ゲスト
(ka0000)
【女神】最悪、再び
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/13 15:00
- 完成日
- 2019/07/24 23:58
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●海底
「ちっ…出遅れたか」
この男には珍しく、人目を憚らず愚痴めいた言葉を零す。
彼等は今海の中を進んでいた。というのも彼等はお尋ね者なのだ。奪った船を早々に手放し、大枚はたいて手に入れた潜水艇であるが、その大きさはとても小さい。装甲に金をかけた分、中まで手が回らなかったからだ。だが、彼らはまだ野望を諦めてはいない。
「ソー、あの女の船がまた動き出したようだぞ」
船内の酸素量に気を付けながら、もう一人の長身がマーカーの反応を確認して言う。
「ならばつけろ。但し、近付き過ぎるなよ」
イズの船に付けていたマーカー。今のところ、あちらにはその存在は気付かれていないらしい。ならば、今知られ訳にはいかない。事はいつも以上に慎重にいかなければ。
「ねぇ、私達たった三人になっちゃったけど勝機はあるの? 私は強い奴と戦えるのは歓迎するけれど、さすがに三対大勢じゃあ分が悪いんじゃなくて?」
暑苦しい巨体ではあるが、心は女性なのか女口調でもう一人の男がそう尋ねる。
「そうだな。しかし、場所をうまく利用すれば味方ならずとも対抗は可能だが」
「ん? どういう事?」
男の謎めいた言いように彼が首を傾げる。
「いいか。ここは海だ……そして、もしあの女が向かう先が本当に暗黒海域だとしたら、いるだろう? 都合のいいのが」
目を閉じ、口元だけを吊上げて彼は不気味笑う。
「ソー、まさかそれって」
「ああ、そのまさかだ」
普通の人間であれば考えつかないであろう作戦。いや、もし考え付いたとしても実行に移す事はないだろう。
しかし、この男はそれを何とも思っていない。
(利用できるものは利用する。たとえ、それが何であれな)
彼の手のうちにはもう一つの秘策アイテム――特殊な形にカットされた龍鉱石が握られていた。
●オカリナ
海の底から持ち帰った巻貝――それは人魚のオカリナといった。そして、それは人魚の友好の証しとなり、ルコの海図ではそれが穢れを払うのだという。けれど、そのオカリナは演奏者を選ぶらしく、同乗したハンターにそれを鳴らす事は叶わない。だが、
「イズ、君は…」
同乗したハンターから言葉が漏れる。何故ならイズが手にした瞬間オカリナは光を増し、さっきまで音を出す気配のなかったそれがガラスの旋律を奏でたのだ。
「え、だってオカリナなんでしょ? 息を入れさえすれば普通に」
鳴るものだと言いたいらしい。けれど、このオカリナに至ってはそれが当てはまらない。
「そういえば、イズさんって人魚に会った時普通に話してたような…」
ふとその事を思い出し、もう一人のハンターが言う。
一般的に人魚の言葉は人間の言葉とは違う。だから、普通の人間ならば通訳が要必要。人魚自身が人語を勉強していて話せれば別だが、それ以外であれば会話が成り立つ事はない。但し、ハンターは別格だった。覚醒者という事もあり、どういう訳か言語の理解もそれなりに可能。現に、リアルブルーからの転移者がクリムゾンウエストの現住民達と自然な会話ができているのはそれが働いているからだそうだ。
「という事はイズはもしかして覚醒者?」
また別の一人が呟く。
「私が……まさか」
考えてもみなかった。イズの表情に驚きと戸惑いの色が見える。
「とと、皆さん甲板に来て下さい。さっきの音で霧が晴れて、それで…」
船員が慌てた様子で皆を促す。が、甲板に出た彼らを待っていたのはいい事ばかりではない。
霧は確かに晴れていた。しかし、晴れた場所にいたと思われる雑魔の数は尋常ではない。
「なんて数なの!?」
「本当に渡れるのか?」
ハンターが口々に言う。まるで布が漂っているようなそのフォルムは何処か無機質で不気味さを感じる。
「で、でもこちらにはオカリナがあります。イズさん、もう一度吹いて見て下さい」
今が絶好の機会――オカリナの力を試すべく、イズがもう一度オカリナに息を吹き込む。その音に布のような雑魔は一瞬怯んだように見えた。しかし暫く嫌々をするが如く右往左往していたものが一所に集まり出して…。
「まさか、合体!」
その様子にハンターがそう口にする。
「そんな…じゃあ、やっぱり私の力じゃあ」
「そうとも言い切れませんよ。相手は嫌がりあの形になった…つまり効いていたとも取れる」
本当に意味をなしていなかったのなら既に攻撃してきている筈だ。
それをせず、集まり出したのにはきっと意味がある。
「いいわ、イズはそのまま続けて。セルクさんは舵を握って、私達をあの敵の元に」
見てしまった以上このまま放置する訳にはいかない。結界のようなものがあれば別だが、そんなものがないここでは、野放しにすれば港の方に移動する事も考えられる。
「ふん、お誂え向きだな」
その様子を潜望鏡から見て取って、男の潜水艇はイズの船を下を進み海上のそれに接近する。
(奴らはまだ気付いていない。となれば今しかない)
男の笑み――その先にあるのは光か闇か。
「ちっ…出遅れたか」
この男には珍しく、人目を憚らず愚痴めいた言葉を零す。
彼等は今海の中を進んでいた。というのも彼等はお尋ね者なのだ。奪った船を早々に手放し、大枚はたいて手に入れた潜水艇であるが、その大きさはとても小さい。装甲に金をかけた分、中まで手が回らなかったからだ。だが、彼らはまだ野望を諦めてはいない。
「ソー、あの女の船がまた動き出したようだぞ」
船内の酸素量に気を付けながら、もう一人の長身がマーカーの反応を確認して言う。
「ならばつけろ。但し、近付き過ぎるなよ」
イズの船に付けていたマーカー。今のところ、あちらにはその存在は気付かれていないらしい。ならば、今知られ訳にはいかない。事はいつも以上に慎重にいかなければ。
「ねぇ、私達たった三人になっちゃったけど勝機はあるの? 私は強い奴と戦えるのは歓迎するけれど、さすがに三対大勢じゃあ分が悪いんじゃなくて?」
暑苦しい巨体ではあるが、心は女性なのか女口調でもう一人の男がそう尋ねる。
「そうだな。しかし、場所をうまく利用すれば味方ならずとも対抗は可能だが」
「ん? どういう事?」
男の謎めいた言いように彼が首を傾げる。
「いいか。ここは海だ……そして、もしあの女が向かう先が本当に暗黒海域だとしたら、いるだろう? 都合のいいのが」
目を閉じ、口元だけを吊上げて彼は不気味笑う。
「ソー、まさかそれって」
「ああ、そのまさかだ」
普通の人間であれば考えつかないであろう作戦。いや、もし考え付いたとしても実行に移す事はないだろう。
しかし、この男はそれを何とも思っていない。
(利用できるものは利用する。たとえ、それが何であれな)
彼の手のうちにはもう一つの秘策アイテム――特殊な形にカットされた龍鉱石が握られていた。
●オカリナ
海の底から持ち帰った巻貝――それは人魚のオカリナといった。そして、それは人魚の友好の証しとなり、ルコの海図ではそれが穢れを払うのだという。けれど、そのオカリナは演奏者を選ぶらしく、同乗したハンターにそれを鳴らす事は叶わない。だが、
「イズ、君は…」
同乗したハンターから言葉が漏れる。何故ならイズが手にした瞬間オカリナは光を増し、さっきまで音を出す気配のなかったそれがガラスの旋律を奏でたのだ。
「え、だってオカリナなんでしょ? 息を入れさえすれば普通に」
鳴るものだと言いたいらしい。けれど、このオカリナに至ってはそれが当てはまらない。
「そういえば、イズさんって人魚に会った時普通に話してたような…」
ふとその事を思い出し、もう一人のハンターが言う。
一般的に人魚の言葉は人間の言葉とは違う。だから、普通の人間ならば通訳が要必要。人魚自身が人語を勉強していて話せれば別だが、それ以外であれば会話が成り立つ事はない。但し、ハンターは別格だった。覚醒者という事もあり、どういう訳か言語の理解もそれなりに可能。現に、リアルブルーからの転移者がクリムゾンウエストの現住民達と自然な会話ができているのはそれが働いているからだそうだ。
「という事はイズはもしかして覚醒者?」
また別の一人が呟く。
「私が……まさか」
考えてもみなかった。イズの表情に驚きと戸惑いの色が見える。
「とと、皆さん甲板に来て下さい。さっきの音で霧が晴れて、それで…」
船員が慌てた様子で皆を促す。が、甲板に出た彼らを待っていたのはいい事ばかりではない。
霧は確かに晴れていた。しかし、晴れた場所にいたと思われる雑魔の数は尋常ではない。
「なんて数なの!?」
「本当に渡れるのか?」
ハンターが口々に言う。まるで布が漂っているようなそのフォルムは何処か無機質で不気味さを感じる。
「で、でもこちらにはオカリナがあります。イズさん、もう一度吹いて見て下さい」
今が絶好の機会――オカリナの力を試すべく、イズがもう一度オカリナに息を吹き込む。その音に布のような雑魔は一瞬怯んだように見えた。しかし暫く嫌々をするが如く右往左往していたものが一所に集まり出して…。
「まさか、合体!」
その様子にハンターがそう口にする。
「そんな…じゃあ、やっぱり私の力じゃあ」
「そうとも言い切れませんよ。相手は嫌がりあの形になった…つまり効いていたとも取れる」
本当に意味をなしていなかったのなら既に攻撃してきている筈だ。
それをせず、集まり出したのにはきっと意味がある。
「いいわ、イズはそのまま続けて。セルクさんは舵を握って、私達をあの敵の元に」
見てしまった以上このまま放置する訳にはいかない。結界のようなものがあれば別だが、そんなものがないここでは、野放しにすれば港の方に移動する事も考えられる。
「ふん、お誂え向きだな」
その様子を潜望鏡から見て取って、男の潜水艇はイズの船を下を進み海上のそれに接近する。
(奴らはまだ気付いていない。となれば今しかない)
男の笑み――その先にあるのは光か闇か。
リプレイ本文
●不意
「まだ捕まったという報告は上がっていないですね」
船の通信機を使って調べていたサクラ・エルフリード(ka2598)が言う。
「確か残り三人だっけ? 油断できないわよね」
そういうのはカーミン・S・フィールズ(ka1559)。彼女らが話しているのはイズの船を襲った海賊の事だ。
「何、奴らの事じゃ。空に姿が見えず、海上にも船がないとなれば水中という事になるが、まあわざわざ潜る事も無かろうて」
潜水可能な魔導鎧を有してはいるが未確認情報で潜るのは嫌なのかミグ・ロマイヤー(ka0665)は動かない。
「まあ、潜って海の歪虚を刺激する事になってもあれだしね」
気にはなるが、鞍馬 真(ka5819)他皆の総意で海賊に関しては警戒だけに留めている。
「で、その海賊達って強いのかな?」
時音 ざくろ(ka1250)がそちらの事件を知る三名に尋ねる。
「そう、ですね…一人はおねぇな格闘士、もう一人は疾影士でしたよね?」
「そうじゃの。なかなかの手練れではあったが、問題はもう一人の方じゃな」
事件の中心人物…細身の剣を携えた海賊のボスと思われる男は用意周到で極めて狡猾。このままこちらを見逃すとは思えない。
「何にせよ、厄介なものだ」
神城・錬(ka3822)は言葉する。そんな相手が次に姿を現わすのは仕組まれた最悪のタイミング。
「ほってはおけない。早急に対処する」
合体を始めた雑魔を前に錬が空へと飛び出す。
それに続いてサクラはソリを浮かせ、真は魔法の箒に跨り雑魔の元へ。連絡がつくように各々通信機を携帯し、監視台にはカーミンが。ミグは船尾を、ざくろは中甲板で周囲を警戒。イズの吹くオカリナだけがその海域一帯に響き渡り、未だ雑魔の動きは安定しない。
(やはり効いているのか。ここまで来てもまだ襲ってこないとは)
これは敵を観察し錬が抱いた印象。ならば今が好機といえよう。
「敵に接近、これより攻撃に入る」
そう告げて彼は早速眼前の球体を攻撃する。空渡で到着した勢いそのままに球体側面にアサルトディスタンス。球体を駆け上がる形で切り開こうと試みる。
「ぬっ!?」
が、踏み込んだ足がするりと抜けた。
合体により硬い表面になっていると思い込んでいたが、元は布の集合体。危機を察知し、イワシの群れの如くばらけ彼の足場は崩壊する。
「駄目っ、動かないでっ!」
それに気付いて、サクラが闇の刃で行動阻害。だが、阻害も何もダメージが通ったかと思うと、そのまま消滅し錬の落下は止まらない。
(くっ、こいつら弱過ぎる!?)
数はあれど所詮は雑魔。各個体はそれ程強くない。
が塵にならなかった別の布が彼の足に巻き付くとビリリッと電流を走らせ足の感覚を奪ってゆくではないか。
(この布、思ったよりヤバいぞ…っと待て。オカリナはどうした?)
麻痺した足で落下する中、ふと気付いた些細な異変。しかし、通信する前に彼は海面に叩き付けられる。
「錬さんっ!」
サクラの声。が彼女とて襲ってき始めた雑魔の対応に追われ動けない。
そんな危機的状況に追い打ちをかけるように、海賊達も動き出す。
「何だ、アレ」
真が海面から覗く何かを見つけて接近する。だが、あちらの方が早くて…海面から飛び出したのは一本の矢。
矢尻の石が薄緑に淡く輝いている。その矢尻の石に真は見覚えがある。
(海中から矢…しかも龍鉱石付だって?!)
真が焦る。しかし矢は待ってくれず、そのまま雑魔の塊目掛けて放たれる。
「くっ、何てことだ」
海面に顔を出した錬が呟く。眼前では石を得て勢い付く雑魔の塊。音が消えたと同時に船に向かって何体が飛び始める。
「さあ、始めるわよ」
そんな中、いつ現れたのか海面すれすれをガタイのいい男が飛び去ってゆく。
(海賊はともかく判った事は報告せねば。それにイズはどうした?)
雑魔と音との関係、それはこの戦いにおいて重要だ。それに音を止める報告がないのもおかしい。
「真、ここを頼む。零れた雑魔を俺は追うから」
錬がそう言い引き返す。彼の通信機は水でおしゃかになっていた。
「くっ、あれにこっちを襲わせようって訳? 手慣れてるわね」
報告を受け、手空きの船員を船内へ避難させ、こちらは待ちの構え。石の力で体積を増やす敵が気にかかるも船を空には出来ない。それにだ。今は飛び来る格闘士の事もある。銃で妨害を試みるが、早い動きでかすりもしない。かくなる上は、目には目を。
「そっちがその気なら、こっちもやるわよ。イズ、オカリナを…ッ!?」
そこではたと気付いた更なる異変。イズのいた場所にはただオカリナだけが転がっている。
(しまった! 敵もアレを使えるんだった!)
向こうに気を取られていたとはいえ、ざくろやミグも見落とすとは。けれど、見えないなら無理もない。影に注意しろといっても全てをチェックするのは不可能だし、ましてやさっきの避難に紛れていたなら尚更だ。だが、まだそう遠くには行けない筈。隅々に視線を走らせる。すると意識を失くし船の縁に引きずられるイズの姿。という事は敵はあの疾影士に間違いないだろう。
「離し…ッ!?」
そこで救出しようと動いた彼女だったが、イズの首元にナイフを翳されて万事休す。
「あら、こんだけなの?」
ミグは機導術で船を揺らしていたようだが、甲板にはついにあの格闘士が乗船する。
「どういうつもり?」
カーミンがそこにいるであろう敵に問う。だが、敵は黙ったままイズを掴み上げ有ろう事か海の方へと投げとばす。
「なんとっ!」
それを目撃したミグの絶句。カーミンは敵をミグに任せてイズを追う。
「またそなたか。この船に貴様の予約席はないぞ」
ステルス解除した疾影士を前にミグは溜息をつく。
「ならば作るまで」
疾影士との再戦、それは以前に増して苛烈になるも装備上またも防戦に甘んじるミグであった。
●共闘
一方、ざくろは格闘士とタイマン中。
「あら、立派な鎧ね…カッコいいじゃない」
ざくろの盾に拳を防がれて尚、男は余裕の笑み。その態度が歪虚の持つ純粋な殺意と違い不気味だ。がやる事は決まっている。男の言葉を無視して、チャンスを待つ。右へ左へ、格闘士のラッシュは止まらない。距離を詰めると容赦なく打ち込む。そんな相手に彼がやり返す事が出来るとすれば、それはほんの一瞬の隙が鍵になる。
「あら、だんまりなの? つまらないじゃない」
男はそう言い再び突進。それを待ってざくろは一気にマテリアルを武器に流し込み超重練成。巨大化した剣の腹でそのまま男を薙ぎ払う。それには男から小さな呻きがあるも打たれ強さも半端ない。
「けほっ…こほッ…あらぁ、やってくれるじゃない」
さっきよりも目付きを鋭くして男が言う。
「ざくろはハッキリ言って君に興味はないんだ。だから、話しかけないでくれる?」
悪びれる様子もなく彼が言い返す。
「ハッ、そのすまし顔を壊したげる」
男が再び動いた。それをざくろは攻性防壁で迎え討つ。だが、さっきよりも数段早く駆けてくる男に構えが間に合わない。しかも、てっきり正面から打ち込んでくると思っていた彼だが、男は彼の傍を通り過ぎ背後に回ると、背中に触れた瞬間。
「喰らいなァ!」
「ぐっ」
ざくろが大きくバランスを崩す程の衝撃。それは鎧をすり抜けダイレクトに届いた気がしてよろよろと足を踏み出さざる負えない。そんな彼に向けて、男は彼の関節を取りにかかる。
「いかんっ」
その様子を見て、ミグがアンカーを打ち出した。するとその杭はなんとか格闘士のそれを妨害し一筋の朱を頬に描く。
「ちょっ、邪魔すんじゃないわよっ! あんたもちゃんとやりなさいよ!」
突然の横やりに男が激怒し、疾影士を責める。
「知った事か。そっちがもっと」
「しゃらくさいわ!」
敵同士が暴言をぶつけ合う。その光景を二人は思う。
(成程、こいつらが覚醒者でありながらハンターをしない訳はこれだ)
もめる二人を前にこちらは団結。
「君の相手はざくろだよ!」
ざくろが二人に向けてガウスジェイルを展開。一手に二人の攻撃を引き付ける。その間にミグはマテリアルを集中させ、良き場所に敵が入るのを見計らいアイシクルコフィン。絶妙の連携が敵を襲う。そして、決め手となったのはざくろのあれだ。氷柱で動きを阻害した相手には隙も多い。
(いいわ、纏めて相手したげる!)
男が拳を振り被る。疾影士もこちらの攻撃を巧みに避け二人に迫る。
「残念だったのう。これで終いじゃ」
ざくろを守る形でミグが攻性防壁発動。弾かれた格闘士にざくろの巨大剣が迫り、防御に出るも超重練成の衝撃に耐えられず両手の骨が砕け散る。それでも悲鳴を上げなかったのは流石だ。そして疾影士の方も飛んで避けるだろう事は既に予測済。ミグのアンカーが彼の足を貫けば、得意の動きも出来なくて。
「もう降参しなよ。この船をこれ以上汚したくないんだ」
二人に剣を突き付けざくろが言う。
「ふふ…まさか、自分の壊れる音を聞くとはね…」
格闘士はそう呟き、もう一人はただ黙って海の先を見つめるだけ。
「おい、イズは何処だ?」
そこへ舞い戻り飛び来る雑魔の排除をかって出ていた錬が尋ねる。
「はて、確かカーミンが追ったようじゃが…」
「そういえば海賊は三人と言っていたな…となると、あいつは」
それと戦っていると推測できる。が早くイズを連れ戻し、オカリナを再開せねば空で戦っている仲間が危ない。
(音の在りと無しで明らかに動きが違った。やはり効果はある)
錬は雑魔の近くに行った時の事を思い出し、そう確信している。
「最後に見たのはどっちだ?」
彼の問いにミグは船後方を指差した。
●舞刀士
「いった~ッぐ!」
飛び降りた先、目の前の容赦ない男の刃にカーミンが息を詰まらせる。そこには潜水艇が待機しイズを受け取ると潜水艇にぶち込む男の姿があった。その予想だにしなかった敵の行動に彼女は翻弄されっぱなしだ。そして不意の攻撃を受け、今に至る。
「動くなよ」
男が練り上げたマテリアルを一気に解放する。そして、眼にも止まらぬ速さで抜刀するとカーミンを強烈な斬撃が襲う。それを辛うじて跳び上がる事で避けた彼女であったが、斬撃はそのまま船側面に直撃し、外板の一部を破壊して…。
「ちょっ、あんた本気なの! あの船がないとあんた達だって」
「知らんな」
カーミンの驚きを余所に男は意に関せず。足元が濡れていても全くブレず無駄のない所作で次々とカーミンに打ち込んでくる。
(クッ、何なのよ、こいつ)
それに比べてこちらは受けるのが精一杯。得物も銃と弓だし、ここでのステルス化は意味がなく辛うじて千日紅で凌いでいる状況。仲間を呼ぶ暇さえ与えてくれない。距離を取り制圧射撃で応戦するも男はそれを居合で制し、距離を詰めてくるではないか。
絶体絶命――こんな事なら空渡を活性化しておくべきだったと思う。どうしたら…そう思った時だった。ゴゴゴッと音がして、これには彼女のみならず男もバランスを崩す。
「あの女、余計な真似を」
男からそんな言葉が漏れた。とするとこれはさっきの轟音で中のイズが目を覚ましたのだろう。注意して見れば潜望鏡がこちらを向いている。
「さっきのお返しよっ!」
男の隙を見取って、カーミンが男の剣の握りを狙い撃つ。すると剣は綺麗に弾かれて――もう一本に手をかけようとするが、それを許す訳にはいかない。
「下がりなさい。イズは返してもらうわ」
銃を突きつけたままカーミンが男を後退させる。
「カーミンさん」
「有難う。助かったわ」
男を前にしてカーミンは視線を離さぬまま、イズの無事に安堵する。
「…早くやれ。撃たなければまた襲うぞ?」
男がイラついた様子で言う。
「撃つのは簡単よ。まずはもう一本の剣を海に捨てて。あんたには聞きたい事があるの」
カーミンの言葉に男が苦笑。そんな彼に彼女は逃亡防止の弾丸を撃ち込んだ。
●雑魔
船が鎮圧されかかっているその頃、未だに海上ではあの歪虚との戦いは続いていた。
「もう限界ですよぉ」
ミレニアムで真が傷好かぬように加護の祈りを捧げ続けているサクラであるが、一方的に消費していく魔力にさすがの彼女も疲れを感じずにはいられない。加えて、錬の離脱でその負担はさらに大きくなっている。
「あの石をどうにかできたらいいんだが」
真も慣れない箒の上では思う様に切り込む事叶わない。蒼炎華を発動し剣に炎のオーラを纏わせて、薙ぐように切る事で周囲を巻き込み数を減らすも龍鉱石があってはキリがない。
「もう少しじっとしていてくれれば」
真が奥歯を噛む。そして、船が幾分静かになった気がして、真が援護を要請する。
「ゴメン、今からやるわ」
男を縛り上げ戻ったカーミンが言う。
「イズ、取り急ぎもう一度オカリナを吹け」
その横では錬が何かを指示しているようだ。
「でも、私の力じゃ」
彼女が自信なさげに言葉する。
「あくまで俺の勘だが、あの音は確かに効いていた。距離があったから効果が薄れていたのかもしれん。ならば音を上げれば」
「幸い拡声器は持っておるぞ」
錬に続き、ミグの助太刀。その言葉を信じてイズがもう一度オカリナに息を吹き込む。
するとまた光を帯びて、曲になると同時に音は拡声器によって増長され、眼前の球体を刺激する。
「ん? 震え始めた??」
音が届くと共に開戦前のそれに似た動きで、敵は小刻みに揺ればらけ始める。
(これならば)
真が両手の剣を握り直す。
「サクラ、道を作って貰えるか」
真が何かを閃き協力を要請する。
「えっと道、ですか……やってみます」
彼女はその言葉の意味を理解し彼の後を追い、球体の上を目指す。その間にルーンソードを掲げ、発動スキルを選択。やるなら効果の高そうなアレしかない。僅か数秒で完成させ、追ってくる布達を前で解き放つ。
「魔の物は天に帰りなさい!」
聖なる光が球の中心を突き刺す様に伸びてゆく。その筋に真自ら飛び込んで、重力に任せて中を降下。多少の傷など構っていられない。
(あった。あそこだ!)
薄緑の光を帯びた龍鉱石、それがまるでこの球の心臓の様に脈打ち輝いている。
(その力、封じさせて貰うっ!)
真の二振りの剣が龍鉱石に到達した。それと同時に蒼い蔦が出現したかと思うと石自体を絡め取っていく。そして最後にはひびが入り、石が粉々に砕け散る。
「やったか!」
船上の錬が思わず声を出す。
その頃にはオカリナの音で雑魔が船に来るのも治まって……敵は壊された力の源に消沈するかのように身をくねらせ暗黒海域の奥の方へと退散。
「やりましたねっ」
箒から飛び出した真を追い落下する彼をサクラが掬い上げる。
「ああ、それでもギリギリだったね。サクラもお疲れ様」
かくて、窮地に立たされたハンター達であったが何とか無事船へと舞い戻る。
船員達はそんな彼らを称えつつも、壊されてしまった外板の修復を急ぐのであった。
「まだ捕まったという報告は上がっていないですね」
船の通信機を使って調べていたサクラ・エルフリード(ka2598)が言う。
「確か残り三人だっけ? 油断できないわよね」
そういうのはカーミン・S・フィールズ(ka1559)。彼女らが話しているのはイズの船を襲った海賊の事だ。
「何、奴らの事じゃ。空に姿が見えず、海上にも船がないとなれば水中という事になるが、まあわざわざ潜る事も無かろうて」
潜水可能な魔導鎧を有してはいるが未確認情報で潜るのは嫌なのかミグ・ロマイヤー(ka0665)は動かない。
「まあ、潜って海の歪虚を刺激する事になってもあれだしね」
気にはなるが、鞍馬 真(ka5819)他皆の総意で海賊に関しては警戒だけに留めている。
「で、その海賊達って強いのかな?」
時音 ざくろ(ka1250)がそちらの事件を知る三名に尋ねる。
「そう、ですね…一人はおねぇな格闘士、もう一人は疾影士でしたよね?」
「そうじゃの。なかなかの手練れではあったが、問題はもう一人の方じゃな」
事件の中心人物…細身の剣を携えた海賊のボスと思われる男は用意周到で極めて狡猾。このままこちらを見逃すとは思えない。
「何にせよ、厄介なものだ」
神城・錬(ka3822)は言葉する。そんな相手が次に姿を現わすのは仕組まれた最悪のタイミング。
「ほってはおけない。早急に対処する」
合体を始めた雑魔を前に錬が空へと飛び出す。
それに続いてサクラはソリを浮かせ、真は魔法の箒に跨り雑魔の元へ。連絡がつくように各々通信機を携帯し、監視台にはカーミンが。ミグは船尾を、ざくろは中甲板で周囲を警戒。イズの吹くオカリナだけがその海域一帯に響き渡り、未だ雑魔の動きは安定しない。
(やはり効いているのか。ここまで来てもまだ襲ってこないとは)
これは敵を観察し錬が抱いた印象。ならば今が好機といえよう。
「敵に接近、これより攻撃に入る」
そう告げて彼は早速眼前の球体を攻撃する。空渡で到着した勢いそのままに球体側面にアサルトディスタンス。球体を駆け上がる形で切り開こうと試みる。
「ぬっ!?」
が、踏み込んだ足がするりと抜けた。
合体により硬い表面になっていると思い込んでいたが、元は布の集合体。危機を察知し、イワシの群れの如くばらけ彼の足場は崩壊する。
「駄目っ、動かないでっ!」
それに気付いて、サクラが闇の刃で行動阻害。だが、阻害も何もダメージが通ったかと思うと、そのまま消滅し錬の落下は止まらない。
(くっ、こいつら弱過ぎる!?)
数はあれど所詮は雑魔。各個体はそれ程強くない。
が塵にならなかった別の布が彼の足に巻き付くとビリリッと電流を走らせ足の感覚を奪ってゆくではないか。
(この布、思ったよりヤバいぞ…っと待て。オカリナはどうした?)
麻痺した足で落下する中、ふと気付いた些細な異変。しかし、通信する前に彼は海面に叩き付けられる。
「錬さんっ!」
サクラの声。が彼女とて襲ってき始めた雑魔の対応に追われ動けない。
そんな危機的状況に追い打ちをかけるように、海賊達も動き出す。
「何だ、アレ」
真が海面から覗く何かを見つけて接近する。だが、あちらの方が早くて…海面から飛び出したのは一本の矢。
矢尻の石が薄緑に淡く輝いている。その矢尻の石に真は見覚えがある。
(海中から矢…しかも龍鉱石付だって?!)
真が焦る。しかし矢は待ってくれず、そのまま雑魔の塊目掛けて放たれる。
「くっ、何てことだ」
海面に顔を出した錬が呟く。眼前では石を得て勢い付く雑魔の塊。音が消えたと同時に船に向かって何体が飛び始める。
「さあ、始めるわよ」
そんな中、いつ現れたのか海面すれすれをガタイのいい男が飛び去ってゆく。
(海賊はともかく判った事は報告せねば。それにイズはどうした?)
雑魔と音との関係、それはこの戦いにおいて重要だ。それに音を止める報告がないのもおかしい。
「真、ここを頼む。零れた雑魔を俺は追うから」
錬がそう言い引き返す。彼の通信機は水でおしゃかになっていた。
「くっ、あれにこっちを襲わせようって訳? 手慣れてるわね」
報告を受け、手空きの船員を船内へ避難させ、こちらは待ちの構え。石の力で体積を増やす敵が気にかかるも船を空には出来ない。それにだ。今は飛び来る格闘士の事もある。銃で妨害を試みるが、早い動きでかすりもしない。かくなる上は、目には目を。
「そっちがその気なら、こっちもやるわよ。イズ、オカリナを…ッ!?」
そこではたと気付いた更なる異変。イズのいた場所にはただオカリナだけが転がっている。
(しまった! 敵もアレを使えるんだった!)
向こうに気を取られていたとはいえ、ざくろやミグも見落とすとは。けれど、見えないなら無理もない。影に注意しろといっても全てをチェックするのは不可能だし、ましてやさっきの避難に紛れていたなら尚更だ。だが、まだそう遠くには行けない筈。隅々に視線を走らせる。すると意識を失くし船の縁に引きずられるイズの姿。という事は敵はあの疾影士に間違いないだろう。
「離し…ッ!?」
そこで救出しようと動いた彼女だったが、イズの首元にナイフを翳されて万事休す。
「あら、こんだけなの?」
ミグは機導術で船を揺らしていたようだが、甲板にはついにあの格闘士が乗船する。
「どういうつもり?」
カーミンがそこにいるであろう敵に問う。だが、敵は黙ったままイズを掴み上げ有ろう事か海の方へと投げとばす。
「なんとっ!」
それを目撃したミグの絶句。カーミンは敵をミグに任せてイズを追う。
「またそなたか。この船に貴様の予約席はないぞ」
ステルス解除した疾影士を前にミグは溜息をつく。
「ならば作るまで」
疾影士との再戦、それは以前に増して苛烈になるも装備上またも防戦に甘んじるミグであった。
●共闘
一方、ざくろは格闘士とタイマン中。
「あら、立派な鎧ね…カッコいいじゃない」
ざくろの盾に拳を防がれて尚、男は余裕の笑み。その態度が歪虚の持つ純粋な殺意と違い不気味だ。がやる事は決まっている。男の言葉を無視して、チャンスを待つ。右へ左へ、格闘士のラッシュは止まらない。距離を詰めると容赦なく打ち込む。そんな相手に彼がやり返す事が出来るとすれば、それはほんの一瞬の隙が鍵になる。
「あら、だんまりなの? つまらないじゃない」
男はそう言い再び突進。それを待ってざくろは一気にマテリアルを武器に流し込み超重練成。巨大化した剣の腹でそのまま男を薙ぎ払う。それには男から小さな呻きがあるも打たれ強さも半端ない。
「けほっ…こほッ…あらぁ、やってくれるじゃない」
さっきよりも目付きを鋭くして男が言う。
「ざくろはハッキリ言って君に興味はないんだ。だから、話しかけないでくれる?」
悪びれる様子もなく彼が言い返す。
「ハッ、そのすまし顔を壊したげる」
男が再び動いた。それをざくろは攻性防壁で迎え討つ。だが、さっきよりも数段早く駆けてくる男に構えが間に合わない。しかも、てっきり正面から打ち込んでくると思っていた彼だが、男は彼の傍を通り過ぎ背後に回ると、背中に触れた瞬間。
「喰らいなァ!」
「ぐっ」
ざくろが大きくバランスを崩す程の衝撃。それは鎧をすり抜けダイレクトに届いた気がしてよろよろと足を踏み出さざる負えない。そんな彼に向けて、男は彼の関節を取りにかかる。
「いかんっ」
その様子を見て、ミグがアンカーを打ち出した。するとその杭はなんとか格闘士のそれを妨害し一筋の朱を頬に描く。
「ちょっ、邪魔すんじゃないわよっ! あんたもちゃんとやりなさいよ!」
突然の横やりに男が激怒し、疾影士を責める。
「知った事か。そっちがもっと」
「しゃらくさいわ!」
敵同士が暴言をぶつけ合う。その光景を二人は思う。
(成程、こいつらが覚醒者でありながらハンターをしない訳はこれだ)
もめる二人を前にこちらは団結。
「君の相手はざくろだよ!」
ざくろが二人に向けてガウスジェイルを展開。一手に二人の攻撃を引き付ける。その間にミグはマテリアルを集中させ、良き場所に敵が入るのを見計らいアイシクルコフィン。絶妙の連携が敵を襲う。そして、決め手となったのはざくろのあれだ。氷柱で動きを阻害した相手には隙も多い。
(いいわ、纏めて相手したげる!)
男が拳を振り被る。疾影士もこちらの攻撃を巧みに避け二人に迫る。
「残念だったのう。これで終いじゃ」
ざくろを守る形でミグが攻性防壁発動。弾かれた格闘士にざくろの巨大剣が迫り、防御に出るも超重練成の衝撃に耐えられず両手の骨が砕け散る。それでも悲鳴を上げなかったのは流石だ。そして疾影士の方も飛んで避けるだろう事は既に予測済。ミグのアンカーが彼の足を貫けば、得意の動きも出来なくて。
「もう降参しなよ。この船をこれ以上汚したくないんだ」
二人に剣を突き付けざくろが言う。
「ふふ…まさか、自分の壊れる音を聞くとはね…」
格闘士はそう呟き、もう一人はただ黙って海の先を見つめるだけ。
「おい、イズは何処だ?」
そこへ舞い戻り飛び来る雑魔の排除をかって出ていた錬が尋ねる。
「はて、確かカーミンが追ったようじゃが…」
「そういえば海賊は三人と言っていたな…となると、あいつは」
それと戦っていると推測できる。が早くイズを連れ戻し、オカリナを再開せねば空で戦っている仲間が危ない。
(音の在りと無しで明らかに動きが違った。やはり効果はある)
錬は雑魔の近くに行った時の事を思い出し、そう確信している。
「最後に見たのはどっちだ?」
彼の問いにミグは船後方を指差した。
●舞刀士
「いった~ッぐ!」
飛び降りた先、目の前の容赦ない男の刃にカーミンが息を詰まらせる。そこには潜水艇が待機しイズを受け取ると潜水艇にぶち込む男の姿があった。その予想だにしなかった敵の行動に彼女は翻弄されっぱなしだ。そして不意の攻撃を受け、今に至る。
「動くなよ」
男が練り上げたマテリアルを一気に解放する。そして、眼にも止まらぬ速さで抜刀するとカーミンを強烈な斬撃が襲う。それを辛うじて跳び上がる事で避けた彼女であったが、斬撃はそのまま船側面に直撃し、外板の一部を破壊して…。
「ちょっ、あんた本気なの! あの船がないとあんた達だって」
「知らんな」
カーミンの驚きを余所に男は意に関せず。足元が濡れていても全くブレず無駄のない所作で次々とカーミンに打ち込んでくる。
(クッ、何なのよ、こいつ)
それに比べてこちらは受けるのが精一杯。得物も銃と弓だし、ここでのステルス化は意味がなく辛うじて千日紅で凌いでいる状況。仲間を呼ぶ暇さえ与えてくれない。距離を取り制圧射撃で応戦するも男はそれを居合で制し、距離を詰めてくるではないか。
絶体絶命――こんな事なら空渡を活性化しておくべきだったと思う。どうしたら…そう思った時だった。ゴゴゴッと音がして、これには彼女のみならず男もバランスを崩す。
「あの女、余計な真似を」
男からそんな言葉が漏れた。とするとこれはさっきの轟音で中のイズが目を覚ましたのだろう。注意して見れば潜望鏡がこちらを向いている。
「さっきのお返しよっ!」
男の隙を見取って、カーミンが男の剣の握りを狙い撃つ。すると剣は綺麗に弾かれて――もう一本に手をかけようとするが、それを許す訳にはいかない。
「下がりなさい。イズは返してもらうわ」
銃を突きつけたままカーミンが男を後退させる。
「カーミンさん」
「有難う。助かったわ」
男を前にしてカーミンは視線を離さぬまま、イズの無事に安堵する。
「…早くやれ。撃たなければまた襲うぞ?」
男がイラついた様子で言う。
「撃つのは簡単よ。まずはもう一本の剣を海に捨てて。あんたには聞きたい事があるの」
カーミンの言葉に男が苦笑。そんな彼に彼女は逃亡防止の弾丸を撃ち込んだ。
●雑魔
船が鎮圧されかかっているその頃、未だに海上ではあの歪虚との戦いは続いていた。
「もう限界ですよぉ」
ミレニアムで真が傷好かぬように加護の祈りを捧げ続けているサクラであるが、一方的に消費していく魔力にさすがの彼女も疲れを感じずにはいられない。加えて、錬の離脱でその負担はさらに大きくなっている。
「あの石をどうにかできたらいいんだが」
真も慣れない箒の上では思う様に切り込む事叶わない。蒼炎華を発動し剣に炎のオーラを纏わせて、薙ぐように切る事で周囲を巻き込み数を減らすも龍鉱石があってはキリがない。
「もう少しじっとしていてくれれば」
真が奥歯を噛む。そして、船が幾分静かになった気がして、真が援護を要請する。
「ゴメン、今からやるわ」
男を縛り上げ戻ったカーミンが言う。
「イズ、取り急ぎもう一度オカリナを吹け」
その横では錬が何かを指示しているようだ。
「でも、私の力じゃ」
彼女が自信なさげに言葉する。
「あくまで俺の勘だが、あの音は確かに効いていた。距離があったから効果が薄れていたのかもしれん。ならば音を上げれば」
「幸い拡声器は持っておるぞ」
錬に続き、ミグの助太刀。その言葉を信じてイズがもう一度オカリナに息を吹き込む。
するとまた光を帯びて、曲になると同時に音は拡声器によって増長され、眼前の球体を刺激する。
「ん? 震え始めた??」
音が届くと共に開戦前のそれに似た動きで、敵は小刻みに揺ればらけ始める。
(これならば)
真が両手の剣を握り直す。
「サクラ、道を作って貰えるか」
真が何かを閃き協力を要請する。
「えっと道、ですか……やってみます」
彼女はその言葉の意味を理解し彼の後を追い、球体の上を目指す。その間にルーンソードを掲げ、発動スキルを選択。やるなら効果の高そうなアレしかない。僅か数秒で完成させ、追ってくる布達を前で解き放つ。
「魔の物は天に帰りなさい!」
聖なる光が球の中心を突き刺す様に伸びてゆく。その筋に真自ら飛び込んで、重力に任せて中を降下。多少の傷など構っていられない。
(あった。あそこだ!)
薄緑の光を帯びた龍鉱石、それがまるでこの球の心臓の様に脈打ち輝いている。
(その力、封じさせて貰うっ!)
真の二振りの剣が龍鉱石に到達した。それと同時に蒼い蔦が出現したかと思うと石自体を絡め取っていく。そして最後にはひびが入り、石が粉々に砕け散る。
「やったか!」
船上の錬が思わず声を出す。
その頃にはオカリナの音で雑魔が船に来るのも治まって……敵は壊された力の源に消沈するかのように身をくねらせ暗黒海域の奥の方へと退散。
「やりましたねっ」
箒から飛び出した真を追い落下する彼をサクラが掬い上げる。
「ああ、それでもギリギリだったね。サクラもお疲れ様」
かくて、窮地に立たされたハンター達であったが何とか無事船へと舞い戻る。
船員達はそんな彼らを称えつつも、壊されてしまった外板の修復を急ぐのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/07/13 08:06:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/11 13:05:23 |