• 星罰

【星罰】積年の想い、赤心の果て

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/10/14 12:00
完成日
2019/10/28 10:33

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ハヴァマールの討伐には出向かないのかね」
「まさか帝都でやるとは思わなかったからね。他の場所でやるなら参戦したけれど、ここでは民衆に及ぶ危険の排除が仕事となっちゃうんだよね、残念ながら」
 バルトアンデルスの地下水道には歪虚が逃げられないように結界が張られている。無論ハヴァマールにしてみれば薄いガラスのようなものであろうが、無尽蔵に暴食の歪虚を生み出す能力がある以上、帝都の澱が集まることになるこの場所から帝都へ流れ出してしまうことを防ぐ必要があった。
 それを任されたのが第一師団副師団長のシグルドであり、彼が行く手を防いだ相手はオードルフと呼ばれた錬金術師だった。
「なるほど。私の排除も仕事の内ということだ。我が血を継ぎし者よ。そして志を継ぎし者よ」
 オードルフが挨拶をしたのはシグルドだけでない。その横にいる彼の妹クリームヒルトにも向けられていた。だが、シグルドと同じようにクリームヒルトもまた決して彼に好意的な顔を見せはしていない。
「先日は花が見せる夢をありがとう。おかげで心から理解したわ。死を想い続ければ、そこに引きずり込まれてしまうとね」
「恐ろしい体験だったかね。そこからまた歩みを続けるようになったのは何よりだ。体験を通して一歩強くなったことは喜ばしい」
 厳しい視線にも関わらず、オードルフはといえば穏やかなものだった。むしろ怒りに燃える顔色を歓迎している様子すら見られ、クリームヒルトはその心が理解できずに眉根をひそめた。
「あなたは何を考えているの? 何が目的?」
「考えているのは、社会の繁栄だ。今は危険なアイデアでも昇華していけば必ず良いものになる。今日私がここにいる目的を話すとすればハヴァマールがもし歪虚が無尽蔵に生み出せるというなら、つまり無限にエネルギーを産出できるということだ。その実験にだね」
「冗談止めてよ。みんな命がけで未来を守ろうとしているのに」
「未来? 私も未来は案じている。帝国は変わろうとしているのだろう。負のマテリアルをエネルギーに利用しようという発案は昔からあったものだ。こうして社会の発展させたいと私は願っている。命がけ? この世界で命がけでないものがいるのなら教えてほしいものだ」
 オードルフがなぜここにいるかはおおよそ把握できた。そしてそれはハヴァマール討伐においてイレギュラーになりうることも、そして場合によって民衆に、いや帝国全体に危険が及ぶことも。そしてオードルフには自分が間違っているという意識すら持ち合わせていないらしいことも。
「たとえ、それが数多の命を危険にさらしても、ということだね」
 シグルドの確認するような問いにオードルフは当然のことを尋ねてくるのだという不思議そうな顔をした。
「人間は死ぬが、社会はそう死なぬよ。龍園、東方、南方、エバーグリーン、あの邪神の取り込んだ星々ですら社会的精神は死滅はしていなかった。その知識と技術と精神を受け継いだからこそ我々は勝利したのではないかね。人は死にながらも、成長する生き物だ。どんな劇物でも人はそれを利用して成長してきたではないか。人間の社会的生命の不死からして成長と進化においてもっとも危険なのは、変わらないようにと願う怠惰と怯懦だと私は思うがね」
「あなたは人間には興味はなく、人間が作るものに興味があるようだけど、ちょっと過激が過ぎる」
 その言葉にオードルフは呆れた顔をした。何百回と聞かされた小言を前にした子供のようだ。
「過激だと? この世界の混迷よりかはずっと穏やかなものだ。何の為に人は戦うのか。戦うということは対象の存在を征服することだ。征服してその上に成り立つ。平和だと繁栄などという名目はその行為を効率的に管理し、正当化しているだけにすぎない」
 クリームヒルトは言葉の波にのまれそうになった。
 羊で産業を興すのは羊を増やして効率的に命を奪う行為。
 政治とは人を適材適所に配置し、羊飼いの数を増やす行為。全ての活動が効率という物差しで見た瞬間、オードルフの言葉が正しいように思えてしまう。
 彼の危険な研究の産物も、そしてそれが次なる発展、新たなる効率化の道筋を作る行為、それが幸せなのだというのならば否定できない気がしてくる。
「料理もそのレシピが生まれるまでに試行錯誤があった。食あたりで死んだり、既存のレシピで生活していた人間を駆逐することもあったはずだ。しかしその争いを制しなければ人は成長も繁栄もしなかった。薬もそうだね。薬などと聞こえの良い言葉を使うが、実質は人体に都合のいい効果を及ぼす毒の名称だ。そこに至るまでどれだけの犠牲があったと思うのかね? 見えないところでやるなら満足か? 自分の知らないところなら認めるというのが如何に可笑しい理論であるか」
「なるほど。あなたの意見はよく分かった」
 おそらく彼の狂気にほど近い信念は放っておけば延々としゃべり尽くしてくれるだろうし、そしてこちらの意見を聞いてくれる暇も与えてくれないだろう。
「物理的に止めるかね? 結構だ。命のついてやりたい実験もいくつもある。モルモットにされる覚悟でくるといい」
 その一言に殺意よりも濃い狂気が覗いて、クリームヒルトは一歩後ずさった。
「あの人は、何者なの?」
「政治的に崩壊しそうになった帝国を奇跡的に救った偉人。錬金術の招へい者。改革帝。そして精神と知識を移し替えて生き続けた最初の人形使いだよ。クリームヒルト。後ろに下がれ」
「いやよ。わたしは確かに力はないけれど、あんな亡霊はこれまで何度も相対してきたからね」
 一歩もどかないクリームヒルトにシグルドは視線を少し寄越して訊ねた。
「ということは何か方法があると?」
「無理に止めるから命の奪い合いをするだけでしょ? わたし達の力になってくれる方法を提示することもあるんじゃないかしら」
「歩く錬魔院を相手に説得か……君の正気を疑うよ。でも、それも面白そうのは間違いない。どうにもならない場合は、僕が面倒見るよ。やれるだけやってみるといい」
 シグルドはマテリアルを活性化させ、手にしていたアーテムゴットが風の翼を大きく展開した。同時に新たにつけられた義手にマテリアルが流れ込んでは黒い光を帯び、オードルフの覇気を遮った。

リプレイ本文

「聴く気がない相手にかける言葉など持ち合わせていない」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)はそう言い捨てると同時に、泥でできたオードルフの分身を切り捨てた。血を模した何かが糸を引いて分断される間から覗くアウレールとて顔面は焼け焦げ、眩しい位の守護者としてのマテリアルは影も形もなく血なまぐさい、というより泥仕合の果ての一撃だ。
「その通りだ。そもそも人は理解しあうことはない」
 別なるオードルフの杖が光ったかと思うと無数の光が弧を描いて乱舞する。
「理解し合うことは無いのに、社会が成り立つ。どういう論理でその結論に至ったのかは聞いてみたいところ、だ!」
 シグルドはアーテムゴットから渦巻く風の白糸で光をことごとくつかみ取り、その身に寄せ集めて防いだ。
「シグルド!! 右からデルタレイが来るわ」
 高瀬 未悠(ka3199)が叫ぶと一度は鎮められた獣の力が吹き上がり、アーテムゴットの白糸を恵みの白雨へ書き換えた。
「君がいれば何も怖くないな。義手も非常にいい働きをしてくれている」
 ルフィリアの加護を受けながらもへしゃげた義手を捨てて新しいものに換装したシグルドは見えないはずの目を向けてにこりと微笑んだ。
「ええ、絶対に離れないから!」
 未悠にも襲い来る破壊の光も音色に変じさせつつ、2人の力で荒れ狂う狂気の攻撃を封じていくその最中、星野 ハナ(ka5852)が腕を突き上げ、正義を形にした光を解き放つ。
「オードルフでしたっけぇ? 人は死ぬから人であって、あなたもう人間やめてますよねぇ。歪虚とほとんど同列の相手の名前をいちいち覚えるのもめんどうですぅ。さっさと、消えて、くださいですぅ!!!」
 爆裂。炎上。ハナの信念が炎となってオードルフを焼き尽くす。
「守護者というのも人間の枠外だと思うがね。理解し合えないが、それでも自分と自分以外の為に何かを成そうとしているのはわかる。その何かを私は社会と呼ぶ。人間外であっても目指す位置は同じだ」
 焼き滅ぼしたはずのオードルフが目の前に現れたかと思うと、もうハナは吹き飛んでいた。
「そこまでわかっていながら、その結論とは何とも悲しいものですわね」
 それに入れ替わるようにして短刀を突き出した音羽 美沙樹(ka4757)のオーラが白竜に形を変えて噴き出して、その腕を焼いた。
 細かい塵が甘い香りにすげ変わる。幻覚の花の香りだ。途端に美沙樹の表情から力強さが落ちて、白竜のオーラも乱れる花へと変貌していく。その横をオードルフは過ぎ去り、クリームヒルトへと手を伸ばした。
「手を取り合うと言うなら歓迎だよ」
「ぁ……」
「アミィのことは感謝するし、ついでにこちらからケンカ吹っ掛けたことは詫びるっすけど、意思のない相手に手を差し出して合意とかいうのは、ダメっすね。エロ親父の悪だくみと同レベルっすよ」
 オードルフの手から奪い去るようにして、クリームヒルトを抱きかかえて神楽(ka2032)が跳んで逃げた。背中に刃の一撃を受けようとも、幻覚の花が意志の阻害をしても。
「燃えろ、魂!!」
 リュー・グランフェスト(ka2419)が最後の炎護を解き放つと、情熱という名のマテリアルが花の香りを吹き飛ばし、全員の意識を回復させた。クリームヒルトは神楽の腕の中で確かな意識を取り戻すと、惺樹の加護を胸にしっかりと言葉を放った。
「手を取り合うのは私も歓迎よ。でももう少し形は違うけれどね」
「というと……」
 追いすがろうとするオードルフの身体をトリプルJ(ka6653)のファントムハンドが掴んだ。
「そりゃあ自分の劣りっぷりを自覚するこったぜ。みんな外しちゃならない道を投げ捨てて、それでも自己満足程度の結果しか出せてないのことをな」
 トリプルJはファントムハンドの腕とリンクする自分の手を握りしめて、一歩も動かせないように、そして胸の内にしまった怒りを滲みだしながら呟いた。
「まあ、そういうこった。まず力で押し切るのは下策だということは理解してもらっただろうから、ここからは交渉といこうぜ?」
 トリプルJが捕まえたオードルフにブリューナクを構えてソフィア =リリィホルム(ka2383)は笑うと、そのまま引き金を引き、ラヴァダの光条がそうするように、城の防御をすべてそぎ落とした。


「暴食王のところに乱入される可能性はとりあえず防いだか」
 トリプルJは上から僅かに聞こえる振動を感じながら、呟いた。暴食王との戦いはいま真っ最中のようだ。今から足を運んだとてにも間に合わないだろう。
 だが、守護者の半分が覚醒を封印されて脱落、シグルドもこれ以上はダメージを受けきれない。吼え猛るものは神楽もトリプルJも使い切った。もう一度動いたらオードルフは仕留められるだろうが間違いなく死傷者がこちらに出る。
 どうでるか。微妙な空気が流れる中で口を開いたのはソフィアだった。
「正直言うと、あんたの思想には概ね賛成だ。大なり小なり犠牲がつきものってのは、製作に携わる者としては理解できるし。そういうの求めている場所もあるぜ」
 ソフィアに振られたクリームヒルトはさも当然のように頷いたが、オードルフはそれを否定した。
「認められはしないだろう。血を継ぐもの、志を継ぐもの。そなた達がまとめようとも人間というものはとかく度量が狭い」
「自分に都合が悪いからって、そんなこと言っちゃうんですねぇ。結局、自分で変える気はないなら、実験とかも認められるわけないですよぉ。そんなもの、自分勝手っていうしかないじゃないですかぁ」
 ハナは口元を歪めて嘲ったが、目はひとつも笑ってなかった。できるなら次の瞬間にも決着をつけてやりたい気持ちをふつふつとさせながら、その口火をいつ切るか、推し量っているようでもあった。
「そうだね。自分勝手。人は自分勝手に生きる」
「意見が合うようだ。私も好きでやっている。だからこそ犠牲にさせられるなど御免だね」
 アウレールも再び剣を構えるのをオードルフはむしろ楽しそうにしていた。戦うのが楽しいという様子すら見えた。
「分身の死をお前は感じたか? 死ぬのは平気か?」
「救いたいと願った人間もすり抜けてきた、一つの失策で屍の山と怨嗟の大合唱を聞いてきたよ。悲しいという感覚はそのうち焼き切れてきたね。死ぬのも怖くないよ。だが、何とかしたいという気持ちだけが延々と燻っているよ。後悔の成れの果てかもしれない」
「では死んで、我々の役に立て」
「まあ、待てよ。急ぎすぎなんだよ」
 アウレールの剣を素手で押さえたリューが、アウレールを見て、それからオードルフを見た。
「何とかしてやりたい。そういう気持ちはオレにだってある。それでも助からない命だってあることも」
 死んでも人の願いを叶えようと通した奴。
 自然と共にあろうとした奴。
 認められなくとも何かを成したかったのは痛いほど伝わってきた。
「でもさ、花をいっぱい咲かせようって手を入れ過ぎて弱らせてしまうのと同じだよ」
 止まらない。
 止められない。
 一分一秒でも尽くしたい。
 寝ても覚めても。休める時も働ける時も、誰かの何かの役に立ちたいという願いが逆にそれを遠ざけていく。
「あんたのやり方は性急すぎる」
「悲しむ人がいるのに、何もしないというのか。1%の望みの可能性でもかけるというその決意を私は答えたい」
 リューの言葉にオードルフの言葉が変わるのを聞いて、未悠はかぶりを振った。
「オードルフ。だからアミィを助けてくれたのね。だから帝国を守ろうとしたのね」
 幸せになりたい、楽に生きたい。人々の願いをかなえる為にオードルフは怪物になることを選んだ。
「自分の事はさておいても人に関わりたいと願うよ。この手が血に濡れても誰かを救いたいと願うよ」
「それが積年の想いにして、赤心の果て……なんとしてでも救う為に、揺らぐ人の心を棄てたのね」
 目の前にいるのは、転生を繰り返し、だが精神は焼き切れていき、気がつけば人形そのもののようになっていたことに彼は気づいていない。
 なんと言葉をかければいいのか。
 迷う未悠に代わり、美沙樹が口を開いた。
「今の言葉からすると本当は手を汚すことは悪いと自覚しつつ、自分が真っ先に手を汚すことになれてしまっている。あなた自身が悲しみの感情が焼き切れてしまっていることは自覚しているということですわね」
 整然とした口ぶりながら美沙樹の瞳は少し憐れみで濡れていた。
「あなたのような人間を増やさない為でしょうけれども、残念ながらあなたがそうなったように、救おうとした人は皆、同じ道を歩む。リューさんが急ぎすぎと言ったのはそういうことですわ。精神が保てませんのよ。それは社会を蝕みますわ」
 オードルフは顔を曇らせた。それは怒りを含むより戸惑いに似ていた。
「私の精神が、壊れているとでも言うのかね」
「社会ってもんは個人の総体だ。個人を蔑ろにするようじゃ社会は育たないぜ。薬だってそうだ。甘々に作って求めさせるくらいにしてやりゃさ、儲けつつ、誰かが勝手に改造してくれる。不幸だけが成長の元じゃねぇよ」
 人を喜ばして、可能性を高め合う。
 それができるか。
 ソフィアの問いかけにオードルフの混迷は深まっていく。
「そんなことで社会は発展するのか? 都合のいい甘い汁ばかり吸う輩ばかりが増えて、効率は増しても発展はしないだろうに。暗黒時代は『何事もない平穏無事』から生まれるのではないか」
「そんなことないっすよ。むしろ一人で抱え込みすぎて、自分を見失った例で宇宙滅亡させかけたヤツ知ってるっすから。それよりこれからは色んな世界の技術が交流して、繁栄・発展するっす」
 世界はもう変わったのだという神楽の言葉に、オードルフはとうとう諦めに似た溜め息をついた。自分の世界の狭さを知った溜め息。
「人にそこまでの可能性があるというのか」
「むしろ、痛みで覚えていく程度の技術でどれだけの発展が見込めるっていうんだ。お前の論理はいちいちもっともだと思うが、承諾できるかと言われればそうはならない。社会をどうこうするっていうなら、この集団でも納得させられるはずだろ」
 どんな言葉も受け止めて見せるというリューの懐の深さにオードルフはそうだね。と同意した。
 同委はしても改めて説得するつもりがないのは、少しばかり穏やかになった顔からも、そして、金の指輪を外してクリームヒルトに差し出したことからも明白だった。
「私はそれほど賢い人間ではない。それでも国を壊すわけにも、内乱で大勢の人間が死ぬのも、その間隙を縫って襲い来る歪虚も防がねばならなかった。愚策として残った方法にしがみついたのが、今の私だよ。言葉で説得するのは何よりも苦手だ。行動した方が早い。だから、私を活かしてくれるというなら、この指輪を持つといい。私のやって来た経験はそこに詰まっている」
「オードルフも、人を救いたかったのね。でも……」
 未悠とシグルドは目配せをした。通じる意思は同じもの。
「それは受け取れないわ。彼はその呪縛から解き放ったのよ。同じ失敗を繰り返したくない。自分の成果をちゃんと受け継いでほしいという親の気持ちはわかる。でも、時も人も決して同じじゃない。私達は私達の手で乗り越えていくわ」
 背中でルナの演奏が取り巻く未悠の声と、そしてその目線を受けたシグルドは顔を見合わせて頷いた。
「そうか……乗り越えていくというのは間違いないようだ」
「お前が死んでも誰も困らないということだ。社会の役に立つと言うならせめて人間らしく、死ね」
 アウレールが一歩進みだした。
「待って」
 アウレールが振り返ると、かわりにクリームヒルトが歩み出した。
「指輪の力はもらえないけど、その想いは私がもらうわ」
「いいのかよ。人を殺すことを是とする研究を認めるってこたぁ、お前が相手を殺したのと同義なんだぜ。良いのか、それで。帝国を豊かにする為にゃ、何人でも帝国民を殺して良いのか?」
 オードルフの手を取るクリームヒルトにトリプルJが尋ねた。
 彼女の気持ちは純粋なのはわかる。だが、純粋すぎるのは危険だ。この前の花屋の娘が利用された悲しみを忘れてはいない。やったことの善悪はつけらければならない。
「私はその罪をも背負うわ。そして罪を贖う為に殺した以上の人を救っていく。想いって、祈りって、そういう事じゃないかしら」
 トリプルJの、そしてアウレールの前に立ち、クリームヒルトは差し出された指輪を手に取った。
 その次の瞬間、マテリアルが保てなくなったのか、オードルフの身体が崩れた。
「……1人でも多くの人に幸せ、を」
 それは誰が手を下すこともなく、それは塵と化していった。

「本当に急きすぎですわね。もう少し気長に歩みを見てほしかったのですけれども」
 美沙樹の言葉に、階上で起こっている暴食王決戦の為に装備を整えるハナはむしろ迷惑そうな顔だった。
「えー、あれ以上、うろちょろされたらそれこそ50人体制で討伐依頼出しやがれってオフィスにつっこむことになりますよぉ」
「まったくだ。この世界は私達で作り上げていくものだ。行くぞ」
 アウレールももう興味はないと下水道の出口に向かって駆けあがってく。
「あいつも生きていた以上、今代の人間だって堂々してりゃいいのにな。まあ誰も彼もハッピーエンドなんてありえないけども」
「でもベストは選びたいわよね?」
 ソフィアのぼやきにクリームヒルトが合いの手を入れるように言葉を重ねるとくすくす笑った。
「信じないわけじゃないが、人の命を奪った事実ってのは簡単には消えないぜ」
「クリームヒルトちゃんはそういうのタフっすよ。歪虚じゃなくて人間の闇にもまれてきただけあるっす」
 愛ペット、テンタクルローパーにクリームヒルトを触手攻め、違った、送迎体制を取り、写真に収める神楽は手を振ってその場を去っていく。……のをリューが激昂して追い回す。
「待ちやがれ!!」
 少しずつ静かになっていく地下水道で、視力の落ちたシグルドの手を引きながら未悠は最後尾をゆっくりと歩いた。
「大丈夫?」
「オードルフは変わらない明日は怖かったらしい。停滞と腐敗なんだろうね」
 そういえばソフィアが無限だとか究極だとか、そんなものは停滞の元だからやめとけとオードルフに言っていたのを思い出しながらシグルドは笑った。結局彼は自分で自分を否定していたことに気づかなかったのだから。
「それでも変わらない明日を望むよ。正解を示唆された道を歩んだ瞬間、それは教えた相手に操られる人生になるからね」
 同じことの繰り返しの中で人は大切なものを見つけていく。
 君がそうしてくれたように。シグルドは未悠の肩を借りて共に歩き始めた。

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MVP一覧

  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • シグルドと共に
    未悠ka3199
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹ka4757

重体一覧

  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531
  • シグルドと共に
    未悠ka3199
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

参加者一覧

  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問卓】何の為の戦い
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/10/14 11:04:40
アイコン 【相談卓】誰が為の正義
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/10/14 10:01:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/10/11 15:18:36