ゲスト
(ka0000)
絵本『子猫のおさんぽ』
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/27 22:00
- 完成日
- 2015/05/01 06:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「サン・ジョルディの日?」
ブックカフェ「シエル」に張られた小さなポスターを見て、ハンターたちは首をかしげる。
「ああ、それはリアルブルーの一部で行われているイベントなの。大切な異性に、男性は花を、女性は本を贈る――ちょっと素敵でしょう?」
「シエル」のマスターであるエリスは、そう言って笑う。
「バレンタインとかに比べると浸透率は高くないのだけど……大切な人にものを贈るっていうのは、素敵だと思うから」
うっとりとそう言って微笑むエリス。とはいえ、この「シエル」の本は希少価値の高いものも多く、基本的に禁帯出だ。
本を買うのだって、決して安くはない。花だって、安いわけではない。
「だから、ちょっと考えたんだけど……この日にちなんで、一冊、皆で本を作ってみません?」
「本を作る?」
不思議そうな顔をするハンターに、エリスはカウンターの奥から画用紙とステープラーを取り出した。
「ちょっとしたものなら、これだけでも本は作れてしまうわ。あとは皆の想像力と、やる気かな?」
なるほど。完全にお手製の本というわけだ。
今は戦闘に次ぐ戦闘で、誰しも心が疲弊している。それを少しでも癒やせれば、というのがエリスのもう一つの目的でもあった。
「でもタイトルも何もないですよね。一から全部作るのは大変なんじゃ?」
「なら、そうね。タイトルだけはこちらで提案しておきましょうか。うーん……『子猫のおさんぽ』なんてどうです?」
エリスの提案した名前は、何となく絵本っぽい。
でも、そのくらいが逆に気楽なのかも知れない。
「もし面白い作品が出来たら、店の本棚に置かせてもらうから」
一点物なので、誰かが持って帰るよりもたしかにそのほうが楽しそうだ。
「皆さんも、参加しません? 一人でやるよりも皆でやる方が楽しいと思うんです!」
笑顔のマスターに、思わず頷くハンターたちであった。
「サン・ジョルディの日?」
ブックカフェ「シエル」に張られた小さなポスターを見て、ハンターたちは首をかしげる。
「ああ、それはリアルブルーの一部で行われているイベントなの。大切な異性に、男性は花を、女性は本を贈る――ちょっと素敵でしょう?」
「シエル」のマスターであるエリスは、そう言って笑う。
「バレンタインとかに比べると浸透率は高くないのだけど……大切な人にものを贈るっていうのは、素敵だと思うから」
うっとりとそう言って微笑むエリス。とはいえ、この「シエル」の本は希少価値の高いものも多く、基本的に禁帯出だ。
本を買うのだって、決して安くはない。花だって、安いわけではない。
「だから、ちょっと考えたんだけど……この日にちなんで、一冊、皆で本を作ってみません?」
「本を作る?」
不思議そうな顔をするハンターに、エリスはカウンターの奥から画用紙とステープラーを取り出した。
「ちょっとしたものなら、これだけでも本は作れてしまうわ。あとは皆の想像力と、やる気かな?」
なるほど。完全にお手製の本というわけだ。
今は戦闘に次ぐ戦闘で、誰しも心が疲弊している。それを少しでも癒やせれば、というのがエリスのもう一つの目的でもあった。
「でもタイトルも何もないですよね。一から全部作るのは大変なんじゃ?」
「なら、そうね。タイトルだけはこちらで提案しておきましょうか。うーん……『子猫のおさんぽ』なんてどうです?」
エリスの提案した名前は、何となく絵本っぽい。
でも、そのくらいが逆に気楽なのかも知れない。
「もし面白い作品が出来たら、店の本棚に置かせてもらうから」
一点物なので、誰かが持って帰るよりもたしかにそのほうが楽しそうだ。
「皆さんも、参加しません? 一人でやるよりも皆でやる方が楽しいと思うんです!」
笑顔のマスターに、思わず頷くハンターたちであった。
リプレイ本文
●
『シエル』は本日臨時休業。
しかし依頼されたハンターたちは、マスターであるエリスが喜んで迎え入れてくれた。
特にその中でも、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は久しぶり! とばかりに挨拶のハグ。声を発することの出来ない分、思いは行動や筆談で示す必要がある彼女としては、これはまあありがちな挨拶であったりもするのだが。
「エヴァちゃん、マスターびっくりしてるんじゃない?」
そう言って後ろからやってくるのはルピナス(ka0179)、先日の戦闘で負った怪我はまだ完治していないが、噂のブックカフェで息抜きをするのもまた一興、という感じである。
「今回はタイトルだけしか提示されてないけど、内容やそのほかは自由に決めていいのかな?」
エリスはもちろん! と嬉しそうに頷く。
「それぞれ物語のワンシーンを考えてきたんだけど、それぞれ癖があるだろうからね。それは修正していくつもりだけど」
「ふむふむ。それで『お散歩』はどうなる予定なの?」
エリスに尋ねられた長い緑色の髪も美しいエルフの青年ルスティロ・イストワール(ka0252)が頷くと、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)が、おっとりと微笑む。
「子猫が、色んな所にお散歩に行くの」
――物語は好き、楽しいのは好き、その一つ一つは『雨音』なのだから――
意味深なことを少女は口元で転がしながら、くすりと笑う。といっても、その意味はなかなか他の人には通じにくい、彼女特有の『感性』が生み出す単語なのだけれど。
「面白そうなので、混ぜていただく思いましたの♪」
そう律儀に挨拶をするのはデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)。手元には色とりどりの絵の具があって、いかにも『絵本を頑張りたい』という思いに溢れている。
「子猫は、いろいろな世界を旅していくんですのよ」
デュシオンがそう言うと、皆も頷いた。
「子猫ちゃんの可愛くて不思議な物語……聞いているだけでも可愛くなりそうなタイトルだし、皆が喜んでくれる絵本ができあがるとイイなあ……」
小柄なエルフ少女エティ・メルヴィル(ka3732)がそう言って笑うと、誰もが同調するように、こっくりと頷いたのだった。
●
画用紙やステープラー、画材一式も預かって。
集まったハンターたちは、思い思いに物語を描く。
プロローグはデュシオンが。
『「行ってきまーす!」
「にゃ~お」
ご主人様は遊びに行ったみたい。
ボクは、どうしようかな……。
今日は天気がいいみたい。なんだか、うとうとしてきちゃたや……。
「ん……」
あれ、寝ちゃってたみたいだ……。
ボクも、遊びに行こーっと。
だけど、あれれ?
ボク、ご主人様にだっこしてもらったみたいに、高く見える。
あれれ?
ボク、ご主人様と同じ言葉を話してる……?
「やった……ボク、人間に、ご主人様と同じになれたんだ!」
ボクは嬉しくなった。だって大好きなご主人様みたいな姿なんだもの!
お外で遊ぼう、いっぱい、いーっぱい!』
「……猫は、人間の姿に変化してるの?」
エリスが眺めて問いかける。少女は嬉しそうに、こっくり頷いた。
「……お散歩は、わたしも好き。時々迷子になっちゃうけれど、でもへっちゃらよ? 一人じゃないなら、寂しくないもの」
フィリアが、そう囁くように言ってみせる。彼女独特の感性が、そう言わせるのだろうが。
『 ボクはてくてく歩いてる。
気がついたら、『雨音』のそぼ降るパッチワークの森に迷い込んでた。
見たことない風景が、そこに広がってる。
『雨』は静かに話をしてる。
焼きたてのトーストには何時にジャムを乗せるのがいいのかとか、
それはとっても奇妙な話だったけど、
そんな『雨』のささやきも、ボクには何もかも新鮮なんだ!』
手元の傘をくるりと回して――実のところそれは仕込み傘なのだけれど――フィリアの言葉はまるで文字通りの雨音のように、静かに静かに沈み込んでいく。
「じゃあ、次は私が書きますね」
ミネット・ベアール(ka3282)が、にっこりと笑った。
『 さっきまでいた森を抜けたら、急に世界が真っ暗だ。
自分の足元すら見えないで、ボクはちょっぴり怖くなる。
『上を見なければ危ないぞ、天井がなければ落ちてしまうでな』
突然の太く低い声に、ボクは思わず毛を逆立てた。
声の主はどこ?
それに、上に落ちるって何?
そしたら、またあの声。
『足元ばかり見ていては、先など見えぬもの。何も見えぬ時ほど遠くを見据えよ』
言われて、ボクは視線をあげる。遠くに小さく微かな光。
振り向いたら、金色の目をした初老の白猫が、こちらを見てた。
『あれがこの世界の出口なの?』
『おそらく、そうであろうのう』
光に近づいてみると分かれ道。
どっちに行けばいいんだろう?
『迷うことも出口への道のり。なぁに、何れ同じ道に出ようて。思うままに選べばいい』
選んだ先には高い壁。行き止まりで、ボクは目を丸くする。
でも、白猫はなんだかご機嫌そう。
『おぬしにはそう見えるか。しかしこれは超えるべきもの、儂に続け』
白猫はひょいひょいと登り切る。
ボクは悩んで悩んで、落っこちそうになりながら、擦り傷をいっぱい作りながら、登り切る。
そしたら白猫は嬉しそうにボクに言った。
『ようやった! おぬしが超えたものを、しかと目に焼き付けよ』
言われて振り向いたら、それはほんのちょっとの段差でしかなかった。
『壁とは超えるまでがたいそう高く見えるものよ』
そう言われると、なんだかばかばかしくてボクも笑えてきた。
『出口はもうすぐだ。儂の案内もいらぬだろう、進め。振りかえる必要は無い』
白猫はそう言って、誇らしげに胸を反らせる。
ボクも、こっくりと頷いて、その白猫にお別れを告げた』
●
執筆作業と平行して、挿絵を描く作業にも入る。
こちらは絵本作りは初めてでもいつか描いてみたいと思っているエヴァや、やはり絵本に興味を持っているらしいエティらが主に進めていく。
「少しブレイクしませんか?」
エリスが持ってきたのは可愛い子猫のラテアートが施されたカプチーノ。それらを有りがたくいただきながら、しかし話は絵本のことに誰もが夢中だ。
ルピナスはせっかくならしかけ絵本にしてみようと提案した。ページの一部に切り抜きを作って次の世界の欠片を見せたり、ちょっとしたギミックを施してみたり、やってみたいことは山のよう。
「せっかくなら完成したら読み聞かせ会もやってみたいね」
ルスティロの提案も、ひどく魅力的だ。そういうことなら任せてと、エリスはさっそく店のドアに即席のポスターを作って貼り付ける。
「こういうほうがテンションも上がるでしょ?」
エリスの笑顔に、こっくり頷くハンターたち。
イラストを描くたびに百面相を繰り返すエティはすっかりイラストを描く作業に没頭しているらしい。主人公である『子猫』の心の機微に合わせて表情をくるくる変えるのは、感情移入の証だからだ。そんな風に一生懸命になって、みんなで一つになって、作業をするのは、楽しい。
さあ、物語はといえば――
●
サラサラと文章を紡ぐのはルスティロ。
お伽話を書いて生活していたというだけあって、その発想力は柔らかだ。
『 今度はどんなところだろう?
ボクが道を歩いていると、前から来たのは一匹の犬。
『こんにちは、犬さん』
『やあこんにちは。どうだい、僕には尻尾が三本あるんだ、すごいだろう?』
よくよく見れば、たしかに三本。
『凄いなあ、凄いなぁ』
ボクはひどくびっくりしながら、今はつるつるのおしりを抑えた。
『でもボクは尻尾は一つでいいや、きっと絡まっちゃうから』
もう少し歩いていたら、今度出てきたのは一体の熊。
『やあこんにちは。どうだい、俺には足が八本もあるんだ。いいだろう?』
言われてみたら、たしかに地面を支える足は六本も!
凄いなあと思いながら、ボクは自分のつるつるの手をそっと見る。
『でもボクは四本でいいや、きっと毛づくろいが大変だから』
また歩いていると、今度出会ったのは一等の虎。
『やあこんにちは。どうだい、俺には顔が2つもあるんだ、いいだろう?』
確かに見れば、顔が二つ!
凄いなあと感心してから、ボクは今のつるつるのほっぺを触ってみる。
『でもボクは一つでいいや、お話はご主人とできるもの』
動物たちと別れを告げると、また小さな光が向こうの方に見えたので、ボクは走り出した』
続いてのページはルピナスの担当だ。
「俺が描くのは……『人形の世界』、だ」
住人たちは皆マリオネット。そんな世界で子猫はどうなるのだろう。
『 どこまでもつづく建物と、古い石畳。
ボクはそこで、声をかけられた。
『お嬢ちゃん、はだしかい? 靴を貸してあげよう、どこまでも行けるよ』
ボクの足は言われてみればホコリまみれ。
ありがとうとお礼を言って靴を履いて歩いてみる。
一歩一歩が大きくて、
本当にどこまでも行けそうで、
ああ、世界はなんて大きいんだろう。
大通りの広場では、みんなが揃って歌ってダンスをしてた。
ららららら、手をとって踊りましょう
楽しい楽しい時間を、って。
でもふと目を留めたら、街角で泣いている子供のお人形。
『どうしたの?』
ボクが聞いたら、
『糸が切れてしまったの、これじゃあもう踊れないわ』
しゃがみこんで泣いてるのを見てボクもすっかり困り顔。
でもふと気づいたんだ。
今はみんなと同じ、ニンゲンの手があるって。
いつも首に巻いてるリボン、今は髪を結んでるリボン。
それをほどいて糸を上手に丁寧に結んであげる。
『これでだいじょうぶだよ!』
ボクの言葉に、そのお人形も嬉しそうに笑ってくれた。
たくさんたくさん踊ったら、なんだか疲れちゃった。
ちょっと休憩、座ったら、それが次の世界への入り口だった』
ルピナスはにっこり。
するとエヴァが、『じゃあ次は私』とスケッチブックを差し出した。
『 目の前に、妖精さんが踊ってる。
でもボクに気づいたら、わっと消えてなくなっちゃった。
フワフワした光がチラッと見えたから、それがもしかしたら妖精さんかも!
ボクは慌てて追いかける。
気づいたら、そこはいつもの道で。
日向に集まる猫達を見て、ボクは思わず声を上げる。
灰色猫のグレイに、しましま猫のアダム。
あっちの黒猫のノワールも、ぶち猫のおじさんも、みんなみんな友達だ。
だけど、みんなはボクに気づいてくれない。
なぜって、ボクは今人間の姿で、人間の言葉を話してるから!
ボクはとっても悲しくなって、寂しくなって、わあっと言って走りだす。
走っているうちに身体がだんだん軽くなっていく。
視界がだんだん低く、
気づけば四本足で、
そしてしなやかなひげと尻尾が風にそよぐ。
気づいたら、ボクはまた猫に戻ってた。
やっぱりボク、猫のほうがいいや。
そのほうが、みんなと遊べるもんね』
そのページは水彩絵の具で、躍動感たっぷりにエヴァが描いていく。
ふかふかの子猫は、とても可愛らしく描けていて、思わず実物かと思ってしまうくらいだ。
懸命なイラストに、思わず誰もが息を呑んだ。
――そうして物語はエピローグ。
『 大好きなご主人さまの声が、遠くに聞こえる。
『ただいまー! あれ、寝てるの? ねーえ?』
ゆっくり目を開けたら、目の前にはご主人さまのキラキラの笑顔。
やっぱりご主人さまだ!
『にゃーお』
おかえりなさい!
外を見たら、おひさまはすっかり茜色。
そうか、もうこんな時間なんだ……寝過ぎちゃったのかな?
『ああ、起きた! あのね、今日はね……』
ご主人さまはいつも、楽しそうにお話をしてくれる。
『にゃ』
ボクも、それを聞いていると、嬉しい。
そうか、そんなことがあったんだね。
でもねでもね、ボクも、今日はすっごく楽しかったんだ!
『あ、ご飯!』
『にゃ!』
ほんとうだ、いい匂いだね。
早くいって食べよう!
……あれ、僕、とっても楽しいこと、あったんだけど。
何だったか、思い出せないや。
ちょっと考えてたら、ご主人さまはもうテーブルに向かってる。
あっ、ちょっと待って、ご主人さまー!』
エピローグの担当も、デュシオンだ。
はじめと終わりで整合性を出すなら同じ書き手がいい――これはお話の基本だろう。
エティはその合間に製本の準備。
子猫のリボンと同じ色の、可愛らしいリボンで表紙を閉じることを提案すると、それはみんなから大賛成をもらった。
更にこっそり作っていたのはかすみ草の押し花で出来た、しおり。
かすみ草の花言葉は『夢心地』――この物語でいろんな夢をはせてくれる、そんな読者に思いを込めて。
肉球スタンプも押せば、すっかり可愛らしい出来になった。
●
それじゃあ、次は朗読会だ。
会場はもちろんここ、シエル。
エリスが貼ったチラシを見て集まってくれた子どもたちを前に、ルスティロが語り始める。
そばではルピナスがリュートを爪弾き、そしてエリス特製のココアがみんなに振る舞われた。
フィリアがゆったり微笑みながら、それをそっと口に運ぶ。
しかけ絵本のギミックも子どもたちには好評で、また別のお話が読みたいと、子どもらしい駄々をこねてみている子もいる。
「またハンターさんの作る絵本をお願いするかもしれないわね」
エリスはそんなふうにくすりと笑った。
忙しいハンターとはいえ、こんな心和む依頼も必要だ。
なんだか少しくすぐったいような、楽しい気分になりながら、ハンターたちは依頼人であるエリスに、笑顔で礼をしたのだった。
『シエル』は本日臨時休業。
しかし依頼されたハンターたちは、マスターであるエリスが喜んで迎え入れてくれた。
特にその中でも、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は久しぶり! とばかりに挨拶のハグ。声を発することの出来ない分、思いは行動や筆談で示す必要がある彼女としては、これはまあありがちな挨拶であったりもするのだが。
「エヴァちゃん、マスターびっくりしてるんじゃない?」
そう言って後ろからやってくるのはルピナス(ka0179)、先日の戦闘で負った怪我はまだ完治していないが、噂のブックカフェで息抜きをするのもまた一興、という感じである。
「今回はタイトルだけしか提示されてないけど、内容やそのほかは自由に決めていいのかな?」
エリスはもちろん! と嬉しそうに頷く。
「それぞれ物語のワンシーンを考えてきたんだけど、それぞれ癖があるだろうからね。それは修正していくつもりだけど」
「ふむふむ。それで『お散歩』はどうなる予定なの?」
エリスに尋ねられた長い緑色の髪も美しいエルフの青年ルスティロ・イストワール(ka0252)が頷くと、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)が、おっとりと微笑む。
「子猫が、色んな所にお散歩に行くの」
――物語は好き、楽しいのは好き、その一つ一つは『雨音』なのだから――
意味深なことを少女は口元で転がしながら、くすりと笑う。といっても、その意味はなかなか他の人には通じにくい、彼女特有の『感性』が生み出す単語なのだけれど。
「面白そうなので、混ぜていただく思いましたの♪」
そう律儀に挨拶をするのはデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)。手元には色とりどりの絵の具があって、いかにも『絵本を頑張りたい』という思いに溢れている。
「子猫は、いろいろな世界を旅していくんですのよ」
デュシオンがそう言うと、皆も頷いた。
「子猫ちゃんの可愛くて不思議な物語……聞いているだけでも可愛くなりそうなタイトルだし、皆が喜んでくれる絵本ができあがるとイイなあ……」
小柄なエルフ少女エティ・メルヴィル(ka3732)がそう言って笑うと、誰もが同調するように、こっくりと頷いたのだった。
●
画用紙やステープラー、画材一式も預かって。
集まったハンターたちは、思い思いに物語を描く。
プロローグはデュシオンが。
『「行ってきまーす!」
「にゃ~お」
ご主人様は遊びに行ったみたい。
ボクは、どうしようかな……。
今日は天気がいいみたい。なんだか、うとうとしてきちゃたや……。
「ん……」
あれ、寝ちゃってたみたいだ……。
ボクも、遊びに行こーっと。
だけど、あれれ?
ボク、ご主人様にだっこしてもらったみたいに、高く見える。
あれれ?
ボク、ご主人様と同じ言葉を話してる……?
「やった……ボク、人間に、ご主人様と同じになれたんだ!」
ボクは嬉しくなった。だって大好きなご主人様みたいな姿なんだもの!
お外で遊ぼう、いっぱい、いーっぱい!』
「……猫は、人間の姿に変化してるの?」
エリスが眺めて問いかける。少女は嬉しそうに、こっくり頷いた。
「……お散歩は、わたしも好き。時々迷子になっちゃうけれど、でもへっちゃらよ? 一人じゃないなら、寂しくないもの」
フィリアが、そう囁くように言ってみせる。彼女独特の感性が、そう言わせるのだろうが。
『 ボクはてくてく歩いてる。
気がついたら、『雨音』のそぼ降るパッチワークの森に迷い込んでた。
見たことない風景が、そこに広がってる。
『雨』は静かに話をしてる。
焼きたてのトーストには何時にジャムを乗せるのがいいのかとか、
それはとっても奇妙な話だったけど、
そんな『雨』のささやきも、ボクには何もかも新鮮なんだ!』
手元の傘をくるりと回して――実のところそれは仕込み傘なのだけれど――フィリアの言葉はまるで文字通りの雨音のように、静かに静かに沈み込んでいく。
「じゃあ、次は私が書きますね」
ミネット・ベアール(ka3282)が、にっこりと笑った。
『 さっきまでいた森を抜けたら、急に世界が真っ暗だ。
自分の足元すら見えないで、ボクはちょっぴり怖くなる。
『上を見なければ危ないぞ、天井がなければ落ちてしまうでな』
突然の太く低い声に、ボクは思わず毛を逆立てた。
声の主はどこ?
それに、上に落ちるって何?
そしたら、またあの声。
『足元ばかり見ていては、先など見えぬもの。何も見えぬ時ほど遠くを見据えよ』
言われて、ボクは視線をあげる。遠くに小さく微かな光。
振り向いたら、金色の目をした初老の白猫が、こちらを見てた。
『あれがこの世界の出口なの?』
『おそらく、そうであろうのう』
光に近づいてみると分かれ道。
どっちに行けばいいんだろう?
『迷うことも出口への道のり。なぁに、何れ同じ道に出ようて。思うままに選べばいい』
選んだ先には高い壁。行き止まりで、ボクは目を丸くする。
でも、白猫はなんだかご機嫌そう。
『おぬしにはそう見えるか。しかしこれは超えるべきもの、儂に続け』
白猫はひょいひょいと登り切る。
ボクは悩んで悩んで、落っこちそうになりながら、擦り傷をいっぱい作りながら、登り切る。
そしたら白猫は嬉しそうにボクに言った。
『ようやった! おぬしが超えたものを、しかと目に焼き付けよ』
言われて振り向いたら、それはほんのちょっとの段差でしかなかった。
『壁とは超えるまでがたいそう高く見えるものよ』
そう言われると、なんだかばかばかしくてボクも笑えてきた。
『出口はもうすぐだ。儂の案内もいらぬだろう、進め。振りかえる必要は無い』
白猫はそう言って、誇らしげに胸を反らせる。
ボクも、こっくりと頷いて、その白猫にお別れを告げた』
●
執筆作業と平行して、挿絵を描く作業にも入る。
こちらは絵本作りは初めてでもいつか描いてみたいと思っているエヴァや、やはり絵本に興味を持っているらしいエティらが主に進めていく。
「少しブレイクしませんか?」
エリスが持ってきたのは可愛い子猫のラテアートが施されたカプチーノ。それらを有りがたくいただきながら、しかし話は絵本のことに誰もが夢中だ。
ルピナスはせっかくならしかけ絵本にしてみようと提案した。ページの一部に切り抜きを作って次の世界の欠片を見せたり、ちょっとしたギミックを施してみたり、やってみたいことは山のよう。
「せっかくなら完成したら読み聞かせ会もやってみたいね」
ルスティロの提案も、ひどく魅力的だ。そういうことなら任せてと、エリスはさっそく店のドアに即席のポスターを作って貼り付ける。
「こういうほうがテンションも上がるでしょ?」
エリスの笑顔に、こっくり頷くハンターたち。
イラストを描くたびに百面相を繰り返すエティはすっかりイラストを描く作業に没頭しているらしい。主人公である『子猫』の心の機微に合わせて表情をくるくる変えるのは、感情移入の証だからだ。そんな風に一生懸命になって、みんなで一つになって、作業をするのは、楽しい。
さあ、物語はといえば――
●
サラサラと文章を紡ぐのはルスティロ。
お伽話を書いて生活していたというだけあって、その発想力は柔らかだ。
『 今度はどんなところだろう?
ボクが道を歩いていると、前から来たのは一匹の犬。
『こんにちは、犬さん』
『やあこんにちは。どうだい、僕には尻尾が三本あるんだ、すごいだろう?』
よくよく見れば、たしかに三本。
『凄いなあ、凄いなぁ』
ボクはひどくびっくりしながら、今はつるつるのおしりを抑えた。
『でもボクは尻尾は一つでいいや、きっと絡まっちゃうから』
もう少し歩いていたら、今度出てきたのは一体の熊。
『やあこんにちは。どうだい、俺には足が八本もあるんだ。いいだろう?』
言われてみたら、たしかに地面を支える足は六本も!
凄いなあと思いながら、ボクは自分のつるつるの手をそっと見る。
『でもボクは四本でいいや、きっと毛づくろいが大変だから』
また歩いていると、今度出会ったのは一等の虎。
『やあこんにちは。どうだい、俺には顔が2つもあるんだ、いいだろう?』
確かに見れば、顔が二つ!
凄いなあと感心してから、ボクは今のつるつるのほっぺを触ってみる。
『でもボクは一つでいいや、お話はご主人とできるもの』
動物たちと別れを告げると、また小さな光が向こうの方に見えたので、ボクは走り出した』
続いてのページはルピナスの担当だ。
「俺が描くのは……『人形の世界』、だ」
住人たちは皆マリオネット。そんな世界で子猫はどうなるのだろう。
『 どこまでもつづく建物と、古い石畳。
ボクはそこで、声をかけられた。
『お嬢ちゃん、はだしかい? 靴を貸してあげよう、どこまでも行けるよ』
ボクの足は言われてみればホコリまみれ。
ありがとうとお礼を言って靴を履いて歩いてみる。
一歩一歩が大きくて、
本当にどこまでも行けそうで、
ああ、世界はなんて大きいんだろう。
大通りの広場では、みんなが揃って歌ってダンスをしてた。
ららららら、手をとって踊りましょう
楽しい楽しい時間を、って。
でもふと目を留めたら、街角で泣いている子供のお人形。
『どうしたの?』
ボクが聞いたら、
『糸が切れてしまったの、これじゃあもう踊れないわ』
しゃがみこんで泣いてるのを見てボクもすっかり困り顔。
でもふと気づいたんだ。
今はみんなと同じ、ニンゲンの手があるって。
いつも首に巻いてるリボン、今は髪を結んでるリボン。
それをほどいて糸を上手に丁寧に結んであげる。
『これでだいじょうぶだよ!』
ボクの言葉に、そのお人形も嬉しそうに笑ってくれた。
たくさんたくさん踊ったら、なんだか疲れちゃった。
ちょっと休憩、座ったら、それが次の世界への入り口だった』
ルピナスはにっこり。
するとエヴァが、『じゃあ次は私』とスケッチブックを差し出した。
『 目の前に、妖精さんが踊ってる。
でもボクに気づいたら、わっと消えてなくなっちゃった。
フワフワした光がチラッと見えたから、それがもしかしたら妖精さんかも!
ボクは慌てて追いかける。
気づいたら、そこはいつもの道で。
日向に集まる猫達を見て、ボクは思わず声を上げる。
灰色猫のグレイに、しましま猫のアダム。
あっちの黒猫のノワールも、ぶち猫のおじさんも、みんなみんな友達だ。
だけど、みんなはボクに気づいてくれない。
なぜって、ボクは今人間の姿で、人間の言葉を話してるから!
ボクはとっても悲しくなって、寂しくなって、わあっと言って走りだす。
走っているうちに身体がだんだん軽くなっていく。
視界がだんだん低く、
気づけば四本足で、
そしてしなやかなひげと尻尾が風にそよぐ。
気づいたら、ボクはまた猫に戻ってた。
やっぱりボク、猫のほうがいいや。
そのほうが、みんなと遊べるもんね』
そのページは水彩絵の具で、躍動感たっぷりにエヴァが描いていく。
ふかふかの子猫は、とても可愛らしく描けていて、思わず実物かと思ってしまうくらいだ。
懸命なイラストに、思わず誰もが息を呑んだ。
――そうして物語はエピローグ。
『 大好きなご主人さまの声が、遠くに聞こえる。
『ただいまー! あれ、寝てるの? ねーえ?』
ゆっくり目を開けたら、目の前にはご主人さまのキラキラの笑顔。
やっぱりご主人さまだ!
『にゃーお』
おかえりなさい!
外を見たら、おひさまはすっかり茜色。
そうか、もうこんな時間なんだ……寝過ぎちゃったのかな?
『ああ、起きた! あのね、今日はね……』
ご主人さまはいつも、楽しそうにお話をしてくれる。
『にゃ』
ボクも、それを聞いていると、嬉しい。
そうか、そんなことがあったんだね。
でもねでもね、ボクも、今日はすっごく楽しかったんだ!
『あ、ご飯!』
『にゃ!』
ほんとうだ、いい匂いだね。
早くいって食べよう!
……あれ、僕、とっても楽しいこと、あったんだけど。
何だったか、思い出せないや。
ちょっと考えてたら、ご主人さまはもうテーブルに向かってる。
あっ、ちょっと待って、ご主人さまー!』
エピローグの担当も、デュシオンだ。
はじめと終わりで整合性を出すなら同じ書き手がいい――これはお話の基本だろう。
エティはその合間に製本の準備。
子猫のリボンと同じ色の、可愛らしいリボンで表紙を閉じることを提案すると、それはみんなから大賛成をもらった。
更にこっそり作っていたのはかすみ草の押し花で出来た、しおり。
かすみ草の花言葉は『夢心地』――この物語でいろんな夢をはせてくれる、そんな読者に思いを込めて。
肉球スタンプも押せば、すっかり可愛らしい出来になった。
●
それじゃあ、次は朗読会だ。
会場はもちろんここ、シエル。
エリスが貼ったチラシを見て集まってくれた子どもたちを前に、ルスティロが語り始める。
そばではルピナスがリュートを爪弾き、そしてエリス特製のココアがみんなに振る舞われた。
フィリアがゆったり微笑みながら、それをそっと口に運ぶ。
しかけ絵本のギミックも子どもたちには好評で、また別のお話が読みたいと、子どもらしい駄々をこねてみている子もいる。
「またハンターさんの作る絵本をお願いするかもしれないわね」
エリスはそんなふうにくすりと笑った。
忙しいハンターとはいえ、こんな心和む依頼も必要だ。
なんだか少しくすぐったいような、楽しい気分になりながら、ハンターたちは依頼人であるエリスに、笑顔で礼をしたのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 ミネット・ベアール(ka3282) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/25 09:03:03 |
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絵本作成所 ミネット・ベアール(ka3282) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/26 17:39:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/25 14:45:04 |