ゲスト
(ka0000)
【星罰】表、或いは裏
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/11/06 19:00
- 完成日
- 2019/11/18 12:30
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「グリューエリンって綺麗になったよね。もともと可愛かったけれど、最近は特にそう。なんだか、綺麗なの」
●戦いの後(1)
暴食王ハヴァマールは討たれ、数時間が経過した。
クレーネウス・フェーデルバールは歌舞音曲部隊としての仕事をはじめようとしていた。
(皇帝陛下も瓦礫の下敷き。この国は変わる。変わってしまう。そこに感傷があるわけではないが、今はやるべき仕事があることにほっとしている自分がいるのは不思議だな)
クレーネウスの隣には特製スピーカーを積んだ魔導アーマーがある。このスピーカーからグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の歌を響かせて、ハヴァマールに由来する負のマテリアルの残滓を浄化するのだ。帝都民がここでまた生活するためにも、彼らが帰還する前にやっておかなければならないことだ。
魔導アーマーの操縦はクレーネウス自身が行う。
クレーネウスはグリューエリンを待ちながら、大柳莉子に言われたことを思い出していた。
●昔話
ちょっと前に、クレーネウスはブレンネ・シュネートライベン(kz0145)が働いている酒場に客として私服で行った。
ステージで行われたブレンネのライブは、アイドルとは別種の熱量が迸っていた。
ライブ後、給仕として働いているブレンネに聞いた。
「あの歌は誰が作ったんだい?」
「曲はあたしと、あのピアノを弾いているヴィレムって人。歌詞はあたしが書いてるの」
「そうか、うん。いい歌だったよ。頑張り給え」
素性を隠して、クレーネウスはブレンネにエールを送った。良いものだと思ったからだ。
「そりゃどうも、クレーネウスさん」
「……俺の顔、覚えてたんだ?」
「まあね。そのくらいは覚えているわよ。……莉子なら控え室にいるから呼んでこようか?」
「いや……、彼女も忙しいだろうし──」
「あのさ」
クレーネウスの言葉をブレンネが遮った。
「昔は莉子がアイドルで、あんたがプロデューサーで、このアイドルって概念も知らない帝国でアイドルとして活動してたんでしょ? それが鳴かず飛ばずで、2人は解散。莉子は酒浸りでハンター業で日銭稼ぎ。クレーネウスさんは軍に志願して離れ離れ」
「詳しいじゃないか……」
「あたしとグリューエリンがそうだったけど、わだかまりがあるまま別れるのって後味悪くない? お節介かもだけど、クレーネウスさんと莉子も会えるうちに会ってもやもやしたものを解消できるならすればって思うわけ。それじゃ、莉子連れて来るから」
そんなこんなでブレンネが莉子を引っ張ってきてクレーネウスの隣に座らせた。
久々に近くで見る莉子は大人になっていた。少女の面影は消えて、怜悧な輝きをまとった美貌は女性のものだった。
クレーネウスには莉子をアイドルとして成功させられなかった負い目があった。そしておそらく、莉子にも売れるアイドルになれなかった負い目がある。
クレーネウスは気まずい沈黙を埋めるため、ふと疑問に思っていたことを発した。
「グリューエリンは最近綺麗になったって言われるんだ」
「……実を言うと、私もそう思うわよ」
思いの外、莉子は軽やかに話を受けた。だからクレーネウスも続けた。
「でも、どうして今になってそんなことを言われるのだろうと思う。きっかけはあったと思うけど、なぜそれがきっかけ足り得るのかわからないんだ」
グリューエリンへのこういった評価が囁かれはじめたのは、SSSと夕凪 藍との一件、ヴァルファー家のことがあった後だった。だが、クレーネウスにはそれがきっかけになる理由がわからなかった。
「私の憶測でよかったら話すけど」
莉子の言葉の続きを、クレーネウスは黙って促した。
「化粧をするためには鏡を見ることが必要なのよ。鏡を見ると自分の顔が写っている。私は自分の顔が好きじゃなかった。目つきがきついし、眉が薄くて意地悪な感じがするから。化粧をすれば可愛い顔になるわけだけど、それをするには自分の顔の嫌な部分をきちんと見つめなきゃいけない。嫌なものをちゃんと知った上で覆うのが大事なの。……だからグリューエリンも、そんな自分の嫌な部分や汚い部分を知って、それを無視せずに周囲にはうまく隠して振る舞いはじめた。それが綺麗になったことの理由だと私は思うわよ」
「そういうものかね」
「自分自身が汚れていると感じても、周囲が見たい綺麗な振る舞いをする。強いわね、彼女は。とってもアイドルしてる」
●戦いの後(2)
「部隊長、お待たせしました」
インカムの調子が整ったのでグリューエリンがやってきた。
これからハヴァマールが通った後を辿って歩き、歌を歌ってマテリアルを浄化する。ただ、彼の強烈な負のマテリアルに当てられて雑魔が発生しているので、戦闘要員としてハンターを呼んである。
「ハンターの方々。今回もよろしく頼むよ」
クレーネウスが魔導アーマーに乗り込む。
グリューエリンはそれには乗らず、歌いながら歩く予定だ。途中休憩を挟む必要があるだろう。その時には、ハンターたちとゆっくりおしゃべりできるはずだ。
「じゃあ、行こうか」
傾いた太陽が橙に空を染めていた。
夜はもう直ぐやってくる。
●夕映え行進曲
橙色の空の下、歌声とともに行進を開始する。
夕日の色とグリューエリンの髪の色は似ている。赤い光線が、彼女の髪にどこか凄まじい陰影をつけていた。
(陛下はご自身を使ってまで、暴食と決着をつけた)
軍人として帝国貴族のひとりとしてグリューエリンもヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)の決定と行動を受けて止めていた。
彼女にはヴァルファー家の跡取りとしての自覚はある。だが、父親の真実を知って以来、ただのグリューエリン自身はどう考えるのか、そういう個人としての領域が広がりつつあった。これはフリーセンへの悪感情によって、彼女が無意識に殺してきた部分だった。そこには自分で自分を嫌だと思うところもあり、良いと思うところもあった。
思えばアイドルとしてスカウトされた時、歌うことを軟弱だと考えたのは、それが『ヴァルファー家のグリューエリン』には不必要だったからだ。
だが、『ただのグリューエリン』は歌うことが好きだった。
そして現在はアイドルとして歌っている。
(私もいつか終わってしまうのかな)
グリューエリンの歌は瓦礫のステージ、人のいない廃墟に似た帝都に響いていた。
(もしかしたら自分で終わる瞬間も選べないのかもしれない)
(でも、夢や希望、愛とか素敵なものが続いて欲しいと思うのです)
(だから私、──アイドルでいますわ)
まだ今のことだけで精一杯の彼女は、悪い足場での躓きを軽やかなステップの中に隠した。
●戦いの後(1)
暴食王ハヴァマールは討たれ、数時間が経過した。
クレーネウス・フェーデルバールは歌舞音曲部隊としての仕事をはじめようとしていた。
(皇帝陛下も瓦礫の下敷き。この国は変わる。変わってしまう。そこに感傷があるわけではないが、今はやるべき仕事があることにほっとしている自分がいるのは不思議だな)
クレーネウスの隣には特製スピーカーを積んだ魔導アーマーがある。このスピーカーからグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の歌を響かせて、ハヴァマールに由来する負のマテリアルの残滓を浄化するのだ。帝都民がここでまた生活するためにも、彼らが帰還する前にやっておかなければならないことだ。
魔導アーマーの操縦はクレーネウス自身が行う。
クレーネウスはグリューエリンを待ちながら、大柳莉子に言われたことを思い出していた。
●昔話
ちょっと前に、クレーネウスはブレンネ・シュネートライベン(kz0145)が働いている酒場に客として私服で行った。
ステージで行われたブレンネのライブは、アイドルとは別種の熱量が迸っていた。
ライブ後、給仕として働いているブレンネに聞いた。
「あの歌は誰が作ったんだい?」
「曲はあたしと、あのピアノを弾いているヴィレムって人。歌詞はあたしが書いてるの」
「そうか、うん。いい歌だったよ。頑張り給え」
素性を隠して、クレーネウスはブレンネにエールを送った。良いものだと思ったからだ。
「そりゃどうも、クレーネウスさん」
「……俺の顔、覚えてたんだ?」
「まあね。そのくらいは覚えているわよ。……莉子なら控え室にいるから呼んでこようか?」
「いや……、彼女も忙しいだろうし──」
「あのさ」
クレーネウスの言葉をブレンネが遮った。
「昔は莉子がアイドルで、あんたがプロデューサーで、このアイドルって概念も知らない帝国でアイドルとして活動してたんでしょ? それが鳴かず飛ばずで、2人は解散。莉子は酒浸りでハンター業で日銭稼ぎ。クレーネウスさんは軍に志願して離れ離れ」
「詳しいじゃないか……」
「あたしとグリューエリンがそうだったけど、わだかまりがあるまま別れるのって後味悪くない? お節介かもだけど、クレーネウスさんと莉子も会えるうちに会ってもやもやしたものを解消できるならすればって思うわけ。それじゃ、莉子連れて来るから」
そんなこんなでブレンネが莉子を引っ張ってきてクレーネウスの隣に座らせた。
久々に近くで見る莉子は大人になっていた。少女の面影は消えて、怜悧な輝きをまとった美貌は女性のものだった。
クレーネウスには莉子をアイドルとして成功させられなかった負い目があった。そしておそらく、莉子にも売れるアイドルになれなかった負い目がある。
クレーネウスは気まずい沈黙を埋めるため、ふと疑問に思っていたことを発した。
「グリューエリンは最近綺麗になったって言われるんだ」
「……実を言うと、私もそう思うわよ」
思いの外、莉子は軽やかに話を受けた。だからクレーネウスも続けた。
「でも、どうして今になってそんなことを言われるのだろうと思う。きっかけはあったと思うけど、なぜそれがきっかけ足り得るのかわからないんだ」
グリューエリンへのこういった評価が囁かれはじめたのは、SSSと夕凪 藍との一件、ヴァルファー家のことがあった後だった。だが、クレーネウスにはそれがきっかけになる理由がわからなかった。
「私の憶測でよかったら話すけど」
莉子の言葉の続きを、クレーネウスは黙って促した。
「化粧をするためには鏡を見ることが必要なのよ。鏡を見ると自分の顔が写っている。私は自分の顔が好きじゃなかった。目つきがきついし、眉が薄くて意地悪な感じがするから。化粧をすれば可愛い顔になるわけだけど、それをするには自分の顔の嫌な部分をきちんと見つめなきゃいけない。嫌なものをちゃんと知った上で覆うのが大事なの。……だからグリューエリンも、そんな自分の嫌な部分や汚い部分を知って、それを無視せずに周囲にはうまく隠して振る舞いはじめた。それが綺麗になったことの理由だと私は思うわよ」
「そういうものかね」
「自分自身が汚れていると感じても、周囲が見たい綺麗な振る舞いをする。強いわね、彼女は。とってもアイドルしてる」
●戦いの後(2)
「部隊長、お待たせしました」
インカムの調子が整ったのでグリューエリンがやってきた。
これからハヴァマールが通った後を辿って歩き、歌を歌ってマテリアルを浄化する。ただ、彼の強烈な負のマテリアルに当てられて雑魔が発生しているので、戦闘要員としてハンターを呼んである。
「ハンターの方々。今回もよろしく頼むよ」
クレーネウスが魔導アーマーに乗り込む。
グリューエリンはそれには乗らず、歌いながら歩く予定だ。途中休憩を挟む必要があるだろう。その時には、ハンターたちとゆっくりおしゃべりできるはずだ。
「じゃあ、行こうか」
傾いた太陽が橙に空を染めていた。
夜はもう直ぐやってくる。
●夕映え行進曲
橙色の空の下、歌声とともに行進を開始する。
夕日の色とグリューエリンの髪の色は似ている。赤い光線が、彼女の髪にどこか凄まじい陰影をつけていた。
(陛下はご自身を使ってまで、暴食と決着をつけた)
軍人として帝国貴族のひとりとしてグリューエリンもヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)の決定と行動を受けて止めていた。
彼女にはヴァルファー家の跡取りとしての自覚はある。だが、父親の真実を知って以来、ただのグリューエリン自身はどう考えるのか、そういう個人としての領域が広がりつつあった。これはフリーセンへの悪感情によって、彼女が無意識に殺してきた部分だった。そこには自分で自分を嫌だと思うところもあり、良いと思うところもあった。
思えばアイドルとしてスカウトされた時、歌うことを軟弱だと考えたのは、それが『ヴァルファー家のグリューエリン』には不必要だったからだ。
だが、『ただのグリューエリン』は歌うことが好きだった。
そして現在はアイドルとして歌っている。
(私もいつか終わってしまうのかな)
グリューエリンの歌は瓦礫のステージ、人のいない廃墟に似た帝都に響いていた。
(もしかしたら自分で終わる瞬間も選べないのかもしれない)
(でも、夢や希望、愛とか素敵なものが続いて欲しいと思うのです)
(だから私、──アイドルでいますわ)
まだ今のことだけで精一杯の彼女は、悪い足場での躓きを軽やかなステップの中に隠した。
リプレイ本文
●
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の歌が瓦礫の街に響いていた。
(投票で私は継戦を強く推した。その結果がこれだ)
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、自分の選択とその結果を見つめていた。
(帝都。所領に次いで慣れ親しんだ第二の故郷の姿は、もうない)
悔恨ではないが、その選択がもたらしたものは見ておきたかった。
ただ耳に馴染んだメロディだけが、ここも戦場だったと訴える。
暴食王との決戦は終わった。歪虚との因縁が決着した。これからどうしようか──と考えるのだが、アウレールの胸にあるのは得も言われぬ虚脱感であった。
ハヴァマールの負のマテリアルにあてられて、歪虚になったモノをハンターは刃で斬って落とす。
(二年前のあの時から、これは私の物語になった)
(私の道行を記す文字は、紛れもなく私の足跡だ)
抑々、アウレールがこの世界に身を投じたのは父の影を追っての事だった。彼は、革命に加わり、何も語らず、妻子を置いて北伐に消えた。
アウレールにはそんな父への反感もあったのかも知れない。
戦争の残り火に触れる度、身内の罪を償う意識は確かにあったのだ。もし再会が叶ったなら何と声を掛けただろうか。
そんな追想も、今や遠い朝靄の彼方となってしまった。
(だから、この光景は父の罪でも歪虚の業でもなく私の罪だ)
(背負った重荷が、けれどどこか心地よい)
信ずるがままに駆け抜けて、信ずるがままに駆け抜たからこそ、背負ったものがある。
「父様も、剣豪も、陛下も先帝も御父上も誰もかも、皆ここを通り過ぎていったのだろうか──」
すでに別れた物語。もうここからは追えぬ文字の先にいる者たちをアウレールは思い浮かべる。
「そして貴女も、私もまた進んでゆくのだ。誰のせいでもなく、己の決断の責任を負って生きていく。その何と悩ましく、何と素晴らしい事だろう」
空の真ん中から東は紫の闇を、西は紅い日が単眼巨人の眼のように地上を睨んでいた。
「それに恐怖したこともあります。ですがそれが自分で自分を引き受けることなのでしょうね。恐怖でもときめきでも心臓はどきどきするものです」
グリューエリンが静かにこたえる。
「そうだ。やりたい事が、やらなければならない事が沢山出来た。泣いても笑っても現実で、蹲っている暇などありはしない。貴女も胸を張って、望むとおりにマーチを歌い続けるがいい。最後まで、黒いパレード(the black parade)のように」
●
「灯火の水晶球がありますからぁ、暗くなっても照度は確保できると思いますぅ」
星野 ハナ(ka5852)が灯火の水晶球で周囲を照らして、敵の姿を見逃さない。そして発見した雑魔は五色光符陣で灼いていく。
グリューエリンが歩みを止めた。
「休憩しますかぁ?」
「はい。少し喉を休ませたいです」
ハナは近くの瓦礫の上をさっと払って埃を落とし、簡易のベンチとしてグリューエリンをそこに導いた。
「ハナ殿も暴食王との戦いに参加されていたのですよね?」
「そうですよぉ。そっちでは支援優先だったので、今みたいにバンバン符を使ってブッコロすることはできなかったんですけどぉ」
ハナが暴食王戦を思い出す。暴食の能力を警戒してスキル攻撃は控えていたのだ。
「傲慢とか怠惰とか嫉妬とか強欲とかとはそこそこ戦ったことがありましたけどぉ、暴食って会ったり戦ったりしたことがなかったんですよねぇ。だからまぁ、掃討戦には参加しておこうかなって思いましてぇ」
振り返らずにハナは後ろに刀を振るった。
静かに近づいていた歪虚をそれで仕留めていた。
「仕事では手を抜かないので、ご安心をぉ」
刀に突き刺さった歪虚が塵になって消滅する。
「暴食王と十三魔も倒されましたしぃ。せっかく王クラスが居なくなったんですからぁ、やりたいと思った事はどんどんやらないとぉ、って思ったんですぅ。帝国はぁ、フィーちゃん達の居る公園とかぁ、シュタークさん達の居る第二師団に行くことが多くってぇ、他の帝国軍人さん達のことはあまり知らなくってぇ。だからぁ、この機会に少しでもお知り合いになれたらなって思ったんですぅ」
夜が深くなる中で、灯火の水晶球が煌々と輝いていた。
「思ったんですけどぉ、負のマテリアルに汚染されて雑魔が出てくるならぁ、暴食王が倒された辺りが1番汚染が酷そうな気がするんですがぁ、そうでもないんですぅ?」
「恐らくはそうでしょうけど、今日中にはなんとかできるでしょう」
「そうですかぁ。私も浄龍樹陣が使えるので、ちょっとはお手伝いできそうですぅ」
「ありがとう存じますわ、ハナ殿」
「さてとぉ……、あ」
と、ハナが空を見上げた。
星が瞬き始めていた。帝都にはまだ民が帰還していないのでいつもより都市が暗い。
「……星が綺麗ですねぇ」
●
グリューエリンに合わせて時音 ざくろ(ka1250)も歌を口ずさんでいた。
剣やデルタレイなどで雑魔を倒し、その度にざくろの黒髪がなびく。
休憩の時間となり、グリューエリンがインカムのスイッチを切る。
「お疲れ様、グリューエリンっ」
「ざくろ殿も。お気遣い感謝いたしますわ」
微笑むグリューエリンにざくろはドキッとする。
「グリューエリンも頑張ってるから、ざくろも頑張るよ。雑魔は次から次へと湧いて来て……そう言えば、初ライブの時の下水道浄化も有ったね。ざくろはあの時、前座で歌わせてもらったけど、結局途中からアイドルよりもハンターの他の仕事が忙しくなって、グループもほぼ解散だなぁ」
初ライブのことを2人は思い出す。
「グリューエリンはこれからどうするの? 色んな事があったけど、ざくろ、やっぱり楽しそうに歌ってるグリューエリンの歌、大好きだよ。……これからもアイドルとして活動続けていくんだよね? やっぱり何かこうしてみたいとか、もっとこうなりたいって夢あるの? それなら、これからも応援したいなって」
「困っている人や、傷ついた人を癒せる人間になりたいんです。かつてお父様が疫病から領民を救ったように」
「とても素敵だと思う。ざくろもグリューエリンのこと……あっ」
優しく微笑んだ後、ざくろは肝心なことを思い出し頬をかいた。
「ざくろ、東方に領地貰って移り住むって決めたから、今までよりは来にくくなっちゃうかもだけど……、何かの時は力になりに飛んでくるから」
「私も、ざくろ殿のこと応援してますわ! ですから、ざくろ殿に困ったことがあったら、私も飛んでいきます!」
「ありがとう。ここにいるみんなも、それぞれの道を歩いて行くんだろうけど、冒険を続けている限りまた会えるよね。繋がってる空の様に」
●
「エリンさん、私も手伝いますね」
Uisca Amhran(ka0754)は【清龍】白く優しき龍の浄歌で浄化を手助けしていた。
そのUiscaの後ろ姿にグリューエリンは寂しさを覚えた。
「Uiscaさん、どうかされましたか? どこかお怪我でも……!?」
「いえ、怪我というわけでは……ないのです」
Uiscaは素直に自分の胸の内を伝えた。
「私、エリンさんの力にはあまりなれていない気がして……だからもっとがんばらないとっ」
「そんなことありませんわ!」
グリューエリンがUiscaの手を取った。
「私が歌をやめたり、落ち込んだりした時もUiscaさんはそばにいてくれたではありませんか。私は自分が思っていたほど善人ではありませんでした。でもそんな私のそばにあなたはいてくれた。とても、とても嬉しかったのですよ」
ぎゅっとグリューエリンはUiscaの手を強く握った。
「エリンさん……」
Uiscaも彼女の手を握り返した。
そしてお互いに微笑みあって、それがもう大丈夫というサインとして話題を変えた。
「そういえば、初めてお会いした下水道で、私、あいどるが2つの世界の懸け橋になれるっていいましたよね。その思いは変わっていませんよ」
「さぁおいでよ Welcome to world♪ そう行こう Let's go together♪」
グリューエリンはかつてUiscaから聞いた歌を口ずさんだ。
「覚えていたのですか?」
「素敵でしたもの」
「決めました。私も思いっきり歌います!」
Uiscaは高らかに歌った。
思い切り歌ったことで、Uiscaの頬はほのかに染まっていた。グリューエリンの隣に腰掛けて、アラベラ・クララ(kz0250)について聞く。
「アラベラさんが、どうされているか知っていますか……?」
「見かけたのですが、元気そうでしたよ」
「よかったです! お別れの挨拶もできないままなのは寂しいですから。この任務が終わったら、いつもの酒場で、みんなで打ち上げをしましょう!」
「はい。私たちは前に進めるのですから」
「私、アルテミスという組織で、絶望している人達の救済を目指そうと思うんです」
次の休憩時に、Uisca自身がこれから進む道を話した。
「今は王国での活動が中心ですけれど、将来は帝国など全世界に活動を広げたいと思っているんですよ。それで、ですね。エリンさん、いつかアルテミスで保護した人たちのためにライブを開いてくれませんか? きっと、あなたの歌を聴くことで希望を持ってくれる人がたくさんいると思うから……」
「歌う場所があるのならいつだって」
「これまでの戦いで感じたのは今を全力で生きることの大切さです。みんなで前に進みましょう! そうです、エリンさん。避難している帝都の人たちにも戦いが終わったことを歌にのせて伝えるのは、どうですか?」
「ええ、終わりの鐘を歌で鳴らしましょう」
●
「陸、貴方の最後の無茶、見届けたわよ。生きてて良かったわ……貴方も、私も」
暴食王との戦いが終わった直後、高瀬 未悠(ka3199)は鬼塚 陸(ka0038)にそう言った。勝算がない戦いではなかったが、楽な戦いであるはずがなかったのだから。
彼女は今も一緒に戦っている陸の背中を見守る。
帝国も未悠を取り巻く環境も、変わっていく。
(陸と一緒に戦うのは、これが最後になるかもしれないわね……)
(私は最愛の人と長い旅に出るのだから)
それはグリューエリンの歌声も同じだっただろう。
(前に会った時よりも強く綺麗になった。……自分の人生を生きているのね)
歌が生きている。
ある時は執着される程に魅力的で。
ある時は戦う者を鼓舞する程に力強く。
ある時は聴く者を癒し救う程に優しく。
(そして今、閃光の様に強く生き様を響かせてくる。貴女にとって歌う事は生きる事なのね)
「貴女も貴女の歌声も更に素敵になったわね。歌う意味を、生きる道を見つけられたのかしら?」
「ありがとうございます。私の……私自身が望んでいることをちゃんと見つめられるようになったのだと思いますわ。そして周りの方々もそれを受け入れてくださる。それがとても嬉しいのです」
「ハヴァマールと戦ってる時に言われたのよ。『帝国の女は気骨が有り過ぎる』って。貴女もそうよね。大切なものが出来たら、それを守る為に命を懸けられる。全力で生き抜いてく。それが帝国の女の生き様よね」
「ヴァルファー家もお父様も大切です。ですが、とても小さな光かもしれませんが、私の心が叫んだものも大切だと思えるのです」
「強いから戦うんじゃない。守るために強くなる。そんなやり方だってあるわ。生きるって辛い事も、自分を嫌になりそうな時もたくさんあるけど、だからこそ生きてるって実感出来る。笑顔も涙も生きてるからこそだもの」
●
浄化作業のすべての行程は終了した。ハヴァマールの力尽きた場所に辿り着く。
「下水道に比べたら臭いしないだけマシだけど」
陸がかつての浄化作業を思い出す。
「……何か懐かしいね。今はもう、あの歌。一緒に歌えそうかな」
「歌うのはカラオケ以外卒業式くらい……でしたっけ」
「よく覚えてんね」
グリューエリンには歌えない日々があり、夕凪 藍のこと、フリーセンのことなどがあった。
遠くまで来てしまったな、と陸は思う。その中では変わったものもあり、続いているものも、終わってしまったものもある。
「……エリンちゃんは今もアイドルで。僕は今、覚醒者でいる」
その理由を陸はもう聞かない。見れば分かるから。
「エリンちゃんに偉そうに言ったけど、僕自身も自分の嫌な所をみるのって中々できなくて……オトナになるって、きっとそういう事なのかな、なんて、最近思うようになったんだ」
「私も、自分が思ってたよりオトナではありませんでしたね」
グリューエリンが苦笑した。赤い髪が前に垂れる。
陸は、その横顔にどこか今までの違うグリューエリンを見ていた。
「綺麗になったね。……けど、僕結構すっぴんのエリンちゃんのほうが好きだよ」
「どうしたんですか急にっ!?」
グリューエリンが驚き赤面した。
「ちゃんと言っておかないとって思ってさ」
対して、陸はいつも通りに話を進めるので余計にグリューエリンは照れて慌てる。
「何度も見てきた弱い処を僕は知ってる。思い込みが強くて、ちょっぴり寂しがり屋で、自分にばーっか厳しくて、でもそんな君が結構すきだからさ」
(化粧で綺麗になった彼女の事。“上手く隠す事”)
(それは人が何かを成す為に、何かであろうとする為に必要な事)
(……けど、人はそれだけじゃ生きて行けない)
だから、最後の祈りを送る。最後に呪いをかけたのだ。
いつか幽霊になることを恐れたグリューエリンの輪郭がなくならないように。
(これが僕にできる最後の事だ)
「未来は……精一杯つないだって胸を張って言える。一緒に過ごした時間、楽しかったよ。──有難う」
●
(僕たちの今日が終わる)
夕日はとっくに沈んでいた。
(それぞれの新しい明日が始まる)
(前に歩き出す為に。いつか終わりを迎えるその日の為に)
陸にはまだやることがあった。
「エリンちゃん、最後にひとつだけ。前にひっぱたいたお詫びに1回だけなんか仕返ししていいよ」
「遠慮しなくていいわよ」
そう言うのは未悠だった。
「話は聞いているけど。私はね、陸が貴女に手をあげた事、姉として女として許せてないのよ。本人も腹を括ってるみたいだし」
「そうですか……。では私からも1発入れさせていただきます。陸殿、申し訳ありませんが身長差の関係でやりにくいので、屈んでいただいてよろしいですか?」
「膝立ちでいいかな?」
「あ、とてもいいと思います」
そんなやり取りがあり、グリューエリンが陸をビンタした。
「いってぇ」
「それは良かったです」
奇妙な会話ではあるが両者とも、納得しているようであった。
そこで、未悠がグリューエリンにある質問をした。
「姉として気になるんだけれども……。貴女にとって陸はどんな存在なの……?」
「音叉みたいな存在……でしょうか。大事なことを忘れかけた時に、それを思い出させてくれる方だと思います」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の歌が瓦礫の街に響いていた。
(投票で私は継戦を強く推した。その結果がこれだ)
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、自分の選択とその結果を見つめていた。
(帝都。所領に次いで慣れ親しんだ第二の故郷の姿は、もうない)
悔恨ではないが、その選択がもたらしたものは見ておきたかった。
ただ耳に馴染んだメロディだけが、ここも戦場だったと訴える。
暴食王との決戦は終わった。歪虚との因縁が決着した。これからどうしようか──と考えるのだが、アウレールの胸にあるのは得も言われぬ虚脱感であった。
ハヴァマールの負のマテリアルにあてられて、歪虚になったモノをハンターは刃で斬って落とす。
(二年前のあの時から、これは私の物語になった)
(私の道行を記す文字は、紛れもなく私の足跡だ)
抑々、アウレールがこの世界に身を投じたのは父の影を追っての事だった。彼は、革命に加わり、何も語らず、妻子を置いて北伐に消えた。
アウレールにはそんな父への反感もあったのかも知れない。
戦争の残り火に触れる度、身内の罪を償う意識は確かにあったのだ。もし再会が叶ったなら何と声を掛けただろうか。
そんな追想も、今や遠い朝靄の彼方となってしまった。
(だから、この光景は父の罪でも歪虚の業でもなく私の罪だ)
(背負った重荷が、けれどどこか心地よい)
信ずるがままに駆け抜けて、信ずるがままに駆け抜たからこそ、背負ったものがある。
「父様も、剣豪も、陛下も先帝も御父上も誰もかも、皆ここを通り過ぎていったのだろうか──」
すでに別れた物語。もうここからは追えぬ文字の先にいる者たちをアウレールは思い浮かべる。
「そして貴女も、私もまた進んでゆくのだ。誰のせいでもなく、己の決断の責任を負って生きていく。その何と悩ましく、何と素晴らしい事だろう」
空の真ん中から東は紫の闇を、西は紅い日が単眼巨人の眼のように地上を睨んでいた。
「それに恐怖したこともあります。ですがそれが自分で自分を引き受けることなのでしょうね。恐怖でもときめきでも心臓はどきどきするものです」
グリューエリンが静かにこたえる。
「そうだ。やりたい事が、やらなければならない事が沢山出来た。泣いても笑っても現実で、蹲っている暇などありはしない。貴女も胸を張って、望むとおりにマーチを歌い続けるがいい。最後まで、黒いパレード(the black parade)のように」
●
「灯火の水晶球がありますからぁ、暗くなっても照度は確保できると思いますぅ」
星野 ハナ(ka5852)が灯火の水晶球で周囲を照らして、敵の姿を見逃さない。そして発見した雑魔は五色光符陣で灼いていく。
グリューエリンが歩みを止めた。
「休憩しますかぁ?」
「はい。少し喉を休ませたいです」
ハナは近くの瓦礫の上をさっと払って埃を落とし、簡易のベンチとしてグリューエリンをそこに導いた。
「ハナ殿も暴食王との戦いに参加されていたのですよね?」
「そうですよぉ。そっちでは支援優先だったので、今みたいにバンバン符を使ってブッコロすることはできなかったんですけどぉ」
ハナが暴食王戦を思い出す。暴食の能力を警戒してスキル攻撃は控えていたのだ。
「傲慢とか怠惰とか嫉妬とか強欲とかとはそこそこ戦ったことがありましたけどぉ、暴食って会ったり戦ったりしたことがなかったんですよねぇ。だからまぁ、掃討戦には参加しておこうかなって思いましてぇ」
振り返らずにハナは後ろに刀を振るった。
静かに近づいていた歪虚をそれで仕留めていた。
「仕事では手を抜かないので、ご安心をぉ」
刀に突き刺さった歪虚が塵になって消滅する。
「暴食王と十三魔も倒されましたしぃ。せっかく王クラスが居なくなったんですからぁ、やりたいと思った事はどんどんやらないとぉ、って思ったんですぅ。帝国はぁ、フィーちゃん達の居る公園とかぁ、シュタークさん達の居る第二師団に行くことが多くってぇ、他の帝国軍人さん達のことはあまり知らなくってぇ。だからぁ、この機会に少しでもお知り合いになれたらなって思ったんですぅ」
夜が深くなる中で、灯火の水晶球が煌々と輝いていた。
「思ったんですけどぉ、負のマテリアルに汚染されて雑魔が出てくるならぁ、暴食王が倒された辺りが1番汚染が酷そうな気がするんですがぁ、そうでもないんですぅ?」
「恐らくはそうでしょうけど、今日中にはなんとかできるでしょう」
「そうですかぁ。私も浄龍樹陣が使えるので、ちょっとはお手伝いできそうですぅ」
「ありがとう存じますわ、ハナ殿」
「さてとぉ……、あ」
と、ハナが空を見上げた。
星が瞬き始めていた。帝都にはまだ民が帰還していないのでいつもより都市が暗い。
「……星が綺麗ですねぇ」
●
グリューエリンに合わせて時音 ざくろ(ka1250)も歌を口ずさんでいた。
剣やデルタレイなどで雑魔を倒し、その度にざくろの黒髪がなびく。
休憩の時間となり、グリューエリンがインカムのスイッチを切る。
「お疲れ様、グリューエリンっ」
「ざくろ殿も。お気遣い感謝いたしますわ」
微笑むグリューエリンにざくろはドキッとする。
「グリューエリンも頑張ってるから、ざくろも頑張るよ。雑魔は次から次へと湧いて来て……そう言えば、初ライブの時の下水道浄化も有ったね。ざくろはあの時、前座で歌わせてもらったけど、結局途中からアイドルよりもハンターの他の仕事が忙しくなって、グループもほぼ解散だなぁ」
初ライブのことを2人は思い出す。
「グリューエリンはこれからどうするの? 色んな事があったけど、ざくろ、やっぱり楽しそうに歌ってるグリューエリンの歌、大好きだよ。……これからもアイドルとして活動続けていくんだよね? やっぱり何かこうしてみたいとか、もっとこうなりたいって夢あるの? それなら、これからも応援したいなって」
「困っている人や、傷ついた人を癒せる人間になりたいんです。かつてお父様が疫病から領民を救ったように」
「とても素敵だと思う。ざくろもグリューエリンのこと……あっ」
優しく微笑んだ後、ざくろは肝心なことを思い出し頬をかいた。
「ざくろ、東方に領地貰って移り住むって決めたから、今までよりは来にくくなっちゃうかもだけど……、何かの時は力になりに飛んでくるから」
「私も、ざくろ殿のこと応援してますわ! ですから、ざくろ殿に困ったことがあったら、私も飛んでいきます!」
「ありがとう。ここにいるみんなも、それぞれの道を歩いて行くんだろうけど、冒険を続けている限りまた会えるよね。繋がってる空の様に」
●
「エリンさん、私も手伝いますね」
Uisca Amhran(ka0754)は【清龍】白く優しき龍の浄歌で浄化を手助けしていた。
そのUiscaの後ろ姿にグリューエリンは寂しさを覚えた。
「Uiscaさん、どうかされましたか? どこかお怪我でも……!?」
「いえ、怪我というわけでは……ないのです」
Uiscaは素直に自分の胸の内を伝えた。
「私、エリンさんの力にはあまりなれていない気がして……だからもっとがんばらないとっ」
「そんなことありませんわ!」
グリューエリンがUiscaの手を取った。
「私が歌をやめたり、落ち込んだりした時もUiscaさんはそばにいてくれたではありませんか。私は自分が思っていたほど善人ではありませんでした。でもそんな私のそばにあなたはいてくれた。とても、とても嬉しかったのですよ」
ぎゅっとグリューエリンはUiscaの手を強く握った。
「エリンさん……」
Uiscaも彼女の手を握り返した。
そしてお互いに微笑みあって、それがもう大丈夫というサインとして話題を変えた。
「そういえば、初めてお会いした下水道で、私、あいどるが2つの世界の懸け橋になれるっていいましたよね。その思いは変わっていませんよ」
「さぁおいでよ Welcome to world♪ そう行こう Let's go together♪」
グリューエリンはかつてUiscaから聞いた歌を口ずさんだ。
「覚えていたのですか?」
「素敵でしたもの」
「決めました。私も思いっきり歌います!」
Uiscaは高らかに歌った。
思い切り歌ったことで、Uiscaの頬はほのかに染まっていた。グリューエリンの隣に腰掛けて、アラベラ・クララ(kz0250)について聞く。
「アラベラさんが、どうされているか知っていますか……?」
「見かけたのですが、元気そうでしたよ」
「よかったです! お別れの挨拶もできないままなのは寂しいですから。この任務が終わったら、いつもの酒場で、みんなで打ち上げをしましょう!」
「はい。私たちは前に進めるのですから」
「私、アルテミスという組織で、絶望している人達の救済を目指そうと思うんです」
次の休憩時に、Uisca自身がこれから進む道を話した。
「今は王国での活動が中心ですけれど、将来は帝国など全世界に活動を広げたいと思っているんですよ。それで、ですね。エリンさん、いつかアルテミスで保護した人たちのためにライブを開いてくれませんか? きっと、あなたの歌を聴くことで希望を持ってくれる人がたくさんいると思うから……」
「歌う場所があるのならいつだって」
「これまでの戦いで感じたのは今を全力で生きることの大切さです。みんなで前に進みましょう! そうです、エリンさん。避難している帝都の人たちにも戦いが終わったことを歌にのせて伝えるのは、どうですか?」
「ええ、終わりの鐘を歌で鳴らしましょう」
●
「陸、貴方の最後の無茶、見届けたわよ。生きてて良かったわ……貴方も、私も」
暴食王との戦いが終わった直後、高瀬 未悠(ka3199)は鬼塚 陸(ka0038)にそう言った。勝算がない戦いではなかったが、楽な戦いであるはずがなかったのだから。
彼女は今も一緒に戦っている陸の背中を見守る。
帝国も未悠を取り巻く環境も、変わっていく。
(陸と一緒に戦うのは、これが最後になるかもしれないわね……)
(私は最愛の人と長い旅に出るのだから)
それはグリューエリンの歌声も同じだっただろう。
(前に会った時よりも強く綺麗になった。……自分の人生を生きているのね)
歌が生きている。
ある時は執着される程に魅力的で。
ある時は戦う者を鼓舞する程に力強く。
ある時は聴く者を癒し救う程に優しく。
(そして今、閃光の様に強く生き様を響かせてくる。貴女にとって歌う事は生きる事なのね)
「貴女も貴女の歌声も更に素敵になったわね。歌う意味を、生きる道を見つけられたのかしら?」
「ありがとうございます。私の……私自身が望んでいることをちゃんと見つめられるようになったのだと思いますわ。そして周りの方々もそれを受け入れてくださる。それがとても嬉しいのです」
「ハヴァマールと戦ってる時に言われたのよ。『帝国の女は気骨が有り過ぎる』って。貴女もそうよね。大切なものが出来たら、それを守る為に命を懸けられる。全力で生き抜いてく。それが帝国の女の生き様よね」
「ヴァルファー家もお父様も大切です。ですが、とても小さな光かもしれませんが、私の心が叫んだものも大切だと思えるのです」
「強いから戦うんじゃない。守るために強くなる。そんなやり方だってあるわ。生きるって辛い事も、自分を嫌になりそうな時もたくさんあるけど、だからこそ生きてるって実感出来る。笑顔も涙も生きてるからこそだもの」
●
浄化作業のすべての行程は終了した。ハヴァマールの力尽きた場所に辿り着く。
「下水道に比べたら臭いしないだけマシだけど」
陸がかつての浄化作業を思い出す。
「……何か懐かしいね。今はもう、あの歌。一緒に歌えそうかな」
「歌うのはカラオケ以外卒業式くらい……でしたっけ」
「よく覚えてんね」
グリューエリンには歌えない日々があり、夕凪 藍のこと、フリーセンのことなどがあった。
遠くまで来てしまったな、と陸は思う。その中では変わったものもあり、続いているものも、終わってしまったものもある。
「……エリンちゃんは今もアイドルで。僕は今、覚醒者でいる」
その理由を陸はもう聞かない。見れば分かるから。
「エリンちゃんに偉そうに言ったけど、僕自身も自分の嫌な所をみるのって中々できなくて……オトナになるって、きっとそういう事なのかな、なんて、最近思うようになったんだ」
「私も、自分が思ってたよりオトナではありませんでしたね」
グリューエリンが苦笑した。赤い髪が前に垂れる。
陸は、その横顔にどこか今までの違うグリューエリンを見ていた。
「綺麗になったね。……けど、僕結構すっぴんのエリンちゃんのほうが好きだよ」
「どうしたんですか急にっ!?」
グリューエリンが驚き赤面した。
「ちゃんと言っておかないとって思ってさ」
対して、陸はいつも通りに話を進めるので余計にグリューエリンは照れて慌てる。
「何度も見てきた弱い処を僕は知ってる。思い込みが強くて、ちょっぴり寂しがり屋で、自分にばーっか厳しくて、でもそんな君が結構すきだからさ」
(化粧で綺麗になった彼女の事。“上手く隠す事”)
(それは人が何かを成す為に、何かであろうとする為に必要な事)
(……けど、人はそれだけじゃ生きて行けない)
だから、最後の祈りを送る。最後に呪いをかけたのだ。
いつか幽霊になることを恐れたグリューエリンの輪郭がなくならないように。
(これが僕にできる最後の事だ)
「未来は……精一杯つないだって胸を張って言える。一緒に過ごした時間、楽しかったよ。──有難う」
●
(僕たちの今日が終わる)
夕日はとっくに沈んでいた。
(それぞれの新しい明日が始まる)
(前に歩き出す為に。いつか終わりを迎えるその日の為に)
陸にはまだやることがあった。
「エリンちゃん、最後にひとつだけ。前にひっぱたいたお詫びに1回だけなんか仕返ししていいよ」
「遠慮しなくていいわよ」
そう言うのは未悠だった。
「話は聞いているけど。私はね、陸が貴女に手をあげた事、姉として女として許せてないのよ。本人も腹を括ってるみたいだし」
「そうですか……。では私からも1発入れさせていただきます。陸殿、申し訳ありませんが身長差の関係でやりにくいので、屈んでいただいてよろしいですか?」
「膝立ちでいいかな?」
「あ、とてもいいと思います」
そんなやり取りがあり、グリューエリンが陸をビンタした。
「いってぇ」
「それは良かったです」
奇妙な会話ではあるが両者とも、納得しているようであった。
そこで、未悠がグリューエリンにある質問をした。
「姉として気になるんだけれども……。貴女にとって陸はどんな存在なの……?」
「音叉みたいな存在……でしょうか。大事なことを忘れかけた時に、それを思い出させてくれる方だと思います」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/11/04 22:20:22 |
|
![]() |
【相談卓】 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/11/04 21:29:00 |