火消しの風

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/11 12:00
完成日
2015/02/19 05:34

みんなの思い出

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オープニング

「――“絶火隊”?」
「ああ。かつて親父殿が率いた近衛部隊の名だ。革命軍のな」
 ヴィルヘルミナ・ウランゲルが皇帝の座に着くという話には度肝を抜かれた。
 そもそも彼女とは冒険者として友人関係にあったのだ。それがあの帝国皇帝になろうとは、夢にも思っていなかった。
「親父殿――ヒルデブラント・ウランゲルは、革命を成す為に当時の帝国では異端であった者達を仲間に引き入れた」
 例えば、当時では考えられなかったエルフの起用。現ユニオンリーダーであるタングラムや師団長であるゼナイドもヒルデブラントの近衛部隊出身だ。
 立場こそ違えど、帝国を変えようと志を共にした者達。ヒルデブラントは覇道に立ちはだかる彼らを尽くぶっ飛ばしては仲間に加え、帝都へ進撃したという。
「本来の絶火隊は、親父殿の失踪と同時に壊滅した。生き残ったのはたまたま戦場へ同行しなかった者だけだ」
「その絶火隊を再結成しようってのか?」
「ああ。しかし帝国軍の枠組みの中ではなく、あくまでも私の信頼する少数の友人としてだ。既に冒険者時代に知り合った数名にこの話を持ちかけている」
「成程な。あんたは相当腕の立つ剣士だった。俺もあんたと何度も手合わせしたくらいだ、名の有る冒険者にコネもあるってこったな」
 青年はわしわしと頭を掻きながら頷く。ヴィルヘルミナはそんな青年を真っ直ぐに見つめ。
「カルステン・ビュルツ。君の力も借りたい。帝国軍に入れとは言わない。だが冒険者として、帝国の為に働いて欲しい」
 カルステンと呼ばれた銀髪の青年は腕を組み、壁に背を預ける。帝都バルトアンデルスの路地裏。皇帝が話をするにはふさわしくない場所だった。
「確かにあんたは魅力的な女だ。守ってやりたいと思わない事もない……が、根本的に俺は帝国を認めていない。絶火隊とやらに参加する事はできねえよ」
「ふむ。参考までに聞かせて欲しいのだが、やはりそれは彼が原因かい?」
「あいつの話はよせ。反吐が出る。革命そのものは結果的にこの国を変えたかもしれない。だがな、その結果生まれた闇だって果てしなくデカいんだぜ」
 カルステンは冒険者としてこの国を練り歩いてきた。まだ少年だった頃から独学で槍術を学び、腕っ節一つで生き延びてきたからこそわかる事もある。
「革命が悪かったとは言わない。だがな、良かったとも言えないんだ。その結論を出せないままあんたの仲間にはなれない」
「誠実なのだな。相も変わらず」
「本当に誠実だったら、こんなところで腐ってない」
 険しい表情で目を逸らすカルステン。ヴィルヘルミナは目をつむり、穏やかに頷く。
「ならば私は遠く離れた場所にいる君に、この国の新たなあり方を示そう。君は君の道を往け。互いの道は交わらずとも、必ずどこかで通じていると信じている」
「ヴィルヘルミナ……すまん」
「良い。立場の違いにより、我らは隔たれるだろう。だがこれまでに培った友情までもが嘘になるわけではない」
 笑顔を作りヴィルヘルミナは背を向ける。カルステンはその背中に手を伸ばしかけ、そっと引っ込めた。
「達者でな、カルステン。そうそう、心変わりしたのならいつでも我が軍門に下るが良いぞ。はっはっは!」
「……るせーよ、ったく。あんたこそ、夜道にはせいぜい気をつけな」
 ズボンのポケットに手を入れ男は反対側へと歩み出した。それが二人の決定的な別れとなった。



「……馬鹿野郎! なんで誰も止めなかった!?」
 カルステンはどちらかといえば反政府組織側の思想を持つ。というより、彼は弱者の味方であった。
 帝国軍は圧倒的で、どうあがいたところで反政府勢力がどうにか出来るような相手ではない。あの皇帝が率いる軍隊なのだ、それは当然の事のように思えた。
 だからこそカルステンは反政府勢力側に同行し、余計な戦いを回避したり、彼らが食い扶持を得るのを支援してきた。
 だが先の歪虚CAM事件や、そこに現れた十三魔、アイゼンハンダーの存在が反政府勢力に活気を与えつつ有るのを止める事までは出来ない。
「今こそ“ヴルツァライヒ”に参加し、我らも皇帝を討つ為に立ち上がる時じゃないか!」
「違う! あれはお前達が思っているような組織じゃない!」
 とある帝国領の村、そこは密かに集う反政府勢力の拠点となっていた。
 と言っても殺伐としたものではなかった。孤児や難民が身を寄せ合い、確かに犯罪行為もあったが少しだけ。生活に必要な分だけだったはずだ。
 それが急に大人達が騒ぎ出し、ついに帝国軍の小さな駐屯地への攻撃に参加してしまったのだ。
「お前らをそそのかした奴らは、状況を混乱させる為の駒としてお前らを利用しているだけだ! 結局他のグループだって殆ど捕まっちまったろう!?」
「だ、だけど……俺達は、難民の怒りを思い知らせてやろうと……」
「エイゼンシュテインは絶対に反政府勢力の尻尾を離さねぇ! この村に戦力が派遣されるのも時間の問題だ! お前らはいい! だがガキどもはどうする!?」
 叫ぶカルステンの背後では幼い子供達が寄り添って大人の剣幕に怯えていた。大人達は顔を見合わせ、いよいよ青ざめた表情で肩を落とす。
「お前らが帝国軍相手に戦えるわけないだろ……? 少し冷静に考えればわかるはずだ」
 カルステンの声に膝を着く大人達。わかっている。彼らを扇動し、紛争を操ろうとしている者達がいるのだ。
 彼らは難民に武器を与え蜂起させた。恐らくは自分たちのなんらかの目的の陽動として彼らを使い捨てる為に。
「た、大変だ! ハンターだ! 帝国軍の部隊と一緒にハンターが来てる!」
「か、覚醒者か!? そんな……覚醒者相手じゃ、武器があったって俺達に勝ち目なんか……」
 舌打ちし、カルステンは壁に立てかけてあった長物に手を伸ばす。布を取り払うと、そこからは銀と紫に彩られた槍が姿を表す。
「カルステンお兄ちゃん……」
「大丈夫だ。俺が覚醒者を足止めする。お前達は村から逃げるんだ」
「でも、お兄ちゃん一人じゃ殺されちゃうよ! ハンターは軍の仲間なんでしょ!?」
 苦笑を浮かべ、カルステンは子供の頭を撫でる。
「安心しろ。俺は帝国最強の槍使いだからな」
「カルステン、俺達も一緒に行く!」
「てめえらのケツだ、てめえらで拭くのは当然だ」
 数人の若い男たちを連れカルステンは小屋を出た。覚醒者が相手では、見張りや警備担当では全くどうにもならないだろう。
「……ヴィルヘルミナ。あんたは今、何をしようとしてるんだ?」
 共に冒険者として帝国の未来を語り合った仲だ。それも今は、どうにも交わる事はない。
「わかってる。間違ってるのは俺の方だ。だけどな……!」
 高い場所にいては見えないものがある。暗がりに歩み寄ってようやく聞こえる救いを求める声。
「それに耳を傾けるのも、あんたのダチとしてやるべきことだと思うから」
 ハンターが近づいてくる。カルステンは槍を両手で構え、薄く笑みを浮かべた。

リプレイ本文

 反政府勢力を拿捕せよという帝国軍からの依頼を受け、ハンター達は件の村を訪れていた。
 村に近づくなりすぐさま数人の若い男による攻撃を受けたが、覚醒者六人をどうにか出来る筈もなく。男たちは今ハンターの足元に拘束され転がっていた。
「問答無用で襲い掛かってくるのはいいけど、もう少しちゃんと考えて動かなきゃ駄目よ?」
 人差し指を立て諭すように語りかける七海・美星(ka3937)。
 ハンター達は村人に必要以上の暴力は振るわなかった。実力差もかなりのものだから、武器だけ弾き飛ばすくらいはワケないのだ。
「抑圧された弱者の、強者に対する闘い……それ自体は戦神も大いにお認めに成るでしょう。しかし勝ち目のない闘いに挑むのはただの蛮勇。それは認められた物ではありません」
 さっきまで威圧的な視線でムチをびしりと鳴らしていたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)だが、今は祈るように目を瞑りしょぼくれた若者に声をかけている。
「くっ、どうせなら一思いに殺しやがれ!」
「殺しません!!」
 くわっと目を見開き、宣言するエステル・L・V・W(ka0548)。縛られた男たちはふっと目を向ける。
「覚悟を決めて立った戦場ならば殺しもするのが礼儀というもの。なれどこの地この時に集まった者達にいかほどそれがあろうや? ……いやないッ!!」
「……お嬢さん、何者なんだ?」
「わたくしです!」
「いやあの……どこ向いてるの?」
 冷や汗を流す男達にはエステルがカメラ目線であるとかそういうことはわからない。
「相変わらず一々騒々しい。そういう類の者達は甘やかせば付け上がるぞ」
「あらあらまあまあ! 自分だって彼らを傷つけないように武器すら使わずに戦っておいてどの口からそんな言葉が飛び出すのかしら?」
「手にかけるまでもないというか、それ以前に依頼内容からして拿捕であり、そも容疑者であって犯人と断定されたわけでは……ええいもういい、あっちを向いていろ」
 物凄い見つめながらズカズカ近づいてくるエステルにアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は視線を反らしつつ片手を翳す。
「アウレール君の言う通り、我々は容疑者の調査に来たのだ。事情聴取をしたいのであって、この場で殺す殺さないという問題ではないのだよ」
 Charlotte・V・K(ka0468)の声に顔を見合わせる男達。こうして過剰反応を示してしまった以上罪を認めたような物ではあるが。
「……それはいいとして、だ。美星、何でお前が居る?」
 遠巻きに様子を眺めていたヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が美星の横に立つ。
「何でって……依頼だけど? ハンターだもの、当然でしょう?」
「危ない事はするなと念押しした筈だが……」
「そこまで危ない事をする依頼じゃないわよ」
「しかし、何が起こるかはわからない」
「ならヴォルが守ってくれればいいでしょ? あの時みたいに」
 ポンと肩を叩いて歩いて行く美星。ヴォルフガングは腕を組み小さく溜息を零した。

 銀髪の青年を含む新たな村人達が現れたのは間もなくしての事だった。
 明らかにただの若者らしい男が四人と、どう見ても闘い慣れた装備の青年が一人。ハンター達はこれまでとは違う雰囲気の人間の登場に注視する。
「……驚いたな。あんたら、そいつらをどうするつもりだ?」
「我々は先の駐屯地襲撃事件の調査を行っている者達だ。この村が事件に関与した疑惑が浮上した為、調査協力を頼みに来た。彼らに関しては……そう、成り行きだ」
 Charlotteの言葉に青年は目を細める。が、対照的に他の村人達は興奮している。
「仲間を放せ!」
「どうせ殺すか、監獄で強制労働させるつもりだろう!」
「難民風情がわかったような口を……」
 腕を組んだまま呆れたように呟くアウレール。だがギロリと男たちを睨みつけると。
「これも依頼だ、仕方ないのでわかりやすく説明してやる」
 まず、帝国軍は犯罪者を拿捕する際に殺傷する事を推奨していない。そして確かに強制労働させる事もあるが、今回はまだ調査の段階にある。
「故に処罰の決定はまだ下されていない。無論、子供らに対する処遇は大人とは異なる。貴公らさっきから聞いていれば聞きかじりのにわか知識で勝手に被害妄想を膨らませおって……これだから難民という連中は」
「要するにこの子狐ちゃんはぶーたれている割には“悪いようにはしない”と言っているのですわ! 素直じゃないのね!」
「それ以上近づくなRosa Kopf……私の精神に不衛生だ」
 満面の笑みで宣言するエステルだが、アウレールはハイライトの消えた目で小刻みに震えていた。
「とにかく、そういう事だから。投降しなさい。抵抗しなければ命を取る事まではしないわ」
 美星の言葉に村人達は顔を見合わせる。信用したいのは勿論だ。しかし彼らも背負っている物がある。
「どうする、カルステン……?」
「ん……まあ、俺の知るハンターとは少し違うらしい。一応確認したい。このまま俺達を見逃してくれるって選択肢はねぇかね?」
「それは出来ない。こちらも依頼なのだ」
「貴公らの様な者達が軍基地への襲撃を企んだとも思えん。その辺りの情報を得るまで、逃すわけにはいかんな」
 Charlotteとアウレールの言葉に青年は槍で軽く肩を叩き。
「当然だな」
「カルステン……!」
「良い事を思いついた。どっちに転んでも損をせず、奴らの言葉を確かめ、かつ希望を捨てない方法をな」
 くるりと槍を回し、青年は自然な動作で構えを取る。
「戦ってみればいい。元々の予定通りに、な」

「あの槍使い……やはり他の者とは戦士としての格が違うようですね」
 すっと薄く目を開き青年を見つめるアデリシア。清澄な闘気だ。余程鍛錬を積んでいるのだろう。
「か弱い村人の心の拠り所って事かしらね」
「ええ。あれが難民達の戦意を支える柱だというのなら、彼を無力化さえ出来れば……」
「残りは烏合の衆に成り下がる」
 美星の言葉に小さく頷くアデリシア。しかしこうしてぱっと見ただけでわかる事もある。
「でも、こんな状況でも逃げずに立ち向かってくるんだから、簡単に折れてくれるかは疑問よね」
「だからこそ止めねばなりません。この様な場所で勇敢な戦士が意味もなく倒れる事を、戦神も決してお望みにならないでしょうから」
 丸めていた鞭を伸ばし大地を打つアデリシア。青年は男たちに適当に指示を出し。
「お前らは捕まってる連中を助け出す事を考えろ。死ぬかもしれんが頑張れ」
「そんな殺生な!?」
「殺される事はねーよ。多分な」
 冗談なのか本気なのか、ニヤリと笑い。
「――俺の名はカルステン・ビュルツ! 今は腐ってるが一応は武を志した者。怪我をしたくねぇ奴は下がってろ!」
「あら、意外と紳士的」
「下がっていろ、美星。お望み通り俺が行く」
 前に出たのはヴォルフガングだ。太刀を抜き紫煙を吐き出す。
「相手になろう。正々堂々とは行かないかもしれんがな」
「怪我したくなけりゃ男でも下がってていいんだぜ」
「面倒だが、こちらにも色々あってな」
 笑みを浮かべた直後、カルステンはその姿を消した。一瞬で距離を詰めた大槍の一撃を受け止められたのは、受け止められるようにカルステンが放っただけに過ぎない。
「一つ言っておく。俺は嫌煙家だ」
「肩身が狭いぜ、全く」

 その頃、他の難民達も一斉に動き出していた。がむしゃらという他ない無謀な突撃だったが、それをアデリシアは一瞥する。
「そこへ行く者達よ。お前たちの戦いは石柱に挑む飴細工の斧にすぎない。蛮勇を持って戦いに挑むものを、戦神は祝福をもって応えはしないだろう。大人しく武器を捨てるがいい。お前たちのような者に対して振るう武器を、私達は持ってはおらぬ」
 ぴしゃりと地べたを打ち鳴らしながらアデリシアは静かに語る。
「そこから先に足を踏み入れれば、私はこの鞭を振るわねばならない。そんな事はさせないで欲しい。武器を捨てて大人しくするのであれば、寛大な処置を掛け合うことを約束しよう」
 しかし男達はもう半狂乱に襲いかかってくる。アデリシアは先頭の一人に鞭を振るい、その手から剣を弾き飛ばした。
「ええい、面倒だ。来るならさっさと来い」
 嫌々という感じで前に出たアウレールは剣を振り下ろす男の腕を掴み、そのまま放り投げる。
 一方エステルは槍の柄で男をゴツンと叩き、ノックダウンしている。
「弱き者の血を流すような真似、わたくしには出来ませんわ! けれどもこれも愛! 言わば愛のげんこつですわ!」
 目尻に涙を浮かべながら胸に手を当て叫ぶエステル。なんかもうツッコむのも嫌だったのでアウレールは黙々と男達を投げ飛ばした。

 カルステンと刃を交えるヴォルフガングを弓で支援する美星。側面から隙を狙って矢をかけるが、男は事もなさげに僅かな動作だけで身をかわす。
「うそ、この距離からの狙撃を殆ど見ないで……!?」
 ヴォルフガングはカルステンを傷つけようという意思はない。故に狙いは彼の武器や手元に集中する。
 カルステンは最初からそれを読んでいた。しかし逆に、彼もまたヴォルフガングを傷つけようとはしなかった。
 結果、互いにどこに打ち込むのか分かった状態での打ち合いという不思議な状況が成立していた。
「あんた、本気で俺を傷つけないつもりか?」
「こちらの台詞だぜ」
「ヴォル!」
 駆け寄りつつ弓を構え直し、光を帯びた一撃を放つ美星。カルステンは背後に大きく飛び、追撃は槍を回すようにして弾き飛ばす。
「それだけの力をどうして……それで希望を抱かせた結果が火事場泥棒? それで満足かしら?」
 ヴォルフガングを守る様に傍らに駆け寄る美星。
「補給物資を強奪してどれだけの人間を窮地に追いやったか、わかっているの?」
「……耳が痛いな」
「そう! いつまでこうするおつもりなの!!!」
 ずざーっと横から滑りこんできたエステルがびしりを指さす。
「在野にて、弱者の為に剣を振るう。確かに崇高な志です。しかし、そんなやり方で全ての弱者を帝国の闇から守れるものですか!」
「何が帝国の闇だ。革命前の帝国にはその闇がなかったとでも言うのか? 腐敗と汚職が蔓延り、門閥貴族が民を搾取し、迫る歪虚に抗う術もなかったではないか」
「今はそこの話はしていませんわ、ややこしい!」
 すたすた歩いてきたアウレールの横槍を睨み返すエステル。カルステンは苦笑を浮かべ。
「わたくしも気持ちはわかります! わたくしはこの国の変革が良いものか悪しきものかを見定め、堂々と批判し続ける為にこの立場を選びました! あなたはどう? あなたの見定めは、今のままの身分で出来るものなの?」
「前半は聞き流すが後半は一理ある。国の未来を憂う熱意は理解せんでもない。が、余所者が口を出す道理はあるまい。“難民”でも“反政府組織”でもなく、正しき臣民にこそ発言権が与えられるべきだ」
 二人は色々と噛み合っていないが、言っている事は奇妙な程一致している。もしかして仲が良いのだろうかと背後から考察しつつ。
「反政府組織へ加担するからには、当然現状に憤りがあるのだろう。ならばそれをより政府に近い人間に語って欲しい。そして今回の事件、裏があるのなら教えてもらいたいのだ。取り返しのつかない事になる前に」
 Charlotteの言葉に同意するようにエステルとアウレールがそれぞれ頷く。
「陛下がお気づきにならぬ闇を知っているなら、何故それを払おうとしない。光を差し込ませられるのは貴様だけであろうが」
「……成程な。これが今の時代のハンターなのか。ヴィルヘルミナがお熱になるのもわかる。確かにあんた達の言う通りだ。俺も自分なりに出来る事をやらなきゃな」
 男はふっと笑い、背後へ跳ぶ。
「村の連中は信じて任せる。村に行けば逃げ遅れたガキもいるので保護してやってくれ。このままヴルツァライヒに使われるより幾らかマシだ」
「自分だけ逃げるつもり? また悪戯に希望を与えるやり方で誰かを傷つけるの!?」
 美星の言葉にカルステンは渋い表情を浮かべる。逃れようとする所へエステルは槍を手に突っ込んでいく。
「まだ聞かせて頂きたい事が山程ありますわ!」
 しかし攻撃はあっさりいなされてしまう。カルステンへの追撃は殆ど無意味だった。
「待て! ヴルツァライヒとは何だ!」
 Charlotteの声に男は振り返らなかった。カルステンの移動速度は圧倒的で、本格的に捕獲の策を用意していたわけではないハンターに捉える事は不可能だった。



「ヴルツァライヒってのは反政府組織の元締めとか、秘密結社って言われてる連中の事だよ」
 捕らえた難民達はあっさり教えてくれた。尤も彼らも理解している事は少なかったが。
「俺達にこういうビラが配られてさ。一斉に蜂起しようって……」
 そのビラは以前帝都で貼り出された政府批判のビラと同じマークが入っていた。
「人を煽動して捨て駒にする組織なんて、今後ロクな事を考える訳がない。最悪、歪虚と裏で繋がる可能性だって否めないだろう」
「帝国に巣食う害虫共め」
 吐き捨てるように放り投げたビラを両断するアウレール。Charlotteは新たな事件の幕開けを予感した。
 アデリシアは難民達に献身的に治療を施していた。怪我は大した事はないが、それでも自分たちがつけた傷だと申し出た。
「帝国軍にも同じ話をして下さい。情報提供があれば、寛大な処置も期待できる事でしょう」
「カルステンの事も、何とかしてやって下さい。あいつは良い奴なんです。頼める立場じゃないけど……」
「……うまく事が運ぶように報告しておくわ。それにしても勿体無いわね。名無しの英雄、カルステン、か」
 口元に手を当て考えこむ美星。その頭を背後からヴォルフガングがわしわしと撫でる。
「奴は相当腕が立った。そういう相手との闘いに割り込むのは感心しないな」
「心配しなくても私だって戦えるんだから。それに……悔しいじゃない」
 背後で手を組み、美星は微笑む。
「この世界には名無しの英雄が沢山いるし、その人達にはきっと救える物がある。それを私はよくわかってるんだから」
 溜息混じりに笑みを返すヴォルフガング。一方、エステルはずっと一人で何かを考えているようだった。
「どうした? 無辜の民を蹂躙する悪党共に義憤する所ではないのか?」
「カルステン・ビュルツ……彼の槍術に覚えはありません事?」
 首を傾げるアウレール。エステルは槍を構えて見せた。それはカルステンと同じ構えだった。
「帝国流の基本槍術の構えです。それだけではありませんわ。彼の身のこなし、独学どころかバリバリの“帝国流”でしたもの」
 それが妙に引っかかる。そう言った後エステルはころりと表情を変え、やっぱり怒りを露わにするのであった。

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    エステル・L・V・Wka0548
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531

重体一覧

参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 落果の翠
    七海・美星(ka3937
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アウレール・V・ブラオラント(ka2531
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/02/11 01:25:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/06 19:52:03