に気の緩みを感じさせた。
シスターとしても巫女としても、少しでも人の力になりたいという想いの強さ故に、状況を知ってからの緊張感は強かったのかもしれない。
その傍らで、メイに同行した義明は伝話で1班に報告した。メイだけではユリアンと細かな連絡が取れなかったためだ。
「この様子じゃ、彼から情報を収集するのは無理そうだねぇ」
「はい……」
義明の言葉に俯くメイ。義明は眉をあげて、頭を掻く。
「おっさんはこのまま砦までユリアンを護送していくよ」
「私もご一緒します。容体も気になりますので」
「これでとりあえずは安心です」
男の呼吸が穏やかなものへと変わっていく。未だ意識は無いが、先ほどまでの苦し気な表情は消えた。
「心配させやがって」
はぁとボルディアは胸を撫で下ろす。
警備兵は愛馬のエポナで駆けつけたUiscaのヒールで一命を取りとめた。これで少しは脚を速められるだろう。
「先に砦へ向かいましょう。皆もすぐに追いつくでしょうから」
「だな」
時折ヒールをかけながら、二人は連れ立って砦を目指す。
地に着くほどに長い髪を泳がせ、マテリアルを漲らせた小さな身体で敵を翻弄する星輝。
巨人の数は15を超えた。
劣勢の中、合流した3班の力を借りて、一同は離脱へと舵を切る。警備兵を乗せたボルディアの馬は、すでに荒野の彼方だ。
「急ぐぞ!」
防人はアサルトライフルで巨人の脚を縫い付ける。
これ以上の長居は無用と、下馬して戦闘していた者達は離れに待機させていた各々の馬に乗り込む。
マリーシュカは引き撃ちしつつ馬を走らせ、殿をJyu=Beeから引き継いだ防人と恭也が馬上から牽制し撤退した。
巨人の懐に潜り込み、的を絞らせないよう細やかな動きを見せるイブリス。
上半身の装甲の薄い箇所を狙い八握剣を滑り込ませる。
鈍い悲鳴を上げる巨人。その脇から、もう一体が躍り出て踏みつける様に地を揺らす。
イブリスは横っ飛び一番に姿勢を低くして耐えると、強弾が巨人の脇腹を穿つ。ジュードの援護だ。更にエアルドフリスの風の刃が襲った。
不知火で棍棒を受け止めたエルザに、横合いから巨人が棍棒を投げつけようと振りかぶる。刹那、その指を皐月が打ち抜き防ぐ。
彼らが足止めするは、10体の巨人。数は増える一方だ。状況は芳しくない。
と、棍棒を取り落した巨人の腕を、ボロフグイが貫いた。それは、バルバロスら4班の到着を意味していた。
引き際だ。ユリアンが安全圏に離脱できたのを確認し、ジュードが叫ぶ。
「更なる増援が来る前に退くよ!」
「欲張る奴は儲けが少ないらしいからな」
イブリスは離した馬の下へ駆ける。皐月の牽制射撃がそれを補佐し、ジュードの威嚇射撃に巨人は二の足を踏む。
長射程の武器で足止めしつつ、一同は撤退へと移行した。
当初の想定からは逸脱しながらも、ハンター達は臨機応変に行動した。
警備隊は半壊したが、重傷を負いながらも生存していた3名全員マギア砦へと届けることに成功。
唯一話せる状態であったカインから齎された情報は、マギア砦や辺境だけでなく、他国の者たちにも衝撃を与えた。
迫りくる怠惰の軍勢、その規模と動向及び指揮官の存在。砦到達までの猶予は、1日程度……。
絶望的な状況の中、休まる暇も無く。
舞台はマギア砦へと移っていく――。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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西方面(5・6班)相談 鳴神 真吾(ka2626) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/27 17:57:06 |
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相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/27 12:09:44 |
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東方面(1・2班)相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/27 02:22:52 |
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中央方面(3・4班)相談 君島 防人(ka0181) 人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/26 22:38:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/27 01:30:00 |