夜魔

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/27 12:00
完成日
2015/04/03 12:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ゾンネンシュトラール帝国――某所。
 反体制活動に関わったとして逮捕された旧貴族の青年・ヨハンは、
 とある地下牢にて、第一師団による執拗な尋問を受けていた。
 数日間の尋問の後、青年はようやく口を割る。
「……我々は、ヴルツァライヒだ」
 昨今、帝国領内でその活動が活発化・過激化している反体制組織『ヴルツァライヒ』。
 実際に構成員が逮捕されたのは今回が初めてだった。

 しかしヨハンの証言は、己が容疑である2件の反体制ビラ事件についてのみ。
 それ以外の活動については知るところではないという。
 更なる尋問によって、どうにか他ひとりの構成員の名前を挙げさせることができた。
 ヨハンはその人物に勧誘され、『徒弟』と呼ばれる末端構成員の地位を得たそうだ。
「グレゴール・クロル」
 ヴルツァライヒにおけるヨハンの直属の上司にして、彼が唯一知る構成員だった。
 グレゴールは自らを『親方』と名乗り、ヨハンに反体制ビラの作成を命じたらしい。

 第一師団・ヴルツァライヒ専従捜査隊の隊員たちは、
 グレゴールをより上層の構成員と推測、その摘発を計画する。
「クロルはヨハンと同じ旧貴族出身の人間だ。
 印刷工場で死んだ、顔に傷のある男は、グレゴールの手の者で元ハンターらしい。
 摘発前にヨハンを消すことで、トカゲの尻尾切りをやろうとしたんだろうが……」
「殺し屋はハンターに敗れ、自決してしまった。ヨハンは我々の手に落ちた。
 口封じに送り込んだ殺し屋が戻らなかった以上、すぐにでも逃げ出すでしょうね。
 地下に潜伏される前に、どうにか捕まえたいところですが」


 第一師団の推測通り、グレゴールはヨハン逮捕を察知していた。
 だが、裏社会に通じた腹心を印刷工場の戦闘で失った今、逃走手段の確保も容易ではない。
「おのれ、ヨハンめ……とんだ厄介を持ち込みおった」
 ひとまずは、地方に置かれた自前の別荘を目指す。
 そこもいずれ場所が割れてしまうだろうが、少しは時間が稼げる筈だ。
 その間に当面の旅費をかき集め、国外逃亡を準備する。
 ヨハンが既に口を割ったとすれば、打てる手はもうそれくらいしかない。

 顔見知りの構成員を頼ることは論外だった。
 グレゴール自身がヨハンを消そうと考えたように、
 彼らもグレゴールを始末することで、自らに累が及ばぬよう動くだろう。
 仲間からも身を隠さねばならない。
 金貨・宝石だけを抱え、グレゴールはひっそりと帝都の自宅を離れた。


 旅路を急ぐあまり、道中でなりふり構わず金を使ったのが命取りだった。
 第一師団の捜査隊はいとも簡単にグレゴールの足取りを掴むと、夕闇に紛れて街道沿いの旅籠を取り囲んだ。
 近隣にはより大きな宿場町もあるのだが、
 人目につきたくないという逃亡者の心理ゆえか、グレゴールは木賃宿の賑わいを避け、
 静かでこじんまりとしたその旅籠を一夜の宿に選んだ。
 捜査隊にとっては人混みの中で容疑者を見失う心配がない分、むしろ仕事のし易い立地だったのだが。

 旅籠の前を走る街道は、農夫に変装した騎馬兵2名が押さえている。
 グレゴールが走って逃げようとしても、まず逃げ切れはしない。
 旅籠の裏手は森になっているが、そちらにも数名を配置。
 裏窓から飛び降りたとて、すぐに捕まえられるだろう。
 捜査隊の準備はそれだけに止まらず、
 相手が護衛として手練れの傭兵や覚醒者を雇った場合に備え、ハンターオフィスに後詰を依頼していた。

「そろそろ、やるか」
 隊長以下数名が幅の広い街道を横断し、旅籠の前庭へ差しかかったときだった。
 街道のしばらく先、旅籠の前からは下り坂になって見えない場所から、鳴子が響く。
 待ち構えていた騎馬兵のものだ――トラブル発生。
 一同が身構えるや否や、悲鳴と共に、大布をばさりと打ち振るうような音が聴こえた。
 その場の全員、慌てて坂を駆け下りれば、1匹の巨大なコウモリが馬ごと兵士を押し倒していた。
 コウモリは、地面に倒れた騎馬兵の身体を後ろ足でがっちり捉えると、
 立て続けに翼を大きく振るい、頭をもたげて金切り声を上げる。

 捜査隊は隠し持っていた拳銃を抜き、コウモリに一斉射撃を浴びせかけたが、
 小口径の拳銃は翼の皮膜にひとつふたつ小さな穴を空けただけで、
 後は全て、敵のずんぐりとした胴体や頭部を覆う、真鍮の色をした装甲で弾かれてしまった。
 銃声の残響に合わせて、長く尖った金属製の耳が音叉のように細かく震える。
「剣機……!」
 誰かが後ずさりをして言う。
 辺りに漂う強烈な腐臭と、被甲・機械化された身体。確かに剣機の特徴だった。
 だが、居合わせた第一師団の面々は誰ひとりとして、このタイプの剣機を知らなかった。新型だろうか?
 コウモリは、装甲板で目の塞がれた頭を巡らすと、後ろ足の鉤爪で騎馬兵の腹を握り潰す。
 再度の射撃も間に合わず、彼を絶命させたコウモリは翼を広げて跳躍、
 拳銃を構えたままなす術ない捜査隊へ襲いかかった。


 銃声を耳にして、ひとり部屋に閉じこもっていたグレゴールも窓へ急いだ。
 南側の街道が見下ろせる窓からは、必死の形相で逃げていく男たちの姿が見えた。
 何人かが振り返って、拳銃で追っ手を撃った。彼らを追っているのは、地上を飛び跳ねて進む巨大コウモリ。
(何ということだ、こんなところで歪虚に出くわすとは……。
 あの男たちは何だ? 恰好からしてハンターではなさそうだが武装している……、
 軍の人間か!? 第一師団か、私を捕えに来たに違いない)
 旅籠の裏の森からも銃声が上がった。男たちの怒号と、歪虚の羽ばたきが聴こえる。もう1体いる。

 グレゴールは手荷物を掴んで、廊下に続く扉へ駆け込む――
 が、どこにどうやって逃げたものか? 外では歪虚が荒れ狂っている。
 歪虚に襲われた男たちが第一師団なら、この騒ぎに便乗して逃げ出したいところだが、
「お客さん、大変です!」
 部屋の扉を開けて、旅籠の主人が顔を見せた。
 その背後の廊下を、別の従業員に連れられた若い夫婦が、取り乱した様子で駆けていく。
 主人は身振りをして、
「歪虚が――」
「窓から見た! どうする、我々は逃げられるのか?」
 お互い訳の分からぬまま、とりあえずと1階へ下りた。
 するとちょうど、表玄関から飛び込んできたふたりの男が、大慌てで扉に閂をかけ、
「表は危険だ! 誰か、外に出たままの者はいないか!?」
「わ、私たち旅館の人間と、お客様は全員こちらに」
「それなら良い。もうすぐハンターが来る筈だ!
 全員落ち着いて、助けが来るまでじっとしているんだ……」
 捜査隊の隊長が、顔の汗を拭いながら玄関広間へ下がる。
 部下は扉の覗き穴から外をうかがうと、振り返ってかぶりを振った。
「奴ら、死体に食らいついてやがる」
 彼の言葉に、誰もがぞっとして息を呑む。

 そんな中、グレゴールただひとりは奥へ隠れ、逃走のチャンスを待ちかねていた。

リプレイ本文


(歪虚退治と一緒に、人まで捕まえないといけない……何だか難しい状況みたいですね)
 榎本 かなえ(ka3567)はアウレール・V・ブラオラント(ka2531)と共に、旅籠の前庭へ接近する。
 裏手にはアーサー・ホーガン(ka0471)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が回り、
 もう1体の歪虚を前庭まで誘き寄せる手筈だった。

 4人が歪虚を相手している間に、マッシュ・アクラシス(ka0771)とダリオ・パステリ(ka2363)が、
 内部の捜査員と協力してグレゴールの確保を目指す。
 彼らに危害が及ばぬよう、敵を引きつけておかねばならないのだが、
(……うっ)
 街道を挟んで向かいの茂みに隠れると、
 前庭で死体に齧りつく巨大なコウモリの姿が見え、かなえは思わず吐き気を催した。
 アウレールは魔導銃をそっと草の陰から突き出し、狙いをつけた。
 金属装甲で覆われた敵の姿、そして腐臭。アウレールは推測する。
(このタイミングで歪虚、それも剣機が都合良く湧くなどあるものか。
 皇帝憎しで化け物に魂まで売り渡したか、ヴァルツァライヒの下種共め!)
 推理の成否はまだ分からないが、元よりどちらも皇帝の治世を脅かす大敵には違いない。
 必ずや滅してみせると、引き金に指を添え時機を待つ――

 コウモリ型剣機が頭を上げ、こちらへ首を巡らした。
(気づかれた)
 金切り声ひとつ上げて翼を広げ、街道上へ舞い戻ってくる。
「榎本殿!」
「は、はい!」
 かなえは自身に機導術・防性強化を施すと、丸盾で守りを固めて茂みを飛び出した。
 アウレールが1発撃って、こちらも移動する。
 銃弾は剣機の胴体の装甲を貫通するが、さほど堪えてはいないようだ。
 敵が短い距離への跳躍を繰り返し、ふたりへ迫る。


「おらぁ、こっち来いよデブコウモリ!」
 旅籠の裏手。アーサーが怒鳴ると、もう1体の剣機は耳を震わせ、すぐさま反転した。
 次いで、森の中からシルヴィアの銃撃。
 敵がアーサー、あるいはシルヴィアへ完全に気を惹かれたと見るや、
 ふたりはじりじりと後退しながら誘引を試みる。

「剣機。それがしには、いつかのエルフハイム防衛以来の遭遇であるな」
「倒しても倒しても、きりのないもので。まぁ……」
 ダリオとマッシュが、剣機の動き出した隙に旅籠の裏へ取りつく。
「こちらとしては、できるかぎり無駄なくあれば良いものですがね」
「ヴルツァライヒと剣機。見ようによっては一石二鳥の好機、と言えなくもない」
 マッシュが勝手口から屋内へ入る。ダリオは外で見張りを続けた。
(これまで二たび、彼奴らを追ってきた……今度こそ核心に迫れると良いのだが)

「アーサーさん、防御をお願い致します」
 後退しながら銃撃を続けるシルヴィア。翼を羽ばたかせ、飛び跳ねながら剣機が追ってくる。
「任された……けどよ」
 アーサーがちらと振り返ったシルヴィアの姿は、
 鋼鉄の魔獣装甲『タイラント』に覆われて、敵に劣らず怪物じみている。
(彼女のが、俺より強そうだなァ)
 と思うアーサーの防具も、骨の装飾を施した革鎧で、いささかどぎつい外見だった。
(どの道、恰好でビビってくれるような繊細な相手じゃねぇけど)
 アーサーは、頭上から飛びかかろうとする剣機に素早く身を退き、握っていた手裏剣を放つ。
 星型手裏剣の何本かが、蛇腹状の装甲の隙間に刺さるが、それで怯む敵ではない。
 歪虚と対峙しながら、緑がかった金色の光の粒子がアーサーの背後から吹き上がる。


 かなえとアウレールは、間合いを保ちながら銃撃を加えていった。
 薄手の装甲板を弾丸が貫き、剣機が身動きするたび、空いた穴から黒い腐汁が飛び散る。
(物凄い匂い。気を逸らされそう)
 それでもかなえは盾で身体を庇いながら、慎重に戦闘を続けていった。
 アウレールが敵の翼に連射をすると、1発が防御の弱い関節部に命中。
 傘の骨のような細いフレームが変形し、片方の翼がまともに開かなくなる。
(これで、飛んで逃げる訳にも行くまい!)
 だが、果たして敵の力はこんなものか? 跳ね回るばかりとは能がない。そんなものを、
(四霊剣が使うものか……?)

 旅籠の裏手。シルヴィアはアーサーに矢面を任せ、射撃を継続する。
 ヴォロンテAC47の点射で順調にダメージを与えていくが、
(こうも動きが激しいと、急所を狙って撃つのも難しいですね)
 剣機は翼を打ち振るい、何度も跳躍しながら、足の鉤爪で執拗にアーサーを狙う。
 一瞬、アーサーの後退が僅かに遅れた。剣機がのしかかろうとする。
 爪で切られることは避けたが、まともに肩を踏みつけられ、アーサーがよろめく。
 隙を逃さず、噛みつきによる攻撃――
「ちぃっ!」
 ぎりぎりで跳び退るも、長く伸びた犬歯の先端で脇腹を裂かれた。
 手裏剣を頭部に打ち込んで牽制し、もう一度下がって体勢を立て直す。
 脇腹の傷、あまり深くないと良いが、
「……出てくるタイミング、考えろや。心置きなく戦えねぇだろ」
 旅籠から完全に気を逸らすまでは、守りに徹するしかない。

 屋内へ侵入したマッシュ。厨房とダイニングを通り抜け、1階の玄関ホールへ。
 居合わせた人々がはっと振り返る。
「おっと失礼、皆さんどうかお静かに。ハンターのマッシュ・アクラシスです」
「良く来てくれた。俺たちは無事だが……」
 歩み出てきた捜査隊長の手に、マッシュがトランシーバーを握らせ、
「生き残ったのは、貴方だけ?」
「もうひとり、あいつだ」
 部下が玄関で、剣機の侵入時に備えて待機している。
「では、どちらかに手伝って頂きましょうか……いるんでしょ、彼」


 飛行能力を失った前庭側の剣機。
 ダメージ蓄積を認識したのか、突然捨て身の攻撃に打って出る。
 射撃をものともせず突進し、まずはかなえに襲いかかった。
「あっ、まずっ……!」
 かなえの盾に剣機が頭突きし、姿勢を崩したところへ更に食らいついた。
 右腕に噛みつかれ、かなえが呻く。
 服の袖を貫いて、深々と刺さった牙は象牙のように白かった。
 が、見るみる内にその色が赤く変色していく。
 腕の痛みが遠のき、代わりに強い痺れと寒気が走った。
 まるで、腕を縛られて血を止められたような――
(吸血されてる!?)

 アウレールの弾丸が、敵の頭部を横から貫通した。
 敵はかなえを解放すると、頭を振るって悲鳴を上げる。
「下がれ!」
 アウレールが前に出る。かなえは感覚を失った腕を庇いつつ後退、覚醒者の自己治癒能力で傷を回復した。
(うっ)
 感覚が徐々に戻っていく、と同時に痛みも帰ってきた。
 腕に空いた穴から血が流れ出て、魔導拳銃のグリップが滑りそうになる。
(早く、戻って、アウレールさんを助けないと!)
 もつれる手で銃を仕舞い、掌の血を拭った。


(もう少しで合流できる)
 シルヴィアは射撃の合間に振り返って、前庭の様子をうかがった。
 あちら側の敵が、街道へ離れていってしまっている。
 かなえとアウレールのダメージが心配になったが、こちらはこちらで手一杯だ。
 アーサーが決死の防御で剣機を誘引しているが、
(まだ、未知の機能があるかも知れない)
 剣機の飛び蹴りが頭上からアーサーを襲うが、
 頭部をすっぽりと覆った兜と、鍛え抜かれた首のお蔭で耐えてみせた。
「今に見ろよ、手前」

 姿の見えないグレゴールを、マッシュが捜査隊長と共に捜索する。
「この部屋だ」
 銃声と歪虚の鳴き声の合間で、隊長が物音を聞きつけた。
 1階奥の物置。ふたりで示し合わせて、一気に突入した。
 恰幅の良い金持ち風の男が、埃っぽい窓から外をうかがっている。
 その背に飛びかかろうとすると、
「っと危ない」
 男が振り向きざま、マッシュへ古い花瓶を投げつけてきた。
 パリィグローブで払い落とすが、その隙で、鍵の開いていた窓から男が飛び出した。
 男――グレゴールは一目散に森を目指す。周りには第一師団捜査隊の死体ばかり。
 全く、歪虚の襲撃は僥倖だった。森に隠れれば僅かでもチャンスがある――

「残念であったな」
 後ろから襟を掴まれ、転がされた。訳の分からぬまま縄で巻かれ、猿ぐつわを噛まされる。
 待ち構えていたダリオだった。
「これで、後顧の憂いも断たれただろうか?」
「ありがとうございます」
 縛り上げたグレゴールを捜査隊長に引き渡すと、
「我々も加勢に向かうとしよう」
「何か異変があれば、すぐ連絡を」
 マッシュとダリオは駆け足で、仲間たちの応援に向かう。


 前庭側の剣機が顎を開き、霧状の『何か』を吐いた。
 青い霞が、かなえとアウレールの眼前にかかる。
 負傷で呼吸の荒くなっていたかなえは、ほんの一瞬、その霞を吸い込んでしまう。
 口中が血生臭い味を感じてむせ返る。途端、喉が焼けるように痛んだ。
「榎本殿――」
 剣機の口腔から、飛び切らなかった青い液体が滴っている。
 アウレールには見覚えのある色と臭気。
(剣妃オルクスの血と同じ……!)
 建物の角を曲がって、アーサーが後ろ向きのまま前庭へ転がり込んできた。
 その後を追って、もう1体の剣機が躍り出る。
「合流……させたぜ!」
 アーサーが得物を狼牙棒に持ち替え、接近戦にかかろうとするが、
「待て!」
 踏込の寸前、アウレールが叫んだ。
 ほぼ同時に剣機が毒霧を噴射、アーサーは咄嗟に腕で口元を覆う。
「こいつら毒を吐く! 剣妃の血を……」

「成る程。こやつらにも『訊く』べきことがありそうか」
 ダリオ、そしてマッシュも拳銃を手に、裏手から加勢に現れた。
 グレゴールは無事捕まったようだ。なれば後は、
「皇帝陛下の為に!」
 アウレールがククリナイフを抜いた。
 目前の剣機は翼を折られ、逃げることはできない。
 毒霧という隠し玉を使ってきた辺り、敵も死に物狂いと見た。アーサーが、
「鉤爪と噛みつき、それに毒霧。こいつらの武器はそれっ切りだ。鎧も厚くねぇ……どうとでもなる」
 かなえも激しく咳き込みながら、
「ここが正念場です!  頑張りましょう!」
 まだ戦意を失ってはいない。依頼完遂を目指し、一気に畳みかける。


 ダリオとかなえが走りながら拳銃を撃ち、1体目の剣機の気を逸らす。
 アウレールは彼らとタイミングを合わせ、敵に背後から接近した。
 ククリを振り上げ、踏込からの渾身の一撃――
 敵は闘牛のように激しく頭を振り立て、その場で反転する。
 アウレールが片腕で身を守れば、反射的に食いついてきた。
 牙が深く突き刺さる。だが、この状態であれば相手も逃げようがない。
 敵の喉元へ、ククリの刃を叩き込んだ。

 アーサーも、2体目の剣機へ狼牙棒を振り下ろす。
 頭をまともに殴られて、初めて敵が怯んだ。
 翼をばたつかせて後ろへ跳ぶと、後ろ足をぐっと曲げて低く姿勢を取る。
「逃げる気です!」
 シルヴィアが叫ぶが早いか、敵は高く跳躍して、そのまま空中へ逃れようとした。
 その足を、アーサーが狼牙棒を捨てて下から捕まえた。
 思い切り引っ張れば、敵は地面へうつ伏せに叩きつけられる。
 シルヴィアの銃撃で翼の皮膜に穴が空き、アーサーひとりをぶら下げて飛び立つ力もなかったようだ。
 アーサーが足を押さえている間に、マッシュとシルヴィアが頭部を銃撃する。
 装甲の破片と腐汁が飛び散り、頭を砕かれた剣機は身動きを止めた。

 アウレールは腕を噛みつかせたまま、ククリで敵の首を抉っていく。
 傷口からは腐敗した体液と、剣妃の血が吹き出して、凄まじい悪臭が立ち昇った。
 剣機は足で地面を掻き、身体を揺すって相手を引き倒そうとするが、ダリオとかなえが翼を掴んで動きを抑える。
 やがて、アウレールはククリの刃先に何かを断ち切ったような手応えを感じた。
 その途端に剣機が力を失い、どさ、と地面に倒れる。
「仕留めたか」
 ダリオが剣機の口内に手を差し入れ、顎を開かせアウレールを解放する。
 腕に深手を負ったアウレールが失血でふらつくのを、アーサーが駆けつけて抱きとめ、
「マッシュ、家の中を頼む。生き残りの連中と、例のヴルツァライヒの野郎を運び出すんだ」


 周囲に歪虚が残っていないことを確かめると、マッシュが旅籠の中から人々を連れ出した。
 グレゴールも後ろ手に縛られ、捜査隊長に捕まったまま歩かされる。ダリオが、
「全く、貴公の企みには、それがしもいささか手間を取らされたものだ……グレゴール・クロル殿」
 ダリオはこれまで2度の依頼で帝都のヴルツァライヒを追い、グレゴールの部下であるヨハン捕縛にも関わった。
「旧き帝国の再興が目的か?
 手段は違えど、それがしも似たような夢を抱いておるが故。興味がある、お聞かせ願えまいか」

「……間違いは正されなければならん。僭主ヴィルヘルミナを廃し、正しき者の手に玉座を返さねば」
「しかし、その手立てがビラ貼り程度ではな」
「あれは使い走りの仕事だ。貴様らが思うより、我々は広く、深く、この帝国に根づいている。
 私如きを捕まえて何の手柄になろうか!? 私など……あのお方にとっては一兵卒に過ぎんよ」
「あのお方、とは」
 グレゴールは口をつぐんだ。話題を変える。
「剣機を操るとはな。成る程、大した力を持つ組織のようだ」
「何を言ってる? 私は歪虚などと手を組んではおらん!
 貴様ら偽皇帝の走狗が、歪虚どもに食われることには何ら反対せんが」
 捜査隊長が、グレゴールの首筋を強く掴んで黙らせた。傍で見ていたマッシュが肩をすぼめる。
「こちらも怪我人がいますし、この男のことは第一師団へお任せしましょう。
 追々分かってくることもあるでしょうしね」
「では、最後にひとつ。歪虚の襲撃に何か予兆はあっただろうか?」
 ダリオが捜査隊員や旅籠の人間に尋ねるが、手がかりはなかった。
(あのようなものが、普段からそこいらを飛び回っているとは……考えたくないが)

「『Vampire Maschine』。吸血機、とでも呼んだものでしょうか」
 アウレールの応急手当を終えたシルヴィアが、剣機の金属部品から型番らしき刻印を発見する。
「連番ですね。新たな剣機の量産機、でしょうか。
 後肢や翼の形状からは、量産型リンドヴルムとの共通点もうかがえます」
「剣機って、帝国を何度も襲ってる機械仕掛けの歪虚、でしたっけ?」
 かなえは胸を押さえて座り込んでいる。毒霧の症状は治まってきたが、まだ顔色が優れない。
「けどよ、新型っつっても大したこたねぇな。6人――最初は4人でも、2匹を相手できたんだしよ。
 同じのが10匹や100匹、出てきたらどうか知らねぇけどな」
 アーサーが、装甲の残骸を蹴り飛ばす。
 かなえと並んで座っていたアウレールは、装甲にこびりついたままの青い毒液をじっと見つめる。
「……何匹でも、何度でも倒すまでだ。帝国が宿敵は我が怨敵でもある」
 血だらけの片腕に力を込める。例えこれ以上の傷を、痛みを受けようと、
「決して退きはせん」

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531

重体一覧

参加者一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 帝国の猟犬
    ダリオ・パステリ(ka2363
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 電脳シューター
    榎本 かなえ(ka3567
    人間(蒼)|13才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アーサー・ホーガン(ka0471
人間(リアルブルー)|27才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/03/27 11:42:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/23 06:37:59