ゲスト
(ka0000)
Folie / Insane
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,800
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/10/23 22:00
- 完成日
- 2019/10/28 23:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
少年は、夢を見る。
どこか胸が詰まる……窮迫する夢。
これは、徒労の夢芥。嘆きも、苦悩も、絶望もありとあらゆるモノモノが、唯一つ、そこに帰結する。
――少年は、その夢に浸り続ける。
あるいは、こうも言えるだろうか。
侵され続けている、と……。
●
きしむ。
軋ム――軋む。軋む。
わからない。わからない。
――ああ。 ああ。でも。私、ハ。私ハ……
息子を、妻を、■ッタ、アレらを……。
――そう在れと、■が――言った。
そう、言ったのだ。
アれラ、【狂気】ニ……。
報復を。
●
茨の少女の後を追うシュリ・エルキンズの胸中は穏やかではなかった。
この娘を斬らねばらない、という衝動に縛られていることもひとつ。
同行者からの信用は絶無なため、利き手のみならず両手を抑え込まれていることもある。
それ以上に……フォーリ・イノサンティという名が、シュリの心を縛る。
フォーリ。"あの日"、死んだと考えられた聖堂戦士団の古強者。
死んだと、思っていた。あの茨の亡霊が滅ぼされたあとも、遺体は見つからなかった。
(それが、今……?)
剣を伝わって湧き上がる憎悪と憤怒。
それを塗りつぶすほどの後悔を呼ぶのが、フォーリの名だった。
「f■dk ※▲ne!」
少女――歪虚は讃えるように、息と声をはずませて歩く。不出来な石像の間を駆け抜ける少女の動きは儚い少女のそれ。彼女の想いの先にあるものが誰か――否が応でも、想像してしまう。想像できてしまう。
去来するのは、これまでの事件の数々だ。
たくさんの人が消えた。眼前の少女だって、犠牲者のはずだ。シュリだって、永い時を独り、追跡し続けた。
それを為したのが、あの男。
あまりに――虚しい。悔しい。悲しい。混乱している。
確かに、フォーリにならできたはずだ。フォーリは、剣の事も知っていた。シュリのことも、知っていたはずだ。
そうだとしたら……これは。
これは――。
意識をしてはいけない、直視してはいけない、と。シュリは己を戒める。
そうしなくては。少年は。
斬らずには、いられない……。
●
いくつもの戸口を抜ける。奥に行くにつれて、道は太く、広間も大きくなっていく。
「まるで牢獄だな……」
最前を行く誰かが、呟いた。追って入ると、すぐに明らかになる。
茨で出来たそれを、牢というのならば確かにその通りだろう。格子状に組まれた茨の牢であるが、その多くがすでに開かれている。少女はいくつかの部屋の前で足を止めて覗き込み、小首をかしげたりはするけれども、最奥へと向かっていった。
すい、と。ハンターの一人が壁をなぞる。そこにも、薄く伸びる紋様を見て取ってのことだった。奥へと向かうほどに、負の気配がやや色濃くなっていくのを感じる。希釈されたそれは、負荷として感じるほどではないが――これが何を意味しているのか。
「……進めば、わかるはず」
つぶやいた、視線の先。門の向こうで少女が歩みを止めた。そして。
「――来てしまいましたか」
声とともに、視界がひらけた。
荒削りで雑な作りだが、バシリカ式の趣が残る大広間であった。室内の彼方此方に大小様々な茨が蔓延り、外壁を穿つようにして地中に潜り、鳴動している。
……自然。その場の面々の視線がその茨の『元』へと集うた。
長い金髪は、かつてのままだ。
その左肩から腕まで覆う腕甲も。右手の戦鎚も。
……フォーリ・イノサンティ。
異なるのは一点だけ。その背に、幾重にも束なる茨を背負った姿で、そこにいた。
「困った人たちだ」
●
「……フォーリさん」
シュリの口元から、言葉が漏れる。
ハンターの少女の推察の通りだった。
彼こそが、シュリが追い続けた歪虚。シュリの心を砕き、彼が果てなき追跡に身を投じる事となった黒幕。シュリ自身が今なお悔み続けている戦死者であり、先達であり。
――ともすれば碧剣を手にしたシュリ以上に歪虚を憎み、滅ぼさんとしていた者。
家族を奪われ、復讐者として戦場に身を投じた男こそが、フォーリ・イノサンティだったはずだ。
なのに。
「なんで、あなたが……」
剣の柄に手をやりながら、シュリは請い願うように問うた。
せめて、と。彼自身の道程に、わずかばかりでもと意味を求めて。
答えは。
「……必要だったからですよ」
微笑と共に、広場に落ちた。自らのもとへと駆け寄る少女を右手を上げて制止したフォーリは、そのままの自らの胸へと手をあてる。
「私から家族を奪った『狂気』を滅ぼすためには」
それは、決意の言葉であると同時に。
「私がより深く、強大な『狂気』にならねばならない……」
自らが、『狂気』の歪虚であることの告白であり。
「――そのためには、生贄が必要だったのです。世界を渡り、狂気の歪虚を滅ぼすために」
●
生贄、と。男は言った。
山から消えた獣たち。亜人たち。そして――攫われた人間たち。
「私は、歪虚としてあまりに非力でした。とてもじゃないが、世界を渡るどころかこの世界に残ったであろう『狂気』にすら支配されかねない」
滔々と、狂気の歪虚は語り出す。
「最も効率良く力を高めるにはどうすべきか。幸い、私はその答えを知っていた。敬虔なるエクラの徒であった私は、歪虚の何たるを知っていましたから」
フォーリは言いながら、自らから伸びる茨を眺め、笑みを深めた。
そして。
「……ヒトは、歪虚に堕すことができる。そのために人々を拐かし、見込みのないものは早急に手駒としました。かつての家族や友人、隣人に介助された人々は嘆き、悲しみ、怒り――ああ、ええ、自死するものもいましたね。死んだ彼らは、すぐに私の手足となり、残った隣人たちを甲斐甲斐しく世話をしてくださいました。すぐに自殺者は減り、残ったのは敬虔なる迷い子たち……」
少女を見つめ、笑みを浮かべる。
「私同様、彼らもまた、力なき者たちだ。ただ『餌』にするだけでは不足……ならば、彼らを歪虚へと堕し、その過程に生じる負のマテリアルと、『新たに生じた』歪虚を贄とすれば、最も効率のよい贄となります」
そこまで言い切って初めて、フォーリ・イノサンティはシュリ・エルキンズをしかと見つめた。
静かな瞳だった。その柔らかい表情とは裏腹に、無機質で冷たい瞳。
「だからこそ、貴方の妨害はこたえましたよ。シュリくん」
●
「その剣の感知能力は私の計画にとって天敵でした。あのまま踊り続けてくれればよかったのですが……現にこうして、追い詰められることとなってしまった……」
ぞぶり、と。茨が石壁から抜き取られ、フォーリの背に集うた瞬後、負のマテリアルの気配が加速度的に『濃くなっていく』。
「決着をつけましょう。その剣は――あまりに邪魔です」
少年は、夢を見る。
どこか胸が詰まる……窮迫する夢。
これは、徒労の夢芥。嘆きも、苦悩も、絶望もありとあらゆるモノモノが、唯一つ、そこに帰結する。
――少年は、その夢に浸り続ける。
あるいは、こうも言えるだろうか。
侵され続けている、と……。
●
きしむ。
軋ム――軋む。軋む。
わからない。わからない。
――ああ。 ああ。でも。私、ハ。私ハ……
息子を、妻を、■ッタ、アレらを……。
――そう在れと、■が――言った。
そう、言ったのだ。
アれラ、【狂気】ニ……。
報復を。
●
茨の少女の後を追うシュリ・エルキンズの胸中は穏やかではなかった。
この娘を斬らねばらない、という衝動に縛られていることもひとつ。
同行者からの信用は絶無なため、利き手のみならず両手を抑え込まれていることもある。
それ以上に……フォーリ・イノサンティという名が、シュリの心を縛る。
フォーリ。"あの日"、死んだと考えられた聖堂戦士団の古強者。
死んだと、思っていた。あの茨の亡霊が滅ぼされたあとも、遺体は見つからなかった。
(それが、今……?)
剣を伝わって湧き上がる憎悪と憤怒。
それを塗りつぶすほどの後悔を呼ぶのが、フォーリの名だった。
「f■dk ※▲ne!」
少女――歪虚は讃えるように、息と声をはずませて歩く。不出来な石像の間を駆け抜ける少女の動きは儚い少女のそれ。彼女の想いの先にあるものが誰か――否が応でも、想像してしまう。想像できてしまう。
去来するのは、これまでの事件の数々だ。
たくさんの人が消えた。眼前の少女だって、犠牲者のはずだ。シュリだって、永い時を独り、追跡し続けた。
それを為したのが、あの男。
あまりに――虚しい。悔しい。悲しい。混乱している。
確かに、フォーリにならできたはずだ。フォーリは、剣の事も知っていた。シュリのことも、知っていたはずだ。
そうだとしたら……これは。
これは――。
意識をしてはいけない、直視してはいけない、と。シュリは己を戒める。
そうしなくては。少年は。
斬らずには、いられない……。
●
いくつもの戸口を抜ける。奥に行くにつれて、道は太く、広間も大きくなっていく。
「まるで牢獄だな……」
最前を行く誰かが、呟いた。追って入ると、すぐに明らかになる。
茨で出来たそれを、牢というのならば確かにその通りだろう。格子状に組まれた茨の牢であるが、その多くがすでに開かれている。少女はいくつかの部屋の前で足を止めて覗き込み、小首をかしげたりはするけれども、最奥へと向かっていった。
すい、と。ハンターの一人が壁をなぞる。そこにも、薄く伸びる紋様を見て取ってのことだった。奥へと向かうほどに、負の気配がやや色濃くなっていくのを感じる。希釈されたそれは、負荷として感じるほどではないが――これが何を意味しているのか。
「……進めば、わかるはず」
つぶやいた、視線の先。門の向こうで少女が歩みを止めた。そして。
「――来てしまいましたか」
声とともに、視界がひらけた。
荒削りで雑な作りだが、バシリカ式の趣が残る大広間であった。室内の彼方此方に大小様々な茨が蔓延り、外壁を穿つようにして地中に潜り、鳴動している。
……自然。その場の面々の視線がその茨の『元』へと集うた。
長い金髪は、かつてのままだ。
その左肩から腕まで覆う腕甲も。右手の戦鎚も。
……フォーリ・イノサンティ。
異なるのは一点だけ。その背に、幾重にも束なる茨を背負った姿で、そこにいた。
「困った人たちだ」
●
「……フォーリさん」
シュリの口元から、言葉が漏れる。
ハンターの少女の推察の通りだった。
彼こそが、シュリが追い続けた歪虚。シュリの心を砕き、彼が果てなき追跡に身を投じる事となった黒幕。シュリ自身が今なお悔み続けている戦死者であり、先達であり。
――ともすれば碧剣を手にしたシュリ以上に歪虚を憎み、滅ぼさんとしていた者。
家族を奪われ、復讐者として戦場に身を投じた男こそが、フォーリ・イノサンティだったはずだ。
なのに。
「なんで、あなたが……」
剣の柄に手をやりながら、シュリは請い願うように問うた。
せめて、と。彼自身の道程に、わずかばかりでもと意味を求めて。
答えは。
「……必要だったからですよ」
微笑と共に、広場に落ちた。自らのもとへと駆け寄る少女を右手を上げて制止したフォーリは、そのままの自らの胸へと手をあてる。
「私から家族を奪った『狂気』を滅ぼすためには」
それは、決意の言葉であると同時に。
「私がより深く、強大な『狂気』にならねばならない……」
自らが、『狂気』の歪虚であることの告白であり。
「――そのためには、生贄が必要だったのです。世界を渡り、狂気の歪虚を滅ぼすために」
●
生贄、と。男は言った。
山から消えた獣たち。亜人たち。そして――攫われた人間たち。
「私は、歪虚としてあまりに非力でした。とてもじゃないが、世界を渡るどころかこの世界に残ったであろう『狂気』にすら支配されかねない」
滔々と、狂気の歪虚は語り出す。
「最も効率良く力を高めるにはどうすべきか。幸い、私はその答えを知っていた。敬虔なるエクラの徒であった私は、歪虚の何たるを知っていましたから」
フォーリは言いながら、自らから伸びる茨を眺め、笑みを深めた。
そして。
「……ヒトは、歪虚に堕すことができる。そのために人々を拐かし、見込みのないものは早急に手駒としました。かつての家族や友人、隣人に介助された人々は嘆き、悲しみ、怒り――ああ、ええ、自死するものもいましたね。死んだ彼らは、すぐに私の手足となり、残った隣人たちを甲斐甲斐しく世話をしてくださいました。すぐに自殺者は減り、残ったのは敬虔なる迷い子たち……」
少女を見つめ、笑みを浮かべる。
「私同様、彼らもまた、力なき者たちだ。ただ『餌』にするだけでは不足……ならば、彼らを歪虚へと堕し、その過程に生じる負のマテリアルと、『新たに生じた』歪虚を贄とすれば、最も効率のよい贄となります」
そこまで言い切って初めて、フォーリ・イノサンティはシュリ・エルキンズをしかと見つめた。
静かな瞳だった。その柔らかい表情とは裏腹に、無機質で冷たい瞳。
「だからこそ、貴方の妨害はこたえましたよ。シュリくん」
●
「その剣の感知能力は私の計画にとって天敵でした。あのまま踊り続けてくれればよかったのですが……現にこうして、追い詰められることとなってしまった……」
ぞぶり、と。茨が石壁から抜き取られ、フォーリの背に集うた瞬後、負のマテリアルの気配が加速度的に『濃くなっていく』。
「決着をつけましょう。その剣は――あまりに邪魔です」
リプレイ本文
●
「面倒くせぇ」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)は乱雑に後頭を掻きながらそう零した。
月並みな他人の不幸自慢に過ぎない。ヴォルフガングにとって余計な事情が増えただけのこと。しかし。
「……よくある話にも、程が有るのでは?」
呟いたマッシュ・アクラシス(ka0771)に、男は怪訝げに眉を上げる。これまでと質が違う。そんな気がした。マッシュは歪虚に対しては苛烈な性質だと認識していた。たとえ歪虚が何を宣おうと、その一切を切り落とすような。
それが、どこか。
「…………」
――どこか、物憂げに見えたのだった。
面倒故に踏み込みはしなかったが……すぐにそれが、確信に変わる。
「うわ、だっさ。かっこ悪すぎでしょ……歪虚憎しで、自分も歪虚になるって」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)の声への、マッシュの反応を見てのことだった。
マッシュを横目に見ていたヴォルフガングは、それを見た。ソフィアの言葉を受けたマッシュの瞳に、憎悪に似た激情が宿る瞬間を。それはすぐに消えていったが、見過ごすわけにはいかぬとも感じられ。
適切かどうかは不明瞭なまま、ヴォルフガングはマッシュの背を叩く。
「なんと言ったらいいかわからんが……同情してる場合じゃないぞ」
「……同情?」
マッシュは無表情のまま、言葉をこぼす。
「同情……そう、ですか」
受けた言葉を反芻するように、そのまま押し黙った。ヴォルフガングはその様子をみて、やれやれ、と息を吐いたのだった。
ソフィアの言葉が響いたのは、彼だけではなかった。龍華 狼(ka4940)もまた、その一人だ。
当事者故に、知っていた。フォーリが歪虚に"なった"のは事実だ。けれど、歪虚を憎悪したからではない。あの日、あの場所で。狼たちのために犠牲になった。フォーリは善人だった。確かに、何かに苦しんでいるようでもあった。ソフィアの言に、違う、そうじゃない、と擁護したいとすら思う。
けれど。
――あんた……何やってるんだよ……。
それがこの、不出来な成れの果てであるならば。殺そう。消し去ろう。そうして初めて、フォーリを知るものとして、故人として弔おう。
眼の前の"歪虚"が何を企んでいようと、ここに在る限り冒涜は続くのだから……だから、狼は柄を握る手に、静かに力を込める。
――おっさんがどんな思いだったかわかってるのか……!
「イノサンティ卿の事はよく知らんが大物じゃあないか」
杖を構えたエアルドフリス(ka1856)はどこか芝居がかった風に言う。
「こんなのにシュリは付き纏われてたのかね、いやはや災難な事、だっ……?」
言葉を切ったのは、恋人にもみあげを引っ張られたからであった。突然の事態に目を丸くして恋人のほうを見ようとするが、思いのほか"彼"の握力が強く、毛ごと引き抜かれそうなほどであった。
「ぐっ……、ど、どうしたね、ジュード……?」
「エアさん……逆、逆……!」
歪虚を追っていたのがシュリ。追われながらも翻弄していたのがフォーリ。この因果を誤ると――些か気まずい。ともあれ、引き落とされたエアルドフリスの耳元で、ジュード・エアハート(ka0410)が小声で耳打ちしていた。長い付き合いだ。恋人がこういう時にキメたい性分なのもわかっている。しかし、時折間が抜けたことをするので、ジュードとしては気が抜けない。
ばかりか、そう。
……此度においては少しだけ、怒りを孕んでもいた。恋人の顔は見えないのではなく、"見せないようにしている"のだと気づき、エアルドフリスは咳払いをし、これまた声を抑えて「すまん……」と言う。すると、もみあげを握る力が緩んだ。
ふぅ、と息を吐く。そうして、大人の威厳を精一杯に飾り立てた伊達男の表情でシュリ・エルキンズへと向き直る。
「さて、シュリ。アレは少女に見えるが歪虚だ、解るね」
「……はい」
シュリの表情には、鬼気迫るものがあった。憤怒でもない。悲嘆でもない。そしてそれは――間違いではない、とエアルドフリスは思う。故に、魔術師は道を示し、その背を押す。
「そしてアレは司祭に見えるが歪虚だ、これも解るね……もう解ってるだろう? 魂はそれでいい、だが頭は冷やしておき給え」
言いつつ、エアルドフリスは碧色の剣へと目を落とす。少年を衝き動かしたその剣を。
「我々の声を聞くんだ、ジュードとヴォルフガングがあんたをフォローする。正念場だ……気張り給え少年」
「……は、い」
どれほどの"声"と戦っているのかは察して余りある。だからこそ、その応答は合格だった。これまでの道程は無駄ではないと感じられて。その横合いから、言葉がかけられる。
「今シュリさんの中にあるのは何ですか?」
ソフィアだ。少年の全身を、それから顔つきを眺めての問い。
シュリは表情をこわばらせたまま、こう返した。
「……わかりません」
「そうでしょうねえ」
素直でよろしい。中身が何であろうと、いい。何かがあるのだと、自覚さえあるならば。
「全部、吐ききってください」
シュリの背にそっと手を置いて前を見る。巨大な茨を背負う歪虚を見やる。
深い悔恨も。絶望も。憤怒も。それらすべてが、この場に置いては武器となる。
斬らずにはいられない、その情動は、鍛冶師であるソフィアには手に取るように見えている。
だから。
「君の鼓動(ねがい)で、剣を鍛つ(うつ)んだ」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は嗤い出しそうになっていた。
少年と碧色の剣が辿った数奇な運命。その結末に立ち会うにいたり、実に色々なものが透けて見える。
何より、少年は――既に選んでいる、と見えた。
猶予を与えたいなどとんでもない。事ここに及んで、あるいはフォーリの独白を受けて、少年の道と肚は、すでに定まっていた。
観察者として、分水嶺に立ち会えたことはこの上ない喜び。更には、波及するナニカも味わえ感無量。
だからこそ、仕事は果たすべきだろう。
ほら。じきに。
――戦端が、ひらく。
●
真っ先に駆け出したのはシュリだ。続いて、ヴォルフガング。
「……ッ!」
その後方から、少年の気迫が爆ぜた。狼だ。刀を振り抜くと同時、フォーリを中心に斬撃が発生。茨ごと包み込むように閃撃が爆ぜる。それと同時に、後衛――エアルドフリス、アルヴィン、ソフィア――からの後方火力が続く。
ジュードはそれを中衛の位置から見送った。彼の役目はあくまでも前衛の支援だ。その視線の先で、氷華が、銃撃が、そして高熱を含んだ光条がフォーリと茨を撃ち抜く。熟達のハンターたちの攻撃は茨をたやすく貫き引き裂いた。肝心のフォーリは左の手甲を掲げたまま、突貫してくるシュリ達を見据えている。
ソフィアの放ったガンマレイが、フォーリの手甲と交差。殷々とマテリアルが干渉しあう騒音が洞窟内に響き渡った瞬後、遅れて破壊音が響く。ハンター達の猛攻に、フォーリ周囲の地面が抉れ、破片となり散る。
騒音を追い抜くように、言葉。
「シュリ!」
少年の声だった。狼は振り抜いた刀を仕舞うと、
「思う所は沢山あると思うが、今はあのいけ好かない奴の顔面をぶん殴るぞ! 手は抜くなよ!!」
叫び、シュリの動向を見守ることはせずに左側方へと走り出した。
言葉を受けたシュリもまた、振り返ることはなかった。
「ァ……ッ!!!」
疾駆したシュリがフォーリの眼前へと到達。メイスと直剣の間合いはほぼ同等。故に、交差が生まれる。呼気と共に放たれた連撃のいずれをもフォーリは手甲で受け、弾いた。そのまま、泳いだ体に向けてメイスを打ち下ろす。
――衝撃は、重く、深く。
シュリは剣でなく、フォーリ同様に左腕を掲げることで受けた。肉が潰れ、アカイロが咲く。しかし、動きは留まることなく、右から片手一本での切り上げが応じた。左手は本命である反撃の一撃の切り上げにつなげるための、敢えての被弾。引き換えに放たれた爆発力のある斬撃が、フォーリの体躯をずらりと裂いた。
隙と見たヴォルフガングが、追撃に動く。左手は防御が固いと見え、フォーリの右側へと回ったヴォルフガングは大きく槍を引き、半身になった体のまま大地を蹴り抜く。
「おらァ!!」
人槍一身。練り上げられたマテリアルが穂先から走り、茨ごと撃ち抜いていく。間合いの都合で壁を抉ることは能わなかったが――。
「硬ぇな……」
手応えに、受けられたと知る。ばかりか、はっきりと視認できるようになると、フォーリの体に傷一つないことが見て取れた。シュリが斬った傷に加え、引き裂かれたはずの装具ですらも、元通りだ。
「……随分な化物ぶりだ」
「ええ。ですがまだまだ、足りていません」
微笑みをもって応じるフォーリに、皮肉を言ったはずのヴォルフガングが舌打ちを零す。
――見た目通り、ってわけでもないのかな。
再生、とも若干毛色が異なる経過に、前衛の動きに合わせて銃撃を重ねたジュードは、”そういう”方向かあ、と得心していた。聖導士は固く崩しにくい。想起するのは、戦友でもある聖導士の少女だ。彼女もまた、仲間を背負うべく前に立ち、耐えることで味方を自由にし、勝機を引き寄せていた。
フォーリの場合は聖導士というには、歪虚……しかも人外の方向に振れてしまっているように思うが、本質は似ているように見える。受け止め、耐えて、後続へと続ける。
対する、ジュードが成すべきは至極シンプルだ。攻撃を的確に重ねる。シュリとヴォルフガングの攻撃に合わせて、少しでもダメージが深まるように。雨垂れが岩を穿つように、勝機を掴むまで。
問題は、フォーリにとっての矛の存在であり。
――それが"茨"なのかな。
ジュードの眼前。フォーリの両翼から、ゆっくりと茨が振るわれていく。
大きい。エアさん、大丈夫かな……と思う間もなく、破壊が振るわれた。
●
後背に、いやに重たい気配を感じる。
「お、わわわわわ……っ!」
一発を入れた狼はすぐに反転して疾走していた。狙いは「少女」である。影となって迫っているのが自分を狙ってのことなのかわからない。しかし、この「少女」から目を離すのも危険極まるのでそれもできない。
「じっとしてろよ……!!」
体当たりをするようにして、少女を抱えあげる。軽い。あまりにも。
歪虚だ、と思うと怖気が走るが、少女は無抵抗であった。状況の推移についていけていないのか、ぼんやりと周囲の騒動へと視線を巡らせている。
問題は影だ。どう考えても茨が迫っている。
「――どうぞ、お先に」
そこに、マッシュが言葉をかけた。茨が向かう先を見て、ついでにビビりまくる少年への配慮を見せた形だ。
振り落とされる茨は、まっすぐに後衛をめがけてのもの。それはまあ、そうだろう。シュリはフォーリ本体へと向かっている現状、最大火力は後衛のこの面々だ。
フォーリとしても、そしてマッシュ達としても後衛の存在は要だ。アルヴィンという唯一の治療手の存在もある。
「やれやれ……」
マッシュが突出をしなかったのはそのためだった。
間に立つマッシュは降り落ちてくる茨を強引にマテリアルをもって引き寄せる。質量が暴力となって振るわれる。大重量によって洞窟が軋むほど。それを、マッシュはその身で受け止めきった。
追って、もう一打。
「…………っ、これは、中々…………」
鎧にマテリアルを巡らせてはいたが、それでも重い。後衛に流すのは難しいか。
「おお、っと……大丈夫カナ?」
「もう一打程度であれば……です、が」
想像以上の惨事に負傷の具合を問うアルヴィンに、振り返ることなく、マッシュは応じた、が。
「いやはや、中々骨が折れますね」
「だよネ〜」
アルヴィンはにへらと嗤いながら、フォーリと茨の全容を眺める。先程の再生の具合。過去の雑魔どもの「消失」。フォーリが【狂気】の歪虚だとして、これまでの総和が眼前の茨だとするならば、重戦士たるマッシュを撃ち抜くのも納得がいく。
思ったことは、二つ。
できることなら浴びたくない。マッシュには是が非でも頑張っていただきたい。
もう一つ。
――やーっパリ、持久戦だネ……。
●
戦場の気配を背に、少女を抱えた狼は走る。同時に室内を検めた。横道や隠し扉など裏口といえるようなものはないか。
事実、小さな戸はあった。あるいは茨によってできた、”穴”もある。狼は直接的にフォーリと茨を攻撃することは控え、それらの不確定要素を次元斬で出入り口を削っていく。
「このくらい、か……?」
言いながら、片手に抱え上げた少女を見下ろした。見覚え、なし。敵意、なし。
とはいえ、背徳的な姿には違いはない。その造形は紛れもない歪虚のそれで、瞳には感情は宿っているように見えるものの、それが理解の及ぶものとは限らない。
しかし、だ。この少女を、フォーリとシュリ、双方に近づけることは危険と考えた。だから、手も注意も離さない。
「あとは……」
ちら、と、少年が見据えたのは――壁に刻まれたアートグラフ。あれが、どうにも気になる。何かはわからないのだが、引っかかるものがある。
胸騒ぎに対して、どうすべきか。少年は寸時、思索し……よし、と。改めて刀を握り締めたのだった。
―・―
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん――鎖せ!」
朗々たる響きとともに、紡がれたマテリアルが氷雪を礎とした魔術となり顕現。フォーリを中心に、両翼たる茨を抉る。高位の魔術師たるエアルドフリスの魔術は、この場において一等高い火力を誇る。
――確かに、削れているのだろう、が。
内心で吐き捨てる。その魔術をもってしても、持久戦に引きずり込まれるということに。
――どれだけその身に取り込んだ。
イノサンティ卿、などと先程は嘯いて見せたが、内心には焔が踊る。興りはどうあれ、眼前に積み上げられた茨を成すのは紛れもなく非道の所業だ。斟酌の余地はない。
この茨、換言すれば、死してなお巡り損ねた虚の溜まり、とエアルドフリスは見た。
ゆえにこそ、一刻も早く削りきりたいとも思う……のだが。
ちらと見える、狼が見当違いの場所に向けて次元斬を放っている光景。最接近しているシュリ、そしてヴォルフガングを巻き込むリスクを踏まえると扱いにくいのはわかるのだが――と、その斬撃の先を見て、得心がいった。
正体不明の、壁に刻まれた紋様を次元斬で抉ろうとしているようだった。有効かどうかという観点では材料が不足しているため判断し難いし、消耗戦になっている現状を踏まえるとどうか……と、考えなくもない。
しかしまあ、若人が頑張ろうとしている、というだけでも天秤は傾き、特別指摘はしなかった。最終的に利があれば、なおよい。
それに……。ジュードがフォーリに傾注している。想いの終着点がこの戦場であるならば、彼らの意を汲むこともまた、年長者の務めだろう。
だからこそ、温存することは選ばずに秘儀を打ち込み続ける――。
●
シュリの猛攻の合間を縫うように、幾度目かの刺突を放つヴォルフガング。
またも的中。フォーリは回避行動を取ることはない。ただただ受けて、いなす。負った傷は慮外の再生力に任せたきり。その戦槌が振るわれる先はシュリに固められている。ヴォルフガングには目もくれず。
どうにも、面白くない。涜神的で、狂気的な行いばかりが目につくが、フォーリの過去の行いからみるに、その本質は合理のはず。ヴォルフガング自身が、自らもある程度は狙われる想定で戦場に立っている。しかし、だ。
――なのに、落とせる駒から落としにいかない、というのはどういう了見だ……?
シュリもまた、自己再生によって自ら負傷を癒すことで継戦能力には終わりが見えない。「茨」がその構造上、中後衛のほうが攻撃しやすいこと、厚い後衛火力を落とせた場合、戦場をより優位に持ち込めることを考慮すると、茨が後衛を狙い続けることはわかる。
この間合いで、ヴォルフガングよりもシュリを優先する理由は――思い至らない。
――シュリ自体の消耗を狙っている、のか?
「シュリ。飛ばしすぎるな」
「……っ、」
カウンターアタックでの一撃は強力無比だが、一方でシュリ自体への負担も多い。フォーリの意図を読み切ることは困難だが、”何か”が潜んでいる、という予感がある。
「先は長い。お前が倒れたら総崩れだ」
「……は、い……!」
最大火力を、最大効率で。そう突き動かされているであろう少年を留めることに利があるかは――わからない。だが、フォーリにはこれまでの実績がある。シュリを翻弄し続け、フォーリが望む形へと落とし込んだ、という。
果たして、懸念に過ぎないそれをシュリは受け入れたのだった。攻勢を崩すことはないが、敢えて一撃を受けるような行いは控える。
これがどう転ぶかは、分からない。
不穏を孕んだ戦局は――やがて、強引に推し進められることとなる。
●
「……曇ってますねえ」
先行きを見越しての、ソフィアの言だった。大技を切るにしても、未だ動向は定まっていない。
「そだネー……ウーン……?」
全身鎧の中身がどうなっているか若干不安を覚えなくもないが、殴られ続けるマッシュに幾度目かのフルリカバリーを届けたアルヴィンが応じる。
ハンターたちの切り札という意味で、ソフィアとアルヴィンの動勢は一つの肝となる。それ故に自らの身の振りかたが難しいのでもあるが……。
――碧剣が邪魔、だから、使い手を潰す。
とまれ、アルヴィンは思索する。シュリに追われ、その目からついに逃れたフォーリが、決戦場として準備を進めた場所がここだ。彼自身が目的を果たすため、その手段としてゲリラ的活動に徹するにあたり、邪魔となるシュリの探査能力――つまり碧剣を、ここで破壊すること。
だからこそのシュリ狙い。そこまでは良いはずだ。矛盾はしない。
フォーリは慮外の再生能力を盾として戦闘を継続している。その”代償”は想像に難くはない――が、だからこそ、気にかかる。シュリの心理的動揺を期待するならば既にそれは明かされてしかるべき。アルヴィンですら、慮って”敢えて”触れていないのだから。
碧剣を潰すために。
今、フォーリは何をしている……?
疑念は深まるばかり。戦歴から来る予感が、警鐘を鳴らしている。
そして。
ソフィアが放ったガンマ・レイが、フォーリと茨を焼き貫き、
エアルドフリスが紡いだ魔術が紫電となって奔り、茨を打ち、
マッシュが伸びた茨を、刺突一閃で貫き落とし――、
―・―
フォーリは微かに目を曇らせ、
「――仕方がないですね」
至近でシュリと相対していたフォーリがぽつり、と呟き、
―・―
「気をつけて! 何かが……!」
誰かの声が響いた、瞬後の事だった。
洞窟全体が鳴動し、そして――戦場となった洞窟の只中を、紫光が埋め尽くした。
●
「……、ぁ、……、っ!」
伸し掛かる重い倦怠を自覚しながら、ソフィアは激しい光に眩んだ瞼を強引に開く。
焼かれた目に映し出された光景は朧だ。しかし、破壊を示すようなものは、なにもない。噴煙も、何も――ありはしない。
彼女の双眸が捉えた異常は二つ。
周囲を取り囲み、今消え去ろうとしている、暗紫色のマテリアルの霧。
そして――ハンターたちを覆うように広がる、碧色の円陣。浄化陣のような、それ。その二つは拮抗し、様々な光を散らしながら明滅している。それはとても、見覚えのある光景で。
――負の、マテリアル……ってこと……?
状況把握を続けながら流れるように彼女は武器を取る。周囲のハンターたちも同様だった。
依然、何が起こったかは定かではない。だが。
”敵”はまだ、そこにいる――!!
最前。揺らぐ視界の中で大柄な男が立ち上がり、疾駆を始めた。その先に、何かを杖代わりにしていた小さな姿が見えた。少女のように細い立ち姿の持ち主が銃をかざす。自分の横に立つ男が、魔術を紡ぐ。
その奥。紫煙の中に巨大な茨を背負った影が、戦鎚を振り上げている。
何が起こったかも、現状も判然としない。けれど、それだけで、十分だ。
「……させ、るわけ……!!」
ソフィアは手にした魔導銃を高く掲げ、咆えたてた。余裕の無さが、彼女の気性を顕にする。
「ねえだろうがボケェ…………ッ!!!!」
彼女が手にした星神器から茫漠なマテリアルが吐き出される。狙いは不十分。けれど、当たる。当ててみせる。
光輝が爆ぜた。紡がれるはラヴァダの光条――浄化の神槍だ。
「あァ、……ッ!!」
咆哮のまま、撃ち抜いた。必滅の意志で放たれた光条が、両翼の茨、中央の人影を違わず穿つ。
「――まさか、こんな形トハ思ってなかったケド……!」
光爆に続いて、アルヴィンは星神器「クラヴィクラ・サロモニス」を開いた。瞬後、周囲の碧光と紫煙ごと飲み込むように聖光が降り注いだ。酩酊感が消え失せていく。そのことにひとまずの安堵を得ながら、アルヴィンは状況を整理していく。
異変の正体は唐突に湧いた超高密度な「負のマテリアル」に間違いない。
「腹の中、とは比喩でもナカったンだネー……」
道中で消えていた歪虚の遺体は、眼前のフォーリに吸収されていたものだとばかり思っていた。
見落としていた。
なぜ、道中に負のマテリアルの気配が乏しかったのか?
なぜ、唐突に負のマテリアルの気配が溢れだしたのか?
なぜ、ただの人が、負のマテリアルで身を崩すこと無く、絶望の裡に歪虚に変じるまでの猶予を得られたのか――?
かつて、ベリアルの成れの果てと行動をともにしていた覚醒者ですら、体調を崩し前線への復帰は叶わなくなったほど。しかし彼は歪虚に堕ちたわけではない。ただの人が、正しく狂うことができる程度まで負のマテリアルを希釈しなくてはならなかったはず。そのために、フォーリが取った手があったはずで。
それは――。
「……やっぱり、エメラルドタブレット……!」
ジュードは直感視を併用しながら、照準を戦鎚にあわせる。振り下ろされる勢いを、わずかでも落とす。
道中。状況が類似していた、と。そう思っていた。
それもそのはずだ。
オーラン・クロスという【法術陣】の専門家の実験に、生前のフォーリは関わっていた。
「貴方は法術陣の記憶を足がかりに、不出来な陣を作ったんだ……!」
●
紫煙が晴れていき、視界が拓かれる。動きは止まらない。未だ危機は逃れていない。
ヴォルフガングは疾走を続ける。状況への理解は未だならず。
それでも、見えていた。
視界が閉ざされる瞬前にシュリが碧剣を地面に突き立てたこと。絶叫しながら己の身を包んでいた碧色のマテリアルを押し広げたこと。
爆光に飲まれたあと、その朧な視界の中にたつ、弱々しい少年の姿が、見えていた。
「オォ……ッ!」
疾駆する。そうしてジュードの銃撃を猶予に得て、フォーリと少年の間に立つ。迅雷の構えは無用。禍炎剣をかざし、振り下ろされたフォーリの戦鎚を受け止め――たまらず、膝をつく。
「させ、ねえぞ……」
反撃の余力もなかった。今動こうものなら、無防備に崩れ落ちたシュリがどうなろうか。
事ここに及び、ハッキリと理解した。フォーリは、シュリ・エルキンズの”これ”まで予知していた。この場に踏み込んだハンターが負のマテリアルに呑まれ倒れたとき、それらを護ってしまう性質を。
「ガキ一人に随分と女々しいじゃねえか、ああ!?」
「餓鬼、とは結構ですね。その剣は万夫不当の狂戦士を生む魔剣です。あなた達もご存知のはずでしょう?」
吠えたヴォルフガングに対し、フォーリの表情はピクリとも動かない。無熱にして無情な、蟲のような声の音で、こう結んだ。
「さあ、後はあなた達を始末して、その少年を殺せば――この長い足踏みも終わりです」
●
言葉についで降り注ぐは巨大な茨。
マッシュには、十分に理解できていた。フォーリの計算も、心算も、現状も――想いも十全に理解できてしまう。
マッシュは復讐者だった。フォーリと同様に。
手段を選ばずにできる限りのことを果たそうとしたフォーリ。対して自分はどうだ。未だに燻り続ける熾火で胸を焦がすだけの、なり損ない。
いっそ、彼の想いをやり遂げさせてはどうか。そんな感情すらも湧き、肯定しそうになる、が。
「ですがそれは……それは、駄目、でしょうね」
最後のガウスジェイルを切る。マテリアルによって引き寄せられた茨は、後衛達を避けて、自らへと降ってくる。
その衝撃に揺さぶられながらマッシュは――笑った。口の端を釣り上げるようにして。
――いやはや、なんと……烏滸がましい。
切り返すようにして奏機剣を振り抜く。受け止めていた茨は、嘘のようにたやすく落ちていく。星神器の権能が、フォーリ・イノサンティという【歪虚】の身を縛った証だった。
同時に、フォーリの動きが強ばる。自らの変調に気づいたように。そして――何かに、気づいたように。
フォーリの誤算は集うたハンター達の練達ぶりであろう。星神器持ちが二人いて、状況を一気に引きもどした。さらにはと、少年の姿を探す。
彼の「紋様の破壊」は一定の効果があったのではないか、とも。
いずれにしても。
もう、わかってしまった。一人の復讐者の物語が、此処で終わるのだと。
●
予想外の自体に叫びだしそうになり、”彼"の安全を確認できた時、魂消るほどの安堵を得……すぐに悔恨を抱いた。崩れ落ちるシュリの姿が、視界を焦がし、少年の声が耳朶を打つ。
「……シュリ!!」
狼だ。絶喚のような声が洞窟に反響する。
「――、退け……ッ!」
綯い交ぜになった感情のまま、ようやく紡いだ単節。身に染み付いた魔術が違わず発現し、マテリアルの光芒がフォーリと茨を貫く。
剣に操られている?
とんでもない! 少年は自ら、己の道を貫いたではないか……!
「――我均衡を以て均衡を破らんと欲す……!」
すぐさま、次の魔術を編み上げる。遅滞はない。もはや、動揺もなかった。
「…………」
悔やんでも、悔やみきれない。けれど、心は凪いでいた。
シュリ・エルキンズは、どうしようもなく、シュリ・エルキンズだった。
少年に護られたという実感が……これまでの道程が、ジュードの動揺を強烈に抑え込んでいた。
シュリは、復讐者にはならなかった。土壇場で違う決断を下した。それだけで……十分だった。
「フォーリ・イノサンティ」
狂気に堕ちた。強さを求めた。
そうして成し遂げたいものがあったと、歪虚は言う。
けれど。
「俺は……貴方を絶対に認めない」
断言と共に、天井へと拳銃を向ける。
人間は不出来で、弱く、至らないことばかりだ。けれど、合理を突き詰めた非人道は――狂気は、裁かれなくてはいけない。
その病は、人を傷つけるものだから。
「その狂気を、撃ち砕くよ」
天井へ向け、引き金を引いた。軽い銃声。続いて、洞壁を弾く軽い音が幾重にも重なる。
「ですが」
放たれた銃弾を追うように、フォーリもまた、天を仰いだ。
「だが、それでは、誰が、」
――着弾は軽く響く。衝撃も、また。
しかし、眼窩を貫き、頭蓋を弾いた弾丸にフォーリの体が揺れる。血は流れることはない。ただ、湧いた茨が傷を埋めていく。
ハンターたちの攻撃は止まらず、歪虚の体を抉りつづける。フォーリは――理解していたのだろう。決着は、とうに付いていたことを。故にフォーリはもはや攻撃の意志を示すことなく、うわ言のようにつぶやき続ける。
全身を、茨へと変じていきながら……。
「誰が、妻を……あの子を……」
「――エクラは誰も救わない。あの聖女が言ってた言葉だったよな」
フォーリだったもの。その胸部に、狼は緩やかに「祓魔」の名を冠した短剣を差し込んでいく。
「アンタじゃ誰も救えないんだよ、おっさん……」
「……、私、は……」
じきに、音が絶えた。
●
もはやヒトとしての形を失った歪虚が緩やかにその姿を失っていく。
これまでの道程で見た消失とは異なる歪虚の死の光景を確認して、一同はシュリの元へと駆け寄っていく。
「あの子は?」
「……あいつなら、何処かにいきましたよ。地上に向かって」
「離れて……ってまあ、あの状況じゃ仕方ないか……」
ソフィアの問いに狼は憔悴した表情で言い、そのまま、シュリの状態を確認している聖導士――アルヴィンに尋ねる。
「シュリは?」
「……寝てるネ。少なくとも死んではイナイよ」
ヴォルフガングは視線を落としたまま、息を吐く。
――おやすみ。また、な。
少年の身には、色々なことが起こりすぎていた。休息を取る、というのなら、それも必要だろう。たとえソレが、どれほどのものになろうとも……。
最後に、クソ、と声が落ちた。少年は眠ったままのシュリの胸に拳を落とした。
「寝てる場合じゃねえぞ、シュリ……お前は俺に500万Gの借金があるんだからな……!」
●
その日、王国北部を中心に村人の失踪に関わった歪虚、フォーリ・イノサンティは討滅された。
配下の歪虚および付近の歪虚の掃討を終えたのち、このために編成された部隊は解散。同時に今回の事件において多大なる貢献を齎した武装は女王の命のもとに正式に封印された。
本件の指揮を取ったロシュ・フェイランドは勲功を辞し犠牲者などへの補償にあてるべく進言したという。
「碧剣」、ならびにシュリ・エルキンズの記録は王国歴1019年を最後に途絶えている。
王国歴1025年に姓が異なる同名の騎士が白の隊に所属した記録があるが、その後さしたる功績を取り上げることもなく、定年を迎えたのち退役した。
これが凶悪極まる歪虚の討伐に尽力した【最後の碧剣】と同一人物であるはずもない。
なにせ彼は、多額の借金を抱えていたという……白の騎士らしからぬ逸話の持ち主であるからして。
「面倒くせぇ」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)は乱雑に後頭を掻きながらそう零した。
月並みな他人の不幸自慢に過ぎない。ヴォルフガングにとって余計な事情が増えただけのこと。しかし。
「……よくある話にも、程が有るのでは?」
呟いたマッシュ・アクラシス(ka0771)に、男は怪訝げに眉を上げる。これまでと質が違う。そんな気がした。マッシュは歪虚に対しては苛烈な性質だと認識していた。たとえ歪虚が何を宣おうと、その一切を切り落とすような。
それが、どこか。
「…………」
――どこか、物憂げに見えたのだった。
面倒故に踏み込みはしなかったが……すぐにそれが、確信に変わる。
「うわ、だっさ。かっこ悪すぎでしょ……歪虚憎しで、自分も歪虚になるって」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)の声への、マッシュの反応を見てのことだった。
マッシュを横目に見ていたヴォルフガングは、それを見た。ソフィアの言葉を受けたマッシュの瞳に、憎悪に似た激情が宿る瞬間を。それはすぐに消えていったが、見過ごすわけにはいかぬとも感じられ。
適切かどうかは不明瞭なまま、ヴォルフガングはマッシュの背を叩く。
「なんと言ったらいいかわからんが……同情してる場合じゃないぞ」
「……同情?」
マッシュは無表情のまま、言葉をこぼす。
「同情……そう、ですか」
受けた言葉を反芻するように、そのまま押し黙った。ヴォルフガングはその様子をみて、やれやれ、と息を吐いたのだった。
ソフィアの言葉が響いたのは、彼だけではなかった。龍華 狼(ka4940)もまた、その一人だ。
当事者故に、知っていた。フォーリが歪虚に"なった"のは事実だ。けれど、歪虚を憎悪したからではない。あの日、あの場所で。狼たちのために犠牲になった。フォーリは善人だった。確かに、何かに苦しんでいるようでもあった。ソフィアの言に、違う、そうじゃない、と擁護したいとすら思う。
けれど。
――あんた……何やってるんだよ……。
それがこの、不出来な成れの果てであるならば。殺そう。消し去ろう。そうして初めて、フォーリを知るものとして、故人として弔おう。
眼の前の"歪虚"が何を企んでいようと、ここに在る限り冒涜は続くのだから……だから、狼は柄を握る手に、静かに力を込める。
――おっさんがどんな思いだったかわかってるのか……!
「イノサンティ卿の事はよく知らんが大物じゃあないか」
杖を構えたエアルドフリス(ka1856)はどこか芝居がかった風に言う。
「こんなのにシュリは付き纏われてたのかね、いやはや災難な事、だっ……?」
言葉を切ったのは、恋人にもみあげを引っ張られたからであった。突然の事態に目を丸くして恋人のほうを見ようとするが、思いのほか"彼"の握力が強く、毛ごと引き抜かれそうなほどであった。
「ぐっ……、ど、どうしたね、ジュード……?」
「エアさん……逆、逆……!」
歪虚を追っていたのがシュリ。追われながらも翻弄していたのがフォーリ。この因果を誤ると――些か気まずい。ともあれ、引き落とされたエアルドフリスの耳元で、ジュード・エアハート(ka0410)が小声で耳打ちしていた。長い付き合いだ。恋人がこういう時にキメたい性分なのもわかっている。しかし、時折間が抜けたことをするので、ジュードとしては気が抜けない。
ばかりか、そう。
……此度においては少しだけ、怒りを孕んでもいた。恋人の顔は見えないのではなく、"見せないようにしている"のだと気づき、エアルドフリスは咳払いをし、これまた声を抑えて「すまん……」と言う。すると、もみあげを握る力が緩んだ。
ふぅ、と息を吐く。そうして、大人の威厳を精一杯に飾り立てた伊達男の表情でシュリ・エルキンズへと向き直る。
「さて、シュリ。アレは少女に見えるが歪虚だ、解るね」
「……はい」
シュリの表情には、鬼気迫るものがあった。憤怒でもない。悲嘆でもない。そしてそれは――間違いではない、とエアルドフリスは思う。故に、魔術師は道を示し、その背を押す。
「そしてアレは司祭に見えるが歪虚だ、これも解るね……もう解ってるだろう? 魂はそれでいい、だが頭は冷やしておき給え」
言いつつ、エアルドフリスは碧色の剣へと目を落とす。少年を衝き動かしたその剣を。
「我々の声を聞くんだ、ジュードとヴォルフガングがあんたをフォローする。正念場だ……気張り給え少年」
「……は、い」
どれほどの"声"と戦っているのかは察して余りある。だからこそ、その応答は合格だった。これまでの道程は無駄ではないと感じられて。その横合いから、言葉がかけられる。
「今シュリさんの中にあるのは何ですか?」
ソフィアだ。少年の全身を、それから顔つきを眺めての問い。
シュリは表情をこわばらせたまま、こう返した。
「……わかりません」
「そうでしょうねえ」
素直でよろしい。中身が何であろうと、いい。何かがあるのだと、自覚さえあるならば。
「全部、吐ききってください」
シュリの背にそっと手を置いて前を見る。巨大な茨を背負う歪虚を見やる。
深い悔恨も。絶望も。憤怒も。それらすべてが、この場に置いては武器となる。
斬らずにはいられない、その情動は、鍛冶師であるソフィアには手に取るように見えている。
だから。
「君の鼓動(ねがい)で、剣を鍛つ(うつ)んだ」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は嗤い出しそうになっていた。
少年と碧色の剣が辿った数奇な運命。その結末に立ち会うにいたり、実に色々なものが透けて見える。
何より、少年は――既に選んでいる、と見えた。
猶予を与えたいなどとんでもない。事ここに及んで、あるいはフォーリの独白を受けて、少年の道と肚は、すでに定まっていた。
観察者として、分水嶺に立ち会えたことはこの上ない喜び。更には、波及するナニカも味わえ感無量。
だからこそ、仕事は果たすべきだろう。
ほら。じきに。
――戦端が、ひらく。
●
真っ先に駆け出したのはシュリだ。続いて、ヴォルフガング。
「……ッ!」
その後方から、少年の気迫が爆ぜた。狼だ。刀を振り抜くと同時、フォーリを中心に斬撃が発生。茨ごと包み込むように閃撃が爆ぜる。それと同時に、後衛――エアルドフリス、アルヴィン、ソフィア――からの後方火力が続く。
ジュードはそれを中衛の位置から見送った。彼の役目はあくまでも前衛の支援だ。その視線の先で、氷華が、銃撃が、そして高熱を含んだ光条がフォーリと茨を撃ち抜く。熟達のハンターたちの攻撃は茨をたやすく貫き引き裂いた。肝心のフォーリは左の手甲を掲げたまま、突貫してくるシュリ達を見据えている。
ソフィアの放ったガンマレイが、フォーリの手甲と交差。殷々とマテリアルが干渉しあう騒音が洞窟内に響き渡った瞬後、遅れて破壊音が響く。ハンター達の猛攻に、フォーリ周囲の地面が抉れ、破片となり散る。
騒音を追い抜くように、言葉。
「シュリ!」
少年の声だった。狼は振り抜いた刀を仕舞うと、
「思う所は沢山あると思うが、今はあのいけ好かない奴の顔面をぶん殴るぞ! 手は抜くなよ!!」
叫び、シュリの動向を見守ることはせずに左側方へと走り出した。
言葉を受けたシュリもまた、振り返ることはなかった。
「ァ……ッ!!!」
疾駆したシュリがフォーリの眼前へと到達。メイスと直剣の間合いはほぼ同等。故に、交差が生まれる。呼気と共に放たれた連撃のいずれをもフォーリは手甲で受け、弾いた。そのまま、泳いだ体に向けてメイスを打ち下ろす。
――衝撃は、重く、深く。
シュリは剣でなく、フォーリ同様に左腕を掲げることで受けた。肉が潰れ、アカイロが咲く。しかし、動きは留まることなく、右から片手一本での切り上げが応じた。左手は本命である反撃の一撃の切り上げにつなげるための、敢えての被弾。引き換えに放たれた爆発力のある斬撃が、フォーリの体躯をずらりと裂いた。
隙と見たヴォルフガングが、追撃に動く。左手は防御が固いと見え、フォーリの右側へと回ったヴォルフガングは大きく槍を引き、半身になった体のまま大地を蹴り抜く。
「おらァ!!」
人槍一身。練り上げられたマテリアルが穂先から走り、茨ごと撃ち抜いていく。間合いの都合で壁を抉ることは能わなかったが――。
「硬ぇな……」
手応えに、受けられたと知る。ばかりか、はっきりと視認できるようになると、フォーリの体に傷一つないことが見て取れた。シュリが斬った傷に加え、引き裂かれたはずの装具ですらも、元通りだ。
「……随分な化物ぶりだ」
「ええ。ですがまだまだ、足りていません」
微笑みをもって応じるフォーリに、皮肉を言ったはずのヴォルフガングが舌打ちを零す。
――見た目通り、ってわけでもないのかな。
再生、とも若干毛色が異なる経過に、前衛の動きに合わせて銃撃を重ねたジュードは、”そういう”方向かあ、と得心していた。聖導士は固く崩しにくい。想起するのは、戦友でもある聖導士の少女だ。彼女もまた、仲間を背負うべく前に立ち、耐えることで味方を自由にし、勝機を引き寄せていた。
フォーリの場合は聖導士というには、歪虚……しかも人外の方向に振れてしまっているように思うが、本質は似ているように見える。受け止め、耐えて、後続へと続ける。
対する、ジュードが成すべきは至極シンプルだ。攻撃を的確に重ねる。シュリとヴォルフガングの攻撃に合わせて、少しでもダメージが深まるように。雨垂れが岩を穿つように、勝機を掴むまで。
問題は、フォーリにとっての矛の存在であり。
――それが"茨"なのかな。
ジュードの眼前。フォーリの両翼から、ゆっくりと茨が振るわれていく。
大きい。エアさん、大丈夫かな……と思う間もなく、破壊が振るわれた。
●
後背に、いやに重たい気配を感じる。
「お、わわわわわ……っ!」
一発を入れた狼はすぐに反転して疾走していた。狙いは「少女」である。影となって迫っているのが自分を狙ってのことなのかわからない。しかし、この「少女」から目を離すのも危険極まるのでそれもできない。
「じっとしてろよ……!!」
体当たりをするようにして、少女を抱えあげる。軽い。あまりにも。
歪虚だ、と思うと怖気が走るが、少女は無抵抗であった。状況の推移についていけていないのか、ぼんやりと周囲の騒動へと視線を巡らせている。
問題は影だ。どう考えても茨が迫っている。
「――どうぞ、お先に」
そこに、マッシュが言葉をかけた。茨が向かう先を見て、ついでにビビりまくる少年への配慮を見せた形だ。
振り落とされる茨は、まっすぐに後衛をめがけてのもの。それはまあ、そうだろう。シュリはフォーリ本体へと向かっている現状、最大火力は後衛のこの面々だ。
フォーリとしても、そしてマッシュ達としても後衛の存在は要だ。アルヴィンという唯一の治療手の存在もある。
「やれやれ……」
マッシュが突出をしなかったのはそのためだった。
間に立つマッシュは降り落ちてくる茨を強引にマテリアルをもって引き寄せる。質量が暴力となって振るわれる。大重量によって洞窟が軋むほど。それを、マッシュはその身で受け止めきった。
追って、もう一打。
「…………っ、これは、中々…………」
鎧にマテリアルを巡らせてはいたが、それでも重い。後衛に流すのは難しいか。
「おお、っと……大丈夫カナ?」
「もう一打程度であれば……です、が」
想像以上の惨事に負傷の具合を問うアルヴィンに、振り返ることなく、マッシュは応じた、が。
「いやはや、中々骨が折れますね」
「だよネ〜」
アルヴィンはにへらと嗤いながら、フォーリと茨の全容を眺める。先程の再生の具合。過去の雑魔どもの「消失」。フォーリが【狂気】の歪虚だとして、これまでの総和が眼前の茨だとするならば、重戦士たるマッシュを撃ち抜くのも納得がいく。
思ったことは、二つ。
できることなら浴びたくない。マッシュには是が非でも頑張っていただきたい。
もう一つ。
――やーっパリ、持久戦だネ……。
●
戦場の気配を背に、少女を抱えた狼は走る。同時に室内を検めた。横道や隠し扉など裏口といえるようなものはないか。
事実、小さな戸はあった。あるいは茨によってできた、”穴”もある。狼は直接的にフォーリと茨を攻撃することは控え、それらの不確定要素を次元斬で出入り口を削っていく。
「このくらい、か……?」
言いながら、片手に抱え上げた少女を見下ろした。見覚え、なし。敵意、なし。
とはいえ、背徳的な姿には違いはない。その造形は紛れもない歪虚のそれで、瞳には感情は宿っているように見えるものの、それが理解の及ぶものとは限らない。
しかし、だ。この少女を、フォーリとシュリ、双方に近づけることは危険と考えた。だから、手も注意も離さない。
「あとは……」
ちら、と、少年が見据えたのは――壁に刻まれたアートグラフ。あれが、どうにも気になる。何かはわからないのだが、引っかかるものがある。
胸騒ぎに対して、どうすべきか。少年は寸時、思索し……よし、と。改めて刀を握り締めたのだった。
―・―
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん――鎖せ!」
朗々たる響きとともに、紡がれたマテリアルが氷雪を礎とした魔術となり顕現。フォーリを中心に、両翼たる茨を抉る。高位の魔術師たるエアルドフリスの魔術は、この場において一等高い火力を誇る。
――確かに、削れているのだろう、が。
内心で吐き捨てる。その魔術をもってしても、持久戦に引きずり込まれるということに。
――どれだけその身に取り込んだ。
イノサンティ卿、などと先程は嘯いて見せたが、内心には焔が踊る。興りはどうあれ、眼前に積み上げられた茨を成すのは紛れもなく非道の所業だ。斟酌の余地はない。
この茨、換言すれば、死してなお巡り損ねた虚の溜まり、とエアルドフリスは見た。
ゆえにこそ、一刻も早く削りきりたいとも思う……のだが。
ちらと見える、狼が見当違いの場所に向けて次元斬を放っている光景。最接近しているシュリ、そしてヴォルフガングを巻き込むリスクを踏まえると扱いにくいのはわかるのだが――と、その斬撃の先を見て、得心がいった。
正体不明の、壁に刻まれた紋様を次元斬で抉ろうとしているようだった。有効かどうかという観点では材料が不足しているため判断し難いし、消耗戦になっている現状を踏まえるとどうか……と、考えなくもない。
しかしまあ、若人が頑張ろうとしている、というだけでも天秤は傾き、特別指摘はしなかった。最終的に利があれば、なおよい。
それに……。ジュードがフォーリに傾注している。想いの終着点がこの戦場であるならば、彼らの意を汲むこともまた、年長者の務めだろう。
だからこそ、温存することは選ばずに秘儀を打ち込み続ける――。
●
シュリの猛攻の合間を縫うように、幾度目かの刺突を放つヴォルフガング。
またも的中。フォーリは回避行動を取ることはない。ただただ受けて、いなす。負った傷は慮外の再生力に任せたきり。その戦槌が振るわれる先はシュリに固められている。ヴォルフガングには目もくれず。
どうにも、面白くない。涜神的で、狂気的な行いばかりが目につくが、フォーリの過去の行いからみるに、その本質は合理のはず。ヴォルフガング自身が、自らもある程度は狙われる想定で戦場に立っている。しかし、だ。
――なのに、落とせる駒から落としにいかない、というのはどういう了見だ……?
シュリもまた、自己再生によって自ら負傷を癒すことで継戦能力には終わりが見えない。「茨」がその構造上、中後衛のほうが攻撃しやすいこと、厚い後衛火力を落とせた場合、戦場をより優位に持ち込めることを考慮すると、茨が後衛を狙い続けることはわかる。
この間合いで、ヴォルフガングよりもシュリを優先する理由は――思い至らない。
――シュリ自体の消耗を狙っている、のか?
「シュリ。飛ばしすぎるな」
「……っ、」
カウンターアタックでの一撃は強力無比だが、一方でシュリ自体への負担も多い。フォーリの意図を読み切ることは困難だが、”何か”が潜んでいる、という予感がある。
「先は長い。お前が倒れたら総崩れだ」
「……は、い……!」
最大火力を、最大効率で。そう突き動かされているであろう少年を留めることに利があるかは――わからない。だが、フォーリにはこれまでの実績がある。シュリを翻弄し続け、フォーリが望む形へと落とし込んだ、という。
果たして、懸念に過ぎないそれをシュリは受け入れたのだった。攻勢を崩すことはないが、敢えて一撃を受けるような行いは控える。
これがどう転ぶかは、分からない。
不穏を孕んだ戦局は――やがて、強引に推し進められることとなる。
●
「……曇ってますねえ」
先行きを見越しての、ソフィアの言だった。大技を切るにしても、未だ動向は定まっていない。
「そだネー……ウーン……?」
全身鎧の中身がどうなっているか若干不安を覚えなくもないが、殴られ続けるマッシュに幾度目かのフルリカバリーを届けたアルヴィンが応じる。
ハンターたちの切り札という意味で、ソフィアとアルヴィンの動勢は一つの肝となる。それ故に自らの身の振りかたが難しいのでもあるが……。
――碧剣が邪魔、だから、使い手を潰す。
とまれ、アルヴィンは思索する。シュリに追われ、その目からついに逃れたフォーリが、決戦場として準備を進めた場所がここだ。彼自身が目的を果たすため、その手段としてゲリラ的活動に徹するにあたり、邪魔となるシュリの探査能力――つまり碧剣を、ここで破壊すること。
だからこそのシュリ狙い。そこまでは良いはずだ。矛盾はしない。
フォーリは慮外の再生能力を盾として戦闘を継続している。その”代償”は想像に難くはない――が、だからこそ、気にかかる。シュリの心理的動揺を期待するならば既にそれは明かされてしかるべき。アルヴィンですら、慮って”敢えて”触れていないのだから。
碧剣を潰すために。
今、フォーリは何をしている……?
疑念は深まるばかり。戦歴から来る予感が、警鐘を鳴らしている。
そして。
ソフィアが放ったガンマ・レイが、フォーリと茨を焼き貫き、
エアルドフリスが紡いだ魔術が紫電となって奔り、茨を打ち、
マッシュが伸びた茨を、刺突一閃で貫き落とし――、
―・―
フォーリは微かに目を曇らせ、
「――仕方がないですね」
至近でシュリと相対していたフォーリがぽつり、と呟き、
―・―
「気をつけて! 何かが……!」
誰かの声が響いた、瞬後の事だった。
洞窟全体が鳴動し、そして――戦場となった洞窟の只中を、紫光が埋め尽くした。
●
「……、ぁ、……、っ!」
伸し掛かる重い倦怠を自覚しながら、ソフィアは激しい光に眩んだ瞼を強引に開く。
焼かれた目に映し出された光景は朧だ。しかし、破壊を示すようなものは、なにもない。噴煙も、何も――ありはしない。
彼女の双眸が捉えた異常は二つ。
周囲を取り囲み、今消え去ろうとしている、暗紫色のマテリアルの霧。
そして――ハンターたちを覆うように広がる、碧色の円陣。浄化陣のような、それ。その二つは拮抗し、様々な光を散らしながら明滅している。それはとても、見覚えのある光景で。
――負の、マテリアル……ってこと……?
状況把握を続けながら流れるように彼女は武器を取る。周囲のハンターたちも同様だった。
依然、何が起こったかは定かではない。だが。
”敵”はまだ、そこにいる――!!
最前。揺らぐ視界の中で大柄な男が立ち上がり、疾駆を始めた。その先に、何かを杖代わりにしていた小さな姿が見えた。少女のように細い立ち姿の持ち主が銃をかざす。自分の横に立つ男が、魔術を紡ぐ。
その奥。紫煙の中に巨大な茨を背負った影が、戦鎚を振り上げている。
何が起こったかも、現状も判然としない。けれど、それだけで、十分だ。
「……させ、るわけ……!!」
ソフィアは手にした魔導銃を高く掲げ、咆えたてた。余裕の無さが、彼女の気性を顕にする。
「ねえだろうがボケェ…………ッ!!!!」
彼女が手にした星神器から茫漠なマテリアルが吐き出される。狙いは不十分。けれど、当たる。当ててみせる。
光輝が爆ぜた。紡がれるはラヴァダの光条――浄化の神槍だ。
「あァ、……ッ!!」
咆哮のまま、撃ち抜いた。必滅の意志で放たれた光条が、両翼の茨、中央の人影を違わず穿つ。
「――まさか、こんな形トハ思ってなかったケド……!」
光爆に続いて、アルヴィンは星神器「クラヴィクラ・サロモニス」を開いた。瞬後、周囲の碧光と紫煙ごと飲み込むように聖光が降り注いだ。酩酊感が消え失せていく。そのことにひとまずの安堵を得ながら、アルヴィンは状況を整理していく。
異変の正体は唐突に湧いた超高密度な「負のマテリアル」に間違いない。
「腹の中、とは比喩でもナカったンだネー……」
道中で消えていた歪虚の遺体は、眼前のフォーリに吸収されていたものだとばかり思っていた。
見落としていた。
なぜ、道中に負のマテリアルの気配が乏しかったのか?
なぜ、唐突に負のマテリアルの気配が溢れだしたのか?
なぜ、ただの人が、負のマテリアルで身を崩すこと無く、絶望の裡に歪虚に変じるまでの猶予を得られたのか――?
かつて、ベリアルの成れの果てと行動をともにしていた覚醒者ですら、体調を崩し前線への復帰は叶わなくなったほど。しかし彼は歪虚に堕ちたわけではない。ただの人が、正しく狂うことができる程度まで負のマテリアルを希釈しなくてはならなかったはず。そのために、フォーリが取った手があったはずで。
それは――。
「……やっぱり、エメラルドタブレット……!」
ジュードは直感視を併用しながら、照準を戦鎚にあわせる。振り下ろされる勢いを、わずかでも落とす。
道中。状況が類似していた、と。そう思っていた。
それもそのはずだ。
オーラン・クロスという【法術陣】の専門家の実験に、生前のフォーリは関わっていた。
「貴方は法術陣の記憶を足がかりに、不出来な陣を作ったんだ……!」
●
紫煙が晴れていき、視界が拓かれる。動きは止まらない。未だ危機は逃れていない。
ヴォルフガングは疾走を続ける。状況への理解は未だならず。
それでも、見えていた。
視界が閉ざされる瞬前にシュリが碧剣を地面に突き立てたこと。絶叫しながら己の身を包んでいた碧色のマテリアルを押し広げたこと。
爆光に飲まれたあと、その朧な視界の中にたつ、弱々しい少年の姿が、見えていた。
「オォ……ッ!」
疾駆する。そうしてジュードの銃撃を猶予に得て、フォーリと少年の間に立つ。迅雷の構えは無用。禍炎剣をかざし、振り下ろされたフォーリの戦鎚を受け止め――たまらず、膝をつく。
「させ、ねえぞ……」
反撃の余力もなかった。今動こうものなら、無防備に崩れ落ちたシュリがどうなろうか。
事ここに及び、ハッキリと理解した。フォーリは、シュリ・エルキンズの”これ”まで予知していた。この場に踏み込んだハンターが負のマテリアルに呑まれ倒れたとき、それらを護ってしまう性質を。
「ガキ一人に随分と女々しいじゃねえか、ああ!?」
「餓鬼、とは結構ですね。その剣は万夫不当の狂戦士を生む魔剣です。あなた達もご存知のはずでしょう?」
吠えたヴォルフガングに対し、フォーリの表情はピクリとも動かない。無熱にして無情な、蟲のような声の音で、こう結んだ。
「さあ、後はあなた達を始末して、その少年を殺せば――この長い足踏みも終わりです」
●
言葉についで降り注ぐは巨大な茨。
マッシュには、十分に理解できていた。フォーリの計算も、心算も、現状も――想いも十全に理解できてしまう。
マッシュは復讐者だった。フォーリと同様に。
手段を選ばずにできる限りのことを果たそうとしたフォーリ。対して自分はどうだ。未だに燻り続ける熾火で胸を焦がすだけの、なり損ない。
いっそ、彼の想いをやり遂げさせてはどうか。そんな感情すらも湧き、肯定しそうになる、が。
「ですがそれは……それは、駄目、でしょうね」
最後のガウスジェイルを切る。マテリアルによって引き寄せられた茨は、後衛達を避けて、自らへと降ってくる。
その衝撃に揺さぶられながらマッシュは――笑った。口の端を釣り上げるようにして。
――いやはや、なんと……烏滸がましい。
切り返すようにして奏機剣を振り抜く。受け止めていた茨は、嘘のようにたやすく落ちていく。星神器の権能が、フォーリ・イノサンティという【歪虚】の身を縛った証だった。
同時に、フォーリの動きが強ばる。自らの変調に気づいたように。そして――何かに、気づいたように。
フォーリの誤算は集うたハンター達の練達ぶりであろう。星神器持ちが二人いて、状況を一気に引きもどした。さらにはと、少年の姿を探す。
彼の「紋様の破壊」は一定の効果があったのではないか、とも。
いずれにしても。
もう、わかってしまった。一人の復讐者の物語が、此処で終わるのだと。
●
予想外の自体に叫びだしそうになり、”彼"の安全を確認できた時、魂消るほどの安堵を得……すぐに悔恨を抱いた。崩れ落ちるシュリの姿が、視界を焦がし、少年の声が耳朶を打つ。
「……シュリ!!」
狼だ。絶喚のような声が洞窟に反響する。
「――、退け……ッ!」
綯い交ぜになった感情のまま、ようやく紡いだ単節。身に染み付いた魔術が違わず発現し、マテリアルの光芒がフォーリと茨を貫く。
剣に操られている?
とんでもない! 少年は自ら、己の道を貫いたではないか……!
「――我均衡を以て均衡を破らんと欲す……!」
すぐさま、次の魔術を編み上げる。遅滞はない。もはや、動揺もなかった。
「…………」
悔やんでも、悔やみきれない。けれど、心は凪いでいた。
シュリ・エルキンズは、どうしようもなく、シュリ・エルキンズだった。
少年に護られたという実感が……これまでの道程が、ジュードの動揺を強烈に抑え込んでいた。
シュリは、復讐者にはならなかった。土壇場で違う決断を下した。それだけで……十分だった。
「フォーリ・イノサンティ」
狂気に堕ちた。強さを求めた。
そうして成し遂げたいものがあったと、歪虚は言う。
けれど。
「俺は……貴方を絶対に認めない」
断言と共に、天井へと拳銃を向ける。
人間は不出来で、弱く、至らないことばかりだ。けれど、合理を突き詰めた非人道は――狂気は、裁かれなくてはいけない。
その病は、人を傷つけるものだから。
「その狂気を、撃ち砕くよ」
天井へ向け、引き金を引いた。軽い銃声。続いて、洞壁を弾く軽い音が幾重にも重なる。
「ですが」
放たれた銃弾を追うように、フォーリもまた、天を仰いだ。
「だが、それでは、誰が、」
――着弾は軽く響く。衝撃も、また。
しかし、眼窩を貫き、頭蓋を弾いた弾丸にフォーリの体が揺れる。血は流れることはない。ただ、湧いた茨が傷を埋めていく。
ハンターたちの攻撃は止まらず、歪虚の体を抉りつづける。フォーリは――理解していたのだろう。決着は、とうに付いていたことを。故にフォーリはもはや攻撃の意志を示すことなく、うわ言のようにつぶやき続ける。
全身を、茨へと変じていきながら……。
「誰が、妻を……あの子を……」
「――エクラは誰も救わない。あの聖女が言ってた言葉だったよな」
フォーリだったもの。その胸部に、狼は緩やかに「祓魔」の名を冠した短剣を差し込んでいく。
「アンタじゃ誰も救えないんだよ、おっさん……」
「……、私、は……」
じきに、音が絶えた。
●
もはやヒトとしての形を失った歪虚が緩やかにその姿を失っていく。
これまでの道程で見た消失とは異なる歪虚の死の光景を確認して、一同はシュリの元へと駆け寄っていく。
「あの子は?」
「……あいつなら、何処かにいきましたよ。地上に向かって」
「離れて……ってまあ、あの状況じゃ仕方ないか……」
ソフィアの問いに狼は憔悴した表情で言い、そのまま、シュリの状態を確認している聖導士――アルヴィンに尋ねる。
「シュリは?」
「……寝てるネ。少なくとも死んではイナイよ」
ヴォルフガングは視線を落としたまま、息を吐く。
――おやすみ。また、な。
少年の身には、色々なことが起こりすぎていた。休息を取る、というのなら、それも必要だろう。たとえソレが、どれほどのものになろうとも……。
最後に、クソ、と声が落ちた。少年は眠ったままのシュリの胸に拳を落とした。
「寝てる場合じゃねえぞ、シュリ……お前は俺に500万Gの借金があるんだからな……!」
●
その日、王国北部を中心に村人の失踪に関わった歪虚、フォーリ・イノサンティは討滅された。
配下の歪虚および付近の歪虚の掃討を終えたのち、このために編成された部隊は解散。同時に今回の事件において多大なる貢献を齎した武装は女王の命のもとに正式に封印された。
本件の指揮を取ったロシュ・フェイランドは勲功を辞し犠牲者などへの補償にあてるべく進言したという。
「碧剣」、ならびにシュリ・エルキンズの記録は王国歴1019年を最後に途絶えている。
王国歴1025年に姓が異なる同名の騎士が白の隊に所属した記録があるが、その後さしたる功績を取り上げることもなく、定年を迎えたのち退役した。
これが凶悪極まる歪虚の討伐に尽力した【最後の碧剣】と同一人物であるはずもない。
なにせ彼は、多額の借金を抱えていたという……白の騎士らしからぬ逸話の持ち主であるからして。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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装備やスキルなど シュリ・エルキンズ(kz0195) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/10/19 10:43:00 |
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冬の狩り 第4日 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/10/23 00:05:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/10/20 12:51:33 |