ゲスト
(ka0000)
パダギエの逆襲
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2019/08/07 19:00
- 完成日
- 2019/08/15 16:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●落ちこぼれの歪虚
「嘘だろ、おい……」
浮遊大陸が消えていく……。
パダギエはそれを見て絶句した。
いずれ帰るつもりで一時的に避難したつもりだった。イヴが負けるとは思っていなかった。信じたくはなかった。
だが、パダギエはわかっていなかったのだ、人間の強さというものを……。
それが歪虚の敗北を意味したわけでは、なかった。
イヴは居なくなったが、王国から歪虚が消えたわけではなかった。
ただ、得体の知れない連中が現れだした、という風にパダギエには見えた。
それらのことをシェオル型と人間達が呼んでいることは、パダギエには知る由もない。
レッドバック以外の傲慢とも反りが合わないパダギエだったが、シェオル型とはさらに気が合いそうになかった。
己の生存を第一に考えてきたパダギエと、犠牲も省みず人間を襲うシェオル型とでは、違いすぎた。
だが、いずれ……
人間はシェオル型をも駆逐する。
あるいは、シェオル型が人間を皆殺しにする。
「はぁ。まったく、どっちもサイアクな未来だぜ!」
前者は自らの滅亡が後に待っているだろうし、後者は歪虚の本能を満たせてはいるが、シェオル型の(あるいは未知のその親玉の)支配する世界など居心地悪いことは考えるまでもない。
そして、その時が来るのは自分にとっては遠くない未来であると感じている。なぜなら……
パダギエという歪虚は長い時を生きた。
いや、生きたという表現は歪虚として適切ではない。長い間、歪虚として在った。
かのメフィストがイヴに見いだされる前から存在していた。
それが今の今まで生きてこれたのは、パダギエが弱かったからに他ならない。レッドバックに出会って改造されるまでは、ずっと小さくて弱い存在だったのだ。
配下にしても役に立たず、他と比較して脅威ではない。下手をすると居ることすら認識されない。さらにパダギエ自身「誰か世界滅ぼしてくんねえかなー」と考えるような歪虚だったのである。
毒にも薬にもならない。そんな存在だ。
だがレッドバックに出会って初めて自分にも出来ることが増え、人間の敵対者となることが出来た。
危険こそ伴っていたが、レッドバックは自らの生存を重視していたし、それには自分の生存も前提だった。
その日々は、歪虚として、それなりに……楽しかったと思う。
今パダギエはひどく後悔している。
このままサイアクな未来を待つことしかできなくなるくらいなら、まだレッドバックと一緒に浮遊大陸で殺された方が良かった。そんな風に考えていた。
待つことには慣れている。きっと、遠くない未来に結論は出る。
それに対して、残された選択肢は多くない。
だが、悪あがきが叶うなら……。
「どうせ死ぬなら楽しんだもん勝ちだよなぁぁぁ!」
●俺はパダギエ
今だからこそ言える!
弱かったからこそ、退屈を憎んでいた。
歪虚として人間に敵対できるようになってからは、それが楽しかった!
だが、それはもうできなくなった。
じゃあ、サイアクな未来をただ待つのか?
そんなのはごめんだ!
俺は弱い! けど頼れる奴はいない!
だから、独りで死ぬしかねえ。
問題はどう死ぬかだ。どんな死に方が一番マシか、それが問題だ!
だったら長いことずっと使わねぇでいた知識も総動員して人間を困らせてやるぜ!
なぜ使わなかったかというと、使い道があると思われて使い潰されるのが嫌だったからだ。
そんなことを考えていたら自分が最初は何者だったのかも思い出した。
俺はパダギエ、嫉妬の歪虚。
最期は勝者を妬みながら死ぬ。
これ以上の最期はねえ!
この世で生きる退屈しのぎに……
このパダギエが遊んでやるぜ、人間共!
●立て札出現
____________
↑
D a n g e r
めっちゃ怖い歪虚の住処
____________
王国の街道から少し外れた通りに、立て札が立っている。
宿場町からそう離れてはおらず、人目にはついた。
……ただの立て札だ。
転移門とかではない。
最近立てられたものだ。
誰もがイタズラだと思って相手にしなかったが、引っこ抜いてもまた新しいものが立てられる。
書かれていることが書かれていることなだけに、不気味に思う者もないではなかった。
依頼こそ出されなかったものの、近隣住民からハンターに相談したものがおり、立て札の存在はハンターの知るところとなった。
やがて、書かれている場所に行ってみようという、酔狂なハンターが現れた……。
「嘘だろ、おい……」
浮遊大陸が消えていく……。
パダギエはそれを見て絶句した。
いずれ帰るつもりで一時的に避難したつもりだった。イヴが負けるとは思っていなかった。信じたくはなかった。
だが、パダギエはわかっていなかったのだ、人間の強さというものを……。
それが歪虚の敗北を意味したわけでは、なかった。
イヴは居なくなったが、王国から歪虚が消えたわけではなかった。
ただ、得体の知れない連中が現れだした、という風にパダギエには見えた。
それらのことをシェオル型と人間達が呼んでいることは、パダギエには知る由もない。
レッドバック以外の傲慢とも反りが合わないパダギエだったが、シェオル型とはさらに気が合いそうになかった。
己の生存を第一に考えてきたパダギエと、犠牲も省みず人間を襲うシェオル型とでは、違いすぎた。
だが、いずれ……
人間はシェオル型をも駆逐する。
あるいは、シェオル型が人間を皆殺しにする。
「はぁ。まったく、どっちもサイアクな未来だぜ!」
前者は自らの滅亡が後に待っているだろうし、後者は歪虚の本能を満たせてはいるが、シェオル型の(あるいは未知のその親玉の)支配する世界など居心地悪いことは考えるまでもない。
そして、その時が来るのは自分にとっては遠くない未来であると感じている。なぜなら……
パダギエという歪虚は長い時を生きた。
いや、生きたという表現は歪虚として適切ではない。長い間、歪虚として在った。
かのメフィストがイヴに見いだされる前から存在していた。
それが今の今まで生きてこれたのは、パダギエが弱かったからに他ならない。レッドバックに出会って改造されるまでは、ずっと小さくて弱い存在だったのだ。
配下にしても役に立たず、他と比較して脅威ではない。下手をすると居ることすら認識されない。さらにパダギエ自身「誰か世界滅ぼしてくんねえかなー」と考えるような歪虚だったのである。
毒にも薬にもならない。そんな存在だ。
だがレッドバックに出会って初めて自分にも出来ることが増え、人間の敵対者となることが出来た。
危険こそ伴っていたが、レッドバックは自らの生存を重視していたし、それには自分の生存も前提だった。
その日々は、歪虚として、それなりに……楽しかったと思う。
今パダギエはひどく後悔している。
このままサイアクな未来を待つことしかできなくなるくらいなら、まだレッドバックと一緒に浮遊大陸で殺された方が良かった。そんな風に考えていた。
待つことには慣れている。きっと、遠くない未来に結論は出る。
それに対して、残された選択肢は多くない。
だが、悪あがきが叶うなら……。
「どうせ死ぬなら楽しんだもん勝ちだよなぁぁぁ!」
●俺はパダギエ
今だからこそ言える!
弱かったからこそ、退屈を憎んでいた。
歪虚として人間に敵対できるようになってからは、それが楽しかった!
だが、それはもうできなくなった。
じゃあ、サイアクな未来をただ待つのか?
そんなのはごめんだ!
俺は弱い! けど頼れる奴はいない!
だから、独りで死ぬしかねえ。
問題はどう死ぬかだ。どんな死に方が一番マシか、それが問題だ!
だったら長いことずっと使わねぇでいた知識も総動員して人間を困らせてやるぜ!
なぜ使わなかったかというと、使い道があると思われて使い潰されるのが嫌だったからだ。
そんなことを考えていたら自分が最初は何者だったのかも思い出した。
俺はパダギエ、嫉妬の歪虚。
最期は勝者を妬みながら死ぬ。
これ以上の最期はねえ!
この世で生きる退屈しのぎに……
このパダギエが遊んでやるぜ、人間共!
●立て札出現
____________
↑
D a n g e r
めっちゃ怖い歪虚の住処
____________
王国の街道から少し外れた通りに、立て札が立っている。
宿場町からそう離れてはおらず、人目にはついた。
……ただの立て札だ。
転移門とかではない。
最近立てられたものだ。
誰もがイタズラだと思って相手にしなかったが、引っこ抜いてもまた新しいものが立てられる。
書かれていることが書かれていることなだけに、不気味に思う者もないではなかった。
依頼こそ出されなかったものの、近隣住民からハンターに相談したものがおり、立て札の存在はハンターの知るところとなった。
やがて、書かれている場所に行ってみようという、酔狂なハンターが現れた……。
リプレイ本文
●新たなる敵
「めっちゃ怖い歪虚か……。どんな奴が待ち受けているんだろう」
鞍馬 真(ka5819)は立て札を前に、表情を険しくした。数々の強敵を相手取ってきた真。彼は、今また新たなる戦いに挑もうとしていた……。
「って、なんでそうなるのじゃ……」
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は緩やかに打ち消す。
すると真が不思議そうな顔でヴィルマを見た。
「そなた……本気なのか……?」
今度はヴィルマがシリアスな顔になった。
「こんなもん立てて、抜いても抜いても次を立てる……ねぇ」
その時点で怖くないと、セレス・フュラー(ka6276)が一般的な反応を示す。
一応、見かけた人の心情を鑑みて、引っこ抜いて割っておいた。
「だが、強敵との戦いを常に望むその姿勢は善し!」
そう言って豪快に笑うのはルベーノ・バルバライン(ka6752)。無駄に腕を組んで仁王立ちしている。
「いや私は」
真が、歪虚の正体を突き止め退治したいだけ……と真顔で抗議するとルベーノは笑った。可笑しいのか肯定したのか……。
そんな真の様子を不思議な顔で眺めているのがアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
「わふー。真さんは何にそんなに力んでるです?」
「何って……」
「早く行くですー」
待ちきれない、といった様子のアルマ。
彼の犬的好奇心は「なんだか、おもしろそーなところです?」という反応を示している。
「そうですぅ。行きましょうぅ! こんな所で止まっていても拉致があきませんん!」
星野 ハナ(ka5852)が言った。意見はアルマと同じだがベクトルはだいぶ違う。
息が荒く、目つきも険しい。立て札を挑発と受け取ったのだ。
「よーし一番乗りは貰ったあ!」
出発の気配を感じ取るや否やママチャリに飛び乗るセレス。彼女も実は楽しみだった。
「ずるいですー!」
言うや否や、バイクに飛び乗ってアクセル全開で追うアルマ。
「殺っちゃいますよぉ~」
気の抜けた声に殺意を乗せてハナもチャリで続いた。
「よし! 行くぞ」
真も真面目な顔のままそれを追う。
一瞬、置いて行かれた感を感じる、ヴィルマとルベーノ。
「ハッハッハッハ!」
ルベーノが呵々大笑した。
(なんじゃ……この展開……)
その横でヴィルマはこめかみを抑えた。
●愉快で不快な世界
山奥に佇む、寂れた洋館。蔦に覆われており、相当な年月を偲ばせる。
セレスは坂道をチャリで走破した。しかし、さすがに乗って入れるほど入り口は広くない。
ここにも立て札がある。
【↑歪虚 in the house!↑】
「テンション高っ!?」
小声で反応してドアに手をかける。
「うぷっ?!」
突然何かが頭の上に落下してきた。
同時に粉のようなものが飛び散って、激しくむせる。
同時に笑い声が聞こえた。……仲間の誰かではない。しかし声の主は見あたらない。
セレスは体勢を直し、いかめしい顔を作って数歩進むと横を向いてこう言った。
「授業を始める!」
『生徒のイタズラに動じない教師のマネ』をして、平然を示す。
「何やってるですぅ」
ハナが追い抜いていった。
薄暗い廊下を、ずんずん進んでいく。
次第に謎の青白い光が廊下に浮かびだした。ハナは自前の灯りを持っていたが、無いと不気味かつ進行方向が暗に示される。
足元を注意していないとわからないぐらいの大きさの立て札があった。
【右を見てね】
ハナは右を見る。
【左を見ろ】
ハナは左を見る。
【下を見やがれ】
不思議に思いつつ下を見る。
最初の立て札の内容が変わっていた。
【頭上注意】
「?!」
ガァーン!
ハナの後頭部に金ダライが直撃し、同時に周囲から、正体不明の笑い声がした。
「くっ……屈辱ですぅ!」
しばし、失意体前屈状態になった。
「大丈夫かっ!?」
追いついた真に心配された。思い切り見られていた。
「わふ? ただの金ダライですー」
アルマがそれを持ち上げて言った。むしろハナが動かないのを不思議がる。
「私のことは気にしないで下さいぃ……」
ハナはやっとのことで口にした。
「わかった、気をつけて!」
ここは任せて先に行け、とでも言われたように真は応えて、アルマと奥へと進んだ。
「強く生きるのじゃぞ……」
「心配は無用、明日は我が身よ」
ヴィルマとルベーノも声をかけて通り過ぎた。
廊下を進んでいくと【←順路】と隣に書かれた扉があった。
四人は扉を開けて入る。
「ブシシシシ! よく来たな命知らずの人間どもメェ!」
「ベリアル!? 死んだはずでは……!」
扉の向こうにいたものに、真が身構える。
その相手は、羊のぬいぐるみに【べりある】と名札が付けられたもの。どう見てもおもちゃの兵隊だ。声も特徴は捉えているが違う。
「……少し良いか?
似とらん」
ヴィルマは真が天然なのかギャグなのかわからなくなった。
「わぁい! 敵さんですー」
アルマが無邪気にデルタレイを放つとベリアルもどき未満は一瞬で灰になった。
「わぅ、もろいです。次行くです」
アルマは迷いもなく先へと進んだ。
その部屋はベリアル・ルームだったらしく、羊やら双子の少女のフィギュアやらが飾られていたが、これらはただのオブジェだった。それらを尻目に一行は【←順路】と書かれたドアを開ける。
「これはこれは……羽虫が群れて鬱陶しいことこの上ありませんね」
「メフィストまで……!」
「ほう」
「いやいや」
真面目に反応したのは勿論、真。ルベーノが興味深そうに見て、ヴィルマは有り得ないという風に手で打ち消す。
現れたのは、燕尾服を来た木偶人形の頭に【めふぃすと】と書かれただけのもの。声も口調は似せられているが、すごくわざとらしい。
「跪いて乞いなさい、この私の慈悲を……」
「わぁい人型ですー!」
メフィストもどき不良品は一瞬でアルマに灰にされた。
「わぅー。物足りないですー」
アルマは次の獲物を求める。
その、多分王国の原風景を模したつもりの部屋には、分体メフィストや子蜘蛛、レッドバック、ベリトのフィギュアまであったが、やはり意味はなかった。一行は次の扉を開けた。
「我が名はニブハズ!」
「「「「誰?」」」」
マニアックなチョイスだった。
「ベリアル・メフィストときて、イヴではないのか……」
ルベーノが首をひねった。
「ニブハズ……そんな名前の奴もおったような……」
「うん、私も覚えがある」
ヴィルマと真は記憶の底をさらった。
確かに戦っている。王国のメインストーリーと関係のない所で……。
「どうでもいいですー」
アルマが例によってマイナー歪虚の模造品を灰にした。
ちなみに、今までよりは実物に似ていた。
「なんで小出しです?」
もっと沢山の敵を相手取りたいアルマは先へと進むのだった。
「皆、待って!」
後方より呼びかける声。
セレスとハナだ。
2人とここで合流して、全員が揃った。
そこから先は長い廊下が続いており、不規則に曲がりくねった迷宮のようになっていた。
「わぅ? ここさっきも来たです。じゃ、こっち行ってみるです?」
アルマは好奇心のままに進む。
所々にぬかるみがあってセレスが派手にすっ転んだり、左右から飛んできた蛇やらムカデやらをハナがまともに食らったりしつつも(なぜかアルマは無事)、一行は進んだ……
そして……
「あきちゃったですー」
「舐めてた……」
うんざりしたアルマと、俯くセレス。一行は迷った。適当に進んでも大丈夫と踏んだのだが……。
「わふー! こう言うときはこうするです!」
アルマはデルタレイで壁を攻撃し始めた。
「あ、アルマ君! せめて方向決めよう!」
「こっちで合ってるです」
真が制止するがアルマは結局壁をぶち抜くのであった……。
その甲斐あって(?)一行は先に進み、ミラーハウスのように通路・床・天井が鏡張りの所へ出た。
「床まで?! ちょっ 男子下見るの禁止!」
スカートを抑えるセレス。
進行方向がわかりにくいので一行は注意して進んだ……
その最中だった。
「ギャーッハハハハー! 俺のホラーハウスへようこそ!!!」
突然声がしたかと思うと、鏡という鏡に、パダギエの姿が映ったのである。
●遊びをせんとや生まれけむ
「魔女、魔王の卵、覇道一直線、ワーカーホリック、青春少女、修羅……ってだいぶ混沌寄りのパーティだなオイ!」
「あああああああパダギエぇぇぇぇ!!! レッドバックとの戦いのときにいないと思ったらこんなところに!!!」
真っ先にセレスが反応した。
「おうハイスピードチャリンコ娘! そのスカートもこれには無力だろ! 風が駄目でもやりようはあるんだよ。オラッ手退けろ手! つーかそんなもん全力で作るとか『嫉妬』並の執着だな!」
「この変態!! ええい一発殴る! 殺すとまでは言わないけど殴る! 本体どこだ!」
パダギエに好き勝手言われ激昂するセレスが首を巡らす。鏡像の中に本体の有無は判らない。負のマテリアルも反応が弱い。
「パダギエ……レッドバックと共に解説していた歪虚、だよね?」
真は思い出した。
「その通りよ! 相変わらず常識人の皮を被ってんな人外!」
パダギエは矛先を真に向ける。
「お前が歪虚じゃないのが不思議だぜ、そんだけ働いて何で生きてられんだ? 趣味は仕事と怪我することかぁ? さしずめ『暴食』って所だな! メフィスト様にワイバーンで特攻して落とされたのは見物だったぜ」
「……誉められたのかな?」
「そんなわけないです」
あまりわかってない真に変わってアルマが言った。とても低い声で。
「……ねぇ。今、なに言ったです? 悪くて嫌な事、言ったですよねー?」
アルマは微笑んでいた。……怒りを湛えた微笑みだった。
「誰かを怒らせるのは俺の生き甲斐!」
パダギエはアルマに矛先を向けた。
「初めて見るが知ってるぜ! やたら歪虚に懐く大型犬! お前大分歪虚寄りのメンタルだろ?! 俺から見りゃあ既にバケモンだぜッ! 『怠惰』にしてるとすぐ人間辞めるぜ!」
「……うふふふっ。嫌なのは、全部、じゅっとしないと、ですよね?」
アルマは聞いていない。自分のことより、真が悪く言われたことにのみ怒っている。
「落ち着くがよい。ここで暴れては妾達も危険ゆえな」
ヴィルマはアルマを優しく諭す。
それにパダギエが反応した。
「おい霧の魔女! お前歪虚との戦いが終わったらどうする!? 山奥に籠もって鍋かき混ぜて暮らすか! イ~ッヒッヒ!
そんでその内人間に退治されんのさ!
魔女なんて名乗って超越者気取りってのは『傲慢』の真似事だな!」
「ふ……戯れ言ばかりによく回る舌よ」
ヴィルマは動じない。
「そのちんまいナリで余裕かまされてもな!」
「なにをっ! 身長は関係なかろうっ!」
ヴィルマはぷんすか怒った。
「こんのクソ蝙蝠ぃ、そこへ直れですぅ! たたっ斬ってあげますぅ!」
アルマとヴィルマに感化されたのか、ハナの怒りが炸裂した。
飛び出して符刀で鏡に映ったパダギエを攻撃し始める。
「無駄だよ鏡だからな! しかしさすがだな修羅! 歩く殺意! バーサーカードマスターを名乗りやがれ! 挨拶は『こんにちは』の次に『殺す』が必ず付くんだろ? 一番人間辞めてるぜッ! お前は『狂気』か『憤怒』ってとこだ!」
「あんたに何がわかるですぅ!」
そう、彼女の理想は歪虚には……殺される側には受容できまい。
歪虚なき人間社会の実現。全てはそのために。
ハナは次々と鏡を叩き割っていく。鏡の破片が刺さっても構わずに。
そんな中、拍手が鳴り響いた。
笑い声とともに。
「なかなかにウィットに富んでいるぞ、パダギエ。お前にはユーモアの才能があるのかもしれんな、ハッハッハ」
ルベーノだった。
「ルベーノ! いつも笑っているが弱者を嘲笑はしないってか? だが俺から見りゃ強者なんてのは皆同じだぜ!」
パダギエの軽口にも熱が入る。それが弱者の特権であるという風に。
「お前はどっちかって言うと悪役だろ! 城とか軍隊とか持ってな! そんでさっさと討伐される方になっちまえ! 歪虚無き後の悪の王だお前は! その理想に忠実な『強欲』が、いつか自身を滅ぼすだろうよ!」
「ほう。俺のことをそう見ているのか……」
ともすれば褒め言葉とも受け取れる。
(いや……その根底にあるのは『羨望』か)
「ふむ。パダギエ」
「何だ」
「お前個人の性質は嫌いではない。だが、歪虚のメンタリティを俺達は受け入れることができん……このようにな」
ルベーノと真以外の四人は怒りに任せてミラーハウスを壊しつつそれぞれパダギエの捜索を始めている。
「悔しいか! 悔しかったら見つけてみろ!」
その四人をなおも挑発するパダギエ。
「子供かお前は……」
そう言いつつルベーノは見逃さなかった。鏡に映るパダギエの顔も声も、充実しているようだったことを……。
●この世は夢よただ狂え
やがてパダギエはハンターらの執拗な捜索によって発見され、ハナが黒曜封印符まで使って飛行を封じた上で捕縛された。……破格の扱いである。
「そなた……」
ヴィルマが話しかけた。ここに到るまでに結構暴れたが、今は落ち着いている。
「わざわざ騒動を起して倒されたがっているのかえ? 返り討ちにできぬことなど、わかるはず……」
「さあな、俺も土壇場で新たな力に目覚めてお前らなんか一掃できたかもしれねえぜ! ならなかったけどよ」
「嘘だよね」
真が言った。彼にもそれは正確にわかった。
「誰も来なかったらどうするつもりだった?」
「泣く」
「泣かれてもなぁ……それで結局、何がしたいの?」
「半分は叶ったかな。あとはハンターに退治されて、めでたしめでたしってとこだ…………これ以上ないくらい清々しいぜ! 『これから』なんてもう考えなくていいもんなあ!」
しばしの沈黙の後、セレスは言った。
「まったく……人を一人も殺しもしないくせに、これだけハンターを煩わせるなんて……」
怒りを通り越して呆れている。殴るくらいで済ませてもよかったぐらいなのに。
「実は凄い奴だったのかもしれんな」
「それはねえよ」
ルベーノの言葉を、本人が否定した。
「……残念だ」
「……あんたが面白歪虚だったことくらいは覚えておきますよぅ、パダギエ」
ルベーノに続いて、ハナが言った。
「光栄だね。お前が殺した中で、覚えられてる奴がどれだけいるのやら」
軽口のようだったが、心からの喜びが読み取れた。
「お屋敷面白かったです」
そう言って、アルマがパダギエの前に立つ。
「遊んでくれたので、あんまり痛くないようにじゅっとしてあげますね?」
「そいつは最高だ……頼むぜ」
死を悟った。アルマにはそう思わせる迫力があった。
アルマが放った蒼い焔……
それがパダギエが最後に見た光景となった。
そうして……パダギエは逝った。
矮小な歪虚としては、精一杯大きな夢を叶えて。
ある意味では、勝利者と言えるのかもしれなかった。
「めっちゃ怖い歪虚か……。どんな奴が待ち受けているんだろう」
鞍馬 真(ka5819)は立て札を前に、表情を険しくした。数々の強敵を相手取ってきた真。彼は、今また新たなる戦いに挑もうとしていた……。
「って、なんでそうなるのじゃ……」
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は緩やかに打ち消す。
すると真が不思議そうな顔でヴィルマを見た。
「そなた……本気なのか……?」
今度はヴィルマがシリアスな顔になった。
「こんなもん立てて、抜いても抜いても次を立てる……ねぇ」
その時点で怖くないと、セレス・フュラー(ka6276)が一般的な反応を示す。
一応、見かけた人の心情を鑑みて、引っこ抜いて割っておいた。
「だが、強敵との戦いを常に望むその姿勢は善し!」
そう言って豪快に笑うのはルベーノ・バルバライン(ka6752)。無駄に腕を組んで仁王立ちしている。
「いや私は」
真が、歪虚の正体を突き止め退治したいだけ……と真顔で抗議するとルベーノは笑った。可笑しいのか肯定したのか……。
そんな真の様子を不思議な顔で眺めているのがアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
「わふー。真さんは何にそんなに力んでるです?」
「何って……」
「早く行くですー」
待ちきれない、といった様子のアルマ。
彼の犬的好奇心は「なんだか、おもしろそーなところです?」という反応を示している。
「そうですぅ。行きましょうぅ! こんな所で止まっていても拉致があきませんん!」
星野 ハナ(ka5852)が言った。意見はアルマと同じだがベクトルはだいぶ違う。
息が荒く、目つきも険しい。立て札を挑発と受け取ったのだ。
「よーし一番乗りは貰ったあ!」
出発の気配を感じ取るや否やママチャリに飛び乗るセレス。彼女も実は楽しみだった。
「ずるいですー!」
言うや否や、バイクに飛び乗ってアクセル全開で追うアルマ。
「殺っちゃいますよぉ~」
気の抜けた声に殺意を乗せてハナもチャリで続いた。
「よし! 行くぞ」
真も真面目な顔のままそれを追う。
一瞬、置いて行かれた感を感じる、ヴィルマとルベーノ。
「ハッハッハッハ!」
ルベーノが呵々大笑した。
(なんじゃ……この展開……)
その横でヴィルマはこめかみを抑えた。
●愉快で不快な世界
山奥に佇む、寂れた洋館。蔦に覆われており、相当な年月を偲ばせる。
セレスは坂道をチャリで走破した。しかし、さすがに乗って入れるほど入り口は広くない。
ここにも立て札がある。
【↑歪虚 in the house!↑】
「テンション高っ!?」
小声で反応してドアに手をかける。
「うぷっ?!」
突然何かが頭の上に落下してきた。
同時に粉のようなものが飛び散って、激しくむせる。
同時に笑い声が聞こえた。……仲間の誰かではない。しかし声の主は見あたらない。
セレスは体勢を直し、いかめしい顔を作って数歩進むと横を向いてこう言った。
「授業を始める!」
『生徒のイタズラに動じない教師のマネ』をして、平然を示す。
「何やってるですぅ」
ハナが追い抜いていった。
薄暗い廊下を、ずんずん進んでいく。
次第に謎の青白い光が廊下に浮かびだした。ハナは自前の灯りを持っていたが、無いと不気味かつ進行方向が暗に示される。
足元を注意していないとわからないぐらいの大きさの立て札があった。
【右を見てね】
ハナは右を見る。
【左を見ろ】
ハナは左を見る。
【下を見やがれ】
不思議に思いつつ下を見る。
最初の立て札の内容が変わっていた。
【頭上注意】
「?!」
ガァーン!
ハナの後頭部に金ダライが直撃し、同時に周囲から、正体不明の笑い声がした。
「くっ……屈辱ですぅ!」
しばし、失意体前屈状態になった。
「大丈夫かっ!?」
追いついた真に心配された。思い切り見られていた。
「わふ? ただの金ダライですー」
アルマがそれを持ち上げて言った。むしろハナが動かないのを不思議がる。
「私のことは気にしないで下さいぃ……」
ハナはやっとのことで口にした。
「わかった、気をつけて!」
ここは任せて先に行け、とでも言われたように真は応えて、アルマと奥へと進んだ。
「強く生きるのじゃぞ……」
「心配は無用、明日は我が身よ」
ヴィルマとルベーノも声をかけて通り過ぎた。
廊下を進んでいくと【←順路】と隣に書かれた扉があった。
四人は扉を開けて入る。
「ブシシシシ! よく来たな命知らずの人間どもメェ!」
「ベリアル!? 死んだはずでは……!」
扉の向こうにいたものに、真が身構える。
その相手は、羊のぬいぐるみに【べりある】と名札が付けられたもの。どう見てもおもちゃの兵隊だ。声も特徴は捉えているが違う。
「……少し良いか?
似とらん」
ヴィルマは真が天然なのかギャグなのかわからなくなった。
「わぁい! 敵さんですー」
アルマが無邪気にデルタレイを放つとベリアルもどき未満は一瞬で灰になった。
「わぅ、もろいです。次行くです」
アルマは迷いもなく先へと進んだ。
その部屋はベリアル・ルームだったらしく、羊やら双子の少女のフィギュアやらが飾られていたが、これらはただのオブジェだった。それらを尻目に一行は【←順路】と書かれたドアを開ける。
「これはこれは……羽虫が群れて鬱陶しいことこの上ありませんね」
「メフィストまで……!」
「ほう」
「いやいや」
真面目に反応したのは勿論、真。ルベーノが興味深そうに見て、ヴィルマは有り得ないという風に手で打ち消す。
現れたのは、燕尾服を来た木偶人形の頭に【めふぃすと】と書かれただけのもの。声も口調は似せられているが、すごくわざとらしい。
「跪いて乞いなさい、この私の慈悲を……」
「わぁい人型ですー!」
メフィストもどき不良品は一瞬でアルマに灰にされた。
「わぅー。物足りないですー」
アルマは次の獲物を求める。
その、多分王国の原風景を模したつもりの部屋には、分体メフィストや子蜘蛛、レッドバック、ベリトのフィギュアまであったが、やはり意味はなかった。一行は次の扉を開けた。
「我が名はニブハズ!」
「「「「誰?」」」」
マニアックなチョイスだった。
「ベリアル・メフィストときて、イヴではないのか……」
ルベーノが首をひねった。
「ニブハズ……そんな名前の奴もおったような……」
「うん、私も覚えがある」
ヴィルマと真は記憶の底をさらった。
確かに戦っている。王国のメインストーリーと関係のない所で……。
「どうでもいいですー」
アルマが例によってマイナー歪虚の模造品を灰にした。
ちなみに、今までよりは実物に似ていた。
「なんで小出しです?」
もっと沢山の敵を相手取りたいアルマは先へと進むのだった。
「皆、待って!」
後方より呼びかける声。
セレスとハナだ。
2人とここで合流して、全員が揃った。
そこから先は長い廊下が続いており、不規則に曲がりくねった迷宮のようになっていた。
「わぅ? ここさっきも来たです。じゃ、こっち行ってみるです?」
アルマは好奇心のままに進む。
所々にぬかるみがあってセレスが派手にすっ転んだり、左右から飛んできた蛇やらムカデやらをハナがまともに食らったりしつつも(なぜかアルマは無事)、一行は進んだ……
そして……
「あきちゃったですー」
「舐めてた……」
うんざりしたアルマと、俯くセレス。一行は迷った。適当に進んでも大丈夫と踏んだのだが……。
「わふー! こう言うときはこうするです!」
アルマはデルタレイで壁を攻撃し始めた。
「あ、アルマ君! せめて方向決めよう!」
「こっちで合ってるです」
真が制止するがアルマは結局壁をぶち抜くのであった……。
その甲斐あって(?)一行は先に進み、ミラーハウスのように通路・床・天井が鏡張りの所へ出た。
「床まで?! ちょっ 男子下見るの禁止!」
スカートを抑えるセレス。
進行方向がわかりにくいので一行は注意して進んだ……
その最中だった。
「ギャーッハハハハー! 俺のホラーハウスへようこそ!!!」
突然声がしたかと思うと、鏡という鏡に、パダギエの姿が映ったのである。
●遊びをせんとや生まれけむ
「魔女、魔王の卵、覇道一直線、ワーカーホリック、青春少女、修羅……ってだいぶ混沌寄りのパーティだなオイ!」
「あああああああパダギエぇぇぇぇ!!! レッドバックとの戦いのときにいないと思ったらこんなところに!!!」
真っ先にセレスが反応した。
「おうハイスピードチャリンコ娘! そのスカートもこれには無力だろ! 風が駄目でもやりようはあるんだよ。オラッ手退けろ手! つーかそんなもん全力で作るとか『嫉妬』並の執着だな!」
「この変態!! ええい一発殴る! 殺すとまでは言わないけど殴る! 本体どこだ!」
パダギエに好き勝手言われ激昂するセレスが首を巡らす。鏡像の中に本体の有無は判らない。負のマテリアルも反応が弱い。
「パダギエ……レッドバックと共に解説していた歪虚、だよね?」
真は思い出した。
「その通りよ! 相変わらず常識人の皮を被ってんな人外!」
パダギエは矛先を真に向ける。
「お前が歪虚じゃないのが不思議だぜ、そんだけ働いて何で生きてられんだ? 趣味は仕事と怪我することかぁ? さしずめ『暴食』って所だな! メフィスト様にワイバーンで特攻して落とされたのは見物だったぜ」
「……誉められたのかな?」
「そんなわけないです」
あまりわかってない真に変わってアルマが言った。とても低い声で。
「……ねぇ。今、なに言ったです? 悪くて嫌な事、言ったですよねー?」
アルマは微笑んでいた。……怒りを湛えた微笑みだった。
「誰かを怒らせるのは俺の生き甲斐!」
パダギエはアルマに矛先を向けた。
「初めて見るが知ってるぜ! やたら歪虚に懐く大型犬! お前大分歪虚寄りのメンタルだろ?! 俺から見りゃあ既にバケモンだぜッ! 『怠惰』にしてるとすぐ人間辞めるぜ!」
「……うふふふっ。嫌なのは、全部、じゅっとしないと、ですよね?」
アルマは聞いていない。自分のことより、真が悪く言われたことにのみ怒っている。
「落ち着くがよい。ここで暴れては妾達も危険ゆえな」
ヴィルマはアルマを優しく諭す。
それにパダギエが反応した。
「おい霧の魔女! お前歪虚との戦いが終わったらどうする!? 山奥に籠もって鍋かき混ぜて暮らすか! イ~ッヒッヒ!
そんでその内人間に退治されんのさ!
魔女なんて名乗って超越者気取りってのは『傲慢』の真似事だな!」
「ふ……戯れ言ばかりによく回る舌よ」
ヴィルマは動じない。
「そのちんまいナリで余裕かまされてもな!」
「なにをっ! 身長は関係なかろうっ!」
ヴィルマはぷんすか怒った。
「こんのクソ蝙蝠ぃ、そこへ直れですぅ! たたっ斬ってあげますぅ!」
アルマとヴィルマに感化されたのか、ハナの怒りが炸裂した。
飛び出して符刀で鏡に映ったパダギエを攻撃し始める。
「無駄だよ鏡だからな! しかしさすがだな修羅! 歩く殺意! バーサーカードマスターを名乗りやがれ! 挨拶は『こんにちは』の次に『殺す』が必ず付くんだろ? 一番人間辞めてるぜッ! お前は『狂気』か『憤怒』ってとこだ!」
「あんたに何がわかるですぅ!」
そう、彼女の理想は歪虚には……殺される側には受容できまい。
歪虚なき人間社会の実現。全てはそのために。
ハナは次々と鏡を叩き割っていく。鏡の破片が刺さっても構わずに。
そんな中、拍手が鳴り響いた。
笑い声とともに。
「なかなかにウィットに富んでいるぞ、パダギエ。お前にはユーモアの才能があるのかもしれんな、ハッハッハ」
ルベーノだった。
「ルベーノ! いつも笑っているが弱者を嘲笑はしないってか? だが俺から見りゃ強者なんてのは皆同じだぜ!」
パダギエの軽口にも熱が入る。それが弱者の特権であるという風に。
「お前はどっちかって言うと悪役だろ! 城とか軍隊とか持ってな! そんでさっさと討伐される方になっちまえ! 歪虚無き後の悪の王だお前は! その理想に忠実な『強欲』が、いつか自身を滅ぼすだろうよ!」
「ほう。俺のことをそう見ているのか……」
ともすれば褒め言葉とも受け取れる。
(いや……その根底にあるのは『羨望』か)
「ふむ。パダギエ」
「何だ」
「お前個人の性質は嫌いではない。だが、歪虚のメンタリティを俺達は受け入れることができん……このようにな」
ルベーノと真以外の四人は怒りに任せてミラーハウスを壊しつつそれぞれパダギエの捜索を始めている。
「悔しいか! 悔しかったら見つけてみろ!」
その四人をなおも挑発するパダギエ。
「子供かお前は……」
そう言いつつルベーノは見逃さなかった。鏡に映るパダギエの顔も声も、充実しているようだったことを……。
●この世は夢よただ狂え
やがてパダギエはハンターらの執拗な捜索によって発見され、ハナが黒曜封印符まで使って飛行を封じた上で捕縛された。……破格の扱いである。
「そなた……」
ヴィルマが話しかけた。ここに到るまでに結構暴れたが、今は落ち着いている。
「わざわざ騒動を起して倒されたがっているのかえ? 返り討ちにできぬことなど、わかるはず……」
「さあな、俺も土壇場で新たな力に目覚めてお前らなんか一掃できたかもしれねえぜ! ならなかったけどよ」
「嘘だよね」
真が言った。彼にもそれは正確にわかった。
「誰も来なかったらどうするつもりだった?」
「泣く」
「泣かれてもなぁ……それで結局、何がしたいの?」
「半分は叶ったかな。あとはハンターに退治されて、めでたしめでたしってとこだ…………これ以上ないくらい清々しいぜ! 『これから』なんてもう考えなくていいもんなあ!」
しばしの沈黙の後、セレスは言った。
「まったく……人を一人も殺しもしないくせに、これだけハンターを煩わせるなんて……」
怒りを通り越して呆れている。殴るくらいで済ませてもよかったぐらいなのに。
「実は凄い奴だったのかもしれんな」
「それはねえよ」
ルベーノの言葉を、本人が否定した。
「……残念だ」
「……あんたが面白歪虚だったことくらいは覚えておきますよぅ、パダギエ」
ルベーノに続いて、ハナが言った。
「光栄だね。お前が殺した中で、覚えられてる奴がどれだけいるのやら」
軽口のようだったが、心からの喜びが読み取れた。
「お屋敷面白かったです」
そう言って、アルマがパダギエの前に立つ。
「遊んでくれたので、あんまり痛くないようにじゅっとしてあげますね?」
「そいつは最高だ……頼むぜ」
死を悟った。アルマにはそう思わせる迫力があった。
アルマが放った蒼い焔……
それがパダギエが最後に見た光景となった。
そうして……パダギエは逝った。
矮小な歪虚としては、精一杯大きな夢を叶えて。
ある意味では、勝利者と言えるのかもしれなかった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/08/07 17:38:17 |