ゲスト
(ka0000)
雷電
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/05 15:00
- 完成日
- 2015/05/12 22:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ゾンネンシュトラール帝国の首都・バルトアンデルス。
イルリ河北岸、バルトアンデルス城下にその店はあった。
ハンターたちが招かれたのは、帝都随一の高級料理店『エーアミット』。
開業後100年以上の歴史を持ち、革命以前は貴族たちの御用達、
今は新興ブルジョワと帝国軍の上級将校を集め、帝国の大立者たちの社交場として知られる。
王国風の壮麗な内装に囲まれた店内を案内され、通されたのは奥の個室。
ドアの前に、厳めしい顔をした男たちが正装して佇んでいる。
店の人間ではないらしく、店員とよそよそしいやり取りをした後、
ハンターたちの顔を確かめ、ようやく個室のドアを開いた。
「ようこそ、ハンター諸君!」
室内には3人の男。席上を見る限り、既に食事を終え、デザート後の一服中といったところのようだ。
ハンターに呼びかけた男はおよそ50歳ほど、恰幅の良い身体を高級な背広で包み、
薄くなりかけた茶髪を後ろに撫でつけ、顔の下半分が豊かな髭で覆われている。
同席のふたりも同年代のようだ。片方は金髪で、眼鏡をかけた痩せぎすの人物。
しかめっ面をし、背広についたパン屑をひとつひとつつまんで捨てる仕草が、いかにも神経質そうだった。
残るひとりは上座に座り、葉巻をくゆらせて、訳もなくにこにことしている。
ハンサムな男だが、恰好の良い口髭にクリームがついている。本人は気づかないらしい。
茶髪の男が身振りをして、
「どうぞ、座りたまえ。食事にはもう遅い時間だが、良ければコーヒーでも?」
●
茶髪の男は、自らをオラウス・フリクセルと名乗った。
「ここ、帝都でちょっとした商売をやってる者だ。向かいの彼は」
と、眼鏡の男を示す。
「銀行家のヴェールマン氏。何だか難しい顔してるが、気にしないでくれ。
彼のごひいきの店が最近潰れてね、それで機嫌が悪いんだ」
一瞬、眼鏡の男がぎろりとフリクセル氏を睨み上げた。
だが当のフリクセル氏は全く意に介さず、
「そしてこちらが……我らがバルトアンデルス市長、ヨーゼフ・バスラ―」
上座のハンサムが、さも嬉しげに頷いてみせた。
帝都の市長ともなれば大変に権威ある人物――とは行かず、
バルトアンデルスは帝国軍第一師団の師団都市を兼ねており、彼らが行政の決定権の大半を握っている。
帝都に限らず、軍政の敷かれた帝国にあって、軍以外の政府機関の権限はたかが知れているのだが、
「市長は職務に大変熱心なお方でね。帝都における、ある重要問題を解決すべく尽力中だ。
私とヴェールマン氏は彼の友人で、今回の件はアドバイザーとして参加しているのだが……」
フリクセル氏が、テーブルの下からおもむろに1枚の新聞を取り出した。
『バルトアンデルス日報』、通称バルツ。帝都で発行されている、大衆向けローカル紙だ。
広げられた紙面の片側は、東方の血を引くという帝都在住の旧家へのインタビューだが、
フリクセルが指さしたのはその反対側、『帝都暗夜行』なる特集記事の第1回だった。
記事の内容は帝都南東部、ブレーナードルフ区の貧民街に関するもので、
周辺住民や『とある関係筋』から訊き出したという現地事情に、ちょっとした論評が添えられている。
「これが、我々の抱える重要問題という奴だ。
記事によると貧民街では近頃、ふたつのならず者のグループが縄張りを巡って争ってるらしい。
本格的な抗争が始まる予兆もあり、現に死者1名がイルリ河から発見されているとか。
どう思うね? 帝国の心臓、皇帝の玉座たるバルトアンデルスで、こんな騒ぎが起きているとは。
帝都は帝国諸都市の範とならねばならん……風紀の乱れ、治安の悪化は大変嘆かわしいことだ」
●
そこでようやく、フリクセル氏が依頼の内容へと踏み込む。
「市長と私たちは、貧民街の環境改善に向けて、とある大計画を練っているところだ。
しかし、ならず者たちの仲違いがその障害となるだろう……是非、我々の手で解決したい。それも穏便に。
となれば、まずは彼らの話を聞き、一体何を求めているのかを知ることが肝要じゃないかね?
私たちは――ふたりを連れてきてくれ」
氏がドアに向かって言うと、少しの後、ふたりの男が新たに入ってきた。
ぱりっとした正装姿で、いかにも帝都のビジネスマン然としているが、
ハンターたちは彼らの目つきに、どことなく剣呑な雰囲気を感じた。
「私の部下の、ロートとブラウだ。
このふたりを、えー、ならず者たちに対する一種の交渉役として貧民街へ送り込みたいのだが、
抗争の噂もあり、行った先で何かと物騒なことに巻き込まれるかも知れない。
なので、君たちハンターに、ふたりの護衛を務めて欲しいのだ」
「依頼内容はそれだけではない。私が調べさせてもらったところによると、
貧民街絡みの事件で君たちハンターが活躍した前歴が、いくつかあるそうだね?
バルツでも、記者の護衛にハンターを雇ったと聞く。そういった経験があれば、是非役立ててもらいたい。
ロートとブラウを護衛する傍ら、君たちのほうでも情報を集めてもらえると助かる。
実戦経験者の目から見て、彼らがどれほどの武器や資金を持つのか、何を欲しがっているのか、
縄張りはどこからどこまでか、住民は彼らをどう思っているのか、まぁそんなところだな。
もし、あちらに知り合いがいるようなら、そういった人々からも話を訊いてもらえると嬉しいね」
フリクセル氏は依頼料を提示しつつ、ハンターたちの顔色を眺める。
「帝都の治安維持となれば本来は、精鋭なる第一師団が出番の筈。
何故我々が首を突っ込むのか、不思議に思う向きもあるだろう。
しかし、これはひとえに愛国心故の行為なのだ。考えてもみてくれ――」
と、思わせぶりに言葉を切り、
「皇帝陛下のお膝もとで、第一師団の憲兵隊が、武装したならず者たちを力ずくで抑え込む。
市民たちはこう感じるだろう、『帝都の治安は悪化している、第一師団が街中でその武力を行使するほどに!』。
おまけに最近は反体制派、ヴルツァライヒとか言ったかな? そういった連中も出てきて、
そこに帝都で騒乱が起これば、奴らがとうとう帝都まで進撃してきた!
なんて勘違いも生まれるかも知れない。市民の安寧は、却って脅かされてしまう。
だから我々が、もっと穏健な手立てで問題を解決しようというのだね。
これは、帝都と帝国の安全に貢献する重要な仕事なのだ。
君たちにとっても、報酬を得た上、帝国に奉仕するまたとない機会の筈だよ。
是非、奮ってご協力頂きたい」
フリクセル氏は喋り終えると、満足げな顔で席にもたれた。
市長はにこにこしている。ヴェールマン氏はしかめっ面のまま、どこか他所を向いていた。
実に奇妙な依頼主3人だ――しかし、提示された報酬額は悪くなかった。
ゾンネンシュトラール帝国の首都・バルトアンデルス。
イルリ河北岸、バルトアンデルス城下にその店はあった。
ハンターたちが招かれたのは、帝都随一の高級料理店『エーアミット』。
開業後100年以上の歴史を持ち、革命以前は貴族たちの御用達、
今は新興ブルジョワと帝国軍の上級将校を集め、帝国の大立者たちの社交場として知られる。
王国風の壮麗な内装に囲まれた店内を案内され、通されたのは奥の個室。
ドアの前に、厳めしい顔をした男たちが正装して佇んでいる。
店の人間ではないらしく、店員とよそよそしいやり取りをした後、
ハンターたちの顔を確かめ、ようやく個室のドアを開いた。
「ようこそ、ハンター諸君!」
室内には3人の男。席上を見る限り、既に食事を終え、デザート後の一服中といったところのようだ。
ハンターに呼びかけた男はおよそ50歳ほど、恰幅の良い身体を高級な背広で包み、
薄くなりかけた茶髪を後ろに撫でつけ、顔の下半分が豊かな髭で覆われている。
同席のふたりも同年代のようだ。片方は金髪で、眼鏡をかけた痩せぎすの人物。
しかめっ面をし、背広についたパン屑をひとつひとつつまんで捨てる仕草が、いかにも神経質そうだった。
残るひとりは上座に座り、葉巻をくゆらせて、訳もなくにこにことしている。
ハンサムな男だが、恰好の良い口髭にクリームがついている。本人は気づかないらしい。
茶髪の男が身振りをして、
「どうぞ、座りたまえ。食事にはもう遅い時間だが、良ければコーヒーでも?」
●
茶髪の男は、自らをオラウス・フリクセルと名乗った。
「ここ、帝都でちょっとした商売をやってる者だ。向かいの彼は」
と、眼鏡の男を示す。
「銀行家のヴェールマン氏。何だか難しい顔してるが、気にしないでくれ。
彼のごひいきの店が最近潰れてね、それで機嫌が悪いんだ」
一瞬、眼鏡の男がぎろりとフリクセル氏を睨み上げた。
だが当のフリクセル氏は全く意に介さず、
「そしてこちらが……我らがバルトアンデルス市長、ヨーゼフ・バスラ―」
上座のハンサムが、さも嬉しげに頷いてみせた。
帝都の市長ともなれば大変に権威ある人物――とは行かず、
バルトアンデルスは帝国軍第一師団の師団都市を兼ねており、彼らが行政の決定権の大半を握っている。
帝都に限らず、軍政の敷かれた帝国にあって、軍以外の政府機関の権限はたかが知れているのだが、
「市長は職務に大変熱心なお方でね。帝都における、ある重要問題を解決すべく尽力中だ。
私とヴェールマン氏は彼の友人で、今回の件はアドバイザーとして参加しているのだが……」
フリクセル氏が、テーブルの下からおもむろに1枚の新聞を取り出した。
『バルトアンデルス日報』、通称バルツ。帝都で発行されている、大衆向けローカル紙だ。
広げられた紙面の片側は、東方の血を引くという帝都在住の旧家へのインタビューだが、
フリクセルが指さしたのはその反対側、『帝都暗夜行』なる特集記事の第1回だった。
記事の内容は帝都南東部、ブレーナードルフ区の貧民街に関するもので、
周辺住民や『とある関係筋』から訊き出したという現地事情に、ちょっとした論評が添えられている。
「これが、我々の抱える重要問題という奴だ。
記事によると貧民街では近頃、ふたつのならず者のグループが縄張りを巡って争ってるらしい。
本格的な抗争が始まる予兆もあり、現に死者1名がイルリ河から発見されているとか。
どう思うね? 帝国の心臓、皇帝の玉座たるバルトアンデルスで、こんな騒ぎが起きているとは。
帝都は帝国諸都市の範とならねばならん……風紀の乱れ、治安の悪化は大変嘆かわしいことだ」
●
そこでようやく、フリクセル氏が依頼の内容へと踏み込む。
「市長と私たちは、貧民街の環境改善に向けて、とある大計画を練っているところだ。
しかし、ならず者たちの仲違いがその障害となるだろう……是非、我々の手で解決したい。それも穏便に。
となれば、まずは彼らの話を聞き、一体何を求めているのかを知ることが肝要じゃないかね?
私たちは――ふたりを連れてきてくれ」
氏がドアに向かって言うと、少しの後、ふたりの男が新たに入ってきた。
ぱりっとした正装姿で、いかにも帝都のビジネスマン然としているが、
ハンターたちは彼らの目つきに、どことなく剣呑な雰囲気を感じた。
「私の部下の、ロートとブラウだ。
このふたりを、えー、ならず者たちに対する一種の交渉役として貧民街へ送り込みたいのだが、
抗争の噂もあり、行った先で何かと物騒なことに巻き込まれるかも知れない。
なので、君たちハンターに、ふたりの護衛を務めて欲しいのだ」
「依頼内容はそれだけではない。私が調べさせてもらったところによると、
貧民街絡みの事件で君たちハンターが活躍した前歴が、いくつかあるそうだね?
バルツでも、記者の護衛にハンターを雇ったと聞く。そういった経験があれば、是非役立ててもらいたい。
ロートとブラウを護衛する傍ら、君たちのほうでも情報を集めてもらえると助かる。
実戦経験者の目から見て、彼らがどれほどの武器や資金を持つのか、何を欲しがっているのか、
縄張りはどこからどこまでか、住民は彼らをどう思っているのか、まぁそんなところだな。
もし、あちらに知り合いがいるようなら、そういった人々からも話を訊いてもらえると嬉しいね」
フリクセル氏は依頼料を提示しつつ、ハンターたちの顔色を眺める。
「帝都の治安維持となれば本来は、精鋭なる第一師団が出番の筈。
何故我々が首を突っ込むのか、不思議に思う向きもあるだろう。
しかし、これはひとえに愛国心故の行為なのだ。考えてもみてくれ――」
と、思わせぶりに言葉を切り、
「皇帝陛下のお膝もとで、第一師団の憲兵隊が、武装したならず者たちを力ずくで抑え込む。
市民たちはこう感じるだろう、『帝都の治安は悪化している、第一師団が街中でその武力を行使するほどに!』。
おまけに最近は反体制派、ヴルツァライヒとか言ったかな? そういった連中も出てきて、
そこに帝都で騒乱が起これば、奴らがとうとう帝都まで進撃してきた!
なんて勘違いも生まれるかも知れない。市民の安寧は、却って脅かされてしまう。
だから我々が、もっと穏健な手立てで問題を解決しようというのだね。
これは、帝都と帝国の安全に貢献する重要な仕事なのだ。
君たちにとっても、報酬を得た上、帝国に奉仕するまたとない機会の筈だよ。
是非、奮ってご協力頂きたい」
フリクセル氏は喋り終えると、満足げな顔で席にもたれた。
市長はにこにこしている。ヴェールマン氏はしかめっ面のまま、どこか他所を向いていた。
実に奇妙な依頼主3人だ――しかし、提示された報酬額は悪くなかった。
リプレイ本文
●
ひとり貧民街を訪れた壬生 義明(ka3397)だったが、
(もうちょい賑やかなものかと思ったけどねぇ)
抗争の噂もあってか、貧民街の日中の人通りは非常に少なく、警戒心も強い。ようやく見つけた情報源は、
「ま、あんたも一杯」
路上で寝ていた浮浪者の男。齢4、50くらいか。
男ふたり、人目につかない建物の陰でブランデーを回し飲みする。
「おじさんは、いつからここに住んでるの」
「そうだな、もうかれこれ10……」
汚れた指で浮浪者暮らしの年数を数えようとするが、はっきり思い出せないようで、
「……ま、それなりに。街に来たのは、革命が終わった頃だ」
通り一遍の苦労話が続いた。
故郷が革命戦争で荒れ果て、仕事を探して帝都に来たは良いが、
どの仕事も長く続かず、気づけば文なしになっていた。
「人生経験、豊富なようだねぇ」
「あんたこそ、ハンターなんかやってんなら、色々変わったもんも見てるだろ」
正体を見抜かれて、義明は少しの間、男の顔を間近に見つめた。
「分かるさ。噂んなってんだよ、近頃はよそ者がここに出入りしてる、
その内の何人かはハンターだってな。あんたはやくざにゃ見えないし……、
こんなところに来て、金になる仕事があるのかい?」
「これが仕事さ。おじさんから面白い話が聞ければ、ってねぇ」
義明がそう答えると、男は酒に濡れた口を拭って、にやりと笑う。
「じゃあ、酒代ぶんくらいは返さないとな」
●
「そう、お代のぶんは付き合うよ。さっ、話せ」
貧民街南部のうらぶれた酒場『シュタートゥエ』。
こちらもひとりで訪れたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だが、
酒場を根城にした15人ほどのちんぴらは、彼をあからさまに警戒している。
店に近づくなり数人に取り囲まれ、謝礼金と酒瓶を見せるとようやく通された。
アウレールは椅子の背を倒し、テーブルに脚を乗せ、
「オラウス・フリクセル」
それだけ言って、差し向かいに座る頭目の顔色をうかがった。
頭目の目がちら、と光った感じがしたが、答えはない。
「知ってる人物じゃないかと思うんだけど」
「そういう坊やは、一体誰のお使いなんだ?」
アウレールは肩をすぼめ、
「アイツ、うちの商売仇でさ」
背後で、ちんぴらたちが微かに身動きする気配を感じた。
革や金具の擦れる音――彼らは武器を帯びている。
「市長と、銀行家のヴェールマンとかいう男と組んで、貧民街に何か仕掛けるつもりらしいけど」
「だから、どうした」
「あんたたちもろとも、貧民街が消えるとしたら、どうする?」
●
「シュタートゥエな。あいつらも、そんな古株じゃねぇんだよ」
浮浪者の男が言う。義明は付き合いでひと口酒を含むと、瓶を男へ返した。
「革命前から柄の悪いドヤ街だったそうだが、
その頃はまた別のやくざ連中が仕切ってたんだ……けど、革命で街の人間が入れ替わってね」
革命直後、街には地方で職を失った人々が大挙して押し寄せていた。
多くは家賃の低い貧民街に宿を求めたのだが、
やがて工場や軍隊に仕事の口が広がると、あっさりと街を出ていってしまった。
「もう、街中にゃ新しい工場を建てる敷地もろくになかったからさ。
外に働き口を見つけた連中は、さっさと逃げ出した訳よ。
で、やくざも一緒に移動して……後に残ったのは、俺みたく本当に行き場のない奴ばっかりだ」
義明は相槌を打って、話の続きを促した。
急激な人口の増減を経て、貧民街の裏社会は空白地帯となった。
帝都の他の縄張りを締める暴力団は、より儲けの多い街区での勢力争いにかまけており、
「気づけば、シュタートゥエの連中がここらで生き残ってたって訳さ。
近頃は、ガキどもがそいつをひっくり返そうとあれこれやってるらしいけどな」
●
本当に、彼らは全くの子供だった。
黒服姿のクリスティン・ガフ(ka1090)、盾を手にしたレイ・T・ベッドフォード(ka2398)が、
交渉役のブラウを伴って進み出る。ここは貧民街北部のとある路地、
『ジンプリチシムス団』を名乗るその少年たちが、道の先にある廃墟群を守っていた。
小隊長のハンスを名乗る少年が、
「フリクセルとか言ったな? ボスに訊いてくる、それまで動くんじゃねぇぞ」
と言うと、グループでも最年少の7、8歳の子供が連絡役らしく、早速路地を駆け抜けていった。
「賢明な判断だ。ボスの教育が良いのかな」
クリスティンの世辞に、険しい顔をしていたハンスも一瞬頬を緩める。
「ああ、俺たちのボスはすげぇ人だ。俺たちを一人前に仕込んでくれたぜ!」
交渉人を警護しながら、レイは耳をそばだてていた。
霊闘士の超聴覚が、連絡役の足音を追う――
ひそひそ声がして、それから足音が増えた。どれも体重の軽い子供の足音、あちこちの建物の中や外から。
(網目状の連絡網。路地だけでなく、建物の中にも張り巡らされているようですね)
他の路地の入口も、同じような子供たちで守られているのだろう。やがて、
「広間に通せって!」
「ボスがお会いになる。妙な真似、するなよ!」
ハンスの言葉に、交渉人のブラウがクリスティンとレイへ頷いた。
ふたりは背後を主に警戒しつつ、ブラウをつれて、子供たちの先導へ続いていった。
●
(――そういうことか)
警戒心剥き出しのちんぴらたちを前に、アウレールは合点が行った。
少年ばかりの新興ギャング・ジンプリチシムス団。
アウレールは年齢的に、彼らの仲間と見られて不思議ではなかった。
(こいつらもその辺り、確信はないようだが……)
これでは何を言っても疑われるばかりで、埒があかない。ちんぴらたちの反応を注視しながら、
「これから、フリクセルの手下がここを訪ねてくる。
対応は任せるけど、ハンターの護衛つきだ。せいぜい注意したほうが良いよ」
頭目はふん、と鼻を鳴らす。潮時と見て、アウレールは慎重に席を立ち、
「ところであんたたち、ヴルツァライヒについて何か知らないか?」
「いいや」
そっぽを向く頭目。
「……それじゃ、仕方ないな。良い1日を」
アウレールはそのまま、悠然と店を後にした。
敵方の術策と思しき人物の訪問は、彼らに何がしかの不安を抱かせたことになるだろうが、それがどう転ぶか――
続いて現れた交渉人・ロートと、北条・真奈美(ka4064)、北条・佳奈美(ka4065)の姉妹に対して、
シュタートゥエの頭目はあからさまに媚びを売った。
「フリクセルさんの名は勿論知ってる。
こんなシケたところでも、あのお方の噂は入ってくるからね」
丁重に迎えられたロートは、満足げに頷いてみせる。
北条姉妹は酒を手土産に差し出した上、周りを固めるちんぴらたちに擦り寄り、
「皆のことを、あたしたちにイロイロと教えて欲しいなぁ~って♪」
真奈美にしなだれかかられて、ちんぴらのひとりが鼻の下を伸ばす。
「へへへ……良いぜ姉ちゃん。ズバリ、ここらを仕切ってるのは俺たちだ。
俺らの名前を出せば、地元の連中は誰も頭が上がらねぇ」
「でも、近頃は悪い子たちも出てきてるんでしょ?」
佳奈美が尋ねると、
「ただの生意気なガキどもよ! 近い内、ぶっ潰してやるさぁ」
●
「君が、ライデンかね」
ブラウが、ぼさぼさの金髪の青年へ訊いた。
交渉人とクリスティン、レイが通されたのは、
取り壊されたアパルトマンの瓦礫が野ざらしで広がる空地だった。
周囲を、これも古い建物に囲われ、中庭のような形になっている。
12、3人の少年たちがほうぼうに立ち、その中央、小さな石台に腰かけているのがボス、ライデンと見えた。
目元は長い前髪に隠れ、離れた距離からでは表情はうかがえない。色白、鼻頭に茶色いそばかすが目立つ。
歳は17、8くらいだろうか、痩せ形で、擦り切れた軍用のジャケットを羽織っている。
ブラウに答えず、前髪の下からじっとこちらを見つめるばかりだった。
彼の両脇には、腹心と思しき同年代の少年がふたり。
片方は筋骨隆々とした色黒の大男で、頭を綺麗に剃り上げている。
もうひとりはのっぽで線の細い、エルフの美少年。
長い手足をゆさゆさと揺すって、落ち着きがない。腰に大きな拳銃を差していた。
他の少年たち――路地の見張りよりもう少し年長の子供たちも、
交渉人ら3人をねめつけたままじっと動かないが、時折、銃の重みでズボンが下がるのを直す者がいる。
(武装はそれなりに充実しているようだ。それに……)
クリスティンが見やると、レイも小さく頷いた。
空地を囲む建物のあちこちの窓に、誰かが立っている。
遠くてはっきりとは見えないが、手にしているのは小銃のようだ。
(全部で20人ほど、路地の子供たちを含めれば30人以上のグループですね)
●
「俺たちは全部で20人、半分くらいが銃を持ってる。
北側のガキどももどっからか銃を買ったみたいだが」
シュタートゥエの頭目は肩をすぼめた。努めて楽な顔をしてみせ、
「ホントにガキばっかりなんだ。問題じゃないよ」
確かに、真奈美はちんぴらたちへ身体を寄せたときの感触で、
彼らの内5、6人が拳銃を持っているのが分かった。
「皆さんは、どうやって銃を買うお金を稼いでらっしゃるんですかぁ?」
「あれを少々、これを少々ってとこかな。
酒、賭け屋、女、街の連中が欲しがるものを集めてきて売ってる」
「南側の縄張りだけで、成り立つものかしら?」
佳奈美が言うと、
「北側は元々ホントの貧乏人しかいないからな。商売するなら、この店の近場で充分なんだ。もっとも……」
と、交渉人を見つめて、
「フリクセルさんのご協力が頂けるなら、事業拡大の目がない訳でもないだろう」
交渉人がテーブルに身を乗り出す。
「フリクセル氏は今後のことを考え、穏便な解決をお望みだ。
君たちにその能力があろうと、敵対するグループを皆殺しにして、世間の目を集めることはして欲しくない」
「そりゃ、勿論……」
「北側のことは、我々のアドバイスに従って処理してもらいたい」
●
「他所のやくざ連中が出張れば、シュタートゥエなんて軽くふたつに折って捨てられるだろうな」
とは、浮浪者の男の言。
「長年、小さな縄張りで満足してるような連中だからさ。
今まで抗争が起きなかったのは、誰もこの街に注意を向けなかったからだろう」
「でも、新しいギャングは? ぶつかり合いはあったのかい?」
義明の質問に、男はかぶりを振って、
「あいつらのことは良く分からん。突然現れたボスが、浮浪児たちを手なづけちまった。
シュタートゥエがひとり、脅しにかかって逆に殺られちまったって噂だ。
北側近くのアパルトマンも、もう奴らの縄張りになってるかもな」
「外からお偉い人が訪ねてくるようなことは?」
「金のありそうな奴は時々来るよ。
けど、同じ顔を頻繁に見るこたねぇな。あんたと同じで、何かの調べ物に来たんじゃないか?」
そこで男は瓶の残りを干して、
「悪いがこれで終いだ! 美味かったよ兄ちゃん」
「そいつはどうも。こっちこそ、色々聞かせてもらえたねぇ」
義明が知った限りでは、シュタートゥエは決して大きな力を持つグループではないらしい。
だが、対するジンプリチシムス団は一体どれほどの戦力なのか?
●
無言のままのライデン。
「いやはや、精強な団、ですね」
にこやかに話しかけるレイだったが、誰もまともに会話に応じる気配がない。
彼が見たところ、少年たちの栄養状態は悪くない。
痩せこけてはいるが、例えば河原のバラックで出会った子供たちなどに比べれば、
ずっとまともな食事を摂れているようだった。誰の目も、精気と敵意に溢れている。
クリスティンの見立てでは、彼らは何がしかの訓練も受けていると思われた。
居並ぶ少年たち、一見漫然と立ち尽くしているようだが、
(その実、互いに拳銃の火線を避けながら、こちらを包囲している。
いざとなれば3人とも蜂の巣にしてやると……そういうことだな)
「フリクセルの旦那に伝えてくれや」
ライデンが出し抜けに口を開いた。高くてかすれた、特徴的な声だった。
「俺たちはできるだけ、静かにやるつもりだ。
妙にこじれさせねぇほうが、おたくも損がねぇってな。あんた名前は」
「ブラウだ」
「次からはひとりで来い……ハンターなんざ引き回してねぇで」
そこで、ライデンがクリスティンとレイに顔を向けた。
見返して、クリスティンはふと懐かしい感覚を覚える。
「ハンターと名乗った憶えはないが、分かるか」
「その間抜け面でな。ハンターはすぐ分かる、どいつもこいつも阿呆ばっかよ」
ライデンが投げやりに片腕を振った。
「お互い、これで面は覚えた。帰れ」
もう、相手方には何も話をする気がなかった。
帰り道で、ふとクリスティンは思う。
(抗争が穏便に済むことは、まずなさそうだな。目つきで分かる、あれは戦いが好きなのだ)
顔を見合わせたとき、僅かに覗いた彼の青い瞳には、凶暴な光が宿っていた。
●
会談の後、北条姉妹はおよそ同じ結論に達していた。シュタートゥエの頭目、あれは、
「臆病さんかもねぇ。そう思わない、カナちゃん?」
「虚勢を張ってはいても、新興ギャングに内心、戦々恐々ね。
助けが欲しくて仕方ないのよ。だから貴方の話に飛びついた」
と、ロートに目を向ける。
「これから、あの街はどうなるのかしらね?」
ロートは無言だった。今回得られた情報で、フリクセルは何を企むのか――
「ただ、何かが起こる前。そして起こった時――情報の有無が、何かを決め得ます」
バルツの社屋近くのカフェで、レイは女性記者・ドリスへ、フリクセルの素性について尋ねた。
答えを渋るドリスだったが、彼女にも役立つネタを掴んだ、と説得すると、
「有名な実業家だよ。飲食店、ホテル業、運送業、警備会社、賭場、色々経営してる……、
けど、それは表の顔。正体は、帝都の裏社会を牛耳るやくざの大物だね」
フリクセルは12年前の革命戦争当時、『突撃隊』なる集団を率いて義勇軍に参加。
旧帝国側の村々を襲い、略奪その他ありとあらゆる非道に手を染めたらしい。
「でも、戦争だったからね。戦後は革命軍とのコネを使って商売をしつつ、
帝都中のやくざを取りまとめ、今じゃ裏社会の顔って訳。
もっとも、最近は実業家としての顔を売るほうが熱心で、ギャングの仕事は部下に任せてるようだけど」
今回受けた依頼について話すと、
「長らく空白地帯だった貧民街を押さえて、帝都全域を縄張りにする気かな。
悪徳高利貸のヴェールマンや、市長が関わってるのなら、何か大きな儲け話がある筈だ。私も追ってみるよ」
レイは河原の浮浪者たちを思い出す。
ギャング同士の抗争は勿論だが、フリクセルもまた潔白な人物でないとするなら。
どう転んでも、彼らの暮らしは脅かされるかも知れない。
(そのとき、マティ……貴方がたは、どうされるのですか)
ひとり貧民街を訪れた壬生 義明(ka3397)だったが、
(もうちょい賑やかなものかと思ったけどねぇ)
抗争の噂もあってか、貧民街の日中の人通りは非常に少なく、警戒心も強い。ようやく見つけた情報源は、
「ま、あんたも一杯」
路上で寝ていた浮浪者の男。齢4、50くらいか。
男ふたり、人目につかない建物の陰でブランデーを回し飲みする。
「おじさんは、いつからここに住んでるの」
「そうだな、もうかれこれ10……」
汚れた指で浮浪者暮らしの年数を数えようとするが、はっきり思い出せないようで、
「……ま、それなりに。街に来たのは、革命が終わった頃だ」
通り一遍の苦労話が続いた。
故郷が革命戦争で荒れ果て、仕事を探して帝都に来たは良いが、
どの仕事も長く続かず、気づけば文なしになっていた。
「人生経験、豊富なようだねぇ」
「あんたこそ、ハンターなんかやってんなら、色々変わったもんも見てるだろ」
正体を見抜かれて、義明は少しの間、男の顔を間近に見つめた。
「分かるさ。噂んなってんだよ、近頃はよそ者がここに出入りしてる、
その内の何人かはハンターだってな。あんたはやくざにゃ見えないし……、
こんなところに来て、金になる仕事があるのかい?」
「これが仕事さ。おじさんから面白い話が聞ければ、ってねぇ」
義明がそう答えると、男は酒に濡れた口を拭って、にやりと笑う。
「じゃあ、酒代ぶんくらいは返さないとな」
●
「そう、お代のぶんは付き合うよ。さっ、話せ」
貧民街南部のうらぶれた酒場『シュタートゥエ』。
こちらもひとりで訪れたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だが、
酒場を根城にした15人ほどのちんぴらは、彼をあからさまに警戒している。
店に近づくなり数人に取り囲まれ、謝礼金と酒瓶を見せるとようやく通された。
アウレールは椅子の背を倒し、テーブルに脚を乗せ、
「オラウス・フリクセル」
それだけ言って、差し向かいに座る頭目の顔色をうかがった。
頭目の目がちら、と光った感じがしたが、答えはない。
「知ってる人物じゃないかと思うんだけど」
「そういう坊やは、一体誰のお使いなんだ?」
アウレールは肩をすぼめ、
「アイツ、うちの商売仇でさ」
背後で、ちんぴらたちが微かに身動きする気配を感じた。
革や金具の擦れる音――彼らは武器を帯びている。
「市長と、銀行家のヴェールマンとかいう男と組んで、貧民街に何か仕掛けるつもりらしいけど」
「だから、どうした」
「あんたたちもろとも、貧民街が消えるとしたら、どうする?」
●
「シュタートゥエな。あいつらも、そんな古株じゃねぇんだよ」
浮浪者の男が言う。義明は付き合いでひと口酒を含むと、瓶を男へ返した。
「革命前から柄の悪いドヤ街だったそうだが、
その頃はまた別のやくざ連中が仕切ってたんだ……けど、革命で街の人間が入れ替わってね」
革命直後、街には地方で職を失った人々が大挙して押し寄せていた。
多くは家賃の低い貧民街に宿を求めたのだが、
やがて工場や軍隊に仕事の口が広がると、あっさりと街を出ていってしまった。
「もう、街中にゃ新しい工場を建てる敷地もろくになかったからさ。
外に働き口を見つけた連中は、さっさと逃げ出した訳よ。
で、やくざも一緒に移動して……後に残ったのは、俺みたく本当に行き場のない奴ばっかりだ」
義明は相槌を打って、話の続きを促した。
急激な人口の増減を経て、貧民街の裏社会は空白地帯となった。
帝都の他の縄張りを締める暴力団は、より儲けの多い街区での勢力争いにかまけており、
「気づけば、シュタートゥエの連中がここらで生き残ってたって訳さ。
近頃は、ガキどもがそいつをひっくり返そうとあれこれやってるらしいけどな」
●
本当に、彼らは全くの子供だった。
黒服姿のクリスティン・ガフ(ka1090)、盾を手にしたレイ・T・ベッドフォード(ka2398)が、
交渉役のブラウを伴って進み出る。ここは貧民街北部のとある路地、
『ジンプリチシムス団』を名乗るその少年たちが、道の先にある廃墟群を守っていた。
小隊長のハンスを名乗る少年が、
「フリクセルとか言ったな? ボスに訊いてくる、それまで動くんじゃねぇぞ」
と言うと、グループでも最年少の7、8歳の子供が連絡役らしく、早速路地を駆け抜けていった。
「賢明な判断だ。ボスの教育が良いのかな」
クリスティンの世辞に、険しい顔をしていたハンスも一瞬頬を緩める。
「ああ、俺たちのボスはすげぇ人だ。俺たちを一人前に仕込んでくれたぜ!」
交渉人を警護しながら、レイは耳をそばだてていた。
霊闘士の超聴覚が、連絡役の足音を追う――
ひそひそ声がして、それから足音が増えた。どれも体重の軽い子供の足音、あちこちの建物の中や外から。
(網目状の連絡網。路地だけでなく、建物の中にも張り巡らされているようですね)
他の路地の入口も、同じような子供たちで守られているのだろう。やがて、
「広間に通せって!」
「ボスがお会いになる。妙な真似、するなよ!」
ハンスの言葉に、交渉人のブラウがクリスティンとレイへ頷いた。
ふたりは背後を主に警戒しつつ、ブラウをつれて、子供たちの先導へ続いていった。
●
(――そういうことか)
警戒心剥き出しのちんぴらたちを前に、アウレールは合点が行った。
少年ばかりの新興ギャング・ジンプリチシムス団。
アウレールは年齢的に、彼らの仲間と見られて不思議ではなかった。
(こいつらもその辺り、確信はないようだが……)
これでは何を言っても疑われるばかりで、埒があかない。ちんぴらたちの反応を注視しながら、
「これから、フリクセルの手下がここを訪ねてくる。
対応は任せるけど、ハンターの護衛つきだ。せいぜい注意したほうが良いよ」
頭目はふん、と鼻を鳴らす。潮時と見て、アウレールは慎重に席を立ち、
「ところであんたたち、ヴルツァライヒについて何か知らないか?」
「いいや」
そっぽを向く頭目。
「……それじゃ、仕方ないな。良い1日を」
アウレールはそのまま、悠然と店を後にした。
敵方の術策と思しき人物の訪問は、彼らに何がしかの不安を抱かせたことになるだろうが、それがどう転ぶか――
続いて現れた交渉人・ロートと、北条・真奈美(ka4064)、北条・佳奈美(ka4065)の姉妹に対して、
シュタートゥエの頭目はあからさまに媚びを売った。
「フリクセルさんの名は勿論知ってる。
こんなシケたところでも、あのお方の噂は入ってくるからね」
丁重に迎えられたロートは、満足げに頷いてみせる。
北条姉妹は酒を手土産に差し出した上、周りを固めるちんぴらたちに擦り寄り、
「皆のことを、あたしたちにイロイロと教えて欲しいなぁ~って♪」
真奈美にしなだれかかられて、ちんぴらのひとりが鼻の下を伸ばす。
「へへへ……良いぜ姉ちゃん。ズバリ、ここらを仕切ってるのは俺たちだ。
俺らの名前を出せば、地元の連中は誰も頭が上がらねぇ」
「でも、近頃は悪い子たちも出てきてるんでしょ?」
佳奈美が尋ねると、
「ただの生意気なガキどもよ! 近い内、ぶっ潰してやるさぁ」
●
「君が、ライデンかね」
ブラウが、ぼさぼさの金髪の青年へ訊いた。
交渉人とクリスティン、レイが通されたのは、
取り壊されたアパルトマンの瓦礫が野ざらしで広がる空地だった。
周囲を、これも古い建物に囲われ、中庭のような形になっている。
12、3人の少年たちがほうぼうに立ち、その中央、小さな石台に腰かけているのがボス、ライデンと見えた。
目元は長い前髪に隠れ、離れた距離からでは表情はうかがえない。色白、鼻頭に茶色いそばかすが目立つ。
歳は17、8くらいだろうか、痩せ形で、擦り切れた軍用のジャケットを羽織っている。
ブラウに答えず、前髪の下からじっとこちらを見つめるばかりだった。
彼の両脇には、腹心と思しき同年代の少年がふたり。
片方は筋骨隆々とした色黒の大男で、頭を綺麗に剃り上げている。
もうひとりはのっぽで線の細い、エルフの美少年。
長い手足をゆさゆさと揺すって、落ち着きがない。腰に大きな拳銃を差していた。
他の少年たち――路地の見張りよりもう少し年長の子供たちも、
交渉人ら3人をねめつけたままじっと動かないが、時折、銃の重みでズボンが下がるのを直す者がいる。
(武装はそれなりに充実しているようだ。それに……)
クリスティンが見やると、レイも小さく頷いた。
空地を囲む建物のあちこちの窓に、誰かが立っている。
遠くてはっきりとは見えないが、手にしているのは小銃のようだ。
(全部で20人ほど、路地の子供たちを含めれば30人以上のグループですね)
●
「俺たちは全部で20人、半分くらいが銃を持ってる。
北側のガキどももどっからか銃を買ったみたいだが」
シュタートゥエの頭目は肩をすぼめた。努めて楽な顔をしてみせ、
「ホントにガキばっかりなんだ。問題じゃないよ」
確かに、真奈美はちんぴらたちへ身体を寄せたときの感触で、
彼らの内5、6人が拳銃を持っているのが分かった。
「皆さんは、どうやって銃を買うお金を稼いでらっしゃるんですかぁ?」
「あれを少々、これを少々ってとこかな。
酒、賭け屋、女、街の連中が欲しがるものを集めてきて売ってる」
「南側の縄張りだけで、成り立つものかしら?」
佳奈美が言うと、
「北側は元々ホントの貧乏人しかいないからな。商売するなら、この店の近場で充分なんだ。もっとも……」
と、交渉人を見つめて、
「フリクセルさんのご協力が頂けるなら、事業拡大の目がない訳でもないだろう」
交渉人がテーブルに身を乗り出す。
「フリクセル氏は今後のことを考え、穏便な解決をお望みだ。
君たちにその能力があろうと、敵対するグループを皆殺しにして、世間の目を集めることはして欲しくない」
「そりゃ、勿論……」
「北側のことは、我々のアドバイスに従って処理してもらいたい」
●
「他所のやくざ連中が出張れば、シュタートゥエなんて軽くふたつに折って捨てられるだろうな」
とは、浮浪者の男の言。
「長年、小さな縄張りで満足してるような連中だからさ。
今まで抗争が起きなかったのは、誰もこの街に注意を向けなかったからだろう」
「でも、新しいギャングは? ぶつかり合いはあったのかい?」
義明の質問に、男はかぶりを振って、
「あいつらのことは良く分からん。突然現れたボスが、浮浪児たちを手なづけちまった。
シュタートゥエがひとり、脅しにかかって逆に殺られちまったって噂だ。
北側近くのアパルトマンも、もう奴らの縄張りになってるかもな」
「外からお偉い人が訪ねてくるようなことは?」
「金のありそうな奴は時々来るよ。
けど、同じ顔を頻繁に見るこたねぇな。あんたと同じで、何かの調べ物に来たんじゃないか?」
そこで男は瓶の残りを干して、
「悪いがこれで終いだ! 美味かったよ兄ちゃん」
「そいつはどうも。こっちこそ、色々聞かせてもらえたねぇ」
義明が知った限りでは、シュタートゥエは決して大きな力を持つグループではないらしい。
だが、対するジンプリチシムス団は一体どれほどの戦力なのか?
●
無言のままのライデン。
「いやはや、精強な団、ですね」
にこやかに話しかけるレイだったが、誰もまともに会話に応じる気配がない。
彼が見たところ、少年たちの栄養状態は悪くない。
痩せこけてはいるが、例えば河原のバラックで出会った子供たちなどに比べれば、
ずっとまともな食事を摂れているようだった。誰の目も、精気と敵意に溢れている。
クリスティンの見立てでは、彼らは何がしかの訓練も受けていると思われた。
居並ぶ少年たち、一見漫然と立ち尽くしているようだが、
(その実、互いに拳銃の火線を避けながら、こちらを包囲している。
いざとなれば3人とも蜂の巣にしてやると……そういうことだな)
「フリクセルの旦那に伝えてくれや」
ライデンが出し抜けに口を開いた。高くてかすれた、特徴的な声だった。
「俺たちはできるだけ、静かにやるつもりだ。
妙にこじれさせねぇほうが、おたくも損がねぇってな。あんた名前は」
「ブラウだ」
「次からはひとりで来い……ハンターなんざ引き回してねぇで」
そこで、ライデンがクリスティンとレイに顔を向けた。
見返して、クリスティンはふと懐かしい感覚を覚える。
「ハンターと名乗った憶えはないが、分かるか」
「その間抜け面でな。ハンターはすぐ分かる、どいつもこいつも阿呆ばっかよ」
ライデンが投げやりに片腕を振った。
「お互い、これで面は覚えた。帰れ」
もう、相手方には何も話をする気がなかった。
帰り道で、ふとクリスティンは思う。
(抗争が穏便に済むことは、まずなさそうだな。目つきで分かる、あれは戦いが好きなのだ)
顔を見合わせたとき、僅かに覗いた彼の青い瞳には、凶暴な光が宿っていた。
●
会談の後、北条姉妹はおよそ同じ結論に達していた。シュタートゥエの頭目、あれは、
「臆病さんかもねぇ。そう思わない、カナちゃん?」
「虚勢を張ってはいても、新興ギャングに内心、戦々恐々ね。
助けが欲しくて仕方ないのよ。だから貴方の話に飛びついた」
と、ロートに目を向ける。
「これから、あの街はどうなるのかしらね?」
ロートは無言だった。今回得られた情報で、フリクセルは何を企むのか――
「ただ、何かが起こる前。そして起こった時――情報の有無が、何かを決め得ます」
バルツの社屋近くのカフェで、レイは女性記者・ドリスへ、フリクセルの素性について尋ねた。
答えを渋るドリスだったが、彼女にも役立つネタを掴んだ、と説得すると、
「有名な実業家だよ。飲食店、ホテル業、運送業、警備会社、賭場、色々経営してる……、
けど、それは表の顔。正体は、帝都の裏社会を牛耳るやくざの大物だね」
フリクセルは12年前の革命戦争当時、『突撃隊』なる集団を率いて義勇軍に参加。
旧帝国側の村々を襲い、略奪その他ありとあらゆる非道に手を染めたらしい。
「でも、戦争だったからね。戦後は革命軍とのコネを使って商売をしつつ、
帝都中のやくざを取りまとめ、今じゃ裏社会の顔って訳。
もっとも、最近は実業家としての顔を売るほうが熱心で、ギャングの仕事は部下に任せてるようだけど」
今回受けた依頼について話すと、
「長らく空白地帯だった貧民街を押さえて、帝都全域を縄張りにする気かな。
悪徳高利貸のヴェールマンや、市長が関わってるのなら、何か大きな儲け話がある筈だ。私も追ってみるよ」
レイは河原の浮浪者たちを思い出す。
ギャング同士の抗争は勿論だが、フリクセルもまた潔白な人物でないとするなら。
どう転んでも、彼らの暮らしは脅かされるかも知れない。
(そのとき、マティ……貴方がたは、どうされるのですか)
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 4人 |
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- SKMコンサルタント
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 北条・真奈美(ka4064) 人間(リアルブルー)|21才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/05/05 02:40:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/01 18:24:37 |