ゲスト
(ka0000)
花の輪を繋いで
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/06 22:00
- 完成日
- 2015/05/13 14:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●オプストハイムの少女達
「幸せを配る?」
なあにそれ、売るのではなくて?
友人であり幼馴染でもある双子がもたらした、他人の幸福を祈ってスズランを渡すミュゲの日の話を、とても興味深いと思ったのだ。
デリアの住処はエルフハイムの最奥地、オプストハイム。この場所に暮らしていると、どうしても年長者の話が多くなってしまう事は自分でもわかっていた。
けれど森の外に出かけ、そして戻ってくる者達の声が全く届かないと言う訳ではない。双子の興奮冷めやらぬ様子の話を聞きながら、ぼんやりと考える。
兄のエクゼントは長老達の世話や、時には代行を担う役人として働いているから、同年代の他の者達よりも多少は情報が早く入る方だ……と、思う。
その友人であるシャイネは実際に森の外で活動する吟遊詩人。彼が書いた本は図書館に置かれていることもあって、デリアはそれなりに森の外に詳しいつもりで居た。
(実際に見るのと、本で読むのとは違うんだよね)
わかっていたけれど、外に出るのはなんとなく恐かった。
楽しいと思える話と同じくらい、難しい話も、怖いなと思う話も本で多く知っていたから。
何故なら図書館がこの土地にあるからだ。新しく持ち帰った本、新しく書き留められた本が増える時、それは森の外に出かけていた同朋がオプストハイムに帰って来ているということ。
エクゼントは、その日誰が帰ってきていたかを教えてくれる。だから図書館の新しい本は比較的早く手に取って読む事が出来た。それで外の世界の知識をそれなりに増やすことができている……と、思う。
「想像しかしてなかったからなあ」
私の知識って曖昧な物ばかりだったんだなあ。そうぽつりとつぶやけば、双子が嬉しそうに微笑んで目を細めた。
「デリアも行こう、一緒にやってみようよ」
「この気持ちは行かないと、実際に見ないとわからないよ」
一緒にスズランを集めよう?
四つのアーモンド形の瞳がデリアを見つめる。きらきらと輝いたその瞳を見つめると、自分の瞳にも輝きがうつってくるような気がする。
「……機会があったら外に出てみたいって思っていた、から」
「「それじゃあ決まりね」」
――面白そうな話だね? 僕も……おや、人間の女の子?
――ふふ、女の子達だけじゃ不安だから、護り役……そう、ナイトを呼んでおこうか。
――僕かい? そうだな。残るくらいたくさんあるようなら、こっそり貰いに行こうかな?
●マーフェルスのお守り役
「要するに、イベントの運営ということですか」
急に訪れたシャイネを前に確認を取るユレイテル。いつぞやの急な話はあまりにも重大な話だった。だから居住まいを正して聞いてみれば……今回はそれとはまた違うらしい。
「簡単に言うと、そうなるかな」
くすくすと笑うシャイネに、控えていたパウラがそっと訪ねた。
「……ゼリアさんも来るんですか?」
「そうだね。パウラ君はゼリア君と知り合いだったのかい?」
「図書館に居ましたから」
「そうか、あの子も熱心な読者だものね」
「久しぶりなのでお話もしたいですし……ユレイテル様、私も少し、興味があります」
珍しく積極的に関わりを持とうとするパウラの言葉を聞きながら、これは確かに悪くない話なのかもしれないと考えるユレイテル。
(……このマーフェルスには祭らしい祭は存在しない)
情報を集めたところ、秋から冬にかけて収穫祭があるらしいのだが。
それ以外はほとんど皆無と言っていいほどだ。なにせ近くにピースホライズンがあるから、祭の気分を楽しみたければそちらに行く方が早いのだ。そこはやはり帝国と言う気風に大きな理由があるのだろうと思うのだが……
(街の催しには出ておいた方がいい、と言われても居たからな)
いつぞやハンター達に言われた言葉も併せて思い出す。外部に向けた催しは、選挙くらいしか経験がない。経験者に話を聞くにしても切欠が足りないと思っていた。
時折雑貨屋の店主に手伝いを申し出て店頭で商売の真似ごとをしてみたり、手近な方法は試してみてはいるのだが……
(催しの本場で、実際に行動してみるべきか)
自分達の経験にもなるし、少女達の保護者としての役割も満たせる。特に悪い事情はないが、強いて言うなら準備がほとんど整えられないという事だろうか。
「わかりました。お断りする理由もないですから、私達もピースホライズンに向かいましょう」
その言葉に、嬉しそうに微笑むパウラとシャイネ。
「よかった。明日の朝にはスズランを揃えているだろうからね。君達がこの街に居る時期だと知っていてよかったよ」
「シャイネ殿はどうされますか?」
「ここに来るために、少し疲れてしまったからね」
オプストハイムで少女たちの話を請け負って、大急ぎで出てきたのだ。隣人と呼べる距離ではあるけれど、やはり疲れは生じてしまう。今も随分と遅い時間だ。
「今日はここで休んでいってください、私と同じ部屋になりますが。パウラ、支度を」
「わかりました」
ぱたぱたと奥の部屋にパウラが去るのを見送る。
「助かるよ、明日は寝坊させてもらって、どうしようかな……」
「……一度ゆっくりされるのは如何ですか」
珍しい弱気にも聞こえる言葉に、事情を推察したユレイテルはそうすすめた。
●幸せを運んで
(沢山咲いているところがあってよかった)
エルフハイムの植物は、大人達に怒られてしまうかもしれない。だから商人の少女と出会った街の近くで、スズランの咲いていそうな場所を探したのだ。
「ここならたくさん用意できるね!」
「たくさん幸せくばれるね!」
「……私も、楽しみだな」
二人がスズランを受け取った時に感じた素敵な気持ちを、私も一緒に誰かにあげられたら。
そうしたら、私も一緒に素敵な気持ち……幸せをもらえるんじゃないかな?
「明日、陽が昇ったらすぐに届けに行こう」
「「賛成!」」
お花は生き物。こうして少しずつ命を分けてもらっているのだから。綺麗なうちに、たくさんの人達の笑顔に繋いでいかなくちゃ。
森の外、人の街はまだ話に聞くだけで、怖い気持ちもあるけれど。
同じくらい、楽しみな気持ちもあって。
もうすぐお日様も傾いて、赤く染まり始めたスズラン。一輪摘むごとに、わくわくした気持ちが膨らんでいく気がして。
(楽しい日になったら……いいな)
「幸せを配る?」
なあにそれ、売るのではなくて?
友人であり幼馴染でもある双子がもたらした、他人の幸福を祈ってスズランを渡すミュゲの日の話を、とても興味深いと思ったのだ。
デリアの住処はエルフハイムの最奥地、オプストハイム。この場所に暮らしていると、どうしても年長者の話が多くなってしまう事は自分でもわかっていた。
けれど森の外に出かけ、そして戻ってくる者達の声が全く届かないと言う訳ではない。双子の興奮冷めやらぬ様子の話を聞きながら、ぼんやりと考える。
兄のエクゼントは長老達の世話や、時には代行を担う役人として働いているから、同年代の他の者達よりも多少は情報が早く入る方だ……と、思う。
その友人であるシャイネは実際に森の外で活動する吟遊詩人。彼が書いた本は図書館に置かれていることもあって、デリアはそれなりに森の外に詳しいつもりで居た。
(実際に見るのと、本で読むのとは違うんだよね)
わかっていたけれど、外に出るのはなんとなく恐かった。
楽しいと思える話と同じくらい、難しい話も、怖いなと思う話も本で多く知っていたから。
何故なら図書館がこの土地にあるからだ。新しく持ち帰った本、新しく書き留められた本が増える時、それは森の外に出かけていた同朋がオプストハイムに帰って来ているということ。
エクゼントは、その日誰が帰ってきていたかを教えてくれる。だから図書館の新しい本は比較的早く手に取って読む事が出来た。それで外の世界の知識をそれなりに増やすことができている……と、思う。
「想像しかしてなかったからなあ」
私の知識って曖昧な物ばかりだったんだなあ。そうぽつりとつぶやけば、双子が嬉しそうに微笑んで目を細めた。
「デリアも行こう、一緒にやってみようよ」
「この気持ちは行かないと、実際に見ないとわからないよ」
一緒にスズランを集めよう?
四つのアーモンド形の瞳がデリアを見つめる。きらきらと輝いたその瞳を見つめると、自分の瞳にも輝きがうつってくるような気がする。
「……機会があったら外に出てみたいって思っていた、から」
「「それじゃあ決まりね」」
――面白そうな話だね? 僕も……おや、人間の女の子?
――ふふ、女の子達だけじゃ不安だから、護り役……そう、ナイトを呼んでおこうか。
――僕かい? そうだな。残るくらいたくさんあるようなら、こっそり貰いに行こうかな?
●マーフェルスのお守り役
「要するに、イベントの運営ということですか」
急に訪れたシャイネを前に確認を取るユレイテル。いつぞやの急な話はあまりにも重大な話だった。だから居住まいを正して聞いてみれば……今回はそれとはまた違うらしい。
「簡単に言うと、そうなるかな」
くすくすと笑うシャイネに、控えていたパウラがそっと訪ねた。
「……ゼリアさんも来るんですか?」
「そうだね。パウラ君はゼリア君と知り合いだったのかい?」
「図書館に居ましたから」
「そうか、あの子も熱心な読者だものね」
「久しぶりなのでお話もしたいですし……ユレイテル様、私も少し、興味があります」
珍しく積極的に関わりを持とうとするパウラの言葉を聞きながら、これは確かに悪くない話なのかもしれないと考えるユレイテル。
(……このマーフェルスには祭らしい祭は存在しない)
情報を集めたところ、秋から冬にかけて収穫祭があるらしいのだが。
それ以外はほとんど皆無と言っていいほどだ。なにせ近くにピースホライズンがあるから、祭の気分を楽しみたければそちらに行く方が早いのだ。そこはやはり帝国と言う気風に大きな理由があるのだろうと思うのだが……
(街の催しには出ておいた方がいい、と言われても居たからな)
いつぞやハンター達に言われた言葉も併せて思い出す。外部に向けた催しは、選挙くらいしか経験がない。経験者に話を聞くにしても切欠が足りないと思っていた。
時折雑貨屋の店主に手伝いを申し出て店頭で商売の真似ごとをしてみたり、手近な方法は試してみてはいるのだが……
(催しの本場で、実際に行動してみるべきか)
自分達の経験にもなるし、少女達の保護者としての役割も満たせる。特に悪い事情はないが、強いて言うなら準備がほとんど整えられないという事だろうか。
「わかりました。お断りする理由もないですから、私達もピースホライズンに向かいましょう」
その言葉に、嬉しそうに微笑むパウラとシャイネ。
「よかった。明日の朝にはスズランを揃えているだろうからね。君達がこの街に居る時期だと知っていてよかったよ」
「シャイネ殿はどうされますか?」
「ここに来るために、少し疲れてしまったからね」
オプストハイムで少女たちの話を請け負って、大急ぎで出てきたのだ。隣人と呼べる距離ではあるけれど、やはり疲れは生じてしまう。今も随分と遅い時間だ。
「今日はここで休んでいってください、私と同じ部屋になりますが。パウラ、支度を」
「わかりました」
ぱたぱたと奥の部屋にパウラが去るのを見送る。
「助かるよ、明日は寝坊させてもらって、どうしようかな……」
「……一度ゆっくりされるのは如何ですか」
珍しい弱気にも聞こえる言葉に、事情を推察したユレイテルはそうすすめた。
●幸せを運んで
(沢山咲いているところがあってよかった)
エルフハイムの植物は、大人達に怒られてしまうかもしれない。だから商人の少女と出会った街の近くで、スズランの咲いていそうな場所を探したのだ。
「ここならたくさん用意できるね!」
「たくさん幸せくばれるね!」
「……私も、楽しみだな」
二人がスズランを受け取った時に感じた素敵な気持ちを、私も一緒に誰かにあげられたら。
そうしたら、私も一緒に素敵な気持ち……幸せをもらえるんじゃないかな?
「明日、陽が昇ったらすぐに届けに行こう」
「「賛成!」」
お花は生き物。こうして少しずつ命を分けてもらっているのだから。綺麗なうちに、たくさんの人達の笑顔に繋いでいかなくちゃ。
森の外、人の街はまだ話に聞くだけで、怖い気持ちもあるけれど。
同じくらい、楽しみな気持ちもあって。
もうすぐお日様も傾いて、赤く染まり始めたスズラン。一輪摘むごとに、わくわくした気持ちが膨らんでいく気がして。
(楽しい日になったら……いいな)
リプレイ本文
●
ふわふわうわぎのメリーベル(ka4352)からはおひさまの香りがする。デリア達が鈴蘭を摘みに出たその森で時間を過ごしていたからで、存分に陽の光を浴びていたからだ。ちなみに理由は迷子である。
「道があったからここに居るんだよ」
身のこなし軽やかなエルフ達だからこそ摘みに来るような場所で一人居た彼女は、道案内と称されながら保護されたのだった。
「小豆がなかったのは残念でしたわ」
使い慣れている食材の代わりに手に入れたえんどう豆と白インゲン。緑の餡で葉と茎を、白餡で花をとそれぞれ鈴蘭のパーツを生み出していく音羽 美沙樹(ka4757)。
「後は全て封じ込めるだけですわ」
大量のゼリー液が続く。手で形作れる硬さにしてから、餡の鈴蘭を一輪ずつ透明な球の中に包んでいく。完成したものは簡素な箱に入れて渡しやすいようにして。
もくもく、もくもくもく……
「あら?」
気付けばうず高い山がいくつも出来上がっていた。
調べた知識をなぞらえながら、賑わいを見せる街の空気の中を歩んでいく。
(中々、ロマンチック……では、ありますね)
物を贈る点だけ見ればバレンタインにも似ているが。街の空気が全体的に柔らかいように感じるのは天央 観智(ka0896)にまだ特別な相手が定まっているわけではないからだろうか。
(文化の伝播って凄いなぁ)
フランス発祥の行事だという話を聞いて、つい蒼界に残してくる形になった家族の事を思いだす。息抜きに来たはずだけれど、どこかシンミリとした気持ちになりながら花厳 刹那(ka3984)もミュゲで賑わう街を歩いていく。
チョココ(ka2449)は今日初めてミュゲの言葉の意味を知った。
「鈴蘭を模したお菓子が欲しいですわー♪」
アイシングクッキー、メレンゲ焼き、マカロンに飴細工等その種類は多く。パルパルと分け合って食べ歩きながら次に足を向けるのは小物類を扱う通り。今度のお目当てはアクセサリーだ。
「どうしましたの?」
そわそわと動く頭上のパルムに誘われ、見つけたブレスレットに視線が引き寄せられる。
不揃いの緑の石をところどころに挟み込んだ鎖、そこから分岐するように鈴蘭の花を模した白い石飾りがいくつか繋げられている一品。実際に身につければ、ゆらゆらと花が揺れるはずだ。その様子はきっと風に揺れる鈴蘭に似ているだろうと思った。
(ミュゲの日とは面白い風習ですね♪)
幸せを願った相手と縁を作れる、願ったり叶ったりのの催しに、エミリー・ファーレンハイト(ka3323)は鈴蘭の首飾りを携えて目当ての人を探し始めた。
●
「懐かしいな」
呟くユリアン(ka1664)の脳裏には、実家でのミュゲの記憶が浮かんでいる。
「こんにちはユレイテルさん……例の本人、会ったよ」
名前と正体、そして友人の立場まで察した事をかいつまんで話す、その上で。
(シャイネさんの幸せを願っていいのか……)
明確な答えは出せないけれど。
「後でシャイネさんに届けて貰えないかな」
その代わりに手伝うよと、眉尻を下げながら微笑んだ。
「手伝える事があんなら手伝うぜ?」
ナハティガル・ハーレイ(ka0023)はユレイテルの近くで裏方に。
「昨今はリアルブルーの風習を取り入れんのが流行りっぽいな」
ブーケ作りが一段落した合間の一服、それとなく話を振る。
「それだけ転移者が多いということだろう」
人間は変化が早いなとの答え。
「あの子らも、だろ」
ユレイテルの頷きを見てから改めて視線を向けた。大人に染まりきっていない少女達。
(少女や女達だからこそ絵になるのであって、大の男が花を贈り合っても何だかなー……)
幸せを祈る行為そのものが尊いことだとわかってはいても、意図せず苦い笑みが口元に浮かんだ。
メリーベルは鈴蘭の加工でその真価を発揮していた。メッシュ地の白い袋にまだ瑞々しい花を入れて、春風を思わせる淡い色のリボンで留める。可愛らしい花もまだうっすらと透けて見えるし、そのまま干せばポプリに。香り袋として長く使えるはずだ。森で過ごす間に鈴蘭以外の春の花もいくらか手に入れていたから、その香りも袋によって少しずつ違う。けれどどれも春の空気をもたらしてくれる手のひらに収まるような小さなブーケだ。
「色んな工夫があるんですね」
手伝いながらのパウラの言葉に混じる、賞賛の空気。もふもふのうさぎさんはちょっとだけ視線を別の方角へ向けた。
「良い目をしてるんじゃない」
嬉しくて目元が赤くなったのをさりげなく隠したかったから。
露出を控えて清楚さを、花に合わせて真白の服を。黒の鬘と高い位置のポニーテールがメリハリをつけて、どこかきつい印象を与える装いに纏めた静架(ka0387)もまた、少女達に混じって鈴蘭を配っていた。
「貴方にも幸せが訪れますように……」
お決まりの言葉を繰り返しているだけのようにも見えるが、手渡す一瞬だけ微笑みが浮かぶ。受け取ってから確認する頃にはすでに消えている幻のような柔らかな笑みだ。
渡された鈴蘭をマリオネットのドレスに飾り付ける。
「良かったね、ヴィオレッタ。とてもよく似合うよ」
仕事道具でもあり大事な相棒に微笑みかけて、ルピナス(ka0179)は改めて少女達に向き直った。
「良かったら、ひとつ籠を分けてもらえる?」
幸福のお裾分けに参加したいんだ。
「ふわぁ、素敵なお祭りね」
アイラ(ka3941)が売っていた鈴蘭を迷わずに買ったのは、新たな交流の輪が広がるような予感がしたからだ。故郷は遠いから明確に渡す相手が居るわけではない。けれど今日出会った誰かとこれから先を繋ぐのも素敵だと思ったのだ。
(まだ知り合いが少ないものね)
何か良い切欠がないものかと思いながら歩んでいく。流石に一人で鈴蘭を配るのは勇気が必要だった。
「こんにちは、お久しぶり?」
そんな中見かけた知人の顔に笑顔を零れる。まだ一度きりとはいえ同じ時間を過ごした相手、仲良くしていきたいと思った者達の顔はアイラの心に大きく安堵をもたらしたのだ。
「会えて嬉しいわ。あ、良かったら」
まずはと近くのユリアンに渡す、ユレイテルも居ると聞いてそちらにもあげようと視線を巡らせた。
手伝いの合間に少し良いだろうかと声を掛け、イーリス・クルクベウ(ka0481)は包みを差し出す。
「パウラ殿にはこれじゃ」
栞に施した押し花は勿論鈴蘭。長持ちさせるためのニスの塗りも丁寧で、何より気遣いがこまやかだ。本好きを意識した実用品というところもツボをついている。
「是非使わせていただきますっ」
感謝の言葉を聞いてから、もう一人に向き直る。
「ユレイテルはこっちじゃな」
「私にもあるのか」
少し驚いたような声。
「期待しているおぬしに贈らない方が変じゃろうに」
イーリスが鈴蘭の絵柄を彫ったプレートは魔除けに使われる銀。これから先を見据える、その前途に幸あれと願いを込めたものだ。身につけやすいよう穴もあけてはいるが、好みがあると思いそれ以上の細工はしていない、なるべくシンプルにと意識したアクセサリープレート。くすりと笑顔を向けながら続ける。
「どうせやるなら、わしらも楽しんだ方が良いじゃろ?」
小さく息をのむ音がする。
「そうだな……失礼する」
手に取った一輪をイーリスの髪に挿すユレイテル。
「今はこれで。いつも言葉しか返せていない気がする。……今度、改めて礼をさせてくれ」
●
渡された一輪の鈴蘭を手にイェルバート(ka1772)が思うのは、自分にとっての大事な人のこと。
(僕にとって贈りたい相手は誰だろ?)
一番に浮かぶのはやはり祖父母。想像の中で2人に花を差し出せば、爺ちゃんが妙な見栄を張った。
(小物もアリかな?)
婆ちゃんの分も、形に残る物がいいかもしれない。
「あら、素敵! 幸せのお裾分け、ね。粋じゃないの♪」
鈴蘭を笑顔で受け取ったルキハ・ラスティネイル(ka2633)は、すぐにポケットから飴ちゃんを取り出して返礼に。咄嗟に受け取った少女達は突如手のひらに現れた飴玉に瞬きを少し。
「お嬢さん達にも佳い事あるといいわネ☆」
ウインクも添えた。
気になった菓子や装飾品を露店を巡りながら買い求める。ルキハ自身のものも含まれてはいるが、大半は身近な誰かに贈ることを意図したものだ。
(あの子にあげたら、喜んでくれるかしら)
揺れる作りの鈴蘭の耳飾を見ながら考える。だってアタシの幸せは、大好きなコ達が心から笑って過ごすのを見ることだから。その笑顔の切欠になれればもっといい。
せっかく贈るのだから使ってもらいたい、実用品を探すイェルが見つけたのは鈴蘭のシルエットが彫り込まれた釦だ。服や小物に使うもよし、紐を通せば普段使いの飾り紐としても扱える。
(僕の分も揃いで買って、それなら爺ちゃんも使ってくれるかな?)
そこまで考えたところで、視界に少しだけ影が映りこんだ。
(わ、かっこいい人だ)
そう思っていた矢先。
「あら、アナタもこれお気に入り? 幸せって巡るものだから……アナタにもきっと、未来に幸福が待ってるワ」
体格は紛れもなく男性のそれなのに、女性らしい柔らかな仕草。
言葉が出てこないまま、ルキハを見つめてしまうイェル。真っ直ぐな言葉に慣れていないのに、それが予期しないタイミングで真正面から向けられたものだから照れてしまう。赤面は回避できなかった。
慌ててフードで顔を隠すけれど、既にその様子はしっかりと見られてしまっている。
「まっ♪ 赤くなっちゃって可愛いわぁ」
頭を撫でる感触に更に頬の熱が増す。その勢いのまま互いに自己紹介を交わして。
「……あ、ありがと。ルキハさんの所にも、幸せが届きますように」
はじめこそ驚いたイェルだけれど、言葉を交わすほどルキハの言動に違和感を感じなくなっていた。
●
道の向こうへ歩んでいけば
素敵なことが待っている?
明るい調子の歌にのせて、ヴィオレッタがきょろきょろと周りを見回す。これから向かうどこかには幸福があると信じて、はじめの一歩を踏み出すところ。
小さなランプが足元照らし
暗い道も怖くはないの
旅のお供は一輪の鈴蘭。だから心強いのだと、ヴィオレッタの足取りも軽い。女の子の歌だからルピナスの歌う口調もそれに合わせて。男声で繰り広げられる人形劇に道行く人がちらほらと足を止めはじめる。
可愛い灯りが示す先には
笑顔の貴方に出会うはず
トコトコとヴィオレッタがルピナスの前を歩んでいく。その先に居る観客に観てくれてありがとうと一輪渡せば、また一人笑顔が増えた。
渡した花はその後どうなるのだろう?
(食卓にでも飾ったりするのかな)
試しにと先ほどの親子で想像し、自然とルピナスは笑みをこぼした。
「幸せを願うミュゲの日の花束に、エルフの女の子達のお祈りつきだよ」
人とエルフが共に行う事に意味があると思いながら、道行く人に声を掛けていくユリアン。
「お題は皆の笑顔、さぁどうぞ」
「……どうぞっ」
声に合わせてデリアが鈴蘭を渡す。繰り返すことでぎこちなさは薄れてきたが、まだ笑顔に緊張が残っている。
「って、あれ?」
聞こえてくる歌声に聞き覚えがありすぎて。視線を向ければやはりそれは妹で。
「例えば、一緒に歌ってみるとかどうかな」
音楽の力を知っているから。自信をもってそう促した。
「ありがとう御座います」
手渡された鈴蘭の香りを楽しんで、丁寧に頭を下げる観智。わざわざ姿勢も正した彼に驚いたのか、少女は小さく目を見張ったようだ。
(何故でしょう?)
その理由を詳しく尋ねてもいいものかどうか首を傾げる。仕事の邪魔にならないだろうかと迷ったのち声を掛けた。丁度人通りが落ち着いた頃間だったから。
「……人間なのに、って思って」
改めて、人間にもいろいろな考えを持っている人が居ると理解したのだというデリア。確かに笑顔が見たくて友人についてきたけれど、実際に目の当たりにするまでは信じ切れなかった部分があったのだ、と零す。
それを聞く観智は以前聞いたエルフハイムの思想を思い出していた。彼女達のように、まだ思想に染まっていない存在も居るのだなと、脳裏に書き加えながら。
アイラが刹那に鈴蘭を差し出したのはほんの偶然だけれど、故郷が遠くにあるという共通点が惹き合ったのかもしれない。
「え、私に?」
驚いて周りを見回す。他にも同じように鈴蘭を差し出している少女達が居て、なるほど催しの一貫なのだと理解する。目線の近いアイラに笑顔を向けて、気持ちをしっかり乗せてありがとうと告げた。少しだけ下り気味だった気分がふんわりと温められた気がしたから。
「私も手伝っていいのかな?」
ちらりと見えた荷馬車にはまだたくさんの鈴蘭が積まれている。一人で過ごすよりも誰かと一緒に配っていたら縁が増えそうで、何よりも楽しそうだから。
「いいと思うわ、私もお手伝いだし。わたしアイラ、よろしくね♪」
「じゃあ遠慮なく。私の事は刹那って呼んで?」
これが終わったらまた友達が増えている、そんな気配がした。
●
「ミュゲの日、ね。どんな祭なんだい?」
尋ねてくるシルヴェイラ(ka0726)の袖を引きながら、エルティア・ホープナー(ka0727)の意識はお目当ての品を探すことに集中している。
「蒼の大地の催しね」
紡ぐのは答えとしては足りない言葉だけ。
「シーラ、新しいランプが欲しいわ?」
早く見て回りたくて仕方ないその気持ちが手に取る様にわかるから、シーラもそれ以上強くは出ずにエアの進むままに任せた。
「勿論付き合うさ」
鈴蘭の形のランプはないだろうか? あちらこちらで扱われている鈴蘭の形から思いついて、エアはその明確なイメージを元に探し回る、その合間。
(森の子達が来てるわね……)
少しだけ視線を向けたけれど、迷い込んだわけではないらしいとわかりそれだけに留める。
(!……これは)
偶然向けた視線の隅に移り込んだ、興味深い装丁の本にすぐに釘づけになった。知らず手を伸ばしていく。
(女性の買い物は長いとは言うけどね……)
袖が解放された理由にすぐ気付き、口元に小さく笑みを浮かべるシーラ。
「エア、探し物はランプじゃなかったのかい?」
そろそろ、どんなランプなのか教えてくれてもいいと思うんだが。はっとして手を引き戻した幼馴染が拗ねた様子で振り向いた。
「わかっては居るのよ?」
本は別格なのだ。改めて言わずとも知っているだろうから言葉にはしないけれど。
「ランプは鈴蘭の形がいいの。……大切な相手の幸せを願って贈る象徴、らしいわ?」
「探して居るのはランプよ? これじゃ光らないわ?」
手渡された鈴蘭の花に首を傾げるエアの声は純粋な疑問に満ちている。
「はは、花はあっても悪くないだろ? たまには買ってやるさ」
幸せを願うその形だけでも示しておく意味はあるとシーラは考える。通じていないとしても、花の世話をするのが自分だとしても。ただ、自分が彼女にそうしたいから。
「なら、交換ということにするわ」
雑貨屋の包みから零れ落ちる、二つ揃いの鈴蘭のピン。その一つをシーラに渡しながらエアは今日のお礼だと告げる。
「襟に着けましょう?」
ランプの代わりに見つけたの。
「私とお揃いよ? 嬉しいでしょ?」
言いながらエアは自分の襟に。シーラの耳の端がほんの少し赤みを帯びたことには気付かない。
(……嬉しいに、決まっている)
深い意味はなかったとしても、こうして形に残ることが。
●
(楽しそう)
天体観測にいい場所を探そうと、望遠鏡を片手に昼食を買い求めていたムーン・オリーブ(ka0661)はケイルカ(ka4121)の人を集める声に引き寄せられたのだ。
「……私もいい?」
「わたしも混ぜてもらっていいかな?」
「白詰草あるかなー?」
同じく集まってきたチリュウ・ミカ(ka4110)とユノ(ka0806)が増える。
「わたしもシロツメクサで花冠作ろうか」
四つ葉も幾つかみつけられるかなとミカが言えば、ミオレスカ(ka3496)が通りがかる。
「興味が、あります。摘むの、手伝わせてください」
「交換しあいっこ楽しみです~」
集まり始めている様子に引き寄せられたエーディット・ブラウン(ka3751)はにこにこと輪に入ってきた。随分と大所帯だ。
「よ~し、みんな纏めてご案内~♪」
「鈴蘭は、向こうで可愛らしい子供たちが配ってたな」
そこから分けてもらおうかとミカの提案に荷の軽い皆で向かう。
「すまないが2輪もらえるだろうか?」
一輪は自分の胸ポケットに使う分だ。
ミカと共に鈴蘭を受け取りながら、ミオはパウラに言葉をかける。エルフハイムはいつか行ってみたいと思う、両親の故郷なのだ。
「その時に、今日頂いた幸せのお返しを、させてもらいますね」
まだあまり詳しいことは知らない。けれどミュゲの日にこんな温かい気持ちをくれる人が暮らす場所なら……まだ見ぬ土地への期待が少し、膨らんだ音がした。
クレール(ka0586)も幼馴染のケイルカの提案に連れられてお花摘みがてらのピクニックに参加している。
「わぁ……故郷を出て以来だぁ、懐かしいなぁ……」
「でしょ~? クレールちゃんとこうやって遊べるのも久し振りだし、張り切って場所も探しておいたんだよ♪」
「ミュゲの日もそうだけど、ケイちゃんと過ごせる時間も嬉しいな、ありがとう!」
張り切ってお弁当作ってきたんだよと、抱えていた大きなバスケットを示すクレール。勿論2人分だけじゃなくて、共にいる皆の分を補って余りあるくらい。
「おかずの交換し合いっこも楽しみだよ」
クレールの手先の器用さを知っているから、ケイルカも笑顔で答えた。
大好きなお姉さんがいっぱいだ! とついてきたユノが首を傾げた。
「おねーさ……ん?」
「ミカおねーさん、だからな?」
にかりと笑って、花冠を作り始めるミカ。
その笑顔には逆らえなかった模様。帽子の中の猫とパルムがちょっぴりずり落ちそうになってたから、それを直しながら花輪づくりを教わる事になった。
(緊張も、するけど)
ついてきてよかったなと思うムーン。ピクニックに最適なこの場所は、夜になったら星見にも良さそうだ。
鈴蘭の入った籠に花を摘み足しながら、自分がこれから作る花冠と、誰が作った花飾りが貰えるだろうかと想像を膨らませていった。
「これ美味しいのよ」
人参玉葱ジャガイモをしっかり炒めて甘味を引き出した野菜入りオムレツを皆にすすめるケイルカ。
「でもクレールちゃんには負けるね、さすがね~」
もっちりチャバタのローストビーフサンドは紙で包んでもあるから食べやすい。トマトのファルシはまだ香ばしいお肉のうまみを香らせていたし、添えられているキャロットラペの鮮やかなオレンジ色が春を演出。バランスも考えられていて、クレールの女子力は本日、ダントツ一位。
「……さすが」
クレール持参のハーブティーを配る手伝いをしながらムーンが頷く。
「買ってこないでも良かった、くらい」
「そんなことないさ、甘いからデザートになるし丁度いい」
ムーンが街で買ったのはジャムのロールサンドだ。ミカが笑顔で言えば他からもそうだよと同意の声があがった。
●
薬は毒、毒は薬。
(彼女は僕にとっての毒だ)
ウォルター・ヨー(ka2967)は柏木 千春(ka3061)に、そう伝えてあった。
(響く癖に曲げないことも知ってるけどね)
幸せを厭う貴方の、幸せを願わずにはいられない私。
(『毒』だなんて言われても、諦めるなんてことはできないから)
この距離感を承知の上で、今日も共に過ごすと決めた。
「ラザラスさんが幸せを手に入れますように」
一人で祈る時と同じ言葉。自らその手を伸ばしてくれたらいいなと、ほんの少しだけ手前になるその場所に鈴蘭の花束を差し出す千春。
毒をもつ鈴蘭が幸せの象徴となれている様に、私も貴方にとっての幸せとなれますように。私そのものを示すようなこの花を受け取ってはもらえないかもしれないけれど。
(どれほど時間がかかっても)
今までと変わらず、いつまでも諦めずに私が彼の幸せを願っていられるように、その願掛けも兼ねているから。
似合わないし間違いだと繰り返しても、幸せであってほしいと君が言うから。
(そうなりたいと、思い始めてるんだ)
伸ばして掴んでしまいたいと、思うだけなら何度も。
「じゃあさ、こうしようか?」
花束を引き受けて、一輪だけ抜き取ったあと残りを全て返した。
「これは千春ちゃんに似合いだよ」
受け取るのはほんの少しの間だけ。こうして君と顔を合わせるちょっとの時間と同じくらい。
(でも、これ以上を貰ったら、いけないんだ)
返すのは、いつもと同じ拒絶の証。
けれど君に“あげた”分には、幸せになって欲しいという気持ちを乗せてある。
ホントと嘘を混ぜ込んで。
「……自惚れてもいい、かな」
ほんの一部だけでも私を受け取ってもらえたから。少しでも前に進んでいる証だといいな。
“貰った”鈴蘭の香りを確かめるように抱き締める。兆しを逃さないようにこっそりと呟く千春。
「鈴蘭って、適量飲めば強心剤になるんだよね」
そこにぽつりと零される言葉。
(私は、いつか貴方にとっての薬に、なれる?)
幸せに、心の癒しに。過ぎれば後戻りのできない毒である危険をはらみながらでも。
背を向けている彼の表情は読めないけれど、想いが同じであればいいと思う。
毒と薬、ホントと嘘。表裏一体。
似ているようで似ていない、同じくらい頑固な二人のまま。
いつか、もしかしたら?
●
「頑張りすぎはいけません」
デリアの僅かな声のかすれに気付いて、新たな籠を渡すかわりに少女の腕を引いた。
荷馬車の影で休息すべきだと誘えば、言われて気付いたようではっとした表情が浮かんだ。それだけ花を配るのに夢中だったのだろう。
(甲斐はあったようですね)
少し前、不審者に丁重にお引き取り頂いたのは無駄ではなかったと、心のうちだけで頷く静架。これだけ一生懸命な少女達を害する可能性を潰せたのは悪いことじゃなかったと、そう思った。
聞いた通りの改造コックコート姿のカミラを見つけ、エミリーは心の中で快哉の声をあげた。
「あの、カミラさんですよね?」
師団長と呼ばないように気を付けながら声を掛ける。買い出し業務中の彼女の身分は秘匿すべきと聞いていた。
「?」
「ハジメマシテ、お噂はかねがね……」
初対面でもあからさまに警戒されなかったのは、エミリーに殺気がなかったからだろう。無事にカミラと、同行の兵士達にも首飾りを掛けることに成功。
「ああ、今賑わしているミュゲの話か」
食える花ならもっといいのだが、等と言っているが。気にせずエミリーは続ける。
「それにリアルブルーでは、贈られたら3倍にして返すという風習があるそうです。カミラさんがどんなお返しをしてくれるか、楽しみにしてますね♪」
予定外の人数に用意してきた首飾りはなくなってしまったけれど。しばらくはお返しの事で想像を膨らませて楽しく過ごせそうだ、と笑顔を隠しきれないエミリーだった。
●
「お姉さん達全員にー♪」
僕は男の子だから要らないけれど、一緒に遊んでくれたからそのお礼。交換に参加しないユノがたくさん作った花輪を6人の首にかけていく。どれも白詰草と鈴蘭の白い花で纏めてある。
「残ってる分? これは鈴蘭を分けてくれたおにーさん達にあげる分★」
それぞれが完成させたミュゲの花、その贈り物を手に輪になる6人。
「歌詞はさっき教えた通り……さん、はいっ♪」
ケイルカの声を合図に歌声が響く。
幸せ願って 貴方の元へ
込めた気持ちを 花の形に
香りと思い出 隣へどうぞ
私の幸せ どこから来たの?
白と紫のクローバーの花をマーブルに編み上げた花冠は全体がふわもこの見た目。二本の鈴蘭が触覚のように飛び出している。
「えへへ、可愛いでしょ」
贈り主のケイルカが笑顔で胸を張る。
「付けて歩くとぷらんぷらんするのよ……ほら、可愛い!」
笑顔が深くなる。つけてくれてありがとうの言葉と共に。
「ありがとう……」
ムーンにとって初めて一緒に過ごす人達、慣れてきた今、最初の楽しそうと言う直観に従ってよかった。そして共に過ごした皆にもむけて、精いっぱいの感謝を。
白い花だけを選びぬいて編んだ土台の輪はとにかく丈夫さを意識して。決まった形を壊さないように、空いた場所を花で埋めていくように色とりどりの花を足していく。花の盛りは冠として、後から思い出の一品になるように。
「結婚式をイメージしたの。私達も、いつかはお嫁さんだもんね」
クレールが言うにはドライフラワーにしてもこのまま形が残るらしい。良かったら壁掛けにもしてみてね?
「ありがとう、ございます」
どの贈り物が来ても嬉しいなと、目の前を巡っていく花を見ながら思っていたミオ。お礼の言葉はそのことだけではなくて。
「幸せなひと時にも……ですね」
まさに王冠の形を思わせる花冠は、色のある花を宝石に見立ててバランスよく配置されている。
「改めて、失礼しますね~♪」
満面の笑顔を浮かべたエーディットが、ふわりと花の王冠をケイルカの頭に被せた。
「即席戴冠式なのです~♪」
お似合いですよとその笑みが深くなった。
一見は基本に忠実なシロツメクサの花冠。その中で特別に輝くのは見つけ出したいくつかの四葉だ。アクセントになる様に簪を意識した形で鈴蘭も添えられて、シンプルながらとても纏まった仕上がりになっている。
「幸せと幸運の象徴を揃えたからね、きっと良い事が待ってるさ♪」
運の良さが保証できそうだねとミカがクレールに向けて笑った。
茎の長い花を使って編み上げたことでドーム状になった土台はどこか、昼の月のよう。白い花が並ぶ中、明るい色の花が飛び石の様に飾られている。
「……冠と、七つ星」
今の季節に見られるはずの星の並びをいくつか意識したのだと、ムーンがそっと言葉を添えた。
「お姫様になったみたいです~♪」
自分の頭にも戴いて、エーディットの楽しげな笑い声が皆の空気をより柔らかくするのだった。
丁寧に、しっかり畳まれた厚めの紙はぴたりと閉じられている。その端の方に開けられた穴には、一本の鈴蘭が輪になる様に結われていた。
「すみませんが、まだ完成してはいないんです」
押し花何ですよと説明するのはミオ。
「少し時間がかかるので、あとで開いてみてくださいね」
皆と探した四葉のクローバーも勿論入っている。きっと、思い出として振り返りやすい形になっているはずだ。
「私も運が良かったみたいだね」
出来上がりを待つ楽しみも増えたねと、ミカには四葉が帰ってきた形だ。
交換し手に入れたミュゲの花達に笑顔を浮かべる少女達がピースホライズンへと戻ってくると、まだたくさんの箱を抱えた美沙樹が通りがかった。
「皆様にも、是非どうぞ……幸運が訪れますように」
張り切り過ぎてこの通り、たくさんありますから是非受け取ってくださいなと配っていく。
「昔の様に交流が続く様になったら嬉しいですわ。先だってのご縁がさらに広まればいいと思いますの」
あたしが受け継いでいる血筋の様に、縁が繋がっていければ。
●
「ユレイテルお兄様、お久しぶりですわー♪」
笑顔でぺこりと挨拶するチョココ。その腕には買ったばかりのブレスレットが揺れている。
初見の少女達とも自己紹介を交わしながら、まずデリアに花を渡す。
「今日この日、出会えた奇跡に、一輪どうぞですの」
勿論パルパルやお兄様達、皆様にも幸せをお裾分けだと言いながら更に渡していった。
「こんなに素敵なイベントなら、きっととても参考になるのです~♪」
皆さんお疲れ様ですと、新しく冷えた飲み物を差し入れて激励するエーディット。交換会帰りの彼女は花冠を載せたまま、ふんわり笑顔と纏う雰囲気は、少女達の癒しになっているはずだ。
それだけエーディットの笑顔は特に幸せそうな印象が強い。それまでも楽しんでいたデリア達だけれど、改めて気持ちを新たに、エーディットに似た笑顔を浮かべて、幸せの花を配る役に戻っていった。
「シャイネお兄さんも来る?」
「来るとしても遅いだろうな」
「そっかー、じゃあとりあえず★ ユレイテルお兄さん、浄化術研究を錬金組合のハイデマリーお姉さんと協力してみたら?」
人の輪が一杯広がると良いねとユレイテルに花輪を一つ渡すユノ。
(ハイデマリーお姉さんと会ってみたら、って言おうと思ったんだけどなー)
「髪に一杯お花飾りたかったんだけどなー? まいっか★ 配るの、僕も手伝うね!」
暗くなるまでは待ってみようかな?
残りわずかな鈴蘭で作ったブーケを皆に贈るユリアン。
「幸福が帰って来る、って花言葉の一つにあるんだ」
皆にも幸せが届きますように。
持ち歩きやすいようにと買ってあったお菓子を取り出して、アイラと、仲良くなった少女達に手渡す刹那。
「たくさん買ったから、今日の記念に。またね?」
楽しい気分のお礼だよと笑って渡せば、特に人に慣れていない少女達がそれぞれ、恥ずかしそうに感謝の言葉を刹那に返した。
譲ってもらった鈴蘭はナハティガルの肌色の中浮かぶような白さで。
(柄にもねぇ)
けれどそうしようと思ったのは、多分この場の勢いだ。鈴蘭の受け渡すさまを見続けて、少しくらいなら混ざってみようという気になった。
「――絵にはならねえけど、な?」
集落の為に動く漢気に、疲れた様子の癒しにでも。らしくない自覚に照れを滲ませながら、ユレイテルと、ずいぶんと遅く、小さな子達も帰った後に現れたシャイネに贈った。
帰りがけに見かけた小瓶を手に取る静架。
「鈴蘭の香りの甘過ぎないところが、好きですね」
共通点を見つけたのかもしれない。
ふわふわうわぎのメリーベル(ka4352)からはおひさまの香りがする。デリア達が鈴蘭を摘みに出たその森で時間を過ごしていたからで、存分に陽の光を浴びていたからだ。ちなみに理由は迷子である。
「道があったからここに居るんだよ」
身のこなし軽やかなエルフ達だからこそ摘みに来るような場所で一人居た彼女は、道案内と称されながら保護されたのだった。
「小豆がなかったのは残念でしたわ」
使い慣れている食材の代わりに手に入れたえんどう豆と白インゲン。緑の餡で葉と茎を、白餡で花をとそれぞれ鈴蘭のパーツを生み出していく音羽 美沙樹(ka4757)。
「後は全て封じ込めるだけですわ」
大量のゼリー液が続く。手で形作れる硬さにしてから、餡の鈴蘭を一輪ずつ透明な球の中に包んでいく。完成したものは簡素な箱に入れて渡しやすいようにして。
もくもく、もくもくもく……
「あら?」
気付けばうず高い山がいくつも出来上がっていた。
調べた知識をなぞらえながら、賑わいを見せる街の空気の中を歩んでいく。
(中々、ロマンチック……では、ありますね)
物を贈る点だけ見ればバレンタインにも似ているが。街の空気が全体的に柔らかいように感じるのは天央 観智(ka0896)にまだ特別な相手が定まっているわけではないからだろうか。
(文化の伝播って凄いなぁ)
フランス発祥の行事だという話を聞いて、つい蒼界に残してくる形になった家族の事を思いだす。息抜きに来たはずだけれど、どこかシンミリとした気持ちになりながら花厳 刹那(ka3984)もミュゲで賑わう街を歩いていく。
チョココ(ka2449)は今日初めてミュゲの言葉の意味を知った。
「鈴蘭を模したお菓子が欲しいですわー♪」
アイシングクッキー、メレンゲ焼き、マカロンに飴細工等その種類は多く。パルパルと分け合って食べ歩きながら次に足を向けるのは小物類を扱う通り。今度のお目当てはアクセサリーだ。
「どうしましたの?」
そわそわと動く頭上のパルムに誘われ、見つけたブレスレットに視線が引き寄せられる。
不揃いの緑の石をところどころに挟み込んだ鎖、そこから分岐するように鈴蘭の花を模した白い石飾りがいくつか繋げられている一品。実際に身につければ、ゆらゆらと花が揺れるはずだ。その様子はきっと風に揺れる鈴蘭に似ているだろうと思った。
(ミュゲの日とは面白い風習ですね♪)
幸せを願った相手と縁を作れる、願ったり叶ったりのの催しに、エミリー・ファーレンハイト(ka3323)は鈴蘭の首飾りを携えて目当ての人を探し始めた。
●
「懐かしいな」
呟くユリアン(ka1664)の脳裏には、実家でのミュゲの記憶が浮かんでいる。
「こんにちはユレイテルさん……例の本人、会ったよ」
名前と正体、そして友人の立場まで察した事をかいつまんで話す、その上で。
(シャイネさんの幸せを願っていいのか……)
明確な答えは出せないけれど。
「後でシャイネさんに届けて貰えないかな」
その代わりに手伝うよと、眉尻を下げながら微笑んだ。
「手伝える事があんなら手伝うぜ?」
ナハティガル・ハーレイ(ka0023)はユレイテルの近くで裏方に。
「昨今はリアルブルーの風習を取り入れんのが流行りっぽいな」
ブーケ作りが一段落した合間の一服、それとなく話を振る。
「それだけ転移者が多いということだろう」
人間は変化が早いなとの答え。
「あの子らも、だろ」
ユレイテルの頷きを見てから改めて視線を向けた。大人に染まりきっていない少女達。
(少女や女達だからこそ絵になるのであって、大の男が花を贈り合っても何だかなー……)
幸せを祈る行為そのものが尊いことだとわかってはいても、意図せず苦い笑みが口元に浮かんだ。
メリーベルは鈴蘭の加工でその真価を発揮していた。メッシュ地の白い袋にまだ瑞々しい花を入れて、春風を思わせる淡い色のリボンで留める。可愛らしい花もまだうっすらと透けて見えるし、そのまま干せばポプリに。香り袋として長く使えるはずだ。森で過ごす間に鈴蘭以外の春の花もいくらか手に入れていたから、その香りも袋によって少しずつ違う。けれどどれも春の空気をもたらしてくれる手のひらに収まるような小さなブーケだ。
「色んな工夫があるんですね」
手伝いながらのパウラの言葉に混じる、賞賛の空気。もふもふのうさぎさんはちょっとだけ視線を別の方角へ向けた。
「良い目をしてるんじゃない」
嬉しくて目元が赤くなったのをさりげなく隠したかったから。
露出を控えて清楚さを、花に合わせて真白の服を。黒の鬘と高い位置のポニーテールがメリハリをつけて、どこかきつい印象を与える装いに纏めた静架(ka0387)もまた、少女達に混じって鈴蘭を配っていた。
「貴方にも幸せが訪れますように……」
お決まりの言葉を繰り返しているだけのようにも見えるが、手渡す一瞬だけ微笑みが浮かぶ。受け取ってから確認する頃にはすでに消えている幻のような柔らかな笑みだ。
渡された鈴蘭をマリオネットのドレスに飾り付ける。
「良かったね、ヴィオレッタ。とてもよく似合うよ」
仕事道具でもあり大事な相棒に微笑みかけて、ルピナス(ka0179)は改めて少女達に向き直った。
「良かったら、ひとつ籠を分けてもらえる?」
幸福のお裾分けに参加したいんだ。
「ふわぁ、素敵なお祭りね」
アイラ(ka3941)が売っていた鈴蘭を迷わずに買ったのは、新たな交流の輪が広がるような予感がしたからだ。故郷は遠いから明確に渡す相手が居るわけではない。けれど今日出会った誰かとこれから先を繋ぐのも素敵だと思ったのだ。
(まだ知り合いが少ないものね)
何か良い切欠がないものかと思いながら歩んでいく。流石に一人で鈴蘭を配るのは勇気が必要だった。
「こんにちは、お久しぶり?」
そんな中見かけた知人の顔に笑顔を零れる。まだ一度きりとはいえ同じ時間を過ごした相手、仲良くしていきたいと思った者達の顔はアイラの心に大きく安堵をもたらしたのだ。
「会えて嬉しいわ。あ、良かったら」
まずはと近くのユリアンに渡す、ユレイテルも居ると聞いてそちらにもあげようと視線を巡らせた。
手伝いの合間に少し良いだろうかと声を掛け、イーリス・クルクベウ(ka0481)は包みを差し出す。
「パウラ殿にはこれじゃ」
栞に施した押し花は勿論鈴蘭。長持ちさせるためのニスの塗りも丁寧で、何より気遣いがこまやかだ。本好きを意識した実用品というところもツボをついている。
「是非使わせていただきますっ」
感謝の言葉を聞いてから、もう一人に向き直る。
「ユレイテルはこっちじゃな」
「私にもあるのか」
少し驚いたような声。
「期待しているおぬしに贈らない方が変じゃろうに」
イーリスが鈴蘭の絵柄を彫ったプレートは魔除けに使われる銀。これから先を見据える、その前途に幸あれと願いを込めたものだ。身につけやすいよう穴もあけてはいるが、好みがあると思いそれ以上の細工はしていない、なるべくシンプルにと意識したアクセサリープレート。くすりと笑顔を向けながら続ける。
「どうせやるなら、わしらも楽しんだ方が良いじゃろ?」
小さく息をのむ音がする。
「そうだな……失礼する」
手に取った一輪をイーリスの髪に挿すユレイテル。
「今はこれで。いつも言葉しか返せていない気がする。……今度、改めて礼をさせてくれ」
●
渡された一輪の鈴蘭を手にイェルバート(ka1772)が思うのは、自分にとっての大事な人のこと。
(僕にとって贈りたい相手は誰だろ?)
一番に浮かぶのはやはり祖父母。想像の中で2人に花を差し出せば、爺ちゃんが妙な見栄を張った。
(小物もアリかな?)
婆ちゃんの分も、形に残る物がいいかもしれない。
「あら、素敵! 幸せのお裾分け、ね。粋じゃないの♪」
鈴蘭を笑顔で受け取ったルキハ・ラスティネイル(ka2633)は、すぐにポケットから飴ちゃんを取り出して返礼に。咄嗟に受け取った少女達は突如手のひらに現れた飴玉に瞬きを少し。
「お嬢さん達にも佳い事あるといいわネ☆」
ウインクも添えた。
気になった菓子や装飾品を露店を巡りながら買い求める。ルキハ自身のものも含まれてはいるが、大半は身近な誰かに贈ることを意図したものだ。
(あの子にあげたら、喜んでくれるかしら)
揺れる作りの鈴蘭の耳飾を見ながら考える。だってアタシの幸せは、大好きなコ達が心から笑って過ごすのを見ることだから。その笑顔の切欠になれればもっといい。
せっかく贈るのだから使ってもらいたい、実用品を探すイェルが見つけたのは鈴蘭のシルエットが彫り込まれた釦だ。服や小物に使うもよし、紐を通せば普段使いの飾り紐としても扱える。
(僕の分も揃いで買って、それなら爺ちゃんも使ってくれるかな?)
そこまで考えたところで、視界に少しだけ影が映りこんだ。
(わ、かっこいい人だ)
そう思っていた矢先。
「あら、アナタもこれお気に入り? 幸せって巡るものだから……アナタにもきっと、未来に幸福が待ってるワ」
体格は紛れもなく男性のそれなのに、女性らしい柔らかな仕草。
言葉が出てこないまま、ルキハを見つめてしまうイェル。真っ直ぐな言葉に慣れていないのに、それが予期しないタイミングで真正面から向けられたものだから照れてしまう。赤面は回避できなかった。
慌ててフードで顔を隠すけれど、既にその様子はしっかりと見られてしまっている。
「まっ♪ 赤くなっちゃって可愛いわぁ」
頭を撫でる感触に更に頬の熱が増す。その勢いのまま互いに自己紹介を交わして。
「……あ、ありがと。ルキハさんの所にも、幸せが届きますように」
はじめこそ驚いたイェルだけれど、言葉を交わすほどルキハの言動に違和感を感じなくなっていた。
●
道の向こうへ歩んでいけば
素敵なことが待っている?
明るい調子の歌にのせて、ヴィオレッタがきょろきょろと周りを見回す。これから向かうどこかには幸福があると信じて、はじめの一歩を踏み出すところ。
小さなランプが足元照らし
暗い道も怖くはないの
旅のお供は一輪の鈴蘭。だから心強いのだと、ヴィオレッタの足取りも軽い。女の子の歌だからルピナスの歌う口調もそれに合わせて。男声で繰り広げられる人形劇に道行く人がちらほらと足を止めはじめる。
可愛い灯りが示す先には
笑顔の貴方に出会うはず
トコトコとヴィオレッタがルピナスの前を歩んでいく。その先に居る観客に観てくれてありがとうと一輪渡せば、また一人笑顔が増えた。
渡した花はその後どうなるのだろう?
(食卓にでも飾ったりするのかな)
試しにと先ほどの親子で想像し、自然とルピナスは笑みをこぼした。
「幸せを願うミュゲの日の花束に、エルフの女の子達のお祈りつきだよ」
人とエルフが共に行う事に意味があると思いながら、道行く人に声を掛けていくユリアン。
「お題は皆の笑顔、さぁどうぞ」
「……どうぞっ」
声に合わせてデリアが鈴蘭を渡す。繰り返すことでぎこちなさは薄れてきたが、まだ笑顔に緊張が残っている。
「って、あれ?」
聞こえてくる歌声に聞き覚えがありすぎて。視線を向ければやはりそれは妹で。
「例えば、一緒に歌ってみるとかどうかな」
音楽の力を知っているから。自信をもってそう促した。
「ありがとう御座います」
手渡された鈴蘭の香りを楽しんで、丁寧に頭を下げる観智。わざわざ姿勢も正した彼に驚いたのか、少女は小さく目を見張ったようだ。
(何故でしょう?)
その理由を詳しく尋ねてもいいものかどうか首を傾げる。仕事の邪魔にならないだろうかと迷ったのち声を掛けた。丁度人通りが落ち着いた頃間だったから。
「……人間なのに、って思って」
改めて、人間にもいろいろな考えを持っている人が居ると理解したのだというデリア。確かに笑顔が見たくて友人についてきたけれど、実際に目の当たりにするまでは信じ切れなかった部分があったのだ、と零す。
それを聞く観智は以前聞いたエルフハイムの思想を思い出していた。彼女達のように、まだ思想に染まっていない存在も居るのだなと、脳裏に書き加えながら。
アイラが刹那に鈴蘭を差し出したのはほんの偶然だけれど、故郷が遠くにあるという共通点が惹き合ったのかもしれない。
「え、私に?」
驚いて周りを見回す。他にも同じように鈴蘭を差し出している少女達が居て、なるほど催しの一貫なのだと理解する。目線の近いアイラに笑顔を向けて、気持ちをしっかり乗せてありがとうと告げた。少しだけ下り気味だった気分がふんわりと温められた気がしたから。
「私も手伝っていいのかな?」
ちらりと見えた荷馬車にはまだたくさんの鈴蘭が積まれている。一人で過ごすよりも誰かと一緒に配っていたら縁が増えそうで、何よりも楽しそうだから。
「いいと思うわ、私もお手伝いだし。わたしアイラ、よろしくね♪」
「じゃあ遠慮なく。私の事は刹那って呼んで?」
これが終わったらまた友達が増えている、そんな気配がした。
●
「ミュゲの日、ね。どんな祭なんだい?」
尋ねてくるシルヴェイラ(ka0726)の袖を引きながら、エルティア・ホープナー(ka0727)の意識はお目当ての品を探すことに集中している。
「蒼の大地の催しね」
紡ぐのは答えとしては足りない言葉だけ。
「シーラ、新しいランプが欲しいわ?」
早く見て回りたくて仕方ないその気持ちが手に取る様にわかるから、シーラもそれ以上強くは出ずにエアの進むままに任せた。
「勿論付き合うさ」
鈴蘭の形のランプはないだろうか? あちらこちらで扱われている鈴蘭の形から思いついて、エアはその明確なイメージを元に探し回る、その合間。
(森の子達が来てるわね……)
少しだけ視線を向けたけれど、迷い込んだわけではないらしいとわかりそれだけに留める。
(!……これは)
偶然向けた視線の隅に移り込んだ、興味深い装丁の本にすぐに釘づけになった。知らず手を伸ばしていく。
(女性の買い物は長いとは言うけどね……)
袖が解放された理由にすぐ気付き、口元に小さく笑みを浮かべるシーラ。
「エア、探し物はランプじゃなかったのかい?」
そろそろ、どんなランプなのか教えてくれてもいいと思うんだが。はっとして手を引き戻した幼馴染が拗ねた様子で振り向いた。
「わかっては居るのよ?」
本は別格なのだ。改めて言わずとも知っているだろうから言葉にはしないけれど。
「ランプは鈴蘭の形がいいの。……大切な相手の幸せを願って贈る象徴、らしいわ?」
「探して居るのはランプよ? これじゃ光らないわ?」
手渡された鈴蘭の花に首を傾げるエアの声は純粋な疑問に満ちている。
「はは、花はあっても悪くないだろ? たまには買ってやるさ」
幸せを願うその形だけでも示しておく意味はあるとシーラは考える。通じていないとしても、花の世話をするのが自分だとしても。ただ、自分が彼女にそうしたいから。
「なら、交換ということにするわ」
雑貨屋の包みから零れ落ちる、二つ揃いの鈴蘭のピン。その一つをシーラに渡しながらエアは今日のお礼だと告げる。
「襟に着けましょう?」
ランプの代わりに見つけたの。
「私とお揃いよ? 嬉しいでしょ?」
言いながらエアは自分の襟に。シーラの耳の端がほんの少し赤みを帯びたことには気付かない。
(……嬉しいに、決まっている)
深い意味はなかったとしても、こうして形に残ることが。
●
(楽しそう)
天体観測にいい場所を探そうと、望遠鏡を片手に昼食を買い求めていたムーン・オリーブ(ka0661)はケイルカ(ka4121)の人を集める声に引き寄せられたのだ。
「……私もいい?」
「わたしも混ぜてもらっていいかな?」
「白詰草あるかなー?」
同じく集まってきたチリュウ・ミカ(ka4110)とユノ(ka0806)が増える。
「わたしもシロツメクサで花冠作ろうか」
四つ葉も幾つかみつけられるかなとミカが言えば、ミオレスカ(ka3496)が通りがかる。
「興味が、あります。摘むの、手伝わせてください」
「交換しあいっこ楽しみです~」
集まり始めている様子に引き寄せられたエーディット・ブラウン(ka3751)はにこにこと輪に入ってきた。随分と大所帯だ。
「よ~し、みんな纏めてご案内~♪」
「鈴蘭は、向こうで可愛らしい子供たちが配ってたな」
そこから分けてもらおうかとミカの提案に荷の軽い皆で向かう。
「すまないが2輪もらえるだろうか?」
一輪は自分の胸ポケットに使う分だ。
ミカと共に鈴蘭を受け取りながら、ミオはパウラに言葉をかける。エルフハイムはいつか行ってみたいと思う、両親の故郷なのだ。
「その時に、今日頂いた幸せのお返しを、させてもらいますね」
まだあまり詳しいことは知らない。けれどミュゲの日にこんな温かい気持ちをくれる人が暮らす場所なら……まだ見ぬ土地への期待が少し、膨らんだ音がした。
クレール(ka0586)も幼馴染のケイルカの提案に連れられてお花摘みがてらのピクニックに参加している。
「わぁ……故郷を出て以来だぁ、懐かしいなぁ……」
「でしょ~? クレールちゃんとこうやって遊べるのも久し振りだし、張り切って場所も探しておいたんだよ♪」
「ミュゲの日もそうだけど、ケイちゃんと過ごせる時間も嬉しいな、ありがとう!」
張り切ってお弁当作ってきたんだよと、抱えていた大きなバスケットを示すクレール。勿論2人分だけじゃなくて、共にいる皆の分を補って余りあるくらい。
「おかずの交換し合いっこも楽しみだよ」
クレールの手先の器用さを知っているから、ケイルカも笑顔で答えた。
大好きなお姉さんがいっぱいだ! とついてきたユノが首を傾げた。
「おねーさ……ん?」
「ミカおねーさん、だからな?」
にかりと笑って、花冠を作り始めるミカ。
その笑顔には逆らえなかった模様。帽子の中の猫とパルムがちょっぴりずり落ちそうになってたから、それを直しながら花輪づくりを教わる事になった。
(緊張も、するけど)
ついてきてよかったなと思うムーン。ピクニックに最適なこの場所は、夜になったら星見にも良さそうだ。
鈴蘭の入った籠に花を摘み足しながら、自分がこれから作る花冠と、誰が作った花飾りが貰えるだろうかと想像を膨らませていった。
「これ美味しいのよ」
人参玉葱ジャガイモをしっかり炒めて甘味を引き出した野菜入りオムレツを皆にすすめるケイルカ。
「でもクレールちゃんには負けるね、さすがね~」
もっちりチャバタのローストビーフサンドは紙で包んでもあるから食べやすい。トマトのファルシはまだ香ばしいお肉のうまみを香らせていたし、添えられているキャロットラペの鮮やかなオレンジ色が春を演出。バランスも考えられていて、クレールの女子力は本日、ダントツ一位。
「……さすが」
クレール持参のハーブティーを配る手伝いをしながらムーンが頷く。
「買ってこないでも良かった、くらい」
「そんなことないさ、甘いからデザートになるし丁度いい」
ムーンが街で買ったのはジャムのロールサンドだ。ミカが笑顔で言えば他からもそうだよと同意の声があがった。
●
薬は毒、毒は薬。
(彼女は僕にとっての毒だ)
ウォルター・ヨー(ka2967)は柏木 千春(ka3061)に、そう伝えてあった。
(響く癖に曲げないことも知ってるけどね)
幸せを厭う貴方の、幸せを願わずにはいられない私。
(『毒』だなんて言われても、諦めるなんてことはできないから)
この距離感を承知の上で、今日も共に過ごすと決めた。
「ラザラスさんが幸せを手に入れますように」
一人で祈る時と同じ言葉。自らその手を伸ばしてくれたらいいなと、ほんの少しだけ手前になるその場所に鈴蘭の花束を差し出す千春。
毒をもつ鈴蘭が幸せの象徴となれている様に、私も貴方にとっての幸せとなれますように。私そのものを示すようなこの花を受け取ってはもらえないかもしれないけれど。
(どれほど時間がかかっても)
今までと変わらず、いつまでも諦めずに私が彼の幸せを願っていられるように、その願掛けも兼ねているから。
似合わないし間違いだと繰り返しても、幸せであってほしいと君が言うから。
(そうなりたいと、思い始めてるんだ)
伸ばして掴んでしまいたいと、思うだけなら何度も。
「じゃあさ、こうしようか?」
花束を引き受けて、一輪だけ抜き取ったあと残りを全て返した。
「これは千春ちゃんに似合いだよ」
受け取るのはほんの少しの間だけ。こうして君と顔を合わせるちょっとの時間と同じくらい。
(でも、これ以上を貰ったら、いけないんだ)
返すのは、いつもと同じ拒絶の証。
けれど君に“あげた”分には、幸せになって欲しいという気持ちを乗せてある。
ホントと嘘を混ぜ込んで。
「……自惚れてもいい、かな」
ほんの一部だけでも私を受け取ってもらえたから。少しでも前に進んでいる証だといいな。
“貰った”鈴蘭の香りを確かめるように抱き締める。兆しを逃さないようにこっそりと呟く千春。
「鈴蘭って、適量飲めば強心剤になるんだよね」
そこにぽつりと零される言葉。
(私は、いつか貴方にとっての薬に、なれる?)
幸せに、心の癒しに。過ぎれば後戻りのできない毒である危険をはらみながらでも。
背を向けている彼の表情は読めないけれど、想いが同じであればいいと思う。
毒と薬、ホントと嘘。表裏一体。
似ているようで似ていない、同じくらい頑固な二人のまま。
いつか、もしかしたら?
●
「頑張りすぎはいけません」
デリアの僅かな声のかすれに気付いて、新たな籠を渡すかわりに少女の腕を引いた。
荷馬車の影で休息すべきだと誘えば、言われて気付いたようではっとした表情が浮かんだ。それだけ花を配るのに夢中だったのだろう。
(甲斐はあったようですね)
少し前、不審者に丁重にお引き取り頂いたのは無駄ではなかったと、心のうちだけで頷く静架。これだけ一生懸命な少女達を害する可能性を潰せたのは悪いことじゃなかったと、そう思った。
聞いた通りの改造コックコート姿のカミラを見つけ、エミリーは心の中で快哉の声をあげた。
「あの、カミラさんですよね?」
師団長と呼ばないように気を付けながら声を掛ける。買い出し業務中の彼女の身分は秘匿すべきと聞いていた。
「?」
「ハジメマシテ、お噂はかねがね……」
初対面でもあからさまに警戒されなかったのは、エミリーに殺気がなかったからだろう。無事にカミラと、同行の兵士達にも首飾りを掛けることに成功。
「ああ、今賑わしているミュゲの話か」
食える花ならもっといいのだが、等と言っているが。気にせずエミリーは続ける。
「それにリアルブルーでは、贈られたら3倍にして返すという風習があるそうです。カミラさんがどんなお返しをしてくれるか、楽しみにしてますね♪」
予定外の人数に用意してきた首飾りはなくなってしまったけれど。しばらくはお返しの事で想像を膨らませて楽しく過ごせそうだ、と笑顔を隠しきれないエミリーだった。
●
「お姉さん達全員にー♪」
僕は男の子だから要らないけれど、一緒に遊んでくれたからそのお礼。交換に参加しないユノがたくさん作った花輪を6人の首にかけていく。どれも白詰草と鈴蘭の白い花で纏めてある。
「残ってる分? これは鈴蘭を分けてくれたおにーさん達にあげる分★」
それぞれが完成させたミュゲの花、その贈り物を手に輪になる6人。
「歌詞はさっき教えた通り……さん、はいっ♪」
ケイルカの声を合図に歌声が響く。
幸せ願って 貴方の元へ
込めた気持ちを 花の形に
香りと思い出 隣へどうぞ
私の幸せ どこから来たの?
白と紫のクローバーの花をマーブルに編み上げた花冠は全体がふわもこの見た目。二本の鈴蘭が触覚のように飛び出している。
「えへへ、可愛いでしょ」
贈り主のケイルカが笑顔で胸を張る。
「付けて歩くとぷらんぷらんするのよ……ほら、可愛い!」
笑顔が深くなる。つけてくれてありがとうの言葉と共に。
「ありがとう……」
ムーンにとって初めて一緒に過ごす人達、慣れてきた今、最初の楽しそうと言う直観に従ってよかった。そして共に過ごした皆にもむけて、精いっぱいの感謝を。
白い花だけを選びぬいて編んだ土台の輪はとにかく丈夫さを意識して。決まった形を壊さないように、空いた場所を花で埋めていくように色とりどりの花を足していく。花の盛りは冠として、後から思い出の一品になるように。
「結婚式をイメージしたの。私達も、いつかはお嫁さんだもんね」
クレールが言うにはドライフラワーにしてもこのまま形が残るらしい。良かったら壁掛けにもしてみてね?
「ありがとう、ございます」
どの贈り物が来ても嬉しいなと、目の前を巡っていく花を見ながら思っていたミオ。お礼の言葉はそのことだけではなくて。
「幸せなひと時にも……ですね」
まさに王冠の形を思わせる花冠は、色のある花を宝石に見立ててバランスよく配置されている。
「改めて、失礼しますね~♪」
満面の笑顔を浮かべたエーディットが、ふわりと花の王冠をケイルカの頭に被せた。
「即席戴冠式なのです~♪」
お似合いですよとその笑みが深くなった。
一見は基本に忠実なシロツメクサの花冠。その中で特別に輝くのは見つけ出したいくつかの四葉だ。アクセントになる様に簪を意識した形で鈴蘭も添えられて、シンプルながらとても纏まった仕上がりになっている。
「幸せと幸運の象徴を揃えたからね、きっと良い事が待ってるさ♪」
運の良さが保証できそうだねとミカがクレールに向けて笑った。
茎の長い花を使って編み上げたことでドーム状になった土台はどこか、昼の月のよう。白い花が並ぶ中、明るい色の花が飛び石の様に飾られている。
「……冠と、七つ星」
今の季節に見られるはずの星の並びをいくつか意識したのだと、ムーンがそっと言葉を添えた。
「お姫様になったみたいです~♪」
自分の頭にも戴いて、エーディットの楽しげな笑い声が皆の空気をより柔らかくするのだった。
丁寧に、しっかり畳まれた厚めの紙はぴたりと閉じられている。その端の方に開けられた穴には、一本の鈴蘭が輪になる様に結われていた。
「すみませんが、まだ完成してはいないんです」
押し花何ですよと説明するのはミオ。
「少し時間がかかるので、あとで開いてみてくださいね」
皆と探した四葉のクローバーも勿論入っている。きっと、思い出として振り返りやすい形になっているはずだ。
「私も運が良かったみたいだね」
出来上がりを待つ楽しみも増えたねと、ミカには四葉が帰ってきた形だ。
交換し手に入れたミュゲの花達に笑顔を浮かべる少女達がピースホライズンへと戻ってくると、まだたくさんの箱を抱えた美沙樹が通りがかった。
「皆様にも、是非どうぞ……幸運が訪れますように」
張り切り過ぎてこの通り、たくさんありますから是非受け取ってくださいなと配っていく。
「昔の様に交流が続く様になったら嬉しいですわ。先だってのご縁がさらに広まればいいと思いますの」
あたしが受け継いでいる血筋の様に、縁が繋がっていければ。
●
「ユレイテルお兄様、お久しぶりですわー♪」
笑顔でぺこりと挨拶するチョココ。その腕には買ったばかりのブレスレットが揺れている。
初見の少女達とも自己紹介を交わしながら、まずデリアに花を渡す。
「今日この日、出会えた奇跡に、一輪どうぞですの」
勿論パルパルやお兄様達、皆様にも幸せをお裾分けだと言いながら更に渡していった。
「こんなに素敵なイベントなら、きっととても参考になるのです~♪」
皆さんお疲れ様ですと、新しく冷えた飲み物を差し入れて激励するエーディット。交換会帰りの彼女は花冠を載せたまま、ふんわり笑顔と纏う雰囲気は、少女達の癒しになっているはずだ。
それだけエーディットの笑顔は特に幸せそうな印象が強い。それまでも楽しんでいたデリア達だけれど、改めて気持ちを新たに、エーディットに似た笑顔を浮かべて、幸せの花を配る役に戻っていった。
「シャイネお兄さんも来る?」
「来るとしても遅いだろうな」
「そっかー、じゃあとりあえず★ ユレイテルお兄さん、浄化術研究を錬金組合のハイデマリーお姉さんと協力してみたら?」
人の輪が一杯広がると良いねとユレイテルに花輪を一つ渡すユノ。
(ハイデマリーお姉さんと会ってみたら、って言おうと思ったんだけどなー)
「髪に一杯お花飾りたかったんだけどなー? まいっか★ 配るの、僕も手伝うね!」
暗くなるまでは待ってみようかな?
残りわずかな鈴蘭で作ったブーケを皆に贈るユリアン。
「幸福が帰って来る、って花言葉の一つにあるんだ」
皆にも幸せが届きますように。
持ち歩きやすいようにと買ってあったお菓子を取り出して、アイラと、仲良くなった少女達に手渡す刹那。
「たくさん買ったから、今日の記念に。またね?」
楽しい気分のお礼だよと笑って渡せば、特に人に慣れていない少女達がそれぞれ、恥ずかしそうに感謝の言葉を刹那に返した。
譲ってもらった鈴蘭はナハティガルの肌色の中浮かぶような白さで。
(柄にもねぇ)
けれどそうしようと思ったのは、多分この場の勢いだ。鈴蘭の受け渡すさまを見続けて、少しくらいなら混ざってみようという気になった。
「――絵にはならねえけど、な?」
集落の為に動く漢気に、疲れた様子の癒しにでも。らしくない自覚に照れを滲ませながら、ユレイテルと、ずいぶんと遅く、小さな子達も帰った後に現れたシャイネに贈った。
帰りがけに見かけた小瓶を手に取る静架。
「鈴蘭の香りの甘過ぎないところが、好きですね」
共通点を見つけたのかもしれない。
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ミュゲの日を楽しもう相談卓 ケイルカ(ka4121) エルフ|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/06 17:20:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/05 19:45:08 |