ゲスト
(ka0000)
【不動】大鉱山レゲンイリス奪還作戦
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/22 19:00
- 完成日
- 2015/05/27 21:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●希望を繋ぐ為に
聖地奪還。その大儀を為した西方世界は多いに沸いた。
そしてこの歴史の1ページが刻まれると同時に辺境の中でも大きな動きがあった。
怠惰の軍勢による侵攻は部族達だけでは止められなかった。それどころか他国の力を借りなければ壊滅的な打撃を受けていたであろう。
そんな自体を重く見た部族会議はこの現状を打破するべく権力を拡大することを決定。他国との交渉や戦力拡大等を実施する事とした。
しかし、その基盤ともなるべき開拓地『ホープ』は先の戦いでかなりの損害を被っていた。CAMは勿論その他多くの建築物や物資が破壊されてしまったのである。
故にその対応は急務であり、辺境が踏み出す第1歩の1つとしてホープの復興が始められた。
「で、私等の出番って訳だね」
ヴァルカン族の族長であるラナ・ブリギットは部族会議の命を受け今ホープにやってきていた。勿論その他の仲間達も一緒だ。
元々武具を作るのが彼女達の一族の生業だが、それをするにもまずは場所の確保が必要だ。その為にこのホープを復興させないといけない。
その手伝いとして彼女達も参加しに来た訳だが、事態は思った以上に深刻なようだった。
「部族会議の力を増す為にホープは必要。だけどその為には物資が必要で、その物資が今は壊滅状態と」
そう。元ある物を修繕するにしても物資は必要だ。さらに今後拡張して行くためには更なる物資がまた必要になる。
「でも可能な限り他国の力は借りたくないと。そりゃあ、これ以上貸しを作ったら足元見られかねないからね」
やれやれとラナは肩を竦める。しかし無いものは無いのだ。再利用するにしてもどう考えたって途中で物資は底を尽きる。
となれば方法は1つ。辺境内でその物資を可能な限り補給することだ。
「けど辺境の各地から掻き集めてもまだ足りそうに無いね」
どうしたものかとラナは悩む。本来は彼女ではなくもっと偉い人達が考えるべきことかもしれないが、事は自分達の生きる辺境の為だ。ある知恵は使わなくてはならない。
そんな時、頭を左右に捻り続けるラナの傍で控えていた男が声を掛けた。
「族長、今回の聖地奪還で辺境の一部が開放されたんですよね?」
「ラッヅか。ああ、そう聞いてるね。それが一体……ああ、そう言う事か。ちょっと地図を持ってきな」
ラッヅと呼ばれた男が何を言わんとしているか察したラナはそう指示する。
数分もしない内に用意された地図を開き、ラナは今回歪虚から取り戻した辺境の地に目を通す。
「今回の聖地奪還に合わせて取り戻した地域にあるのは……」
指でつーっと地図をなぞりながらこれまで一族が使用していた鉱山のリストを頭の中で広げていく。
そして地図の端に辿り着く前に一箇所で指の動きを止めた。そしてラナはにやりと笑う。
「確か私が生まれるもっと前はここを使わせて貰ってたらしいね」
ジグウ連山北部。マギア砦近くにある山で、かつて怠惰の軍を奇襲した事で知られている。この連山の北部にある山。先代族長から伝え聞いていたその名前を思い出す。
「大鉱山レゲンイリス、虹の名を持つ鉱脈」
再び笑みを深くしたラナは地図を持ち、他の族長達の集まるテントへと足を向けた。
●大鉱山奪還作戦
部族会議の認可の下で1つの作戦が打ち出されることになった。それに伴いハンターズソサエティに応援を要請。
ハンターズソサエティはそれに応え、その作戦の為に招集されたハンター達がホープの一角に集められていた。
「やあ、諸君。よく集まってくれたね」
その作戦の指揮を任されたラナは魔導トラックの屋根に登り、魔導式拡声器を片手に話し始める。
「今回皆に集まってもらったのは他でもない。この辺境をまた救って貰う為だ」
ラナは語る。部族会議の方針。ホープの復興。資源不足の現状。それらを包み隠さず話す。
「辺境は今新たな一歩を踏み出そうとしている。だがその為にはまずこの足場をしっかり固めなくちゃならない」
開拓地『ホープ』は元々はCAMの実験場だった。それが徐々に大きくなり、聖地奪還では前線基地としてその役目を果たした。
そして次は部族会議の核となる場所として新たな意味を持とうとしている。
「聖地の奪還だけじゃない。失われた故郷を取り戻せた仲間の部族達もいる。だからあんた達には本当に感謝してる」
歪虚の侵攻で多くの命が奪われ、泣く泣く先祖代々守ってきた土地を捨てた部族は沢山いるのだ。それを取り戻してくれたハンター達には命の恩人以上の念を抱く者もいる。
「私も色々助けられた口だ。ここにいる全員にキスしてやりたいとさえ思っている」
にやりと冗談っぽく笑ってみせたラナにハンター達の中でも笑い声があがる。
一息吐いたラナは表情から笑みを消し、真剣な顔に戻してからまた顔を上げる。
「正直虫の良い話だとは思うが。もう一度助けて欲しい。辺境の為、このホープを……希望をまた輝かせる為に力を貸して欲しい」
ラナの声が周囲に響く。静かに聞くハンター達の顔もまた真剣なものへと変わっていた。
ラナは魔導式拡声器を持つ手を下げ、生の声でここにいる全員へと言葉を紡ぐ。
「今回の戦いは正直危険なものだ。敵の数も力も未知数。命の危険は当たり前のようにある」
ラナはハンター達一人一人の顔を確認するようにしてこの場を見渡す。
「逃げる者を非難はしない。臆した者を笑いもしない。私と共に戦えないものは今この場で立ち去って欲しい」
その言葉から10秒、20秒と静寂が訪れる。その間誰も立ち去るどころか身動きするものもいない。
それを見たラナは内心で安堵の息を吐きつつそれを表情には出さずまた声を上げる。
「この地を守るべく立ち上がった戦士達よ! 武を磨き知に長けた勇敢な戦士達よ! 今、その力を示すとき!」
ラナがガンッとトラックの運転席の屋根を踏みつける。するとエンジンが始動し重低音が鳴り響く。
「全員乗り込め。目指すは大鉱山レゲンイリス!」
聖地奪還。その大儀を為した西方世界は多いに沸いた。
そしてこの歴史の1ページが刻まれると同時に辺境の中でも大きな動きがあった。
怠惰の軍勢による侵攻は部族達だけでは止められなかった。それどころか他国の力を借りなければ壊滅的な打撃を受けていたであろう。
そんな自体を重く見た部族会議はこの現状を打破するべく権力を拡大することを決定。他国との交渉や戦力拡大等を実施する事とした。
しかし、その基盤ともなるべき開拓地『ホープ』は先の戦いでかなりの損害を被っていた。CAMは勿論その他多くの建築物や物資が破壊されてしまったのである。
故にその対応は急務であり、辺境が踏み出す第1歩の1つとしてホープの復興が始められた。
「で、私等の出番って訳だね」
ヴァルカン族の族長であるラナ・ブリギットは部族会議の命を受け今ホープにやってきていた。勿論その他の仲間達も一緒だ。
元々武具を作るのが彼女達の一族の生業だが、それをするにもまずは場所の確保が必要だ。その為にこのホープを復興させないといけない。
その手伝いとして彼女達も参加しに来た訳だが、事態は思った以上に深刻なようだった。
「部族会議の力を増す為にホープは必要。だけどその為には物資が必要で、その物資が今は壊滅状態と」
そう。元ある物を修繕するにしても物資は必要だ。さらに今後拡張して行くためには更なる物資がまた必要になる。
「でも可能な限り他国の力は借りたくないと。そりゃあ、これ以上貸しを作ったら足元見られかねないからね」
やれやれとラナは肩を竦める。しかし無いものは無いのだ。再利用するにしてもどう考えたって途中で物資は底を尽きる。
となれば方法は1つ。辺境内でその物資を可能な限り補給することだ。
「けど辺境の各地から掻き集めてもまだ足りそうに無いね」
どうしたものかとラナは悩む。本来は彼女ではなくもっと偉い人達が考えるべきことかもしれないが、事は自分達の生きる辺境の為だ。ある知恵は使わなくてはならない。
そんな時、頭を左右に捻り続けるラナの傍で控えていた男が声を掛けた。
「族長、今回の聖地奪還で辺境の一部が開放されたんですよね?」
「ラッヅか。ああ、そう聞いてるね。それが一体……ああ、そう言う事か。ちょっと地図を持ってきな」
ラッヅと呼ばれた男が何を言わんとしているか察したラナはそう指示する。
数分もしない内に用意された地図を開き、ラナは今回歪虚から取り戻した辺境の地に目を通す。
「今回の聖地奪還に合わせて取り戻した地域にあるのは……」
指でつーっと地図をなぞりながらこれまで一族が使用していた鉱山のリストを頭の中で広げていく。
そして地図の端に辿り着く前に一箇所で指の動きを止めた。そしてラナはにやりと笑う。
「確か私が生まれるもっと前はここを使わせて貰ってたらしいね」
ジグウ連山北部。マギア砦近くにある山で、かつて怠惰の軍を奇襲した事で知られている。この連山の北部にある山。先代族長から伝え聞いていたその名前を思い出す。
「大鉱山レゲンイリス、虹の名を持つ鉱脈」
再び笑みを深くしたラナは地図を持ち、他の族長達の集まるテントへと足を向けた。
●大鉱山奪還作戦
部族会議の認可の下で1つの作戦が打ち出されることになった。それに伴いハンターズソサエティに応援を要請。
ハンターズソサエティはそれに応え、その作戦の為に招集されたハンター達がホープの一角に集められていた。
「やあ、諸君。よく集まってくれたね」
その作戦の指揮を任されたラナは魔導トラックの屋根に登り、魔導式拡声器を片手に話し始める。
「今回皆に集まってもらったのは他でもない。この辺境をまた救って貰う為だ」
ラナは語る。部族会議の方針。ホープの復興。資源不足の現状。それらを包み隠さず話す。
「辺境は今新たな一歩を踏み出そうとしている。だがその為にはまずこの足場をしっかり固めなくちゃならない」
開拓地『ホープ』は元々はCAMの実験場だった。それが徐々に大きくなり、聖地奪還では前線基地としてその役目を果たした。
そして次は部族会議の核となる場所として新たな意味を持とうとしている。
「聖地の奪還だけじゃない。失われた故郷を取り戻せた仲間の部族達もいる。だからあんた達には本当に感謝してる」
歪虚の侵攻で多くの命が奪われ、泣く泣く先祖代々守ってきた土地を捨てた部族は沢山いるのだ。それを取り戻してくれたハンター達には命の恩人以上の念を抱く者もいる。
「私も色々助けられた口だ。ここにいる全員にキスしてやりたいとさえ思っている」
にやりと冗談っぽく笑ってみせたラナにハンター達の中でも笑い声があがる。
一息吐いたラナは表情から笑みを消し、真剣な顔に戻してからまた顔を上げる。
「正直虫の良い話だとは思うが。もう一度助けて欲しい。辺境の為、このホープを……希望をまた輝かせる為に力を貸して欲しい」
ラナの声が周囲に響く。静かに聞くハンター達の顔もまた真剣なものへと変わっていた。
ラナは魔導式拡声器を持つ手を下げ、生の声でここにいる全員へと言葉を紡ぐ。
「今回の戦いは正直危険なものだ。敵の数も力も未知数。命の危険は当たり前のようにある」
ラナはハンター達一人一人の顔を確認するようにしてこの場を見渡す。
「逃げる者を非難はしない。臆した者を笑いもしない。私と共に戦えないものは今この場で立ち去って欲しい」
その言葉から10秒、20秒と静寂が訪れる。その間誰も立ち去るどころか身動きするものもいない。
それを見たラナは内心で安堵の息を吐きつつそれを表情には出さずまた声を上げる。
「この地を守るべく立ち上がった戦士達よ! 武を磨き知に長けた勇敢な戦士達よ! 今、その力を示すとき!」
ラナがガンッとトラックの運転席の屋根を踏みつける。するとエンジンが始動し重低音が鳴り響く。
「全員乗り込め。目指すは大鉱山レゲンイリス!」
リプレイ本文
●表層、道を切り開く為に
魔導トラックのエンジンが唸りをあげながら丘を飛び越える。10台近い鉄の塊が荒野を突き進んでいる。
真横にはジグウ連山の山々が連なり、その北部までやってきたハンター達の目の前に一際大きな山が現れた。
「見えたぞ。あれがレゲンイリスだ!」
ヴァルカン族の族長、ラナ・ブリギットがトラックの荷台から叫ぶ。
正面の山の中腹までは一本道が出来ており、そこにぽっかりと穴が空いているのが見えた。恐らくそこが鉱山への入り口だ。
「ヒュウッ、敵さんもこっちに気づいたのかうじゃうじゃ沸いてきてるぜ」
併走するトラックに乗っているユーロス・フォルケ(ka3862)が周囲の林から現れた歪虚達の姿を捉える。
ゴブリン、コボルト、そして先の大規模で何度も見かけた背丈が4メートルを超える怠惰の巨人達。大小あわせて30は下らないだろう。
「それじゃ、さっさと入り口の掃除を済ましちまうか。先遣隊、突っ込むぜ!」
それに怯むことなくティーア・ズィルバーン(ka0122)はトラックの屋根をガンッと叩く。
それに合わせて数台のトラックがグンッとスピードを上げて前に躍り出た。だがその進路を塞ぐように数体の巨人の姿が現れる。
「正面に怠惰の巨人! どうする、やるか?」
「いえ、ここは私にお任せください。それより私のことを支えてくださいます?」
覚醒の証である紅蓮のオーラを纏ったヴァイス(ka0364)に、エルバッハ・リオン(ka2434)が待ったをかけた。
エルバッハは荷台で杖を構えて意識を集中する。口元では囁くような小さな言葉が漏れ、それが詠唱となりマテリアルがその性質を変える。
その間にトラックは巨人達に急接近。巨人の方も迫る人間とその乗り物を叩き潰そうと棍棒を振り上げる。だが、巨人がそれを振り下ろそうとする瞬間にその視界を青白い靄が覆い隠した。
靄に包まれた巨人達は数瞬それを払いのける動作をするがそれはすぐ緩慢になり、突然崩れ落ちるようにして地面に倒れこんだ。
「よし、あいつ等居眠りを始めた。このまま突破するぞ!」
トラックの列が倒れた巨人達の間を縫って一気に走り抜ける。
「ちっ、あいつらこっちの目的に気づいたのか鉱山の入り口を塞ぎだしたぞ」
ユーロスの言葉通り歪虚達がこちらに向かうのではなくトラックの進路の先にある鉱山の入り口に集まりだしていた。
「どうする。もう一回眠らせるか?」
「お任せください。ただ今度は熱いのをくれてやります」
「では、わたしもお手伝いします」
そこで2台のトラックが先頭を並んで走り出す。片方には赤き薔薇の紋様を纏うエルバッハ。片方には透き通った青水晶の翼を携えるメトロノーム・ソングライト(ka1267)。
2人は同時に詠唱を開始し、別々の言葉を紡ぎ、同じ現象をマテリアルで再現する。
「赤き『炎』よ!」
「青き『炎』よ!」
エルバッハの赤き炎球とメトロノームの青き炎球が歪虚達の陣取る鉱山前に打ち込まれる。
赤と青の爆発が小さな歪虚達を薙ぎ払い、その爆発の間に挟まれた一体の巨人の下半身が炭化して燃え落ちた。
「邪魔しないでください。そこを退いて」
さらにミオレスカ(ka3496)の放った複数の弾丸が運良く難を逃れた者達の運を尽く奪っていく。
そして先行していたトラックは鉱山入り口の左右に展開して止まり、ハンター達がすぐさま荷台から飛び降りた。
「入り口掃討の開始だ。ホープに再び希望を灯すために!」
レオン・フォイアロート(ka0829)は地面に転がっていたまだ息のあったゴブリンの胸元に剣を突き立て、視界の先の鉱山入り口から姿を現した別のゴブリン達に標的を変える。
石斧を手に飛び掛ってきたゴブリンに対し、素早い踏み込みでその手の得物を振るう前に腕を切り落とす。さらに次のゴブリンを蹴り倒して首を横薙ぎにして飛ばした。
「俺を前にしてまだ立ってるなんて、生意気だな」
レオンの横を追い抜くようにしてユーロスは駆け、ゴブリン達の間を縫うようにして移動する。
そのすり抜け様に全てのゴブリンの足を切りつけており、ゴブリン達は一斉に痛みによる悲鳴の大合唱を開始した。
入り口付近の掃討は順調だった。だが別の場所から迫ってくる歪虚達の迎撃に梃子摺っているようだ。
そんな中で鉱山入り口から少し離れた位置で2人のハンターが孤立していた。
「くっ、流石に長距離を走らせすぎましたね」
マッシュ・アクラシス(ka0771)は歪虚に囲まれている状況で防戦一方なまでに追い詰められていた。
この戦場で戦馬を活用しようとしたのだが、トラックに併走させるために走らせ続けそのまま戦闘に突入した為に馬のスタミナが途中で切れてしまったのだ。そこで馬が攻撃を受け転倒。これ以上走らせるのは無理だろう。
「失敗を後悔するのは後だよ。それに敵の気を引くって意味じゃ成功してるんだし」
ミリア・コーネリウス(ka1287)、彼女もまた馬をやられ孤立してしまった1人だ。幸いなのは2人がほぼ同じ場所で孤立したことだろうか。
「確かに。では今を乗り切ることに集中しましょう」
マッシュは身の丈に近い巨大なサーベルを振るい、近づこうとしていたコボルトを2~3匹まとめて斬り伏せる。ミリアも戦斧を豪快に振り回して周囲の敵をまとめて相手にしていた。
だが流石に多勢に無勢。2人の傷は徐々にその体に刻まれている。
「ちょっと不味いかな。誰か救援に向かえる?」
孤立した2人に気づいたクドリャフカ(ka4594)が周囲に呼びかける。その間も引き金を絞り、放たれた弾丸は死神の変わりにその命を奪い取っていた。
「すみません。こちらは今手一杯です!」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は返事を返しつつ、目の前にいる巨人の丸太のように太い足に向け大斧を叩き付ける。
その一撃で体勢を崩した巨人にショットアンカーを使いユーロスは軽々とその体を昇る。そしてその首筋にユーロスが雷撃を帯びた刀を突き刺すが、巨人は驚異的なタフさを見せ立ち上がる。すぐさま首筋のユーロスを叩き落し、足元のレイを踏み潰そうと何度も地面を踏みつける。
「悪い、こっちもまだ無理だ!」
入り口付近の小型歪虚の群れを片付けているヴァイスが叫ぶ。両手剣を渾身の力で振り回し湧き出るゴブリンやコボルトを斬り飛ばしているが切りがない。
「3発目、行きます」
メトロノームの放った青い炎の塊が炸裂する。ゴブリン達は吹き飛ばされるが、それでも持ちこたえた個体はしぶとく起き上がり迫ってくる。
そんなゴブリン達が後衛に辿り着く前に黄金色の刃がその命を断つ。
「この数、やはり脅威ですね」
返す刃でコボルトの胸元を切り裂いた麗奈 三春(ka4744)は周囲の状況を窺う。状況は一進一退、どこかが崩れれば押し潰されかねないといったところか。
「しょうがない。俺が援護に加わる。銀獣は戦友を見捨てねぇぜ!」
そこでティーアが名乗りを上げた。頬についた歪虚の血を拭い、トントンと靴の具合を確かめる動作の後に機械刀を構え突撃する。
「それなら最後の一回。援護に使います」
そう言ったミオレスカは弾倉を交換したばかりの魔導拳銃をティーアの向かう先へと向ける。それから間髪いれずに連続射撃。その数6発。
放たれた弾丸は数匹のゴブリンの武器を弾き落とし、1体の巨人の鼻先を掠めて僅かだがその動きを鈍らせる。その隙にティーアは駆け抜け、孤立した2人の元へと加勢に向かった。
「引き続き私が援護するよ。大丈夫、あれだけ大きければ外さないから」
クドリャフカの覗くスコープの先ではティーアが巨人の股下をすり抜け、その先にいたゴブリンは彼女が引き金を引いた途端に頭に大穴が開いた。
戦闘を始めて数十分で戦況は安定しだした。歪虚はまだ残っているが表層の担当のメンバーだけでも抑えきれる数だ。
「そろそろ頃合だね。お前さん達入り口を開けてくれ。突入するよ!」
「了解です。皆さん、ご武運を」
入り口に残っていた最後のゴブリンを切り伏せた三春は、突入していくラナとハンター仲間達の背を見送った。
●上層、正しき道を探して
上層に突入したハンター達に最初に待っていたのは行き成りの分岐路だった。
100年前の地図によればどの道を選んでも中層には辿り着けるが、1つの道を全員で進むには狭すぎる。
その為にハンター達は3つに隊を分けてそれぞれの道を進み中層で再び合流する案を取った。
『さあ、わんこ達。迷宮攻略を始めるよ!』
左側の道を進むハンター達の先頭にはエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の姿があった。2匹の犬達はエヴァに見せられたカードの意味が分かっているのかわんと吠えて答えている。
「ここまでは地図にあった通りの道ですね。ここは右に進むようです」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)は地図を確認した上で右側の通路にペンキで目印を付ける。
今のところは歪虚との遭遇はない。だが確かに何かの気配を感じることが出来、地図にある通りの広大な鉱脈を虱潰しに退治するとなればかなりの時間がかかりそうだ。
と、そう思っていた傍から進行先の闇の中から荒い息遣いをした獣面の雑魔が現れた。
「コボルトですね。なら任せてください」
素早く前にでたユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)がコボルトとの距離を詰める。虚を突かれたコボルトは手にした粗末なナイフを振るうがユーリには掠るどころか届いてすらいない。
その瞬間鞘鳴りと特徴的な振動音が坑道に響く。ユーリの振るった振動刀はコボルトを下腹部から肩までを逆袈裟に切り上げ、その刃は素早く鞘へと戻される。
もう一度2つの音が鳴ると後続にいたもう一匹のコボルトの喉元がぱっくりと割れだくだくと黒い血を溢れさせる。
数瞬の間に2匹の仲間が倒され、残っていた1匹は慌てた。そして次の瞬間には数発の弾丸をその体に叩き込まれて絶命することになる。
「ユーリ、怪我はない?」
「大丈夫です。フィル、援護感謝します」
フィルメリアは魔導拳銃を下ろし頷いて返した。その隣にいるエヴァはぐっと親指を立てたサムズアップをして健闘を称えているようだ。
「はい。スライムが出たときはエヴァにお願いしますね」
ユーリの言葉にエヴァはガッツポーズをして返す。恐らく任せなさいということなのだろう。
「さあ、急ぎましょう。まだ上層の半分ほどしか進んでいませんから」
フィルメリアの言葉に頷いた2人は警戒を強めながらどんどん奥へと進んでいった。
その頃分岐路を右に進んでいる班も道半ばまで来ていた。
丁度遭遇したスライムの群れを討伐してまた進みだしたところだ。
その中で一番前を進んでいるのがアルラウネ(ka4841)なのだが、その後ろに続く他の3人の反応がそれぞれ様々だった。
時音 ざくろ(ka1250)は顔を赤くしてなるべく前を歩く彼女の体を見ないようにしており、ジルボ(ka1732)はふむふむと小さく頷きながら満喫した様子で、そしてレイス(ka1541)は溜息を吐く。それがこの状況に呆れているのかそれとも一息ついたことによるものかは分からない。
スライム達との戦闘があるまではこうではなかったのだが、原因はアルラウネの覚醒にあった。
彼女の覚醒は肌がうっすら緑がかるのだが、戦闘が始まると同時にコートを脱いだ彼女の装備はかなり軽装でおまけに薄緑色に統一されていた。
つまり何が問題かと言うと、光源の限られたこの場所では彼女が服を着ていないように見えるのだ。はっきり言ってしまえば色っぽいのだ。
「んー? お姉さんの事、気になるの……?」
視線に気づいたのか男性陣に振り返ってアルラウネはくすりと笑う。
特に彼女の知り合いであるざくろはターゲットにされており、隣のジルボからも横っ腹をこずかれてからかわれていた。
「い、いいから早くコート羽織って!」
ざくろにコートを渡されアルラウネは残念といいながらそれを羽織りなおす。
そんなことをしていたらレイスは突然槍を構えて闇の向こうを見つめる。
「また敵だ。スライムは任せるぞ」
レイスはそれだけ言うと壁を蹴り天井を蹴って一気に闇の中に飛び込む。
そして闇の中からはレイスの言葉通りに粘着質なスライムが姿を現した。
「それじゃ、ざくろのちょっといいとこ見せて貰おうか」
「えっ?」
「私もざくろんの戦うところ見てみたいな」
「えぇっ!?」
仲間2人からの突然の振りにざくろは困惑しながらも煌びやかな長剣を構えさせられる。
「ひ、必殺! 魔法剣、光刃一閃!」
長剣に集束したマテリアルが光の刃となり、振るわれると同時にスライムを一撃で引き裂いた。
「ひゅー、やるねぇ」
「ざくろん、カッコいいー」
「え、えーっと、えへへ。そうかな?」
2人におだてられざくろはつい照れて頬を掻く。
そんなところに槍を黒い血で塗らしたレイスが戻ってきた。
「……何をしてるんだお前達は」
至極もっともな意見であるが、これもハンターというものかとレイスは今一度溜息を吐いた。
そして分岐路の中央。一番の最短コースだと思われた場所なのだが、それは歪虚達にとっても同じだったのかこの道には他のルートより数倍多く敵が溢れていた。
「邪魔だ、化け物がっ」
脇道から現れたゴブリン達に対してRisen(ka4900)が手にしたライフルのトリガーを思いっきり絞り込む。吐き出される鉛玉が横殴りの雨のように3匹のゴブリンに降り注ぎその体を穴だらけにする。
「リロードだ!」
「了解、足止めする」
Risenの声に応えて鵯(ka4720)が機械的な声を返し、残るゴブリンへと日本刀を構えて突撃する。
「今どの辺りだ?」
「そうねぇ。あと100mも進めば中層の入り口よん」
グレイブ(ka3719)の問いに地図を見ていたレオナルド・テイナー(ka4157)がそう応える。
「オーケー、あとたったそれだけなんだ。突破するよ」
ニヤリと笑ったラナが両腕の魔導ガントレットを打ちつけて思いっきり振りかぶる。そして飛び掛ってきたゴブリンに顔を半ばまでへこませながら壁に叩きつけ、続くゴブリンの頭を掴んで地面に熱烈なキスをさせる。
「やるねぇ。どうだい、これが終わったら酒でも一杯。肴はラナ嬢ちゃんの唇だけでいいぜ?」
「そうだね。カウントで私に勝ったら考えてあげてもいいよ」
グレイブの提案にラナはニヤリと笑ってみせた。グレイブもその返事に笑みを浮かべると槍を構え、ラナへ向けて飛び掛ったコボルトの体を貫き、そのまま走り抜けて壁際ももう一匹も串刺しにする。
そこで槍が壁に刺さってしまうが慌てずすぐに槍を放す。そして投げつけられた石斧を特殊な技巧を施したグローブで弾くと、その投擲者であるコボルトに一息の間に接近して逆の手にしたナックルでその胸部の骨を全て砕いた。
「二の打ち要らずってな」
グレイブはにやりと笑みを浮かべる。
「あらぁん、痺れちゃう。ねえ、ラナちゃん。さっきの私も参加していいかしら。私が勝ったら好きな人にキスしていいわよねぇん?」
「んっ? ああ、勿論だとも」
そしてレオナルドはラナにそう提案し、ラナは笑顔でそれを承認した。それが聞こえたグレイブの頬がやや引きつる。
「おい、サボってないで戦え。ドワーフの雌!」
そこでRisenの声が聞こえてくる。
「ふむ、そこまで言うなら助けてやろうかね」
「フザケロ。助けてやってるのはこっちだ。勘違いするな糞アマ」
Risenの口ぶりにラナはやれやれと肩を竦めながら横道から溢れてくるゴブリン達を殴りに向かう。
「さて、突破までもうすぐだ。このまま雪崩れ込むぞ」
「賛成。先に行く」
鵯が近づいてきたスライムを避けてその先にいたコボルトの胸に刀を突き立てる。
「もう、お残しなんて駄目よぉ。はい、鬼さんコチラ、手の鳴る方へってね!」
レオナルドが靴をトントンと慣らしそれにスライムが反応したところで、ゼリー状のその体に炎の矢が突き刺さり破裂する。
「ほらお行きよ、いってらっしゃい」
レオナルドは後続の仲間達にウィンクしてそれを見送る。
●中層、正面突破
「光よ、闇を払って!」
セリス・アルマーズ(ka1079)の言葉と共に手にしたその盾が眩い光を放ち広場になっている中層を照らし出す。
他の中層に突入したハンター達の次々に光源を取り出して中層内部に明りを点していく。
そしてそれに反応するかのように周囲に転がる木箱や盛られた石ころの山の影からスライムや干からび骨だけとなった歪虚達が顔を覗かせる。
「ぞろぞろ出てきたねェ。ラナ、下層の入り口はどこにあるんだ?」
「この広場の一番奥さ。つまりアレを突破する必要がある」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)の問いにラナはさらりと答える。彼女の指差すのは沢山のスライムとスケルトンが群れている更にその先の闇の向こうだ。
「なるほど、上等だァ」
シガレットは咥えていた煙草に火を点けると同時に盾を正面に向けて歪虚の群れに突進を開始する。スケルトンの骨棍棒を弾き返し、スライムの飛ばす溶解液も防いで数メートル、そこで盾を下ろし周囲を見渡す。
シガレットの視界に映るのは詰まれた木箱が3、スケルトンが4、スライムが2で地面と壁が1といったところか。歪虚達は足を止めたシガレットに向けて一斉に襲い掛かる。
シガレットはその中でふぅっと肺に溜めていた紫煙を吐きだすと、それが幾つかの小さな十字架の形に変わる。
「オーケー、それじゃあまとめて吹き飛びなァ!」
瞬間、煙でできた十字架が眩い光を発して聖なる波動が周囲へ拡散する。飛び掛ったスケルトンは薙ぎ倒され、スライムが地面を転がっていく。
「よし、穴をさらに広げよう。エルディ、ボクに合わせて」
「我に指図するとは。あまり調子に乗るなよ、ピオス」
黄金色の杖を構えたピオス・シルワ(ka0987)と、先端に透明な宝珠が取り付けられた杖を振るうエルディラ(ka3982)が並ぶ。
素早く展開される魔法陣。そこから生まれるのは己の大きさを超える火球と荒れ狂う風刃の束。
「炎よ、爆ぜろ!」
「風よ、切り裂くのじゃ!」
先に放たれた火球が着弾と共に膨れ上がり、その炎をさらに拡散させるように風の刃が火を運び周囲の歪虚達を焼き、切り裂いていく。
「やっぱり魔法は派手だな。っと、俺もそろそろ全力を出させて貰おう」
燻ぶる炎を突っ切って片鎌槍を手にした榊 兵庫(ka0010)が先頭へと躍り出る。
今の魔法の効果範囲外にいた敵はまだまだ沢山残っている。それこそまだ下層の入り口は闇の向こうなのだ。ここで足を止めるには早すぎる。
「ここが正念場だ。さあ、退けぇ!」
兵庫は槍を両手で握りただただ力のままに横薙ぎにする。その範囲にいた複数のスケルトンの腰の骨が砕けて上半身が地面に落ちた。 だが、地面に転がった上半身は尚も這いながら迫ってくる。下半身のほうも同じだ。
「おいおい、随分と骨があるな。ってか骨しか無いヤツばっかりだな!」
這って来たスケルトンの頭蓋骨をレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は踏み潰す。さらに手にした刀に雷を纏わせて目の前に現れたスケルトンの腕を斬り飛ばすが、腕を失ったスケルトンはそれを意にも介さず骨だけの拳で殴りかかってくる。
「ちっ、この骨共はかなり脆いが、磨り潰すまでしないと何時までも動いてそうだな」
「では、砕いてしまいましょう……ブロークンアロー!」
レイオスの隣で屋外(ka3530)が拳を正面に構える。そしてマテリアルが充填されると同時にその拳が射出された。
飛翔した拳はスケルトンの胸元を捕らえ、勢いのまま壁に叩き付けてその全身を粉々に砕いた。
中層のほぼ中心部で鉄が骨を砕き、炎が粘体を焼く音が続く。
「むっ、あれは……」
下層への入り口を探していた神谷 春樹(ka4560)は闇の中であるものを見つける。
「どうした。下への道は見つかったか?」
「いえ、どうやら敵の増援みたいです」
春樹の手にしたペンライトが照らすそこには今まさに起き上がろうとしている土と岩で出来た巨人の姿があった。
1体が起きるのに連動したのか他にも数箇所で土岩の人形達が起き始める。
「ひゅうっ。あれがゴーレムか。砕けばいい鉱石が取れそーだな!」
自分を見下ろすゴーレムに舌なめずりをしたジャック・エルギン(ka1522)は金色の剣を構えた。
ゴーレムは間近にいたジャックに岩の拳を叩きつける。ジャックはそれを剣で受けるが、軽く振るっただけに見えたその一撃に足は宙に浮きそのまま吹き飛ばされた。そして衝突した木箱の山に埋もれながらジャックは舌打ちする。
「くっそ、とんだ馬鹿力だなっ」
「その様子だと大丈夫そうね」
そのすぐ近くの木箱の上に立っていたジェーン・ノーワース(ka2004)はジャックの無事を一瞥だけして確認すると、肩に下げた鞄の中から1枚だけ手裏剣を取り出す。
「どこまで通じるかしら?」
そんな言葉と共に放たれた八つの刃を持つ手裏剣は空気を裂き、ゴーレムの腕へと吸い込まれる。瞬間、金属と岩がぶつかる音がするとゴーレムの腕の一部が小爆発でもあったかのように抉れている。
「そう。なら――」
そう言いながらジェーンは再び鞄に手を伸ばし、今度は7枚の手裏剣を同時にその細指で挟んで持つ。
「―-これでよさそうね」
そして投擲。黒い鉄刃は一枚一枚が個別に操られているかのように舞いながら飛び、ゴーレムとその傍にいたスケルトンに襲い掛かる。
スケルトンはその一撃で砕けたが、ゴーレムは体のあちこちに穴ぼこを作られながらもまだ動いている。
「そう……じゃあ、おかわりはどう?」
彼女の両手には8枚の手裏剣。それが空を切り、道を塞ぐ歪虚の身に再び喰らいつく。
「もう一体は颯におまかせですの!」
八劒 颯(ka1804)はぴょんと軽く跳ねて転がっているスケルトンの残骸を越えるとゴーレムの股下へ到達しその足に高速回転するドリルを抉りこむ。
ドリルは土と石の塊を砕きながら穴を開けるが、すぐさまそれに気づいたゴーレムは足を上げ、そしてそのまま颯を踏み潰さんと振り下ろす。
「うひゃぁ!」
颯は間一髪で飛び出して避けるが、ゴーレムはさらに拳を振り上げて殴りかかる。だがそこで盾を構えたヒースクリフ(ka1686)が割り込んでその一撃を受け止めた。
腕・肩・腰・脚と力を込めた全ての箇所が痛みに悲鳴を上げる。だがヒースクリフは弾き飛ばされることなくそれを受けきった。
「オーケー、そのまま動くんじゃねーぞ!」
そこで走りこんできたジャックは転がる木箱を足場に飛び上がり、金色の剣をゴーレムの顔と思われる場所に突き刺した。
その一撃にゴーレムは暴れるが、ジャックはゴーレムの体に足をつけて踏ん張り剣をさらに奥へと突き刺そうとする。
「ハッハー!面白くなってきたぜー!」
「颯も助太刀しちゃうよ!」
再び足元に潜りこんだ颯は電撃を帯びたドリルをゴーレムの足に突き刺す。電撃は土と岩に弾かれ拡散してしまっているようだが、ドリルの威力だけでも十分だったのかゴーレムの足の片方が音をたてて崩れた。
「! あったぞ。見つけたのじゃ。下層への道じゃ!」
倒れたゴーレムを乗り越えた先で紅薔薇(ka4766)が声を上げる。多くの木箱に囲まれるようにしてぽっかりと開いた奥へと続く道がそこにはあった。
「さあ、皆の者。急ぐのじゃ!」
紅薔薇は近寄ってきたスケルトンの首をレーザーを乗せた刀の一閃で切り落とし、残る胴体を盾で殴り倒す。
ハンター達は下層への向かうメンバーを走らせるが、そこで横合いから起き上がってきたゴーレムが襲い掛かってくる。
「ピオス、我等の魔術を見せつけてやれ!」
「ふふん、了解だよエルディ。もっと僕を頼りにしてもいいんだからね」
ピオスの黄金の杖が振るわれると坑道の地面から岩の壁がせり上がってくる。ゴーレムはそれに勢い良く衝突し、互いの岩肌に罅が入る。
「さあ、皆さん急いでください!」
銃で近寄る敵を退けながら春樹が下層へ向かうメンバーを誘導する。
そして最後の数名が下層への坑道に入るところで、その周囲に煙で出来た天使の翼が現れた。それはすぐに光を発すると共に弾けて今まさに下層へ向かっていた仲間達の傷を僅かにだが癒した。
「さあて、それじゃ俺達は残り物を頂くとしようぜェ」
シガレットは吸い終えた煙草を地面に落として踏み潰し、こちらを包囲しようと集まってくる歪虚の群れに向き直る。
「退路の確保も大事だしね」
その隣に並んだセリスは殴られ続けてへこんでしまった盾を再度構える。
「無理はしないでいいのじゃよ? お主は突入してからずっと暴れ続けておったしな」
「ううん、大丈夫大丈夫。それに仕事の後は真っ直ぐ出られるようにしたいよね?」
紅薔薇の言葉にセリスはニッと笑みを返した。
●下層、激戦
ついに鉱山の下層に突入したハンター達。だがここですぐに体の異変が現れる者達が出てきた。
「何だ。急に体がだるくなったぞ。ちょっとだけだが」
鹿島 雲雀(ka3706)は眉を顰めながらそう口にする。彼女の言葉通り同じ症状に見舞われているハンター達が数人いた。
「私はなんともないな。真司はどうだ?」
「俺は少しだけ体が重い。これがマテリアル酔いか」
アイビス・グラス(ka2477)はなんともない様子で首を捻っているが、その友人の柊 真司(ka0705)は少し気分が悪そうだ。
「100年も放置されてた鉱脈の最深部だからね。どうやら予想より溜まってるようだ」
案内役のラナも僅かに苦しげな顔をするが、頬を叩いて気合を入れなおす。
「でもあともう少しなんだ。皆、よろしく頼むよ」
ハンター達はラナの言葉に一同頷き、坑道の奥へと進み始める。
だが数歩進むごとに横穴があり。その横穴からスライムが現れ、その対応をしている間に坑道の奥からスケルトンがわらわらと湧き出てくる。
「スケルトン! 貴様ァ! 美味そうなカルシウムしやがって……その骨密度うらやまけしからん! 俺がっ! この俺が、貴様の骨髄しゃぶりつくしてくれるわぁぁぁっ!!」
そう言って久木 満(ka3968)が走り出そうとするがその足は突然もつれて満はその場で倒れこんでしまう。そこにスケルトンが寄ってきて彼の体を滅多打ちにしていく。
「不味い、マテリアル酔いに勝てなかったようだな。安心しろ、このボクがすぐに助けてやるぞ!」
その様子にディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は仲間は見捨てぬと骨共の集まりに飛び込んでいく。
「早速足手まといとは。ここで足踏みしている時間はないんだ。一気に行く!」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は両手剣の刃を前方に突き出すように構え、岩肌の地面を蹴って歪虚の群れに突撃する。
スケルトンの群れを弾き飛ばし、その先に居たスライムに剣を突き刺す。だが最後の一体の為に威力が殺がれていたのか剣の刃がスライムの体を突き破らない。
「こいつらさっきの層にいた奴等よりやたらとタフだねっ」
「強化個体って奴だろ。色も上のと違って赤黒いしな!」
アイビスの拳がスケルトンの頭を捉え貫くような衝撃を与える。だが骨は砕けず大きな罅が入る程度で止まった。
真司の放つライフルの弾丸もスライムの体を突き破り穴を開けてはいるが、スライムは体の一部を飛ばされながらもその穴を埋めようと再生しているように見える。
「こりゃ体力を温存なんて言ってる場合じゃないな。全力でブチ抜くぞ!」
雲雀は大斧を腰溜めにして構えながら敵の最前列に飛び掛り力の限り得物を振りぬく。複数のスケルトンを巻き込んだその一撃に手応えは感じたが、砕ききれなかったスケルトンが再び立ち上がってくる。
と、その立ち上がったスケルトンの頭に黒い何かがぶつかり、罅が広がりそのまま砕ける。さらに小さな人影が瞬く間に接近すると微細な音を立てる刀によって残る胴体の骨を十分割にして、さらに一足飛びに奥へと目指す。
その後に続く赤髪の男、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は天井からずり落ちてきたスライムを大剣で一閃して真っ二つにし、勢いのままに壁に叩きつけられたその粘体の体をもう一閃して四分割にする。
「遅いわよ、エヴァンス」
「うるせぇ蒼髪エルフ。お前が勇み足なだけだ」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は足を止めず振り向きもせず叱咤の言葉を口にし、エヴァンスはそれに憎まれ口を叩いて着いていく。
2人の正面にはすぐにスライムとスケルトンが現れて道を塞ぎだす。
「エヴァンス、足場になりなさい」
「俺は踏み台じゃねぇぞ!」
エヴァンスはそう言いながらも速度を落としたエリシャを追い抜き、上段に構えた大剣を振り下ろしスケルトンを頭から一刀両断にする。
エリシャはそのエヴァンスの腰、次に肩へと足を掛けるとそのまま宙を舞い、狭い坑道の天井すれすれから眼下の歪虚の姿を捉える。
「さあ、踊りなさい」
ばら撒くようにして投げられた手裏剣が骨と粘体の体を引き裂きながら地面へと突き刺さっていく。そこにさらにエヴァンスの豪快な横薙ぎの一閃によりスケルトンとスライムは四散しながらあたりの地面にばら撒かれた。
「なあ、今のってどっちかと言うと踊ってるのお前のほうだろ?」
「細かいことよ。そんなこと気にしてるからハゲるのよ、脳筋」
エヴァンスの言葉にエリシャは見向きもせず毒を吐きながら手裏剣をまた手にする。
「さらにマテリアルが澱んできたわね。もうすぐかしら」
エリシャはマテリアルの濃さを肌で感じながら更に現れたスケルトンの群れに手にした手裏剣を全て投擲した。
下層、その最深部に到着したハンター達は小広場へと出た。そしてそこにはまるで待ち構えていたかのようにハンター達の前に姿を晒す巨大な骨で出来た竜がいた。
「こいつが、スカルドラゴン!」
リュー・グランフェスト(ka2419)はそれを口にした途端、それが合図だったかのようにスカルドラゴンは喉奥で黒い霧を生成し始める。
「これはまずそうだ。皆、散開しろ!」
リューは斜め上の天井にワイヤーを引っ掛けて緊急離脱を行う。他のハンター達も各々の方法でその場から離れる。
スカルドラゴンはハンター達が逃げ出すとほぼ同時にその大顎を開き黒い息をハンター達に向けて撒き散らした。
「ごほっ、大した威力はないが。何度も浴びる気にはならないのぅ」
カナタ・ハテナ(ka2130)は自らの体からマテリアルが幾分か奪われた感覚を覚えたが、致命的なほどではなかった。
それよりもあの息の脅威はそこに踏むまれる毒性なのだろう。カナタは抵抗力が高いため問題なかったが、その毒に冒されればまともに体が動かなくなる可能性がある。
「今の息にやられたものはおるか!」
「真司がやられた! あとアウレールもだ!」
「不意討ちだったとはいえ運が悪いのぅ」
カナタは急ぎその2人の解毒へと向かう。
その間に展開したハンター達は反撃に出る。
「本当、まさにボスって感じね」
「……エニア」
「了解だよ」
十色 エニア(ka0370)はシェリル・マイヤーズ(ka0509)に水の精霊の加護を与える。そして杖を構えると水球を召びだしスカルドラゴンへ向けて放つ。
それにシェリルは息を合わせ、飛ぶ水球を一瞬だけ足場にして蹴り上げ、さらに高く飛び上がる。それはスカルドラゴンの頭上を取った。
「ぐうっ!?」
だが、次の瞬間横腹に衝撃を受けたシェリルの体はそのまま壁に叩きつけられる。シェリルを襲ったのはスカルドラゴンの背中にある翼だった。この地下で、しかも翼膜もないそれが何の役に立つのかと思っていたらどうやら頭上や背中を守る防御器官となっているようだ。
「シェリル、大丈夫!?」
「……私は、弱い……!」
駆け寄るエニアにシェリルは唇を噛み、スカルドラゴンを睨みつける。
「爪に牙に、あの翼まで動くなんて。やっぱ強敵過ぎだよね」
エリス・ブーリャ(ka3419)はむっとした顔で戦線を見つめる。息攻撃は威力は然程ないが広範囲に広がるから回避が難しいし何より麻痺が非情に厄介だ。爪と牙は正直毒なんて関係なく当たると不味い。盾や鎧で受け損なったらその時点で退場になりかねない。翼の部分は積極的に攻撃に動かないところを見ると、どうやら背後に回りこんだ相手をほぼ自動で迎撃するだけしかしないようだった。
「ここで通じないようならガルドブルムになど届くはずもなし」
ポツリとそう言葉を零したリリティア・オルベール(ka3054)がスカルドラゴンの正面へと向かう。
「ちょっと、リリティアちゃん真正面は危ないよっ」
「大丈夫です。それよりも私が攻撃を引き付けますので、あとは宜しくお願いしますね!」
リリティアはそう言うと片手に持つ持ち手を振るい黒いワイヤーを走らせ今まさに振り下ろそうとしていた右腕を巻き取る。
それにより僅かに軌道をずらされた爪は誰にも当たることなく地面に大きな爪痕を作った。
スカルドラゴンはそのワイヤーの先にいるリリティアに巨大な顔を向けると、大顎を開いて音のない声で咆えた。
『―――――ッ!!』
「っ! さあ、骨であっても竜相手……腕が鳴りますねー」
負のマテリアルがぶつけられリリティアの肌に僅かな痛みが走る。リリティアはそれを無視してこれまで背負ってきた長刀の鞘をゆっくりと抜いた。
「くぅらえええええ!!」
スカルドラゴンがリリティアに気をとられた隙にリューが足元に潜り込み振動刀を振るう。だが自分の胴体より太い骨は半ばまでしかきることが出来ず、その傷も徐々にだが塞がっていっているのが分かる。
「もっと強く……なりたい、ならなきゃ……いけないのに!」
シェリルの振るう刃も骨の体に僅かな傷をつけるだけで断ち切ることは叶わない。自分への不甲斐無さにシェリルは何度も同じ箇所を切りつけるが、刃を振るうよりも早く骨の体は再生を繰り返す。
「もうっ、何か弱点はないの!」
「弱点か……」
エリスの言葉にカナタはじぃっとスカルドラゴンの体を観察する。本当に骨だけで出来ており、肉はおろか内臓の1つもない完全な空洞。怪しいところはどこにも見えない。
「おいおいなに手こずってやがる! せっかく譲ってやった首、俺が獲っちまうぞ!」
そこで周囲に沸くスケルトンを相手していたエヴァンスが広場を横断するようにして走り、すれ違い様にスカルドラゴンの足を切るとそのまま反対側の壁際にいたスライムに剣を突き刺す。
「! 今、何か光ったぞ!」
「えっ、どこどこ!?」
カナタは肉体があれば丁度心臓があるであろう肋骨に囲まれた場所を指差す。そこを見たエリスの目には光っているようには見えない。だが仲間がスカルドラゴンの体に攻撃した瞬間、そこが僅かにだが光を点した。
「どうやら弱点が分かったようだな。なら、まずは動きを止めるのだ!」
剣と盾を構えたディアドラが正面でスカルドラゴンと相対する。振り下ろされた爪を盾で受け、腕を痺れさせながらもその腕を剣で裂く。
「光斬刀、一刀両断!」
「この一撃で砕いてみせる!」
真司の巨大化させた刀ととアイビスの渾身の拳が合わさり、スカルドラゴンの片足をへし折ることに成功する。スカルドラゴンはバランスを崩すが、何とか踏みとどまり自分の周囲へ死臭のする息を撒き散らす。
「ぐぅっ、この程度なら。行ける!」
息による苦しみを耐え懐に飛び込んだアウレールの剣が肋骨を捉えた。だが、その一撃を受けてもその分厚い骨は罅が入るだけで欠片が僅かに剥がれ落ちるだけだ。
「もう一撃、と行きたいけどこりゃまずい!」
さらに続こうとした雲雀だったが弱点であるはずの胸部分を狙われた所為かスカルドラゴンはそこを庇いハンター達を牽制してくる。
「やれやれ、たまには上を見たらどうですかねっ!」
そこでリリティアが頭上を取る。迫る翼の骨を避け、頭の天辺へと長刀の重い一撃を叩きつけた。分厚い頭蓋骨が砕け、スカルドラゴンはあるはずのない痛覚が刺激されたのが体を震わせて咆える。
だが、次の瞬間スカルドラゴンはその大顎を開き、地面へと降り立とうとしていたリリティアに喰らいついた。着地の瞬間を狙われ避けられなかったリリティアは鋭い骨の牙に腹部を貫かれ、さらにそこから毒が回り一瞬で意識が薄れ始める。
「このっ、いい加減ステーキにもならないドラゴンは、とっとと砕けてくたばりなぁっ!」
リリティアは未だに喰らいつかれている。それを助けるためにも雲雀は渾身の力でスカルドラゴンの肋骨を殴りつけた。
バキリという音と共に肋骨が砕ける。そしてむき出しになったがらんどうの内部で、人間の握りこぶし大ほどの赤い何かが僅かに明滅していた。
「ここへの道を繋いだ皆の為にも……ホープという希望の地を紡ぎ直す為にも……想いを込めたこの攻撃で決めるのじゃ!」
叫び、腕を突き出すようにして構えたカナタはトリガーを引く。それと同時にナックルが射出されスカルドラゴンの胸元の赤いコアに命中し、それをガラス玉のように砕いた。
魔導トラックのエンジンが唸りをあげながら丘を飛び越える。10台近い鉄の塊が荒野を突き進んでいる。
真横にはジグウ連山の山々が連なり、その北部までやってきたハンター達の目の前に一際大きな山が現れた。
「見えたぞ。あれがレゲンイリスだ!」
ヴァルカン族の族長、ラナ・ブリギットがトラックの荷台から叫ぶ。
正面の山の中腹までは一本道が出来ており、そこにぽっかりと穴が空いているのが見えた。恐らくそこが鉱山への入り口だ。
「ヒュウッ、敵さんもこっちに気づいたのかうじゃうじゃ沸いてきてるぜ」
併走するトラックに乗っているユーロス・フォルケ(ka3862)が周囲の林から現れた歪虚達の姿を捉える。
ゴブリン、コボルト、そして先の大規模で何度も見かけた背丈が4メートルを超える怠惰の巨人達。大小あわせて30は下らないだろう。
「それじゃ、さっさと入り口の掃除を済ましちまうか。先遣隊、突っ込むぜ!」
それに怯むことなくティーア・ズィルバーン(ka0122)はトラックの屋根をガンッと叩く。
それに合わせて数台のトラックがグンッとスピードを上げて前に躍り出た。だがその進路を塞ぐように数体の巨人の姿が現れる。
「正面に怠惰の巨人! どうする、やるか?」
「いえ、ここは私にお任せください。それより私のことを支えてくださいます?」
覚醒の証である紅蓮のオーラを纏ったヴァイス(ka0364)に、エルバッハ・リオン(ka2434)が待ったをかけた。
エルバッハは荷台で杖を構えて意識を集中する。口元では囁くような小さな言葉が漏れ、それが詠唱となりマテリアルがその性質を変える。
その間にトラックは巨人達に急接近。巨人の方も迫る人間とその乗り物を叩き潰そうと棍棒を振り上げる。だが、巨人がそれを振り下ろそうとする瞬間にその視界を青白い靄が覆い隠した。
靄に包まれた巨人達は数瞬それを払いのける動作をするがそれはすぐ緩慢になり、突然崩れ落ちるようにして地面に倒れこんだ。
「よし、あいつ等居眠りを始めた。このまま突破するぞ!」
トラックの列が倒れた巨人達の間を縫って一気に走り抜ける。
「ちっ、あいつらこっちの目的に気づいたのか鉱山の入り口を塞ぎだしたぞ」
ユーロスの言葉通り歪虚達がこちらに向かうのではなくトラックの進路の先にある鉱山の入り口に集まりだしていた。
「どうする。もう一回眠らせるか?」
「お任せください。ただ今度は熱いのをくれてやります」
「では、わたしもお手伝いします」
そこで2台のトラックが先頭を並んで走り出す。片方には赤き薔薇の紋様を纏うエルバッハ。片方には透き通った青水晶の翼を携えるメトロノーム・ソングライト(ka1267)。
2人は同時に詠唱を開始し、別々の言葉を紡ぎ、同じ現象をマテリアルで再現する。
「赤き『炎』よ!」
「青き『炎』よ!」
エルバッハの赤き炎球とメトロノームの青き炎球が歪虚達の陣取る鉱山前に打ち込まれる。
赤と青の爆発が小さな歪虚達を薙ぎ払い、その爆発の間に挟まれた一体の巨人の下半身が炭化して燃え落ちた。
「邪魔しないでください。そこを退いて」
さらにミオレスカ(ka3496)の放った複数の弾丸が運良く難を逃れた者達の運を尽く奪っていく。
そして先行していたトラックは鉱山入り口の左右に展開して止まり、ハンター達がすぐさま荷台から飛び降りた。
「入り口掃討の開始だ。ホープに再び希望を灯すために!」
レオン・フォイアロート(ka0829)は地面に転がっていたまだ息のあったゴブリンの胸元に剣を突き立て、視界の先の鉱山入り口から姿を現した別のゴブリン達に標的を変える。
石斧を手に飛び掛ってきたゴブリンに対し、素早い踏み込みでその手の得物を振るう前に腕を切り落とす。さらに次のゴブリンを蹴り倒して首を横薙ぎにして飛ばした。
「俺を前にしてまだ立ってるなんて、生意気だな」
レオンの横を追い抜くようにしてユーロスは駆け、ゴブリン達の間を縫うようにして移動する。
そのすり抜け様に全てのゴブリンの足を切りつけており、ゴブリン達は一斉に痛みによる悲鳴の大合唱を開始した。
入り口付近の掃討は順調だった。だが別の場所から迫ってくる歪虚達の迎撃に梃子摺っているようだ。
そんな中で鉱山入り口から少し離れた位置で2人のハンターが孤立していた。
「くっ、流石に長距離を走らせすぎましたね」
マッシュ・アクラシス(ka0771)は歪虚に囲まれている状況で防戦一方なまでに追い詰められていた。
この戦場で戦馬を活用しようとしたのだが、トラックに併走させるために走らせ続けそのまま戦闘に突入した為に馬のスタミナが途中で切れてしまったのだ。そこで馬が攻撃を受け転倒。これ以上走らせるのは無理だろう。
「失敗を後悔するのは後だよ。それに敵の気を引くって意味じゃ成功してるんだし」
ミリア・コーネリウス(ka1287)、彼女もまた馬をやられ孤立してしまった1人だ。幸いなのは2人がほぼ同じ場所で孤立したことだろうか。
「確かに。では今を乗り切ることに集中しましょう」
マッシュは身の丈に近い巨大なサーベルを振るい、近づこうとしていたコボルトを2~3匹まとめて斬り伏せる。ミリアも戦斧を豪快に振り回して周囲の敵をまとめて相手にしていた。
だが流石に多勢に無勢。2人の傷は徐々にその体に刻まれている。
「ちょっと不味いかな。誰か救援に向かえる?」
孤立した2人に気づいたクドリャフカ(ka4594)が周囲に呼びかける。その間も引き金を絞り、放たれた弾丸は死神の変わりにその命を奪い取っていた。
「すみません。こちらは今手一杯です!」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は返事を返しつつ、目の前にいる巨人の丸太のように太い足に向け大斧を叩き付ける。
その一撃で体勢を崩した巨人にショットアンカーを使いユーロスは軽々とその体を昇る。そしてその首筋にユーロスが雷撃を帯びた刀を突き刺すが、巨人は驚異的なタフさを見せ立ち上がる。すぐさま首筋のユーロスを叩き落し、足元のレイを踏み潰そうと何度も地面を踏みつける。
「悪い、こっちもまだ無理だ!」
入り口付近の小型歪虚の群れを片付けているヴァイスが叫ぶ。両手剣を渾身の力で振り回し湧き出るゴブリンやコボルトを斬り飛ばしているが切りがない。
「3発目、行きます」
メトロノームの放った青い炎の塊が炸裂する。ゴブリン達は吹き飛ばされるが、それでも持ちこたえた個体はしぶとく起き上がり迫ってくる。
そんなゴブリン達が後衛に辿り着く前に黄金色の刃がその命を断つ。
「この数、やはり脅威ですね」
返す刃でコボルトの胸元を切り裂いた麗奈 三春(ka4744)は周囲の状況を窺う。状況は一進一退、どこかが崩れれば押し潰されかねないといったところか。
「しょうがない。俺が援護に加わる。銀獣は戦友を見捨てねぇぜ!」
そこでティーアが名乗りを上げた。頬についた歪虚の血を拭い、トントンと靴の具合を確かめる動作の後に機械刀を構え突撃する。
「それなら最後の一回。援護に使います」
そう言ったミオレスカは弾倉を交換したばかりの魔導拳銃をティーアの向かう先へと向ける。それから間髪いれずに連続射撃。その数6発。
放たれた弾丸は数匹のゴブリンの武器を弾き落とし、1体の巨人の鼻先を掠めて僅かだがその動きを鈍らせる。その隙にティーアは駆け抜け、孤立した2人の元へと加勢に向かった。
「引き続き私が援護するよ。大丈夫、あれだけ大きければ外さないから」
クドリャフカの覗くスコープの先ではティーアが巨人の股下をすり抜け、その先にいたゴブリンは彼女が引き金を引いた途端に頭に大穴が開いた。
戦闘を始めて数十分で戦況は安定しだした。歪虚はまだ残っているが表層の担当のメンバーだけでも抑えきれる数だ。
「そろそろ頃合だね。お前さん達入り口を開けてくれ。突入するよ!」
「了解です。皆さん、ご武運を」
入り口に残っていた最後のゴブリンを切り伏せた三春は、突入していくラナとハンター仲間達の背を見送った。
●上層、正しき道を探して
上層に突入したハンター達に最初に待っていたのは行き成りの分岐路だった。
100年前の地図によればどの道を選んでも中層には辿り着けるが、1つの道を全員で進むには狭すぎる。
その為にハンター達は3つに隊を分けてそれぞれの道を進み中層で再び合流する案を取った。
『さあ、わんこ達。迷宮攻略を始めるよ!』
左側の道を進むハンター達の先頭にはエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の姿があった。2匹の犬達はエヴァに見せられたカードの意味が分かっているのかわんと吠えて答えている。
「ここまでは地図にあった通りの道ですね。ここは右に進むようです」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)は地図を確認した上で右側の通路にペンキで目印を付ける。
今のところは歪虚との遭遇はない。だが確かに何かの気配を感じることが出来、地図にある通りの広大な鉱脈を虱潰しに退治するとなればかなりの時間がかかりそうだ。
と、そう思っていた傍から進行先の闇の中から荒い息遣いをした獣面の雑魔が現れた。
「コボルトですね。なら任せてください」
素早く前にでたユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)がコボルトとの距離を詰める。虚を突かれたコボルトは手にした粗末なナイフを振るうがユーリには掠るどころか届いてすらいない。
その瞬間鞘鳴りと特徴的な振動音が坑道に響く。ユーリの振るった振動刀はコボルトを下腹部から肩までを逆袈裟に切り上げ、その刃は素早く鞘へと戻される。
もう一度2つの音が鳴ると後続にいたもう一匹のコボルトの喉元がぱっくりと割れだくだくと黒い血を溢れさせる。
数瞬の間に2匹の仲間が倒され、残っていた1匹は慌てた。そして次の瞬間には数発の弾丸をその体に叩き込まれて絶命することになる。
「ユーリ、怪我はない?」
「大丈夫です。フィル、援護感謝します」
フィルメリアは魔導拳銃を下ろし頷いて返した。その隣にいるエヴァはぐっと親指を立てたサムズアップをして健闘を称えているようだ。
「はい。スライムが出たときはエヴァにお願いしますね」
ユーリの言葉にエヴァはガッツポーズをして返す。恐らく任せなさいということなのだろう。
「さあ、急ぎましょう。まだ上層の半分ほどしか進んでいませんから」
フィルメリアの言葉に頷いた2人は警戒を強めながらどんどん奥へと進んでいった。
その頃分岐路を右に進んでいる班も道半ばまで来ていた。
丁度遭遇したスライムの群れを討伐してまた進みだしたところだ。
その中で一番前を進んでいるのがアルラウネ(ka4841)なのだが、その後ろに続く他の3人の反応がそれぞれ様々だった。
時音 ざくろ(ka1250)は顔を赤くしてなるべく前を歩く彼女の体を見ないようにしており、ジルボ(ka1732)はふむふむと小さく頷きながら満喫した様子で、そしてレイス(ka1541)は溜息を吐く。それがこの状況に呆れているのかそれとも一息ついたことによるものかは分からない。
スライム達との戦闘があるまではこうではなかったのだが、原因はアルラウネの覚醒にあった。
彼女の覚醒は肌がうっすら緑がかるのだが、戦闘が始まると同時にコートを脱いだ彼女の装備はかなり軽装でおまけに薄緑色に統一されていた。
つまり何が問題かと言うと、光源の限られたこの場所では彼女が服を着ていないように見えるのだ。はっきり言ってしまえば色っぽいのだ。
「んー? お姉さんの事、気になるの……?」
視線に気づいたのか男性陣に振り返ってアルラウネはくすりと笑う。
特に彼女の知り合いであるざくろはターゲットにされており、隣のジルボからも横っ腹をこずかれてからかわれていた。
「い、いいから早くコート羽織って!」
ざくろにコートを渡されアルラウネは残念といいながらそれを羽織りなおす。
そんなことをしていたらレイスは突然槍を構えて闇の向こうを見つめる。
「また敵だ。スライムは任せるぞ」
レイスはそれだけ言うと壁を蹴り天井を蹴って一気に闇の中に飛び込む。
そして闇の中からはレイスの言葉通りに粘着質なスライムが姿を現した。
「それじゃ、ざくろのちょっといいとこ見せて貰おうか」
「えっ?」
「私もざくろんの戦うところ見てみたいな」
「えぇっ!?」
仲間2人からの突然の振りにざくろは困惑しながらも煌びやかな長剣を構えさせられる。
「ひ、必殺! 魔法剣、光刃一閃!」
長剣に集束したマテリアルが光の刃となり、振るわれると同時にスライムを一撃で引き裂いた。
「ひゅー、やるねぇ」
「ざくろん、カッコいいー」
「え、えーっと、えへへ。そうかな?」
2人におだてられざくろはつい照れて頬を掻く。
そんなところに槍を黒い血で塗らしたレイスが戻ってきた。
「……何をしてるんだお前達は」
至極もっともな意見であるが、これもハンターというものかとレイスは今一度溜息を吐いた。
そして分岐路の中央。一番の最短コースだと思われた場所なのだが、それは歪虚達にとっても同じだったのかこの道には他のルートより数倍多く敵が溢れていた。
「邪魔だ、化け物がっ」
脇道から現れたゴブリン達に対してRisen(ka4900)が手にしたライフルのトリガーを思いっきり絞り込む。吐き出される鉛玉が横殴りの雨のように3匹のゴブリンに降り注ぎその体を穴だらけにする。
「リロードだ!」
「了解、足止めする」
Risenの声に応えて鵯(ka4720)が機械的な声を返し、残るゴブリンへと日本刀を構えて突撃する。
「今どの辺りだ?」
「そうねぇ。あと100mも進めば中層の入り口よん」
グレイブ(ka3719)の問いに地図を見ていたレオナルド・テイナー(ka4157)がそう応える。
「オーケー、あとたったそれだけなんだ。突破するよ」
ニヤリと笑ったラナが両腕の魔導ガントレットを打ちつけて思いっきり振りかぶる。そして飛び掛ってきたゴブリンに顔を半ばまでへこませながら壁に叩きつけ、続くゴブリンの頭を掴んで地面に熱烈なキスをさせる。
「やるねぇ。どうだい、これが終わったら酒でも一杯。肴はラナ嬢ちゃんの唇だけでいいぜ?」
「そうだね。カウントで私に勝ったら考えてあげてもいいよ」
グレイブの提案にラナはニヤリと笑ってみせた。グレイブもその返事に笑みを浮かべると槍を構え、ラナへ向けて飛び掛ったコボルトの体を貫き、そのまま走り抜けて壁際ももう一匹も串刺しにする。
そこで槍が壁に刺さってしまうが慌てずすぐに槍を放す。そして投げつけられた石斧を特殊な技巧を施したグローブで弾くと、その投擲者であるコボルトに一息の間に接近して逆の手にしたナックルでその胸部の骨を全て砕いた。
「二の打ち要らずってな」
グレイブはにやりと笑みを浮かべる。
「あらぁん、痺れちゃう。ねえ、ラナちゃん。さっきの私も参加していいかしら。私が勝ったら好きな人にキスしていいわよねぇん?」
「んっ? ああ、勿論だとも」
そしてレオナルドはラナにそう提案し、ラナは笑顔でそれを承認した。それが聞こえたグレイブの頬がやや引きつる。
「おい、サボってないで戦え。ドワーフの雌!」
そこでRisenの声が聞こえてくる。
「ふむ、そこまで言うなら助けてやろうかね」
「フザケロ。助けてやってるのはこっちだ。勘違いするな糞アマ」
Risenの口ぶりにラナはやれやれと肩を竦めながら横道から溢れてくるゴブリン達を殴りに向かう。
「さて、突破までもうすぐだ。このまま雪崩れ込むぞ」
「賛成。先に行く」
鵯が近づいてきたスライムを避けてその先にいたコボルトの胸に刀を突き立てる。
「もう、お残しなんて駄目よぉ。はい、鬼さんコチラ、手の鳴る方へってね!」
レオナルドが靴をトントンと慣らしそれにスライムが反応したところで、ゼリー状のその体に炎の矢が突き刺さり破裂する。
「ほらお行きよ、いってらっしゃい」
レオナルドは後続の仲間達にウィンクしてそれを見送る。
●中層、正面突破
「光よ、闇を払って!」
セリス・アルマーズ(ka1079)の言葉と共に手にしたその盾が眩い光を放ち広場になっている中層を照らし出す。
他の中層に突入したハンター達の次々に光源を取り出して中層内部に明りを点していく。
そしてそれに反応するかのように周囲に転がる木箱や盛られた石ころの山の影からスライムや干からび骨だけとなった歪虚達が顔を覗かせる。
「ぞろぞろ出てきたねェ。ラナ、下層の入り口はどこにあるんだ?」
「この広場の一番奥さ。つまりアレを突破する必要がある」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)の問いにラナはさらりと答える。彼女の指差すのは沢山のスライムとスケルトンが群れている更にその先の闇の向こうだ。
「なるほど、上等だァ」
シガレットは咥えていた煙草に火を点けると同時に盾を正面に向けて歪虚の群れに突進を開始する。スケルトンの骨棍棒を弾き返し、スライムの飛ばす溶解液も防いで数メートル、そこで盾を下ろし周囲を見渡す。
シガレットの視界に映るのは詰まれた木箱が3、スケルトンが4、スライムが2で地面と壁が1といったところか。歪虚達は足を止めたシガレットに向けて一斉に襲い掛かる。
シガレットはその中でふぅっと肺に溜めていた紫煙を吐きだすと、それが幾つかの小さな十字架の形に変わる。
「オーケー、それじゃあまとめて吹き飛びなァ!」
瞬間、煙でできた十字架が眩い光を発して聖なる波動が周囲へ拡散する。飛び掛ったスケルトンは薙ぎ倒され、スライムが地面を転がっていく。
「よし、穴をさらに広げよう。エルディ、ボクに合わせて」
「我に指図するとは。あまり調子に乗るなよ、ピオス」
黄金色の杖を構えたピオス・シルワ(ka0987)と、先端に透明な宝珠が取り付けられた杖を振るうエルディラ(ka3982)が並ぶ。
素早く展開される魔法陣。そこから生まれるのは己の大きさを超える火球と荒れ狂う風刃の束。
「炎よ、爆ぜろ!」
「風よ、切り裂くのじゃ!」
先に放たれた火球が着弾と共に膨れ上がり、その炎をさらに拡散させるように風の刃が火を運び周囲の歪虚達を焼き、切り裂いていく。
「やっぱり魔法は派手だな。っと、俺もそろそろ全力を出させて貰おう」
燻ぶる炎を突っ切って片鎌槍を手にした榊 兵庫(ka0010)が先頭へと躍り出る。
今の魔法の効果範囲外にいた敵はまだまだ沢山残っている。それこそまだ下層の入り口は闇の向こうなのだ。ここで足を止めるには早すぎる。
「ここが正念場だ。さあ、退けぇ!」
兵庫は槍を両手で握りただただ力のままに横薙ぎにする。その範囲にいた複数のスケルトンの腰の骨が砕けて上半身が地面に落ちた。 だが、地面に転がった上半身は尚も這いながら迫ってくる。下半身のほうも同じだ。
「おいおい、随分と骨があるな。ってか骨しか無いヤツばっかりだな!」
這って来たスケルトンの頭蓋骨をレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は踏み潰す。さらに手にした刀に雷を纏わせて目の前に現れたスケルトンの腕を斬り飛ばすが、腕を失ったスケルトンはそれを意にも介さず骨だけの拳で殴りかかってくる。
「ちっ、この骨共はかなり脆いが、磨り潰すまでしないと何時までも動いてそうだな」
「では、砕いてしまいましょう……ブロークンアロー!」
レイオスの隣で屋外(ka3530)が拳を正面に構える。そしてマテリアルが充填されると同時にその拳が射出された。
飛翔した拳はスケルトンの胸元を捕らえ、勢いのまま壁に叩き付けてその全身を粉々に砕いた。
中層のほぼ中心部で鉄が骨を砕き、炎が粘体を焼く音が続く。
「むっ、あれは……」
下層への入り口を探していた神谷 春樹(ka4560)は闇の中であるものを見つける。
「どうした。下への道は見つかったか?」
「いえ、どうやら敵の増援みたいです」
春樹の手にしたペンライトが照らすそこには今まさに起き上がろうとしている土と岩で出来た巨人の姿があった。
1体が起きるのに連動したのか他にも数箇所で土岩の人形達が起き始める。
「ひゅうっ。あれがゴーレムか。砕けばいい鉱石が取れそーだな!」
自分を見下ろすゴーレムに舌なめずりをしたジャック・エルギン(ka1522)は金色の剣を構えた。
ゴーレムは間近にいたジャックに岩の拳を叩きつける。ジャックはそれを剣で受けるが、軽く振るっただけに見えたその一撃に足は宙に浮きそのまま吹き飛ばされた。そして衝突した木箱の山に埋もれながらジャックは舌打ちする。
「くっそ、とんだ馬鹿力だなっ」
「その様子だと大丈夫そうね」
そのすぐ近くの木箱の上に立っていたジェーン・ノーワース(ka2004)はジャックの無事を一瞥だけして確認すると、肩に下げた鞄の中から1枚だけ手裏剣を取り出す。
「どこまで通じるかしら?」
そんな言葉と共に放たれた八つの刃を持つ手裏剣は空気を裂き、ゴーレムの腕へと吸い込まれる。瞬間、金属と岩がぶつかる音がするとゴーレムの腕の一部が小爆発でもあったかのように抉れている。
「そう。なら――」
そう言いながらジェーンは再び鞄に手を伸ばし、今度は7枚の手裏剣を同時にその細指で挟んで持つ。
「―-これでよさそうね」
そして投擲。黒い鉄刃は一枚一枚が個別に操られているかのように舞いながら飛び、ゴーレムとその傍にいたスケルトンに襲い掛かる。
スケルトンはその一撃で砕けたが、ゴーレムは体のあちこちに穴ぼこを作られながらもまだ動いている。
「そう……じゃあ、おかわりはどう?」
彼女の両手には8枚の手裏剣。それが空を切り、道を塞ぐ歪虚の身に再び喰らいつく。
「もう一体は颯におまかせですの!」
八劒 颯(ka1804)はぴょんと軽く跳ねて転がっているスケルトンの残骸を越えるとゴーレムの股下へ到達しその足に高速回転するドリルを抉りこむ。
ドリルは土と石の塊を砕きながら穴を開けるが、すぐさまそれに気づいたゴーレムは足を上げ、そしてそのまま颯を踏み潰さんと振り下ろす。
「うひゃぁ!」
颯は間一髪で飛び出して避けるが、ゴーレムはさらに拳を振り上げて殴りかかる。だがそこで盾を構えたヒースクリフ(ka1686)が割り込んでその一撃を受け止めた。
腕・肩・腰・脚と力を込めた全ての箇所が痛みに悲鳴を上げる。だがヒースクリフは弾き飛ばされることなくそれを受けきった。
「オーケー、そのまま動くんじゃねーぞ!」
そこで走りこんできたジャックは転がる木箱を足場に飛び上がり、金色の剣をゴーレムの顔と思われる場所に突き刺した。
その一撃にゴーレムは暴れるが、ジャックはゴーレムの体に足をつけて踏ん張り剣をさらに奥へと突き刺そうとする。
「ハッハー!面白くなってきたぜー!」
「颯も助太刀しちゃうよ!」
再び足元に潜りこんだ颯は電撃を帯びたドリルをゴーレムの足に突き刺す。電撃は土と岩に弾かれ拡散してしまっているようだが、ドリルの威力だけでも十分だったのかゴーレムの足の片方が音をたてて崩れた。
「! あったぞ。見つけたのじゃ。下層への道じゃ!」
倒れたゴーレムを乗り越えた先で紅薔薇(ka4766)が声を上げる。多くの木箱に囲まれるようにしてぽっかりと開いた奥へと続く道がそこにはあった。
「さあ、皆の者。急ぐのじゃ!」
紅薔薇は近寄ってきたスケルトンの首をレーザーを乗せた刀の一閃で切り落とし、残る胴体を盾で殴り倒す。
ハンター達は下層への向かうメンバーを走らせるが、そこで横合いから起き上がってきたゴーレムが襲い掛かってくる。
「ピオス、我等の魔術を見せつけてやれ!」
「ふふん、了解だよエルディ。もっと僕を頼りにしてもいいんだからね」
ピオスの黄金の杖が振るわれると坑道の地面から岩の壁がせり上がってくる。ゴーレムはそれに勢い良く衝突し、互いの岩肌に罅が入る。
「さあ、皆さん急いでください!」
銃で近寄る敵を退けながら春樹が下層へ向かうメンバーを誘導する。
そして最後の数名が下層への坑道に入るところで、その周囲に煙で出来た天使の翼が現れた。それはすぐに光を発すると共に弾けて今まさに下層へ向かっていた仲間達の傷を僅かにだが癒した。
「さあて、それじゃ俺達は残り物を頂くとしようぜェ」
シガレットは吸い終えた煙草を地面に落として踏み潰し、こちらを包囲しようと集まってくる歪虚の群れに向き直る。
「退路の確保も大事だしね」
その隣に並んだセリスは殴られ続けてへこんでしまった盾を再度構える。
「無理はしないでいいのじゃよ? お主は突入してからずっと暴れ続けておったしな」
「ううん、大丈夫大丈夫。それに仕事の後は真っ直ぐ出られるようにしたいよね?」
紅薔薇の言葉にセリスはニッと笑みを返した。
●下層、激戦
ついに鉱山の下層に突入したハンター達。だがここですぐに体の異変が現れる者達が出てきた。
「何だ。急に体がだるくなったぞ。ちょっとだけだが」
鹿島 雲雀(ka3706)は眉を顰めながらそう口にする。彼女の言葉通り同じ症状に見舞われているハンター達が数人いた。
「私はなんともないな。真司はどうだ?」
「俺は少しだけ体が重い。これがマテリアル酔いか」
アイビス・グラス(ka2477)はなんともない様子で首を捻っているが、その友人の柊 真司(ka0705)は少し気分が悪そうだ。
「100年も放置されてた鉱脈の最深部だからね。どうやら予想より溜まってるようだ」
案内役のラナも僅かに苦しげな顔をするが、頬を叩いて気合を入れなおす。
「でもあともう少しなんだ。皆、よろしく頼むよ」
ハンター達はラナの言葉に一同頷き、坑道の奥へと進み始める。
だが数歩進むごとに横穴があり。その横穴からスライムが現れ、その対応をしている間に坑道の奥からスケルトンがわらわらと湧き出てくる。
「スケルトン! 貴様ァ! 美味そうなカルシウムしやがって……その骨密度うらやまけしからん! 俺がっ! この俺が、貴様の骨髄しゃぶりつくしてくれるわぁぁぁっ!!」
そう言って久木 満(ka3968)が走り出そうとするがその足は突然もつれて満はその場で倒れこんでしまう。そこにスケルトンが寄ってきて彼の体を滅多打ちにしていく。
「不味い、マテリアル酔いに勝てなかったようだな。安心しろ、このボクがすぐに助けてやるぞ!」
その様子にディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は仲間は見捨てぬと骨共の集まりに飛び込んでいく。
「早速足手まといとは。ここで足踏みしている時間はないんだ。一気に行く!」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は両手剣の刃を前方に突き出すように構え、岩肌の地面を蹴って歪虚の群れに突撃する。
スケルトンの群れを弾き飛ばし、その先に居たスライムに剣を突き刺す。だが最後の一体の為に威力が殺がれていたのか剣の刃がスライムの体を突き破らない。
「こいつらさっきの層にいた奴等よりやたらとタフだねっ」
「強化個体って奴だろ。色も上のと違って赤黒いしな!」
アイビスの拳がスケルトンの頭を捉え貫くような衝撃を与える。だが骨は砕けず大きな罅が入る程度で止まった。
真司の放つライフルの弾丸もスライムの体を突き破り穴を開けてはいるが、スライムは体の一部を飛ばされながらもその穴を埋めようと再生しているように見える。
「こりゃ体力を温存なんて言ってる場合じゃないな。全力でブチ抜くぞ!」
雲雀は大斧を腰溜めにして構えながら敵の最前列に飛び掛り力の限り得物を振りぬく。複数のスケルトンを巻き込んだその一撃に手応えは感じたが、砕ききれなかったスケルトンが再び立ち上がってくる。
と、その立ち上がったスケルトンの頭に黒い何かがぶつかり、罅が広がりそのまま砕ける。さらに小さな人影が瞬く間に接近すると微細な音を立てる刀によって残る胴体の骨を十分割にして、さらに一足飛びに奥へと目指す。
その後に続く赤髪の男、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は天井からずり落ちてきたスライムを大剣で一閃して真っ二つにし、勢いのままに壁に叩きつけられたその粘体の体をもう一閃して四分割にする。
「遅いわよ、エヴァンス」
「うるせぇ蒼髪エルフ。お前が勇み足なだけだ」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は足を止めず振り向きもせず叱咤の言葉を口にし、エヴァンスはそれに憎まれ口を叩いて着いていく。
2人の正面にはすぐにスライムとスケルトンが現れて道を塞ぎだす。
「エヴァンス、足場になりなさい」
「俺は踏み台じゃねぇぞ!」
エヴァンスはそう言いながらも速度を落としたエリシャを追い抜き、上段に構えた大剣を振り下ろしスケルトンを頭から一刀両断にする。
エリシャはそのエヴァンスの腰、次に肩へと足を掛けるとそのまま宙を舞い、狭い坑道の天井すれすれから眼下の歪虚の姿を捉える。
「さあ、踊りなさい」
ばら撒くようにして投げられた手裏剣が骨と粘体の体を引き裂きながら地面へと突き刺さっていく。そこにさらにエヴァンスの豪快な横薙ぎの一閃によりスケルトンとスライムは四散しながらあたりの地面にばら撒かれた。
「なあ、今のってどっちかと言うと踊ってるのお前のほうだろ?」
「細かいことよ。そんなこと気にしてるからハゲるのよ、脳筋」
エヴァンスの言葉にエリシャは見向きもせず毒を吐きながら手裏剣をまた手にする。
「さらにマテリアルが澱んできたわね。もうすぐかしら」
エリシャはマテリアルの濃さを肌で感じながら更に現れたスケルトンの群れに手にした手裏剣を全て投擲した。
下層、その最深部に到着したハンター達は小広場へと出た。そしてそこにはまるで待ち構えていたかのようにハンター達の前に姿を晒す巨大な骨で出来た竜がいた。
「こいつが、スカルドラゴン!」
リュー・グランフェスト(ka2419)はそれを口にした途端、それが合図だったかのようにスカルドラゴンは喉奥で黒い霧を生成し始める。
「これはまずそうだ。皆、散開しろ!」
リューは斜め上の天井にワイヤーを引っ掛けて緊急離脱を行う。他のハンター達も各々の方法でその場から離れる。
スカルドラゴンはハンター達が逃げ出すとほぼ同時にその大顎を開き黒い息をハンター達に向けて撒き散らした。
「ごほっ、大した威力はないが。何度も浴びる気にはならないのぅ」
カナタ・ハテナ(ka2130)は自らの体からマテリアルが幾分か奪われた感覚を覚えたが、致命的なほどではなかった。
それよりもあの息の脅威はそこに踏むまれる毒性なのだろう。カナタは抵抗力が高いため問題なかったが、その毒に冒されればまともに体が動かなくなる可能性がある。
「今の息にやられたものはおるか!」
「真司がやられた! あとアウレールもだ!」
「不意討ちだったとはいえ運が悪いのぅ」
カナタは急ぎその2人の解毒へと向かう。
その間に展開したハンター達は反撃に出る。
「本当、まさにボスって感じね」
「……エニア」
「了解だよ」
十色 エニア(ka0370)はシェリル・マイヤーズ(ka0509)に水の精霊の加護を与える。そして杖を構えると水球を召びだしスカルドラゴンへ向けて放つ。
それにシェリルは息を合わせ、飛ぶ水球を一瞬だけ足場にして蹴り上げ、さらに高く飛び上がる。それはスカルドラゴンの頭上を取った。
「ぐうっ!?」
だが、次の瞬間横腹に衝撃を受けたシェリルの体はそのまま壁に叩きつけられる。シェリルを襲ったのはスカルドラゴンの背中にある翼だった。この地下で、しかも翼膜もないそれが何の役に立つのかと思っていたらどうやら頭上や背中を守る防御器官となっているようだ。
「シェリル、大丈夫!?」
「……私は、弱い……!」
駆け寄るエニアにシェリルは唇を噛み、スカルドラゴンを睨みつける。
「爪に牙に、あの翼まで動くなんて。やっぱ強敵過ぎだよね」
エリス・ブーリャ(ka3419)はむっとした顔で戦線を見つめる。息攻撃は威力は然程ないが広範囲に広がるから回避が難しいし何より麻痺が非情に厄介だ。爪と牙は正直毒なんて関係なく当たると不味い。盾や鎧で受け損なったらその時点で退場になりかねない。翼の部分は積極的に攻撃に動かないところを見ると、どうやら背後に回りこんだ相手をほぼ自動で迎撃するだけしかしないようだった。
「ここで通じないようならガルドブルムになど届くはずもなし」
ポツリとそう言葉を零したリリティア・オルベール(ka3054)がスカルドラゴンの正面へと向かう。
「ちょっと、リリティアちゃん真正面は危ないよっ」
「大丈夫です。それよりも私が攻撃を引き付けますので、あとは宜しくお願いしますね!」
リリティアはそう言うと片手に持つ持ち手を振るい黒いワイヤーを走らせ今まさに振り下ろそうとしていた右腕を巻き取る。
それにより僅かに軌道をずらされた爪は誰にも当たることなく地面に大きな爪痕を作った。
スカルドラゴンはそのワイヤーの先にいるリリティアに巨大な顔を向けると、大顎を開いて音のない声で咆えた。
『―――――ッ!!』
「っ! さあ、骨であっても竜相手……腕が鳴りますねー」
負のマテリアルがぶつけられリリティアの肌に僅かな痛みが走る。リリティアはそれを無視してこれまで背負ってきた長刀の鞘をゆっくりと抜いた。
「くぅらえええええ!!」
スカルドラゴンがリリティアに気をとられた隙にリューが足元に潜り込み振動刀を振るう。だが自分の胴体より太い骨は半ばまでしかきることが出来ず、その傷も徐々にだが塞がっていっているのが分かる。
「もっと強く……なりたい、ならなきゃ……いけないのに!」
シェリルの振るう刃も骨の体に僅かな傷をつけるだけで断ち切ることは叶わない。自分への不甲斐無さにシェリルは何度も同じ箇所を切りつけるが、刃を振るうよりも早く骨の体は再生を繰り返す。
「もうっ、何か弱点はないの!」
「弱点か……」
エリスの言葉にカナタはじぃっとスカルドラゴンの体を観察する。本当に骨だけで出来ており、肉はおろか内臓の1つもない完全な空洞。怪しいところはどこにも見えない。
「おいおいなに手こずってやがる! せっかく譲ってやった首、俺が獲っちまうぞ!」
そこで周囲に沸くスケルトンを相手していたエヴァンスが広場を横断するようにして走り、すれ違い様にスカルドラゴンの足を切るとそのまま反対側の壁際にいたスライムに剣を突き刺す。
「! 今、何か光ったぞ!」
「えっ、どこどこ!?」
カナタは肉体があれば丁度心臓があるであろう肋骨に囲まれた場所を指差す。そこを見たエリスの目には光っているようには見えない。だが仲間がスカルドラゴンの体に攻撃した瞬間、そこが僅かにだが光を点した。
「どうやら弱点が分かったようだな。なら、まずは動きを止めるのだ!」
剣と盾を構えたディアドラが正面でスカルドラゴンと相対する。振り下ろされた爪を盾で受け、腕を痺れさせながらもその腕を剣で裂く。
「光斬刀、一刀両断!」
「この一撃で砕いてみせる!」
真司の巨大化させた刀ととアイビスの渾身の拳が合わさり、スカルドラゴンの片足をへし折ることに成功する。スカルドラゴンはバランスを崩すが、何とか踏みとどまり自分の周囲へ死臭のする息を撒き散らす。
「ぐぅっ、この程度なら。行ける!」
息による苦しみを耐え懐に飛び込んだアウレールの剣が肋骨を捉えた。だが、その一撃を受けてもその分厚い骨は罅が入るだけで欠片が僅かに剥がれ落ちるだけだ。
「もう一撃、と行きたいけどこりゃまずい!」
さらに続こうとした雲雀だったが弱点であるはずの胸部分を狙われた所為かスカルドラゴンはそこを庇いハンター達を牽制してくる。
「やれやれ、たまには上を見たらどうですかねっ!」
そこでリリティアが頭上を取る。迫る翼の骨を避け、頭の天辺へと長刀の重い一撃を叩きつけた。分厚い頭蓋骨が砕け、スカルドラゴンはあるはずのない痛覚が刺激されたのが体を震わせて咆える。
だが、次の瞬間スカルドラゴンはその大顎を開き、地面へと降り立とうとしていたリリティアに喰らいついた。着地の瞬間を狙われ避けられなかったリリティアは鋭い骨の牙に腹部を貫かれ、さらにそこから毒が回り一瞬で意識が薄れ始める。
「このっ、いい加減ステーキにもならないドラゴンは、とっとと砕けてくたばりなぁっ!」
リリティアは未だに喰らいつかれている。それを助けるためにも雲雀は渾身の力でスカルドラゴンの肋骨を殴りつけた。
バキリという音と共に肋骨が砕ける。そしてむき出しになったがらんどうの内部で、人間の握りこぶし大ほどの赤い何かが僅かに明滅していた。
「ここへの道を繋いだ皆の為にも……ホープという希望の地を紡ぎ直す為にも……想いを込めたこの攻撃で決めるのじゃ!」
叫び、腕を突き出すようにして構えたカナタはトリガーを引く。それと同時にナックルが射出されスカルドラゴンの胸元の赤いコアに命中し、それをガラス玉のように砕いた。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/22 13:41:33 |
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![]() |
班分け表明、相談所。 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/22 13:56:50 |
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![]() |
ラナどんに質問 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/22 07:05:53 |
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![]() |
【表層】卓相談所 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/22 10:09:21 |
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![]() |
【上層】卓相談所 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/22 18:53:05 |
|
![]() |
【中層】卓相談所 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/22 13:45:11 |
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![]() |
【下層】卓相談所 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/22 17:54:56 |