ゲスト
(ka0000)
歪虚の人形工場と秋緑の親子(後編)
マスター:赤山優牙
- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2019/10/03 07:30
- 完成日
- 2019/10/10 17:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●秋緑の親子
ハンター達が突き止めた廃屋敷は、とある商会の別荘である事が判明した。
無断使用されているという事で、屋敷内の確認と何者かが居た場合の排除もお願いされ、紡伎 希(kz0174)は、ハンター達に出す依頼文を記していた。
「搬入路から直接突入……一気に中を制圧するという事で」
張り込みや調査を継続した結果、嫉妬人形を作りだす材料を手引している行商人を捕まえる事が出来た。
なんでも、先の邪神との戦いで人間側に居ては勝ち目はないと邪神側に寝返ろうとした結果、偶然にも嫉妬歪虚と遭遇したという。
歪虚との接触が少なかったみたいで、まだ堕落者や契約者にはなっていなかったのは幸いだっただろう。
「次の搬入のタイミングに合わせてですから、相手も驚くはずです」
敵にはこちらの動きを把握する術がないはずだ。
見張りもいるかもしれないが、そう簡単に見抜けるはずもない。
依頼文もだいたい書き終わった所で、部屋に人が訪ねてきた。
「お仕事中、申し訳ない、希お嬢ちゃん」
入って来たのは、同じ髪と瞳の色を持つおっさん、ルストだった。
【魔装】の拠点で共に暮らす同居人だが、希には妙な親近感があった。
「どうしたのですか、ルスト様」
「嫉妬人形を作り出している屋敷の事でね……話しておこうかと思って」
そう言ったルストに希は微笑んで頷くとソファーに案内した。
しかし、彼は座ろうとはせずに、こう切り出した。
「実は人形の型とりは、あれは私と幾人かの職人で作り出した大切な物なのだ。出来れば、壊して欲しくない」
「お気持ちは分かりますが、負のマテリアルに汚染されている可能性もあります。それに、屋敷の所有者からは不要な物は排除するようにとも言われていますので……」
「そこをなんとか、お願いできませんか?」
なおも食い下がるルストに希は困った表情を浮かべる。
そうでなくとも、戦闘で壊れる可能性もあるのだ。
おまけに、今回は搬入を偽装しての奇襲戦になる。当然のことながらハンター達の装備にはある程度の制限がなされる。
そんな状態で、人形の型取りを残して欲しいというのは……無理があるのではないだろうか。
「……どうしてもですか?」
無理です――と言い放つ事も出来たが、希は一呼吸置いてからそう尋ねた。
きっと、何か理由があるのかもしれない。壊してはいけない大事な理由が。
「あれは……幾度も試行錯誤を繰り返した末に、ようやく作り上げた、大事な型なのです。その為に、多くの時間と労力を皆で費やしました」
「皆……というと、職人仲間ですか?」
「そうです。苦楽を共にしてきた、大事な仲間達です……私にとっては……ですが……」
急に顔をうつむいたルストの反応を不思議そうに思う希。
「……私は故郷を捨て、仲間達と共に仕事をする事を選んだのです。生まれたての赤ん坊と、傲慢歪虚に怯える妻を残して……」
「色々なものを捨て残して、その先に作り上げた大切な品……という事なんですね」
確認するような希の口調がルストの胸に突き刺さった。
これは因果だ。
巡り巡って、自分に降り掛かってきた。それを今更、止めてくれなんて、都合が良すぎるだろう……そう、ルストは心の中で呟いた。
「保証はできませんが、ハンター達には可能な限り影響が出ないように戦って欲しいと伝えておきますね」
「ありがとう……希お嬢ちゃんも行くのかい?」
「勿論です。それほど、大切な品なら私も確りとフォローに入りたいと思いますので」
ニッコリと笑った希に、ルストは目に涙を浮かべる。
彼女に自覚はないのだろう。それでも、この子の優しさを感じられた。
「……もし、どうしようもない場合は……君が壊してくれ。その時は残骸も持って帰って来なくてもいい。少しでも残れば……きっと、心残りになるから……」
ルストは最後にそう告げると、涙を隠しながら、部屋から出ていくのであった。
●歪虚の人形工場
材料の搬入は真夜中であった。
人一人が入れるような大きめな壺に材料を入れたものを小舟に乗せて運ぶのだ。
「見ての通り、壺、あるいは樽の中に入りますので、背丈を超えるような武器は持ち込めません」
希がハンター達に作戦を説明する。
いくら大きめの壺や樽だと言っても、長柄のものまでは入らないようだ。
「それと現地は暗闇ですので、注意が必要です。屋敷の見取り図は資料にある通りとなります」
明かりは必要だが、そうなると手が塞がる。
当然の事ながら、ペットや騎乗の類も不可となるので、この辺り、手段か工夫が必要だろう。
「今回、船頭役は私が行いますので、皆様は遠慮なく壺に入ってて下さいね」
材料を手引していた行商の話によると、搬入路に小舟を入れたら、泳いで戻っていたとの事だ。
詳しくはわからないが、搬入を行う嫉妬人形が幾体かは存在するはず。
「それと、人形の型とりがあるのですが、こちら、大事な品という事なので、可能な限り影響がないように戦闘をお願いしたいです。もっとも、負のマテリアルに汚染されている可能性もありますが」
こうして、ハンター達の突入作戦が開始されるのであった。
ハンター達が突き止めた廃屋敷は、とある商会の別荘である事が判明した。
無断使用されているという事で、屋敷内の確認と何者かが居た場合の排除もお願いされ、紡伎 希(kz0174)は、ハンター達に出す依頼文を記していた。
「搬入路から直接突入……一気に中を制圧するという事で」
張り込みや調査を継続した結果、嫉妬人形を作りだす材料を手引している行商人を捕まえる事が出来た。
なんでも、先の邪神との戦いで人間側に居ては勝ち目はないと邪神側に寝返ろうとした結果、偶然にも嫉妬歪虚と遭遇したという。
歪虚との接触が少なかったみたいで、まだ堕落者や契約者にはなっていなかったのは幸いだっただろう。
「次の搬入のタイミングに合わせてですから、相手も驚くはずです」
敵にはこちらの動きを把握する術がないはずだ。
見張りもいるかもしれないが、そう簡単に見抜けるはずもない。
依頼文もだいたい書き終わった所で、部屋に人が訪ねてきた。
「お仕事中、申し訳ない、希お嬢ちゃん」
入って来たのは、同じ髪と瞳の色を持つおっさん、ルストだった。
【魔装】の拠点で共に暮らす同居人だが、希には妙な親近感があった。
「どうしたのですか、ルスト様」
「嫉妬人形を作り出している屋敷の事でね……話しておこうかと思って」
そう言ったルストに希は微笑んで頷くとソファーに案内した。
しかし、彼は座ろうとはせずに、こう切り出した。
「実は人形の型とりは、あれは私と幾人かの職人で作り出した大切な物なのだ。出来れば、壊して欲しくない」
「お気持ちは分かりますが、負のマテリアルに汚染されている可能性もあります。それに、屋敷の所有者からは不要な物は排除するようにとも言われていますので……」
「そこをなんとか、お願いできませんか?」
なおも食い下がるルストに希は困った表情を浮かべる。
そうでなくとも、戦闘で壊れる可能性もあるのだ。
おまけに、今回は搬入を偽装しての奇襲戦になる。当然のことながらハンター達の装備にはある程度の制限がなされる。
そんな状態で、人形の型取りを残して欲しいというのは……無理があるのではないだろうか。
「……どうしてもですか?」
無理です――と言い放つ事も出来たが、希は一呼吸置いてからそう尋ねた。
きっと、何か理由があるのかもしれない。壊してはいけない大事な理由が。
「あれは……幾度も試行錯誤を繰り返した末に、ようやく作り上げた、大事な型なのです。その為に、多くの時間と労力を皆で費やしました」
「皆……というと、職人仲間ですか?」
「そうです。苦楽を共にしてきた、大事な仲間達です……私にとっては……ですが……」
急に顔をうつむいたルストの反応を不思議そうに思う希。
「……私は故郷を捨て、仲間達と共に仕事をする事を選んだのです。生まれたての赤ん坊と、傲慢歪虚に怯える妻を残して……」
「色々なものを捨て残して、その先に作り上げた大切な品……という事なんですね」
確認するような希の口調がルストの胸に突き刺さった。
これは因果だ。
巡り巡って、自分に降り掛かってきた。それを今更、止めてくれなんて、都合が良すぎるだろう……そう、ルストは心の中で呟いた。
「保証はできませんが、ハンター達には可能な限り影響が出ないように戦って欲しいと伝えておきますね」
「ありがとう……希お嬢ちゃんも行くのかい?」
「勿論です。それほど、大切な品なら私も確りとフォローに入りたいと思いますので」
ニッコリと笑った希に、ルストは目に涙を浮かべる。
彼女に自覚はないのだろう。それでも、この子の優しさを感じられた。
「……もし、どうしようもない場合は……君が壊してくれ。その時は残骸も持って帰って来なくてもいい。少しでも残れば……きっと、心残りになるから……」
ルストは最後にそう告げると、涙を隠しながら、部屋から出ていくのであった。
●歪虚の人形工場
材料の搬入は真夜中であった。
人一人が入れるような大きめな壺に材料を入れたものを小舟に乗せて運ぶのだ。
「見ての通り、壺、あるいは樽の中に入りますので、背丈を超えるような武器は持ち込めません」
希がハンター達に作戦を説明する。
いくら大きめの壺や樽だと言っても、長柄のものまでは入らないようだ。
「それと現地は暗闇ですので、注意が必要です。屋敷の見取り図は資料にある通りとなります」
明かりは必要だが、そうなると手が塞がる。
当然の事ながら、ペットや騎乗の類も不可となるので、この辺り、手段か工夫が必要だろう。
「今回、船頭役は私が行いますので、皆様は遠慮なく壺に入ってて下さいね」
材料を手引していた行商の話によると、搬入路に小舟を入れたら、泳いで戻っていたとの事だ。
詳しくはわからないが、搬入を行う嫉妬人形が幾体かは存在するはず。
「それと、人形の型とりがあるのですが、こちら、大事な品という事なので、可能な限り影響がないように戦闘をお願いしたいです。もっとも、負のマテリアルに汚染されている可能性もありますが」
こうして、ハンター達の突入作戦が開始されるのであった。
リプレイ本文
●
作戦の準備の為、樽や壺を乗せた船を紡伎 希(kz0174)が取りに行った後、鬼塚 陸(ka0038)は溜め込んでいた空気を吐き出した。
「敵だけを倒せれば楽だったんだけど……金型の確保かぁ……」
「歪虚をこのままにはしておけないし、ルストの金型への想いもよくわかるから……できれば、全てを叶えたいかな」
依頼の困難さに時音 ざくろ(ka1250)も同意する。
金型がどうなっているのかは、まだ分からない。工場に突入すれば分かる事だろうが、だからこそ、不安にもなる。
Uisca Amhran(ka0754)は考えるように小さく呟く。
「ルストさんの創った人形製造機。そして、嫉妬歪虚……ルストさんの奥さんの嫉妬……は、流石に考え過ぎ……でしょうか?」
「どうだろう……一応、ここは同盟領だし……」
心配するUiscaの疑問に、ざくろが答える。
緑髪緑眼のおっさんは王国出身だという。妻子も王国西部のとある村らしいので、そこに嫉妬歪虚が絡むのは考えにくい。
愛用の武器を折りたたみながら、イツキ・ウィオラス(ka6512)が、仲間達の会話を聞き、独り言のように言った。
「形ある物は、いつか失われる。それが想い深いものであるほど、喪失を恐れるのでしょう――けれど、私に出来る事は、せめて意にそぐわぬ用途を防ぐ事」
金型が歪虚に利用されて汚染されている可能性は否めない。
もし、浄化が出来なければ――壊すしかないのだ。
「……やれるだけやってみますか!」
イツキの覚悟を見て、鬼塚は笑顔で宣言した。
最善の事は尽くす。それはいつだって、変わらないのだから。
希が小舟を器用にも櫓で漕いでくる姿がハンター達の視界に入った。
大きい壺や樽の中にこれからハンター達は入って身をひそめるのだ。
「樽に入って潜入とか……よく考えたもんだ……」
瀬崎・統夜(ka5046)が銃に弾丸を装填しながら言った。
その台詞にアルラウネ(ka4841)が頬に手を当てて懐かしむように言葉を口にする。
「壺か……なんか、希らしいというか……かな」
「まさか、自分達が壺に入る事になるとは思いもしませんでしたね」
微笑を浮かべるUisca。緑髪の少女は、かつて、雑魔が入った壺で事件を起こしていた事があった。
今度はハンター達が壺に入って事件を解決するのだ――何かの因果のようでもある。
「私みたいに小さいと大丈夫だけど……」
「大きい人は大変ですね」
そう言ったアルラウネとイツキの視線は瀬崎に向けられていた。
「まぁ、作戦は良い案だし、文句は無いが……俺が入るには、やはり、少し小さいんだよな……もつかね……」
彼は頭を掻きながら苦笑を浮かべ、溜息を漏らすのであった。
●
希が漕いだ小舟はハンター達が潜む壺や樽を乗せたまま、目的の屋敷へと到着した。
手筈通り、希は水路に飛び込んで、一度、その場を去ると、暫くした後、屋敷の扉が開き、幾体もの嫉妬人形が姿を現した。
(ここまでは手筈通り)
小さく開けた穴から外の様子を確認していたイツキは心の中で呟く。
慎重に持ち上げられた壺が大事そうに屋内に運ばれる。
だが、ハンター達はまだ飛び出る事はない。タイミングは予め決めていたからだ。
(……こればっかりは運だったかな)
壺の中で鬼塚は身体が跳ねないように腕を張って支える。
溶鉱炉っぽい投入口に放り込まれる順番まで、作戦が煮詰められなかったのもあり、運悪く、彼の壺から投げ込まれそうになったのだ。
こうなったら、もう飛び出るしかない。
仲間の壺が高く持ち上がったのを、樽の中から確認していたざくろが意を決し、踵からマテリアルを噴き出しながら飛び出る。
同時にUiscaが魔法の光を光源として屋内を照らしながら壺から姿を見せる。
「みんな、今だっ!!」
ざくろは叫びながら着地すると、結界を急速展開する。
嫉妬人形共が突如発生した結界に押し出されるように弾かれた。
「機械自体に融合しているから、あれは動かないようだな」
瀬崎も飛び出ると真っ先に周囲の状況を確認する。
まずは嫉妬人形を全滅させる事だ。十数体いるが、ここにいるハンター達は誰もが一騎当千。そう時間は掛からないはず。
イツキが樽を壊しながら、嫉妬人形の虚を突いて飛び出すと、星神器の力を解放する。
「ここまでは作戦通りですが……嫌な振動です」
眩い光を纏ったマテリアルの槍が嫉妬人形を貫くと同時に、建物全体が不気味に揺れた。
その原因は、人形製造機と融合している嫉妬歪虚だった。
不気味に開いた空間から新たな人形の頭がずらりと並び出てこようとしている。
「製造中だったものが残っていたのか……敵の数が増えると厄介だ」
「どうします、キヅカさん?」
Uiscaの問いに鬼塚は歯を食いしばる。初手で製造機械を機能不全に陥れれば良かったが、悔いても仕方ない。
新手がどのタイミングで稼働するか分からない以上、作戦は予定通りでいくか、それとも、変更するか決めなければいけないだろう。
「時間を掛けると、金型に攻撃が当たる可能性が増すので短期決戦で!」
「分かりました。人形を抑えます」
「私も人形対応です」
攻撃魔法を唱える為に意識を集中させるUiscaとネレイデスに持ち替えたイツキ。
その二人を援護するようにざくろが機導術で武器を操りながら機動鋸を構えると一瞬、視線を愛する人が入ったままの壺に向けた。
「アルラっ!」
「任せて!」
ざくろからの呼び名に応えるように、アルラウネが壺から飛び出した。
ポゼッションと仲間達のおかげで完全フリーだから、今すぐにでも嫉妬歪虚に斬りかかれる状況だ。
●
アルラウネと鬼塚、瀬崎が製造機械と融合した嫉妬歪虚に攻撃を加える一方、嫉妬人形との戦いは、数の上では絶対的に不利にもかかわらず、一気に押していた。
「製造機械に当たらないならば、全力で魔法を打てます!」
法術縛鎖を巻き付けた腕を掲げ、Uiscaが唱えた攻撃魔法は圧倒的な範囲だった。
製造機械に当たらなかったのはポゼッションで嫉妬人形が強制的に移動していた為だ。
「こっちの一団を倒したら、もう一回、ポゼッションを使うね!」
Uiscaの魔法を受けた嫉妬人形共を、ざくろが纏めて薙ぎ払う。
二人の攻撃で大きなダメージを受けた嫉妬人形に対し、マテリアルの翼のようなものを纏いながらイツキが技を放った。
「雪華纏槍、結明紡!」
一直線に抜ける蒼きマテリアルが嫉妬人形共を貫く。
刹那、イツキは高速移動で間合いを詰めた。当初の作戦では嫉妬人形を殲滅させた後、邪魔が入らなくなった状態で嫉妬歪虚と戦うつもりだった。
限りなく、その作戦に近づけさせる為には、暴れまくって敵の目を引くしかない。
「続けていきます!」
「イツキさん、私の魔法は敵味方の識別が可能だから、遠慮せずに立ち回って下さい」
次の魔法を唱える為に意識を高めながら言ったUiscaの台詞にイツキは頷いて答えた。
見事な連携で次々に倒されていく嫉妬人形。辛うじて生き残った敵を、ざくろは見逃さない。
金型の無事は作戦の大事な要なのだ。その邪魔はさせない。
「喰らえ、神様だって真っ二つだ!」
マテリアルの力で一瞬、巨大化した機動鋸で嫉妬人形を一刀両断するざくろであった。
仲間のハンター達の頑張りのおかげで邪魔は最小限だったが、それでも油断はできない。
「銃使いが近接戦闘できないとか思うなよ」
アクロバティックな動きで嫉妬人形の鋭い一撃を避けると瀬崎は照準を製造機械へと向ける。
時間があれば、嫉妬人形に反撃していたが、今の優先順位は機械の方だ。
「型へは、当てない!」
その宣言通り、瀬崎は猟撃士としての力を最大限に発揮していた。
近接戦を挑んでくる嫉妬人形の攻撃を避けながら、確実に製造機械の部位を狙い撃ちできるのは、彼だからこそだろう。
「なんとかさせてみせる……その為の“力”」
電流線のオーラを全身から発しながら、鬼塚は製造機械に取り付けられたアームの強烈な攻撃を避ける。
金型は、機械を作った人にとって大事な品だという……理由は分からないが、出来る事なら無傷で返してあげたい。
「これでどうだぁぁぁ!」
突き出した両手から封印の波動を放つ。
大精霊が司る『知恵』の力だ。強力な力であるが、それと同時に封印に集中する術者も能動的には動けなくなる。
「嫉妬人形を新たに動かすのは、魔法的なものなのね」
感心しながらアルラウネは大太刀を振るう。
スキルを封印されてしまえば、機械から頭を出している新手の嫉妬人形を稼働させる事はできないはずだ。
鬼塚はそれを狙ったつもりはなかっただろうが、的を射た効果となっていた。この製造機械と融合した嫉妬歪虚が無機物を動かす能力は、スキルと同様の扱いだったのだ。
「それじゃ、私は遠慮なく……激流を味合わせてあげるわ」
アルラウネは壁や足場を利用して翔ると巨大な製造機械の上部へと至る。
ざくろがルストから聞いた話によると、金型は機械の下部にあるという。ならば、上部を徹底的に攻撃するまでだが、近接攻撃は届きにくい。
その為、アルラウネはスキルを上手に活かして戦っていた。
「いっけー! アルラ!!」
「勿論よ!」
ざくろの声援を受けつつ、アルラウネは刀を大きく振り上げた。
刀先が煌めき、嫉妬歪虚へと深々と突き刺さるのであった。
●
製造機械と同化していた嫉妬歪虚は、鬼塚の守護者の力で能力を封印された事により、アルラウネと瀬崎の攻撃で倒された。
最後は金属が擦れ合うような不気味な音を立てて崩壊し、それと同時に嫉妬人形共も力なく床に落ちると活動を止める。
「結構な大きさだね、金型って」
ざくろが負のマテリアルの影響が残っている金属を外しながら、金型を確認した。
幸いな事に戦闘の影響は受けなかったようだ……もっとも、目に見えない歪みなんかもあるかもしれないから、ルストに直接見せる必要があるが。
「きっと、大丈夫だろう。確信はないがな」
瀬崎がホッとした表情で言った。
後方からの射撃という状況だったので、仲間達の攻撃の様子はよく見えていた。
機械下部に攻撃は当たっていないはずだ。
「後は、直接、確認して貰えれば……という事ですね」
「そういう事だね。それにしても、こんな金型で何を作ろうとしていたのかな……」
イツキの台詞に頷きながら、鬼塚はそんな疑問を口にした。
マネキンを作るにしては精巧過ぎるし、大量生産の必要性があるというのも気になる。
「……本来は“ご遺体”です。あまり公にはしたくはないのですが」
会話が聞こえていたのだろう。希に案内されてやって来たルストが答えた。
「“ご遺体”……ですか?」
怪訝な表情を浮かべて訊ねるイツキにルストは重々しく頷く。
「精巧な人の形を模し、そこから化粧、身長差を埋める装飾等を行い、生前の姿に似せる為のものです」
「……これまでの歪虚との戦いで犠牲になった人の為のものか……」
銃口の先を見つめながら瀬崎が静かに告げた。
歪虚との戦いは、特に邪神との戦いに至るにつれ、激しさを増していった。
遺体すら残らなかったケースも多々あるはずだ。それでも、人は別れを惜しむ。せめて、形だけでも見送りたいと思う人もまた多いのだろう。
「最後の別れ、見送りの為の……か……」
「だから、ルストさんにとっては二重の意味で大切だったと」
鬼塚の台詞の後を、ざくろが続けた。
色々なものを置き捨てて、失って、それでようやく完成したもの。ルストにとって人生そのものが込められたものと言っても過言ではないはずだ。
「皆様、ご配慮のほど、ありがとうございました」
「そういうとこ、淡々としすぎよ、ノゾミちゃん」
少しは成長した少女の身体に抱きつくアルラウネ。
希にとっては、一つの依頼に過ぎないのだろうか……。
「戦闘で壊れる可能性もありましたし、運が良ければ程度だと」
「そういう事じゃないと思うけど……」
「???」
分かっていない様子の希に苦笑を浮かべて、アルラウネはUiscaへ視線を向けた。
Uiscaは頷くとルストに向き合う。
「ルストさんは、妻子を捨てて仕事を取ったって言ってたけれど、本当は、ただ妻子を守れなかった事を後悔して、その罪悪感から自分を責めているのではないのですか?」
「……そうなのかも、しれません……」
暫く考えるように俯いたルストは顔を上げてそう答えると、悲しそうな表情を浮かべる。
「だとしても……今更、どうしようもない事も確かな事です」
「希望って、そんなに大それた事だって考えなくても良い。小さな希望の積み重ねが大事だと思うのです」
「私にはそんな希望を手にする事は……」
遠くを見つめるルストの手を、希が真剣な顔をして掴む。
「私は“記憶を失った”転移者ですが……希望はいつだって何度だってあると私は思っています。ルスト様、私、思うのです。ルスト様の想いを子供が知ったら、きっと――」
そこで一区切りして希は微笑を浮かべた。
「『お父さん、ありがとう』――と、応えてくれるはずです」
「……ありがとう、希さん。ありがとう、ハンターの皆さん」
目尻に堪った涙を拭いつつ、ルストは全員を見渡しながら感謝の言葉を言った。
秋に映える緑色の髪と瞳を持つ父と子が親子だと気が付くのは、もう暫く時間が掛かるかもしれないが、その必要性がないほど、穏やかで暖かみのある雰囲気が、二人にはあるのであった。
ハンター達の活躍により、人形製造機械と融合していた嫉妬歪虚は倒された。
また、金型も無事に回収が出来たのであった。
――了。
●
リゼリオの街に徒歩で帰路につく一行。
希の揺れる緑髪とアルラウネの肌着のような黄緑色の水着姿をぼんやりと眺めながら、ざくろがルストに尋ねる。
「そういえば、ルストさんは希さんが娘という確信はあるのですか?」
「それは確かに私も聞きたいです」
うんうんと同意するUisca。
「親の勘とか……ではないですよね」
「それとも、子を持つと分かるのだろうか」
イツキと瀬崎の言葉にルストは微笑を浮かべた。
「そうなのです。親は自然に子が分かるようになるんですよ」
「まさか……」
苦笑を浮かべたのは鬼塚だった。
そんな話、親から聞いた事はない。というか科学が発達したリアルブルーでは遺伝子を調べれば分かる事だ。
「これから父親になる君達は、そのことをよく肝に銘じておいて下さい」
「ち、父親……そっか……ざくろも父親になる日が来るんだ……」
「そんな予定は……お前はどうなんだ」
「え? あーえーとー。その予定は“まだ”……かな?」
若干、頼りなさげなハンター達の反応に、楽しそうに手を振りながらルストは告げた。
「冗談ですよ。実は……黙っていたのですが、希さんは似てるのです。あの子の母親に。だから、会ってすぐに分かりました」
――と。
作戦の準備の為、樽や壺を乗せた船を紡伎 希(kz0174)が取りに行った後、鬼塚 陸(ka0038)は溜め込んでいた空気を吐き出した。
「敵だけを倒せれば楽だったんだけど……金型の確保かぁ……」
「歪虚をこのままにはしておけないし、ルストの金型への想いもよくわかるから……できれば、全てを叶えたいかな」
依頼の困難さに時音 ざくろ(ka1250)も同意する。
金型がどうなっているのかは、まだ分からない。工場に突入すれば分かる事だろうが、だからこそ、不安にもなる。
Uisca Amhran(ka0754)は考えるように小さく呟く。
「ルストさんの創った人形製造機。そして、嫉妬歪虚……ルストさんの奥さんの嫉妬……は、流石に考え過ぎ……でしょうか?」
「どうだろう……一応、ここは同盟領だし……」
心配するUiscaの疑問に、ざくろが答える。
緑髪緑眼のおっさんは王国出身だという。妻子も王国西部のとある村らしいので、そこに嫉妬歪虚が絡むのは考えにくい。
愛用の武器を折りたたみながら、イツキ・ウィオラス(ka6512)が、仲間達の会話を聞き、独り言のように言った。
「形ある物は、いつか失われる。それが想い深いものであるほど、喪失を恐れるのでしょう――けれど、私に出来る事は、せめて意にそぐわぬ用途を防ぐ事」
金型が歪虚に利用されて汚染されている可能性は否めない。
もし、浄化が出来なければ――壊すしかないのだ。
「……やれるだけやってみますか!」
イツキの覚悟を見て、鬼塚は笑顔で宣言した。
最善の事は尽くす。それはいつだって、変わらないのだから。
希が小舟を器用にも櫓で漕いでくる姿がハンター達の視界に入った。
大きい壺や樽の中にこれからハンター達は入って身をひそめるのだ。
「樽に入って潜入とか……よく考えたもんだ……」
瀬崎・統夜(ka5046)が銃に弾丸を装填しながら言った。
その台詞にアルラウネ(ka4841)が頬に手を当てて懐かしむように言葉を口にする。
「壺か……なんか、希らしいというか……かな」
「まさか、自分達が壺に入る事になるとは思いもしませんでしたね」
微笑を浮かべるUisca。緑髪の少女は、かつて、雑魔が入った壺で事件を起こしていた事があった。
今度はハンター達が壺に入って事件を解決するのだ――何かの因果のようでもある。
「私みたいに小さいと大丈夫だけど……」
「大きい人は大変ですね」
そう言ったアルラウネとイツキの視線は瀬崎に向けられていた。
「まぁ、作戦は良い案だし、文句は無いが……俺が入るには、やはり、少し小さいんだよな……もつかね……」
彼は頭を掻きながら苦笑を浮かべ、溜息を漏らすのであった。
●
希が漕いだ小舟はハンター達が潜む壺や樽を乗せたまま、目的の屋敷へと到着した。
手筈通り、希は水路に飛び込んで、一度、その場を去ると、暫くした後、屋敷の扉が開き、幾体もの嫉妬人形が姿を現した。
(ここまでは手筈通り)
小さく開けた穴から外の様子を確認していたイツキは心の中で呟く。
慎重に持ち上げられた壺が大事そうに屋内に運ばれる。
だが、ハンター達はまだ飛び出る事はない。タイミングは予め決めていたからだ。
(……こればっかりは運だったかな)
壺の中で鬼塚は身体が跳ねないように腕を張って支える。
溶鉱炉っぽい投入口に放り込まれる順番まで、作戦が煮詰められなかったのもあり、運悪く、彼の壺から投げ込まれそうになったのだ。
こうなったら、もう飛び出るしかない。
仲間の壺が高く持ち上がったのを、樽の中から確認していたざくろが意を決し、踵からマテリアルを噴き出しながら飛び出る。
同時にUiscaが魔法の光を光源として屋内を照らしながら壺から姿を見せる。
「みんな、今だっ!!」
ざくろは叫びながら着地すると、結界を急速展開する。
嫉妬人形共が突如発生した結界に押し出されるように弾かれた。
「機械自体に融合しているから、あれは動かないようだな」
瀬崎も飛び出ると真っ先に周囲の状況を確認する。
まずは嫉妬人形を全滅させる事だ。十数体いるが、ここにいるハンター達は誰もが一騎当千。そう時間は掛からないはず。
イツキが樽を壊しながら、嫉妬人形の虚を突いて飛び出すと、星神器の力を解放する。
「ここまでは作戦通りですが……嫌な振動です」
眩い光を纏ったマテリアルの槍が嫉妬人形を貫くと同時に、建物全体が不気味に揺れた。
その原因は、人形製造機と融合している嫉妬歪虚だった。
不気味に開いた空間から新たな人形の頭がずらりと並び出てこようとしている。
「製造中だったものが残っていたのか……敵の数が増えると厄介だ」
「どうします、キヅカさん?」
Uiscaの問いに鬼塚は歯を食いしばる。初手で製造機械を機能不全に陥れれば良かったが、悔いても仕方ない。
新手がどのタイミングで稼働するか分からない以上、作戦は予定通りでいくか、それとも、変更するか決めなければいけないだろう。
「時間を掛けると、金型に攻撃が当たる可能性が増すので短期決戦で!」
「分かりました。人形を抑えます」
「私も人形対応です」
攻撃魔法を唱える為に意識を集中させるUiscaとネレイデスに持ち替えたイツキ。
その二人を援護するようにざくろが機導術で武器を操りながら機動鋸を構えると一瞬、視線を愛する人が入ったままの壺に向けた。
「アルラっ!」
「任せて!」
ざくろからの呼び名に応えるように、アルラウネが壺から飛び出した。
ポゼッションと仲間達のおかげで完全フリーだから、今すぐにでも嫉妬歪虚に斬りかかれる状況だ。
●
アルラウネと鬼塚、瀬崎が製造機械と融合した嫉妬歪虚に攻撃を加える一方、嫉妬人形との戦いは、数の上では絶対的に不利にもかかわらず、一気に押していた。
「製造機械に当たらないならば、全力で魔法を打てます!」
法術縛鎖を巻き付けた腕を掲げ、Uiscaが唱えた攻撃魔法は圧倒的な範囲だった。
製造機械に当たらなかったのはポゼッションで嫉妬人形が強制的に移動していた為だ。
「こっちの一団を倒したら、もう一回、ポゼッションを使うね!」
Uiscaの魔法を受けた嫉妬人形共を、ざくろが纏めて薙ぎ払う。
二人の攻撃で大きなダメージを受けた嫉妬人形に対し、マテリアルの翼のようなものを纏いながらイツキが技を放った。
「雪華纏槍、結明紡!」
一直線に抜ける蒼きマテリアルが嫉妬人形共を貫く。
刹那、イツキは高速移動で間合いを詰めた。当初の作戦では嫉妬人形を殲滅させた後、邪魔が入らなくなった状態で嫉妬歪虚と戦うつもりだった。
限りなく、その作戦に近づけさせる為には、暴れまくって敵の目を引くしかない。
「続けていきます!」
「イツキさん、私の魔法は敵味方の識別が可能だから、遠慮せずに立ち回って下さい」
次の魔法を唱える為に意識を高めながら言ったUiscaの台詞にイツキは頷いて答えた。
見事な連携で次々に倒されていく嫉妬人形。辛うじて生き残った敵を、ざくろは見逃さない。
金型の無事は作戦の大事な要なのだ。その邪魔はさせない。
「喰らえ、神様だって真っ二つだ!」
マテリアルの力で一瞬、巨大化した機動鋸で嫉妬人形を一刀両断するざくろであった。
仲間のハンター達の頑張りのおかげで邪魔は最小限だったが、それでも油断はできない。
「銃使いが近接戦闘できないとか思うなよ」
アクロバティックな動きで嫉妬人形の鋭い一撃を避けると瀬崎は照準を製造機械へと向ける。
時間があれば、嫉妬人形に反撃していたが、今の優先順位は機械の方だ。
「型へは、当てない!」
その宣言通り、瀬崎は猟撃士としての力を最大限に発揮していた。
近接戦を挑んでくる嫉妬人形の攻撃を避けながら、確実に製造機械の部位を狙い撃ちできるのは、彼だからこそだろう。
「なんとかさせてみせる……その為の“力”」
電流線のオーラを全身から発しながら、鬼塚は製造機械に取り付けられたアームの強烈な攻撃を避ける。
金型は、機械を作った人にとって大事な品だという……理由は分からないが、出来る事なら無傷で返してあげたい。
「これでどうだぁぁぁ!」
突き出した両手から封印の波動を放つ。
大精霊が司る『知恵』の力だ。強力な力であるが、それと同時に封印に集中する術者も能動的には動けなくなる。
「嫉妬人形を新たに動かすのは、魔法的なものなのね」
感心しながらアルラウネは大太刀を振るう。
スキルを封印されてしまえば、機械から頭を出している新手の嫉妬人形を稼働させる事はできないはずだ。
鬼塚はそれを狙ったつもりはなかっただろうが、的を射た効果となっていた。この製造機械と融合した嫉妬歪虚が無機物を動かす能力は、スキルと同様の扱いだったのだ。
「それじゃ、私は遠慮なく……激流を味合わせてあげるわ」
アルラウネは壁や足場を利用して翔ると巨大な製造機械の上部へと至る。
ざくろがルストから聞いた話によると、金型は機械の下部にあるという。ならば、上部を徹底的に攻撃するまでだが、近接攻撃は届きにくい。
その為、アルラウネはスキルを上手に活かして戦っていた。
「いっけー! アルラ!!」
「勿論よ!」
ざくろの声援を受けつつ、アルラウネは刀を大きく振り上げた。
刀先が煌めき、嫉妬歪虚へと深々と突き刺さるのであった。
●
製造機械と同化していた嫉妬歪虚は、鬼塚の守護者の力で能力を封印された事により、アルラウネと瀬崎の攻撃で倒された。
最後は金属が擦れ合うような不気味な音を立てて崩壊し、それと同時に嫉妬人形共も力なく床に落ちると活動を止める。
「結構な大きさだね、金型って」
ざくろが負のマテリアルの影響が残っている金属を外しながら、金型を確認した。
幸いな事に戦闘の影響は受けなかったようだ……もっとも、目に見えない歪みなんかもあるかもしれないから、ルストに直接見せる必要があるが。
「きっと、大丈夫だろう。確信はないがな」
瀬崎がホッとした表情で言った。
後方からの射撃という状況だったので、仲間達の攻撃の様子はよく見えていた。
機械下部に攻撃は当たっていないはずだ。
「後は、直接、確認して貰えれば……という事ですね」
「そういう事だね。それにしても、こんな金型で何を作ろうとしていたのかな……」
イツキの台詞に頷きながら、鬼塚はそんな疑問を口にした。
マネキンを作るにしては精巧過ぎるし、大量生産の必要性があるというのも気になる。
「……本来は“ご遺体”です。あまり公にはしたくはないのですが」
会話が聞こえていたのだろう。希に案内されてやって来たルストが答えた。
「“ご遺体”……ですか?」
怪訝な表情を浮かべて訊ねるイツキにルストは重々しく頷く。
「精巧な人の形を模し、そこから化粧、身長差を埋める装飾等を行い、生前の姿に似せる為のものです」
「……これまでの歪虚との戦いで犠牲になった人の為のものか……」
銃口の先を見つめながら瀬崎が静かに告げた。
歪虚との戦いは、特に邪神との戦いに至るにつれ、激しさを増していった。
遺体すら残らなかったケースも多々あるはずだ。それでも、人は別れを惜しむ。せめて、形だけでも見送りたいと思う人もまた多いのだろう。
「最後の別れ、見送りの為の……か……」
「だから、ルストさんにとっては二重の意味で大切だったと」
鬼塚の台詞の後を、ざくろが続けた。
色々なものを置き捨てて、失って、それでようやく完成したもの。ルストにとって人生そのものが込められたものと言っても過言ではないはずだ。
「皆様、ご配慮のほど、ありがとうございました」
「そういうとこ、淡々としすぎよ、ノゾミちゃん」
少しは成長した少女の身体に抱きつくアルラウネ。
希にとっては、一つの依頼に過ぎないのだろうか……。
「戦闘で壊れる可能性もありましたし、運が良ければ程度だと」
「そういう事じゃないと思うけど……」
「???」
分かっていない様子の希に苦笑を浮かべて、アルラウネはUiscaへ視線を向けた。
Uiscaは頷くとルストに向き合う。
「ルストさんは、妻子を捨てて仕事を取ったって言ってたけれど、本当は、ただ妻子を守れなかった事を後悔して、その罪悪感から自分を責めているのではないのですか?」
「……そうなのかも、しれません……」
暫く考えるように俯いたルストは顔を上げてそう答えると、悲しそうな表情を浮かべる。
「だとしても……今更、どうしようもない事も確かな事です」
「希望って、そんなに大それた事だって考えなくても良い。小さな希望の積み重ねが大事だと思うのです」
「私にはそんな希望を手にする事は……」
遠くを見つめるルストの手を、希が真剣な顔をして掴む。
「私は“記憶を失った”転移者ですが……希望はいつだって何度だってあると私は思っています。ルスト様、私、思うのです。ルスト様の想いを子供が知ったら、きっと――」
そこで一区切りして希は微笑を浮かべた。
「『お父さん、ありがとう』――と、応えてくれるはずです」
「……ありがとう、希さん。ありがとう、ハンターの皆さん」
目尻に堪った涙を拭いつつ、ルストは全員を見渡しながら感謝の言葉を言った。
秋に映える緑色の髪と瞳を持つ父と子が親子だと気が付くのは、もう暫く時間が掛かるかもしれないが、その必要性がないほど、穏やかで暖かみのある雰囲気が、二人にはあるのであった。
ハンター達の活躍により、人形製造機械と融合していた嫉妬歪虚は倒された。
また、金型も無事に回収が出来たのであった。
――了。
●
リゼリオの街に徒歩で帰路につく一行。
希の揺れる緑髪とアルラウネの肌着のような黄緑色の水着姿をぼんやりと眺めながら、ざくろがルストに尋ねる。
「そういえば、ルストさんは希さんが娘という確信はあるのですか?」
「それは確かに私も聞きたいです」
うんうんと同意するUisca。
「親の勘とか……ではないですよね」
「それとも、子を持つと分かるのだろうか」
イツキと瀬崎の言葉にルストは微笑を浮かべた。
「そうなのです。親は自然に子が分かるようになるんですよ」
「まさか……」
苦笑を浮かべたのは鬼塚だった。
そんな話、親から聞いた事はない。というか科学が発達したリアルブルーでは遺伝子を調べれば分かる事だ。
「これから父親になる君達は、そのことをよく肝に銘じておいて下さい」
「ち、父親……そっか……ざくろも父親になる日が来るんだ……」
「そんな予定は……お前はどうなんだ」
「え? あーえーとー。その予定は“まだ”……かな?」
若干、頼りなさげなハンター達の反応に、楽しそうに手を振りながらルストは告げた。
「冗談ですよ。実は……黙っていたのですが、希さんは似てるのです。あの子の母親に。だから、会ってすぐに分かりました」
――と。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/10/02 11:47:29 |
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【相談卓】秋晴れを目指して Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/10/02 22:47:46 |
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質問用 イツキ・ウィオラス(ka6512) エルフ|16才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2019/09/30 19:33:06 |