ゲスト
(ka0000)
【不動】弓と蛇
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/02/03 19:00
- 完成日
- 2015/02/11 10:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
マギア砦を巡る籠城戦が始まり、各国の勢力が各々の行動に移り始めるころ……砦の合議の間で、ファリフ・スコール(kz0009)やバタルトゥ・オイマト(kz0023)はめまぐるしく動く状況への対処に追われていた。
この作戦が辺境の土地における、辺境部族の発案による物である以上、その長達は全体を統括する司令部の役割を担わねばならなくなったのである。
中核は、ファリフとバタルトゥ。決して成熟した指導者でないとはいえ、二人は良く動いた。
辺境の間諜が報せる戦況の情報に対応し、手薄な、あるいは不利な戦場へ、どの戦力を送ることができるのかを把握し、戦闘を官制する。
そうして戦局は拮抗し、数の不利を背負いながらも、人類側の戦線は維持されていた。
だが……
「斥候の太陽猫より報告! マギア砦北東、黒き沼の森から虹の峠へ、大型歪虚が接近! 個体識別……推定『ハイルタイ』!」
「……えっ!」
「なんだと……」
魔導伝話ごしに伝えられた報告に、合議の間の空気が凍りつく。
ハイルタイ……かつてオイマト族を、辺境部族を裏切り、歪虚へとついた罪人。
自身も歪虚となって久しい今、その力は、数いる歪虚の中でも最も危険な等級にカテゴライズされる程の脅威である。
にも関わらず、圧倒的な数で砦を囲む歪虚を、ぎりぎりの戦力で抑えているこの状況……人類側がハイルタイまでを迎撃する戦力的余裕は、一切残されていなかった。
「放っておいたらそのままマギア砦を突破されちゃう……僕と、スコールの戦士が迎撃に行く! もう、それしかないよ!」
ファリフが、身の丈程の大斧を構えようとし、しかしバタルトゥがそれをそっと制した。
「……あれは我が部族の罪だ。オイマト族が止める」
「でもっ」
ファリフが、何かを言い返そうとした、その時。
『ならんッ!』
怒号が飛び、ファリフも、バタルトゥも、動きを止めた。
二人に向けて激昂したのは、それまで傍らで黙々と補佐を行っていた老兵……シバ(kz0048)であった。
「両者、己の立場を省みよ。この状況で全体を見通す眼を欠けば、瞬く間に戦線は瓦解するぞ。お主らがマギア砦を離れる事は断じてならん」
「だがシバ老……ハイルタイの力を知らぬ貴方では無いはずだ。今、あれがこの戦場に来てしまったら、それこそ我等は持ち堪えられない!」
反論したのはバタルトゥ。理性で激情を制しているとは言え、その瞳には、殺気さえ宿っている。
シバは……静かに、答えた。
「儂が出る」
「……な」
「それしか、なかろ?」
揃って目を見開いたバタルトゥとファリフに、シバは笑った。
それから直ぐに、シバは出発した。
直掩さえ連れず、たった一人で。
「……本当に、大丈夫かな。シバさん……」
絞りだす様に、ファリフが呟く。
災厄の十三魔に、ただ一人挑む。
その意味は、クリムゾンウェストに生きる者ならば子供でも悟ることができる事だった。
「大丈夫な訳がない。あの御仁は……恐らく……」
「……っ!」
「ファリフ、待て!」
ファリフが、弾けるように合議の間を出て行く。バタルトゥの制止さえ振り切って。
「すぐに戻るから!」
ただひたすらに。
彼女はマギア砦の中を駆けた。
駆けて、駆けて、駆けずり回って……ようやく、見つけた。
『困ったときは……』かつて打ちひしがれた自分にそう言ってくれた、友を、仲間を……ハンター達を。
「皆っ……お願いが、あるんだ……!」
●
マギア砦北東、虹の峠にて。
「この辺りは昔っからシケとるな」
退屈そうに、その人間離れした巨大な男は、これまた馬離れした巨大な馬にまたがり、マギア砦への道を進んでいた。
名はハイルタイ、災厄の十三魔が一将である。
「ガエルが働け働け五月蝿いから来てやったが、こう何にもない土地だと余計やる気が失せるわい」
疾駆する巨大馬の上で、ぶつくさと文句を垂れながら、左右非対称の腕を組むハイルタイ。
気怠そうな態度は、歪虚としての種族『怠惰』の見本の様な姿である。
だが、その巨大馬の足が突如止まる。ハイルタイは腕組みのまま前につんのめった。
「……なんだお前は」
見れば道の先、馬の進路上に人影が一つ。ハイルタイが、心底面倒そうに片眉を釣り上げる。
「我はシバ。我は戦士。蛇の戦士。月と蛇の戦士。赤き大地の子にして、我が敵を討ち、刃と火に死す者」
人影が放った言葉は、質問に答えているというよりは、何かを念じ、祈っているかの様だった。
そしてその人影、人間の男は……波打つ刀身の短剣を構え、ハイルタイに歩み出す。
「その首、その心の臓、貰い受けるぞ」
「……あ?」
ハイルタイは、口をあんぐり開け暫く固まってから……漸く、その言葉の意味を悟った。
「ああ、儂と戦うのか。お前は。一人で。あー……うーむ……まあ、いいか。寄り道がてら遊んでやろう」
ハイルタイが、鐙にかけていた弓と矢を取り出す。
赤き大地の戦士を、今まで何百、何千と殺した弓。
その弓に、ハイルタイが矢を番える。
老兵は、想う。
これを討てば誉れであり、全力で挑み死するもまた誉れ。
死に時を逃し老いさらばえた自分には、十分すぎる戦場だ、と。
ハイルタイが、弓の弦を引く。
……シバは、駆け出した。
マギア砦を巡る籠城戦が始まり、各国の勢力が各々の行動に移り始めるころ……砦の合議の間で、ファリフ・スコール(kz0009)やバタルトゥ・オイマト(kz0023)はめまぐるしく動く状況への対処に追われていた。
この作戦が辺境の土地における、辺境部族の発案による物である以上、その長達は全体を統括する司令部の役割を担わねばならなくなったのである。
中核は、ファリフとバタルトゥ。決して成熟した指導者でないとはいえ、二人は良く動いた。
辺境の間諜が報せる戦況の情報に対応し、手薄な、あるいは不利な戦場へ、どの戦力を送ることができるのかを把握し、戦闘を官制する。
そうして戦局は拮抗し、数の不利を背負いながらも、人類側の戦線は維持されていた。
だが……
「斥候の太陽猫より報告! マギア砦北東、黒き沼の森から虹の峠へ、大型歪虚が接近! 個体識別……推定『ハイルタイ』!」
「……えっ!」
「なんだと……」
魔導伝話ごしに伝えられた報告に、合議の間の空気が凍りつく。
ハイルタイ……かつてオイマト族を、辺境部族を裏切り、歪虚へとついた罪人。
自身も歪虚となって久しい今、その力は、数いる歪虚の中でも最も危険な等級にカテゴライズされる程の脅威である。
にも関わらず、圧倒的な数で砦を囲む歪虚を、ぎりぎりの戦力で抑えているこの状況……人類側がハイルタイまでを迎撃する戦力的余裕は、一切残されていなかった。
「放っておいたらそのままマギア砦を突破されちゃう……僕と、スコールの戦士が迎撃に行く! もう、それしかないよ!」
ファリフが、身の丈程の大斧を構えようとし、しかしバタルトゥがそれをそっと制した。
「……あれは我が部族の罪だ。オイマト族が止める」
「でもっ」
ファリフが、何かを言い返そうとした、その時。
『ならんッ!』
怒号が飛び、ファリフも、バタルトゥも、動きを止めた。
二人に向けて激昂したのは、それまで傍らで黙々と補佐を行っていた老兵……シバ(kz0048)であった。
「両者、己の立場を省みよ。この状況で全体を見通す眼を欠けば、瞬く間に戦線は瓦解するぞ。お主らがマギア砦を離れる事は断じてならん」
「だがシバ老……ハイルタイの力を知らぬ貴方では無いはずだ。今、あれがこの戦場に来てしまったら、それこそ我等は持ち堪えられない!」
反論したのはバタルトゥ。理性で激情を制しているとは言え、その瞳には、殺気さえ宿っている。
シバは……静かに、答えた。
「儂が出る」
「……な」
「それしか、なかろ?」
揃って目を見開いたバタルトゥとファリフに、シバは笑った。
それから直ぐに、シバは出発した。
直掩さえ連れず、たった一人で。
「……本当に、大丈夫かな。シバさん……」
絞りだす様に、ファリフが呟く。
災厄の十三魔に、ただ一人挑む。
その意味は、クリムゾンウェストに生きる者ならば子供でも悟ることができる事だった。
「大丈夫な訳がない。あの御仁は……恐らく……」
「……っ!」
「ファリフ、待て!」
ファリフが、弾けるように合議の間を出て行く。バタルトゥの制止さえ振り切って。
「すぐに戻るから!」
ただひたすらに。
彼女はマギア砦の中を駆けた。
駆けて、駆けて、駆けずり回って……ようやく、見つけた。
『困ったときは……』かつて打ちひしがれた自分にそう言ってくれた、友を、仲間を……ハンター達を。
「皆っ……お願いが、あるんだ……!」
●
マギア砦北東、虹の峠にて。
「この辺りは昔っからシケとるな」
退屈そうに、その人間離れした巨大な男は、これまた馬離れした巨大な馬にまたがり、マギア砦への道を進んでいた。
名はハイルタイ、災厄の十三魔が一将である。
「ガエルが働け働け五月蝿いから来てやったが、こう何にもない土地だと余計やる気が失せるわい」
疾駆する巨大馬の上で、ぶつくさと文句を垂れながら、左右非対称の腕を組むハイルタイ。
気怠そうな態度は、歪虚としての種族『怠惰』の見本の様な姿である。
だが、その巨大馬の足が突如止まる。ハイルタイは腕組みのまま前につんのめった。
「……なんだお前は」
見れば道の先、馬の進路上に人影が一つ。ハイルタイが、心底面倒そうに片眉を釣り上げる。
「我はシバ。我は戦士。蛇の戦士。月と蛇の戦士。赤き大地の子にして、我が敵を討ち、刃と火に死す者」
人影が放った言葉は、質問に答えているというよりは、何かを念じ、祈っているかの様だった。
そしてその人影、人間の男は……波打つ刀身の短剣を構え、ハイルタイに歩み出す。
「その首、その心の臓、貰い受けるぞ」
「……あ?」
ハイルタイは、口をあんぐり開け暫く固まってから……漸く、その言葉の意味を悟った。
「ああ、儂と戦うのか。お前は。一人で。あー……うーむ……まあ、いいか。寄り道がてら遊んでやろう」
ハイルタイが、鐙にかけていた弓と矢を取り出す。
赤き大地の戦士を、今まで何百、何千と殺した弓。
その弓に、ハイルタイが矢を番える。
老兵は、想う。
これを討てば誉れであり、全力で挑み死するもまた誉れ。
死に時を逃し老いさらばえた自分には、十分すぎる戦場だ、と。
ハイルタイが、弓の弦を引く。
……シバは、駆け出した。
リプレイ本文
ハンター達が戦場に辿り着いた時、既に戦は始まっていた。
馬に跨る人影は、遠目からでもそれと判る巨躯、ハイルタイ。ここからでは見えぬ何かに向け、幾度も弓を引いている。
「おいおい、あんなデカブツ相手に単身で時間稼ぎに行った馬鹿がいるなんて、勘弁しろよおい」
それを見た柊 恭也(ka0711)が、呆れたように溜息を付いた。
「馬鹿げたことを……もっとも、それに付き合おうとしてるあたり自分も人の事はいえないね」
どことなく楽しげに言うのは、鳳 覚羅(ka0862)。
そのまま彼は潜行しつつ、戦場を回りこむ様に移動し始める。
「さぁて、災厄の十三魔がどんなものか、楽しませて貰おうか」
イブリス・アリア(ka3359)も続く。
目的の人物……シバは既に視認している。まずは、彼を助けなければならなかった。
前線に勇み駆けていく者が居る一方で、決意の瞳でシバに向かう者も居る。
「……っ」
エイル・メヌエット(ka2807)は、地に片膝ついて身を伏すシバの姿を見て、唇を噛み締める。
悔恨があった。
白い雪原の記憶……あの時は、力になる事ができなかった。
でも、今度は。
「……大丈夫だよエイル。行こう。あの人を迎えに」
いつの間にか握りしめたエイルの拳に、そっと指を添えたのは、ルシオ・セレステ(ka0673)。
彼女と、共に苦い思いをしたあの時を、シバと、未来へ繋ぐ。
その為に、ルシオもまた、駆け出した。
「助太刀いたしますにゃ〜」
満身創痍、ふらついた足取りで戦うシバに、まず並び立ったのは白神 霧華(ka0915)だった。
ハンター達の姿に、シバは、一目で状況を察した様だった。
目を丸くしたシバに、霧華は悪戯っぽく笑う。
「来て、しもうたのか」
「老兵若き希望のために命を賭るのであれば、我、その老兵の盾となりて命を賭けよう。足止めを完遂し、全員で帰還しましょう!」
霧華は盾を構えて、シバを守るように、ハイルタイに相対した。
呆然とするシバの背に、エリス・ブーリャ(ka3419)が近づく。
「水差して悪いけど、あいつには友達にひどいことされた借りがあるんだよね。どーせ死ぬんならさ、一緒に協力してよ」
馬上から一言囁いて目配せすると、そのままハイルタイに駆けていった。
対するハイルタイは、突如現れたハンター達の展開を妨害するでもなく。
「新手か、面倒臭いな」
そう言って、弓を構えようとした矢先、
「ちょっと待ったー! シバ様も、あいや暫く!」
大声で叫びながら、敵前に躍り出たのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)。
「ハイルタイ! 貴様に言っておく!」
メリエがあらん限りの声を張り上げると、ハイルタイが、ぴたと手を留めた。
「昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがいましたっ!」
「はぁ?」
「お爺さんは山に芝刈りに、お爺さんは川に洗濯に……」
「なんのこっちゃ」
「何って、昔話ですよ! 分かるでしょそれぐらい! こういう話はお嫌いですか? じゃあ、ご趣味は!? 私は……」
ハイルタイはメリエの語りをまるで野良犬を観る様な眼で見つめている。
いつ、仕掛けられてもおかしくはない。
これでいくら時を稼げた? メリエには既に、時間の感覚が無かった。
相手が興味を失えば終わりだ。意図を悟られるな。笑え、こんな時こそ、ふてぶてしく。
メリエは、語り続ける。
一方で、ルシオやエイル、霧華はシバを囲み治療を行っていた。
「シバさん……一人きりで戦っていると、戦うべきだと思わないで。私たちは、まだ、貴方と一緒に為さなくてはならない沢山の事がある」
エイルが、白濁しかけたシバの瞳を見据えた。
血に染まった老人の顔は青く、指先は紫掛かっているが、何度もヒールを繰り返しながら祈った。
想いが、届く様にと。
「貴方はまだ死ぬ人じゃない。手を言葉を尽くさなければ、貴方の想いは何も伝わらない……違うかい」
ルシオもまた、ヒールを詠唱しながら、シバの手を取った。
少しずつその瞳には活力が戻り、その生命が潰える直前で繋ぎ止められたのが、判った。
やがてシバは、前線の方へ視線を向けた。
「……さぞや誇らしくご機嫌な事でしょう! ご気分は如何です? 故郷を裏切り! 同胞も裏切り! 親類縁者を悉く捨て去ってまで得た今のご自分は!」
その間、メリエはひたすら喋り続け、ハイルタイの注意を引いていた。
思いつくあらん限りの口上を、まるで演劇の様な大げさな仕草で。
「何とも滑稽な事だ! 化物の力を得て、未だ人の殻を残す今の貴方は、見事なまでに滑稽だ! ご気分は如何かと――」
「長いな、話が」
だが、その終わりは、唐突だった。
ハイルタイが弦を引く。
メリエの心臓が、破裂せんばかりに高鳴った。
「……いかん!」
叫ぶ声。声の主を推する余裕は、なかった。
怠惰が、射掛けた。
槍の様に巨大な矢。
刹那の間に、メリエに迫る。
彼女は、堅守で受け止めようとした。
……。
気づいた時、メリエの眼前にはシバが立っていた。
その脇腹に、槍の如き大矢が突き刺さっているのを見て……割り込み、守られたのだと、気づく。
「あ……」
「伏せい」
穏やかに、シバは言った。
メリエは咄嗟、シバとともに伏せた。ハイルタイは、既に次の矢を射ようとしている。
「シバ!」
ルシオが身を低くしながら、二人を追いかけて来た。
メリエは、シバの顔を覗いた。
生きている。間違いなく。
「シバ……判るだろう、貴方のために、どれだけの人が祈った事か。その為に奔走した人がどんな思いでいたか」
ルシオが、シバの目を見つめ、説いた。シバは、頷く。
かの矢からシバを護ったのは戦場遥か、マテリアルを介して届く祈り。
それも、一人二人による物ではない。
幾重にも想いを重ねたその守護が無くば、確実にシバは死んでいただろう。
時を稼いだメリエをシバが守り、そのシバを、祈りが護った……
「その祈りは、貴方を盾にする為じゃない。貴方だって、まだ知るべきことが沢山ある。背中から学び取れと言うなら一人で死なないで欲しい」
強く……ルシオは想いをシバにぶつけた。
シバは、微かに、驚く様な表情を見せ……
「……やれやれ、もう好き勝手はできんな」
達観の混じった笑みを零すと、ルシオに頷いてみせた。
だが、その間も戦況は動き続けている。
「お話し合いは決裂か? じゃ、真っ向勝負と行くか」
恭也が、最前列に出て大盾を構えた。その影から、ハイルタイの馬目掛けて拳銃を発砲して注意を引きつける。
合わせて、イブリスが手裏剣、エリスが魔導銃で同時に攻撃。
さらに一瞬遅れて、ハイルタイ側面より覚羅が再びの手裏剣で追い打ちする。
「んン〜?」
狙いは相手の乗騎。初撃にはマテリアルの祈りまで乗せた連携攻撃であったにも関わらず、歪虚の馬は微かに嘶くに留まった。
ハイルタイが、手近の恭也に向き直った。
「よう怠惰の。俺を倒すのは面倒だぜ? 簡単に殺せると思うなよ」
ハイルタイは答えず、丘の稜線上からハンター達を一瞥し、何かを取り出すような動作を行った。
矢が来る。恭也はそう踏み、それを真っ向から受けようと構えた。
構えて……次の瞬間、体が宙に浮いていた。
「……ッ、」
放物線を描いて落下し、そのまま地面を転がった。
鈍い、熱のような痛み。肩口の肉が、刳り取られている。
飛んできた鏃の重さと衝撃で、盾ごと持っていかれたのだ。
「うぇ、なにあれ……」
後方からそれを見たエリスが、頬を引きつらせる。
衝突の瞬間、エリスは防御障壁で恭也を守り、加えて本人は盾で受けた。
しかし尚、この威力。
加えて相手は既に、遥か丘の上で次の矢を番えている。
「チッ……俺が仕掛ける、続け」「はいよっ」
エリスに言い残して、ハイルタイの視界へ入っていくのはイブリス。
イブリスが放った手裏剣を、ハイルタイは避けさえしなかった。
エリスの援護射撃と共に手裏剣は馬の前足に深く突き刺さったが、馬も反応を示さない。
「そういや一度見たマヌケ面だね。あの時は終わりだとか言いつつ見事に外してたな」
「ん、お前もか」
挑発に対しハイルタイは、胡乱な反応。
喋りながら構えを解いて、もう一度弓を構えた。
その動作を見切ったイブリスは、馬上で身構え、回避行動に専念しようとした。
ハイルタイが、矢を放つ。
次いで、荒び狂う烈風が、ハンター達を『纏めて』『吹き飛ばし』た。
「な……ッ!?」
石壁がぶつかったかの様な衝撃、巻き上がる草土と石礫。
矢が、衝撃波を纏って襲いかかってきたのだと悟ったのは、イブリスが地に叩きつけられてからだった。
「上手く纏まったと思ったが」呟き、また次の矢を取り出すハイルタイ。
「……ッ」
ずたずたに掘り返された地面に手をついて、イブリスは立ち上がった。
馬がやられた。自分自身の傷もかなり深い。
みれば後方、矢の直線軌道付近にいた、エリスと恭也まで巻き込まれている。
リムーバブルシールドと祈りの加護があったエリスはともかく、先の傷に追い打ちを受けた恭也はかなり深刻だった。
……ハンター達は、なぜシバが、単身でここに来たのかを悟った。
出鱈目な威力と攻撃範囲。その連射を凌げる者など、現状ではまず居ないのだ。
数の利は埋められてしまう、しかしその上で、安全を度外視してでも徹底的に時を稼ぐとしたら……
「……シバさん、ハイルタイの攻撃パターンって、何かわかりますか」
ふと、物陰から前線を覗き込んでいた霧華が首を引っ込め、次に息を荒げるシバの顔を覗き込んだ。
シバは、荒い吐息に回答を混ぜた。
「攻撃の違いは、恐らくは鏃の違い。爆ぜる風を伴う矢はまず避け難い……が、物陰に居れば、威力は減ずる。先の、重い矢もまた然り」
「曲射とかの可能性は」
「儂は、見ておらん」
「つまり……とにかく隠れろ?」
「だがまずは、前に立つ者を助けねばなるまい」
霧華の言葉に、頷いてから、シバは言った。
正面からハイルタイと相対した者は、かろうじて戦列を維持してはいるものの、瓦解は時間の問題になっている。
「……っ」
朦朧とする意識の中で、恭也は銃を乱射する。足止めになっているかさえ、今の彼自身は判別が付かない。
「そういや、モナって歪虚が話してたクラーレて何者なん? CAM泥棒手引したっぽいけど」
「しらん」
この期に及んでハイルタイに質問をぶつけられるのは、時間稼ぎか、それともエリスの胆力と言うべきか。
尤も、当のハイルタイの答えはそっけない。
また衝撃派を伴う矢が飛ぶと、ハンター達は咄嗟に、近くの段差に身を潜めた。
射撃直後、ハイルタイの移動に合わせ覚羅が飛び出す。
鋼鉄の糸を歪虚馬の足に絡みつけての、エレクトリックショック。
「少しでも、機動力を削ぐ……!」
ハイルタイの馬が、微かに身震いしたが、その足が止まることはない。
同時に神楽の身体は、巨大な馬の質量に負けて鋼線ごと引っ張られ、宙に投げ出されてしまう。
「まずい……ッ!」
一か八かメリエが飛び出し、引きずられる覚羅のワイヤーを狙い、斧を振るった。
幸いにもワイヤーは絶ち斬られ、覚羅は歪虚馬から引き離される。
「……来るぞ!」
息つく間も無く、イブリスが叫んだ。
遠ざかるハイルタイが、後ろ向きに弓を構えていた。
再びの衝撃波が、ハンター達を襲う。
その後も繰り返し、ハイルタイは衝撃波の矢を撃ち込んできた。
何度も、作業めいて、淡々と。
「ええい! まだ時間こないのっ」
乗ってきた軍馬が衝撃波に巻き込まれ半数まで減った時、エリスは敢えて残りの馬をけしかけ、囮として使った。
馬群は、ハイルタイの矢に容赦なく吹き飛ばされる。
それで凌ぐのはただ一発。だが、その一発分でさえ、次の瞬間に命を繋ぐ貴重な余裕となる。
依頼の内容は、あくまでも『シバの救出』。
しかし、ハンター達は敢えて、時を稼ぐ事を選んだ。
故に……彼等は、逃げなかった。
容赦無く襲い来る矢を、物陰に隠れ、傷を癒やしながら、時に微かな反撃と共にやりすごす。
「シバさん……大丈夫、ですか」
シバを守る様に盾を翳しつつ、霧華は足元に横たわる彼を見た。
返事は無いが、荒げた呼吸の吐息は聞こえてくる。
「皆……もう少しだけ耐えて……あと、少し……」
衝撃波でその場の誰もが徐々にその命を削り取られていく中、ルシオは必死に、仲間にヒールを繰り返した。
誰一人も、欠けさせない為に。
やがて……
「五分、経った……!」
目標と定めた時が来て、覚羅は安堵よりまず戦慄した。まだ、たった五分しか経っていないと。
覚羅は何もない上空に機動砲を放つと、おもむろに岩陰から立ち上がり、その姿を晒した。
「ハイルタイ! キミに言っておく事がある」
「……あぁ?」
「自分達は……キミを此処へ足止めするためだけの先遣隊だ。時間は十分稼がせて貰った……今の機動砲は、本陣の増援部隊への合図だ。退くのなら今のうちだよ」
ハイルタイの表情は、変わらぬ怠惰のそれだ。
考えるのも面倒という表情で、再び弓を引き絞った……が、
その時、だ。
戦場の遥か遠くマギア砦と、その周辺から、高く高く狼煙が上がっていた。
戦火の黒炎ではない。
遠目からでもわかる、かなり大掛かりな白煙。
「あー……」
それに気づいたハイルタイが、露骨に顔を顰めた。
「きっと、ファリフさんが上げてくれたんですね」
狼煙は、霧華が予め、迎撃準備が整った時に上げて欲しいとマギア砦側に要望していたものだった。
そこに、覚羅の狂言……二つの事象が同時に重なり、不確かな嘘が、実像を持った。
ハイルタイの表情は、その産物。
「……まぁ、そうか。これだけ戦えば言い分としては良かろう。飽きてきたし、儂は帰る」
冗談の様な台詞を残して、ハイルタイは馬首を切り返し、いともあっさりその場を去った。
唐突に、静寂が満ちる。
それが事実上の勝利だとハンター達が気づくまでには、たっぷり数十秒を要した。
ルシオが、周りを見渡す。
無事な者など一人も居ない。
傷が嵩んだ恭也とイブリスは、身動きがとれない。そして、シバも。
だが。
誰一人、死んでもいない。ファリフとの約束は、守られた。
「……戻ろっか、マギア砦に」
エリスが、思い出した様に、呟く。
この戦いには、まだ先がある。
馬はもう居ないが……それでも、帰らなくてはなるまい。
それまで後方でじっと耐え忍んでいたエイルが、戦闘後即座に治療を行ったのが幸いした。
それで動ける様になった者には、そうでない者へと肩を貸し、ハンター達は帰還の道を歩き始める。
「帰ろう、シバ……貴方と語る機会が欲しい」
ルシオは、シバに肩を貸しながら、彼に言った。
答える代わりに苦笑の吐息を漏らした老兵は……記憶の中の姿より、ずっと小さく見えた。
馬に跨る人影は、遠目からでもそれと判る巨躯、ハイルタイ。ここからでは見えぬ何かに向け、幾度も弓を引いている。
「おいおい、あんなデカブツ相手に単身で時間稼ぎに行った馬鹿がいるなんて、勘弁しろよおい」
それを見た柊 恭也(ka0711)が、呆れたように溜息を付いた。
「馬鹿げたことを……もっとも、それに付き合おうとしてるあたり自分も人の事はいえないね」
どことなく楽しげに言うのは、鳳 覚羅(ka0862)。
そのまま彼は潜行しつつ、戦場を回りこむ様に移動し始める。
「さぁて、災厄の十三魔がどんなものか、楽しませて貰おうか」
イブリス・アリア(ka3359)も続く。
目的の人物……シバは既に視認している。まずは、彼を助けなければならなかった。
前線に勇み駆けていく者が居る一方で、決意の瞳でシバに向かう者も居る。
「……っ」
エイル・メヌエット(ka2807)は、地に片膝ついて身を伏すシバの姿を見て、唇を噛み締める。
悔恨があった。
白い雪原の記憶……あの時は、力になる事ができなかった。
でも、今度は。
「……大丈夫だよエイル。行こう。あの人を迎えに」
いつの間にか握りしめたエイルの拳に、そっと指を添えたのは、ルシオ・セレステ(ka0673)。
彼女と、共に苦い思いをしたあの時を、シバと、未来へ繋ぐ。
その為に、ルシオもまた、駆け出した。
「助太刀いたしますにゃ〜」
満身創痍、ふらついた足取りで戦うシバに、まず並び立ったのは白神 霧華(ka0915)だった。
ハンター達の姿に、シバは、一目で状況を察した様だった。
目を丸くしたシバに、霧華は悪戯っぽく笑う。
「来て、しもうたのか」
「老兵若き希望のために命を賭るのであれば、我、その老兵の盾となりて命を賭けよう。足止めを完遂し、全員で帰還しましょう!」
霧華は盾を構えて、シバを守るように、ハイルタイに相対した。
呆然とするシバの背に、エリス・ブーリャ(ka3419)が近づく。
「水差して悪いけど、あいつには友達にひどいことされた借りがあるんだよね。どーせ死ぬんならさ、一緒に協力してよ」
馬上から一言囁いて目配せすると、そのままハイルタイに駆けていった。
対するハイルタイは、突如現れたハンター達の展開を妨害するでもなく。
「新手か、面倒臭いな」
そう言って、弓を構えようとした矢先、
「ちょっと待ったー! シバ様も、あいや暫く!」
大声で叫びながら、敵前に躍り出たのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)。
「ハイルタイ! 貴様に言っておく!」
メリエがあらん限りの声を張り上げると、ハイルタイが、ぴたと手を留めた。
「昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがいましたっ!」
「はぁ?」
「お爺さんは山に芝刈りに、お爺さんは川に洗濯に……」
「なんのこっちゃ」
「何って、昔話ですよ! 分かるでしょそれぐらい! こういう話はお嫌いですか? じゃあ、ご趣味は!? 私は……」
ハイルタイはメリエの語りをまるで野良犬を観る様な眼で見つめている。
いつ、仕掛けられてもおかしくはない。
これでいくら時を稼げた? メリエには既に、時間の感覚が無かった。
相手が興味を失えば終わりだ。意図を悟られるな。笑え、こんな時こそ、ふてぶてしく。
メリエは、語り続ける。
一方で、ルシオやエイル、霧華はシバを囲み治療を行っていた。
「シバさん……一人きりで戦っていると、戦うべきだと思わないで。私たちは、まだ、貴方と一緒に為さなくてはならない沢山の事がある」
エイルが、白濁しかけたシバの瞳を見据えた。
血に染まった老人の顔は青く、指先は紫掛かっているが、何度もヒールを繰り返しながら祈った。
想いが、届く様にと。
「貴方はまだ死ぬ人じゃない。手を言葉を尽くさなければ、貴方の想いは何も伝わらない……違うかい」
ルシオもまた、ヒールを詠唱しながら、シバの手を取った。
少しずつその瞳には活力が戻り、その生命が潰える直前で繋ぎ止められたのが、判った。
やがてシバは、前線の方へ視線を向けた。
「……さぞや誇らしくご機嫌な事でしょう! ご気分は如何です? 故郷を裏切り! 同胞も裏切り! 親類縁者を悉く捨て去ってまで得た今のご自分は!」
その間、メリエはひたすら喋り続け、ハイルタイの注意を引いていた。
思いつくあらん限りの口上を、まるで演劇の様な大げさな仕草で。
「何とも滑稽な事だ! 化物の力を得て、未だ人の殻を残す今の貴方は、見事なまでに滑稽だ! ご気分は如何かと――」
「長いな、話が」
だが、その終わりは、唐突だった。
ハイルタイが弦を引く。
メリエの心臓が、破裂せんばかりに高鳴った。
「……いかん!」
叫ぶ声。声の主を推する余裕は、なかった。
怠惰が、射掛けた。
槍の様に巨大な矢。
刹那の間に、メリエに迫る。
彼女は、堅守で受け止めようとした。
……。
気づいた時、メリエの眼前にはシバが立っていた。
その脇腹に、槍の如き大矢が突き刺さっているのを見て……割り込み、守られたのだと、気づく。
「あ……」
「伏せい」
穏やかに、シバは言った。
メリエは咄嗟、シバとともに伏せた。ハイルタイは、既に次の矢を射ようとしている。
「シバ!」
ルシオが身を低くしながら、二人を追いかけて来た。
メリエは、シバの顔を覗いた。
生きている。間違いなく。
「シバ……判るだろう、貴方のために、どれだけの人が祈った事か。その為に奔走した人がどんな思いでいたか」
ルシオが、シバの目を見つめ、説いた。シバは、頷く。
かの矢からシバを護ったのは戦場遥か、マテリアルを介して届く祈り。
それも、一人二人による物ではない。
幾重にも想いを重ねたその守護が無くば、確実にシバは死んでいただろう。
時を稼いだメリエをシバが守り、そのシバを、祈りが護った……
「その祈りは、貴方を盾にする為じゃない。貴方だって、まだ知るべきことが沢山ある。背中から学び取れと言うなら一人で死なないで欲しい」
強く……ルシオは想いをシバにぶつけた。
シバは、微かに、驚く様な表情を見せ……
「……やれやれ、もう好き勝手はできんな」
達観の混じった笑みを零すと、ルシオに頷いてみせた。
だが、その間も戦況は動き続けている。
「お話し合いは決裂か? じゃ、真っ向勝負と行くか」
恭也が、最前列に出て大盾を構えた。その影から、ハイルタイの馬目掛けて拳銃を発砲して注意を引きつける。
合わせて、イブリスが手裏剣、エリスが魔導銃で同時に攻撃。
さらに一瞬遅れて、ハイルタイ側面より覚羅が再びの手裏剣で追い打ちする。
「んン〜?」
狙いは相手の乗騎。初撃にはマテリアルの祈りまで乗せた連携攻撃であったにも関わらず、歪虚の馬は微かに嘶くに留まった。
ハイルタイが、手近の恭也に向き直った。
「よう怠惰の。俺を倒すのは面倒だぜ? 簡単に殺せると思うなよ」
ハイルタイは答えず、丘の稜線上からハンター達を一瞥し、何かを取り出すような動作を行った。
矢が来る。恭也はそう踏み、それを真っ向から受けようと構えた。
構えて……次の瞬間、体が宙に浮いていた。
「……ッ、」
放物線を描いて落下し、そのまま地面を転がった。
鈍い、熱のような痛み。肩口の肉が、刳り取られている。
飛んできた鏃の重さと衝撃で、盾ごと持っていかれたのだ。
「うぇ、なにあれ……」
後方からそれを見たエリスが、頬を引きつらせる。
衝突の瞬間、エリスは防御障壁で恭也を守り、加えて本人は盾で受けた。
しかし尚、この威力。
加えて相手は既に、遥か丘の上で次の矢を番えている。
「チッ……俺が仕掛ける、続け」「はいよっ」
エリスに言い残して、ハイルタイの視界へ入っていくのはイブリス。
イブリスが放った手裏剣を、ハイルタイは避けさえしなかった。
エリスの援護射撃と共に手裏剣は馬の前足に深く突き刺さったが、馬も反応を示さない。
「そういや一度見たマヌケ面だね。あの時は終わりだとか言いつつ見事に外してたな」
「ん、お前もか」
挑発に対しハイルタイは、胡乱な反応。
喋りながら構えを解いて、もう一度弓を構えた。
その動作を見切ったイブリスは、馬上で身構え、回避行動に専念しようとした。
ハイルタイが、矢を放つ。
次いで、荒び狂う烈風が、ハンター達を『纏めて』『吹き飛ばし』た。
「な……ッ!?」
石壁がぶつかったかの様な衝撃、巻き上がる草土と石礫。
矢が、衝撃波を纏って襲いかかってきたのだと悟ったのは、イブリスが地に叩きつけられてからだった。
「上手く纏まったと思ったが」呟き、また次の矢を取り出すハイルタイ。
「……ッ」
ずたずたに掘り返された地面に手をついて、イブリスは立ち上がった。
馬がやられた。自分自身の傷もかなり深い。
みれば後方、矢の直線軌道付近にいた、エリスと恭也まで巻き込まれている。
リムーバブルシールドと祈りの加護があったエリスはともかく、先の傷に追い打ちを受けた恭也はかなり深刻だった。
……ハンター達は、なぜシバが、単身でここに来たのかを悟った。
出鱈目な威力と攻撃範囲。その連射を凌げる者など、現状ではまず居ないのだ。
数の利は埋められてしまう、しかしその上で、安全を度外視してでも徹底的に時を稼ぐとしたら……
「……シバさん、ハイルタイの攻撃パターンって、何かわかりますか」
ふと、物陰から前線を覗き込んでいた霧華が首を引っ込め、次に息を荒げるシバの顔を覗き込んだ。
シバは、荒い吐息に回答を混ぜた。
「攻撃の違いは、恐らくは鏃の違い。爆ぜる風を伴う矢はまず避け難い……が、物陰に居れば、威力は減ずる。先の、重い矢もまた然り」
「曲射とかの可能性は」
「儂は、見ておらん」
「つまり……とにかく隠れろ?」
「だがまずは、前に立つ者を助けねばなるまい」
霧華の言葉に、頷いてから、シバは言った。
正面からハイルタイと相対した者は、かろうじて戦列を維持してはいるものの、瓦解は時間の問題になっている。
「……っ」
朦朧とする意識の中で、恭也は銃を乱射する。足止めになっているかさえ、今の彼自身は判別が付かない。
「そういや、モナって歪虚が話してたクラーレて何者なん? CAM泥棒手引したっぽいけど」
「しらん」
この期に及んでハイルタイに質問をぶつけられるのは、時間稼ぎか、それともエリスの胆力と言うべきか。
尤も、当のハイルタイの答えはそっけない。
また衝撃派を伴う矢が飛ぶと、ハンター達は咄嗟に、近くの段差に身を潜めた。
射撃直後、ハイルタイの移動に合わせ覚羅が飛び出す。
鋼鉄の糸を歪虚馬の足に絡みつけての、エレクトリックショック。
「少しでも、機動力を削ぐ……!」
ハイルタイの馬が、微かに身震いしたが、その足が止まることはない。
同時に神楽の身体は、巨大な馬の質量に負けて鋼線ごと引っ張られ、宙に投げ出されてしまう。
「まずい……ッ!」
一か八かメリエが飛び出し、引きずられる覚羅のワイヤーを狙い、斧を振るった。
幸いにもワイヤーは絶ち斬られ、覚羅は歪虚馬から引き離される。
「……来るぞ!」
息つく間も無く、イブリスが叫んだ。
遠ざかるハイルタイが、後ろ向きに弓を構えていた。
再びの衝撃波が、ハンター達を襲う。
その後も繰り返し、ハイルタイは衝撃波の矢を撃ち込んできた。
何度も、作業めいて、淡々と。
「ええい! まだ時間こないのっ」
乗ってきた軍馬が衝撃波に巻き込まれ半数まで減った時、エリスは敢えて残りの馬をけしかけ、囮として使った。
馬群は、ハイルタイの矢に容赦なく吹き飛ばされる。
それで凌ぐのはただ一発。だが、その一発分でさえ、次の瞬間に命を繋ぐ貴重な余裕となる。
依頼の内容は、あくまでも『シバの救出』。
しかし、ハンター達は敢えて、時を稼ぐ事を選んだ。
故に……彼等は、逃げなかった。
容赦無く襲い来る矢を、物陰に隠れ、傷を癒やしながら、時に微かな反撃と共にやりすごす。
「シバさん……大丈夫、ですか」
シバを守る様に盾を翳しつつ、霧華は足元に横たわる彼を見た。
返事は無いが、荒げた呼吸の吐息は聞こえてくる。
「皆……もう少しだけ耐えて……あと、少し……」
衝撃波でその場の誰もが徐々にその命を削り取られていく中、ルシオは必死に、仲間にヒールを繰り返した。
誰一人も、欠けさせない為に。
やがて……
「五分、経った……!」
目標と定めた時が来て、覚羅は安堵よりまず戦慄した。まだ、たった五分しか経っていないと。
覚羅は何もない上空に機動砲を放つと、おもむろに岩陰から立ち上がり、その姿を晒した。
「ハイルタイ! キミに言っておく事がある」
「……あぁ?」
「自分達は……キミを此処へ足止めするためだけの先遣隊だ。時間は十分稼がせて貰った……今の機動砲は、本陣の増援部隊への合図だ。退くのなら今のうちだよ」
ハイルタイの表情は、変わらぬ怠惰のそれだ。
考えるのも面倒という表情で、再び弓を引き絞った……が、
その時、だ。
戦場の遥か遠くマギア砦と、その周辺から、高く高く狼煙が上がっていた。
戦火の黒炎ではない。
遠目からでもわかる、かなり大掛かりな白煙。
「あー……」
それに気づいたハイルタイが、露骨に顔を顰めた。
「きっと、ファリフさんが上げてくれたんですね」
狼煙は、霧華が予め、迎撃準備が整った時に上げて欲しいとマギア砦側に要望していたものだった。
そこに、覚羅の狂言……二つの事象が同時に重なり、不確かな嘘が、実像を持った。
ハイルタイの表情は、その産物。
「……まぁ、そうか。これだけ戦えば言い分としては良かろう。飽きてきたし、儂は帰る」
冗談の様な台詞を残して、ハイルタイは馬首を切り返し、いともあっさりその場を去った。
唐突に、静寂が満ちる。
それが事実上の勝利だとハンター達が気づくまでには、たっぷり数十秒を要した。
ルシオが、周りを見渡す。
無事な者など一人も居ない。
傷が嵩んだ恭也とイブリスは、身動きがとれない。そして、シバも。
だが。
誰一人、死んでもいない。ファリフとの約束は、守られた。
「……戻ろっか、マギア砦に」
エリスが、思い出した様に、呟く。
この戦いには、まだ先がある。
馬はもう居ないが……それでも、帰らなくてはなるまい。
それまで後方でじっと耐え忍んでいたエイルが、戦闘後即座に治療を行ったのが幸いした。
それで動ける様になった者には、そうでない者へと肩を貸し、ハンター達は帰還の道を歩き始める。
「帰ろう、シバ……貴方と語る機会が欲しい」
ルシオは、シバに肩を貸しながら、彼に言った。
答える代わりに苦笑の吐息を漏らした老兵は……記憶の中の姿より、ずっと小さく見えた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
- エイル・メヌエット(ka2807)
マテリアルリンク参加者一覧
- ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239) → シバ(kz0048)
- エルデ・ディアマント(ka0263) → イブリス・アリア(ka3359)
- ジュード・エアハート(ka0410) → シバ(kz0048)
- エヴァンス・カルヴィ(ka0639) → エリス・ブーリャ(ka3419)
- 神薙 綾女(ka0944) → 鳳 覚羅(ka0862)
- レイス(ka1541) → シバ(kz0048)
- 春日 啓一(ka1621) → シバ(kz0048)
- ユリアン・クレティエ(ka1664) → シバ(kz0048)
- ジルボ(ka1732) → シバ(kz0048)
- エアルドフリス(ka1856) → ルシオ・セレステ(ka0673)
- リリア・ノヴィドール(ka3056) → シバ(kz0048)
- アルファス(ka3312) → シバ(kz0048)
- カール・フォルシアン(ka3702) → シバ(kz0048)
- エステル・クレティエ(ka3783) → シバ(kz0048)
- 長良 芳人(ka3874) → イブリス・アリア(ka3359)
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/02/03 07:42:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/02 00:45:53 |
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相談の卓 ルシオ・セレステ(ka0673) エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/02/02 23:39:20 |