ゲスト
(ka0000)
氷結の檻 ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,800
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/09/30 19:00
- 完成日
- 2019/10/17 21:41
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案はあった。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
大商人カミネテへの尋問は、マール城の地下で毎日行われる。
「そんなのを聞いてどうする?」
部屋を訪れたアーリアは、やつれたカミネテに「歪虚ナアマとの戦いが聞きたい」と強くねだられた。何かの切っ掛けになればと思い、話してやると、カミネテの表情から憑き物が消えていく。
唐突にカミネテは自身の生い立ちを語りだす。
「――そう、ガキの頃は毎日が腹減りとの戦いでさ。パンを盗んだのがばれて酷く殴られたよ。殺されると思ったな。もっとも一年後には、やり返してやったけどさ。あの馬鹿面の家族もろともに――」
とはいえ反省の色は微塵もない。これまでしてきた悪行を愉快そうに、そして偽善の仮面についてを淡々と独白していった。
ナアマとの繋がりは、かなり若い頃からだったようだ。恋人のように暮らしたときもあり、やがて心が離れても、腐れ縁は続いたようである。
「いつの間にか女王様にかしづく臣下って感じになっちゃってさ。でもまあ、それでもいいかなって。大金持ちになれたんだからな。だがアスタロトはいけねぇ……、黒伯爵だって? 笑わせんなよ! 元は俺と一緒の人間じゃねぇか! それにアーリアさんよ。あんたに教えてあげたいことがあるんだ」
「いいから話せ。洗いざらいな」
「ナアマという女は、酷く執着するのさ。で、これは俺の想像も多分に混じっているんだが、あんたは奴との戦いで手加減されたのさ。だから、こうしてのうのうと生きていられるんだよ」
「それは興味深い話だ」
「……ふんっ。少しは顔色でも変えやがれよ。からかいがいがないってもんだ……。あんた、歳を重ねたせいか、兄のアスタロトに大分似てきたのを自覚しているかい?」
「だから、どうした?」
「鈍いやつだな。ナアマはあんたの姿に、アスタロトを映して眺めているんだ」
「つまり……、ナアマは俺を攫って、ペットにでもしようとしている。そういうことか? ドスガでの戦いでは、それが無理だったので見逃したと?」
「傲慢のアイテルカイトの趣向も、あるんだろうけどな。胸くそ悪ぃだろ? もっと嫌がれよ」
「あいにくと、そんな些末に心動かされていたのなら、領主など務まらぬよ」
アーリアはカミネテが背中を向けてふて腐れたのを切っ掛けにして、その場から離れる。
(自らを囮にしたこの前の作戦は、ナアマにとっても好都合だったのだろう。だからこそ、まんまと引っかかってくれたのか……)
階段を登り詰めて庭にでたアーリアが、秋空を見あげた。
ドスガから逃亡したナアマの行方はようとして知れない。だが、カミネテのいうことが本当であるのなら、いつか目の前に現れるだろう。
問題はナアマの背中から生えている翼である。追い詰めても、逃げられてしまう公算が高かった。できることならば事前に封じ込めたい。
とはいえ、カミネテが引きこもっていたカタコンベのような場所に、のこのことやっててくるとは考えにくかった。
(……雨、はどうだ? 普通ではなく、大嵐の暴雨ならば、さすがの飛行能力も半減するだろう)
その日からアーリアは、自身の予定が外部へ漏れさせるように工作する。城塞都市マール外の領地視察回数を増やして、大嵐に遭遇する機会を得ようとした。
依頼したハンターには護衛として。または視察の様子を外側から監視してもらう。
やがてアーリアが望んでいた偶然が重なった。田舎町の視察時、大嵐に遭遇。宿へは泊まらずに、洞窟内で一夜を過ごすこととなる。
馬車や荷馬車は二十両。一行の人数は五十人弱。そのうちの何人かがハンターである。
急激に肌寒くなっていく夜半に、誰もが予感する。これは冷気の根、もしくはスノーラの影響ではないかと。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案はあった。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
大商人カミネテへの尋問は、マール城の地下で毎日行われる。
「そんなのを聞いてどうする?」
部屋を訪れたアーリアは、やつれたカミネテに「歪虚ナアマとの戦いが聞きたい」と強くねだられた。何かの切っ掛けになればと思い、話してやると、カミネテの表情から憑き物が消えていく。
唐突にカミネテは自身の生い立ちを語りだす。
「――そう、ガキの頃は毎日が腹減りとの戦いでさ。パンを盗んだのがばれて酷く殴られたよ。殺されると思ったな。もっとも一年後には、やり返してやったけどさ。あの馬鹿面の家族もろともに――」
とはいえ反省の色は微塵もない。これまでしてきた悪行を愉快そうに、そして偽善の仮面についてを淡々と独白していった。
ナアマとの繋がりは、かなり若い頃からだったようだ。恋人のように暮らしたときもあり、やがて心が離れても、腐れ縁は続いたようである。
「いつの間にか女王様にかしづく臣下って感じになっちゃってさ。でもまあ、それでもいいかなって。大金持ちになれたんだからな。だがアスタロトはいけねぇ……、黒伯爵だって? 笑わせんなよ! 元は俺と一緒の人間じゃねぇか! それにアーリアさんよ。あんたに教えてあげたいことがあるんだ」
「いいから話せ。洗いざらいな」
「ナアマという女は、酷く執着するのさ。で、これは俺の想像も多分に混じっているんだが、あんたは奴との戦いで手加減されたのさ。だから、こうしてのうのうと生きていられるんだよ」
「それは興味深い話だ」
「……ふんっ。少しは顔色でも変えやがれよ。からかいがいがないってもんだ……。あんた、歳を重ねたせいか、兄のアスタロトに大分似てきたのを自覚しているかい?」
「だから、どうした?」
「鈍いやつだな。ナアマはあんたの姿に、アスタロトを映して眺めているんだ」
「つまり……、ナアマは俺を攫って、ペットにでもしようとしている。そういうことか? ドスガでの戦いでは、それが無理だったので見逃したと?」
「傲慢のアイテルカイトの趣向も、あるんだろうけどな。胸くそ悪ぃだろ? もっと嫌がれよ」
「あいにくと、そんな些末に心動かされていたのなら、領主など務まらぬよ」
アーリアはカミネテが背中を向けてふて腐れたのを切っ掛けにして、その場から離れる。
(自らを囮にしたこの前の作戦は、ナアマにとっても好都合だったのだろう。だからこそ、まんまと引っかかってくれたのか……)
階段を登り詰めて庭にでたアーリアが、秋空を見あげた。
ドスガから逃亡したナアマの行方はようとして知れない。だが、カミネテのいうことが本当であるのなら、いつか目の前に現れるだろう。
問題はナアマの背中から生えている翼である。追い詰めても、逃げられてしまう公算が高かった。できることならば事前に封じ込めたい。
とはいえ、カミネテが引きこもっていたカタコンベのような場所に、のこのことやっててくるとは考えにくかった。
(……雨、はどうだ? 普通ではなく、大嵐の暴雨ならば、さすがの飛行能力も半減するだろう)
その日からアーリアは、自身の予定が外部へ漏れさせるように工作する。城塞都市マール外の領地視察回数を増やして、大嵐に遭遇する機会を得ようとした。
依頼したハンターには護衛として。または視察の様子を外側から監視してもらう。
やがてアーリアが望んでいた偶然が重なった。田舎町の視察時、大嵐に遭遇。宿へは泊まらずに、洞窟内で一夜を過ごすこととなる。
馬車や荷馬車は二十両。一行の人数は五十人弱。そのうちの何人かがハンターである。
急激に肌寒くなっていく夜半に、誰もが予感する。これは冷気の根、もしくはスノーラの影響ではないかと。
リプレイ本文
●
強風によって、雨粒は打ちつける鞭先のように荒れ狂う。たくさんの薪がくべられた焚き火が消えそうなほどの強風が、洞窟内にも吹き荒ぶ。
風よけとして馬車を並べても寒さが募る。夜半故に急激に気温が落ちても不思議ではなかった。しかし歯の根が合わないほどの寒さは、今の季節では稀だ。自然の偶然を想像するよりも確かなのは、冷気の根とスノーラの存在。誰もがその首謀者たる何者かを、脳裏に真冬を想像させるほどの冷気が漂っていた。
「臨戦態勢!」
アーリアが大声を張りあげて指示をだす。状況を確かめるために、斥候が乗った馬が洞窟外へと飛びだしていった。
わずかな間に洞窟内は慌ただしくなる。
「あらためてのご挨拶を。ナアマとの決戦と聞き、参戦しました。絶対に守りますから安心してください」
「期待している。この冷気はただごとではないな。あなたがいうとおり、ナアマの仕業で間違いないだろう」
多由羅(ka6167)はアーリアの真剣な眼差しから、決死の覚悟を読み取っていた。
「ナアマが空中戦で仕掛けてきたら、避けられないし、メイスも当たらないの。でも私の法術なら、接近さえできれば当たるはずなの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)が懸案としていたのは、ナアマが飛べることだ。
「ナアマにとって、この豪雨と暴風は羽をもがれたようなもの。飛ぶとしても、大した高度はとれないだろう」
歪虚といえども、この暴風雨の中を自由自在には飛べないはず。果たしておびき寄せが功を奏すのかはまだわからないが、アーリアはそこに勝機を見いだしていた。
(この洞窟にいて、いいものか。外に出るべきか。……アーリアさんは決死の覚悟です。それを絶対に無駄にできませんね)
ミオレスカ(ka3496)は魔導銃を握りしめながら、野外を覗くように確かめる。ある一瞬を境にして、様子が一変。雨粒が凍り、みぞれ混じりの雪のように変化していた。
「急激な冷え込みは、冷気の根のせいか。隠れている位置さえわかれば……ん、あれは何だ!? 闇の中で薄らと輝いている」
氷粒が叩きつける状況でも構わず、レイア・アローネ(ka4082)は洞窟の外へと飛びだして遠くを望んだ。
「太い冷気の根が一本……それに巨大なスノーラが三、いや四体か? 小さいのもいそうだが、ここからではよくわからないか」
南護 炎(ka6651)も野外に出て視認。闇に目をこらして、ようやく輪郭だけが覗える。これまで対峙してきた者だからこそ、その正体がわかった。
「パン!」と、拳で掌を打ちつけた音が響く。「こうでなくちゃ」と呟いたのは、ゾファル・G・初火(ka4407)だ。「ばあちゃんに無理言って譲ってもらったぜ。待っていろよ、ナアマ」彼女は今すぐにも戦いたくて、うずうずしている。
全体の状況を見守っていたのは、鳳凰院の兄妹だ。アーリアの出方は元より、ナアマ側がどう仕掛けてくるか。先手を打てるのかが勝負の鍵になりそうだと兄妹で話す。
(お兄様にも添い遂げる方が出来たのです、ここで死なせるわけにはまいりません。もちろん他の皆様も、です)
鳳凰院 流宇(ka1922)は鳳凰院ひりょ(ka3744)の背中に視線を注ぐ。「よしっ!」胸元に拳をあげて、頑張ろうと気合いを入れた。
(カミネテの話が本当なら、ナアマはアーリアに執着心があるようだ。生かして捕えるつもりなのだろうか? それとも俺達を目の前で倒し、絶望感を感じさせたうえで……、とかのつもりだろうか?)
振り返ったひりょは「アーリアをここで死なせるわけにはいかない。無論俺達自身も、全員で生きて帰る」と流宇に語りかける。
洞窟内の馬車が転倒するほどの、強風が吹きこんできた。直後、地響きが鳴り響く。突如として現れる巨大な足首。巨大なスノーラが次々と大きく跳躍して、洞窟の周辺に現れたのだった。
●
アーリアが率いるハンターや騎士、そして兵達が一斉に洞窟から飛びだした。そして巨大なスノーラにしがみついていた小さめのスノーラが落下してきて、戦闘が始まる。
飛び交う氷柱。すべてを凍らせそうな冷気。
遠くにあったはずの冷気の根がいつの間にか消えていた。しばらくして大地が盛りあがり、冷気の主根が天へと伸びるように現れる。
その強烈な冷気によって、雨粒の氷結具合がより強まった。一瞬のうちに凍りついて鋭利な霰と化し、敵味方構わずに傷つけていく。
「狼狽えるな! 体制を整えよ!」
アーリアの檄が飛んだ。
戦いは出方をみることはなく、いきなりの混戦へと突入する。
(どこにいるのですか? ナアマは)
ミオレスカは銃口で敵を撃ち抜きながら、アーリアの様子を確認。さらにナアマの影を探した。
「どこだ? ナアマ! 近くで見ているのだろう?」
レイアが次の敵へと戦う合間に、大声で叫んだ。歪虚の首魁ナアマは必ずここにいると、確信に近い信念を持ちながら。
「これが最後の戦いになるだろう。全力を尽くすぜ!」
南護炎は小型のスノーラをまとめて終之太刀の〆で切り裂いた。集団で一斉に襲ってくるスノーラは厄介だったが、それでも確実に倒していく。
「でかくて攻撃してくるなら、悪決定じゃん! ナアマっていまいち何したいかわかんねーし、カネミテもそれは同様。でも、殴ってしまえば同じじゃん?」
ゾファルの拳が巨大なスノーラの足首の一部を削いだ。盛りあがって修復してしまう前に、二撃、三撃と、立て続けに攻撃を仕掛けていった。
「まずは減らすことを優先しましょう。こう、敵が多くてはやりにくいので」
多由羅は味方がいない範囲にいる小型のスノーラの一団と対峙して、次元斬で切り刻んだ。両断されたスノーラが残骸が、足元にゴロゴロと転がる。
「アーリアは大丈夫そうなの。なら私は……」
ディーナは灯火の水晶球の照明で視界を確保しつつ、セイクリッドフラッシュの聖なる輝きを冷気の主根へと浴びせかけた。近場で強まる冷気に耐えられたのは、羽織っていたドラグーンマントのおかげ。主根が悲鳴のような呻りをあげても、構わずに攻撃し続ける。
「お兄様、あの大きなスノーラの肩に、誰かが乗っています!」
流宇が指さした方角に、ひりょが目をこらす。「…………、あれはナアマだ!」目を見張ったひりょは、無線を通じて味方へとナアマ発見の報を伝えた。
「ナアマ、そんなところで高みの見物か? 降りてきたらどうだ!」
スノーラを斬り伏せたばかりのアーリアが、巨大なスノーラを仰いだ。鋭い眼光を注ぐことで、ナアマを挑発する。
「この暴風雨ではのう。妾なら余裕で飛べるのじゃが、汚れてしまうのは、ちと具合が悪い。こうして、少しは盾になるものがあったほうがいいのでな。
アーリアよ、お主は策士よのう。アスタロトによう似ておる。それでは、妾からの贈り物を堪能してもらおうか。こちらも、とっておきを披露させてもらおう」
ナアマが歌い始めると、うねりだした冷気の主根へと広範囲の雨粒が吸い寄せられていく。それを中心にして、巨大なスノーラすべてが円を描くように離れていった。
小さめのスノーラは、自らを犠牲にしてどちらにもアーリア側を近寄らせない。
「この敵の配置……! 範囲攻撃に備えよ!」
アーリアが指示をだした刹那、辺りは非常に濃い霧に包まれる。それは強烈な冷気を放ち、長期保存用の冷凍室内のような状況を作りだす。
さらに二、三mまで近づかないと、対峙する相手が視認できないほどの目隠し状況。同士討ちをしないよう、ハンター達は慎重に敵を倒しながら、アーリアの傍らへと集まった。
「アーリアを拉致するつもりなら、絶好の機会なの」
「まさにその通りですね。きっと、そのための策でしょう」
ディーナとミオレスカがアーリアを挟む立ち位置で、周囲を警戒する。
痛さを感じるような冷気が身体へと染みこんでいく。防寒準備を整えてきても、歯の根が合わない兵士もいた。
無差別の巨大なスノーラによる範囲攻撃が始まると思われたが、まさかの休戦状態となった。そこら中で鳴り響く、甲高い連続音。それが途絶えたときに真夜中の霧が晴れていく。
「あれは……、輝いているのか?」
レイアが天を見上げて呟いた。
いつの間にか巨大な円形空間の内部にいるようで、頭上には無数の梁が渡されている。それらがぼんやりと輝いていて、それなりに視界は確保できていた。
「俺達は巨大な建築物の内部にいるようだ。氷によってわずかな間に建てられた。そんな辺りだろうな」
ひりょの推測に流宇が頷いた。「ナアマの氷の城なのでは?」と自らの考えを述べながら。
「ものは試しに、じゃん」
ゾファルが近場にあった柱に拳を叩きつける。壊すというよりも、当たった部分だけが抉れていた。単に触ると固く、攻撃を仕掛けると脆くなる。妙な性質を兼ね備えているようである。
「影響が他の部分に伝わりにくいなら、全体を壊すのに苦労しそうですね」
「まったくだ。だが、ようはナアマを倒してしまえばいい。俺はそう考えている」
多由羅と南護炎に、アーリアがその通りだと答えた。そのとき、ナアマの笑い声が反響して空間を支配する。「この氷の檻で、歓迎してあげるようぞ。アーリアよ」と。
●
「なんだか凝った恰好をしたスノーラがいるじゃん」
あきれ顔のゾファルがいうように、それまで雪だるま型が多かったスノーラが、鎧を纏った騎士のように変化していた。
先に戦いだした騎士の一人が、スノーラの剣撃を受けとめて弾きとばされる。
「みんな油断するな! 姿の変化だけでなく、この内側では歪虚側の能力がいくらか向上するみたいだ!」
ひりょは叫んで、さらに無線でも自身の考えを伝えた。
「なるほどな。その通りのようだが、しかし!」
南護炎は一体のスノーラを砕き、多量の氷の粒が床に散乱。その上で瘴気へと還元していく。
「この素速さに力強さ。……二から三倍ぐらいか?」
レイアもスノーラ数体を倒して、跳ね上がった敵の強さを自ら計った。
「巨大なスノーラが氷の城の一部になった代わりに、厄介なのも増えています。頭上には蜂や鳥型が飛んでいますし」
ミオレスカが武器を大火弓に持ち替えて、矢を射った。命中した鳥型のスノーラが錐もみしながら墜落していく。
「よいしょっと。ちょっと、いってくるの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は魔箒に跨がって、適当な梁の上部へ。そうするとセイクリッドフラッシュを浴びせるのに丁度よい。迫ってきた飛行型のスノーラを、まとめて屠る。
「皆様、敵の手中のようですが、わたくしはそうではないと考えています。ナアマはこのようにせざるを得なかったんです。ですから追い詰められているのは、敵の方です。頑張ってください」
流宇がヒーリングスフィアで祈りを捧げたことによって、柔らかい輝きが広がった。傷ついた味方が癒やされていく。
戦闘こそ行われていたが、緩慢な空気が漂いだす。寒さがわずかながら、和らいだことで。
「そこです!」
多由羅が斬魔刀で斬りつけた柱の裏側には、ナアマは潜んでいた。寒さの低減は、気の緩みを狙った策だったようである。
「よくわかったのう。気づかねばアーリアを攫えたところを。まあ、よい。まだまだ時間はある……」
ナアマが高笑いをしながら、梁の隙間を縫うように上昇していった。わずかな間に寒さがぶり返す。
「スノーラは私達に任せてくれ。ナアマの討伐、頼めるだろうか?」
アーリアを含む騎士や兵達は、地上付近での戦いを担当。ハンター達は梁の頭上にいるナアマを狙うこととなった。
「任せておけ!」
グラヴィティブーツを履いていたレイアは、壁歩きであっと言う間に梁の高い位置へと駆けあがる。そして雲霞の如くの飛行型スノーラの真っ只中へ。迸るパワー。二刀の斬撃で倒しつつ、追撃でのアスラトゥーリのオーラ衝撃を放つ。
(これは使えるかも知れないな……)
スノーラもまとめて屠ったが、オーラの衝撃は氷のような梁もくり抜いた。人一人が通れるほどのトンネル状の穴が空いていた。
「少しは手応えのありそうじゃん! オラオラッ!」
ゾファルが羽音が耳を劈く蜂スノーラの群れへと挑んだ。
両の拳に体重を乗せつつ、ひたすらに坂道のような梁の上を突き進んだ。無数の氷粒を周囲へとまき散らしながら。
のぼるにつれて冷気が強まったが、ドラグーンマントのおかげで者ともしない。取り巻く蜂スノーラを一気に粉砕。輝きと共に塵と化した。
「絶対に倒す! 俺を行く手を遮るな!!」
モモンガのようなスノーラに包まれてしまった南護炎だが、一之太刀から始まる連撃によって綻びを生じさせる。続いての全力の突きによって、闇の最中に光が届く。
檻と化した包みを破って這いだす。待っていたかのように、左右から迫る別のモモンガスノーラ二体。今度は掴まることなく、立て続けに斬り裂いた。
(そこにいましたか。様子からして、やはりアーリアさんを狙っているようですね)
前衛が突き進む最中、ミオレスカはひたすらにナアマの姿を探し、そして見つけだしていた。天井に近い梁二本の隙間から見下ろしている恰好だ。その眼は戦闘中のアーリアを捉えていると思われた。
(まるで上空から獲物を狙う鷹のようです)
ギリギリの射程で矢は届きそうだが、まだ攻撃するタイミングではないと判断。もう少し仲間達が天井へ近づいてから、ミオレスカは事を起こそうと考えた。
(魔箒は温存。まだ、ナアマを逃がしてしまうかも知れないタイミングなの)
セイクリッドフラッシュで輝くディーナ。体当たり攻撃を仕掛けてきた鷲型のスノーラ三体を墜落させてから、次のナマケモノに似たスノーラと対峙した。鋭い爪が厄介な敵だが、動きが鈍い。何度か輝いているうちに、数体を倒しきる。
ミオレスカからの連絡によれば、今のところナアマは余裕綽々の態度でいる模様。ディーナはその傲慢を突き崩すために、今はひたすらに我慢を重ねた。
「蛇、いや、大蛇ですか」
多由羅は迫る鋭い牙を避けて、隣の梁へと飛び移った。大蛇スノーラの牙から垂れると、毒液によって梁の一部が溶けている。
梁の構造からして、大蛇スノーラのほうが確実に地の利を得ていた。梁に絡むことで自由自在に動き回れるトリッキーさに、多由羅は翻弄されている。大蛇スノーラは厄介な敵といえた。
やがて好機が訪れる。周囲に味方がいない状況になった。
「ここですね」
多由羅は次元斬を繰りだして、その刃は大蛇スノーラをなますに。三つに胴斬りされた屍が、梁を壊しながら落ちていく。
「先に行って下さい! どうかご武運を!!」
多由羅は先手必勝を使って、仲間達を送りだす。
「待って、お兄様!」
流宇の声かけで、ひりょは次の梁に飛び移ったところで進みを止める。頬に痛みが走って気づく。いつの間にか血が顎まで流れていた。
「なんだこれは……、鋭い刃? いや糸、蜘蛛の巣のか!」
梁の隙間に張られていた蜘蛛の糸は、薄暗さも手伝ってとても見にくい。そしてわずかに触れただけで斬れてしまうほどの鋭利な刃物だ。ひりょは即座に仲間達へと連絡した。「ナアマに近づくためには蜘蛛スノーラと、巣ごと糸の排除が不可欠だ」と。
●
「何という見づらさだ!」
「邪魔だっ!」
レイアの魔力を宿した刃が、巣を支えている梁近くの太い糸を切断。南護炎の一之太刀、終之太刀によって蜘蛛の巣まるごとが吹き飛んだ。これによって、ナアマを取り囲むように張られていた罠である蜘蛛の巣に綻びが生じる。
「広げるのは、私に任せるの!」
その綻びの中央にディーナは入り込み、自らをセイクリッドフラッシュで輝かせた。そうすることで、蜘蛛の巣が光によって溶けていった。綻びの穴は大きく広がって、突撃がしやすくなる。
「ナアマの門番役、ご苦労じゃんよ。でも、俺様の勢いを止められるはずがないじゃんか!」
ゾファルの拳が呻りをあげて、一体の蜘蛛スノーラをどっぱらをぶち抜いた。拳の衝撃はそれだけに留まらず、頭上遠方のナアマまで届く。温存していた天満覆滅「真如来掌・入滅」が、ここで火を噴いたのである。
「こしゃくな真似をしても、逃がしません」
ミオレスカはナアマの動きを読んで、逃げようとする先に威嚇射撃をした。適度にナアマへと命中させて、敵意をミオレスカ自身へと向けさせた。少しでも逃げられるのを防ぐために。
仲間が防いでくれている間、コンバージェンスでじっくりとナアマを見定める。
「邪魔です」
ミオレスカは蜘蛛スノーラごと、サジタリウスでナアマを貫こうとした。すんでのところでナアマには避けられたものの、蜘蛛スノーラ二体には命中。他にも飛行型のスノーラを何体か。そして氷の城の天井に、ぽっかりと穴が開いた。
凄まじい冷気の氷の城に、わずかながらも雨と風が吹き荒ぶようになる。これにより、冷気が少々和らいだ。
「アーリアから最初に依頼を受けた時から色々な戦いがあった。だが、ここできっちりカタをつけてみせる!」
ひりょはガウスジェイルによって、蜘蛛スノーラの糸吐き攻撃を一手に引き受けた。その隙を狙って仲間達がそれらを倒していく。
「無理はなさらずに。心配する皆様がいるのです」
流宇は蜘蛛スノーラへの攻撃の合間に、ひりょへとヒールをかける。
「まさか蜘蛛の巣が張っていたとは。ここから上には誰も近づけさせません」
梁を登ってきた多由羅が、仲間達に合図を送った。あらためて先手必勝を使って、仲間達を送りだした。
「ナアマ、覚悟するの!」
魔箒に跨がったディーナはふわりと浮かんで、天井目指して一気に急上昇。
「邪魔立てするでない! それに、妾を軽々しく呼ぶとは言語道断! 不敬と知れ!」
ナアマとの距離を測りつつ、セイクリッドフラッシュの聖なる輝きを浴びせかけた。ナアマの身体から散っていく瘴気。一撃離脱を繰り返して翻弄することで、確実に、少しずつナアマを消耗させていく。
「これでも喰らえ! アルティメット、レイアボム!」
レイアも垂直の柱を駆けあがって、ナアマにグラヴィティブーツのキックを喰らわす。背中側の脇へとめり込んで、ナアマの身体がくの字に曲がる。
「うおおぉ!」
ナアマが全身から放った無数の氷柱をものともせずに、南護炎が前進。鮮血の氷柱を肌から垂らしながらも、ナアマに一太刀浴びせかけた。苦悶の表情を浮かべたナアマと一瞬目が合って、刹那、間合いを取られる。
「もう一丁、じゃん!」
ゾファルの如来掌・入滅の二発目が、ナアマの臀部に命中。ナアマは巨大な氷柱へと弾かれて衝突。天井にはさらに伸びた如来掌・入滅によって、もう一つの穴が空く。
立て続けにゾファルは、試作型対騎砲「馬痛火」を撃つ準備を整えた。仲間達の奮闘のおかげで、ナアマは隙だらけだ。凄まじい砲撃音が氷の城に反響した。砕けた多量の天井の氷がバラバラと雹のように降り注いだ。
姿勢を崩し、足を滑らせて落ちてきたナアマに、馬痛火を投げつける。ナアマがそれを払う隙を狙って、ゾファルは跳んで迫った。背中の羽根をむしり取ろうとしたものの、掴んで引きちぎれたのはわずかだけ。「しまったじゃん」それでも左右のバランスが崩れたようで、ナアマの飛び方が不安定になった。
「よし、ここなら」
ミオレスカはひたすらに梁を梯子代わりして柱を登り、井が触れるところまで到達。天井に開いた複数の穴の中央付近で、大火弓の弦を引く。
射撃は高所が非常に有利だ。そして特別な仕掛けがない限り、天井の穴こそが野外へでることができる最短距離の避難口のはずである。「ここは絶対に通しません」と呟いて、ミオレスカは矢を射った。
ひりょはリボルバー「ピースメイカー」で、仲間達が動けるよう援護射撃をしていた。そしてナアマが想定通りの位置へと入ったときに、梁の上から飛び降りる。
(この冷気……、耐えろ、耐えなければ、勝利はない!)
落下しながら手にした試作怨讐刀「FAITH-KILLソウル」。ひりょは守りの構えで防御を固めつつ、背後からソウルエッジのマテリアルを纏わせた刃を振るう。
ナアマによる氷の結晶状の盾が空中に浮かびあがって、ひりょの攻撃が防がれた。しかしさらなる追撃でナアマとの距離を縮める。
「俺の全力の一撃、受けてみろ!」
ひりょが放ったリバースエッジによる、オーラに満ちた連撃が決まり、ナアマが嗚咽を吐いた。
「ここで決着をつけよう! 我が刃の錆になれ!!」
レイアは二刀流の刃で、ナアマの翼を細かく刻んでいく。さらにアスラトゥーリによる斬撃で右翼へと大穴を開けた。
「貴様!」
怒り狂うナアマは漆黒の全球を膨れさせていく。弾けた瞬間、闇の刃が四方八方に飛び散って、ハンター達を傷つけた。さらに、もう一撃が放たれる。
「大丈夫ですか?」
流宇がフルリカバリーで、状況を立て直す。ディーナはリザレクションで、間近で攻撃を受けていたひりょの酷い傷を癒やした。
さらに流宇はヒーリングスフィアの柔らかい光の癒やしで、強烈なナアマの攻撃で傷ついていく仲間達を助ける。
「しつこいぞ、お前等! このままではアーリアに取り憑くことさえできぬではないか!」
ナアマが上へと逃げようとしたとき、梁から飛び移ったゾファルが彼女の肩に降りる。「捕まえたじゃん」そう呟いて、両の拳を両翼の根元へと叩きつけた。
声にならない悲鳴をあげるナアマ。
そして上空から放たれたミオレスカの銃弾が、ナアマの首へと命中。まるで血飛沫のように瘴気が辺りに吹きだす。
「とっておきです」
ミオレスカの放ったサジタリウスが、まるでナアマへの神罰の雷のように突き刺さった。
「妾を、舐めるで、ないぞ……! ……こうなれば、アーリアもろとも」
ナアマがボロボロの両翼を畳んで急降下。しかしそれを多由羅が見逃さない。
「このまま落ちたら誰かに当たるかも知れませんし、お返ししますね」
多由羅の次元斬を避けるために、ナアマが翼を広げて急停止を試みる。
「年貢の納め時だぜ!」
この瞬間、飛び降りの南護炎によるソウルエッジが纏った聖罰刃が、ナアマの腹部に深く突き刺さる。
虚ろな目で辺りを見回しながら逃げとするナアマの胸部を、さらに二刀の刃が切り裂いた。「私はここだ」柱の裏側から粉砕する形で、レイアが放った二刀流とアスラトゥーリである。
「ここから先は通せんぼなの!」
ディーナはセイクリッドフラッシュの輝きで、ナアマが逃げようとする先を遮った。
「今度は全部じゃんよ!」
追いついたゾファルの拳が、ナアマの左翼を粉砕。さらに右翼も根元から千切り取る。
「俺の全力の一撃、受けてみろ!」
ひりょによるリバースエッジの連撃が、ナアマの背後へと決まった。
ナアマは真っ直ぐには立っていられずに、梁の上へとしゃがみ込んだ。まるで謝罪のために頭を垂れたかのように。
「妾は…………アスタ、ロトよ……」
そして粉々に崩れていく。ナアマは氷の粒のような瘴気となって、辺りに散っていった。
●
ナアマの消滅に合わせて、すべてのスノーラが溶けてなくなる。
「大変な人を教えて欲しいの」
「皆様、大丈夫ですか?」
床へと降りたディーナと多由羅は、兵士や騎士達の治療を行った。自分達も傷ついていたが、命に別状はない。それよりも優先すべき助けたい人々がいる。
地響きのようなものが聞こえているので緊急治療だけを済ませて、氷の城からの脱出を優先することに。ハンター達が温存していた攻撃方法で、外へと繋がる大穴が開けられた。
野外へでると暴風は弱まっていて、雨も小降りになっていた。零度以下の城内に長くいたので、本来は寒いはずなのに、信じられないほど暖かく感じられる。
「おめでとう、アーリア」
「ありがとう、きっとこれで、平和が訪れるだろう。ようやくだ……」
ディーナの言葉に、疲れていたアーリアは笑顔を浮かべていた。
「やっと終わったか……」
「今後はきっと、戦災の回復のために、アーリアさんもミリアさんも、動けるようになるでしょう」
南護炎は足元をふらつかせたミオレスカに肩を貸した。
「よかったな。これで、この領地を狙う歪虚はいなくなったのではないか?」
「本当に……。ここまで長かった」
レイアの言葉に、ひりょは考え深げな表情を浮かべる。
「お兄様、緊急の治療が間に合いました。ほっとしています」
「それはよかった。もうこれ以上、命は失いたくはないからな。そして皆で帰るんだ」
ひりょは流宇を労う。
「面白かったけど、疲れたじゃんよ~。それに腹が減ったし」
「ちょっと待っていて下さい。襲来のとき、鍋ごと料理を隠したので……、ありました。無事ですね。すぐに焚き火を用意しましょう」
ゾファルと多由羅は、洞窟に戻って焚き火を熾した。冷え切った身体にとって、焚き火のぬくもりは何よりも代え難い。そして鍋は身体を真から温めてくれる。
「食べます? 美味しいですよ」
「お腹いっぱいは幸せなの」
ミオレスカとディーナに勧められて、アーリアも椀に注がれたシチューを頂く。そのぬくもりは、生きていることを実感させてくれた。
アーリアと一緒に、ハンター達は焚き火を囲う。
「妙な話だが、これを頂いて戦いが終わったことを実感したよ。食べ物はかけがえのないものだ。一連の騒動は、それを再確認させてくれた。領主として、民が飢えることのない未来を築かねばな……」
アーリアの脳裏から、すでにナアマへの憤慨が薄れている。これからやるべきことこそ、領主の本懐だと感じていた。
強風によって、雨粒は打ちつける鞭先のように荒れ狂う。たくさんの薪がくべられた焚き火が消えそうなほどの強風が、洞窟内にも吹き荒ぶ。
風よけとして馬車を並べても寒さが募る。夜半故に急激に気温が落ちても不思議ではなかった。しかし歯の根が合わないほどの寒さは、今の季節では稀だ。自然の偶然を想像するよりも確かなのは、冷気の根とスノーラの存在。誰もがその首謀者たる何者かを、脳裏に真冬を想像させるほどの冷気が漂っていた。
「臨戦態勢!」
アーリアが大声を張りあげて指示をだす。状況を確かめるために、斥候が乗った馬が洞窟外へと飛びだしていった。
わずかな間に洞窟内は慌ただしくなる。
「あらためてのご挨拶を。ナアマとの決戦と聞き、参戦しました。絶対に守りますから安心してください」
「期待している。この冷気はただごとではないな。あなたがいうとおり、ナアマの仕業で間違いないだろう」
多由羅(ka6167)はアーリアの真剣な眼差しから、決死の覚悟を読み取っていた。
「ナアマが空中戦で仕掛けてきたら、避けられないし、メイスも当たらないの。でも私の法術なら、接近さえできれば当たるはずなの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)が懸案としていたのは、ナアマが飛べることだ。
「ナアマにとって、この豪雨と暴風は羽をもがれたようなもの。飛ぶとしても、大した高度はとれないだろう」
歪虚といえども、この暴風雨の中を自由自在には飛べないはず。果たしておびき寄せが功を奏すのかはまだわからないが、アーリアはそこに勝機を見いだしていた。
(この洞窟にいて、いいものか。外に出るべきか。……アーリアさんは決死の覚悟です。それを絶対に無駄にできませんね)
ミオレスカ(ka3496)は魔導銃を握りしめながら、野外を覗くように確かめる。ある一瞬を境にして、様子が一変。雨粒が凍り、みぞれ混じりの雪のように変化していた。
「急激な冷え込みは、冷気の根のせいか。隠れている位置さえわかれば……ん、あれは何だ!? 闇の中で薄らと輝いている」
氷粒が叩きつける状況でも構わず、レイア・アローネ(ka4082)は洞窟の外へと飛びだして遠くを望んだ。
「太い冷気の根が一本……それに巨大なスノーラが三、いや四体か? 小さいのもいそうだが、ここからではよくわからないか」
南護 炎(ka6651)も野外に出て視認。闇に目をこらして、ようやく輪郭だけが覗える。これまで対峙してきた者だからこそ、その正体がわかった。
「パン!」と、拳で掌を打ちつけた音が響く。「こうでなくちゃ」と呟いたのは、ゾファル・G・初火(ka4407)だ。「ばあちゃんに無理言って譲ってもらったぜ。待っていろよ、ナアマ」彼女は今すぐにも戦いたくて、うずうずしている。
全体の状況を見守っていたのは、鳳凰院の兄妹だ。アーリアの出方は元より、ナアマ側がどう仕掛けてくるか。先手を打てるのかが勝負の鍵になりそうだと兄妹で話す。
(お兄様にも添い遂げる方が出来たのです、ここで死なせるわけにはまいりません。もちろん他の皆様も、です)
鳳凰院 流宇(ka1922)は鳳凰院ひりょ(ka3744)の背中に視線を注ぐ。「よしっ!」胸元に拳をあげて、頑張ろうと気合いを入れた。
(カミネテの話が本当なら、ナアマはアーリアに執着心があるようだ。生かして捕えるつもりなのだろうか? それとも俺達を目の前で倒し、絶望感を感じさせたうえで……、とかのつもりだろうか?)
振り返ったひりょは「アーリアをここで死なせるわけにはいかない。無論俺達自身も、全員で生きて帰る」と流宇に語りかける。
洞窟内の馬車が転倒するほどの、強風が吹きこんできた。直後、地響きが鳴り響く。突如として現れる巨大な足首。巨大なスノーラが次々と大きく跳躍して、洞窟の周辺に現れたのだった。
●
アーリアが率いるハンターや騎士、そして兵達が一斉に洞窟から飛びだした。そして巨大なスノーラにしがみついていた小さめのスノーラが落下してきて、戦闘が始まる。
飛び交う氷柱。すべてを凍らせそうな冷気。
遠くにあったはずの冷気の根がいつの間にか消えていた。しばらくして大地が盛りあがり、冷気の主根が天へと伸びるように現れる。
その強烈な冷気によって、雨粒の氷結具合がより強まった。一瞬のうちに凍りついて鋭利な霰と化し、敵味方構わずに傷つけていく。
「狼狽えるな! 体制を整えよ!」
アーリアの檄が飛んだ。
戦いは出方をみることはなく、いきなりの混戦へと突入する。
(どこにいるのですか? ナアマは)
ミオレスカは銃口で敵を撃ち抜きながら、アーリアの様子を確認。さらにナアマの影を探した。
「どこだ? ナアマ! 近くで見ているのだろう?」
レイアが次の敵へと戦う合間に、大声で叫んだ。歪虚の首魁ナアマは必ずここにいると、確信に近い信念を持ちながら。
「これが最後の戦いになるだろう。全力を尽くすぜ!」
南護炎は小型のスノーラをまとめて終之太刀の〆で切り裂いた。集団で一斉に襲ってくるスノーラは厄介だったが、それでも確実に倒していく。
「でかくて攻撃してくるなら、悪決定じゃん! ナアマっていまいち何したいかわかんねーし、カネミテもそれは同様。でも、殴ってしまえば同じじゃん?」
ゾファルの拳が巨大なスノーラの足首の一部を削いだ。盛りあがって修復してしまう前に、二撃、三撃と、立て続けに攻撃を仕掛けていった。
「まずは減らすことを優先しましょう。こう、敵が多くてはやりにくいので」
多由羅は味方がいない範囲にいる小型のスノーラの一団と対峙して、次元斬で切り刻んだ。両断されたスノーラが残骸が、足元にゴロゴロと転がる。
「アーリアは大丈夫そうなの。なら私は……」
ディーナは灯火の水晶球の照明で視界を確保しつつ、セイクリッドフラッシュの聖なる輝きを冷気の主根へと浴びせかけた。近場で強まる冷気に耐えられたのは、羽織っていたドラグーンマントのおかげ。主根が悲鳴のような呻りをあげても、構わずに攻撃し続ける。
「お兄様、あの大きなスノーラの肩に、誰かが乗っています!」
流宇が指さした方角に、ひりょが目をこらす。「…………、あれはナアマだ!」目を見張ったひりょは、無線を通じて味方へとナアマ発見の報を伝えた。
「ナアマ、そんなところで高みの見物か? 降りてきたらどうだ!」
スノーラを斬り伏せたばかりのアーリアが、巨大なスノーラを仰いだ。鋭い眼光を注ぐことで、ナアマを挑発する。
「この暴風雨ではのう。妾なら余裕で飛べるのじゃが、汚れてしまうのは、ちと具合が悪い。こうして、少しは盾になるものがあったほうがいいのでな。
アーリアよ、お主は策士よのう。アスタロトによう似ておる。それでは、妾からの贈り物を堪能してもらおうか。こちらも、とっておきを披露させてもらおう」
ナアマが歌い始めると、うねりだした冷気の主根へと広範囲の雨粒が吸い寄せられていく。それを中心にして、巨大なスノーラすべてが円を描くように離れていった。
小さめのスノーラは、自らを犠牲にしてどちらにもアーリア側を近寄らせない。
「この敵の配置……! 範囲攻撃に備えよ!」
アーリアが指示をだした刹那、辺りは非常に濃い霧に包まれる。それは強烈な冷気を放ち、長期保存用の冷凍室内のような状況を作りだす。
さらに二、三mまで近づかないと、対峙する相手が視認できないほどの目隠し状況。同士討ちをしないよう、ハンター達は慎重に敵を倒しながら、アーリアの傍らへと集まった。
「アーリアを拉致するつもりなら、絶好の機会なの」
「まさにその通りですね。きっと、そのための策でしょう」
ディーナとミオレスカがアーリアを挟む立ち位置で、周囲を警戒する。
痛さを感じるような冷気が身体へと染みこんでいく。防寒準備を整えてきても、歯の根が合わない兵士もいた。
無差別の巨大なスノーラによる範囲攻撃が始まると思われたが、まさかの休戦状態となった。そこら中で鳴り響く、甲高い連続音。それが途絶えたときに真夜中の霧が晴れていく。
「あれは……、輝いているのか?」
レイアが天を見上げて呟いた。
いつの間にか巨大な円形空間の内部にいるようで、頭上には無数の梁が渡されている。それらがぼんやりと輝いていて、それなりに視界は確保できていた。
「俺達は巨大な建築物の内部にいるようだ。氷によってわずかな間に建てられた。そんな辺りだろうな」
ひりょの推測に流宇が頷いた。「ナアマの氷の城なのでは?」と自らの考えを述べながら。
「ものは試しに、じゃん」
ゾファルが近場にあった柱に拳を叩きつける。壊すというよりも、当たった部分だけが抉れていた。単に触ると固く、攻撃を仕掛けると脆くなる。妙な性質を兼ね備えているようである。
「影響が他の部分に伝わりにくいなら、全体を壊すのに苦労しそうですね」
「まったくだ。だが、ようはナアマを倒してしまえばいい。俺はそう考えている」
多由羅と南護炎に、アーリアがその通りだと答えた。そのとき、ナアマの笑い声が反響して空間を支配する。「この氷の檻で、歓迎してあげるようぞ。アーリアよ」と。
●
「なんだか凝った恰好をしたスノーラがいるじゃん」
あきれ顔のゾファルがいうように、それまで雪だるま型が多かったスノーラが、鎧を纏った騎士のように変化していた。
先に戦いだした騎士の一人が、スノーラの剣撃を受けとめて弾きとばされる。
「みんな油断するな! 姿の変化だけでなく、この内側では歪虚側の能力がいくらか向上するみたいだ!」
ひりょは叫んで、さらに無線でも自身の考えを伝えた。
「なるほどな。その通りのようだが、しかし!」
南護炎は一体のスノーラを砕き、多量の氷の粒が床に散乱。その上で瘴気へと還元していく。
「この素速さに力強さ。……二から三倍ぐらいか?」
レイアもスノーラ数体を倒して、跳ね上がった敵の強さを自ら計った。
「巨大なスノーラが氷の城の一部になった代わりに、厄介なのも増えています。頭上には蜂や鳥型が飛んでいますし」
ミオレスカが武器を大火弓に持ち替えて、矢を射った。命中した鳥型のスノーラが錐もみしながら墜落していく。
「よいしょっと。ちょっと、いってくるの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は魔箒に跨がって、適当な梁の上部へ。そうするとセイクリッドフラッシュを浴びせるのに丁度よい。迫ってきた飛行型のスノーラを、まとめて屠る。
「皆様、敵の手中のようですが、わたくしはそうではないと考えています。ナアマはこのようにせざるを得なかったんです。ですから追い詰められているのは、敵の方です。頑張ってください」
流宇がヒーリングスフィアで祈りを捧げたことによって、柔らかい輝きが広がった。傷ついた味方が癒やされていく。
戦闘こそ行われていたが、緩慢な空気が漂いだす。寒さがわずかながら、和らいだことで。
「そこです!」
多由羅が斬魔刀で斬りつけた柱の裏側には、ナアマは潜んでいた。寒さの低減は、気の緩みを狙った策だったようである。
「よくわかったのう。気づかねばアーリアを攫えたところを。まあ、よい。まだまだ時間はある……」
ナアマが高笑いをしながら、梁の隙間を縫うように上昇していった。わずかな間に寒さがぶり返す。
「スノーラは私達に任せてくれ。ナアマの討伐、頼めるだろうか?」
アーリアを含む騎士や兵達は、地上付近での戦いを担当。ハンター達は梁の頭上にいるナアマを狙うこととなった。
「任せておけ!」
グラヴィティブーツを履いていたレイアは、壁歩きであっと言う間に梁の高い位置へと駆けあがる。そして雲霞の如くの飛行型スノーラの真っ只中へ。迸るパワー。二刀の斬撃で倒しつつ、追撃でのアスラトゥーリのオーラ衝撃を放つ。
(これは使えるかも知れないな……)
スノーラもまとめて屠ったが、オーラの衝撃は氷のような梁もくり抜いた。人一人が通れるほどのトンネル状の穴が空いていた。
「少しは手応えのありそうじゃん! オラオラッ!」
ゾファルが羽音が耳を劈く蜂スノーラの群れへと挑んだ。
両の拳に体重を乗せつつ、ひたすらに坂道のような梁の上を突き進んだ。無数の氷粒を周囲へとまき散らしながら。
のぼるにつれて冷気が強まったが、ドラグーンマントのおかげで者ともしない。取り巻く蜂スノーラを一気に粉砕。輝きと共に塵と化した。
「絶対に倒す! 俺を行く手を遮るな!!」
モモンガのようなスノーラに包まれてしまった南護炎だが、一之太刀から始まる連撃によって綻びを生じさせる。続いての全力の突きによって、闇の最中に光が届く。
檻と化した包みを破って這いだす。待っていたかのように、左右から迫る別のモモンガスノーラ二体。今度は掴まることなく、立て続けに斬り裂いた。
(そこにいましたか。様子からして、やはりアーリアさんを狙っているようですね)
前衛が突き進む最中、ミオレスカはひたすらにナアマの姿を探し、そして見つけだしていた。天井に近い梁二本の隙間から見下ろしている恰好だ。その眼は戦闘中のアーリアを捉えていると思われた。
(まるで上空から獲物を狙う鷹のようです)
ギリギリの射程で矢は届きそうだが、まだ攻撃するタイミングではないと判断。もう少し仲間達が天井へ近づいてから、ミオレスカは事を起こそうと考えた。
(魔箒は温存。まだ、ナアマを逃がしてしまうかも知れないタイミングなの)
セイクリッドフラッシュで輝くディーナ。体当たり攻撃を仕掛けてきた鷲型のスノーラ三体を墜落させてから、次のナマケモノに似たスノーラと対峙した。鋭い爪が厄介な敵だが、動きが鈍い。何度か輝いているうちに、数体を倒しきる。
ミオレスカからの連絡によれば、今のところナアマは余裕綽々の態度でいる模様。ディーナはその傲慢を突き崩すために、今はひたすらに我慢を重ねた。
「蛇、いや、大蛇ですか」
多由羅は迫る鋭い牙を避けて、隣の梁へと飛び移った。大蛇スノーラの牙から垂れると、毒液によって梁の一部が溶けている。
梁の構造からして、大蛇スノーラのほうが確実に地の利を得ていた。梁に絡むことで自由自在に動き回れるトリッキーさに、多由羅は翻弄されている。大蛇スノーラは厄介な敵といえた。
やがて好機が訪れる。周囲に味方がいない状況になった。
「ここですね」
多由羅は次元斬を繰りだして、その刃は大蛇スノーラをなますに。三つに胴斬りされた屍が、梁を壊しながら落ちていく。
「先に行って下さい! どうかご武運を!!」
多由羅は先手必勝を使って、仲間達を送りだす。
「待って、お兄様!」
流宇の声かけで、ひりょは次の梁に飛び移ったところで進みを止める。頬に痛みが走って気づく。いつの間にか血が顎まで流れていた。
「なんだこれは……、鋭い刃? いや糸、蜘蛛の巣のか!」
梁の隙間に張られていた蜘蛛の糸は、薄暗さも手伝ってとても見にくい。そしてわずかに触れただけで斬れてしまうほどの鋭利な刃物だ。ひりょは即座に仲間達へと連絡した。「ナアマに近づくためには蜘蛛スノーラと、巣ごと糸の排除が不可欠だ」と。
●
「何という見づらさだ!」
「邪魔だっ!」
レイアの魔力を宿した刃が、巣を支えている梁近くの太い糸を切断。南護炎の一之太刀、終之太刀によって蜘蛛の巣まるごとが吹き飛んだ。これによって、ナアマを取り囲むように張られていた罠である蜘蛛の巣に綻びが生じる。
「広げるのは、私に任せるの!」
その綻びの中央にディーナは入り込み、自らをセイクリッドフラッシュで輝かせた。そうすることで、蜘蛛の巣が光によって溶けていった。綻びの穴は大きく広がって、突撃がしやすくなる。
「ナアマの門番役、ご苦労じゃんよ。でも、俺様の勢いを止められるはずがないじゃんか!」
ゾファルの拳が呻りをあげて、一体の蜘蛛スノーラをどっぱらをぶち抜いた。拳の衝撃はそれだけに留まらず、頭上遠方のナアマまで届く。温存していた天満覆滅「真如来掌・入滅」が、ここで火を噴いたのである。
「こしゃくな真似をしても、逃がしません」
ミオレスカはナアマの動きを読んで、逃げようとする先に威嚇射撃をした。適度にナアマへと命中させて、敵意をミオレスカ自身へと向けさせた。少しでも逃げられるのを防ぐために。
仲間が防いでくれている間、コンバージェンスでじっくりとナアマを見定める。
「邪魔です」
ミオレスカは蜘蛛スノーラごと、サジタリウスでナアマを貫こうとした。すんでのところでナアマには避けられたものの、蜘蛛スノーラ二体には命中。他にも飛行型のスノーラを何体か。そして氷の城の天井に、ぽっかりと穴が開いた。
凄まじい冷気の氷の城に、わずかながらも雨と風が吹き荒ぶようになる。これにより、冷気が少々和らいだ。
「アーリアから最初に依頼を受けた時から色々な戦いがあった。だが、ここできっちりカタをつけてみせる!」
ひりょはガウスジェイルによって、蜘蛛スノーラの糸吐き攻撃を一手に引き受けた。その隙を狙って仲間達がそれらを倒していく。
「無理はなさらずに。心配する皆様がいるのです」
流宇は蜘蛛スノーラへの攻撃の合間に、ひりょへとヒールをかける。
「まさか蜘蛛の巣が張っていたとは。ここから上には誰も近づけさせません」
梁を登ってきた多由羅が、仲間達に合図を送った。あらためて先手必勝を使って、仲間達を送りだした。
「ナアマ、覚悟するの!」
魔箒に跨がったディーナはふわりと浮かんで、天井目指して一気に急上昇。
「邪魔立てするでない! それに、妾を軽々しく呼ぶとは言語道断! 不敬と知れ!」
ナアマとの距離を測りつつ、セイクリッドフラッシュの聖なる輝きを浴びせかけた。ナアマの身体から散っていく瘴気。一撃離脱を繰り返して翻弄することで、確実に、少しずつナアマを消耗させていく。
「これでも喰らえ! アルティメット、レイアボム!」
レイアも垂直の柱を駆けあがって、ナアマにグラヴィティブーツのキックを喰らわす。背中側の脇へとめり込んで、ナアマの身体がくの字に曲がる。
「うおおぉ!」
ナアマが全身から放った無数の氷柱をものともせずに、南護炎が前進。鮮血の氷柱を肌から垂らしながらも、ナアマに一太刀浴びせかけた。苦悶の表情を浮かべたナアマと一瞬目が合って、刹那、間合いを取られる。
「もう一丁、じゃん!」
ゾファルの如来掌・入滅の二発目が、ナアマの臀部に命中。ナアマは巨大な氷柱へと弾かれて衝突。天井にはさらに伸びた如来掌・入滅によって、もう一つの穴が空く。
立て続けにゾファルは、試作型対騎砲「馬痛火」を撃つ準備を整えた。仲間達の奮闘のおかげで、ナアマは隙だらけだ。凄まじい砲撃音が氷の城に反響した。砕けた多量の天井の氷がバラバラと雹のように降り注いだ。
姿勢を崩し、足を滑らせて落ちてきたナアマに、馬痛火を投げつける。ナアマがそれを払う隙を狙って、ゾファルは跳んで迫った。背中の羽根をむしり取ろうとしたものの、掴んで引きちぎれたのはわずかだけ。「しまったじゃん」それでも左右のバランスが崩れたようで、ナアマの飛び方が不安定になった。
「よし、ここなら」
ミオレスカはひたすらに梁を梯子代わりして柱を登り、井が触れるところまで到達。天井に開いた複数の穴の中央付近で、大火弓の弦を引く。
射撃は高所が非常に有利だ。そして特別な仕掛けがない限り、天井の穴こそが野外へでることができる最短距離の避難口のはずである。「ここは絶対に通しません」と呟いて、ミオレスカは矢を射った。
ひりょはリボルバー「ピースメイカー」で、仲間達が動けるよう援護射撃をしていた。そしてナアマが想定通りの位置へと入ったときに、梁の上から飛び降りる。
(この冷気……、耐えろ、耐えなければ、勝利はない!)
落下しながら手にした試作怨讐刀「FAITH-KILLソウル」。ひりょは守りの構えで防御を固めつつ、背後からソウルエッジのマテリアルを纏わせた刃を振るう。
ナアマによる氷の結晶状の盾が空中に浮かびあがって、ひりょの攻撃が防がれた。しかしさらなる追撃でナアマとの距離を縮める。
「俺の全力の一撃、受けてみろ!」
ひりょが放ったリバースエッジによる、オーラに満ちた連撃が決まり、ナアマが嗚咽を吐いた。
「ここで決着をつけよう! 我が刃の錆になれ!!」
レイアは二刀流の刃で、ナアマの翼を細かく刻んでいく。さらにアスラトゥーリによる斬撃で右翼へと大穴を開けた。
「貴様!」
怒り狂うナアマは漆黒の全球を膨れさせていく。弾けた瞬間、闇の刃が四方八方に飛び散って、ハンター達を傷つけた。さらに、もう一撃が放たれる。
「大丈夫ですか?」
流宇がフルリカバリーで、状況を立て直す。ディーナはリザレクションで、間近で攻撃を受けていたひりょの酷い傷を癒やした。
さらに流宇はヒーリングスフィアの柔らかい光の癒やしで、強烈なナアマの攻撃で傷ついていく仲間達を助ける。
「しつこいぞ、お前等! このままではアーリアに取り憑くことさえできぬではないか!」
ナアマが上へと逃げようとしたとき、梁から飛び移ったゾファルが彼女の肩に降りる。「捕まえたじゃん」そう呟いて、両の拳を両翼の根元へと叩きつけた。
声にならない悲鳴をあげるナアマ。
そして上空から放たれたミオレスカの銃弾が、ナアマの首へと命中。まるで血飛沫のように瘴気が辺りに吹きだす。
「とっておきです」
ミオレスカの放ったサジタリウスが、まるでナアマへの神罰の雷のように突き刺さった。
「妾を、舐めるで、ないぞ……! ……こうなれば、アーリアもろとも」
ナアマがボロボロの両翼を畳んで急降下。しかしそれを多由羅が見逃さない。
「このまま落ちたら誰かに当たるかも知れませんし、お返ししますね」
多由羅の次元斬を避けるために、ナアマが翼を広げて急停止を試みる。
「年貢の納め時だぜ!」
この瞬間、飛び降りの南護炎によるソウルエッジが纏った聖罰刃が、ナアマの腹部に深く突き刺さる。
虚ろな目で辺りを見回しながら逃げとするナアマの胸部を、さらに二刀の刃が切り裂いた。「私はここだ」柱の裏側から粉砕する形で、レイアが放った二刀流とアスラトゥーリである。
「ここから先は通せんぼなの!」
ディーナはセイクリッドフラッシュの輝きで、ナアマが逃げようとする先を遮った。
「今度は全部じゃんよ!」
追いついたゾファルの拳が、ナアマの左翼を粉砕。さらに右翼も根元から千切り取る。
「俺の全力の一撃、受けてみろ!」
ひりょによるリバースエッジの連撃が、ナアマの背後へと決まった。
ナアマは真っ直ぐには立っていられずに、梁の上へとしゃがみ込んだ。まるで謝罪のために頭を垂れたかのように。
「妾は…………アスタ、ロトよ……」
そして粉々に崩れていく。ナアマは氷の粒のような瘴気となって、辺りに散っていった。
●
ナアマの消滅に合わせて、すべてのスノーラが溶けてなくなる。
「大変な人を教えて欲しいの」
「皆様、大丈夫ですか?」
床へと降りたディーナと多由羅は、兵士や騎士達の治療を行った。自分達も傷ついていたが、命に別状はない。それよりも優先すべき助けたい人々がいる。
地響きのようなものが聞こえているので緊急治療だけを済ませて、氷の城からの脱出を優先することに。ハンター達が温存していた攻撃方法で、外へと繋がる大穴が開けられた。
野外へでると暴風は弱まっていて、雨も小降りになっていた。零度以下の城内に長くいたので、本来は寒いはずなのに、信じられないほど暖かく感じられる。
「おめでとう、アーリア」
「ありがとう、きっとこれで、平和が訪れるだろう。ようやくだ……」
ディーナの言葉に、疲れていたアーリアは笑顔を浮かべていた。
「やっと終わったか……」
「今後はきっと、戦災の回復のために、アーリアさんもミリアさんも、動けるようになるでしょう」
南護炎は足元をふらつかせたミオレスカに肩を貸した。
「よかったな。これで、この領地を狙う歪虚はいなくなったのではないか?」
「本当に……。ここまで長かった」
レイアの言葉に、ひりょは考え深げな表情を浮かべる。
「お兄様、緊急の治療が間に合いました。ほっとしています」
「それはよかった。もうこれ以上、命は失いたくはないからな。そして皆で帰るんだ」
ひりょは流宇を労う。
「面白かったけど、疲れたじゃんよ~。それに腹が減ったし」
「ちょっと待っていて下さい。襲来のとき、鍋ごと料理を隠したので……、ありました。無事ですね。すぐに焚き火を用意しましょう」
ゾファルと多由羅は、洞窟に戻って焚き火を熾した。冷え切った身体にとって、焚き火のぬくもりは何よりも代え難い。そして鍋は身体を真から温めてくれる。
「食べます? 美味しいですよ」
「お腹いっぱいは幸せなの」
ミオレスカとディーナに勧められて、アーリアも椀に注がれたシチューを頂く。そのぬくもりは、生きていることを実感させてくれた。
アーリアと一緒に、ハンター達は焚き火を囲う。
「妙な話だが、これを頂いて戦いが終わったことを実感したよ。食べ物はかけがえのないものだ。一連の騒動は、それを再確認させてくれた。領主として、民が飢えることのない未来を築かねばな……」
アーリアの脳裏から、すでにナアマへの憤慨が薄れている。これからやるべきことこそ、領主の本懐だと感じていた。
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![]() |
最終決戦 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/09/30 18:46:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
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