もうなんもしたくねぇ

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2019/09/25 12:00
完成日
2019/10/03 00:50

このシナリオは5日間納期が延長されています。

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オープニング

●もうなんもしたくねぇ
 同盟の外れにある、とある村のできごと。
「ああ! 疲れた! もうなんもしたくねぇ!」
 一人の男が農具を放り出して絶叫した。
 邪神戦争が終結し、暑かった夏も終わりを迎え、秋、収穫の季節がやって来た。
 邪神が暴れようがシェオルが叫んでいようがなんだろうが、生きている以上人間の営みは続けないといけない。邪神戦争が終わったなら尚更だ。
 しかし、張り詰めていた糸が切れてしまうと、人間何もしたくなくなるものである。
 それでも人生は続いて行く。ライフ・ゴーズ・オン、というやつだ。
 夏に生まれた赤ん坊が泣いている。アウグスタと名付けられた彼女はすくすくと順調に育っている。丸いほっぺは皆の指先を誘っていた。
「ほんぎゃー! ほんぎゃー!」
「きゃ~! かわいい~! 泣いてても可愛い~!」
 子供達が、揺り籠のアウグスタを囲んできゃいきゃい騒いでいる。
「おばさーん! アウグスタが泣いてるー!」
「今行くわ~!」
「はぁ~~~~」
 その声を遠くに聞きながら、一人の農夫が遠い目をした。
「赤ん坊のお乳の為にも、収穫しねぇとなぁ……」
 ただ、
「もうなんもしたくねぇ……」
 平和を自堕落に貪りたい。
 過ごしやすい気候が、そんな気持ちに拍車を掛けたのであった。

●ハンターオフィスにて
「と、いうことで、依頼内容はいたってシンプル『村人全員、もうなんもしたくねぇ』ということです」
 オフィス職員C.J.(kz0273)は苦笑しながら依頼書を貼り出した。
「まあ、気持ちはわかる。僕もなんか最近かったるい。正直、もう帰って寝たい」
 あくびをした。
「不真面目な冗談は置いといて、とにかく仕事を一日替わってほしい、なんなら話相手とかにもなってほしい。ていうか炊き出ししてほしい。メシも作りたくねぇ。めんどくせぇ、外注してぇ、なんもしたくねぇ、ということだ」
 けだるさがにじみ出てくる依頼である。C.J.は依頼書を下まで眺めて、付け加えた。
「あとねぇ、赤ちゃんがいるんだって。夏に生まれたばっかりだからお世話はママがするけど、ちょっとこう、いないいないばあとかしてほしいって」


 そして、当日。
 なんもしたくない依頼に同行していたアルトゥーロは、他のハンターたちと一緒に村民たちに挨拶回りをしていた。
 この夏に生まれたばかりだと言う赤ん坊を抱いた母親が、じっと自分の顔を見ている。
「なにか?」
「いえ、どこかで見たことがあるような……失礼ですけど、ご出身は?」
「二十年前に歪虚襲撃でなくなってしまいましたが……」
 と、前置きをして、村の名前を告げると、彼女は目を丸くした。
「アルトゥーロ!? 粉挽きのアルトゥーロじゃない!? やだ、昔から綺麗な顔してたけどほんと綺麗になったわね!?」
「え!? あ!? もしかして……鳥刺しの家のメルチェーダ……!?」
「そうよ! そしてこの子はアウグスタ」
「アウグスタ」
 アルトゥーロは卒倒しそうになった。
「そ、その名前の由来は……」
「石割の……よく遊んでもらってたから……あれくらい利発で優しい子になってほしいと思って……彼女、今どうしてるのかしら……ずっと行方不明だけど……」
 死んでました、あの日に。と言おうかどうか迷った。言うべきなのかもしれないが、自分にはとても言えない。生まれたばかりの赤ん坊の前で、同じ名前の人間が死んだ話は抵抗があった。
「夏と言っていたけど……いつ?」
 彼女が告げた、アウグスタの誕生日は、あの廃村でアルトゥーロたちがアウグスタ・アラクネーを撃破したまさにその日で、アルトゥーロは目を押さえて天を仰ぐ。
「そう言うことも、あるんですねぇ……抱いても良いですか?」
「もちろんよ」
 アルトゥーロはメルチェーダからアウグスタを受け取ると、あやしながらその顔を覗き込んだ。
「か、可愛いですね……」
 こみ上げてくるものがある。
 ようやく、あの忌まわしい事件から自分たちは未来に向かって進んでいるのだという実感を得て、目頭が熱くなった。

リプレイ本文

●なんもしたくない依頼、開始
 なんもしたくない依頼を受けたハンターたちが村に入った。村人たちはのんびりだらだらしたい、というけだるさを隠そうとしない。何しろ、「なんもしたくねぇ」と公言して依頼を出しているのだから。これでしゃっきりしていたら、ハンターたちは逆に拍子抜けしたことだろう。
「なんか……依頼人に文句をつけるのもアレなのだが……はたきたくなる依頼だな……」
 と、釈然としない顔をしているのはレイア・アローネ(ka4082)だ。彼女自身、山奥の村出身であり、自分の村と重ねているところでもあるのだろうか、
「むしろこれからが働き時だろうに……」
 働かない大人を見る娘の顔をしている。
「ま、まあ文句をつけても始まらん。受けた依頼はきっちりこなさなければな」
 気を取り直して背筋を伸ばした。
「ハンターはなんでも屋みたいものだから、こう言った依頼も良いよね うん」
 ユリアン・クレティエ(ka1664)は、長い戦いを抜けた先の、平和な光景に頬を緩めていた。
「気が抜けたら休みたくもなるよね」
 鞍馬 真(ka5819)も肩を竦めた。案内人がかったるそうにしているので、ハンターたちもゆっくりあとについていく。

 明らかに「なんもしたくありません」オーラを放出した村長が、あくびをしながらやって欲しいことを説明した。狩り、子どもたちの遊び相手、畑の収穫、今日の夕飯作り。そう言うことをやってほしいと。
「子どもと言っても色んな年齢層がありますがね。それこそ夏に生まれたばっかりの赤ん坊から、もうすぐ大人って年頃の子まで。まあ、適当に……」
 そのふんわりとした説明を聞いて、ハンターたちは三々五々、自分のできそうな所へ向かって行った。

●ぐうたら村長と浄化の術
「マテリアル汚染や雑魔の仕業じゃないだろうとは思うの。でもね、私が最初にハンターとして旅を始めた理由は、自分の神を探すこととヒーラーになりたいからだったの。思い込みで助けられる筈の人を助けられないのは嫌なの。だから、確認をしてから農作業や掃除をさせてもらおうと思うの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は真剣な面持ちで自分の懸念を伝えると、村民達に聞き込みを始めた。
「誰が最初にへたったの?」
「私です」
 村長が言った。
「私が村長業の煩雑さに疲れて、へこたれました」
「村長……なんもしたくない状態に性差とか年齢差ってあるの?」
「いやぁ……? 子どもたちは元気ですから……季節の変わり目で疲れた子はいるようですが。概ね大人の方がぐったりしてますね。性差はないと思います」
「子どもたちは元気なのね。じゃあ、子どもと大人で明確にやることの差ってある? 子どもだけがしないことあるいはすること、大人だけがしないことあるいはすること」
「重労働かな~。流石に子どもにはさせないですね」
「そうなのね」
 ディーナはふむ、と考え、
「この周辺や水場にマテリアル汚染ってあるのかな? もしかしたら、マテリアル汚染から来てる虚脱状態の可能性があるの」
「う~~~ん……」
 村長は考えた。
「なんも思いつかないですね。そう言う話も聞きませんし」
「そうなのね……村長さん、浄化を試させてもらって良いかな?」
「ええ、構いませんよ」
 村長から快諾を得て、ディーナはピュリフィケーションを試した。フォーティアンを掌に乗せ、マテリアルを流し込む。浄化が発動した。
「……どう?」
「何か空気が綺麗になったようなそうでもないような……うーん、どっちにしろ、しばらくなんもしたくないのでマテリアル汚染じゃなさそうですなぁ……」
 ぐーたらしながら首を傾げる村長。ディーナはフォーティアンを片付けると、村長宅を辞した。

●汚染調査
 ディーナが村長宅を出て行くと、タロットカードを広げている星野 ハナ(ka5852)に行き会った。
「星野さんお疲れ様なの。何してるの?」
「短期的な脱力状態だと思いますけどぉ、もしも近くに汚染地帯があったらそれに惹かれて良くない結果になりますからぁ、会った場合にすぐ浄化できる準備だけはしておこうと思いましてぇ」
「村長さんにマテリアル汚染の心当たりがないか聞いてみたんだけど、特に村の人じゃ思いつかないみたいなの」
「じゃあちょちょいと占ってみますねぇ」
 とは言え、やはり占いでも特に引っかかるものはなかった。強いて言えば、節制の逆位置で、疲れや不摂生などからくる体調不良の意味合いが強い。やはり単純に燃え尽きているだけらしい。
「汚染の心配、なさそうですねぇ。マリィアさんが、念のため狩りに同行して見てくるって言ってましたけどぉ」
「それじゃあとはマリィアさんにお任せするの。私はお掃除をしてくるの」
 ディーナはにこりと笑うと、村長の家に戻った。

●大猟
「くしゅっ」
 マリィア・バルデス(ka5848)が小さくくしゃみをすると、穂積 智里(ka6819)が気遣わしげな表情で、
「マリィアさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。噂でもされているのかしらね」
 肩を竦める。前を歩く狩人は、大きなあくびをしながら、
「噂でも風邪でも、戻ったらゆっくりしな」
「そうしようかしら」
 マリィアと智里、ナンシー、エドは狩りの手伝いに来ていた。しかし、狩りと言う言葉からイメージされる緊張感は、先導する狩人のやる気が微妙にないこともあって薄い。半分くらいピクニックだ。
「蚊に刺されそう」
 エドはきょろきょろと当たりを見回しながら言う。
「あんたが狩りって、柄じゃないね。どうしたのさ」
 ナンシーに問われたエドは肩を竦めて、
「トリプルJが……」
 恩人の一人であるトリプルJ(ka6653)が、友人のジョンをつかまえてこう言った。
「ハンクは完熟野菜を傷めず収穫できそうだから収穫手伝いが良さそうだろ。エドは狩り以外身が入らなくて危なっかしいが同行者見りゃ多少弾けてもなんとかなりそうだろ。で、お前は子供の世話が得意だから俺と一緒に行動ってわけだ」
 ということで、狩りに派遣されたらしい。
「アメリカも、場所によっちゃあ野生の生き物いっぱい出るけどさ。俺はシティボーイだぜ」
「言ってな」
 ナンシーが一蹴する。
「この辺は大して大物も出ないからな。鳥かなんか捕まえるか」
 狩人が上を見回す。獲物にできそうな鳥は今のところいない。犬は舌を出してハンターたちに愛想を見せた。
「ナンシーさん」
 歩きながら智里が言った。
「ナンシーさんは今後どうするつもりですか? 私はちょっとずつ汚染領域奪回や、聖導士学校講師に参加します」
「まだ決まってないなぁ。そもそも、リアルブルーに帰れるようになるのかね」
 まだ封印凍結は解除されていない。ネヴァダの夏が恋しい。あの暑い夏が。
「隊の皆は死んじゃったしなぁ。でも、帰れるようになったらブルーに戻るつもりではいるよ。あんたは? あんたもブルーの子だよね?」
「拠点自体は東方に移して主に東方で活動する予定なんです」
「移住するってこと?」
「はい。だから、ナンシーさんが本腰入れて活動始めたら、なかなか会えなくなっちゃうかなと思ったんです」
「そうだね。ブルーのことが動くまでは、あたしたちも身動き取れないからねぇ。それまでは会いに行ったりするよ」
「はい! 待ってますね」

「兎だ」
 狩人が低い声で言った。マリィアが魔導拳銃を構える。対物ライフルで小動物を撃ったら、粉々になる恐れもある。
「援護するわ。仕留められるかしら?」
「おう、任せな」
 どうも、弓を持つと引きたくなる性分らしい狩人は、ゆっくりと弓を引いた。兎の耳がぴくりと動く。身を低くした。
 そこに、マリィアが威嚇射撃を撃ち込んだ。兎は鋭い鳴き声を上げて立ち止まる。
 狩人が、弦から手を離した。矢はまっすぐ飛んでいき、兎の胴を貫いた。

 残念なことに、大物は発見できなかったが、マリィアの妨害射撃による逃走の阻止、飛びかかってきたところを智里の攻性防壁で麻痺させるなどの補助が功を奏し、普段ではなかなか取れない量の獲物を獲得することができた。
「いやぁ、ありがたいね。俺には大してやる気がないのに、こんなに捕まえられるとは」
 狩人はほくほくしている。
「これで、しばらくやる気出なくても大丈夫だな」
「私達も邪神戦争が終わって気が抜けたので、この村の人もそうなのかなって思いました。ちょっと休養して気分が高揚すれば、また日常に戻れるんじゃないかと思います」
 智里が励ますように言う。
 帰途もまたのんびりと。晴れた空に、涼しい風が心地良かった。

●秋の空と今日の献立
「えーっとね、この辺のがもう収穫して良いやつ。あっちの方がもうちょっと置いておいてほしいやつ。これ鋏ね。根元からちょっきんっていって」
 監督役の村民たちの指示に従って、農作業に来たハンターたちは「はーい」と良いお返事をして畑に入った。
 ユリアンは瑞々しい茄子を手に取りながら、感慨深い気持ちになる。
(最近までの大変な状況下で良く育ってくれたな……)
 シェオルにせよ雑魔にせよ、人間の畑を避けて出没するわけではない。この畑は幸いにも無事だったのだろう。傷ませないように、丁寧に収穫する。
「取れた野菜は、どこへ出荷するんですか?」
 何気なく尋ねてみると、村人は「うーん」とかったるそうに呻いて、
「一番多いのは一番近場の町かなぁ。自分たちの分をとっといて、余剰分はまた欲しいってところに出してるよ」
「そうなんですね。この村ではどんな料理に?」
「まあ、肉と一緒に炒めたり、スープにしたりかなぁ」
「美味しそうですね」
「そう? まあ、そうだね。美味しいと思う」
 身近なものの良さとは案外自覚できないものだ。でも、それが平和の証でもあると思う。
 長く同じ体勢でいることは、後で身体に影響が出る。ユリアンは時折立ち上がりながら身体をほぐした。背中を伸ばしながら、空を見上げる。
「良い天気」
 秋晴れの空に、白い雲が薄く浮かんでいる。涼しい風が、イヤリングを揺らした。

●これからのこと
「ありゃ? ヴィクターのおっちゃ……げふんげふん、あんちゃん、こんなところで会うとは思わな……いやあんちゃん軍人だもんな、こういう被災地手伝いは得意そうだもんな」
 ラスティ・グレン(ka7418)は金髪の中年を見るや声を掛けた。当のヴィクターは眼鏡を上げながら、
「いっちょ前に遠慮を覚えたな。ま、ハンターもそうだが軍人もわりと何でも屋なもんでね」
 ヴィクターは肩を竦める。ラスティが収穫をするというので、一緒に着いていった。
「それにしても、お前さんが農作業とはな。狩りに行きたがると思ったぜ」
「いやー、だって収穫の手伝いするだけで賃金と飯が出るなんて王都辺りと比べりゃ破格だぜ? 俺もやっとビギナー卒業したんで飯食いがてら手伝いに来たんだ」
「お、そうか。良かったな」
 ターバンを巻いて、農作業ルックになったラスティは、口も八丁手も八丁と言うのか、手際よく収穫していく。
「ビギナー卒業して、やりたいことでもあんのか?」
「王国にハンター向けの学校があるっていうんで、俺はそこでもう少し勉強してからハンター専業かなあ」
「そうか」
「あんちゃんはやっぱりグラウンド・ゼロとかで戦ったり、リアルブルー行けるようになったらそっちの方で仕事する感じか」
「そうだな……汚染領域の奪回の話はあるみたいだが……まあ正直ブルーに帰りたくはある。早く行けるようにならねぇかな……」
「ふぅん。でもハンターやってりゃまた会えそうな気はするもんな」
「ちょっと、身体を動かした方が良いかもしれない」
 ユリアンが声を掛けた。ヴィクターは、それを聞いて、自分が長らく同じ姿勢でいることに気付く。
「ラスティ、ストレッチしとくぞ」
「俺まだ大丈夫だけどなぁ」
「若さを見せつけるんじゃねぇよ」

●タイプの人
 レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は友人関係にあるヴィルジーリオ(kz0278)を引っ張って農作物収穫にいそしんでいた。
「庭に野菜植えても……いや、しかしこれ以上手入れの違う植物は……」
 ぶつぶつ言っている赤毛の司祭に笑みを溢しながら、レオーネは真面目に仕事をこなしている。
「よーし。じゃあこんなもんで良いや。撤収~」
 気の抜けた合図が同行の村人から上がる。
「うおお足がしびれた……」
「あんちゃん、大丈夫か?」
 ヴィクターがラスティに肩を貸されているのが見えた。収穫した野菜を、所定の場所に運んでから、レオーネはヴィルジーリオの袖を摘まんで引っ張った。
「話したいことがある」

「付き合っている人がいるんだ」
「タイプの人なんですね」
 好きになった人がタイプらしい友人の言葉に、ヴィルジーリオは納得したように頷く。
「どんな方なんですか?」
「知人の子。友人は恋愛対象にしない。可愛くていい子だよ」
「意外です。あなたは誰とでも打ち解けられると思っていたので。お友達から始めるタイプだと思ってました」
「そう見えるか?」
 レオーネは微笑んだ。
「ついでに聞いて欲しい」
「告解ですか?」
「いや、昔話」
 友として、聞いて欲しい。

●昔語り
 十六くらいの時かな。幼馴染と付き合うことになった。彼が俺のことを好きだと気付いたときにね、自分も同じ気持ちだったと気付いた。
「なるほど。好きになった人がタイプって言うのは全ての要素において、ということですか」
 まあ、そう言うこと。だが、彼は十八を前にして病気で死んだ。
「……」
 幼馴染と恋人、いっぺんに失った、というわけだ。俺は何もかも変えたくてね。それで軍に。
「ワイナリーの息子が軍人って、変わった経歴だなと思ってました」
 まあ、そう見えるよな。結局、好きになった人がタイプって言うのは変わらなくて。性別にもこだわりはない。
「なるほど。丸ごと愛せる。博愛者ですね」
 敬愛以外判り難いらしいけどね。
「相手の全ての要素を愛せる人ならそう見えることもあるでしょう。相手のことを丸ごと肯定し、愛しているんですから。敬意がなくてはできないことです。誇ってください」
 ああ、そうかもしれないな。

●森まで
「そうかもしれないな」
 レオーネが昔話を終えると、ヴィルジーリオは眉を上げた。
「それで、今後はどうされるんですか? ブルーへの帰還が叶ったら、帰るんですか?」
「いや、俺はこっちに移ろうと思ってる。リアルブルーの料理がこっちで食べられるように、家庭料理屋をやろうと思って。両世界の薔薇を交配させたいと言ってる妹も一人残る。育種家を目指してるんだ」
「大きな夢ですね。応援しますよ」
「ありがとう。そこで、妹にサンドラを紹介してほしいんだが」
「わかりました。話は通しておきましょう。ただ、彼女は百歳近いので、その内に森まで通うことになりそうですよ」
「それもまた楽しいんじゃないか?」

●お掃除お姉さん
 フィロ(ka6966)は雑然とした村内の清掃を引き受けていた。風に吹かれて落ちた葉っぱ、枝、落とし物、その他諸々を、掃いて、より分ける。乱雑に積まれた薪を一箇所にまとめた。
「うんしょ、うんしょ」
 大きなゴミ袋を抱えたディーナが一つの家から出てくる。フィロはスッと近寄り、
「ディーナ様、そちらのゴミは私が承ります」
「ありがとうなの。それじゃお願いしますなの」
「かしこまりました」
 受け取る。彼女は自分が出したゴミ袋も持つと、村人に声を掛けた。
「これは此方に移動すれば良いでしょうか」
「そうね、あっちにまとめて置くところがあるからそこに置いといて」
「かしこまりました」
「それにしても、そんなにたくさん持ってて、ちっとも重そうじゃないねぇ」
「ハンターは多少腕力が出るものでございます」
 実際は多少どころの騒ぎではない。
「すまないねぇ、あんたみたいな若い子を働かせてさ」
「ハンターも邪神戦争終了時には虚脱状態に陥った者が出ました」
 フィロはゆるゆると首を横に振る。
「皆様も良く休んで英気を養っていただければと思います」
「ありがとねぇ。じゃあ、残りもよろしく頼むよ」
「はい、お任せください」

●スリルジャンキーキッズ
 トリプルJはジョンを連れて子どもの相手をしていた。
「お前らの家にお手玉はあるか?」
「ある!」
「よし、持ってこい。面白いもん見せてやるよ」
 そう言って、歯を見せて笑うトリプルJ。
「何をするんですか?」
「まあ、見てろって」
「あなたが大道芸ってあんまりイメージにないですけど……」
 やがて、子どもたちが各々の家からお手玉を持ち出して来た。トリプルJは手を出して。
「投げてよこしな」
 悪戯っぽい顔をした子どもたちが、次から次と彼に向かってお手玉を投げつける。それを、片っ端からキャッチして、そのまま上に放り出した。それを、向かってくるお手玉全てでやるもんだから、やがて輪の様に連なっていく。
「すっげー!」
「え、嘘」
 ジョンはあんぐりと口を開けてしまった。
「はっはっは」
 豪快に笑いながらジャグリングを見せるトリプルJ。
「他には? 他には?」
「こういうのはどうだ?」
「すっげー!」

 ひとしきりジャグリングを疲労すると、後はその体格を生かした遊びにうつった。

 ジャイアントスイングである。

「あわわわわわわ……人が浮いてる……」
「ハンターやって今更ビビんなよ。安全には配慮してるから安心しろって」
 傍で見てうろたえているジョンを見て、苦笑するトリプルJ。
「きゃっきゃっ」
 振り回されている当の子どもはたいそう楽しそうである。
「次俺も!」
「じゃあその次は私ね!」
「おてんばさんが混じってるな。よーし、じゃあ順番だ。並べ並べ」
「はーい!」
「スリルジャンキーか君たちは!?」

●かくれんぼは隠密で
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、狩りから戻って来たエドを誘って子どもたちの遊び相手にいそしんでいた。
「ヴィクターが『アルマはボルゾイ』って言ってたから狩りに来ると思った」
「狩りは獲物が粉々になっちゃうです……力仕事は苦手ですし」
 エド、しばらく中空を睨み、
「だな」
 納得したように頷いた。アルマは集まって来た子どもたちに、
「初めましてですー。僕、アルマです!」
 元気よくご挨拶。
「こんにちはー!」
「お、アルマ君とエド君発見。こっちでかくれんぼやろうって言ってるんだけど、一緒にどうかな?」
 数人の子どもを腰にぶら下げた真が手を振った。
「やりますです! じゃあ、僕が鬼さんやるです! みんな、僕が百数える間に隠れるですっ!」
「はーい!」

「エド君、隠の徒はずるいと思う」
 近くに隠れているエドが、スキルで気配を消そうとしているのを見て、真は傍らにいる子どもの頭を撫でながらくすりと笑った。
「アルマだったら、隠の徒使っててもバレそうじゃん……」
「まあ、それはあるかもしれないね」
「見つけましたー!」
 遠くでするアルマの声に、エドがびくっと肩を振るわせた。しかし、自分でないことに気付いてほっと息を吐く。
 アルマは見つけた子どもを肩車して、小走りに他を見つけに行った。その途中、仲間に入りたそうにしている子どもを見つけると、ちょいちょいと手招きをし、
「一緒にあそぶです! びゅーん、ってするです! 今、かくれんぼしてるので一緒に捜してくださいです!」
 肩車しながら言う。守護者の無駄遣い……と言われかねない光景でもあるが、本人も楽しんでいる。
「俺よりアルマの方がずるくない!?」
 甲斐性の差である。
「あっ、今エドさんの声がしましたです」
「やべっ」
 エドは口を押さえた。真と子どもが、人差し指を口元にあてて、
「しーっ」

●Thank you my dear blue.
 かくれんぼが終わると、真は中遊びをしたい子どもに付いていった。真を見送りながら、次の遊びを考えている子どもたちを、エドは待っている。その彼の肩を、とんとんと叩く手があった。アルマだ。
「エドさんもびゅーん、ってするです」
「肩車してくれんの?」
「はいですー! 乗ってください」
「うっわすげぇ目線が高い!」
 百九十センチ近いアルマの肩の上は、百六十センチちょっとのエドからしたら見たこともない高さで、いつもより景色が広く見える。
「こないだつまんなさそーにしてたので、おわびですー」
「別に、あれはアルマが悪いわけじゃないじゃん。あの変態があまりにも変態だったから……なんか、いつも気を遣ってくれるよな。ありがとう」
「エドさんは弟分だと思ってるですー。だめです?」
「えー? えー……えへへ……」
 エドはアルマの頭をくしゃくしゃっと撫でた。いつものお返しだ。
「嬉しいよ」
「皆さんが残ってもブルーに帰っても、ずっと仲良しですっ。だいすきですー!」
 アルマは明るい笑顔で宣言すると、エドを乗せたままくるりと回った。それから、はたと思い出した様に、
「あ、そうそう。僕結婚しました」
「えっっっ!? マジで!? こないだ言ってた英霊の!? そっかー……」
 エドは頷いた。
「邪神、討伐できて良かったよな」
 君に変わらない、幸せな未来がありますように。
 ありがとう、大好きな蒼。

●学生の本分
 ひとしきり遊び終えて、一旦休憩となった。ジョンは何気なくトリプルJを見上げ、
「そう言えば、あなたはこれからどうするんですか?」
「そうだなぁ。ブルーに行けるようになったら向こう活動して、こっちに戻った時は北征南征に派遣する人材教育の手伝いだな」
「そうかなって思ってました」
「お前は一遍大学に戻って、ゆっくり考えたらどうだ」
「そのつもりです。普通の大学生に戻りたい」
 頭を撫でられながら、ジョンは肩を竦める。
「エドとハンクはどうするかわかりませんけど……三人が三人、同じ道じゃなくても良いかなって思いますね」

●アウグスタの未来
(あのアウグスタと同じ名前の子ども……なんだか感慨深いね)
 赤ん坊の世話を買って出た夢路 まよい(ka1328)は揺り籠で眠っているアウグスタの頬をつんつんと突いた。構ってもらえるのが嬉しいのか、短くて小さな手を振り回して赤ん坊は笑っている。
 もちろん、歪虚のアウグスタの顛末を、この母親に話すことはしない。あくまでも、優しいお姉さんの名前として覚えていると良い。
「……良かったですね、アルトゥーロ様」
 まだ感激が止まらず、部屋の隅っこでぐすぐすしているアルトゥーロに、フィロがハンカチを差し出した。ディーナが掃除したゴミの回収を手伝いに来たらしい。
「はい……本当に……ウッ」
「そんなに泣かないでよ。でも、また会いに来てね」
 母親が苦笑した。
「はい……もちろん……結婚式は是非うちの教会で……ううっ」
 気が早い。
(偶然だとは思うが……)
 まよいの後ろから、赤ん坊の揺り籠を覗いているレイアは思う。生まれ変わりの迷信を信じるほどロマンチストでもない。
「それでも……この子には笑って生きて欲しいと思ってしまうな……」
「うん、そうだね」
 まよいも微笑んで頷く。それから彼女は相好を崩し、
「それにしても赤ちゃんかあ……えへへ、可愛いなぁ」
「あうあうあー」
「いいこいいこ。私も守護者の任はあるとはいえ、邪神との戦いも終わったし、将来的には子どもとか……」
 にへら、と甘い笑顔になる。幸せな家庭でも思い描いているだろうか。大好きな人と、可愛い赤ん坊。どっちに似るかな。私かな、向こうかな……その前に一緒に生活して……そのためには……という所まで考えて、スンッと真顔になる。
「うん、でも好きな人に相手にされてないんじゃしょうがないよね」
「ほぎゃー……」
「あ、ごめんごめん、アウグスタ。お顔、怖かったかな?」
 目が潤んで、今にも泣き出しそうになったのを見ると、まよいは慌てて宥めた。アウグスタはすぐに機嫌を直すと、握り拳を作ってまよいの方に突き出す。見ようによっては、頑張れと言っているようにも見えなくもない。
「うん、そうだね、色々とまだ諦めるには勿体ないよね。赤ん坊の笑顔を見てると、色々とこっちが元気を貰えるよ」
 未来はこれから作れる。
「あ、皆集まってるね。アウグスタは……」
 真が入って来た。レイアが振り返り。
「鞍馬か……この子がアウグスタだ」
「そっか。この大変な中、無事に生まれて良かったです。おめでとうございます」
「あら、ありがとう。皆赤ちゃんが好きなのね?」
「ええ」
 真は、きょとんとして自分を見上げる赤ん坊に慈しみの視線を送る。差し出した指を、小さな手が握った。
「素敵な女の子になって、平和に未来を過ごして欲しいね」
 今度こそ、とは口にしない。
「未来、か」
 まよいが目を細める。
「私達はこの子達の未来を守れた、のかな」
「ああ、きっとそうだとも」
 レイアが頷いた。

●暗夜を照らす青い月
 日が暮れていく。調理を請け負ったハンターたちが作る、スープの匂いが漂っている。
「時の流れって言うのは、『熱い』を『温かい』に変えるものなのかもな」
 ぶらぶらと歩きながら、レオーネが夕陽を見つめた。
「……そうですね」
 赤毛の司祭は自分の手を見た。
「燃やすのではなく、生かすものになるのでしょうね」
 レオーネはその手を取った。ぎゅっと、握り、上下に揺らす。
「今後ともよろしく」
 大切な友よ。
「ええ、こちらこそ」
 暗夜を見守る月の如き友よ。

●薬草茶会
「いやあ、最近めまいがしてのう」
「あたしも、ちょっと今心臓がバクバクしてるのよ~」
「ばかたれ。お前さんのは、いけめんの兄ちゃん見てるからじゃろうが」
「いやなじじいだね。バラすんじゃないよそんなこと」
 畑仕事を終えたユリアンは、薬草茶を飲みながら老人の話相手をしている。
「めまい、ですか。心配ですね」
「う~ん、まあここ数年そうだからのう」
「一度、お医者さんに見てもらった方が良いかもしれませんね。めまいを抑える薬草もありますけど、症状や体質によって、どれを使えば良いかは違いますから」
 薬師の助手をしていて、独立を目指しているユリアンは、頭の中にある数種の薬草を思い浮かべた。どれも「めまいに効く」とは言われているが、機序も効果も厳密には違う。一概に、「めまいならこれ!」とは言えないのだ。
「しっかしまぁ、もう歪虚にそんな怯えずに遠出できるって言うのはありがたいのう」
「ほんとにねぇ。お兄ちゃんも、良かったよ。いくらハンターって言っても怪我しちゃあ痛いからさ」
「そうですね」
 ユリアンは微笑んで、お茶をまた一口。
 日々の営みと恵みに感謝を。

●根菜で何作る?
 ハナ、マリィア、ディーナは、頼まれた調理に回っていた。
「これじゃ全然足りないの。もっと量が必要なの」
「村のご飯なんですからぁ!」
 自分基準の分量で作ろうとするディーナの肩を掴んで引き戻しながら、ハナは酢の物の準備をしている。フィロは生姜入りのドリンクを作っていた。この前に、既にお菓子を作っている。その前は掃除。働き者である。
「腹が減ってはとか衣食足りてとか、元気になるには食が重要です。身体が温まるもの、気分が高揚するものをお出ししようと」
 というのがフィロの談だ。マリィアはスープをの下ごしらえをして、
「収穫物が使えればキャセロールやカポナータを作ったけど、根菜じゃスープかカレーくらいしか浮かばなかったのよ」
 肩を竦めた。
「こういう時は大鍋料理とか酢の物が良いですぅ」
 根菜を一口サイズに切るハナが頷いた。
「そうよね。酢の物は疲れも取れるし、大鍋なら身体も温まるし。それに、なんもしたくないなら、洗い物も少ない方が良いでしょうし」
「ですですぅ」

●新しい命に
 智里は、夕食を終えると、ナンシーの手を引いて、赤ん坊を抱いた女性に近づいた。
「こんばんは」
「こんばんは、ハンターさん。あなたもアウグスタに会いに来てくれたの?」
「はい」
「ほら、アウグスタ、またあなたに会いに来てくれたお客さんですよー」
「可愛い。無事にお産がすんで、良かったよ」
「本当に」
 ナンシーと母親が話しているのを聞きながら、智里は、きょとんとしてこちらを見る赤ん坊の丸い目を見つめ、頬をそっと撫でた。
「……貴女はいっぱい幸せになって下さいね」
 迎えなど待たなくて良いように。
 どうか幸せに。

依頼結果

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参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • セシアの隣で、華を
    レオーネ・ティラトーレ(ka7249
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士
  • 桃源郷を探して
    ラスティ・グレン(ka7418
    人間(紅)|13才|男性|魔術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/09/21 14:21:21