悪しきものへの焼灼

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/08/12 09:00
完成日
2019/08/18 17:50

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境郊外の町の元締めとティアランのボスはそれぞれの居場所を追われ、辺境郊外の町から少し離れた誰もいない風俗街に身を隠していた。
 行動を共にしているのはテトとフォニケだ。
「元締めさん、大丈夫?」
「ああ、脚が片方ないってのはもう何十年も分かってることだが、こんな事があると、しんどいもんだなぁ」
 いつも飄々としている元締めも意気消沈しており、フォニケは心なしか顔を曇らせてしまう。
「しかし、ジェシカそっくりだなぁ」
 ぽつりと呟く元締めにフォニケが反応して振り向く。以前のアケルナルの情報を得るために彼の出身部族を調査に行った際にフォニケの出自もわかった。
 ジェシカはフォニケの祖母にあたり、リアルブルーから移転した者だ。
「祖母を知っているの?」
「昔、ウルサミノル近くを通っていた時に歪虚に襲われた。あの人がいなかったら今頃死んでた」
 肩を竦めた元締めにフォニケは「そうなの」と呟く。
「実感がわかないようだねぇ」
 笑うのはシスだ。
「そうよ。だって、記憶がないだもの。あ、そう言えば、どうして私を指名したの?」
 思い出したように問うフォニケにシスは「二十年、もう三十年かい?」と茶化す。
「たぶん、まだ二十年前……」
 記憶があやふやなので、フォニケもたじたじだ。もし、三十年前の出来事だとしたら、アラサーではない。
「大丈夫、二十年前だよ。攫えと言ったのはただの興味だ。こんな仕事を長い事してるとね。変な話が流れて来るんだよ」
 カラカラと笑うシスは意味深に微笑む。
「出自がはっきりしてるのに、ここのとは違う常識を持ち、見た事がない服でいる輩という話がね」
「それって!」
 はっとしたテトが声を上げる。
「先に気づいていたのはシバだけどね。なーんか、変だなって思っていたのよ。で、丁度、ウルサミノル族の識者の娘の話を聞いて、もしかしてって思ってね。身体に違いがあるのかとか、診てみてみたかったのさ」
 感覚としては人形程度にしか思っていなかったのだろう。
 返すかどうかは置いておいて。
「まさか、アケルナルとアンタの母親に因縁があるだなんて知らなかったんだよ。悪かったね」
 素直なシスの謝罪にフォニケは驚いたように目を瞬かせる。
「私を連れてくるように言ったっていう話はタイフォンの嘘なのよね。本来伝えたかった伝言って何だったの?」
「それ、俺も聞いてねぇな」
 元締めも食いつくと、シスは「そうだったね」と頷く。
 彼女が元締めに話したかった内容はタイフォンの嘘とは全く違うものだった。
 ティアランは傭兵稼業や暗殺などを手掛ける組織だが、シスの老齢を鑑みて、後継者の指名を考えていた。
 実の弟であれど、タイフォンは危険すぎる為、指名できない。
 ティアランは戦災孤児を見つけたら保護することがある。場合によっては売ることもあるが、覚醒者だったら育てば戦力にさせたいからだ。
 成人になれば、ティアランに残るか、自立するか選択させていたが、殆どがティアランに残っている。
 組織内で婚姻し、子供を設けている者もいる。
 歪虚との戦いも激化しているため、いつ根城が襲われるか分からない。
 実子のハルシでもいいが、戦闘能力はタイフォンより下であり、妻を亡くしてから町で隠居生活よろしく繋ぎ役をしているので、ぶっちゃけると彼には力不足だ。
 タットル壊滅の一報を聞いたシスは元締めに相談しようとしていた。
 だが、タイフォンはティアランと要塞都市郊外の町を占拠し、二つの組織の利益を我が物にするためにテトやフォニケを巻き込んだ。
「いっそ、あんたんトコの町に住まわせるのもいいかなぁって思ってたんだけど、タットルの残党がいるって聞いちゃねぇ……」
 深いため息をついてシスは項垂れる。
「辛気くせぇな、死んだ後の事を考えていたのかよ。まだまだ生きれるだろ。それを言っちゃ、俺だって同じことを考えなきゃなんねぇ」
 元締めが呆れると、シスは「考えてないのかい?」と返してきた。
「いるっちゃ、いるが……何せ、まだ話もしてねぇからなぁ」
 ちらりと元締めが見た方向にシスも頷く。
「何だい、アンタもかい」
「俺が先だってばよ」
 老人たちの主語のない会話の内容に気付いたフォニケは彼らが見ている方向を見る。
「みんにゃ~~。カペラが差し入れを持ってきてくれたにゃぁ」
 ホクホク笑顔のテトが隠れ家に戻ってきた。手には鮭のような魚の切り身を燻製にしたもの。ここで能天気な様子を見せるテトにフォニケはそっと溜息をつく。
 その後ろにはカペラがいた。
「フォニケさん、大丈夫?」
 心配そうにカペラが駆け寄り、フォニケの生存に安心していた。
「ええ、皆は?」
「無事だってことが分かったら、後で説教するって」
「あんまり戻りたくないわね」
 しれっと告げるカペラにフォニケは真顔で呟き、テトも頷く。
 テトは先日、手紙を書いたものの、怒られると思っている。だが、何が何でも戻ってもらわないとならない。
 今は要塞都市にいるが、ファリフも参加予定である。
「襲撃の件、ドワーフ工房でバックアップするわ。取り戻せるといいわね」
 ウィンクして吉報を届けるカペラだが、疑問は残っている模様。
 ドワーフ工房の技師を預かる役目を持つ一人として不安材料は残しておきたくない。
「どうして、タイフォンはフォニケさんを連れてこいって言ったのかしら」
「さぁて、テトを引きずり出す手段に使ったのか、何かの取引材料にするつもりだったんだろうね。けど、今回あいつがしたことはやりすぎだ。他所の領域を荒らすだなんて以ての外だよ」
 険しい表情で告げるシスだが、彼女にも腑に落ちないことがあった。
「ここまで手を貸してくれたのは嬉しいよ。テトやフォニケもアンタ達が加担することもないんだよ」
 気遣う様子を見せるシスにテトは燻製を咀嚼して飲み込む。
「確かに、テトは被害者ですにゃ。フォニケも関係にゃい。今回の取り戻しに関しては、にゃーんも関係ないですにゃ。本当は歪虚の戦いに向けるのが本来のすることと思ってますにゃ」
 にゃけど、とテトは言葉を繋げて続ける。
「今、あいつらを叩かねばなりません、あいつらを放置しては、他の部族に危機が及ぶからですにゃ。それに、町やティアランの根城にも戦えない者がいますにゃ。戦えない者が恐怖に曝されるだなんて、許される事じゃありませんにゃ」
 目を糸のように細める猫のしぐさを見せる。
 彼女の部族の祖霊は猫だという。いつもテトは猫のような印象を受ける態度や動きをしている。
「決して野放しには出来ませんにゃ」
 すぅ、とテトの瞳が細く開き、薄暗い室内に金の瞳が煌めく。
「アンタがそうしたかったらそうすればいいよ」
 煙管に火をつけたシスが紫煙を細く吐きながら孫を見つめるように微笑んだ。

リプレイ本文

 襲撃決行日の夜明け頃に四つの影が要塞都市へと入っていった。
 ハンターの集合場所はドワーフ工房。
「皆、暑い中来てくれてありがとう」
 そう声をかけたのはファリフだ。
「大事が差し迫ってるからね。復興に向けて動く前に禍根を断つ……というところかな」
 ユリアン・クレティエ(ka1664)の視線は二台の魔導トラックに向けられていた。
「人と人の対立は根が深くて複雑だから」
「そのとーりですにゃ」
 魔導トラックの荷台から顔を出したのはテトだ。
「テト君!」
 アイラ(ka3941)が声をかけると、テトはトラックから降りる。
「心配かけてごめんにゃ」
 駆け寄るアイラとオウガ(ka2124)にテトが謝った。
「今度からは一声かけてよ」
「はいにゃ」
 テトも今回の事は堪えた模様。ちゃんとごめんなさいが言えたテトはアイラにハグをする。
「お前さん達、巻き込んで悪いなぁ……」
 助手席に座っている元締めが顔を出す。
「タイフォンにはぁ、腹を立ててるのでぇ、付き合いますよぉ☆ 獲物は逃す気ありませんよぉ」
 にっこり笑顔で微笑むのは星野 ハナ(ka5852)。
「この間のパシュパティ砦の時にぃ、終わったら宴会しようと思ってたんですよぉ。大量の歪虚が後から湧いて出てきて出来なかったんですけどね」
 肩を落とすハナにフォニケが微笑む。
「そうね、ぱぁっとお肉食べたいわよね」
 うんうんと頷くフォニケ。
「まだ肉って言ってるのかい?」
 呆れた様子を見せるのはシス。
 じっとシスを見ていたハナの視線に気付く。
「何だい?」
 首を傾げるシスはハンターに対して敵意や悪意を持っていない様子。これから戦いに向かうので、ピリついた気配はあった。
「シス婆ちゃん。潜伏中、テトちゃんはどうでしたかぁ?」
 人懐っこく呼ばれたシスは孫に問われたから応えるという様子を見せ、「うーん」と唸って記憶を辿る。
「普通だね。周囲を警戒してた。あたしや元締めに町の話やティアランの話を教えろと強請ってたよ」
 シスはフォニケに視線をよこして確認するようだった。フォニケもその通りという様子を見せていた。
「これからのこともですかねぇ」
「ああ、そうだねぇ」
 頷いたシスはテトの方を向く。その顔をハナはじっと見ていた。


 先に魔導トラックを出したのはティアラン組。
「皆様、ご無事で」
 木綿花(ka6927)が助手席に乗るシスへ声をかける。
「そっちも皆無事でいるんだよ」
「任せておけって」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)がぐっと拳を握りしめて不敵に笑う。
「こちらは大丈夫ですにゃシスは年にゃので気を付けて」
 しれっと酷いことを言うテト。
「どうか、ハルシ達を頼むよ」
「全力を尽くします」
 トーンを落として真摯に告げるシスに木綿花が言葉を返した。
 魔導トラックを出発させて目的地へと向かっていく。運転手はドワーフ工房の技師であるイオタだ。助手席のシスが道案内をしている。
 ティアランの根城は要塞都市郊外の町より遠いところにある。町の連中が外の警戒をしているか分からない為、気付かれないように迂回していく事にした。
 バイクで並走しているのはトリプルJ(ka6653)。
 一緒に乗っている相棒のユキウサギは風を受けてツーリングを楽しんでいる。
 荷台の中では若者達が揺られていた。
「ねぇ、フォニケさん」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)が隣に座るフォニケに声をかける。
「どうかした?」
「フォニケさん、戦闘が終わるまでトラックで少し離れて貰ってもいいかな」
 神妙な顔で告げるディーナは真っすぐフォニケを見据えていた。
「足手纏いと見做した……ということ?」
 フォニケの声は静かで怒りは感じられない。
「人質を取られなければ私達は負けないと思うの」
「絶対はありえない。出来る限りの失敗の要因になる危険を排除したい」
 鞍馬 真(ka5819)がフォローを入れると、振り向くシスの視線とぶつかり、深い海の瞳が細められる。
「あたしはハンターの意見に賛成だね。今回大事にしちまったけじめをつけに盾になりに行ってもよかったけど」
「死んで償えるコトは少ないの。不利益しかないの」
 シスの意見を切って捨てるディーナ。切られた当人は肩を竦めて口元を緩ませている。
「ハンターの意見はそうなったが、どうする?」
 静かに見守っていたミグ・ロマイヤー(ka0665)が言えば、フォニケはカペラと視線を交わす。
 カペラはフォニケに任せるという様子だ。
「了解したわ。だけど、遅すぎたら迎えに行くからね」
「うん、さっさと片づけてくるね」
 フォニケが優しく言えば、ディーナはどこかほっとした様子を見せて頷いた。
 到着すると、ルックスがどこかがっかりしている様子に気付いたトリプルJはルックスの肩に腕を回す。
「ルックスっつったな? 留守番で悪いが嬢ちゃん達を守ってくれよ?」
「は、はいっ」
 荒っぽい励ましに驚くルックスだが、元気に返事をした。
 ハンター達が向かう時、トリプルJが荷台に残るユキウサギに声をかける。
「相棒、嬢ちゃん達を守ってくれよ?」
 こくりと頷くユキウサギ。
 四人のハンターは居城の方へと行ってしまった。


 テトとファリフ達のトラックはそろそろ要塞都市郊外の街に到着しそうだった。
 トラックの運転席部分は屋根があり、荷台部分には幌があって直射日光を避けることができている。
「よっと……」
 助手席部分にいたテトが屋根の上によじ登る。
「にゃんか旗とかあればよかったですかにゃ」
 風に煽られつつ、町を見つめて一人ごちるテトだがそれもすぐに終了だ。
「テトさーん! そんなところにいると飛ばされますよーー!」
 イェジドのアレクに乗ってトラックと並走しているエステル・ソル(ka3983)が注意を促す。
「何やってるんだ。怪我する前に降りろ!」
 エステルの注意で気付いたオウガが叫ぶ。並走組の声に気づいたアイラが幌の下からテトの現在地を知り、目を見開く。
「ちょっとテト君!」
「わかりましたにゃー」
 何事もなく助手席に戻るテト。
「もうそろそろ着くぜ。衝撃に備えろ!」
 運転役のドワーフがトラックに乗っているハンター達に警告を叫ぶ。
 町の入口は板などでバリケードを組んでおり、その両脇に見張りがいる。弓を扱える者だったら、入口で射殺されかねない。
 見張り達は怪しげな輸送車に気付いたが、すぐに降りるだろうと思っていたが、その考えは甘いものだと思い知らされる。
 トラックごとバリケードに突っ込まれたのだ。
 バリケードの役目をしていた板や補強の縄は突き破られており、町中に響くかのような大きな衝撃、破壊音が響き渡る。
「嘘だろ!」
 見張りは絶叫と共に衝撃で持ち場から崩れ落ちた。
 何事かと驚いて入口へと向かってきたタイフォンの部下が現れる。
「て、敵襲か!」
 武器を構えようとする手下達へ向かってくるのは燃え盛る炎のような毛並みを持つイェジドだ。
「先行くぜ!」
 ボルディアはヴァーミリオンに乗って娼館の方へと進んでいく。
 彼女が向かうのは娼館だ。それぞれの場所へ向かう為、ハンターが別れていった。
 タイフォンがいると思われるのは元締めの店へ向かうハンター達の前に武器を手にした男達が壁のように阻む。
「熱い歓迎ってところかしら」
 ふふ、と笑うマリィア・バルデス(ka5848)の緑の双眸は男達の身なりや構えを見ていた。彼女の判断は「戦える組織」に属しているとは思いだった。
「お、大人しくしろ!」
 マリィアの隣に立つルベーノ・バルバライン(ka6752)は囃し立てる住民を一瞥する。
「ハハッ! これは威勢がいいな!」
「お前達を殺れたら、あいつらはなにもしてこない!」
 男が言った言葉にハンター達は目を細める。
「恐怖での支配ですか……襲撃はこの町全体に知れ渡ったと思います。早めの移動を」
 フィロ(ka6966)の意見は尤もだ。マリィアが新式魔導銃「応報せよアルコル」を構えた。
「誰にとっても利益のある答えよ」
 白銀の銃身と碧色の銃把を持つ魔導銃はマリィアの背丈より長く、彼女は軽々と構えている。
 銃口は天に向けられており、打ち出された弾丸はマテリアルを纏い、光の雨となって降り注ぐ。
 何だと不思議がる男達はその雨に身動きを奪われてしまう。
「タイフォンなら俺達で倒そう」
 ハンター達は彼らをおいて行って元締めの店へと向かった。
 少し時間を巻き戻し、皆が手を貸してくれることに喜びながらテトも元締めの店へ行こうと走り出すと、横から手が伸びてむんずと捕まれる。
 猫の顔宜しくテトが顔を見開き、身体が宙に浮く。
「ホラホラ、テトちゃん一人で行かせるとどっかにいっちゃうのではと心配してしまいますので」
 乗せられたのはハナのリーリー。花のかんばせ宜しくハナが笑う。

 トラックの荷台部分にいた元締めへ手を差し出したのはエステルだった。
「参りましょう」
「いいのか」
「町がどう変わるのか見届けましょう」
 にっこり微笑むエステルに元締めは「頼む」と手をとる。
 エステルが乗るイェジドのアレクの後ろに乗らせてもらった元締めは圧倒されるばかり。
「長生きするとこんな夢みてぇなことがあるもんだなぁ」
 ハンター達にとっては見慣れたものだが、辺境の者にとって伝説の幻獣に乗れたということは驚きのようだ。
「まだまだ長生きしろよ!」
 ルーシーに乗って走るオウガが笑いかける。
 視線を前に向けたオウガは先を走るリーリーの後部にテトがいる事に気づく。
 テトは頭を俯かせてハナに捕まっていた。
「……来てくれてありがとうにゃ……」
「まー、乗りかかった舟ですしねぇ。それよりも、この街の住人とティアランの人達を部族なき部族に加えるんですかぁ?」
「にゃ? 無理ですにゃ。大人数を入れても、統率できませんにゃ」
 統率できない組織は危険すぎる。末端が何をしでかすか分からないからだ。
「奴らには居場所が必要なんですにゃ。普通の部族の暮らしが出来なくなったんですから。テトは少しでも復興の手助けとして彼らの力があればいいにゃと思ってますにゃ」
 テトの考えはそれぞれに属する者が取り纏めればいいと思っている模様。
「でもぉ、シス婆ちゃんがこぉんな目でテトちゃん見てたじゃないですかぁ」
 振り向いたハナは手綱を指にかけてシスがどんな顔でいたかを再現すると結構似てる。
「はぁあああ!?」
「あれはそういう意味だと思いますぅ。テトちゃんならできそうですしぃ」
 素っ頓狂な声を上げるテトにハナは笑う。
「……ハナはそう思ってますかにゃ……テトは……兄さ……」
 途端に気弱な声になったテトが言いかけると、横からタイフォンの手下になっただろう町の住民が投石を始める。
「鬱陶しぃですねぇ、あ、テトちゃんお願いしますねぇ」
「おー……豪快だな……」
 追いついたオウガのルーシーへテトを投げて渡す。ハナは投石してきた住民を相手取って食い止めてくれた。
「後悔する暇も与えませんよぉ☆」
 可愛らしい言い方なのに恐ろしいまでの圧に逃げ出す者が出てくる。
 ハナは容赦なく五色光符陣を展開し、住民達は光のダメージを受けて更に視界も奪われてしまう。
「大人しくしてくださいねぇ」
 そう告げるハナに男達は声のする方向にこくこくと頷いていた。


 イェジドに乗って進むボルディアの上空から追うのはマジックフライトで飛翔中のマルカ・アニチキン(ka2542)。
 上空から見る町は荒んでいた。
 元から荒んでいる町と情報にはあったが。
 目的の娼館近くに随分と見張りが固まっている。
 通信機器からボルディアからマルカへ裏口のようなものがあるかと尋ねられると、迂回するように飛翔し、確認する。
「あ、ありました」
 か細く敵に気づかれないようにマルカがおずおずと見たことを伝えた。
 ユリアンから気付かれないように合流しようと言われ、マルカも合流する。
「裏口に誰かいた?」
 合流したアイラがマルカに確認をする。
「いえ、人はいませんでした。裏から侵入できるのは裏口のみです。あと、隣接する建物の窓から人影がありましたが、敵かどうかは不明です」
「侵入するとすれば裏だな」
 ユリアンの考えにマルカも頷く。
「合図してくれたら、ヴァンを裏口に見張りさせるぜ」
「頼む」
 快く提案してくれるボルディアにユリアンが受け取った。
「一気に散開して町中が騒ぎになっているようだから、早く行きましょ。二人とも、お願いね」
 アイラが周囲を気にしつつ、マルカとユリアンに声をかける。


  ハルシの店に向かう際、木綿花とセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)にネフィリア・レインフォード(ka0444) が声をかける。
「僕、周囲を見回ってから行くね」
 にっこり笑いかけるネフィリアはイェジドに乗り込んで元気よく駆け出した。
「セツナ様、ハルシ様一派気になります故、先に参ります」
 ネフィリアを見送ったあと、木綿花がセツナに告げた。どこか戸惑っているようなセツナの様子に木綿花は一度目を伏せる。
「あの方は、テト様の無事を知った時に私を送り出してくださったんです。自分達の危機でもあるのに」
 彼らを善人か悪人かで判断すれば悪人になるだろう。
 それでも、己を顧みずに他人を助けた者を助けたい、自分を助けてくれたものならば尚の事と思う自分は間違ってはいないと木綿花は信じていた。
 セツナは木綿花の思いを受け取り、頷く。
「わかりました。店の近くで合流しましょう」
 二人が別れて向かっていく。木綿花の移動手段はジェットブーツだ。マテリアルを脚に流して跳んでアルケミックフライトでふわり、と飛翔した。
 屋根伝いに進みながら地上を歩く者達を確認する。
 町の中は人通りが少ないが、いがみ合う様な声や怒声が聞こえてくる。耳に障り、胸が窮屈に縮むような気がした。

 幻獣のイェジドを見るのを初めての者もいるだろう。
 乗っているのは子供だと油断した男が剣をちらつかせて「降りろ!」と威嚇する。
 だが、イェジドに乗っているネフィリアはお構いしないというか、赤く重い刃を備えたハルバードを前に構える。
「そこのけそこのけ、僕が通るのだー♪」
 軽々と大男の背のような霊斧槍を振り回し、声を上げる。とても楽しそうだ。
「うわぁあああ!」
 真っすぐ突っ込まれて無事でいられる自身がない男はすぐさま脇道に逃げてしまう。
「あー、手合わせできなかったね」
 残念と続けてネフィリアはイェジドに進むように告げる。イェジドが駆け出す度に土煙が巻きあがっていく。
 その間にもネフィリアは音を拾う。
 ハンターがこの街に襲撃をかけていることは知られているようであり、屋内からやり合うのかどうかの声が聞こえる。
「なーんか、卑怯だね」
 ぽつりと呟きつつ、ネフィリアはハルシの店へと向かう。

 セツナも少なからず襲われていた。
「お前、元締めの手下だな!」
 鉈を持った男とダガーを手にした青年がセツナの前に立ちはだかる。
「攻撃してこなければ貴方達へ攻撃することはありません」
 武器を捨てるようにセツナが呼びかけるが、応じる気はないようだった。
「貴方達はタイフォン一派に与する者ですか?」
 一見、彼らの服装は賊のものとは違うこの町に住んでいる者のようにも思えた。
「……タイフォンが元締めやその部下を見つけて殺したら金をくれるって言ったんだ!」
 言い切るやいなや、青年が駆け出して木綿花の方へとダガーを突き出す。
 心の余裕をもって回避することが出来ると判断したセツナはギリギリまで引き付けて回避すると、青年は途中で躓いてしまい、倒れ込んでしまう。
「タイフォンが金銭を渡すと?」
 セツナが鉈を持っている男へ尋ねると、男は図星を突かれたように短く唸るが、背後からの影に押しつぶされてしまう。
「確かにそうかもしれないよねぇ……」
 ネフィリアがうんうんと頷く。
「さっき、周囲をぐるっと回っていた時に超聴覚で聞いたけど、敵とみなされたくなかったら、味方になってもらうようにっていう話をしてるみたいだね」
「……タイフォンには勝てねぇよ」
 肩を落とす男達に二人は顔を見合わす。
「そう言いたいのは人それぞれです。私達に敵わないと思ったら危害を加えないことを助言します」
 背を向けるセツナとネフィリアの通信機器には木綿花の声が響いていた。


 ティアランの居城に向かう四人は罠や監視を掻い潜り、近づいていく。
「……攻め辛い地形だね……」
 うーん……と唸りつつ、真が呟いた。
「どうにしろ、交戦することになると思うの」
 ディーナが見据える先には入り口付近で警戒している者がいるが、恐らくは居城を占拠したタイフォンの手下だろう。
「だったら速攻で突っ込んで殴りに行った方がいいじゃろう」
 ミグが言葉を繋げると、ディーナも同じ考えを持っていて、同意するように頷く。
「それが速いだろうな。もたもたしてると、連中にトラックに気付かれる」
 トリプルJが纏めると、四人の腹が決まった。

 見張り達の耳に外から走ってくる音がした。
 一人ではない。複数。
 走ってくる侵入者の後方に大きな筒のようなものを抱えた影があった。
「景気よくいくぞぉ!」
 いつでも元気とノリがいいミグが構えるのは大型魔導銃「オイリアンテMk3」だ。
 ボウガンの矢が放たれる前にミグは砲弾を見張り向けて放った。
「誰だ!」
 見張り達は手にしていた武器を構えて足音の方へと向ける。
 ディーナがセイクリッドフラッシュを発動させる。
 光の波動を直撃した見張り達は衝撃を堪える。尚も抵抗せんと武器を振り上げる見張りへ飛び込んだのは真。
 見張りから振り下ろされる武器を上段で受け止め、柄の向きを変えて素早く見張りの顎へ入れる。
 くぐもった声を上げて見張りが昏倒した。
 横ではもう一人の見張り番がトリプルJが肘で見張りの胸を突き、肘を返して裏拳で相手の頬を殴る。
 顔を殴られて首を仰いだ敵の視界に覆いかぶさるように武器を振り上げているディーナが見えたのが最後の記憶。
 見張りを倒し終えた四人は中へ入っていく。
 洞窟内にはどこかがらんとしている。
「人いないね。前来た時どうだった?」
「もっと賑やかだったの」
 真の問いにディーナが答える。
 記憶ではこんなに静かではなかった。まるで普通の集落のようだったのだ。
「っつーことは、シス側の者はどこかに捕らわれているってことか」
 話を聞いていたトリプルJが相槌を打つ。
「侵入者だ!」
 ハンターが走っていく先から笛の音と警戒の声が響く。
 笛の音は他の敵も同様に吹いていき、洞窟状となっている中に甲高い音が響き渡る。
「ったく、狭い所じゃ頭が割れそうだぜ」
 困ったように顔を顰めるトリプルJは最初に笛を吹いた敵を殴りつけるが、相手は籠手でトリプルJの一撃を止めた。
「先行け! 食い止める!」
 敵の援軍宜しく横のわき道から敵が駆けつけてきたのを見たトリプルJは三人を送り出す。
「ヒャッハー、ハンター様の襲撃じゃああああ!!!」
 警笛の音にも負けず、ミグが声を張り上げて過大集積魔導機塊「イノーマス」を振り上げる。
 しっかりとした体躯のトリプルJがいなくなれば華奢な三人組と幻獣の侵入者にしか見えないのか、特攻を仕掛ける敵が現れた。
 雄叫びを上げる敵の声は途中で途切れてしまう。男の頬や耳を掠めるように風が吹いた。
「目の前の餌に振り回されているのはどっちかな」
 真のユキウサギであるセレーネの獣魔苦無「影縫」の通り道を知らしめるように男の顔に赤い筋が走る。
 冷静な真の声が響くと、男は小太刀に近い長さの剣を真へ向けたが、真の剣筋が見える事もなく、男は倒れた。
 三人が再び走ろうとした瞬間、青白いガスが広がる。
 スリープクラウドのガスに落ちかけた真が横道から上体を覗かせている影に気づく。一気にマテリアルを脚に流し込み、真は駆け出す。
 人影に手を伸ばすべく、距離を詰めていく。手が届きそうになりそうになった頃、強く踏み込み、人物の肩を掴んで一気に通路側へと引きずり出す。
「セレーネ! 紅水晶を!」
 真が名を呼ぶと、セレーネは赤い光を展開して横道を覆っていく。隙を縫ったと思い込んだその影……魔術師は逃げ出そうとしたが、遮断される。
 ミグは意識を落としたが、背後から追いかけてきたトリプルJがミグを狙う影に気づき、彼女を守るように回し蹴りを影に食らわす。
 魔術師とは別の者も脇道に隠れていたようだ。
「起きて!」
 パンッとミグの両頬を手で挟んで意識を浮上させた。
「すまんの……」
 ミグが立ち上がり、「お互い様なの」とディーナが返す。
「この先に収容スペースがあるって言ってたよねとりあえず、進もう」
 スリープクラウドとの抵抗で消耗したハンター達はのろのろと進みだす。
「また、出てくるかもしれない」
 トリプルJが足止めしていたのは一人だけではなかったようで、ミグ達を送り出した後も敵が出て来ていたようだ。
「とりあえず、進むか」
 ずいっとトリプルJが差し出してきたのは両手を後ろ手に回されて拘束された魔術師。ロープの類がなかったので、彼の手で拘束している。
 進んでいくと、広場のような広い空間に出た。
 ボウガンを構えている男に気付き、散開しようとするが、視線を感じていたトリプルJはボウガンの射出が速いことを察しつつも天衣無縫を発動させた。
 一度を魔術師を手放そうかと思ったが、寸でで魔術師をボウガンの矢が当たらない方向へと投げる。
「てめぇ!」
 怒りの感情を顕にするトリプルJはファントムハンドで猟撃士を拘束した。一気に駆けて行ったトリプルJはワイルドラッシュで猟撃士を連続して殴っていく。
 猟撃士は短躯であったが、体つきはしっかりしていた猟撃士は激しい攻撃に壁の方へと押されていった。
「同胞を狙うたぁ、どういうことだぁ!」
 猟撃士へ向けた最後の一発は顎に入り、壁に激突した。
 隠れていた敵兵が出てきており、ミグとディーナが対応していた。
「……お前ら……分からないとでも思ってるのか……」
 倒れ込んでいた猟撃士がくつくつと笑う。
「来ているんだろ……シスが」
「言いたいことは分かった。これ以上は喋らない方がいい」
 真が剣の切っ先を猟撃士へ向ける。
「嬢ちゃん! 年嵩の嬢ちゃん達が危険だ!」
「ついでに連れてくるのじゃ! 片づけたら脱走するぞ!」
 トリプルJがディーナを抜け出せるように敵をいなしていき、ミグがイノーマスで敵を殴り倒していった。
 任せて大丈夫と判断したディーナは来た道を戻り、トラックの方へと走る。


 イェジドのアレクに乗って町の周囲を見回っていたエステルは元締めから近道抜け道を教えて貰ったが、至る所に寝返った住民がいた。
「見破られてますの」
「面目ねぇ……そういや、あっちの道に入ってくれ。昔馴染みがいる」
 情報を貰おうと提案する元締めに同意したエステルはアレクに方向転換を頼む。
 目的の建物入口に向かって叩いている男達の姿を見つけた。
 バランスを取り、両手を中空に差し出したエステルの指に嵌められた星神器「レメゲトン」が煌めく。
 エステルの間合いに入った瞬間、扉を叩いていた男達の周囲に青白いガスが広がっていく。
 全員、非覚醒者だったようで、そのまま寝落ちしてしまう。
 この建物の中に住人がいるのだろうかと思案するエステルが少し後退しつつ、見上げると、二階窓の向こうにいた老婆と目があう。
「大丈夫ですか?」
 老婆がイェジドに乗る元締めに気付き、ドアを開けようとすると、二人で止める。
「何があったのですか」
 エステルが尋ねると、「略奪が起きた」と老婆は二階から教えてくれた。
「タイフォンは元締めが逃げたと言いふらしてた、力ある若い者達を不安と恐怖で扇動してね……」
 この町は元から治安が悪い。元締めあってこその町だと老婆は言う。
「でも、元締めが無事でよかったよ」
「アンタ、ハンターだね。元締めをありがとうよ……」
 老婆の横から酌女だろう女も顔を出す。本当に怖かったのだろう。涙をにじませて礼を呟く様子にエステルは微笑む。
 まだ戦闘状態であるので、避難をしてほしいと告げてエステルは元締めと共に移動を始める。


 元締めがいる店に近づくと、借り出された住人ではない武装した者達がいた。
 前衛中衛と列を組み、十人くらい守りを固めている。
「全部がティアランの奴じゃねぇぜ」
 すぅと目を細めるのはオウガだ。見据える敵の刺青は見たことがあった。
「タットルの残党ですね」
 フィロがオウガの意図に気付いて構える。
「ところで、タイフォンの姿は?」
「いないで……あ、誰か出てきますにゃ」
 マリィアが問うと、テトが反応し、声を上げた。店の中からしっかりした体躯の老人が現れた。
「やっぱり来たか」
 にぃと笑う老人タイフォンは腕を組み、ハンターを見据える。
「そう、来たの。この町を奪還するためにね」
 形の良い唇を弧にしてマリィアが銃口を天に向けた。
「ハンターの技に備えろ!」
 タイフォンは警告を叫び、覚醒したが、追いつかない他の者もいる。
「ご明察」
 リトリビューションの光の雨にタットルの残党やタイフォンの手下が身動きを奪われた。その間にフィロとルベーノが大地を踏みしめ、縮地瞬動で動けなくなった手下たちをすり抜け、一気に間合いを詰める。
 先に仕掛けたのはルベーノだ。
「おおおお!」
 気合と共に白虎神拳の打撃を入れるルベーノはマテリアルの阻害を感じた。
「ならば!」
 ルベーノが退き、タイフォンの飛び込んできたフィロがタイフォンに触れ、自身の体内のマテリアルを一気に送り込む。
 ふわり、と彼女の髪が一瞬揺れるとタイフォンが唸りを上げて堪える。
 タイフォンがふわりと飛ぶと、近くにいた手下を突っ込んでくるオウガへと投げるように背を押す。
「っち!」
 オウガが蒼機拳を装着した腕で突っ込んでくる部下を殴り倒して、視線をタイフォンへ向けると、彼はもう中空に上がっていた。
 急降下をしたタイフォンがオウガ目がけて飛んでくる。瞬きよりも速いタイフォンの身体にずれもなくマリィアのハイペリオンの連続射撃が打ち込まれる。
 痛みを堪え、タイフォンはオウガに突きの一撃を入れた。
「うおおおお!」
 オウガが咆哮を上げてクロイツトンファー「アラムタキール」で受け止めるが、衝撃が重い。
 受け止めた重みが軽くなったような気がしたとオウガが感じると、タイフォンはフィロの白虎神拳と鎧徹しの衝撃で横へと飛ばされるが、力の流れで受け流している。
「この町でも大暴れしたハンターの力。面白いものだ」
 口の中の血を吐き、尚も余裕を見せるタイフォンは降参をする気はなさそうだ。


 隠れている木綿花は通信機器から先ほどセツナとネフィリアに起きた話を聞いていた。
「恐怖で人の心を奪うだなんて……」
 唇を噛む木綿花はハルシの飲み屋が入っている建物が見えるところに隠れている。
 現在、当該の建物は十人ほどの男達が周囲におり、怒声をかけていては建物を蹴って威嚇していた。
 恐らく、ハルシは籠城しているのだろう。
 二階部分の窓に誰かいる事に気づいた木綿花は手を振って誰かに気付いてもらおうとする。
 移動して視界に入れて貰ったが、屋根に隠れている木綿花を見て驚かれてしまったが、不可抗力だ。
 声を上げないようにジェスチャーで木綿花は窓を開けるように支持をすると、音を立てずに開けてくれた。
 通信機器からセツナの声が聞こえる。
「時間を稼いで下さい」
 木綿花の言葉に二人は了承してくれて、ネフィリアが陽動に駆け出した。イェジドの強襲は軽く恐慌状態となった。
 その隙を縫って木綿花がアルケミックフライトで中へと入っていく。
「アンタ……」
 二階には呼び出されたハルシが上がっていた。
 暑さと緊張でやつれているのが分かる。
「とりあえず、シス様は無事です」
 木綿花はシス、元締め、テト、ファリフの依頼を受けたハンターがこの町とティアランの奪回と民の救出に来たことを告げた。
「正気か……俺達は真っ当な道を歩いていない連中だぞ」
 驚くハルシ達に木綿花は確かにと頷く。
「必ず生き延びて私達の依頼人にそう仰ってください」
 笑顔を浮かべる木綿花にハルシは降参と言うように両手を上げた。


 外に出たディーナは騒がしい音に気付く。
 トラックの姿が見えると、一直線に光る稲妻が走り、「いっくわよー!」と元気のいいカペラの声が聞こえた。
 そして、トリプルJのユキウサギが横水平に飛んでいて、敵だろう男へどドロップキックを繰り出していた。
 ルックスが剣でいなしていくと、フォニケが金属の鞭のようなもので敵の首に巻きつけて締めている。
「ディーナちゃん、終わったの?」
 にっこり微笑むフォニケは鞭を離して気絶した男を開放した。
「うん……皆、捕らえられた人たちも大丈夫だよ」
 頷くディーナはフォニケ達を中へと連れて行った。


 娼館の外見張りは三人ほど。
 通りの向こうの戦闘音に気を向けている。先ほど、バリケードの方からの大きな音も含め、不安が顔に出ているようだった。
 ユリアンとマルカは隠の徒を使って気配を隠して裏口へと歩いていく。
「まぁ、また部族なき部族の連中が来ても今度こそ人質に取ればいい」
「そういや、ドワーフ工房の女も消えちまったそうだな」
「あの女どもを人質にしてアケルナルさんを解放させようってタイフォンが言ってたんだけどなぁ」
 溜息をつくタットルの残党にユリアンは今回の真相に気付いたような気がする。
 彼らの狙いの一つにアケルナルの解放があったのだろう。タイフォンを訝しむシスが裏から介入でテトは助かった。
 テトとフォニケを駒として使うのはある種の危険が伴うというのに……とユリアンは肩越しに隠れているファリフや他のハンター達をちらりと見やる。
 難なく裏口に到着したユリアンはピッキングで鍵を開ける。その間、マルカは見張り役。
 鍵らしき鍵はなかったので、恐らく中に見張りがいるのだろう。
 ユリアンがナイトカーテンで身を隠し、そっと扉を開けて中に入る。裏口に通じるのは台所だ。
 恐らく見張りだろう男が椅子に座っていたが、気付かれなかった。
「おい」
 奥から声が聞こえると、男が短剣を持って構えていた。
「音が聞こえているぞ」
 超聴覚持ちの覚醒者だと察したユリアンはマルカを呼ぶ。
 扉を開けたマルカは発煙手榴弾を投げ込んだ。

 館の中から煙が噴き出し、表の扉からも煙が漏れていた。
「ヴァン、行け!」
 主たるボルディアの指示に従い、ヴァーミリオンが威嚇の咆哮を上げ、裏口の方へと回る。
 ボルディアもアイラとファリフと共に正面扉に向かって走り出す。
「こっちもか!」
 一人の男が肌に紋様を浮かばせて剣を抜く。
「覚醒者か! 面白れぇ!」
 犬歯を剥き出しにし、紅蓮のオーラを纏ったボルディアが星神器「ペルナクス」を振り上げる。
 覚醒者の残党は地を駆けるもので自身の間合いを取ろうとしていたが、ボルディアの速さが一枚上手であり、振り下ろした斧が残党の剣を叩き割り、下から斧の先端部分で鎖骨に叩き込んだ。
 アイラの方には両手に短剣を持った男が襲ってきた。
 恐らくは非覚醒者であるが、今は時間がない。
 突き出された短剣を屈んで避けて何も装備していない手で男の腕を掴む。一瞬だけ固定するようにスペルグローブ「エダックス」を装備した拳で短剣を落とすように叩く。
 手の甲にひびが入ったのだろうか、痛みを堪える残党を投げ飛ばし昏倒させる。
「もしかして閂されてる?」
 煙の漏れ方を見たアイラが呟く。
「よし! 壊すか!」
 さくっと敵を倒したファリフとボルディアが声を揃えて大斧を持ち出す。
「待ってください!」
 中から声が聞こえると、扉が開き、マルカが顔を出した。
「助かったぜ」
「見張りを中へ」
 逃亡されても困るので、戦闘不能の三人を中に入れて再び閂をする。
 奥の方ではユリアンが二人の覚醒者を相手どり、交戦中だった。
 片方の覚醒者の膝を蹴り体勢を崩してユリアンは壁歩きを使って一度天井へ跳躍する。残りの覚醒者がユリアンへ剣を突き刺そうとすると、彼を纏う風が再び新緑光を帯びる。
 羽流風に背を押されたユリアンは天井を蹴り、剣の突きをすり抜けて覚醒者の襟を両手でしっかり掴み体勢を崩した覚醒者目がけ、叩きつけるように投げた。
「ユリアンさん、大丈夫?」
「うん」
 他のハンターは二階の監禁場所へとむかっている。
 ここで倒れている者達はヴァーミリオンが監視してくれるだろう。

 二階へ上がったアイラ達は廊下で見張る男達と対峙していた。
「なあお前等……女売って金貰って、そんな生き方、空しくねぇか?」
 ペルナクスの柄を肩に乗せて問うのはボルディア。
「弱ぇ奴等を食い物にして、そんなクソみてぇな人生で楽しいのかよ!」
 吠えるボルディアの声に男達は意に介さない。身に染みたことに疑問に感じたこともないのだろう。
「弱い奴が強い奴の食い物になるのは当たり前だ!」
 襲い掛かる男にボルディアは微動だにしない。
 あと少しで攻撃が当たるところで男は動きを封じられた。
 炎鎖の幻影が男を封じ込めている。
「無駄な暴力をする気はないわ」
 似たタイミングでハンターに襲い掛かろうとした男もアイラのファントムハンドで絡めとられていた。
「クソ!」
 男の一人が中の女を人質にとろうと戸を開けようとする手のすぐそばに刀が突き立てられる。
「君達みたいな人のせいで何人もの赤き大地に生きる同胞が辛い目に遭い、人生を狂わされた」
 羽流風で移動力を上げたユリアンが低い声で呟き、硬直した男の腕を後ろ手に固定した。
 最後に残った男が窓から飛び降りようとすると、土で出来た壁に阻まれる。
「改心、するべきです」
 逃げることが出来なかった男は彼女が信ずる者の布教を受けることになった。
 残党の拘束が終わると、ボルディアは戸を開ける。
「ハンターだ。もう大丈夫だぜ」
「元締めも無事よ」
 ボルディアとアイラが声をかけると、女達は泣いて喜んだ。
 丁度娼館の近くで警戒に当たっていたエステルがマルカより制圧成功の報告を聞く。
「もう少しです」
 元締めに笑いかけると、元締めが慌てて敵を伝えてくれた。
 スリープクラウドで眠らせ、再び見回りにアレクを走らせる。


 ハルシの店の外でイェジドが飛び跳ねたりタイフォンの手下に体当たりをして場を乱している。
「この場を明け渡して頂きます」
 手下達の中に飛び込んだセツナが納刀状態で脇構えから重心を下ろす。手下の中に剣術の心得があるものが技の発動を邪魔するべく動き出したが、彼女の踏み込みは終わっていた。
 不要な動きをせず、敵の動きよりも速く一気に刀を引き抜く。
 流麗な太刀筋は周囲にいた手下たちを斬りつけていった。致命傷になるような場所を避けていたおかげで生きてはいたが、ばたりと膝をついて動けなくなっていた。
 裏口に向かったネフィリアとイェジドの姿を見た男達が逃げようとする姿を確認。
「ダメだよー」
 制止させるべくネフィリアはファントムハンドを発動し、一番離れたところを走る手下を拘束する。
「くそぉ!」
 自暴自棄になった男がネフィリアに襲い掛かるが、ネフィリアは軽々と横に跳んで胴に蹴りを入れた。
「逃がさないよっ」
 霊斧槍「ピュールロコス」を構えるネフィリアに男達はたじろぐ。
 表の方では最後の一人が逃走をした。
 逃走する男が覆われる影に振り向くと、中空を翔ぶ琥珀の双眸に逃れられず、足を止めてしまった。
「そこまでです」
 漆黒の銃身を持つリボルバー拳銃を構えた木綿花がゆっくりと地に降りた。
 同時に娼館の制圧に成功したという連絡が届く。


 元締めの店ではタイフォンが複数のハンター達を相手にしていたが、手下や残党がハンターの戦力をバラすように動き出す。
「甘い考えは捨てた方がいいですよぉ☆」
 符刀「天空大地」を構えるハナが繰り出したのは五色光符陣。タイフォンも範囲に含ませるように調節していた。
 五色光符陣の効果で手下達が動けなくなっているが、タイフォンは吼え狂いしもので凌いでいたりしていたが、ハンターの攻撃の甲斐あってその動きは鈍くなっている。
 逃げ出そうとしている者もいるが、逃がす気はないと伝えるようにマリィアが銃で足を撃ち抜く。
「うぉおおお!」
 ルベーノの一撃がタイフォンにヒットし、地をバウンドして倒れる。
「今回、捕縛するのは首謀者タイフォンとタットルの残党。タイフォンの部下や住人に関しては、シスや元締めの判断に任せますにゃ」
 テトがそう告げてもタイフォンは動じなかった。
「何故、テト様とフォニケ様を巻き込んだのですか」
 素朴な疑問をフィロが突く。
「あいつは、ビスは……強い奴だった……なのに、あいつは長になれなかった……」
 ビスは部族なき部族の元メンバーにして、シバの遺児の可能性があった者。テトにとっては兄と慕う者。
 しかし、後継者と指名されず仲間を裏切り殺し、テトが初めて制裁し、初めて殺した相手。
「そんな奴に負けたのかと思ってな!」
 バネのように跳び起きたタイフォンが天駆けるものを使って低空飛行で狙うのはテト。
 テトはタイフォンを殺すべく突きの構えに剣を抜くが、それは届かなかった。
 彼女の前に立つのはオウガとハナ。
 オウガがテトを守るべく、後方へ突き飛ばす。
「テトちゃんがどれだけ苦しんでいると思ってるんですか!」
 叫び声と共にハナは用意していたワイルドカードと共に黒曜封印符を発動させた。
「じっちゃんは! あいつにないものをテトにあると見抜いていたんだ!」
 蛇を師と仰ぐ竜がオウガの左手に紋様となって浮かぶ。
 シバが死に往く時もテトが立ち直る時もいたのはオウガ、そしてここにいないアイラ。
 二人分の思いを怒りを拳に込めてオウガがタイフォンの顎に一撃を入れて再び地に落とした。


 町とティアランは奪回され、捕縛される者は捕縛し、後の判断はそれぞれの長へ委ねられた。
「なぁ、この町を継いでくれんかのう」
 元締めは以前、ルックスと部族なき部族の飯綱を救出した時からテトを跡目に……と考えていた模様。
「とうとうボケたのですかにゃ? 長生きするにゃ」
 煙に巻きつつ、テトはボロボロとなった魔導トラックへ乗り込む。
 ハンター達はそれぞれの者達から喜びと感謝の念を受け、戻っていく。

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MVP一覧

  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • 部族なき部族
    エステル・ソルka3983
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJka6653
  • 虹彩の奏者
    木綿花ka6927

重体一覧

参加者一覧

  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka0444unit001
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ルーシー
    ルーシー(ka2124unit004
    ユニット|幻獣
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アレキサンドライト
    アレク(ka3983unit001
    ユニット|幻獣
  • 洗斬の閃き
    セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    セレーネ
    セレーネ(ka5819unit003
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5852unit006
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ユキウサギ
    ユキウサギ(ka6653unit006
    ユニット|幻獣
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

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アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/08/12 07:10:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/08/11 13:06:12