ゲスト
(ka0000)
【王国展】古書に眠るものたち
マスター:ユキ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/23 19:00
- 完成日
- 2015/04/06 20:04
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
~~以下王国展共通OP
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
………
――古都アークエルスにて
「千年王国の王女とあろうお方が自らこのようなことを……いやはや……」
目の前の幼い領主に長年仕えてきたであろう老執事は、主が床へと捨てた書状に自らも目を通し、その文面に複雑な表情を浮かべ、長い息を吐く。その様子に、領主は別段気を悪くする様子は見せない。
「いいんじゃないかな? 若い王女には何事も経験が必要だよ。それに、考えてもみるといい。あの宰相や僕が代表をする組織に、広くハンターが集まり、地方の農民や職人が動くと思うかい? 動くのは強欲な商人や貴族連中くらいだろうね」
フフッ、と容姿に似合わぬ自嘲めいた笑みを浮かべる古都アークエルスの領主フリュイ・ド・パラディ(kz0036)は冗談めかしつつも、王国の現状を俯瞰している。
「前王を失い、さらにベリアルの一件。この国は今疲弊しているからね。いろんな意味でハンターの力が必要なのさ。さすが、宰相もよくわかっているよね」
【黒祀】……ベリアルの襲撃により傷ついた地方経済の活性化を図るための展覧会と、それを通じてハンターに王国のことを知ってもらうことを目的とした展覧会の企画を知らせる文。もちろん、地方経済の活性化というのが大目標だろう。だが今、国は度重なる悲劇に見舞われ、民の心が王家から離れようとしている。そしてそれを繋ぎとめられるだけの統治力も武力も、今の王国にはない。いずれ地方の傷は癒えるが、だがそこに王家の手が至らなかったとなれば、宰相の望む中央集権など霞の如く。その鎹となるのが、ハンターだ。
「して、いかがなさいますか?」
文の返書について執事が尋ねるが、その答えが「Yes」なことはわかっていた。だが、実際のフリュイの返答は、長年仕える彼にとっても少し想像の斜め上だったようだが。
「もちろん、古都の主として、王国の未来のためにも協力は惜しまないさ。我がアークエルスはすべてを生み出す街。生み出されたものを広く知らしめ、そしてそれがまた新たな創造を生むんだよ。……でもね」
「でも? と、おっしゃいますと?」
主の言葉をききながら「ではこの季節であればこの作物が良いだろうか。それとも他の都市との差を生むという意味ではなにか発明品が良いだろうか。最近のものではあれなどはどうだろうか……」と展示品のリストを頭の中で作っていた執事の思考が、最後の一言で白紙に戻される。その意表を突かれたという様子にフリュイは子どものように笑みを浮かべる。
「すでにあるものを出してもつまらないよね。これは何のための展示だい? ハンターに王国を知ってもらうためだろう? なら、ハンターに街が誇るモノを見てもらって、その上で選ばせればいいじゃないか。幸い、資料は山のようにあるんだからね」
………
――ハンターズソサエティにて
「古都の巨大図書館をハンターのために開放?」
ハンターズソサエティに表示されたその依頼内容は、あまり依頼というにはふさわしくないように思えるものだった。訝し気なハンターとは反対に、受付嬢はどこか興奮した様子を見せる。
「えぇ、なんでも、今度王国で開かれる展覧会のための展示品について、ハンター自身に巨大図書館の書物の中から気になるものを探させて、それをアークエルスの技術者たちが責任を持って開発して展覧会に出すんだそうよ。もちろん成功したらの話ですけど。普段は立ち入りの禁止されてる閉鎖区域もこの日だけはハンターたちに開放してくれるそうだから、おもしろそうよね」
一息に説明する受付嬢が、「どう?」と輝く瞳で訴えるが、
「俺、本って見ると眠くなるんだよな……」
と、どうにも腰が重い。だが負けじと推し続ける受付嬢。
「開放は朝から夜までしてくれるらしいし、別に1日中籠ってなくてもいいそうよ。反対に、好きなだけいろんな本を見てもいいらしいし、まっ、興味があるならってやつね。もしかしたら、大昔のとんでも兵器の作り方とか、宝の地図とかでもでてくるかもしれないし、おもしろそうじゃない?」
強力な過去のアイテムや、宝。ハンターにとっては魅力的と思われる単語を並べ立てる彼女だったが、
「あたし、埃とかカビっぽいのダメなのよねぇ……ゴブリンの巣窟の駆除とかだったら大丈夫なんだけど」
と、戦闘肌のハンターたちは難色を示す。その様子に肩を落としつつ、とりあえずと依頼書を渡すのだった。気乗りしない様子で出直そうとカウンターを後にするハンターの背中に、彼女の言葉が届いたかどうか。
「あぁそうそう、もし受けるなら、立ち入り禁止区域の中での安全は保障しないって書いてあるから、注意してねー」
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
………
――古都アークエルスにて
「千年王国の王女とあろうお方が自らこのようなことを……いやはや……」
目の前の幼い領主に長年仕えてきたであろう老執事は、主が床へと捨てた書状に自らも目を通し、その文面に複雑な表情を浮かべ、長い息を吐く。その様子に、領主は別段気を悪くする様子は見せない。
「いいんじゃないかな? 若い王女には何事も経験が必要だよ。それに、考えてもみるといい。あの宰相や僕が代表をする組織に、広くハンターが集まり、地方の農民や職人が動くと思うかい? 動くのは強欲な商人や貴族連中くらいだろうね」
フフッ、と容姿に似合わぬ自嘲めいた笑みを浮かべる古都アークエルスの領主フリュイ・ド・パラディ(kz0036)は冗談めかしつつも、王国の現状を俯瞰している。
「前王を失い、さらにベリアルの一件。この国は今疲弊しているからね。いろんな意味でハンターの力が必要なのさ。さすが、宰相もよくわかっているよね」
【黒祀】……ベリアルの襲撃により傷ついた地方経済の活性化を図るための展覧会と、それを通じてハンターに王国のことを知ってもらうことを目的とした展覧会の企画を知らせる文。もちろん、地方経済の活性化というのが大目標だろう。だが今、国は度重なる悲劇に見舞われ、民の心が王家から離れようとしている。そしてそれを繋ぎとめられるだけの統治力も武力も、今の王国にはない。いずれ地方の傷は癒えるが、だがそこに王家の手が至らなかったとなれば、宰相の望む中央集権など霞の如く。その鎹となるのが、ハンターだ。
「して、いかがなさいますか?」
文の返書について執事が尋ねるが、その答えが「Yes」なことはわかっていた。だが、実際のフリュイの返答は、長年仕える彼にとっても少し想像の斜め上だったようだが。
「もちろん、古都の主として、王国の未来のためにも協力は惜しまないさ。我がアークエルスはすべてを生み出す街。生み出されたものを広く知らしめ、そしてそれがまた新たな創造を生むんだよ。……でもね」
「でも? と、おっしゃいますと?」
主の言葉をききながら「ではこの季節であればこの作物が良いだろうか。それとも他の都市との差を生むという意味ではなにか発明品が良いだろうか。最近のものではあれなどはどうだろうか……」と展示品のリストを頭の中で作っていた執事の思考が、最後の一言で白紙に戻される。その意表を突かれたという様子にフリュイは子どものように笑みを浮かべる。
「すでにあるものを出してもつまらないよね。これは何のための展示だい? ハンターに王国を知ってもらうためだろう? なら、ハンターに街が誇るモノを見てもらって、その上で選ばせればいいじゃないか。幸い、資料は山のようにあるんだからね」
………
――ハンターズソサエティにて
「古都の巨大図書館をハンターのために開放?」
ハンターズソサエティに表示されたその依頼内容は、あまり依頼というにはふさわしくないように思えるものだった。訝し気なハンターとは反対に、受付嬢はどこか興奮した様子を見せる。
「えぇ、なんでも、今度王国で開かれる展覧会のための展示品について、ハンター自身に巨大図書館の書物の中から気になるものを探させて、それをアークエルスの技術者たちが責任を持って開発して展覧会に出すんだそうよ。もちろん成功したらの話ですけど。普段は立ち入りの禁止されてる閉鎖区域もこの日だけはハンターたちに開放してくれるそうだから、おもしろそうよね」
一息に説明する受付嬢が、「どう?」と輝く瞳で訴えるが、
「俺、本って見ると眠くなるんだよな……」
と、どうにも腰が重い。だが負けじと推し続ける受付嬢。
「開放は朝から夜までしてくれるらしいし、別に1日中籠ってなくてもいいそうよ。反対に、好きなだけいろんな本を見てもいいらしいし、まっ、興味があるならってやつね。もしかしたら、大昔のとんでも兵器の作り方とか、宝の地図とかでもでてくるかもしれないし、おもしろそうじゃない?」
強力な過去のアイテムや、宝。ハンターにとっては魅力的と思われる単語を並べ立てる彼女だったが、
「あたし、埃とかカビっぽいのダメなのよねぇ……ゴブリンの巣窟の駆除とかだったら大丈夫なんだけど」
と、戦闘肌のハンターたちは難色を示す。その様子に肩を落としつつ、とりあえずと依頼書を渡すのだった。気乗りしない様子で出直そうとカウンターを後にするハンターの背中に、彼女の言葉が届いたかどうか。
「あぁそうそう、もし受けるなら、立ち入り禁止区域の中での安全は保障しないって書いてあるから、注意してねー」
リプレイ本文
「やぁ、ハンター諸君。今日は僕の図書館を、僕が許す限り、自由にしてもらっていいよ」
フリュイ・ド・パラディ(kz0036)が不遜な態度で集まったハンター達に話しかけた。古都アークエルスの領主であり、今回の依頼主である。そしてハンター達に課せられた使命。それは展示会への参考になる本を探したり、アイデアを彼に伝える事だった。
●過ぎたる好奇心
「ここが、アークエルスの図書館っ……!」
驚きの表情を浮かべ、ルスティロ・イストワール(ka0252)が、図書館の圧倒的な景観に呟いた。好きなだけ館内を見回れるという事で、一般には開放していない制限区域内にて伝承などを探していた。
(展示品……かぁ……ここの力を示すのも良いと思うけど……)
手に取った本の頁をめくりながら歩いていると、禁止区域の入口まで辿りついていた。そしてそこには……。
「お久しぶりです、領主様」
「きみの事は、よく、覚えているよ」
色々な意味でねと言いたいばかりの笑みを浮かべるフリュイ。
「展示品の事だけど……転移譚の紹介、とか、どうかな? 転移者達へのアピールになるだろうし」
「なかなか面白い事を言うね、きみは」
この図書館の情報量をもってすれば、過去の転移者達の足跡も見つかるはずだ。『先進的な料理法』『衛生的な食品の取り扱い』『珍しい植物の育成や掛け合わせ』等々、調べれば多くの事が見つかるはずだ。
「ところで……そっちには、何が?」
ルスティロが向けた視線の先……。フリュイの背後の方の事だ。
「ここから先は禁止区域さ。中に入りたいのなら……まぁ、僕の目が届く範囲なら構わないよ」
ルスティロは禁止区域の中に立ち入った。ごく一部の者にしか入れないというその場は、気のせいか、異質な空気を感じさせる。ふと、なにかに魅かれる様に、一冊の本に手を伸ばした。
「これは……なんでしょう」
興味本位をそれを開いた瞬間、『本』から真っ黒な手が伸びてきて、ルスティロの首を締めあげた。覚醒状態に入って、黒い手の化け物を振り払う。化け物は床をササーと移動して消えて行った。
「きみの好奇心は、どうやら過ぎたみたいだね」
フリュイがニヤニヤとした表情で声をかけてきた。助ける事もできたはずだろうが、きっと、ルスティロがどう対処するか観察していたのだろう。
●Dream Mapper
階段を『登り続ける』だまし絵があるというリアルブルーの話を思い出しながら、アンネマリー(ka0519)は羊皮紙に自分が辿った通路を書き込んでいた。異常が現れたのは、制限区域内を進んだ時の事だ。書きこんだ地図上では、来た通路と交差しているはずなのに、彼女が行く通路は真っ直ぐと続いていた。
(どうなってるのかな、この図書館は)
作りが明らかにおかしい。この図書館内部を旅行した本があれば、きっと、飛びついて読むだろうに。マッピング作業は切りあげて、大好きな旅行記でも探そうかなと思った。旅行記は、読んでいるだけなのに自分がその土地を訪れたように、作者と一緒に旅をしている気分になれるからだ。その時、通路の先に、人影が立っていた。
「フリュイさん」
背格好は少年なのだが、形容しがたい雰囲気を放っている彼は、興味がなさそうな顔を呼び掛けたアンネマリーに向ける。
「禁止区域はここから先さ」
「ちょっと、様子が見たいかな」
フリュイがいう禁止区域の作りは、さほど今いる制限区域と変わらないようにも見える。
アンネマリーは噂で聞いた事があって、知っていた。あの中には教会の先輩シスター達が隠してるつもりで回し読みしてる禁断の愛の物語とかいっぱいあると。
「なんの本を探してるんだい?」
「禁断の愛について、記している本です」
だから、フリュイの質問に淡々と答えた。
「なるほどね……」
「お勧めの物語とかあるのかな?」
「これなんていいよ。読めるならね」
手渡された分厚い本を開くと解読不能な文字がびっしりと羅列してあった。挿絵でもないかとパラパラとめくるが、そんなものはなく、その様は、先程まで取り組んでいたマッピング作業と似て、永遠と続く気をアンネマリーは感じた。
●継ぎ繋ぐ手
「わぁ……わぁ……! 巨大図書館……! こんなところがあったなんて……!」
クレール(ka0586)が、思わず独り言を口にした。この中から、展示品の参考になる本を探すのだ。そして、クレールには、本を探す上で目的があった。それは、魔法鍛冶についてだ。
「思いっきり勉強するぞぉ」
と、静かに誓う。代々鍛冶屋であり、その跡取りである彼女にとっては、またとない機会だ。
一般開放区域から基礎となる本を探すが、それを記した本自体がなかなか見つからなかった。
(あまり、知られていない事なのかな?)
魔法鍛冶の言葉は両親から聞いた事があったが、内容までは教えてはくれなかった。という事は、教えられない何かがあるのかと思いつつ、次は制限区域に入る。そこへ、図書館内のパルムが数冊ばかり持って現れた。
(『魔法を用いた鍛冶によって作られる食器や鍋は、用途によって使い分けられ……』)
それが、両親の言っていた魔法鍛冶かどうかは不明であるが……。もしかしてと思う。それによると、この技術によって造られた物は、常に温かいか、もしくは、冷たい食器や鍋でありようだ。食器以外では、人を感知する事で照明の光を発する鉄球なんかもあるようだ。
「凄い技術なんだ」
思わず、声に出る。それと同時に、なぜ、これほどの技術が伝わっていないのかと疑問が浮かんだ。そして、その答えに辿り着く文章を見つける。
「『歪虚の襲来によって、職人達が住んでいた街ごと滅んだ。一説には、この技術によって造られた物が、マテリアルを含み、それを歪虚が狙ったともいわれる』」
クレールは、静かに本を閉じる。当時大量に作られた品の一部は残っているようではあるが、継承されなかった技術に、彼女は寂しさを感じた。悪いのは歪虚であって、技術ではないはずだ。いつか、この技術を身につけたい。そう、クレールは決意するのであった。
●幼馴染と共に
「知識はしまっているだけでは意味がない。今回の開放は実に英断だな」
「ねぇシーラ。私の図書館もいつかこんな風になるかしら?」
2人が並びながら通路を見て歩いている。シルヴェイラ(ka0726)とエルティア・ホープナー(ka0727)だった。シルヴェイラは普段は立ち入る事が制限されている場が、こうした機会で一時的にでも解放された事に感心していた。彼は、この赤き世界と、かの青き世界について調べたいと思っている。
「エア?」
先程まで一緒に歩いていたというのに、活字中毒のエルティアは気がついた時には、手にした本を食い入る様に立ち読みしている。没頭すると寝食を忘れる程だ。きっと、このまま立ち読みを気が済むまでするに違いない。
「座ったらどうだい」
「……」
椅子を持ってきたが、集中の余り、声が聞こえていないようだ。仕方なく、そっと彼女の身体に手を添えて、座らせる。
「なら、私はこれを読むとしよう」
シルヴェイラが手に取った本は、赤き世界と青き世界を繋ぐ研究の数々をまとめた本であった。途中、解読不能な単語などもあり、真偽の程はわからないが、貴重な情報が記してあった。
(『……以上により、遥か昔、古代魔法文明時代には転移門のような物を使って行き来が可能だったが、歪虚の襲来と共に、途絶えてしまった。理論上は、リアルブルー側に転移門があり、起動していれば、転移が可能である』とな……)
これが事実であれば、驚くべき事だ。二つの世界が交流し合えば、歪虚との戦いも新しい展望が開けるかもしれないし、それ以上に、文明の交流は新たな時代を築くはずである。
ふと顔をあげると、幼馴染も読み終えた様だった。せっかくなので、禁止区域の入口にいるというフリュイに会いに行く事にする。
「貴方が禁止区域との境目なのかしら? なら、その向こうへは入れないわね」
エルティアが、禁止区域の方を眺めながら、フリュイに声をかけた。
「展示会の面白いアイデアを聞かせてくれるのなら、僕の目の届く範囲は入ってもいいよ」
「……そうね……見に来た人が笑顔になれる様な……お菓子を作る機械でもだしてみたらどう?」
「子供みたいな事を言うね、きみは」
子供の様な容姿のフリュイからのたっぷりの皮肉ぶりに、横にいるシルヴェイラが苦笑を浮かべている。
「他には、蒼の地の技術と、紅の地の技術の合わさった物をこそ見てみたいと思うけれど……」
「そういうのは、楽しそうだね。もっとも、それが載っている本を探すのは大変だけどね」
フリュイが自身の右手を禁止区域の方へ流す。中に入って良いとの事なのだろう。2人は軽く会釈すると禁止区域に踏み込んで、引き続き本を探し、時には、読み耽る。
(王国暦500年ソリス・イラ開催……)
エルティアが読んでいる本には、王国の歴史についての概略が記載されていた。その中に、気になる記述がなされている。次の500年間の加護を約束したというのだ。しかし、肝心の中身についてまでは読み解けなかった。
「……エア」
幼馴染が呼ぶ声で我に返った。彼はやれやれと溜め息をついていた。
「……もう閉館時間なのね」
残念そうに、エルティアは微笑を浮かびながら、シルヴェイラに応えるのであった。
●五感の奏者
本棚を見上げて、カフカ・ブラックウェル(ka0794)が図書館の本棚を見上げる。展示会のアイデアは既に依頼主へと伝え、今から、制限区域内で提案したアイデアの役に立つ図書を探す所だ。
(話には聞いていたけど、これは大きいな……)
通路の両脇に並ぶ本棚は、あまりの高さで、今にも崩れてくるのではないかという様な錯覚を感じる人もいるという。普段見る事がない光景に、カフカは少しだけワクワクしていた。
「さて、『五感の庭園』に相応しいものはあるのだろうか……」
彼が提案した内容は、『五感』をフルに使う展示会だ。様々な花や草木で庭園を造り、古き良きレシピの香草茶や薬膳料理を振舞う。今の楽器の原型となった楽器で、昔の曲を奏でる。
展示会を訪れた人に、『見る』だけではなく、植物や楽器に『触れ』、音楽を『聴き』、植物やお茶や料理の香りを『感じ』、料理を『味わう』事が出来る、『五感の庭園』。この話をした際にみせたフリュイの感心した表情を思い出した。
(魔術のように効果を持つ曲か……)
吟遊詩人だった両親から聞いた事はあった。フリュイも聞いた事があると言っていた。どの様な効果か分からないが、展示会で使えるものであれば、奏でてみたいと思う。
「『儀式で曲を奏でる時に、正のマテリアルを活性化させる場合もある』か……」
神事に音楽が付き物なのは、そういう理由もあるかもしれない。だが、カフカが探している記述ではなかった。曲自体を探すには禁止区域への出入りが必要になるだろう。その時、気になった事が書いてあり、それを指でなぞる。
(『負のマテリアルを用い、生きる者に悪い影響を与える曲を奏でる歪虚もいる』)
思わず、カフカは唾を飲み込んだ。できれば、そんな歪虚とは出会いたくないと思う。
●探究の先に見えるもの
「……その存在を聞かされた時から、私はずっと恋焦がれていた。文字の森……何とも素晴らしい響きではないか」
転移前は考古学・民俗学を専攻していた久延毘 大二郎(ka1771)が、図書館の通路で両手を広げて天井を仰ぎ見る。
「いつか必ずこの地に足を踏み入れて見せようと思ってきたが……クク、まさかこうも早くその機会が訪れようとは!」
近くを『お静かに』と書かれたプレートを持ったパルムが通りがかり、コホンと気を取り直す。とりあえず、自分の研究分野である歴史書やそれに関する研究書から調べに入るとする。
追っていくうちに、王国の人間から見た転移者及びリアルブルーの文化も見えてくるだろう。彼はそれを展示会で発表してはどうかと考えていた。
「王国歴以前に存在したと言われる古代文明……非常に興味深い代物だ」
古代の文明は栄華を誇っていたとは知っている。ただ、リアルブルーの古代文明と違うのは、今よりも遥かに高度な文明があったとされる所だ。
解明されていない謎に関して言うと、それはリアルブルーの古代文明でも同様なのだが。
「『遥か昔に、歪虚の襲来により古代文明は滅亡。生き残った古代人の一部が当時行き来できていたリアルブルーへ転移した……』」
文章の途中で、読み上げるのを止める久延毘。書物に書かれている事が『正しい』とは限らないは分かっている。
これが本当であれば、世紀の大発見の可能性もあり、そして、リアルブルーの古代文明の謎を解く鍵かもしれないと思った。
「まさか、我らが世界の四大文明の発祥と繋がりが。……いや、年代が分からない以上、わからないか」
久延毘は、静かに目をつぶると、遥か遠い過去に、想いを馳せるのであった。
●その源は母の味
桃色の髪を揺らして、元気に図書館の通路を歩く、エテ(ka1888)。今日は、この巨大な図書館で、"伝説のバナナケーキ"を記したレシピ本を探すつもりだ。
「司書さんが関係ない本ばかり持ってくるから」
厚みのない漫画やら絵本ばかり司書が持ってくるから、つい大声を出してしまったのだ。そういう事で、一人でレシピを探すが、この図書館は広過ぎた。昼も過ぎようとした時、禁止区域の入口にて読書をしているフリュイを見かける。
「こんにちわ。フリュイさん」
「やぁ、なにか用かな?」
「もうお昼ですし此処から近い所に美味しいパン屋さんがあったので、ご、ご、ご一緒にでもと」
唐突に出た言葉に、エテ自身が驚いていた。断られるに決まっている。
「そんな時間か。今日、僕はここから動く事はないから」
「ですよね……」
やっぱり、断られたと思ったエテに、フリュイがお菓子を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「君の仲間からの差し入れだよ。それより、君はなにを探しているのかな?」
ラスクをフリュイと同じタイミングで口に運びつつ、エテは伝説のバナナケーキの事を話した。すると、彼は近場の本棚から一冊の本を取り出す。
「『ケーキの伝説』!」
表紙に書かれている題名を読んで、エテは驚いた。お礼を述べ、真剣に頁をめくっていく。この中に、レシピがあるかもと思うと胸が高鳴る。
「どうだい?」
本を読み切った所で、フリュイが訊ねてきた。本を閉じて、エテは天井を見上げる。
結論から言うと、レシピはなかった。いや、もしかして、それは、最高の材料であり、レシピだったかもしれない。
「……『愛情』があれば ケーキはなんでも美味しくなる……らしいです」
フリュイにそう報告しながら、エテは母の懐かしいケーキの味を思い出していた。
(代筆:赤山優牙)
フリュイ・ド・パラディ(kz0036)が不遜な態度で集まったハンター達に話しかけた。古都アークエルスの領主であり、今回の依頼主である。そしてハンター達に課せられた使命。それは展示会への参考になる本を探したり、アイデアを彼に伝える事だった。
●過ぎたる好奇心
「ここが、アークエルスの図書館っ……!」
驚きの表情を浮かべ、ルスティロ・イストワール(ka0252)が、図書館の圧倒的な景観に呟いた。好きなだけ館内を見回れるという事で、一般には開放していない制限区域内にて伝承などを探していた。
(展示品……かぁ……ここの力を示すのも良いと思うけど……)
手に取った本の頁をめくりながら歩いていると、禁止区域の入口まで辿りついていた。そしてそこには……。
「お久しぶりです、領主様」
「きみの事は、よく、覚えているよ」
色々な意味でねと言いたいばかりの笑みを浮かべるフリュイ。
「展示品の事だけど……転移譚の紹介、とか、どうかな? 転移者達へのアピールになるだろうし」
「なかなか面白い事を言うね、きみは」
この図書館の情報量をもってすれば、過去の転移者達の足跡も見つかるはずだ。『先進的な料理法』『衛生的な食品の取り扱い』『珍しい植物の育成や掛け合わせ』等々、調べれば多くの事が見つかるはずだ。
「ところで……そっちには、何が?」
ルスティロが向けた視線の先……。フリュイの背後の方の事だ。
「ここから先は禁止区域さ。中に入りたいのなら……まぁ、僕の目が届く範囲なら構わないよ」
ルスティロは禁止区域の中に立ち入った。ごく一部の者にしか入れないというその場は、気のせいか、異質な空気を感じさせる。ふと、なにかに魅かれる様に、一冊の本に手を伸ばした。
「これは……なんでしょう」
興味本位をそれを開いた瞬間、『本』から真っ黒な手が伸びてきて、ルスティロの首を締めあげた。覚醒状態に入って、黒い手の化け物を振り払う。化け物は床をササーと移動して消えて行った。
「きみの好奇心は、どうやら過ぎたみたいだね」
フリュイがニヤニヤとした表情で声をかけてきた。助ける事もできたはずだろうが、きっと、ルスティロがどう対処するか観察していたのだろう。
●Dream Mapper
階段を『登り続ける』だまし絵があるというリアルブルーの話を思い出しながら、アンネマリー(ka0519)は羊皮紙に自分が辿った通路を書き込んでいた。異常が現れたのは、制限区域内を進んだ時の事だ。書きこんだ地図上では、来た通路と交差しているはずなのに、彼女が行く通路は真っ直ぐと続いていた。
(どうなってるのかな、この図書館は)
作りが明らかにおかしい。この図書館内部を旅行した本があれば、きっと、飛びついて読むだろうに。マッピング作業は切りあげて、大好きな旅行記でも探そうかなと思った。旅行記は、読んでいるだけなのに自分がその土地を訪れたように、作者と一緒に旅をしている気分になれるからだ。その時、通路の先に、人影が立っていた。
「フリュイさん」
背格好は少年なのだが、形容しがたい雰囲気を放っている彼は、興味がなさそうな顔を呼び掛けたアンネマリーに向ける。
「禁止区域はここから先さ」
「ちょっと、様子が見たいかな」
フリュイがいう禁止区域の作りは、さほど今いる制限区域と変わらないようにも見える。
アンネマリーは噂で聞いた事があって、知っていた。あの中には教会の先輩シスター達が隠してるつもりで回し読みしてる禁断の愛の物語とかいっぱいあると。
「なんの本を探してるんだい?」
「禁断の愛について、記している本です」
だから、フリュイの質問に淡々と答えた。
「なるほどね……」
「お勧めの物語とかあるのかな?」
「これなんていいよ。読めるならね」
手渡された分厚い本を開くと解読不能な文字がびっしりと羅列してあった。挿絵でもないかとパラパラとめくるが、そんなものはなく、その様は、先程まで取り組んでいたマッピング作業と似て、永遠と続く気をアンネマリーは感じた。
●継ぎ繋ぐ手
「わぁ……わぁ……! 巨大図書館……! こんなところがあったなんて……!」
クレール(ka0586)が、思わず独り言を口にした。この中から、展示品の参考になる本を探すのだ。そして、クレールには、本を探す上で目的があった。それは、魔法鍛冶についてだ。
「思いっきり勉強するぞぉ」
と、静かに誓う。代々鍛冶屋であり、その跡取りである彼女にとっては、またとない機会だ。
一般開放区域から基礎となる本を探すが、それを記した本自体がなかなか見つからなかった。
(あまり、知られていない事なのかな?)
魔法鍛冶の言葉は両親から聞いた事があったが、内容までは教えてはくれなかった。という事は、教えられない何かがあるのかと思いつつ、次は制限区域に入る。そこへ、図書館内のパルムが数冊ばかり持って現れた。
(『魔法を用いた鍛冶によって作られる食器や鍋は、用途によって使い分けられ……』)
それが、両親の言っていた魔法鍛冶かどうかは不明であるが……。もしかしてと思う。それによると、この技術によって造られた物は、常に温かいか、もしくは、冷たい食器や鍋でありようだ。食器以外では、人を感知する事で照明の光を発する鉄球なんかもあるようだ。
「凄い技術なんだ」
思わず、声に出る。それと同時に、なぜ、これほどの技術が伝わっていないのかと疑問が浮かんだ。そして、その答えに辿り着く文章を見つける。
「『歪虚の襲来によって、職人達が住んでいた街ごと滅んだ。一説には、この技術によって造られた物が、マテリアルを含み、それを歪虚が狙ったともいわれる』」
クレールは、静かに本を閉じる。当時大量に作られた品の一部は残っているようではあるが、継承されなかった技術に、彼女は寂しさを感じた。悪いのは歪虚であって、技術ではないはずだ。いつか、この技術を身につけたい。そう、クレールは決意するのであった。
●幼馴染と共に
「知識はしまっているだけでは意味がない。今回の開放は実に英断だな」
「ねぇシーラ。私の図書館もいつかこんな風になるかしら?」
2人が並びながら通路を見て歩いている。シルヴェイラ(ka0726)とエルティア・ホープナー(ka0727)だった。シルヴェイラは普段は立ち入る事が制限されている場が、こうした機会で一時的にでも解放された事に感心していた。彼は、この赤き世界と、かの青き世界について調べたいと思っている。
「エア?」
先程まで一緒に歩いていたというのに、活字中毒のエルティアは気がついた時には、手にした本を食い入る様に立ち読みしている。没頭すると寝食を忘れる程だ。きっと、このまま立ち読みを気が済むまでするに違いない。
「座ったらどうだい」
「……」
椅子を持ってきたが、集中の余り、声が聞こえていないようだ。仕方なく、そっと彼女の身体に手を添えて、座らせる。
「なら、私はこれを読むとしよう」
シルヴェイラが手に取った本は、赤き世界と青き世界を繋ぐ研究の数々をまとめた本であった。途中、解読不能な単語などもあり、真偽の程はわからないが、貴重な情報が記してあった。
(『……以上により、遥か昔、古代魔法文明時代には転移門のような物を使って行き来が可能だったが、歪虚の襲来と共に、途絶えてしまった。理論上は、リアルブルー側に転移門があり、起動していれば、転移が可能である』とな……)
これが事実であれば、驚くべき事だ。二つの世界が交流し合えば、歪虚との戦いも新しい展望が開けるかもしれないし、それ以上に、文明の交流は新たな時代を築くはずである。
ふと顔をあげると、幼馴染も読み終えた様だった。せっかくなので、禁止区域の入口にいるというフリュイに会いに行く事にする。
「貴方が禁止区域との境目なのかしら? なら、その向こうへは入れないわね」
エルティアが、禁止区域の方を眺めながら、フリュイに声をかけた。
「展示会の面白いアイデアを聞かせてくれるのなら、僕の目の届く範囲は入ってもいいよ」
「……そうね……見に来た人が笑顔になれる様な……お菓子を作る機械でもだしてみたらどう?」
「子供みたいな事を言うね、きみは」
子供の様な容姿のフリュイからのたっぷりの皮肉ぶりに、横にいるシルヴェイラが苦笑を浮かべている。
「他には、蒼の地の技術と、紅の地の技術の合わさった物をこそ見てみたいと思うけれど……」
「そういうのは、楽しそうだね。もっとも、それが載っている本を探すのは大変だけどね」
フリュイが自身の右手を禁止区域の方へ流す。中に入って良いとの事なのだろう。2人は軽く会釈すると禁止区域に踏み込んで、引き続き本を探し、時には、読み耽る。
(王国暦500年ソリス・イラ開催……)
エルティアが読んでいる本には、王国の歴史についての概略が記載されていた。その中に、気になる記述がなされている。次の500年間の加護を約束したというのだ。しかし、肝心の中身についてまでは読み解けなかった。
「……エア」
幼馴染が呼ぶ声で我に返った。彼はやれやれと溜め息をついていた。
「……もう閉館時間なのね」
残念そうに、エルティアは微笑を浮かびながら、シルヴェイラに応えるのであった。
●五感の奏者
本棚を見上げて、カフカ・ブラックウェル(ka0794)が図書館の本棚を見上げる。展示会のアイデアは既に依頼主へと伝え、今から、制限区域内で提案したアイデアの役に立つ図書を探す所だ。
(話には聞いていたけど、これは大きいな……)
通路の両脇に並ぶ本棚は、あまりの高さで、今にも崩れてくるのではないかという様な錯覚を感じる人もいるという。普段見る事がない光景に、カフカは少しだけワクワクしていた。
「さて、『五感の庭園』に相応しいものはあるのだろうか……」
彼が提案した内容は、『五感』をフルに使う展示会だ。様々な花や草木で庭園を造り、古き良きレシピの香草茶や薬膳料理を振舞う。今の楽器の原型となった楽器で、昔の曲を奏でる。
展示会を訪れた人に、『見る』だけではなく、植物や楽器に『触れ』、音楽を『聴き』、植物やお茶や料理の香りを『感じ』、料理を『味わう』事が出来る、『五感の庭園』。この話をした際にみせたフリュイの感心した表情を思い出した。
(魔術のように効果を持つ曲か……)
吟遊詩人だった両親から聞いた事はあった。フリュイも聞いた事があると言っていた。どの様な効果か分からないが、展示会で使えるものであれば、奏でてみたいと思う。
「『儀式で曲を奏でる時に、正のマテリアルを活性化させる場合もある』か……」
神事に音楽が付き物なのは、そういう理由もあるかもしれない。だが、カフカが探している記述ではなかった。曲自体を探すには禁止区域への出入りが必要になるだろう。その時、気になった事が書いてあり、それを指でなぞる。
(『負のマテリアルを用い、生きる者に悪い影響を与える曲を奏でる歪虚もいる』)
思わず、カフカは唾を飲み込んだ。できれば、そんな歪虚とは出会いたくないと思う。
●探究の先に見えるもの
「……その存在を聞かされた時から、私はずっと恋焦がれていた。文字の森……何とも素晴らしい響きではないか」
転移前は考古学・民俗学を専攻していた久延毘 大二郎(ka1771)が、図書館の通路で両手を広げて天井を仰ぎ見る。
「いつか必ずこの地に足を踏み入れて見せようと思ってきたが……クク、まさかこうも早くその機会が訪れようとは!」
近くを『お静かに』と書かれたプレートを持ったパルムが通りがかり、コホンと気を取り直す。とりあえず、自分の研究分野である歴史書やそれに関する研究書から調べに入るとする。
追っていくうちに、王国の人間から見た転移者及びリアルブルーの文化も見えてくるだろう。彼はそれを展示会で発表してはどうかと考えていた。
「王国歴以前に存在したと言われる古代文明……非常に興味深い代物だ」
古代の文明は栄華を誇っていたとは知っている。ただ、リアルブルーの古代文明と違うのは、今よりも遥かに高度な文明があったとされる所だ。
解明されていない謎に関して言うと、それはリアルブルーの古代文明でも同様なのだが。
「『遥か昔に、歪虚の襲来により古代文明は滅亡。生き残った古代人の一部が当時行き来できていたリアルブルーへ転移した……』」
文章の途中で、読み上げるのを止める久延毘。書物に書かれている事が『正しい』とは限らないは分かっている。
これが本当であれば、世紀の大発見の可能性もあり、そして、リアルブルーの古代文明の謎を解く鍵かもしれないと思った。
「まさか、我らが世界の四大文明の発祥と繋がりが。……いや、年代が分からない以上、わからないか」
久延毘は、静かに目をつぶると、遥か遠い過去に、想いを馳せるのであった。
●その源は母の味
桃色の髪を揺らして、元気に図書館の通路を歩く、エテ(ka1888)。今日は、この巨大な図書館で、"伝説のバナナケーキ"を記したレシピ本を探すつもりだ。
「司書さんが関係ない本ばかり持ってくるから」
厚みのない漫画やら絵本ばかり司書が持ってくるから、つい大声を出してしまったのだ。そういう事で、一人でレシピを探すが、この図書館は広過ぎた。昼も過ぎようとした時、禁止区域の入口にて読書をしているフリュイを見かける。
「こんにちわ。フリュイさん」
「やぁ、なにか用かな?」
「もうお昼ですし此処から近い所に美味しいパン屋さんがあったので、ご、ご、ご一緒にでもと」
唐突に出た言葉に、エテ自身が驚いていた。断られるに決まっている。
「そんな時間か。今日、僕はここから動く事はないから」
「ですよね……」
やっぱり、断られたと思ったエテに、フリュイがお菓子を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「君の仲間からの差し入れだよ。それより、君はなにを探しているのかな?」
ラスクをフリュイと同じタイミングで口に運びつつ、エテは伝説のバナナケーキの事を話した。すると、彼は近場の本棚から一冊の本を取り出す。
「『ケーキの伝説』!」
表紙に書かれている題名を読んで、エテは驚いた。お礼を述べ、真剣に頁をめくっていく。この中に、レシピがあるかもと思うと胸が高鳴る。
「どうだい?」
本を読み切った所で、フリュイが訊ねてきた。本を閉じて、エテは天井を見上げる。
結論から言うと、レシピはなかった。いや、もしかして、それは、最高の材料であり、レシピだったかもしれない。
「……『愛情』があれば ケーキはなんでも美味しくなる……らしいです」
フリュイにそう報告しながら、エテは母の懐かしいケーキの味を思い出していた。
(代筆:赤山優牙)
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/20 01:01:08 |