• 不動

【不動】戦場のtaboo

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/14 12:00
完成日
2015/04/20 05:59

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 見渡せば目に入るのは、むき出しの土と蹂躙された草だけ。南からはナナミ河の湿気を孕んだ風が吹き付けてくる。
 ここは辺境。
 辺境部族が苛酷な環境に負けず、昔ながらの生活を送る土地であったが、
 今は怠惰と呼ばれる巨人どもが好き勝手に暴れまわる、暴力の大地だ。

 ここはCAM実験場、通称『ホープ』より、ナナミ河をまたいで北の地点。ナナミ河撃滅戦での勝利により、人類側の領土となっている。とはいえ、重要拠点であるホープの近くでもあるこの地点が全くの無防備であるはずはなく、またマギア砦など最前線への補給線の確保の意味も兼ねて、いくつかの部隊が周辺に配置されていた。ここはそんな地点の一つだった。
 ここには主に王国騎士団とハンターで構成された部隊が天幕を張っていた。かの激戦地ナナミ河から程近かったが、今は周囲の安全は確保されていた。
 昼を少し回った頃。若い団員二人が警戒の任務に当たっていた。そこに、さらに二人の騎士がやってきた所だ。
「よう。交代だ」
「お疲れさん。平和なもんだよ」
 迎えた若い騎士たちは、簡易テーブルに腰掛けマグカップで飲み物を飲んでいた。
「そうか。敵ももう少し頑張ってもよさそうな所だな」
「おいおい……剣呑だな」
「俺は手柄をあげたいからな……」
 交代に来た騎士の一人が、笑みを作ってそう言った。大柄な体格の男だ。頭部を覆うオープンヘルムの脳天に付けられた、赤い兜飾り(クレスト)が印象的だ。
 相手が同年代で気安い間柄だったこともあって、彼は続けた。
「俺は隊の中では目立たないが……
 必ずここで手柄を立てて王都に帰り、出世するつもりだ」
「気負ってるな……故郷に女でもいるのか?」
「……まあな。帰ったら……婚約を申し込もうかと思ってる」
 聞いた方が飲み物を噴出した。
 言った方は大真面目だったのでこの反応を不思議に思ったが、興が乗ってきたので続けた。
「彼女の作るパインサラダが美味いんだ」
 聞いている二人はもはや気の毒そうな顔で彼を見つめていた。

 やがて二人の騎士が帰り、しばらくは静かな時間が続いた。

「静かなものだな……」
 口を開いたのは、やはり赤い兜飾りの件の騎士だった。
「ま、俺達もあれだけ戦ったんだ……
 こんな所には攻めてこないか。
 俺は大した手柄もあげられなかったが……」
 辺境での歪虚との戦いでは、彼も何度か参加していた。
 決して実力がないわけではないのだが、何故かこれまで活躍の機会には恵まれていなかった。
「敵を斬りたくてうずうずしてるってか。しかし……」
 もう一人の騎士の言葉は、「しかし、まともにやりあえるだけの戦力はここにはない」と続けられる予定であったがしかし、最後まで続けられることはなかった。
「おい……あれ……」
 指を指した。
 複数の黒い点が見えた――それはよく見ると人型で、もっとよく見ると武器を持っており、しばらく見ていると人間よりはるかに巨体であることがわかる。
 怠惰の歪虚――そう判断しなくてはならなかった。
「こんな所に敵襲だと?! こんな所に!」
「敵襲ー! 敵襲ーー!」
 驚愕はしたものの、流石は王国騎士団。彼等の行動は迅速だった。
 その声に応えるように、天幕の中で動きが起こった。
「『ホープ』に援軍を要請しに行く!」
「任せる。だが撃退してしまっても構わんのだろう?」
「?!」
 騎士の一人は不敵な笑みを見せ、剣を抜いた。
「念願のローレル・ラインも手に入れたんだ!」
「念願のだと?!」
「何?」
「ああいや……早まったマネはするな!
 いいか! くれぐれも『ここは俺に任せて行け』とか言い出すなよ!」
「ここは俺にまか、ハッ!?」

 騎士の一人が走り去り、連絡用の馬に跨った。

「所詮は図体ばかりでかい奴ら……器用に立ち回れば勝てる!
 ダンテ隊長だって戦いで勝って出世したんだ……俺だって!」
 剣を構え、近づいてくる敵を見据えた。
「俺は! 赤の隊だッ!!」

 今彼は、不吉な脚光を浴びていた。

リプレイ本文

●強襲、ハンター
 勇ましくローレル・ラインを携えた騎士シモンの足元に、ばしーんと良い音を立てて竹刀が叩き付けられた。
「おまえなんかこれで十分でござる!」
 突然現れた、謎の忍者(藤林みほ(ka2804))。
 剣を寄越せという風に手を出す。
「いまならこの聖書も付けるでござる」
「いらねぇよ、だめだ! いくら積まれても譲れん」
 突然の事態だったが、シモンは意図を察してそう叫んだ。
「おい聞いたぞ! この依頼終えたら女に婚約申し込むだって?!」
 間髪を入れず、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)がシモンに詰め寄ってきた。
「本当にいいのか? 時期尚早なんじゃねぇの? 相手の親には顔出し済んでんのか? 支度金の準備は? 一生に一度の大勝負だぞ」
 一気にまくし立てる。
 実の所シモンは、相手の親には会ってないし支度金も用意していない。ただ戦場から帰った勢いで婚約を申し込もうと思っただけだ。
 そう考えると、『この戦いから帰ったら』はタイミングとして早いかも知れないとも思えたのだった。
「戦場で勝手な真似をする事の意味、分かってないようだねぇ」
 などと考えていると、今度はヒース・R・ウォーカー(ka0145)の皮肉を孕んだ冷たい視線がシモンを捉えた。
「ボクには生きる理由がある。お前が勝手な事をやれば全員の死亡率が上がる。そんな無様な真似、認めるわけにはいかないんだよぉ」
 最初勢いに飲まれるように聞いていたシモンだったが、やがて口を開いた。
「ならお前は全員で生きて帰って報酬をもらえれば満足なのか?
 違うだろ!
 他人より活躍したいと思うだろ!」
 身を乗り出して反論する。
「それを阻む権利なんて誰にも……」
「おっと、そこまでにしときな」
 そこでシモンは、首根っこを掴まれて引っ張られた。
「引っ込んでな騎士サンよぉ、戦場ではお喋りな奴から死んでくぜ?」
 ユーロス・フォルケ(ka3862)だった。
 もっともな言葉だったが、ユーロスのこの態度。
「ったく、この仕事が終われば久しぶりに家に帰れるってのに、歪虚ってのは雑魚の癖に空気読めねぇゴミばかりかよ」
 シモンに背を向け、歪虚のほうに歩いていく。
 わざとらしいくらいに自信過剰だ。
「これ、やるっすよ!」
 突如シモンの眼前に真横からネックレスが差し出された。
 手にして満面の笑みを浮かべているのは神楽(ka2032)である。
「幸運のお守りっす。……勘違いするなっす!
 お前は俺が殺すっす!
 だからそれまで俺以外の奴に殺されるなよっす!」
 突然! ライバル視!
 ……競いあったり友情を深めるだけの時間はなかったのだが、まるで経緯をすっ飛ばしてライバル関係という結果だけを構築したかのように、神楽は語った。
「もう一度言うっす!『お前を殺す』……っす!」
 その言葉は呪文のような威力を持ってシモンの心に響いた。

 歪虚が来るまではいささか時間に猶予があった。
 でかいから遠くにいてもよく解るという事だったのだろう。多分。
「帰ったら食べれるようにパインサラダを準備しておいたでござる」
「悪いが遠慮しとくぜ。オフクロと可愛い可愛い妹が手料理作って待ってんだ」
 みほとユーロスがそんな話をしたと思ったら、
「真面目に生きるのも悪くないっすよね。そうっすね。これを最後の戦いにしようと思うっす!」
 突如、小悪党で通っている神楽がこんな事を言い始めた。
「神楽殿、この戦いが終わったら、拙者……」
 そんな神楽に、みほが己の言葉を未来に託した。
「俺も後でみほさんに言いたいことがあるっす!」
 神楽もまた、言葉を未だ来たらざる時間の果てへと送る。
 今から見れば、遥かに不確かなはずの時間に、二人して言葉を託し合う。
「まぁあんなウスノロ共、俺一人で十分なんだが? お前ら来たかったら好きにしていいぜ」
 一方ユーロスは、剣も交えていない敵に嘲笑めいた批評を下していた。
 
(俺……こんなんだったのか……)
 シモンは彼等の様子に先ほどまでの自分の言動を見出していた。
 未来は何時だって不確かだ。
 そんなものが何を約束してくれるというのだろう? 何故楽観視できるのだろう?

「シモン殿には待たせている女性が居るのですね」
 ここにきて普通に話しかけられた。屋外(ka3530)だった。
「そうだが?」
「自分にもいるのです、この世界ごとその存在を護りたいと想える人が……」
「そうか……」
「だから……あなたにも生きて帰って欲しい」
「…………それは当然だ。
 だが、手ぶらで帰っちゃ、カッコがつかねえだろ」
「それは……違うと思う」
「何故だ?」
 だが、その続きを聞くことは出来なかった。
 歪虚どもの遅い歩みが、この時には近くまで迫ってきていたのだ。

●乗り越えろディスティニー
「さて……黒猫は不吉を呼ぶと言うけど、お前はボクに何をもたらすのかなぁ?」
 ヒースが、懐に抱いていた黒猫を放した。
 猫はヒースの顔も見ないでニャーと一声鳴いて近場の天幕の中へと入っていった。
 可愛げがない。
「わかってるな?」
「ええ、承知しています」
 何処か安心したような顔のユーロスに、屋外が応える。
 ヒース・屋外・ユーロスは互いに頷き合うと、敵に向かって駆け出した。
 シモンも続こうとする。
 しかし、止められてしまった。
「シモンが出るまでもないっす! ここは俺達に任せるっす!」
「てめぇは危なっかしいんだよ! 俺様がきっちり付いててやらぁ!」
 神楽とジャックだった。
 前進したのは三人だけだ。何か策があるのだろうとシモンは判断した。
(いいだろう……乗ってやる!)
「待機だ」
 後方に控える従騎士二人に指示を飛ばす。自らもその場を死守した。

 マテリアルを脚に集中させ、ヒースは風のように駆ける。
 敵の姿はすぐに捉えられた。
 3mはあろうかという巨体。人型ながら肉食獣めいた凶暴な顔。我こそはオーガ也と、外見で名乗りを挙げていた。
 ヒースは挨拶代わりの一撃を見舞う。
 懐から取り出した手裏剣が、次の瞬間にはオーガの額に突き立っていた。
 オーガは獲物である先の尖った丸太で、ヒースを串刺しにするべく迫る。
 唸りをあげる一撃。
 ヒースは前傾姿勢で右前に踏み込んで避けた。
 一陣の風となってオーガの脇を通り過ぎる。
 その瞬間、光が閃いたかと思うと、瞬時に抜かれた刀がオーガの脛に斬りつけていた。
「依頼の中で自分が果たすべき役割を全うする。それが兵士の在り方だからねぇ」
 在り方を己に言い聞かせる。
 戦いに生きるモノとして徹底することは、彼の生存のための手段と言えた。

「ああハズかった……ここからは好きにやらせてもらうぜ」
 ユーロスが自信過剰な噛ませっぽく振舞っていたのは、死神の目を誤魔化すために必要な行為で、本来の彼の性質ではなかった。
「喰らいな」
 ショットアンカーを打ち出す。射出された鉤爪状の錨がオーガの筋骨隆々とした腕に打ち込まれた。
 オーガは腕を振るってユーロスごと手繰り寄せようとするが、ユーロスは跳躍し、空中でリールを巻き取り一気に接近する。そして鳥のような軽やかさでオーガの頭上へと着地してみせた。
 そして拳銃を抜き、別のオーガを撃ち抜く。
 必殺の一撃とはならないが構わない。撹乱と注意を引くことが目的だからだ。そして、相手をするのは二体までだ。
 ユーロスはショットアンカーを外すと、軽やかに地面に飛び降りる。
 そして不敵な表情と仕草で挑発して見せた。

 屋外のアサルトライフルが、けたたましい金属音とともに断続的に火を噴いた。
 リアルブルーの火器は規格外の巨人にも無視できない打撃を与えた。しかしさすがは耐久力に優れた怠惰の歪虚、傷にもひるまずに進撃して来る。
 屋外は小銃を手に戦場を駆ける。フットワークと長射程を活かすことで優位に事を運ぶことができていた。 
 彼が相手をしているオーガニ体は、後衛で控える仲間の所へ誘導されつつあった。
(疾影士三人が違う方向から接近し、戦力を分散。
 分散した敵に集中攻撃し各個撃破というわけか。
 ――悪くねえ)
 その頃にはシモンはハンター達の考えを把握できていた。
「ここから狙うぞ」
 後方に控えている二人の従騎士に指示を下し、自らも弓に矢をつがえる。
 屋外が、彼等の射線を開けるように飛び退いた。
「シモン殿、今です!」
 返事代わりに放ったシモンの矢が、オーガの体に突き刺さった。
「何だこの協調性……」
 同類と思われている故なのか、屋外は妙に協力的だ。
「こっちに来る! 侮ってんじゃねぇぞ!」
 すぐさまジャックが敵の進路を阻む様、シモンの前に出る。上体を傾けることで視線だけは残している丁寧ぶりだ。
 敵が集まっていると察したのか、屋外の方に向かっていたオーガ二体が、シモン達のいる方に向かってきていた。
 シモンはジャックの頭上を越える形で矢を射たが、オーガはそれでも怯む気配はない。
「抜剣しろ! 陣形を乱すな!」
 シモンは従騎士に指示を飛ばしつつ剣を抜いた。

●乱立するサムシング
 ――が。
「かかったなアホが!」
「ここがお前等の墓場になるっす!」
 乱入する二人。みほがオーガに対して体術と刀の連撃を加え、続く神楽が祖霊の力を込めた剣の一撃を見舞った。
「くっ、こんなハンターだらけのところに居られるか!」
「あっ、おい!」
 機会を失ったシモンはもう一体のオーガに向かう。この時、ジャックはその動きを予期できていなかった。
 その時だった。みほと神楽の攻撃を喰らったばかりのオーガが、武器の丸太を真っ直ぐに構え、シモンに向かって突撃した。
「……なにっ!?」
 巨体に込められた力全てを突進力に転用した突撃の威力は、想像を超えていた。
「うわああああっ……ア……アメリア……!」
 戦慄したシモンは思わず恋人の名を口にしていた。
 ……そして丸太がシモンの体を貫いた。

 ……かのように見えたが、
「へへ、お前を殺すのは俺っていったろっす?」
 神楽が、シモンを庇って貫かれた。

 ……かのように見えたが、
「ふっ、やはり拙者、不可能を可能に……!」
 庇った神楽をさらに庇って、みほの刀が丸太を打ち臥せた。

「後ろだ!」
 ジャックの言葉に、みほが振り向く。
 もう一体のオーガが、丸太を突き出して来た。

「みほさーーーん!!!」
 神楽が絶叫する。
 腹部を突き上げられたみほの体が宙に浮き、しばらく虚空を飛んだ後、地面に叩きつけられてバウンドした。
「くっ……よくも!」
 屋外がアサルトライフルを乱射し、速やかに一体を制圧する。
 残る一体の前にジャックが立ちはだかった。
「お、おい……大丈夫か!?」
 一番近くにいたシモンがみほに駆け寄り、そっと上体を起こした。
 みほの目は閉ざされたままだ。
「……………………………………………………あれ?」
 が、しばらくすると目が開いた。
「生きてる…………」
 驚きつつもみほは懐から何かを取り出した。
 穴の開いた聖書だった。

 そこからはジャックが鉄壁の守りを見せ、大きな傷を負わずにもう一体も片付ける事ができた。一行はユーロスが引きつけている敵へと向かう。
 ユーロスはそれを察し、ショットアンカーをオーガの腕に打ち込み、目一杯引っ張ってから跳躍し、リールで巻き取る勢いを利用してオーガの頭上に跳ぶ。
 空中で、もう一方の手に持った銃を発砲し、一回転して着地。
 アンカーを外し、味方に合流した。
「止めは任すぜ」
 さすがに表情には疲労の色が見える。
 撹乱されていたオーガは瞬く間に包囲され、波状攻撃を受ける。
 倒すのに時間を食ったが、被害は少ないまま終える事ができた。

 一方、ヒースは残る二体のオーガと対峙していた。次々と繰り出される丸太を、刀を閃かせて捌き、火花を散らす。
 おそらく丸太はその怪力で折った現地調達の武器なのだろう。しかしその質量は脅威だ。
 さすがに押されつつあった。
 その時、ヒースは背後に喊声を聞いた。
「友軍を救うのだ! 行くぞ!」
 ホープからの援軍が到着したのだった。
「やれやれ、遅かったねぇ……」
 ヒースはため息をつく。一人で耐えるのは辛くなっていた所だ。
「このまま手柄も立てずに終われるか!」
 一方シモンは焦りを感じ、残る二体のオーガに向けて駆ける。
「シモン殿、援護します!」
「てめぇ一人で行かせるかよ!」
「シモンだけにいい格好はさせねぇっすよ!」
「拙者を忘れて貰っては困るな!」
 ここぞとばかりに、屋外、ジャック、神楽、みほが続いた。
(こんな気持ちで戦うのは始めてだ――もう何も怖くない。こいつらに比べたら)
 シモンを一人にしようとしないハンター達が逆に怖かった。
 一斉に、三本の刃がオーガの体に突き立てられた。さらに全身を拳銃と小銃の弾丸が蜂の巣にし、オーガは絶命した。
「やりましたね、シモン殿!」
「勘違いすんな、てめぇを助けたわけじゃねー」
「ふっ、お前と協力することになるとはなっす」
「北条流忍法の真髄を見たか!」

「これ……誰の手柄になるんだ……」
 ハンター達が勝利を分かち合う一方、一人思案顔のシモンだった。

●サヴァイヴ・アライヴ
 最後の一体が援軍の手によって倒され、危機は去った。
 駐屯地に戻ればヒースの猫が主人を待っていたが、顔だけ見るとすぐ丸まって寝てしまった。
 可愛げがない。
 神楽がみほに「NINJAになりたいので弟子にしてくれっす!」と未来に託した言葉を届ける傍ら、この戦いを生き延びたシモンは、彼方を見つめていた。――その先には王都イルダーナがある筈だ。
「てめぇは亀だ、兎じゃねぇ。焦ることはねぇんだ」
 そんなシモンにジャックが声をかけていた。
「この野郎……ケンカ売ってんのか」
「ハァ?! 何でそうなんだよ!」
 ジャックは応援したつもりだったのだ。
「はぁ……」
 シモンはジャックに一瞬凄んだが、ため息をついた。
「礼は言わねぇ。ハンターと共闘なんぞもう御免だからな。
 だが……お前らのおかげで冷静になれた。色々と……な」
「べ、別に……てめぇのためじゃねぇよ。
 待ってるっていう女のためだ」
「おい、騎士!」
 呼ばれて振り向くシモン。
 その顔を、ユーロスの拳が殴り飛ばした。
「うおっ! 何しやがる!
 これが若さか?! 認めたくない若さゆえの過ちなのか?!」
「うるせえ。お前のせいであんな恥ずい真似をする羽目になったんだ。あんまり世話を焼かすな」
「何の話だ!?」
 ユーロスは序盤の自信過剰の演技が恥ずかしかった。
「相手が俺でよかったな! 下手すれば王国を敵に回したと思われる所だぞ!」
 ユーロスに訴えるシモンの姿を、穏かな目が見つめていた。
 屋外である。
(良いのですよ、シモン殿。
 たとえ戦功がなくとも、生きて、一緒に居られたら。

 愛する人と関わる全ての機会には、どんな名誉にも勝る価値があるのだから……)

 屋外の想いは千里を越え、愛しい人の顔を脳裏に描かせるのだった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • くノ一
    藤林みほ(ka2804
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 心を守りし者
    屋外(ka3530
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • たたかう者
    ユーロス・フォルケ(ka3862
    人間(紅)|17才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/09 20:29:16
アイコン 相談卓【阻止限界点】
屋外(ka3530
人間(リアルブルー)|25才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/04/13 18:08:09