ゲスト
(ka0000)
【不動】プロジェクト・ヘクス 跳戦者たち
マスター:坂上テンゼン
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/28 22:00
- 完成日
- 2015/03/09 15:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
刻令術。
無機物のヨリシロを生物の如く動かす技術。
その多くが遥か昔に失われた技術であり、
現在では魔術師協会によって、禁術指定を受けていた。
アダム・マンスフィールドは、非公式にその研究に打ち込む人物だった。
「刻令術を使って既存の兵器を強く出来ないか」
ある時、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)が、アダムに提案した。
現在辺境ではマギア砦が怠惰の軍勢の攻撃を受けて陥落。
戦火は、いまだ広がる気配を見せていた。
アダムは先のCAM機動実験にも望んでいた。
刻令術でゴーレムを動かす要領で、CAMを動かそうと考えたのだった。
しかし、その結果は失敗に終わった。
現在の刻令術ではCAMをヨリシロとして動かすことは出来たが、
リアルブルーが誇る対歪虚戦の切り札として運用することは、できなかった。
「成果無しだと君、ヤバいんじゃない?」
実験の責任者であるヘクスが、アダムに言った言葉。
禁術まで持ち出して成果なしで終わった、結果。
今回の提案は、名誉挽回の意味も含ませていた。
「出来る?」
ヘクスの問いに、アダムは現在刻令術で出来ることを並べた。
――ヨリシロの動作。
――関節、ギア、引き金、タービン、歯車など部品に限局しての動作。
それだけだった。
それだけだったが、ヘクスは満足げに、うなづいた。
ヘクスが提案したものは、投石機だった。
通常の投石器は、人力で紐を引いたり、錘や弾力を用いて弾を飛ばすが、その必要な動作に刻令術を用いるという。
「それで飛ばすのは」
アダムは聞いた。
「覚醒者」
ヘクスは、応えた。
投石機によって投げ飛ばされた覚醒者――肩書きで言えばハンター――が怠惰に取り付き、白兵攻撃を仕掛けるという戦法。
飛ばされる人間は帆を纏い、上空に放り出されたらそれを広げ、滑空する仕組みだ。
「怠惰が本気になる前に頭上から強襲することによって早期撃破を図るんだ」
ヘクス・シャルシェレットは、言った。
理に叶った提案だった。
怠惰はその巨体から、頭上から強襲される機会は少ない。
「可能だ」
危険性や作戦成功率は考えずに、実現可能かどうかだけを、アダムは、応えた。
「……ぶふぉっ!」
噴き出した。
ヘクス、しばし腹を抱えて爆笑。
そして、言った。
「やだなあもう冗談だよ。敵陣のど真ん中に投げ飛ばすとか、そんな鬼畜なことさすがにやんない」
息を整えた。
「飛ばすものは変わらないよ。色々なものを飛ばせればいいだろうけど。単純に人員コストの削減とか、発射間隔を短くしたりとか、できるんじゃない」
現在の刻令術は一度命令を施せば一連の動作を繰り返し付けるもの。
術を掛けなおすまでは、ヨリシロの核が枯れるまで自動で動作し続ける。
運用次第では画期的な改造になるかもしれない。
「わかった。やってみよう」
アダムは、応えた。
そして、現在――
マギア砦を制圧した怠惰の軍勢は、南へ向けて進軍を開始。
その先には、CAM起動実験場――通称『ホープ』がある。
対する人類はホープ北部に流れるナナミ河に防衛線を構築し、迎撃の構えを見せている。
両軍は防衛線にて激突、河を挟んでの戦いが始まっていた。
その一方で、人類は怠惰を包囲するべく動いていた。
その部隊の中の一つに、アダムの発明した『刻令術式投石機』は投入されていた。
先行する部隊により安全が確保されたエリアで、アダムが術を施す。
術を施された投石機は、獲物を求めるように、独りでに動き出した。
既にヴィオラ・フルブライト(kz0007)率いる部隊が攻撃を開始していた。
それに遅れ、投石機は戦場に投入される。
敵は射撃で応戦してきた。
こちらも射撃攻撃を開始。
戦線は膠着し、撃ち合いが続いた。
『刻令術式投石機』は一定の効果を挙げていた。
おおむねヘクスの考えたとおりの効果を発揮し、CAMなどとは次元が違うが、これはこれで人類の戦力向上に繋がったと評価される可能性はあった。
とはいえ、劇的な効果とまではいかず、趨勢を決するには未だ決め手に欠けていた。
「突撃する機会さえ掴めれば……」
ヴィオラは歯噛みする。
敵の攻撃は激しく、近寄る隙を与えなかった。
さて、この投石機には、弾を設置する兵が一基につき一人ついていたが、突如、そこに駆け寄ってくる者があった。
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)だった。
「おいっ!」
ヘザーは設置係に言った。
「そいつで私を飛ばせるかああああ!!!」
無機物のヨリシロを生物の如く動かす技術。
その多くが遥か昔に失われた技術であり、
現在では魔術師協会によって、禁術指定を受けていた。
アダム・マンスフィールドは、非公式にその研究に打ち込む人物だった。
「刻令術を使って既存の兵器を強く出来ないか」
ある時、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)が、アダムに提案した。
現在辺境ではマギア砦が怠惰の軍勢の攻撃を受けて陥落。
戦火は、いまだ広がる気配を見せていた。
アダムは先のCAM機動実験にも望んでいた。
刻令術でゴーレムを動かす要領で、CAMを動かそうと考えたのだった。
しかし、その結果は失敗に終わった。
現在の刻令術ではCAMをヨリシロとして動かすことは出来たが、
リアルブルーが誇る対歪虚戦の切り札として運用することは、できなかった。
「成果無しだと君、ヤバいんじゃない?」
実験の責任者であるヘクスが、アダムに言った言葉。
禁術まで持ち出して成果なしで終わった、結果。
今回の提案は、名誉挽回の意味も含ませていた。
「出来る?」
ヘクスの問いに、アダムは現在刻令術で出来ることを並べた。
――ヨリシロの動作。
――関節、ギア、引き金、タービン、歯車など部品に限局しての動作。
それだけだった。
それだけだったが、ヘクスは満足げに、うなづいた。
ヘクスが提案したものは、投石機だった。
通常の投石器は、人力で紐を引いたり、錘や弾力を用いて弾を飛ばすが、その必要な動作に刻令術を用いるという。
「それで飛ばすのは」
アダムは聞いた。
「覚醒者」
ヘクスは、応えた。
投石機によって投げ飛ばされた覚醒者――肩書きで言えばハンター――が怠惰に取り付き、白兵攻撃を仕掛けるという戦法。
飛ばされる人間は帆を纏い、上空に放り出されたらそれを広げ、滑空する仕組みだ。
「怠惰が本気になる前に頭上から強襲することによって早期撃破を図るんだ」
ヘクス・シャルシェレットは、言った。
理に叶った提案だった。
怠惰はその巨体から、頭上から強襲される機会は少ない。
「可能だ」
危険性や作戦成功率は考えずに、実現可能かどうかだけを、アダムは、応えた。
「……ぶふぉっ!」
噴き出した。
ヘクス、しばし腹を抱えて爆笑。
そして、言った。
「やだなあもう冗談だよ。敵陣のど真ん中に投げ飛ばすとか、そんな鬼畜なことさすがにやんない」
息を整えた。
「飛ばすものは変わらないよ。色々なものを飛ばせればいいだろうけど。単純に人員コストの削減とか、発射間隔を短くしたりとか、できるんじゃない」
現在の刻令術は一度命令を施せば一連の動作を繰り返し付けるもの。
術を掛けなおすまでは、ヨリシロの核が枯れるまで自動で動作し続ける。
運用次第では画期的な改造になるかもしれない。
「わかった。やってみよう」
アダムは、応えた。
そして、現在――
マギア砦を制圧した怠惰の軍勢は、南へ向けて進軍を開始。
その先には、CAM起動実験場――通称『ホープ』がある。
対する人類はホープ北部に流れるナナミ河に防衛線を構築し、迎撃の構えを見せている。
両軍は防衛線にて激突、河を挟んでの戦いが始まっていた。
その一方で、人類は怠惰を包囲するべく動いていた。
その部隊の中の一つに、アダムの発明した『刻令術式投石機』は投入されていた。
先行する部隊により安全が確保されたエリアで、アダムが術を施す。
術を施された投石機は、獲物を求めるように、独りでに動き出した。
既にヴィオラ・フルブライト(kz0007)率いる部隊が攻撃を開始していた。
それに遅れ、投石機は戦場に投入される。
敵は射撃で応戦してきた。
こちらも射撃攻撃を開始。
戦線は膠着し、撃ち合いが続いた。
『刻令術式投石機』は一定の効果を挙げていた。
おおむねヘクスの考えたとおりの効果を発揮し、CAMなどとは次元が違うが、これはこれで人類の戦力向上に繋がったと評価される可能性はあった。
とはいえ、劇的な効果とまではいかず、趨勢を決するには未だ決め手に欠けていた。
「突撃する機会さえ掴めれば……」
ヴィオラは歯噛みする。
敵の攻撃は激しく、近寄る隙を与えなかった。
さて、この投石機には、弾を設置する兵が一基につき一人ついていたが、突如、そこに駆け寄ってくる者があった。
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)だった。
「おいっ!」
ヘザーは設置係に言った。
「そいつで私を飛ばせるかああああ!!!」
リプレイ本文
怠惰の軍は河を渡り終え、南下を続けている。
見る者を威圧する巨人の行進ではあったが――
人類側の作戦は思惑通りに進み、防衛線は戦力を維持したまま後退、包囲攻撃を開始する段階へと移行していた。
ここは戦場の一角。
包囲攻撃を担う部隊のひとつだ。
「ナンダイ、ソレ! 楽しソウ!」
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)は八人の男女に囲まれていた。
目をキラキラさせながら全力で食いついてきたのはアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)。
「うひょー!それで跳ぶってマジなん!? やべーって、マジやべー!」
「その発想は無かった!」
春次 涼太(ka2765)が興奮してまくし立てる脇でオキクルミ(ka1947)が感心している。
「そうだ!」
かれらの反応はヘザーを勇気づけ(てしまっ)た。
「奴らを頭上から強襲する! デカいから上から狙われるのには慣れていまい」
「なるほど、燃えますね!」
「確かにこのまま睨み合いを続けるのもキツイんだよ」
「このまま突撃を待っていてもラチが開かねぇ。それなら少しは面白くなりそうだぜ」
類は友を呼ぶのか、満月美華(ka0515)が同調し、弓月 幸子(ka1749)は納得、アーサー・ホーガン(ka0471)も乗り気になった。
「私と一緒に跳んでくれるか?!」
「はいっ……私も跳びたいです!」
ヘザーの呼びかけにイルミ(ka0400)は力強く返し。
「空を飛ぶのか……鳥の気持ちになれるかもだね」
クィーロ・ヴェリル(ka4122)は微塵の恐れもなく言ってのけた。
「よし……我々は恐れを知らぬ『跳戦者』だ!
怠惰どもに人類の恐ろしさを教えてやれ!」
ヘザーが吼えると、八人は歓声を上げて同意を示した。
●跳戦者たち
刻令術式投石機は全部で三基。いずれも方角は合わせてある。
「健闘を祈るぞ!」
「おうよ」
アーサーがヘザーに応え、投石機に自らを設置する。
「失敗しても死ぬだけさ」
同じくオキクルミが、華奢な容姿に似つかわしくない事を言い、
「ヒャッハー! 貴族たるもの常に優雅で華麗でなくてはネー!」
アルヴィンは嬉々として設置した。それでもプロテクションを自らに施術するだけの冷静さは持ち合わせていた。
投石機は設置が終了されるのを待っていた。やがて設定されていた待ち時間が過ぎ、無造作に、三人は空中へとぶっ放された。
一瞬にして風景が変わり、気付いた時にはもう巨人の姿が確認できた。
「さぁて、やるからには派手に行くか――」
アーサーは空中で覚醒状態に入り、緑を孕んだ金色に輝く。
それはさながら敵に不吉を齎す禍々しき流星。
一直線に突っ込んでいくそれに敵は対応してこない――地上の敵に狙いを定めていたのだ――手にした狼牙棒が跳躍の勢いをそのままに、巨人の頭蓋を叩き潰す。手に伝わる衝撃を捻じ伏せる。脳漿を撒き散らして巨人は倒れ、アーサーは死にゆく敵を緩衝材にして無事着地した。
地に堕ちた禍つ星は、未だ強く輝いていた。
一方、オキクルミは盾を足場にして滑空してみせた。
「フクロウ氏族は伊達じゃないよ、風見と急降下奇襲なら存分に知っている」
その姿はまさに、真夜中に飛翔する梟。空は彼女の領域だった。
獲物を狙う猛禽類の如く、狙いを定めた敵の腕に向けてワイヤーを飛ばす。全長3m特殊硬化鋼で造られたそれはオキクルミの体重と打ち出された勢いにも耐えて進行方向を変える支点となる。
そして、勢いのまま別の巨人の肩へと跳び乗った。
華奢なエルフが4mを越す巨人を見下ろす。
「お ま た せ」
凄惨な笑みが広がった。
頭上から斧を振り下ろす。脳天に叩き込まれた斧が熱を発し、激しく燃えた。
「ヒィィィィーーーーハァーーーーー!!!」
この瞬間においては、華麗とはアルヴィンのためにある言葉だ。
燐光を纏って回転しながら跳び、落下と同時に蹴りを放つ。さながら変身ヒーローのような必殺のキックを受けた怠惰は、空気の読める奴だったらしく、巨体を仰け反らせ仰向けに倒れた。
反動で逆方向に飛んだアルヴィンは一回転して着地。
神業か、狂気の沙汰か。
「プロテクションがなかっタラ脚が折れテタネ!」
あとは、遠方で祈る友のおかげもあったかもしれない。
第二陣が跳ぼうとしていた。
「や、やっぱ俺やめとこっかな……?」
涼太は仲間が跳んだのを目の当たりにして、勢いが何処に失せた。
「今更何を言っている! 自分が信じるもののために戦え!」
ヘザーがその肩を掴んで熱弁をふるう。
勢いで言っているが、本当に王女のために戦っているのだから始末が悪い。
(信じるもの……)
(勇者になってハーレム生活)
(関係あんのか?!)
涼太は一瞬考えたが、あまり意味が無かった。
しかし笑みを浮かべたクィーロが何も言わずに投石機に連れて行った。
「なんで?!」
「もうすぐ発射だよ」
考える時間はなかった。ヘザーもスタンバイしている。
「王女殿下、万歳!」
「あああああおかあちゃあああああんんんん!」
三人は、投げ飛ばされた。
ヘザーの掛け声と涼太の悲鳴が重なる中、クィーロはなおも胡散臭いと思えるほどの笑みを浮かべていた。
「あれ、生きてる……」
次の瞬間、涼太は地面の窪みの中から身を起こした。
生存本能の為せる技か、空中でストーンアーマーをかけていたのだ。
「俺って結構イケんじゃね?? よっしゃこの調子で敵も軽く片付けてやら……」
勢いづいて周囲を見渡す。
一つ目巨人の単眼がいくつか涼太を見下ろしていた。
「調子こきましたすいませんっした!!!」
一瞬でビビッた。
平謝りする涼太を嗤うように巨人は手を伸ばしてきた。
だが、突然その内のひとつが目を押さえて仰け反った。
「無事かッ!」
ヘザーだった。チャクラムで巨眼を貫いたのだ。
ヘザーはそのまま巨人の膝に跳ぶと、胸板で三角跳びし、頭を下にして落下しつつ近くにいた別の巨人にジャマダハルで首への一撃を喰らわせた。
「格ゲーみてぇ……!」
涼太は鉤爪と仮面をつけた空中殺法が得意なキャラクターを思い出した。
一回転したヘザーが涼太の傍らに着地する。
「戦えッ!」
「お……おう!」
涼太の頭の中で『Round 2 Fight!』と声がした。
一方クィーロの戦いには迷いは無かった。
空中で抜刀、身体ごと回転して巨人とすれ違い様に、その首に斬りつける。
その後は裾を足首に巻きつけたマントを広げ、勢いを殺して着地。
それに遅れて、必殺の一撃を喰らった巨人が倒れた。
一瞬の出来事。
周りの敵には、何が起こったのかわからないまま、一人が首から血を流して倒れたとしか見えなかった。
「空を飛ぶのは、こんな気持ちかぁ……」
淡々と言って、クィーロは視線をめぐらす。仲間と合流するためだ。
最後の三人が跳ぶ時が迫っていた。そんな中、イルミは思いを巡らしていた。
怠惰と合間見えるのは、これが初めてではなかった。
辺境で暮らしていた彼女にとって怠惰は身近な脅威であり、トラウマだった。
それは今でも違わない。
「風の精霊さんの加護なんだよ」
そんなイルミに幸子が加護を与えた。ウインドガストだ。
「さあ、行きましょう!」
美華が力強い声で鼓舞する。
そう、今のイルミは一人ではなかった。
(大丈夫、きっと私はこの戦場に灯りをつけられる)
決意を、固めた。
恐怖を断ち切りたい――イルミの「跳びたい」という言葉には、そんな思いが込められていた。
イルミは盾の上に正座する格好で跳んだ。盾の内側には小石がいくつも積まれており、それらは空中で解放される。
頭上から石を落としながら空を翔る。
すでにその時空から降ってきた敵の対応に追われていた巨人どもは、さらに上から注意を惹かれ、行動に一貫性を無くさせた。
盾は地面に打ち付けられ、激しく跳ねるが、風精の加護、或いは無事を祈る友のお陰で、衝撃は弱まり、なんとか着地に成功した。
(この恐怖……必ず断ち切ってみせる!)
「精霊よ、力を!」
地を駆ける動物霊を身に降ろし、戦場を駆け回らんとした。
幸子は、風を纏って跳んだ――否、飛んだ。
ウインドガストの風を利用し、マントを帆にして滑空したのだった。
巨体を誇る怠惰が、いまや見下ろされる者だった。
そんな彼女を狙って石を投げる怠惰もいた。
「わわっと、危ないんだよ」
空中で方向を変えて、それを避ける。
「お返しなんだよ」
空中からウォーターシュートを撃つ。
虚空より生じた水の奔流は一つ目巨人の目を貫き、高所からの攻撃の有効性を証明した。
風を纏って飛び、高みより水を落とす者となった幸子は、姿勢を起こして減速。何事も無く着地した。
しかもそれは、同時に跳んだ二人から見える場所だった。
空から女の子が降ってきたと聞けば、心躍る場面が浮かぶだろう。
しかし美華は、普通の女の子である事を拒否した。
ストーンアーマーを使用し、丸まって自らを石弾に見立てたのだ。
投石機の威力を最も効果的に活かす最もシンプルな方法であった。
石として巨人の額に直撃し、石として地面に落ちる。
傍からは石から手足が生えて動き出したように見えるだろう。
「ひとまずは作戦成功……次の段階に移ります!」
●敵陣引っ掻き回し作戦
「さて、退屈させてくれんなよ?」
「さ、アゲていこうか!」
「敵を引っ掻き回すんダヨーー!」
最初に襲撃に成功し、合流を果たしたアーサー・オキクルミ・アルヴィンは直接敵を攻撃するのではなく、射撃武器を使用不可能にすることを目的に攻撃して回った。
けして頭の回転は早いとはいえない怠惰どもだが、突如空から降って沸いて来た敵を放置はしなかった。特に武器を壊されてからは素手で一行を捕まえようとした。
しかし怠惰が密集している上相手のサイズは小さいので、捕まえることは容易ではなかった。そのうち堪え性のないものが武器で斬りつけようとした。
結果、味方の巨人を傷つけた。
そんな事がそこかしこで起こり、混乱が加速した。
「ソニィィィィッ……! ……ゥゥーームッ!」
同士討ちが起こっている横から、涼太が両腕を振るってスキルと関係ない技名を叫びつつウインドスラッシュを放つ。
「HYOOOOO!」
「それ、なんなの?」
それに加勢する形で、ヘザーとクィーロが攻撃を仕掛け、被害を拡大させていく。
「私は明かりを照らす者! 怖くなんてない!」
「2ndステージもボクが勝つんだよ!」
「終わったらご飯が美味しく食べられそうです!」
イルミ・幸子・美華も加わると、いまだ攻撃を続けている怠惰にも攻撃を仕掛け、戦場にさらなる混乱をもたらした。
さらに美華は、退路を確保する事も念頭に入れて行動していた。広範囲を巻き込むスリープクラウドは役に立った。
一行は敵の霍乱に目的を定め、決して無理に攻めることはなかった。
その為か、敵陣の真っ只中にたった9人で飛び込むという無謀にも関わらず、またアルヴィンがヒールを使えるので、すぐに窮地に陥るという事はなかった。
●戦乙女動く
敵陣へと跳んだハンター達を、味方陣営から見守るものがいた。
「なんて無謀な……」
ヴィオラ・フルブライト(kz0007)である。
戦乙女と謳われた彼女でも、いや、だからこそ、そのような冒険はしない。
だから、報告を聞いた時は驚いた。
「敵の攻撃が弱まりました!」
「……信じがたいですが……」
ヴィオラは敵を眺め、考える――だがそれは一瞬の事だった。
「全軍突撃! 我に続け!」
ヴィオラは武器を手に、最前線へと歩を進めた。
戦乙女が戦場を駆ける――後に続くは、グラズヘイム王国・聖堂教会が誇る聖堂戦士団だ。
9人は合流し、迫り来る敵に一丸となって対応してきた。敵は多く、一人一人が強力だ。長く続ければ不利になるのは仕方が無い。
「そろそろ頃合かしらね」
美華は眼前の敵集団目掛けて、スリープクラウドを散布する。
「みんなこっちよ!」
術の完成を見届け、すぐさま駆け出す。行く先は美華があらかじめ確保しておいた退路だ。
意図を察した仲間たちがそれに続く。
オキクルミは仁王立ちして大見得を切った。
「古の盟約により歪虚滅ぶべし! 祖霊よ、導きを!」
それを聞いた怠惰は身構えるが――
オキクルミは後ろに向かって突撃した。何と今のは捨て台詞だった。
勿論怠惰は追った。
その前に立ちはだかる者がいる。クィーロだ。
追いすがる怠惰の攻撃をかわし、一刀を浴びせる。
白い羽織が返り血に染まると、クィーロは満足げに笑った。
「あぁ……楽しくなってきた……。
いいぜ……殺し合おう」
口数こそ多くは無かったが、今の彼は活きのいい奴揃いの仲間内で一番、活力に満ちていた。
その時、にわかに空が暗くなり、彼方に雷光が閃いた。
瞬く間に暴風雨が吹き荒れた。
四方から迫る巨人を防ぎつつ駆ける一行は背後に聖堂戦士団の声を聞き、またクィーロがいない事を知って、複雑な思いを抱いた。
突然の嵐は一行を敵から見つけづらくしたようだが、それでも敵陣の中、ただで逃げられそうにもない。
左右から巨人が迫っていた。
「ワオ! 前にも居るヨー!」
「うわああああもうおしまいだあ!」
前からも近づいてくる影を見つけたアルヴィンの言葉に、涼太が縮こまる。
その時、風を切る音が聞こえたかと思うと、銃声が鳴り響き、さらには爆音とともに緋色の閃光が走った。
一瞬の静寂の後、巨人が倒れ伏した。
「あれ……人間だよ!」
サイズが違うと幸子が気付いた。
果たして、前から現れたのはシルウィス・フェイカー、続いて白藤、シルヴァ グラッセ、蜜鈴=カメーリア・ルージュの姿もあった。いずれもハンターである。それぞれが弓矢や銃、魔術具を手にしているところを見ると、巨人を倒したのは彼女達らしい。さらにはオイマト族の戦士達の姿もあった。
包囲完了まで防衛線を維持するべく戦っていた彼女らは、作戦が成功したため、包囲部隊の援軍に回ったのだった。
「ご無事ですか、皆さん!」
「味方か!」
「助かったぁ~……」
シルウィスの呼びかけに安堵する一同。
「俺達はこれから撤退する所だ」
「解った。後は任されよ」
アーサーの説明に、蜜鈴の落ち着いた声が応えた。
「俺達を逃がすため仲間が一人残った……頼めるか?」
「ああ。任しとき!」
さらに要請したアーサーに白藤が力強く頷く。
「がんばってください!」
「はい……皆さんもどうかご無事で」
美華の言葉にシルヴァが応える。それが別れの言葉になり、援軍は戦場へと消えた。
役目を終えた一行は、次なる戦いに備えるため戦場を後にした。
怠惰の軍はいまだ健在であり、この先も熾烈な戦いは続くことが予想された。未来が見えない中、ただ一つ言えるのは、かれらの作戦は成功したと言えたことだった。
(今は……もう怖くない)
もはやイルミにとって、怠惰は一方的に恐れるだけの存在ではなくなっていた。
いくらかの時間が経過した……
地に伏して傷だらけのクィーロがいた。
それを揺り起こすものがある。
「……戦乙女がお迎えか」
クィーロは目を覚ました。
眼前には確かに戦乙女――ヴィオラの姿があった。
「残念ですが、天からの使いではありませんよ」
そう言って、ヴィオラは注視しなければわからないほどの微笑を浮かべた。
どうやらこの一帯の敵は聖堂戦士団とハンターの援軍によって掃討されたらしい。
ヴィオラは手近な神官戦士を呼ぶと、クィーロの身を預けた。
「ひとまず帰りなさい……いずれ貴方の力も必要とされます」
クィーロは礼を言って、神官の誘導に従った。
「それにしても……
あんな無謀な作戦を実行して、しかも戦果を挙げるなんて……
ハンターの力、計り知れませんね」
去り行くクィーロの背中を見ながら、ヴィオラは独りごちた。
見る者を威圧する巨人の行進ではあったが――
人類側の作戦は思惑通りに進み、防衛線は戦力を維持したまま後退、包囲攻撃を開始する段階へと移行していた。
ここは戦場の一角。
包囲攻撃を担う部隊のひとつだ。
「ナンダイ、ソレ! 楽しソウ!」
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)は八人の男女に囲まれていた。
目をキラキラさせながら全力で食いついてきたのはアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)。
「うひょー!それで跳ぶってマジなん!? やべーって、マジやべー!」
「その発想は無かった!」
春次 涼太(ka2765)が興奮してまくし立てる脇でオキクルミ(ka1947)が感心している。
「そうだ!」
かれらの反応はヘザーを勇気づけ(てしまっ)た。
「奴らを頭上から強襲する! デカいから上から狙われるのには慣れていまい」
「なるほど、燃えますね!」
「確かにこのまま睨み合いを続けるのもキツイんだよ」
「このまま突撃を待っていてもラチが開かねぇ。それなら少しは面白くなりそうだぜ」
類は友を呼ぶのか、満月美華(ka0515)が同調し、弓月 幸子(ka1749)は納得、アーサー・ホーガン(ka0471)も乗り気になった。
「私と一緒に跳んでくれるか?!」
「はいっ……私も跳びたいです!」
ヘザーの呼びかけにイルミ(ka0400)は力強く返し。
「空を飛ぶのか……鳥の気持ちになれるかもだね」
クィーロ・ヴェリル(ka4122)は微塵の恐れもなく言ってのけた。
「よし……我々は恐れを知らぬ『跳戦者』だ!
怠惰どもに人類の恐ろしさを教えてやれ!」
ヘザーが吼えると、八人は歓声を上げて同意を示した。
●跳戦者たち
刻令術式投石機は全部で三基。いずれも方角は合わせてある。
「健闘を祈るぞ!」
「おうよ」
アーサーがヘザーに応え、投石機に自らを設置する。
「失敗しても死ぬだけさ」
同じくオキクルミが、華奢な容姿に似つかわしくない事を言い、
「ヒャッハー! 貴族たるもの常に優雅で華麗でなくてはネー!」
アルヴィンは嬉々として設置した。それでもプロテクションを自らに施術するだけの冷静さは持ち合わせていた。
投石機は設置が終了されるのを待っていた。やがて設定されていた待ち時間が過ぎ、無造作に、三人は空中へとぶっ放された。
一瞬にして風景が変わり、気付いた時にはもう巨人の姿が確認できた。
「さぁて、やるからには派手に行くか――」
アーサーは空中で覚醒状態に入り、緑を孕んだ金色に輝く。
それはさながら敵に不吉を齎す禍々しき流星。
一直線に突っ込んでいくそれに敵は対応してこない――地上の敵に狙いを定めていたのだ――手にした狼牙棒が跳躍の勢いをそのままに、巨人の頭蓋を叩き潰す。手に伝わる衝撃を捻じ伏せる。脳漿を撒き散らして巨人は倒れ、アーサーは死にゆく敵を緩衝材にして無事着地した。
地に堕ちた禍つ星は、未だ強く輝いていた。
一方、オキクルミは盾を足場にして滑空してみせた。
「フクロウ氏族は伊達じゃないよ、風見と急降下奇襲なら存分に知っている」
その姿はまさに、真夜中に飛翔する梟。空は彼女の領域だった。
獲物を狙う猛禽類の如く、狙いを定めた敵の腕に向けてワイヤーを飛ばす。全長3m特殊硬化鋼で造られたそれはオキクルミの体重と打ち出された勢いにも耐えて進行方向を変える支点となる。
そして、勢いのまま別の巨人の肩へと跳び乗った。
華奢なエルフが4mを越す巨人を見下ろす。
「お ま た せ」
凄惨な笑みが広がった。
頭上から斧を振り下ろす。脳天に叩き込まれた斧が熱を発し、激しく燃えた。
「ヒィィィィーーーーハァーーーーー!!!」
この瞬間においては、華麗とはアルヴィンのためにある言葉だ。
燐光を纏って回転しながら跳び、落下と同時に蹴りを放つ。さながら変身ヒーローのような必殺のキックを受けた怠惰は、空気の読める奴だったらしく、巨体を仰け反らせ仰向けに倒れた。
反動で逆方向に飛んだアルヴィンは一回転して着地。
神業か、狂気の沙汰か。
「プロテクションがなかっタラ脚が折れテタネ!」
あとは、遠方で祈る友のおかげもあったかもしれない。
第二陣が跳ぼうとしていた。
「や、やっぱ俺やめとこっかな……?」
涼太は仲間が跳んだのを目の当たりにして、勢いが何処に失せた。
「今更何を言っている! 自分が信じるもののために戦え!」
ヘザーがその肩を掴んで熱弁をふるう。
勢いで言っているが、本当に王女のために戦っているのだから始末が悪い。
(信じるもの……)
(勇者になってハーレム生活)
(関係あんのか?!)
涼太は一瞬考えたが、あまり意味が無かった。
しかし笑みを浮かべたクィーロが何も言わずに投石機に連れて行った。
「なんで?!」
「もうすぐ発射だよ」
考える時間はなかった。ヘザーもスタンバイしている。
「王女殿下、万歳!」
「あああああおかあちゃあああああんんんん!」
三人は、投げ飛ばされた。
ヘザーの掛け声と涼太の悲鳴が重なる中、クィーロはなおも胡散臭いと思えるほどの笑みを浮かべていた。
「あれ、生きてる……」
次の瞬間、涼太は地面の窪みの中から身を起こした。
生存本能の為せる技か、空中でストーンアーマーをかけていたのだ。
「俺って結構イケんじゃね?? よっしゃこの調子で敵も軽く片付けてやら……」
勢いづいて周囲を見渡す。
一つ目巨人の単眼がいくつか涼太を見下ろしていた。
「調子こきましたすいませんっした!!!」
一瞬でビビッた。
平謝りする涼太を嗤うように巨人は手を伸ばしてきた。
だが、突然その内のひとつが目を押さえて仰け反った。
「無事かッ!」
ヘザーだった。チャクラムで巨眼を貫いたのだ。
ヘザーはそのまま巨人の膝に跳ぶと、胸板で三角跳びし、頭を下にして落下しつつ近くにいた別の巨人にジャマダハルで首への一撃を喰らわせた。
「格ゲーみてぇ……!」
涼太は鉤爪と仮面をつけた空中殺法が得意なキャラクターを思い出した。
一回転したヘザーが涼太の傍らに着地する。
「戦えッ!」
「お……おう!」
涼太の頭の中で『Round 2 Fight!』と声がした。
一方クィーロの戦いには迷いは無かった。
空中で抜刀、身体ごと回転して巨人とすれ違い様に、その首に斬りつける。
その後は裾を足首に巻きつけたマントを広げ、勢いを殺して着地。
それに遅れて、必殺の一撃を喰らった巨人が倒れた。
一瞬の出来事。
周りの敵には、何が起こったのかわからないまま、一人が首から血を流して倒れたとしか見えなかった。
「空を飛ぶのは、こんな気持ちかぁ……」
淡々と言って、クィーロは視線をめぐらす。仲間と合流するためだ。
最後の三人が跳ぶ時が迫っていた。そんな中、イルミは思いを巡らしていた。
怠惰と合間見えるのは、これが初めてではなかった。
辺境で暮らしていた彼女にとって怠惰は身近な脅威であり、トラウマだった。
それは今でも違わない。
「風の精霊さんの加護なんだよ」
そんなイルミに幸子が加護を与えた。ウインドガストだ。
「さあ、行きましょう!」
美華が力強い声で鼓舞する。
そう、今のイルミは一人ではなかった。
(大丈夫、きっと私はこの戦場に灯りをつけられる)
決意を、固めた。
恐怖を断ち切りたい――イルミの「跳びたい」という言葉には、そんな思いが込められていた。
イルミは盾の上に正座する格好で跳んだ。盾の内側には小石がいくつも積まれており、それらは空中で解放される。
頭上から石を落としながら空を翔る。
すでにその時空から降ってきた敵の対応に追われていた巨人どもは、さらに上から注意を惹かれ、行動に一貫性を無くさせた。
盾は地面に打ち付けられ、激しく跳ねるが、風精の加護、或いは無事を祈る友のお陰で、衝撃は弱まり、なんとか着地に成功した。
(この恐怖……必ず断ち切ってみせる!)
「精霊よ、力を!」
地を駆ける動物霊を身に降ろし、戦場を駆け回らんとした。
幸子は、風を纏って跳んだ――否、飛んだ。
ウインドガストの風を利用し、マントを帆にして滑空したのだった。
巨体を誇る怠惰が、いまや見下ろされる者だった。
そんな彼女を狙って石を投げる怠惰もいた。
「わわっと、危ないんだよ」
空中で方向を変えて、それを避ける。
「お返しなんだよ」
空中からウォーターシュートを撃つ。
虚空より生じた水の奔流は一つ目巨人の目を貫き、高所からの攻撃の有効性を証明した。
風を纏って飛び、高みより水を落とす者となった幸子は、姿勢を起こして減速。何事も無く着地した。
しかもそれは、同時に跳んだ二人から見える場所だった。
空から女の子が降ってきたと聞けば、心躍る場面が浮かぶだろう。
しかし美華は、普通の女の子である事を拒否した。
ストーンアーマーを使用し、丸まって自らを石弾に見立てたのだ。
投石機の威力を最も効果的に活かす最もシンプルな方法であった。
石として巨人の額に直撃し、石として地面に落ちる。
傍からは石から手足が生えて動き出したように見えるだろう。
「ひとまずは作戦成功……次の段階に移ります!」
●敵陣引っ掻き回し作戦
「さて、退屈させてくれんなよ?」
「さ、アゲていこうか!」
「敵を引っ掻き回すんダヨーー!」
最初に襲撃に成功し、合流を果たしたアーサー・オキクルミ・アルヴィンは直接敵を攻撃するのではなく、射撃武器を使用不可能にすることを目的に攻撃して回った。
けして頭の回転は早いとはいえない怠惰どもだが、突如空から降って沸いて来た敵を放置はしなかった。特に武器を壊されてからは素手で一行を捕まえようとした。
しかし怠惰が密集している上相手のサイズは小さいので、捕まえることは容易ではなかった。そのうち堪え性のないものが武器で斬りつけようとした。
結果、味方の巨人を傷つけた。
そんな事がそこかしこで起こり、混乱が加速した。
「ソニィィィィッ……! ……ゥゥーームッ!」
同士討ちが起こっている横から、涼太が両腕を振るってスキルと関係ない技名を叫びつつウインドスラッシュを放つ。
「HYOOOOO!」
「それ、なんなの?」
それに加勢する形で、ヘザーとクィーロが攻撃を仕掛け、被害を拡大させていく。
「私は明かりを照らす者! 怖くなんてない!」
「2ndステージもボクが勝つんだよ!」
「終わったらご飯が美味しく食べられそうです!」
イルミ・幸子・美華も加わると、いまだ攻撃を続けている怠惰にも攻撃を仕掛け、戦場にさらなる混乱をもたらした。
さらに美華は、退路を確保する事も念頭に入れて行動していた。広範囲を巻き込むスリープクラウドは役に立った。
一行は敵の霍乱に目的を定め、決して無理に攻めることはなかった。
その為か、敵陣の真っ只中にたった9人で飛び込むという無謀にも関わらず、またアルヴィンがヒールを使えるので、すぐに窮地に陥るという事はなかった。
●戦乙女動く
敵陣へと跳んだハンター達を、味方陣営から見守るものがいた。
「なんて無謀な……」
ヴィオラ・フルブライト(kz0007)である。
戦乙女と謳われた彼女でも、いや、だからこそ、そのような冒険はしない。
だから、報告を聞いた時は驚いた。
「敵の攻撃が弱まりました!」
「……信じがたいですが……」
ヴィオラは敵を眺め、考える――だがそれは一瞬の事だった。
「全軍突撃! 我に続け!」
ヴィオラは武器を手に、最前線へと歩を進めた。
戦乙女が戦場を駆ける――後に続くは、グラズヘイム王国・聖堂教会が誇る聖堂戦士団だ。
9人は合流し、迫り来る敵に一丸となって対応してきた。敵は多く、一人一人が強力だ。長く続ければ不利になるのは仕方が無い。
「そろそろ頃合かしらね」
美華は眼前の敵集団目掛けて、スリープクラウドを散布する。
「みんなこっちよ!」
術の完成を見届け、すぐさま駆け出す。行く先は美華があらかじめ確保しておいた退路だ。
意図を察した仲間たちがそれに続く。
オキクルミは仁王立ちして大見得を切った。
「古の盟約により歪虚滅ぶべし! 祖霊よ、導きを!」
それを聞いた怠惰は身構えるが――
オキクルミは後ろに向かって突撃した。何と今のは捨て台詞だった。
勿論怠惰は追った。
その前に立ちはだかる者がいる。クィーロだ。
追いすがる怠惰の攻撃をかわし、一刀を浴びせる。
白い羽織が返り血に染まると、クィーロは満足げに笑った。
「あぁ……楽しくなってきた……。
いいぜ……殺し合おう」
口数こそ多くは無かったが、今の彼は活きのいい奴揃いの仲間内で一番、活力に満ちていた。
その時、にわかに空が暗くなり、彼方に雷光が閃いた。
瞬く間に暴風雨が吹き荒れた。
四方から迫る巨人を防ぎつつ駆ける一行は背後に聖堂戦士団の声を聞き、またクィーロがいない事を知って、複雑な思いを抱いた。
突然の嵐は一行を敵から見つけづらくしたようだが、それでも敵陣の中、ただで逃げられそうにもない。
左右から巨人が迫っていた。
「ワオ! 前にも居るヨー!」
「うわああああもうおしまいだあ!」
前からも近づいてくる影を見つけたアルヴィンの言葉に、涼太が縮こまる。
その時、風を切る音が聞こえたかと思うと、銃声が鳴り響き、さらには爆音とともに緋色の閃光が走った。
一瞬の静寂の後、巨人が倒れ伏した。
「あれ……人間だよ!」
サイズが違うと幸子が気付いた。
果たして、前から現れたのはシルウィス・フェイカー、続いて白藤、シルヴァ グラッセ、蜜鈴=カメーリア・ルージュの姿もあった。いずれもハンターである。それぞれが弓矢や銃、魔術具を手にしているところを見ると、巨人を倒したのは彼女達らしい。さらにはオイマト族の戦士達の姿もあった。
包囲完了まで防衛線を維持するべく戦っていた彼女らは、作戦が成功したため、包囲部隊の援軍に回ったのだった。
「ご無事ですか、皆さん!」
「味方か!」
「助かったぁ~……」
シルウィスの呼びかけに安堵する一同。
「俺達はこれから撤退する所だ」
「解った。後は任されよ」
アーサーの説明に、蜜鈴の落ち着いた声が応えた。
「俺達を逃がすため仲間が一人残った……頼めるか?」
「ああ。任しとき!」
さらに要請したアーサーに白藤が力強く頷く。
「がんばってください!」
「はい……皆さんもどうかご無事で」
美華の言葉にシルヴァが応える。それが別れの言葉になり、援軍は戦場へと消えた。
役目を終えた一行は、次なる戦いに備えるため戦場を後にした。
怠惰の軍はいまだ健在であり、この先も熾烈な戦いは続くことが予想された。未来が見えない中、ただ一つ言えるのは、かれらの作戦は成功したと言えたことだった。
(今は……もう怖くない)
もはやイルミにとって、怠惰は一方的に恐れるだけの存在ではなくなっていた。
いくらかの時間が経過した……
地に伏して傷だらけのクィーロがいた。
それを揺り起こすものがある。
「……戦乙女がお迎えか」
クィーロは目を覚ました。
眼前には確かに戦乙女――ヴィオラの姿があった。
「残念ですが、天からの使いではありませんよ」
そう言って、ヴィオラは注視しなければわからないほどの微笑を浮かべた。
どうやらこの一帯の敵は聖堂戦士団とハンターの援軍によって掃討されたらしい。
ヴィオラは手近な神官戦士を呼ぶと、クィーロの身を預けた。
「ひとまず帰りなさい……いずれ貴方の力も必要とされます」
クィーロは礼を言って、神官の誘導に従った。
「それにしても……
あんな無謀な作戦を実行して、しかも戦果を挙げるなんて……
ハンターの力、計り知れませんね」
去り行くクィーロの背中を見ながら、ヴィオラは独りごちた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/24 23:42:05 |
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プロジェクト成功の為に☆ アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/02/28 17:52:31 |
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ヘザー嬢に質問? アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/02/27 20:02:20 |