ゲスト
(ka0000)
【偽夜】神狩り(カミガカリ)
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/08 09:00
- 完成日
- 2015/04/16 01:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「やぁ、退屈ですね」
青空が広がるのどかな街並みを見下ろして、灰色の騎士はにこやかにほほ笑み、城主エカテリーナに声をかけた。
城主エカテリーナは大戦争の前からの知り合いだ。若くしてあらゆる知識を手に入れることに成功し、世の中を裏から操ることにかけては父をも上回るかもしれないと噂される程であった。
そんな彼女がせっかく、波乱を楽しめると思って成り上がり、城主を追い出したというのに世の中は大悪魔の軍勢を打ち払って以後、すっかりのどかになってしまい、胸躍るような戦いも、権謀術数の陰謀劇も無くなってしまった。
きっと退屈で死んでいるんじゃないかと、陰謀仲間の同僚を見舞に来たのであったが、あいにくながらエカテリーナは至っていつもと変わりなかった。
「あら、騎士様。御機嫌よう」
縦に巻いた豊かな茶の髪を揺らして、エカテリーナは丁寧に挨拶をした。その周りには膨大な書物が塔のように積み上げられ、また大きな羊皮紙には複雑な術式が描かれているところを見る限り、彼女は何か面白いことを考えているようだった。
「これはまた難解なお仕事のご様子ですね。召喚魔法陣でズゥンビの群れでも呼び出すんですか?」
「それはとうの昔にやりましたわ。うふふ、私も貴方様と同じですわ。退屈で退屈で……運命の女神を恨んでいたところですの」
エカテリーナはそう言うと、北からやってきた古い書物の挿絵を開けて見せた。そこには大木の根にかしずく三人の機織り女の絵が描いてあった。
「これが運命の女神。魂の罪業を書き留めるウルド。そしてそれを大いなる父に伝えるスクルド。そこから新たなる運命を導き出すヴェルダンディ。この3人の女神が主神、大いなる父に仕え、人間の運命を司る3女神と言われていますの」
エカテリーナがこのように事細かに説明するのは、彼女が知識をひらけかすのが好きだからではない。
灰色の騎士ははにかんだ笑みを浮かべた。
彼女がそう説明するのは。片棒を担がせようとしている時だ。
「私、一度この女神様にお会いしようと思いますの」
「なるほど。神の知恵、人の運命すら手に入れようと?」
灰色の騎士の言葉にエカテリーナは上品かつ淑やかな微笑みを浮かべた。
「そんな業突く張りに見えるかしら? 女神様はほら、私達人間など些末なものとお考えになっているでしょう? だから人間の気持ちを少し理解する機会を作れないかしら、と思っておりますの?」
身体的事情から望んだ物を取り上げられる人。
人に期待をかけられて、大義の為に外道に染まった人。
最愛の人のために狂気に陥った人。
差別を受け満足に食べることすら叶わない子供。
自然を壊されたことに反論するも封殺された賢人。
望まぬ巨大な力に振り回された少女。
望みながらも才能を認められず夢を見続けたまま落ちぶれる娘。
「そんな世の中の痛みを少しでも女神様に知ってもらえたら……とね」
「でもその魔法陣は召喚術式ですよね? なんの関係が?」
灰色の騎士は魔法には詳しくはなかったが、それでも長年の経験で、エカテリーナが作っていた魔法陣がどういったものであるか、ある程度は判別できた。詳しいことは全く分からないが。
「そう。女神様をここにお呼びいたしますの。依代となる石像をお作りいたしましてね、その分魂(ワケミタマ)を漂着させますの。魂の一部でもここにあれば、私たちの言葉を受け取ってくださいますでしょう?」
灰色の騎士は、ははぁと唸った。
彼女は3柱の女神のどれかを石像に下ろそうというのだ。神下ろしなど異国の霊媒師などがやる技だが、それを彼女は自分の魔術知識と技術でやってしまおうというのだろう。
「狙いはどの女神様で?」
「ウルド様ですわ。過去をご存知の女神様ですもの。一番人間のことをよくご存じだと思いますの」
「神罰は怖そうですよー。文字通り神様に因縁つける訳ですからね。ソドムとゴモラじゃ済まないかもしれませんよ」
「うふふ、その時は……ね?」
エカテリーナは困ったように微笑んだ。淑女の穏やかな微笑みが「皆まで言わせるな」と言っていた。
灰色の騎士は、自分に何を求められているのかようやく理解した。
『神狩り』になれ、というのだ。
エカテリーナの魔術は並ぶ物がなきほどの腕前だ。城主の座についてそれを補佐する道具や触媒も数多手に入れられるようになった。女神がどれほどの神力をもっているのかわからないが、少なくとも降神することに成功したら、もう女神と言えども逃げ場はないだろう。
「恐ろしいこと考えますね。ははは、世界の大罪人ですよ」
しかし、一人では手に余るだろう。
灰色の騎士はしばらく考え、ああ、それなら。と提案した。
「この世には古龍をも屠った者や、大悪魔を退けた者、異世界を旅した人間などいますね。彼らにもこの業を手伝ってもらいますか? 神狩りの名をかけて」
「あら、素敵!」
エカテリーナは口の前で、手をぽんと合わせて大いに喜んだ。その眼の輝きはまるで少女のようだ。
「それじゃお願いしますわね」
神狩りヲ求ム。
それは様々なネットワークを通じて各地を冒険する者たちへと伝えられた。
運命と抗う戦いが始まろうとしている。
青空が広がるのどかな街並みを見下ろして、灰色の騎士はにこやかにほほ笑み、城主エカテリーナに声をかけた。
城主エカテリーナは大戦争の前からの知り合いだ。若くしてあらゆる知識を手に入れることに成功し、世の中を裏から操ることにかけては父をも上回るかもしれないと噂される程であった。
そんな彼女がせっかく、波乱を楽しめると思って成り上がり、城主を追い出したというのに世の中は大悪魔の軍勢を打ち払って以後、すっかりのどかになってしまい、胸躍るような戦いも、権謀術数の陰謀劇も無くなってしまった。
きっと退屈で死んでいるんじゃないかと、陰謀仲間の同僚を見舞に来たのであったが、あいにくながらエカテリーナは至っていつもと変わりなかった。
「あら、騎士様。御機嫌よう」
縦に巻いた豊かな茶の髪を揺らして、エカテリーナは丁寧に挨拶をした。その周りには膨大な書物が塔のように積み上げられ、また大きな羊皮紙には複雑な術式が描かれているところを見る限り、彼女は何か面白いことを考えているようだった。
「これはまた難解なお仕事のご様子ですね。召喚魔法陣でズゥンビの群れでも呼び出すんですか?」
「それはとうの昔にやりましたわ。うふふ、私も貴方様と同じですわ。退屈で退屈で……運命の女神を恨んでいたところですの」
エカテリーナはそう言うと、北からやってきた古い書物の挿絵を開けて見せた。そこには大木の根にかしずく三人の機織り女の絵が描いてあった。
「これが運命の女神。魂の罪業を書き留めるウルド。そしてそれを大いなる父に伝えるスクルド。そこから新たなる運命を導き出すヴェルダンディ。この3人の女神が主神、大いなる父に仕え、人間の運命を司る3女神と言われていますの」
エカテリーナがこのように事細かに説明するのは、彼女が知識をひらけかすのが好きだからではない。
灰色の騎士ははにかんだ笑みを浮かべた。
彼女がそう説明するのは。片棒を担がせようとしている時だ。
「私、一度この女神様にお会いしようと思いますの」
「なるほど。神の知恵、人の運命すら手に入れようと?」
灰色の騎士の言葉にエカテリーナは上品かつ淑やかな微笑みを浮かべた。
「そんな業突く張りに見えるかしら? 女神様はほら、私達人間など些末なものとお考えになっているでしょう? だから人間の気持ちを少し理解する機会を作れないかしら、と思っておりますの?」
身体的事情から望んだ物を取り上げられる人。
人に期待をかけられて、大義の為に外道に染まった人。
最愛の人のために狂気に陥った人。
差別を受け満足に食べることすら叶わない子供。
自然を壊されたことに反論するも封殺された賢人。
望まぬ巨大な力に振り回された少女。
望みながらも才能を認められず夢を見続けたまま落ちぶれる娘。
「そんな世の中の痛みを少しでも女神様に知ってもらえたら……とね」
「でもその魔法陣は召喚術式ですよね? なんの関係が?」
灰色の騎士は魔法には詳しくはなかったが、それでも長年の経験で、エカテリーナが作っていた魔法陣がどういったものであるか、ある程度は判別できた。詳しいことは全く分からないが。
「そう。女神様をここにお呼びいたしますの。依代となる石像をお作りいたしましてね、その分魂(ワケミタマ)を漂着させますの。魂の一部でもここにあれば、私たちの言葉を受け取ってくださいますでしょう?」
灰色の騎士は、ははぁと唸った。
彼女は3柱の女神のどれかを石像に下ろそうというのだ。神下ろしなど異国の霊媒師などがやる技だが、それを彼女は自分の魔術知識と技術でやってしまおうというのだろう。
「狙いはどの女神様で?」
「ウルド様ですわ。過去をご存知の女神様ですもの。一番人間のことをよくご存じだと思いますの」
「神罰は怖そうですよー。文字通り神様に因縁つける訳ですからね。ソドムとゴモラじゃ済まないかもしれませんよ」
「うふふ、その時は……ね?」
エカテリーナは困ったように微笑んだ。淑女の穏やかな微笑みが「皆まで言わせるな」と言っていた。
灰色の騎士は、自分に何を求められているのかようやく理解した。
『神狩り』になれ、というのだ。
エカテリーナの魔術は並ぶ物がなきほどの腕前だ。城主の座についてそれを補佐する道具や触媒も数多手に入れられるようになった。女神がどれほどの神力をもっているのかわからないが、少なくとも降神することに成功したら、もう女神と言えども逃げ場はないだろう。
「恐ろしいこと考えますね。ははは、世界の大罪人ですよ」
しかし、一人では手に余るだろう。
灰色の騎士はしばらく考え、ああ、それなら。と提案した。
「この世には古龍をも屠った者や、大悪魔を退けた者、異世界を旅した人間などいますね。彼らにもこの業を手伝ってもらいますか? 神狩りの名をかけて」
「あら、素敵!」
エカテリーナは口の前で、手をぽんと合わせて大いに喜んだ。その眼の輝きはまるで少女のようだ。
「それじゃお願いしますわね」
神狩りヲ求ム。
それは様々なネットワークを通じて各地を冒険する者たちへと伝えられた。
運命と抗う戦いが始まろうとしている。
リプレイ本文
「来ましたね」
夜空に光が織りなす魔紋が走り月の力で周囲は満たされる中、灰色の騎士が呟いた通り、石像に光の翼が生まれた。
豊かな羽、節々には時計の文字盤が生まれ石の肌も艶めかしい白肌へと変わり、赤い瞳がすぅとひらいた。
「本当に……召喚した、のか」
ユリアン(ka1664)は渋い顔をした。神々しいその姿に慄いたわけではない。とうとう封じられた城をも飛び越えようとするエカテリーナの魔力が信じがたかった。
「咎人よ。無明の子らよ」
「咎を背負うのはどちらじゃ……運命とやらを押し付ける傲慢なる存在よ」
野暮ったい服。髪は綺麗ではあるが重たるしい感じ。そんな垂れた前髪の向こうから鋭い瞳が光った。
「妾が真理を追究する存在である記憶を呼び覚ましたのは齢14。だが、人は憐憫の瞳しか向けぬ。嘲笑、陰口。嫌がらせ……人は弱い物を餌食にして、自分の存在を確かめ、悦楽に入る。運命を定める者よ。おぬしは何故人にこのような業を作り出したのだ」
神殿の崩れた大理石の塵が巻き上がり、娘を竜巻のように襲い掛かった。
その風の作り手は風の中心に立つ者クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。風の中で彼女は魔女としての姿を顕にしていく。
「人は勝手に作り上げる。貶める対象、祀り上げる対象。本人の意向など聞きいれもしない」
竜巻が勢いを増すにつれ、風の中に雷光が迸った。作り出したのは刀を手にした巫女マリエル(ka0116)だ。憎悪の瞳をウルドに向ける。
「求めてはいけないというのですか? 人と同じ幸せを、自由を……私は、何のために」
「人を羨み、人を憎み。同じ? この世に一人として同じ運命を持つ命などあらぬ」
二人の憎しみを受けてもウルドはまるで動じた様子などなく、手にしていた本を開いた。途端に、空に輝く魔紋の帯に何百、何千の人の日常がまるで蒔絵のように浮かぶ。運命の女神が紡ぐ人生という名の織物。
「無知、驕慢、憎悪を抱くのはその祖が力を追い求めた結果。お前たちの中にも、その種はあろう」
虚勢を張るクラリッサの顔が紡がれた。同時に、おぬし共に何が解る。という声も響いた。
相談をするマリエルの顔が織り立される。相談相手の心の片隅にまた違った悩みがある様子が影に映る。
誰もが心に闇を抱える。魔紋に映った絵にすれ違いと懊悩と悲嘆が映し出された。
「どうして……神様は平穏をお与えにならないのですか? 私達が何をしたと……」
映し出される阿鼻叫喚にエストレーラ(ka1611)がぽつりと呟いた。
なぜ生きているのだろうか。どうして死なせてくれなかったのか。そう思うときすらある。
「人は関わり合って生きる。怯懦、嫉妬も元を返せば」
人の心が空腹に我を忘れみるみると歪んでいく。虫や獣も殺し生きるために血眼になっている。
心の歪みが、魔物を生み出す。
この世界は光に満ちる一方、偏りによって闇もまた満ちる。色の偏りを平均化するように、闇はずるずると光を飲み込んでいく。その光の中に自分の故郷が……
「生まれ持って人は苦しむものなの……? それが運命?」
ひどい話ね。エストレーラはそう呟いて人間の醜さを見つめた。
ユリアンは憤った。異世界の扉を開き旅して、望まれて生を受けたという自覚はある。なのに。神はそれを否定するのか?
「独善的。一人の我が侭が他を潰した好例よな」
分かり合えない。
ユリアンがそう感じた瞬間だった。
ウルドが手にしていた本が開かれた。その1ページが浮き上がる。途端にそれは緑色のブヨブヨとした塊になり、ユリアンに襲い掛かる。
「腐食せよ」
と、それに合わせてクローディオ・シャール(ka0030)が走り、緑の塊、巨大な黴を一刀両断に伏した。
「白騎士団の一人として、仲間を傷つけさせたりしない。相手が神であっても。我々を断罪すると言うのなら、私はそれに抗ってみせよう!」
「笑止!」
ウルドの翼が大きく開いた。
決戦が始まる。
●
「神と戦えるなんてなんたる好機っ」
ミィリア(ka2689)は桜紋の大太刀を引き抜くと、脱兎のごとくウルドに向かった。
ウルドはそうはさせまいと符をいくつも周辺に浮かべる。
「燃え尽きよ」
符が矢のように飛びかかる。ミィリアの高速の踏み込みに襲い掛かるそれはまさしく神速だった。符が炎に、氷に、旋風に、嘆きに変わる。
それを緩急つけた動きで炎を躱し、氷を踏みつけ、風を利用して飛び上がり嘆きを越えていく。
「どこまで行けるか……なっと!」
冷酷な瞳で見上げるウルドを見下ろし、ミィリアはぞくぞくとした。一部とはいえ神にその力を試せるという嬉しさが何よりも勝る。
「夢見草流、一の太刀……花嵐」
真上から一気に切りかかり、着地と同時に刃を返し、符帳を持つ籠手を狙う。
神様とはさてどう戦うのか……? そんな様子見の気持ちもこめながら、ミィリアはウルドの瞳から目を離さない。
「危ないっ」
ステラ(ka4327)が鋭く叫ぶと、ジャマダハルを天空に向かって投げつけた。途端にいくつもの雷光がジャマダハルに集中し、夜空で派手にスパークした。それと同時に消し炭になった符がバラバラと落ちてくる。ミィリアも雷轟にたたらを踏んだ今、さすがにそんな状況ではウルドに攻め込めない。
「神はヒトを愛したり……しないのですか?」
「あれが人間愛を是する顔に見えますか?」
ステラの小さな問いかけにリリティア・オルベール(ka3054)はゆっくり剣を引き抜いて答えた。
懐に飛び込んだミィリアに時計仕掛けの羽が刃となって畳みかけるウルドに近づいていく。
「あの手の輩は細かいことなどどうでもいい。望んだように踊っているかどうかだけが大切なんです」
所詮そんなものだ。リリティアは目つきを鋭くして、剣を一閃し翼が寸断した。
「運命は……神のためにあるわけでは、ありませんから」
「自分で開拓しているとでも?」
空に浮かぶ魔紋の光景が歪み、群像劇が集約されて背景が固定される。
見たくもない。だが、どうしても飛び込んでくるそれにリリティアは眉をしかめた。
祖父の姿が映る。剣を取る自分の姿も。
「過去も、そこからの成長も、すべてお見通し、というわけですか……?」
「無論。見通せぬのものは未来のみ」
「だが、神と言えどもその体の構成は人間のそれと同じの様だな? 見えぬものもありそうだ」
リリティアの斬撃に合わせて、側面に回ったクローディオが懐に飛び込む。
「死角……? 小賢しい知恵」
翼が大きくはためいた。まずい、飛翔される。
「そのまま、言葉を返してやろう」
クラリッサが天に手を突きだすと同時に、朽ちた石造り神殿をもゆるがす強風が空を支配した。
「空の息吹、海の胎動。我が掌中に世界の流動を記せっ。神風っ!!!」
開いた翼で風をまともに受けたらさすがに態勢を維持できない。羽ばたく翼で自らを囲うようにしてなんとか制止に耐える。
殻に閉じこもるような姿勢のウルドを見て、怒り狂う暴風の中でエストレーラはゆっくりと息を吐き出した。吐息に小さな光の粒子が混ざる。いや冷気が。
「御身が大切ですか……?」
空に映された映像が白く曇る。周囲の水分が集結し、凝縮されて霧へと変貌していくのだ。
「自分自身、それよりも大切なもの目の前で壊されていく絶望を……貴方は知っているのでしょう? それも結局、他人事なのですね」
霧がクラリッサの風の力を受けてウルドの上空で集結する。
クリスタルのような結晶が。美しく無慈悲な楔が。
「討ちます。この命に代えても」
……落ちた。
氷塵がウルドの神光に反射して宝石のような輝きを生み出す。
だが間近に控えていた3人はウルドには致命傷を与えていないことを確認していた。羽は光り輝き失われていったが、翼の全てが消えたわけでもない。
「二の太刀っ!」
ミィリアが翼の間を狙い定めて切りかかった。その上を一段跳躍して同時にリリティアが突撃する。
「華々しく散……」
!!
「危ないっ!!」
クローディアがとっさに飛び出した。だが、踏み込みの方が早い。
踏み込みよりも、ウルドが翼の中で蓄えていた魔力を解放する方が早かった。
「焦熱!」
エストレーラの作り出した氷塵が一瞬で雲散霧消すると同時に、暴風に載せて黒い炎が渦を巻いて広がった。
クラリッサは目を見開き、風の渦の方向を切り替え炎を蹴散らした。それでも風を越えて熱が身に伝わってくる。
「これが……神の業火」
苦心して習得した風をもやすやすと超えてくる。人間を容赦なく飲み込む力。歴然たる差にクラリッサは奥歯をかみしめた。
「ステラ。一緒に来てくれ!」
「は、はい。主様、ごめんなさい……」
ウルドの強さに引けたわけではないが、慈悲の欠片もないウルドの攻撃にはさすがに無事では済まないだろう。主に黙って出てきたのに、大怪我をすることになったら、もしくは帰ってこれなかったらどうしようか。そんな考えがちらりと浮かぶ。
「風の精霊よ。俺に力を貸してくれ……っ」
ユリアンがひとたび念じると、炎を打ち払ったクラリッサの風がユリアンの傍に集まった。
「行くぞっ」
魔紋の空が変わった。ユリアンの妹が映る。だぶるようにして母親。そして父親……姿がぶれる。
過去が改竄されて失れていく。過去の女神が歴史を正していく。
「やめろーーーーっ!!」
風を纏ったユリアンは絶叫して駆けた。自分が消えてなくなるのは覚悟の上だが、家族や過去まで消されるなんて。
「天津風よっ!」
滝が遡るような激風がウルドを下から持ち上げた。ウルドが手にした符も空中で耐えきれず四散していく。
「そこでしばらく大人しくしていてください……」
先ほど雷撃を受け止めたジャマダハルを影に打ち込み、ステラが印を結ぶ。
闇の影が伸びた。影はそのままコウモリとなって飛び交い、浮き上がったウルドに鎖と化けてしばりつけた。
その間にユリアンが別の風をまとわせ、倒れ伏した三人に癒しと守りの風を纏わせる。
一条、また一条と増やし続ける中、ユリアンが飛びかかった。軽くてもいい。百でも千でも細切れになるまで削り飛ばしてやる。
が、黒い塊から衝撃が走り、ユリアンはあっという間に吹き飛ばされた。
同時にぶつん。と頭の中で増え続けたノイズが何かを飲み込んだ。ここに来た使命が……思い出せない。
飛ばされ歪む景色の中で、ユリアンは灰色の騎士をちらりと見て、口元に微かな笑みを浮かべた。
「そうだ、戦いたい相手がいたんだった」
ユリアンは体をねじってそのまま灰色の騎士に突っ込んだ。
「なんでこんな事しようと思ったんだ?」
「平和ボケが嫌いなだけです」
「……そうか。俺は一緒に食事でもしたかったんだけ、ど な」
ユリアンの身体にノイズが入り、やがて掻き消えた。
一方で、ステラの影縛りは徐々に崩れ始めていた。
「もう、もぅ限界です」
「十分持たせてくれた。感謝する」
ステラも無事ではなかった。ウルドを抑え込むために集中する中、大事な何かが削られているのには気づいていた。もう大切な人の顔すら思い出せない。
脂汗がにじみ出るステラに、クローディオが声をかけた。クローディオのヒールはなんとか己と二人の女の命を救ったが、全快には程遠かった。醜く灼けた肌が痛々しい。
ステラは涙の浮かべた顔をウルドに向けて言った。失った物と同時にアイデンティティも崩壊していくのを感じながら。
「何故、愛したものを殺せるのですか? 無きものにできるのですか?」
「愛とは、平和とは、絆とは。そんなものが特別なモノと思ふな」
影の鎖が引きちぎれた。ウルドを縛っていた鎖には代わりに符が嫌というほど張り付いていた。
ステラの最後の光が目から奪われる直前に、符が放つ電撃が鎖の上を走った。
「生物が快楽と生存のために作り出した力の集合体。愛も平和も絆も。力がなければ存在せぬと同じ。力。力。力ある者のみ主は認める」
「それが神の答えか。期待などしていなかったが、失望の極みだ」
クローディオはそう吐き捨てた。光がクローディオを中心に取り囲む。
「力、ふふん、いい言葉じゃ! では妾の力でその壊れた頭も直してやろうぞ。さすれば人間のいくつかもまともになるじゃろうてな!」
仲間の最期を看取ったクラリッサは強く見開いた。こんな存在をのさばらせては愚民は虚栄を求め人を傷つける。
「優しき風の加護、静かなる風の息吹。大いなる風の精霊の名に従いこの地へと集え……!」
巨大な竜巻がクラリッサを中心に巻き起こった。誰も経つことすら叶わぬ猛威。ウルドはまったく身動きすらできない風の檻に閉じ込めた。
吹き飛ばされないよう身を守りながらウルドは光をクラリッサに浴びせかけた。風をコントロールしていた指が、手が、消し飛んだ。それでも集中は切らさない。
「その程度で……やったと思うな」
もう一撃。それは光と氷の盾に反射されて弾ける。無数の氷に囲まれる中、エストレーラは悲しい目をしていた。
「もうたくさんです」
回復したリリティアが舞う氷塊の上を飛びウルドより高く飛んだ。
「龍殺しの秘儀……受けなさい」
そのまま、紅き一閃。
ウルドの符帳を手にしていた腕が、髪が、翼が、紅く染まり神気と血がバラバラの方向に噴き出した。
それでも尚、ウルドは動く。残った腕を伸ばせば衝撃波となって襲い掛かり、リリティアを地面に叩き落とした。続いて控えていたミィリアも……。
落ちない。
衝撃がクローディオの守りの光によって緩和される中、ミィリアが走った。
「華は咲けば、後は散るのみ……奥義……散華一閃!!」
渾身の一撃。
血しぶきが、放出の止まらなかった神気が粉々に散っていった。
なのに。なのに。生きてる。刃を腹にうずめたまま。
ウルドからほのかな温かさを感じるほどの距離でミィリアは止まっていた。細切れの符を一枚……頭を撫でるようにして、貼り付けられた。
マリエルが叫んだが間に合わない。ミィリアが、消えた。
「疑似接続開始……」
憎悪に燃えた瞳を向けてマリエルは呟いた。ひたすら溜めていたエネルギーを全変換する。
「加護、トール」
みんな生きてる。必死に生きてる。
涙で視界が歪む。血の涙で赤く染まる。
「消えよ……運命に逆らう大罪人よ」
誰かのレールになるためじゃない。
幸せになるために。全力で、命を懸けて。
生きてるんだっ。
閃光が魔紋の結界の上から落ちた。片翼の女神に埋めたままの刀に向かって。
「トール……ハンマーーぁァっ!!!」
閃光が膨れ上がり、天と地をつなぐ光の柱になる。
直視すらできない光の中で、ウルドは口を開いた。轟音の中では言葉も聞こえぬ。だが、唇は確かに語っていた。
かむとけの巫女。と。
神解。天雷の意味もあろうが、もう一つの意味は残っている人間には十分理解できた。
神の運命の織物を解いた者よ……幸あれと。
夜空に光が織りなす魔紋が走り月の力で周囲は満たされる中、灰色の騎士が呟いた通り、石像に光の翼が生まれた。
豊かな羽、節々には時計の文字盤が生まれ石の肌も艶めかしい白肌へと変わり、赤い瞳がすぅとひらいた。
「本当に……召喚した、のか」
ユリアン(ka1664)は渋い顔をした。神々しいその姿に慄いたわけではない。とうとう封じられた城をも飛び越えようとするエカテリーナの魔力が信じがたかった。
「咎人よ。無明の子らよ」
「咎を背負うのはどちらじゃ……運命とやらを押し付ける傲慢なる存在よ」
野暮ったい服。髪は綺麗ではあるが重たるしい感じ。そんな垂れた前髪の向こうから鋭い瞳が光った。
「妾が真理を追究する存在である記憶を呼び覚ましたのは齢14。だが、人は憐憫の瞳しか向けぬ。嘲笑、陰口。嫌がらせ……人は弱い物を餌食にして、自分の存在を確かめ、悦楽に入る。運命を定める者よ。おぬしは何故人にこのような業を作り出したのだ」
神殿の崩れた大理石の塵が巻き上がり、娘を竜巻のように襲い掛かった。
その風の作り手は風の中心に立つ者クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。風の中で彼女は魔女としての姿を顕にしていく。
「人は勝手に作り上げる。貶める対象、祀り上げる対象。本人の意向など聞きいれもしない」
竜巻が勢いを増すにつれ、風の中に雷光が迸った。作り出したのは刀を手にした巫女マリエル(ka0116)だ。憎悪の瞳をウルドに向ける。
「求めてはいけないというのですか? 人と同じ幸せを、自由を……私は、何のために」
「人を羨み、人を憎み。同じ? この世に一人として同じ運命を持つ命などあらぬ」
二人の憎しみを受けてもウルドはまるで動じた様子などなく、手にしていた本を開いた。途端に、空に輝く魔紋の帯に何百、何千の人の日常がまるで蒔絵のように浮かぶ。運命の女神が紡ぐ人生という名の織物。
「無知、驕慢、憎悪を抱くのはその祖が力を追い求めた結果。お前たちの中にも、その種はあろう」
虚勢を張るクラリッサの顔が紡がれた。同時に、おぬし共に何が解る。という声も響いた。
相談をするマリエルの顔が織り立される。相談相手の心の片隅にまた違った悩みがある様子が影に映る。
誰もが心に闇を抱える。魔紋に映った絵にすれ違いと懊悩と悲嘆が映し出された。
「どうして……神様は平穏をお与えにならないのですか? 私達が何をしたと……」
映し出される阿鼻叫喚にエストレーラ(ka1611)がぽつりと呟いた。
なぜ生きているのだろうか。どうして死なせてくれなかったのか。そう思うときすらある。
「人は関わり合って生きる。怯懦、嫉妬も元を返せば」
人の心が空腹に我を忘れみるみると歪んでいく。虫や獣も殺し生きるために血眼になっている。
心の歪みが、魔物を生み出す。
この世界は光に満ちる一方、偏りによって闇もまた満ちる。色の偏りを平均化するように、闇はずるずると光を飲み込んでいく。その光の中に自分の故郷が……
「生まれ持って人は苦しむものなの……? それが運命?」
ひどい話ね。エストレーラはそう呟いて人間の醜さを見つめた。
ユリアンは憤った。異世界の扉を開き旅して、望まれて生を受けたという自覚はある。なのに。神はそれを否定するのか?
「独善的。一人の我が侭が他を潰した好例よな」
分かり合えない。
ユリアンがそう感じた瞬間だった。
ウルドが手にしていた本が開かれた。その1ページが浮き上がる。途端にそれは緑色のブヨブヨとした塊になり、ユリアンに襲い掛かる。
「腐食せよ」
と、それに合わせてクローディオ・シャール(ka0030)が走り、緑の塊、巨大な黴を一刀両断に伏した。
「白騎士団の一人として、仲間を傷つけさせたりしない。相手が神であっても。我々を断罪すると言うのなら、私はそれに抗ってみせよう!」
「笑止!」
ウルドの翼が大きく開いた。
決戦が始まる。
●
「神と戦えるなんてなんたる好機っ」
ミィリア(ka2689)は桜紋の大太刀を引き抜くと、脱兎のごとくウルドに向かった。
ウルドはそうはさせまいと符をいくつも周辺に浮かべる。
「燃え尽きよ」
符が矢のように飛びかかる。ミィリアの高速の踏み込みに襲い掛かるそれはまさしく神速だった。符が炎に、氷に、旋風に、嘆きに変わる。
それを緩急つけた動きで炎を躱し、氷を踏みつけ、風を利用して飛び上がり嘆きを越えていく。
「どこまで行けるか……なっと!」
冷酷な瞳で見上げるウルドを見下ろし、ミィリアはぞくぞくとした。一部とはいえ神にその力を試せるという嬉しさが何よりも勝る。
「夢見草流、一の太刀……花嵐」
真上から一気に切りかかり、着地と同時に刃を返し、符帳を持つ籠手を狙う。
神様とはさてどう戦うのか……? そんな様子見の気持ちもこめながら、ミィリアはウルドの瞳から目を離さない。
「危ないっ」
ステラ(ka4327)が鋭く叫ぶと、ジャマダハルを天空に向かって投げつけた。途端にいくつもの雷光がジャマダハルに集中し、夜空で派手にスパークした。それと同時に消し炭になった符がバラバラと落ちてくる。ミィリアも雷轟にたたらを踏んだ今、さすがにそんな状況ではウルドに攻め込めない。
「神はヒトを愛したり……しないのですか?」
「あれが人間愛を是する顔に見えますか?」
ステラの小さな問いかけにリリティア・オルベール(ka3054)はゆっくり剣を引き抜いて答えた。
懐に飛び込んだミィリアに時計仕掛けの羽が刃となって畳みかけるウルドに近づいていく。
「あの手の輩は細かいことなどどうでもいい。望んだように踊っているかどうかだけが大切なんです」
所詮そんなものだ。リリティアは目つきを鋭くして、剣を一閃し翼が寸断した。
「運命は……神のためにあるわけでは、ありませんから」
「自分で開拓しているとでも?」
空に浮かぶ魔紋の光景が歪み、群像劇が集約されて背景が固定される。
見たくもない。だが、どうしても飛び込んでくるそれにリリティアは眉をしかめた。
祖父の姿が映る。剣を取る自分の姿も。
「過去も、そこからの成長も、すべてお見通し、というわけですか……?」
「無論。見通せぬのものは未来のみ」
「だが、神と言えどもその体の構成は人間のそれと同じの様だな? 見えぬものもありそうだ」
リリティアの斬撃に合わせて、側面に回ったクローディオが懐に飛び込む。
「死角……? 小賢しい知恵」
翼が大きくはためいた。まずい、飛翔される。
「そのまま、言葉を返してやろう」
クラリッサが天に手を突きだすと同時に、朽ちた石造り神殿をもゆるがす強風が空を支配した。
「空の息吹、海の胎動。我が掌中に世界の流動を記せっ。神風っ!!!」
開いた翼で風をまともに受けたらさすがに態勢を維持できない。羽ばたく翼で自らを囲うようにしてなんとか制止に耐える。
殻に閉じこもるような姿勢のウルドを見て、怒り狂う暴風の中でエストレーラはゆっくりと息を吐き出した。吐息に小さな光の粒子が混ざる。いや冷気が。
「御身が大切ですか……?」
空に映された映像が白く曇る。周囲の水分が集結し、凝縮されて霧へと変貌していくのだ。
「自分自身、それよりも大切なもの目の前で壊されていく絶望を……貴方は知っているのでしょう? それも結局、他人事なのですね」
霧がクラリッサの風の力を受けてウルドの上空で集結する。
クリスタルのような結晶が。美しく無慈悲な楔が。
「討ちます。この命に代えても」
……落ちた。
氷塵がウルドの神光に反射して宝石のような輝きを生み出す。
だが間近に控えていた3人はウルドには致命傷を与えていないことを確認していた。羽は光り輝き失われていったが、翼の全てが消えたわけでもない。
「二の太刀っ!」
ミィリアが翼の間を狙い定めて切りかかった。その上を一段跳躍して同時にリリティアが突撃する。
「華々しく散……」
!!
「危ないっ!!」
クローディアがとっさに飛び出した。だが、踏み込みの方が早い。
踏み込みよりも、ウルドが翼の中で蓄えていた魔力を解放する方が早かった。
「焦熱!」
エストレーラの作り出した氷塵が一瞬で雲散霧消すると同時に、暴風に載せて黒い炎が渦を巻いて広がった。
クラリッサは目を見開き、風の渦の方向を切り替え炎を蹴散らした。それでも風を越えて熱が身に伝わってくる。
「これが……神の業火」
苦心して習得した風をもやすやすと超えてくる。人間を容赦なく飲み込む力。歴然たる差にクラリッサは奥歯をかみしめた。
「ステラ。一緒に来てくれ!」
「は、はい。主様、ごめんなさい……」
ウルドの強さに引けたわけではないが、慈悲の欠片もないウルドの攻撃にはさすがに無事では済まないだろう。主に黙って出てきたのに、大怪我をすることになったら、もしくは帰ってこれなかったらどうしようか。そんな考えがちらりと浮かぶ。
「風の精霊よ。俺に力を貸してくれ……っ」
ユリアンがひとたび念じると、炎を打ち払ったクラリッサの風がユリアンの傍に集まった。
「行くぞっ」
魔紋の空が変わった。ユリアンの妹が映る。だぶるようにして母親。そして父親……姿がぶれる。
過去が改竄されて失れていく。過去の女神が歴史を正していく。
「やめろーーーーっ!!」
風を纏ったユリアンは絶叫して駆けた。自分が消えてなくなるのは覚悟の上だが、家族や過去まで消されるなんて。
「天津風よっ!」
滝が遡るような激風がウルドを下から持ち上げた。ウルドが手にした符も空中で耐えきれず四散していく。
「そこでしばらく大人しくしていてください……」
先ほど雷撃を受け止めたジャマダハルを影に打ち込み、ステラが印を結ぶ。
闇の影が伸びた。影はそのままコウモリとなって飛び交い、浮き上がったウルドに鎖と化けてしばりつけた。
その間にユリアンが別の風をまとわせ、倒れ伏した三人に癒しと守りの風を纏わせる。
一条、また一条と増やし続ける中、ユリアンが飛びかかった。軽くてもいい。百でも千でも細切れになるまで削り飛ばしてやる。
が、黒い塊から衝撃が走り、ユリアンはあっという間に吹き飛ばされた。
同時にぶつん。と頭の中で増え続けたノイズが何かを飲み込んだ。ここに来た使命が……思い出せない。
飛ばされ歪む景色の中で、ユリアンは灰色の騎士をちらりと見て、口元に微かな笑みを浮かべた。
「そうだ、戦いたい相手がいたんだった」
ユリアンは体をねじってそのまま灰色の騎士に突っ込んだ。
「なんでこんな事しようと思ったんだ?」
「平和ボケが嫌いなだけです」
「……そうか。俺は一緒に食事でもしたかったんだけ、ど な」
ユリアンの身体にノイズが入り、やがて掻き消えた。
一方で、ステラの影縛りは徐々に崩れ始めていた。
「もう、もぅ限界です」
「十分持たせてくれた。感謝する」
ステラも無事ではなかった。ウルドを抑え込むために集中する中、大事な何かが削られているのには気づいていた。もう大切な人の顔すら思い出せない。
脂汗がにじみ出るステラに、クローディオが声をかけた。クローディオのヒールはなんとか己と二人の女の命を救ったが、全快には程遠かった。醜く灼けた肌が痛々しい。
ステラは涙の浮かべた顔をウルドに向けて言った。失った物と同時にアイデンティティも崩壊していくのを感じながら。
「何故、愛したものを殺せるのですか? 無きものにできるのですか?」
「愛とは、平和とは、絆とは。そんなものが特別なモノと思ふな」
影の鎖が引きちぎれた。ウルドを縛っていた鎖には代わりに符が嫌というほど張り付いていた。
ステラの最後の光が目から奪われる直前に、符が放つ電撃が鎖の上を走った。
「生物が快楽と生存のために作り出した力の集合体。愛も平和も絆も。力がなければ存在せぬと同じ。力。力。力ある者のみ主は認める」
「それが神の答えか。期待などしていなかったが、失望の極みだ」
クローディオはそう吐き捨てた。光がクローディオを中心に取り囲む。
「力、ふふん、いい言葉じゃ! では妾の力でその壊れた頭も直してやろうぞ。さすれば人間のいくつかもまともになるじゃろうてな!」
仲間の最期を看取ったクラリッサは強く見開いた。こんな存在をのさばらせては愚民は虚栄を求め人を傷つける。
「優しき風の加護、静かなる風の息吹。大いなる風の精霊の名に従いこの地へと集え……!」
巨大な竜巻がクラリッサを中心に巻き起こった。誰も経つことすら叶わぬ猛威。ウルドはまったく身動きすらできない風の檻に閉じ込めた。
吹き飛ばされないよう身を守りながらウルドは光をクラリッサに浴びせかけた。風をコントロールしていた指が、手が、消し飛んだ。それでも集中は切らさない。
「その程度で……やったと思うな」
もう一撃。それは光と氷の盾に反射されて弾ける。無数の氷に囲まれる中、エストレーラは悲しい目をしていた。
「もうたくさんです」
回復したリリティアが舞う氷塊の上を飛びウルドより高く飛んだ。
「龍殺しの秘儀……受けなさい」
そのまま、紅き一閃。
ウルドの符帳を手にしていた腕が、髪が、翼が、紅く染まり神気と血がバラバラの方向に噴き出した。
それでも尚、ウルドは動く。残った腕を伸ばせば衝撃波となって襲い掛かり、リリティアを地面に叩き落とした。続いて控えていたミィリアも……。
落ちない。
衝撃がクローディオの守りの光によって緩和される中、ミィリアが走った。
「華は咲けば、後は散るのみ……奥義……散華一閃!!」
渾身の一撃。
血しぶきが、放出の止まらなかった神気が粉々に散っていった。
なのに。なのに。生きてる。刃を腹にうずめたまま。
ウルドからほのかな温かさを感じるほどの距離でミィリアは止まっていた。細切れの符を一枚……頭を撫でるようにして、貼り付けられた。
マリエルが叫んだが間に合わない。ミィリアが、消えた。
「疑似接続開始……」
憎悪に燃えた瞳を向けてマリエルは呟いた。ひたすら溜めていたエネルギーを全変換する。
「加護、トール」
みんな生きてる。必死に生きてる。
涙で視界が歪む。血の涙で赤く染まる。
「消えよ……運命に逆らう大罪人よ」
誰かのレールになるためじゃない。
幸せになるために。全力で、命を懸けて。
生きてるんだっ。
閃光が魔紋の結界の上から落ちた。片翼の女神に埋めたままの刀に向かって。
「トール……ハンマーーぁァっ!!!」
閃光が膨れ上がり、天と地をつなぐ光の柱になる。
直視すらできない光の中で、ウルドは口を開いた。轟音の中では言葉も聞こえぬ。だが、唇は確かに語っていた。
かむとけの巫女。と。
神解。天雷の意味もあろうが、もう一つの意味は残っている人間には十分理解できた。
神の運命の織物を解いた者よ……幸あれと。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 8人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/07 09:06:29 |
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作戦相談卓 リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/07 09:11:25 |