• 不動

【不動】試料を求めて

マスター:石田まきば

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/20 12:00
完成日
2015/04/25 05:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

伊菜

オープニング

●研究者ヴォール

 冬に入手したCAMの資料を纏め、仮説を元に検証を終えたのはつい最近のことだ。
「あれの命だから仕方ないとはいえ、我にだって我の研究があるというに」
 過去の剣機の量産型化、場合によりそれらの改良。新たな剣機の研究にその試作。
 自分の配下達だって、今の自分の立場や力を考慮する限り、剣機系にしなければ取り扱いにくくなってしまう。
「黒エルフ使いの荒い女であることよ」
 上司とも呼べるべきあの女……剣妃オルクスはどちらかと言うと青白いなと考え直す。
「青が黒より上位と言うのは気に食わんが、先達をないがしろにするというのもどうかと思う次第である」
 未だ負のマテリアルで己の肌が黒く焼けたと信じて疑わないヴォールである。
 そもそも彼が研究所としている家には、鏡などあるはずがなかった。
「しかし契約相手でもあるのだから……むぐむぐ……仕方なくもある」
 近くに置いていた林檎を齧る。旬ではないし、そもそも好物ではない。しかし年中一定の量を確保し食すことに意味がある。それこそ崇高なる儀式の一連の流れだとでもいうように。
「我自身も食べることは止められぬ、この偉大なる我の糧となる事、光栄だと思うがいい」
 林檎に言っているわけではない。この林檎の入手先……かつて生まれ育った土地と、そこを未だ拠り所とししがみつく者達に送る言葉だ。
「しかしながら、それもまた否定するのであろうな、それこそ愚鈍、知恵なき妄執の証」
 恐れを知りながら、見て見ぬふりを貫く。
 古き知恵こそ全てとただ従う。
 残虐だと犠牲の証を見て後ろ指を指しながら犠牲を払っていることを知らぬ。
 秘匿を知らぬまま抗おうと無策に動く。
 綺麗な部分だけを認め全容から視線をそらす。
「……あげ連ねる事こそ時間の無駄というものである」
 記憶から思考を引き上げ、机上に広げた図を見つめた。
「……独自性であるか」
 歪虚CAMを参考に設計したそれは、ヴォールの目から見ても『CAMの二番煎じ』でしかなかった。それは研究者のプライドが許さない。
 次の剣機の参考になる、そう言づけられたときは人間の、更には蒼界の技術などと思ったものだが。
 命令と割り切り調査を重ね、知り得た情報を読み解いていくほどにヴォールの知的欲求が刺激されていく。
 人が乗り込み、その人の思うままに動かせる手足の延長線上にある、力の行使者。
 そこに命はないが、確かに命のやり取りが可能な力を保有する、物言わぬ機械人形。
 何よりも魅力的に感じるのは、自らが形を変えずとも扱える、自らの意図するままにより忠実に扱えるという事。
 暴食の眷属は吸血鬼に始まり、死体や亡霊や機械や……本来の姿のままで居られる可能性はあまり多くない。
 あの負の遺産“代弁者”オルクスでさえ青くなった。
「我は既に忌まわしき、しかし至上の黒に染まってはいるが、人をやめたいと言う訳ではないからな」
 人であるままに負のマテリアルに親しめばいいのだ。なぜ誰もその真理が分からないのか理解に苦しむ。
「我が‥‥あのオルクスもだが。そのいい例ではないか」
 閉じこもったままなど本当に愚かな事だ。かつて築き上げ貢献してやった研究の成果、完成させた技術が勿体ないと思うほどに。
「時は戻せるものではない。既に起きた事象を戻すにはどうすればいい? ……明白ではないか」
 新たな常識を、凡人どもに理解させてやればいい。見せつけてやればいい。

 ……
「もう既に把握しているに決まっている。また我に外出しろと言うのだろう」
 フードの被りを直し、振り返らずに返す。
 ……
 頷く。
「大盤振る舞いで出てやろうではないか。この我の手の内を全て出すほどではないにしても、それなりの役を演じて見せてやるといっている」
 ……?
 傾げるような動き。
「あれのことだ、遊び半分で自分でも出向くのだろうが……その策、乗ってやろうではないか」
 ……
 バササ……
 羽音に呼ばれ窓をあけるヴォール。偵察に出していた鴉が作業台に滑り込んできた。
 コードを伸ばし、機材に繋ぐ。
「見るがいい」
 ディスプレイにはじめに映し出されるのは辺境の要塞ノアーラ・クンタウ……徐々に、映像が移り変わり……
 ……
 頷く。
「貢物は、戦利品そのもので手をうってやろう、異論はでなかろう?」
 ……
 頷き。
「人形を用いた技術に反し新たな技術を高めた我が、また再び人形の研究をするとは皮肉な事よ」
 だがしかし、それもまた面白い話ではないか。
 自分にとってだけではない、我を認めなくなった者達への皮肉にも丁度いい材料となるに違いない。

●編隊分解

「協調性という言葉を知っていたとは驚きである」
 自分やフリッツはともかく彼女は……今は関係ないか。
 随分とまた静かになったものだとも思うが、色々な手間を減らすために纏まって移動していた先ほどまでが異例だっただけだ。
 正直ヴォールとしても雑談に興じるよりは静かに思考を巡らせるほうが有意義なので、他の同僚とも呼ぶべき者達と早々に別れられたのは好都合というものだ。
「議論ができるならともかく、あ奴らにそんな高尚なものを期待する方がばかげているというもの、崇高な我が思考についてこれるものなど……」
 さて、何か引っかかるものがあった気がするが。
 かつて高めた技術の粋の欠片をほんの少し見せただけでも、知識欲を称えた眼差しを示した誰か。
 そういえば、気まぐれに戯れを起こしたことがある気もする。
 時間を紛らわせる、ほんの暇つぶしにはちょうどよかったが……以降は知らない。
「さして重要でもあるまい、目前の貢物に比べれば万事が些末な事というもの」
 輸送分隊のひとつを見据え、配下達に指示を飛ばす。
「さあ、降りるがいい……よくわかっているであろうな」
 コンテナを抱えた輸送型が、魔導アーマ入りのコンテナを積み込んだ、魔導トラックの進行方向を阻むように降下していく。
「我が仕掛ける合間に展開しておくといい」
 言いながら高速型を駆る。惑わせるようにトラックの周りを低く、すれすれを旋回し……掃射。
 弾幕がトラックの動きを止める。護衛として同行しているハンター達もすぐに出てくるだろう。
「クックック……では、崇高なる実験の幕をあげようではないか」

リプレイ本文



 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はまず自らを盾にする。その覚悟で馬を駆った。
「お互い自己紹介と洒落込もうぜ」
「時間稼ぎの小細工か、浅慮である」
「こんなんどうだ? 俺達はあんたに対価を差し出す準備があるって言ったら?」
 報告書で調べた通りというのなら。
「俺様等は仕事でここに来てる、だからこの場で護衛対象が盗まれっと仕事にケチがつく」
 気をひけることを祈り視線に力を込める。
「物は試しだ、この場は見逃しちゃくれねぇか? 変わりにそっち指定の日時で蒼界の技術者招いて技術交流会を開いてやるよ。直接聞いた方が短時間で理解深められると思うがどうよ?」
「この我に舌戦を申し込むとは」
 かかった。
「面白き交渉の志(トーキングラオベ)、その意気に免じて知識を与えてやっても良い、我が飽きるまでだがな」

「シャイネさんを知っているだろう?」
 ユリアン(ka1664)の言葉が簡潔に響いた。色々な感情を込めたくても状況はそれを許さないから、ただ短く。
「そんな弟もいたが、何故に……汝は」
 視線がユリアンに向く。
「喚起せし疾走の青(スピーディフリューゲル)か、再びの邂逅を祝うのか? 名乗らず居た我を尋ねに来たのか?」
 我の名は研究者ヴォール、勿体ぶった話しぶりとその内容に頭を抱えたい気持ちも湧き起こるけれど。
「……あんたが維新派の、器が要らない浄化術を作ったんじゃないのか」
 今は情報をと感情を殺し推測をぶつける。
「正確ではないな。今の器の体制に関わり、結界林の体制を唱え、維新派の奴らに新しい浄化術を与えてやった」

(楽しくなってきたね)
 小さく笑みを浮かべるルピナス(ka0179)は記憶を辿る。器は人形のようだと聞く。そして今ヴォールは下僕達を指揮下に置いている。まさに上空から糸で操る人形師の様だ。
「なのに魔導アーマーが欲しいなんてさ、二番煎じじゃないか」
 借り物でしか語れない小物なのかと煽る。
「そなた、本当に敵の頭なのかえ?」
 ヴィルマ・ネーベル(ka2549)も便乗しながらリッターを駆る。
「ローブで身を隠しているようじゃしのぅ。醜いのか、それとも平凡すぎてカッコつかないかどっちじゃろうのぅ?」
「剣妃の指示で動いているの? そのフードもお揃いみたい」
 避難援護を終えたエイル・メヌエット(ka2807)の声で、少なくとも人的被害は避けられるだろうことをハンター達は知る。自分達の戦線が整っている証拠だ。
「姦しきかな、まあよかろう。剣妃はただの同胞よ。力を借りた分技術を与えている、協力関係に過ぎぬ」
 おもむろにフードを外す。手入れは疎かだが緩やかな銀の髪、長い耳、白い肌。鈍く輝く青の目がもし赤ければ、確かに吟遊詩人とよく似ている。
「我の肌は不純なる闇のマテリアルに焼かれた、この姿に恐」
「ひょろいのぅ、なまっちょろいのう」
 ヴォールを遮るヴィルマの言葉。しばし沈黙が落ちた。

「君は咎人ではないのかい?」
 リアム・グッドフェロー(ka2480)が黙っていられず会話を繋ぐ。
「私は言われた事があるのだよ『君と同じ考えに至った者達の多くが、咎人としてエルフハイムを離れた』と」
 それを言ったキアラも咎人だ。エルフハイム基準ではあるが。
「種族としては停滞しているように見えてならないエルフが、人間やドワーフと同じように種族として生の輝きを取り戻すにはどうすればいいのだろうか?」
「停滞……刺激ありき諸刃の勇言(ブーメランユーザー)、面白いことを言う」
 森から出ぬ者達に是非とも言ってやるがいい。不気味な笑い声と共に声が降る。
「我の見つけた解はひとつだ。負のマテリアルを怖れる意味をなくせばいい」
「歪虚になればいいってこと?」
 首を傾げる逢見 千(ka4357)の声。
「でも貴方は人間なのか歪虚なのかわからないよね」
 リンドヴルムからも、コンテナから出てくる人型歪虚からも不純なマテリアルを感じ取れる。けれど男からはそれがないような気がする。千がリアムに視線を向ける。エルフである彼の方がその違和感は強く感じ取れているだろう。
「君は歪虚でもないね」
 リアムが頷き断言する。理性的な受け答えができ、歪虚にあるはずの本能を抑えられていること。これまでのやりとり……厳密には歪虚と呼べない。その意味するところとは。

「……誰かの為だったんじゃないのか?」
 抑えた声音のユリアンをヴォ-ルが鼻で笑う。
「否。我は効率を愛した。器ひとつでは間に合わぬ。だからこそ代替となり素養も要らぬ新たな術を導きだしたのである」
 多くの動植物の犠牲の上で生まれた技術は、ヴォールの研究過程における残虐性と、代替となる楔の有限性を理由にそのままでは受け入れられなかった。今維新派が持つ技術はヴォールの技術を意図的に弱くしたものだ。
「器も動物も犠牲は同じではないのか? だが我だけが咎人とされているようだな? 我の本当の記録さえも捻じ曲げられて」
 研究者としての知的探求心、関心しか見えてこない。
「俺は人であることは捨てないよ」
 確かにヴォールは人かもしれない。心の在り方は歪虚だろうとユリアンは思う。

 自分達は理想とする配置につけた。同時に敵にも時間を与えていたが、敵を知る時間を取れた事実にもつながるのだから意味はあると榊 蔵之助(ka1529)は考える。しかし。
「……箱を持ってけそうな奴が妙に少ねぇ。何かあるな」
 コンテナから出てきたのは10体。もっと何か居てもおかしくないはずなのに、それ以上が出てくる気配がない。
「覗き込めるなら苦労はしないが」
 警戒を怠らない、それしかできないのも事実だった。



 仲間達があけた道を、霧を纏う馬影が駆ける。十分に慣らしたリッターは怯えることもなく霧の魔女を運ぶ。
(アームを壊すまでは頼んだのじゃ)
 先に走り始めていたルピナスを追いながら運搬型へと向かう。敵の狙い、アーマーを奪いやすくする手段は少しでも早く潰す必要があった。
 運搬型が再び空を駆けてしまえばその狙いも定めにくくなる。まだコンテナの近くにいるうちに、射程に捉えなければならない。
「手前の方から行くよ!」
「勿論じゃ」
 一呼吸で交わした言葉を合図にルピナスが更に疾走。霧を抜けた先のアームへと振動刀を振り下ろす。
 ヴィー……ガンッ!
 低く響く音の影に隠れるように風の刃が続く。
「流石に硬い人形だね?」
 後付けの、機械パーツのみの部位だ。見た目通り他よりも強固なのはわかりきっていたことだけれど。
「ルピナス!」
 警告に気付き尾を見れば曲がっている……来る!
「後ろもじゃ!」
「見てなって」
 前には薙ぎ払いの剣の尾、後ろからは下僕の剣。それでも獣のような身のこなしで避けたのは身軽さと幸運あってのもの。
「さっさとこいつをぶっ壊すよ?」
 花の枷が浮かぶ身は、だからこそ反動で跳ねまわる。
「無茶しおって」
「ぶっ潰すまではね! ……次は根本を狙うよヴィルマ!」
「わかったのじゃ」

「剣機の類にゃ光属性攻撃ってな!」
 少しでも高い位置を選ぶことには意味がある。高速型の牽制は味方への防御にも通じるからだ。
 上空を常に警戒しながらも蔵之助は下僕を狙い撃っていた。ヴィルマとルピナスの方へ向かおうとする個体を優先し、注意を逸らす。
「効いてるようで上々なこった」
 下僕は地上、自分はコンテナの上。稼いだヘイトは自分に向かわず、また敵の目的であるコンテナが足の下にあるからこそ標的にもなりにくい。狙いを定めやすい環境は整っていると言えた。
「もうすぐ来るぞ!」
 白く輝く弓を引き絞りながら繋ぎっぱなしのトランシーバーに向けて叫ぶ。ガトリングの音が上空から近付いていた。

 剣機型は総じてゾンビを機械で強化した歪虚である。だから光に弱く、火に弱い。
(私の仕事は露払い)
 そう考えていた千がこの戦場において一番のアタッカーとして機能していた。
 ブゥン!
 盾では防ぎにくい足元を払うように斬りかかる。突出しないようにと勤めていても難しい。ジャックは得物を拳銃としながらもその頑丈さを活かして千の側面をカバーしていたし、反対側ではユリアンが少しでも多く下僕の標的を自分へと変えさせようと駆け回っている。それでも千の膂力から生み出される攻撃は属性を加味すると一番で、下僕の攻撃を多く引き付けていた。
 それだけ運搬型の援護に向かう下僕が居ないことは幸いでもあったと言える。
 はじめこそリアムやエイルに刃を向けていた下僕達はその数を減らし、6体となった今は3人で留めておくことができている。
「千さん、今治すわよ」
「まだ自分でなんとか。それよりあっちの二人に!」
 振り返る余裕がない代わりに千のハルバードが纏う炎が焔へと輝きを増した。エイルの声に伴う木漏れ陽に、あるはずのない温かさを感じながら答える。声はうまく届いただろうか。
「わかったわ、でも無理になる前に言ってちょうだい」
「その時は頼みます」

 丁度蔵之助の警告が響き、ガトリングの回転音が近づく。
「味方ごと撃つ気なのか?」
「乱戦とはいえ思い切りが良すぎない? ユリアンくん、気を付けて」
「エイルさんも」
 ユリアン自身の動き以上に髪が揺れる、それは精霊の悪戯のようなものだから乱れることは無いけれど。
「カウンターで撃ち落としてやろうじゃねぇか」
 手甲部分の隙間から漏れるほどに紋様も輝いている。好戦的な笑みを浮かべたジャックが拳銃を構え待ち受ける。
「別の道はなかったのかい? そうまでして君は外に居たいのかい?」
 負傷している下僕に光の矢を放ちながら、リアムは声が届かないと知りつつもヴォールへ問いかける。人の身であることに気付いたと同時に、ヴォールの齢が外部での活動限界に近いことも理解していた。それをすぐに問えなかったのは、ずっと考えていたからだ。
 自分の考えを正しいと言った咎人のキアラ。話を聞く限りヴォールも咎人だ、けれど違いはどこから来るのか。
 リアムの自然は寿命が鍵で、そのために森に固執することを不自然と考える。ヴォールの鍵は歪みへの恐れで、森以外の道を選んでいる。違うけれど、どこか同じ。
 キアラと同じように分かり合える道はまだあるのだろうか? ……答えが見えない。



 二体目のアームを破壊した頃には、運搬型は二体とも空を駆けている。
「一度エイルさんの元に下がるしかないね」
「同感なのじゃ」
 輸送型が仕掛けてくるタイミングにしか攻撃ができない。しかも逃げながらという事で2人とも満足に回復が出来ていない。下僕の数は残り少ないので合流は可能だと見回せば、ユリアンと千を援護に、待望のエイルが二人の元へと向かってくるところだった。
「皆を無事に連れ帰るって約束、しているんだから」
 言いながら緩やかな光を集めて二人の傷にあてた。
「気は抜くな! また来……奴さん、気が違っているのか!?」
 残りの下僕を引き付けたままヴォールを狙うジャックはまだぴんぴんしている。声を張り上げたのはその援護に回っていた蔵之助だ。

 明らかに自分の居場所を狙っているガトリング砲を見つめながら矢を番える。
「蔵之助さん!」
 誰の声だ。そんなことより退避していることを願う。
「下がっとけぇ!」
 視界が更に暗くなる。輸送型までもがその剣の尾を自分に向けていた。
(効率が好きってぇ話はどこに行ったよ?)
 三体の攻撃が同時に迫る。
(……強引にでも減らす作戦か)
 コンテナは4つ。リンドヴルム三体を温存しているヴォールは押し勝てる可能性があると踏んだのだ。
 自分は耐えきれるだろうか。先に言っておくべきことは何か。
「コンテナにはまだ残ってる可能性がある! 人型でもねぇ他の何かだ!」
 蔵之助が一矢を放った直後、攻撃が囲った。

 エイルの癒しが追いつかない。リアム、ルピナスの順に一人ずつ集中攻撃によって倒れ、今正に狙われているヴィルマも剣の尾の攻撃に耐えきれる保証はない。
「我よりもアーマーを!」
 万が一に備え、破壊する方法を聞いていたはずだ。
「もう少しは耐えられるよ」
「だからお前ら二人で行って来い」
 千とジャックが得物を構えなおす。
「……ユリアンくん、二か所頼めるかしら」
 行くしかないのだと、エイルの声にユリアンも頷く。二手に分かれて駆けだした。
「我は自称霧の魔女、ヴィルマ・ネーベルじゃよ」
 既にボロボロのヴィルマがヴォールへと指を突きつける。あと一度なら、しぶとそうな友の祈りにあやかれると信じて。
「そなたのつまらん作戦に、我は真っ向から挑んでやろうではないか!」
「クックック……潔さは買ってやろう、喧しきの霧裂く風(ケルピーライダー)よ……そやつは耐えられぬだろうがな」
「なんじゃと?」
 リッターの事だと理解した時には、もう遅く。

 コンテナからアーマーを出すような時間はない。
(鍵をあけておくのは正解だったようね)
 ユリアンの提案は賭けだったが、この場合当てたことになるのだろう。
「ああもっと早く進まないかしらこの足は!」
 振り返らずとも、足元にかかる大きな影のおかげで追われていることくらいわかる。
 ねーさん、そう呼ばれた気がした瞬間攻撃を避けることができたけれど、二度はないだろう。
 掃射前の駆動音が迫る、尾も二本向けられているのだろう。
 爆発音が2回響いたから、残りは破壊に成功しているはずだ。自分が囮になる事も分かっていてユリアンに2カ所任せたのだ、そうでなくては困る。
(私も、やらないとね……!)
 いつも世話になっているから力になるよ。可愛らしい子の声が自分を包んだ気がして、エイルの傷が軽くなる。コンテナはもう目の前だ。
「これで……最後よ!」
 マテリアルエンジンを内臓している部分に聖剣を突き立てる。爆発の直前に体を丸めたエイルの耳に聞こえたのは、一番に帰りを待ってくれている彼の声だ。

「エイルさん!」
 師匠と、兄貴分との声に守られて爆発を乗り切ったユリアンが、コンテナに近づく輸送型にサーベルを突き入れる。風に乗った翼のように吸い込まれた一撃に乗ったのは兄妹の絆。
「間に合ったみたいだね……まだ一体、そして一人居るけど」
 レミージュがあげる警告が妙にはっきりと聞こえる。
「今度こそ撃ち落としてやるぜ」
 エイルが体勢を立て直す間に、唯一残った高速型へと向き直り壁となる千。ジャックにも余裕の笑みが浮かぶ。
「お目当てのお宝はなくなったぜ?」
 蔵之助の言っていた隠し玉がどうなるのか、その緊張感は残っているけれど。
「果実が無ければ意味はない、自明である」
 カチリ
「「「!?」」」
 咄嗟に構えた四人など興味もないと、高速型を旋回させるヴォール。
 バササササササササ!
 コンテナから出てきた数十を超える蝙蝠型歪虚。しかしハンター達を攻撃することは無く、彼らは鍵付きコードのようなものを射出して、輸送型の残骸パーツを回収していった。

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MVP一覧

  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴka1305
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • スカートを履いたイケメン
    リアム・グッドフェローka2480

重体一覧

  • その心演ずLupus
    ルピナスka0179
  • 戦場の眼
    榊 蔵之助ka1529
  • スカートを履いたイケメン
    リアム・グッドフェローka2480
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタインka2549

参加者一覧

  • その心演ずLupus
    ルピナス(ka0179
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 戦場の眼
    榊 蔵之助(ka1529
    人間(蒼)|66才|男性|闘狩人
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • スカートを履いたイケメン
    リアム・グッドフェロー(ka2480
    エルフ|15才|男性|魔術師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 心に鉄、槍には紅炎
    逢見 千(ka4357
    人間(蒼)|14才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
逢見 千(ka4357
人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/20 06:34:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/16 07:46:38
アイコン シャイネさんに質問
エイル・メヌエット(ka2807
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/04/19 12:04:49