ahnlich

マスター:石田まきば

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~4人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/10/01 19:00
完成日
2019/10/03 10:05

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●APV

「なんだか久しぶりの気がしますね!」
 帝国の意見聴衆会も一段落を見せており、ここリゼリオにあるハンターオフィス、APVでも平穏な時間が訪れていた。
「ああ、そう言えば君達は仕事だったんだっけ……」
 フクカンの声に答えるのはシャイネ、二人で一緒にお茶休憩のタイミングなのであった。
「そうなんです、流石に帝都のオフィスメンバーだけでは通常業務と並行して回せません。お手伝いの職員を出張って形で貸したので、こちらも最低限の人手で回してたんですよ」
「なるほどね。手伝いに来れなくて悪かったね?」
「いえいえ、シャイネさんもお忙しかったんでしょう?」
 ハンターさんに頼むときは、それこそ依頼にしちゃいますからね! なんてにこにこ笑うフクカンに、珍しく頬をかく吟遊詩人。
「忙しかった……って、言うのかな?」
「? お仕事だったのでは?」
「うーん……確かにアルバイトに行ったし、そのあとも、ある意味では仕事……」
「???」
「ああ、ええとね。ピースホライズンで結婚式に参加していたんだよ?」
「えぇっ!? シャイネさん、何時の間にお付き合いされてたんですかっ!?」
「えっ?」
「えっ?」
「……フクカン君、僕に浮いた話があったとでも?」
「いえ、聞いたことはありませんね!」
「じゃあ、なんでそんな勘違いを」
「えっ? だって結婚式って。ならエルフハイムの方で良い方がいらっしゃったのかと思いました!」
「……いや、僕の相手は……じゃなくて。僕の上司君が結婚式の新郎だから、その手伝いだよ」
「ああ、大長老さんですか! 結婚式、する暇あったんですね……」
 しみじみと呟くフクカンにシャイネもくすりと笑う。
「まあ、それはね。むしろ相手の存在を知ったら、それこそ年配のお歴々が早くしろとか言って休みをね」
「大変なんですねぇ、どこも」
「君ほどじゃないと思うけど? まあ、上司君はちょっと肩書とか、別格だからねえ」
「はー……分相応が一番ですね!」
「……」
「シャイネさん?」
「いや。君は結婚しないの?」
「っ!?!?!?」
「聞いたよ? 誕生日の時にケー……」
「わーわーわーわーわー!」
「なんだい、照れなくたって」
「いいんですー! 私は、今のままが、いいんですー!」
「……まあ、そういうことに、し」
「そういうシャイネさんこそ! さっきも誤魔化そうとしましたけど、私はわかってるんですよ! 確かにその子は愛しの君で相棒かも知れませんけど、ポーズも兼ねてるって!」
 愛用の魔導デバイス型の弓を示しつつもまくしたてるフクカン。
「……………」
「ひっ!?」
 終始穏やかで爽やかな微笑みを湛えている吟遊詩人の顔から、表情が抜け落ちた。フクカンの身がびくっと震える。
「……………フクカン君」
「はいっ!」
「何で、それを今言うのか、聞いてもいいかなあ?」
 ここはAPVである。別に二人きりというわけではなく、周囲は普通にハンター達が思い思いに過ごしているのである。
 つまり、守秘義務なんてものはまったくなくて、聞こうと思えば会話なんて聞き放題で。さっきのフクカンの声はそれこそAPVに響いたのである。
「ね、聞かせてくれるかな?」
「……っ、それは」
 すーはー、深呼吸。とにかく心を落ち着けて。ここまできて、気圧される訳にはいかないのだ!
 なんだか周囲のハンターも応援してくれている気がするし! 多分!
「シャイネさん、自分がそういう空気になるの徹底的に避けてるの、知ってましたよ。でもそれってエルフハイムのこととかあったからですよね?」
 恭順派とか維新派とか、実の兄のこととか。そういうのはあえて言葉にはしないが伝わっているはずだ。
「今は、エルフハイムのお仕事にも、ハンターとしてだけじゃなくて、エルフハイムの所属って立場で参加してますよね」
 口ではまだハンターだって名乗ってますけど。そう、シャイネはオフィスを通した仕事をあまりしなくなっていた。
「……私だって長年ここで職員やってるんですよ、色んなヒトを見てきてます。……シャイネさん、もう、いいんじゃないですか!」
 ついでに私のことは放っておいてほしいのです! なんて願望が大きくなって、勢いにまかせて言ってみた。
(やりました、ついに言えましたよ!)
 フクカンの脳内では今、天使達が祝福のラッパでマーチングバンドリサイタルが行われている。
「……そう、なのかな?」
 ぽつり。シャイネの声がおちた。

 エルフハイムは変わっている。多分、シャイネが望んだ方向に。
 立場を装う必要はなくなっていたのは事実で、上司はむしろ外部との交流を推奨している。そういう自分はちゃっかり故郷を同じ相手を見つけているくせに、だ。
 ふらふらするのは楽しいし、それを続けていくのが当たり前だと思っていたけれど。
 ずっと続けていくのが難しい事は知っている。手伝うのも当たり前になっていて、多分将来は自分もエルフハイムに戻るのだろう。
 そのとき、誰か、言葉を交わせるヒトが隣に居る想像は……したことがなかった。考えたことはなかった。
 一人で戻って、その時まだお互いに独り身で残った者同士で結婚して、なんとなく余生を送る、そんな漠然とした未来が転がっていると思っていた。
「……僕はヒトを見て、詩作の為の刺激を受けるのは好きだけど。自分が変わることは考えたことがなかったね?」
 詩作になるなら、そのヒトがより素敵な刺激を紡ぎそうなら、ちょっとしたからかいを仕掛けたりも普通で、それが楽しくて。
 このままでもいいな、なんて思ってばかりで。
「いいな、と、思うことは……あったのかな?」
 けしかける割に、自分のことはよくわからない、そんな状態になっていた。
「ふふ、上司君も、フクカン君も……決めているんだものね。もう揶揄えないのかな?」
 首を傾げた先で、愛用の弓が視界に入る。
「ごめんごめん、君がずっと一緒なのは変わらないよ、ただ……ああ、でも、そうだね、君は君、僕は僕で、誰かは……」
 既にいつもの喧騒のあるオフィス、APVの一角。シャイネはそっと、微笑んだ。

リプレイ本文

 ゆっくりと歩くなんて何時ぶりだろう?
「こうして2人きりとなるのもいつ以来かね……」
 首を傾げた時音 ざくろ(ka1250)の隣で、ソティス=アストライア(ka6538)も同じような感想を抱いていたらしい。
「ふふっ」
 思わず零れた笑い声に、不思議そうな視線が向かう。
「ざくろもね、同じことを考えていたから。嬉しくて。突然来ちゃった世界だけど。もう何回この世界で秋を迎えたかな。ソティと知り合ってからだって何回も……でしょっ?」
「……そうさな」
 照れ隠しで視線を逸らす様子が可愛い。
「今までは戦いの日々だったけど。これからはこんな風に、穏やかで、平和な時間の中で一緒に居られるね♪」
 ざくろの満面の笑顔が、今はソティスだけに向けられる。

 穴場の湖というだけあって、人気はないと言ってもいいくらいだ。
 手漕ぎのボートを指さすざくろは楽し気で、期待の眼差しがソティスの胸を温める。
「ねぇ、折角だから一緒に乗ってくれる?」
 秋色が溢れる中で、甘いものを食べるなんて素敵だよね。そう言われたら頷かないわけにはいかない。

 湖上に張り出した枝からも小さな手のひらのように可愛らしい葉が拡がって。舞う葉のない湖面を彩る。
「……そっかぁ」
「?」
 ふと過るのはしばらく思い出す暇もなかった色々な記憶。転移前のことは、ゆっくりと語る暇もなかったのだと思い知る。
 幸せそうに栗入りのどら焼きを食べるソティスに微笑みかける。二人とも、故郷はここではなくリアルブルーだ。突然会えなくなったことに悲しむ暇もなかったことに改めて驚く。
 世界の危機に持ち前の冒険心が擽られたからだとも言えるけれど。
「みんな、どうしてるかなって思ってさ」
「家にいるだろう?」
 返ってくるのは今の家族達の事。それが今の当たり前になっているのだと、嬉しさもこみ上げる。
「それもあるけどね。これから東方で領地を貰って暮らす事になると、まだ暫く地球には帰れないなって」
 新しく得た家族ではなくて、どんな形になっても家族のままであるはずの、リアルブルーの家族両親を思い出す。自分の衣装の原因である、罰ゲームをたくらんだ級友達も、やはり成長しているのだろうか。
「帰るのがお預けになってしまっても、ソティは大丈夫?」
 ごくん、と飲み込む音が妙に鮮明に聞こえた。
「故郷は。私は戻れずとも構わんぞ」
「そう、なの?」
「元よりざくろについて行くと決めたのだから、たまに戻るくらいでよかろう」
 こっちの生活の方が何かと性に合うしな、とからりと笑う様子にざくろはしばし呆けた。
「あっ、でも!」
 見惚れたのもあるけれど。
「時期を見て、地球に行って家族には会おうと思うんだ、ソティや皆の事を両親に紹介したいし」
 自分の家庭を持つようになったこととか。
「皆の家族にも会いたいし……ざくろ、責任持って連れて行くから」
 頼ってもらえる存在になった証拠を、自分を、皆をそだててくれたことへの感謝を伝えたい。真剣な瞳がソティスの動きを止めた。
「ふ」
 でも、それは一瞬で。
「紹介は止めんが。皆のことは伏せた方が何かとよかろう」
「えっ、でも皆が大切な家族なんだよ?」
 焦るざくろを諭すように続ける。こういう時は年下に見える夫というのも不思議なものだ。
「なに、私ももう成人しているのだ、憂うことはないさ」
 一緒に生きることに変わりはないだろう? そう伝えれば、ざくろが破顔する。
「ソティ……!」
 今すぐ想いを伝えるなら、ここはやっぱり。抱き寄せたくて立ち上がったざくろは忘れていたのだ。
「わ、ぁあっ!?」
「!?」
 ここは湖、不安定なボートの上。崩れ落ちた夫の身を怪我から守ったのは妻の柔らかい身体。
「……相変わらずだが、まあ、いい」
 人は居なくて、ここは静かで。
 ソティスの腕がざくろの背に回された。



「ええと、とりあえずどこか、お茶でも?」
「おや、デートのお誘いかな♪」
 偶には友人との親交を温めようと顔を出したユリアン・クレティエ(ka1664)は、タイミングよく呟きを聞いてしまったのだ。
「なっ……いやいや、そうじゃなくて! 考えてみたらシャイネさんの事 知っている様で知らなくて」
 話がしたいって思ったんだ。
「熱烈だね……ふふ、冗談だよ♪」
 焦って赤くなった顔を落ち着かせる頃には、またやられてしまったと笑うしかない。
「二人で話せる方がいいかな」
「君はまったく……じゃあ、いこうか?」
「アップルパイが美味しいカフェがあってね」
 すぐに先導を始めるユリアンはとてもスムーズで。面白そうにシャイネの目が細くなったことに気付いていない。

「何時の間にか追い越してしまった外見とか、改めて実際の年齢知らないなって」
 ただ年に関係なく変わらず接してくれたのが嬉しくて、気にならなかったのかもしれない。
「好きな色とか食べ物も、些細な事も実は知らないし」
「ふふ、それで君は僕を友と呼べなくなるのかい?」
「そんなことない!」
「ほら、それが答えだよ。僕はね、それだけでよかったんだ」

「そろそろ50に届くくらいだったかな?」
 さらりと聞かされた言葉に一瞬、呆けて。
 秘密だよ、と笑うシャイネに首を傾げる。
「僕はほら、誰かさんと昔から面識があるから」
 芋づる式に誰かの年齢も察せられてしまうのである。
「俺、APVの所属じゃなくてよかった」
「そうだね♪」
 ウインクが飛んできた。

「長い時間の結果を見届けてくれる人が居るって言うのは安心すると思う」
 上手く言えない分、ユリアンは言葉を重ねる。
「シャイネさんもだけど、あそこにはそういうヒトが多くて、変わらない姿で出迎えてくれて。いつでも同じ空気があって」
 それは仕事なのかもしれないけど。
「でも、シャイネさんは好きな様に生きて良いんじゃないかな」
 役割があることは察していた。でも、もうそこに縛られる必要がないなら。
「……僕はね、もともと好きに生きていたんだよ」
 君にならいいかな、と溢されるのは、本音の、さらに奥にあるもの。
「縛られたくなくて、ふらふらしていて。堂々と外をふらつくために“いい子”で居ることを選んだんだよね?」
 本当は逆なんだ。建前と本音、どちらがどちらの皮を被っていてもシャイネにとって同じだっただけ。
「今はそれが当たり前で、楽でいいなって思っているから。大丈夫だよ♪」

「療養所ができるって聞いたけど」
 照れくささが勝ったのだと思う。気付けば仕事の話だ。
「ナデルと同じくらいに開くつもりでいるみたいだよ」
「じゃあ見舞い……ってのも変か、気軽に会いに行けるんだ」
 邪神を倒せば、浄化術も歪虚の事も、解決すると思っていた時期はあった。実際はそんな簡単な事ではなかったけれど。
「僕が引っ込むのはそれこそ、君が各地を出歩かなくなるまでないよ? 君の結婚式とか、子供の誕生を祝う予定があるからね」
「んなっ」
「焚きつけた甲斐はあったんだろう?」
「……あ、相手の事は、さ」
 楽し気に続きを待つ友人は、きっと惚気を期待しているのだろう。
「本当に分からない物だから、俺だって一番驚いてるんだ」
 ほら、少し眉が下がった。
「いつかシャイネさん自身が目を瞠る様な出会いがあればいいと、そう思うよ」
 そのときは相談に乗るし、聞かせて欲しい。
「シャイネさん自身の為の詩がさ、できるんじゃない?」
 結果的に俺の方が先に老いるわけだから、先輩風を吹かせることだってできると思うんだ。



「シャイネが戻ってきたわよ、ユメリア!」
 急かす高瀬 未悠(ka3199)に背を押され。ユメリア(ka7010)がおずおずとやってくる。
「待たせてしまっていたかな?」
 にこやかに対応するシャイネの横で、持ち帰りに包んでもらった箱をユリアンが差し出している。
「丁度よかった、これ、差し入れです」
 梨のタルトを二人分。世話になった礼だと添えれば、にんまりと、もしくは穏やかに笑顔が返ってきた。
「おめでとう、ユリアン」
「私はそんな大層なことは。でも、おめでとうございます」
「ありがとう。妹も、彼女の事も。これからも宜しく」
 勿論だと、確かに頷かれる。
「美味しそうですね」
「ここもいいわね。そうだわユリアン、別の通りにオススメのケーキ屋さんがあるの」
 今度彼女に買っていってあげてね?



「シャイネ様、偉大なる吟遊詩人の故郷に、私は住むことは叶いますか?」
 深刻そうに告げるユメリアに寄り添う未悠も、真剣な瞳でシャイネを見つめる。
「正式名称は決まっていないんだけどね」
 活動限界を迎えた者を受け入れる場所は建設準備が進んでいると。
 最終的にエルフハイム出身者に限らず、人種も限らず。幅広く受け入れ可能にしたいと長老が目論んでいることも。
「すぐには厳しいだろうけど。でもユメリア君の場合は詩の功績もあるし……」
 前例として。長老の意図に利用される可能性はあるかもしれない。
「君がそれでも構わなければ、時期は早められると思う」
 急げるならその方がいい。ユメリアにとって、己の身体そのものの限界との闘いの可能性があるからだ。
「建設は、まだ始まっていないと」
「そうだね」
 なにせ土地を拓くところからだ。場所の決定さえ簡単には進まない。
 未悠の温もりがユメリアを覆う。僅かな震えを感じた彼女がその温もりを分けてくれる。
「まあ、全く手がないわけでもないんだけど」
「教えて頂戴」
 気まずいと、その声にも表れていることは気にせずに未悠が力強く促す。ユメリアへの鼓舞を兼ねているし、何より大好きな親友の行く末を確かめなければならないという決意をもって。
「伝を頼って、その誰かの家に身を寄せるわけだけど」
 僕以外に、居る?

「療養所の受け入れが始まるまででも、僕の実家に居続けても。君のよい方に決めて大丈夫だからね」
 周囲から色々な邪推を受けても。好きなように振舞っていいと太鼓判までついて来た。
「僕は君を歓迎したい。君が外に出られなくなっても、君の詩を外に持ち出す役も面白そうだしね♪」
 ある意味プロポーズにも聞こえる言葉を、目の前のエルフはどこまで本気で言っているのだろうか?
「……お願いしたいわ」
 ぽつり、未悠の声が聞こえて振り向く。
「未悠さん?」
「だってユメリアの好きにしていいってことだわ。そうよね、シャイネ?」
「勿論だとも♪」
 君達の形を崩すつもりは無いよ、と。囁くように続いている。
「……店子として、でも良いと……?」
「予想出来る程度の面倒ごとは気にしなくて大丈夫だよ? 僕は躱すのにも慣れているから」
 全て僕のせいにしたっていい。甘やかすような言葉が降ってくる。
 周囲をだます形になるかもしれない。けれど、私は。
(貴女の笑顔を消したくないのです)
 足掻きたいと願っている。少しでも長く未悠の幸せを見つめていたい。それが、離れた場所からだとしても。
 誰かの手を借り、それが犠牲になってしまうとしても。自分の幸せは彼女の傍に在るのだから。
「大丈夫だよ」
 すぐ傍に、誘惑の声。
「……では」
 誘われるように、手を出していた。
「こちらこそよろしくね?」
 契約の握手が交わされる。
「よかった……私、たくさん会いに行くから」
 未悠は親友を託すためにシャイネの方を向いていて、ユメリアの表情に気付かない。
「私が側にいない間、ユメリアの事をお願いね?」
 しっかりと頷いたシャイネは、ユメリアに悪戯めいたウインクを送った。
「……ふふ」
「どうしたの、ユメリア?」
「少し、おかしくて」
 契約相手、ではなくて。なんだか共犯者みたいだ、なんて。

(新しい人生が始まる、その節目になってしまうのね)
 森で暮らすことになるユメリアと、退役した彼と旅に出る自分。その未来を思い浮かべて、必要な物を買い集めていく。
 家具屋ではユメリアの部屋にあったものに近いものを探す。
「空き部屋もあるって言っていたのだし、思い切って買ってしまいましょう? 今からなら頼んで作ってもらうのもいいかもしれないわ」
 雑貨屋では使い勝手の良いものを重視する、なにせ旅をするのだ。丈夫で、できれば可愛らしいものが欲しい。
「ねえユメリア、揃いのカップを選ばない?」
 互いの想いが常に傍に在るのだと、その証明のためにも。ユメリアに似合う花のものが、今一番欲しいものだ。
 頷いてくれる親友と共に、一つずつじっくりと選んでいく。ものによってはすぐには買わないけれど、でも。
「香水もお揃いにしない?」
 離れている時も、香りでお互いを感じられるように。秘めごとみたいね、と笑えば、ユメリアの瞳が潤んだ。
 少しずつ、離れた暮らしが形になっていく。

「貴女の側にずっといられなくなってしまうけれども」
 笑顔を絶やさないように気を付けていたつもりだけれど、少し、崩れてしまったかもしれない。
「いつだって貴女を想ってる。貴女の幸せを願ってる」
 繋いだ手に少し力を籠める。
「ううん、願うだけじゃないわ。一緒にいる時は最高に幸せな時間を過ごしましょうね」
 今日だって、今までと同じように過ごせた。今生の別れではないのだ。これからだって会いたい時にいつでも会える。
「何度でも、何百回でも伝えるわ……大好きよ、ユメリア」
 これから先も、ずっと。

 表通りに面した楽器店、試し弾き用のピアノに、手をかける。
 買ったばかりのシンビジウムの香水が、二人、動く度に香る。


 おかえり

 何てことない言葉が 世界を回り回って
 笑顔を作り 日常に彩りを加える
 モノクロな私の毎日に 色をくれたように

 家具を探して 貴女と2人
 簡素な椅子も机も小物でさえも
 共に決めれば彩鮮やかに

 手紙を書くから 便せん買って
 花柄模様は二人で決めて
 紙飛行機すれば空の果てまで

 いってらっしゃい

 何てことない言葉で 貴女の背を押して
 いつまでも変わらない毎日を彩って
 待っています 貴女の笑顔がもたらす幸せを


「ずっと、ずっといつまでも……」
 お慕いしています。その言葉が届いたかどうかはユメリアにはわからない。
 旅はどんな時でも新鮮なもの。帰る場所になれるなら、私は貴女のもたらすモノだけで生きていける。
 薬草を育てて百味箪笥を薬で一杯にして。旅立つ貴女に持たせたい。傍に居なくても力になりたい。
 傍に在る証はいくつあったっていい。
「彩りをくれた貴女に。また明日も」
 貴女の心の一角を占めていたい。
「ありがとう、親愛なる未悠」
 愛しさを込めて、呼ばせて欲しい。

 抱きしめるのが先か、熱い雫が零れるのが先か。
 気付けば未悠はユメリアを抱きしめていたし、小さく震える、今にも泣きそうな彼女の頭を撫でていた。
「ユメリア、私、たくさんのお土産話を持って会いに行くわ」
 貴女の元へ何度だって帰ってくるわ。
「“ただいま”と“おかえり”を。“いってきます”と“いってらっしゃい”をたくさん……たくさん、積み重ねましょうね」
 だって、貴女は私の故郷なのだから。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士

サポート一覧

  • ソティス=アストライア(ka6538)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/10/01 08:33:28