ゲスト
(ka0000)
愛はかたつむりの歩み
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/30 09:00
- 完成日
- 2014/07/05 12:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
静かな森の湖畔、鮮やかに花咲き乱れる所に、一軒の家が建っている。
新しく建てられた赤いレンガに黄色い漆喰、小さな窓枠のついた可愛い家の持ち主は、結婚したばかりの若い夫婦だった。
ふたりのための新居なのだ。
「どうだいキャリー、とっても素敵だろう?」
「素敵! トニオ、まるで夢のようだわ!」
「きみは言っていたよね、静かな湖畔の森の影で二人だけの時間を過ごしたいって」
「覚えていてくれたのね!」
「これからの夜は毎日がパラダイスさ!」
「愛してるわトニオ! 貴方はまるで太陽に向かって一直線に伸びる向日葵のよう!」
「キャリー、ならば君は僕の太陽だね」
「いますぐわたしを抱いて! さあ!」
「勿論だよ、真夏の太陽のように愛し合おギャー?!」
「キャーーーーーーーー!!!」
そこで壁が破裂。
男は壁の破片を後頭部に食らって倒れ、女は壁の穴の向こうに巨大な何かを見た……。
「……カタツムリーーー!?」
「……ということがあったのさ……」
リゼリオの酒場のカウンターで、アントニオはマスター相手に話していた。
アントニオの話はこうだった。
青年実業家として成功し、恋人との明るい未来のために建てた新居。
そこに巨大なカタツムリが壁をぶち破って乱入してきたという。
「そりゃ罰が当たったな」
少し笑みを浮かべてマスターは返す。
「何だ? それは。僕は悪い事などしていないぞ」
「成功して美人の嫁さんをもらったお前さんに、世の独身男達の怨みと妬みが、カタツムリの化け物となって襲いかかったのさ」
アントニオよりずっと年上だが、いまだ独身のマスターは、そう言ってグラスに液体を注いだ。
「失恋の記念に」
出されたのは、カンパリビアというカクテル。
失恋した時に飲むカクテルである。
「喜ぶな。別れてなんかいない」
アントニオはグラスを突き返した。
確かに別れてはいない。しかし、キャロラインは実家に帰っているし、あのカタツムリをなんとかしない限りはいつか愛想を尽かされてしまうかもしれない。
「でもあんなもの一体どうすればいいんだ……」
商売の才覚があって顔も良いが腕っぷしはからっきしのアントニオは頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
「ま……そいつは多分歪虚だろう。ならハンターにでも依頼するんだな」
グラスを磨きながらのマスターの言葉に、アントニオは顔を上げて目を輝かせた。
新しく建てられた赤いレンガに黄色い漆喰、小さな窓枠のついた可愛い家の持ち主は、結婚したばかりの若い夫婦だった。
ふたりのための新居なのだ。
「どうだいキャリー、とっても素敵だろう?」
「素敵! トニオ、まるで夢のようだわ!」
「きみは言っていたよね、静かな湖畔の森の影で二人だけの時間を過ごしたいって」
「覚えていてくれたのね!」
「これからの夜は毎日がパラダイスさ!」
「愛してるわトニオ! 貴方はまるで太陽に向かって一直線に伸びる向日葵のよう!」
「キャリー、ならば君は僕の太陽だね」
「いますぐわたしを抱いて! さあ!」
「勿論だよ、真夏の太陽のように愛し合おギャー?!」
「キャーーーーーーーー!!!」
そこで壁が破裂。
男は壁の破片を後頭部に食らって倒れ、女は壁の穴の向こうに巨大な何かを見た……。
「……カタツムリーーー!?」
「……ということがあったのさ……」
リゼリオの酒場のカウンターで、アントニオはマスター相手に話していた。
アントニオの話はこうだった。
青年実業家として成功し、恋人との明るい未来のために建てた新居。
そこに巨大なカタツムリが壁をぶち破って乱入してきたという。
「そりゃ罰が当たったな」
少し笑みを浮かべてマスターは返す。
「何だ? それは。僕は悪い事などしていないぞ」
「成功して美人の嫁さんをもらったお前さんに、世の独身男達の怨みと妬みが、カタツムリの化け物となって襲いかかったのさ」
アントニオよりずっと年上だが、いまだ独身のマスターは、そう言ってグラスに液体を注いだ。
「失恋の記念に」
出されたのは、カンパリビアというカクテル。
失恋した時に飲むカクテルである。
「喜ぶな。別れてなんかいない」
アントニオはグラスを突き返した。
確かに別れてはいない。しかし、キャロラインは実家に帰っているし、あのカタツムリをなんとかしない限りはいつか愛想を尽かされてしまうかもしれない。
「でもあんなもの一体どうすればいいんだ……」
商売の才覚があって顔も良いが腕っぷしはからっきしのアントニオは頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
「ま……そいつは多分歪虚だろう。ならハンターにでも依頼するんだな」
グラスを磨きながらのマスターの言葉に、アントニオは顔を上げて目を輝かせた。
リプレイ本文
●Honey
静かな森の湖畔、鮮やかに花咲き乱れる所に、一軒の家が建っている。
その家に向かって、二人の男女が歩いていた。
腕を組んでぴったりと寄り添い、顔を近づけて囁きあったり、笑い声をあげたりしている。
幸せそうな恋人達の図だ……
しかし実際は、そうではなかった。
仲がいいのは本当だが二人は姉妹。男装した星輝 Amhran(ka0724)と、Uisca Amhran(ka0754)だ。
そして、家に向かっているのは二人だけではなかった。他四人が、二人から間を置いて歩いている。
「女の子がイチャイチャするは何つーかあれっすね! いいっすね!」
神楽(ka2032)は上機嫌だった。理由は二つ。ひとつはリア充に天罰が当たった事――偏った見方だ――。もうひとつは、同行者が全員若い女だったことだ。
「よくわかんないかな? あたしは戦えればそれでいいし」
神楽の心中はどこ吹く風。七星・絵里(ka0730)が言った。
「しょーじき、カタツムリって、あんま好きじゃねー、です」
八城雪(ka0146)は相手に不服そうだったが、戦うこと自体には乗り気のようだ。
……今雪が言ったが、カタツムリの事である。
かれらが向かう家……そこには今良くないものが住み着いている。
歪虚と成り、成人男性三人分程度まで巨大化したカタツムリ……かれらハンターは、今からそれを狩りに行くのである。
「はぁー……雑魔ってそんなにデカくなることもあるのか……」
フラン・レンナルツ(ka0170)も雪と似たような反応を見せているが、彼女の場合はカタツムリであることよりむしろその大きさに物申したいらしかった。
さて、星輝とUiscaが問題の家に着いた。
残りのメンバーは家まで入らずに周辺で待機している。
家には今では壁に巨大な穴が開いており、本来なら幸せな家庭を象徴したであろう雰囲気をぶち壊しにしている。
二人はそっと穴を覗き込む。
……いた。
探すまでもない。そこはリビングで、その真ん中に天井にぎりぎり収まる巨大なカタツムリが鎮座していた。
胴体は殻に入っている。異常な光景に不釣り合いな静寂が辺りを支配していた。
散らばっている建築材や壊れた家具はまだ新しく、それがやけに痛ましかった。
その穴は充分な大きさだったが、二人は外に出ることも考慮して玄関から入った。星輝は意味も無くお邪魔しますと言った。
Uiscaの表情が引き締まった。依頼人が襲われた時の再現(少なくとも表向きは)で激甘イチャラブカップルを演じていたが、その内心は歪虚への怒りと使命感で燃えていた。
(私も恋人を持つ身として、新婚さんを襲うなんて許せません!)
家に入ると内心で意気込み、リビングへと向かった。
「星輝くん見て、あんな所に大きなカタツムリがいるよ☆」
あくまでも自然にアプローチする二人。外へとおびき出すため、Uiscaが自ら用意した餌を手にそっと近寄る。
――その時だった。
ゴ、ゴ、ゴ……殻が音を発したかと思うと、ドチャアと派手な音をたてて、胴体が出てきた。見る間に巨大な姿になる。四本の触覚、滑らかな肉体……それは確かにカタツムリだった。
しかし巨大だった。誇張などない、聞いたままの成人男性三人分に匹敵する体躯だった。
巨大カタツムリ、依頼人がハニーイーターと名付けたその雑魔は、そそり立った上体の上にぴんと突き出た触覚の先についた眼で、星輝とUiscaを見下している。
――かと思うと、それは上体を持ち上げ、威嚇するような姿勢を見せた。
●燃えよ蝸牛拳
二人は全く同時に駆け出す。
壁に激突してはへこませながら、雑魔が追った。
巨体で、カタツムリなのに、速い。
二人は全力疾走で家から出た。すぐ雑魔がぬっと玄関から姿を現し、障害物のない外を高速で這った。
「――アゴーニ!」
祖国ロシアでの掛け声と共に、狙いを定めていたフランの魔導銃が火を噴いた。『強弾』だ。
射撃された雑魔は止まり、体を少し縮めたが、すぐさま元に戻り、視線を巡らした。
――果たして、六つの影に囲まれていた。
「ひゃーっはっは! これでお前は逃げられないっす! 袋叩きにしてやるっすよー!」
家とカタツムリの間に陣取った、神楽が高笑いする。ただ待機していただけではなく、『闘心昂揚』によって身体能力を高めている。
その隣には雪が、反対側に絵里が立つ。逃げていた星輝とUiscaも雑魔に向き直り構える。
そんな中、フランはひとり家の中へと入っていった。
……そして壊れた椅子を手にして外に出てきたかと思うと、今度は先を輪にしたロープを使って壁を登り、屋根へと上がっていく。
その一方で絵里は日本刀を抜き放った。雑魔の側面に陣取り、すでに覚醒状態に入っている。
「人の恋路邪魔する奴は……て言うけどカタツムリか……うん」
しかも馬に蹴られても平気そうである。
「ならあたしが斬る!」
絵里が仕掛けた。一気に距離を詰め打ち込む。
刃は敵の身をとらえた……しかし、手応えは思ったより少ない。
刃が触れた瞬間に、恐るべき速度で体を引っ込めたのだ。通常のカタツムリも刺激に反応して身を縮めるが、あれと同じだ。
現に上半身が殻付近まで縮まっている。
……かと思うと、勢いをつけて胴体が飛び出してきた。
鉄砲水のように絵里に激突する。吹っ飛ばされ、地面で背中を打った。
さらに胴体が伸びる。機敏に向きを替え、背後に回った雪と神楽の方を向いた。
巨木の如き太さと長さを備えた胴体が、薙ぎ払い、雪と神楽を強打した。
二人の体が、宙に舞った。
さらに向きを替える。次の標的は星輝だ。上半身を槌の様に振るい打ちかかる。
「元黒巫女を……舐めるでないぞ……?」
星輝は不敵に迎え撃つ。雑魔の攻撃が来た。
マルチステップ――舞うように華麗に、残影を残して、星輝は回避した。そのまま反撃へと移ろうとする。
……しかし、それはできなかった。
リーチが違いすぎる。どう攻めても上から押し潰されるのが明らかだ。
「バーサクヒーラー、舐めんな、ですっ!」
Uiscaが星輝の後ろからホーリーライトを撃つ。
それは確かに雑魔を捕らえた――しかし、フレキシブルな軟体の表面に当たって急所を突くことができず、決定打にはならない。
雑魔は勢いをなおも増して星輝に殴りかかる。意外と敏捷で反撃の機会も掴めない。このままでは、いつかは追い詰められてしまう。
――突如。
銃声が響き、雑魔の頭部が突然引っ込んだ。
同時に金色の髪が閃く――絵里だ。
雑魔は上半身を引っ込ませ、痙攣したようになって、後退しだした。
フランが狙撃し、絵里が斬り付けたのだった。フランは今屋根の上にいる。家の中で拾った壊れた家具と、事前に切っておいたロープとを組み合わせて簡易バイポッドを作り、銃を据えて屋根に伏せ、狙撃を行ったのだ。
「確かな手応え――」
絵里は袈裟懸けに放った斬撃が深くまで入ったのに気づいた。最初打ち込んだ時と違って、明らかに反応が遅かったのだ。
「まさか……眼が引っ込んでいる間は動きが捉えられない?!」
絵里は確かに、斬りつける瞬間雑魔の、カタツムリの触角が完全に引っ込んでいたのを見ていた。
「そうかっ! フラン! 眼を狙うのじゃ!」
星輝が屋根に向かって呼びかけると、フランはうなづいた。
「この距離ならスコープが無くても……当たるさ……」
自らが銃と一体となり、伏せ撃ちを試みる。
雑魔は頭を出す限り、遠距離からの攻撃は防ぐ術がない。
もう一度頭を出した雑魔の頭部に銃弾が撃ち込まれた。
「今じゃ! イスカ!」
「はい、キララ姉さま」
星輝とUiscaが動きを合わせる。
星輝の、鞘に収めた刀を抜刀しつつの一撃――居合式の、スラッシュエッジ。
刃が閃き――それに光が追いすがる。
Uiscaのホーリーライトが、星輝が斬り付けた場所を穿つ。
傷口が――炸裂した。
雑魔は苦痛に全身を震わせる。
そこからは一気にハンター達が優勢となった。
フランの射撃を起点とし、雪がハルバードを振り下ろす。Uiscaのホーリーライトも牽制となり、続く絵里が斬りつける。
いずれも効果的な打撃を与えていた。
雑魔の攻撃は星輝がいなす。またもやフランが射撃し、頭をへこませる。
そこに神楽が合わせた。
「けーっけっけ! 今はこの神楽さんの時代なんっすよおおお!」
斧を振るい、止めの一撃を加えようと――
――そこで雑魔の上体が伸びた。
巨体が神楽の上に倒れこみ、恐るべき質量が神楽を押しつぶした。
(何で俺だけこうなるんすかぁぁ)
地面にめり込んでは、声にならない叫び声をあげる他なかった。
今や傷だらけの雑魔は、最後の足掻きとばかりに暴れだした。
足の後端が伸び、鞭のようになったそれが、星輝の身体に巻きついた――虚を突いたのだ。
声をあげる間もなく、持ち上げられ、投げ飛ばされる。
「――え?」
天高く投げ飛ばされた星輝の行き先は、フランの頭上だった。銃をも巻き込んで両者は激突し、屋根の上でもつれ合う。
次にUiscaへと狙いを定め、高速で這う。
這いながらも上半身を伸ばし、腕のように振るわれる胴体で打撃を加えようとする。
大きく反られた上体が、勢いを付けて振り下ろされ――
――だがそれは横へと逸れた。
「これ以上は、傷つけさせない……!」
絵里が、横から刀で攻撃を払い、反らせたのだ。
雑魔の頭部は地面へとめり込んでいた。
頭を再び持ち上げた時、雪のハルバードが向けられていた。
右手の甲から顔の右側と左肩の辺りまで、華と流線のトライバルアートが広がる――雪の戦意が最も昂揚している証だった。
一方、神楽が根性でカタツムリの下から這い出て、未だ体の下に残っているアックス「ラブリュス」を引っ張り出した所だった。
「くたばりやがれ、下等動物が、です」
「なめんじゃねぇっすよォォーーーッ」
雪が頭部をハルバードで突き刺し、
神楽が首の根元付近に斧を振り下ろす。
――巨体が震えた。
深い傷を負った雑魔は大きく体を揺らし、殻へと胴体を引っ込めた。
完全に胴体が隠れ、瞬時に入り口に膜が貼られる。
……そして静寂が訪れた。
●叩き割れ!
さて殻に入ったカタツムリに止めを刺さねばならない。
これが問題だった。
「……全然ダメー」
絵里がハンマーで叩いてみたが、びくともしない。
ソサエティが用意した大型のハンマーは、かれらの武器より重く、武器としては使えないが破壊力には秀でたものだ。しかし、それで叩いても壊れる気配がない。
「次、オレがやる、です」
雪が前に出た。
その場で回転し、遠心力を付けてハンマーをぶつける。
……ハンマーが跳ね返った。
「危ないな!」
フランが怒った。
「ごめん、です」
「ふっふっふ、ここは俺の出番のようっすね!」
今度は神楽が前に出る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
斧を構え、闘心昂揚。
……周りは固唾を呑んで見守った。
「クラッシュ・ブローウ!!!」
祖霊の力を込めた斧の一撃が、殻を打った。
…………………………………………
斧が落ちた。
「腕が! 腕がジーンっす! こいつ超固いっす!」
壊れていない。
「三下じゃからな」「三下、です」「三下……」
女性陣はため息をついた。
「ふむ、では真打登場じゃな」
次に、星輝がUiscaを伴って前に出た。
「割ったらどんな鳴き声するんじゃろぅ」
華奢な少女の星輝が巨大カタツムリを前に邪悪な笑みを浮かべる。
「では行くぞイスカよ」
「はい、キララ姉さま」
マテリアルを身体に潤滑した星輝が大きくハンマーを振りかぶる。向けられるハンマーの先は尖っており、反対側は広く平らになっている。
3、2、1の掛け声と共にハンマーが振るわれ――
「これがトニオさんの分!」
直撃の瞬間、Uiscaの気合の入ったシャウトを添えて、ハンマーの後ろにホーリーライトが炸裂した。
二人の共同作業。一撃が二重の威力を生む。
さらに一撃を加える。
「これがキャリーさんの分!」
Uiscaの叫び。この一撃で、殻にヒビが入った。
さらに、もう一撃。
「そしてこれが私たちの分ですっ!」
その想いに応えたのか――
殻の一部が、骨が折れるような重々しい音を立てて、砕けた。
「いやったああああーーー!」
仲間達も沸き立ち、神楽が喜び勇んで二人に飛びつこうとする。
その神楽のすぐそばまで雑魔の胴体が伸びた。
「ぎゃあああーーーー!!!」
腰を抜かす神楽。
雑魔は痙攣しながらのたうちまわっている。
「今ラクにしてあげるよ」
フランが、殻の穴目掛けて銃を撃った。
雑魔は上半身を天へと向かって伸ばすと、どうと倒れ、動かなくなった。
そして、無へと還った。
●愛はかたつむりの歩み
「人の家まで侵入してくるなんて……世に平穏のあらんことをっ」
戦いを終え、絵里は祈る。
「ヌルヌル、気持ちわりー、です。帰って、風呂入る、です」
「じゃな」
雪は帰り支度を整え、星輝も続こうとしていた。
「あれ? 神楽さんは?」
周りを見回すフラン。神楽の姿だけがない。
神楽は家の中にいたのだ。
そこで何をしているかと言えば――弁解していた。
「あははは! 品行方正な神楽さんは盗みなんてしないっす!」
神楽は実は金目の物を漁ろうとしていたのだが、偶然そこにいたパルムに目撃されてしまったのだ。
犯行現場がライブラリに載せられてはたまらない。
「さ、依頼も終わったし帰るっすよ~」
そして一行は、風呂で汚れを落とした後、ソサエティへと報告に訪れた。
ソサエティでは依頼人が首を長くして待っていた。
雑魔退治成功の報せをもたらすと、依頼人は涙を流し、晴れやかな顔になって、
「これから、家を見に行きます」
と言った。
ハンター達はこれも縁と、家まで同行した。
依頼人、アントニオと彼の伴侶キャロラインの家は、確かに酷い損傷が見られていたが、骨組みはそのまま残っているし、修繕すれば充分、元通りになると見えた。
家への被害を考えて戦ったハンター達の気遣いの結果であった。
「……がんばってやり直します。ぼくたち」
アントニオは小さな声で、しかし力強く言った。
「人助けも白竜の巫女としての務めです。これからお幸せに、ですよ」
「わしらも家の修繕を手伝うのじゃ!
修繕できたら家復活と二人のダブル祝い酒で乾杯なのじゃ♪」
Uisca、星輝が励ます。
「ありがとう……Uiscaさん。星輝さん。
幸せになります」
そう言って人懐っこい笑みを浮かべたアントニオの顔は、生命力が溢れていた。
人の営みを、歪虚などには壊させはしない。
ハンター達の姿がそこにあった。
二人はこれから幾多の困難に合い、そのたびに助け合って乗り越えて愛を育んでいくのだろう。
怠らずに、ゆっくりと。
かたつむりの歩む速さで。
静かな森の湖畔、鮮やかに花咲き乱れる所に、一軒の家が建っている。
その家に向かって、二人の男女が歩いていた。
腕を組んでぴったりと寄り添い、顔を近づけて囁きあったり、笑い声をあげたりしている。
幸せそうな恋人達の図だ……
しかし実際は、そうではなかった。
仲がいいのは本当だが二人は姉妹。男装した星輝 Amhran(ka0724)と、Uisca Amhran(ka0754)だ。
そして、家に向かっているのは二人だけではなかった。他四人が、二人から間を置いて歩いている。
「女の子がイチャイチャするは何つーかあれっすね! いいっすね!」
神楽(ka2032)は上機嫌だった。理由は二つ。ひとつはリア充に天罰が当たった事――偏った見方だ――。もうひとつは、同行者が全員若い女だったことだ。
「よくわかんないかな? あたしは戦えればそれでいいし」
神楽の心中はどこ吹く風。七星・絵里(ka0730)が言った。
「しょーじき、カタツムリって、あんま好きじゃねー、です」
八城雪(ka0146)は相手に不服そうだったが、戦うこと自体には乗り気のようだ。
……今雪が言ったが、カタツムリの事である。
かれらが向かう家……そこには今良くないものが住み着いている。
歪虚と成り、成人男性三人分程度まで巨大化したカタツムリ……かれらハンターは、今からそれを狩りに行くのである。
「はぁー……雑魔ってそんなにデカくなることもあるのか……」
フラン・レンナルツ(ka0170)も雪と似たような反応を見せているが、彼女の場合はカタツムリであることよりむしろその大きさに物申したいらしかった。
さて、星輝とUiscaが問題の家に着いた。
残りのメンバーは家まで入らずに周辺で待機している。
家には今では壁に巨大な穴が開いており、本来なら幸せな家庭を象徴したであろう雰囲気をぶち壊しにしている。
二人はそっと穴を覗き込む。
……いた。
探すまでもない。そこはリビングで、その真ん中に天井にぎりぎり収まる巨大なカタツムリが鎮座していた。
胴体は殻に入っている。異常な光景に不釣り合いな静寂が辺りを支配していた。
散らばっている建築材や壊れた家具はまだ新しく、それがやけに痛ましかった。
その穴は充分な大きさだったが、二人は外に出ることも考慮して玄関から入った。星輝は意味も無くお邪魔しますと言った。
Uiscaの表情が引き締まった。依頼人が襲われた時の再現(少なくとも表向きは)で激甘イチャラブカップルを演じていたが、その内心は歪虚への怒りと使命感で燃えていた。
(私も恋人を持つ身として、新婚さんを襲うなんて許せません!)
家に入ると内心で意気込み、リビングへと向かった。
「星輝くん見て、あんな所に大きなカタツムリがいるよ☆」
あくまでも自然にアプローチする二人。外へとおびき出すため、Uiscaが自ら用意した餌を手にそっと近寄る。
――その時だった。
ゴ、ゴ、ゴ……殻が音を発したかと思うと、ドチャアと派手な音をたてて、胴体が出てきた。見る間に巨大な姿になる。四本の触覚、滑らかな肉体……それは確かにカタツムリだった。
しかし巨大だった。誇張などない、聞いたままの成人男性三人分に匹敵する体躯だった。
巨大カタツムリ、依頼人がハニーイーターと名付けたその雑魔は、そそり立った上体の上にぴんと突き出た触覚の先についた眼で、星輝とUiscaを見下している。
――かと思うと、それは上体を持ち上げ、威嚇するような姿勢を見せた。
●燃えよ蝸牛拳
二人は全く同時に駆け出す。
壁に激突してはへこませながら、雑魔が追った。
巨体で、カタツムリなのに、速い。
二人は全力疾走で家から出た。すぐ雑魔がぬっと玄関から姿を現し、障害物のない外を高速で這った。
「――アゴーニ!」
祖国ロシアでの掛け声と共に、狙いを定めていたフランの魔導銃が火を噴いた。『強弾』だ。
射撃された雑魔は止まり、体を少し縮めたが、すぐさま元に戻り、視線を巡らした。
――果たして、六つの影に囲まれていた。
「ひゃーっはっは! これでお前は逃げられないっす! 袋叩きにしてやるっすよー!」
家とカタツムリの間に陣取った、神楽が高笑いする。ただ待機していただけではなく、『闘心昂揚』によって身体能力を高めている。
その隣には雪が、反対側に絵里が立つ。逃げていた星輝とUiscaも雑魔に向き直り構える。
そんな中、フランはひとり家の中へと入っていった。
……そして壊れた椅子を手にして外に出てきたかと思うと、今度は先を輪にしたロープを使って壁を登り、屋根へと上がっていく。
その一方で絵里は日本刀を抜き放った。雑魔の側面に陣取り、すでに覚醒状態に入っている。
「人の恋路邪魔する奴は……て言うけどカタツムリか……うん」
しかも馬に蹴られても平気そうである。
「ならあたしが斬る!」
絵里が仕掛けた。一気に距離を詰め打ち込む。
刃は敵の身をとらえた……しかし、手応えは思ったより少ない。
刃が触れた瞬間に、恐るべき速度で体を引っ込めたのだ。通常のカタツムリも刺激に反応して身を縮めるが、あれと同じだ。
現に上半身が殻付近まで縮まっている。
……かと思うと、勢いをつけて胴体が飛び出してきた。
鉄砲水のように絵里に激突する。吹っ飛ばされ、地面で背中を打った。
さらに胴体が伸びる。機敏に向きを替え、背後に回った雪と神楽の方を向いた。
巨木の如き太さと長さを備えた胴体が、薙ぎ払い、雪と神楽を強打した。
二人の体が、宙に舞った。
さらに向きを替える。次の標的は星輝だ。上半身を槌の様に振るい打ちかかる。
「元黒巫女を……舐めるでないぞ……?」
星輝は不敵に迎え撃つ。雑魔の攻撃が来た。
マルチステップ――舞うように華麗に、残影を残して、星輝は回避した。そのまま反撃へと移ろうとする。
……しかし、それはできなかった。
リーチが違いすぎる。どう攻めても上から押し潰されるのが明らかだ。
「バーサクヒーラー、舐めんな、ですっ!」
Uiscaが星輝の後ろからホーリーライトを撃つ。
それは確かに雑魔を捕らえた――しかし、フレキシブルな軟体の表面に当たって急所を突くことができず、決定打にはならない。
雑魔は勢いをなおも増して星輝に殴りかかる。意外と敏捷で反撃の機会も掴めない。このままでは、いつかは追い詰められてしまう。
――突如。
銃声が響き、雑魔の頭部が突然引っ込んだ。
同時に金色の髪が閃く――絵里だ。
雑魔は上半身を引っ込ませ、痙攣したようになって、後退しだした。
フランが狙撃し、絵里が斬り付けたのだった。フランは今屋根の上にいる。家の中で拾った壊れた家具と、事前に切っておいたロープとを組み合わせて簡易バイポッドを作り、銃を据えて屋根に伏せ、狙撃を行ったのだ。
「確かな手応え――」
絵里は袈裟懸けに放った斬撃が深くまで入ったのに気づいた。最初打ち込んだ時と違って、明らかに反応が遅かったのだ。
「まさか……眼が引っ込んでいる間は動きが捉えられない?!」
絵里は確かに、斬りつける瞬間雑魔の、カタツムリの触角が完全に引っ込んでいたのを見ていた。
「そうかっ! フラン! 眼を狙うのじゃ!」
星輝が屋根に向かって呼びかけると、フランはうなづいた。
「この距離ならスコープが無くても……当たるさ……」
自らが銃と一体となり、伏せ撃ちを試みる。
雑魔は頭を出す限り、遠距離からの攻撃は防ぐ術がない。
もう一度頭を出した雑魔の頭部に銃弾が撃ち込まれた。
「今じゃ! イスカ!」
「はい、キララ姉さま」
星輝とUiscaが動きを合わせる。
星輝の、鞘に収めた刀を抜刀しつつの一撃――居合式の、スラッシュエッジ。
刃が閃き――それに光が追いすがる。
Uiscaのホーリーライトが、星輝が斬り付けた場所を穿つ。
傷口が――炸裂した。
雑魔は苦痛に全身を震わせる。
そこからは一気にハンター達が優勢となった。
フランの射撃を起点とし、雪がハルバードを振り下ろす。Uiscaのホーリーライトも牽制となり、続く絵里が斬りつける。
いずれも効果的な打撃を与えていた。
雑魔の攻撃は星輝がいなす。またもやフランが射撃し、頭をへこませる。
そこに神楽が合わせた。
「けーっけっけ! 今はこの神楽さんの時代なんっすよおおお!」
斧を振るい、止めの一撃を加えようと――
――そこで雑魔の上体が伸びた。
巨体が神楽の上に倒れこみ、恐るべき質量が神楽を押しつぶした。
(何で俺だけこうなるんすかぁぁ)
地面にめり込んでは、声にならない叫び声をあげる他なかった。
今や傷だらけの雑魔は、最後の足掻きとばかりに暴れだした。
足の後端が伸び、鞭のようになったそれが、星輝の身体に巻きついた――虚を突いたのだ。
声をあげる間もなく、持ち上げられ、投げ飛ばされる。
「――え?」
天高く投げ飛ばされた星輝の行き先は、フランの頭上だった。銃をも巻き込んで両者は激突し、屋根の上でもつれ合う。
次にUiscaへと狙いを定め、高速で這う。
這いながらも上半身を伸ばし、腕のように振るわれる胴体で打撃を加えようとする。
大きく反られた上体が、勢いを付けて振り下ろされ――
――だがそれは横へと逸れた。
「これ以上は、傷つけさせない……!」
絵里が、横から刀で攻撃を払い、反らせたのだ。
雑魔の頭部は地面へとめり込んでいた。
頭を再び持ち上げた時、雪のハルバードが向けられていた。
右手の甲から顔の右側と左肩の辺りまで、華と流線のトライバルアートが広がる――雪の戦意が最も昂揚している証だった。
一方、神楽が根性でカタツムリの下から這い出て、未だ体の下に残っているアックス「ラブリュス」を引っ張り出した所だった。
「くたばりやがれ、下等動物が、です」
「なめんじゃねぇっすよォォーーーッ」
雪が頭部をハルバードで突き刺し、
神楽が首の根元付近に斧を振り下ろす。
――巨体が震えた。
深い傷を負った雑魔は大きく体を揺らし、殻へと胴体を引っ込めた。
完全に胴体が隠れ、瞬時に入り口に膜が貼られる。
……そして静寂が訪れた。
●叩き割れ!
さて殻に入ったカタツムリに止めを刺さねばならない。
これが問題だった。
「……全然ダメー」
絵里がハンマーで叩いてみたが、びくともしない。
ソサエティが用意した大型のハンマーは、かれらの武器より重く、武器としては使えないが破壊力には秀でたものだ。しかし、それで叩いても壊れる気配がない。
「次、オレがやる、です」
雪が前に出た。
その場で回転し、遠心力を付けてハンマーをぶつける。
……ハンマーが跳ね返った。
「危ないな!」
フランが怒った。
「ごめん、です」
「ふっふっふ、ここは俺の出番のようっすね!」
今度は神楽が前に出る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
斧を構え、闘心昂揚。
……周りは固唾を呑んで見守った。
「クラッシュ・ブローウ!!!」
祖霊の力を込めた斧の一撃が、殻を打った。
…………………………………………
斧が落ちた。
「腕が! 腕がジーンっす! こいつ超固いっす!」
壊れていない。
「三下じゃからな」「三下、です」「三下……」
女性陣はため息をついた。
「ふむ、では真打登場じゃな」
次に、星輝がUiscaを伴って前に出た。
「割ったらどんな鳴き声するんじゃろぅ」
華奢な少女の星輝が巨大カタツムリを前に邪悪な笑みを浮かべる。
「では行くぞイスカよ」
「はい、キララ姉さま」
マテリアルを身体に潤滑した星輝が大きくハンマーを振りかぶる。向けられるハンマーの先は尖っており、反対側は広く平らになっている。
3、2、1の掛け声と共にハンマーが振るわれ――
「これがトニオさんの分!」
直撃の瞬間、Uiscaの気合の入ったシャウトを添えて、ハンマーの後ろにホーリーライトが炸裂した。
二人の共同作業。一撃が二重の威力を生む。
さらに一撃を加える。
「これがキャリーさんの分!」
Uiscaの叫び。この一撃で、殻にヒビが入った。
さらに、もう一撃。
「そしてこれが私たちの分ですっ!」
その想いに応えたのか――
殻の一部が、骨が折れるような重々しい音を立てて、砕けた。
「いやったああああーーー!」
仲間達も沸き立ち、神楽が喜び勇んで二人に飛びつこうとする。
その神楽のすぐそばまで雑魔の胴体が伸びた。
「ぎゃあああーーーー!!!」
腰を抜かす神楽。
雑魔は痙攣しながらのたうちまわっている。
「今ラクにしてあげるよ」
フランが、殻の穴目掛けて銃を撃った。
雑魔は上半身を天へと向かって伸ばすと、どうと倒れ、動かなくなった。
そして、無へと還った。
●愛はかたつむりの歩み
「人の家まで侵入してくるなんて……世に平穏のあらんことをっ」
戦いを終え、絵里は祈る。
「ヌルヌル、気持ちわりー、です。帰って、風呂入る、です」
「じゃな」
雪は帰り支度を整え、星輝も続こうとしていた。
「あれ? 神楽さんは?」
周りを見回すフラン。神楽の姿だけがない。
神楽は家の中にいたのだ。
そこで何をしているかと言えば――弁解していた。
「あははは! 品行方正な神楽さんは盗みなんてしないっす!」
神楽は実は金目の物を漁ろうとしていたのだが、偶然そこにいたパルムに目撃されてしまったのだ。
犯行現場がライブラリに載せられてはたまらない。
「さ、依頼も終わったし帰るっすよ~」
そして一行は、風呂で汚れを落とした後、ソサエティへと報告に訪れた。
ソサエティでは依頼人が首を長くして待っていた。
雑魔退治成功の報せをもたらすと、依頼人は涙を流し、晴れやかな顔になって、
「これから、家を見に行きます」
と言った。
ハンター達はこれも縁と、家まで同行した。
依頼人、アントニオと彼の伴侶キャロラインの家は、確かに酷い損傷が見られていたが、骨組みはそのまま残っているし、修繕すれば充分、元通りになると見えた。
家への被害を考えて戦ったハンター達の気遣いの結果であった。
「……がんばってやり直します。ぼくたち」
アントニオは小さな声で、しかし力強く言った。
「人助けも白竜の巫女としての務めです。これからお幸せに、ですよ」
「わしらも家の修繕を手伝うのじゃ!
修繕できたら家復活と二人のダブル祝い酒で乾杯なのじゃ♪」
Uisca、星輝が励ます。
「ありがとう……Uiscaさん。星輝さん。
幸せになります」
そう言って人懐っこい笑みを浮かべたアントニオの顔は、生命力が溢れていた。
人の営みを、歪虚などには壊させはしない。
ハンター達の姿がそこにあった。
二人はこれから幾多の困難に合い、そのたびに助け合って乗り越えて愛を育んでいくのだろう。
怠らずに、ゆっくりと。
かたつむりの歩む速さで。
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叩き割れ! 八城雪(ka0146) 人間(リアルブルー)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/06/30 01:53:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/24 22:47:05 |