ゲスト
(ka0000)
影響の先に
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/03 22:00
- 完成日
- 2015/03/09 07:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●維新派筆頭
オプストハイムを出てナデルハイムに居を構えるようになって、どれだけ経った? ……数十年、二十年くらいだったか。
ナデルハイムを開くことを思い、浄化術の改善を思い、エルフハイムの……エルフの悩みである歪虚病を思い。
まずは立場を、自らの意思で行使できる力を。共に歩む志と仲間を。それらを含めて積み重ねてきた年数。
それはほとんど同じだと言っていい。
(ここにきて、ひとつ道が分かれた)
恭順派、中でも特に秘匿とされているはずの器の浄化術。それに片鱗とはいえ触れることが叶った。
それはユレイテルの維新派の若頭――年齢だけを見ればエルフの中では若手だが実際は筆頭も同じ――としての立場に小さくない、確実な影響をもたらしていた。
実際のところ、一口に維新派と言ってもいくつか派閥が存在する。
帝国との親和か、帝国との敵対か……その二つの勢いが強い。
機導師でもあるユレイテルは帝国親和を前提とした考え方を持ち、年齢も比較的近い者達と歩みをともにしている。
(先の共闘で、敵対派の者達の勢いを抑えることができた……それに、長老会の暗黙の了承も)
どんな思想を持っているにせよ、エルフハイムで暮らす者達は長老会の決定を重要視するし、避けることができない。
逆に、彼らから認められているかのような動きがあれば、それだけ自分達の活動がしやすくなっていく。
自分達と同じ志を持つ仲間の警備隊。エルフハイムを監視する立場にある帝国兵。そして器を擁する恭順派。
その三つの共闘が成されたという事実は敵対思想の者達を抑え、親和思想の筆頭、ユレイテルの立場を強めるきっかけとなっていた。
(もちろん、気は抜けないが)
この機会に踏み出す理由としては十分だった。
●会談
「この都市に事務所を構える許可を頂きたい」
第三師団シュラーフドルン、そのトップであるカミラは師団都市マーフェルスを収める領主のような役割も担っていると聞く。だからこそ彼女に直接頼むため、自ら足を運んだ。
「何のためにか聞かなければ、許可など出せないな」
「これまでに幾度かあった共闘を、より円滑に進めるための拠点としたい」
剣機、歪虚CAM……既に二回、その共闘は成立している。しかしどちらも時間にいくらかの余裕があったからこそ足並みを揃えられたのだと考えていた。
勿論理由はそれだけではない。これまでに出会ったハンター達。彼らからもたらされたいくつかの提案。
それらの実現も考慮に入れて、総合的に見据えた結果、有効な手段であると判断したからだ。
「……ふむ、そうか」
考えるような仕草をする師団長を正面から見据える。少なくとも無謀な話ではないはずだからこそ、その時を待った。
「結論から言ってしまえば、許可は出せる」
前置きとしてのカミラの言葉、その続きに何が来るのか。
「ただ、こちらにも明確な利益が欲しい……勿論、金銭のような即物的な物ではなく、だ」
「一介の役人の身で賄えるものかは、それこそ聞かせて貰わなければ判断できない」
同じ言葉を返せば、確かにそうだとカミラが笑って。
「エルフハイム産の木材を出荷して欲しい」
どういう事だ。
「聞こえなかったか?」
「いや。だがそれは答えかねる。私は商人ではないからな」
「じゃあ聞き方を変えよう。君達の使う住居や道具に使われる資材は、君達の暮らすルールの中で流通しているのか?」
「それは勿論」
森の伐採はあくまでもエルフ達で使う必要最低限に留めている。流通先もエルフハイムの中か、外で暮らす関係者限定での小規模なものだ。森の縮小を避けるためでもあるが、なにより資源の枯渇に対してエルフは敏感だ。
(この要求は割に合わない)
断りの要素を告げて他の道を模索するしかないだろうと口を開く。
「端材はどうだ?」
すぐに告げられる言葉。内心驚く。
「……小さいものも小物に使っているな」
例えばちょっとした装飾品、ボタン等もそれに含まれる。
「削りかすはどうだ?」
カミラはまだ諦めていない。
「……」
どれの事だろうか。例えば木彫りの杖を作ったとして、その際に出る木端、指の先よりも小さいあの小さな欠片とも呼べないもののことを言っているのだろうか。
「それこそ、火種に使うくらいしか使い道のないものだが、何に……」
「ほんの小さなひとかけらでも、マテリアルは含まれているだろう?」
エルフハイムの樹木は保有量が多い。特に奥地に近い樹木であればそのマテリアル保有量は群を抜いている。木材として加工するために伐採すると、その瞬間から少しずつマテリアルを放出し保有量も減っていくという特徴はあるけれど。
「確かに、外界の木々よりはマテリアルも豊富だろう」
ユレイテルの肯定に、カミラがやはりなと頷く。
「……燃料として、質は悪くないはずだ」
燃料、と言った。つまりカミラはその木端をただの火種ではなくエネルギーとしてみている。
「どこかにあるとも知れない確実性のない物を探して新たに掘り起こすような手間もないだろう。金は出せると思うぞ?」
「……それは」
CAMの、そして魔導アーマーのためだというのか。
意図が通じたことを理解したらしい。カミラがユレイテルの視線を受け深く頷く。
「ナデルの開発や、先ほどの事務所の費用……今後の資金力として有効だと思うがな」
第三師団も、エルフハイムの役人も。樹木などの密輸を防いだり、場合によっては摘発し捕縛する業務を担っている。もしこの木端だけでも正規の流通をさせたとすれば、対応の手間が減る可能性がある。こちらにも利点があるのだと補足される。
(確かに資金源は必要だ)
元々は捨ててしまっていたような代物だ。
(製材や木片となると私の立場を賭けねばならないだろうが)
木端程度なら、恭順派の面々は渋い顔をしたとしても口出しはしてこないだろう。敵対思想の派閥も今ならば手を出せないだろうし、軌道に乗せてしまえばあとはどうとでもなる。
「まあ返事は急がない、考えておいてくれ」
口を閉ざし黙り込んだユレイテルを見て、カミラが話を続けることを止めた。
「君が事務所を構えれば話す機会はいくらでも増えるからな」
事務所の許可を取り消す、ということでもないようだった。
ユレイテルは改めて思考を巡らせる。
(商人に口を利いてやることなら可能かもしれない)
下手に密輸で資金を他に流すより、帝国との取引に使う方が自分にとって有意義なのだろう。
それはあの大きな汚染の可能性を秘めた兵器の開発のため、つまり汚染がこれ以上大きく広まる布石。
(しかしそれも本来は帝国の在る意味、歪虚の殲滅のため……)
一度思考を切り、息を吐く。
(これはうまくすれば……)
浄化術の改良の協力を、帝国に働きかける足がけにもなるだろうか?
長い目で見て私に利があるだろうか。
様々な妨害の可能性も気になるところだが、その対策は……
オプストハイムを出てナデルハイムに居を構えるようになって、どれだけ経った? ……数十年、二十年くらいだったか。
ナデルハイムを開くことを思い、浄化術の改善を思い、エルフハイムの……エルフの悩みである歪虚病を思い。
まずは立場を、自らの意思で行使できる力を。共に歩む志と仲間を。それらを含めて積み重ねてきた年数。
それはほとんど同じだと言っていい。
(ここにきて、ひとつ道が分かれた)
恭順派、中でも特に秘匿とされているはずの器の浄化術。それに片鱗とはいえ触れることが叶った。
それはユレイテルの維新派の若頭――年齢だけを見ればエルフの中では若手だが実際は筆頭も同じ――としての立場に小さくない、確実な影響をもたらしていた。
実際のところ、一口に維新派と言ってもいくつか派閥が存在する。
帝国との親和か、帝国との敵対か……その二つの勢いが強い。
機導師でもあるユレイテルは帝国親和を前提とした考え方を持ち、年齢も比較的近い者達と歩みをともにしている。
(先の共闘で、敵対派の者達の勢いを抑えることができた……それに、長老会の暗黙の了承も)
どんな思想を持っているにせよ、エルフハイムで暮らす者達は長老会の決定を重要視するし、避けることができない。
逆に、彼らから認められているかのような動きがあれば、それだけ自分達の活動がしやすくなっていく。
自分達と同じ志を持つ仲間の警備隊。エルフハイムを監視する立場にある帝国兵。そして器を擁する恭順派。
その三つの共闘が成されたという事実は敵対思想の者達を抑え、親和思想の筆頭、ユレイテルの立場を強めるきっかけとなっていた。
(もちろん、気は抜けないが)
この機会に踏み出す理由としては十分だった。
●会談
「この都市に事務所を構える許可を頂きたい」
第三師団シュラーフドルン、そのトップであるカミラは師団都市マーフェルスを収める領主のような役割も担っていると聞く。だからこそ彼女に直接頼むため、自ら足を運んだ。
「何のためにか聞かなければ、許可など出せないな」
「これまでに幾度かあった共闘を、より円滑に進めるための拠点としたい」
剣機、歪虚CAM……既に二回、その共闘は成立している。しかしどちらも時間にいくらかの余裕があったからこそ足並みを揃えられたのだと考えていた。
勿論理由はそれだけではない。これまでに出会ったハンター達。彼らからもたらされたいくつかの提案。
それらの実現も考慮に入れて、総合的に見据えた結果、有効な手段であると判断したからだ。
「……ふむ、そうか」
考えるような仕草をする師団長を正面から見据える。少なくとも無謀な話ではないはずだからこそ、その時を待った。
「結論から言ってしまえば、許可は出せる」
前置きとしてのカミラの言葉、その続きに何が来るのか。
「ただ、こちらにも明確な利益が欲しい……勿論、金銭のような即物的な物ではなく、だ」
「一介の役人の身で賄えるものかは、それこそ聞かせて貰わなければ判断できない」
同じ言葉を返せば、確かにそうだとカミラが笑って。
「エルフハイム産の木材を出荷して欲しい」
どういう事だ。
「聞こえなかったか?」
「いや。だがそれは答えかねる。私は商人ではないからな」
「じゃあ聞き方を変えよう。君達の使う住居や道具に使われる資材は、君達の暮らすルールの中で流通しているのか?」
「それは勿論」
森の伐採はあくまでもエルフ達で使う必要最低限に留めている。流通先もエルフハイムの中か、外で暮らす関係者限定での小規模なものだ。森の縮小を避けるためでもあるが、なにより資源の枯渇に対してエルフは敏感だ。
(この要求は割に合わない)
断りの要素を告げて他の道を模索するしかないだろうと口を開く。
「端材はどうだ?」
すぐに告げられる言葉。内心驚く。
「……小さいものも小物に使っているな」
例えばちょっとした装飾品、ボタン等もそれに含まれる。
「削りかすはどうだ?」
カミラはまだ諦めていない。
「……」
どれの事だろうか。例えば木彫りの杖を作ったとして、その際に出る木端、指の先よりも小さいあの小さな欠片とも呼べないもののことを言っているのだろうか。
「それこそ、火種に使うくらいしか使い道のないものだが、何に……」
「ほんの小さなひとかけらでも、マテリアルは含まれているだろう?」
エルフハイムの樹木は保有量が多い。特に奥地に近い樹木であればそのマテリアル保有量は群を抜いている。木材として加工するために伐採すると、その瞬間から少しずつマテリアルを放出し保有量も減っていくという特徴はあるけれど。
「確かに、外界の木々よりはマテリアルも豊富だろう」
ユレイテルの肯定に、カミラがやはりなと頷く。
「……燃料として、質は悪くないはずだ」
燃料、と言った。つまりカミラはその木端をただの火種ではなくエネルギーとしてみている。
「どこかにあるとも知れない確実性のない物を探して新たに掘り起こすような手間もないだろう。金は出せると思うぞ?」
「……それは」
CAMの、そして魔導アーマーのためだというのか。
意図が通じたことを理解したらしい。カミラがユレイテルの視線を受け深く頷く。
「ナデルの開発や、先ほどの事務所の費用……今後の資金力として有効だと思うがな」
第三師団も、エルフハイムの役人も。樹木などの密輸を防いだり、場合によっては摘発し捕縛する業務を担っている。もしこの木端だけでも正規の流通をさせたとすれば、対応の手間が減る可能性がある。こちらにも利点があるのだと補足される。
(確かに資金源は必要だ)
元々は捨ててしまっていたような代物だ。
(製材や木片となると私の立場を賭けねばならないだろうが)
木端程度なら、恭順派の面々は渋い顔をしたとしても口出しはしてこないだろう。敵対思想の派閥も今ならば手を出せないだろうし、軌道に乗せてしまえばあとはどうとでもなる。
「まあ返事は急がない、考えておいてくれ」
口を閉ざし黙り込んだユレイテルを見て、カミラが話を続けることを止めた。
「君が事務所を構えれば話す機会はいくらでも増えるからな」
事務所の許可を取り消す、ということでもないようだった。
ユレイテルは改めて思考を巡らせる。
(商人に口を利いてやることなら可能かもしれない)
下手に密輸で資金を他に流すより、帝国との取引に使う方が自分にとって有意義なのだろう。
それはあの大きな汚染の可能性を秘めた兵器の開発のため、つまり汚染がこれ以上大きく広まる布石。
(しかしそれも本来は帝国の在る意味、歪虚の殲滅のため……)
一度思考を切り、息を吐く。
(これはうまくすれば……)
浄化術の改良の協力を、帝国に働きかける足がけにもなるだろうか?
長い目で見て私に利があるだろうか。
様々な妨害の可能性も気になるところだが、その対策は……
リプレイ本文
●転機
「久しいね、またよろしく頼むよ」
Charlotte・V・K(ka0468)とは選挙活動以来。
(長年の厚い壁を乗り越えんとする君の姿勢は、見ていてとても尊いものがある)
その壁が困難であるほどいい。
「シャイネさんは元気かな……少し気になってて」
共闘の後、何時もと違った様子が気になっているユリアン(ka1664)。ほんの雑談のつもりだったのだが。
「無理もない」
事情を知っている素振りについ、先を請う。
「どうしてか聞いてもいいかな」
「……維新派の中でも異端とされ、全てから敵視されている思想がある」
友人の心配をしただけのはずが、示される情報の規模が違う。言葉を選ぶ様子が妙に気にかかる。
「親歪虚思想、この思想を持っていた者が、遂に歪虚の側についたことを断定した。だから長老会に報告した……シャイネ殿はそう言っていた」
残りは本人から聞いてほしいと続いた。
「大丈夫なんでしょうね」
縁故を持つ者、好意的な者の中、クリス・クロフォード(ka3628)の言葉は鋭い。
「どういう意味じゃ」
先に尋ねたのはイーリス・クルクベウ(ka0481)、彼女もまた『エルフハイムのエルフ』だからこそ言葉に混じる疑いの気配を感じ取っていた。
「アンタ達んとこのハジャとかいうエルフの依頼受けたら、最後の最後でワイルドに裏切られて挙げ句に梯子まで外していただいたもので」
ハンターの信頼性を気にしてたこっちが馬鹿にされるなんてね、仕事という契約に対して態度がずさんなのはどうなの。素っ気ない口ぶりだからこそ、それが苦々しい記憶だと示している。
「その名に覚えは……ふむ」
記憶に引っかかる情報をユレイテルが口にする前に遮る。
「仕事として受けたんだから、すべきことはするわ」
事情も言い訳も要らないのだ。
●条件
「どんな話をしたのか聞かせてもらっていいかな?」
天竜寺 詩(ka0396)の申し出にビスマ・イリアス(ka1701)も頷く。
「事務所を設ける目的の明確化が必要だ」
求めにユレイテルが応じる中、君島 防人(ka0181)は考えを読み取ろうとその意識を研ぎ澄ます。
(状況が動き出したか)
初めてユレイテルと会った時から、このタイミングが来ることを待っていたように思う。
防人にとって、状況のバランスは常に判断の要。思想はより詳しく把握しておく必要がある。
(やはり機導兵器の使用には抵抗がある様子だ)
汚染浄化と生存権の防衛、その均衡を如何様に取るか、鍵を握る二人に一任しても問題無いだろうと思う。動きが大きいものではないうちは。
「里を出てきて日が浅いけど、だからこそ出来ること、分かる事があると思うんだ、よろしくね」
良い所があるといいね。話終えたユレイテルに水を差し出しながら、アイラ(ka3941)が微笑んだ。
物件を探すにあたりハンター達が提示した条件は大きく分けて5つ。優先度合いの高いものから順に各々が意見を出していく。
『大通りに面している』
「人目って大事だと思うんだ」
エルフが帝国の街中に事務所を構える事の珍しさを主張する詩。
「変な憶測を生んじゃうかもしれない。だったら公明正大である事を示す為にも奥まった所よりいいと思うんだ」
「これから先行われるであろう通商の件も含め互いにとって利益になるようにするなら、不利益な評判は避けるべきだ」
頷きながら添えるビスマの言葉に詩の提案が続く。
「そうそう、木材? ……木くずだっけ。それ自体は師団との取引かもだけど、そのうち他の物品についても取引話が出るかもしれない。商店も近い方が手間が少ないんじゃないかな」
商業区が近ければもっといいけど、マーフェルスにまださほど明るくない詩はやや控えめな口調。
「大通り沿いなら商店も近いと思うのじゃがな」
こればかりは実際に調べなければわからない。イーリスの言葉はまだ希望的観測の域を出ないのだ。
『帝国兵の詰め所から近い』
「私からの提案としては、物件はカミラくんの詰所から見える距離、くらいかねぇ」
Charlotteが特に気にかけたのは衝突の可能性だ。
「悪戯など、ないとは言い切れないからね」
帝国とエルフハイム何方にも言えることだからこそ明言を避ける。
「スープが冷めない距離って言えばいいのかな」
巡回もしているだろうから、そのルートに含まれているとかさ。これはユリアンの言葉。
「ただ、あまり近いと癒着を疑われるだろうから……通り数本は離れている位とか?」
互いに伝話を繋げる案も添える。歩み寄る意思は事務所の位置だけでしか示せない、なんてことは無いはずだ。
「過ぎれば疑惑を生む、か」
呟きを零しながら防人は選挙の際に見つけた多少の確執を思い出す。念には念を入れておくべきだ。
『エルフハイムに近い南東寄り』
「やっぱり森に近い方がいい気がするな」
エルフも訪ねてくるんでしょう? と確認を取りながらアイラが続ける。
「それが無理でも、エルフが訪ねて来やすいような所とか」
言いながら首を傾げる。性格にもよるけれど、あまり目立つ場所ではエルフにとって近寄りがたい気がする。
(でも、それって言っていいのかな?)
思った通りに言うのを少し躊躇う。
「……帝国の人間さんも、私たちエルフもどっちも過ごしやすい環境が良いと思う」
皆仲良く出来るような所があるといいけど。少しだけ、表現を控えめにしておいた。
『一戸建て』
「できれば、になっちゃうけどさ」
集合住宅だと上階両隣誰が移り住むか解らない、その可能性を指摘するのはユリアン。
「ある程度近所の住民が固定している所が良いと思うんだ。そこからコミュニケーションを広げる切欠にもできるしね」
そこまで言い切ってから、眉を少し下げる。
(そこから大通り推奨となると……)
予算は大丈夫だろうか。
「個人的な提言で悪いが」
その懸念を感じ取ったかのようなタイミングでビスマが話を引き取る。
「広さは度外視してもいいだろうと思う」
人数はそう多くないだろうと推測していたからこその考えだ。確認するようにユレイテルに視線を向けたところ訂正の言葉は入らない。
「逆算して必要な広さを割り出していけるはずだ。今後も考えると必要最低限でいいかと思う」
『清潔感があり、開かれた雰囲気』
「特にデザインと日ごろの清掃がものをいう、重要事項だ」
そう断言するのはビスマ自身が家事全般に明るいからだろう。
「親しみやすい雰囲気は出した方がいいよね。せっかく事務所を構えても入りづらいってのは困るしね」
「そうよ、長居したいと思わないような内装は遠慮したいわね」
詩とクリスもそこに加わる。優先度は控えめのはずだが、やはり気になる点として外せない部分だ。
「良いところがあったらお掃除、私も手伝うわ。皆気分が良い方がよいものね」
アイラの言葉に皆も頷く。物を運び入れる前が一番掃除しやすいというものだ。内装に手を入れられるのならばそれも考えておくべきだろう。
「帝国の様式が土台になるじゃろうが。わしらエルフの好む家具も置けたらと思う」
イーリスの提案に返すのは再びアイラ。
「皆を結ぶ場所になれたら……その為にはお互いに落ち着けるのが一番よね。それ、とてもいい案だと思うわ」
「どれも納得できる話だ」
全てを満たす物件が見つかるとは限らないとユレイテルは前置いて。
「私からは異論もない。今日からしばらく、どうかよろしくお願いする」
●調査
物件探しは足が勝負だ。
空き家もしくは空き部屋を探し、管理人を訪ね、条件を確認する。
(それとなくエルフに対する認識を聞いておかねばならぬか)
仕事で探していると詳らかに言ってしまってもいいのだが、都市全体におけるエルフへの印象が不明なうちは様子を見るべきだ。
(種族間の対立緩和に向けての下準備だからな)
全力を尽くすけれど、だからこそ細やかに気を配らなければならない。
「私も宿暮らしからの脱却考えないと」
特に内装に意識を向けながらふと思い出すクリス。
「あの窓じゃ足りないわね」
水周りはいいんだけど残念ね、そう言いながら次へと足を向ける。私情だが、この仕事は紅界の建築物を下調べできる点でいい話だったかもしれない。
(それとエルフへの信用は別だけど)
マーフェルスの南東の端、エルフハイムに一番近い地点に詩は立っていた。
「ここがスタート地点」
中央に向かいながら探す算段だ。効率性は勿論、もう一つ目論見がある。
(エルフの人達の視点に少しでも近ければいいけど)
森で暮らしている彼らに、蒼界から転移した自分が同調するにはそれが手っ取り早いと思ったのだ。
(雰囲気は演出次第でどうにか出来そうだし)
うまくいい物件が見つかればいい。
●休憩
「余計なお世話だったらごめん」
もし、資金的に厳しいのであればと前置いて。
「副業……仕事とはいかなくても、雰囲気の演出で、さ」
カミラ監修の菓子等で周辺住民の立ち寄りやすさを重視する案をユリアンが挙げたのは、以前にエルフ特有の品について、迷っていた様子を覚えていたからだ。
「体裁を整えてからになるだろうが、考えてみよう」
「休憩はせんのか?」
見つけた物件情報を伝えに部屋を尋ねたイーリスが、作業中のユレイテルを労う。軽食も主人に作ってもらっていた。
書類に向かっている視線に迷いがあるように見えて、つい声をかけてしまった。
「浮かない顔をしておるが……どうかしたのか?」
少しの沈黙。
「パウラにも言っていないが」
持ち掛けられた取引の先にいずれ来る更なる要求と、そこに向かっている自分の足元。簡潔な言葉に込められた心情は手に取る様にわかった。同郷であることよりも、イーリス自らが意思に沿おうとするからだろうか。
「今おぬしの立場が危うくなれば、次の機会が何時巡ってくるかなど分からん、そこだけは慎重になった方が良い……繰り返すが、おぬしは維新派にとって欠かせぬ要石じゃ」
けれど使える布石は打っておいて損でもない、だからこそ思いつく助言を尽くす。
「わしは職人ゆえ商いは専門外じゃが、先ず主導権を取ることが先決じゃ」
商業契約、輸出制限、帝国の動きを待ってからの本題である浄化術への協力要請、目標に至れない際の対応策……近い将来だけでなく、長い目を持った考え方は特に好ましく。
「君のように、皆が考えるようになればいいんだがな」
「個人的なお願いだけど、いいかな。エルフの唄を教えて欲しいなって」
興味あるんだと微笑む歌に、まだ緊張が残るパウラの声が返る。
「……か、歌詞になりそうな、詩なら覚えてます」
唄は苦手なので、それでも良ければ、いくつか。
「じゃあさ、あとで私が節をつけて歌ってみてもいい? 良ければ唄い方も教えてあげる。きっと楽しいよ」
自分達だけの話ではなくて、今後の繋がりのためにも、親しみをもって貰えるかもしれないから。
「今回の事務所設立に感して長老会は何か動く様子はあるのか?」
気になっていた懸念を口にする防人。ちらりとパウラを見ていたところ、ピクリと小さく震えていたようだが。
(報告は既に済ませているといったところか)
わかりやすいのは美点だ……皮肉だが。
「このところ、不在時の補佐育成に力を入れていたのだが」
そこから警戒はされていたと思う。
「今は特にないな、様子を伺っているのかもしれない」
またパウラの肩が揺れた。
「以前マニフェストにしていた浄化術。私にもぜひ手伝わせて頂きたい」
物件の話の間は控えていたんだがな、そう前置いて申し出るCharlotte。
「改めて、錬金術組合への協力を推薦させて貰うよ」
選挙の手伝いの際も、彼女はカミラに紹介状の打診を行っていた。その際はまだ見極める時間が必要と返されていた。
(それはまた後日、改めて打診を行うが)
錬磨院にやられっ放しになっている組合は、もともと錬金術の平和的利用をうたっている。浄化術の研究は魅力的なはずだ。
「マテリアル鉱物に変わる新エネルギー、または錬金術による魔導汚染を軽減出来る技術。これらの開発に、浄化術は必要だと私は思っている……どうだろうか? 私と一緒に、帝国とエルフハイムの橋渡しの為に……」
人間とドワーフが縁故を深くする帝国に、蒼とエルフの風を吹き込む。退屈を吹き飛ばすような話だからこそ彼女の興味は強さを増す。
「手を借りられるなら有り難い」
まだ模索の多い段階だからこそ、手は多い方が助かる。
●結果
大通りを曲がってすぐの近さにある雑貨屋の二階。マーフェルスの中でも南東寄りで、師団兵の巡回もある区域。
かつては店主自身が利用していた居住層は家具も最低限揃っている。
今は別に家があるから、騒がしくなければ問題ないと条件も甘い。
流通の稀少なエルフハイム産の品、その仕入れ元の拡大を見込んでいるからではあるだろうけれど。
埃を除き、少し手を入れれば十分な場所になるだろう。
「何か有ってからでは遅い」
見取り図を元に警備計画を練る防人、ユレイテルも耳を傾ける。
有人警備の基本体制と、非殺傷性制圧装備の隠し場所の提案が話の基本だ。
「とはいえ、融和が目的なのであからさまに警戒するのも良くない」
平時と有事、相互の切り替えが重要だと締めくくった。
「疑われることは多いだろうが」
選挙への立候補で、そしてこの都市でも選挙活動を行ったからとはいえ。多少の知名度を持ったとしても、それはあくまでも個人の話だ。エルフハイムというだけで色眼鏡で見るものは多いだろうとビスマは思う。
(後ろめたい事がないことを示すためには知ってもらうことが何よりだ)
だからこそ言葉にして伝えることが必要だ。
「事務所の業務に、行動目標をPRするイベントの運営を組みこんだらどうかと思う」
「私も、事務所を構えた事とか、宣伝するのが良いと思う」
アイラも言葉を添える。
(私たちエルフとか秘密にしてる事、いっぱいあるけど悪い癖だと思うから)
公に出来ないことがあることはわかっている、それでも。
「何かを変えるつもりなんでしょ? だったらいつまでも閉じ籠るのはよくないわ」
うまく言葉に出来なくてもどかしい。歪虚病への恐れは、外界への好奇心が勝っているアイラにはまだぴんと来ていない。
「私たちはこういう事をするよ、って伝えていくのが大事だと思う」
「そうでなくても、街の催しなんかには、帝国の詰め所経由でもいいから積極的に参加しておくことを勧めておくわ」
何よりも大事なことだとクリス。
「ハンターですらいい印象持たないのがいるんだから、事務所周辺の住民からしたら不安の方が先に出るんじゃない?」
そのぐらいは承知の上だと思うけどね。
「苦言も歓迎している」
すぐにとは言わないが、と一度言葉を切る。
「貴殿は様々な考えがあることを理解している方だ」
いつか貴殿にも私個人を信用してもらえれば良いと思う。
「久しいね、またよろしく頼むよ」
Charlotte・V・K(ka0468)とは選挙活動以来。
(長年の厚い壁を乗り越えんとする君の姿勢は、見ていてとても尊いものがある)
その壁が困難であるほどいい。
「シャイネさんは元気かな……少し気になってて」
共闘の後、何時もと違った様子が気になっているユリアン(ka1664)。ほんの雑談のつもりだったのだが。
「無理もない」
事情を知っている素振りについ、先を請う。
「どうしてか聞いてもいいかな」
「……維新派の中でも異端とされ、全てから敵視されている思想がある」
友人の心配をしただけのはずが、示される情報の規模が違う。言葉を選ぶ様子が妙に気にかかる。
「親歪虚思想、この思想を持っていた者が、遂に歪虚の側についたことを断定した。だから長老会に報告した……シャイネ殿はそう言っていた」
残りは本人から聞いてほしいと続いた。
「大丈夫なんでしょうね」
縁故を持つ者、好意的な者の中、クリス・クロフォード(ka3628)の言葉は鋭い。
「どういう意味じゃ」
先に尋ねたのはイーリス・クルクベウ(ka0481)、彼女もまた『エルフハイムのエルフ』だからこそ言葉に混じる疑いの気配を感じ取っていた。
「アンタ達んとこのハジャとかいうエルフの依頼受けたら、最後の最後でワイルドに裏切られて挙げ句に梯子まで外していただいたもので」
ハンターの信頼性を気にしてたこっちが馬鹿にされるなんてね、仕事という契約に対して態度がずさんなのはどうなの。素っ気ない口ぶりだからこそ、それが苦々しい記憶だと示している。
「その名に覚えは……ふむ」
記憶に引っかかる情報をユレイテルが口にする前に遮る。
「仕事として受けたんだから、すべきことはするわ」
事情も言い訳も要らないのだ。
●条件
「どんな話をしたのか聞かせてもらっていいかな?」
天竜寺 詩(ka0396)の申し出にビスマ・イリアス(ka1701)も頷く。
「事務所を設ける目的の明確化が必要だ」
求めにユレイテルが応じる中、君島 防人(ka0181)は考えを読み取ろうとその意識を研ぎ澄ます。
(状況が動き出したか)
初めてユレイテルと会った時から、このタイミングが来ることを待っていたように思う。
防人にとって、状況のバランスは常に判断の要。思想はより詳しく把握しておく必要がある。
(やはり機導兵器の使用には抵抗がある様子だ)
汚染浄化と生存権の防衛、その均衡を如何様に取るか、鍵を握る二人に一任しても問題無いだろうと思う。動きが大きいものではないうちは。
「里を出てきて日が浅いけど、だからこそ出来ること、分かる事があると思うんだ、よろしくね」
良い所があるといいね。話終えたユレイテルに水を差し出しながら、アイラ(ka3941)が微笑んだ。
物件を探すにあたりハンター達が提示した条件は大きく分けて5つ。優先度合いの高いものから順に各々が意見を出していく。
『大通りに面している』
「人目って大事だと思うんだ」
エルフが帝国の街中に事務所を構える事の珍しさを主張する詩。
「変な憶測を生んじゃうかもしれない。だったら公明正大である事を示す為にも奥まった所よりいいと思うんだ」
「これから先行われるであろう通商の件も含め互いにとって利益になるようにするなら、不利益な評判は避けるべきだ」
頷きながら添えるビスマの言葉に詩の提案が続く。
「そうそう、木材? ……木くずだっけ。それ自体は師団との取引かもだけど、そのうち他の物品についても取引話が出るかもしれない。商店も近い方が手間が少ないんじゃないかな」
商業区が近ければもっといいけど、マーフェルスにまださほど明るくない詩はやや控えめな口調。
「大通り沿いなら商店も近いと思うのじゃがな」
こればかりは実際に調べなければわからない。イーリスの言葉はまだ希望的観測の域を出ないのだ。
『帝国兵の詰め所から近い』
「私からの提案としては、物件はカミラくんの詰所から見える距離、くらいかねぇ」
Charlotteが特に気にかけたのは衝突の可能性だ。
「悪戯など、ないとは言い切れないからね」
帝国とエルフハイム何方にも言えることだからこそ明言を避ける。
「スープが冷めない距離って言えばいいのかな」
巡回もしているだろうから、そのルートに含まれているとかさ。これはユリアンの言葉。
「ただ、あまり近いと癒着を疑われるだろうから……通り数本は離れている位とか?」
互いに伝話を繋げる案も添える。歩み寄る意思は事務所の位置だけでしか示せない、なんてことは無いはずだ。
「過ぎれば疑惑を生む、か」
呟きを零しながら防人は選挙の際に見つけた多少の確執を思い出す。念には念を入れておくべきだ。
『エルフハイムに近い南東寄り』
「やっぱり森に近い方がいい気がするな」
エルフも訪ねてくるんでしょう? と確認を取りながらアイラが続ける。
「それが無理でも、エルフが訪ねて来やすいような所とか」
言いながら首を傾げる。性格にもよるけれど、あまり目立つ場所ではエルフにとって近寄りがたい気がする。
(でも、それって言っていいのかな?)
思った通りに言うのを少し躊躇う。
「……帝国の人間さんも、私たちエルフもどっちも過ごしやすい環境が良いと思う」
皆仲良く出来るような所があるといいけど。少しだけ、表現を控えめにしておいた。
『一戸建て』
「できれば、になっちゃうけどさ」
集合住宅だと上階両隣誰が移り住むか解らない、その可能性を指摘するのはユリアン。
「ある程度近所の住民が固定している所が良いと思うんだ。そこからコミュニケーションを広げる切欠にもできるしね」
そこまで言い切ってから、眉を少し下げる。
(そこから大通り推奨となると……)
予算は大丈夫だろうか。
「個人的な提言で悪いが」
その懸念を感じ取ったかのようなタイミングでビスマが話を引き取る。
「広さは度外視してもいいだろうと思う」
人数はそう多くないだろうと推測していたからこその考えだ。確認するようにユレイテルに視線を向けたところ訂正の言葉は入らない。
「逆算して必要な広さを割り出していけるはずだ。今後も考えると必要最低限でいいかと思う」
『清潔感があり、開かれた雰囲気』
「特にデザインと日ごろの清掃がものをいう、重要事項だ」
そう断言するのはビスマ自身が家事全般に明るいからだろう。
「親しみやすい雰囲気は出した方がいいよね。せっかく事務所を構えても入りづらいってのは困るしね」
「そうよ、長居したいと思わないような内装は遠慮したいわね」
詩とクリスもそこに加わる。優先度は控えめのはずだが、やはり気になる点として外せない部分だ。
「良いところがあったらお掃除、私も手伝うわ。皆気分が良い方がよいものね」
アイラの言葉に皆も頷く。物を運び入れる前が一番掃除しやすいというものだ。内装に手を入れられるのならばそれも考えておくべきだろう。
「帝国の様式が土台になるじゃろうが。わしらエルフの好む家具も置けたらと思う」
イーリスの提案に返すのは再びアイラ。
「皆を結ぶ場所になれたら……その為にはお互いに落ち着けるのが一番よね。それ、とてもいい案だと思うわ」
「どれも納得できる話だ」
全てを満たす物件が見つかるとは限らないとユレイテルは前置いて。
「私からは異論もない。今日からしばらく、どうかよろしくお願いする」
●調査
物件探しは足が勝負だ。
空き家もしくは空き部屋を探し、管理人を訪ね、条件を確認する。
(それとなくエルフに対する認識を聞いておかねばならぬか)
仕事で探していると詳らかに言ってしまってもいいのだが、都市全体におけるエルフへの印象が不明なうちは様子を見るべきだ。
(種族間の対立緩和に向けての下準備だからな)
全力を尽くすけれど、だからこそ細やかに気を配らなければならない。
「私も宿暮らしからの脱却考えないと」
特に内装に意識を向けながらふと思い出すクリス。
「あの窓じゃ足りないわね」
水周りはいいんだけど残念ね、そう言いながら次へと足を向ける。私情だが、この仕事は紅界の建築物を下調べできる点でいい話だったかもしれない。
(それとエルフへの信用は別だけど)
マーフェルスの南東の端、エルフハイムに一番近い地点に詩は立っていた。
「ここがスタート地点」
中央に向かいながら探す算段だ。効率性は勿論、もう一つ目論見がある。
(エルフの人達の視点に少しでも近ければいいけど)
森で暮らしている彼らに、蒼界から転移した自分が同調するにはそれが手っ取り早いと思ったのだ。
(雰囲気は演出次第でどうにか出来そうだし)
うまくいい物件が見つかればいい。
●休憩
「余計なお世話だったらごめん」
もし、資金的に厳しいのであればと前置いて。
「副業……仕事とはいかなくても、雰囲気の演出で、さ」
カミラ監修の菓子等で周辺住民の立ち寄りやすさを重視する案をユリアンが挙げたのは、以前にエルフ特有の品について、迷っていた様子を覚えていたからだ。
「体裁を整えてからになるだろうが、考えてみよう」
「休憩はせんのか?」
見つけた物件情報を伝えに部屋を尋ねたイーリスが、作業中のユレイテルを労う。軽食も主人に作ってもらっていた。
書類に向かっている視線に迷いがあるように見えて、つい声をかけてしまった。
「浮かない顔をしておるが……どうかしたのか?」
少しの沈黙。
「パウラにも言っていないが」
持ち掛けられた取引の先にいずれ来る更なる要求と、そこに向かっている自分の足元。簡潔な言葉に込められた心情は手に取る様にわかった。同郷であることよりも、イーリス自らが意思に沿おうとするからだろうか。
「今おぬしの立場が危うくなれば、次の機会が何時巡ってくるかなど分からん、そこだけは慎重になった方が良い……繰り返すが、おぬしは維新派にとって欠かせぬ要石じゃ」
けれど使える布石は打っておいて損でもない、だからこそ思いつく助言を尽くす。
「わしは職人ゆえ商いは専門外じゃが、先ず主導権を取ることが先決じゃ」
商業契約、輸出制限、帝国の動きを待ってからの本題である浄化術への協力要請、目標に至れない際の対応策……近い将来だけでなく、長い目を持った考え方は特に好ましく。
「君のように、皆が考えるようになればいいんだがな」
「個人的なお願いだけど、いいかな。エルフの唄を教えて欲しいなって」
興味あるんだと微笑む歌に、まだ緊張が残るパウラの声が返る。
「……か、歌詞になりそうな、詩なら覚えてます」
唄は苦手なので、それでも良ければ、いくつか。
「じゃあさ、あとで私が節をつけて歌ってみてもいい? 良ければ唄い方も教えてあげる。きっと楽しいよ」
自分達だけの話ではなくて、今後の繋がりのためにも、親しみをもって貰えるかもしれないから。
「今回の事務所設立に感して長老会は何か動く様子はあるのか?」
気になっていた懸念を口にする防人。ちらりとパウラを見ていたところ、ピクリと小さく震えていたようだが。
(報告は既に済ませているといったところか)
わかりやすいのは美点だ……皮肉だが。
「このところ、不在時の補佐育成に力を入れていたのだが」
そこから警戒はされていたと思う。
「今は特にないな、様子を伺っているのかもしれない」
またパウラの肩が揺れた。
「以前マニフェストにしていた浄化術。私にもぜひ手伝わせて頂きたい」
物件の話の間は控えていたんだがな、そう前置いて申し出るCharlotte。
「改めて、錬金術組合への協力を推薦させて貰うよ」
選挙の手伝いの際も、彼女はカミラに紹介状の打診を行っていた。その際はまだ見極める時間が必要と返されていた。
(それはまた後日、改めて打診を行うが)
錬磨院にやられっ放しになっている組合は、もともと錬金術の平和的利用をうたっている。浄化術の研究は魅力的なはずだ。
「マテリアル鉱物に変わる新エネルギー、または錬金術による魔導汚染を軽減出来る技術。これらの開発に、浄化術は必要だと私は思っている……どうだろうか? 私と一緒に、帝国とエルフハイムの橋渡しの為に……」
人間とドワーフが縁故を深くする帝国に、蒼とエルフの風を吹き込む。退屈を吹き飛ばすような話だからこそ彼女の興味は強さを増す。
「手を借りられるなら有り難い」
まだ模索の多い段階だからこそ、手は多い方が助かる。
●結果
大通りを曲がってすぐの近さにある雑貨屋の二階。マーフェルスの中でも南東寄りで、師団兵の巡回もある区域。
かつては店主自身が利用していた居住層は家具も最低限揃っている。
今は別に家があるから、騒がしくなければ問題ないと条件も甘い。
流通の稀少なエルフハイム産の品、その仕入れ元の拡大を見込んでいるからではあるだろうけれど。
埃を除き、少し手を入れれば十分な場所になるだろう。
「何か有ってからでは遅い」
見取り図を元に警備計画を練る防人、ユレイテルも耳を傾ける。
有人警備の基本体制と、非殺傷性制圧装備の隠し場所の提案が話の基本だ。
「とはいえ、融和が目的なのであからさまに警戒するのも良くない」
平時と有事、相互の切り替えが重要だと締めくくった。
「疑われることは多いだろうが」
選挙への立候補で、そしてこの都市でも選挙活動を行ったからとはいえ。多少の知名度を持ったとしても、それはあくまでも個人の話だ。エルフハイムというだけで色眼鏡で見るものは多いだろうとビスマは思う。
(後ろめたい事がないことを示すためには知ってもらうことが何よりだ)
だからこそ言葉にして伝えることが必要だ。
「事務所の業務に、行動目標をPRするイベントの運営を組みこんだらどうかと思う」
「私も、事務所を構えた事とか、宣伝するのが良いと思う」
アイラも言葉を添える。
(私たちエルフとか秘密にしてる事、いっぱいあるけど悪い癖だと思うから)
公に出来ないことがあることはわかっている、それでも。
「何かを変えるつもりなんでしょ? だったらいつまでも閉じ籠るのはよくないわ」
うまく言葉に出来なくてもどかしい。歪虚病への恐れは、外界への好奇心が勝っているアイラにはまだぴんと来ていない。
「私たちはこういう事をするよ、って伝えていくのが大事だと思う」
「そうでなくても、街の催しなんかには、帝国の詰め所経由でもいいから積極的に参加しておくことを勧めておくわ」
何よりも大事なことだとクリス。
「ハンターですらいい印象持たないのがいるんだから、事務所周辺の住民からしたら不安の方が先に出るんじゃない?」
そのぐらいは承知の上だと思うけどね。
「苦言も歓迎している」
すぐにとは言わないが、と一度言葉を切る。
「貴殿は様々な考えがあることを理解している方だ」
いつか貴殿にも私個人を信用してもらえれば良いと思う。
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【相談】事務所計画中立地模索中 君島 防人(ka0181) 人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/03/03 16:52:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/01 22:09:16 |